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特開2023-38822抗ウイルス性微細構造を備える物品及び抗ウイルス性微細構造の転写方法
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  • 特開-抗ウイルス性微細構造を備える物品及び抗ウイルス性微細構造の転写方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038822
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】抗ウイルス性微細構造を備える物品及び抗ウイルス性微細構造の転写方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/02 20060101AFI20230310BHJP
   A61L 2/238 20060101ALN20230310BHJP
【FI】
A61L2/02
A61L2/238
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145733
(22)【出願日】2021-09-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】591124765
【氏名又は名称】ジオマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】菅原 浩幸
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA02
4C058AA12
4C058BB02
4C058BB07
4C058JJ03
(57)【要約】
【課題】超撥水性を示しつつウイルスを不活化可能な抗ウイルス性微細構造を備える物品を提供する。
【解決手段】抗ウイルス性微細構造を備える物品1は、被加工物である物品2と、物品2の上に形成された抗ウイルス性微細構造Ma(ナノ構造)を有する超撥水性層Mと、を備え、超撥水性層が疎水性樹脂で形成されており、疎水性樹脂が抗ウイルス性材料を含有する。超撥水性層Mの表面のナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内である。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物である物品と、
該物品の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層と、を備え、
前記超撥水性層が疎水性樹脂で形成されており、
前記疎水性樹脂が抗ウイルス性材料を含有することを特徴とする抗ウイルス性微細構造を備える物品。
【請求項2】
前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、
前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性微細構造を備える物品。
【請求項3】
前記ウイルスが、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の抗ウイルス性微細構造を備える物品。
【請求項4】
前記物品が、フェイスシールド、マウスシールド、衛生マスク、パーティション、スマートフォン、タブレット端末、タッチパネル、窓ガラス、建材、メガネレンズを含む群から選択される少なくとも一以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の抗ウイルス性微細構造を備える物品。
【請求項5】
表面にグラッシーカーボン層を備える転写型を用意する転写型用意工程と、
被処理物を用意する工程と、
前記転写型と前記被処理物の表面との間に抗ウイルス性材料を含有する疎水性樹脂を付与した状態で、前記疎水性樹脂を硬化させる工程と、
硬化させられた前記疎水性樹脂で形成されたナノ構造から前記転写型を剥離する工程と、を行い、
硬化させられた前記疎水性樹脂で形成された超撥水性層の表面の前記ナノ構造が抗ウイルス性であることを特徴とする抗ウイルス性微細構造の転写方法。
【請求項6】
前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、
前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の抗ウイルス性微細構造の転写方法。
【請求項7】
抗ウイルス性のナノ構造が形成された超撥水性層の表面におけるウイルス不活化方法であって、
前記超撥水性層が疎水性樹脂で形成されており、
前記疎水性樹脂が抗ウイルス性材料を含有することを特徴とするウイルス不活化方法。
【請求項8】
前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、
前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であることを特徴とする請求項7に記載のウイルス不活化方法。
【請求項9】
前記ウイルスが、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項7又は8に記載の抗ウイルス性微細構造を備える物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性微細構造を備える物品、抗ウイルス性微細構造の転写方法及びウイルス不活化方法に関し、特に、超撥水性を示す抗ウイルス性微細構造を備える物品、抗ウイルス性微細構造の転写方法及びウイルス不活化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染症、例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因となるコロナウイルスや、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス等による感染症は深刻な社会問題となっている。
【0003】
特許文献1には、金属基材と、金属基材上に形成されたポーラス陽極酸化層とを備える殺菌作用を備えた表面を有するインテリア建材が記載されている。殺菌作用を備えるポーラス陽極酸化層の表面は、表面の法線方向から見たときの2次元的な大きさが100nm超500nm未満である複数の凹部を含み、隣接する前記複数の凹部の間に形成された突起部を有し、突起部は、隣接する複数の凹部の側面が交わることにより形成された稜線を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-150626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
陽極酸化ポーラスアルミナ転写型を利用した微細構造(モスアイ構造)の殺菌性については、多数の報告があるものの、抗ウイルス性に関しては殆ど言及されていなかった。生物である病原性大腸菌などの菌とは異なり、ウイルスは不活性化しにくいことが知られている。抗菌作用を有する表面構造として、病原菌とウイルスを不活化できるとする公知技術であっても、実際に抗ウイルス作用を示すとは限らなかった。従来のモスアイ構造は、ポーラスアルミナ版で転写されて製作された形状であり、ピッチが広く先端が太かったため、抗ウイルス作用を発揮するものではなかった。
【0006】
