(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038814
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】線状体の張力、曲げ剛性及び線状体の両端における回転剛性の算定方法
(51)【国際特許分類】
G01L 5/102 20200101AFI20230310BHJP
【FI】
G01L5/102
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145722
(22)【出願日】2021-09-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウエブサイトの掲載日: 令和3年5月23日 2.ウエブサイトのアドレス:・2021年度土木学会関西支部年次学術講演会のホームページ https://www.ac-research.jp/jsce/js-kansai/2021/precede/login.php 3.公開者: 高鶴憲正
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウエブサイトの掲載日: 令和3年8月2日 2.ウエブサイトのアドレス:・令和3年度土木学会全国大会 in 関東 オンラインのホームページ https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2021/top 3.公開者: 高鶴憲正
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウエブサイトの掲載日: 令和3年5月15日 2.ウエブサイトのアドレス:・第24回(2021年)応用力学シンポジウムのホームページ https://confit.atlas.jp/guide/event/jsceam2021/proceedings/list 3.公開者: 高鶴憲正
(71)【出願人】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】古川 愛子
(72)【発明者】
【氏名】高鶴 憲正
(72)【発明者】
【氏名】門田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 実
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AB00
(57)【要約】
【課題】交差部において把持装置により把持された2つの線状体それぞれの張力等を算定する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本出願は、交差部において把持装置により把持された2つの線状体それぞれの張力等を算定する方法を開示する。当該算定方法は、複数モードの固有振動数の実測値を得る実測工程と、2つの線状体の交差部が把持装置により把持されていることと、2つの線状体それぞれの両端が回転剛性を有していることと、を表す境界条件を用いて設定された算定基準式と、複数モードの固有振動数の実測値と、を用いて、張力等を算定する算定工程と、を備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差するように把持装置によって把持された2つの線状体それぞれの張力、曲げ剛性及び前記2つの線状体それぞれの両端における回転剛性を算定する方法であって、
前記2つの線状体の振動に基づいて前記2つの線状体それぞれについて複数モードの固有振動数の実測値を得る実測工程と、
前記2つの線状体の交差部が前記把持装置により把持されていることと、前記2つの線状体それぞれの両端が前記回転剛性を有していることと、を表す境界条件を用いて設定された算定基準式と、前記複数モードの前記固有振動数の前記実測値と、を用いて、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性を算定する算定工程と、を備え、
前記算定基準式は、前記張力、前記曲げ剛性、前記回転剛性及び前記複数モードの前記固有振動数の変数を含む関数が所定の値に等しくなる式として表されており、
前記算定工程では、
前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性それぞれについて設定された候補値と、前記複数モードの前記固有振動数の前記実測値と、を前記関数の対応する変数にそれぞれ代入して、前記関数の演算値を取得し、
前記取得された演算値と前記所定の値との比較に基づいて、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性を算定する、算定方法。
【請求項2】
前記算定基準式は、モード次数を含むことなく、前記複数モードの前記固有振動数、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性の間の関係を表している、請求項1に記載の算定方法。
【請求項3】
前記境界条件は、前記交差部における前記2つの線状体の変位方向及び変位量が等しいことを示す条件を含んでいる、請求項1又は2に記載の算定方法。
【請求項4】
前記算定基準式の前記関数は、前記2つの線状体のうち一方の線状体における前記交差部に作用する力と、他方の線状体における前記交差部に作用する力と、の和を、前記複数モードの固有振動数、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性の変数を用いて表しており、
前記算定基準式は、前記関数がゼロの値に等しくなる式として表されており、
前記算定工程では、
前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性の前記候補値と、前記複数モードの固有振動数の前記実測値と、を前記関数の対応する変数にそれぞれ代入して、前記演算値を取得し、
前記取得された演算値と前記ゼロの値との比較に基づいて、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性を算定する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の算定方法。
【請求項5】
前記実測工程では、前記複数モードの前記固有振動数の前記実測値にそれぞれ対応する前記複数モードの前記固有振動数におけるフーリエ振幅を前記2つの線状体それぞれにおける互いに異なる2つの位置において測定するとともに、前記2つの位置について得られた前記フーリエ振幅の実測値の比であるフーリエ振幅比の実測値を取得し、
前記算定基準式の前記関数は、前記張力、前記曲げ剛性、前記回転剛性及び前記複数モードの前記固有振動数の関数として表されるフーリエ振幅比の理論式から得られる理論値と、前記フーリエ振幅比の前記実測値と、の差を表すように設定されており、
前記算定基準式は、前記フーリエ振幅比の前記理論値と前記フーリエ振幅比の前記実測値との前記差がゼロの値に等しくなるという関係を表すように設定されており、
前記算定工程では、
前記実測工程において取得された前記フーリエ振幅比の前記実測値を前記関数における前記フーリエ振幅比の前記実測値の項に代入するとともに、前記張力、前記曲げ剛性、前記回転剛性の候補値と、前記複数モードの前記固有振動数の前記実測値と、を前記理論式に代入することにより、前記フーリエ振幅比の前記実測値と、前記フーリエ振幅比の前記理論値と、の前記差を前記演算値として取得し、
