(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038748
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子並びに第二の金属粒子を主成分とする接合剤を付着させた加熱接合材、及び電子機器の接合方法
(51)【国際特許分類】
B22F 7/04 20060101AFI20230310BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20230310BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20230310BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230310BHJP
【FI】
B22F7/04 D
B22F1/02 B
B82Y30/00
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145624
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】509202237
【氏名又は名称】株式会社応用ナノ粒子研究所
(71)【出願人】
【識別番号】592025786
【氏名又は名称】株式会社日本スペリア社
(72)【発明者】
【氏名】深江 信邦
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】武田 光市
(72)【発明者】
【氏名】西田 光宏
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BA01
4K018BA02
4K018BB04
4K018BB05
4K018BC29
4K018BD04
4K018JA25
4K018KA23
(57)【要約】
【課題】金属微粒子を主成分とする焼結型接合材に於いて、接合特性や取扱い性にも優れ、且つ、安価なコストにて提供可能なシート状接合材を提供すること。
【解決手段】本発明は、板状金属からなる支持体と当該支持体の両面に、炭素数18以下のアルコール若しくは当該アルコール誘導体、又はカルボキシル基を含む化合物、若しくはその混合物を主成分とする有機物が被覆された金属ナノ粒子及び金属微粒子及び溶剤を含有する接合剤を付着させたシート状の加熱接合材を構成させることにより、接合特性や取扱い性に優れたシート状の焼結型接合材の提供を可能とした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状金属からなる支持体の両面に金属ナノ粒子又は第二の金属微粒子又はその両方を主成分とする接合剤を付着させた接合材であって、
当該板状金属の支持体の厚みが50μm未満のCu、Ag、Au、Pt、Pd、及びNiの中より選択される1種以上の金属単体若しくは合金であり、
当該指示体に付着させる金属ナノ粒子及び当該第二の金属微粒子を主成分とする接合剤の金属ナノ粒子の金属がAg及びCuの中より選択される金属単体、若しくは両方から構成される合金又はそれぞれ単体の金属の両方からなり、
当該第二の金属微粒子の金属がAg及びCuの中より選択される金属単体、若しくは両方から構成される合金又はそれぞれ単体の金属の両方からなり、
当該金属ナノ粒子は、有機物が被覆されており、その平均粒径が100nm以下であり、金属微粒子は、その平均粒径が10μm以下であること、
前記接合剤は少なくとも金属ナノ粒子及び第二の金属微粒子の一種以上及び溶剤を含有し、当該板状金属支持体の両面に前記接合剤を厚さ300μm以下で付着させて、あるいは付着させた後に乾燥させた状態としたことを特徴とする接合材。
【請求項2】
金属ナノ粒子を被覆する有機物が、炭素数18以下のアルコール若しくは当該アルコール誘導体、又はカルボキシル基を含む化合物、若しくはその混合物であることを特徴とする請求項1に記載の接合材。
【請求項3】
請求項1及び請求項2記載の接合材を用い、且つ加熱処理工程を用いて接合することを特徴とする接合方法。
【請求項4】
請求項3記載の接合方法にて接合した電気機器、電子機器、半導体部品、及び放熱部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属支持体に金属ナノ粒子と第二の金属微粒子を含有した接合剤を付着させた加熱接合材及び当該接合材を用いた接合方法、及び当該接合方法を用いて電子機器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の接合に於いて、環境負荷の高い鉛を含有したはんだ材の不使用が広まっている。
また、半導体、特にパワーモジュールと言われる電子部品では性能向上の為にチップの素材がSiからSiCやGaNに変更する試みがなされている。
そこで、耐熱性に課題のある鉛フリーはんだに代わり、AgやCuの金属ナノ粒子を用いた焼結型金属微粒子を含有した接合材が検討されている。
【0003】
しかし、AgやCuからなる金属微粒子を用いた接合材は、特に、金属ナノ粒子と高分子分散剤や溶剤とを混合したペースト状の接合材として用いられているため、被接合物への塗布する場合、塗布厚の均一性や印刷工程に於けるペーストのロスが問題となっていた。
とりわけ、印刷工程時に発生するロスは、同形状のはんだ材と大差ない量でありながら、原料となる素材が超微粒子化したAgやCuのナノ粒子であり、素材となるAgナノ粒子やCuナノ粒子は、非常に高価であるため、少量のロスでも生産コストの上昇に繋がり大きな問題となっている。
