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特開2023-38838品質予測装置、品質予測モデル生成装置、品質予測モデル生成方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038838
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】品質予測装置、品質予測モデル生成装置、品質予測モデル生成方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20230310BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20230310BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20230310BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20230310BHJP
   B21B 1/00 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q50/04
G06Q10/04
G05B23/02 R
B21B1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145760
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】森田 彰
【テーマコード(参考)】
3C100
3C223
4E002
5L049
【Fターム(参考)】
3C100AA29
3C100AA57
3C100AA70
3C100BB05
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB27
3C100EE10
3C223BA01
3C223CC01
3C223EB01
3C223EB02
3C223FF04
3C223FF22
3C223FF26
3C223GG03
4E002AD01
4E002AD05
4E002BA01
4E002BC05
4E002BC06
4E002BC07
4E002BD02
4E002BD07
4E002CA08
5L049AA04
5L049CC03
(57)【要約】
【課題】品質変数が複数の場合にも操業変数と品質変数との関係を捉えやすい品質予測モデルを作成する。
【解決手段】品質予測モデル生成装置は、製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、操業データと品質データとの関連性を解析し、品質予測モデルを作成する品質予測モデル作成部と、品質予測モデルを出力する出力部と、を備える。操業変数は、すべての物理的要素に影響する共通操業変数と、一部の物理的要素のみに影響する個別操業変数とを含む。品質予測モデル作成部は、共通モデル関係式を共通操業変数を用いて算出し、個別モデル関係式を共通操業変数及び個別操業変数を用いて品質変数毎に算出し、共通モデル関係式と個別モデル関係式とに基づいて、全体領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を品質予測モデルとして算出する。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の品質を予測する品質予測装置であって、
製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと製造された前記製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、前記操業データと前記品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する品質予測モデル作成部と、
前記品質予測モデルに基づいて、前記製品の品質を予測する品質予測部と、
を備え、
前記品質予測モデル作成部は、
前記操業データの前記操業変数が値としてとる領域を全体領域として、当該全体領域を複数の局所領域に分割する分割パターン候補を複数個作成する分割パターン候補作成部と、
前記各分割パターン候補について、前記各局所領域における前記操業データと前記品質データとの関係を表す局所関係式を、前記品質変数毎に算出する局所関係式算出部と、
前記各分割パターン候補について、前記各分割パターン候補の各局所領域における前記各局所関係式の重みとして、前記品質変数に共通の活性度関数を算出する活性度関数算出部と、
前記品質変数に共通の前記活性度関数と前記品質変数毎に算出された局所関係式とに基づいて、前記全体領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を算出する関係式算出部と、
前記操業データから前記関係式算出部にて算出された関係式を用いて算出される品質予測データと当該操業データに対応する前記品質データとに基づいて、前記関係式の予測誤差を前記各分割パターン候補についてそれぞれ算出し、当該予測誤差が最小となる分割パターン候補の関係式を選択する最小誤差関係式選択部と、
前記最小誤差関係式選択部により選択された分割パターンの関係式を前記品質予測モデルとして決定する品質予測モデル決定部と、
を有する、品質予測装置。
【請求項2】
品質予測モデルを生成する品質予測モデル生成装置であって、
製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと製造された製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、前記操業データと前記品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する品質予測モデル作成部と、
前記品質予測モデルを出力する出力部と、
を備え、
前記操業変数は、すべての物理的要素に影響する共通操業変数と、一部の前記物理的要素のみに影響する個別操業変数とを含み、
前記品質予測モデル作成部は、
すべての物理的要素に共通な前記操業データと前記品質データとの関係を表す前記品質変数に共通の共通モデル関係式を、前記共通操業変数を用いて算出する共通モデル算出部と、
一部の物理的要素のみに関係する前記操業データと前記品質データとの関係を表す個別モデル関係式を、前記共通操業変数及び前記個別操業変数を用いて、前記品質変数毎に算出する個別モデル算出部と、
前記品質変数に共通の前記共通モデル関係式と前記品質変数毎に算出された個別モデル関係式とに基づいて、前記共通操業変数が値としてとる領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を前記品質予測モデルとして算出する関係式算出部と、
を有する、品質予測モデル生成装置。
【請求項3】
前記製造プロセスは複数の圧延機からなるタンデム圧延機であり、前記物理的要素は一台の圧延機である、請求項2に記載の品質予測モデル生成装置。
【請求項4】
少なくとも前記共通モデル関係式は、非線形式である、請求項2または3に記載の品質予測モデル生成装置。
【請求項5】
前記非線形式は、一般化線形モデル、カーネル法、または、ニューラルネットワークにより表される、請求項4に記載の品質予測モデル生成装置。
【請求項6】
前記製造プロセスから逐次取得される製品の操業データ及び品質データに基づいて、前記個別モデル関係式を更新する更新処理部をさらに備える、請求項2~5のいずれか1項に記載の品質予測モデル生成装置。
【請求項7】
前記品質予測モデル作成部は、
前記共通操業変数が値としてとる領域を全体領域として、当該全体領域を複数の局所領域に分割する分割パターン候補を複数個作成する分割パターン候補作成部と、
前記操業データから前記関係式算出部にて算出された関係式を用いて算出される品質予測データと当該操業データに対応する前記品質データとに基づいて、前記関係式の予測誤差を前記各分割パターン候補についてそれぞれ算出し、当該予測誤差が最小となる分割パターン候補の関係式を選択する最小誤差関係式選択部と、
前記最小誤差関係式選択部により選択された分割パターンの関係式を前記品質予測モデルとして決定する品質予測モデル決定部と、
を有し、
前記個別モデル算出部は、前記分割パターン候補作成部により作成された前記各分割パターン候補について、前記各局所領域における前記共通操業変数及び品質データの品質指標が対応する物理的要素に対応する前記個別操業変数を用いて、前記各局所領域における前記操業データと前記品質データとの関係を表す局所関係式を、前記品質変数毎に算出し、
前記共通モデル算出部は、前記各分割パターン候補について、前記各分割パターン候補の各局所領域における前記各局所関係式の重みとして、前記品質変数に共通の活性度関数を算出する、請求項2または3に記載の品質予測モデル生成装置。
【請求項8】
前記品質予測モデル決定部は、
選択した分割パターンの予測誤差の収束判定を行い、
前記予測誤差が収束していないと判定した場合、前記分割パターン候補作成部により、選択されている分割パターン候補の分割数を増やし、複数の新たな分割パターン候補を生成し、
前記予測誤差が収束したと判定した場合、収束したときの前記分割パターンの関係式を前記品質予測モデルとして決定する、請求項7に記載の品質予測モデル生成装置。
【請求項9】
前記局所関係式は、複数の前記操業変数を入力変数とする線形多項式である、請求項7または8に記載の品質予測モデル生成装置。
【請求項10】
前記個別モデル算出部は、重回帰、ステップワイズ法、スパース回帰、部分最小二乗法のいずれかの手法により、前記局所関係式の係数を算出する、請求項9に記載の品質予測モデル生成装置。
【請求項11】
前記製造プロセスから逐次取得される製品の操業データ及び品質データに基づいて、前記個別モデル関係式を更新する更新処理部をさらに備え、
前記更新処理部は、
前記製造プロセスから対象製品の操業データを取得する操業データ入力部と、
前記製造プロセスから対象製品の品質データを取得する品質データ入力部と、
前記操業データ入力部から入力された操業データと、前記共通モデル算出部により予め算出された前記共通モデル関係式とに基づいて、前記各個別モデル関係式の重みを算出する共通モデル演算部と、
前記操業データ入力部から入力された操業データに基づいて、前記品質変数毎に予め設定された前記個別モデル関係式の演算を行う個別モデル演算部と、
前記個別モデル演算部による前記各個別モデル関係式の演算結果と、前記共通モデル演算部により算出された前記各個別モデル関係式の重みとに基づいて、品質予測データを算出する品質予測データ算出部と、
前記品質データ入力部から入力された品質データと前記品質予測データ算出部により算出された前記品質予測データとに基づいて、前記各個別モデル関係式の係数を更新する個別モデル更新部と、
を有する、請求項7~10のいずれか1項に記載の品質予測モデル生成装置。
【請求項12】
前記個別モデル更新部は、前記局所領域kにおける線形多項式の更新に使用する製品の操業変数からなるデータのベクトルをv_(k)(T)、各局所領域kにおける品質y_の各要素yに対応する線形多項式の更新前の係数をA (k)(T)として、下記式(101)を用いて係数を算出する、請求項11に記載の品質予測モデル生成装置。
【数1】
ここで、v_は、vの下に_が添えられているものとし、Tは更新後の係数若しくは更新に使用する製品であることを示す添字、T-1は現在の係数であることを示す添字、A (k)(T)は更新後の線形多項式の係数、y(T)は前記品質データ、K (k)(T)は局所領域kにおける更新率行列であり、上記式(102)で表される。式(102)において、P (k)(T-1)は局所領域kの適応ゲイン行列である。
【請求項13】
請求項2~12のいずれか1項に記載の前記品質予測モデル生成装置の前記出力部から入力された前記品質予測モデルに基づいて、前記製品の品質を予測する、品質予測装置。
【請求項14】
製品の品質を予測する品質予測モデル生成方法であって、
製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと製造された前記製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、前記操業データと前記品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する品質予測モデル作成ステップと、
前記品質予測モデルを出力する出力ステップと、
を含み、
前記操業変数は、すべての物理的要素に影響する共通操業変数と、一部の前記物理的要素のみに影響する個別操業変数とを含み、
前記品質予測モデル作成ステップは、
すべての物理的要素に共通な前記操業データと前記品質データとの関係を表す前記品質変数に共通の共通モデル関係式を、前記共通操業変数を用いて算出する共通モデル算出部ステップと、
一部の物理的要素のみに関係する前記操業データと前記品質データとの関係を表す個別モデル関係式を、前記共通操業変数及び前記個別操業変数を用いて、前記品質変数毎に算出する個別モデル算出ステップと、
前記品質変数に共通の前記共通モデル関係式と前記品質変数毎に算出された個別モデル関係式とに基づいて、前記共通操業変数が値としてとる領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を前記品質予測モデルとして算出する関係式算出ステップと、
を含む、品質予測モデル生成方法。
【請求項15】
品質予測モデルを生成する品質予測モデル生成装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、
製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと製造された製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、前記操業データと前記品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する品質予測モデル作成部と、
前記品質予測モデルを出力する出力部と、
を備え、
前記操業変数は、すべての物理的要素に影響する共通操業変数と、一部の前記物理的要素のみに影響する個別操業変数とを含み、
前記品質予測モデル作成部は、
すべての物理的要素に共通な前記操業データと前記品質データとの関係を表す前記品質変数に共通の共通モデル関係式を、前記共通操業変数を用いて算出する共通モデル算出部と、
一部の物理的要素のみに関係する前記操業データと前記品質データとの関係を表す個別モデル関係式を、前記共通操業変数及び前記個別操業変数を用いて、前記品質変数毎に算出する個別モデル算出部と、
前記品質変数に共通の前記共通モデル関係式と前記品質変数毎に算出された個別モデル関係式とに基づいて、前記共通操業変数が値としてとる領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を前記品質予測モデルとして算出する関係式算出部と、
を有する、品質予測モデル生成装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造プロセスにおける品質予測装置、品質予測モデル生成装置、品質予測モデル生成方法及びプログラムに関し、特に操業結果として品質が決まるプロセス全般において、操業変数と品質との関係が複雑な非線形特性を有し多変量である場合にも適用可能な製造プロセスにおける品質予測装置、品質予測モデル生成装置、品質予測モデル生成方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操業条件に基づいて品質が決まる製造プロセスにおいて、製品の製造過程で品質を予測する手法としては、品質不良発生のメカニズムに関する知識を元に作成した物理モデルや、あるいは操業データと品質データに重回帰分析を適用して得られる線形式のモデル(以下、重回帰モデル)を用いて品質を予測する手法が良く知られている。このようなモデルを用いる方法では、製品の操業データをモデルに入力して品質の予測値を算出し、その予測値を評価することによって品質を予測する。
【0003】
また、特許文献1に開示された手法では、操業データ及び品質データを基に、操業データを基底ベクトルとする操業変数空間を幾つかの局所領域に分割して、各局所領域における操業変数と品質の関連性を人間が直感的に理解し易い線形式でモデル化している。そして、各局所線形式の重み付き線形和として全体の品質を表す際の重みである寄与率を操業変数空間の座標の関数として表す活性度関数を操業データから求めて、全体の操業変数と品質の関連を表す数式モデルを導出することにより、複雑な非線形特性を有する多変量の操業変数と品質の関係を人間に理解し易い形式で提示する解析手法を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5068637号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】坂本慶行ら著、情報量統計学、共立出版(1983年)
【非特許文献2】芳谷直治著「ベクトル型忘却係数を用いたパラメータ逐次推定とその実プラントへの適用」計測・制御自動学会論文集vol25、No5、579/585(1989年)
【非特許文献3】河口至商著、多変量解析入門I、森北出版(1973年)、P.3~33
【非特許文献4】C.M.ビショップ著、パターン認識と機械学習 上、シュプリンガー・ジャパン株式会社(2007)、P.142~144
【非特許文献5】宮下、佐々木著、ケモメトリックス―化学パターン認識と多変量解析、共立出版、P.55~72
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の重回帰モデルを用いた方法では、分析対象である操業及び品質変数は全ての操業範囲において単一の線形モデル、具体的には線形多項式で表現できるとの前提条件に基づいて、相関係数や回帰モデルを導出して分析を行う。そのために、各々異なる特性を有する複数の品質不合要因が存在する非線形なプロセスから得られる、操業変数及び品質変数を解析する場合には、必要な精度を有する品質予測モデルの作成が困難で両者の関係を正しく捉えることができない問題があった。
【0007】
特許文献1に開示された手法では、操業因子空間の全体領域もしくは全体領域を分割して得られた局所領域を分割する分割パターンを複数作成し、その分割パターンそれぞれについて、局所領域における操業因子と品質との関係性を表現する局所関係式の重み付き線形和として操業因子空間全体における操業因子と品質との関係性を表現する際の重みである寄与率を表す活性度関数と、局所関係式の未定係数を算出した後、活性度関数と局所関係式を用いて、操業因子空間全体の数式モデルを構成する。そして、分割パターンそれぞれに対して、操業因子空間全体の数式モデルのモデル予測値と品質データとの差であるモデル誤差を算出し、モデル誤差を最小にする最適な分割パターンを選択する。
