(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038876
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを、一定の幅からなる軟磁性シートとして連続して製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/26 20060101AFI20230310BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20230310BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230310BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230310BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20230310BHJP
B22F 1/10 20220101ALI20230310BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20230310BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20230310BHJP
B22F 3/18 20060101ALI20230310BHJP
B22F 1/06 20220101ALI20230310BHJP
【FI】
H01F1/26
H05K9/00 M
H05K9/00 W
H01F1/147 158
H01F1/147 166
H01F1/147 191
B22F1/00 W
B22F1/14 500
B22F1/10
B22F3/02 M
B22F3/10 C
B22F3/18
B22F1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145824
(22)【出願日】2021-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E321
【Fターム(参考)】
4K018AA08
4K018AA24
4K018AA26
4K018AA30
4K018AA33
4K018BA13
4K018BA16
4K018BA17
4K018BA20
4K018BB01
4K018BC12
4K018BD05
4K018CA08
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4K018CA45
4K018DA03
4K018EA29
4K018HA08
4K018KA43
5E041AA01
5E041AA02
5E041AA04
5E041AA07
5E041BB03
5E041CA06
5E041CA13
5E321BB31
5E321BB53
5E321BB60
5E321GG07
5E321GG11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】より簡単な処理で、軟磁性シートを製造する方法を提供する。
【解決手段】連続処理で、軟磁性扁平紛の扁平面同士を接合させた扁平粉の集まりからなる磁性シートを作成する方法であって、有機化合物を、低沸点からなる有機化合物と、高沸点で高融点からなる有機化合物との2種類の有機化合物から、融点が室温より高く、熱融解時の粘度が低粘度である1種類の有機化合物に、軟磁性扁平紛の集まりを分散した懸濁液を作成する。該懸濁液を用いて、軟磁性扁平紛の扁平面同士が、有機化合物を介して重ね合わされた厚みが薄い被膜を連続して形成する。該被膜から、有機化合物を固化したのちに、有機化合物を気化させ、被膜を軟磁性扁平紛の扁平面同士が重なり合った被膜とする。さらに、該被膜を多段圧延機のワークロールの間隙で連続して圧縮し、ワークロールの間隙から押し出された軟磁性シートを巻き取り機で巻き取る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを、一定の幅からなる軟磁性シートとして連続して製造する方法は、
融点が25-50℃である第一の性質と、熱融解時の粘度が3-7mPa・秒からなる第二の性質と、密度が軟磁性扁平紛の密度の1/8以下である第三の性質とを兼備する有機化合物を融点以上に昇温し、該有機化合物の熱融解液を作成し、該熱融解液を容器に投入する、
次に、扁平形状からなる粉体である第一の特徴と、軟磁性の性質を持つ第二の特徴と、密度が前記有機化合物の8倍以上である第三の性質と、導電性の金属ないしは合金で構成される第四の特徴とを兼備する軟磁性扁平粉の集まりを、前記有機化合物の熱融解液に混合する割合が80重量%より多い割合として秤量し、該秤量した軟磁性扁平粉の集まりを前記容器に混合し、該軟磁性扁平粉の集まりを前記有機化合物の熱融解液中で攪拌し、前記軟磁性扁平粉の集まりが前記有機化合物の熱融解液に分散した懸濁液を前記容器内に作成する、
さらに、多段圧延機のワークロールの幅を、ベルトコンベヤの平面の幅とする第一の特徴と、前記平面が加振台に接触する第二の特徴と、前記平面に、該平面の上下方向の振動と該平面の幅方向の振動と該平面の長さ方向の振動とが、交互に前記加振台から継続して加えられる第三の特徴と、前記平面が予め決めた速度で移動する第四の特徴と、前記平面の前方の端部が、前記懸濁液が充填された前記容器に近接して配置された第五の特徴とを兼備する第一のベルトコンベヤについて、該第一のベルトコンベヤを連続稼働させるとともに、該第一のベルトコンベヤの平面の前方の端部に、該平面の幅の全てに前記懸濁液が垂れるように、前記懸濁液の予め決めた一定量を、前記容器から連続して垂らす、
これによって、前記平面の幅の全てに前記懸濁液が垂れるとともに、前記第一のベルトコンベヤの平面が移動することで、該平面の全体に前記懸濁液からなる厚みが薄い被膜が形成されるようになり、さらに、該平面に形成された前記懸濁液からなる厚みが薄い被膜に前記3方向の振動が交互に継続して加わり、該懸濁液を構成する前記軟磁性扁平粉の全てが、該軟磁性扁平紛の扁平面を上にして、前記有機化合物の熱融解液中を前記振動方向に移動し、前記平面全体に前記軟磁性扁平粉が拡散するとともに、前記軟磁性扁平紛の扁平面同士が、前記有機化合物の熱融解液を介して重なり合う該軟磁性扁平粉の配列を進めながら、前記懸濁液からなる厚みが薄い被膜が前記第一のベルトコンベヤの平面の後方の端部に進む、
該被膜が前記第一のベルトコンベヤの平面の後方の端部に近づくと、該第一のベルトコンベヤの後方の端部に近接して設置された冷風機によって、該被膜が25℃以下に連続して冷却され、前記懸濁液を構成する前記熱融解した有機化合物が固化し、該固化した有機化合物を介して前記軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合うとともに、該固化した有機化合物を介して前記軟磁性扁平紛の扁平面同士が接合した該軟磁性扁平粉の集まりが形成され、該軟磁性扁平粉の集まりの先端が、前記第一のベルトコンベヤの平面の後方の端部に到達する、
さらに、前記第一のベルトコンベヤの平面の幅と同一の平面の幅を有する第一の特徴と、前記平面が一定の速度で移動する第二の特徴と、前記平面が、前記有機化合物の沸点以上の温度に昇温された熱処理装置を通過する第三の特徴と、前記平面の前方の端部が、前記第一のベルトコンベヤの平面の後方の端部に近接して設置された第四の特徴とを兼備する第二のベルトコンベヤについて、該第二のベルトコンベヤを連続稼働させるとともに、該第二のベルトコンベヤの平面の前方の端部に、前記軟磁性扁平粉の集まりの先端を落とし、該第二のベルトコンベヤの平面の移動によって、前記軟磁性扁平粉の集まりは、前記熱処理装置を連続して通過する、
この際、前記軟磁性扁平粉の集まりから前記有機化合物が気化し、該軟磁性扁平粉の集まりが、該軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合った該軟磁性扁平粉の集まりになり、該軟磁性扁平粉の集まりの先端が、前記第二のベルトコンベヤの平面の後方の端部に到達する、
該軟磁性扁平粉の集まりの先端が、前記第二のベルトコンベヤの平面の後方の端部に到達すると、該軟磁性扁平粉の集まりの先端が、多段圧延機のワークロールの間隙に入り込み、該ワークロールの間隙で前記軟磁性扁平粉の集まりが連続して圧縮される、
これによって、前記軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合った該扁平面同士の接触部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって、前記扁平面同士の接触部が接合し、該扁平面同士が直接接合した軟磁性扁平紛の集まりからなる軟磁性シートが、前記多段圧延機のワークロールの間隙から連続して押し出される、