【0004】
そこで、上記課題を解決するため、導電性金属微粒子を含有し、焼結工程にて接合が可能なシート状の焼結接合用シートに関する技術が、特許文献1に開示されている。
また、特許文献2では、金属バルクからなる金属層の両面に高分子分散剤が被覆された平均一次粒径が5~500nmである金属微粒子を溶剤に分散させて当該分散液をフィルム状に成形した加熱接合材の技術が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1で開示されている技術は、導電性金属含有の焼結接合用組成物には熱分解性高分子バインダーが含有されているため、特許文献2で開示されている加熱接合材も高分子分散剤で金属微粒子を被覆しているため、接合特性、特に接合強度に課題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2019/092959号公報
【特許文献2】特開2018-103189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとしている課題】
【0007】
金属ナノ粒子等の金属微粒子を主成分とする焼結型接合材に於いて、接合特性や取扱い性にも優れ、且つ、安価なコストにて提供可能なシート状接合材を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、板状金属からなる支持体と当該支持体の両面に、炭素数18以下のアルコール若しくは当該アルコール誘導体、又はカルボキシル基を含む化合物、若しくはその混合物を主成分とする有機物が被覆された金属ナノ粒子及び金属微粒子及び溶剤を含有する接合剤を付着させたシート状の加熱接合材を構成させることにより、接合特性や取扱い性に優れたシート状の焼結型接合材の提供を可能とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接合特性や取扱い性に優れ、しかも低価格にてシート状の焼結型接合材の提供が可能となる為、SiC等素材を用いた耐熱性が求められるパワーモジュール等の半導体部品や当該部品を用いた電子機器等、また、ヒートシンク等の接合のように高い熱伝導特性が求められる接合部に広く応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシート状焼成型接合材の断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態に係るシート状焼成型接合材を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態であるシート状焼成型接合材1(以下、「シート状接合材」と称す。)は、金属支持体3の両面に金属ナノ粒子及び第二の金属微粒子の1種以上及び溶剤を含有する接合剤2(以下、「接合剤」と称す。)が付着している構造をしてなる。
【0012】
本発明のシート状接合材1に用いることが出来る金属支持体3は、平板且つ均一な厚みを有していれば良く、接合剤を両面に付着させることが出来れば、形状は限定されない。例えば、支持体に孔や、支持体表面に凹凸が存在しても、その他の加工を施しても問題は無く、メッシュ状等が例示できる。
また、使用可能な金属も、本発明の効果を有する範囲に於いて限定はされず、Cu、Ag、Au、Pt、Pd,Ni及びそれらの合金等が例示でき、コストや汎用性を考慮するとCuが好ましい。
そして、金属支持体は、上記の組成、例えばCu単体でも、Cuと他の金属の合金や、CuにNiやAu、Ag等のメッキを施したものでも良く、電子部品や半導体部品等に組み込まれる部品や製品の用途に合致した金属であれば構わない。
【0013】
一方、金属支持体3のサイズに関しては、熱伝導特性や電気伝導特性等の接合特性や接合信頼性を考慮すると、厚みに関して、本発明の効果を有する範囲に於いて特段の制限はないが、50μm未満が好ましく、製造時の作業性やコストを考慮すると、10μm~50μm未満がより好ましい。
なお、金属支持体3に孔が存在する場合やメッシュである場合は、本発明の効果を有する範囲に於いて、孔のサイズや数に関しても制限はなく、メッシュの場合も金属線の太さやメッシュの網の目の開口部のサイズに関しても制限はない。
【0014】
本発明のシート状接合材に用いることが出来る接合剤2に関して、金属ナノ粒子を被覆する有機物は炭素数が18以下のアルコール若しくは当該アルコール誘導体、又はカルボン酸、若しくはその混合物であれば、特段の制限はなく、炭素数18以下のアルコール若しくは当該アルコール誘導体、又はカルボキシル基を含む化合物、若しくはその混合物が好ましい。
また、接合剤2に用いることが出来る金属ナノ粒子の金属核となる金属に関しては、本発明の効果を有する範囲に於いて、特に制限はなく、銀及び銅が好ましく、金属ナノ粒子のサイズも本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限はないが、焼結時の温度を考慮すると、一次粒子の平均粒径が100nm以下の金属ナノ粒子が好ましい。
【0015】
そして、接合剤2に用いることが出来る第二の金属微粒子も、本発明の効果を有する範囲に於いて、元素の種類やサイズに特に制限はなく、AgやCuが例示できる。
例えば、材質が銅の場合、一次粒子の平均粒径が0.1~10μmが好ましく、0.1μm以下の場合は酸化防止や粒子の結合防止のために有機物で被覆する等の処理が必要なため、接合剤3に用いるためには処方的な制限が発生する可能性がある。
また、銀の場合も前述の銅と同様である。
【0016】