また、撥水性のモスアイ構造では表面に菌やウイルスが付着することができないため、抗ウイルス性を得られないことを本発明者は見出した。具体的には、撥水性のモスアイ構造は撥水効果により飛沫等が表面で球体化するため、球体化した飛沫内部の菌若しくはウイルスがモスアイ構造に接触出来ない事から抗ウイルス性が得られなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、超撥水性を示しつつウイルスを不活化可能な抗ウイルス性微細構造を備える物品及び抗ウイルス性微細構造の転写方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、超撥水性を示しつつ微細構造の形状に基づいてウイルスを不活化することが可能なウイルス不活化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、陽極酸化ポーラスアルミナを利用したモスアイ構造よりもピッチが狭く先端がより鋭利な形状の微細構造を、抗ウイルス性材料を含有する撥水性樹脂で形成することで、超撥水性を示しつつ抗ウイルス作用を発揮することを見出した。
【0009】
前記課題は、本発明の抗ウイルス性微細構造を備える物品によれば、被加工物である物品と、該物品の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層と、を備え、前記超撥水性層が疎水性樹脂で形成されており、前記疎水性樹脂が抗ウイルス性材料を含有すること、により解決される。
このとき、前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であると好適である。
このとき、前記ウイルスが、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種以上であると好適である。
このとき、前記物品が、フェイスシールド、マウスシールド、衛生マスク、パーティション、スマートフォン、タブレット端末、タッチパネル、窓ガラス、建材、メガネレンズを含む群から選択される少なくとも一以上であると好適である。
【0010】
前記課題は、本発明の抗ウイルス性微細構造の転写方法によれば、表面にグラッシーカーボン層を備える転写型を用意する転写型用意工程と、被処理物を用意する工程と、前記転写型と前記被処理物の表面との間に抗ウイルス性材料を含有する疎水性樹脂を付与した状態で、前記疎水性樹脂を硬化させる工程と、硬化させられた前記疎水性樹脂で形成されたナノ構造から前記転写型を剥離する工程と、を行い、硬化させられた前記疎水性樹脂で形成された超撥水性層の表面の前記ナノ構造が抗ウイルス性であること、により解決される。
このとき、前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であると好適である。
【0011】
前記課題は、本発明のウイルス不活化方法によれば、抗ウイルス性のナノ構造が形成された超撥水性層の表面におけるウイルス不活化方法であって、前記超撥水性層が疎水性樹脂で形成されており、前記疎水性樹脂が抗ウイルス性材料を含有すること、により解決される。
このとき、前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であると好適である。
このとき、前記ウイルスが、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種以上であると好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗ウイルス性微細構造を備える物品及び抗ウイルス性微細構造の転写方法によれば、超撥水性を有しつつウイルスを不活化し、衛生的で安全な環境を生み出すことが可能となる。また、本発明のウイルス不活化方法によれば、超撥水性を示しつつ微細構造の形状に基づいてウイルスを不活化することが可能となる。
【0013】
具体的には、撥水性の転写樹脂に抗ウイルス性材料を添加することで抗ウイルス性と超撥水性を兼ね備えた低反射、防汚性を実現することが可能となる。
【0014】
より詳細には、超撥水性を示す低反射で汚れが付きにくい抗ウイルス性フィルムにより、窓ガラス(家屋、車、電車、船等)に貼り付けるだけで、汚れが付きにくく、抗ウイルス性の表面を維持することができるため、衛生的で掃除頻度を減らすことが可能となる。また、スマートフォン、タブレット、パソコン等の画面に貼り付けることで、飛沫が付着しにくく、飛沫が付着したとしても抗ウイルス効果により常に衛生的な表面を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る抗ウイルス性微細構造を備える物品を示す模式断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る抗ウイルス性微細構造の転写方法で用いられる表面にグラッシーカーボン層を備える転写型を示す模式断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る抗ウイルス性微細構造の転写方法を示すフロー図である。
図4】各試料の反射率を示すグラフである。
図5】各試料の透過率を示すグラフである。
図6】実施例1の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
図7】実施例2の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
図8】インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス性能試験の結果である。
図9】ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性能試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)に係る抗ウイルス性微細構造を備える物品、抗ウイルス性微細構造の転写方法及びウイルス不活化方法について図1乃至図9を参照して説明する。
【0017】
<抗ウイルス性微細構造を備える物品>
本実施形態の抗ウイルス性微細構造を備える物品1は、図1に示すように、被加工物である物品1と、該物品1の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層Mと、を備え、前記超撥水性層Mが疎水性樹脂で形成されており、前記疎水性樹脂が抗ウイルス性材料を含有する。
【0018】
(被処理物2)
本実施形態の抗ウイルス性微細構造Maの転写方法において、超撥水性層Mや抗ウイルス性微細構造Maを形成する対象となる被処理物2は、抗ウイルス性を付与する対象の物品であり、特に限定されるものではない。
【0019】
処理対象となる被処理物2の具体的な例としては、フェイスシールド、マウスシールド、衛生マスクなど飛沫防止用防護具、人との接触を遮るためのパーティション(仕切り板)、スマートフォン、タブレット端末、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、各種コンピュータ、テレビ、プラズマディスプレイパネル等の各種表示機器やそのタッチパネルやディスプレイ、住宅や公共施設、医療施設などの建築物における窓ガラスや壁、ドアノブなどの建材(特に、洗面所、浴室、トイレ等の壁)、自動車、電車、航空機等の乗物の窓ガラス、ミラー、内壁、反射防止シート(反射防止フィルム)、防汚シート(防汚フィルム)、防曇シート(防曇フィルム)、透明プラスチック類からなるメガネレンズ、サングラスレンズなどのレンズなどが挙げられるが、これらの物品に限定されるものではない。
【0020】
