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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038702
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】皮膚の抗老化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20230310BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145564
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】399071421
【氏名又は名称】株式会社実正
(74)【代理人】
【識別番号】100107939
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 友治
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083EE12
(57)【要約】
【課題】抗老化作用を有する皮膚の抗老化剤を提供すること。
【解決手段】皮膚の抗老化剤は、コラーゲン産生促進物質および/またはエラスターゼ活性阻害物質を含有する。また、コラーゲン産生促進物質およびエラスターゼ活性阻害物質は、アマニから採取された物質を含有することが好ましく、採取方法は、例えば、エタノール抽出方法または超臨界CO抽出方法であることが特に好ましい.
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲン産生促進物質および/またはエラスターゼ活性阻害物質を含有することを特徴とする皮膚の抗老化剤。
【請求項2】
前記コラーゲン産生促進物質およびエラスターゼ活性阻害物質はアマニから採取された物質を含有することを特徴とする請求項1に記載の皮膚の抗老化剤。
【請求項3】
前記採取方法が、エタノール抽出方法または超臨界抽出方法のいずれか1つであることを特徴とする請求項2に記載の皮膚の抗老化剤。
【請求項4】
前記コラーゲン産生促進物質が、エタノール抽出アマニ油であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の皮膚の抗老化剤。
【請求項5】
前記エラスターゼ活性阻害物質が、超臨界CO抽出アマニ油であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の皮膚の抗老化剤。
【請求項6】
前記エタノール抽出アマニ油の添加濃度が1μg/mL以上であることを特徴とする請求項4に記載の皮膚の抗老化剤。
【請求項7】
前記超臨界CO抽出アマニ油の添加濃度が0.25mg/mL以上であることを特徴とする請求項5に記載の皮膚の抗老化剤。
【請求項8】
前記アマニから採取された物質は細胞毒性を有しないことを特徴とする請求項2~7のいずれか1項に記載の皮膚の抗老化剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の皮膚の抗老化剤を含有することを特徴とする肌用製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の抗老化剤に関し、特に、コラーゲン産生促進効果及び/又はエラスターゼ活性阻害効果を有する皮膚の抗老化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は表皮層と真皮層の二層からなり、下側の真皮層は水分を保持して皮膚の機能を支えている。この真皮層はコラーゲンやエラスチン等の細胞間マトリックスと真皮線維芽細胞で構成されている。
コラーゲンは、様々な組織において細胞外マトリックスの主成分として働く高分子タンパク質として知られており、線維性のI型コラーゲンは皮膚のハリや弾力を保ち、非線維性のIV型コラーゲンとVII型コラーゲンは、それぞれ基底膜の構成及び基底膜と真皮の接着という役割を担う。皮膚のコラーゲンは加齢や紫外線の暴露によって減少し、肌の弾力低下、シワやタルミの原因となって、肌の老化現象をもたらす一因となる。そのため、コラーゲン産生促進効果を有する物質は、アンチエイジング化粧品の原料として非常に重要である。
【0003】
