(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038764
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】エンジンの燃料噴射制御方法および装置
(51)【国際特許分類】
F02D 43/00 20060101AFI20230310BHJP
【FI】
F02D43/00 301M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145650
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 敦寛
(72)【発明者】
【氏名】小黒 龍一
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384EA26
3G384FA01Z
3G384FA08Z
3G384FA56Z
(57)【要約】
【課題】
吸気マニホールド内の空気量を基にしてエンジンに供給される燃料に混合される時の空気量を推定する燃料噴射量を制御する方法において、エンジンに要求されるトルクが急変しても理想的な空燃比を保つことを可能にする。
【解決手段】
スロットル5とシリンダー2とをつなぐ吸気マニホールド6内に設置した吸気マニホールド圧力センサ7により検知した圧力値から算出した吸気マニホールド6内の空気量と吸気マニホールド6内の圧力変化とから実際に制御しているスロットル通過空気量を算出するとともに、前記算出された吸気マニホールド6内の空気量と算出されたスロットル通過空気量から実際に燃料が混合される時のシリンダー吸入空気量を予測し、この予測したシリンダー吸入空気量に応じて燃料を噴射する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットルとシリンダーとをつなぐ吸気マニホールド内に設置した圧力センサにより検知した圧力値から算出した前記吸気マニホールド内の空気量と前記吸気マニホールド内の圧力変化とから実際に制御しているスロットル通過空気量を算出するとともに、前記算出された吸気マニホールド内の空気量と前記算出されたスロットル通過空気量から実際に燃料が混合される時のシリンダー吸入空気量を予測し、この予測したシリンダー吸入空気量に応じて燃料を噴射することを特徴とするエンジンの燃料噴射制御方法。
【請求項2】
前記実際に燃料が混合される時のシリンダー吸入空気量を求める過程で、ローパスフィルタで処理した吸気マニホールド内の圧力指令値を用いることを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料噴射制御方法。
【請求項3】
前記吸気マニホールド内に設置した圧力センサから検知した圧力値から吸気マニホールド内の空気量を、以下の数式を使用して算出することを特徴とする請求項1または2に記載したエンジンの燃料噴射制御方法。
【数1】
(但し、Qaはマニホールド内の空気量、Kcは充填効率補正係数、ωはエンジン回転数、Vcはシリンダー内体積、Rは気体定数、Tmはマニホールド内温度、Pmはマニホールド内圧力)
【請求項4】
前記吸気マニホールド内の空気量からスロットルとシリンダーをつなぐ吸気マニホールド内の圧力変化を、以下の数式を使用して算出することを特徴とする請求項1,2または3に記載したエンジンの燃料噴射制御方法。
【数2】
(但し、Vmはマニホールド内体積、Rは気体定数、Tmはマニホールド内温度、Pmはマニホールド内圧力、Qaはマニホールド内の空気量、Qtはスロットル通過空気量)
【請求項5】
前記算出された吸気マニホールド内の空気量と前記算出された吸気マニホールド内の圧力の変化から実際に制御しているスロットル通過空気量を、以下の数式を使用して算出することを特徴とする請求項1,2,3または4に記載したエンジンの燃料噴射制御方法。
【数3】
【請求項6】
燃料噴射制御方法実行用プログラムが記憶手段に記憶されており、吸気マニホールド内に設置した圧力センサにより検知した圧力信号が入力され、前記燃料噴射信号を生成してインジェクタに出力することにより、請求項1,2,3,4または5に記載したエンジンの燃料噴射制御方法を実行することを特徴とするエンジンの燃料噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに供給する燃料と空気との比率(空燃比)を一定に保持するために必要な燃料噴射量を制御する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃費や回転性能の向上を図る目的で高精度にエンジンの制御を行うために、燃料と空気との比率(空燃比)を適切に混合して適切な燃料噴射量をエンジンに供給することが行われている。
【0003】
このエンジンの燃料噴射制御方法発明は、車両の燃費や走行性能の向上を図る目的で、エンジン制御を高精度に行うために、スロットルを運転者のアクセル操作により機械的に開閉動作させる代わりに、電子式制御システムを用いて電子的に開閉動作させる電子制御スロットル制御装置が普及しており、例えば特開平5-240073号公報、特開2008-38872号公報などに記載されている。
【0004】
