(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038763
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】免震構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230310BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230310BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
F16F15/02 N
F16F15/023 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145647
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】青山 優也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智大
(72)【発明者】
【氏名】湯川 正貴
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139BA14
2E139CA10
2E139CA30
3J048AA07
3J048AB01
3J048AD05
3J048BE03
3J048BG02
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】下部構造物と上部構造物との間の上下方向のスペースを小さくしながら固有周期を長周期化することが可能な免震構造を提供することである。
【解決手段】下部構造物2と上部構造物3との間に設けられる免震構造1であって、下部構造物2及び上部構造物3の何れか一方に固定された固定構造10と、下部構造物2及び上部構造物3の何れか他方に水平方向に移動自在に支持された可動構造20と、下部構造物2及び上部構造物3の何れか他方に一端が固定された引張材30と、固定構造10に支持されるとともに引張材30及び可動構造20に連結され、引張材30から下部構造物2及び上部構造物3の何れか他方に加えられる水平方向復元力が低減されるように、可動構造20から加えられる上下方向荷重を引張材30の引張り力に変換する変換機構40と、を有することを特徴とする免震構造1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造物と上部構造物との間に設けられる免震構造であって、
前記下部構造物及び前記上部構造物の何れか一方に固定された固定構造と、
前記下部構造物及び前記上部構造物の何れか他方に水平方向に移動自在に支持された可動構造と、
前記下部構造物及び前記上部構造物の何れか他方に一端が固定された引張材と、
前記固定構造に支持されるとともに前記引張材及び前記可動構造に連結され、前記引張材から前記下部構造物及び前記上部構造物の何れか他方に加えられる水平方向復元力が低減されるように、前記可動構造から加えられる上下方向荷重を前記引張材の引張り力に変換する変換機構と、を有することを特徴とする免震構造。
【請求項2】
前記変換機構が、
前記固定構造に回転自在に支持された定滑車と、
前記可動構造に回転自在に支持された動滑車と、を有し、
前記引張材が、他端において前記固定構造及び前記可動構造の何れか一方に固定されるとともに前記定滑車及び前記動滑車に巻回された構成である、請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記変換機構が、
一端側において前記固定構造に上下方向に傾動自在に支持され、他端側において前記引張材の他端及び前記可動構造の何れか一方に連結されるとともに、一端と他端との間において前記引張材の他端及び前記可動構造の何れか他方に連結された梃子材を有する構成である、請求項1に記載の免震構造。
【請求項4】
前記変換機構が、
一端側において前記可動構造に連結され、他端側において前記引張材の他端に連結されるとともに、前記可動構造との連結部分と前記引張材との連結部分との間において前記固定構造に上下方向に傾動自在に支持された梃子材と、
前記固定構造に回転自在に支持され、前記引張材が巻回された方向変換用滑車と、を有する構成である、請求項1に記載の免震構造。
【請求項5】
前記変換機構が、
前記固定構造に回転自在に支持され、前記可動構造に連結された第1歯竿材と噛み合う第1歯車と、
前記固定構造に回転自在に支持され、前記引張材の他端に連結された第2歯竿材と噛み合う第2歯車と、を含む歯車機構により構成されている、請求項1に記載の免震構造。
【請求項6】
前記変換機構が、
第1径部と、前記第1径部と異径または同径の第2径部とを有し、前記固定構造に支持されたシリンダと、
前記第1径部に装着されるとともに前記可動構造に連結された第1ピストンと、
前記第2径部に装着されるとともに前記引張材の他端に連結された第2ピストンと、
前記第1ピストンと前記第2ピストンとの間において前記シリンダの内部に充填された流体と、を有する構成である、請求項1に記載の免震構造。
【請求項7】
前記下部構造物及び前記上部構造物の何れか一方、前記固定構造または前記可動構造に固定された支持材と、
それぞれ前記支持材に回転自在に支持され、前記引張材の中間部分を囲うように配置された複数のローラーと、を有する、請求項1~6の何れか1項に記載の免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部構造物と上部構造物との間に設けられる免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物などの構造物において、地震の際に地面から伝達される振動を低減するために、基礎などの下部構造物と上部構造物との間に免震構造を設けるようにしたものが知られている。
【0003】
このような免震構造として、従来、下部構造物に固定された複数の斜めバーと、上部構造物に固定された複数の逆斜めバーと、斜めバーの上端に設けられた上部ケーシングと逆斜めバーの下端に設けられて上部ケーシングよりも下方に配置された下部ケーシングとに連結された引張材とを有し、下部構造物に対して上部構造物を引張材により単振り子式に支持するようにした構成のものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
