(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038736
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】センサ装置および周波数計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20230310BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145610
(22)【出願日】2021-09-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元~2年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 試験研究タイプ「「その場で分子検出」のためのICカード型微量天秤センサーの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(71)【出願人】
【識別番号】502110780
【氏名又は名称】ピエゾパーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100196209
【弁理士】
【氏名又は名称】松崎 義邦
(74)【代理人】
【識別番号】100196829
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 言一
(72)【発明者】
【氏名】吉嶺 浩司
(72)【発明者】
【氏名】古澤 宏幸
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡便な構造で水晶振動子に試料を供給することができ、さらに小型化および軽量化が可能なセンサ装置および周波数測定方法を提供する。
【解決手段】水晶振動子15と筐体と、端子部42aとを備え、水晶振動子15を載置する載置板部42と、載置板部42上に載置された枠体部43と、枠体部43上に載置されたカバー部44とを有し、枠体部43には、水晶振動子15を収容する収容室43aと、収容室43aに連通して形成された溝である試料流入路43bおよび試料流出路43cが形成され、カバー部44には試料流入路43bに対応する位置に形成された注入口44bと、試料流出路43cに対応する位置に形成された排出口44cが形成されているセンサ装置。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面および裏面に電極が形成され、交流電圧が印加されることで振動する水晶振動子と、
前記水晶振動子を収容する筐体と、
前記電極と電気的に接続され、前記筐体の外部との間で電気的に接続される端子部とを備え、
前記筐体は、前記水晶振動子を載置する載置板部と、前記載置板部上に載置された枠体部と、前記枠体部上に載置されたカバー部とを有し、
前記枠体部には、前記水晶振動子を収容する収容室と、前記収容室に連通して形成された溝である試料流入路および試料流出路が形成され、
前記カバー部には、前記試料流入路に対応する位置に形成された注入口と、前記試料流出路に対応する位置に形成された排出口が形成されていることを特徴とするセンサ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ装置であって、
前記枠体部は、ゲル状材料で構成されていることを特徴とするセンサ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセンサ装置であって、
前記カバー部には、前記収容室に対応する位置に作業用開口部が形成されており、前記作業用開口部を覆って着脱自在な蓋部が設けられていることを特徴とするセンサ装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載のセンサ装置であって、
前記試料流入路は、前記試料流出路よりも幅が狭く、かつ前記試料流出路よりも短く形成されていることを特徴とするセンサ装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一つに記載のセンサ装置であって、
前記水晶振動子の前記表面にプローブ分子が固定化されていることを特徴とするセンサ装置。
【請求項6】
表面および裏面に電極が形成され、所定の交流電圧が印加されることで固有振動数f1で振動する水晶振動子と、
前記電極と電気的に接続された端子部と、
前記端子部を介して前記電極に前記所定の交流電圧を印加するとともに、前記水晶振動子の実際の振動周波数f2を測定する周波数測定部とを備え、
前記周波数測定部は、基準周波数f3で発振する基準発振部と、前記基準発振部の振動回数を計測する第1カウンタと、前記水晶振動子の振動回数を計測する第2カウンタとを備え、
前記第2カウンタでの第2計測回数c2が規定回数c3に至るまでの期間tと、前記第1カウンタでの第1計測回数c1、および前記基準周波数f3に基づいて、前記振動周波数f2を算出することを特徴とするセンサ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のセンサ装置であって、
前記規定回数c3は、付着する試料及び液体に対応する回数Δcを初期設定値から差し引いたものであることを特徴とするセンサ装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載のセンサ装置であって、
前記第1カウンタは、前記基準発振部の振動回数を分周して計測する第1分周回路を備えていることを特徴とするセンサ装置。
【請求項9】
請求項6から8の何れか一つに記載のセンサ装置であって、
前記第2カウンタは、前記水晶振動子の振動回数を分周して計測する第2分周回路を備えていることを特徴とするセンサ装置。
【請求項10】
請求項6から9の何れか一つに記載のセンサ装置であって、
前記固有振動数f1と前記振動周波数f2に基づいて、前記水晶振動子に付着した試料の質量を算出することを特徴とするセンサ装置。
【請求項11】
請求項6から10の何れか一つに記載のセンサ装置であって、
前記基準発振部の出力を、回路全体を同期させるクロック信号として共有することを特徴とするセンサ装置。
【請求項12】
請求項6から11の何れか一つに記載のセンサ装置であって、
前記水晶振動子の前記表面にプローブ分子が固定化されていることを特徴とするセンサ装置。
【請求項13】
固有振動数f1の水晶振動子に所定の交流電圧を印加する電圧印加工程と、
基準発振部で基準周波数f3を発振する基準発振工程と、
前記基準発振部の振動を第1計測回数c1として計測する第1計測工程と、
前記水晶振動子の振動を第2計測回数c2として計測する第2計測工程と、