前記差に係る前記演算値と前記ゼロの値との比較に基づいて、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性を算定する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の算定方法。
【請求項6】
前記算定工程では、
前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性のうち少なくとも1つについて設定された他の候補値と、前記複数モードの固有振動数の前記実測値と、を前記関数に代入することにより他の演算値を取得することを繰り返して、複数の演算値を取得し、
前記複数の演算値の中で前記所定の値に最も近いものが得られた候補値を、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性の算定値として決定する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の算定方法。
【請求項7】
前記算定工程では、
前記演算値と前記所定の値との差が所定の閾値未満になるまで、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性のうち少なくとも1つについて設定された他の候補値と、前記複数モードの固有振動数の前記実測値と、を前記関数に代入する代入処理を繰り返す、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の算定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに交差するように把持装置によって把持された2つの線状体それぞれの張力、曲げ剛性及びこれらの線状体の両端における回転剛性を算定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁のケーブル、張弦梁や電線といった線状体に作用している張力を算定するための様々な方法が案出されている(特許文献1及び2を参照)。これらの方法では、一次元梁でモデル化されたケーブルの固有振動数が算定され、固有振動数の算定値は、実際のケーブルに衝撃を与えることによって得られた振動データに現れる固有振動数の実測値と比較される。この比較結果に基づいて、ケーブルの張力が算定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-101289号公報
【特許文献2】特開平11-271155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一次元梁をモデル化した上述の算定手法は、単一の線状体の張力を算定するのに好適に利用可能である。しかしながら、2つの線状体が互いに交差して配置され、且つ、これらの線状体の交差部が把持装置によって把持された構造に上述の算定手法が適用されても、交差部においてこれらの線状体がばらばらに動く状態の下での張力しか算定されない。すなわち、従来の張力算定方法では、交差部においてこれらの線状体が互いに拘束されていることによる影響により、精度の高い張力の算定値を得ることができない。
【0005】
本発明は、互いに交差するように把持装置によって把持された2つの線状体それぞれの張力、曲げ剛性及びこれらの線状体の両端における回転剛性を算定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の局面に係る算定方法は、互いに交差するように把持装置によって把持された2つの線状体それぞれの張力、曲げ剛性及び前記2つの線状体それぞれの両端における回転剛性を算定するのに利用可能である。算定方法は、前記2つの線状体の振動に基づいて前記2つの線状体それぞれについて複数モードの固有振動数の実測値を得る実測工程と、前記2つの線状体の交差部が前記把持装置により把持されていることと、前記2つの線状体それぞれの両端が前記回転剛性を有していることと、を表す境界条件を用いて設定された算定基準式と、前記複数モードの前記固有振動数の前記実測値と、を用いて、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性を算定する算定工程と、を備えている。前記算定基準式は、前記張力、前記曲げ剛性、前記回転剛性及び前記複数モードの前記固有振動数の変数を含む関数が所定の値に等しくなる式として表されている。前記算定工程では、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性それぞれについて設定された候補値と、前記複数モードの前記固有振動数の前記実測値と、を前記関数の対応する変数にそれぞれ代入して、前記関数の演算値を取得し、前記取得された演算値と前記所定の値との比較に基づいて、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性を算定する。
【0007】
上述の構成では、張力等を算定する算定工程において用いられる算定基準式は、以下の2つの境界条件を用いて設定されている。
・2つの線状体の交差部が把持装置により把持されていること。
・2つの線状体それぞれの両端が回転剛性を有していること。
【0008】
2つの線状体の交差部が把持装置により把持されているという境界条件が用いられているので、算定基準式は、2つの線状体が交差部において一体的に振動するという振動態様を表すことができる。また、回転剛性は、線状体の両端における線状体の曲がりにくさを表すので、当該境界条件を用いて設定された算定基準式は、実際の建造物中の線状体の両端における曲げに対する拘束の程度を表すことができる。
【0009】
上述の境界条件を用いて設定された算定基準式は、張力、曲げ剛性、回転剛性及び複数モードの固有振動数の変数を含む関数が所定の値に等しくなる式として表される。これらの変数に数値を代入して得られた演算値が上述の所定の値に近ければ近いほど、代入された数値が算定基準式を成立させる真値に近いことが分かる。このため、算定工程では、張力、曲げ剛性及び回転剛性の候補値と、複数モードの固有振動数の実測値と、が対応する変数にそれぞれ代入される。この代入処理により得られた演算値を算定基準式の関数がとる所定の値と比較することにより、代入された候補値が算定基準式を成立させる真値に近いか否かが分かる。とくに、上述の算定方法では、回転剛性を変数として代入処理が行われており、線状体の両端における曲げに対する拘束の程度を考慮して、張力等を算定することができる。したがって、算定された張力等は、高い精度を有する。
【0010】
上述の構成に関して、前記算定基準式は、モード次数を含むことなく、前記複数モードの前記固有振動数、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性の間の関係を表していてもよい。
【0011】
特許文献1及び2の張力等の算定方法では、複数モードの固有振動数の実測値とモード次数とを対応付けて代入する必要がある。しかしながら、固有振動数とモード次数との対応付けが誤って行われることが想定される。たとえば、モード次数が3である固有振動数が見落とされた場合、実際にはモード次数が4である固有振動数が、モード次数が3である固有振動数として取得され得る。この場合、特許文献1及び2の算定式中のモード次数の変数には3が代入される一方で、算定式中の固有振動数の変数には、モード次数が4の固有振動数が代入され得る。このような誤った代入処理がなされた場合には、線状体の張力等を精度よく算定することはできない。
【0012】
一方、上述の算定方法では、モード次数を含んでいない算定基準式が用いられる。このため、線状体の固有振動数の実測値を、モード次数と対応付けることなく、算定基準式の関数に代入することができ、上述の誤った代入処理が防止される。
