IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社シモンの特許一覧

<>
  • 特開-靴及び靴の製造方法 図1
  • 特開-靴及び靴の製造方法 図2
  • 特開-靴及び靴の製造方法 図3
  • 特開-靴及び靴の製造方法 図4
  • 特開-靴及び靴の製造方法 図5
  • 特開-靴及び靴の製造方法 図6
  • 特開-靴及び靴の製造方法 図7
  • 特開-靴及び靴の製造方法 図8
  • 特開-靴及び靴の製造方法 図9
  • 特開-靴及び靴の製造方法 図10
  • 特開-靴及び靴の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038634
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】靴及び靴の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A43B 7/06 20060101AFI20230310BHJP
【FI】
A43B7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145450
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】390002222
【氏名又は名称】株式会社シモン
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 卓也
(72)【発明者】
【氏名】篠木 祐太
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA07
4F050BC26
4F050BC28
4F050BC45
4F050HA20
4F050HA26
4F050LA02
(57)【要約】
【課題】通気性を有する靴を提供する。
【解決手段】靴10は、足を下方から支持する靴底部11と、靴底部11に接続し足を覆う下方被覆部12と、下方被覆部12に接続して下方被覆部12から上方に延び上がり、下腿の少なくとも一部を覆う上方被覆部13と、を備え、上方被覆部13は、外表面15aを形成する外表材41と、通気性を有し内表面15bを形成する内表材42と、外表材41及び内表材42の間に位置する網状構造体43と、を含む積層体40を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
足を下方から支持する靴底部と、
前記靴底部に接続し足を収容する空間を形成する下方被覆部と、
前記下方被覆部に接続して前記下方被覆部から上方に延び上がり、下腿の少なくとも一部を覆う上方被覆部と、を備え、
前記上方被覆部は、外表面を形成する外表材と、内表面を形成し通気性を有した内表材と、前記外表材及び前記内表材の間に位置する網状構造体と、を含む積層体を有する、靴。
【請求項2】
前記網状構造体は、立体的に延びる樹脂繊維を含んだ不織布としての第1部分と、前記不織布を圧縮してなる第2部分と、を有し、
前記網状構造体は、前記第2部分において、前記外表材及び前記内表材に接合されている、請求項1に記載の靴。
【請求項3】
前記網状構造体は、前記第2部分において、前記外表材及び前記内表材に縫い付けられている、請求項2に記載の靴。
【請求項4】
前記樹脂繊維は、前記第2部分において、接着材を介して前記外表材及び前記内表材に接合されている、請求項2又は3に記載の靴。
【請求項5】
前記上方被覆部は、少なくとも、上方開口を形成する上縁部に前記積層体を含み、
前記上縁部には、前記網状構造体の前記第2部分が位置している、請求項2~4のいずれか一項に記載の靴。
【請求項6】
前記上方被覆部は、前記下腿の両側方および後方となる位置に前記積層体を含み、
前記下腿に後方から対面するようになる上下方向に沿った細長い領域に、前記網状構造体の前記第2部分が位置し、
前記上下方向に沿った領域に両側から隣接し前記下腿に両側方から対面するようになる領域に、前記網状構造体の前記第1部分が位置している、請求項2~5のいずれか一項に記載の靴。
【請求項7】
前記上方被覆部を下腿に押し付ける固定手段を更に備え、
前記固定手段は、前記上方被覆部に含まれた前記積層体に接続し、
前記積層体の前記固定手段が接続した領域に、前記網状構造体の前記第2部分が位置している、請求項2~6のいずれか一項に記載の靴。
【請求項8】
前記下方被覆部は、前記靴底部に接続する領域に、前記積層体を含み、
前記下方被覆部に含まれた積層体は、前記網状構造体の前記第1部分を含み且つ前記上方被覆部に含まれた前記積層体の第1部分と接続している、請求項2~7のいずれか一項に記載の靴。
【請求項9】
前記積層体は、かかとに対面する領域以外の領域に設けられている、請求項1~8のいずれか一項に記載の靴。
【請求項10】
立体的に延びる樹脂繊維を含んだ不織布の一部分をプレス加工することで、プレス加工されていない第1部分と、前記プレス加工によって圧縮された第2部分と、を有する網状構造体を作製する工程と、
前記網状構造体を外表材および内表材の間に配置し、更に前記第2部分において前記網状構造体を前記外表材及び前記内表材に縫い付けることで積層体を作製する工程と、
着用者の下腿に対面するようになる位置に前記積層体を適用して靴を作製する工程と、を備える、靴の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靴及び靴の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば登録実用新案文献1に開示されているように、長靴に対して通気を行うための研究がなされてきた。登録実用新案文献1に開示された靴では、送風ユニットを用いて強制的に長靴の通気を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】登録実用新案第3215448号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、長靴の履き口の上方に配置された送風ユニットは、長靴の着用時に歩行の邪魔になるばかりでなく、突出部分が周囲の物と接触して破損することも想定される。そもそも、送風ユニットを用いたとしても、靴内部に気体の流動を可能とする流路が確保されていなければ、通気を実現することは不可能である。したがって、靴自体に通気性を確保するための工夫がなされていることが好ましい。