エラスチンは、弾性線維とも称されるしなやかで伸縮性のある線維状タンパク質であり、真皮層においてコラーゲン線維束同士をつなぎ、皮膚の弾力を創出している。エラスチンは、加齢や紫外線の影響により壊れていって年齢と共に減少し、シワ形成の原因となることが分かっている。これは、加齢や紫外線暴露に伴ってエラスターゼが活性化することに起因するものであり、エラスターゼの活性を阻害することにより皮膚の抗老化が期待できるのである。
【0004】
本発明者らは、様々な方法で採取したアマニ油にコラーゲン産生促進効果および/またはエラスターゼ活性阻害効果があることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-202990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点に鑑み、なされたものであり、その目的は、コラーゲン産生促進機能および/またはエラスターゼ活性阻害機能を有する皮膚の抗老化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の皮膚の抗老化剤は、コラーゲン産生促進物質および/またはエラスターゼ活性阻害物質を含有することを特徴とする。
【0008】
ここで、前記コラーゲン産生促進物質およびエラスターゼ活性阻害物質はアマニから採取された物質を含有することが好ましい。
【0009】
また、本発明において、前記採取方法は、エタノール抽出方法または超臨界抽出方法のいずれか1つであることが好ましい。
【0010】
また、本発明において、前記コラーゲン産生促進物質は、エタノール抽出アマニ油であることが好ましい。
【0011】
また、本発明において、前記エラスターゼ活性阻害物質は、超臨界CO抽出アマニ油であることが好ましい。
【0012】
また、本発明において、前記エタノール抽出アマニ油の添加濃度は1μg/mL以上であることが好ましい。
【0013】
また、本発明において、前記超臨界CO抽出アマニ油の添加濃度は0.25mg/mL以上であることが好ましい。
【0014】
本発明においては、さらに、前記アマニから採取された物質を含有するコラーゲン産生促進物質およびエラスターゼ活性阻害物質は細胞毒性を有しないことが好ましい。
【0015】
本発明の肌用製品は、上記いずれかの皮膚の抗老化剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コラーゲン産生促進効果および/またはエラスターゼ活性阻害効果を促進することができる皮膚の抗老化剤を提供することができる。また、本発明によれば、コラーゲン産生促進効果および/またはエラスターゼ活性阻害効果を有する肌用製品を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】異なる方法で採取したアマニ油を添加したときのヒト皮膚線維芽細胞のタンパク量当たりのコラーゲン量の割合(%)を示すグラフである。
図2】異なる方法で採取したアマニ油を添加したときのヒト皮膚線維芽細胞の細胞生存率を示すグラフである。
図3】エタノール抽出アマニ油の添加濃度の違いによるヒト皮膚線維芽細胞のタンパク量当たりのコラーゲン量の割合(%)を示すグラフである。
図4】エタノール抽出アマニ油と低温圧搾エゴマ油を添加したときのヒト皮膚線維芽細胞のコラーゲン量を示すグラフである。
図5】エタノール抽出アマニ油と低温圧搾エゴマ油を添加したときのヒト皮膚線維芽細胞のタンパク量当たりのコラーゲン量の割合(%)を示すグラフである。
図6】超臨界CO抽出アマニ油と低温圧搾アマニ油のエラスターゼ活性阻害効果(酵素活性の割合(%))を示すグラフである。
図7】超臨界CO抽出アマニ油の添加濃度の違いによるエラスターゼ活性阻害効果(酵素活性の割合(%))を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の皮膚の抗老化剤は、コラーゲン産生促進物質および/またはエラスターゼ活性阻害物質を含有する。本発明者らは、様々な方法で採取したアマニ油にコラーゲン産生促進物質および/またはエラスターゼ活性阻害物質が含まれていることを見出し、本発明を完成させたのである。
例えば、低温圧搾法、ヘキサン抽出法、エタノール抽出法、超臨界抽出法などにより採取されたアマニ油を含有するものを皮膚の抗老化剤として用いることができる。
【0019】