被処理物2は、表面2aを有するが、その表面2aの形状は、平面(平板状)に限定されるものではなく、曲面など湾曲した形状(例えば、ロール状)や平面や曲面が組み合わされた複雑な形状(異形形状)、中空部材の内部表面であってもよい。本実施形態の抗ウイルス性微細構造の形成方法では、高温で処理を行うプロセスが不要であるため、樹脂など熱に弱い物質(材料)を含有する被処理物2にも好適に適用することが可能である。
【0021】
被処理物に含まれる樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂のいずれでもよく、例えば、ポリエチレン(高密度、中密度又は低密度)、ポリプロピレン(アイソタクチック型又はシンジオタクチック型)、ポリブテン、エチレン-プレピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ-(4-メチルペンテン-1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート-ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート-スチレン共重合体、アクリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン-スチレン共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプチレンテレフタレート(PBT)、エチレン-テレフタレート-イソフタレート共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン、ナイロン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース系樹脂等、又はこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせた(例えば2層以上の積層体としたもの)であってもよい。
【0022】
被処理物に含まれるガラスとしては、例えば、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。
【0023】
被処理物に含まれる金属としては、例えば、金、クロム、銀、銅、白金、インジウム、パラジウム、鉄、チタン、ニッケル、マンガン、亜鉛、錫、タングステン、タンタル、アルミニウム等が挙げられる。また、上記金属の合金である、SUS316L等のステンレス鋼、Ti-Ni合金若しくはCu-Al-Mn合金等の形状記憶合金、Cu-Zn合金、Ni-Al合金、チタン合金、タンタル合金、プラチナ合金又はタングステン合金等の合金を用いることもできる。なお、合金とは、前記金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものである。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となる共晶合金、成分元素が完全に溶け合っている固溶体、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0024】
被処理物に含まれるセラミックとしては、例えば、酸化物(例えば、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ケイ素、ジルコニア、チタン酸バリウム)、窒化物(例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素)、炭化物(例えば、炭化ケイ素)、酸窒化物等が挙げられる。また、これらの混合物を用いることもできる。
【0025】
被処理物に含まれる金属酸化物としては、例えば、アルミニウム、銅、金、銀、白金、インジウム、パラジウム、鉄、ニッケル、チタン、クロム、マンガン、亜鉛、錫、タングステンなどを金属として含有する酸化物、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化スズ(SnO、SnO)、酸化鉄(Fe、Fe)や、ペロブスカイト構造、スピネル構造、イルメナイト構造を有する複合酸化物などがあるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0026】
被処理物に含まれる金属窒化物としては、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化クロム(CrN、CrN)、窒化ハフニウム(HfN)などがあるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0027】
(超撥水性層M)
本実施形態の抗ウイルス性微細構造を備える物品1は、物品1の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層Mを備えている。超撥水性層Mは、疎水性樹脂で形成されており、疎水性樹脂が抗ウイルス性材料を含有する。
【0028】
(疎水性樹脂)
疎水性樹脂としては、硬化した際に撥水性を示すものであれば、特に限定されるものではないが、硬化した際に撥水性を示す光硬化樹脂又は熱硬化樹脂を用いることが好適である。光硬化樹脂又は熱硬化樹脂としては、紫外線などの光の照射や、加熱により硬化可能なものであれば、特に限定されず、アクリル系樹脂や、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等を用いることが可能である。疎水性樹脂としてフッ素を2%~20%ドープしたものを用いると好適である。
【0029】
(抗ウイルス性材料)
抗ウイルス性材料は、抗ウイルス性を示し、疎水性樹脂と混合可能なものであれば、特に限定されるものではない。例えば、抗ウイルス性材料として、金属系又は金属化合物系の材料を用いることが可能である。金属系又は金属化合物系の材料に含まれる金属としては、銅、銀、亜鉛やニッケルなどが例示される。
【0030】
抗ウイルス性材料として、金属系又は金属化合物系の材料のナノ粒子を用いるとよい。このとき、抗ウイルス性材料として、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、またはチオシアン化物である少なくとも1種の一価の銅化合物の粒子を有効成分として含み、当該一価の銅化合物の粒子と接触するウイルスを不活化することを特徴とする抗ウイルス剤を用いることが好ましい。このとき、一価の銅化合物が、例えば、塩化第一銅(CuCl)、臭化第一銅(CuBr)、ヨウ化第一銅(CuI)、酢酸第一銅(Cu(CHCOO))、硫化第一銅(CuS)、チオシアン酸第一銅(CuSCN)、及び酸化第一銅(CuO)からなる群から少なくとも1つ選択されるものであると特に好ましい。
【0031】
物品1は、超撥水性層Mを積層したことにより、表面の撥水性が向上しており、表面の水接触角が120°以上であり、好ましくは130°以上、より好ましくは140°以上である。超撥水性層Mの表面の水接触角が上記の範囲であるため、水に対して高い撥水性を有し、飛沫の付着を防止し、付着した汚れや異物を水洗によって容易に除去することができ、また、水滴付着による曇りを防ぐことが可能である。
【0032】
物品1は、抗ウイルス性材料を含有する超撥水性層Mを積層したことにより、抗ウイルス性を発揮する。具体的には、抗ウイルス性材料を含有しつつ抗ウイルス性微細構造Maのピッチが狭く先端を鋭利な構造にすることで、抗ウイルス性を発揮する。
【0033】