【0005】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、通気性を靴に付与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による靴は、
足を下方から支持する靴底部と、
前記靴底部に接続し足を収容する空間を形成する下方被覆部と、
前記下方被覆部に接続して前記下方被覆部から上方に延び上がり、下腿の少なくとも一部を覆う上方被覆部と、を備え、
前記上方被覆部は、外表面を形成する外表材と、内表面を形成し通気性を有した内表材と、前記外表材及び前記内表材の間に位置する網状構造体と、を含む積層体を有する。
【0007】
本発明による靴において、前記網状構造体は、立体的に延びる樹脂繊維を含んだ不織布としての第1部分と、前記不織布を圧縮してなる第2部分と、を有し、前記網状構造体は、前記第2部分において、前記外表材及び前記内表材に接合されていてもよい。
【0008】
本発明による靴において、前記網状構造体は、前記第2部分において、前記外表材及び前記内表材に縫い付けられていてもよい。
【0009】
本発明による靴において、前記樹脂繊維は、前記第2部分において平面状に延び且つ隣接する他の樹脂繊維に熱溶着していてもよい。
【0010】
本発明による靴において、前記樹脂繊維は、前記第2部分において、接着材を介して前記外表材及び前記内表材に接合されていてもよい。
【0011】
本発明による靴において、前記上方被覆部は、少なくとも、上方開口を形成する上縁部に前記積層体を含み、前記上縁部には、前記網状構造体の前記第2部分が位置していてもよい。
【0012】
本発明による靴において、前記上方被覆部は、前記下腿の両側方および後方となる位置に前記積層体を含み、前記下腿に後方から対面するようになる上下方向に沿った細長い領域に、前記網状構造体の前記第2部分が位置し、前記上下方向に沿った領域に両側から隣接し前記下腿に両側方から対面するようになる領域に、前記網状構造体の前記第1部分が位置していてもよい。
【0013】
本発明による靴において、前記上方被覆部を下腿に押し付ける固定手段を更に備え、前記固定手段は、前記上方被覆部に含まれた前記積層体に接続し、前記積層体の前記固定手段が接続した領域に、前記網状構造体の前記第2部分が位置していてもよい。
【0014】
本発明による靴において、前記下方被覆部は、前記靴底部に接続する領域に、前記積層体を含み、前記下方被覆部に含まれた積層体は、前記網状構造体の前記第1部分を含み且つ前記上方被覆部に含まれた前記積層体の第1部分と接続してもよい。
【0015】
本発明による靴において、前記積層体は、かかとに対面する領域以外の領域に設けられていてもよい。
【0016】
本発明による靴の製造方法は、
立体的に延びる樹脂繊維を含んだ不織布の一部分をプレス加工することで、プレス加工されていない第1部分と、前記プレス加工によって圧縮された第2部分と、を有する網状構造体を作製する工程と、
前記網状構造体を外表材および内表材の間に配置し、更に前記第2部分において前記網状構造体を前記外表材及び前記内表材に縫い付けることで積層体を作製する工程と、
着用者の下腿に対面するようになる位置に前記積層体を適用して靴を作製する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた通気性を靴に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、一実施の形態を説明するための図であって、靴の一例を概略的に示す斜視図である。
図2図2は、図1の左足用の靴の外側から示す側面図であって、積層体の第1領域と第2領域を示している。
図3図3は、図2の靴の内側から示す側面図であって、積層体の第1領域と第2領域を示している。
図4図4は、図1のX-X線における断面図である。
図5図5は、図1の靴の上方被覆部を示す横断面図である。
図6図6は、図1の靴に含まれる第1側方部材及び第2側方部材を、後中央被覆材およびかかと被覆材とともに、展開した状態にて、靴の内側から示す平面図である。
図7図7は、図6の第1側方部材及び第2側方部材を分解して、後中央被覆材とともに示す図である。
図8図8は、図6の第1側方部材及び第2側方部材に含まれる積層体を示す斜視図である。
図9図9は、図1の靴の製造方法の一例を説明するための図である。
図10図10は、図1の靴の製造方法の一例を説明するための図である。
図11図11は、図1の靴の製造方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0020】
図1は、靴10を概略的に示す斜視図である。図1に示された一例において、靴10は、靴底部11と、靴底部11に接続する下方被覆部12と、下方被覆部12と接続する上方被覆部13と、を有している。とりわけ本実施の形態における靴10において、上方被覆部13は、立体的な網状構造体を含む積層体40を有している。後述するように、上方被覆部13が積層体40を有することで、靴10に優れた通気性を付与することができる。
【0021】
靴10は、右足用の靴および左足用の靴を有している。右足用の靴および左足用の靴は、対称的に構成することができる。そこで、図1以外の図面では左足用の靴を示し、以下においても左足用の靴を前提として説明する。また、以下に説明する靴10は、安全靴としての使用に非常に適している。
【0022】
靴底部11は、着用者の足を下方から支持する。靴底部11は、接地面からの衝撃を吸収することで、着用者の足を保護する役割を持つ。靴底部11の材料として、特に限定されることなく、例えばゴムや樹脂を用いることができる。
【0023】
下方被覆部12は、靴底部11上に配置されている。下方被覆部12は、靴底部11上の足を覆う。下方被覆部12は、靴底部11とともに、着用者の足を収容する空間を形成する。具体的には、下方被覆部12は、靴10の着用者のつま先と、甲と、足裏と、かかととを含む足を収容する空間を、靴底部11との間に形成する。これにより、着用中に外部から付与される衝撃から足を保護することができる。
【0024】