【0013】
上述の構成に関して、前記境界条件は、前記交差部における前記2つの線状体の変位方向及び変位量が等しいことを示す条件を含んでいてもよい。
【0014】
2つの線状体が交差部において把持装置により把持されている構造に衝撃を与えたときにおいて、交差部における2つの線状体の変位(すなわち、変位方向及び変位量)は、互いに等しくなる。上述の構成では、2つの線状体の変位(すなわち、変位方向及び変位量)が等しいという境界条件が用いられるので、交差部において把持装置によって把持された2つの線状体の張力を算定することが可能になる。
【0015】
上述の構成に関して、前記算定基準式の前記関数は、前記2つの線状体のうち一方の線状体における前記交差部に作用する力と、他方の線状体における前記交差部に作用する力と、の和を、前記複数モードの固有振動数、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性の変数を用いて表していてもよい。前記算定基準式は、前記関数がゼロの値に等しくなる式として表されていてもよい。前記算定工程では、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性の前記候補値と、前記複数モードの固有振動数の前記実測値と、を前記関数の対応する変数にそれぞれ代入して、前記演算値を取得してもよい。前記取得された演算値と前記ゼロの値との比較に基づいて、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性を算定してもよい。
【0016】
上述の構成では、2つの線状体は、これらの交差部において把持部によって把持されているので、交差部においてこれらの線状体に作用する力は釣り合う。すなわち、一方の線状体において交差部に作用する力と他方の線状体において交差部に作用する力との和はゼロに等しくなり、この力の釣り合い関係が算定基準式により表されている。交差部に作用する力は、張力、曲げ剛性、回転剛性及び複数モードの固有振動数の変数を含む関数として表すことが可能である。これらの変数に数値を代入することにより当該関数から得られた演算値がゼロの値に近ければ近いほど、代入された数値が、交差部における力の釣り合い関係が成り立つ条件に近いことが分かる。このため、算定工程では、代入処理により得られた演算値とゼロの値とを比較することにより、張力等を算定している。
【0017】
上述の構成に関して、前記実測工程では、前記複数モードの前記固有振動数の前記実測値にそれぞれ対応する前記複数モードの前記固有振動数におけるフーリエ振幅を前記2つの線状体それぞれにおける互いに異なる2つの位置において測定するとともに、前記2つの位置について得られた前記フーリエ振幅の実測値の比であるフーリエ振幅比の実測値を取得する。前記算定基準式の前記関数は、前記張力、前記曲げ剛性、前記回転剛性及び前記複数モードの前記固有振動数の関数として表されるフーリエ振幅比の理論式から得られる理論値と、前記フーリエ振幅比の前記実測値と、の差を表すように設定されている。前記算定基準式は、前記フーリエ振幅比の前記理論値と前記フーリエ振幅比の前記実測値との前記差がゼロの値に等しくなるという関係を表すように設定されている。前記算定工程では、前記実測工程において取得された前記フーリエ振幅比の前記実測値を前記関数における前記フーリエ振幅比の前記実測値の項に代入するとともに、前記張力、前記曲げ剛性、前記回転剛性の候補値と、前記複数モードの前記固有振動数の前記実測値と、を前記理論式に代入することにより、前記フーリエ振幅比の前記実測値と、前記フーリエ振幅比の前記理論値と、の前記差を前記演算値として取得し、前記差に係る前記演算値と前記ゼロの値との比較に基づいて、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性を算定する。
【0018】
フーリエ振幅比の理論式は、張力、曲げ剛性、回転剛性及び複数モードの固有振動数の関数として表され得る。上述の構成では、この理論式に、張力、曲げ剛性、回転剛性の候補値と複数モードの固有振動数の実測値とを代入して得られたフーリエ振幅比の理論値が算出される。この理論値がフーリエ振幅比の実測値に近ければ、フーリエ振幅比の実測値と理論値との差である演算値は、ゼロの値に近くなる。したがって、演算値とゼロの値とを比較することにより、理論式に代入された張力、曲げ剛性及び回転剛性の候補値が算定基準式を成立させる真値に近いか否かが分かる。
【0019】
上述の構成に関して、前記算定工程では、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性のうち少なくとも1つについて設定された他の候補値と、前記複数モードの固有振動数の前記実測値と、を前記関数に代入することにより他の演算値を取得することを繰り返して、複数の演算値を取得し、前記複数の演算値の中で前記所定の値に最も近いものが得られた候補値を、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性の算定値として決定してもよい。
【0020】
上述の算定方法では、複数の候補値が算定基準式の関数に代入されるので、複数の演算値が得られる。これらの演算値のうち算定基準式が成り立つときの所定の値に近いものが得られた候補値は、算定基準式を成り立たせる真値に比較的近い。このような候補値が張力等の算定値として決定されるので、張力等の算定値の精度が向上する。
【0021】
上述の構成に関して、前記算定工程では、前記演算値と前記所定の値との差が所定の閾値未満になるまで、前記張力、前記曲げ剛性及び前記回転剛性のうち少なくとも1つについて設定された他の候補値と、前記複数モードの固有振動数の前記実測値と、を前記関数に代入する代入処理を繰り返してもよい。
【0022】
上述の算定方法では、張力等の算定値の精度を保証するために、演算値と、算定基準式が成り立つときの所定の値と、の差に対して閾値が設けられている。これらの差が閾値未満になるまで、代入処理が繰り返されるので、張力等の算定値は、閾値によって保証される精度を有する。
【発明の効果】
【0023】
上述の技術は、互いに交差するように把持装置によって把持された2つの線状体それぞれの張力及び曲げ剛性を算定することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】2つのケーブルが交差した構造を有している構造体の概略図である。
【
図2】ケーブルを一次元梁としてモデル化した振動モデルの概略図である。
【
図3】ケーブルの交差部の周囲において作用する力の概略図である。
【
図4】張力等の算定方法の概略的なフローチャートである。
【
図5】ケーブルの振動の時刻歴応答値に対するフーリエ変換を行って得られたデータである。
【
図6】MultiStart法に基づく最適解の探索方法を表すグラフである。
【
図7】ケーブルの振動の時刻歴応答値に対するフーリエ変換を行って得られたデータである。
【
図8】張力等の算定方法の概略的なフローチャートである。
【
図9】2つのケーブルが交差した構造を有している構造体の概略図である。
【
図10】張力等の算定方法の概略的なフローチャートである。
【
図11】ケーブルの振動の時刻歴応答値に対するフーリエ変換を行って得られたデータである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、2つのケーブル121,122(線状体)が互いに交差した構造を有している構造体100の概略的な平面図である。ケーブル121,122は、張力を与えられた状態で固定されている。ケーブル121,122それぞれの両端部は、所定の回転剛性を有した状態で支持されている。