【0008】
しかしながら、特許文献1においては、予測対象となる品質変数は1つの数値変数、すなわちスカラー量に限定されていた。予測対象となる品質変数が複数の数値変数からなる場合、すなわちベクトル量である場合には、各数値変数、すなわちベクトルの各要素についてそれぞれ品質予測モデルを作成することとなる。この場合、品質変数の各数値変数で操業因子空間の分割パターンが異なり、操業変数と品質変数との関係を捉えることが難しくなる。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、予測対象となる品質変数が複数の数値変数、すなわちベクトル量である場合にも、操業変数と品質変数との関係を捉えやすくすることが可能な、新規かつ改良された品質予測装置、品質予測モデル生成装置、品質予測モデル生成方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、製品の品質を予測する品質予測装置であって、製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと製造された製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、操業データと品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する品質予測モデル作成部と、品質予測モデルに基づいて、製品の品質を予測する品質予測部と、を備え、品質予測モデル作成部は、操業データの操業変数が値としてとる領域を全体領域として、当該全体領域を複数の局所領域に分割する分割パターン候補を複数個作成する分割パターン候補作成部と、各分割パターン候補について、各局所領域における操業データと品質データとの関係を表す局所関係式を、品質変数毎に算出する局所関係式算出部と、各分割パターン候補について、各分割パターン候補の各局所領域における各局所関係式の重みとして、品質変数に共通の活性度関数を算出する活性度関数算出部と、品質変数に共通の活性度関数と品質変数毎に算出された局所関係式とに基づいて、全体領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を算出する関係式算出部と、操業データから関係式算出部にて算出された関係式を用いて算出される品質予測データと当該操業データに対応する品質データとに基づいて、関係式の予測誤差を各分割パターン候補についてそれぞれ算出し、当該予測誤差が最小となる分割パターン候補の関係式を選択する最小誤差関係式選択部と、最小誤差関係式選択部により選択された分割パターンの関係式を品質予測モデルとして決定する品質予測モデル決定部と、を有する、品質予測装置が提供される。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、品質予測モデルを生成する品質予測モデル生成装置であって、製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと製造された製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、操業データと品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する品質予測モデル作成部と、品質予測モデルを出力する出力部と、を備え、操業変数は、すべての物理的要素に影響する共通操業変数と、一部の物理的要素のみに影響する個別操業変数とを含み、品質予測モデル作成部は、すべての物理的要素に共通な操業データと品質データとの関係を表す品質変数に共通の共通モデル関係式を、共通操業変数を用いて算出する共通モデル算出部と、一部の物理的要素のみに関係する操業データと品質データとの関係を表す個別モデル関係式を、共通操業変数及び個別操業変数を用いて、品質変数毎に算出する個別モデル算出部と、品質変数に共通の共通モデル関係式と品質変数毎に算出された個別モデル関係式とに基づいて、共通操業変数が値としてとる領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を品質予測モデルとして算出する関係式算出部と、を有する、品質予測モデル生成装置が提供される。
【0012】
例えば、製造プロセスは複数の圧延機からなるタンデム圧延機であり、物理的要素は一台の圧延機であってもよい。
【0013】
少なくとも共通モデル関係式は、非線形式であってもよい。
【0014】
非線形式は、例えば、一般化線形モデル、カーネル法、または、ニューラルネットワークにより表された式であってもよい。
【0015】
品質予測モデル生成装置は、製造プロセスから逐次取得される製品の操業データ及び品質データに基づいて、個別モデル関係式を更新する更新処理部をさらに備えてもよい。
【0016】
また、品質予測モデル作成部は、共通操業変数が値としてとる領域を全体領域として、当該全体領域を複数の局所領域に分割する分割パターン候補を複数個作成する分割パターン候補作成部と、操業データから関係式算出部にて算出された関係式を用いて算出される品質予測データと当該操業データに対応する品質データとに基づいて、関係式の予測誤差を各分割パターン候補についてそれぞれ算出し、当該予測誤差が最小となる分割パターン候補の関係式を選択する最小誤差関係式選択部と、最小誤差関係式選択部により選択された分割パターンの関係式を品質予測モデルとして決定する品質予測モデル決定部と、を有し、個別モデル算出部は、分割パターン候補作成部により作成された各分割パターン候補について、各局所領域における共通操業変数及び品質データの品質指標が対応する物理的要素に対応する個別操業変数を用いて、各局所領域における操業データと品質データとの関係を表す局所関係式を、品質変数毎に算出し、共通モデル算出部は、各分割パターン候補について、各分割パターン候補の各局所領域における各局所関係式の重みとして、品質変数に共通の活性度関数を算出してもよい。
【0017】
品質予測モデル決定部は、選択した分割パターンの予測誤差の収束判定を行い、予測誤差が収束していないと判定した場合、分割パターン候補作成部により、選択されている分割パターン候補の分割数を増やし、複数の新たな分割パターン候補を生成し、予測誤差が収束したと判定した場合、収束したときの分割パターンの関係式を品質予測モデルとして決定してもよい。
【0018】
局所関係式は、複数の操業変数を入力変数とする線形多項式であってもよい。
【0019】
個別モデル算出部は、重回帰、ステップワイズ法、スパース回帰、部分最小二乗法のいずれかの手法により、局所関係式の係数を算出してもよい。
【0020】
ここで、品質予測モデル生成装置が製造プロセスから逐次取得される製品の操業データ及び品質データに基づいて、個別モデル関係式を更新する更新処理部をさらに備えるとき、更新処理部は、製造プロセスから対象製品の操業データを取得する操業データ入力部と、製造プロセスから対象製品の品質データを取得する品質データ入力部と、操業データ入力部から入力された操業データと、共通モデル算出部により予め算出された共通モデル関係式とに基づいて、各個別モデル関係式の重みを算出する共通モデル演算部と、操業データ入力部から入力された操業データに基づいて、品質変数毎に予め設定された個別モデル関係式の演算を行う個別モデル演算部と、個別モデル演算部による各個別モデル関係式の演算結果と、共通モデル演算部により算出された各個別モデル関係式の重みとに基づいて、品質予測データを算出する品質予測データ算出部と、品質データ入力部から入力された品質データと品質予測データ算出部により算出された品質予測データとに基づいて、各個別モデル関係式の係数を更新する個別モデル更新部と、を有してもよい。
【0021】
また、個別モデル更新部は、局所領域kにおける線形多項式の更新に使用する製品の操業変数からなるデータのベクトルをv_(k)(T)、各局所領域kにおける品質y_の各要素yに対応する線形多項式の更新前の係数をA (k)(T)として、下記式(101)を用いて係数を算出してもよい。
【0022】
【数1】
【0023】
ここで、v_は、vの下に_が添えられているものとし、Tは更新後の係数若しくは更新に使用する製品であることを示す添字、T-1は現在の係数であることを示す添字、A (k)(T)は更新後の線形多項式の係数、y(T)は品質データ、K (k)(T)は局所領域kにおける更新率行列であり、上記式(102)で表される。式(102)において、P (k)(T-1)は局所領域kの適応ゲイン行列である。
【0024】
また、上記の品質予測モデル生成装置の出力部から入力された品質予測モデルに基づいて、製品の品質を予測する、品質予測装置が提供されてもよい。
【0025】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、品質予測モデルを生成する品質予測モデル生成方法であって、製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと製造された製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、操業データと品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する品質予測モデル作成ステップと、品質予測モデルを出力する出力ステップと、を含み、操業変数は、すべての物理的要素に影響する共通操業変数と、一部の物理的要素のみに影響する個別操業変数とを含み、品質予測モデル作成ステップは、すべての物理的要素に共通な操業データと品質データとの関係を表す品質変数に共通の共通モデル関係式を、共通操業変数を用いて算出する共通モデル算出部ステップと、一部の物理的要素のみに関係する操業データと品質データとの関係を表す個別モデル関係式を、共通操業変数及び個別操業変数を用いて、品質変数毎に算出する個別モデル算出ステップと、品質変数に共通の共通モデル関係式と品質変数毎に算出された個別モデル関係式とに基づいて、共通操業変数が値としてとる領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を品質予測モデルとして算出する関係式算出ステップと、を含む、品質予測モデル生成方法が提供される。
【0026】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータに上記の品質予測装置または品質予測モデル生成装置として機能させるためのプログラムが提供される。かかるプログラムは、コンピュータが備える記憶装置に格納され、コンピュータが備えるCPUに読み込まれて実行されることにより、そのコンピュータを上記の品質予測装置または品質予測モデル生成装置として機能させる。また、当該プログラムが記録された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供される。記録媒体は、例えば磁気ディスクや光ディスクなどである。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明によれば、予測対象となる品質変数が複数の数値変数、すなわちベクトル量である場合にも、操業変数と品質変数との関係を捉えやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1の実施形態に係る品質予測装置の構成を示すブロック図である。
図2】同実施形態に係る品質予測装置による品質予測処理を示すフローチャートである。
図3】分割パターン候補作成部による分割パターン候補の作成処理を示す説明図である。
図4】二次元の操業変数空間において、分割パターン候補を作成する手順を模式的に示す説明図である。
図5】3分割された二次元の操業変数空間において、分割パターン候補を作成する手順を模式的に示す説明図である。
図6】1次元の操業変数空間を4つに分割した場合の局所活性度関数分布を示すグラフである。
図7】2次元の操業変数空間を3つに分割した場合の局所活性度関数分布を示すグラフである。
図8】本発明の第2の実施形態に係る品質予測装置の構成を示すブロック図である。
図9】同実施形態に係る品質予測装置による局所関係式の更新処理を示すフローチャートである。
図10】複数の圧延機を例として、共通操業変数と、個別操業変数のうち1つの物理的要素にのみ関係して品質変数に影響する独立個別操業変数とからなる操業変数を用いて、活性度関数及び局所関係式を求める処理を示す図である。
図11】複数の圧延機を例として、共通操業変数と、個別操業変数のうち複数の物理的要素に関係して品質変数に同様に影響する共通個別操業変数とからなる操業変数を用いて、活性度関数及び局所関係式を求める処理を示す図である。
図12】本発明の第3の実施形態に係る品質予測装置による品質予測処理を示すフローチャートである。
図13】本発明の第5の実施形態に係る品質予測モデル生成装置の構成を示すブロック図である。
図14】同実施形態に係る共通モデル関係式及び個別モデル関係式を求める処理を単純なケースで説明するための図である。
図15】同実施形態に係る共通モデル関係式及び個別モデル関係式を求める処理をより複雑なケースで説明するための図である。
図16】同実施形態に係る品質予測モデル生成装置による品質予測モデル生成処理を示すフローチャートである
図17】本発明の実施形態に係る品質予測装置及び品質予測モデル生成装置のハードウェア構成の一構成例を示すブロック図である。
図18】薄鋼板の熱間圧延プロセスの概略を示す説明図である。
図19】実施例Aにおいて、クロスバリデーションによりモデルのRMSEを評価した結果を示すグラフである。
図20】実施例Bにおいて、第1の実施形態に係る品質予測装置により構築された品質予測モデルの局所関係式の回帰係数を示す図である。
図21】実施例Bにおいて、第3の実施形態(あるいは第5の実施形態)に係る品質予測装置により構築された品質予測モデルの局所関係式の回帰係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0030】
<1.第1の実施形態>
[1-1.概要]
まず、本発明の第1の実施形態に係る品質予測装置の概要について説明する。本実施形態に係る品質予測装置は、操業条件のような入力変数u_(u_はuの下に_が添えられているものとする。)と、品質指標のような出力変数yとの関係を表す非線形モデルに基づき、品質予測を行う装置である。この非線形モデルの構築における本実施形態の特徴を、従来の特許文献1に係る手法と対比して、以下説明する。
【0031】
特許文献1に開示された手法では、入力変数u_はu~uからなるp次元ベクトル(u2 ・・・ として(上付きのTは行列の転置を表す。)、その入力変数空間は、M個の局所領域に分割される。各局所領域では、下記式(2)に示すように、入力u_と出力yとの関係を線形式でモデル化される。これを局所モデルといい、y^(k)(y^はyの上に^が添えられているものとする。)で表される。
【0032】
全体モデルy^は、下記式(1)に示すように、各局所モデルy^(k)に、非線形の活性度関数Φ(k)を用いた重み付き平均で表す。活性度関数Φ(k)は、入力変数空間内の点u_の関数であり、k番目の局所モデルy^(k)が支配的な領域では1、ほとんど影響のない領域では0に近い値を取る。これにより、点u_において、局所モデルy^(k)が全体モデルy^に対してどの程度寄与しているかを表現することができる。
【0033】
活性度関数Φ(k)には、下記式(3)の正規化条件(すなわち、任意のu_で全活性度関数の和が1)を満たすものであれば、どのような関数系でも使用できる。例えば、活性度関数として、下記式(4)で表す正規分布関数を式(3)に代入して得られる関数を用いることができる。
【0034】
【数2】
【0035】
ここで、特許文献1のモデル空間分割の決定方法では、領域分割を行わない初期状態から処理を開始し、以下の処理[1]~[4]の処理を繰り返して、精度のよいモデルを探索する。そして、モデル化誤差が予め指定した誤差以下になった場合、もしくは分割数が予め設定した分割数に達した場合は、処理を終了する。
処理[1]:各操業因子で領域を2分割したモデルを複数作成
処理[2]:2分割モデルの中で、最も精度のよいものを選択
処理[3]:分割領域のうち、最も精度の悪い領域を再分割領域として選択し、3分割モデルを作成
処理[4]:順次、複数の分割候補からの選択、再分割領域の選択を繰り返す。
【0036】
処理[1]においては、局所モデルy^(k)の係数a_(k)=(a (k) (k) ・・・ a (k)は、下記式(5)に示す品質指標の実績値yと局所モデル予測値y^(k)(u_)との二乗誤差J(k)が最小となるように決定される。なお、y^(k)(u_)は、下記式(6)のように表される。ここで、Nはモデルの構築に用いる入力変数u_及び出力変数yのデータ数であり、iはそれを表す添え字である。
【0037】
【数3】
【0038】
一方、処理[2]においては、下記式(7)に示す品質指標の実績値yと局所モデル予測値y(k)(u_)との二乗誤差Jが最小となるモデルが選択される。なお、y^(k)(u_)は、下記式(8)のように表される。
【0039】
【数4】
【0040】
ここで、特許文献1では、出力変数yは一変数のスカラー量としていたが、互いに関連の深い品質指標が複数ある製造プロセスに適用する場合には、品質指標1つ1つに対して、別々に品質予測モデルを作成する必要があった。例えば、複数の圧延スタンドからなる圧延機による各圧延スタンドの圧延荷重の予測値を補正するための補正係数は、前後の圧延スタンドの操業状態も考慮して設定される。また、例えば圧延プロセスにおける複数の冷却ゾーンでの鋼板の予測温度の補正係数も、他の冷却ゾーンでの冷却状態も考慮して設定される。このように、互いに関連の深い品質指標が複数ある製造プロセスの品質予測モデルを作成する場合、品質変数の各数値変数で操業因子空間の分割パターンが異なり、操業変数と品質変数との関係を捉えることが難しくなる問題があった。
【0041】
そこで、本願発明者は、複数の品質指標をベクトルの出力変数y_として扱うことを検討した。すなわち、出力変数y_を、数値変数y~yからなるq次元ベクトル(y2 ・・・ と表す。なお、出力変数y_は、必ずしも数値変数y~yをベクトル化して表す必要はなく、本発明の品質データは複数の品質変数からなるものであればよい。
【0042】
各局所領域では、入力変数u_と出力変数y(l=1,2,...,q)との関係を、下記式(10)に示すように線形式の局所モデルy(k)でモデル化する。また、全体モデルy^_=(y^ y ・・・ ^)を構成する各構成要素y^は、下記式(9)に示すように、各局所モデルy(k)に、非線形の活性度関数Φ(k)を用いた重み付き平均で表す。ここで用いる活性度関数Φ(k)は、y^~y^で共通とする。なお、Φ(k)(u_)、μ(k)(u_)は、それぞれ、下記式(11)、式(12)のように表される。