図1図3に示すように、上方被覆部13は、下方被覆部12上に配置されている。上方被覆部13は、下方被覆部12に上方から接続する筒状の部位である。図1に示すように、上方被覆部13は、靴10に足を挿入するための上方開口18を形成している。上方被覆部13は、着用者の下腿の少なくとも一部を覆う。具体的には、上方被覆部13は、靴10の着用者の足首と、すねと、ふくらはぎと、を含む下腿の少なくとも一部を収容する空間を形成する。すなわち、靴10は、上方被覆部13を設けることで、長靴または半長靴を構成し、足下の防寒に優れる。また、上方被覆部13によれば、水や砂、さらには作業現場における火花や切り屑等の異物が下腿へ付着することを効果的に防止することができる。
【0025】
また図示された靴10は、上方被覆部13を下腿に押し付ける固定手段14を更に有している。固定手段14によれば、靴10を着用者の足に安定して固定することができる。また、固定手段14を設けることで、水や砂、さらには作業現場における火花や切り屑等の異物が靴10内に浸入することを効果的に防止することができる。
【0026】
図示された例において、靴10は、下方被覆部12及び上方被覆部13を構成するための部材として、第1側方部材21、第2側方部材22、足先部材23及び舌部材24を有している。図2及び図3に示すように、このうち下方被覆部12及び上方被覆部13が、靴10に通気性を付与する積層体40をそれぞれ有している。
【0027】
図1に示すように、足先部材23は、靴底部11の前方部に接続している。足先部材23は、例えば縫い付けられることで靴底部11に接続している。足先部材23は、靴底部11との間で、足の前方部を収容する空間を、例えばつま先を収容する空間を形成する。
【0028】
第1側方部材21及び第2側方部材22は、図1図3に示すように、靴底部11の後方部に接続している。第1側方部材21及び第2側方部材22は、例えば縫い付けられることで靴底部11に接続している。第1側方部材21及び第2側方部材22は、それぞれ、足先部材23に後方から接続している。第1側方部材21及び第2側方部材22は、例えば縫い付けられることで足先部材23に接続している。第1側方部材21及び第2側方部材22は、靴底部11から上方に延び上がり、上方開口18を形成している。
【0029】
図1及び図2に示すように、第1側方部材21は外側方に位置し、第2側方部材22は内側方に位置する。すなわち、一方の靴10の第1側方部材21は、他方の靴から離間する側に位置し、一方の靴10の第2側方部材22は、他方の靴に近接する側に位置している。図6に示すように、第1側方部材21及び第2側方部材22は、上下に延びる直線状の縁部が互いに隣接するようにして配置される。第1側方部材21及び第2側方部材22の繋ぎ目は、かかとやアキレス腱の後方に位置する。図示された例において、第1側方部材21及び第2側方部材22の繋ぎ目上に、後中央被覆材25及びかかと被覆材26が設けられている。
【0030】
図2及び図3に示すように、後中央被覆材25は、第1側方部材21及び第2側方部材22の繋ぎ目を繋ぎ目の全長に亘って覆うように配置されている。後中央被覆材25は、第1側方部材21及び第2側方部材22の表側、すなわち靴の外側に位置している。後中央被覆材25は、第1側方部材21及び第2側方部材22に対し、例えば縫い付けられることで接続している。後中央被覆材25は、第1側方部材21及び第2側方部材22を互いに連結することに寄与している。
【0031】
また、かかと被覆材26は、着用者のかかとに対面する位置に配置されている。第1側方部材21及び第2側方部材22の裏側、すなわち靴の内側に位置している。かかと被覆材26は、半円状の形状を有している。かかと被覆材26は、半円の直線部が第1側方部材21及び第2側方部材22の下縁に沿うように配置されている。かかと被覆材26は、第1側方部材21及び第2側方部材22に対し、例えば縫い付けられることで接続している。かかと被覆材26は、第1側方部材21及び第2側方部材22を互いに連結するとともに、第1側方部材21及び第2側方部材22を補強している。
【0032】
図1から理解され得るように、第1側方部材21、第2側方部材22及び足先部材23は、上方および前方に開口しており、着用者の甲を上方に開放し且つ着用者のすねを前方に開放している。舌部材24は、第1側方部材21、第2側方部材22及び足先部材23の開口部を覆うように設けられている。舌部材24は、縫い付けられることで、第1側方部材21、第2側方部材22及び足先部材23に接続している。舌部材24は、第1側方部材21及び第2側方部材22とともに、上方開口18を形成している。
【0033】
なお、図示された靴10において、第1側方部材21、第2側方部材22、舌部材24及び後中央被覆材25の下方部分が、足先部材23およびかかと被覆材26とともに、下方被覆部12を構成している。また、第1側方部材21、第2側方部材22、舌部材24及び後中央被覆材25の上方部分が、上方被覆部13を構成している。
【0034】
次に固定手段14について説明する。固定手段14は、上方被覆部13を着用者の下腿に押し付け、上方被覆部13と着用者の下腿との隙間を埋める。図示された例において、各側の靴10に対し、二組の固定手段14が上下方向に間隔をあけて設けられている。一方の固定手段14が下方被覆部12に設けられ、他方の固定手段14が上方被覆部13に設けられている。各固定手段14は、第1側方部材21及び第2側方部材22に掛け渡されている。各固定手段14は、第1側方部材21及び第2側方部材22の前方側の間隔を狭めた状態に維持することができる。このとき、第1側方部材21及び第2側方部材22は、着用者の下腿を間に挟んで下腿に向けて押し付けられる。
【0035】
図示された例において、各固定手段14は、金具受け材31、金具32、ベルト材33、第1面ファスナ34、第2面ファスナ35を有している。このうち金具受け材31は、図1及び図3に示すように、第2側方部材22の前方の縁に沿うように配置されている。金具受け材31は、第2側方部材22の表側、すなわち靴10の外側から、縫い付けられることで第2側方部材22に取り付けられている。金具受け材31は金具32を保持している。金具32は、矩形形状の輪郭に沿って延びる部材であり、ベルト材33が通過可能な穴を設けられている。図1及び図3に示すように、金具32は、矩形形状の長辺に相当する部分を、金具受け31によって保持されている。そして金具32は、矩形形状の長辺に相当する部分が第2側方部材22の前方の縁に沿うように保持されている。