前記第2計測回数c2が規定回数c3に至るまでの期間tと、前記第1計測回数c1、および前記基準周波数f3に基づいて、振動周波数f2を算出する振動数算出工程とを備えることを特徴とする周波数計測方法。
【請求項14】
請求項13の周波数計測方法であって、
前記規定回数c3は、付着する試料及び液体に対応する回数Δcを初期設定値から差し引いたものであることを特徴とする周波数計測方法。
【請求項15】
請求項13または14の周波数計測方法であって、
前記基準発振部を逓倍または分周した出力で同期させることを特徴とする周波数計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ装置および周波数計測方法に関し、特に水晶振動子の周波数変化を用いて試料の質量を測定するセンサ装置および周波数計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細な試料の質量を測定するためのセンサ装置として、QCM(Quartz Crystal Microbalance/水晶振動子マイクロバランス)センサが提案されている(例えば、特許文献1-6を参照)。これらのQCMセンサでは、電圧を印加し振動させた水晶振動子の表面に試料を付着させた際の振動数変化から、試料の質量を算出している。
【0003】
また、このようなQCMセンサにおいて水晶振動子の表面にホスト分子を固定化し、ホスト分子に付着する物質を適切に設計することで、特定の分子構造やDNA、生体分子等のみを選択して検出する検出装置として用いることも提案されている(例えば非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-184256号公報
【特許文献2】特開2005-274165号公報
【特許文献3】特開2007-057291号公報
【特許文献4】特開2007-192650号公報
【特許文献5】特開2009-250808号公報
【特許文献6】特開2014-139557号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hiroshi Yoshimine et al. ”Small Mass-Change Detectable Quartz Crystal Microbalance and Its Application to Enzymatic One-Base Elongation on DNA”, October 4, 2011, Analytical Chemistry 2011, 83, 22, 8741-8747
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、QCMセンサを用いたセンサ装置では、特定の分子構造やDNA、生体分子等のみを選択して検出できるため、屋外等にセンサ装置を持ち出して、手軽に検体中のウィルスやガス中の微小物質を検出できることが望まれている。
【0007】
しかし、従来のQCMセンサを用いたセンサ装置では、QCMセンサの表面に試料を供給するための構造が複雑であり、センサ装置の小型化には限界があった。また、水晶振動子のわずかな振動数の変化を正確に測定するためには、大型で高性能な振動数測定装置を用いる必要があった。また、振動数測定装置の駆動に必要な電力を供給するためには、商用電源か大型の蓄電池を用いる必要があった。そのため、センサ装置を駆動させるためのシステムが大型化し、可搬性を向上させることは困難であった。
【0008】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、簡便な構造で水晶振動子に試料を供給することができ、さらに小型化および軽量化が可能なセンサ装置および周波数測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のセンサ装置は、表面および裏面に電極が形成され、交流電圧が印加されることで振動する水晶振動子と、前記水晶振動子を収容する筐体と、前記電極と電気的に接続され、前記筐体の外部との間で電気的に接続される端子部とを備え、前記筐体は、前記水晶振動子を載置する載置板部と、前記載置板部上に載置された枠体部と、前記枠体部上に載置されたカバー部とを有し、前記枠体部には、前記水晶振動子を収容する収容室と、前記収容室に連通して形成された溝である試料流入路および試料流出路が形成され、前記カバー部には、前記試料流入路に対応する位置に形成された注入口と、前記試料流出路に対応する位置に形成された排出口が形成されていることを特徴とする。
【0010】
このような本発明のセンサ装置では、載置板部とカバー部で枠体部を挟み、枠体部に設けられた収容室に水晶振動子を載置することで、試料流入路と試料流出路を介して収容室内に試料を供給できるため、簡便な構造で水晶振動子に試料を供給することができ、さらに小型化および軽量化が可能となる。
また本発明の一態様では、前記枠体部は、ゲル状材料で構成されている。
【0011】
また本発明の一態様では、前記カバー部には、前記収容室に対応する位置に作業用開口部が形成されており、前記作業用開口部を覆って着脱自在な蓋部が設けられている。
【0012】
また本発明の一態様では、前記試料流入路は、前記試料流出路よりも幅が狭く、かつ前記試料流出路よりも短く形成されている。
【0013】
また本発明の一態様では、前記水晶振動子の前記表面にプローブ分子が固定化されている。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明のセンサ装置は、表面および裏面に電極が形成され、所定の交流電圧が印加されることで固有振動数f1で振動する水晶振動子と、前記電極と電気的に接続された端子部と、前記端子部を介して前記電極に前記所定の交流電圧を印加するとともに、前記水晶振動子の実際の振動周波数f2を測定する周波数測定部とを備え、前記周波数測定部は、基準周波数f3で発振する基準発振部と、前記基準発振部の振動回数を計測する第1カウンタと、前記水晶振動子の振動回数を計測する第2カウンタとを備え、前記第2カウンタでの第2計測回数c2の規定回数c3に至るまでの期間tと、前記第1カウンタでの第1計測回数c1、および前記基準周波数f3に基づいて、前記振動周波数f2を算出することを特徴とする。
【0015】
このような本発明のセンサ装置では、水晶振動子の振動回数を第2カウンタで計測し、第2カウンタが第2計測回数c2を計測した場合に、基準発振部の振動回数である第1計測回数c1と基準周波数f3から実際の振動周波数f2を算出するため、簡便な回路構成で正確な周波数を計測でき、小型化および軽量化が可能となる。
【0016】
