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特開2023-38844血管網の製造方法、及び血管網の製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038844
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】血管網の製造方法、及び血管網の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230310BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145770
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 仁也
(72)【発明者】
【氏名】堀 邦聡
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅
(72)【発明者】
【氏名】畠山 肇
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
(72)【発明者】
【氏名】坂口 勝久
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC02
4B029DG08
4B029GA02
4B029GB05
4B065AA90X
4B065BC41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】血管細胞を培養する効率が低下することを抑制しつつ、使用する血管細胞の量を減少させることのできる血管網の製造方法を提供する。
【解決手段】ハウジング(30)の上部に棒状部材(50)を横方向から通す第1工程と、ハウジングに棒状部材よりも下の第1所定位置まで、血管細胞を含まない第1ゲル溶液を入れる第2工程と、第1ゲル溶液をゲル化させて第1ゲル層(CG1)を形成する第3工程と、ハウジングにおいて第1ゲル層の上に棒状部材よりも上の第2所定位置まで、血管細胞を含む第2ゲル溶液を入れる第4工程と、第2ゲル溶液をゲル化させて第2ゲル層(CG2)を形成する第5工程と、第2ゲル層から棒状部材を横方向へ所定長さ引き抜いて、引き抜いた後の空間により所定流路を形成する第6工程と、所定流路に培養液を灌流させて血管細胞を培養する第7工程と、を含む血管網の製造方法。
【選択図】 図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体を貯留可能なハウジングの上部に棒状部材を横方向から通す第1工程と、
前記ハウジングに前記棒状部材よりも下の第1所定位置まで、血管細胞を含まない第1ゲル溶液を入れる第2工程と、
前記第1ゲル溶液をゲル化させて第1ゲル層を形成する第3工程と、
前記ハウジングにおいて前記第1ゲル層の上に前記棒状部材よりも上の第2所定位置まで、血管細胞を含む第2ゲル溶液を入れる第4工程と、
前記第2ゲル溶液をゲル化させて第2ゲル層を形成する第5工程と、
前記第2ゲル層から前記棒状部材を横方向へ所定長さ引き抜いて、引き抜いた後の空間により所定流路を形成する第6工程と、
前記所定流路に培養液を灌流させて前記血管細胞を培養する第7工程と、
を含む血管網の製造方法。
【請求項2】
前記第6工程において、前記所定長さは、前記ハウジングの内部に前記棒状部材の一部が残る長さであり、
前記第6工程と前記第7工程との間において、前記血管細胞を含む液を前記所定流路の前記棒状部材と反対側の端部から注入する注入工程を含む、請求項1に記載の血管網の製造方法。
【請求項3】
前記注入工程と前記第7工程との間において、前記第1ゲル層及び前記第2ゲル層を培養液に浸漬させた状態で前記ハウジングから前記棒状部材を完全に抜き去る抜去工程を含む、請求項2に記載の血管網の製造方法。
【請求項4】
前記ハウジング及び前記棒状部材を滅菌していない状態で前記第1工程を実行し、
前記ハウジング及び前記棒状部材を滅菌した状態で前記第2工程を実行する、請求項1~3のいずれか1項に記載の血管網の製造方法。
【請求項5】
内部に液体を貯留可能なハウジングと、
前記ハウジングにおいて上下方向の中央よりも上の部分に横方向から通された棒状部材と、
前記ハウジングと前記棒状部材とを前記棒状部材の長手方向に相対移動可能とする移動機構と、
を備える血管網の製造装置。
【請求項6】
前記棒状部材を複数備え、
前記移動機構は、前記ハウジングと複数の前記棒状部材とを前記棒状部材の長手方向に同時に相対移動可能とする、請求項5に記載の血管網の製造装置。
【請求項7】
前記移動機構は、前記ハウジングの内部に前記棒状部材の一部が残る状態において、前記ハウジングと前記棒状部材との相対移動を停止可能とする、請求項5又は6に記載の血管網の製造装置。
【請求項8】
前記相対移動を停止した状態で、前記ハウジングにおいて内部に前記棒状部材の一部が残る側の第1端部よりも、前記第1端部と反対側の第2端部を高い位置で保持する保持部材を備える、請求項7に記載の血管網の製造装置。
【請求項9】
前記ハウジングにおいて内部に前記棒状部材の一部が残る側と反対側の端部に取り付けられ、前記ハウジングの内部に培養液を導入する流路が形成された導入部材を備え、
前記ハウジング及び前記導入部材には、互いに対向する部分と反対側の部分に上側ほど幅が狭くなる傾斜部が形成されている、請求項5~8のいずれか1項に記載の血管網の製造装置。
【請求項10】