超撥水性層Mの厚さは、被処理物2の形状や用途などに応じて、適宜選択すればよく、1nm以上50μm以下とすることが好ましく、より好ましくは5nm以上30μm以下、より好ましくは5nm以上10μm以下、更に好ましくは10nm以上5.0μm以下、更に好ましくは10nm以上1.0μm以下であるとよい。超撥水性層Mの厚さが薄くなりすぎると、耐久性の観点から好ましくない。一方、超撥水性層が厚すぎると、被処理物2の用途によっては、透過率の低下、柔軟性の低下、軽量化、コスト面などの観点から好ましくないことがある。
【0034】
(抗ウイルス性微細構造Ma)
抗ウイルス性微細構造Maは、被処理物2の表面2aの上に積層された超撥水性層Mの表面の微細構造である。超撥水性層M及び抗ウイルス性微細構造Maは、後述する表面にグラッシーカーボン層を備える転写型T(図2)を利用して、本実施形態に係る抗ウイルス性微細構造Maの転写方法(図3)によって形成される。
【0035】
抗ウイルス性微細構造Maは、硬化させられた疎水性の光硬化樹脂硬化又は熱硬化樹脂によって構成されており、その根元から先端に向けて縮径した形状を有する微細な突起、より詳細には、その根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されている。
【0036】
抗ウイルス性微細構造Maを構成する微細な突起は、平均直径(D)が、10nm~400nm、好ましくは30nm~300nm、特に好ましくは50nm~150nmの範囲内であり、平均高さ(H)が、30nm~1000nm、好ましくは50nm~700nm、特に好ましくは100nm~500nmの範囲内であり、平均ピッチ(P)が、10nm~500nm、好ましくは30nm~400nm、特に好ましくは50nm~300nmの範囲内であり、先端平均直径(突起の先端から突起の高さの10%の位置における直径)が10~60nm、好ましくは15~55nm、特に好ましくは20~50nmである。なお、本願明細書において、○nm~△nmは、○nm以上△nm以下を意味する。
【0037】
抗ウイルス性微細構造Maの表面の算術平均高さ(Sa)は、20nm以上100nm以下、好ましくは、25nm以上80nm以下、特に好ましくは、30nm以上70nm以下である。算術平均高さ(Sa)は、2次元の粗さパラメータである算術平均粗さ(Ra)を3次元に拡張したものであり、3次元粗さパラメータ(3次元高さ方向パラメータ)である。算術平均高さ(Sa)は、測定対象領域において、各点の高さの差の絶対値の平均を表す。
【0038】
抗ウイルス性微細構造Maの表面の最大高さ(Sz)は、200nm以上700nm以下、好ましくは、250nm以上600nm以下、特に好ましくは、300nm以上500nm以下である。最大高さ(Sz)は、2次元の粗さパラメータであるRzを3次元に拡張したパラメータである。最大高さ(Sz)は、測定対象領域において、表面の最も高い点から最も低い点までの距離(換言すると、表面の山高さSpの最大値と谷深さSvの最大値の和)を表す。
【0039】
(抗ウイルス作用)
ポーラスアルミナ版で転写されて製作された従来のモスアイ構造は、微細構造自体のサイズが大きく、ピッチが広く、先端が太かったため、抗ウイルス作用を発揮するものではなかった。これに対して、本実施形態の抗ウイルス性微細構造Maは、抗ウイルス性材料を含有した先端が鋭利な形状であり、ピッチを狭くすることでウイルスを不活性化させることが可能となっている。
【0040】
本実施形態に係る抗ウイルス性微細構造を備える物品、抗ウイルス性微細構造の転写方法及びウイルス不活化方法において、不活性化の対象となるウイルスは、特に限定されるものではない。不活性化の対象となるウイルスとしては、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等によらず、様々なウイルスを例示されるが、空気感染、飛沫感染するコロナウイルスやインフルエンザウイルス、ノロウイルスやロタウイルスを対象とすることが好適である。特に、エンベロープを有するウイルスであるコロナウイルス又はインフルエンザウイルスを対象とすることが好適である。
【0041】
コロナウイルスの例としては、2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS:Severe acute respiratory syndrome)の病原体であるSARSウイルス、中東呼吸器症候群(MERS:Middle East respiratory syndrome)の病原体であるMERSウイルス、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因となるSARS関連コロナウイルス(SARSr-CoV)に属するコロナウイルスである2019新型コロナウイルス(2019-nCoV,SARS-CoV-2)等が例示されるが、特に限定されるものではない。
【0042】
インフルエンザウイルスの例としては、ヒトインフルエンザウイルス、鳥インフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等が例示されるが、特に限定されるものではない。
【0043】
ウイルスは、新型ウイルスの出現や、突然変異によって変異型ウイルスが出現するため、ワクチンや医薬品の開発に時間がかかることがあるが、微細構造によってウイルスのエンペロープを破壊する場合、エンペロープ型ウイルスであれば、その種類や変異によらず、不活性化をすることが可能である。
【0044】
<転写型T>
本実施形態に係る抗ウイルス性微細構造Maの転写方法で用いられる表面にグラッシーカーボン層30を備える転写型Tは、図2に示すように、基材10と、該基材10の上に形成された下地層20と、該下地層20の上に形成されたグラッシーカーボン層30と、を備え、該グラッシーカーボン層30は、反転された微細構造RMを表面30aに有している。
【0045】
(基材10)
基材10は、樹脂、ゴム、ガラス、金属、合金、セラミクス(金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物)、シリコンウエハ(Siウエハ)、化合物半導体基板に用いられる化合物半導体、パワーデバイス用基板に用いられる炭化ケイ素(SiC)、シリコンなどの太陽電池材料を含む群より選択される一種以上の物質を含有する。基材10として、ゴムなど柔軟性を有するものを採用した場合、転写型Tを用いて抗ウイルス性微細構造Maを転写する際に、湾曲形状や異形の物品(被処理物)に対しても、物品の形状に沿って転写型Tを密着させることができるため好適である。
【0046】
(下地層20)
下地層20は、金属、合金、セラミクス(金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物)、ケイ素(Si)を含む群より選択される一種以上の物質を含有する。
下地層20の膜厚は、10nm以上500nm以下であることが好ましい。
基材10として樹脂(プラスチックやフィルム)を含む材料を採用した場合、下地層20として、Cr、Ti、Ta及びこれらの組み合わせ等を用いることが好ましい。
下地層を基材10の表面に付加することで、グラッシーカーボン層30の密着性が向上するとともに、グラッシーカーボン層30における膜クラックの発生も抑制することが可能となる。
【0047】
(グラッシーカーボン層30)