低温圧搾法とは、材料に熱を加えずに圧力をかけてオイルを搾り取る方法であり、例えば、材料にゆっくり時間をかけて圧力を加え、摩擦熱の発生を抑える工夫をし、最高でも60℃を超えないように管理してオイルを採取することができる。低温圧搾法は、食用油の採取方法としては最も一般的である。低温圧搾法によるアマニ油(低温圧搾アマニ油)は、亜麻の種子(アマニ)に、熱を加えずに圧力をかけて搾り取られたオイルである。
【0020】
ヘキサン抽出法とは、材料をn-ヘキサンに浸漬して材料中のオイルを溶出させ、その後、揮発性の高いn-ヘキサンのみを蒸発させる方法であり、n-ヘキサン抽出アマニ油は、例えば、アマニ粉末をn-ヘキサン中で攪拌し、濾過した後、シリンジフィルターを通し、その後、インキュベーター中に静置し、n-ヘキサンを蒸発させて残った液体を回収することにより得られる。
【0021】
エタノール抽出法とは、n-ヘキサンの替わりにエタノールを用いて抽出する方法であり、例えば、アマニ粉末をエタノール中で攪拌し、濾過した後、シリンジフィルターを通し、その後、ロータリーエバポレーターを用いてエタノールを蒸発させ、液体残渣を遠心分離機にかけて分離し、上清を回収することにより得られる。
【0022】
超臨界CO抽出法により採取されるアマニ油(超臨界CO抽出アマニ油)は、例えば粉体状のアマニを超臨界抽出システムに充填して、超臨界CO抽出アマニ油を得ることができる。なお、アマニ粉末の粒径は10~10000μmであることが好ましく、更に好ましくは、150~5000μmである。粉体状のアマニは商業的に入手することができるが、アマニを、やすりやジェットミル粉砕機等を用いて粉体状にしても良い。
【0023】
超臨界CO抽出システムを用いて抽出物(アマニ油)を得る場合には、温度、圧力、COの流速を所定条件に設定する必要があり、温度は25℃~150℃の範囲内であり、好ましくは32℃~120℃の範囲内であり、更に好ましくは40℃~100℃の範囲内である。また、圧力は5MPa~40MPaの範囲内であり、好ましくは7.5MPa~40MPaの範囲内であり、更に好ましくは15MPa~25MPaの範囲内である。また、COの流速は1mL/min~40mL/minの範囲内であることが好ましい。
なお、本発明においては、本発明の効果を発揮する限りにおいて、超臨界CO抽出物は亜臨界CO抽出物も含むものとする。
【0024】
低温圧搾法、ヘキサン抽出法、エタノール抽出法、超臨界抽出法などにより採取されたアマニ油は、正常ヒト皮膚線維芽細胞のコラーゲン産生を促進する効果および/またはエラスターゼ活性を阻害する効果を有し、アンチエイジング化粧品などの原料となる。特に、超臨界CO抽出アマニ油やエタノール抽出アマニ油は、正常ヒト皮膚線維芽細胞のコラーゲン産生を促進する効果および/またはエラスターゼ活性を阻害する効果が非常に高いという利点を有する。例えば、超臨界CO抽出アマニ油やエタノール抽出アマニ油は、少なくとも、コラーゲン産生を効率よく促進させることができるか、エラスターゼの活性を効率よく阻害することができるので、これらを単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることにより、有望なアンチエイジング化粧品などの原料となる。
【0025】
本発明のコラーゲン産生促進物質および/またはエラスターゼ活性阻害物質を含む皮膚の抗老化剤は、皮膚に直接塗布等することにより効果を実現することができ、例えば、該皮膚の抗老化剤を肌用製品に含有させることにより、皮膚の抗老化を実現することができる。
【0026】
本発明において、肌用製品とは、人体の皮膚等に適用される製品であり、基礎化粧品、メーキャップ化粧品、洗顔石鹸やボディー石鹸、ボディー乳液等のボディーケア商品などの化粧品類のみならず、医薬部外品に分類される薬用化粧品なども含む。
【実施例0027】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0028】
(試料の調製)
(1)低温圧搾アマニ油
低温圧搾法によって採取された食用アマニ油(ニュージーランド産)を紅花食品株式会社より商業的に入手し、低温圧搾アマニ油として用いた。
【0029】
(2)超臨界CO抽出アマニ油