【0026】
ケーブル121,122の交差部には、把持装置130が取り付けられている。把持装置130は、ケーブル121,122の交差部においてこれらのケーブル121,122を把持するように構成されている。したがって、交差部において、両ケーブル121,122の振動振幅及び振動方向は等しくなる。
【0027】
交差部に取り付けられた把持装置130により、ケーブル121,122はそれぞれ、2つのスパンに分けられる。
図1におけるケーブル121の左端から把持装置130までのケーブル121の長さ部分を、以下の説明では、「スパン171」と称する。
図1におけるケーブル121の右端から把持装置130までのケーブル121の長さ部分を、以下の説明では、「スパン172」と称する。
図1におけるケーブル122の左端から把持装置130までのケーブル121の長さ部分を、以下の説明では、「スパン173」と称する。
図1におけるケーブル121の右端から把持装置130までのケーブル122の長さ部分を、以下の説明では、「スパン174」と称する。
【0028】
ケーブル121のスパン171には、加速度センサ141が取り付けられており、ケーブル122のスパン173には、加速度センサ143が取り付けられている。加速度センサ141,143は、ケーブル121,122のうち少なくとも一方に与えられた衝撃によってケーブル121,122に生じた振動の加速度を検出するように構成されている。なお、本実施形態では、ケーブル121,122は、ケーブル121,122を含む面に対して直角の方向(
図1の紙面に直角の方向)において加振される。以下の説明では、ケーブル121,122を含む面に対して直角の方向を「面外方向」と称する。
【0029】
加速度センサ141,143は、データ収集装置160(たとえば、パーソナルコンピュータ)に電気的に接続され、加速度センサ141,143によって取得された加速度のデータは、時刻歴応答値としてデータ収集装置160に蓄積される。データ収集装置160は、加速度のデータに対して所定の解析処理を行うように構成され、この解析処理を通じてケーブル121,122の固有振動数(面外方向の固有振動数)の実測値のデータが得られる。得られた固有振動数のデータに基づき、ケーブル121,122それぞれの張力等が算定される。
【0030】
<算定基準式の導出>
ケーブル121,122それぞれの張力等の算出のために、ケーブル121,122に対する振動方程式に基づく算定基準式が導出される。なお、算定基準式は、張力等の変数を含む関数が所定の値に等しくなるという式で表される。算定基準式の関数がとる所定の値を基準として、後述の演算処理により得られた張力等の算定値が真値に近いか否かが判定される。
【0031】
算定基準式は、
図2に示すように、両端が所定の回転剛性を有した状態で支持された一次元梁として、ケーブル121,122それぞれをモデル化することにより設定可能である。
図2において、下付文字kは、1又は2の値をとる。下付文字kが1の値をとるとき、
図2のモデルは、
図1のケーブル121を意味している。下付文字kが2の値をとるとき、
図2のモデルは、
図1のケーブル122を意味している。また、以下の説明において、「ケーブルk」との用語は、ケーブル121,122のうち一方を意味している。すなわち、「k」が1の値をとるとき、「ケーブルk」との用語は、ケーブル121を意味し、「k」が2の値をとるとき、「ケーブルk」との用語は、ケーブル122を意味する。
【0032】
図2のモデルでは、ケーブルkの両端が所定の回転剛性を有していることを表すために、ケーブルkの両端には、回転ばねが挿入されており、ケーブルkの両端の回転剛性は、回転ばねの剛性(すなわち、回転ばね剛性K
k)で表されている。
【0033】
図2において、ケーブルk上に交差部131が示されている。交差部131は、ケーブル121,122が交差している部分(すなわち、
図1の把持装置130の把持位置)を意味している。以下の説明において、ケーブルkの左端から交差部131までのスパン(すなわち、ケーブル121,122のスパン171,173)の長さをL
k1とする。ケーブルkの他端部から交差部131までのスパン(すなわち、ケーブル121,122のスパン172,174)の長さをL
k2とする。ケーブルkの全長(L
k1+L
k2)をL
kとする。
【0034】
図2において、ケーブルkの左端を原点として右方に延びるx
k1軸と、ケーブルkの右端を原点として左方に延びるx
k2軸と、が設けられている。また、
図2の紙面に対して直角の向きを面外方向とし、この方向におけるケーブルkの変位量をw
kdで示す。下付文字dは、ケーブルkのスパンを示すために用いられており、1又は2の値をとる。1の値をとる下付文字dは、ケーブルkの左側のスパンを示している。2の値をとる下付文字dは、ケーブルkの右側のスパンを示している。すなわち、変位量「w
11」は、ケーブル121のスパン171の面外方向における変位量を示している。変位量「w
12」は、ケーブル121のスパン172の面外方向における変位量を示している。変位量「w
21」は、ケーブル122のスパン173の面外方向における変位量を示している。変位量「w
22」は、ケーブル122のスパン174の面外方向における変位量を示している。
【0035】
時刻tにおけるケーブルkの振動方程式は、以下のように与えられる。なお、把持装置130の質量は、考慮に入れないものとする。
【0036】
【0037】
上述の振動方程式(数1)を変数分離法で解くと、以下の関係式が得られる。
【0038】
【0039】
この関係式(数2)を用いて、「数1」の振動方程式は、以下のように書き換えられる。
【0040】
【0041】
「数3」の振動方程式の一般解は、以下のように表される。
【0042】
【0043】
ケーブルkの両端部(xkd=0)において、ケーブルkの変位は生じず、ケーブルkの両端部には、回転ばね剛性Kkを有している回転ばねが挿入されているから、ケーブルkの両端部における変位及び曲げモーメントに関して、以下の境界条件が成立する。以下の曲げモーメントに係る境界条件は、ケーブル121,122の両端部が回転剛性を有していることを表している。
【0044】
【0045】
ケーブルkの交差部131(xk1=Lk1,xk2=Lk2)においては、交差部131の左右のスパンの変位量、傾き及び曲げモーメントは等しくなるので、以下の境界条件が成立する。
【0046】
【0047】
ここで、交差部131(xk1=Lk1,xk2=Lk2)における把持装置130によるケーブル121(k=1),122(k=2)に対する拘束の影響を考慮する。まず、交差部131(xk1=Lk1,xk2=Lk2)においては、把持装置130がケーブル121(k=1),122(k=2)を把持しており、これらのケーブル121,122の変位方向及び変位量は等しくなる。また、交差部131(xk1=Lk1,xk2=Lk2)においては、ケーブル121(k=1),122(k=2)に作用する力は釣り合う。
【0048】
まず、交差部131(xk1=Lk1,xk2=Lk2)においてケーブル121,122の変位方向及び変位量がともに等しくなるという境界条件は、以下のように表される。
【0049】
【0050】
次に、ケーブル121,122が交差部131において把持装置130によって把持されている状態での交差部131(x
k1=L
k1,x
k2=L
k2)における力の釣り合いを、
図3を参照して説明する。
【0051】