【0043】
【数5】
【0044】
上記式(9)と式(10)とをまとめると、全体モデルy^_は下記式(13)のように表すことができる。
【0045】
【数6】
【0046】
本実施形態に係るモデル空間分割の決定方法は、特許文献1と同様、領域分割を行わない初期状態から処理を開始し、以下の処理[1]~[4]の処理を繰り返して、精度のよいモデルを探索する。モデル化誤差が予め指定した誤差以下になった場合、もしくは分割数が予め設定した分割数に達した場合に、処理を終了する。
処理[1]:各操業因子で領域を2分割したモデルを複数作成
処理[2]:2分割モデルの中で、最も精度のよいものを選択
処理[3]:分割領域のうち、最も精度の悪い領域を再分割領域として選択し、3分割モデルを作成
処理[4]:順次、複数の分割候補からの選択、再分割領域の選択を繰り返す。
【0047】
なお、上記の処理[1]における、局所モデルy^(k)=(y(k)(k) ・・・ y(k)の係数ajl (k)(j=1、・・・、p、l=1、・・・、q)の決定には、品質指標の実績値y_と下記式(15)で表される局所モデル予測値y(k)(u_)との誤差が小さくなるように、下記式(14)を評価関数に用いればよい。
【0048】
【数7】
【0049】
また、処理[2]においては、品質指標の実績値y_と下記式(17)で表される全体モデル予測値y^_(u_)との誤差が小さくなるように、式(16)が最小となるモデルを選択すればよい。
【0050】
【数8】
【0051】
ここで、モデル誤差の評価には、Lノルム(|| ||)を用いたが、目的変数y_の要素によって重要度が異なる場合は、下記式(18)に示すように、要素間の重み付けw_=(w ・・・ wを導入したノルム(|| ||)を用いることも可能である。
【0052】
【数9】
【0053】
このように、本実施形態では、予測対象となる品質変数が複数の数値変数、すなわちベクトル量である場合に、目的変数をベクトルとした品質予測モデルを作成する。この際、本実施形態では、操業因子空間を分割した局所領域での操業変数と品質変数の関係を表す局所関係式は、上記式(10)に示すように、品質変数毎に作成することで、品質変数毎に異なる操業変数との関係の違いを表現する。一方で、操業因子空間全体における操業データと品質データとの関係を算出する際の各局所関係式の重みを表す活性度関数は、操業因子空間の分割パターンに基づいて、上記式(11)に示すように、品質変数の各変数で共通のものとし、操業変数に依存して変化する、操業変数と品質変数との関係を捉えやすくすることができる。
【0054】
以下、本実施形態に係る品質予測装置の構成とその処理について、具体的に説明する。
【0055】
[1-2.品質予測装置の構成]
まず、図1に基づいて、本発明の第1の実施形態に係る製造プロセスにおける品質予測装置の構成について説明する。なお、図1は、本実施形態に係る品質予測装置100の構成を示すブロック図である。
【0056】
本実施形態に係る製造プロセスにおける品質予測装置100は、品質予測を行う対象の品質を予測する装置である。本実施形態に係る品質予測装置100は、互いに関連の深い複数の品質指標を予測する場合に好適である。品質予測装置100により予測する品質としては、例えば鉄鋼プロセスの場合では、薄板の熱間圧延や冷間圧延における、複数の圧延機での圧延荷重予測の補正係数や複数の冷却ゾーンでの予測温度の補正係数等がある。
【0057】
このような品質予測装置100は、図1に示すように、データ抽出部110と、分割パターン候補作成部120と、活性度関数算出部130と、局所関係式算出部140と、関係式算出部150と、最小誤差関係式選択部160と、品質予測モデル決定部170と、品質予測部180と、データベース190とを備える。分割パターン候補作成部120、活性度関数算出部130、局所関係式算出部140、関係式算出部150、最小誤差関係式選択部160、及び、品質予測モデル決定部170は、品質予測モデル作成部102を構成している。品質予測モデル作成部102は、製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと、製造された製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、操業データと品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する。品質予測モデル作成部102により作成された品質予測モデルに基づいて、品質予測部180は製品の品質を予測する。
【0058】
データ抽出部110は、データベース190より、製造プロセスにおける操業データと当該操業に対応した品質データとを複数抽出する。操業データは、複数の操業変数を含む。操業変数としては、例えば鉄鋼プロセスでは、精錬工程で測定された溶鋼の各種元素の成分量や、熱間圧延あるいは冷間圧延における圧延荷重や圧延速度、更には冷却工程のラインスピードや鋼板温度等がある。また、品質データも、複数の品質変数を含む。品質変数としては、例えば薄板の熱間圧延や冷間圧延における、複数の圧延機での圧延荷重予測の補正係数や複数の冷却ゾーンでの予測温度の補正係数等がある。データ抽出部110は、データベース190から抽出したデータを分割パターン候補作成部120へ出力する。
【0059】
分割パターン候補作成部120は、操業データの操業変数が値としてとる領域である全体領域を、複数の局所領域に分割し、分割パターン候補を複数個作成する処理を行う。すなわち、分割パターン候補作成部120は、データ抽出部110から入力された操業データの全体領域を分割して、複数の分割パターン候補を作成する。
【0060】
本実施形態にかかる分割パターン候補作成部120は、全体領域を構成する操業変数を分割して生成された複数の分割パターン候補を全体領域の分割パターン候補とする。そして、分割パターン候補作成部120は、作成された複数の分割パターン候補を活性度関数算出部130へ出力する。
【0061】
活性度関数算出部130は、分割パターン候補作成部120から入力されたすべての分割パターン候補に対して、分割領域の境界を表す操業変数の分割座標情報に基づきそれぞれ活性度関数を算出する。後述する局所関係式算出部140により各分割パターン候補の各局所領域における各局所関係式が算出されるが、活性度関数算出部130は、局所関係式の重みとして品質データの品質変数に共通の活性度関数を算出する。活性度関数算出部130は、算出した活性度関数を局所関係式算出部140及び関係式算出部150へ出力する。
【0062】
局所関係式算出部140は、各局所領域について操業データと品質データとの関連性を数式で表現した関係式(局所関係式)を作成する。本実施形態では線形多項式による局所関係式を用いている。線形多項式を用いた場合は、後述する方法により線形多項式の未定係数を求め、一般的な数式を用いるのに比べて比較的容易に局所関係式を決定することができる。局所関係式算出部140は、各局所領域についてのデータ行列を構成し、各局所領域の局所関係式の未定係数を求め、各局所領域の局所関係式を決定する。局所関係式算出部140は、決定した局所関係式を関係式算出部150へ出力する。
【0063】
関係式算出部150は、活性度関数算出部130で算出された活性度関数と、局所関係式算出部140で求められた局所関係式を用いて、全体領域における操業データと品質データとの関係式を作成する。関係式算出部150は、作成した操業データと品質データとの関係式を最小誤差関係式選択部160へ出力する。
【0064】
最小誤差関係式選択部160は、関係式算出部150により算出された関係式を用いて算出される品質予測データと当該操業データに対応する品質データとに基づいて、関係式の予測誤差を各分割パターン候補についてそれぞれ算出し、当該予測誤差が最小となる分割パターン候補の関係式を選択する。予測誤差は、すべての分割パターン候補それぞれに対して作成された操業データと品質データとの関係式から算出された誤差と、関係式算出部150にて算出された関係式から算出された誤差との差分により求められる。最小誤差関係式選択部160は、選択した関係式を品質予測モデル決定部170へ出力する。
【0065】
品質予測モデル決定部170は、最小誤差関係式選択部160で選択された関係式(以下、「誤差最小の関係式」という。)の予測誤差の収束判定を行い、予測誤差が収束したときの分割パターンの関係式を品質予測モデルとして決定する。品質予測モデル決定部170は、誤差最小の関係式の予測誤差と予め設定された評価基準値とを比較して、十分な精度を有する関係式が構築されたか否かを判定する。品質予測モデル決定部170は、予測誤差が収束したと判定した場合には、当該誤差最小の関係式を品質予測モデルとして品質予測部180へ出力する。このとき、品質予測モデル決定部170は、決定した品質予測モデルを表す関係式を表現するための情報である活性度関数及び局所関係式の係数を、品質予測部180へ出力してもよい。一方、予測誤差の収束が不十分であると判定した場合、品質予測モデル決定部170は、分割パターン候補作成部120に対して、最小誤差関係式選択部160において選択された分割パターンをさらに分割して新たな分割パターン候補を作成する指示を行う。
【0066】
品質予測部180は、品質予測モデル決定部170から入力された品質予測モデルに基づいて、製品の品質を予測する。品質予測部180は、例えば品質予測モデルに対して別途入力される操業データを用いて品質予測データを算出し、算出した品質予測データを外部へ出力する。品質予測部180から出力された品質予測データは、例えば、オペレータへのガイダンスやプロセス制御系への入力信号として用いることができる。また、品質予測部180は、品質予測モデル自体を視覚的な情報として表し、ディスプレイ等に表示するようにしてもよい。これにより、複数の操業変数からなる操業データと複数の品質変数からなる操業データとの関連性を視覚的に提示することが可能となる。
【0067】
データベース190は、製造プロセスにおける過去の操業データ及び品質データや、各製造工程での製造時刻、向け先などの注文情報、製品を特定するための製品番号などを関連付けて記憶する記憶部である。これらの情報は、外部から所定のタイミングでデータベース190に入力され、記録される。データベース190に記憶された情報は、データ抽出部110により抽出され、品質予測モデルの構築に用いられる。
【0068】
[1-3.品質予測装置による品質予測処理]
次に、図2図7に基づいて、本実施形態に係る品質予測装置100による品質予測処理について詳細に説明する。なお、図2は、本実施形態に係る品質予測装置による品質予測処理を示すフローチャートである。図3は、分割パターン候補作成部120による分割パターン候補の作成処理を示す説明図である。図4は、二次元の操業変数空間において、分割パターン候補を作成する手順を模式的に示す説明図である。図5は、3分割された二次元の操業変数空間において、分割パターン候補を作成する手順を模式的に示す説明図である。図6は、1次元の操業変数空間を4つに分割した場合の局所活性度関数分布を示す図である。図7は、2次元の操業変数空間を3つに分割した場合の局所活性度関数分布を示す図である。
【0069】
p個の操業変数u、u、・・・、uを持つN個の操業データが与えられた場合、操業データはN行p列の行列となる。操業データに対応して、q個の品質変数y、y、・・・、yを持つN個の品質データが与えられた場合、品質データはN行q列の行列となる。N行p列の行列である操業データとN行q列の行列である品質データが与えられた場合、線形代数理論より、操業変数はu~uを基底とするp次元の操業変数空間に分布しているN個の点、品質変数y_=(y2 ・・・ はy~yを基底とするq次元の品質変数空間に分布しているN個の点と見なすことができる。従って、品質を記号yで表すとすると、操業変数と品質変数とは、一般にベクトルの写像関数f(・)を介した下記式(19)で表すことができる。
【0070】
【数10】
【0071】
写像関数f(・)は、通常の製造プロセスの場合、非線形かつ多変量の複雑な関数であり、操業変数空間全体に渡る適正な関数式を見出すのは難しい。そこで、本実施形態においては、操業変数からなる全体領域をそれぞれ複数の局所領域に分割する複数の分割パターン候補を作成し、各局所領域における操業変数と品質変数との関係を表す局所関係式y(k)(u_)と、局所関係式の重み付き線形和として全体領域内の各点における予測値を算出する際の局所関係式の重みを表す活性度関数Φ(k)(u_)との積の和である式(20)によって、全体の関係式y^_=(y^ y ・・・ ^)を表すものとする。なお、式(20)中のΣは項の和、Mは局所領域の個数(分割数)である。
【0072】
【数11】
【0073】
本実施形態に係る品質予測装置100による品質予測処理では、図2に示すように、まず、データ抽出部110によりデータベース190から品質予測を行う対象に関する操業データ及び品質データを抽出する(ステップS100)。データ抽出部110は、抽出した操業データ及び品質データを、分割パターン候補作成部120へ出力する。
【0074】
次に、分割パターン候補作成部120は、操業データのうち操業変数からなる全体領域から複数の分割パターン候補を作成する(ステップS102)。本実施形態では、操業変数の領域から分割パターン候補を作成する。図3に示すように、分割パターン候補作成部120は、分割されていない二次元の操業変数空間について当該空間を2つの局所領域(M=2)に分割する処理を行う。ここで、操業変数空間の分割は、各操業変数に平行な軸で、分割点が設定される。つまり、図4に示すように、二次元の操業変数空間は2つの操業変数u、uからなる。したがって、領域1-1に対して、操業変数u軸に平行な分割と、操業変数u軸に平行な分割とが行われる。このように、領域1-1が2つの局所領域2-1、2-2に分割される。分割点の設定を変えて、図3に示すように複数の分割パターン候補を作成する。
【0075】
また、操業変数空間が既に幾つかの局所領域に分割されている場合は、誤差評価関数である式(21)で各局所関係式の誤差を算出し、この中で最も誤差の大きな局所領域を2つに分割する。一例として、図5に、既に3分割された操業変数空間を4分割(M=4)する手順を示す。図5に示すように、最も誤差の大きい領域が領域3-2であるとすると、操業変数uまたはu軸に平行な軸で領域3-2を2分するように分割点が設定される。このとき、残りの領域3-1及び3-3は分割されない。
【0076】
【数12】
【0077】
図3において、操業変数空間を2分割したとき、最も誤差の大きい領域が領域2-1であったとすると、操業変数uまたはu軸に平行な軸で領域2-1を2分するように分割点が設定される。このように、操業変数については、現在の分割パターンから新たな複数の分割パターン候補が生成される。
【0078】
操業変数の分割パターン候補を作成するに際して必要となる分割候補点の値は、例えば一つの操業変数のデータを抽出して、このデータを複数のグループに分割し、各グループの境界となる操業変数の値を求めて、これを全ての操業変数について算出し、分割候補点に使用する方法がある。具体的には、例えばクラスタリング法を用いて操業変数のデータを複数のグループに分割し、各グループに含まれるデータの値の最小値及び最大値を算出する。そして、隣接するグループのうち、データの値が小さい方のグループの最大値と、操業変数の値が大きい方のグループの最小値との平均値を分割点の値とする。あるいは、操業変数のデータに対して、操業オペレータや担当者が、同一の操業水準とみなすことができるグループの操業変数のデータの値の範囲を設定できる場合は、人手で設定した分割候補点を用いてもよい。
【0079】
分割パターン候補が作成されると、すべての分割パターン候補に対してそれぞれ活性度関数、局所関係式及び全体の関係式が算出される(ステップS104~S108)。
【0080】
まず、活性度関数算出部130により、分割パターン候補作成部120で求めたすべての分割パターン候補に対して、活性度関数がそれぞれ算出される(ステップS104)。活性度関数には、下記式(22)で表現される正規条件を満たす任意の関数を用いることができる。
【0081】
【数13】
【0082】
具体的には、例えば、式(23)で表現される局所領域の重心に中心を持つ正規分布関数μ(k)に基づいて式(24)で定義される正規メンバシップ関数は、活性度関数として用いることができる。
【0083】
【数14】
【0084】
ここで、c(k) は局所領域の中心点、σ(k) は正規分布関数の標準偏差を表す。図6に、1次元の操業変数空間を4つの局所領域に分割した場合の正規分布関数と活性度関数の例を示す。また、図7に、2次元の操業変数空間を3つの局所領域に分割した例を示す。局所領域の境界領域に着目すれば、境界線の両側の領域における活性度関数は、滑らかに重複しているため、複数の局所関係式が重畳して品質を決定している状況を表現することができる。なお、活性度関数は、品質データの各品質変数に共通する。
【0085】
次いで、局所関係式算出部140は、各局所領域について操業データと品質データの関連を数式で表現した関係式を作成する(ステップS106)。本実施形態では、局所関係式算出部140により、操業データ及び活性度関数から、各局所領域のデータ行列X(k)が作成される。データ行列X(k)は下記式(25)で表される。
【0086】
【数15】
【0087】
そして、局所関係式算出部140は、下記式(26)で表される各局所領域kについての回帰式の回帰係数(すなわち、局所関係式の未定係数)A(k)を算出する。なお、局所領域kの局所関係式の未定係数A(k)は、下記式(27)で表される。
【0088】
【数16】
【0089】
未定係数A(k)は、例えば、下記式(28)で表す重回帰により算出される。行列Yは、式(29)に示すように品質データを表すN行q列の行列である。
【0090】
【数17】
【0091】
なお、未定係数A(k)は、上記式(28)で表す重回帰によるもののほか、例えば、ステップワイズ法やスパース回帰、部分最小二乗法等の手法を用いて算出してもよい。ステップワイズ法は、線形モデルにおいて、できるだけ入力変数の数を少なくし、かつ、線形回帰式の予測誤差が実用上問題ない程度に小さいものとするために、ある検定基準を設けて線形モデルの入力変数、すなわち線形回帰式の入力変数の追加、除去を繰り返し、モデルを作成する方法である(上記非特許文献3参照)。また、スパース回帰は、線形モデルにおいて、線形回帰式の予測誤差の大きさを表す第1の項と、回帰係数の絶対値の和を表す第2の項との重み付け和を最小化することにより、回帰係数を決定する手法であり、回帰係数が必要以上に大きな値となることを防止するとともに、影響の小さい入力変数の回帰係数を0にして、実質的に線形モデルから除外する方法である(上記非特許文献4参照)。部分最小二乗法(Partial Least Squares;PLS)は、線形モデルにおいて、入力変数の線形結合による潜在変数を、潜在変数が互いに独立になるように複数作成し、潜在変数を入力変数とする線形回帰式によるモデルを作成する方法である(上記非特許文献5参照)。