前記ハウジングと前記導入部材との間に、前記培養液を貯留可能な貯留空間が形成される、請求項9に記載の血管網の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管網を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、培養容器の内部に棒状部材を通し、血管細胞を含むコラーゲンゲルを培養容器内に充填した後に棒状部材を抜き去り、コラーゲンゲル全体を培地に浸漬させ、棒状部材を抜き去った後の空間(空洞流路)に培地を灌流させることにより、血管網を製造する方法がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2021/066196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の血管網の製造方法では、空洞流路に培地を灌流させてコラーゲンゲル中の血管細胞を培養することにより、空洞流路に主血管を形成するとともに主血管の周辺に毛細血管を形成している。このため、コラーゲンゲルにおいて空洞流路から離れた部分に含まれる血管細胞は主血管及び毛細血管の形成に寄与せず、使用する血管細胞の量が多くなる。
【0005】
本発明は、こうした課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、血管細胞を培養する効率が低下することを抑制しつつ、使用する血管細胞の量を減少させることのできる血管網の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の手段は、血管網の製造方法であって、
内部に液体を貯留可能なハウジングの上部に棒状部材を横方向から通す第1工程と、
前記ハウジングに前記棒状部材よりも下の第1所定位置まで、血管細胞を含まない第1ゲル溶液を入れる第2工程と、
前記第1ゲル溶液をゲル化させて第1ゲル層を形成する第3工程と、
前記ハウジングにおいて前記第1ゲル層の上に前記棒状部材よりも上の第2所定位置まで、血管細胞を含む第2ゲル溶液を入れる第4工程と、
前記第2ゲル溶液をゲル化させて第2ゲル層を形成する第5工程と、
前記第2ゲル層から前記棒状部材を横方向へ所定長さ引き抜いて、引き抜いた後の空間により所定流路を形成する第6工程と、
前記所定流路に培養液を灌流させて前記血管細胞を培養する第7工程と、
を含む。
【0007】
上記工程によれば、第1工程において、内部に液体を貯留可能なハウジングの上部に棒状部材が横方向から通される。第2工程において、前記ハウジングに前記棒状部材よりも下の第1所定位置まで、血管細胞を含まない第1ゲル溶液が入れられる。第1ゲル溶液は血管細胞を含まないため、使用する血管細胞の量を減少させることができる。
【0008】
第3工程において、前記第1ゲル溶液がゲル化されて第1ゲル層が形成される。第4工程において、前記ハウジングにおいて前記第1ゲル層の上に前記棒状部材よりも上の第2所定位置まで、血管細胞を含む第2ゲル溶液が入れられる。第5工程において、前記第2ゲル溶液がゲル化されて第2ゲル層が形成される。このため、第1ゲル層の上において、棒状部材を覆うように第2ゲル層を形成することができる。そして、第6工程において、前記第2ゲル層から前記棒状部材が横方向へ所定長さ引き抜かれ、引き抜かれた後の空間により所定流路が形成される。第7工程において、前記所定流路に培養液が灌流されて前記血管細胞が培養される。
【0009】
ここで、ハウジングの内部において所定流路よりも下の部分には、血管細胞を含まない第1ゲル層が形成されている。このため、血管網の形成に寄与しにくい部分では、血管細胞を減少させることができる。一方、ハウジングの内部において所定流路を含む部分には、血管細胞を含む第2ゲル層が形成されている。このため、血管網の形成に寄与する部分には、血管細胞を含ませることができる。したがって、血管細胞を培養する効率が低下することを抑制しつつ、使用する血管細胞の量を減少させることができる。
【0010】
なお、形成された血管網の上に細胞シートを載せて培養する場合に、主血管よりも上に形成された血管網が細胞シートと連通し、主血管よりも下に形成された血管網は細胞シートと連通しにくい。このため、主血管よりも下の部分の血管網が少なかったとしても、血管網の上に載せた細胞シートを培養する際に支障をきたさない。
【0011】
第2の手段では、前記第6工程において、前記所定長さは、前記ハウジングの内部に前記棒状部材の一部が残る長さであり、前記第6工程と前記第7工程との間において、前記血管細胞を含む液を前記所定流路の前記棒状部材と反対側の端部から注入する注入工程を含む。
【0012】
上記工程によれば、前記第6工程において、前記所定長さは、前記ハウジングの内部に前記棒状部材の一部が残る長さである。このため、第6工程を終えた後において、所定流路の一方の端部は棒状部材により閉塞された状態になる。そして、前記第6工程と前記第7工程との間の注入工程において、前記血管細胞を含む液が、前記所定流路の前記棒状部材と反対側の端部から注入される。このため、前記所定流路の前記棒状部材と反対側の端部から注入された血管細胞を含む液は、棒状部材により閉塞された所定流路の端部から排出されず、所定流路の内面から第2ゲル層へ浸透する。このとき、血管細胞は所定流路の内面に留まるため、所定流路の内面に血管細胞を効率的に付着させることができる。したがって、主血管を形成する効率を向上させることができ、使用する血管細胞の量を減少させることができる。
【0013】