グラッシーカーボン層30は、下地層20の上に形成されたグラッシーカーボンを含む層である。グラッシーカーボン層30の膜厚は、300nm以上5μm以下であることが好ましい。ここで、グラッシーカーボン(Glassy carbon)とは、ガラス状炭素やアモルファス状炭素とも呼ばれ、外観が黒色、かつ、ガラス状で非晶質の炭素であり、均質かつ緻密な構造を有する。グラッシーカーボンは、他の炭素材料と同様の特徴である導電性能、化学的安定性、耐熱性、高純度等の性能に加え、材料表面が粉化し脱落することがないという優れた特徴を有する。グラッシーカーボンの一般的な特性としては、密度が1.45~1.60g/cmと軽量であり、曲げ強度が50~200MPaと高強度であり、硫酸や塩酸などの酸に強く耐食性がある。導電性は比電気抵抗が4~20mΩcmであり黒鉛と比べるとやや高い値を示すが、ガス透過性が10-9~10-12cm/sと非常に小さいなどの特徴がある。
【0048】
グラッシーカーボン層30は、その表面30aに反転された微細構造RMを有している。ここで、反転された微細構造RMとは、抗ウイルス性微細構造Maを形成することができる転写型Tの表面の構造をいう。
【0049】
本実施形態に係る転写型Tにおける、反転された微細構造RMは、ランダムに円錐状の穴が配列して形成されている。このとき、反転された微細構造RMを構成するグラッシーカーボンの微細構造は、平均直径(D)が、10nm~400nm、好ましくは30nm~300nm、特に好ましくは50nm~150nmの範囲内であり、平均高さ(H)が、30nm~1000nm、好ましくは50nm~700nm、特に好ましくは100nm~500nmの範囲内であり、平均ピッチ(P)が、10nm~500nm、好ましくは30nm~400nm、特に好ましくは50nm~300nmの範囲内である。
【0050】
本実施形態に係る転写型Tにおける、グラッシーカーボン層30の表面30aの算術平均高さ(Sa)は、50nm以上500nm以下である。
【0051】
本実施形態に係る転写型Tにおける、グラッシーカーボン層30の表面30aの最大高さ(Sz)は、200nm以上700nm以下である。
【0052】
転写型Tの形状は、ロール状、平板状、異形形状を含む群より選択される一種以上の形状を含む。
【0053】
<抗ウイルス性微細構造の転写方法>
上記の表面にグラッシーカーボン層30を備える転写型Tを利用して、図3に示すように、被処理物2の表面に抗ウイルス性微細構造Maを転写することができる。
【0054】
具体的には、本実施形態の抗ウイルス性微細構造の転写方法は、表面にグラッシーカーボン層30を備える転写型Tを用意する転写型用意工程(ステップS11)と、被処理物2を用意する工程(ステップS12)と、前記転写型Tと前記被処理物2の表面2aとの間に抗ウイルス性材料を含有する疎水性樹脂を付与した状態で、前記疎水性樹脂を硬化させる工程と、(ステップS13)と、前記硬化させられた前記疎水性樹脂で形成されたナノ構造(抗ウイルス性微細構造Ma)から前記転写型Tを剥離する工程(ステップS14)と、を行い、硬化させられた前記疎水性樹脂で形成された超撥水性層Mの表面の前記ナノ構造が抗ウイルス性であることを特徴とするものである。
【0055】
以上のステップS11~S14で、被処理物2の表面2aに抗ウイルス性を付与することができる。具体的には、被処理物2の表面2aに硬化させられた疎水性樹脂で形成された超撥水性を示すナノ構造(抗ウイルス性微細構造Ma)を転写することができる。以下、各ステップについて、詳細に説明をする。
【0056】
(転写型用意工程)
転写型用意工程(ステップS11)では、図2に示す表面にグラッシーカーボン層を備える転写型T、具体的には、基材10と、該基材10の上に形成された下地層20と、該下地層20の上に形成されたグラッシーカーボン層30と、を備え、該グラッシーカーボン層30は、反転された微細構造RMを表面30aに有する転写型Tを用意する。ここで、反転された微細構造RMは、ランダムに円錐状の穴が配列して形成されている。このとき、反転された微細構造RMを構成するグラッシーカーボンの微細構造は、平均直径(D)が、10nm~400nm、好ましくは30nm~300nm、特に好ましくは50nm~150nmの範囲内であり、平均高さ(H)が、30nm~1000nm、好ましくは50nm~700nm、特に好ましくは100nm~500nmの範囲内であり、平均ピッチ(P)が、10nm~500nm、好ましくは30nm~400nm、特に好ましくは500nm~300nmの範囲内である。
【0057】
(被処理物を用意する工程)
被処理物を用意する工程(ステップS12)では、処理の対象となる被処理物2を用意する。このとき、事前に、被処理物2の表面2aを洗浄したり、帯電処理をしたりするなど、疎水性樹脂の成膜性(積層性)を向上させるような前処理を行ってもよい。
【0058】
(疎水性樹脂を硬化させる工程)
疎水性樹脂を硬化させる工程(ステップS13)では、転写型Tと被処理物2の表面100aとの間に抗ウイルス性材料を含有する疎水性樹脂を付与した状態で、前記疎水性樹脂を硬化させる。
【0059】
このとき、転写型Tの形状がロール状である場合、ロール状の転写型T型を、その軸を中心に回転させることによって、転写型Tの表面構造である反転された微細構造RMを被処理物2に連続的に転写できる。被加工物として、ロール状のフィルムを用いる場合には、ロール・ツー・ロール方式を採用することが可能となる。
【0060】
また、転写型Tの基材10として、柔軟性を有する材料を採用した場合、減圧・加圧を組み合わせることで柔軟な転写型Tを、被処理物2に対して密着させた状態で疎水性の光硬化樹脂に光を照射することで、光硬化樹脂を硬化させることが可能となる。柔軟性を有する転写型Tを用いることで、異形の被処理物2に対しても抗ウイルス性微細構造を転写することが可能となる。
【0061】
(転写型を剥離する工程)
転写型を剥離する工程(ステップS14)では、硬化させられた疎水性樹脂で形成されたナノ構造(抗ウイルス性微細構造Ma)から転写型Tを剥離する。
【0062】
<ウイルス不活化方法>
上記の抗ウイルス性微細構造Ma(ナノ構造)を利用して、ウイルスを不活化することができる。具体的には、本実施形態のウイルス不活化方法は、抗ウイルス性のナノ構造(抗ウイルス性微細構造Ma)が形成された超撥水性層Mの表面におけるウイルス不活化方法であって、前記超撥水性層Mが疎水性樹脂で形成されており、前記疎水性樹脂が抗ウイルス性材料を含有するものである。
【0063】
超撥水性のモスアイ構造(ナノ構造)はウイルスが付着しない表面であると考えられていたが、埃等の異物が存在した際は、当該異物を起点としウイルスが付着してしまう。更に飛沫等が同様の条件で付着した際は飛沫が球体化してしまいウイルスがモスアイ構造に触れる事が出来ず抗ウイルス効果は得られない。しかし、超撥水性層Mを、抗ウイルス性材料を含有する疎水性樹脂で形成することで球体化した飛沫に対しても抗ウイルス効果が得られるため常に衛生的な表面を維持することが可能となる。また、モスアイ構造により低反射、撥水性樹脂により防汚効果が得られることから視認性が向上し汚れが付着しない表面となる。超撥水性であるモスアイ構造の表面の水の接触角は150°程度であることから、飛沫や汗は付着しない抗ウイルス性表面となる。また、仮に、モスアイ構造の表面に何らかの影響で飛沫が付着したとしても、抗ウイルス性材料の効果により衛生面が維持される。
【0064】
本実施形態では、主として本発明に係る抗ウイルス性微細構造を備える物品、抗ウイルス性微細構造の転写方法及びウイルス不活化方法について説明した。ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【実施例0065】