【0092】
図2の説明に戻り、関係式算出部150は、活性度関数算出部130及び局所関係式算出部140で求められた活性度関数と局所関係式とを用いて、すべての分割パターンについて、式(20)で示される操業データと品質データとの関係式を構成する(S108)。関係式算出部150において式(20)の操業データと品質データとの関係式が構成されると、最小誤差関係式選択部160は、分割パターン候補作成部120で作成された複数の分割パターン候補の中から、最も誤差が小さくなる関係式を選択する(S110)。作成された複数の分割パターン候補すべてに対して式(20)で示す操業データと品質データの関係式が作成される。最小誤差関係式選択部160は、これを用いて、上記式(7)で定義される誤差評価式で誤差を評価する。そして、最小誤差関係式選択部160は、式(7)により算出された誤差が最も小さい分割パターンの関係式を選択する。
【0093】
最小誤差関係式選択部160で1つの関係式が選択されると、品質予測モデル決定部170は、最小誤差関係式選択部160で選択した誤差最小の関係式の誤差と、予め設定された評価基準値とを比較して、学習が十分であるか、すなわち誤差が収束したか否かを判定する。収束判定の方法としては、例えば、関係式の誤差を収束判定変数(評価基準値)と比較する方法、局所領域分割の増分に対する関係式誤差の変化量を収束判定変数(評価基準値)と比較する方法、分割数と誤差を考慮した指標、例えば非特許文献1に記載された赤池の情報量指標など学習誤差のみならず局所領域の個数も評価に加えた指標を用い、分割の増加に対して該指標が増加した時点で分割を打ち切る方法などが用いられる。
【0094】
品質予測モデル決定部170は、このような収束判定の方法を用いて誤差を評価し、該誤差が評価基準値より大きい場合には、十分な精度でデータを説明できる関係式はまだ構築されておらず、誤差の収束は不十分であると判定する。この場合、品質予測モデル決定部170は、分割パターン候補作成部120に対して、分割パターンの分割数Mを1つ増やして、分割パターン候補作成の処理を行う。そして、学習誤差評価にて十分な精度でデータを説明できる関係式が構築されたと判定されるまで、分割パターン処理作成から操業と品質の関係式算出の処理を繰り返す。
【0095】
一方、誤差が評価基準値以下であれば、品質予測モデル決定部170は、十分な精度でデータを説明できる関係式が構築されたと判定し、当該関係式を、品質予測部180で用いる品質予測モデルとして決定する。そして、品質予測モデル決定部170は、得られた品質予測モデル、あるいは、当該品質予測モデルを表現する為の情報である活性度関数、局所関係式の係数を抽出して、品質予測部180へ出力する。品質予測部180は、品質予測モデルと、別途入力される操業データとを用いて、式(20)より品質予測データを算出し、外部へ出力する。品質予測部180により算出された品質予測データは、例えば、品質予測オペレータへのガイダンスや、プロセス制御系への入力信号として用いることができる。
【0096】
以上、本発明の第1の実施形態に係る品質予測装置100とこれによる品質予測方法について説明した。本実施形態に係る品質予測装置100によれば、予測対象となる品質変数が複数の数値変数、すなわちベクトル量である場合に、目的変数をベクトルとした品質予測モデルが作成される。このとき、操業データと品質データとの関係を算出する際の各局所関係式の重みを表す活性度関数を、品質変数の各変数で共通のものとし、操業変数と品質変数の関係を捉えやすくすることができる。
【0097】
<2.第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る品質予測装置200について説明する。本実施形態に係る品質予測装置200は、製造プロセス300に接続されており、製造プロセス300の状態に応じて局所関係式を更新することができる。これにより、操業データと品質データとの関係が変化した場合にも迅速に対応することができ、予測精度が改善されるまでに要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0098】
以下、図8及び図9に基づいて、本実施形態に係る品質予測装置200の構成とこれによる局所関係式の更新処理について詳細に説明する。なお、図8は、本実施形態に係る品質予測装置200の構成を示すブロック図である。図9は、本実施形態に係る品質予測装置による局所関係式の更新処理を示すフローチャートである。なお、図8では、局所関係式の更新処理に必要な処理部(すなわち、更新処理部を構成する処理部)のみを記載している。したがって、本実施形態に係る品質予測装置200は、第1の実施形態に記載するような他の処理部を備えることもできる。
【0099】
[2-1.品質予測装置の構成]
本実施形態に係る品質予測装置200は、製造プロセスから逐次取得される製品の操業データ及び品質データに基づいて局所関係式を更新する更新処理部を構成する処理部として、図8に示すように、操業データ入力部210と、活性度関数記憶部220と、活性度関数演算部230と、局所関係式演算部240と、品質予測データ算出部250と、品質予測データ出力部260と、品質データ入力部270と、局所関係式更新部280とを備える。
【0100】
操業データ入力部210は、品質予測装置200に接続された製造プロセス300から収集された製品の操業データが入力される。具体的には、操業データ入力部210として、例えばキーボード、データシートを読み込むOCR、工場内に設置されたセンサによる測定信号を逐次収集して保存し、予め設定されたタイミングでLAN等を介してデータを取り込むコンピュータ等を用いることができる。操業データ入力部210により入力される操業データは、複数の操業変数からなる。操業データは、以下に述べる各処理部による演算処理を実行することで、式(20)に等価な演算が実行され、品質予測データが算出される。操業データ入力部210から入力された操業データは、活性度関数演算部230及び局所関係式演算部240へ出力される。
【0101】
活性度関数記憶部220は、式(20)における活性度関数Φを算出するために必要な、局所領域の重心点、正規分布関数の標準偏差の集合を記憶する。すなわち、活性度関数記憶部220には、第1の実施形態において選択された分割パターンに関する情報が記憶されている。
【0102】
活性度関数演算部230は、局所関係式の重み付き線形和である品質予測データを算出する際の局所関係式の重みを算出する。活性度関数演算部230は、操業データ入力部210から入力された操業データと、活性度関数記憶部220に記憶された式(24)で表される活性度関数とを用いて、局所関係式の重みを算出する。そして、活性度関数演算部230は、算出した局所関係式の重みを品質予測データ算出部250へ出力する。
【0103】
局所関係式演算部240は、操業データ入力部210から入力された操業データに基づいて、局所関係式を算出する。局所関係式演算部240は、式(2)で表わされる局所領域kにおける局所関係式の係数を記憶しており、操業データを局所領域kにおける式(2)の局所関係式の操業変数u~uに当てはめて、局所関係式の演算処理を行う。この局所関係式の係数値は、後に述べる局所関係式更新部280によって更新される。なお、局所関係式に、線形多項式以外の数式を用いた場合には、該数式の操業変数に対応する変数に、操業データの数値を設定して局所関係式の演算を行えばよい。局所関係式演算部240は、局所領域kごとに算出された局所関係式の演算結果を品質予測データ算出部250へ出力する。なお、局所関係式は、品質データの各品質変数についてそれぞれ作成される。
【0104】
品質予測データ算出部250は、活性度関数演算部230から入力された局所関係式の重みと、局所関係式演算部240から入力された局所領域kごとの局所関係式の演算結果とに基づいて、操業データと品質データとの関係式、すなわち品質予測モデルに基づく品質予測データを算出する。品質予測データ算出部250は、局所関係式の重みと局所関係式の演算結果との積を算出し、さらに、すべての局所領域について算出されたこれらの積の和をとることにより、式(20)の操業データと品質データとの関係式に基づく品質予測データを算出する。そして、品質予測データ算出部250は、算出した品質予測データを品質予測データ出力部260及び局所関係式更新部280へ出力する。
【0105】
品質予測データ出力部260は、品質予測データ算出部250にて算出された品質予測データを外部へ出力するインタフェース部として機能する。品質予測データ出力部260は、品質予測データを、例えばガイダンス情報として表示したり、あるいは品質制御に利用するために製造プロセスの制御系へ出力したりする。品質予測データを表示させることにより、操業オペレータは、望ましい品質を得るための操業条件を決定することが可能となり、また検査員は、品質不良の懸念がある製品の重点検査を行うことで、顧客への不良品出荷を防止することができる。また、品質制御に利用する場合は、品質予測データに基づいて、品質が望ましい範囲となるよう操作端となる操業変数の目標値を算出する処理を制御系で行い、製造プロセスの操業に反映することで、品質不良の発生を抑制することができる。
【0106】
品質データ入力部270は、製造プロセスから抽出された、製品の品質が測定された時点における品質データを入力する。品質データ入力部270には、これらの品質データを入力する、例えばキーボード、データシートを読み込むOCR、センサによる測定信号を逐次収集してLAN等を介して伝送する計算機を用いることができる。品質データ入力部270は、入力された品質データを局所関係式更新部280へ出力する。
【0107】
局所関係式更新部280は、局所関係式演算部240で用いる局所関係式の係数を更新する。局所関係式更新部280は、品質データと品質予測データとの差である予測誤差を算出し、この予測誤差及び該操業データに対する各局所関係式の重みに基づいて、局所関係式の係数の値を更新する。なお、かかる局所関係式の更新処理の詳細については後述する。局所関係式更新部280は、局所関係式の係数を更新すると、更新後の局所関係式を局所関係式演算部240へ出力する。
【0108】
[2-2.品質予測装置による局所関係式更新処理]
次に、図9に基づいて、本実施形態に係る、局所関係式の操業変数に対する係数の更新処理について説明する。ここで、局所関係式は操業変数から構成される式(2)を用いることを前提とする。線形多項式の1回目の処理では、図9のステップS200~S208の処理が行われる。このとき、ステップS212の局所関係式の更新処理は行われないため、局所関係式の演算は、初期設定に基づき行われる。このとき、局所関係式は、所定の精度が得られた関係式であるとする。まず、品質予測装置200の操業データ入力部210に製造プロセス300から収集された製品の操業データが入力される(ステップS200)。例えば、操業データ入力部210に第1番目の製品に関する第1の操業データが入力されるとする。操業データ入力部210は、入力された第1の操業データを活性度関数演算部230及び局所関係式演算部240へ出力する。
【0109】
局所関係式演算部240は、操業データ入力部210から入力された第1の操業データと予め記憶する各局所領域kにおける局所関係式の係数に基づいて、局所関係式の演算処理を行う(ステップS202)。局所関係式演算部240で用いる局所関係式の係数は、局所関係式更新部280により更新されるが、当該品質予測装置200により製造プロセス300の品質予測データを最初に算出する場合には局所関係式更新部280により更新後の係数の算出が行われないため、局所関係式の係数の更新は行われない。この場合、局所領域kにおける局所関係式の係数の初期値は、局所関係式が所定の精度を有するものであるように、例えば第1の実施形態の手法により算出してよい。局所関係式演算部240により算出された局所関係式の演算結果は、品質予測データ算出部250へ出力される。
【0110】
一方、操業データ入力部210から第1の操業データが入力された活性度関数演算部230は、第1の操業データと活性度関数とを用いて、局所関係式の重みを演算する(ステップS204)。活性度関数演算部230は、活性度関数に式(24)で定義される関数式を用いた場合、操業データ入力部210より入力された第1の操業データのうち、操業変数に対応する数値を設定して、式(23)の演算を行うことで局所関係式の重みを算出する。活性度関数演算部230により算出された局所関係式の重みは、品質予測データ算出部250へ出力される。
【0111】
その後、品質予測データ算出部250は、ステップS202で算出された局所領域kごとの局所関係式の演算結果と、ステップS204で算出された局所関係式の重みとに基づいて、第1の操業データと第1番目の製品に関する第1の品質データの関係式に基づく品質予測データを算出する(ステップS206)。品質予測データ算出部250は、局所関係式の重みと局所関係式の演算結果との積を算出し、さらに、すべての局所領域について算出されたこれらの積の和をとることにより、式(20)の操業データと品質データの関係式に基づく品質予測データを算出する。そして、品質予測データ算出部250は、算出した品質予測データを品質予測データ出力部260及び局所関係式更新部280へ出力する。
【0112】
品質予測データ出力部260は、品質予測データ算出部250にて算出された品質予測データを、外部の製造プロセス300や運転員へ通知する出力装置等に出力する(ステップS208)。一方、第1番目の製品に関する第1の品質データが品質データ入力部270へ入力されると(ステップS210)、局所関係式更新部280は、当該第1の品質データとステップS206にて算出された第1番目の製品の品質予測データとを用いて、新たな局所関係式の係数を算出し、局所関係式を更新する(ステップS212)。局所関係式更新部280は、第1の品質データと品質予測データの差である予測誤差を算出し、この予測誤差及び該第1の操業データに対する各局所関係式の重みに基づいて、新たな局所関係式の係数の値を算出する。
【0113】
今、局所領域kにおける更新に使用する製品の操業変数u_(T)=(u(T) u(T) … u(T))と活性度関数の値とから下記式(30)によって構成されるベクトルをv_(k)(T)、局所領域kにおける品質y_の各要素yに対応する線形多項式の更新前の係数からなるベクトルをA (k)(T-1)と表す。また、品質データ入力部270より入力された更新に使用する製品の品質データをy_(T)、その各要素をy(T)とする。ここで、Φ(k)(u_(T))は、更新に用いる操業データu_(T)の局所領域kにおける局所関係式の重みである。なお、A (k)(T)は、式(31)のように表される。
【0114】
【数18】
【0115】
このとき、局所領域kにおける品質y_の各要素yに対応する局所関係式の係数A (k)(T)は、下記式(32)により更新される。ここで、K (k)(T)は更新率行列であり、式(33)により算出される。
【0116】
【数19】
【0117】
ここで、P (k)(T-1)は、適応ゲイン行列である。上記式(32)及び式(33)は、例えば非特許文献2に記載された逐次最小二乗法の更新式である。なお、式(33)における適応ゲイン行列P (k)(T-1)は、次回のA (k)(T)の更新に備えて、下記式(34)により更新される。
【0118】
【数20】
【0119】
ここで、Iは単位行列であり、Λ (k)(T)は、係数ベクトルA (k)(T)の各要素に対応した忘却係数λjl (k)(j=1,…,p、k=1,…,M、l=1,…,q)の逆数を対角成分とする式(35)で表される行列である。忘却係数は、係数を更新する際の修正量を算出するに際して、最新の操業及び品質データによる修正を、どの程度まで修正量に反映させるかを設定するための係数であり、本実施形態においては式(36)により算出される。
【0120】
【数21】
【0121】
忘却係数λjl (k)(T)は0~1の範囲の値を取り、λjl (k)(T)の値が小さいほど忘却効果が大きく、上記式(32)の更新行列K (k)(T)が大きく評価される。逆にλjl (k)(T)=1の場合、忘却効果はゼロであり、予測誤差の大きさに係わらず係数の更新は行われない。なお、上記式(36)における係数gjlは、操業変数毎及び品質変数毎に忘却効果を個別に設定するための調整係数であり、操業変数及び品質変数毎に対する物理的な知識から経験的に設定してもよく、あるいは実操業を行いながら、品質予測精度が改善するように調整してもよい。
【0122】
なお、局所関係式に式(2)の線形多項式以外の関数を用いた場合は、採用した局所関係式の関数に対応した更新式を用いて、上記と同様の手順で演算を行い、係数の更新を行えばよい。このような局所関係式の更新式によって、操業データと品質データとの関係が変化した場合、該局所関係式の係数が迅速に更新される。したがって、予測精度が改善されるまでに要する時間を大幅に短縮することが可能となる。このようにして局所関係式の係数を更新することができる。以上、ステップS200~S212の処理による、第1番目の製品の品質予測データの出力と、局所関係式の係数の更新処理について説明した。
【0123】
続いて、第2番目の製品に関する第2の操業データ及び第2の品質データが入力された場合にも、品質予測装置200は同様に処理を行う。第2の操業データが製造プロセス300から操業データ入力部210へ入力されると(ステップS200)、操業データ入力部210は、第2の操業データを活性度関数演算部230及び局所関係式演算部240へ出力する。局所関係式演算部240は、入力された第2の操業データと、第1番目の製品の第1の操業データ及び第1の品質データによって係数が更新された局所関係式とを用いて、局所関係式の演算処理を行う(ステップS202)。局所関係式演算部240により算出された局所関係式の演算結果は、品質予測データ算出部250へ出力される。一方、活性度関数演算部230は、第2の操業データと活性度関数とを用いて、局所関係式の重みの演算を行い、品質予測データ算出部250へ出力する(ステップS204)。
【0124】
品質予測データ算出部250は、ステップS202で算出された局所領域kごとの局所関係式の演算結果と、ステップS204で算出された局所関係式の重みとに基づいて、第2番目の製品に関する品質予測データを算出する(ステップS206)。品質予測データ算出部250は、算出した品質予測データを品質予測データ出力部260及び局所関係式更新部280へ出力する。
【0125】