免震構造は、一般的に、固有周期を長くすることで免震性能を高めることができる。上記従来の免震構造では、引張材によって構成される振り子の長さによって固有周期が決まるので、より高い免震性能を得るためには引張材をより長くする必要がある。
【0006】
しかし、上記従来の免震構造において引張材を長くするためには、下部構造物と上部構造物との間の上下方向のスペースを大きくする必要がある。そのため、建築物の1階床高さを高くしたり、基礎の底盤の位置をより深くしたりする必要があり、その分、免震構造を設置するためのコストが増加してしまうという問題点があった。
【0007】
本発明は、下部構造物と上部構造物との間の上下方向のスペースを小さくしながら固有周期を長周期化することが可能な免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成(1)の免震構造は、下部構造物と上部構造物との間に設けられる免震構造であって、前記下部構造物及び前記上部構造物の何れか一方に固定された固定構造と、前記下部構造物及び前記上部構造物の何れか他方に水平方向に移動自在に支持された可動構造と、前記下部構造物及び前記上部構造物の何れか他方に一端が固定された引張材と、前記固定構造に支持されるとともに前記引張材及び前記可動構造に連結され、前記引張材から前記下部構造物及び前記上部構造物の何れか他方に加えられる水平方向復元力が低減されるように、前記可動構造から加えられる上下方向荷重を前記引張材の引張り力に変換する変換機構と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の構成(2)の免震構造は、上記構成(1)において、前記変換機構が、前記固定構造に回転自在に支持された定滑車と、前記可動構造に回転自在に支持された動滑車と、を有し、前記引張材が、他端において前記固定構造及び前記可動構造の何れか一方に固定されるとともに前記定滑車及び前記動滑車に巻回された構成であってもよい。
【0010】
本発明の構成(3)の免震構造は、上記構成(1)において、前記変換機構が、一端側において前記固定構造に上下方向に傾動自在に支持され、他端側において前記引張材の他端及び前記可動構造の何れか一方に連結されるとともに、一端と他端との間において前記引張材の他端及び前記可動構造の何れか他方に連結された梃子材を有する構成であってもよい。
【0011】
本発明の構成(4)の免震構造は、上記構成(1)において、前記変換機構が、一端側において前記可動構造に連結され、他端側において前記引張材の他端に連結されるとともに、前記可動構造との連結部分と前記引張材との連結部分との間において前記固定構造に上下方向に傾動自在に支持された梃子材と、前記固定構造に回転自在に支持され、前記引張材が巻回された方向変換用滑車と、を有する構成であってもよい。
【0012】
本発明の構成(5)の免震構造は、上記構成(1)において、前記変換機構が、前記固定構造に回転自在に支持され、前記可動構造に連結された第1歯竿材と噛み合う第1歯車と、前記固定構造に回転自在に支持され、前記引張材の他端に連結された第2歯竿材と噛み合う第2歯車と、を含む歯車機構により構成されている構成であってもよい。
【0013】
本発明の構成(6)の免震構造は、上記構成(1)において、前記変換機構が、第1径部と、前記第1径部と異径または同径の第2径部とを有し、前記固定構造に支持されたシリンダと、前記第1径部に装着されるとともに前記可動構造に連結された第1ピストンと、前記第2径部に装着されるとともに前記引張材の他端に連結された第2ピストンと、前記第1ピストンと前記第2ピストンとの間において前記シリンダの内部に充填された流体と、を有する構成であってもよい。
【0014】
本発明の構成(7)の免震構造は、上記構成(1)~(6)において、記下部構造物及び前記上部構造物の何れか一方、前記固定構造または前記可動構造に固定された支持材と、それぞれ前記 支持材に回転自在に支持され、前記引張材の中間部分を囲うように配置された複数のローラーと、を有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、下部構造物と上部構造物との間の上下方向のスペースを小さくしながら固有周期を長周期化することが可能な免震構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る免震構造の構成を模式的に示した正面図である。
【
図2】
図1に示す免震構造の、複数のローラーを支持する支持材を可動構造に設けた変形例の構成を模式的に示した正面図である。
【
図3】
図1に示す免震構造の、免震動作を行っている状態を示した正面図である。
【
図4】
図1に示す免震構造の、上下を反転させた変形例の構成を模式的に示した正面図である。
【
図6】
図5に示す変換機構の、免震動作を行っている状態を示した正面図である。
【
図8】
図7に示す変換機構の、免震動作を行っている状態を示した正面図である。
【
図9】変換機構のさらに他の例を示す正面図である。
【
図10】
図9に示す変換機構の、免震動作を行っている状態を示した正面図である。
【
図11】変換機構のさらに他の例を示す正面図である。
【
図12】
図11に示す変換機構の、免震動作を行っている状態を示した正面図である。
【
図14】変換機構のさらに他の例を示す正面図である。
【
図15】
図14に示す変換機構の、免震動作を行っている状態を示した正面図である。
【
図16】
図5に示す免震構造の、より具体的な構成を示した正面図である。
【
図19】
図16に示す免震構造の、免震動作を行っている状態を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る免震構造について、図面を参照しつつ詳細に例示説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明の第1実施形態である免震構造1は、下部構造物2と上部構造物3との間に設けられる。免震構造1は、地面から下部構造物2を介して上部構造物3に伝達される水平方向の振動を低減することができる。
【0019】
免震構造1は、下部構造物2と上部構造物3との間に、複数配置することもできる。複数の免震構造1を下部構造物2と上部構造物3との間に配置する際の配置パターンや配置数は、適宜変更可能である。