アマニ粉末(ニュージーランド産)を日本ガーリック株式会社より商業的に入手した。このアマニ粉末4.0gを、日本分光株式会社製の超臨界抽出システムに充填し、温度40℃、圧力20MPa、CO流速3.0mL/分の条件で超臨界COを抽出溶媒として処理を行い、得られた液体を超臨界CO抽出アマニ油として用いた。
【0030】
(3)エタノール抽出アマニ油
アマニ粉末(ニュージーランド産)を日本ガーリック株式会社より商業的に入手した。このアマニ粉末10.0gを容器に入れ、これに30mLのエタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加え、室温にて一晩撹拌した。撹拌終了後、上清を濾紙により濾過し、液体は更に孔径0.22μmのシリンジフィルターを通してからロータリーエバポレーターにてエタノールを蒸発させた。液体と固体の残渣のうち、液体に4000rpmで10分間遠心分離を行い、上清をエタノール抽出アマニ油として回収した。
【0031】
(4)ヘキサン抽出アマニ油
アマニ粉末(ニュージーランド産)を日本ガーリック株式会社より商業的に入手した。このアマニ粉末10.0gを容器に入れ、これに45mLのn-ヘキサン(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加え、室温にて一晩撹拌した。撹拌終了後、上清を濾紙により濾過し、液体は更に孔径0.45μmのポリフッ化ビニリデン(PVDF)製シリンジフィルターを通した後、40℃インキュベーター中に一晩静置し、n-ヘキサンを蒸発させた。n-ヘキサン蒸発後に残った液体をヘキサン抽出アマニ油として回収した。
【0032】
(正常ヒト皮膚線維芽細胞の培養)
正常ヒト皮膚線維芽細胞(細胞名:SF-TY)を、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンクより商業的に入手した。正常ヒト皮膚線維芽細胞は、5%CO、37℃の環境下にて、10%牛胎児血清(FBS:Biological Industries, CT)、100units/mLペニシリン-100μg/mLストレプトマイシン(富士フィルム和光純薬株式会社製)及び非必須アミノ酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)を添加したEagle’s Minimum Essential Media (富士フィルム和光純薬株式会社製)を培地とし、25cmフラスコ中で培養した。
【0033】
試験例1
(正常ヒト皮膚線維芽細胞への試料の添加)
培養された正常ヒト皮膚線維芽細胞を、0.25%トリプシン-1mM EDTA混液(富士フィルム和光純薬株式会社製)によって25cmフラスコから剥離し、10%牛胎児血清(FBS:Biological Industries, CT)、100units/mLペニシリン-100μg/mLストレプトマイシン(富士フィルム和光純薬株式会社製)及び非必須アミノ酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)を添加したEagle’s Minimum Essential Media (富士フィルム和光純薬株式会社製)の培地に懸濁し、96穴培養プレートに1×10cells/wellの密度で播種した。
【0034】
播種した翌日、これに、エタノールに溶解した試料(低温圧搾アマニ油、超臨界CO抽出アマニ油、エタノール抽出アマニ油、n-ヘキサン抽出アマニ油)を、それぞれ、添加濃度が100μg/mLとなるように添加した。ただし、添加した試料の種類にかかわらず培地中のエタノール量は一定になるようにした。
【0035】
対照群の培地には、各試料添加群と同じ量のエタノールを加えた。
なお、対照群および各試料添加群ともに、1群あたり5wellとした。
【0036】
(細胞の溶解)
正常ヒト皮膚線維芽細胞へ各試料を添加してから3日後、96穴培養プレートの各wellの細胞をリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS、富士フィルム和光純薬株式会社製)で1回洗浄し、細胞溶解用バッファー(EZRIPA Lysis kit、アトー株式会社製)を加え、緩やかにピペッティングし、溶解して細胞溶解液を作製した。
【0037】
(コラーゲン定量)
得られた細胞溶解液を、各wellから50μLずつ、それぞれマイクロチューブに採取し、シリウスレッド溶液を加えてコラーゲン・シリウスレッド結合物を形成した。ただし、シリウスレッド溶液としては、Sirius Red Total Collagen Detection Kit(Chondrex Inc. WA)付属の液を用いた。