この後、前記押し出された軟磁性シートを巻き取り機で巻き取る、
これによって、多段圧延機のワークロールの幅からなる軟磁性シートが連続して製造される、軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを、一定の幅からなる軟磁性シートとして連続して製造する方法。
【請求項2】
前記有機化合物が、オクタデカンまたはノナデカンからなるいずれかのアルカンか、または、デカン酸またはドデカン酸からなるいずれかの飽和脂肪酸であり、該有機化合物を8段落に記載した有機化合物として用い、8段落に記載した方法に従って、軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを連続して製造する、8段落に記載した軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを、一定の幅からなる軟磁性シートとして連続して製造する方法。
【請求項3】
前記軟磁性扁平紛が、鉄、パーマロイ、ケイ素鋼、センダストないしは電磁ステンレス鋼からなるいずれか1種類の軟磁性扁平紛であり、該軟磁性扁平紛を8段落に記載した軟磁性扁平紛として用い、8段落に記載した方法に従って、鉄、パーマロイ、ケイ素鋼、センダストないしは電磁ステンレス鋼からなるいずれか1種類の軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを連続して製造する、鉄、パーマロイ、ケイ素鋼、センダストないしは電磁ステンレス鋼からなるいずれか1種類の軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを、一定の幅からなる軟磁性シートとして連続して製造する方法。
【請求項4】
前記軟磁性扁平紛が、複数種類の合金からなる複数種類の軟磁性扁平粉であり、該複数種類の合金からなる複数種類の軟磁性扁平粉は、パーマロイ、ケイ素鋼、センダストないしは電磁ステンレス鋼のいずれかの合金からなる第一の特徴と、複素透磁率の虚部の大きさが、互いに異なる周波数帯域で相対的に大きな値を持つ第二の特徴を持ち、軟磁性シートが吸収する電磁波の周波数帯域において、前記複素透磁率の虚部の大きさが相対的に大きい値を持つ複数種類の軟磁性扁平粉を選択し、該選択した複数種類の軟磁性扁平粉を、8段落に記載した軟磁性扁平紛として用い、8段落に記載した方法に従って、前記選択した複数種類の軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該複数種類の軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを連続して製造する、周波数帯域が広い電磁波を吸収する軟磁性シートを、一定の幅からなる軟磁性シートとして連続して製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性の扁平粉の扁平面同士を、摩擦熱で直接接合した該扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを、一定の幅からなる軟磁性シートとして、連続して製造する方法に係わる。なお、厚みに対する長径と短径との平均値の比率である扁平率が大きい粉体を、扁平粉、フレーク粉、鱗片粉、薄片粉、円板粉、薄板粉と様々に記述されるが、本発明では、一括して扁平粉として記述する。
なお、本発明に先行して、本発明者は、軟磁性の扁平粉の扁平面同士を、摩擦熱で直接接合した該扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを連続して製造する方法にかかわる発明を、特願2019-143413(元年8月2日)として出願している。
先願は、パラフィンを有機溶剤で希釈した溶解液と、軟磁性扁平紛の集まりを、加熱装置が付加された混合機に投入し、混合機を回転させ、さらに、混合機を加振台の上に載せ、懸濁液に3方向の振動を加え、軟磁性扁平紛の扁平面同士を、パラフィンの溶解液を介して重ね合わせる。この後、加熱装置を稼働させて有機溶剤を気化させ、さらに、パラフィンを固化させる。この後、軟磁性扁平紛の扁平面同士が、固化したパラフィンを介して重なり合った扁平紛の集まりを、混合機から圧延機に移し、圧延機で圧縮し、軟磁性シートを作成する。従って、先願は、混合機で作成した軟磁性扁平紛の集まりを、圧延機に移し、圧延機で圧縮して軟磁性シートを作成するバッチ処理である。
これに対し、本願は、バッチ処理ではなく、連続処理で、一定の幅からなる軟磁性シートを連続して製造する。すなわち、軟磁性扁平紛の集まりを有機化合物の熱融解液に分散した懸濁液を容器内に作成し、作成した懸濁液の一定量を容器から第一のベルトコンベヤの平面に連続して垂らす。さらに、第一のベルトコンベヤが稼働することで、懸濁液は上下と左右と前後の3方向の振動が継続して加えられながら、第一のベルトコンベヤの平面上を進み、軟磁性扁平紛の扁平面同士が、有機化合物の熱融解液を介して重なり合った軟磁性扁平紛の集まりになる。軟磁性扁平紛の集まりの先端が、第一のベルトコンベヤの一方の端部に近づくと、第一のベルトコンベヤの一方の端部に設けた冷風機で、軟磁性扁平紛の集まりが連続して冷却され、有機化合物が固化する。さらに、第一のベルトコンベヤの一方の端部に、軟磁性扁平紛の集まりの先端が到達すると、軟磁性扁平紛の集まりが、第一のベルトコンベヤの端部から第二のベルトコンベヤの平面上に移る。さらに、第二のベルトコンベヤの連続稼働で、軟磁性扁平紛の集まりが、第二のベルトコンベヤ上を進み、第二のベルトコンベヤが熱処理装置を連続して通過することで、軟磁性扁平紛の集まりから有機化合物が連続して気化する。この後、軟磁性扁平紛の集まりの先端が、第二のベルトコンベヤの端部に到達すると、軟磁性扁平紛の集まりの先端が、多段圧延機のワークロールの間隙に入り込み、軟磁性扁平粉の集まりは、ワークロールの間隙で連続して圧縮され、ワークロールの幅からなる軟磁性シートが連続してワークロールの間隙から押し出される。この後、軟磁性シートを巻き取り機で連続して巻き取る。
従って、本願はバッチ処理ではなく、連続処理で、多段圧延機のワークロールの幅からなる軟磁性シートを連続して製造する。このため、先願より安価に軟磁性シートが製造できる。
また、先願では、軟磁性扁平紛の扁平面同士を固化したパラフィンを介して重なり合わせるため、パラフィンを有機溶剤で希釈した希釈液を介して、軟磁性扁平紛の扁平面同士を重ね合わせた。これに対し、本願では、融点が室温に近く、熱融解液の粘度が低い有機化合物を用い、熱融解した有機化合物を介して、軟磁性扁平紛の扁平面同士を重ね合わせ、この後、冷却して有機化合物を固化し、固化した有機化合物を介して、軟磁性扁平紛の扁平面同士を重ね合わせた。このため、先願におけるパラフィンを有機溶剤で希釈する処理と、有機溶剤を気化させる処理が不要になる。この点でも、先願より安価に軟磁性シートが製造できる。
なお、扁平面同士を接合した軟磁性シートの厚みが薄いため、軟磁性シートが容易に切断でき、用途に応じて様々な形状と大きさの軟磁性シートとして用いることができる。
【背景技術】
【0002】
軟磁性材料からなる軟磁性シートは、電磁波の吸収体や磁気シールド膜やRFID(Radio Frequency Identificationの略語で、商品や食品などに電子情報を入力しているRFタグを貼り付け、読み込み装置のリーダライタで電子情報を読み込むシステムのこと)用アンテナや、デジタイザと呼ばれる位置検出装置など、様々な用途に用いられている。
例えば、特許文献1には、電磁波を吸収するシートとして、新たな材料構成からなる軟磁性シートが開示されている。すなわち、磁性体の微粒子によって電磁波を吸収する軟磁性シートで、磁性体の微粒子が分散されている高分子材料からなる第1の磁性層と、第1の磁性層の上に形成される、高分子材料からなる非磁性層と、非磁性層の上に形成される、磁性体の微粒子が分散されている高分子材料からなる第2の磁性層とを備え、第1の磁性層における磁化容易軸方向が、第2の磁性層における磁化容易軸方向と異なる構成とした。
つまり、第1の磁性層によって効率的に吸収できない方向の電磁波が輻射されても、第1の磁性層とは異なる磁化容易軸方向を持つ第2の磁性層によって電磁波を効率的に吸収することを目的とした電磁波を吸収するシートである。
しかし、電磁波を吸収する磁性材料が微粒子でなく、一定の面積を持つ扁平粉であり、さらに、磁化容易軸方向である扁平面同士をランダムに接合して軟磁性シートを形成すれば、特許文献1に記載された3層を形成する必要はなく、安価な軟磁性シートが形成できる。