また本発明の一態様では、前記規定回数c3は、付着する試料及び液体に対応する回数Δcを初期設定値から差し引いたものである。
【0017】
また本発明の一態様では、前記第1カウンタは、前記基準発振部の振動回数を分周して計測する第1分周回路を備えている。
【0018】
また本発明の一態様では、前記第2カウンタは、前記水晶振動子の振動回数を分周して計測する第2分周回路を備えている。
【0019】
また本発明の一態様では、前記固有振動数f1と前記振動周波数f2に基づいて、前記水晶振動子に付着した試料の質量を算出する。
【0020】
また本発明の一態様では、前記基準発振部の出力を、回路全体を同期させるクロック信号として共有する。
【0021】
また本発明の一態様では、前記水晶振動子の前記表面にプローブ分子が固定化されている。
【0022】
また上記課題を解決するために、本発明の周波数計測方法は、固有振動数f1の水晶振動子に所定の交流電圧を印加する電圧印加工程と、基準発振部で基準周波数f3を発振する基準発振工程と、前記基準発振部の振動を第1計測回数c1として計測する第1計測工程と、前記水晶振動子の振動を第2計測回数c2として計測する第2計測工程と、前記第2計測回数c2が規定回数c3に至るまでの期間tと、前記第1計測回数c1、および前記基準周波数f3に基づいて、振動周波数f2を算出する振動数算出工程とを備えることを特徴とする。
【0023】
また本発明の一態様では、前記規定回数c3は、付着する試料及び液体に対応する回数Δcを初期設定値から差し引いたものである。
【0024】
また本発明の一態様では、前記基準発振部の出力を逓倍した信号または第1分周回路の出力信号をクロック信号として分配し、回路全体を同期させることを行う。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、簡便な構造で水晶振動子に試料を供給することができ、さらに小型化および軽量化が可能なセンサ装置および周波数測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るセンサ装置10を示す図であり、
図1(a)はセンサ装置全体の構成を示す模式図であり、
図1(b)は回路部分の構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態で使用する水晶振動子15の詳細を説明する模式図であり、
図2(a)は石英単結晶を示し、
図2(b)は切り出し角度を示し、
図2(c)は水晶振動子15の外観を示している。
【
図3】カウンタユニット部24の構成例を示すブロック図である。
【
図4】周波数計測方法について動作の違いを説明する模式図であり、
図4(a)は比較例1を示し、
図4(b)は比較例2を示し、
図4(c)は実施例を示している。
【
図5】筐体14の構造を示す模式図であり、
図5(a)は模式平面図であり、
図5(b)はA-A位置での模式断面図であり、
図5(c)は模式分解斜視図であり、
図5(d)は部分拡大平面図である。
【
図6】センサ装置10をバイオセンサとして用いる場合を示した模式図である。
【
図7】
図6に示したバイオセンサの検出結果を示すグラフである。
【
図8】プローブ分子の固定化とバイオセンサとしての動作をさらに詳細に説明する工程図である。
【
図9】既存の装置を用いたプローブ分子の固定とバイオセンサとしての動作を示すグラフであり、
図9(a)はニュートラアビジンによる修飾を示し、
図9(b)はプローブ分子としてビオチン化DNA52の固定とプローブ分子の固定反応を阻害する単独のビオチン分子の追加を示し、
図9(c)は相補鎖DNAとミスマッチDNAの供給による振動数変化を示している。
【
図10】第2実施形態のセンサ装置10において、水晶振動子15のプローブ分子として抗体を用い、抗原の検出を行う場合を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。
図1は、本実施形態に係るセンサ装置10を示す図であり、
図1(a)はセンサ装置全体の構成を示す模式図であり、
図1(b)は回路部分の構成を示すブロック図である。
図1(a)に示すように、センサ装置10は、ケース部11と、バッテリー部12と、回路基板13と、筐体14と、水晶振動子15とを備えている。
【0028】
ケース部11は、センサ装置10を構成する各部を収容して保持する外殻であり、略直方体形状を有している。ケース部11を構成する材料は限定されず、公知の樹脂材料や金属材料、セラミックス材料等を用いることができる。また、ケース部11のサイズや形状は限定されないが、縦54mm、横86mm程度の交通系ICカードサイズで構成することもできる。
【0029】
バッテリー部12は、電力を貯蔵して回路基板13に供給する電源部材であり、例えばアルカリ乾電池等の一次電池やリチウムイオン電池等の二次電池を用いることができる。必要に応じてバッテリー部12に充電回路を備えて、外部電源からの給電による充電を行える構成としてもよい。
【0030】
回路基板13は、バッテリー部12からの電力で動作する電気回路を搭載した部材である。回路基板13の具体的な構造は限定されず、従来公知のプリント配線基板等を用いることができる。回路基板13の一部にはコネクタ部(図示省略)が搭載されており、コネクタ部を介して筐体14内の水晶振動子15と回路基板13上の電気回路が電気的に接続可能とされている。
【0031】
筐体14は、内部に水晶振動子15を収容するとともに、回路基板13と水晶振動子15との間の電気的接続を確保する部材である。また、筐体14には水晶振動子15に対して検出対象である試料を含んだガスや液体を供給する流路が形成されている。筐体14の詳細な構造は後述する。
【0032】
水晶振動子15は、石英の単結晶を切り出して表面と裏面に電極を形成した部材であり、両面の電極に所定の交流電圧を印加することで圧電効果により固有振動数で発振する電子部品である。水晶振動子15の両面の電極は、端子部を介して回路基板13のコネクタ部と電気的に接続されており、回路基板13から供給された交流電圧で発振するとともに、回路基板13に振動数に応じた電圧変動が伝達される。ここで、水晶振動子15の固有振動数とは、水晶振動子15の表面および裏面に電極を形成した状態で、所定の交流電圧を印加した際に水晶振動子15が発振する周波数である。
【0033】
回路基板13上には水晶振動子15を発振させてその振動数を計測するための電気回路が構成されている。
図1(b)に示したように回路基板13上の電気回路には、レギュレータ21と、温度補償水晶発振器22と、情報処理部23と、カウンタユニット部24と、反転増幅インバータ部25と、波形変換インバータ部25’と、無線通信部26が含まれている。レギュレータ21、温度補償水晶発振器22、情報処理部23、カウンタユニット部24、反転増幅インバータ部25および波形変換インバータ部25’の組み合わせは、本発明における周波数測定部を構成している。