【0020】
下部構造物2は、地面に直接または間接に固着した構造物である。上部構造物3は、下部構造物2の上方に構築された構造物である。本実施の形態では、下部構造物2は建築物の基礎であり、上部構造物3は例えばビルディング、倉庫、木造の建物などの建築物である。
【0021】
なお、下部構造物2は、地面に固着した構造物であれば、建築物の基礎に限らず、例えば建築物の下層階を構成する部分などの他の構造物であってもよい。下部構造物2を建築物の下層階を構成する部分とした場合には、上部構造物3は建築物の上層階を構成する部分である。
【0022】
免震構造1は、固定構造10、可動構造20、引張材30及び変換機構40を備えている。
【0023】
固定構造10は、下部構造物2及び上部構造物3の何れか一方に固定される。本実施形態では、固定構造10は、下部構造物2に固定されている。
【0024】
本実施形態では、固定構造10は模式的に矩形形状に示されているが、例えば鋼材等により、上部構造物3の自重や積載荷重、地震荷重、風荷重等を含む、固定構造10に伝達される荷重の組み合わせを支持可能な所定の剛性を有するように構成されていれば、その形状等は種々変更可能である。
【0025】
可動構造20は、下部構造物2及び上部構造物3の何れか他方(固定構造10が固定されていない方)に水平方向に移動自在に支持される。本実施形態では、可動構造20は、上部構造物3に水平方向に移動自在に支持されている。可動構造20は、上部構造物3に対して水平方向の何れの方向に向けても移動自在であり、上部構造物3から加えられる鉛直力を支持している。
【0026】
可動構造20は、例えば、上下方向に延びる柱状に構成された柱部20aと、柱部20aの上端部に設けられた基部20bと、柱部20aの下端部に水平方向両側に梁状に突出して設けられた可動構造端部20cとを備え、基部20bにおいて上部構造物3の下面に水平方向に移動自在に支持された構成とすることができる。この場合、可動構造20を上部構造物3に対して水平方向の何れの方向に向けても移動自在に支持するために、例えば直動転がり支承(CLB)、ローラー機構などの支持機構21を、基部20bと上部構造物3の下面との間に設けた構成とすることができる。可動構造20を上部構造物3の下面に水平方向に移動自在に支持する支持機構21としては、上記した直動転がり支承(CLB)、ローラー機構に限らず、可動構造20を上部構造物3に対して水平方向の何れの方向にも移動自在に支持することができるものであれば、種々の構成のものを用いることができる。
【0027】
可動構造20は、例えば鋼材等により、上部構造物3と免震構造1の自重や積載荷重、地震荷重、風荷重等を含む、可動構造20に伝達される荷重の組み合わせを支持可能な所定の剛性を有するように構成される。
【0028】
可動構造20は、可動構造端部20cを備えて下部構造物2及び上部構造物3の何れか他方に水平方向に移動自在に支持される構成であれば、例えばトラス構造、門型構造など、その形状ないし構成は種々変更可能である。
【0029】
引張材30は鉛直姿勢で配置され、その上端(一端)において上部構造物3の下面に固定されている。引張材30は、例えば、ロープ、ワイヤー、チェーン等の、上部構造物3と可動構造20の自重や積載荷重、地震荷重、風荷重等を含む、上部構造物3と免震構造1の自重や積載荷重、地震荷重、風荷重等を含む、引張材30に伝達される荷重の組み合わせを支持可能な引張り強度を有する紐状のものとすることができるが、鋼材等により形成された棒状のものであってもよい。本実施形態では、引張材30はロープである。地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動すると、引張材30は、当該振動により振動方向に傾動することができる。
【0030】
免震構造1は、下部構造物2及び上部構造物3の何れか一方または可動構造20に固定された支持材50と、それぞれ支持材50に回転自在に支持され、引張材30の中間部分を囲うように配置された複数のローラー51と、を有する構成とすることもできる。本実施形態では、下部構造物2に支持材50が固定され、支持材50には、引張材30を挟んで水平方向に対向して配置された2つのローラー51が回転自在に支持されている。より具体的には、支持材50は、例えば、上下方向に延びる柱状に構成された柱部50aと、柱部50aの上端部に水平方向に梁状に突出して設けられた梁部50bと、それぞれ梁部50bの上面から上方に向けて延びるとともに互いに水平方向に間隔を空けて配置された2つの支持突部50cとを備えた構成とすることができ、2つのローラー51は対応する支持突部50cに回転自在に支持される。この場合、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動すると、引張材30は、当該振動により上部構造物3と2つのローラー51との間で振り子のように振動方向に傾動するとともに、2つのローラー51よりも下部構造物2の側においては鉛直姿勢に保持される。
【0031】
図2に変形例として示すように、免震構造1は、支持材50が可動構造20に固定された構成とすることもできる。この場合、支持材50は、柱部50aを有さず、梁部50bにおいて可動構造20の柱部20aに一体に連結された構成とすることができる。
【0032】
変換機構40は、固定構造10に支持されるとともに引張材30及び可動構造20に連結され、引張材30から上部構造物3に加えられる水平方向復元力が低減されるように、可動構造20から加えられる上下方向荷重を引張材30の引張り力に変換するように構成されている。本実施形態では、変換機構40は、可動構造20から加えられる上下方向荷重を低減して引張材30の引張り力に変換するように構成されている。すなわち、変換機構40は、いわゆる倍力装置の構成を有しており、可動構造20に連結されるとともに固定構造10に対して上下方向に移動自在の第1連結部41と、引張材30の下端(他端)に連結されるとともに固定構造10に対して上下方向に移動自在の第2連結部42とを有し、第2連結部42の上下方向の変位を低減させて第1連結部41の上下方向の変位に変換することで、可動構造20から加えられる上下方向荷重を低減して引張材30の引張り力に変換するように構成されている。なお、本実施形態では、可動構造20の可動構造端部20cが第1連結部41を構成しているが、これらを別々の構成とし、可動構造端部20cが第1連結部41に連結された構成とすることもできる。また、第1連結部41は、可動構造端部20cにおいて可動構造20に連結される構成に限らず、例えば、柱部20a、柱部20aに設けた他の突出部分など、可動構造20の他の部位に連結される構成とすることもできる。