品質予測データ出力部260は、品質予測データ算出部250にて算出された品質予測データを、外部の製造プロセス300や運転員へ通知する出力装置等に出力する(ステップS208)。一方、第2番目の製品に関する第2の品質データが品質データ入力部270へ入力されると(ステップS210)、局所関係式更新部280は、当該第2の品質データとステップS206にて算出された第2の品質予測データとを用いて、新たな局所関係式の係数を算出し、局所関係式を更新する(ステップS212)。局所関係式更新部280は、第2の品質データと第2番目の製品の品質予測データの差である予測誤差を算出し、この予測誤差及び該第2の操業データに対する各局所関係式の重みに基づいて、新たな局所関係式の係数の値を算出する。このように、局所関係式の係数が、第2の操業データ、第2の品質データ及び第1番目の製品に関する情報に基づき更新された局所関係式から算出された第2番目の製品の品質予測データを用いて更新される。
【0126】
その後、第3番目の製品に関する第3の品質データ及び品質データが品質予測装置200に入力された場合にも、同様に品質予測データが算出され、局所関係式の係数が更新される。このように、図9の処理を繰り返すことにより、製造プロセス300における品質予測データを的確に評価することができる。ここで、第1番目の製品に関する第1の品質データが入力されるのは、必ずしも第2番目の製品の品質データの予測を行う前とは限らない。例えば、ずっと後の、第数百番目の製品の品質データの予測を行う時点、という場合もあるので、局所関係式の更新は、品質予測データを計算する時点で得られている最も新しい品質データ、品質予測データ、及び操業データに基づいて更新するのがよい。
【0127】
<3.第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態に係る品質予測装置の概要について説明する。本実施形態に係る品質予測装置は、図1に示した第1の実施形態に係る品質予測装置100と同様の構成を有するが、第1の実施形態と比較して、分割パターン候補作成部120による分割パターン候補の作成処理と、局所関係式算出部140による局所関係式の作成処理とが相違する。以下、本実施形態に係る品質予測装置及びこれによる品質予測方法について、第1の実施形態との相違点を主として説明する。
【0128】
[3-1.品質予測装置の構成]
まず、本実施形態に係る製造プロセスにおける品質予測装置の構成について説明する。本実施形態に係る品質予測装置は、第1の実施形態にて図1に示した品質予測装置100と同様の構成を有するため、本実施形態においても図1に基づき、品質予測装置100の構成を説明する。
【0129】
本実施形態に係る製造プロセスにおける品質予測装置100は、品質予測を行う対象の品質を予測する装置である。本実施形態に係る品質予測装置100は、第1の実施形態と同様、互いに関連の深い複数の品質指標を予測する場合に好適である。特に、本実施形態に係る品質予測装置100は、複数の品質指標がそれぞれ物理的要素に対応しており、予測に用いる操業変数が、すべての物理的要素に影響する共通操業変数と、一部(1または複数)の物理的要素のみに影響する個別操業変数とを含む場合に好適である。
【0130】
例えば鉄鋼プロセスの場合では、本実施形態に係る品質予測装置は、薄板の熱間圧延や冷間圧延等での品質予測に適用することができる。例えば、品質予測装置100により予測する品質として複数の圧延機での圧延荷重予測の補正係数を予測する場合、物理的要素は圧延機であり、共通操業変数として製品の寸法や各種元素の成分等があり、個別操業変数として圧下率や圧延速度、圧延荷重等がある。また、例えば、品質予測装置100により予測する品質として複数の冷却ゾーンでの予測温度の補正係数を予測する場合、物理的要素は冷却ゾーンであり、共通操業変数として製品の寸法や各種元素の成分等があり、各冷却ゾーンの個別操業変数として冷却水量や冷却速度等がある。
【0131】
このような品質予測装置100は、図1に示すように、データ抽出部110と、分割パターン候補作成部120と、活性度関数算出部130と、局所関係式算出部140と、関係式算出部150と、最小誤差関係式選択部160と、品質予測モデル決定部170と、品質予測部180と、データベース190とを備える。
【0132】
データ抽出部110は、データベース190より、製造プロセスにおける操業データと当該操業に対応した品質データとを複数抽出する。データ抽出部110は、第1の実施形態のデータ抽出部110と同様に機能する。データ抽出部110は、データベース190から抽出したデータを分割パターン候補作成部120へ出力する。
【0133】
分割パターン候補作成部120は、操業データの操業変数のうち、すべての物理的要素に影響する共通操業変数が値としてとる領域である全体領域を、複数の局所領域に分割し、分割パターン候補を複数個作成する処理を行う。すなわち、分割パターン候補作成部120は、データ抽出部110から入力された操業データの共通操業変数からなる全体領域を分割して、複数の分割パターン候補を作成する。分割パターン候補作成部120は、全体領域を構成する共通操業変数を分割して生成された複数の分割パターン候補を全体領域の分割パターン候補とする。そして、分割パターン候補作成部120は、作成された複数の分割パターン候補を活性度関数算出部130へ出力する。
【0134】
活性度関数算出部130は、分割パターン候補作成部120から入力されたすべての分割パターン候補に対して、共通操業変数の分割座標情報に基づきそれぞれ活性度関数を算出する。後述する局所関係式算出部140により各分割パターン候補の各局所領域における各局所関係式が算出されるが、活性度関数算出部130は、局所関係式の重みとして品質データの品質変数に共通の活性度関数を算出する。活性度関数算出部130は、算出した活性度関数を局所関係式算出部140及び関係式算出部150へ出力する。
【0135】
局所関係式算出部140は、各局所領域について操業データと品質データとの関連性を数式で表現した関係式(局所関係式)を作成する。本実施形態に係る局所関係式算出部14は、操業データの操業変数のうち、すべての物理的要素に影響する共通操業変数、及び、品質データの品質指標が対応する物理的要素に影響する個別操業変数のみを用いて局所関係式を作成する。本実施形態においても、一般的な数式を用いるのに比べて比較的容易に局所関係式を決定することができることから、局所関係式を線形多項式としてもよい。局所関係式算出部140は、各局所領域についてのデータ行列を構成し、各局所領域の局所関係式の未定係数を求め、各局所領域の局所関係式を決定する。局所関係式算出部140は、決定した局所関係式を関係式算出部150へ出力する。
【0136】
関係式算出部150は、活性度関数算出部130で算出された活性度関数と、局所関係式算出部140で求められた局所関係式を用いて、全体領域における操業データと品質データとの関係式を作成する。関係式算出部150は、第1の実施形態の関係式算出部150と同様に機能する。関係式算出部150は、作成した操業データと品質データとの関係式を最小誤差関係式選択部160へ出力する。
【0137】
最小誤差関係式選択部160は、関係式算出部150により算出された関係式を用いて算出される品質予測データと当該操業データに対応する品質データとに基づいて、関係式の予測誤差を各分割パターン候補についてそれぞれ算出し、当該予測誤差が最小となる分割パターン候補の関係式を選択する。最小誤差関係式選択部160は、第1の実施形態の最小誤差関係式選択部160と同様に機能する。最小誤差関係式選択部160は、選択した関係式を品質予測モデル決定部170へ出力する。
【0138】
品質予測モデル決定部170は、最小誤差関係式選択部160で選択された誤差最小の関係式の予測誤差の収束判定を行い、予測誤差が収束したときの分割パターンの関係式を品質予測モデルとして決定する。品質予測モデル決定部170は、第1の実施形態の品質予測モデル決定部170と同様に機能する。品質予測モデル決定部170は、予測誤差が収束したと判定した場合には、当該誤差最小の関係式を品質予測モデルとして品質予測部180へ出力する。一方、予測誤差の収束が不十分であると判定した場合、品質予測モデル決定部170は、分割パターン候補作成部120に対して、最小誤差関係式選択部160において選択された分割パターンをさらに分割して新たな分割パターン候補を作成する指示を行う。
【0139】
品質予測部180は、品質予測モデル決定部170から入力された品質予測モデルに基づいて、製品の品質を予測する。品質予測部180は、第1の実施形態の品質予測部180と同様に機能する。品質予測部180は、例えば品質予測モデルに対して別途入力される操業データを用いて品質予測データを算出し、算出した品質予測データを外部へ出力する。
【0140】
データベース190は、第1の実施形態と同様、製造プロセスにおける過去の操業データ及び品質データや、各製造工程での製造時刻、向け先などの注文情報、製品を特定するための製品番号などを関連付けて記憶する記憶部である。これらの情報は、外部から所定のタイミングでデータベース190に入力され、記録される。データベース190に記憶された情報は、データ抽出部110により抽出され、品質予測モデルの構築に用いられる。
【0141】
[3-2.品質予測装置による品質予測処理]
次に、図10図12に基づいて、本実施形態に係る品質予測装置100による品質予測処理について詳細に説明する。なお、図10は、本実施形態に係る活性度関数及び局所関係式を求める処理を単純なケースで説明するための図である。図11は、本実施形態に係る活性度関数及び局所関係式を求める処理をより複雑なケースで説明するための図である。図12は、本実施形態に係る品質予測装置による品質予測処理を示すフローチャートである。
【0142】
本実施形態では、複数の品質指標には、それぞれ対応する物理的要素を介して、いくつかの個別操業変数が影響している。つまり、複数の品質指標を表すベクトルの出力y_の各要素である数値変数y~yのそれぞれに対して、個別操業変数のベクトルu_(1)~u_(q)が定義される。また、共通操業変数はベクトルu_(0)で表す。
【0143】
単純なケースでは、図10に示すように、本実施形態の操業変数は、すべての物理的要素に共通して影響する共通操業変数ベクトルu_(0)と1つの物理的要素に個別に影響する個別操業変数ベクトルu_(1)~u_(q)とを含む。また、より複雑なケースでは、図11に示すように、本実施形態の操業変数は、すべての物理的要素に共通して影響する共通操業変数ベクトルu_(0)と、一部の物理的要素ごとに個別に影響する個別操業変数ベクトルu_(1)~u_(q)とを含む。ここで、「一部の物理的要素ごとに個別に影響する」とは、いくつかの物理的要素には共通して影響するが、それ以外の物理的要素には影響しないことを意味する。また、図示するように、個別操業変数の間で、同一の物理的要素に重複して影響していてもよい。
【0144】
例えば、圧延方向に隣り合う圧延機i(例えばF1スタンド)と圧延機i+1(例えばF2スタンド)との間の張力を表す操業変数は、張力を与える各圧延機(F1スタンドとF2スタンド)に共通して影響する操業変数u_(i)を個別操業変数ベクトルとし、圧延方向に隣り合う圧延機i+1(例えばF2スタンド)と圧延機i+2(例えばF3スタンド)との間の張力を表す操業変数は、張力を与える各圧延機(F2スタンドとF3スタンド)に共通して影響する操業変数u_(i+1)を個別操業変数ベクトルとする。このとき、u_(i)とu_(i+1)とは、圧延機i+1といった同一の物理的要素に対して重複して影響する個別操業変数になる。なお、以下では、図10に示す1つの物理的要素のみに影響する個別操業変数を「独立個別操業変数」と称する。また、図11に示す複数の物理的要素にわたって影響する個別操業変数を「共通個別操業変数」と称する。単に「個別操業変数」と表記している場合は、「独立個別操業変数」と「共通個別操業変数」の少なくともいずれかを含むものとする。
【0145】
本実施形態では、局所領域kにおける操業変数と品質変数yとの関係を表す局所関係式y(k)を、共通操業変数ベクトルu_(0)と、yに影響する個別操業変数ベクトルu_(l)との関数とする。また、局所関係式の重み付き線形和として全体領域内の各点における予測値を算出する際の局所関係式の重みを表す活性度関数Φ(k)は、共通操業変数ベクトルu_(0)のみの関数とする。よって、品質変数yを予測する全体の関係式y^は、下記式(20’)で表される。
【0146】
【数22】
【0147】
また、各局所領域における局所関係式を線形式でモデル化する場合、入力u_(0)=(u (0) (0) ・・・ p0 (0)及びu_(l)=(u (l) (l) ・・・ pl (l)と出力y(k)との関係は、下記式(2’)で表される。ここで、p及びpはそれぞれ、共通操業変数u_(0)の数、及び、個別操業変数u_(l)の数である。線形式の係数は、u_(0)に対応するものをajl (k)と表し、u_(l)に対応するものをa~jl (k)と表すことにより、区別されている。
【0148】
【数23】
【0149】
本実施形態に係る品質予測装置100による品質予測処理では、図12に示すように、まず、データ抽出部110によりデータベース190から品質予測を行う対象に関する操業データ及び品質データを抽出する(ステップS300)。データ抽出部110は、抽出した操業データ及び品質データを、分割パターン候補作成部120へ出力する。
【0150】
次に、分割パターン候補作成部120は、操業変数u_のうち、すべての物理的要素に共通して影響する共通操業変数u_(0)を読み出し(ステップS302)、共通操業変数u_(0)のみを用いて分割パターン候補を作成する(ステップS304)。分割パターン候補の作成処理は、第1の実施形態のステップS102と同様に行えばよいため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0151】
分割パターン候補が作成されると、すべての分割パターン候補に対してそれぞれ活性度関数、局所関係式及び全体の関係式が算出される(ステップS306~S312)。
【0152】
まず、活性度関数算出部130により、分割パターン候補作成部120で求めたすべての分割パターン候補に対して、活性度関数がそれぞれ算出される(ステップS306)。活性度関数には、第1の実施形態と同様、上記式(22)で表現される正規条件を満たす任意の関数を用いることができる。具体的には、例えば、上記式(23)で表現される局所領域の重心に中心を持つ正規分布関数μ(k)に基づいて上記式(24)で定義される正規メンバシップ関数を、活性度関数として用いることができる。
【0153】
次いで、局所関係式算出部140は、各局所領域について操業データと品質データの関連を数式で表現した関係式を作成する。本実施形態では、品質変数yによって局所関係式に用いられる操業変数が異なる。このため、局所関係式算出部140は、品質変数yごとに、共通操業変数u_(0)と、品質変数yに個別に影響する個別操業変数u_(l)とを抽出し、これらの操業データ及び活性度関数から、品質変数yに対応した各局所領域のデータ行列X (k)が作成される(ステップS308)。データ行列X (k)は下記式(25’)で表される。
【0154】
【数24】
【0155】
そして、局所関係式算出部140は、品質変数yごとに、下記式(26’)で表される各局所領域kについての回帰式の回帰係数(すなわち、局所関係式の未定係数)A (k)を算出する(ステップS310)。なお、局所領域kの局所関係式の未定係数A (k)は、下記式(27’)で表される。
【0156】
【数25】
【0157】
未定係数A (k)は、例えば、下記式(28’)で表す重回帰により算出される。ベクトルyは、式(29’)に示すように品質データを表す列ベクトルである。
【0158】
【数26】
【0159】
なお、未定係数A (k)は、上記式(28’)で表す重回帰によるもののほか、例えば、ステップワイズ法やスパース回帰、部分最小二乗法等の手法を用いて算出してもよい。
【0160】
図12の説明に戻り、関係式算出部150は、活性度関数算出部130及び局所関係式算出部140で求められた活性度関数と局所関係式とを用いて、すべての分割パターンについて、式(20’)で示される操業データと品質データとの関係式を構成する(S312)。関係式算出部150において式(20’)の操業データと品質データとの関係式が構成されると、最小誤差関係式選択部160は、分割パターン候補作成部120で作成された複数の分割パターン候補の中から、最も誤差が小さくなる関係式を選択する(S314)。式(20’)で示す操業データと品質データの関係式は、複数の分割パターン候補すべてに対して作成される。最小誤差関係式選択部160は、これを用いて、上記式(7)で定義される誤差評価式で誤差を評価する。そして、最小誤差関係式選択部160は、式(7)により算出された誤差が最も小さい分割パターンの関係式を選択する。
【0161】
最小誤差関係式選択部160で1つの関係式が選択されると、品質予測モデル決定部170は、最小誤差関係式選択部160で選択した誤差最小の関係式の誤差と、予め設定された評価基準値とを比較して、学習が十分であるか、すなわち誤差が収束したか否かが判定される(ステップS316)。収束判定は、第1の実施形態と同様に行えばよい。
【0162】
品質予測モデル決定部170は、該誤差が評価基準値より大きい場合には、十分な精度でデータを説明できる関係式はまだ構築されておらず、誤差の収束は不十分であると判定する。この場合、品質予測モデル決定部170は、分割パターン候補作成部120に対して、分割パターンの分割数Mを1つ増やして、分割パターン候補作成の処理を行う(ステップS318)。そして、学習誤差評価にて十分な精度でデータを説明できる関係式が構築されたと判定されるまで、分割パターン処理作成から操業と品質の関係式算出の処理を繰り返す。
【0163】
一方、誤差が評価基準値以下であれば、品質予測モデル決定部170は、十分な精度でデータを説明できる関係式が構築されたと判定し、当該関係式を、品質予測部180で用いる品質予測モデルとして決定する(ステップS320)。そして、品質予測モデル決定部170は、得られた品質予測モデル、あるいは、当該品質予測モデルを表現する為の情報である活性度関数、局所関係式の係数を抽出して、品質予測部180へ出力する。品質予測部180は、品質予測モデルと、別途入力される操業データとを用いて、式(20’)より品質予測データを算出し、外部へ出力する。品質予測部180により算出された品質予測データは、例えば、品質予測オペレータへのガイダンスや、プロセス制御系への入力信号として用いることができる。
【0164】