【0036】
図2に示すように、ベルト材33は、その基端部を、第1側方部材21の表側、すなわち靴10の外側から、縫い付けられることで第1側方部材21に取り付けられている。ベルト材33を第1側方部材21に取り付ける縫い付け部は、第1側方部材21の前方の縁に沿っている。また、第1側方部材21の表側に、第1面ファスナ34が縫い付けられることで取り付けられている。第1面ファスナ34は、平面視において略矩形形状となっている。第1面ファスナ34を第1側方部材21に取り付ける縫い付け部は、第1面ファスナ34の周縁部に沿っている。ベルト材33の基端部は、第1面ファスナ34と第1側方部材21との間に配置され、第1面ファスナ34とともに第1側方部材21に縫い付けられている。
【0037】
図1に示すように、ベルト材33は、金具受け材31に保持された金具32を通過して折り返されている。なお、図2及び図3では、理解の便宜を図り、ベルト材33は金具32を通過していない状態を示している。ベルト材33の先端部には、第1面ファスナ34と脱着可能な第2面ファスナ35が縫い付けられている。第1側方部材21の前方の縁部と第2側方部材22の前方の縁部とを接近させるように、金具32で折り返されたベルト材33の先端部を引いた後、ベルト材33の先端の第2面ファスナ35を第1面ファスナ34に重ねることで、第1側方部材21及び第2側方部材22を着用者の下腿に押し付けることができる。
【0038】
なお、以上に説明した、足先部材23、舌部材24及び後中央被覆材25は、靴10の外表面15aを形成することから、十分な強度を有した材料を用いて構成される。また、かかと被覆材26は、補強材としての機能を期待されていることから、十分な強度を有した材料を用いて構成される。さらに、固定手段14の金具受け材31及びベルト材33も、第1側方部材21及び第2側方部材22を安定して下腿に押し付けることを可能にするため、十分な強度を有した材料を用いて構成される。これらの足先部材23、舌部材24、後中央被覆材25、かかと被覆材26、金具受け材31及びベルト材33は、例えば、天然皮革や合成皮革等を用いて作製される。
【0039】
一方、第1側方部材21及び第2側方部材22は、それぞれ、靴10の下方被覆部12と上方被覆部13に、靴10に通気性を付与し得る積層体40を用いて構成されている。以下、積層体40について説明する。
【0040】
図4及び図5に示すように、積層体40は、外表面15aを形成する外表材41と、通気性を有し内表面15bを形成する内表材42と、網状構造体43とを有している。図6及び図7から理解され得るように、第1側方部材21及び第2側方部材22の両方において、内表材42及び網状構造体43は略同一の平面視形状を有している。一方、外表材41は、内表材42及び網状構造体43より大きくなっている。具体的には、上述したかかと被覆材26が積層される領域には、外表材41のみが広がっており、内表材42及び網状構造体43は広がっていない。この点から、図示された例において、第1側方部材21は、かかと被覆材26によって覆われる領域を外表材41によって構成され、その他の領域を積層体40によって構成されている。同様に、第2側方部材22は、かかと被覆材26によって覆われる領域を外表材41によって構成され、その他の領域を積層体40によって構成されている。
【0041】
積層体40の外表材41は、靴10の外表面15aを形成する。したがって、外表材41は、上述の足先部材23や舌部材24と同様の材料、例えば天然皮革や合成皮革等によって構成され得る。内表材42は、着用者の足若しくは下腿と対面する。内表材42は、通気性を有する材料によって構成されている。内表材42は、例えば布材や、布材の目を粗くしたメッシュ材によって構成され得る。これにより、内表材42は靴10内の雰囲気を積層体20へと導く役割を持つ。
【0042】
網状構造体43は、繊維状材料を含み網状の構造を有している。網状構造体43は、気体の通過経路を確保する層である。とりわけ網状構造体43は、法線方向(厚み方向)NDへの通気性だけでなく、面方向(厚み方向に直交する方向)DS1,DS2への通気性も確保し得る。具体的には、図8に示すように、網状構造体43に含まれる繊維状材料44は、網状構造体43の少なくとも一部分において、網状構造体43がなす面に沿って延びるだけでなく、網状構造体43がなす面への法線方向(厚み方向)NDにも延びている。すなわち、網状構造体43は、網状構造体43の少なくとも一部分において、立体的な網状構造体として構成されている。立体的な網状構造体43は、その面方向DS1,DS2にも優れた通気性を確保することができる。
【0043】
図示された例において、網状構造体43は、第1部分43a及び第2部分43bを有している。第1部分43aは、繊維状材料44が、網状構造体43の面方向DS1,DS2だけでなく、網状構造体43の法線方向NDにも延びている。すなわち、第1部分43aは、面方向DS1,DS2への優れた通気性を有している。第1部分43aにおける網状構造体43の空隙率〔%〕、すなわち網状構造体の外形状が占める体積のうちの空隙が占めている体積の割合〔%〕は、好ましくは50%以上95%以下であることが好ましく、65%以上90%以下であることがより好ましく、75%以上85%以下であることが更に好ましい。
【0044】
一方、第2部分43bは、第1部分43aよりも空隙率が低く且つ第1部分43aよりも厚みが薄くなっている。第2部分43bの空隙率は50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。また、第2部分43bの厚みは第1部分43aの厚みの50%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましい。
【0045】