交差部131では、ケーブルkの左側のスパンにおいては、せん断力Qk1(Lk1)が作用し、ケーブルkの右側のスパンにおいては、せん断力Qk2(Lk2)が作用する。交差部131では、これらのせん断力は釣り合う。このため、ケーブル121,122が交差部131において把持装置130によって把持されている状態での交差部131(xk1=Lk1,xk2=Lk2)における力の釣り合いについて、以下の境界条件が得られる。
【0052】
【0053】
「数8」の左辺における第1項は、ケーブル121上の交差部131に作用する力を表しており、第2項は、ケーブル122上の交差部131に作用する力を表している。「数8」の左辺は、ケーブル121,122の交差部131に作用する力の和を表している。「数8」は、ケーブル121,122の交差部131に作用する力の和がゼロの値に等しくなった状態、すなわち、当該力が釣り合った状態を表している。
【0054】
上述の「数5」の境界条件の式を、「数4」の一般解の式に適用して得られる行列式を以下に示す。
【0055】
【0056】
また、上述の「数6」における変位及び曲げモーメントに関する境界条件の式は、以下の行列式によって表される。
【0057】
【0058】
この行列式(数10)は、「数4」の一般解の式と、この一般解の式の2階微分によって、以下のように表される。
【0059】
【0060】
上述の「数9」を「数11」に代入すると、以下の関係式が得られる。
【0061】
【0062】
上述の「数12」の行列Fkdを用いて、「数10」は、以下のように書き換え可能である。
【0063】
【0064】
次に、「数4」の一般解の式の一階微分は、以下のように表される。
【0065】
【0066】
「数14」に「数9」の行列式を代入すると、以下の関係式が得られる。
【0067】
【0068】
「数15」の行列Hkdを用いて、「数6」の傾きに関する境界条件は、以下のように表される。
【0069】
【0070】
「数16」に「数13」の関係式を代入すると、以下の関係式が得られる。
【0071】
【0072】
「数17」に基づいて、以下の関係式が得られる。
【0073】
【0074】
次に、「数4」の一般解の式は、行列を用いて、以下のように表される。
【0075】
【0076】
「数19」に「数9」を代入すると、以下の関係式が得られる。
【0077】
【0078】
「数20」を用いて、上述の「数7」(交差部131における変位に係る境界条件の式)は、以下のように表される。
【0079】
【0080】
「数21」に「数18」を代入すると、以下の関係式が得られる。
【0081】
【0082】
交差部131における変位がゼロでないという仮定の下では、上述の「数22」は、以下のように書き換え可能である。
【0083】
【0084】
次に、「数4」の一般解の式の三階微分は、以下のように表される。
【0085】
【0086】
「数24」に「数9」を代入すると、以下の関係式が得られる。
【0087】
【0088】
「数25」の行列Jkdを用いて、「数8」(力の釣り合いに係る境界条件の式)の中括弧内の式は、以下のように書き換え可能である。
【0089】
【0090】
「数26」に「数13」を代入すると、「数26」は、以下のように変形可能である。
【0091】
【0092】
「数27」に「数18」を代入すると、「数27」は、以下のように変形可能である。
【0093】
【0094】
「数28」に基づき、「数8」(力の釣り合いに係る境界条件の式)は、以下のように書き換え可能である。
【0095】
【0096】
「数29」を「数23」に代入すると、以下の関係式が得られる。
【0097】
【0098】
「数30」が自明解以外の解を持つには、中括弧内の値がゼロになる必要がある。このため、以下の関係式が得られる。
【0099】
【0100】
「数31」には、双曲線関数が含まれているため、桁落ち等の問題を防ぐために、「数31」の第1項の分子及び分母を「m11」で割り、第2項の分子及び分母を「m21」で割る。この処理の結果、「数31」は、以下のように変形される。
【0101】
【0102】
「数32」の第1項を「fun1」で表し、第2項を「fun2」で表す。
【0103】
【0104】
fun1の各項について、約分するとともに桁落ち等の問題を防止するための処理を行うと、fun1の各項は、以下のように展開される。
【0105】
【0106】
なお、「数34」中の「Nanm11」、「Nanm12」、「NaFm11」及び「NaFm12」は、以下のように表される。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
「Nanm11」、「Nanm12」、「NaFm11」及び「NaFm12」を用いて、上述の「fun1」は、以下のように表される。
【0116】
【0117】
ここで、ケーブルkの両端の回転ばね剛性rkを以下のように定義する。
【0118】
【0119】
上述の「数44」では、回転ばね剛性rkがゼロに近ければ近いほど、ケーブルkの両端が自由端に近い状態で支持された状態になっている。一方、回転ばね剛性rkが1に近ければ近いほど、ケーブルkの両端が固定端に近い状態で支持された状態になっている。
【0120】
「数43」の「fun1」について、回転ばね剛性r1が1未満のときと、回転ばね剛性r1が1に等しいときとで場合分けをすると、「fun1」は、以下のように表される。なお、回転ばね剛性r1が1に等しいときにおいて、P1が無限大となる。無限大を含んだ計算を避けるために、回転ばね剛性r1の値に応じた場合分けがなされている。
【0121】
【0122】
「数43」の「fun2」についても、回転ばね剛性r2が1未満のときと、回転ばね剛性r2が1に等しいときとで場合分けをすると、「fun2」は、以下のように表される。
【0123】
【0124】
「数45」及び「数46」中の「qk0」、「qk1」、「qk2」、「qk2」、「sk0」、「sk1」、「sk2」及び「sk2」は、以下のように表される。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
上述の如く定義された「fun1」及び「fun2」を用いて、上述の「数31」は、以下のように書き換え可能である。
【0137】
【0138】
「fun1」及び「fun2」の分母(「数45」を参照)を、以下の式で表すように「fun3」及び「fun4」でそれぞれ表す。
【0139】
【0140】
「fun3」及び「fun4」がゼロになるとき、上述の「数58」は成立しなくなるので、以下のように、「数58」に「fun3」及び「fun4」の積を掛ける。なお、「fun3」は、交差部131においてケーブル121の振幅がゼロになるときゼロの値をとり、「fun4」は、交差部131においてケーブル122の振幅がゼロになるときゼロの値をとる。「数58」に「fun3」及び「fun4」の積を掛けることにより、ケーブル121,122のうち一方は、全く振動しない状態で、他方のケーブルのみが振動したときにおいて、交差点131における振幅がゼロになるケースを含めることができる。
【0141】
【0142】
「数60」の式を、i次モードの式として、以下のように表すことができる。なお、以下の式において、モード次数iは、上付文字として表されている。また、以下の式は、1次モードの「fun3」及び「fun4」の値で除することにより正規化されている。本実施形態では、以下の式を算定基準式として用いる。
【0143】
【0144】
「数61」は、左辺の関数がゼロに等しくなる式として示されている。「数61」は、上述の如く、交差部131における力の釣り合いの状態を表す「数8」に基づいて設定されており、「数61」が成立するとき、交差部131において力が釣り合った状態になっている。
【0145】
