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特開2023-38840間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の予防又は治療用医薬組成物
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  • 特開-間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の予防又は治療用医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038840
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の予防又は治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/07 20060101AFI20230310BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230310BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20230310BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230310BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20230310BHJP
   A61K 31/727 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
A61K38/07
A61P13/10
A61P29/00
A61P43/00 111
A61K38/08
A61K45/00
A61K31/56
A61K31/727
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145762
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】505210115
【氏名又は名称】国立大学法人旭川医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】弁理士法人IPアシスト
(72)【発明者】
【氏名】堀田 祐志
(72)【発明者】
【氏名】木村 和哲
(72)【発明者】
【氏名】川田 龍哉
(72)【発明者】
【氏名】松本 成史
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA16
4C084BA17
4C084DA01
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA81
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB11
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZC082
4C084ZC41
4C084ZC411
4C084ZC412
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA08
4C086EA27
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB08
4C086ZB11
4C086ZC41
4C086ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の予防又は治療用医薬組成物を提供する。
【解決手段】インテグリンαvβ3、インテグリンαvβ5及びインテグリンα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する阻害剤を含有する医薬組成物を提供する。また、αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する阻害活性を指標とした、被験物質の間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に対する効果を評価する方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インテグリンαvβ3、インテグリンαvβ5及びインテグリンα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する阻害剤を含有する、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項2】
インテグリンαvβ3に対する阻害剤を含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
インテグリンに対する阻害剤が、RGDミミックである、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
インテグリンに対する阻害剤が、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド又はシレンギチドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群における頻尿又は疼痛を改善するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
膀胱内注入するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の予防又は治療のための他の薬剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