第3の手段では、前記注入工程と前記第7工程との間において、前記第1ゲル層及び前記第2ゲル層を培養液に浸漬させた状態で前記ハウジングから前記棒状部材を完全に抜き去る抜去工程を含む。こうした工程によれば、前記ハウジングの内部に残った前記棒状部材の一部をハウジングから抜き去った時に、第2ゲル層において棒状部材の一部が存在していた部分に培養液を浸入させることができる。このため、所定流路に気泡が入ることを抑制することができ、所定流路の内面と培養液との接触を良好にすることができる。したがって、血管細胞を培養する効率が低下することを抑制することができる。
【0014】
第4の手段では、前記ハウジング及び前記棒状部材を滅菌していない状態で前記第1工程を実行し、前記ハウジング及び前記棒状部材を滅菌した状態で前記第2工程を実行する。こうした工程によれば、クリーンベンチ(無菌室)での無菌操作の工程を減らすことができ、コンタミネーションのリスクを低減できる。
【0015】
第5の手段は、血管網の製造装置であって、
内部に液体を貯留可能なハウジングと、
前記ハウジングにおいて上下方向の中央よりも上の部分に横方向から通された棒状部材と、
前記ハウジングと前記棒状部材とを前記棒状部材の長手方向に相対移動可能とする移動機構と、
を備える。
【0016】
上記構成によれば、ハウジングにおいて上下方向の中央よりも下の部分に、血管細胞を含まない第1ゲル溶液を入れることができる。第1ゲル溶液は血管細胞を含まないため、使用する血管細胞の量を減少させることができる。
【0017】
続いて、第1ゲル溶液をゲル化させて第1ゲル層を形成することができる。その後、ハウジングにおいて第1ゲル層の上に棒状部材よりも上の位置まで、血管細胞を含む第2ゲル溶液を入れることができる。第2ゲル溶液をゲル化させて第2ゲル層を形成することができる。このため、第1ゲル層の上において、棒状部材を覆うように第2ゲル層を形成することができる。
【0018】
続いて、移動機構によって前記ハウジングと前記棒状部材とを前記棒状部材の長手方向に相対移動させることにより、第2ゲル層から棒状部材が引き抜かれた後の空間により所定流路を形成することができる。その後、所定流路に培養液を灌流させて血管細胞を培養することができる。
【0019】
ここで、ハウジングの内部において所定流路よりも下の部分には、血管細胞を含まない第1ゲル層が形成される。このため、血管網の形成に寄与しにくい部分では、血管細胞を減少させることができる。一方、ハウジングの内部において所定流路を含む部分には、血管細胞を含む第2ゲル層が形成される。このため、血管網の形成に寄与する部分には、血管細胞を含ませることができる。したがって、血管細胞を培養する効率が低下することを抑制しつつ、使用する血管細胞の量を減少させることができる。
【0020】
第6の手段では、前記棒状部材を複数備え、前記移動機構は、前記ハウジングと複数の前記棒状部材とを前記棒状部材の長手方向に同時に相対移動可能とする。こうした構成によれば、移動機構によって前記ハウジングと複数の前記棒状部材とを前記棒状部材の長手方向に同時に相対移動させることにより、第2ゲル層に複数の所定流路を同時に形成することができる。したがって、第2ゲル層に複数の所定流路を、安定して効率的に形成することができる。さらに、第1ゲル層及び第2ゲル層を培養液に浸漬させた状態においても、前記ハウジングと複数の前記棒状部材とを前記棒状部材の長手方向に同時に相対移動させることができるため、所定流路に気泡が入ることを抑制することができる。
【0021】
第7の手段では、前記移動機構は、前記ハウジングの内部に前記棒状部材の一部が残る状態において、前記ハウジングと前記棒状部材との相対移動を停止可能とする。こうした構成によれば、前記ハウジングの内部に前記棒状部材の一部が残る状態において前記ハウジングと前記棒状部材との相対移動を停止した時に、所定流路の一方の端部は棒状部材により閉塞された状態になる。そして、血管細胞を含む培養液を、所定流路の棒状部材と反対側の端部から注入することができる。このため、所定流路の棒状部材と反対側の端部から注入された培養液は、棒状部材により閉塞された所定流路の端部から排出されず、所定流路の内面から第2ゲル層へ浸透する。このとき、血管細胞は所定流路の内面に留まるため、所定流路の内面に血管細胞を効率的に付着させることができる。したがって、主血管を形成する効率を向上させることができ、使用する血管細胞の量を減少させることができる。
【0022】
第8の手段では、前記相対移動を停止した状態で、前記ハウジングにおいて内部に前記棒状部材の一部が残る側の第1端部よりも、前記第1端部と反対側の第2端部を高い位置で保持する保持部材を備える。このため、血管細胞を含む液を、所定流路の棒状部材と反対側の端部から注入する際に、作業者は所定流路の位置を視認しやすくなる。
【0023】
第9の手段では、前記ハウジングにおいて内部に前記棒状部材の一部が残る側と反対側の端部に取り付けられ、前記ハウジングの内部に培養液を導入する流路が形成された導入部材を備え、前記ハウジング及び前記導入部材には、互いに対向する部分と反対側の部分に上側ほど幅が狭くなる傾斜部が形成されている。
【0024】
上記構成によれば、血管網の製造装置は、前記ハウジングにおいて内部に前記棒状部材の一部が残る側と反対側の端部に取り付けられ、前記ハウジングの内部に培養液を導入する流路が形成された導入部材を備えている。このため、ハウジングに導入部材を取り付けることにより、導入部材を介してハウジングの内部、すなわち上記所定流路に培養液を導入することができる。
【0025】