具体的な構成として、網状構造体43は、立体的に延びる樹脂繊維を繊維状材料44として含んだ不織布45を用いて作製され得る。一例として、このような不織布45は、押出成形機から射出された溶解樹脂の線状体が、不規則に蛇行して相互に絡み合いながら冷却されることにより、立体的な網状構造体として得られる。そして、網状構造体43の第1部分43aは、この不織布45によって構成される。その一方で、第2部分43bは、図9に示すように、この不織布45をプレス加工することで得られる。プレス加工によれば、立体状に延びていた樹脂繊維(繊維状材料44)が法線方向(厚み方向)NDに圧縮されることで、主として厚み方向NDに直交する面方向DS1,DS2に延びるようになり、また隣接する樹脂繊維が接触するようになる。さらに、加熱しながらプレス加工する熱プレス加工によれば、加熱されることで樹脂繊維が溶融し、その後に冷却されることで隣接する樹脂繊維が溶着する。結果として、不織布45をプレス加工してなる第2部分43bの厚み〔mm〕は、プレス加工前の不織布45からなる第1部分43aの厚み〔mm〕よりも薄くなる。また、不織布45をプレス加工してなる第2部分43bでの空隙率〔%〕は、プレス加工前の不織布45からなる第1部分43aでの空隙率〔%〕よりも小さくなる。
【0046】
網状構造体43が第1部分43a及び第2部分43bを含むことに対応して、積層体40は第1領域40a及び第2領域40bを含んでいる。積層体40の第1領域40aには網状構造体43の第1部分43aが位置している。積層体40の第2領域40bには網状構造体43の第2部分43bが位置している。図示された例において、網状構造体43は、第2部分43bにおいて、外表材41と内表材42に接合されている。より具体的には、図4及び図5に示すように、網状構造体43は第2部分43bにおいて、外表材41と内表材42に縫い付けられることで、第1領域40aと第2領域40bを有する積層体40を形成している。
【0047】
以上の構成からなる積層体40を含む上方被覆部13は、靴底部11から上方に最も離間する上縁部13aにおいて、着用者の履き口となる上方開口18を形成している。上方開口18は、第1側方部材21と、第2側方部材22と、舌部材24と、後中央被覆材25によって形成されている。図2及び図3に示すように、第1側方部材21及び第2側方部材22は、上方被覆部13の上縁部13aに相当する領域として、靴10の前方から後方へ延び出す矩形形状の領域40baを有している。第1側方部材21及び第2側方部材22のこの領域40baには、積層体40の第2領域40bが位置している。すなわち、この領域40baには、網状構造体43の第2部分43bが位置している。したがって、図4に示すように、上方被覆部13の上方開口18を形成する上縁部13aの厚みは、上方被覆部13の上縁部13aに隣接する領域よりも薄くなっている。
【0048】
また、図6に示すように、積層体40の第2領域40bは、上方被覆部13のうちの着用者の下腿に後方から対面するようになる上下方向に沿った細長い領域40bbにも位置している。すなわち、この細長い領域40bbには、網状構造体43の第2部分43bが位置している。一方、この上下方向に沿って細長い領域40bbに両側から隣接し下腿に両側方から対面するようになる領域には、すなわち図6の展開図において領域40bbの両側方となる領域には、積層体40の第1領域40aが位置している。図示された例において、着用者の下腿に側方から対面する領域の多くは、積層体40の第1領域40aが占めている。
【0049】
さらに、図6に示すように、積層体40の第2領域40bは、積層体40によって形成された第1側方部材21及び第2側方部材22の固定手段14が接続した領域40bc,40bdにも位置している。より具体的には、第1側方部材21には、第1面ファスナ34とベルト材33が接続している。第1面ファスナ34及びベルト材33は、第1面ファスナ34の周縁近傍となる矩形形状の外輪郭に沿って延びる領域40bcにて、積層体40によって形成された第1側方部材21に接続している。そして、この接続する領域40bcに、積層体40の第2領域40bが位置している。また、金具受け材31が第2側方部材22に接続する領域40bdにも、積層体40の第2領域40bが位置している。
【0050】
その他として、図6に示すように、第1側方部材21及び第2側方部材22における積層体40の周縁となる領域に、積層体40の第2領域40bが位置している。
【0051】
次に、以上のような構成からなる積層体40の製造方法の一例について説明する。
【0052】
まず、網状構造体43をなすように切り出された不織布45を用意する。このような不織布45として、先述の通り、繊維状材料として立体的に延びる樹脂繊維を含んだシート状の部材を用いることができる。不織布45は、互いに対向する第1面45aと第2面45bと、を有する。図9に示すように、第1側方部材21と第2側方部材22の形状に適合するように、不織布45の第1面45a上に、第1面45aと直交する方向からプレス加工を施す。プレス加工の方法として、例えば加熱した半田ごて50を押圧することによる熱プレス加工を挙げることができる。プレス加工により、立体状に延びていた樹脂繊維が法線方向(厚み方向)NDに圧縮されることで、主として厚み方向に直交する面方向に延びるようになり、また隣接する樹脂繊維が接触するようになる。また、熱プレス加工によれば、加熱されることで樹脂繊維が溶融し、その後に冷却されることで隣接する樹脂繊維が溶着する。以上の処理により、図9に示すように、網状構造体43の第2部分43bをなすようになる板状の領域を得る。すなわち、不織布45に対して部分的にプレス加工により、プレス加工が施されていない立体的な第1部分43aと、プレス加工が施されて厚みの薄くなった平面状の第2部分43bと、を有する網状構造体43を得る。
【0053】
次に、図10に示すように、網状構造体43上に、厚み方向から内表材42を積層し、網状構造体43に厚み方向に対面し、内表材42と対向する側に外表材41を積層する。内表材42として、先述の通り、例えば通気性を有するメッシュ材を用いることができる。また外表材41として、先述の通り、例えば天然皮革や合成皮革等を用いることができる。図10に示すように、内表材42と対面する網状構造体43の第2部分43bと、外表材41と対面する網状構造体43の第2部分43bに、接着材48をそれぞれ塗布し、内表材42と、外表材41を網状構造体43に積層する。接着材48として、例えばゴムのりを選択することができる。なお、接着材48による接合は、次に説明する縫い付けに先立った仮接着を目的とするものであってもよい。このようにして、外表材41と、網状構造体43と、内表材42をこの順番で仮接着により積層してなる積層体40を得る。