【0034】
レギュレータ21は、バッテリー部12から供給された電力の電圧値を一定に制御するための部分である。レギュレータ21の具体的な構成は限定されず、従来公知のリニアレギュレータやスイッチングレギュレータを用いることができる。レギュレータ21で所定の電圧値に変換された電力は、回路基板13上の各部に供給される。
【0035】
温度補償水晶発振器22は、水晶振動子15とは別の石英単結晶を用いて、基準周波数で発振する部分である。また、温度補償水晶発振器22には温度補償機能が搭載されており、環境温度の変化によらず外気温が-40~+85℃の温度範囲において安定して基準周波数で発振を継続することができる。温度補償機能を実現するための方法は従来公知のものを用いることができる。温度補償水晶発振器22の発振周波数は本発明における基準周波数に相当しており、一例としては32MHz等を用いることができる。温度補償水晶発振器22は基準周波数で発振するため、本発明における基準発振部に相当している。ここでは温度補償水晶発振器22をカウンタユニット部24と別に設けた例を示しているが、後述するようにカウンタユニット部24内に温度補償水晶発振器22を含めてもよい。
【0036】
また、温度補償水晶発振器22は、回路全体を同期するためのクロック信号の発生源である。温度補償水晶発振器22の出力は逓倍または分周され、クロック信号として後述する情報処理部23とカウンタユニット部24に分配される。情報処理部23とカウンタユニット部24を含む回路全体は、温度補償水晶発振器22の出力する安定したクロック信号をもとに同期して作動させることができる。
【0037】
情報処理部23は、予め定められたプログラムに従って情報処理を行い、回路基板13上の電子回路の各部を制御する演算部であり、CPU(中央演算処理装置:Central Processing Unit)等で実現される。また、情報処理部23は回路基板13上の電子回路の各部から情報を取得してプログラムに従って演算処理を行う。情報処理部23には、メモリー装置や入出力装置、表示装置などが接続され、プログラムやデータの記録、演算結果の出力や表示等を行うこととしてもよい。
【0038】
カウンタユニット部24は、水晶振動子15に交流電圧を印加して発振させた際に、水晶振動子15の振動回数を計測する部分である。カウンタユニット部24が計測した水晶振動子15の振動回数の情報は、情報処理部23に伝達される。
【0039】
反転増幅インバータ部25は、水晶振動子15の発振により生じた正弦波の振動を反転増幅し、波形変換インバータ部25’は、増幅した正弦波の電圧変動を方形波に変換するための部分である。正弦波の振動を波形変換インバータ部25’で方形波に変換することで、カウンタユニット部24が水晶振動子15の振動回数をデジタル情報としてカウントする。ここでは2つの反転増幅インバータ部25および波形変換インバータ部25’をカウンタユニット部24と別に設けた例を示しているが、後述するようにカウンタユニット部24内に2つの反転増幅インバータ部25および波形変換インバータ部25’を含めてもよい。
【0040】
無線通信部26は、センサ装置10の外部に設けられた装置と情報処理部23との間で情報通信を行う部分である。無線通信部26の具体的な構成や規格は限定されず、例えば赤外線通信、携帯電話網を用いた通信、近距離無線通信等の公知の技術を用いることができる。
【0041】
図1(a)(b)に示したように、本実施形態のセンサ装置10は、ケース部11内にバッテリー部12、回路基板13、筐体14および水晶振動子15を収容して、無線通信部26で外部と情報通信可能とされている。したがってセンサ装置10は、電源装置を別途用意せずにバッテリー部12に貯蔵された電力のみで動作させることができ、得られた測定結果を無線通信部26を介して収集することができる。
【0042】
図2は、本実施形態で使用する水晶振動子15の詳細を説明する模式図であり、
図2(a)は石英単結晶を示し、
図2(b)は切り出し角度を示し、
図2(c)は水晶振動子15の外観を示している。
図2(a)(b)に示したように、水晶振動子15はxz平面をx軸周りに回転させた面のうち石英単結晶のr面に対してθ度傾斜した方向に切り出すATカットが用いられる。ATカットで用いられる代表的な傾斜角度θは2度58分であるが、本実施形態では傾斜角度θとして2度59分30秒±15秒の範囲で傾斜した方向から切り出す。この傾斜角度θでは、25℃近傍での温度変化による水晶振動子15の周波数変化率が小さく、室温付近で一定の周波数を得られる。切り出された水晶振動子15の表面と裏面には、それぞれ電極15a、15bを形成する。
【0043】
図3は、カウンタユニット部24の構成例を示すブロック図である。
図3に示すようにカウンタユニット部24は、発振回路31と温度補償水晶発振器36に接続され、分周回路32と、水晶振動カウンタ33と、比較器34と、レジスタ35と、分周回路37と、基準振動カウンタ38と、レジスタ39とを備えている。
【0044】
発振回路31は、水晶振動子15に所定の交流電圧を印加して水晶振動子15を発振させるとともに、水晶振動子15の発振によって生じた電圧変動を分周回路32に伝達する部分である。発振回路31には
図1で示した反転増幅インバータ部25および波形変換インバータ部25’を含んでいる。発振回路31の具体的構成は限定されず、水晶振動子15を発振させる公知の回路構成を用いることができる。発振回路31の具体的な発振周波数は限定されないが、一例としてはDNAの検出に用いる場合には27MHz以上を用いることができる。また、タンパク質等を検出する場合には9MHz以上を用いることができる。
【0045】
分周回路32は、発振回路31から伝達された水晶振動子15の振動による電圧変動を分周して水晶振動カウンタ33に伝達する。分周回路32の一例としては、1/8の分周が挙げられ、発振回路31からの4回のパルス周期に対応して1回のハイ信号を出力しそれに続く4回のパルス周期に対応した1回のロー信号を出力するものを用いることができる。発振回路31と水晶振動カウンタ33の間に分周回路32を設けることで、水晶振動カウンタ33としてビット数が少なく低周波数で動作する部品を用い、小型化や省電力化を図ることができる。分周回路32は本発明における第2分周回路に相当している。
【0046】
水晶振動カウンタ33は、分周回路32から出力された電圧変動の立ち上がりまたは立ち下がりの回数を計測する部分であり、本発明における第2カウンタに相当している。水晶振動カウンタ33で計測された計測回数出力は、後述するように比較器34でレジスタ35に記録された値と比較される。また、比較器34から水晶振動カウンタ33に一致出力が出力された場合には、カウントをリセットして計測を再開する。