ここで、ハウジングに導入部材を取り付ける際に、作業者が培養液に触れると培養液を汚染するおそれがある。この点、前記ハウジング及び前記導入部材には、互いに対向する部分と反対側の部分に上側ほど幅が狭くなる傾斜部が形成されている。このため、ハウジングに形成された傾斜部と導入部材に形成された傾斜部とを挟むように、上から下へ冶具を押し当てることにより、ハウジングと導入部材とを近づけることができる。したがって、作業者が培養液に触れずにハウジングに導入部材を取り付けることができ、培養液を汚染することを抑制することができる。
【0026】
第10の手段では、前記ハウジングと前記導入部材との間に、前記培養液を貯留可能な貯留空間が形成される。こうした構成によれば、貯留空間から上記所定流路へ培養液を供給することができ、所定流路に気泡や汚染物質が入ることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】血管網の製造装置の斜視図。
図2】ベースの斜視図。
図3】ハウジングの斜視図。
図4】ワイヤの斜視図。
図5】ハウジングの下部を示す斜視図。
図6】キャップの斜視図。
図7】キャップの斜視図。
図8】ハウジングを準備する工程を示す模式図。
図9】ワイヤを通す工程を示す模式図。
図10】第1コラーゲン溶液を入れる工程を示す模式図。
図11】第1コラーゲン層を形成する工程を示す模式図。
図12】第2コラーゲン溶液を入れる工程を示す模式図。
図13】第2コラーゲン層を形成する工程を示す模式図。
図14】所定流路を形成する工程を示す模式図。
図15】ワイヤを途中まで抜く工程を示す斜視図。
図16】所定流路にHUVEC液を注入する工程を示す模式図。
図17】ハウジングを傾けた状態を示す斜視図。
図18】ワイヤを抜き去る工程を示す模式図。
図19】取付部にキャップを取り付ける工程を示す模式図。
図20】冶具により取付部にキャップを挿入する状態を示す斜視図。
図21】取付部にキャップを取り付けた状態を示す斜視図。
図22】貯留空間を示す模式図。
図23】保持部材の変更例を示す斜視図。
図24】ハウジングを傾けた状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、血管網を製造する血管網の製造装置100に具現化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0029】
図1に示すように、血管網の製造装置100は、ベース10、ハウジング30、ワイヤ50等を備えている。同図では、血管網の製造装置100がディッシュD内に配置された状態を示している。ディッシュDは、血管網(細胞)の培養で使用される一般的な容器である。ディッシュDは、有底円筒状に形成されている。
【0030】
図2に示すように、ベース10は、矩形板状に形成されている。ベース10は、上面(一面)が平面(平坦)に形成された矩形板状の底部11を備えている。
【0031】
底部11の短手方向の両端には、底部11から突出した突条12,13がそれぞれ設けられている。突条12,13は、底部11の短手方向の両端に沿って延びている。突条12と突条13との間隔は一定である。突条12,13の長手方向の中間部において突条12,13の上部(底部11と反対側の端部)には、それぞれ押さえ部14,15が設けられている。押さえ部14,15は、底部11の短手方向の内側へ突出しており、底部11と押さえ部14,15との間に配置された部材が上(底部11から離れる方向)へ移動することを規制する。
【0032】
底部11の長手方向の一端部には、ワイヤ受け部20が設けられている。ワイヤ受け部20には、ワイヤ50(棒状部材)を嵌めることが可能な複数の溝21が形成されている。複数の溝21は、底部11の長手方向に延びている。複数の溝21は、上方(底部11から離れる方向)が開口している。
【0033】
底部11の長手方向の他端部には、スペーサ24,25が設けられている。スペーサ24,25は、底部11の短手方向の両端部にそれぞれ設けられている。スペーサ24,25は、ベース10をディッシュD内に配置した場合に、ベース10とディッシュDとの隙間をなくす(小さくする)ことのできる寸法に形成されている。
【0034】
底部11のスペーサ24,25側の端部には、上方(底部11から離れる方向)へ突出する突起26,27が設けられている。突起26,27においてワイヤ受け部20側の部分には、上側(底部11から離れる側)ほど幅が狭くなる傾斜部26a,27aがそれぞれ形成されている。突起26,27においてワイヤ受け部20と反対側の部分には、傾斜部は形成されていない。すなわち、突起26,27においてワイヤ受け部20と反対側の面は、スペーサ24,25の上面に対してそれぞれ垂直になっている。なお、突起26,27は、それぞれスペーサ24,25から上方へ突出するように設けられていてもよい。
【0035】
図3は、ハウジング30の斜視図である。ハウジング30は、底板部31、貯留部33、及び取付部40等を備えている。
【0036】
底板部31は、矩形板状に形成されている。底板部31の短手方向の幅は、ベース10の突条12と突条13との間隔よりも狭く、押さえ部14と押さえ部15との間隔よりも広くなっている。底板部31の厚さは、底部11と押さえ部14,15との間隔よりも薄くなっている。このため、底部11と押さえ部14,15との間に底板部31を挿入することができる。そして、ベース10に対して底部11の長手方向(ワイヤ50の長手方向)に底板部31をスライド(ベース10と底板部31とを底部11の長手方向に相対移動)可能となっている。なお、突条12,13、押さえ部14,15、及び底板部31により、移動機構が構成されている。
【0037】