他の薬剤が、ヘパリン、DMSO又はステロイドである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する阻害活性を指標とした、被験物質の間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に対する効果を評価する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RGDインテグリン阻害剤を含有する、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の予防又は治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(Interstitial Cystitis/Bladder Pain Syndrome; IC/BPS)は、「膀胱に関連する慢性の骨盤部の疼痛、圧迫感又は不快感があり、尿意亢進や頻尿などの下部尿路症状を伴い、混同しうる疾患がない状態」(非特許文献1)と定義され、中でも、びらん性の病変(ハンナ病変)を伴うIC/BPSは、ハンナ型間質性膀胱炎と呼ばれる。ハンナ型間質性膀胱炎は、内視鏡的にも病理学的にも明確な異常所見を有し、症状的にもより重症とされており、厚生労働省により指定難病226として難病に指定されている。
【0003】
IC/BPSの治療法としては未だ確立した方法はなく、対症的な処置に留まっているのが現状である。外科的処置としては、内視鏡を用いた膀胱水圧拡張術が行われており、膀胱内にハンナ病変を認められた場合は、電気又はレーザーによる焼灼術も同時に行なわれる。また、薬学的治療として、アミトリプチリン等の中枢性感作薬やシクロスポリンA等の免疫抑制剤の内服治療の他、ヘパリン、DMSO、ステロイドといった薬剤の膀胱内注入、又はボツリヌス毒素の膀胱壁内注入が行なわれている。
【0004】
現在、膀胱水圧拡張術又はハンナ病変の焼灼術により、約半数の症例で症状が寛解するものの、長期的に寛解するのは一部の症例に限られている。また、薬学的治療もIC/BPSの根治には至っていない。このようにIC/BPSは、再燃と寛解を繰り返すことにより長期にわたる医学管理が必要となる難治性QOL疾患であり、有効な治療薬の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドライン、日本間質性膀胱炎研究会/日本泌尿器科学会編集、2019年4月25日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、IC/BPSの新たな治療手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、RGDインテグリン阻害剤がIC/BPSの治療、特に頻尿及び疼痛の改善に有用であることを見出し、以下の発明を完成させた。
【0008】
項1.インテグリンαvβ3、インテグリンαvβ5及びインテグリンα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する阻害剤を含有する、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の予防又は治療用医薬組成物。
項2.インテグリンαvβ3に対する阻害剤を含有する、項1に記載の医薬組成物。
項3.インテグリンに対する阻害剤が、RGDミミックである、項1又は2に記載の医薬組成物。
項4.インテグリンに対する阻害剤が、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド又はシレンギチドである、項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
項5.間質性膀胱炎・膀胱痛症候群における頻尿又は疼痛を改善するための、項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
項6.膀胱内注入するための、項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
項7.間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の予防又は治療のための他の薬剤をさらに含む、項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
項8.他の薬剤が、ヘパリン、DMSO又はステロイドである、項7に記載の医薬組成物。
項9.αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する阻害活性を指標とした、被験物質の間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に対する効果を評価する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、新たな作用機序に基づいたIC/BPSの予防又は治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】生理食塩水又は配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(RGDSペプチド)を腹腔内投与したIC/BPSモデルラット及び対照ラット(それぞれn=7~8)の膀胱内圧曲線を示すグラフである。Shamは生理食塩水を投与した対照ラット、Sham+RはRGDSペプチドを投与した対照ラット、ICは生理食塩水を投与したIC/BPSモデルラット、IC+RはRGDSペプチドを投与したIC/BPSモデルラットを表す。また、縦軸は膀胱内圧を、横軸は経過時間をそれぞれ示す。
図2】生理食塩水又はRGDSペプチドを腹腔内投与したIC/BPSモデルラット及び対照ラットの排尿間隔、1回排尿量、最大膀胱内圧、排尿閾値及び基礎膀胱内圧を示すグラフである。
図3】生理食塩水、RGDSペプチド又はシレンギチドを腹腔内投与したIC/BPSモデルラット(n=5~8)の排尿間隔を示すグラフである。