【0033】
下部構造物2に対して上部構造物3が傾くことを防止するために、例えば互いに固定構造10と可動構造20の水平方向における配置を逆とした複数の免震構造1を下部構造物2と上部構造物3との間に配置するなど、適宜の構成が設けられる。
【0034】
図3に示すように、上記構成を有する本実施形態の免震構造1は、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動すると、引張材30が当該振動によって上部構造物3と2つのローラー51との間で振動方向に傾動するとともに可動構造20が上部構造物3に対して水平方向に相対移動することで免震動作して、下部構造物2の振動が上部構造物3に伝達されることを抑制することができる。
【0035】
また、上記構成を有する本実施形態の免震構造1は、引張材30が当該振動によって上部構造物3と2つのローラー51との間で振動方向に傾動すると、引張材30の下端に連結された第2連結部42が引張材30により上方に引き上げられて下部構造物2に対して上方に変位するとともに、第2連結部42の上方への変位が変換機構40により低減されて第1連結部41の上方への変位に変換され、第1連結部41に連結された可動構造20が下部構造物2に対して上方に変位することになる。このとき、変換機構40を、可動構造20の下部構造物2に対する上方への変位量をyとしたときに、第2連結部42の下部構造物2に対する上方への変位量がαyとなる変換倍率α(α>1)で変位の変換を行う構成のものとし、下部構造物2の上部構造物3に対する水平方向の振動の振幅をxとし、ローラー51と上部構造物3との間の上下方向の距離をhとし、鉛直方向に対して引張材30がなす角度をθとし、上部構造物3の重量をmg、可動構造20が支持する上下方向の荷重(圧縮力)をFとすると、引張材30に加わる引張り力はF/αとなるので、上下方向の力のつり合いから、mg+(F/α)×cosθ-F=0となり、Fは以下の(式1)となる。
【0036】
[数式]
F={α/(α-cosθ)}×mg (式1)
【0037】
また、引張材30によるローラー51と上部構造物3との間の部分における、水平方向の復元力Fhは、Fh=(F/α)×sinθであるので、これに(式1)を代入すると、復元力Fhは以下の(式2)となる。
【0038】
[数式]
Fh=mgsinθ/(α-cosθ) (式2)
【0039】
sinθ=x/(x2+h2)1/2、cosθ=h/(x2+h2)1/2を用いて(式2)を整理すると、復元力Fhは以下の(式3)となる。
【0040】
[数式]
Fh=mg/{α(1+(h/x)2)1/2-(h/x)} (式3)
【0041】
x>>hのとき、h/x→0となるので、(式3)において、復元力Fhはmg/αに収束する。このとき、下部構造物2の上部構造物3に対する水平剛性kは、k=Fh/x=mg/αxとなるので、下部構造物2の上部構造物3に対する水平方向の固有周期Tは、T=2π(m/k)1/2=2π(αx/g)1/2となる。したがって、水平方向の振動に対する免震構造1の固有周期Tは、変換機構40を用いることなく可動構造20の変位と第2連結部42の変位が同一となる構造に対してα1/2倍(α>1)となる。なお、固有周期Tの倍率は、変換機構40の変換倍率αを変更することで、種々変更することができる。
【0042】
このように、本実施形態の免震構造1では、下部構造物2に固定された固定構造10と、上部構造物3に水平方向に移動自在に支持された可動構造20と、上部構造物3に一端が固定された引張材30と、固定構造10に支持されるとともに引張材30及び可動構造20に連結され、引張材30から上部構造物3に加えられる水平方向復元力が低減されるように、可動構造20から加えられる上下方向荷重を引張材30の引張り力に変換するように構成された変換機構40と、を有する構成としたので、免震動作の際の免震構造1の固有周期を長周期化することができる。
【0043】
また、上記構成を有する本実施形態の免震構造1では、免震動作の際の免震構造1の固有周期を長周期化することができるので、下部構造物2と上部構造物3との間の上下方向のスペースを拡大するために、建築物の1階床高さを高くしたり、基礎の底盤の位置をより深くしたりすることを不要として、免震構造1を設置するためのコストを低減することができる。
【0044】
このように、本実施形態の免震構造1によれば、設置コストを高めることなく、固有周期を長周期化して免震構造1の免震性能を高めることができる。
【0045】
図4に示すように、免震構造1は、
図1に記載のものに対して上下を反転させた構成、すなわち固定構造10を上部構造物3の下面に固定し、可動構造20を下部構造物2の上面に水平方向に移動自在に支持させ、引張材30の一端を下部構造物2の上面に固定した構成とすることができる。この場合においても、変換機構40は固定構造10に支持され、第2連結部42の上下方向の変位を低減させて第1連結部41の上下方向の変位に変換することで、可動構造20から加えられる上下方向荷重を低減して引張材30の引張り力に変換するように構成される。このように上下を反転させた
図4に示す構成においても、
図1に示す構成の場合と同様に、免震構造1の固有周期を、変換機構40を用いることなく可動構造20の変位と第2連結部42の変位が同一となる構造に対してα
1/2倍(α>1)とすることができる。
【0046】
また、
図4に示す上下を反転させた構成においても、
図2に示す変形例と同様に、支持材50を可動構造20に固定された構成とすることもできる。
【0047】
変換機構40としては、固定構造10に支持されるとともに引張材30及び可動構造20に連結され、可動構造20から加えられる上下方向荷重を低減して引張材30の引張り力に変換するように構成されたものであれば、種々の構成のものを用いることができる。以下に、変換機構40の具体的な構成について説明する。
【0048】