【0038】
形成したコラーゲン・シリウスレッド結合物を遠心機にかけて沈殿させ、上清を除去してから、10mM HClで洗浄し、乾燥させた。その後、0.1MのNaOHを加えて溶解した。この溶解した液を、比色用96穴プレートに移した。
【0039】
同時に、同Kit付属のBovine Type I Collagenについても、シリウスレッド溶液を添加して、10mMのHClにより洗浄および乾燥した後、0.1MのNaOHで溶解して希釈系列を作り、検量線作成用の溶液(標準液)として用いた。
【0040】
比色用96穴プレート上の各液につき、マイクロプレートリ-ダーで545nmの吸光度を測定した。ただし、バックグラウンドを消去するため、630nmの吸光度を差し引くように設定した。得られた測定値から、元の96穴培養プレートの各well中の細胞が産生したコラーゲン量(μg/well)を算出した。
【0041】
(タンパク定量)
上記“細胞の溶解”の操作において作製した細胞溶解液を、各wellから一部採取し、それぞれに、比色用96穴プレート上で、BCAタンパク質定量キット(Takara BCA Protein Assay Kit、タカラバイオ株式会社製)の反応液を加えた。
【0042】
同時に、同BCAタンパク質定量キット付属のBSA標準液について、精製水で希釈系列を作り、検量線作成用の溶液(標準液)として同じ96穴プレートに移し、同BCAタンパク質定量キットの反応液を加えた。
【0043】
比色用96穴プレート上の各液を37℃の環境下で発色させた後、マイクロプレートリーダー(CHIROMATE MODEL 4300, Awareness Technology Inc., FL)で545nmの吸光度を測定した。ただし、バックグラウンドを消去するため、630nmの吸光度を差し引くように設定した。この測定値から、元の96穴培養プレートの各well中の細胞が持っているタンパク量(μg/well)を算出した。
【0044】
コラーゲン量は、測定結果から算出した各well中のコラーゲン量を各wellのタンパク量で除した上で、下記式により、対照群を100%としたときの割合で表した。
【0045】
タンパク量当たりのコラーゲン量の割合(%)={(試料添加群の各サンプルの個別値)/(対照群の平均値)}×100
【0046】
(統計処理)
測定データは、まずハートレイ検定により各群の値の等分散性を確認し、次に一元配置分散分析を行って、差がある可能性が示されたものに対しては、さらにチューキー法により各群の間の有意差の有無を確認した。
なお、実施例においては、後続する試験例においても、全て、同様の統計処理を行った。ただし、試料の効果の濃度依存性を調べた試験例(試験例3及び6)では、チューキー法に換えてダネット法により、対照群と各群との間の有意差の有無を確認した。
【0047】
低温圧搾アマニ油、超臨界CO抽出アマニ油、エタノール抽出アマニ油、およびヘキサン抽出アマニ油をそれぞれ添加した正常ヒト皮膚線維芽細胞のタンパク量当たりのコラーゲン量の割合(%)を、図1に示す。
【0048】
図1から、低温圧搾アマニ油、超臨界CO抽出アマニ油、エタノール抽出アマニ油、およびヘキサン抽出アマニ油をそれぞれ100μg/mL添加した群はいずれも、対照群と比べて、タンパク量当たりのコラーゲン量の割合を有意に増加させており、特に、エタノール抽出アマニ油を添加した群は非常に有意に増加させていることが分かった。また、これら低温圧搾アマニ油、超臨界CO抽出アマニ油、エタノール抽出アマニ油、およびヘキサン抽出アマニ油を添加した群同士の間には、いずれの組み合わせについても有意差は認められなかったが、上記したようにエタノール抽出アマニ油を添加した群は対照群と比べて非常に有意に増加させていることが分かったので、エタノール抽出アマニ油のコラーゲン産生促進効果は他のアマニ油(低温圧搾アマニ油等)のコラーゲン産生促進効果よりも高いと考える。
【0049】
試験例2
(細胞生存率の測定)
試験例1における“正常ヒト皮膚線維芽細胞への試料の添加”の操作と同様にして、正常ヒト皮膚線維芽細胞を96穴培養プレートに播種し、翌日、上記操作と同様にして、各試料(低温圧搾アマニ油、超臨界CO抽出アマニ油、エタノール抽出アマニ油、およびヘキサン抽出アマニ油)を添加濃度が100μg/mLとなるように添加した。