【0003】
また、特許文献2には、従来最も高い透磁率を有する合金粉である、Fe-9.6%Si-5.4%Alの合金の組成から、意図的に組成を外すことによって、さらに高い透磁率を持つ合金の扁平粉が開示されている。
いっぽう、特許文献2において、この合金の扁平粉を用いた軟磁性シートとして、塩素化ポリエチレンをトルエンで溶解し、この溶解液に合金粉の扁平粉を混合し、さらに、ポリエステル樹脂に塗布して乾燥させ、その後、130℃で15MPaの圧力でプレスし、複合軟磁性シートを製作した実施例が、透磁率の高い軟磁性シートとして記載されている。
しかしながら、塩素化ポリエチレン樹脂は非磁性体で、電磁波の吸収および磁気シールドに貢献しない。このため、非磁性体の塩素化ポリエチレン樹脂の体積割合に応じて、複合軟磁性シートにおける電磁波の吸収性能および磁気シールドの性能は低下する。また、合金の扁平粉は、扁平率が15以上である場合に、高い透磁率を持つとの記載がある。しかしながら、扁平率が大きい扁平粉の透磁率特性を、複合軟磁性シートに反映するには、扁平紛の扁平面同士が、軟磁性シート面と同じ方向に揃って重なり合うことで、扁平粉の集まりが効率よく電磁波の吸収および磁気シールドに貢献する。しかし、大きさが数十ミクロン以下である扁平粉を、塩素化ポリエチレンの溶解溶液に単純に混合し、この混合液を塗布するだけでは、扁平粉の扁平面がシート面と同じ方向に揃わない。
このように、軟磁性材料の透磁率特性がたとえ優れていても、軟磁性材料の透磁率特性が、軟磁性シートの構造に反映されなければ、透磁率特性が反映された軟磁性シートにならない。従って、軟磁性シートを製造するに当たっては、第一に、透磁率特性が優れた軟磁性材料を用い、第二に、軟磁性材料の集まりを、軟磁性材料の透磁率特性が反映された構造とし、該構造からなる軟磁性シートを実現する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-198873号公報
【特許文献2】特開2007-118114号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】川崎製鉄技報、33(2001)4、184-187
【非特許文献2】粉体および粉末冶金、32巻、7号(1985年9月)、9-13
【非特許文献3】山陽特殊鋼技報、VOl.13、(2006)No.1、53-61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軟磁性粉を磁化の容易軸方向である面方向に扁平化すると、反磁場係数が小さくなり、扁平率が大きいほど複素透磁率の虚部μ”が増大することが知られている。いっぽう、軟磁性材料における電磁波の吸収は、複素透磁率の虚部μ”の大きさと導電率の大きさとに依存することも知られている。このため、導電性の軟磁性の扁平粉を用いると、電磁波を吸収する性能が向上する。さらに、軟磁性粉の扁平処理は、ボールミルに依る長時間のバッチ処理に依らず、アトマイズ軟磁性粉ないしは還元軟磁性粉を、メディア撹拌型ミルに依ってアトライタ処理するため、短時間で連続して扁平粉が得られ、安価な加工処理で軟磁性扁平紛が製造される。
さらに、扁平面同士が直接重ね合った扁平粉の集まりで、軟磁性シートが形成できれば、少ない扁平粉の使用量で、面積が広く、軽量の軟磁性シートが形成でき、さらに、全ての扁平粉の扁平面が電磁波の吸収に参加し、電磁波の受信感度が高く、電磁波を吸収する性能が高い軟磁性シートになる。この軟磁性シートは、扁平粉の扁平効果を最大限発揮する。なお、扁平粉の複素透磁率の虚部の大きさは、電磁波の周波数帯域に依存するため、吸収する電磁波の周波数に応じて、扁平粉の材質を使い分ける。
また、軟磁性シートは、磁気をシールドする軟磁性シートにもなる。つまり、直流磁場における扁平粉の透磁率が大きいほど、また、磁気抵抗が小さいほど、磁力線が軟磁性シートに流れやすくなり、より大きな磁気シールド効果が得られる。いっぽう、磁気抵抗は透磁率に反比例するため、比透磁率が大きい扁平粉を用いることで、磁気シールド効果が高い軟磁性シートになる。さらに、扁平面同士を直接重ね合った扁平粉の集まりで、軟磁性シートが形成できれば、少ない扁平粉の使用量で、面積が広く、軽量の軟磁性シートが形成でき、さらに、全ての扁平粉の扁平面が磁気シールドに参加し、磁気シールド効果が高まる。
このように、軟磁性の扁平粉の扁平面同士を直接重ね合わせた扁平粉の集まりは、電磁波を吸収する軟磁性シートとして、また、磁気をシールドするシールド膜として、優れた作用効果をもたらす。しかしながら、扁平粉の扁平面同士を直接接合した事例はこれまでにない。
従来の軟磁性シートは、特許文献2に記載されているように、バインダー中の有機溶剤を気化させ、固体の高分子材料の結合を介して扁平粉同士を結合させる複合シートである。しかし、高分子材料が扁平粉とは異なる性質を持つため、結合された扁平粉の集まりに、高分子材料の性質が反映する。このように、一定の体積を占有する固体の異種材料の結合を介して扁平粉同士を結合すると、異種材料の性質が反映され、扁平粉が持つ固有の性質が失われる。これに対し、扁平面同士が重なり合って接合した扁平粉の集まりで、軟磁性シートが形成できれば、軟磁性シートを形成する扁平粉の使用量が少なくなるとともに、面積が広く、軽量の軟磁性シートに扁平粉と扁平面との性質が反映される。さらに、扁平粉の扁平面同士を直接接合できれば、全ての扁平粉が電磁波の吸収に参加でき、ないしは、全ての扁平粉が磁気シールドに参加し、扁平粉の磁気特性が最も反映された軟磁性シートになる。従って、扁平面同士を直接接合した扁平粉の集まりは、軟磁性の扁平粉の性能を最大限発現できる理想的な軟磁性シートになる。しかし、こうした軟磁性シートの実現には、次の課題が発生する。
ところで、固体は一定の形状と体積とを持つため、固体を介して扁平粉同士を結合すると、固体が一定の体積を占め、扁平粉の集まりに、固体の性質が反映する。これに対し、液体は、分子が自由に動くエネルギーを持ち、液体の形状は自由に変わる。従って、液体を介して扁平粉の扁平面同士を重ね合わせることはできる。しかし、扁平面同士が重なり合った扁平粉の集まりを、様々な基材ないしは様々な部品の表面に形成するには、液体を介して扁平面同士が重なり合った扁平粉の集まりを、基材ないしは部品の表面の被膜を形成する部位に移動させることが必要になる。しかし、液体を介して扁平面同士が重なり合った扁平粉の集まりを移動させると、扁平面同士の重なり合いが崩れてしまう。これに対し、前記したように、固体を介して扁平粉の扁平粉同士を結合すると、固体が一定の体積を占め、扁平粉の集まりに、固体の性質が反映してしまう。
これらのことを考慮すると、扁平粉同士を直接接合した扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを形成するには、次の6つの処理が必要になると考える。この考えは、液体を介して扁平粉の扁平面同士を重ね合わせる処理が出発点になる。従って、下記に説明する6つの処理が容易に実施できれば、扁平粉同士を直接接合した扁平粉の集まりからなる軟磁性シートが形成できる。本発明が解決しようとする課題は、下記に説明する6つの処理を容易に実施できる各々の処理方法を見出すことである。
第一に、軟磁性の扁平粉の集まりを液体に混合した混合物を作成する。第二に、該混合物を処理し、液体を介して扁平面同士が重なり合った扁平粉の集まりを作成する。いっぽう、該扁平粉の集まりを、軟磁性シートに加工する工程に移動させるには、該扁平粉の集まりを、扁平面同士が固体の物質を介して接合した扁平粉の集まりに変えればよい。このために、次の2つの処理が必要になる。第三に、前記混合物を構成する液体の低沸点成分を気化させる。第四に、前記液体の高沸点成分を固化させ、扁平面同士を固体の物質を介して接合し、固体の物質によって扁平粉を結合する。この結果、扁平面同士が固体の物質を介して接合された該扁平紛の集まりが製造できる。これによって、前記扁平粉の集まりが、軟磁性シートに加工する工程に移動できる。このため、前記混合物を構成する液体は、低沸点からなる液体に、高沸点で高融点の物質を溶解させた溶解溶液で構成する。また、高沸点の物質の融点は、室温より高く、かつ、室温に近ければ、第四の処理が容易になる。さらに、前記扁平粉の集まりを、軟磁性シートに加工するには、次の2つの処理が必要になる。第五に、前記扁平粉の集まりから、前記固体の物質を気化させる。これによって、扁平面同士が直接接触した扁平粉の集まりになる。第六に、扁平面同士を直接接合させ、扁平面同士が直接接合した扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを作成する。この結果、扁平面同士が直接接合した扁平粉の集まりからなる軟磁性シートが製造される。