貯留部33は、底板部31から上方(底板部31から離れる方向)へ四角筒状に延びている。これにより、貯留部33は、液体を貯留可能となっている。貯留部33の上部(上下方向の中央よりも上の部分)には、ワイヤ50を挿入することが可能な複数の貫通孔35,36(図3では貫通孔35のみ図示)が形成されている。貫通孔35,36は、貯留部33において対向する壁部33a,33bにそれぞれ形成され、底板部31の長手方向に延びている。貫通孔35,36は、筒状の保持部37,38にそれぞれ連通している。保持部37,38は、貯留部33の内部において壁部33a,33bから底板部31の長手方向にそれぞれ延びている。
【0038】
ベース10の底部11と押さえ部14,15との間にハウジング30の底板部31を挿入した状態において、ワイヤ受け部20の複数の溝21、貯留部33の貫通孔35,36、及び保持部37,38に、直線状のワイヤ50を挿入可能となっている(図1参照)。図4に示すように、ワイヤ50の端部には、ストッパ51が設けられている。ストッパ51は、ワイヤ受け部20に当接して、ワイヤ50がワイヤ受け部20よりも貯留部33側へ移動することを規制する。
【0039】
取付部40は、貫通孔35,36が形成された壁部33a,33b(第1端部30a側の壁部33a及び第2端部30b側の壁部33b)のうち第2端部30b側の壁部33bに設けられている。図8に示すように、取付部40の内部には、後述するキャップ60を嵌合可能な凹部41が形成されている。凹部41は、長円柱状に形成されている。凹部41の底部41aは、貫通孔36及び保持部38を介して貯留部33と連通している。底板部31の短手方向において取付部40の両端部には、それぞれ係合部43,44が形成されている。係合部43,44において壁部33a側の部分には、上側(底板部31から離れる側)ほど幅が狭くなる傾斜部43a,44aがそれぞれ形成されている。係合部43,44において壁部33aと反対側の部分には、傾斜部は形成されていない。すなわち、係合部43,44において壁部33aと反対側の面は、底板部31の上面に対して垂直になっている。
【0040】
図5は、ハウジング30の下部を示す斜視図である。底板部31において短手方向の両端部且つ係合部43,44の下方(底板部31の長手方向の一端部)には、それぞれ溝45,46が形成されている。溝45,46は、ベース10の突起26,27にそれぞれ係合可能となっている。
【0041】
図6,7は、キャップ60の斜視図である。キャップ60(導入部材)は、本体61、挿入部62、ポート部66、及び係合部68,69等を備えている。
【0042】
本体61は、矩形板状に形成されている。本体61の一方の面から挿入部62が突出しており、他方の面からポート部66が突出している。挿入部62は、長円柱状に形成されており、取付部40の凹部41に嵌合可能となっている。取付部40と挿入部62との間は、シール部材によりシールされる。キャップ60には、挿入部62、本体61、及びポート部66を貫通する流路67が形成されている。流路67は、挿入部62の内部において挿入部62の長径方向に広がっている。
【0043】
本体61の長手方向(挿入部62の長径方向)において本体61の両端部には、それぞれ係合部68,69が形成されている。係合部68,69においてポート部66側(挿入部62と反対側)の部分には、上側(本体61の短手方向の一方側)ほど幅が狭くなる傾斜部68a,69aがそれぞれ形成されている。係合部68,69において挿入部62側(ポート部66と反対側)の部分には、傾斜部は形成されていない。すなわち、係合部68,69において挿入部62側の面は、本体61の面と平行になっている。
【0044】
次に、血管網を製造する手順(血管網の製造方法)について説明する。以下の手順は、上記血管網の製造装置100を使用して作業者により実行される。
【0045】
まず、図8に示すように、クリーンベンチ(無菌室)内に滅菌したハウジング30を準備する。
【0046】
続いて、図9に示すように、ハウジング30の全ての貫通孔35,36、及び全ての保持部37,38にワイヤ50をそれぞれ通す。すなわち、内部に液体を貯留可能なハウジング30の上部(上下方向の中央よりも上の部分)にワイヤ50を横方向から通す(第1工程)。詳しくは、図1に示すように、ディッシュD内にベース10を置き、ベース10にハウジング30を取り付けた状態において、ワイヤ受け部20の各溝21に上方から各ワイヤ50を嵌合させる。そして、ハウジング30に対して各ワイヤ50を横方向へ移動させて、ハウジング30の各貫通孔35,36、及び各保持部37,38にワイヤ50を通す。このとき、ベース10の底部11と押さえ部14,15との間にハウジング30の底板部31が挿入されており、ハウジング30は最もワイヤ受け部20側へ移動した状態になっている。
【0047】
続いて、図10に示すように、ハウジング30の貯留部33にワイヤ50の直下の位置(ワイヤ50よりも下の第1所定位置)まで、血管細胞を含まない第1コラーゲン溶液CL1を入れる(第2工程)。第1コラーゲン溶液CL1(第1ゲル溶液)は、例えばコラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型など)、培養液(培地)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)溶液、培養液の緩衝剤、蒸留水等を含み、血管細胞を含まない。なお、第1ゲル溶液として、コラーゲンを含む溶液に限らず、生分解性ポリマーを含む溶液を採用することができる。生分解性ポリマーとして、フィブリン、ゼラチン、多糖類、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、キチン、キトサン等の単独、若しくは2種以上の混合物を採用することができる。