図4】生理食塩水又はRGDSペプチドを腹腔内投与したIC/BPSモデルラット及び対照ラット(n=2~4)の疼痛閾値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に示す本発明の説明は、代表的な実施形態又は具体例に基づくことがあるが、本発明はそのような実施形態又は具体例に限定されるものではない。また、本明細書において示される各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。また、本明細書において「~」又は「-」を用いて表される数値範囲は、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値及び下限値として含む範囲を意味する。
【0012】
本発明は、インテグリンαvβ3、インテグリンαvβ5及びインテグリンα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する阻害剤を含有する、IC/BPSの予防又は治療用医薬組成物を提供する。
【0013】
インテグリンは、α鎖とβ鎖の2つのサブユニットからなるヘテロダイマー受容体である。哺乳動物では少なくとも18種の異なるαサブユニットと8種のβサブユニットが同定され、24種より多くのヘテロダイマーを形成することが知られている。インテグリンαvβ1(以下、単にαvβ1と表す。他のインテグリンも同様とする)、αvβ3、αvβ5、αvβ6、αvβ8、αIIbβ3、α8β1及びα5β1の8つのサブタイプのインテグリンは、Arg-Gly-Aspというアミノ酸配列(RGDモチーフ)を認識し、この配列を有するペプチドと結合する。これらのインテグリンは、RGDインテグリン又はRGD結合インテグリンと呼ばれる。
【0014】
RGDインテグリンは、組織修復、血管新生、炎症、血栓形成、腫瘍の増殖や転移の促進といった様々な生理機能を有しており、RGDモチーフを有するペプチドリガンドとの結合の阻害を介してRGDインテグリンの機能を制御することから、がんや自己免疫疾患等の疾患の治療に有効であると期待されている。このような期待の下、RGDの構造を模倣したRGDミミック又はRGDミメティクスとも呼ばれる化合物、特異抗体、その他様々な様式のRGDインテグリンに対する阻害剤が、多数見出され、報告されている。本発明は、αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する阻害剤の新たな用途を提供するものである。
【0015】
本発明で利用されるαvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する阻害剤(以下、RGDインテグリン阻害剤と表す。)は、αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンと、そのリガンドであるRGDモチーフを有するペプチド、例えばビトロネクチンやフィブロネクチンとの結合を阻害する活性を有する物質をいう。本発明におけるRGDインテグリン阻害剤は、αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンと、RGDモチーフを有するペプチドとの結合を、1000 nM以下、好ましくは500 nM以下、より好ましくは200 nM以下、さらに好ましくは100 nM以下のIC50で阻害する能力を有する。
【0016】
本発明におけるRGDインテグリン阻害剤は、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、核酸、低分子有機化合物等の化合物であり得る。また、インテグリンとそのリガンドとの結合を阻害する物質はインテグリンアンタゴニストと称されることがあるが、αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンとそのリガンドとの結合を阻害する活性を有するかぎり、それらインテグリンアンタゴニストは本発明におけるRGDインテグリン阻害剤に包含される。
【0017】
本発明においてRGDインテグリン阻害剤として使用することができるRGDペプチド及びRGDミミックの例としては、限定されるものではないが、シレンギチド(CAS No. 188968-51-6)、GLPG0187(CAS No. 1320346-97-1)、JSM-6427(CAS No.)、GSK3008348(CAS No. 1629249-33-7)、MK-0429(CAS No. 227963-15-7)、ATN-161(CAS No. 262438-43-7)、CWHM 12(CAS No. 1564286-55-0)、SB-273005(CAS No. 205678-31-5)、SB-267268(CAS No. 205678-26-8)、SC-68448(CAS No. 188804-07-1)、Compound 11(CAS No. 287961-15-3)、Example 1(CAS No. 1893398-07-6)、エキスタチン、RGD、RGDS(配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)、GRGD(配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)、GRGDS(配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)、GRGDSP(配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)、GRGDSPK(配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)、GRGDNP(配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)、GRGDTP(配列番号7に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)、c(RGDfV)、c(RGDfK)、c(RGDyK)、c(RGDfC)、sn243、RGD-4C、RGD10、NC100717、c(phgisoDGRk)、44b、Mol 11、F-Galacto-c(RGDfK)、(Ga)NOPO-c(RGDfK)、c(RGDfK)-Peg-MPA、Flucilatide、c(phgisoDRGk)-Peg-MPAを挙げることができる。