【0050】
3日後、各wellの細胞をPBSで洗浄し、3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウムブロミド(3-(4,5-dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyl-2H- tetrazolium bromide:MTT、株式会社同仁化学研究所製)の0.5%PBS溶液を10%混合した培地中で、5%CO、37℃の環境下にて2時間培養した。培養終了後、各wellの細胞をPBSで洗浄し、形成されたホルマザンをジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide:DMSO、富士フィルム和光純薬株式会社製)により溶解した。
【0051】
溶媒のみの測定値を他の試料の測定値から差し引くためのブランクとして、未使用のwellにDMSOを入れた。
【0052】
96穴プレート上の各液について、マイクロプレートリーダーで545nmの吸光度を測定した(ただし、ブランクの値を差し引いた)。バックグラウンドを消去するために、630nmの吸光度を差し引くように設定した。
【0053】
各群の細胞生存率は、下記式により求め、対照群を100%としたときの割合で示した。
【0054】
細胞生存率(%)=
(試料添加群の各サンプルの個別値/対照群の平均値)×100
【0055】
低温圧搾アマニ油、超臨界CO抽出アマニ油、エタノール抽出アマニ油、およびヘキサン抽出アマニ油を添加した正常ヒト皮膚線維芽細胞の生存率を図2に示す。
【0056】
図2から、低温圧搾アマニ油、超臨界CO抽出アマニ油、エタノール抽出アマニ油、およびヘキサン抽出アマニ油のいずれの群でも、100μg/mLの添加では、ヒト線維芽細胞の生存率に影響を与えないことが分かった。すなわち、これらのアマニ油のコラーゲン産生促進効果は、細胞毒性を有しないものであることが確認された。
【0057】
試験例3
試験例1において、試料をエタノール抽出アマニ油とし、その添加濃度をそれぞれ1μg/mL、10μg/mL、100μg/mLと変更した以外は試験例1と同様にしてコラーゲン量およびタンパク量を測定し、正常ヒト皮膚線維芽細胞のタンパク量当たりのコラーゲン量の割合(%)を求めた。ただし、試料を添加していない対照群、及び異なる濃度で試料を添加した各群ともに、培地中のエタノール量が一定になるように調整した。その結果を図3に示す。
【0058】
図3から、添加濃度が1μg/mL、10μg/mL、100μg/mLのいずれの群においても、0と表示した対照群よりもタンパク量当たりのコラーゲン量の割合を有意に増加させていることが分かった。そして、各群のタンパク量当たりのコラーゲン量の割合の増加は濃度依存的であることが分かった。
【0059】
試験例4
試験例1において、試料を、エタノール抽出アマニ油および低温圧搾のエゴマ油に変更し、その添加濃度を100μg/mLとした以外は試験例1と同様にして、正常ヒト皮膚線維芽細胞のコラーゲン量およびタンパク量を測定し、また、正常ヒト皮膚線維芽細胞のタンパク量当たりのコラーゲン量の割合(%)を求めた。その結果、すなわち、エタノール抽出アマニ油および低温圧搾エゴマ油を添加したときの正常ヒト皮膚線維芽細胞のコラーゲン量の結果を図4に、また、タンパク量当たりのコラーゲン量の割合(%)の結果を図5に示す。ただし、試料としての低温圧搾のエゴマ油は、食用エゴマ油(中国産)を天長食品工業株式会社から商業的に入手したものを使用した。
【0060】
図4から、エタノール抽出アマニ油および低温圧搾エゴマ油を添加した群はいずれも正常ヒト皮膚線維芽細胞のコラーゲン量を増加させるが、エタノール抽出アマニ油を添加した群の方がコラーゲン量を大きく増加させることが分かった。すなわち、エタノール抽出アマニ油を添加した群は対照群との間に有意差が認められたが、一方、低温圧搾エゴマ油を添加した群では対照群との間に有意差は認められなかった。
【0061】
図5から、タンパク量当たりのコラーゲン量の割合について、低温圧搾エゴマ油の群は対照群とほぼ同程度であることが分かり、このことから、細胞タンパク全体を増やしているものと思われた。一方、エタノール抽出アマニ油の群は対照群よりも有意に増加していることが分かり、したがって、コラーゲンを特異的に増やしているものと思われた。