図5に一例として示すように、変換機構40は、固定構造10に回転自在に支持された定滑車60と、可動構造20に回転自在に支持された動滑車61と、を有し、引張材30が、他端において固定構造10及び可動構造20の何れか一方に固定されるとともに定滑車60及び動滑車61に巻回された構成とすることができる。
図5に示す場合では、引張材30は、動滑車61、定滑車60、動滑車61の順にかけ渡された後、その他端が固定構造10に固定されている。これにより、変換機構40の変換倍率αは3となっている。変換機構40の変換倍率αは、引張材30の定滑車60及び動滑車61への巻回数を変更することで、種々変更することができる。
【0049】
固定構造10は、例えば、上下方向に延びる柱状に構成された柱部10aと、柱部10aの上端部に水平方向に梁状に突出して設けられた固定構造端部10bと、固定構造端部10bから下方に延びる滑車支持部10cとを備え、柱部10aの下端において下部構造物2の上面に固定され、滑車支持部10cにおいて定滑車60を回転自在に支持するとともに引張材30の他端が滑車支持部10cに固定される構成とすることができる。また、可動構造20は、可動構造端部20cに第1連結部41が上方に向けて突出する姿勢で固定され、第1連結部41において動滑車61を回転自在に支持する構成とすることができる。この場合、第2連結部42は、引張材30の、ローラー51と動滑車61との間の部分と動滑車61に巻回された部分との境界部分となる。
【0050】
このような構成の変換機構40は、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動し、引張材30が当該振動によって上部構造物3と2つのローラー51との間で振動方向に傾動すると、
図6に示すように、引張材30が上方に引かれて動滑車61が定滑車60に接近するように移動することで、可動構造20が第1連結部41とともに動滑車61により引き上げられて下部構造物2に対して上方に変位する。このとき、第1連結部41ないし可動構造20の下部構造物2に対する上方への変位量をyとすると、第2連結部42の上方への変位量すなわち引張材30の2つのローラーと動滑車61との間の部分の上方への変位量は、yに変換機構40の変換倍率αを乗じたαy(α>1)となる。したがって、
図5に示す変換機構40を用いた免震構造1の水平方向の振動に対する固有周期は、
図1に示す構成において説明したのと同様に、変換機構40を用いない構造に対してα
1/2倍(α>1)となる。よって、このような構成の変換機構40を備えた免震構造1によれば、免震動作の際の免震構造1の固有周期を長周期化することができる。また、免震構造1の固有周期の倍率は、変換機構40の引張材30の定滑車60及び動滑車61への巻回数を変更することで種々変更することができる。
【0051】
また、
図5に示す構成によれば、変換機構40を小型で大きな変換倍率を有する構成とすることができる。これにより、変換機構40をより安価なものとするとともに、免震構造1の設置スペースをより低減して、免震構造1を設置するためのコストをさらに低減することができる。
【0052】
図7に他の例として示すように、変換機構40は、一端側において固定構造10に上下方向に傾動自在に支持され、他端側において引張材30の他端及び可動構造20の何れか一方に連結されるとともに、一端と他端との間において引張材30の他端及び可動構造20の何れか他方に連結された梃子材62を有する構成とすることもできる。本実施形態では、引張材30の他端が梃子材62の他端に連結され、可動構造20の他端が、梃子材62の一端と他端との中央部分よりも一端側に連結されている。この場合、梃子材62の固定構造10に支持される部分と可動構造20に連結される部分との間の水平方向の距離を1とし、梃子材62の固定構造10に支持される部分と引張材30に連結される部分との間の水平方向の距離をα(α>1)とすると、変換機構40の変換倍率はαとなる。変換機構40の変換倍率αは、梃子材62に対する可動構造20及び引張材30の連結位置を変更することで、種々変更することができる。
【0053】
梃子材62は、例えば鋼材等により、上部構造物3と免震構造1の自重や積載荷重、地震荷重、風荷重等を含む、梃子材62に伝達される荷重の組み合わせを支持可能な所定の剛性を有するように構成される。固定構造10は、梃子材62を上下方向に傾動可能に支持する構成とされる。可動構造20は、例えばユニバーサルジョイントなどの連結機構63を用いて梃子材62に傾動自在に連結される。この場合、梃子材62の可動構造20との連結部分が第1連結部41となり、梃子材62の引張材30との連結部分が第2連結部42となる。
【0054】
図7に示す構成の変換機構40は、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動し、引張材30が当該振動によって上部構造物3と2つのローラー51との間で振動方向に傾動すると、
図8に示すように、梃子材62の引張材30に連結された部分が引張材30により上方に引かれて、梃子材62は固定構造10を支点として引張材30との連結部分が上方に移動するように傾動する。このとき、梃子材62の可動構造20に連結された第1連結部41の下部構造物2に対する上方への変位量すなわち可動構造20の上方への変位量をyとすると、梃子材62の引張材30に連結された第2連結部42の上方への変位量は、yに変換機構40の変換倍率αを乗じたαy(α>1)となる。したがって、
図7に示す変換機構40を用いた免震構造1の水平方向の振動に対する固有周期は、
図1に示す構成において説明したのと同様に、変換機構40を用いない構造に対してα
1/2倍(α>1)となる。よって、このような構成の変換機構40を備えた免震構造1によれば、免震動作の際の免震構造1の固有周期を長周期化することができる。また、免震構造1の固有周期の倍率は、梃子材62に対する可動構造20及び引張材30の連結位置を変更することで種々変更することができる。
【0055】
また、
図7に示す構成によれば、変換機構40を簡素な構成とすることができる。これにより、変換機構40をより安価なものとすることができる。
【0056】