【0047】
比較器34は、水晶振動カウンタ33が計測した計測回数の出力と、レジスタ35に記録された規定回数の値とを比較し、両者の値が一致した場合に一致出力を水晶振動カウンタ33、基準振動カウンタ38およびレジスタ39に対して出力する。この出力をトリガーとして、基準振動カウンタ38からレジスタ39にデータの転送が行われる。
【0048】
レジスタ35は、水晶振動カウンタ33の計測回数と比較される規定回数の値を記録しておく記憶部である。記録される規定回数とは、水晶振動子15の固有振動数を分周回路32で分周した値であり、一例として固有振動数が27MHzでr1=1/8の分周比率の場合には、337万5千回である。
【0049】
温度補償水晶発振器36は、温度補償機能が搭載されて、温度によらず基準周波数で発振する部分である。温度補償水晶発振器36の発振周波数は本発明における基準周波数に相当しており、一例としては32MHz等を用いることができる。温度補償水晶発振器36は基準周波数で発振するため、本発明における基準発振部に相当している。
【0050】
分周回路37は、温度補償水晶発振器36から伝達された基準周波数による電圧変動を分周して基準振動カウンタ38に伝達する。分周回路37の一例としては、r2=1/2の分周が挙げられ、温度補償水晶発振器36からの1回のパルス周期に対応して1回のハイ信号を出力しそれに続く1回のパルス周期に対応した1回のロー信号を出力するものを用いることができる。温度補償水晶発振器36と基準振動カウンタ38の間に分周回路37を設けることで、基準振動カウンタ38としてビット数が少なく低周波数で動作する部品を用い、小型化や省電力化を図ることができる。分周回路37は本発明における第1分周回路に相当している。
【0051】
基準振動カウンタ38は、分周回路37から出力された電圧変動の立ち上がりまたは立ち下がりの回数を計測する部分であり、本発明における第1カウンタに相当している。基準振動カウンタ38は、比較器34から一致出力が出力されるまでカウントを継続する。比較器34から一致出力が出力された場合には、その時点での計測回数をレジスタ39に保存するとともに、カウントをリセットして計測を再開する。
【0052】
レジスタ39は、基準振動カウンタ38に比較器34から一致出力が出力された時の計測回数を記録する記憶部である。レジスタ39に記録された基準振動カウンタ38の計測回数は、情報処理部23で読み取られて水晶振動子15の単位時間当たりの振動回数(実際の振動周波数)を算出するために用いられる。
【0053】
次に、水晶振動子15における実際の振動周波数を算出する方法について説明する。まず初めに電圧印加工程では、固有振動数f1の水晶振動子15に所定の交流電圧を印加して水晶振動子15を発振させる。このとき、水晶振動子15の発振によって生じた電圧変動は、発振回路31によって方形波に変換されて分周回路32に伝達され、所定の分周比率で変換されて水晶振動カウンタ33に伝達される。
【0054】
また電圧印加工程と並行して、基準発振工程で温度補償水晶発振器36で基準周波数f3を発振させる。このとき、温度補償水晶発振器36の発振によって生じた電圧変動は分周回路37に伝達され、所定の分周比率で変換されて基準振動カウンタ38に伝達される。この電圧印加工程と基準発振工程は、測定期間中は継続して実行される。
【0055】
次に、水晶振動カウンタ33の開始タイミングに同期させて、基準振動カウンタ38のカウントを開始する。基準振動カウンタ38での第1計測回数c1の計測は本発明における第1計測工程に相当し、水晶振動カウンタ33での第2計測回数c2計測は本発明における第2計測工程に相当している。第1計測工程と第2計測工程は、第2計測回数c2が規定回数c3と等しくなるまで繰り返される。
【0056】
水晶振動カウンタ33で計測している第2計測回数c2が、レジスタ35に記録された規定回数c3と等しくなった場合には、比較器34は一致信号を出力して、その時点での第1計測回数c1がレジスタ39に記録される。また、基準振動カウンタ38と水晶振動カウンタ33の計測回数はリセットされる。
【0057】
次に、振動数算出工程で情報処理部23は、第2計測回数c2と、レジスタ39に記録されている第1計測回数c1と、温度補償水晶発振器36の基準周波数f3に基づいて、水晶振動子15の実際の振動周波数f2を算出する。より詳細には、第1段階として、水晶振動カウンタ33が第2計測回数c2をカウントするに要した時間tについて、基準周波数f3と第1計測回数c1と分周比率r2から、t=c1/(r2×f3)として算出する。次に第2段階として、実際の振動周波数f2について、f2=c2/(r1×t)として算出する。
【0058】
つまり、水晶振動子15の振動数を分周した計測数である第2計測回数c2が、規定回数c3まで到達する時間tの期間だけ基準振動カウンタ38で第1計測回数c1をカウントすることで、温度補償水晶発振器36の振動数から時間tを算出する。これにより、分周回路32および分周回路37を介在させて水晶振動子15および温度補償水晶発振器36の振動回数を計測しても、正確な時間と振動数を算出することができる。また、分周回路32および分周回路37を用いることで、基準振動カウンタ38と水晶振動カウンタ33としてビット数が少なく低周波数で動作する低消費電力のものを用いることができ、省電力化を図ることができる。
【0059】
実際の測定では、水晶振動子15が試料の付着および液体と接触することで水晶振動子15の振動周波数f2は減少し、結果として第2計測回数c2が規定回数c3と等しくなるまでの時間は長くなる。振動周波数f2の計測を所定時間毎に繰り返し行う測定の場合、時間tが所定時間を超えることがないように、あらかじめ振動周波数f2の減少に対応する回数Δcを初期設定値から差し引いて規定回数c3を設定することで、所定時間毎に繰り返し行う測定が可能となる。ここで、規定回数c3の初期設定値とは、水晶振動子15に液体等の流体や試料が付着していない状態で、所定時間(一例として1秒間)における水晶振動子15の振動周波数f2によって定まる回数である。
【0060】