以下、本発明の抗ウイルス性微細構造を備える物品、抗ウイルス性微細構造の転写方法及びウイルス不活化方法の具体的実施例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0066】
<使用した転写版>
(グラッシーカーボン層を備える転写型)
グラッシーカーボン層を備える転写型として、その表面に、反転された微細構造が、平均直径(D)が50~350nm、平均高さ(H)が200~450nm、平均ピッチ(P)が20~300nmであるものを用いた。実施例1の転写型は、特開2020-76996号公報に記載の方法によって作成することが可能である。
【0067】
なお、転写版についての上記のパラメータは、表面の状態を電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製、S-4300)を用いて観察して求めた値である。
【0068】
<微細構造の転写>
転写型を用いて、微細構造の転写を行った。転写型に、フッ素系離型剤(ダイキン工業社製、製品名:UD-509)を塗布して離型処理を行った。被処理物(物品)として、トリアセチルセルロース(Triacetylcellulose)フィルム(TACフィルム)を用いた。
【0069】
次に、抗ウイルス性材料として、一価銅化合物ナノ粒子分散液(株式会社NBCメッシュテック社製、Cufitec(登録商標)分散液)を0wt%(比較例1)、10wt%(実施例1)、20wt%(実施例2)添加した疎水性樹脂である紫外線硬化樹脂(アクリル系樹脂、オリジン電気社製、製品名:UVコート TP)を用意した。抗ウイルス性材料の添加量(wt%)は、疎水性樹脂溶液に対する割合を示している。抗ウイルス性材料を含有する疎水性樹脂を転写型の表面に塗布し、被処理物であるTACフィルムを密着させ、紫外光(メタルハライドランプ光源、波長200nm~450nm、強度600mJ、照射時間40秒)を照射して硬化処理を行った。そして、硬化させられた光硬化樹脂で形成された表面微細構造から転写型を剥離することで、表面微細構造(ナノ構造)を備えるTACフィルムを得た。
【0070】
・比較例1:抗ウイルス性材料0%
・実施例1:抗ウイルス性材料10%
・実施例2:抗ウイルス性材料20%
【0071】
<微細構造の評価>
転写された微細構造の評価を行った。具体的には、転写された微細構造について、分光測定、表面状態の観察、表面粗さの測定、接触角の評価を行った。
【0072】
(1.分光測定)
各試料の透過率及び反射率を、分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製、U-4100)を用い、400nmから700nmの波長領域で測定した。分光測定の結果を図3及び図4に示す。図4は、各試料の反射率を示すグラフである。図5は、各試料の透過率を示すグラフである。400nm~700nmにおいて、反射率は0.4%以下と低くなっていた(図4)。450nm~700nmにおいて、透過率は93%以上と高くなっていた(図5)。各パラメータを以下の表1に示す。なお、曇り度(ヘイズ値)は、ヘイズメーター(スガ試験社製、型番HGM-2DP)を用いて25℃の条件で測定した。
【0073】
【表1】
【0074】
(2.表面状態の観察)
転写された微細構造の表面の状態を電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製、S-4300)を用いて観察した結果を図6及び図7に示す。図6は、実施例1の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。図7は、実施例2の試料の表面の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【0075】
実施例1及び実施例2の試料において、転写された微細構造は、その根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されていた。微細な突起は、平均直径が、100nm以下であり更に先端平均直径が、25nm以下、平均高さ(H)が、150nmであり、平均ピッチが、100nmであった。ここで、先端平均直径とは、突起の先端から突起の高さの10%の位置における直径である。
【0076】
実施例1及び実施例2の試料において、抗ウイルス性材料の添加によるナノ構造の形状変化は無かった。抗ウイルス性材料の粒子がナノ構造の先端に析出していなかった。なお、抗ウイルス性材料に含まれる一価銅化合物ナノ粒子は、直径が数百nmであるため、ナノ構造の先端には付着することができない。つまり、抗ウイルス性材料に含まれるナノ粒子が疎水性樹脂の内部に均一に分散することで後述する抗ウイルス性が発揮されている。
【0077】
(3.表面粗さの測定)
各試料の転写された微細構造の表面粗さについて評価を行った。具体的には、原子間力顕微鏡(AFM、Innova(Bruker AXS K.K.製))を用いて、各試料の表面の算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)を測定した。
【0078】
グラッシーカーボン層を備える転写型の表面(つまり、グラッシーカーボン層の表面)の算術平均高さ(Sa)は、50nm以上70nm以下の範囲にあり、最大高さ(Sz)は400nm以上500nm以下の範囲内にあった。
【0079】
実施例1及び実施例2における表面の微細構造の算術平均高さ(Sa)は、50nm以上500nm以下の範囲にあり、最大高さ(Sz)は200nm以上700nm以下の範囲内にあった。
【0080】
(4.接触角測定)
実施例1及び実施例2の試料の表面における接触角の測定を、接触角計(協和界面科学社製、型番CA-X)を用いて25℃の条件で測定した。実施例1の試料の表面における接触角は145°であり、実施例2の試料の表面における接触角は147°であった。つまり、いずれの試料においても超撥水性を示すことが分かった。
【0081】
<抗ウイルス性能試験>
各試料の抗ウイルス性能について試験を行った。試験は、SIAA認証試験(ISO21702:2019)に準じた方法で行った。
【0082】
(試験概要)
・ウイルスA:A型インフルエンザウイルス(H3N2、A/Hong Kong/8/68)、サイズは80~120nm
・宿主細胞:MDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞株)
・反応条件:25℃、6時間、24時間
・洗い出し液:SCDLP培地
・感染価測定法:プラーク法
【0083】
・ウイルスB:ネコカリシウイルス(Feline calicivirus F-9)、サイズは約30nm
・宿主細胞:CRFK細胞(ネコ腎臓由来細胞)
・反応条件:25℃、6時間、24時間
・洗い出し液:SCDLP培地
・感染価測定法:プラーク法
【0084】
(試験操作)
a)サンプル片(5×5cm)をシャーレ底面に貼り付けた。
b)ウイルス液400μLをサンプル片上に接種し、PETフィルム(4×4cm)を被せた。具体的には、ウイルス液を寒天溶液で希釈し、試料にウイルス液400μLを接種してカバーフィルムを被せた。
c)25℃下で6時間、24時間静置した。
d)洗い出し液10mLを添加し、ピペッティングにてウイルスを洗い出した。
e)洗い出し液中のウイルス感染価をプラーク法にて測定した。
【0085】
(試験結果1:インフルエンザウイルス)
インフルエンザウイルス(エンベロープあり)についての結果を図8及び以下の表2に示す。
【0086】
試験成立条件は、未加工試験片(比較例1)の接種直後の感染価対数値について、次の式が成立することとした。