ところで、軟磁性の扁平紛は、様々な材質、形状、粒度分布からなる。従って、第七に、扁平粉の材質、形状、粒度分布に拘わらず、扁平面同士を直接重なり合わせ、扁平粉の集まりからなる軟磁性シートが加工できる。これによって、様々な扁平粉からなる軟磁性シートが製造でき、様々な性能を持つ軟磁性シートが、様々な用途に使用できる。
さらに、第八に、前記した第一から第六までの処理が、安価な材料を用い、極めて簡単な処理である。これによって、扁平粉同士を直接接合した該扁平粉の集まりからなる軟磁性シートが安価に製造でき、軟磁性シートを製造する方法は汎用性を持つ。
扁平面同士を直接接合した扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを実現させる課題は、これら8つの事項で、これら8つの課題を解決すると、様々な材質と粒子形状と粒度分布からなる軟磁性の扁平粉について、扁平面同士を直接接合した扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを製造することができる。この結果、扁平粉と扁平面の性質を生かした安価な軟磁性シートが製造される。
先行出願は、これら8つの事項を解決させ、扁平粉同士を直接接合した扁平粉の集まりからなる平面状の被膜を、基材ないしは部品の表面に形成する一つの方法である。
ところで、先行出願より簡単な処理で、軟磁性シートが製造できれば、より安価な軟磁性シートが製造できる。これによって、軟磁性シートは汎用性を持つ。本発明における解決すべき課題は、先行出願より簡単な処理で、軟磁性シートを製造する方法を見出すことである。
【0007】
先行出願より安価な軟磁性シートを製造する方法を検討するうえで、次の2項目に着目した。なお、軟磁性の扁平粉の集まりを有機化合物に混合した物質を、先行出願では混合物と記載したが、本願では懸濁液と記載する。
第一は、先行出願は、混合機で作成した軟磁性扁平紛の集まりを、圧延機に移し、圧延機で圧縮し、固体の有機化合物を気化させた後に、扁平面同士を摩擦熱で接合し、軟磁性シートを作成するバッチ処理である。これに対し、連続した処理で、長さが長い軟磁性シートを連続して製造できれば、先行出願より安価な軟磁性シートが製造できる。
いっぽう、軟磁性扁平紛の磁気特性は、軟磁性扁平紛の材質と扁平率とによって異なる。このため、軟磁性シートは、電磁波を吸収する性能と、または、磁気をシールドするシールド性能に応じた固有の軟磁性扁平紛を用いる。しかし、同一の軟磁性扁平紛からなる軟磁性シートであっても、つまり、同一の性能を持つ軟磁性シートであっても、軟磁性シートの用途によって、軟磁性シートの大きさと形状が異なる。いっぽう、軟磁性扁平紛の扁平面同士を接合した軟磁性シートは、全ての扁平面が、電磁波を吸収する機能と、磁気をシールドするシールド機能に参加するため、重ね合わせる扁平紛の枚数は少なく、軟磁性シートの厚みが薄い。このため、長さが長い軟磁性シートは容易に切断でき、用途に応じて様々な大きさと様々な形状の軟磁性シートに切断できる。従って、固有の材質と扁平率とからなる軟磁性扁平紛を用い、一定の幅からなる軟磁性シートを、長さが長いシートとして連続して製造しても、シートを切断することで、様々な用途に応じた軟磁性シートが製作できる。
ところで、軟磁性シートを連続して製造するには、軟磁性扁平紛の集まりを有機化合物に分散した懸濁液を、軟磁性扁平紛の扁平面同士を、有機化合物を介して連続して重ね合わせる第一の処理と、懸濁液が連続して冷却される第二の処理と、有機化合物を連続して固化させる第三の処理と、有機化合物を連続して気化させる第四の処理と、軟磁性扁平紛の集まりを連続して圧縮する第五の処理が、連動して連続処理できれば、長さが長い軟磁性シートが連続して製造される。従って、本発明の第一の課題に、これら5つの処理を連動して処理する方法を具体化する点にある。
第二に、軟磁性の扁平粉の集まりを有機化合物に混合した混合物(懸濁液)を作成する際の有機化合物の構成があげられる。つまり、先行出願では、有機化合物を、低沸点からなる有機化合物と、高沸点で高融点からなる有機化合物との2種類の有機化合物で構成した。これに対し、有機化合物が、融点が室温より高く、熱融解時の粘度が低粘度であれば、次の2つの作用効果が得られ、1種類の有機化合物で混合物(懸濁液)が作成できる。
第一に、有機化合物の熱融解時の粘度が低粘度であるため、前記した第一の処理で、懸濁液に負荷を与えると、懸濁液中で扁平紛が扁平面を上にして容易に移動し、熱融解した有機化合物を介して扁平面同士が重なり合った扁平粉の集まりが形成できる。第二に、前記した第二の処理で、扁平面同士が重なり合った扁平粉の集まりを、有機化合物の融点以下に冷却させると、扁平面同士が固体の有機化合物を介して接合された扁平紛の集まりが形成できる。この扁平紛の集まりについて、前記した第四の処理で、固体の有機化合物を気化させる。最後に、前記した第五の処理で、軟磁性扁平紛の集まりを連続して圧縮し、連続して軟磁性シートを作成する。従って、有機化合物が、融点が室温より高く、熱融解時の粘度が低粘度であれば、先行出願における2種類の有機化合物を溶解した溶解液を作成する処理が不要になる。また、低沸点の有機化合物を気化させる処理が不要になる。従って、本発明の第二の課題に、融点が室温より高く、熱融解時の粘度が低粘度である有機化合物を特定する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを、一定の幅からなる軟磁性シートとして連続して製造する方法は、
融点が25-50℃である第一の性質と、熱融解時の粘度が3-7mPa・秒からなる第二の性質と、密度が軟磁性扁平紛の密度の1/8以下である第三の性質とを兼備する有機化合物を融点以上に昇温し、該有機化合物の熱融解液を作成し、該熱融解液を容器に投入する、
次に、扁平形状からなる粉体である第一の特徴と、軟磁性の性質を持つ第二の特徴と、密度が前記有機化合物の8倍以上である第三の性質と、導電性の金属ないしは合金で構成される第四の特徴とを兼備する軟磁性扁平粉の集まりを、前記有機化合物の熱融解液に混合する割合が80重量%より多い割合として秤量し、該秤量した軟磁性扁平粉の集まりを前記容器に混合し、該軟磁性扁平粉の集まりを前記有機化合物の熱融解液中で攪拌し、前記軟磁性扁平粉の集まりが前記有機化合物の熱融解液に分散した懸濁液を前記容器内に作成する、
さらに、多段圧延機のワークロールの幅を、ベルトコンベヤの平面の幅とする第一の特徴と、前記平面が加振台に接触する第二の特徴と、前記平面に、該平面の上下方向の振動と該平面の幅方向の振動と該平面の長さ方向の振動とが、交互に前記加振台から継続して加えられる第三の特徴と、前記平面が予め決めた速度で移動する第四の特徴と、前記平面の前方の端部が、前記懸濁液が充填された前記容器に近接して配置された第五の特徴とを兼備する第一のベルトコンベヤについて、該第一のベルトコンベヤを連続稼働させるとともに、該第一のベルトコンベヤの平面の前方の端部に、該平面の幅の全てに前記懸濁液が垂れるように、前記懸濁液の予め決めた一定量を、前記容器から連続して垂らす、
これによって、前記平面の幅の全てに前記懸濁液が垂れるとともに、前記第一のベルトコンベヤの平面が移動することで、該平面の全体に前記懸濁液からなる厚みが薄い被膜が形成されるようになり、さらに、該平面に形成された前記懸濁液からなる厚みが薄い被膜に前記3方向の振動が交互に継続して加わり、該懸濁液を構成する前記軟磁性扁平粉の全てが、該軟磁性扁平紛の扁平面を上にして、前記有機化合物の熱融解液中を前記振動方向に移動し、前記平面全体に前記軟磁性扁平粉が拡散するとともに、前記軟磁性扁平紛の扁平面同士が、前記有機化合物の熱融解液を介して重なり合う該軟磁性扁平粉の配列を進めながら、前記懸濁液からなる厚みが薄い被膜が前記第一のベルトコンベヤの平面の後方の端部に進む、
該被膜が前記第一のベルトコンベヤの平面の後方の端部に近づくと、該第一のベルトコンベヤの後方の端部に近接して設置された冷風機によって、該被膜が25℃以下に連続して冷却され、前記懸濁液を構成する前記熱融解した有機化合物が固化し、該固化した有機化合物を介して前記軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合うとともに、該固化した有機化合物を介して前記軟磁性扁平紛の扁平面同士が接合した該軟磁性扁平粉の集まりが形成され、該軟磁性扁平粉の集まりの先端が、前記第一のベルトコンベヤの平面の後方の端部に到達する、