液体等の流体との接触および試料の付着に基づいて差し引くべき回数Δcは、既報のKanazawaの式(例えば、K.Keiji Kanazawa et al. ”Frequency of a Quartz Microbalance in Contact with Liquid”, October 29, 1984, Analytical Chemistry 1985, 57, 1771-1772を参照)およびSaurbreyの式(例えばGunter Sauerbrey ” Verwendung von Schwingquarzen zur Wagung dunner Schichten und zur Mikrowagung”, April, 1959, Zeitschrift fur Physik, 1959, 155, 206-222を参照)を用いて決定することができる。例えば水晶振動子15の固有振動数が27MHzであるとき、液体等の流体との接触および試料の付着に対応するΔcは10000回を1/8とした1250回とすることができる。
【0061】
また情報処理部23または外部演算装置は、振動数算出工程で算出した水晶振動子15の実際の振動周波数f2から、質量算出工程で水晶振動子15に付着した試料の質量を算出する。具体的な質量の算出方法は限定されず、従来のQCMセンサで用いられてきた各種方法を用いることができる。このとき、水晶振動子15の表面に固定化したプローブ分子の質量や、プローブ分子に結合する標的分子の質量、水晶振動子15に供給される試料を含んだ流体(ガスまたは液体)の影響による負荷周波数の変化等を参照して質量の算出を行うことが好ましい。
【0062】
図4は、周波数計測方法について動作の違いを説明する模式図であり、
図4(a)は比較例1を示し、
図4(b)は比較例2を示し、
図4(c)は実施例を示している。図中の中段に示したブロック図は各例における回路構成を示している。また、図中の下段に示したタイミングチャートは、水晶振動カウンタ33での計測を模式的に示している。また、図中の上段に示したタイミングチャートは、基準振動カウンタ38での計測を模式的に示している。また、何れの例においても温度補償水晶発振器36が32MHzの基準周波数で発振し、分周回路37の分周比率r2=1/2とし、水晶振動子15の固有振動数が27MHzであるとする。
【0063】
図4(a)に示した比較例1では、温度補償水晶発振器36の振動回数をタイマーとして用い、発振回路31と水晶振動カウンタ33の間に分周回路を介在させない場合を示している。この場合には、温度補償水晶発振器36の振動が3200万回に到達した時点、つまり分周回路37から出力が1600万回であることを基準振動カウンタ38で計測した時点で1秒間が算出される。この1秒間において、水晶振動子15の振動を水晶振動カウンタ33が計測することで、実施の振動周波数f2を算出している。しかし、約27MHzの振動回数を計測するためには、水晶振動カウンタ33のビット数が2700万回以上を計測できる25ビット以上であり、かつ水晶振動カウンタ33を27MHz以上の高周波で駆動する必要があり、高性能なカウンタ装置を用いるため消費電力が高くなるという問題が生じる。また、高性能なカウンタ装置を水晶振動カウンタ33として用いた場合であっても、1秒間のうち最後の1回に満たない振動だけ誤差E1が発生することは避けられない。
【0064】
図4(b)に示した比較例2では、温度補償水晶発振器36の振動回数をタイマーとして用い、発振回路31と水晶振動カウンタ33の間に分周回路32を介在させた場合を示している。分周回路32の分周比率はr1=1/8とする。この場合にも、温度補償水晶発振器36の振動が3200万回に到達した時点、つまり分周回路32から出力が1600万回であることを基準振動カウンタ38で計測した時点で1秒間が算出される。この1秒間において水晶振動カウンタ33が計測する回数は、約27MHzの1/8である約3.375MHzであり、水晶振動カウンタ33のビット数は22ビットおよび4MHz程度の低周波数駆動で十分となり、カウンタ装置の消費電力を低減できる。しかし、1秒間のうち最後の1回に満たない振動に相当する誤差E2が発生し、1/8に分周しているだけ誤差が大きくなるという問題が発生する。
【0065】
図4(c)に示した実施例では、水晶振動子15の振動回数をタイマーとして用い、発振回路31と水晶振動カウンタ33の間に分周回路32を介在させた場合を示している。分周回路32の分周比率はr1=1/8とする。分周回路32を用いるため、水晶振動カウンタ33のビット数は22ビットおよび4MHz程度の低周波数駆動で十分となり、カウンタ装置の消費電力を低減できる。この場合には、分周回路32からの出力を水晶振動カウンタ33が計測して、規定回数c3に到達した時点の時間をtとしている。規定回数c3を27MHzの1/8である337万5千回に設定するとこの規定回数c3を8倍したものは、水晶振動子15の固有振動数f1であるため、時間tは約1秒となる。ここで、分周回路32を用いて振動数をカウントしているが、時間を正確に1秒測定しておらず、振動回数を基準に時間tを決定しているため、一回に満たない振動は含まれず、正確に振動回数を計測することができる。
【0066】
同時に、正確に規定回数c3を計測している時間tの間に、基準振動カウンタ38では分周回路37の出力を第1計測回数c1として計測しており、基準周波数f3と第1計測回数c1から時間tを算出できる。具体的には、c1/r2が約3200万回であり、さらにそれを基準周波数f3である32MHzで除算する。このとき、時間tの最後の1回に満たない振動によって誤差E3が生じるが、c1>>c2にすることで時間tの誤差は極めて小さいものとなる。したがって、分周回路32および分周回路37を用いて、水晶振動カウンタ33および基準振動カウンタ38の消費電力を低減しながらも、時間tを正確に算出して水晶振動子15の実際の振動周波数f2を正確に算出することができる。
【0067】
実施例のセンサ装置10において、バッテリー部12として電圧3.8V、容量60mAhのリチウムイオン電池を用い、筐体14の流路内部を水で満たした状態で測定を継続したところ、約4時間の動作時間を得られた。
【0068】
次に、水晶振動子15を収容している筐体14の構造について詳細に説明する。
図5は、筐体14の構造を示す模式図であり、
図5(a)は模式平面図であり、
図5(b)はA-A位置での模式断面図であり、
図5(c)は模式分解斜視図であり、
図5(d)は部分拡大平面図である。
図5に示すように、センサ装置10の筐体14は、裏面フィルム41と、載置板部42と、枠体部43と、カバー部44と、蓋部45を備えている。
【0069】
裏面フィルム41は、載置板部42の裏面側に貼り付けられた、載置板部42を保護するためのフィルム状の部材である。裏面フィルム41を構成する材料は限定されないが、必要に応じて樹脂フィルムや金属フィルム等を用いることができる。ここでは裏面フィルム41を載置板部42と別体で用意した例を示しているが、載置板部42の耐久性が十分に確保できる場合には裏面フィルム41を省略してもよい。
【0070】