以上、本発明の第3の実施形態に係る品質予測装置100とこれによる品質予測方法について説明した。本実施形態に係る品質予測装置100によれば、予測対象となる品質変数が複数の数値変数(すなわちベクトル量)であり、それぞれが複数の物理的要素に対応しており、かつ、予測に用いる操業変数の中にもその物理的要素に対応するものがある場合に、目的変数をベクトルとした品質予測モデルを作成する。この際、本実施形態では、操業変数を、すべての品質変数に影響する共通操業変数と、一部の品質変数のみに影響する個別操業変数に分け、操業因子空間の領域分割は共通操業変数のみで行うとともに、局所関係式は共通操業変数と当該品質変数に影響する個別操業変数のみから作成する。これにより、例えば圧延機等の物理的要素に対応する品質変数の予測に、他の物理的要素(例えば、隣接もしていない圧延機)に対応する操業変数が使用され、物理的に不合理な予測モデルが作成されることを防止できる。予測モデルが物理的に不合理にならないようにすることで、操業変数と品質変数との関係を適切に捉えることが可能な情報を提示することが可能となる。
【0165】
<4.第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態に係る品質予測装置について説明する。本実施形態に係る品質予測装置は、第2の実施形態に係る品質予測装置200と同様、製造プロセス300に接続されており、製造プロセス300の状態に応じて局所関係式を更新することができる。これにより、操業データと品質データとの関係が変化した場合にも迅速に対応することができ、予測精度が改善されるまでに要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0166】
本実施形態に係る品質予測装置は、第2の実施形態にて図8に示した品質予測装置200と同様の構成を有するが、第2の実施形態と比較して、活性度関数演算部230による局所関係式の重み算出処理と、局所関係式演算部240による局所関係式の算出処理と、局所関係式更新部280による局所関係式の更新処理とが相違する。以下、本実施形態に係る品質予測装置の構成とこれによる局所関係式の更新処理について、第2の実施形態との相違点を主として詳細に説明する。
【0167】
[4-1.品質予測装置の構成]
まず、本実施形態に係る製造プロセスにおける品質予測装置の構成について説明する。なお、本実施形態に係る品質予測装置は、第2の実施形態にて図8に示した品質予測装置200と同様の構成を有するため、本実施形態においても図8に基づき、品質予測装置200の構成を説明する。
【0168】
本実施形態に係る品質予測装置200は、製造プロセスから逐次取得される製品の操業データ及び品質データに基づいて局所関係式を更新する更新処理部を構成する処理部として、図8に示すように、操業データ入力部210と、活性度関数記憶部220と、活性度関数演算部230と、局所関係式演算部240と、品質予測データ算出部250と、品質予測データ出力部260と、品質データ入力部270と、局所関係式更新部280とを備える。
【0169】
操業データ入力部210は、品質予測装置200に接続された製造プロセス300から収集された製品の操業データが入力される。操業データ入力部210は、第2の実施形態の操業データ入力部210と同様に機能する。操業データ入力部210により入力される操業データは、複数の操業変数からなる。操業データは、以下に述べる各処理部による演算処理を実行することで、式(20’)に等価な演算が実行され、品質予測データが算出される。操業データ入力部210から入力された操業データは、活性度関数演算部230及び局所関係式演算部240へ出力される。
【0170】
活性度関数記憶部220は、式(20’)における活性度関数Φを算出するために必要な、局所領域の重心点、正規分布関数の標準偏差の集合を記憶する。すなわち、活性度関数記憶部220には、第3の実施形態において選択された分割パターンに関する情報が記憶されている。
【0171】
活性度関数演算部230は、局所関係式の重み付き線形和である品質予測データを算出する際の局所関係式の重みを算出する。活性度関数演算部230は、操業データ入力部210から入力された操業データのうち共通操業変数の操業データと、活性度関数記憶部220に記憶された式(24)で表される活性度関数とを用いて、局所関係式の重みを算出する。そして、活性度関数演算部230は、算出した局所関係式の重みを品質予測データ算出部250へ出力する。
【0172】
局所関係式演算部240は、操業データ入力部210から入力された操業データに基づいて、局所関係式を算出する。局所関係式演算部240は、式(2’)で表わされる局所領域kにおける局所関係式の係数を記憶しており、操業データを局所領域kにおける式(2’)の局所関係式の共通操業変数u (0)~up0 (0)及び品質y_の各要素yに対応した個別操業変数u (l)~upl (l)に当てはめて、局所関係式の演算処理を行う。この局所関係式の係数値は、後に述べる局所関係式更新部280によって更新される。なお、局所関係式に、線形多項式以外の数式を用いた場合には、該数式の共通操業変数及び個別操業変数に対応する変数に、操業データの数値を設定して局所関係式の演算を行えばよい。局所関係式演算部240は、局所領域kごとに算出された局所関係式の演算結果を品質予測データ算出部250へ出力する。なお、局所関係式は、品質データの各品質変数についてそれぞれ作成される。
【0173】
品質予測データ算出部250は、活性度関数演算部230から入力された局所関係式の重みと、局所関係式演算部240から入力された局所領域kごとの局所関係式の演算結果とに基づいて、操業データと品質データとの関係式、すなわち品質予測モデルに基づく品質予測データを算出する。品質予測データ算出部250は、第2の実施形態と同様の品質予測データ算出部250と同様に機能する。品質予測データ算出部250は、局所関係式の重みと局所関係式の演算結果との積を算出し、さらに、すべての局所領域について算出されたこれらの積の和をとることにより、式(20’)の操業データと品質データとの関係式に基づく品質予測データを算出する。そして、品質予測データ算出部250は、算出した品質予測データを品質予測データ出力部260及び局所関係式更新部280へ出力する。
【0174】
品質予測データ出力部260は、品質予測データ算出部250にて算出された品質予測データを外部へ出力するインタフェース部として機能する。品質予測データ出力部260は、第2の実施形態の品質予測データ出力部260と同様に機能する。品質予測データ出力部260は、品質予測データを、例えばガイダンス情報として表示したり、あるいは品質制御に利用するために製造プロセスの制御系へ出力したりする。
【0175】
品質データ入力部270は、製造プロセスから抽出された、製品の品質が測定された時点における品質データを入力する。品質データ入力部270は、第2の実施形態の品質データ入力部270と同様に機能する。品質データ入力部270は、入力された品質データを局所関係式更新部280へ出力する。
【0176】
局所関係式更新部280は、局所関係式演算部240で用いる局所関係式の係数を更新する。局所関係式更新部280は、第2の実施形態の局所関係式更新部280と同様に機能する。局所関係式更新部280は、局所関係式の係数を更新すると、更新後の局所関係式を局所関係式演算部240へ出力する。
【0177】
[4-2.品質予測装置による局所関係式更新処理]
次に、本実施形態に係る、局所関係式の操業変数に対する係数の更新処理について説明する。本実施形態も、図9に示した第2の実施形態の局所関係式の操業変数に対する係数の更新処理と同様に処理が行われる。したがって、以下では、図9に基づき、本実施形態に係る局所関係式の操業変数に対する係数の更新処理を説明する。
【0178】
ここで、局所関係式は操業変数から構成される式(2’)を用いることを前提とする。線形多項式の1回目の処理では、図9のステップS200~S208の処理が行われる。ステップS200~S208の処理は、第2の実施形態と同様に行われる。なお、線形多項式の1回目の処理ではステップS212の局所関係式の更新処理は行われないため、局所関係式の演算は、初期設定に基づき行われる。このとき、局所関係式は、所定の精度が得られた関係式であるとする。
【0179】
まず、品質予測装置200の操業データ入力部210に製造プロセス300から収集された製品の操業データが入力される(ステップS200)。例えば、操業データ入力部210に第1番目の製品に関する第1の操業データが入力されるとする。操業データ入力部210は、入力された第1の操業データを活性度関数演算部230及び局所関係式演算部240へ出力する。
【0180】
局所関係式演算部240は、操業データ入力部210から入力された第1の操業データと予め記憶する各局所領域kにおける局所関係式の係数に基づいて、局所関係式の演算処理を行う(ステップS202)。局所関係式演算部240で用いる局所関係式の係数は、局所関係式更新部280により更新されるが、当該品質予測装置200により製造プロセス300の品質予測データを最初に算出する場合には局所関係式更新部280により更新後の係数の算出が行われないため、局所関係式の係数の更新は行われない。この場合、局所領域kにおける局所関係式の係数の初期値は、局所関係式が所定の精度を有するものであるように、例えば第3の実施形態の手法により算出してよい。局所関係式演算部240により算出された局所関係式の演算結果は、品質予測データ算出部250へ出力される。
【0181】
一方、操業データ入力部210から第1の操業データが入力された活性度関数演算部230は、第1の操業データと活性度関数とを用いて、局所関係式の重みを演算する(ステップS204)。活性度関数演算部230は、活性度関数に式(24)で定義される関数式を用いた場合、操業データ入力部210より入力された第1の操業データのうち、操業変数に対応する数値を設定して、式(23)の演算を行うことで局所関係式の重みを算出する。活性度関数演算部230により算出された局所関係式の重みは、品質予測データ算出部250へ出力される。
【0182】
その後、品質予測データ算出部250は、ステップS202で算出された局所領域kごとの局所関係式の演算結果と、ステップS204で算出された局所関係式の重みとに基づいて、第1の操業データと第1番目の製品に関する第1の品質データの関係式に基づく品質予測データを算出する(ステップS206)。品質予測データ算出部250は、局所関係式の重みと局所関係式の演算結果との積を算出し、さらに、すべての局所領域について算出されたこれらの積の和をとることにより、式(20)の操業データと品質データの関係式に基づく品質予測データを算出する。そして、品質予測データ算出部250は、算出した品質予測データを品質予測データ出力部260及び局所関係式更新部280へ出力する。
【0183】
品質予測データ出力部260は、品質予測データ算出部250にて算出された品質予測データを、外部の製造プロセス300や運転員へ通知する出力装置等に出力する(ステップS208)。一方、第1番目の製品に関する第1の品質データが品質データ入力部270へ入力されると(ステップS210)、局所関係式更新部280は、当該第1の品質データとステップS206にて算出された第1番目の製品の品質予測データとを用いて、新たな局所関係式の係数を算出し、局所関係式を更新する(ステップS212)。局所関係式更新部280は、第1の品質データと品質予測データの差である予測誤差を算出し、この予測誤差及び該第1の操業データに対する各局所関係式の重みに基づいて、新たな局所関係式の係数の値を算出する。
【0184】
今、局所領域kにおける更新に使用する製品の操業変数u_(T)=(u(T) u(T) … u(T))から、品質y_の各要素yに対応して抽出された、共通操業変数u_(0)(T)と品質変数yに対応する個別操業変数u_(l)(T)と、活性度関数の値とから下記式(30’)によって構成されるベクトルをv_l (k)(T)、局所領域kにおける品質y_の各要素yに対応する線形多項式の更新前の係数からなるベクトルをA (k)(T-1)と表すものとする。また、品質データ入力部270より入力された更新に使用する製品の品質データをy_(T)、その各要素をy(T)とする。ここで、Φ(k)(u_(T))は、更新に用いる操業データu_(T)の局所領域kにおける局所関係式の重みである。なお、A (k)(T)は、式(31’)のように表される。
【0185】
【数27】
【0186】
このとき、局所領域kにおける品質y_の各要素yに対応する局所関係式の係数A (k)(T)は、下記式(32’)により更新される。ここで、K (k)(T)は更新率行列であり、式(33’)により算出される。
【0187】
【数28】
【0188】
ここで、P (k)(T-1)は、適応ゲイン行列である。上記式(32’)及び式(33’)は、例えば非特許文献2に記載された逐次最小二乗法の更新式である。なお、式(33’)における適応ゲイン行列P (k)(T-1)は、次回のA (k)(T)の更新に備えて、下記式(34’)により更新される。
【0189】
【数29】
【0190】
ここで、Iは単位行列であり、Λ (k)(T)は、係数ベクトルA (k)(T)の各要素に対応した忘却係数λjl (k)(j=1,…,p、k=1,…,M、l=1,…,q)の逆数を対角成分とする式(35’)で表される行列である。忘却係数は、係数を更新する際の修正量を算出するに際して、最新の操業及び品質データによる修正を、どの程度まで修正量に反映させるかを設定するための係数であり、本実施形態においては式(36’)により算出される。
【0191】
【数30】
【0192】
忘却係数λjl (k)(T)は0~1の範囲の値を取り、λjl (k)(T)の値が小さいほど忘却効果が大きく、上記式(32’)の更新行列K (k)(T)が大きく評価される。逆にλjl (k)(T)=1の場合、忘却効果はゼロであり、予測誤差の大きさに係わらず係数の更新は行われない。なお、上記式(36’)における係数gjlは、操業変数毎及び品質変数毎に忘却効果を個別に設定するための調整係数であり、操業変数及び品質変数毎に対する物理的な知識から経験的に設定してもよく、あるいは実操業を行いながら、品質予測精度が改善するように調整してもよい。
【0193】
なお、局所関係式に式(2’)の線形多項式以外の関数を用いた場合は、採用した局所関係式の関数に対応した更新式を用いて、上記と同様の手順で演算を行い、係数の更新を行えばよい。このような局所関係式の更新式によって、操業データと品質データとの関係が変化した場合、該局所関係式の係数が迅速に更新される。したがって、予測精度が改善されるまでに要する時間を大幅に短縮することが可能となる。このようにして局所関係式の係数を更新することができる。以上、ステップS200~S212の処理による、第1番目の製品の品質予測データの出力と、局所関係式の係数の更新処理について説明した。
【0194】
続いて、第2番目の製品に関する第2の操業データ及び第2の品質データが入力された場合にも、品質予測装置200は同様に処理を行う。第2の操業データが製造プロセス300から操業データ入力部210へ入力されると(ステップS200)、操業データ入力部210は、第2の操業データを活性度関数演算部230及び局所関係式演算部240へ出力する。局所関係式演算部240は、入力された第2の操業データと、第1番目の製品の第1の操業データ及び第1の品質データによって係数が更新された局所関係式とを用いて、局所関係式の演算処理を行う(ステップS202)。局所関係式演算部240により算出された局所関係式の演算結果は、品質予測データ算出部250へ出力される。一方、活性度関数演算部230は、第2の操業データと活性度関数とを用いて、局所関係式の重みの演算を行い、品質予測データ算出部250へ出力する(ステップS204)。
【0195】
品質予測データ算出部250は、ステップS202で算出された局所領域kごとの局所関係式の演算結果と、ステップS204で算出された局所関係式の重みとに基づいて、第2番目の製品に関する品質予測データを算出する(ステップS206)。品質予測データ算出部250は、算出した品質予測データを品質予測データ出力部260及び局所関係式更新部280へ出力する。
【0196】
品質予測データ出力部260は、品質予測データ算出部250にて算出された品質予測データを、外部の製造プロセス300や運転員へ通知する出力装置等に出力する(ステップS208)。一方、第2番目の製品に関する第2の品質データが品質データ入力部270へ入力されると(ステップS210)、局所関係式更新部280は、当該第2の品質データとステップS206にて算出された第2の品質予測データとを用いて、新たな局所関係式の係数を算出し、局所関係式を更新する(ステップS212)。局所関係式更新部280は、第2の品質データと第2番目の製品の品質予測データの差である予測誤差を算出し、この予測誤差及び該第2の操業データに対する各局所関係式の重みに基づいて、新たな局所関係式の係数の値を算出する。このように、局所関係式の係数が、第2の操業データ、第2の品質データ及び第1番目の製品に関する情報に基づき更新された局所関係式から算出された第2番目の製品の品質予測データを用いて更新される。
【0197】
その後、第3番目の製品に関する第3の品質データ及び品質データが品質予測装置200に入力された場合にも、同様に品質予測データが算出され、局所関係式の係数が更新される。このように、図9の処理を繰り返すことにより、製造プロセス300における品質予測データを的確に評価することができる。ここで、第1番目の製品に関する第1の品質データが入力されるのは、必ずしも第2番目の製品の品質データの予測を行う前とは限らない。例えば、ずっと後の、第数百番目の製品の品質データの予測を行う時点、という場合もあるので、局所関係式の更新は、品質予測データを計算する時点で得られている最も新しい品質データ、品質予測データ、及び操業データに基づいて更新するのがよい。
【0198】
<5.第5の実施形態>
次に、本発明の第5の実施形態に係る品質予測モデル生成装置及び品質予測モデル生成方法について説明する。本実施形態に係る品質予測モデル生成装置は、第3の実施形態に係る品質予測装置100と第4の実施形態に係る品質予測装置200とを汎用化した装置である。
【0199】
すなわち、本実施形態に係る製造プロセスにおける品質予測モデル生成装置は、品質予測を行う対象の品質を予測する品質予測モデルを生成する装置であって、互いに関連の深い複数の品質指標を予測する場合に好適な品質予測モデルを生成する。特に、本実施形態に係る品質予測モデル生成装置が生成する品質予測モデルは、上記第3及び第4の実施形態のように、複数の品質指標がそれぞれ物理的要素に対応しており、予測に用いる操業変数が、すべての物理的要素に影響する共通操業変数と、一部(1または複数)の物理的要素のみに影響する個別操業変数とを含む場合に好適である。
【0200】
例えば鉄鋼プロセスの場合では、本実施形態に係る品質予測モデル生成装置は、薄板の熱間圧延や冷間圧延等での品質予測に適用することができる。例えば、品質予測モデルにより予測する品質として複数の圧延機での圧延荷重予測の補正係数を予測する場合、物理的要素は圧延機であり、共通操業変数として製品の寸法や各種元素の成分等があり、個別操業変数として圧下率や圧延速度、圧延荷重等がある。また、例えば、品質予測モデルにより予測する品質として複数の冷却ゾーンでの予測温度の補正係数を予測する場合、物理的要素は冷却ゾーンであり、共通操業変数として製品の寸法や各種元素の成分等があり、各冷却ゾーンの個別操業変数として冷却水量や冷却速度等がある。