「数61」の左辺の関数は、以下の定数及び変数を含んでおり(「数4」、「数5」、「数45」~「数57」及び「数59」を参照)、「数61」の算定基準式は、以下の定数及び変数の間の関係を表している。なお、「数61」の左辺の関数は、モード次数iを変数として含んでいない。
・ケーブルkの全長:Lk
・交差部131の位置(すなわち、ケーブルkのスパンの長さ):Lk1,Lk2
・ケーブルkの密度:ρk
・ケーブルkの断面積:Ak
・ケーブルkの固有振動数の実測値:fk
i
・ケーブルkの張力:Tk
・ケーブルkの曲げ剛性:EkIk
・回転ばね剛性:Kk
【0146】
(張力Tk等を算出するための演算式)
「数61」の算定基準式の左辺の関数は、張力Tk等を算出するための演算式G1
iとして用いられる。
【0147】
【0148】
「数62」の演算式G1
iの定数及び変数に数値を代入することにより、演算式G1
iの演算値が算出される。演算式G1
iから算出された演算値が「数61」の算定基準式の値(すなわち、ゼロ)に近ければ近いほど、演算式G1
iに代入された数値が、「数61」の算定基準式が成り立つときの真値に近いと考えられる。このため、演算式G1
iから算出された演算値を「数61」の算定基準式の値(すなわち、ゼロ)と比較することにより、張力Tk等が算定され得る。この比較処理のために、以下に示すように、演算式G1
iの平方和が設定される。
【0149】
【0150】
演算式G
1
iの平方和がゼロに近ければ、複数の振動モードに亘って、演算式G
1
iに代入された数値が、「数61」の算定基準式が成り立つときの真値に近いことが分かる。演算式G
1
iの平方和を利用して張力T
k等を算出するための具体的な方法を、
図4を参照して以下に説明する。
【0151】
(張力Tk等の算定方法)
ケーブルkに関する以下の構造データが取得される(ステップS105)。以下の構造データは、演算式G1
iの平方和(数63)に固定値として代入される。
・ケーブルkの全長:Lk
・交差部131の位置(すなわち、ケーブルkのスパンの長さ):Lk1,Lk2
・ケーブルkの密度:ρk
・ケーブルkの断面積:Ak
【0152】
構造データの取得の後、
図1に示すように、ケーブル121,122に加速度センサ141,143が取り付けられ、加速度センサ141,143にデータ収集装置160が接続される。その後、複数の振動モードについて、ケーブル121,122の固有振動数の実測値f
k
iを取得するための実測工程(
図4のステップS110~ステップS120)が行われる。
【0153】
実測工程では、ケーブル121,122が面外方向に加振される(ステップS110)。ケーブル121,122に生じた振動の加速度は、加速度センサ141,143によって測定される。測定された振動の加速度は、データ収集装置160に時刻歴応答値として記録される(ステップS115)。データ収集装置160は、時刻歴応答値に対してフーリエ変換を行い、フーリエ変換後のデータのピーク値から固有振動数の実測値fk
iが取得される(ステップS120)。
【0154】
上述のフーリエ変換の結果、たとえば、
図5に示すようなデータが得られる。振動強度のピークが現れた周波数が、固有振動数の実測値f
k
1~f
k
6として取得される。演算式G
1
iは、モード次数iの変数を含んでいないので、演算式G
1
iへの代入処理(後述される)のために、固有振動数の実測値f
k
1~f
k
6をモード次数iと対応付けて取得する必要はない。したがって、たとえば、
図5に示すように、ピークが現れる周波数を小さな方から順に固有振動数の実測値f
k
1~f
k
6として取得してもよい。
【0155】
ステップS105において取得された構造データ及びステップS120において取得された固有振動数の実測値fk
1~fk
6のデータは、演算式G1
iの平方和(数63)に代入される(算定工程)。この結果、演算式G1
iの平方和(数63)は、ケーブルkの張力Tk、ケーブルkの曲げ剛性EkIk及び回転ばね剛性Kkを変数として含む関数として取り扱い可能になる。演算式G1
iの平方和(数63)への構造データ及び固有振動数の実測値fk
1~fk
6のデータの代入の後、ケーブルkの張力Tk、曲げ剛性EkIk及び回転ばね剛性Kkの最適解を求めるための探索処理(算定工程)が行われる(ステップS125)。
【0156】
張力T
k、曲げ剛性E
kI
k及び回転ばね剛性K
kの最適解を得るための探索処理が、
図6を参照して説明される。
図6は、演算式G
1
iの平方和(数63)の概念的なグラフである。本実施形態において、ケーブルkの張力T
k、ケーブルkの曲げ剛性E
kI
k及び回転ばね剛性K
kの最適解は、MultiStart法に基づき算出される。
【0157】
図6の横軸は、張力T
k、曲げ剛性E
kI
k又は回転ばね剛性K
kを表している。
図6のグラフは、二次元座標として描かれているが、探索処理における演算は、4次元座標(演算式G
1
iの平方和、張力T
k、曲げ剛性E
kI
k及び回転ばね剛性K
kの4つの軸)上で行われる。
【0158】
張力T
k、曲げ剛性E
kI
k及び回転ばね剛性K
kについて、N通りの初期値が設定される。
図6には、1~6通り目の初期値が表されている。設定された初期値が、演算式G
1
iの平方和(数63)に代入される。演算式G
1
iの平方和(数63)に代入される張力T
kの値は、ケーブルkに作用していると推定される張力の候補値である。演算式G
1
iの平方和(数63)に代入される曲げ剛性E
kI
kの値は、ケーブルkの曲げ剛性の候補値である。演算式G
1
iの平方和(数63)に代入される回転ばね剛性K
kの値は、ケーブルkの両端に挿入された回転ばねの回転ばね剛性の候補値である。これらの候補値(すなわち、代入値)は、以下の説明において、「張力候補値」、「曲げ剛性候補値」及び「ばね剛性候補値」と称される。
【0159】
初期値が入力され、演算式G1
iの平方和(数63)の演算値が得られると、張力候補値、曲げ剛性候補値及びばね剛性候補値のうち少なくとも1つが変更され、これらの新たな組み合わせに基づいて、演算式G1
iの平方和(数63)の演算値が算出される。新たな組み合わせから得られた演算式G1
iの平方和(数63)の値が、前回の組み合わせから得られた演算式G1
iの平方和(数63)の値を下回っているか否かが判定される。演算式G1
iの平方和(数63)の演算値の減少の程度に基づいて、張力候補値、曲げ剛性候補値及びばね剛性候補値の組み合わせを新たに設定することを繰り返し、演算式G1
iの平方和(数63)の極小値が探索される。
【0160】
演算式G
1
iの平方和(数63)の4つの極小値(以下の説明において、「第1極小値」、「第2極小値」、「第3極小値」及び「第4極小値」と称される)が、
図6に示されている。
図6のグラフに関して、1通り目の初期値及び2通り目の初期値から探索が開始されると、第1極小値を得ることができる。3通り目の初期値から探索が開始されると、第2極小値を得ることができる。4通り目の初期値及び5通り目の初期値から探索が開始されると、第3極小値を得ることができる。6通り目の初期値から探索が開始されると、第4極小値を得ることができる。
【0161】
上述の探索処理によって得られた複数の極小値の中から最も小さなものが見出される。最も小さな極小値が得られたときの張力候補値、曲げ剛性候補値及びばね剛性候補値が、張力T
k、曲げ剛性E
kI
k及び回転ばね剛性K
kの算定値として決定される。
図6のグラフに関して、第3極小値が最も小さいので、第3極小値の算出に用いられた張力候補値、曲げ剛性候補値及びばね剛性候補値の組が張力T
k、曲げ剛性E
kI
k及び回転ばね剛性K
kの算定値として決定される。