図9にさらに他の例として示すように、変換機構40は、梃子材62が、一端側において可動構造20に連結され、他端側において引張材30の他端に連結されるとともに、可動構造20との連結部分と引張材30との連結部分との間において固定構造10に上下方向に傾動自在に支持されるとともに、固定構造10に回転自在に支持されるとともに引張材30が巻回された方向変換用滑車64を有する構成とすることもできる。本実施の形態では、梃子材62は、可動構造20との連結部分と引張材30との連結部分との中央位置よりも可動構造20との連結部分の側において固定構造10に上下方向に傾動自在に支持され、方向変換用滑車64は梃子材62よりも下部構造物2の側に配置されている。この場合においても、梃子材62の固定構造10に支持される部分と可動構造20に連結される部分との間の水平方向の距離を1とし、梃子材62の固定構造10に連結される部分と引張材30に連結される部分との間の水平方向の距離をα(α>1)とすると、変換機構40の変換倍率はαとなる。変換機構40の変換倍率αは、梃子材62に対する可動構造20及び引張材30の連結位置を変更することで、種々変更することができる。
【0057】
この場合においても、梃子材62は、例えば鋼材等により、上部構造物3と免震構造1の自重や積載荷重、地震荷重、風荷重等を含む、梃子材62に伝達される荷重の組み合わせを支持可能な所定の剛性を有するように構成される。固定構造10は、柱部10aの上端に、例えばユニバーサルジョイントなどの連結機構65が設けられ、この連結機構65により梃子材62を上下方向に傾動可能に支持する構成とすることができる。可動構造20は、
図7に示す場合と同様に、例えばユニバーサルジョイントなどの連結機構63を用いて梃子材62に傾動自在に連結される。方向変換用滑車64は、例えば下部構造物2に固定された滑車支持材66に回転自在に支持された構成とすることができる。引張材30は、滑車支持材66に巻回されて延在方向が上下反転されて下部構造物2の側から梃子材62に連結される。この場合においても、梃子材62の可動構造20との連結部分が第1連結部41となり、梃子材62の引張材30との連結部分が第2連結部42となる。
【0058】
図9に示す構成の変換機構40は、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動し、引張材30が当該振動によって上部構造物3と2つのローラー51との間で振動方向に傾動すると、
図10に示すように、梃子材62の引張材30に連結された部分が、方向変換用滑車64により移動方向が反転された引張材30により下方に引かれて、梃子材62は、固定構造10を支点として引張材30との連結部分が下方に移動するとともに可動構造20との連結部分が上方に移動するように傾動する。このとき、梃子材62の可動構造20に連結された第1連結部41の下部構造物2に対する上方への変位量すなわち可動構造20の上方への変位量をyとすると、梃子材62の引張材30に連結された第2連結部42の下方への変位量は、yに変換機構40の変換倍率αを乗じたαy(α>1)となる。したがって、
図9に示す変換機構40を用いた免震構造1の水平方向の振動に対する固有周期は、
図1、
図7に示す構場合と同様に、変換機構40を用いない構造に対してα
1/2倍(α>1)となる。よって、このような構成の変換機構40を備えた免震構造1によれば、免震動作の際の免震構造1の固有周期を長周期化することができる。また、免震構造1の固有周期の倍率は、梃子材62を支持する固定構造10の水平方向位置、あるいは梃子材62に対する可動構造20及び引張材30の連結位置を変更することで種々変更することができる。
【0059】
また、
図9に示す構成によれば、変換機構40を簡素な構成とすることができる。これにより、変換機構40をより安価なものとすることができる。
【0060】
図11にさらに他の例として示すように、変換機構40は、固定構造10に回転自在に支持され、可動構造20に連結された第1歯竿材69と噛み合う第1歯車67と、固定構造10に回転自在に支持され、引張材30の他端に連結された第2歯竿材70と噛み合う第2歯車68と、を含む歯車機構により構成されたものとすることもできる。第1歯竿材69は、棒状の部材の側面に第1歯車67と噛み合う複数の歯69aが直線状に並べて設けられたものであり、第2歯竿材70は、棒状の部材の側面に第2歯車68と噛み合う複数の歯70aが直線状に並べて設けられたものである。本実施形態では、第1歯車67と第2歯車68とは、互いに同軸且つ一体に回転するように構成されており、また、第2歯車68の歯数は第1歯車67より多くなっている。この場合、第1歯車67と第1歯竿材69との噛み合いの減速比を1とし、第2歯車68と第2歯竿材70との噛み合いの減速比をα(α>1)とすることで、変換機構40の変換倍率はαとされている。変換機構40の変換倍率αは、第1歯車67と第1歯竿材69との噛み合いの減速比及び第2歯車68と第2歯竿材70との噛み合いの減速比の少なくとも何れか一方を変更することで、種々変更することができる。
【0061】
第1歯車67、第2歯車68、第1歯竿材69及び第2歯竿材70は、それぞれ、例えば鋼材等により、上部構造物3と免震構造1の自重や積載荷重、地震荷重、風荷重等を含む、変換機構40に伝達される荷重の組み合わせを支持可能な所定の剛性を有するように構成される。固定構造10は、柱部10aの上端側部分において第1歯車67及び第2歯車68を回転自在に支持する構成とすることができる。可動構造20は、可動構造端部20cにおいて第1歯竿材69に連結された構成とすることができるが、可動構造20の他の部分において第1歯竿材69に連結された構成とすることもできる。この場合、可動構造20の第1歯竿材69に連結される可動構造端部20cが第1連結部41を兼ね、第2歯竿材70の引張材30との連結部分が第2連結部42となる。
【0062】
図11に示す構成の変換機構40は、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動し、引張材30が当該振動によって上部構造物3と2つのローラー51との間で振動方向に傾動すると、
図12に示すように、引張材30に連結された第2歯竿材70が引張材30により上方に引かれることで第2歯車68が回転するとともに、第2歯車68と一体に第1歯車67が回転することで第1歯竿材69が上方に移動して可動構造20が上方に変位する。このとき、第1歯竿材69に連結された第1連結部41の下部構造物2に対する上方への変位量すなわち可動構造20の上方への変位量をyとすると、引張材30に連結された第2歯竿材70の第2連結部42の上方への変位量は、yに変換機構40の変換倍率αを乗じたαy(α>1)となる。したがって、