(Lmax-Lmin)/Lmean≦0.2
max:感染価対数値の最大値
min:感染価対数値の最小値
mean:3検体の試験片の感染価対数値の平均値
→比較例1:0.014、成立
・未加工試験片の接種直後の感染価平均値が2.5×10~1.2×10PFU/cm→比較例1:3.7×10PFU/cm、成立
・未加工試験片の任意時間後の感染価が、3検体全て6.2×10PFU/cm以上→比較例1(24時間静置):8.1×10PFU/cm以上、成立
【0087】
評価基準は、以下の通り。
・抗ウイルス活性値:R=(U-U)-(A-U)=U-A
:未加工品のウイルス接種直後の3検体の感染価対数値の平均値
:未加工品のウイルス接種より任意時間静置後の3検体の感染価対数値の平均値
:加工品のウイルス接種より任意時間静置後の3検体の感染価対数値の平均値
・減少率:(10^U-10^A)/10^U×100
【0088】
【表2】
【0089】
※1:抗ウイルス活性値の定義に基づき算出しなかった。
※2:接種ウイルス数からの減少率を算出した。
【0090】
(試験結果2:ネコカリシウイルス)
ネコカリシウイルスに(エンベロープなし)ついての結果を図9及び以下の表3に示す。
【0091】
試験成立条件は、未加工試験片(比較例1)の接種直後の感染価対数値について、次の式が成立することとした。
(Lmax-Lmin)/Lmean≦0.2
→比較例1:0.036、成立
・未加工試験片の接種直後の感染価平均値が2.5×10~1.2×10PFU/cm→比較例1:1.0×10PFU/cm、成立
・未加工試験片の任意時間後の感染価が、3検体全て6.2×10PFU/cm以上→比較例1(24時間静置):3.3×10PFU/cm以上、成立
【0092】
【表3】
【0093】
インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス共に、24時間静置後にはウイルス感染価が検出限界に達し、抗ウイルス活性値4.0以上となり抗ウイルス性能が確認された。また、6時間静置後でも、実施例1、実施例2の試料で共に感染価が減少する傾向が確認できた。
【0094】
抗ウイルス性材料を添加しない比較例1の試料では抗ウイルス性が無いことから、疎水性樹脂に抗ウイルス性材料を添加することで超撥水性と抗ウイルス性が両立できることが示された。
【0095】
以上の結果から、本実施形態の抗ウイルス性微細構造は、約100nmのウイルスや、約30nmという小型のウイルスに対しても、ウイルス不活化作用、つまり、抗ウイルス性を示すことがわかった。また、本実施形態の抗ウイルス性微細構造は、エンベロープを有するウイルスや、エンベロープを有しないウイルスの両方に対して抗ウイルス性を示すことがわかった。
【0096】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因となる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、約100nmとインフルエンザウイルスと同等のサイズのエンベロープを有するウイルスであるため、本実施形態の抗ウイルス性微細構造は、新型コロナウイルスも不活化できることが示唆された。
【符号の説明】
【0097】
1 抗ウイルス性微細構造を備える物品
2 被処理物(物品)
2a 表面
M 超撥水性層
Ma 抗ウイルス性微細構造(ナノ構造)
T 転写型
10 基材
10a 基材表面
20 下地層
30 グラッシーカーボン層
30a グラッシーカーボン層の表面
RM 反転された微細構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2022-01-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物である物品と、
該物品の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層と、を備え、
前記超撥水性層が疎水性樹脂で形成されており、
前記疎水性樹脂が抗ウイルス性材料を含有し、
前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、
前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であり、
インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルスからなる群から選択される1種以上のウイルスを不活化することが可能であり、
SIAA認証試験(ISO21702:2019)に準じた方法で行った24時間経過後のウイルスの減少率が99.99以上であることを特徴とする抗ウイルス性微細構造を備える物品。
【請求項2】
前記物品が、フェイスシールド、マウスシールド、衛生マスク、パーティション、スマートフォン、タブレット端末、タッチパネル、窓ガラス、建材、メガネレンズを含む群から選択される少なくとも一以上であることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性微細構造を備える物品。
【請求項3】
表面にグラッシーカーボン層を備える転写型を用意する転写型用意工程と、
被処理物を用意する工程と、
前記転写型と前記被処理物の表面との間に抗ウイルス性材料を含有する疎水性樹脂を付与した状態で、前記疎水性樹脂を硬化させる工程と、
硬化させられた前記疎水性樹脂で形成されたナノ構造から前記転写型を剥離する工程と、を行い、
硬化させられた前記疎水性樹脂で形成された超撥水性層の表面の前記ナノ構造が抗ウイルス性であり、
前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、
前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であり、
インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルスからなる群から選択される1種以上のウイルスを不活化することが可能であり、
SIAA認証試験(ISO21702:2019)に準じた方法で行った24時間経過後のウイルスの減少率が99.99以上であることを特徴とする抗ウイルス性微細構造の転写方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性微細構造を備える物品及び抗ウイルス性微細構造の転写方法に関し、特に、超撥水性を示す抗ウイルス性微細構造を備える物品及び抗ウイルス性微細構造の転写方法に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
前記課題は、本発明の抗ウイルス性微細構造を備える物品によれば、被加工物である物品と、該物品の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層と、を備え、前記超撥水性層が疎水性樹脂で形成されており、前記疎水性樹脂が抗ウイルス性材料を含有し、前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であり、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルスからなる群から選択される1種以上のウイルスを不活化することが可能であり、SIAA認証試験(ISO21702:2019)に準じた方法で行った24時間経過後のウイルスの減少率が99.99以上であること、により解決される