【0048】
続いて、図11に示すように、例えば第1コラーゲン溶液CL1を37[℃]で45[min]インキュベート(保温)する。これにより、第1コラーゲン溶液CL1をゲル化(硬化)させて、第1コラーゲン層CG1(第1ゲル層)を形成する(第3工程)。
【0049】
続いて、図12に示すように、ハウジング30の貯留部33に上端まで(ワイヤ50よりも上の第2所定位置)まで、血管細胞を含む第2コラーゲン溶液CL2を入れる(第4工程)。すなわち、ハウジング30の貯留部33において第1コラーゲン層CG1の上にワイヤ50及び保持部37,38が浸漬するまで、血管細胞を含む第2コラーゲン溶液CL2を入れる。第2コラーゲン溶液CL2(第2ゲル溶液)は、例えばコラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型など)、培養液(培地)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)溶液、培養液の緩衝剤、トロンビン溶液、フィブリノゲン溶液、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)液、蒸留水等を含む。なお、第2ゲル溶液として、コラーゲン及び血管細胞を含む溶液に限らず、生分解性ポリマー及び血管細胞を含む溶液を採用することができる。生分解性ポリマーとして、フィブリン、ゼラチン、多糖類、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、キチン、キトサン等の単独、若しくは2種以上の混合物を採用することができる。
【0050】
続いて、図13に示すように、例えば第2コラーゲン溶液CL2を37[℃]で45[min]インキュベート(培養)する。これにより、第2コラーゲン溶液CL2をゲル化(硬化)させて、第2コラーゲン層CG2(第2ゲル層)を形成する(第5工程)。
【0051】
続いて、図14に示すように、ハウジング30をディッシュDに入れて培養液Mに浸漬させ、第2コラーゲン層CG2(ハウジング30)からワイヤ50を途中まで(横方向へ所定長さ)引き抜く。すなわち、所定長さは、ハウジング30の内部にワイヤ50の一部が残る長さである。そして、第2コラーゲン層CG2からワイヤ50を引き抜いた空間により、培養液Mの所定流路Pを形成する(第6工程)。詳しくは、図15に示すように、ハウジング30をワイヤ受け部20から離すようにベース10に対してスライドさせる。このとき、突条12,13によりハウジング30の底板部31がガイドされるとともに、押さえ部14,15により底板部31から離れる方向への底板部31の移動が規制される。これにより、ワイヤ50に平行にハウジング30が移動され、全て(8本)のワイヤ50とハウジング30とがワイヤ50の長手方向に同時に相対移動される。そして、突起26,27(図1参照)の傾斜部26a,27aを、底板部31におけるワイヤ受け部20と反対側の端部が乗り越えて、突起26,27に底板部31の溝45,46(図5参照)がそれぞれ係合する。すなわち、ハウジング30の内部にワイヤ50の一部が残る状態において、ハウジング30とワイヤ50との相対移動が停止可能(ハウジング30とワイヤ50とを係止可能)となっている。
【0052】
続いて、図16に示すように、ハウジング30を傾けて注射器70により各所定流路PにHUVEC液(血管細胞を含む液)を注入する(注入工程)。詳しくは、図17に示すように、ベース10の下へ冶具G1(保持部材)を入れてハウジング30における取付部40側の端部を持ち上げる。すなわち、冶具G1は、ハウジング30において内部にワイヤ50の一部が残る側の第1端部30aよりも、第1端部30aと反対側の第2端部30bを高い位置で保持する。このとき、ベース10におけるワイヤ受け部20側の端部がディッシュDの側壁に当接し、冶具G1におけるワイヤ受け部20と反対側の端部がディッシュDの側壁に当接する。これにより、取付部40の貫通孔36が作業者に見える状態で、ベース10及びハウジング30が保持される。作業者は、取付部40の各貫通孔36に注射器70の針71を挿入して、各所定流路PにHUVEC液を注入する。すなわち、HUVEC液を所定流路Pのワイヤ50と反対側の端部から注入する。
【0053】
続いて、図18に示すように、ハウジング30を培養液Mに浸漬させた状態で、ハウジング30からワイヤ50を完全に抜き去る(抜去工程)。詳しくは、ハウジング30をワイヤ受け部20からさらに離すようにベース10に対してスライドさせて、ベース10からハウジング30を取り外す。
【0054】
続いて、図19に示すように、培養液M中において取付部40にキャップ60を取り付ける。詳しくは、ハウジング30の取付部40にキャップ60の挿入部62を対向させるように配置する。そして、図20に示すように、ハウジング30の傾斜部43a,44a及びキャップ60の傾斜部68a,69aを冶具G2の切欠部Kにより挟むように、冶具G2を下方へ移動させる。これにより、冶具G2を下方へ移動させる力が、取付部40とキャップ60とを近づける力に変換される。このとき、培養液Mには冶具G2のみが接触し、作業者の手袋等は培養液Mに接触しない。そして、図21に示すように、取付部40へのキャップ60の取り付けを完了する。
【0055】
このとき、図22に示すように、取付部40とキャップ60の本体61とが当接した状態となる。そして、ハウジング30の取付部40とキャップ60の挿入部62との間に、培養液Mを貯留可能な貯留空間Sが形成される。その後、培養液Mからハウジング30及びキャップ60を取り出し、灌流培養装置に取り付ける。そして、キャップ60の流路67から培養液Mを流入させることにより、第2コラーゲン層CG2の所定流路Pに培養液Mを灌流させてHUVECを培養する(第7工程)。これにより、HUVECを成長させて主血管及び毛細血管(血管網)を製造する。