【0062】
試験例5
(エラスターゼ活性阻害効果の測定)
上記“試料の調製”の操作において作製した低温圧搾アマニ油および超臨界CO抽出アマニ油をそれぞれDMSOに溶解し、0.5mg/mLの濃度となるように0.2M Tris-HCLに加えた。これを比色用96穴プレートのwell中で1mMのN-スクシニル-Ala-Ala-Ala-p-ニトロアニリド(N-Succinyl-Ala-Ala-Ala-p-nitroanilide)(シグマアルドリッチ)及び0.75U/mL エラスターゼブタ膵臓由来(富士フィルム和光純薬株式会社製)と2:1:1の割合で混合し、37℃で反応させた後、マイクロプレートリーダー(CHIROMATE MODEL 4300, Awareness Technology Inc., FL)で405nmの吸光度を測定した。
なお、上記低温圧搾アマニ油および超臨界CO抽出アマニ油をそれぞれ添加した試験液、及び対照の液から酵素のみを除いたものをブランク(BLK)とし、下記式により、エラスターゼ活性阻害効果として酵素活性の割合(%)を求めた。
【0063】
酵素活性の割合(%)={(各試験液の吸光度-各試験液のBLKの吸光度)/(対照の吸光度-対照のBLKの吸光度)}×100
【0064】
超臨界CO抽出アマニ油と低温圧搾アマニ油のエラスターゼ活性阻害効果として、酵素活性の割合(%)を図6に示す。
図6から、超臨界CO抽出アマニ油の群は、対照群に対し、顕著かつ有意な効果を示し、低温圧搾アマニ油の群と比較しても有意にエラスターゼ活性を低下させており、優れたエラスターゼ活性阻害効果を有することが分かった。一方、低温圧搾アマニ油の群は、対照群と比較すると有意にエラスターゼ活性を低下させているがその効果は小さく、超臨界CO抽出アマニ油よりもエラスターゼ活性阻害効果は劣っていることが分かった。
【0065】
試験例6
試験例5において、試料を超臨界CO抽出アマニ油とし、その添加濃度をそれぞれ0.1mg/mL、0.25mg/mL、0.5mg/mL、1.0mg/mLと変更した以外は試験例5と同様にして、エラスターゼ活性阻害効果として酵素活性の割合(%)を求めた。ただし、試料を添加していない対照群、及び異なる濃度で試料を添加した各群、並びにそれぞれのBLK群ともに、試験液中のDMSOの量が一定になるように調整した。その結果を図7に示す。
【0066】
図7から、超臨界CO抽出アマニ油の添加濃度が0.25mg/mL、0.5mg/mL、1.0mg/mLのいずれの群においても、0と表示した対照群よりエラスターゼ活性を有意に減少させていることが分かった。そして、超臨界CO抽出アマニ油のエラスターゼ活性阻害効果は濃度依存的であることが分かった。
【0067】
以上の結果から、各種方法により採取したアマニ油には、正常ヒト線維芽細胞のコラーゲン産生を促進する効果および/またはエラスターゼ活性を阻害する効果が認められることが分かった。アマニ油は、食用油として、アレルギー症状の改善、高血圧・脳梗塞・心筋梗塞・動脈硬化の予防、コレステロール値の低下、成人病の予防などの効果を期待できることは知られているが、ヒト皮膚線維芽細胞のコラーゲン産生を促進する効果、並びにエラスターゼ活性を阻害する効果については、学術的な報告はこれまでになく、本出願において初めてアマニ油の新しい機能を明らかにしたのである。これらの効果は、アマニ油を経口摂取した場合でも期待できるが、皮膚に直接塗布することによって、より素早く効果が現れるものと予想される。
また、本出願においては、様々な方法により採取したアマニ油を開示しているが、例えばコラーゲン産生促進効果に特に有意な効果を示すものはエタノール抽出アマニ油であり、エラスターゼ活性阻害効果に特に有意な効果を示すものは超臨界CO抽出アマニ油であることから、コラーゲン産生促進効果およびエラスターゼ活性阻害効果をもたらすアマニ油中の有効成分はそれぞれ異なるものであろうと推測され、アマニ油の採取方法によって該有効成分の含有の有無や含有比率が変化すると推測される。したがって、アマニ油は採取方法を変化させることにより、コラーゲン産生促進効果およびエラスターゼ活性阻害効果という抗老化作用を発揮しうるのであり、今後、大きな期待が寄せられるのである。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7