のとき、前記物品が、フェイスシールド、マウスシールド、衛生マスク、パーティション、スマートフォン、タブレット端末、タッチパネル、窓ガラス、建材、メガネレンズを含む群から選択される少なくとも一以上であると好適である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
前記課題は、本発明の抗ウイルス性微細構造の転写方法によれば、表面にグラッシーカーボン層を備える転写型を用意する転写型用意工程と、被処理物を用意する工程と、前記転写型と前記被処理物の表面との間に抗ウイルス性材料を含有する疎水性樹脂を付与した状態で、前記疎水性樹脂を硬化させる工程と、硬化させられた前記疎水性樹脂で形成されたナノ構造から前記転写型を剥離する工程と、を行い、硬化させられた前記疎水性樹脂で形成された超撥水性層の表面の前記ナノ構造が抗ウイルス性であり、前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であり、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルスからなる群から選択される1種以上のウイルスを不活化することが可能であり、SIAA認証試験(ISO21702:2019)に準じた方法で行った24時間経過後のウイルスの減少率が99.99以上であること、により解決される
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正書】
【提出日】2022-04-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物である物品と、
該物品の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層と、を備え、
前記超撥水性層が疎水性樹脂で形成されており、
前記疎水性樹脂が抗ウイルス性材料を10wt%以上含有し、
前記抗ウイルス性材料は、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、またはチオシアン化物である少なくとも1種の一価の銅化合物のナノ粒子であり、
前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、
前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であり、
インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルスからなる群から選択される1種以上のウイルスを不活化することが可能であり、
SIAA認証試験(ISO21702:2019)に準じた方法で行った24時間経過後のウイルスの減少率が99.994より大きいことを特徴とする抗ウイルス性微細構造を備える物品。
【請求項2】
前記物品が、フェイスシールド、マウスシールド、衛生マスク、パーティション、スマートフォン、タブレット端末、タッチパネル、窓ガラス、建材、メガネレンズを含む群から選択される少なくとも一以上であることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性微細構造を備える物品。
【請求項3】
表面にグラッシーカーボン層を備える転写型を用意する転写型用意工程と、
被処理物を用意する工程と、
前記転写型と前記被処理物の表面との間に、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、またはチオシアン化物である少なくとも1種の一価の銅化合物のナノ粒子である抗ウイルス性材料を10wt%以上含有する疎水性樹脂を付与した状態で、前記疎水性樹脂を硬化させる工程と、
硬化させられた前記疎水性樹脂で形成されたナノ構造から前記転写型を剥離する工程と、を行い、
硬化させられた前記疎水性樹脂で形成された超撥水性層の表面の前記ナノ構造が抗ウイルス性であり、
前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、
前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であり、
インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルスからなる群から選択される1種以上のウイルスを不活化することが可能であり、
SIAA認証試験(ISO21702:2019)に準じた方法で行った24時間経過後のウイルスの減少率が99.994より大きいことを特徴とする抗ウイルス性微細構造の転写方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
前記課題は、本発明の抗ウイルス性微細構造を備える物品によれば、被加工物である物品と、該物品の上に形成されたナノ構造を有する超撥水性層と、を備え、前記超撥水性層が疎水性樹脂で形成されており、前記疎水性樹脂が抗ウイルス性材料を10wt%以上含有し、前記抗ウイルス性材料は、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、またはチオシアン化物である少なくとも1種の一価の銅化合物のナノ粒子であり、前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であり、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルスからなる群から選択される1種以上のウイルスを不活化することが可能であり、SIAA認証試験(ISO21702:2019)に準じた方法で行った24時間経過後のウイルスの減少率が99.994より大きいこと、により解決される。
このとき、前記物品が、フェイスシールド、マウスシールド、衛生マスク、パーティション、スマートフォン、タブレット端末、タッチパネル、窓ガラス、建材、メガネレンズを含む群から選択される少なくとも一以上であると好適である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
前記課題は、本発明の抗ウイルス性微細構造の転写方法によれば、表面にグラッシーカーボン層を備える転写型を用意する転写型用意工程と、被処理物を用意する工程と、前記転写型と前記被処理物の表面との間に、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、またはチオシアン化物である少なくとも1種の一価の銅化合物のナノ粒子である抗ウイルス性材料を10wt%以上含有する疎水性樹脂を付与した状態で、前記疎水性樹脂を硬化させる工程と、硬化させられた前記疎水性樹脂で形成されたナノ構造から前記転写型を剥離する工程と、を行い、硬化させられた前記疎水性樹脂で形成された超撥水性層の表面の前記ナノ構造が抗ウイルス性であり、前記超撥水性層の表面の前記ナノ構造が、根元から先端に向けて縮径し、先端が先鋭化した針状又は錐状の形状を有する微細な突起がランダムに配列して形成されており、前記微細な突起の平均直径が、10nm~400nmであり、平均高さが、30nm~1000nmであり、平均ピッチが、10nm~500nmの範囲内であり、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ノロウイルスからなる群から選択される1種以上のウイルスを不活化することが可能であり、SIAA認証試験(ISO21702:2019)に準じた方法で行った24時間経過後のウイルスの減少率が99.994より大きいこと、により解決される。