図11に示す変換機構40を用いた免震構造1の水平方向の振動に対する固有周期は、
図1、
図7、
図9に示す構場合と同様に、変換機構40を用いない構造に対してα
1/2倍(α>1)となる。よって、このような構成の変換機構40を備えた免震構造1によれば、免震動作の際の免震構造1の固有周期を長周期化することができる。また、免震構造1の固有周期の倍率は、第1歯車67と第1歯竿材69との噛み合いの減速比及び第2歯車68と第2歯竿材70との噛み合いの減速比の少なくとも何れか一方を変更することで種々変更することができる。
【0063】
また、
図11に示す構成によれば、変換機構40を小型で大きな変換倍率を有する構成とすることができる。これにより、変換機構40をより安価なものとするとともに、免震構造1の設置スペースをより低減して、免震構造1を設置するためのコストをさらに低減することができる。
【0064】
図13に示すように、変換機構40を構成する歯車機構は、第1歯車67と第2歯車68とを、それぞれ互いに平行な別々の軸で固定構造10に回転自在に支持されるとともに互いに噛み合わせた構成とすることもできる。また、変換機構40を構成する歯車機構は、第1歯車67と第2歯車68との間に更に他の歯車を設けて、3つ以上の歯車が噛み合う構成としてもよい。
【0065】
図14にさらに他の例として示すように、変換機構40は、第1径部71aと、第1径部71aと異径または同径の第2径部71bとを有し、固定構造10に支持されたシリンダ71と、第1径部71aに装着されるとともに可動構造20に連結された第1ピストン72と、第2径部71bに装着されるとともに引張材30の他端に連結された第2ピストン73と、第1ピストン72と第2ピストン73との間においてシリンダ71の内部に充填された流体74と、を有する構成とすることもできる。本実施形態では、第1径部71aは第2径部71bよりも大径となっている。この場合、第2径部71bの内径ないし第2ピストン73の外径を1とし、第1径部71aの内径ないし第1ピストン72の外径をα(α>1)とすることで、変換機構40の変換倍率はαとされている。変換機構40の変換倍率αは、第2径部71bの内径ないし第2ピストン73の外径及び第1径部71aの内径ないし第1ピストン72の外径の少なくとも何れか一方を変更することで、種々変更することができる。
【0066】
シリンダ71、第1ピストン72及び第2ピストン73は、それぞれ、例えば鋼材等により、上部構造物3と免震構造1の自重や積載荷重、地震荷重、風荷重等を含む、変換機構40に伝達される荷重の組み合わせを支持可能な所定の剛性を有するように構成される。固定構造10は、柱部10aの上端に設けられた固定構造端部10bにおいてシリンダ71を支持する構成とすることができるが、固定構造10の他の部分でシリンダ71を支持する構成とすることもできる。可動構造20は、柱部20aの下端部において第1ピストン72に一体に連結された構成とすることができる。この場合、可動構造20の第1ピストン72に連結される柱部10aが第1連結部41を兼ねることになる。なお、可動構造20は、可動構造20の他の部分において第1ピストン72に連結された構成とすることもできる。第2ピストン73は、第2連結部42が一体に設けられ、第2連結部42において引張材30は連結される構成とすることができるが、引張材30を連結するための部分を有する他の形状のものであってもよい。また、流体74としては、油、水等の液体、空気等の気体など、種々の流体を用いることができる。
【0067】
図14に示す構成の変換機構40は、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動し、引張材30が当該振動によって上部構造物3と2つのローラー51との間で振動方向に傾動すると、
図15に示すように、引張材30に連結された第2ピストン73が引張材30により上方に引かれることで上方に変位するとともに、第2ピストン73の上方への変位が流体74を介して伝達されて第1ピストン72が上方に移動して可動構造20が上方に変位する。このとき、第1連結部41ないし第1ピストン72の下部構造物2に対する上方への変位量すなわち可動構造20の上方への変位量をyとすると、引張材30に連結された第2連結部42ないし第2ピストン73の上方への変位量は、yに変換機構40の変換倍率αを乗じたαy(α>1)となる。したがって、
図14に示す変換機構40を用いた免震構造1の水平方向の振動に対する固有周期は、
図1、
図7、
図9、
図11に示す構場合と同様に、変換機構40を用いない構造に対してα
1/2倍(α>1)となる。よって、このような構成の変換機構40を備えた免震構造1によれば、免震動作の際の免震構造1の固有周期を長周期化することができる。また、免震構造1の固有周期の倍率は、第2径部71bの内径ないし第2ピストン73の外径及び第1径部71aの内径ないし第1ピストン72の外径の少なくとも何れか一方を変更することで種々変更することができる。
【0068】
また、
図14に示す構成によれば、変換機構40を小型で大きな変換倍率を有する構成とすることができる。これにより、変換機構40をより安価なものとするとともに、免震構造1の設置スペースをより低減して、免震構造1を設置するためのコストをさらに低減することができる。
【0069】
図16、
図17、
図18に、下部構造物2に対して上部構造物3を安定して水平方向に移動自在に支持する構成の一例を示す。
図16は、
図5に示す免震構造1の、より具体的な構成を示した正面図であり、
図17は、
図16に示す免震構造1の側面図であり、
図18は、
図16におけるA-A線に沿う断面図である。また、
図19は、
図16に示す免震構造1の、免震動作を行っている状態を示した正面図である。なお、
図16~
図19においては、前述した部材に対応する部材に同一の符号を付してある。
【0070】
図1に記載の免震構造1は免震効果を生じる最小構成であり、下部構造物2に対して上部構造物3を傾かせることなく水平方向に移動自在に支持する構成としては不安定であるので、下部構造物2に対して上部構造物3を安定して水平方向に移動自在に支持することができる構成が必要である。
【0071】
図16、
図17、