【0054】
次に、図7に示すように、後中央被覆材25と、積層体40と、かかと被覆材26とを、この順番で厚み方向に積層する。その後、網状構造体43を第2部分43bにおいて、外表材41及び内表材42と縫い付ける。第1側方部材21及び第2側方部材22が後中央被覆材25やかかと被覆材26と積層されている領域では、積層体40を後中央被覆材25やかかと被覆材26と縫い付けて接続する。図6及び図7に示すように、積層体40は、第2領域40bにおいて、後中央被覆材25やかかと被覆材26と重なっている。したがって、網状構造体43を第2部分43bにおいて、外表材41及び内表材42に加えて後中央被覆材25やかかと被覆材26にも縫い付けることになる。積層体40を縫い付ける方法として、例えばミシンを用いることができる。このようにして、積層体40を含んだ第1側方部材21及び第2側方部材22が得られ、第1側方部材21及び第2側方部材22は後中央被覆材25及びかかと被覆材26を介して互いに接続されている。
【0055】
なお、上述した例では、網状構造体43は、第2部分43bにおいて、他の部材、例えば外表材41や内表材42に縫い付けられている。第2部分43bにおいて、網状構造体43を縫製することで、網状構造体43を他の部材と縫い付ける縫製作業を安定して実施することができる。
【0056】
一方、網状構造体43の第1部分43aを布状材料に縫い付けようとすると、すなわち立体的の延びる繊維状材料44を含んだ不織布45をそのまま布状材料に縫い付けようとすると、慎重に低速で作業を行ったとしても、ミシンの針が頻繁に折れてしまうといった不具合が生じた。不織布45をミシンで縫製する際、針が繊維状材料44に接触することもあり、このとき針は、接触した繊維状材料44からせん断力を受けることになる。網状構造体43をなす不織布45の空隙率は高いことから、針と接触した繊維状材料44は変形することができる。ただし、この繊維状材料44の変形は、当該繊維状材料44が他の繊維状材料からの拘束に応じて、大きく変化する。結果として、不織布45をミシンで縫製する際にミシン針が受けるせん断力により、ミシン針が針穴からずれ針板に当たることを原因として、ミシン針が頻繁におれていたと推測される。
【0057】
その一方で、網状構造体43の第2部分43bは、第1部分43aと比較して、厚みが薄く且つ空隙率が低くなっている。すなわち、網状構造体43の第2部分43bに縫製を行う際、ミシン針に付与される。したがって、厚み方向および厚み方向に直交する面方向のいずれにおいても、網状構造体43の縫製箇所における繊維状材料44の密度のバラツキを効果的に抑制することができる。また、第2部分43bにおける網状構造体43の厚みは十分に薄くなっているので、縫製作業を行う際の針のストロークを短くすることもできる。これらのことから、第2部分43bを縫製に利用することで、網状構造体43を他の部材にミシンを用いて縫い付ける際にミシン針が受けるせん断力のバラツキを効果的に抑制することができる。実際に、網状構造体43の第2部分43bに縫製作業を行うことで、ミシン針が折れてしまうといった不具合を効果的に回避することができた。
【0058】
さらに、網状構造体43の第2部分43bは、不織布45を圧縮することによって形成されている。したがって、予期せぬ外力が加えられたとしても、不織布45は厚みを薄くなるようには変形しにくくなっている。むしろ外力が加えられていない状態において、不織布45はその厚みを厚くするような残留応力を含むようになる。したがって、第2部分43b部分において網状構造体43を他の部材に縫い付けることで、網状構造体43の厚みが減少して縫い目が緩くなることや縫い糸がほどけてしまうことを効果的に防止することができる。
【0059】
次に、互いに接続された第1側方部材21及び第2側方部材22に、足先部材23及び舌部材24を縫い付ける。具体的には、下方被覆部12をなすようになる、第1側方部材21と第2側方部材22の下方に位置する前縁に沿って、足先部材23を縫い付ける。さらに、足先部材23、第1側方部材21及び第2側方部材22によって区画された前方および上方への開口部に、舌部材24を縫い付ける。このようにして、互いに接続された状態の下方被覆部12及び上方被覆部13が得られる。
【0060】
なお、第1側方部材21及び第2側方部材22の周縁となる位置には、積層体40の第2領域40bが位置している。そして、積層体40の第2領域40bを介して、第1側方部材21及び第2側方部材22は、足先部材23及び舌部材24と縫い付けられる。したがって、上述したように、針が折れることを効果的に回避しながら、第1側方部材21及び第2側方部材22を足先部材23及び舌部材24に縫い付けるための縫製を安定して実施することができる。
【0061】
次に、図11に示すように、得られた下方被覆部12と上方被覆部13に、固定手段14を取り付ける。具体的には、金具32を保持した金具受け31を第2側方部材22に縫い付ける。また、金具32を通過したベルト材33及び第1面ファスナ34を第1側方部材21に縫い付ける。上述したように、また図6及び図11に示されているように、金具受け材31が取り付けられるべき領域40bdは、第2側方部材22を構成する積層体40の第2領域40bの一部分をなしている。同様に、ベルト材33及び第1面ファスナ34が取り付けられるべき領域40bcは、第1側方部材21を構成する積層体40の第2領域40bの一部分をなしている。つまり、金具受け材31が取り付けられるべき領域、並びに、ベルト材33及び第1面ファスナ34が取り付けられるべき領域は、積層体40の第2領域40bである。したがって、上述したように、針が折れることを効果的に回避しながら、固定手段14を第1側方部材21及び第2側方部材22に縫い付けるための縫製を安定して実施することができる。
【0062】
その後、第2面ファスナ35をベルト材33の先端部に縫い付ける。ただし、第2面ファスナ35が取り付けられたベルト材33を、第1側方部材21に取り付けるようにしてもよい。
【0063】
以上の工程にて、固定手段14が取り付けられた下方被覆部12及び上方被覆部13が得られる。最後に、下方被覆部12を靴底部11に接続することで、靴10が製造される。
【0064】