さらに、前記第一のベルトコンベヤの平面の幅と同一の平面の幅を有する第一の特徴と、前記平面が一定の速度で移動する第二の特徴と、前記平面が、前記有機化合物の沸点以上の温度に昇温された熱処理装置を通過する第三の特徴と、前記平面の前方の端部が、前記第一のベルトコンベヤの平面の後方の端部に近接して設置された第四の特徴とを兼備する第二のベルトコンベヤについて、該第二のベルトコンベヤを連続稼働させるとともに、該第二のベルトコンベヤの平面の前方の端部に、前記軟磁性扁平粉の集まりの先端を落とし、該第二のベルトコンベヤの平面の移動によって、前記軟磁性扁平粉の集まりは、前記熱処理装置を連続して通過する、
この際、前記軟磁性扁平粉の集まりから前記有機化合物が気化し、該軟磁性扁平粉の集まりが、該軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合った該軟磁性扁平粉の集まりになり、該軟磁性扁平粉の集まりの先端が、前記第二のベルトコンベヤの平面の後方の端部に到達する、
該軟磁性扁平粉の集まりの先端が、前記第二のベルトコンベヤの平面の後方の端部に到達すると、該軟磁性扁平粉の集まりの先端が、多段圧延機のワークロールの間隙に入り込み、該ワークロールの間隙で前記軟磁性扁平粉の集まりが連続して圧縮される、
これによって、前記軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合った該扁平面同士の接触部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって、前記扁平面同士の接触部が接合し、該扁平面同士が直接接合した軟磁性扁平紛の集まりからなる軟磁性シートが、前記多段圧延機のワークロールの間隙から連続して押し出される、
この後、前記押し出された軟磁性シートを巻き取り機で巻き取る、
これによって、多段圧延機のワークロールの幅からなる軟磁性シートが連続して製造される、軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを、一定の幅からなる軟磁性シートとして連続して製造する方法である。
【0009】
つまり、本方法に依れば、極めて簡単な次の7つの処理を連続して実施すると、扁平面同士が直接重なり合って接合した該扁平粉の集まりからなる軟磁性シートが、多段圧延機のワークロールの幅からなる軟磁性シートとして、連続して製造される。
第一に、3つの性質を兼備する有機化合物を融点以上に昇温し、有機化合物の熱融解液を容器に投入する。なお、有機化合物の融点が25-50℃であるため、有機化合物は容易に熱融解し、また、容易に固化する。また、有機化合物の熱融解時の粘度が、3-7mPa・秒と低い。さらに、有機化合物の密度が、軟磁性扁平紛の密度の1/8以下と低密度である。
第二に、4つの特徴を兼備する軟磁性扁平粉の集まりを、有機化合物の熱融解液に混合する割合が80重量%より多い割合として秤量し、前記容器に混合し、軟磁性扁平粉の集まりが有機化合物の熱融解液に分散した懸濁液を作成する。つまり、第三の処理で、軟磁性扁平紛の扁平面同士を、有機化合物の熱融解液を介して重なり合わせる。いっぽう、有機化合物の熱融解液が低粘度で低密度であり、また、扁平紛のアスペクト比が大きいため、有機化合物の混合割合が懸濁液の重量の20%以下と少なくても、第三の処理で、軟磁性扁平紛の扁平面同士を、有機化合物の熱融解液を介して重ね合わせることができる。
第三に、5つの特徴を兼備する第一のベルトコンベヤの平面を、予め決めた速度で移動させる。さらに、第一のベルトコンベヤの平面の幅の全体に懸濁液が垂れるように、第二の処理で作成した懸濁液の予め決めた一定量を、第一のベルトコンベヤの平面の前方の端部に連続して垂らす。つまり、容器から第一のベルトコンベヤに垂らす懸濁液の量と、第一のベルトコンベヤの平面の移動速度と、第一のベルトコンベヤの平面の面積とによって、重なり合った扁平面の枚数が決まる。このため、容器から第一のベルトコンベヤの平面に垂らす懸濁液の量と、第一のベルトコンベヤの移動速度とを予め決め、軟磁性シートを構成する重なり合った扁平面の枚数を予め決めておく。こうして、第一のベルトコンベヤが移動すると、第一のベルトコンベヤの平面の全体に、懸濁液からなる厚みが薄い被膜が形成されるようになる。なお、第一のベルトコンベヤの平面の幅は、第五の処理を行う多段圧延機のワークロールの幅である。また、第一のベルトコンベヤの平面に、平面の上下方向と幅方向と長さ方向の3方向の振動が、交互に加振台から継続して加えられる。このため、平面を覆う懸濁液からなる厚みが薄い被膜に、3方向の振動が交互に加わり、懸濁液を構成する軟磁性扁平粉の全てが、アスペクト比が大きい扁平面を上にして、低粘度で低密度である有機化合物の熱融解液中を振動方向に移動し、平面の全体に軟磁性扁平粉が拡散するとともに、軟磁性扁平紛の扁平面同士が、有機化合物の熱融解液を介して重なり合う該軟磁性扁平粉の配列を進めながら、平面に形成された懸濁液からなる厚みが薄い被膜は、第一のベルトコンベヤの後方の端部に向けて進む。なお、軟磁性シートを形成する扁平紛の全てが、扁平面同士で接合するため、扁平面同士で重なり合った扁平粉の枚数は僅かである。また、扁平紛は軽量である。このため、第一のベルトコンベヤの平面に加える振動加速度は、0.2G前後と小さい。
第四に、懸濁液からなる厚みが薄い被膜の先端が、第一のベルトコンベヤの平面の後方の端部に近づくと、該平面の後方の端部に近接して設置された冷風機によって、懸濁液からなる厚みが薄い被膜が25℃以下に連続して冷却され、懸濁液を構成する熱融解した有機化合物が固化し、固化した有機化合物を介して軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合うとともに、固化した有機化合物を介して軟磁性扁平紛の扁平面同士が接合した軟磁性扁平粉の集まりになる。さらに、軟磁性扁平粉の集まりの先端が、第一のベルトコンベヤの平面の後方の端部に到達する。
第五に、軟磁性扁平粉の集まりの先端が、第一のベルトコンベヤの平面の後方の端部に到達すると、軟磁性扁平粉の集まりの先端が、4つの特徴を兼備する第二のベルトコンベヤの平面の前方の端部に落ちる。第二のベルトコンベヤの平面が連続して移動することで、軟磁性扁平粉の集まりが、有機化合物の沸点以上の温度に昇温された熱処理装置を連続して通過する。これによって、軟磁性扁平粉の集まりから有機化合物が気化し、軟磁性扁平粉の集まりが、軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合った軟磁性扁平粉の集まりになる。この後、軟磁性扁平粉の集まりの先端が、第二のベルトコンベヤの平面の後方の端部に到達する。
なお、軟磁性扁平粉の集まりにおける扁平粉同士の接合力は、固化した有機化合物の接合力に依るため、扁平粉同士の接合力は弱い。しかし、軟磁性扁平粉の集まりの先端が、第二のベルトコンベヤの前方の端部に落ちる距離が僅かで、また、第二のベルトコンベヤの移動する速度が遅く、さらに、重なり合った扁平面の枚数が僅かで、軟磁性扁平粉の集まりの先端部の重量が僅かである。このため、軟磁性扁平粉の集まりの先端が、第二のベルトコンベヤの平面の前方の端部に落ちる際に、扁平粉の集まりに発生する応力は僅かで、扁平粉の集まりは、僅かな応力に耐えられる扁平紛同士の接合力を持つ。
また、有機化合物が気化する際に、最初に、有機化合物の熱融解液に含まれた、あるいは、扁平粉に付着していた、水分や水酸基を持つ不純物や有機物質からなる不純物が、気化点に準じて順次気化し、次に、重なり合った扁平面同士の間隙に存在する有機化合物が気化し、重なり合った全ての扁平面が清浄化される。
なお、最も沸点が高い有機化合物の沸点は330℃である。いっぽう、金属または合金からなる軟磁性扁平紛の軟化点は1000℃を優に超え、また、扁平紛の扁平処理後における磁気焼鈍温度は900℃に近い。このため、有機化合物を気化させる際に、扁平紛の磁気特性は不可逆変化しない。