【0201】
上記第3及び第4の実施形態では、局所領域kにおける操業変数と品質変数yとの関係を表す局所関係式y(k)を、上記式(2’)に示すように線形式として表したが、本実施形態では、線形式、非線形式のいずれであってもよい。また、上記第3及び第4の実施形態では、品質変数yを予測する全体の関係式を上記式(20’)に示すように活性度関数Φ(k)を用いた重み付き平均により表したが、本実施形態では、線形式、非線形式のいずれで表してもよい。以下、本実施形態に係る品質予測モデル生成装置及びこれによる品質予測モデル生成方法について説明する。
【0202】
[5-1.品質予測モデル生成装置の構成]
まず、図13に基づいて、本実施形態に係る品質予測モデル生成装置の構成について説明する。図13は、本発明の第5の実施形態に係る品質予測モデル生成装置の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る品質予測モデル生成装置500は、図13に示すように、品質予測モデル作成部510と、出力部520とを備える。また、品質予測モデル生成装置500は、品質予測部530と、更新処理部540とを備えていてもよい。
【0203】
品質予測モデル作成部510は、製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと、製造された製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、操業データと品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する。本実施形態に係る品質予測モデル作成部510は、図1の品質予測モデル作成部102に対応する。
【0204】
品質予測モデル作成部510は、図13に示すように、共通モデル算出部511と、個別モデル算出部513と、関係式算出部515とを有する。
【0205】
共通モデル算出部511は、すべての物理的要素に共通な操業データと品質データとの関係を表す品質変数に共通の共通モデル関係式を、共通操業変数を用いて算出する。共通モデル算出部511は、図1の活性度関数算出部130に対応する。共通モデル関係式は、線形式あるいは非線形式にて表される。例えば、上記式(20’)に示した活性度関数を用いた重み付き平均も共通モデル関係式の一例である。また、例えば、一般化線形モデル、カーネル法、深層学習を含むニューラルネット等を用いて表される非線形式を、共通モデル関係式としてもよい。共通モデル算出部511は、算出した共通モデル関係式を、個別モデル算出部513及び関係式算出部515へ出力する。
【0206】
個別モデル算出部513は、一部の物理的要素のみに関係する操業データと品質データとの関係を表す個別モデル関係式を、共通操業変数及び個別操業変数を用いて、品質変数毎に算出する。なお、個別モデル関係式の算出には、個別操業変数のうち、対象の品質変数に影響するもののみが用いられる。個別モデル算出部513は、図1の局所関係式算出部140に対応する。個別モデル関係式は、線形式あるいは非線形式にて表される。例えば、上記式(2’)に示した線形式も個別モデル関係式の一例である。また、例えば、一般化線形モデル、カーネル法、深層学習を含むニューラルネット等を用いて表される非線形式を、個別モデル関係式としてもよい。個別モデル算出部513は、算出した個別モデル関係式を関係式算出部515へ出力する。
【0207】
関係式算出部515は、品質変数に共通の共通モデル関係式と品質変数毎に算出された個別モデル関係式とに基づいて、共通操業変数が値としてとる領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を算出する。当該関係式は、品質予測モデルを表す。関係式算出部515は、図1の関係式算出部150に対応する。関係式算出部515は、作成した操業データと品質データとの関係式を、品質予測モデルとして、出力部520へ出力する。
【0208】
出力部520は、品質予測モデル作成部510により作成された品質予測モデルを、各種機能部または外部の装置へ出力する。例えば、出力部520は、品質予測モデルを品質予測部530または外部の品質予測装置600へ出力する。
【0209】
品質予測部530は、出力部520から入力された品質予測モデルに基づいて、製品の品質を予測する。本実施形態に係る品質予測部530は、図1の品質予測部180に対応する。品質予測部530は、図1の品質予測部180と同様に機能する。品質予測部530は、例えば品質予測モデルに対して別途入力される操業データを用いて品質予測データを算出し、算出した品質予測データを外部へ出力する。
【0210】
なお、図13では、品質予測部530は、品質予測モデル生成装置500を構成する一機能部として記載されているが、本発明は係る例に限定されない。例えば、品質予測部530の代わりに、品質予測モデル生成装置500とは別体の品質予測装置600を設け、品質予測装置600に品質予測部530の機能を持たせてもよい。この場合、品質予測装置600は、品質予測モデル生成装置500にて作成された品質予測モデルを取得し、当該品質予測モデルを用いて製品の品質を予測する処理を実行する。
【0211】
本実施形態に係る品質予測モデル生成装置500は、製造プロセスにおける過去の操業データ及び品質データや、各製造工程での製造時刻、向け先などの注文情報、製品を特定するための製品番号などを関連付けて記憶するデータベース190と接続されている。データベース190は、図1に示すように、品質予測モデル生成装置500の記憶部として構成されていてもよい。データベース190に記録された製造プロセスにおける操業データ及び当該操業に対応した品質データは、品質予測モデル作成部510により抽出され、品質予測モデルの構築に用いられる。
【0212】
また、本実施形態に係る品質予測モデル生成装置500は、共通モデル関係式として上記式(20’)を用い、個別モデル関数として上記式(2’)を用いる場合、第3の実施形態に係る品質予測装置100と同様に機能する。この場合、品質予測モデル作成部510は、図1に示す品質予測装置100と同様、分割パターン候補作成部120、最小誤差関係式選択部160、及び、品質予測モデル決定部170を備えてもよい。なお、これらの機能部は、第3の実施形態と同様に機能するため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0213】
図13の説明に戻り、更新処理部540は、製造プロセス300から逐次取得される製品の操業データ及び品質データに基づいて、個別モデル関係式を更新する。更新処理部540は、製造プロセス300に接続されており、製造プロセス300の状態に応じて個別モデル関係式を更新する。これにより、操業データと品質データとの関係が変化した場合にも迅速に対応することができ、予測精度が改善されるまでに要する時間を大幅に短縮することが可能となる。更新処理部540は、具体的には、図8に示した品質予測装置200と同様に機能する。したがって、更新処理部540は、図13に示す品質予測モデル生成装置500とは別体の装置としてもよい。この場合、図13に示す品質予測モデル生成装置500は、必ずしも製造プロセス300と接続されていなくともよい。
【0214】
[5-2.品質予測モデル生成装置による品質予測モデル生成処理]
次に、図14図16に基づいて、本実施形態に係る品質予測モデル生成装置500による品質予測モデル生成処理について詳細に説明する。なお、図14は、本実施形態に係る共通モデル関係式及び個別モデル関係式を求める処理を単純なケースで説明するための図である。図15は、本実施形態に係る共通モデル関係式及び個別モデル関係式を求める処理をより複雑なケースで説明するための図である。図16は、本実施形態に係る品質予測モデル生成装置500による品質予測モデル生成処理を示すフローチャートである。
【0215】
本実施形態では、第3の実施形態と同様、複数の品質指標には、それぞれ対応する物理的要素を介して、いくつかの個別操業変数が影響している。つまり、複数の品質指標を表すベクトルの出力y_の各要素である数値変数y~yのそれぞれに対して、個別操業変数のベクトルu_(1)~u_(q)が定義される。また、共通操業変数はベクトルu_(0)で表す。
【0216】
単純なケースでは、図14に示すように、本実施形態の操業変数は、すべての物理的要素に共通して影響する共通操業変数ベクトルu_(0)と1つの物理的要素に個別に影響する個別操業変数ベクトルu_(1)~u_(q)とを含む。また、より複雑なケースでは、図15に示すように、本実施形態の操業変数は、すべての物理的要素に共通して影響する共通操業変数ベクトルu_(0)と、一部の物理的要素ごとに個別に影響する個別操業変数ベクトルu_(1)~u_(q)とを含む。ここで、「一部の物理的要素ごとに個別に影響する」とは、いくつかの物理的要素には共通して影響するが、それ以外の物理的要素には影響しないことを意味する。また、図示するように、個別操業変数の間で、同一の物理的要素に重複して影響していてもよい。
【0217】
図14及び図15は、図10及び図11と同様、複数の圧延機を備えるタンデム圧延機を例として示している。すなわち、一台の圧延機が物理的要素となり、タンデム圧延機が製造プロセスとなる。図14及び図15では、図10及び図11に示す局所領域kの局所関係式の未定係数A (k)を個別モデル要素として示しており、活性度関数Φ(k)を共通モデル要素として示している。
【0218】
個別モデル要素は、線形式あるいは非線形式の個別モデル関係式として表される。例えば、上記式(2’)に示した線形式は個別モデル関係式の一例である。また、下記式(2’’)に示した非線形式g (k)も個別モデル関係式の一例である。非線形式g (k)は、例えば、一般化線形モデル、カーネル法、深層学習を含むニューラルネット等を用いて表される。
【0219】
【数31】
【0220】
共通モデル要素も、線形式あるいは非線形式の共通モデル関係式として表される。例えば、上記式(20’)に示した線形式は共通モデル関係式の一例である。また、下記式(20’’)に示した非線形式fも共通モデル関係式の一例である。非線形式fは、例えば、一般化線形モデル、カーネル法、深層学習を含むニューラルネット等を用いて表される。
【0221】
【数32】
【0222】
本実施形態に係る品質予測モデル生成装置500による品質予測モデル生成処理では、図16に示すように、まず、共通モデル算出部511は、すべての物理的要素に共通な操業データと品質データとの関係を表す品質変数に共通の共通モデル関係式を、共通操業変数を用いて算出する(ステップS31)。品質予測を行う対象に関する操業データ及び品質データは、データベース190から抽出される。共通モデル算出部511は、抽出された操業データ及び品質データに基づき算出した共通モデル関係式を個別モデル算出部513及び関係式算出部515へ出力する。
【0223】
次いで、個別モデル算出部513は、一部の物理的要素のみに関係する操業データと品質データとの関係を表す個別モデル関係式を、共通操業変数及び個別操業変数を用いて、品質変数毎に算出する(ステップS33)。品質予測を行う対象に関する操業データ及び品質データは、データベース190から抽出される。ここで抽出される操業データは、対象の品質変数に影響する個別操業変数を含む操業データのみが抽出される。個別モデル算出部513は、抽出された操業データ及び品質データに基づき算出した個別モデル関係式を関係式算出部515へ出力する。
【0224】
そして、関係式算出部515は、品質変数に共通の共通モデル関係式と品質変数毎に算出された個別モデル関係式とに基づいて、共通操業変数が値としてとる領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を算出する(ステップS35)。当該関係式は、品質予測モデルを表す。関係式算出部515は、作成した操業データと品質データとの関係式を、品質予測モデルとして、出力部520へ出力する。出力部520は、関係式算出部515から入力された品質予測モデルを、品質予測部530または品質予測装置600へ出力する(ステップS37)。
【0225】
その後、品質予測部530または品質予測装置600は、出力部520から入力された品質予測モデルに基づいて、製品の品質を予測する。品質予測部530または品質予測装置600は、例えば品質予測モデルに対して別途入力される操業データを用いて品質予測データを算出し、算出した品質予測データを外部へ出力する。
【0226】
図16に示す品質予測モデル生成処理は、図12に示した品質予測処理における品質予測モデル生成処理を上位概念化して示したものである。例えば、共通モデル関係式として上記式(20’)を用い、個別モデル関数として上記式(2’)を用いる場合には、実質的には図16に示す品質予測モデル生成処理は、図12に示した品質予測処理における品質予測モデル生成処理と同一となる。このとき、ステップS31及びS33の処理は、図12のステップS300~S318の処理で表され、ステップS35の処理は、図12のステップS320の処理で表される。
【0227】
また、本実施形態に係る品質予測モデル生成装置500が更新処理部540を備える場合には、第4の実施形態と同様、個別モデル関係式の更新処理を実施することもできる。例えば、共通モデル関係式として上記式(20’)を用い、個別モデル関数として上記式(2’)を用いる場合には、実質的には、第4の実施形態と同様、図9に示した局所関係式更新処理が実施されることになる。
【0228】
以上、本発明の第5の実施形態に係る品質予測モデル生成装置500とこれによる品質予測モデル生成方法について説明した。本実施形態に係る品質予測モデル生成装置500によれば、予測対象となる品質変数が複数の数値変数(すなわちベクトル量)であり、それぞれが複数の物理的要素に対応しており、かつ、予測に用いる操業変数の中にもその物理的要素に対応するものがある場合に、目的変数をベクトルとした品質予測モデルを作成する。この際、本実施形態では、操業変数を、すべての品質変数に影響する共通操業変数と、一部の品質変数のみに影響する個別操業変数に分け、共通モデル関係式は共通操業変数を用いて作成し、個別モデル関係式は共通操業変数及び個別操業変数を用いて作成して、1つの品質予測モデルを生成する。
【0229】
このようなマルチタスク学習により品質予測モデルを生成することで、関連する複数の物理的要素の操業変数が品質へ与える影響が同時に学習され、品質予測精度を向上させることができる。これにより、第3及び第4の実施形態と同様、例えば圧延機等の物理的要素に対応する品質変数の予測に、他の物理的要素(例えば、隣接もしていない圧延機)に対応する操業変数が使用され、物理的に不合理な予測モデルが作成されることを防止できる。予測モデルが物理的に不合理にならないようにすることで、操業変数と品質変数との関係を適切に捉えることが可能な情報を提示することが可能となる。
【0230】
<6.ハードウェアの構成>
本発明の実施形態にかかる製造プロセスにおける品質予測装置100、200、600及び品質予測モデル生成装置500は、コンピュータにより実現可能である。図17に、本発明の各実施形態に係る品質予測装置及び品質予測モデル生成装置として機能し得るコンピュータシステム400の構成例を示す。コンピュータシステム400は、CPU401と、ROM402と、RAM403と、キーボードコントローラ(KBC)405と、CRTコントローラ(CRTC)406と、ディスクコントローラ(DKC)407と、ネットワークインターフェースコントローラ(NIC)408とが、システムバス404を介して互いに通信可能に接続されている。
【0231】
CPU401は、ROM402あるいはHD411に記憶されたソフトウェア、あるいはFD412より供給されるソフトウェアを実行し、システムバス404に接続された各構成部を総括的に制御する。すなわち、CPU401は、所定の処理シーケンスに従った処理プログラムを、ROM402、あるいはHD411、あるいはFD412から読み出して実行し、本実施形態での品質予測装置100、200、600及び品質予測モデル生成装置500の機能を実現するための制御を行う。
【0232】
RAM403は、CPU401の主メモリあるいはワークエリア等として機能する。KBC405は、KB409や図示しないポインティングデバイス等からの指示入力を制御する。CRTC406は、表示部であるCRT410の表示を制御する。DKC407は、ブートプログラム、種々のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル、ネットワーク管理プログラム、及び本実施形態における所定の処理プログラム等を記憶するHD411及びFD412とのアクセスを制御する。NIC408は、LAN420上の装置あるいはシステムと双方向にデータをやりとりするものである。
【0233】
なお、コンピュータに対し、本発明の実施形態である品質予測装置及び品質予測モデル生成装置の手段、及び品質予測装置及び品質予測モデル生成装置の各工程の機能を実現するための処理を記載したソフトウェアのプログラムを供給して、コンピュータに格納された該プログラムに従って各種デバイスを動作させることによって実施するものも本発明の範疇に含まれる。
【0234】
また、この場合、ソフトウェアのプログラム自体が本実施形態の品質予測装置100、200、600及び品質予測モデル生成装置500の処理機能を実現することになり、そのプログラム自体が、本発明の範疇に含まれる。なお、該プログラムコードの伝送媒体として、プログラムを電気信号として伝播させて供給するコンピュータネットワークシステムなどの通信媒体を用いることもできる。
【0235】
さらにプログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを格納した記憶媒体も本発明の範疇に含まれる。かかるプログラムコードを記憶する記憶媒体としては、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【実施例0236】
(実施例A)
以下に、鉄鋼製品である薄鋼板の熱間圧延プロセスを対象として、仕上圧延における各圧延機の圧延荷重の補正量を品質とし、被圧延材の目標板幅、目標板厚、圧延条件等の操業条件を操業変数として用いて品質予測を行った実施例を述べる。
【0237】
図18は、薄鋼板の熱間圧延プロセスの概略を示す図である。スラブと呼ばれる被圧延材の母材は、加熱炉から抽出された後に、粗圧延機10にて厚み40~50mmのバー状に圧延される。次いで被圧延材は、一対のワークロール22と当該ワークロール22をサポートする一対のバックアップロール24とを備える圧延スタンドが通板方向に複数に配置されてなる仕上圧延機20にて連続的に圧延され、その後巻取機30にてコイル状に巻き取られる。