図18に示す免震構造1は、固定構造10として、4本の柱部10aの上端部を4本の固定構造端部10bで接続した架台状の構成のものを用いるとともに、可動構造20として、4本の柱部20aの下端部を4本の可動構造端部20cと十字状に組んだ2本の可動構造端部20cとで接続するとともに、4本の柱部20aの上端部を4本の基部20bで接続した構成のものを用いている。固定構造10及び可動構造20は、それぞれ平面視で正方形状となっており、固定構造10の内側に可動構造20が同軸に配置されている。
【0072】
固定構造10の4本の柱部10aには、それぞれ支持部材75に回転自在に支持された2つのガイドローラー76が、上下に間隔を空けて内向きに取り付けられている。これらのガイドローラー76は、それぞれ可動構造20の柱部20aの外周面に当接している。これにより、後述する定滑車60に対する動滑車61の水平方向への移動が拘束されるとともに、可動構造20は、ガイドローラー76に案内されて、固定構造10に対して傾くことなく鉛直方向に沿って相対移動可能となっている。
【0073】
支持材50は、十字状に組んだ4本の梁部50bを有し、これらの梁部50bが固定構造端部10bに連結されて固定構造10の上端部に固定されている。それぞれの梁部50bには支持突部50cが固定され、これらの支持突部50cに回転自在に支持された4つのローラー51が引張材30を挟んで2つずつ互いに対向して配置されている。したがって、下部構造物2に対して上部構造物3が水平方向の何れの方向に相対移動した場合であっても、引張材30が何れかのローラー51に支持されることで、引張材30の上部構造物3とローラー51との間の部分は上部構造物3に対して傾動することができる。
【0074】
図16、
図17、
図18に示す免震構造1では、可動構造20を上部構造物3に水平方向に移動自在に支持する支持機構21として直動転がり支承(CLB)を用いるようにしている。この場合、支持機構21は、基部20bの上面に互いに平行に固定された2本の下側ガイドレール21aと、上部構造物3の下面に下側ガイドレール21aに対して直交する姿勢で固定された2本の上側ガイドレール21bと、それぞれ対応する下側ガイドレール21aと上側ガイドレール21bとにスライド移動自在に装着された2つのスライダ21cとを有しており、スライダ21cが下側ガイドレール21a及び上側ガイドレール21bに沿って移動することで、可動構造20が上部構造物3に対して水平方向の何れの方向にも移動することができるようになっている。
【0075】
また、
図16、
図17、
図18示す免震構造1では、変換機構40として、
図5に示す変換機構40と同様に、定滑車60と動滑車61とを有する構成のものが用いられている。より具体的には、変換機構40は、ワイヤーや柱材で構成された吊り材77により支持材50から吊り下げられた滑車支持部10cを備え、滑車支持部10cには3つの定滑車60が回転自在に支持されている。また、変換機構40は、ワイヤーや柱材で構成された連結材78により可動構造端部20cに連結された第1連結部41を備えている。この場合、第1連結部41は滑車支持部としての機能を有し、3つの動滑車61を回転自在に支持している。引張材30は、定滑車60と動滑車61とに交互に巻回され、3つの定滑車60及び動滑車61に巻回された後、その他端は滑車支持部10cに設けられた固定部79に固定されている。
【0076】
図16、
図17、
図18に示す免震構造1の構成においても、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動すると、
図19に示すように、引張材30が当該振動によって上部構造物3と4つのローラー51との間で振動方向に傾動するとともに可動構造20が上部構造物3に対して水平方向に相対移動することで免震動作して、下部構造物2の振動が上部構造物3に伝達されることを抑制することができる。また、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動すると、
図19に示すように、引張材30が上方に引かれて動滑車61が定滑車60に接近するように移動することで、可動構造20が動滑車61により引き上げられて下部構造物2に対して上方に変位する。このとき、可動構造20の下部構造物2に対する上方への変位量がyであるのに対し、引張材30の4つのローラー51と動滑車61との間の部分の上方への変位量は、yに変換機構40の変換倍率αを乗じたαy(α>1)となるので、免震構造1の水平方向の振動に対する固有周期は、
図1に示す構成において説明したのと同様に、変換機構40を用いない構造に対してα
1/2倍(α>1)となる。よって、このような構成の変換機構40を備えた免震構造1においても、免震動作の際の免震構造1の固有周期を長周期化することができる。
【0077】
また、
図16、
図17、
図18に示す免震構造1の構成によれば、固定構造10及び可動構造20が、それぞれ下部構造物2ないし上部構造物3に確実に支持されるとともに固定構造10に対する可動構造20の傾動が拘束されるので、下部構造物2に対して上部構造物3を傾かせることなく安定して水平方向に移動自在に支持することができる。さらに、
図16、
図17、
図18に示す免震構造1の構成によれば、固定構造10は、4本の柱部10aの上端部が、4本の固定構造端部10bによって接続された箱型の構成となるので、固定構造10の剛性を高めて、変換機構40を確実に支持させることができる。
【0078】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0079】
1 免震構造
2 下部構造物
3 上部構造物
10 固定構造
10a 柱部
10b 固定構造端部
10c 滑車支持部
20 可動構造
20a 柱部
20b 基部
20c 可動構造端部
21 支持機構
21a 下側ガイドレール
21b 上側ガイドレール
21c スライダ
30 引張材
40 変換機構
41 第1連結部
42 第2連結部
50 支持材
50a 柱部
50b 梁部
50c 支持突部
51 ローラー
60 定滑車
61 動滑車
62 梃子材
63 連結機構
64 方向変換用滑車
65 連結機構
66 滑車支持材
67 第1歯車
68 第2歯車
69 第1歯竿材
70 第2歯竿材
71 シリンダ
71a 第1径部
71b 第2径部
72 第1ピストン
73 第2ピストン
74 流体
75 支持部材
76 ガイドローラー
77 吊り材
78 連結材
79 固定部