【0162】
図5に示すフーリエ変換後のデータ中のピークが、ノイズに紛れて見落とされることが想定される。たとえば、
図7に示すように、固有振動数の実測値f
k
4に対応するピークが見落とされた場合、
図5において固有振動数の実測値f
k
5,f
k
6として取得された固有振動数は、固有振動数の実測値f
k
4,f
k
5として取得され得る。この場合において、演算式G
1
iは、モード次数iを含んでいないので、ステップS120において取得された固有振動数の実測値をモード次数iと対応付けて代入する必要はない。したがって、固有振動数の実測値f
k
4に対応するピークが見落とされたとしても、モード次数iと固有振動数の実測値f
k
iとの対応付けの誤りに起因する誤演算は生じない。このため、張力T
k、曲げ剛性E
kI
k及び回転ばね剛性K
kは、精度よく算定され得る。
【0163】
演算式G
1
iは、
図2に示すモデルに基づいており、
図2に示すモデルでは、ケーブルkの両端に回転ばねが挿入されている。回転ばねの特性は、回転ばね剛性K
kで表されている。回転ばね剛性K
kが大きければ、ケーブルkの両端は、固定端に近い状態になっており、逆に、回転ばね剛性K
kが小さければ、ケーブルkの両端は、自由端に近い状態になっている。回転ばね剛性K
kは、探索処理(
図4のステップS125,
図6)において、張力T
k及び曲げ剛性E
kI
kとともに変数として取り扱われる。このような探索処理が行われれば、ケーブルkの両端の状態を考慮しながら、張力T
k等が算定され得る。このため、張力T
k等の算定値の精度が高くなる。
【0164】
図4に示す処理では、探索処理(ステップS125)において得られた最小値が得られたときの張力候補値、曲げ剛性候補値及びばね剛性候補値の組が張力T
k、曲げ剛性E
kI
k及び回転ばね剛性K
kの算定値として決定される。この処理に加えて、張力T
k等の算定精度を保証するための処理が行われてもよい。たとえば、
図8に示すように、ステップS125の探索処理により得られた演算式G
1
iの平方和の最小値が所定の閾値と比較されてもよい(ステップS130)。演算式G
1
iの平方和の最小値が閾値未満であれば(ステップS130:Yes)、このときの張力候補値、曲げ剛性候補値及びばね剛性候補値の組が張力T
k、曲げ剛性E
kI
k及び回転ばね剛性K
kの算定値として決定される。演算式G
1
iの平方和の最小値が閾値以上であれば(ステップS130:No)、
図6に示す初期値を変更することにより探索範囲を変えて(ステップS135)、探索処理(ステップS125)が再度行われてもよい。演算式G
1
iの平方和の最小値が閾値未満になるまで、探索範囲の変更(ステップS135)及び探索処理(ステップS125)が繰り返されることにより、「数61」の算定基準式を成立させる真値に近い張力T
k等が算定される。
【0165】
図8に示す処理において、高い算定精度を得ようとすれば、小さな閾値を設定すればよい。逆に、高い算定精度が必要でなければ、大きな閾値を設定すればよい。
【0166】
<第2実施形態>
張力T
k等の算定に利用される算定基準式は、各振動モードにおけるケーブルkの振動形状に基づいて設定されてもよい。各振動モードにおけるケーブルkの振動形状を測定するために、たとえば、
図9に示すように、ケーブル121のスパン171に2つの加速度センサ141,142が取り付けられてもよい。この場合、データ収集装置160は、これらの加速度センサ141,142からデータ受信できるようにこれらの加速度センサ141,142に接続される。なお、以下の説明では、加速度センサ141の取付位置を、「x
11=u
11」で表し、加速度センサ142の取付位置を、「x
11=u
12」で表す。
【0167】
ケーブル121の関する振動方程式(数3)の一般解は、以下のように表される。なお、以下の一般解は、上述の「数4」の「k」を「1」で表したものである。
【0168】
【0169】
また、上述の「数5」及び「数6」の境界条件の式は、ケーブル121について、以下のように書き換えられる。
【0170】
【0171】
「数65」の境界条件に基づき、「数64」の一般解における積分定数C1d1~C1d4間の関係は、以下のように表される。
【0172】
【0173】
本実施形態では、ケーブル121の振動形状を問題としているので、積分定数C1d1~C1d4の大きさは問題とならない。このため、上述の「数66」を簡素化するために、「C112=m12」とする。これにより、「数66」は、以下のように書き換えられる。
【0174】
【0175】
「数67」に基づいて、「数64」は、以下のように書き換え可能である。
【0176】
【0177】
「数68」を、上述の「数45」に倣って、「r1<1」である場合と、「r1=1」である場合と、で場合分けをすると、「数68」は、以下のように書き換え可能である。フーリエ振幅でなく、フーリエ振幅比が実測値と理論値とで等しくなるという制約式を解くので、フーリエ振幅そのものでなく、フーリエ振幅比に意味がある。このため、「r1=1」である場合に無限大となるP1
2の項は、以下の「数69」における「r1=1」であるときの式から落とされている。なお、「数68」中のX0(x11),X1(x11),X2(x11)は、「数70」~「数72」で定義される。
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
「数69」の「W11(x11)」は、加速度センサ141,142から得られるデータに対してフーリエ変換処理を施与することによって得られるフーリエ振幅に相当する。データを取り扱い易くするため、フーリエ振幅の絶対値、すなわち、「W11(x11)」の絶対値を、以下の説明では、φi
tとおく。加速度センサ141,142の取付位置におけるフーリエ振幅の絶対値の理論式を以下に示す。
【0183】
【0184】
「数73」の理論式は、張力Tk、曲げ剛性EkIk、回転ばね剛性Kk及び複数モードの固有振動数fk
iの関数である(「数4」、「数5」、「数68」及び「数69」を参照)。
【0185】
「数73」の理論式から得られる理論値の絶対値の比と、加速度センサ141,142から得られるデータに対してフーリエ変換処理を施与することによって得られるフーリエ振幅の実測値の絶対値の比(すなわち、フーリエ振幅比)と、の差がゼロの値に等しくなるという制約式を以下に示す。なお、以下の制約式では、フーリエ振幅の絶対値の比が1以下になるように場合分けをしている。
【0186】
【0187】
交差部131における撓みがゼロになった場合を考慮して、「数60」及び「数61」と同様の演算処理を行うと、「数74」は、以下のように書き換え可能である。
【0188】
【0189】
スパン171において、j個(j≧2)の加速度センサが取り付けられたときを想定すると、これらの加速度センサの取付位置を「u1j」で表し、「数75」を以下のように書き換えて、算定基準式として用いることができる。
【0190】
【0191】
「数76」は、左辺の関数がゼロに等しくなる式として示されている。「数76」の左辺の関数は、以下の定数及び変数を含んでいる。なお、「数76」の左辺の関数は、モード次数iを変数として含んでいない。
・ケーブル121の全長:L1
・交差部131の位置(すなわち、ケーブル121のスパン171,172の長さ):L11,L12
・ケーブル121の密度:ρ1
・ケーブル121の断面積:A1
・ケーブル121の固有振動数の実測値:f1
i
・ケーブル121の張力:T1
・ケーブル121の曲げ剛性:E1I1
・回転ばね剛性:K1
【0192】
(張力T1等を算出するための演算式)