【0018】
また、αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに特異的に結合して、リガンドとの結合を阻害する抗体又はその誘導体も、本発明においてRGDインテグリン阻害剤として使用することができる。αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリン(標的インテグリン)に対する特異抗体は、非標的タンパク質よりも標的インテグリンに優先的に結合する抗体、又は標的インテグリンに高い結合親和性を有する抗体と表すこともできる。特異抗体は、非標的タンパク質との結合よりも少なくとも5倍強い、好ましくは少なくとも10倍強い、より好ましくは少なくとも100倍強い、最も好ましくは少なくとも1000倍強い親和性を有して標的インテグリンに結合する抗体であり得る。特異抗体はまた、10-7M、好ましくは10-8M、より好ましくは10-9Mの解離定数を有して標的インテグリンに結合する抗体であってもよい。
【0019】
特異抗体は、例えばマウス、ラット、サメ、ウサギ、ブタ、ハムスター、ラクダ、ラマ、ヤギ又はヒトを包含する任意の種を起源とすることができる。また特異抗体は、免疫グロブリン分子の任意のクラス(例としてIgG、IgE、IgM、IgD又はIgA)及びサブクラスのものであることができるが、IgGであることが好ましい。
【0020】
本発明において、特異抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。また特異抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体であり得る。
【0021】
特異抗体の誘導体は、特異抗体に由来する、抗原と特異的に結合する能力を保持した抗体の部分断片として定義される抗原結合性断片、例えばFab(fragment of antigen binding)、Fab'、F(ab')2、一本鎖抗体(single chain Fv)、ジスルフィド安定化抗体(disulfide stabilized Fv)及びCDRを含むペプチド等であり得るが、これらには限定されない。
【0022】
特異抗体及びその誘導体は、当業者に公知の方法を用いて作製することができる。例えば、ヒトのアミノ酸配列又はこれをコードするDNAの塩基配列に基づいて遺伝子組み換え手法によってαvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリン、又はRGDモチーフを有するその部分ペプチドを作製し、これを抗原として適当な動物に免疫することで、さらに当該動物のB細胞をミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを得ることで作製することができる。ハイブリドーマ法については、例えばMeyaard et al. (1997) Immunity 7:283-290; Wright et al. (2000) Immunity 13:233-242; Kaithamana et al. (1999) J.Immunol. 163:5157-5164等を参照されたい。特異抗体又はその誘導体は、さらに他の薬物と結合した抗体薬物複合体であってもよい。
【0023】
αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する特異抗体の非限定的な例としては、Intetumumab(CNTO 95)(CAS No. 725735-28-4)、Etaracizumab(MEDI-522, Abergrin)(CAS No. 89255-42-3)、PF-04605412(CAS No. 1677682-18-6)、Volociximab(CAS No. 558480-40-3)、EMD525797(abituzumab, DI17E6)(CAS No. 1105038-73-0)、Abciximab(ReoPro, c7E3)(CAS No. 143653-53-6)、LM609(MAB1976Z)、P5H9(MAB2528)、P5D2(MAB17781)、272-17E6(MABT207)を挙げることができる。
【0024】
本発明におけるRGDインテグリン阻害剤は、αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される2種以上のRGDインテグリンに対する結合阻害活性を有していてもよく、またαvβ3、αvβ5及びα5β1以外のRGDインテグリンに対する阻害活性を重ねて有していてもよい。
【0025】
好ましい実施形態において、本発明におけるRGDインテグリン阻害剤は、少なくともαvβ3に対する阻害活性を有し、例えばαvβ3に対するIC50値が1000 nM以下、好ましくは500 nM以下、より好ましくは200 nM以下、さらに好ましくは100 nM以下であることができる。
【0026】