載置板部42は、表面に水晶振動子15および枠体部43が載置され、裏面に裏面フィルム41が貼り付けられた略板状の部材である。また、水晶振動子15の電極15a、15bと電気的に接続される配線層が表面に形成されており、配線層の端部には端子部42aが設けられている。載置板部42を構成する材料は限定されず、プリント配線基板に用いられるガラスエポキシ樹脂や、プリント基板材料用液晶ポリマー材料、紙フェノール樹脂、紙エポキシ樹脂、アルミニウムおよびその合金、セラミックス、ポリイミド樹脂等を用いることができる。後述するように枠体部43をゲル状材料で構成する場合には、載置板部42としてポリイミド樹脂を用いることが好ましい。端子部42aは、筐体14を回路基板13に電気的に接続する部分であり、回路基板13上に搭載されたコネクタ部42bに篏合する形状とされている。
【0071】
枠体部43は、載置板部42上に載置されて内部に水晶振動子15を収容する空間を形成された枠状の部材である。枠体部43には、収容室43aと、試料流入路43bと、試料流出路43cとが形成されており、収容室43a内に水晶振動子15が収用される。枠体部43を構成する材料は限定されず、樹脂材料やセラミックス材料等の絶縁材料を用いることができるが、ゲル状材料で構成して載置板部42の表面に貼り付けることが好ましい。ゲル状材料で枠体部43を構成すると、載置板部42およびカバー部44との密着性が向上し、検出対象である流体の漏洩を効果的に抑制することができる。また、ゲル状材料が柔軟性を有することで、検出対象である流体を注入する際の圧力が緩和されて好ましい。本実施形態では枠体部43をゲル状材料で構成して、各部を直接貼り合わせた例を示したが、各部との間に粘着層や接着剤層を介在させてもよい。
【0072】
収容室43aは、枠体部43に設けられた略円形状の貫通孔であり、中心に水晶振動子15の表面が位置するように収容される。収容室43aの外周の一部からは試料流入路43bおよび試料流出路43cが延出して形成されている。収容室43aは、後述するように検出対象である流体(液体またはガス)が充填され、流体に含まれる検出対象が水晶振動子15に固定化されたプローブ分子に付着するための空間を構成している。
【0073】
試料流入路43bは、後述する注入口44b直下の位置から収容室43aまで連通して形成された溝であり、検出対象である流体を収容室43a内に導入する経路である。試料流出路43cは、後述する排出口44c直下の位置から収容室43aまで連通して形成された溝であり、検出対象である流体を収容室43a内から外部に排出する経路である。
【0074】
図5(a)(d)に示したように、試料流入路43bは幅が試料流出路43cよりも狭く形成されており、長さも試料流出路43cよりも短く形成されている。これにより、試料流入路43bから供給された検出対象である液体は、速やかに収容室43aに到達し、収容室43aから試料流出路43cを経て外部に排出されやすくなる。また、検出対象である流体が液体である場合には、表面張力によって液体が試料流出路43cよりも試料流入路43b側に引き寄せられ、気泡の混入を防止できる。また、試料流入路43bの断面積は試料流出路43cよりも小さいため、液体の蒸発が抑制されて収容室43a内において検出対象の濃度が高まることを防止できる。
【0075】
カバー部44は、枠体部43上に載置されるフィルム状の部材である。
図5(a)~
図5(d)に示したように、カバー部44には作業用開口部44aと、注入口44bと、排出口44cが形成されている。カバー部44を構成する材料は限定されず、樹脂フィルムや金属フィルム等を用いることができる。枠体部43をゲル状の材料で構成した場合には、枠体部43との密着性を向上させるためにポリイミドフィルムを用いることが好ましい。作業用開口部44aは、収容室43aに対応した位置に形成された開口部である。作業用開口部44aは、収容室43aと略同形状に形成されることで、カバー部44を枠体部43に貼り付けた際に、収容室43aの内部をカバー部44の上方に露出させる。注入口44bは、試料流入路43bの端部に対応する位置に形成された開口部である。排出口44cは、試料流出路43cの端部に対応する位置に形成された開口部である。
【0076】
蓋部45は、作業用開口部44aを覆ってカバー部44上に着脱自在に配置された板状の部材である。蓋部45の構成は限定されないが、フィルム状部材の下面に粘着性のゲル状材料が貼り付けられた構造を用いることが好ましい。蓋部45をカバー部44に貼り付けた状態では、作業用開口部44aが覆われて収容室43a内の空間は気密または液密に保たれ、内部から検出対象である流体が漏洩しない。蓋部45をカバー部44から取り外した状態では、作業用開口部44aが開放されて収容室43aの内部空間に対して作業者がアクセスすることが可能となる。作業用開口部44aが開放された状態では、水晶振動子15の表面も外部からアクセス可能になるため、表面に固定化されたプローブ分子を除去する作業や、表面に新たなプローブ分子を固定化する作業などを実施可能となる。したがって、着脱自在な蓋部45で作業用開口部44aを覆う構造により、センサ装置10の用途変更やメンテナンス作業を容易に行うことが可能となる。
【0077】
図5に示した筐体14を回路基板13に接続し、水晶振動子15を発振させた状態で収容室43a内に検出対象である流体を注入する。具体的には、マイクロピペッター等を用いて試料を含んだ液体を注入口44bから注入する。注入された液体は、注入口44bから試料流入路43bを経て収容室43aに充填され、収容室43aが満たされた後に試料流出路43cおよび排出口44cを経て外部に排出される。このとき、収容室43aに充填されて滞留している液体に含まれる試料がプローブ分子に付着した場合には、水晶振動子15の質量が変化するため振動周波数f2が変化する。したがって、振動周波数f2の変化によってターゲットの有無や質量を検出することができる。
【0078】
図6は、センサ装置10をバイオセンサとして用いる場合を示した模式図である。
図6(a)に示したように、センサ装置10の水晶振動子15には表面と裏面にそれぞれ電極15a、15bが形成されている。
図6(b)に示したように、表面側の電極15aに、ニュートラアビジン51を固定化し、ビオチン52aで修飾されたビオチン化DNA52の一方の鎖状構造をニュートラアビジン51に固定する。
図6(c)に示したように、塩基配列の一部を改変してビオチン化DNA52に対して相補的配列でないDNA54を収容室43aに投入しても、ビオチン化DNA52とDNA54は二重鎖を形成せず、水晶振動子15の質量は変化しないため、振動周波数f2も変化しない。それに対して
図6(d)に示したようにビオチン化DNA52に対して相補的配列であるターゲットのDNA55を収容室43aに投入すると、ビオチン化DNA52とDNA55は二重鎖を形成するため水晶振動子15の質量が変化して振動周波数f2が変化する。