また、接合剤2に用いることが出来る溶剤は、本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限は無いが、組成に窒素や硫黄が含有しない有機溶剤が好ましく、アルコール類がより好ましい。
アルコール類として、例えば、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノ―ル、デカノールのような炭素数4~10のアルコールが好適である。
また、前述のアルコール以外では、テルペンアルコール類が好ましく、シトロネロール、イソボルニルシクロヘキサノール、カルベオール等が挙げられる。
【0017】
更に、接合剤2に用いることが出来る金属ナノ粒子と第二の金属微粒子、及び溶剤の夫々の配合比率は、本発明のシート状接合材1に加工した場合にその効果を有することが出来れば特に制限はないが、接合剤2を100とした場合、金属ナノ粒子は0質量部~90質量部、第二の金属微粒子は0質量部~80質量部、溶剤は1質量部~30質量部が夫々好ましいい範囲である。
また、接合剤2には、金属ナノ粒子、第二の金属微粒子、及び溶剤の他、本発明の効果を有する範囲に於いて、有機酸等の活性剤や酸化防止剤、粘度調整剤等を適宜配合しても構わない。
【0018】
本発明のシート状接合材1の製造方法に関して、本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限はなく、金属支持体3に接合剤2を付着させ、均一な膜厚が保持できれば良い。
例えば、厚さ30μm程度のCu箔の片面に接合剤2を30~50μmの厚みで塗布後、100℃のホットプレート上に60秒程度放置して乾燥させた後に、未塗布のCu箔反対面に同様の作業を行い、金属支持体3の両面に接合剤2を付着させて、シート状接合材1を作製することが出来る。
その際、金属支持体1の両面に付着させる接合剤2の表面は、平坦性が高いほど、焼結時の接合特性が向上するため、金属支持体3へ接合剤2を付着させる工程では、専用の冶具や装置を用いて塗布厚の均一化を図ることが好ましい。
また、金属支持体1の両面に接合剤2を付着させる場合、接合剤2にアルコール類やアセトン、トルエン、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等の有機溶剤を添加して、金属支持体1への塗布性を向上させても構わない。
【0019】
更に、本発明のシート状接合材1は焼結時に溶剤の蒸散と含有する金属粒子の焼結により厚みが焼結前と比較すると、3/10~7/10に減少することを考慮して設計・接合ずることにより、接合する電子部品の性能向上や劣化防止に繋がる。
【実施例0020】
次に、本発明のシート状接合材について、実施例を基に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(試料の作製)
1.金属支持体
市販の厚さ20μmの無酸素銅箔を準備し、10×10mmサイズに切断し、
金属支持体とした。
2.接合剤
株式会社応用ナノ粒子研究所製アルコナノ銀ペーストANP-8を用いた。
3.製法
指定のサイズに切断した銅箔の1面に、開口部が9×9mmである厚さ30μm
ステンレス製のステンシルを用いて接合剤であるアルコナノ銀ペーストANP
-8を塗布した。
次に未塗布の面が加熱面上に接触するように、100℃のホットプレート上にア
ルコナノ銀ペーストANP-8が塗布された銅箔を置き、60秒間放置後、室温
になるまで冷却する。
冷却後、未塗布の銅箔面に、ステンシルを用いてアルコナノ銀ペーストANP-
8を塗布し、その後100℃のホットプレートにて同様に乾燥させた後、冷却し、
シート状接合材試料とした。
【0021】
(シート状接合材試料の評価方法)
銅製の試験片A(サイズ:厚み2mm、直径5mm)と銅製の試験片B(サイズ:厚み2mm、直径5mm)との間に、前述の方法にて作製したシート状接合材試料を置き、日本アビオニクス社製の焼成装置(上下パルスヒートユニット接合装置)を用い、焼成温度300℃、保持時間180秒、30MPa、大気雰囲気、の条件で焼成を行い、その後、装置より取出し、室温まで冷却後、評価試料とした。
【0022】
(評価方法)
評価試料の接合強度を、A&D社製テンシロン万能試験機を用いて測定した。
その測定結果を表1に示す。
比較例として、アルコナノ銀ペーストANP-8を用いて、同様の銅試験片を接合し
た比較試料を作製して確認した。
なお、比較試料の作製条件は、以下のとおりである。
・銅試験片への塗布厚
50μm(ステンレス製ステンシルを用いて銅試験片に塗布)
・焼成条件
予備乾燥:銅試験片へアルコナノ銀ペーストANP-8を塗布後、130℃にセッ
トしたホットプレート上にて約90秒放置後、室温にて約30分間放置冷却する。
・比較試料:予備乾燥し室温まで冷却したANP-8ナノ銀ペート層の上に銅試験片
を置き、シート状接合材試料の評価方法と同条件にて焼成を行い、比較試料とした。
【0023】
評価結果を表1に示す。
【0024】
【0025】
表1より、実施例と比較例の接合強度は同等の値を示しており、実施例1は、半導体向け接合材としての機能を有していると判断できる。
また、評価試料の破断面を観察すると、実施例1及び比較例1共に焼結層で破断していることが確認された。
更に、実施例1では、評価試料の接合強度測定後の銅試験片の焼結層の付着状況を確認したところ、試験片一面にほぼ均一に付着しており、付着状態は比較例1と比較しても均一性が高いことから、被接合体の面積が広く、被接合体が大きい場合の接合にたいして、ペースト状の形状をした焼結型接合材に比べて接合品質の向上が期待でき、大面積接合に対しての適性が期待できる。