αvβ3に対する阻害活性を有するRGDインテグリン阻害剤の例としては、RGDペプチド及びRGDミミックでは、シレンギチド(CAS No. 188968-51-6)、GLPG0187(CAS No. 1320346-97-1)、GSK3008348(CAS No. 1629249-33-7)、MK-0429(CAS No. 227963-15-7)、CWHM 12(CAS No. 1564286-55-0)、SB-273005(CAS No. 205678-31-5)、SB-267268(CAS No. 205678-26-8)、SC-68448(CAS No. 188804-07-1)、Compound 11(CAS No. 287961-15-3)、Example 1(CAS No. 1893398-07-6)、エキスタチン、RGD、RGDS、GRGD、GRGDS、GRGDSP、GRGDSPK、GRGDNP、GRGDTP、c(RGDfV)、c(RGDfK)、c(RGDyK)、c(RGDfC)、sn243、RGD-4C、RGD10、NC100717、Mol 11、F-Galacto-c(RGDfK)、(Ga)NOPO-c(RGDfK)、c(RGDfK)-Peg-MPA、Flucilatideを挙げることができ、αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する特異抗体では、Intetumumab(CNTO 95)(CAS No. 725735-28-4)、Etaracizumab(MEDI-522, Abergrin)(CAS No. 89255-42-3)、EMD525797(abituzumab, DI17E6)(CAS No. 1105038-73-0)、Abciximab(ReoPro, c7E3)(CAS No. 143653-53-6)、LM609(MAB1976Z)、P5H9(MAB2528)、P5D2(MAB17781)、272-17E6(MABT207)を挙げることができる。
【0027】
本発明におけるRGDインテグリン阻害剤は、特に好ましくは、RGDSペプチド又はシレンギチドである。
【0028】
また、上記に例示したRGDインテグリン阻害剤の他に、αvβ3、αvβ5又はα5β1に対する阻害活性を評価するための当業者に知られた方法、例えば試験物質の存在下及び非存在下それぞれにおけるαvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンとそのリガンドとの結合を比較することにより、結合阻害活性を有すると判定される物質も、本発明におけるRGDインテグリン阻害剤として利用することができる。結合阻害活性の測定は、GenBank等の公的データベースに登録されているαvβ3、α5β1及びα5β1の各サブユニットのアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の塩基配列、各インテグリンを発現することができる組換え細胞等を適宜利用して、当業者の通常の実施能力の範囲で行うことができる。
【0029】
本発明の医薬組成物は、上述のRGDインテグリン阻害剤を含有する、IC/BPSの予防又は治療用医薬組成物である。本発明の医薬組成物は、RGDインテグリン阻害剤の1種を、または複数種類を任意の比率で含有するものであり得る。また、本発明の医薬組成物は、その物性等に応じて、遊離型、エステル、塩の形態又はこれらの混合物の形態にあるRGDインテグリン阻害剤を含有するものであってもよく、複数種類の塩又はエステル等を含有していてもよい。
【0030】
本発明の医薬組成物は、IC/BPSの予防又は治療のために用いられる。本明細書において用いられる用語「予防」は、疾患の罹患又は発症の防止若しくは抑制等を目的とする医学的に許容される全てのタイプの予防的介入を包含する。また用語「治療」は、疾患又は状態の治癒、一時的寛解等を目的とする医学的に許容される全てのタイプの治療的介入を包含する。したがって、IC/BPSの予防又は治療とは、IC/BPSにおける頻尿・尿意亢進・尿意切迫感・疼痛などの症状の改善、進行の遅延又は停止、発症の予防又は再発の防止等を含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。特に、本発明の医薬組成物は、IC/BPSにおける頻尿の改善のために、又は疼痛の改善のために用いられる。
【0031】
本発明の医薬組成物は、IC/BPSの予防又は治療のための、有効量のRGDインテグリン阻害剤を含有する。RGDインテグリン阻害剤の有効量は、用法、対象の年齢、性別、体重、重症度その他の要因に応じて適宜決定することができる。
【0032】
本発明の医薬組成物は、RGDインテグリン阻害剤の他に、薬学的に許容される添加剤を含有することができる。薬学的に許容される添加剤の例としては、緩衝剤、安定剤、保存剤、賦形剤等を挙げることができる。薬学的に許容される添加剤は当業者に周知であり、当業者が通常の実施能力の範囲内で、適宜選択して使用することができる。
【0033】
本発明の医薬組成物は、IC/BPSの予防又は治療のための他の薬剤等を含有することができる。IC/BPSの予防又は治療のための他の薬剤の例としては、非特許文献1(間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドライン)に記載されている薬剤を挙げることができる。特に、本発明の医薬組成物を膀胱内注入する場合には、ヘパリン、DMSO又はステロイド等の膀胱内注入に適した薬剤が好ましい。
【0034】
本発明の医薬組成物の剤形に特に制限はないが、腹腔内投与、静脈内投与、又は経尿道的な若しくは経膀胱瘻的な膀胱内注入に適した剤形、例えば液剤が好ましい。かかる医薬組成物は、RGDインテグリン阻害剤、すなわちαvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する阻害剤を含有する、全身投与又は膀胱内注入するためのIC/BPSの予防又は治療用医薬組成物と表すことができる。
【0035】
液剤は、RGDインテグリン阻害剤の有効量と、薬学的に許容される媒体とを含む。薬学的に許容される媒体としては、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の水性媒体を挙げることができる。液剤の単位用量は、投与経路や本発明におけるRGDインテグリン阻害剤の有効量等に応じて定めることができ、例えば膀胱内注入の場合は30~50mLであり、これを適切な間隔で、例えば週に1回、隔週で1回、月に1回といった間隔で対象に投与して用いることができる。
【0036】