「数76」の算定基準式の左辺の関数は、張力T1等を算出するための演算式G2
ijとして用いられる。
【0193】
【0194】
「数77」の演算式G2
ijの定数及び変数に数値を代入することにより、演算式G2
ijの値が算出される。演算式G2
ijから算出された値が「数76」の算定基準式の値(すなわち、ゼロ)に近ければ近いほど、演算式G2
ijに代入された数値が、「数76」の算定基準式が成り立つときの真値に近いと考えられる。このため、演算式G2
ijから算出された値を「数76」の算定基準式の値(すなわち、ゼロ)と比較することにより、張力T1等が算定され得る。この比較処理のために、以下に示すように、演算式G2
ijの平方和が設定される。
【0195】
【0196】
演算式G
2
ijの平方和がゼロに近ければ、複数の振動モードに亘って、演算式G
2
ijに代入された数値が、「数75」の算定基準式が成り立つときの真値に近いことが分かる。演算式G
2
ijの平方和を利用して張力T
1等を算出するための具体的な方法を、
図10を参照して以下に説明する。
【0197】
(張力T1等の算定方法)
まず、ケーブル121に関する以下の構造データが取得される(ステップS106)。以下の構造データは、演算式G2
ijの平方和(数77)に固定値として代入される。
・ケーブル121の全長:L1
・交差部131の位置(すなわち、ケーブル121のスパン171,172の長さ):L11,L12
・ケーブル121の密度:ρ1
・ケーブル121の断面積:A1
【0198】
構造データの取得の後、
図9に示すように、ケーブル121に加速度センサ141,142等が取り付けられ、加速度センサ141,142等にデータ収集装置160が接続される。その後、複数の振動モードについて、ケーブル121,122等の固有振動数の実測値f
1
iを取得するための実測工程(
図9のステップS111~ステップS121)が行われる。
【0199】
実測工程では、第1実施形態の張力Tk等の算定方法と同様に、ケーブル121,122が面外方向に加振され(ステップS111)、ケーブル121に生じた振動の加速度は、加速度センサ141,142等によって測定される。測定された振動の加速度は、データ収集装置160に時刻歴応答値として記録される(ステップS116)。データ収集装置160は、時刻歴応答値に対してフーリエ変換を行い、フーリエ変換後のデータのピーク値から固有振動数の実測値f1
i及びフーリエ振幅の実測値φi
m(u1j)が取得される(ステップS121)。
【0200】
上述のフーリエ変換の結果、たとえば、
図11に示すようなデータが得られる。
図11の(a)は、加速度センサ141から得られた時刻歴応答値に対するフーリエ変換後のデータである(x
11=u
11)。
図11の(b)は、「x
11=u
1j」となる取付位置に取り付けられた加速度センサ142等から得られた時刻歴応答値に対するフーリエ変換後のデータである。
【0201】
図11のデータでは、フーリエ振幅の実測値φ
i
m(u
1j)は、フーリエ振幅の実測値φ
i
m(u
11)よりも小さくなっている。したがって、フーリエ振幅φ
i
m(u
1j)を分母とし、フーリエ振幅φ
i
m(u
11)を分子として、各モード次数iについて、フーリエ振幅の実測値の比が演算される。
【0202】
ステップS106において取得された構造データ並びにステップS121において取得された固有振動数の実測値f
1
i及びフーリエ振幅の実測値の比(=φ
i
m(u
11)/φ
i
m(u
1j))のデータは、演算式G
2
ijの平方和(数77)に代入される。この結果、演算式G
2
ijの平方和(数77)は、ケーブル121の張力T
1、ケーブル121の曲げ剛性E
1I
1及び回転ばね剛性K
1を変数として含む関数として取り扱い可能になる。演算式G
2
ijの平方和(数77)への構造データ、固有振動数の実測値f
1
i及びフーリエ振幅の実測値の比のデータの入力の後、ケーブル121の張力T
1等の最適解を求めるための探索処理が行われる(ステップS126)。この探索処理は、第1実施形態と同様に、MultiStart法に基づき実行される(
図6を参照)。すなわち、探索処理では、張力T
1、曲げ剛性E
1I
1及び回転ばね剛性K
1の候補値を変えながら、演算式G
2
ijの平方和が算出される。当該平方和が探索範囲において最小となる張力T
1、曲げ剛性E
1I
1及び回転ばね剛性K
1の候補値が、張力T
1、曲げ剛性E
1I
1及び回転ばね剛性K
1として決定される。
【0203】
第1実施形態と同様に、演算式G2
ijは、モード次数iを含んでいないので、ステップS121において取得された固有振動数の実測値をモード次数iと対応付けて代入する必要はない。したがって、モード次数iと固有振動数の実測値f1
iとの対応付けの誤りに起因する誤演算は生じない。このため、張力T1、曲げ剛性E1I1及び回転ばね剛性K1は、精度よく算定され得る。
【0204】
演算式G2
ijでも、回転ばね剛性K1は、探索処理(ステップS126)において変数として取り扱われる。したがって、張力T1及び曲げ剛性E1I1は、ケーブル121の両端の支持状態が固定端に近い状態から自由端に近い状態までを考慮して算定される。このため、張力T1等の算定値の精度が高くなる。
【0205】
図9において、加速度センサ141,142は、ケーブル121のスパン171(左側のスパン)に取り付けられている。代替的に、加速度センサ141,142は、ケーブル121のスパン172(右側のスパン)に取り付けられてもよい。加速度センサ141,142が、ケーブル121のスパン171,172のいずれかに取り付けられれば、ケーブル121の張力T
1等を算定可能である。
【0206】
ケーブル122の張力T2、曲げ剛性E2I2及び回転ばね剛性K2を算定するためには、複数の加速度センサが、ケーブル122のスパン173又はスパン174に取り付けられればよい。この場合は、ケーブル122に取り付けられた複数の加速度センサから得られた時刻歴応答値のデータに基づき、ケーブル122の張力T2等を算定することが可能になる。
【0207】
第2実施形態の算定方法においても、算定精度を保証するための追加的な処理(
図8のステップS130及びステップS135と同様の処理)が実行されてもよい。すなわち、演算式G
2
ijの平方和の最小値に対して、閾値を設定し、演算式G
2
ijの平方和の最小値と閾値との比較に基づき、探索処理を継続するか否かを決定してもよい。
【0208】
第1実施形態及び第2実施形態の算定方法を組み合わせて、張力Tk等が算定されてもよい。この場合、探索処理において、以下の平方和の式から得られる演算値が最小となる張力Tk、曲げ剛性EkIk及び回転ばね剛性Kkの候補値が、張力Tk、曲げ剛性EkIk及び回転ばね剛性Kkとして決定される。
【0209】
【0210】
上述の実施形態に関して、線状体として、ケーブル121,122が用いられている。代替的に、線状体として、鋼棒や他の線状部材が用いられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0211】
上述の実施形態に関連して説明された技術は、一次元梁としてモデル化可能な様々な線状体に作用している張力及び剛性の調査に好適に利用される。
【符号の説明】
【0212】
121,122・・・・・・・・・・・・・・・・ケーブル(線状体)
130・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・把持装置
131・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・交差部