第六に、軟磁性扁平粉の集まりの先端が、第二のベルトコンベヤの平面の後方の端部に到達すると、軟磁性扁平粉の集まりの先端が、多段圧延機のワークロールの間隙に入り込み、該ワークロールの間隙で軟磁性扁平粉の集まりが連続して圧縮される。これによって、軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合った該扁平面同士の接触部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって、扁平面同士の接触部が接合し、扁平面同士が直接接合した軟磁性扁平紛の集まりからなる軟磁性シートが、多段圧延機のワークロールの間隙から押し出される。つまり、アスペクト比が大きい清浄化された扁平面に、圧縮応力が減少せずに加わり、重なり合った扁平面同士が均等に圧縮される。いっぽう、扁平紛の扁平面は完全な平面ではなく、固有のうねりと僅かな表面粗さ、つまり、凹凸を持つ。従って、清浄化された扁平面同士が重なり合った扁平面が圧縮されると、扁平面がうねりと凹凸とを持つことで、加圧する側の扁平面の局所的な部位が、加圧される側の扁平面の局所的な部位と接触する部位が、扁平面に多数形成される。こうした接触部位に摩擦熱が短時間であるが集中して発生する。この結果、全ての扁平紛について、清浄化された扁平面同士が重なり合った該扁平面同士の接触部が、瞬間的に摩擦熱で異物を介さずに直接強固に接合する。こうして、多段圧延機のワークロールの間隙で軟磁性扁平粉の集まりが連続して圧縮され、扁平面同士が直接接合した軟磁性扁平紛の集まりからなる軟磁性シートが、ワークロールの間隙から連続して押し出される。なお、前記したように、軟磁性扁平紛の扁平処理後の磁気焼鈍温度は900℃に近い。いっぽう、扁平面同士の接触部に発生する摩擦熱によって、接触部が短時間昇温されるが、磁気焼鈍温度より十分に低く、多段圧延機のワークロールの圧縮によって、軟磁性扁平紛の磁気特性は不可逆変化しない。
第七に、多段圧延機のワークロールの間隙から押し出された軟磁性扁平粉の集まりを、巻き取り機で巻き取る。
この結果、7段落に記載した本発明の2つの課題が解決される。
上記した7つの処理はいずれも簡単な処理である。また、軟磁性扁平紛は、汎用的な工業用素材である。さらに、有機化合物は、汎用的な工業用の薬品である。従って、本製造方法によれば、安価な費用で軟磁性シートが連続して製造される。
なお、6段落に記載したように、軟磁性扁平紛の扁平率が大きいほど複素透磁率の虚部μ”が増大する。いっぽう、電磁波の吸収は、軟磁性扁平紛の複素透磁率の虚部μ”の大きさと、軟磁性扁平紛の導電率の大きさとに依存する。しかし、軟磁性扁平粉の複素透磁率の虚部の大きさは、周波数帯域に大きく依存する。これに対し、全ての軟磁性扁平紛が金属または合金からなるため、軟磁性扁平紛の材質の違いによる導電率の大きさの違いは、軟磁性扁平粉の複素透磁率の虚部の大きさの違いに比べて小さい。従って、電磁波の吸収は、吸収する電磁波の周波数帯域における扁平紛の複素透磁率の虚部μ”の大きさから軟磁性扁平紛を選択する。いっぽう、吸収する電磁波の周波数帯域は様々である。従って、吸収する電磁波の周波数帯域が相対的に狭い場合は、吸収する電磁波の周波数帯域において、複素透磁率の虚部が相対的に大きい軟磁性扁平紛を選び、該扁平紛の扁平面同士を重ね合わせた軟磁性シートを作成する。これに対し、吸収する電磁波の周波数帯域が相対的に広い場合は、吸収する電磁波の周波数帯域において、複素透磁率の虚部が相対的に大きい複数種類の軟磁性扁平紛を選び、該複数種類の扁平紛の扁平面同士を重ね合わせた軟磁性シートを作成する。なお、複数種類の軟磁性扁平紛の材質、形状、粒度分布、硬度が異なっても、前記した7つの処理が可能であるため、用いる軟磁性扁平紛の制約は無い。いっぽう、直流磁場における扁平粉の透磁率が大きいほど、また、磁気抵抗が小さいほど、磁力線が軟磁性シートに流れやすくなり、より大きな磁気シールド効果が得られる。なお、磁気抵抗は透磁率に反比例する。従って、比透磁率が大きい軟磁性扁平粉を用い、磁気シールド効果が高い軟磁性シートを作成する。
以上に説明したように、電磁波を吸収する軟磁性シートを製造するにあたっては、電磁波の周波数帯域における軟磁性扁平紛の複素透磁率の虚部μ”の大きさから、軟磁性扁平紛を選択する。また、磁気シールド効果を発揮する軟磁性シートを製造するにあたっては、直流磁場における軟磁性扁平粉の透磁率の大きさから、軟磁性扁平紛を選択する。いっぽう、本製造方法によれば、軟磁性扁平紛の材質、形状、粒度分布、硬度に関わらず、上記した7つの処理が可能である。従って、本製造方法によれば、電磁波の周波数帯域に依らず、優れた電磁波の吸収ないしは優れた電磁ノイズの干渉防止に役立つ軟磁性シートが作成できる。また、磁気シールド効果が高い軟磁性シートが作成できる。
【0010】
ここで、前記7つの処理からなる方法で作成した軟磁性シートの作用効果を説明する。
第一に、軟磁性扁平粉の扁平面同士を、直接摩擦熱で接合した扁平粉の集まりで軟磁性シートが構成される。このため、全ての扁平紛の扁平面が電磁波の吸収と磁気シールドに参加する。従って、扁平面同士が重なり合った軟磁性扁平紛の枚数は少ない。このため、軟磁性シートは軽量である。また、軟磁性シートは扁平粉の性質と扁平面の性質を持つ。
第二に、多段圧延機のワークロールの間隙で、軟磁性扁平紛の集まりを圧縮して軟磁性シートを製造するため、軟磁性シートの表面を構成する軟磁性扁平紛の表面の平滑性が向上する。このため、軟磁性シートの表面は潤滑性、撥水性、防汚性を持つ。
第三に、上記した7つの処理で、軟磁性シートを連続して製造する。このため、軟磁性シートの幅がワークロールの幅になるが、軟磁性シートの長さの制約はない。また、軟磁性扁平紛の材質、形状、粒度分布、硬度の違いに関わらず、上記した7つの処理が実施できる。このため、全ての軟磁性扁平紛を用い、用途に応じて軟磁性シートが製造できる。従って、本軟磁性シートの製造方法は汎用性を持つ。
第四に、用いる扁平粉の厚みと、扁平面同士を重ね合わせた扁平粉の枚数と、圧延機の圧縮応力とによって、軟磁性シートの厚みが自在に設定できる。このため、電磁波の表皮の深さを考慮した厚みからなる軟磁性シートが製造できる。つまり、表皮深さとは、軟磁性シートに入射した電磁波の電磁界が、1/e(0.368に相当する)に減衰する距離であり、表皮深さは、電磁波の周波数と扁平粉の複素透磁率と扁平粉の導電率との3者の積の平方根に反比例する。従って、電磁波の周波数が高いほど、扁平粉の複素透磁率が大きいほど、扁平粉の導電率が大きいほど、表皮の深さは浅い。このため、扁平面同士が重なり合った扁平紛の枚数を少なくすることで、電磁波の表皮の深さを考慮した厚みからなる軟磁性シートが製造できる。この軟磁性シートは、軟磁性扁平紛の使用量が少なく、軽量で、安価である。
第五に、扁平面同士が接合した軟磁性シートの厚みが薄いため、容易に軟磁性シートが切断できる。このため、同一の扁平紛と同一の重なり合った扁平紛の枚数からなる電磁波を吸収する軟磁性シートを、また、同一の扁平紛と同一の重なり合った扁平紛の枚数からなる磁気シールド効果を発揮する軟磁性シートを、用途に応じて様々な大きさや形状に切断できる。
第六に、前記した7つの処理がいずれも極めて簡単な処理で、用いる材料が汎用的な材料で、扁平紛の使用量が少ない。従って、本製造方法に依れば、安価な費用で安価な軟磁性シートが連続して製造できる。
【0011】
前記有機化合物が、オクタデカンまたはノナデカンからなるいずれかのアルカンか、または、デカン酸またはドデカン酸からなるいずれかの飽和脂肪酸であり、該有機化合物を8段落に記載した有機化合物として用い、8段落に記載した方法に従って、軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを連続して製造する、8段落に記載した軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを、一定の幅からなる軟磁性シートとして連続して製造する方法である。
【0012】
つまり、オクタデカンまたはノナデカンからなるいずれかのアルカン、または、デカン酸またはドデカン酸からなるいずれかの飽和脂肪酸は、いずれも、融点が25-50℃である第一の性質と、熱融解時の粘度が3-7mPa・秒からなる第二の性質と、密度が軟磁性扁平紛の密度の1/8以下である第三の性質とを兼備する。従って、これら4種類の有機化合物は、8段落に記載した有機化合物として用いることができる。なお、軟磁性扁平粉の密度の中で、最も小さい密度は、センダストの6.9g/cm3である。
すなわち、オクタデカンC18H38は、融点が28-30℃で、密度が0.78g/cm3で、熱融解した溶解液の粘度は、例えば、47℃で2.7mPa・秒である。なお、沸点は317℃である。
ノナデカンC19H40は、融点が32-34℃で、密度が0.79g/cm3で、熱融解した溶解液の粘度は、例えば、35℃で3.9mPa・秒、40℃で3.5mPa・秒、45℃で3.1mPa・秒である。なお、沸点は330℃である。
また、デカン酸CH3(CH2)8COOHは、融点が31℃で、密度が0.89g/cm3で、熱融解した溶解液の粘度は、例えば、50℃で4.3mPa・秒である。なお、沸点は270℃である。
ドデカン酸CH3(CH2)10COOHは、融点が45℃で、密度が0.88g/cm3で、熱融解した溶解液の粘度は、例えば、50℃で7.30mPa・秒である。なお、沸点は296℃である。