次に、本実施の形態の靴10を使用する際の作用について説明する。
【0065】
まず靴10を履く際には、ベルト材33の先端に設けられた第2面ファスナ35を、第1側方部材21上の第1面ファスナ34から引き剥がす、そして、ベルト材33を緩めることで、第1側方部材21及び第2側方部材22の間を広げ、更に舌部材24を広げる。これにより、靴10の上方開口18を広げることができる。着用者は、広げられた上方開口18から靴10の内部に足を挿入する。
【0066】
ここで図2に示すように、上方開口18は上方被覆部13の上縁部13aによって形成されている。そして、図4に示すように、上方被覆部13をなす第1側方部材21及び第2側方部材22は、上縁部13aに相当する位置に、積層体40の第2領域40bを含んでいる。第2領域40bは、第1領域40aに位置する網状構造体43の第1部分43aよりも厚みの薄い網状構造体43の第2部分43bを含んでいる。このため、着用者が靴10を着用する際に十分な開口面積を確保することで、網状構造体43が内部に設けられた靴10の履き易さ及び脱ぎ易さを改善することができる。
【0067】
その後、着用者は足を靴底部11へと進めていく。このとき図5及び図6に示すように、上方被覆部13は、下腿の両側方および後方となる位置に積層体40を含んでいる。そして、下腿に後方から対面するようになる上下方向に沿った細長い領域40bbに、網状構造体43の厚みの薄い第2部分43bが位置している。すなわち、下腿に後方から対面する上下方向に細長い領域40bbに、厚みの薄い積層体40の第2領域40bが位置している。その一方で、図5に示すように、この細長い領域40bbの両側には、厚みの厚い積層体40の第1領域40aが位置している。したがって、着用者は、この厚みの薄くなった上下に延びる領域40bb上をかかとが滑るようにして、足を靴10の内部に誘導することができる。また、靴10を脱ぐ際にも、この細長い領域40bb上をかかとが滑るようにして靴10内で足を誘導することができる。すなわち、長靴又は半長靴であるこの靴10において、足を上下方向に誘導することができ、着脱を容易にすることができる。
【0068】
着用者の足裏が靴底部11まで到達すると、着用者のズボンの裾を靴10内に入れる。裾が外部に引っ掛かってしまうことを効果的に防止するためである。このとき、この靴10では、積層体40の第2領域40bが上下方向に延びる領域40bbを含んでいる。すなわち、上下方向に延びる厚みが薄くなった領域40bbを含んでいる。したがって、この部分に裾を収容することができる。
【0069】
そして、第2面ファスナ35が取り付けられたベルト材33の先端側を引き、ベルト材33を金具32から引き出す。このとき、筒状の上方被覆部13が細くなり、第1側方部材21及び第2側方部材22が下腿に両側方から押し付けられる。その後、第2面ファスナ35を第1面ファスナ34に重ねることで、第1側方部材21及び第2側方部材22が下腿に両側方から押し付けられた状態に維持される。これにより、第1側方部材21及び第2側方部材22によって、着用者の下腿を両側方から安定して保持することができ、靴擦れの発生を効果的に防止することもできる。以上のようにして、着用者は靴10を履くことができる。
【0070】
なお、固定手段14は、上方被覆部13及び下方被覆部12に含まれた積層体40に接続している。図2図3及び図6に示すように、積層体40の固定手段14が接続した領域40bc,40bdには、網状構造体43の第2部分43bが位置している。このため、固定手段14の金具受け材31、ベルト材33及び第1面ファスナ34を上方被覆部13に安定して取り付けることができる。これにより、靴擦れの発生を効果的に回避しながら、下腿を安定して保持することができる。
【0071】
その一方で、上方被覆部13や下方被覆部12を構成する第1側方部材21及び第2側方部材22は、大面積で積層体40の第1領域40aを含んでいる。そして、積層体40の第1領域40aに位置する網状構造体43の第1部分43aが弾性変形することで、積層体40と下腿との面接触による靴ずれの発生を効果的に防止することができる。
【0072】
また、図示された例では、下方被覆部12も積層体40を有している。しかしながら、下方被覆部12のかかとに対面する領域には、積層体40が設けられていない。これにより、着用者のかかとを靴10の所定の位置に安定して保持することができる。
【0073】
ところで、靴を長時間に亘って履いていると、足からの汗等に起因して靴内に湿気が溜まる。このような状態は、着用者にとって不快である。一方、本実施の形態のよる靴10では、上方被覆部13が積層体40を含んでいる。例えば図4に示すように、この積層体40は、外表材41及び内表材42の間に網状構造体43を有している。網状構造体43は、立体的な網状構造体としての第1部分43aを含んでいる。網状構造体43の第1部分43aは、積層体40の厚み方向だけでなく、厚み方向に直交する面方向DS1,DS2にも、通気性を確保することができる。すなわち、着用者の下腿と対面する靴10の内部には、上下方向の通気を可能とする空隙が形成されている。結果として、網状構造体43の第1部分43aは、内表面15bを形成し通気性を有する内表材42とともに、図4に矢印で示した通気路GPを形成する。これにより、靴内部の雰囲気と靴外部の空気とを、上方開口18を介して、靴10の着用中であっても入れ換えることが可能となる。つまり、靴10自体に通気性が付与されている。これにより、汗等に起因して靴内部に発生した湿気を、外気との交換により着用中に靴10内部から取り除くことができ、着用者の快適性を大幅に改善することができる。そればかりか、靴内部における湿気の滞留に起因する雑菌の繁殖を抑えることが可能となり、臭気の発生を効果的に抑制することもできる。
【0074】
とりわけ図6に示すように、図示された靴10において、上方被覆部13だけでなく、下方被覆部12も積層体40を含んでいる。下方被覆部12の積層体40は、靴底部11に接続する領域に設けられている。下方被覆部12に含まれた積層体40は、網状構造体43の第1部分43aを含み且つ下方被覆部12に含まれた網状構造体43の第1部分43aと接続している。すなわち、図示された靴10では、積層体40の網状構造体43の第1部分43aによって形成された通気路GPが、上方開口18から靴底部11まで通じている。したがって、靴10は優れた通気性を発揮することができる。