そして、適切な空燃比により燃料噴射量を制御する手段として、吸気マニホールド内に設置した圧力センサから検知した圧力値から算出した吸気マニホールド内の空気量を基にしてエンジンに供給される燃料に混合される時の空気量を推定することで、適切な燃料噴射量を制御する手段が知られており、例えば、特表2001-521095公報などに提示されている。
【0005】
この公報などに提示されている燃料噴射量を制御する手段は、
図1に示したように、エンジン1のシリンダー2内にフィルタ3を介して空気を供給する吸気管4にスロットル5が備えられているとともに、前記各シリンダー2と吸気管4との間に配置される吸気マニホールド6内に設置された吸気マニホールド6内の圧力を検知する吸気マニホールド圧力センサ7が備えられており、例えばアクセル8からの開度信号を基にして燃料噴射制御方法実行用プログラムが記憶手段に記憶されているECU(電子制御ユニット)9においてスロットル5の開度を算出した開度信号をスロットル5に送信して所定の開度に開放させる。
【0006】
そして、前記開放したスロットル5を通過した空気は吸気マニホールド6内に送られるので、吸気マニホールド圧力センサ7で検知した吸気マニホールド6内の圧力値から吸気マニホールド6内の空気量を算出するとともに前記ECU9で最適な空燃比を算出し、その値から必要な燃料量を算出して、例えばエンジン1に備えたクランク角センサ12からの信号などを用いて検知した運転状態に基づいて燃料を各シリンダー2の近傍に配置されたインジェクタ10から噴射することで、前記吸気管4から送られる空気と燃料が混合して各シリンダー2内に送られ、点火プラグ11により点火されてエンジンが回転するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-240073号公報
【特許文献2】特開2008-38872号公報
【特許文献3】特表2001-521095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記従来の吸気マニホールド内の空気量を基にしてエンジンに供給される燃料に混合される時の空気量を推定することで燃料噴射量を制御する手段は、吸気マニホールド内に設置した圧力センサにより検知した圧力値から算出したものであり、例えば搭載されている車両が急に加速或いは減速したときのようにエンジンに要求されるトルクに急激な変化が必要な時、つまり、前記
図1に示した吸気管4の吸気マニホールド6の上流に位置するスロットル5の通過空気量が急激に変化するとその下流に位置する吸気マニホールド6内の空気量との間に差異が生じることになり、吸気マニホールド6内の空気量に応じた燃料噴射では、実際の空気量に対して燃料が薄かったり濃かったりする、という問題があった。
【0009】
本発明は前記従来の吸気マニホールド内の空気量を基にしてエンジンに供給される燃料に混合される時の空気量を推定することで燃料噴射量を制御する手段が有するエンジンに要求されるトルクが急変しても理想的な空燃比を保つことのできるエンジンの燃料噴射制御方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明であるエンジンの燃料噴射制御方法は、スロットルとシリンダーとをつなぐ吸気マニホールド内に設置した圧力センサにより検知した圧力値から算出した前記吸気マニホールド内の空気量と前記吸気マニホールド内の圧力変化とから実際に制御しているスロットル通過空気量を算出するとともに、前記算出された吸気マニホールド内の空気量と前記算出されたスロットル通過空気量から実際に燃料が混合される時のシリンダー吸入空気量を予測し、この予測したシリンダー吸入空気量に応じて燃料を噴射することを特徴とする。
【0011】
本発明は、吸気マニホールド内の空気量とスロットル通過空気量の間の空気量が、実際に燃料が混合される時の空気量であることに着目したものであり、吸気マニホールド圧力センサから割り出される吸気マニホールド内の空気量と圧力の変化から、実際に制御しているスロットル通過空気量を算出し、更にそれらを用いて燃料が混合される時の空気量を算出する。
【0012】
また、本発明において、前記実際に燃料が混合される時のシリンダー吸入空気量を求める過程で、ローパスフィルタで処理した吸気マニホールド内の圧力指令値を用いることにより、実際の吸気マニホールド内の圧力値がエンジンなどの振動により生じる高周波域の雑音による影響を除いてより正確な空燃比を保つことができる。
【0013】
更に、本発明において、前記吸気マニホールド内に設置した圧力センサから検知した圧力値から吸気マニホールド内の空気量を、以下の数式を使用して算出することができる。
【0014】
【数4】
(但し、Qaはマニホールド内の空気量、Kcは充填効率補正係数、ωはエンジン回転数、Vcはシリンダー内体積、Rは気体定数、Tmはマニホールド内温度、Pmはマニホールド内圧力)
【0015】
更にまた、本発明において、前記吸気マニホールド内の空気量からスロットルとシリンダーをつなぐ吸気マニホールド内の圧力変化を、以下の数式を使用して算出することができる。
【0016】
【数5】
(但し、Vmはマニホールド内体積、Rは気体定数、Tmはマニホールド内温度、Pmはマニホールド内圧力、Qaはマニホールド内の空気量、Qtはスロットル通過空気量)
【0017】
加えて、本発明において、前記算出された吸気マニホールド内の空気量と前記算出された吸気マニホールド内の圧力の変化から実際に制御しているスロットル通過空気量を、以下の数式を使用して算出することができる。