従って、上記4種類の有機化合物はいずれも、融点が25-50℃である第一の性質と、熱融解時の粘度が3-7mPa・秒からなる第二の性質と、密度が軟磁性扁平紛の密度の1/8以下である第三の性質とを兼備する。このため、上記4種類の有機化合物は、8段落に記載した有機化合物として用いることができる。また、これら4種類の有機化合物は、いずれも汎用的な有機化合物である。
【0013】
前記軟磁性扁平紛が、鉄、パーマロイ、ケイ素鋼、センダストないしは電磁ステンレス鋼からなるいずれか1種類の軟磁性扁平紛であり、該軟磁性扁平紛を8段落に記載した軟磁性扁平紛として用い、8段落に記載した方法に従って、鉄、パーマロイ、ケイ素鋼、センダストないしは電磁ステンレス鋼からなるいずれか1種類の軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを連続して製造する、鉄、パーマロイ、ケイ素鋼、センダストないしは電磁ステンレス鋼からなるいずれか1種類の軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを、一定の幅からなる軟磁性シートとして連続して製造する方法である。
【0014】
つまり、鉄、パーマロイ、ケイ素鋼、センダストないしは電磁ステンレス鋼からなる扁平粉は、初比透磁率、最大比透磁率ないしは複素透磁率が一定の値を持ち、扁平面同士を直接接合した扁平粉の集まりからなる軟磁性シートは、電磁波を吸収する軟磁性シートとして、または、磁気をシールドするシールド膜として作用する。
すなわち、強磁性金属からなる軟磁性材料の中で、鉄が唯一交流の磁場で一定の透磁率を持つ。純鉄の性質に近い電磁軟鉄は、直流磁場では、初比透磁率が150で、最大比透磁率が1×104である。これに対し、ニッケルの初比透磁率が110で、最大比透磁率が600と小さい。いっぽう、100kHzの交流磁場での比透磁率は、電磁軟鉄が100で、ニッケルが1に近い。また、電磁軟鉄の飽和磁束密度は、軟磁性材料の中で最も大きく、2.2テスラである。従って、鉄の扁平粉の扁平面同士を重ね合わせた軟磁性シートは、磁気をシールドするシールド膜として有効に作用する。特に、MRIや電源トランスのような強磁界を発生する機器の磁気シールドとして用いると有効である。こうした鉄の扁平粉として、還元鉄粉を扁平処理した扁平粉がある。この扁平粉の集まりからなる圧粉磁心で求めた比透磁率は、非特許文献1に依れば、200kHz付近まで100で、200kHzを超えると低減し、1MHzでは50近くまで下がる。また、アトマイズ鉄粉からなる圧粉磁心で求めた比複素透磁率は、非特許文献2に依れば、実部が85で、150kHz付近から低下し始め、100MHzでは5程度まで低下する。これに対し、虚部は、15kHz付近から増大し始め、800kHz付近でピーク値の50程度の値をもち、100MHzでは5程度まで低下する。なお、還元鉄粉は、アトマイズ鉄粉より扁平率が大きく、複素透磁率の虚部が大きいため、還元鉄粉の扁平粉からなる軟磁性シートは、100kHz-10MHzの周波数帯域の電磁波の吸収ないしは電磁ノイズの干渉防止の作用効果を持つ軟磁性シートとして作用する。なお、100kHzの電磁波の表皮深さは55μmになる。
いっぽう、磁気をシールドする軟磁性シートは、扁平粉の透磁率が大きいほど、磁気抵抗が小さいほど、大きな磁気シールド効果が得られる。磁気抵抗は透磁率に反比例するため、透磁率が大きい扁平粉からなる磁気シートは、磁気シールド効果が高い。合金の扁平粉の中で、最も透磁率が大きい扁平粉にパーマロイの扁平粉がある。例えば、45%がニッケルのパーマロイは、直流磁場では、初比透磁率が2.5×103で、最大比透磁率は2.5×104と大きい。しかし、飽和磁束密度は電磁軟鉄に比べて小さく、0.9テスラである。これに対し、79%がニッケルで、4%がモリブデンからなるパーマロイは、初比透磁率が2×104で、最大比透磁率が2×105と大きい。しかし、ニッケルの含有量が多くなるほど、パーマロイが高価になる。従って、パーマロイの扁平粉の扁平面同士を重ね合わせた軟磁性シートは、磁気をシールドする優れた軟磁性シートとして作用する。このため、電気機器からの漏洩磁界、電流送配電線からの交流磁界、都市磁気雑音、環境磁界など、外部磁界が比較的小さな領域で、パーマロイの扁平粉からなる軟磁性シートを用いると有効である。非特許文献3に依れば、ニッケルが50%からなるパーマロイの扁平粉は、アスペクト比が38で、平均粒径が14μmである。また、複素透磁率の虚部は、100MHz付近から鋭く立ち上がり、3.3GHzでピーク値の8.8をもち、4GHz付近から減少し、10GHzで3.5の値を持つ。従って、1-8GHzの周波数帯域で、複素透磁率の虚部が5以上の値を持ち、この周波数帯域での電磁波の吸収ないしは電磁ノイズの干渉防止の作用効果を持つ軟磁性シートになる。しかし、複素透磁率の虚部が小さいため、電磁波の吸収割合は低い。なお、1GHzでの電磁波の表皮深さは5.0μmと薄い。
いっぽう、導電性の合金からなる軟磁性材料は、鉄に少量のケイ素を加えたケイ素鋼と、鉄にニッケルを加えたパーマロイと、鉄にケイ素とアルミニウムとを加えたセンダストと、鉄にコバルトを加えたパーメンジュールと、鉄にクロムとケイ素とを加えた電磁ステンレス鋼とからなる。このうち、ケイ素鋼はケイ素の添加量が増えると脆くなり、扁平処理ができなくなり、ケイ素の添加量を10%より少なくする必要がある。また、ケイ素の添加量が僅かに異なると、ケイ素鋼の透磁率特性は大きく変わる。さらに、パーマロイはニッケルの添加量が多くなるほど製造コストが高くなるが、ニッケルの添加量が少ないと透磁率が低下し、ニッケルの添加量を50%程度に抑える必要がある。また、センダストは硬度が高くて脆いが、微量のアルミニウムを添加し、ケイ素の添加量を減らすと、扁平処理が可能になる。さらに、パーメンジュールはコバルトとの合金であるため製造コストが高く、扁平粉に適さない。また、電磁ステンレス鋼は、アルミニウムを添加すると、扁平処理が容易になる。
ところで、6段落で説明したように、扁平粉の扁平率が大きいほど、複素透磁率の虚部が増大する。また、電磁波の吸収は、9段落に記載したように、扁平粉の複素透磁率の虚部の大きさに大きく依存する。従って、電磁波の吸収ないしは電磁ノイズの干渉防止などに用いる軟磁性シートの作成に、ケイ素の添加量を10%より少ない量に抑えたケイ素鋼の扁平粉と、ニッケルの添加量を50%近くに抑えたパーマロイの扁平粉と、センダストの扁平粉と、電磁ステンレス鋼の扁平粉とからなるいずれかの合金の扁平粉を、原料として用いることができる。しかし、これら4種類の合金からなる扁平粉は、鉄以外の成分の組成が僅かに変わると複素透磁率が大きく変わる。また、4種類の合金のアトマイズ紛の硬度は、合金の組成で異なるため、合金の組成によって扁平粉の扁平率が異なり、複素透磁率の虚部の大きさは異なる。さらに、複素透磁率の周波数特性は、合金の組成によって大きく異なる。従って、電磁波の吸収ないしは電磁ノイズの干渉防止などに用いる軟磁性シートは、吸収する電磁波の周波数帯域に応じて、軟磁性扁平粉の材質を使い分ける。
【0015】
前記軟磁性扁平紛が、複数種類の合金からなる複数種類の軟磁性扁平粉であり、該複数種類の合金からなる複数種類の軟磁性扁平粉は、パーマロイ、ケイ素鋼、センダストないしは電磁ステンレス鋼のいずれかの合金からなる第一の特徴と、複素透磁率の虚部の大きさが、互いに異なる周波数帯域で相対的に大きな値を持つ第二の特徴を持ち、軟磁性シートが吸収する電磁波の周波数帯域において、前記複素透磁率の虚部の大きさが相対的に大きい値を持つ複数種類の軟磁性扁平粉を選択し、該選択した複数種類の軟磁性扁平粉を、8段落に記載した軟磁性扁平紛として用い、8段落に記載した方法に従って、前記選択した複数種類の軟磁性扁平粉の扁平面同士を直接接合した該複数種類の軟磁性扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを連続して製造する、周波数帯域が広い電磁波を吸収する軟磁性シートを、一定の幅からなる軟磁性シートとして連続して製造する方法である。
【0016】
つまり、14段落で説明したように、4種類の合金からなる扁平粉は、鉄以外の成分の組成が僅かに変わると複素透磁率が大きく変わる。また、4種類の合金のアトマイズ紛の硬度が異なるため、扁平粉の扁平率が異なり、扁平粉の複素透磁率の虚部の大きさが異なる。さらに、複素透磁率の周波数特性は、4種類の合金で大きく異なり、同じ合金でも鉄以外の成分で大きく異なる。