【0075】
以上に説明してきた一実施の形態において、靴10は、足を下方から支持する靴底部11と、靴底部11に接続し足を収容する空間を形成する下方被覆部12と、下方被覆部12に接続して下方被覆部12から上方に延び上がる上方被覆部13と、を有している。上方被覆部13は、下腿の少なくとも一部を覆うようになる。上方被覆部13は、外表面15aを形成する外表材41と、内表面15bを形成し通気性を有した内表材42と、外表材41及び内表材42の間に位置する網状構造体43と、を含む積層体40を有している。この一実施の形態によれば、網状構造体43に通気を可能とする空隙が形成され得る。したがって、通気性を有した内表材42と網状構造体43とによって形成される通気路GPにより、靴内部の雰囲気と靴外部の空気とを入れ換えることができる。すなわち、靴10の通気性を大幅に改善することができる。これにより、汗等に起因した靴内部の湿気を取り除いて靴着用時の快適性を改善することができ、且つ、臭気の発生を効果的に抑制することができる。
【0076】
上述した一実施の形態の一具体例において、網状構造体43は、立体的に延びる樹脂繊維を含んだ不織布45としての第1部分43aと、不織布45を圧縮してなる第2部分43bと、を有している。網状構造体43は、第2部分43bにおいて、外表材41及び内表材42に接合されている。この具体例では、外表材41や内表材42と縫い付けられた網状構造体43の第2部分43bにおいて、樹脂繊維の変形が抑制されるようになる。したがって、網状構造体43の第2部分43bを外表材41及び内表材42に安定して固定することができる。とりわけ、立体的に延びる樹脂繊維を含んだ不織布45を熱プレスすることによって、第2部分43bが薄い板状に形成されている場合には、第2部分43bでの樹脂繊維の変形が効果的に抑制される。これにより、第2部分43bにおいて網状構造体43を外表材41及び内表材42により安定して固定することができる。
【0077】
上述した一実施の形態の一具体例において、網状構造体43は、第2部分43bにおいて、外表材41及び内表材42に縫い付けられている。この具体例では、縫製によって、網状構造体43の第2部分43bを外表材41及び内表材42に安定して固定することができる。とりわけ、立体的に延びる樹脂繊維を含んだ不織布45を熱プレスすることによって、第2部分43bが薄い板状に形成されている場合には、第2部分43bにおいて網状構造体43を外表材41及び内表材42により安定して且つ容易に縫い付けることができる。
【0078】
上述した一実施の形態の一具体例において、樹脂繊維は第2部分43bにおいて平面状に延び且つ隣接する他の樹脂繊維に熱溶着している。このような網状構造体43は、不織布45を熱プレス加工することによって容易に形成することができる。この具体例では、網状構造体43の第2部分43bを外表材41及び内表材42により安定して固定することができる。
【0079】
上述した一実施の形態の一具体例において、樹脂繊維は第2部分43bにおいて接着材48を介して接合されている。このような具体例によれば、網状構造体43の第2部分43bを外表材41及び内表材42により安定して且つ容易に固定することができる。加えて、接着材48を用いて網状構造体43の第2部分43bを外表材41及び内表材42に固定した後、更に、縫製によって網状構造体43の第2部分43bを外表材41及び内表材42に固定してもよい。この例によれば、縫製を容易に行うことができるとともに、接着材48および縫製によって網状構造体43の第2部分43bを外表材41及び内表材42に更に安定して固定するこができる。
【0080】
上述した一実施の形態の一具体例において、靴の製造方法は、立体的に延びる樹脂繊維を含んだ不織布45の一部分をプレス加工することで、プレス加工されていない第1部分43aと、プレス加工によって圧縮された第2部分43bと、を有する網状構造体43を作製する工程と、網状構造体43を外表材41及び内表材42の間に配置し、更に第2部分43bにおいて網状構造体43を外表材41及び内表材42に縫い付けることで積層体40を作製する工程と、着用者の下腿に対面するようになるようにして積層体40を用いて靴10を作製する工程と、を有している。この一実施の形態によれば、網状構造体43の第2部分43bが、立体的に延びる樹脂繊維を含んだ不織布45を熱プレスすることによって形成される。したがって、不織布45を板状に圧縮した状態で樹脂繊維を熱溶着することで、網状構造体43の第2部分43bを薄板状部として形成することができる。このような第2部分43bにおいて、空隙率は低くなり、樹脂繊維の密度バラツキも均一化される。したがって、縫製の際に針が不織布45から受けるせん断力のばらつきが低減される。これにより、縫製作業中における針折れを効果的に回避して、網状構造体43を外表材41及び内表材42に対して容易かつ安定して縫い付けることができる。そしてこのようにし製造された靴10は、上述の優れた作用効果を奏することができる。
【0081】
一実施の形態を複数の具体例により説明してきたが、これらの具体例が一実施の形態を限定することを意図していない。上述した一実施の形態は、その他の様々な具体例で実施されることが可能であり、その要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、追加等を行うことができる。
【符号の説明】
【0082】
10 靴
11 靴底部
12 下方被覆部
13 上方被覆部
14 固定手段
15a 外表面
15b 内表面
18 上方開口
21 第1側方部材
22 第2側方部材
23 足先部材
24 舌部材
25 後中央被覆材
26 かかと被覆材
31 金具受け材
32 金具
33 ベルト材
34 第1面ファスナ
35 第2面ファスナ
40 積層体
40a 第1領域
40b 第2領域
40ba 領域
40bb 領域
40bc 領域
40bd 領域
41 外表材
42 内表材
43 網状構造体
43a 第1部分
43b 第2部分
44 繊維状材料
45 不織布
45a 第1面
45b 第2面
48 接着材
50 半田ごて
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11