医薬組成物は、IC/BPSを発症するおそれのある又は発症している対象、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモットを含むげっ歯類、ヒト、チンパンジー、アカゲザルを含む霊長類、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジを含む家畜、イヌ、ネコを含む愛玩動物といった哺乳動物に投与される。好ましい対象はヒトである。
【0037】
本発明はさらに、IC/BPSを発症するおそれのある又は発症している対象に、上述のRGDインテグリン阻害剤を含有する医薬組成物を投与することを含む、IC/BPSを予防する又は治療する方法を提供する。本発明はまた、上述のRGDインテグリン阻害剤を含有する医薬組成物を投与することを含む、IC/BPSにおける頻尿又は疼痛を改善する方法を提供する。
【0038】
また本発明は、αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する阻害活性を指標とした、被験物質のIC/BPSに対する効果を評価する方法(以下、本評価方法とも呼ぶ)を、別の態様として提供する。本評価方法により効果があると評価された物質は、αvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンに対する阻害活性を通じて、IC/BPSの予防又は治療に利用可能な物質であると期待される。
【0039】
本評価方法の一つの例は、αvβ3、αvβ5又はα5β1に対する阻害活性を評価するための当業者に知られた方法、例えば試験物質の存在下及び非存在下それぞれにおけるαvβ3、αvβ5及びα5β1よりなる群から選択される少なくとも1種のインテグリンとそのリガンドとの結合を比較することにより、結合阻害活性を有すると判定される試験物質を、IC/BPSの予防又は治療に有効な物質として評価する方法である。結合阻害活性の測定は、GenBank等の公的データベースに登録されているαvβ3、α5β1及びα5β1の各サブユニットのアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の塩基配列、各インテグリンを発現することができる組換え細胞等を適宜利用して、当業者の通常の実施能力の範囲で行うことができる。
【0040】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0041】
実施例1
10週齢の雌性F344/NSIC344ラット(体重約140~170 g)の尿道にポリエチレンカテーテルを挿入し、留置した。カテーテルを通じて250μLの生理食塩水(Sham群)又は250μLの0.1M HCl(IC群)を膀胱内に注入して1分間留めた後、生理食塩水で膀胱内を2回洗浄した。Sham群及びIC群をそれぞれ2つの群(n=7~8/群)に分け、200μLの生理食塩水又は200μLのRGDSペプチド溶液(500 mg/L生理食塩水溶液、MedChemExpress)を腹腔内投与した。投与後7日目に、膀胱の頭頂部からポリエチレンカテーテルを挿入・留置し、圧トランスデューサー(MLT0699, ADInstruments Ltd, Dunedin, New Zealand)、PowerLab 4/26(ADInstruments Ltd., Dunedin, New Zealand)を接続した。圧トランスデューサーにシリンジポンプ(YSP-101, YMC Co., Ltd., Kyoto, Japan)を接続し、40μL/分の生理食塩水を膀胱内に連続的に注入しながら、膀胱内圧および排尿量を測定した。膀胱内圧曲線上の排尿ピークの圧を最大膀胱内圧、ピーク間隔を排尿間隔、ピーク直後の圧を基礎膀胱内圧、ピーク直前の圧を排尿閾値、ピーク時の排尿量を1回排尿量とした。
【0042】
RGDSペプチドを注入したIC群(IC+R群)では、生理食塩水を注入したIC群と比較して排尿間隔が有意に延長され(図1図2)、頻尿が改善されたことが確認された。また、IC+R群における1回あたりの排尿量の平均値は、Sham群と同程度であった。最大膀胱内圧、基礎膀胱内圧、及び排尿閾値は全ての群で差が認められず、RGDSペプチドはこれらのパラメータに影響を与えないことが示された。
【0043】
実施例2
実施例1におけるRGDSペプチドを400μLのシレンギチド溶液(6.75g/L生理食塩水溶液、東京化成)に代えて、実施例1と同様の試験を行った。シレンギチド投与群では、生理食塩水を注入した群と比較して排尿間隔が延長され(図3)、頻尿が改善されたことが確認された。
【0044】
実施例1と同様にSham群、IC群、IC+R群を作成した。投与後5日目に、ラットを底面が金網の代謝ケージ内に入れ、10分間馴化した。Electronic von Frey filament(BIO-EVF, Bioseb, Vitrolles, France)を用いて下腹部へ圧力を漸増させながら刺激し、逃避反応がみられた圧力を疼痛閾値として測定した。測定は5分の間隔を空けて3回行い、平均値を算出した。IC+R群ではIC群と比較して疼痛閾値が上昇し(図4)、疼痛の改善傾向が確認された。
【配列表フリーテキスト】
【0045】
配列番号1 RGDインテグリン阻害剤の一例であるペプチドのアミノ酸配列
配列番号2 RGDインテグリン阻害剤の一例であるペプチドのアミノ酸配列
配列番号3 RGDインテグリン阻害剤の一例であるペプチドのアミノ酸配列
配列番号4 RGDインテグリン阻害剤の一例であるペプチドのアミノ酸配列
配列番号5 RGDインテグリン阻害剤の一例であるペプチドのアミノ酸配列
配列番号6 RGDインテグリン阻害剤の一例であるペプチドのアミノ酸配列
配列番号7 RGDインテグリン阻害剤の一例であるペプチドのアミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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