【0018】
【0019】
また、本発明であるエンジンの燃料噴射制御装置は、燃料噴射制御方法実行用プログラムが記憶手段に記憶されており、吸気マニホールド内に設置した圧力センサにより検知した圧力信号が入力され、前記燃料噴射信号を生成してインジェクタに出力することにより、前記発明であるエンジンの燃料噴射制御方法を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によると、吸気マニホールド内の空気量を基にしてエンジンに供給される燃料に混合される時の空気量を推定することで燃料噴射量を制御する手段が有するエンジンに要求されるトルクが急変しても理想的な空燃比を保つことが可能なエンジンの燃料噴射制御方法および装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】従来例および本発明における実施の形態を実施するためのエンジンの燃料噴射制御装置の概略図。
【
図2】
図1に示した実施の形態について、スロットル開度が変化したときのスロットル通過空気量、吸気マニホールド内の空気量、燃料が混合される時の空気量における空気量の経時的変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0023】
図1は、本発明における実施の形態を実施するためのエンジンの燃料噴射制御装置の概略図であり、基本的な部品構成及び制御方法は前記従来例と基本的に同様であるが、スロットルとシリンダー2とをつなぐ吸気マニホールド6内に設置した圧力センサ7により検知した圧力値から算出した前記吸気マニホールド6内の空気量と前記吸気マニホールド6内の圧力変化とから実際に制御しているスロットル通過空気量Qtを算出するとともに、前記算出された吸気マニホールド内の空気量Qaと前記算出されたスロットル通過空気量Qtから実際に燃料が混合される時のシリンダー吸入空気量を予測し、この予測したシリンダー吸入空気量に応じて燃料を噴射するものである点で異なる。
【0024】
更に詳細に説明すると、先ず、吸気マニホールド圧力センサ7から求められる吸気マニホールド内の空気量Qaを次の式(1)により求める。
【0025】
尚、式(1)および以下に使用する式において、Kcは充填効率補正係数、ωはエンジン回転数、Vcはシリンダー内体積、Rは気体定数、Tmはマニホールド内の温度、Pmはマニホールド内の圧力値、Vmはマニホールド内の体積を示す。
【0026】
【0027】
次に、前記式(1)で求めた吸気マニホールド内の空気量Qaを用いてスロットル5とシリンダー2をつなぐ吸気マニホールド6内の圧力変化を次式(2)により求める。尚、式(2)中、Qtはスロットル通過空気量を示す。
【0028】
【0029】
更に、前記式(1),式(2)を用いて、スロットル通過空気量Qtを次の式(3)により求める。
【0030】
【0031】
この時、吸気マニホールド内圧力Pmは、圧力比例ゲインKpm、吸気マニホールド内の圧力指令値Pmrefを用いて次式(4)となるように制御されている。
【0032】
【0033】
そして、前記式(4)を前記式(3)に代入し、スロットル通過空気量Qtは以下の式(5)のように書き直せる。
【0034】
【0035】
ここで、
図2に示すように、エンジンに要求されるトルクに急激な変化が必要な場合には空気量が急激に変化するので吸気マニホールド内の空気量Qaとスロットル通過空気量Qtとの間の中間あたりの空気量に対し燃料噴射を行わないと理想の空燃比を保つことができないことが判明している。
【0036】
ここで、前記式(1)により求めた吸気マニホールド内の空気量Qaと前記式(5)により求めたスロットル通過空気量Qtとの間の中間あたりの空気量QBは、調整ゲインKPQBを用いて以下の式(6)の様に推定する。
【0037】
【0038】
従って、前記式(6)を用いて、吸気マニホールド内圧力Pmから求められた吸気マニホールド6内の空気量Qa、吸気マニホールド6内の圧力の変化から求められたスロットル通過空気量Qt、燃料が混合される時の空気量QBに従って燃料噴射することで、適切な燃料噴射を行うことができるものであり、エンジンに要求されるトルクが急変した場合にも理想的な空燃比を保つ制御が可能となる。
【0039】
また、実際に使用する場合には、吸気マニホールド内の圧力値Pmがエンジンなどの運転時に生じる振動により高周波域の雑音による影響を受ける場合がある。
【0040】
そこで、次式(7)で示すように、吸気マニホールド内の圧力値Pmをローパスフィルタにより処理した吸気マニホールド内の圧力値PmMODELを用いることで、実際の吸気マニホールド内の圧力値がエンジンなどの振動により生じる高周波域の雑音などによる影響を除いてより正確な空燃比を保つことができる。
【0041】
【0042】
ここで、Δは感度調整用の定数であり、分母に入れることでPmMODELが限りなく0に近づいても発振しないようにしている。
【符号の説明】
【0043】
1 エンジン、2 シリンダー、3 フィルタ、4 吸気管、5 スロットル、6 吸気マニホールド、7 吸気マニホールド圧力センサ、8 アクセル、9 ECU、10 インジェクタ、11 点火プラグ、12 クランク角センサ、Qa 吸気マニホールド内の空気量、Qt スロットル通過空気量、QB 燃料が混合される時の空気量