【0079】
図7は、
図6に示したバイオセンサの検出結果を示すグラフである。横軸は試料を含んだ液体を収容室43aに注入してからの経過時間を示し、縦軸は水晶振動子15の振動数変化を示している。
図7では、ターゲットのDNA55を投入してからの経過を実線で示し、1塩基を変位させたDNA54を投入してからの経過を破線で示している。またグラフ中に矢印で示した時間に液体の注入を行っており、注入動作中は収容室43a内での液体の流れや圧力によって振動数に一時的な変化が生じている。
【0080】
図7に示したように1塩基を変位させたDNA54では、液体を注入してからの振動数の変化が小さい。それに対して、ターゲットのDNA55では、液体を注入した直後から振動数変化が継続しており、時間経過とともにニュートラアビジン51に固定されたプローブのビオチン化DNA52との二重鎖が増加し、水晶振動子15の質量が徐々に増加していることが確認できる。したがって、本実施形態のセンサ装置10を用いることで、選択的にターゲットであるDNA55を高精度に検出することができる。
【0081】
図8は、プローブ分子の固定化とバイオセンサとしての動作をさらに詳細に説明する工程図である。はじめに、水晶振動子15の電極15a表面に3,3-ジチオジプロピオン酸を作用させ、カルボキシル基を導入する。次に、N-ヒドロキシスクシンイミド(NNHS)と1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド(EDC)をカルボキシル基に作用させて電極15a表面に活性化エステルを形成させる。次に、ニュートラアビジンを作用させニュートラアビジンを固定する。次に、ビオチン化したDNA52をニュートラアビジンに結合させてプローブ分子を固定する。試料として相補鎖DNAが供給された場合には、プローブ分子のDNAと二重鎖を形成して水晶振動子15の振動数が変化する。一方で、試料として塩基配列の一部を変換した相補的配列でないミスマッチDNAが供給された場合には、プローブ分子のDNAと二重鎖を形成しないため、水晶振動子15の振動数は変化しない。
【0082】
図9は、既存の装置を用いたプローブ分子の固定とバイオセンサとしての動作を示すグラフであり、
図9(a)はニュートラアビジンによる修飾を示し、
図9(b)はビオチン化DNAの固定とその固定量を調節するためビオチン化DNA52の固定反応を阻害する単独のビオチン分子の追加を示し、
図9(c)は相補鎖DNAとミスマッチDNAの供給による振動数変化を示している。
図9(a)に示したように、10mg/mlの濃度のニュートラアビジンを含んだ溶液をバイオセンサ収容室内に3μl注入すると、直ちに水晶振動子15の表面にニュートラアビジンが固定化されて水晶振動子15の振動数が変化し、30~40分経過後に十分な量の固定化が完了したことがわかる。
【0083】
次に、
図9(b)に示したように、10μMのビオチン化DNA52をバイオセンサ収容室内に2.5μl注入すると、ニュートラアビジン51とビオチン化DNA52が結合して振動数が変化する。その後、1mMのビオチン分子をバイオセンサ収容室内に1μl注入すると、ニュートラアビジン51のビオチン結合部位にビオチン52aが結合してビオチン化DNA52の結合が阻害されるため振動数の変化が止まり、ビオチン化DNA52の固定量を調節することができる。
【0084】
次に、
図9(c)に示すように、バイオセンサ収容室内に10μMの相補鎖DNA55とミスマッチDNA54を時間経過とともに2.5μl、2.5μl、5μl、5μlずつ注入する。
図9(c)に実線で描いているように、ミスマッチDNA54を注入した場合にはプローブのDNAと二重鎖を形成しないため、振動数はほとんど変化していないことがわかる。それに対して破線で描いているように、相補鎖DNA55を注入した場合には、3回目の注入までは振動数が変化するが、所定量以上の注入を行っても振動数が変化しなくなっている。これは、ニュートラアビジン51に結合させたビオチン化DNA52の量よりも過剰な相補鎖DNA55が供給されても、二重鎖による相補鎖DNA55の捕捉が行われず、水晶振動子15上の質量が変化しないためである。
【0085】
上述したように、本発明のセンサ装置10では、載置板部42とカバー部44で枠体部43を挟み、枠体部43に設けられた収容室43aに水晶振動子15を載置することで、試料流入路43bと試料流出路43cを介して収容室43a内に試料を供給できるため、簡便な構造で水晶振動子15に試料を供給することができ、さらに小型化および軽量化が可能となる。
【0086】
また、水晶振動子15の振動回数を水晶振動カウンタ33で計測し、水晶振動カウンタ33が第2計測回数c2を計測した場合に、温度補償水晶発振器36の振動回数である第1計測回数c1と基準周波数f3から実際の振動周波数f2を算出するため、簡便な回路構成で正確な周波数を計測でき、小型化および軽量化が可能となる。
【0087】
(第2実施形態)
次に、本発明のセンサ装置の第2実施形態について
図10を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。
図10は、本実施形態のセンサ装置10において、水晶振動子15のプローブ分子として抗体を用い、抗原の検出を行う場合を示す模式図である。
図10に示したように本実施形態では、水晶振動子15の電極15a上に抗体61をプローブ分子として固定化する。収容室43a内に抗原62を含む液体を注入すると、プローブ分子である抗体61に抗原62が結合し、水晶振動子15質量が増加して振動数が変化する。したがって、本実施形態ではセンサ装置10で簡便に抗原検査を行うことが可能である。
【0088】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
10…センサ装置
11…ケース部
12…バッテリー部
13…回路基板
14…筐体
15…水晶振動子
15a,15b…電極
21…レギュレータ
22,36…温度補償水晶発振器
23…情報処理部
24…カウンタユニット部
25…反転増幅インバータ部
25’…波形変換インバータ部
26…無線通信部
31…発振回路
32…分周回路
33…水晶振動カウンタ
34…比較器
35,39…レジスタ
37…分周回路
38…基準振動カウンタ
41…裏面フィルム
42…載置板部
42a…端子部
42b…コネクタ部
43…枠体部
43a…収容室
43b…試料流入路
43c…試料流出路
44…カバー部
44a…作業用開口部
44b…注入口
44c…排出口
45…蓋部
51…ニュートラアビジン
52…ビオチン化DNA
52a…ビオチン
54,55…DNA
61…抗体
62…抗原