【0056】
血管網が製造された後、血管網の上に種々の細胞シートを載せて培養することにより、機能的な種々の細胞組織を製造することができる。
【0057】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0058】
・第1工程において、内部に液体を貯留可能なハウジング30の上部にワイヤ50が横方向から通される。第2工程において、ハウジング30にワイヤ50よりも下の第1所定位置まで、血管細胞を含まない第1コラーゲン溶液CL1が入れられる。第1コラーゲン溶液CL1は血管細胞を含まないため、使用する血管細胞の量を減少させることができる。
【0059】
・ハウジング30の内部において所定流路Pよりも下の部分には、血管細胞を含まない第1コラーゲン層CG1が形成されている。このため、血管網の形成に寄与しにくい部分では、血管細胞を減少させることができる。一方、ハウジング30の内部において所定流路Pを含む部分には、血管細胞を含む第2コラーゲン層CG2が形成されている。このため、血管網の形成に寄与する部分には、血管細胞を含ませることができる。したがって、血管細胞を培養する効率が低下することを抑制しつつ、使用する血管細胞の量を減少させることができる。
【0060】
・形成された血管網の上に細胞シートを載せて培養する場合に、主血管(所定流路P)よりも上に形成された毛細血管(血管網)が細胞シートと連通し、主血管よりも下に形成された血管網は細胞シートと連通しにくい。このため、主血管よりも下の部分の血管網が少なかったとしても、血管網の上に載せた細胞シートを培養する際に支障をきたさない。
【0061】
・第6工程において、所定長さは、ハウジング30の内部にワイヤ50の一部が残る長さである。移動機構は、ハウジング30の内部にワイヤ50の一部が残る状態において、ハウジング30とワイヤ50との相対移動を停止可能とする。このため、第6工程を終えた後において、所定流路Pの一方の端部はワイヤ50により閉塞された状態になる。そして、第6工程と第7工程との間の注入工程において、HUVEC液が、所定流路Pのワイヤ50と反対側の端部から注入される。このため、所定流路Pのワイヤ50と反対側の端部から注入されたHUVEC液は、ワイヤ50により閉塞された所定流路Pの端部から排出されず、所定流路Pの内面から第2コラーゲン層CG2へ浸透する。このとき、血管細胞は所定流路Pの内面に留まるため、所定流路Pの内面に血管細胞を効率的に付着させることができる。したがって、主血管を形成する効率を向上させることができ、使用する血管細胞の量を減少させることができる。
【0062】
・移動機構は、ハウジング30の内部にワイヤ50の一部が残る状態において、ハウジング30とワイヤ50とを保持(係止)することができる。このため、ワイヤ50が第2コラーゲン層CG2内で動くことを抑制することができ、所定流路Pが損傷することを抑制することができる。
【0063】
・注入工程と第7工程との間において、第1コラーゲン層CG1及び第2コラーゲン層CG2を培養液Mに浸漬させた状態でハウジング30からワイヤ50を完全に抜き去る抜去工程を含む。こうした工程によれば、ハウジング30の内部に残ったワイヤ50の一部をハウジング30から抜き去った時に、第2コラーゲン層CG2においてワイヤ50の一部が存在していた部分に培養液Mを浸入させることができる。このため、所定流路Pに気泡が入ることを抑制することができ、所定流路Pの内面と培養液Mとの接触を良好にすることができる。したがって、血管細胞を培養する効率が低下することを抑制することができる。
【0064】
・ワイヤ50を複数備え、移動機構は、ハウジング30と複数のワイヤ50とをワイヤ50の長手方向に同時に相対移動可能とする。こうした構成によれば、移動機構によってハウジング30と複数のワイヤ50とをワイヤ50の長手方向に同時に相対移動させることにより、第2コラーゲン層CG2に複数の所定流路Pを同時に形成することができる。したがって、第2コラーゲン層CG2に複数の所定流路Pを、安定して効率的に形成することができる。さらに、第1コラーゲン層CG1及び第2コラーゲン層CG2を培養液Mに浸漬させた状態においても、ハウジング30と複数のワイヤ50とをワイヤ50の長手方向に同時に相対移動させることができるため、所定流路Pに気泡が入ることを抑制することができる。しかも、ベース10の突条12,13によりガイドされたハウジング30をスライドさせればよいため、作業者による作業が容易である。
【0065】
・相対移動を停止した状態で、ハウジング30において内部にワイヤ50の一部が残る側の第1端部30aよりも、第1端部30aと反対側の第2端部30bを高い位置で保持する冶具G1を備える。このため、HUVEC液を、所定流路Pのワイヤ50と反対側の端部から注入する際に、作業者は所定流路Pの位置を視認しやすくなる。さらに、作業者は、HUVEC液を所定流路Pに注入する際にハウジング30を保持する必要がないため、注入作業を容易に実行することができる。
【0066】
・ハウジング30において内部にワイヤ50の一部が残る側と反対側の端部に取り付けられ、ハウジング30の内部に培養液Mを導入する流路67が形成されたキャップ60を、血管網の製造装置100は備えている。このため、ハウジング30にキャップ60を取り付けることにより、キャップ60を介してハウジング30の内部、すなわち上記所定流路Pに培養液Mを導入することができる。