【0238】
仕上圧延機20は、通常7台程度の圧延スタンドから構成され、各圧延スタンドの圧延荷重が操業上適正な範囲になるように、圧延モデルを用いて各圧延スタンドの圧延荷重が予測されている。しかしながら、圧延モデルの精度が不十分であるため、従来は、過去の圧延実績における圧延荷重に基づいて圧延モデルの予測荷重に乗じる補正係数が求め、予測される圧延荷重の精度を確保する対応が行われている。
【0239】
本実施例では、この補正係数を求める品質予測モデルを、上記第1の実施形態に係る手法によって構築した場合(実施例)と、特許文献1の手法により構築した場合(比較例)とについて、圧延荷重の予測精度を比較した。
【0240】
対象とした熱間圧延プロセスの仕上圧延機20は7台の圧延スタンドで構成されるため、補正係数の値も1つの被圧延材に対して7つ存在することになる。比較例(特許文献1の手法)では、下記式(37)に示すように、1つの補正係数に対し1つの品質予測モデルを作成し、全部で7つの品質予測モデルを作成した。
【0241】
【数33】
【0242】
一方、実施例では、下記式(38)に示すように、7つの補正係数を7つの要素からなるベクトルとして扱うことにより、1つの品質予測モデルを作成することができる。
【0243】
【数34】
【0244】
実施例と比較例とについて圧延荷重の予測精度を比較した結果を図19に示す。図19はクロスバリデーションによりモデルのRMSE(平均二乗誤差の平方根)を評価したものである。RMSEは下記式(39)により算出される。
【0245】
【数35】
【0246】
図19に示すように、RMSEが最小となる最適分割数は、実施例において8分割であるのに対し、比較例では10分割であった。また、最適分割数におけるRMSEの値も、比較例と比較して実施例の方が小さい値となっており、高精度の品質予測モデルが得られることが確認できた。これより、比較例に比べ、実施例では少ない分割数で精度のよい品質予測モデルが得られていることが示された。
【0247】
(実施例B)
次に、本発明の第1の実施形態に係る品質予測装置により構築された品質予測モデルと、本発明の第3の実施形態(あるいは本発明の第5の実施形態)に係る品質予測装置により構築された品質予測モデルとについて、局所関係式の係数を調べた。これらの品質予測モデルは、上記実施例Aと同様、薄鋼板の熱間圧延プロセスを対象として、仕上圧延における各圧延機の圧延荷重の補正量を品質とし、被圧延材の目標板幅、目標板厚、圧延条件等の操業条件を操業変数とするモデルである。
【0248】
図20に、第1の実施形態に係る品質予測装置により構築された品質予測モデルの局所関係式(式(2))の回帰係数を示す。図21に、第3の実施形態(あるいは本発明の第5の実施形態)に係る品質予測装置により構築された品質予測モデルの局所関係式(式(2’))の回帰係数を示す。図20及び図21では、F1スタンド及びF2スタンドの8個の局所領域について、それぞれ、局所関係式の係数a_(k)の一部を示している。
【0249】
図20及び図21より、回帰係数の数は、第1の実施形態の品質予測モデル、第3の実施形態(あるいは本発明の第5の実施形態)の品質予測モデルともに同一である。しかし、第1の実施形態の品質モデルでは、スパース学習を行ったことにより、図20に示すように、F1スタンドの品質変数に対応する回帰係数をみると、F1スタンドには影響を与えないF2スタンドの個別操業変数の係数が0でないものがあった。また、F2スタンドの品質変数に対応する回帰係数をみると、F2スタンドには影響を与えないF1スタンドの個別操業変数の係数が0でないものもあった。このように、第1の実施形態の品質予測モデルは、物理的に合理性のあるモデルではない場合がある。
【0250】
一方、第3の実施形態(あるいは本発明の第5の実施形態)の品質モデルでは、図21に示すように、F1スタンドの品質変数に対応する回帰係数をみると、F1スタンドには影響を与えないF2スタンドの個別操業変数の係数はすべて0であった。また、F2スタンドの品質変数に対応する回帰係数をみると、F2スタンドには影響を与えないF1スタンドの個別操業変数の係数もすべて0であった。このように、第3の実施形態(あるいは本発明の第5の実施形態)の品質予測モデルは、物理的に合理的なモデルとなっている。
【0251】
第3の実施形態(あるいは本発明の第5の実施形態)に係る品質予測モデルは、物理的に合理的なモデルであることから、例えば物理的モデルが重要視されるプロセスへ適用することにより、正常な操業からの外れに対する分析を行いやすいものと考えられる。
【0252】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0253】
例えば、上記実施形態では、いずれもコンピュータ上のプログラムとして品質予測装置を実現したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、演算装置、メモリ等を組み合わせたハードウェアによって構成されるものであってもよい。また、本発明の操業と品質の関連解析装置は、複数の機器から構成されるものであっても、一つの機器から構成されるものであってもよい。
【0254】
また、上記実施形態では、分割パターン候補生成部による局所領域の分割は2分割するものであったが、本発明はかかる例に限定されず、例えば局所領域を3分割するものであってもよい。
【0255】
なお、以下のような構成も本発明の技術的範囲に属する。下記構成(1)、(4)-(6)、(10)-(12)は第1の実施形態に対応し、下記構成(2)、(3)は第3の実施形態に対応し、下記構成(7)-(9)は第2の実施形態または第4の実施形態に対応する。
【0256】
(1)
製品の品質を予測する品質予測装置であって、
製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと製造された前記製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、前記操業データと前記品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する品質予測モデル作成部と、
前記品質予測モデルに基づいて、前記製品の品質を予測する品質予測部と、
を備え、
前記品質予測モデル作成部は、
前記操業データの前記操業変数が値としてとる領域を全体領域として、当該全体領域を複数の局所領域に分割する分割パターン候補を複数個作成する分割パターン候補作成部と、
前記各分割パターン候補について、前記各局所領域における前記操業データと前記品質データとの関係を表す局所関係式を、前記品質変数毎に算出する局所関係式算出部と、
前記各分割パターン候補について、前記各分割パターン候補の各局所領域における前記各局所関係式の重みとして、前記品質変数に共通の活性度関数を算出する活性度関数算出部と、
前記品質変数に共通の前記活性度関数と前記品質変数毎に算出された局所関係式とに基づいて、前記全体領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を算出する関係式算出部と、
前記操業データから前記関係式算出部にて算出された関係式を用いて算出される品質予測データと当該操業データに対応する前記品質データとに基づいて、前記関係式の予測誤差を前記各分割パターン候補についてそれぞれ算出し、当該予測誤差が最小となる分割パターン候補の関係式を選択する最小誤差関係式選択部と、
前記最小誤差関係式選択部により選択された分割パターンの関係式を前記品質予測モデルとして決定する品質予測モデル決定部と、
を有する、品質予測装置。
【0257】
(2)
前記操業変数は、すべての物理的要素に影響する共通操業変数と、一部の前記物理的要素のみに影響する個別操業変数とを含み、
前記分割パターン候補作成部は、前記共通操業変数が値としてとる領域を全体領域として、当該全体領域を複数の局所領域に分割する分割パターン候補を複数個作成し、
前記局所関係式算出部は、前記各分割パターン候補について、前記操業データとして前記各局所領域における前記共通操業変数及び品質データの品質指標が対応する物理的要素に対応する前記個別操業変数を用いて、前記局所関係式を前記品質変数毎に算出する、上記(1)に記載の品質予測装置。
【0258】
(3)
前記個別操業変数は、1つの物理的要素にのみに影響する独立個別操業変数と、複数の物理的要素にわたって影響する共通個別操業変数との、少なくともいずれかを含む、上記(2)に記載の品質予測装置。
【0259】
(4)
前記品質予測モデル決定部は、
前記最小誤差関係式選択部により選択された分割パターンの予測誤差の収束判定を行い、
前記予測誤差が収束していないと判定した場合、前記分割パターン候補作成部により、前記最小誤差関係式選択部にて選択された分割パターン候補の分割数を増やし、複数の新たな分割パターン候補を生成し、
前記予測誤差が収束したと判定した場合、収束したときの前記分割パターンの関係式を前記品質予測モデルとして決定する、上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の品質予測装置。
【0260】
(5)
前記局所関係式は、複数の前記操業変数を入力変数とする線形多項式である、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の品質予測装置。
【0261】
(6)
前記局所関係式算出部は、重回帰、ステップワイズ法、スパース回帰、部分最小二乗法のいずれかの手法により、前記各局所領域の前記局所関係式の係数を算出する、上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の品質予測装置。
【0262】
(7)
前記製造プロセスから逐次取得される製品の操業データ及び品質データに基づいて、前記局所関係式を更新する更新処理部をさらに備える、上記(1)~(6)のいずれか1項に記載の品質予測装置。
【0263】
(8)
前記更新処理部は、
前記製造プロセスから対象製品の操業データを取得する操業データ入力部と、
前記製造プロセスから対象製品の品質データを取得する品質データ入力部と、
前記操業データ入力部から入力された操業データと、前記活性度関数算出部により予め算出された前記活性度関数とに基づいて、前記各局所関係式の重みを算出する活性度関数演算部と、
前記操業データ入力部から入力された操業データに基づいて、前記各局所領域について予め設定された前記局所関係式の演算を行う局所関係式演算部と、
前記局所関係式演算部による前記各局所関係式の演算結果と、前記活性度関数演算部により算出された前記各局所関係式の重みとに基づいて、品質予測データを算出する品質予測データ算出部と、
前記品質データ入力部から入力された品質データと前記品質予測データ算出部により算出された前記品質予測データとに基づいて、前記各局所関係式の係数を更新する局所関係式更新部と、
を有する、上記(7)に記載の品質予測装置。
【0264】
(9)
前記局所関係式更新部は、前記局所領域kにおける線形多項式の更新に使用する製品の操業変数からなるデータのベクトルをv_(k)(T)、各局所領域kにおける品質y_の各要素yに対応する線形多項式の更新前の係数をA (k)(T)として、下記式(101)を用いて係数を算出する、上記(8)に記載の品質予測装置。
【0265】
【数36】
ここで、v_は、vの下に_が添えられているものとし、Tは更新後の係数若しくは更新に使用する製品であることを示す添字、T-1は現在の係数であることを示す添字、A (k)(T)は更新後の線形多項式の係数、y(T)は前記品質データ、K (k)(T)は局所領域kにおける更新率行列であり、上記式(102)で表される。式(102)において、P (k)(T-1)は局所領域kの適応ゲイン行列である。
【0266】
(10)
製品の品質を予測する品質予測方法であって、
製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと製造された前記製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、前記操業データと前記品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する品質予測モデル作成ステップと、
前記品質予測モデルに基づいて、前記製品の品質を予測する品質予測ステップと、
を含み、
前記品質予測モデル作成ステップは、
前記操業データの前記操業変数が値としてとる領域を全体領域として、当該全体領域を複数の局所領域に分割する分割パターン候補を複数個作成する分割パターン候補作成ステップと、
前記各分割パターン候補について、前記各局所領域における前記操業データと前記品質データとの関係を表す局所関係式を、前記品質変数毎に算出する局所関係式算出ステップと、
前記各分割パターン候補について、前記各分割パターン候補の各局所領域における前記各局所関係式の重みとして、前記品質変数に共通の活性度関数を算出する活性度関数算出ステップと、
前記品質変数に共通の前記活性度関数と前記品質変数毎に算出された局所関係式とに基づいて、前記全体領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を算出する関係式算出ステップと、
前記操業データから前記関係式算出ステップにて算出された関係式を用いて算出される品質予測データと当該操業データに対応する前記品質データとに基づいて、前記関係式の予測誤差を前記各分割パターン候補についてそれぞれ算出し、当該予測誤差が最小となる分割パターン候補の関係式を選択する最小誤差関係式選択ステップと、
前記最小誤差関係式選択ステップにより選択された分割パターンの関係式を前記品質予測モデルとして決定する品質予測モデル決定ステップと、
を含む、品質予測方法。
【0267】
(11)
製品の品質を予測する品質予測装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、
製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと製造された前記製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、前記操業データと前記品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する品質予測モデル作成部と、
前記品質予測モデルに基づいて、前記製品の品質を予測する品質予測部と、
を備え、
前記品質予測モデル作成部は、
前記操業データの前記操業変数が値としてとる領域を全体領域として、当該全体領域を複数の局所領域に分割する分割パターン候補を複数個作成する分割パターン候補作成部と、
前記各分割パターン候補について、前記各局所領域における前記操業データと前記品質データとの関係を表す局所関係式を、前記品質変数毎に算出する局所関係式算出部と、
前記各分割パターン候補について、前記各分割パターン候補の各局所領域における前記各局所関係式の重みとして、前記品質変数に共通の活性度関数を算出する活性度関数算出部と、
前記品質変数に共通の前記活性度関数と前記品質変数毎に算出された局所関係式とに基づいて、前記全体領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を算出する関係式算出部と、
前記操業データから前記関係式算出部にて算出された関係式を用いて算出される品質予測データと当該操業データに対応する前記品質データとに基づいて、前記関係式の予測誤差を前記各分割パターン候補についてそれぞれ算出し、当該予測誤差が最小となる分割パターン候補の関係式を選択する最小誤差関係式選択部と、
前記最小誤差関係式選択部により選択された分割パターンの関係式を前記品質予測モデルとして決定する品質予測モデル決定部と、
を有する、プログラム。
【0268】
(12)
製品の品質を予測する品質予測装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であって、
製造プロセスにおける複数の操業変数からなる操業データと製造された前記製品に関する複数の品質変数からなる品質データとをそれぞれ含む複数のデータに基づいて、前記操業データと前記品質データとの関連性を解析し、当該関連性を表す品質予測モデルを作成する品質予測モデル作成部と、
前記品質予測モデルに基づいて、前記製品の品質を予測する品質予測部と、
を備え、
前記品質予測モデル作成部は、
前記操業データの前記操業変数が値としてとる領域を全体領域として、当該全体領域を複数の局所領域に分割する分割パターン候補を複数個作成する分割パターン候補作成部と、
前記各分割パターン候補について、前記各局所領域における前記操業データと前記品質データとの関係を表す局所関係式を、前記品質変数毎に算出する局所関係式算出部と、
前記各分割パターン候補について、前記各分割パターン候補の各局所領域における前記各局所関係式の重みとして、前記品質変数に共通の活性度関数を算出する活性度関数算出部と、
前記品質変数に共通の前記活性度関数と前記品質変数毎に算出された局所関係式とに基づいて、前記全体領域における操業データと品質データとの関係を表す関係式を算出する関係式算出部と、
前記操業データから前記関係式算出部にて算出された関係式を用いて算出される品質予測データと当該操業データに対応する前記品質データとに基づいて、前記関係式の予測誤差を前記各分割パターン候補についてそれぞれ算出し、当該予測誤差が最小となる分割パターン候補の関係式を選択する最小誤差関係式選択部と、
前記最小誤差関係式選択部により選択された分割パターンの関係式を前記品質予測モデルとして決定する品質予測モデル決定部と、
を有する、プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【符号の説明】
【0269】
100 品質予測装置
102 品質予測モデル作成部
110 データ抽出部
120 分割パターン候補作成部
122 数値分割作成部
124 コード分割作成部
130 活性度関数算出部
140 局所関係式算出部
150 関係式算出部
160 最小誤差関係式選択部
170 品質予測モデル決定部
180 品質予測部
190 データベース
200 品質予測装置
210 操業データ入力部
220 活性度関数記憶部
230 活性度関数演算部
240 局所関係式演算部
250 品質予測データ算出部
260 品質予測データ出力部
270 品質データ入力部
280 局所関係式更新部
300 製造プロセス
500 品質予測モデル生成装置
510 品質予測モデル作成部
511 共通モデル算出部
513 個別モデル算出部
515 関係式算出部
520 出力部
530 品質予測部
540 更新処理部
600 品質予測装置
図1
図2
図3
図4
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