【0067】
・ハウジング30にキャップ60を取り付ける際に、作業者が培養液Mに触れると培養液Mを汚染するおそれがある。この点、ハウジング30及びキャップ60には、互いに対向する部分と反対側の部分に上側ほど幅が狭くなる傾斜部43a,44a,68a,69aが形成されている。このため、ハウジング30に形成された傾斜部43a,44aとキャップ60に形成された傾斜部68a,69aとを挟むように、上から下へ冶具G2を押し当てることにより、ハウジング30とキャップ60とを近づけることができる。したがって、作業者が培養液Mに触れずにハウジング30にキャップ60を取り付けることができ、培養液Mを汚染することを抑制することができる。
【0068】
・ハウジング30とキャップ60との間に、培養液Mを貯留可能な貯留空間Sが形成される。こうした構成によれば、貯留空間Sから上記所定流路Pへ培養液Mを供給することができ、ハウジング30及びキャップ60を灌流培養装置に取り付ける際に、所定流路Pに気泡や汚染物質が入ることを抑制することができる。さらに、気泡が発生した場合に、気泡を貯留空間Sに留めることができる。
【0069】
・第2コラーゲン層CG2は、HUVECを培養する際に収縮する。ここで、第2コラーゲン層CG2は第1コラーゲン層CG1と密着しているため、第2コラーゲン層CG2が収縮しようとする力を第1コラーゲン層CG1で緩和することができる。したがって、第2コラーゲン層CG2が薄い場合であっても、第2コラーゲン層CG2が収縮することを抑制することができ、血管網の成長を促進することができる。
【0070】
なお、上記実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。上記実施形態と同一の部分については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0071】
図23は、保持部材の変更例を示す斜視図である。ベース10においてワイヤ受け部20と反対側の端部に、回転式のスタンド80が取り付けられている。スタンド80(保持部材)は、矩形板状に形成されており、ベース10においてワイヤ受け部20と反対側の端部に回転自在に取り付けられている。上記第1工程から上記第6工程まで、スタンド80は折り畳まれた状態になっている。上記注入工程において、取付部40をピンセット等により持ち上げることにより、ベース10とスタンド80とを離れた状態とする。そして、図24に示すように、さらにスタンド80を回転させて、スタンド80によりベース10を保持する。すなわち、スタンド80は、ハウジング30において内部にワイヤ50の一部が残る側の第1端部30aよりも、第1端部30aと反対側の第2端部30bを高い位置で保持する。このとき、ベース10におけるワイヤ受け部20側の端部がディッシュDの側壁に当接し、スタンド80における取付部40と反対側の端部がディッシュDの側壁に当接する。これにより、取付部40の貫通孔36が作業者に見える状態で、ベース10及びハウジング30が保持される。こうした構成によれば、取付部40をピンセット等により持ち上げてスタンド80を回転させることにより、容易にベース10及びハウジング30を保持することができる。
【0072】
・取付部40にキャップ60を取り付けた状態において、ハウジング30の取付部40とキャップ60の挿入部62との間に、培養液Mを貯留可能な貯留空間Sが形成されていなくてもよい。
【0073】
・ハウジング30の傾斜部43a,44aとキャップ60の傾斜部68a,69aとを省略することもできる。
【0074】
・ワイヤ50は、8本よりも多くても少なくてもよく、1本であってもよい。
【0075】
・クリーンベンチ(無菌室)外で、図9に示すように、ハウジング30の全ての貫通孔35,36、及び全ての保持部37,38にワイヤ50をそれぞれ通してもよい(第1工程)。すなわち、ハウジング30及びワイヤ50を滅菌していない状態で第1工程を実行してもよい。そして、ハウジング30及びワイヤ50を滅菌した後に、ハウジング30の貯留部33にワイヤ50の直下の位置(ワイヤ50よりも下の第1所定位置)まで、血管細胞を含まない第1コラーゲン溶液CL1(第1ゲル溶液)を入れてもよい(第2工程)。すなわち、ハウジング30及びワイヤ50を滅菌した状態で第2工程を実行してもよい。こうした工程によれば、クリーンベンチ(無菌室)での無菌操作の工程を減らすことができ、コンタミネーションのリスクを低減できる。
【0076】
・抜去工程において、ハウジング30を培養液Mに浸漬させていない状態で、ハウジング30からワイヤ50を完全に抜き去ることもできる。
【0077】
・第6工程において、ハウジング30をディッシュDに入れて培養液Mに浸漬させ、第2コラーゲン層CG2(ハウジング30)からワイヤ50を完全に(横方向へ所定長さ)引き抜くこともできる。その場合は、第6工程が抜去工程に相当する。
【0078】
なお、上記の各変更例を組み合わせて実施することもできる。
【符号の説明】
【0079】
10…ベース、20…ワイヤ受け部、30…ハウジング、33…貯留部、35…貫通孔、36…貫通孔、37…保持部、38…保持部、40…取付部、50…ワイヤ、60…キャップ(導入部材)、70…注射器、100…血管網の製造装置、CG1…第1コラーゲン層、CG2…第2コラーゲン層、CL1…第1コラーゲン溶液、CL2…第2コラーゲン溶液、D…ディッシュ、M…培養液、P…所定流路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24