いっぽう、複数種類の合金の扁平粉が持つ複素透磁率の虚部の大きさが、互いに異なる周波数帯域で一定の値を持てば、これら複数種類の合金の扁平粉を、8段落に記載した扁平粉として用い、8段落に記載した軟磁性シートを製造する方法に従って、軟磁性シートを製造すると、軟磁性シートは、幅広い周波数帯域からなる電磁波の吸収ないしは電磁ノイズの干渉防止の作用効果を持つ軟磁性シートとして用いることができる。つまり、複数種類の合金の扁平粉をランダムに混合し、ランダムに混合した扁平粉を扁平面同士で重ね合わせ、複数種類の合金の扁平粉の扁平面同士をランダムに直接接合した複数種類の合金の扁平粉の集まりで、軟磁性シートを形成する。この軟磁性シートの複素透磁率の虚部の特性は、複数種類の合金の扁平粉の複素透磁率の虚部の特性が加算された複素透磁率の虚部になるため、複素透磁率の虚部の値が、広い周波数範囲で一定の大きさを持つ。これによって、従来では不可能であった幅広い周波帯域に及ぶ電磁波の吸収ないしは電磁ノイズの干渉防止の作用効果を持つ軟磁性シートになる。
つまり、複数種類の合金の軟磁性扁平粉が持つ複素透磁率の虚部の周波数特性を重ね合わせ、重ね合わせた周波数帯域幅が、軟磁性シートが吸収する電磁波の周波数帯域幅に合致するように、複数種類の合金の軟磁性扁平粉を組み合わせ、該複数種類の合金の軟磁性扁平粉を用いて軟磁性シートを製造する。
すなわち、4種類の合金からなる扁平粉は、第一に、複素透磁率の虚部がピーク値を示す周波数が、軟磁性フェライト粉および鉄の扁平粉より高い10MHzを超える周波数に及ぶ特徴を持つが、合金の組成によって、複素透磁率の虚部がピーク値を示す周波数が異なる。第二に、合金の組成によって合金の硬さが変わり、合金の硬さによって扁平処理における扁平率が変わり、扁平率が大きいほど複素透磁率の虚部が大きい。このため、複数種類の合金からなる軟磁性扁平粉について、複素透磁率の虚部が広い周波数範囲で一定の値を持つように、複数種類の合金の軟磁性扁平粉を組み合わせると、複数種類の合金の軟磁性扁平粉の集まりは、各々の軟磁性扁平粉の複素透磁率の虚部の特性が加算され、複素透磁率の虚部の値が広い周波数範囲で一定の大きさを持つ。この結果、軟磁性シートは、従来では不可能であった幅広い周波帯域に及ぶ電磁波の吸収ないしは電磁ノイズの干渉防止の作用効果を持つ軟磁性シートになる。
例えば、パーマロイの扁平粉の複素透磁率の虚部のピーク値が3.3MHzで9を示し、ケイ素鋼の複素透磁率の虚部のピーク値が5.6MHzで9を示し、両者の扁平粉を1対1の体積割合で混合した扁平粉で磁性シートを形成すると、軟磁性シートが持つ複素透磁率の虚部の値は、パーマロイの扁平粉とケイ素鋼の扁平粉との各々が単独で軟磁性シートを形成する場合に比べて、複素透磁率の虚部が一定値、例えば、6以上の値を持つ周波数範囲が広がる。すなわち、パーマロイの扁平粉が1-6.7MHzの周波数帯域で複素透磁率の虚部が6以上の値を持ち、ケイ素鋼の扁平粉が3-10MHzの周波数帯域で複素透磁率の虚部が6以上の値を持つが、両者の混合粉は複素透磁率の虚部が6以上の周波数帯域が1-10MHzまで広がる。さらに、電磁ステンレス鋼の扁平粉の複素透磁率の虚部のピーク値が5MHzで7.5であり、電磁ステンレス鋼の扁平粉とパーマロイの扁平粉とケイ素鋼の扁平粉とを、2対1対1の体積割合で混合した扁平粉で軟磁性シートを形成すると、パーマロイの扁平粉とケイ素鋼の扁平粉との混合粉からなる軟磁性シートの複素透磁率の虚部が、4-6MHzの周波数帯域で谷間になって低下しているが、この谷間の周波数帯域の複素透磁率の虚部を、電磁ステンレス鋼の扁平粉が補完する。なお、具体例は実施例で示す。
いっぽう、合金からなる軟磁性扁平粉は、8段落で説明した第三の処理において、扁平粉の材質、形状、粒度分布、硬度に拘わらず、複数種類の合金の軟磁性扁平粉の扁平面同士を、有機化合物の熱融解液を介してランダムに重ね合わせることができる。さらに、第四の処理によって、固化した有機化合物を介して複数種類の合金の扁平粉の扁平面同士をランダムに重ね合わせ、固化した有機化合物によって複数種類の合金の軟磁性扁平粉を結合することができる。さらに、第六の処理において、複数種類の合金の軟磁性扁平粉の扁平面同士がランダムに重なり合った該扁平粉の集まりを、多段圧延機のワークロールの間隙に送り込み、ワークロールの間隙で連続して圧縮することができる。この結果、複数種類の合金の軟磁性扁平粉の扁平面同士がランダムに直接接合した扁平粉の集まりからなる軟磁性シートは、従来では困難であった広い周波数帯域に及ぶ電磁波を吸収する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】扁平鉄粉が扁平面同士で直接接合した扁平鉄粉の集まりからなる軟磁性シートの側面を、模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施例1
本実施例は、還元鉄粉を扁平化処理した扁平鉄粉を、軟磁性の扁平粉として用い、扁平面同士を摩擦熱で直接接合した該扁平粉の集まりからなる磁性シートを製造する。扁平鉄粉は、JFEスチール株式会社が製造する扁平鉄粉MG150Dを用いた。この扁平鉄粉は、平均粒径が100μmと大きいが、厚みが10-20μmと厚い。これは、還元鉄粉のビッカース硬度が160-200HVと高く、扁平しにくいことに依る。
また、有機化合物として用いたデカン酸(富士フィルム和光純薬株式会社の製品)は、融点が31℃で、密度が0.89g/cm
3で、熱融解した溶解液の粘度は、50℃で4.3mPa・秒である。
最初に、デカン酸を50℃に昇温し熱融解させ、デカン酸の熱融解液に、扁平鉄粉が82%重量割合になるように混合し、懸濁液を作成した。
2mの長さを持つ第一のベルトコンベヤの平面に接するように加振台を配置させ、加振機を稼働し、加振台を介して第一のベルトコンベヤの平面に、0.2Gからなる振動加速度を、上下方向と幅方向と長さ方向との3方向に交互に継続して加えた。この後、第一のベルトコンベヤの平面の上に、10cmからなる平面の幅の全てに、懸濁液を毎秒1gの割合で垂らすとともに、第一のベルトコンベヤを毎秒8cmの速度で移動させ、平面の全体に懸濁液からなる厚みが薄い被膜を連続して形成した。さらに、移動する被膜に20℃の冷風を連続して加えた。
次に、第一のベルトコンベヤの平面の端部に到達した被膜の先端を、第二のベルトコンベヤの平面に移し、被膜を第二のベルトコンベヤの平面の上を移動させ、被膜を280℃に昇温した熱処理装置を連続して通過させた。この後、被膜の先端を多段圧延機のワークロールの間隙に入り込ませ、被膜をワークロールの間隙で連続して圧縮した。なお、多段圧延機として、12段の冷間圧延機(株式会社日本クロス圧延の試作用装置)を用い、軟磁性シートを連続して製造した。
この後、作成した軟磁性シートの構造を電子顕微鏡で観察するため、作成した軟磁性シートを1cmの幅で切断した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる。
最初に、反射電子線の900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行なった。10-12μmの厚みの物質が、5層に積層されていた。
さらに、反射電子線の900-1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質を観察した。濃淡が認められなかったため、単一の元素から形成されていることが分かった。
次に、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し元素を分析した。鉄原子であることが分かった。従って、扁平鉄粉が偏面同士で直接接合し、扁平鉄粉の集まりが軟磁性シートを形成した。
図1に、扁平鉄粉が偏面同士で直接接合した扁平鉄粉の集まりからなる軟磁性シートの切断面を、模式的に示した。1は扁平鉄粉である。
さらに、作成した軟磁性シートの磁気シールド性能を評価した。比較のために、厚みが55μmの冷間圧延鋼板を用いた。一辺が100mmの直方体形状からなるシールドボックスを、軟磁性シートと冷間圧延鋼板との双方で作成した。磁気シールドルーム内に置かれたヘルムホルツコイル内に、前記のシールドボックスを配置し、ヘルムホルツコイルから発生させた外部磁界と、シールドボックスの中央位置での内部磁界を測定して、磁気シールドの性能Sを式1で評価した。磁界を測る磁気センサは、シールドボックスに設けた穴から、シールドボックス内に設置した。磁軟磁性シートは、7dBの磁気シールド性能Sの値をもち、冷間圧延鋼板と比較して3dBほど良好な磁気シールド性能を持った。この結果、作成した軟磁性シートは、優れた磁気シールド効果を持つことが分かった。
式1 S=20log((外部磁界)/(内部磁界))
次に、作成した軟磁性シートの電磁ノイズを吸収する性能を評価した。長さが100mm、幅が30mmで特性インピーダンスが50Ωに調整されたマイクロストリップラインを施工した基板に、マイクロストリップラインの長さ方向に軟磁性シートの長さ方向を合わせ、それぞれの中心が一致するように軟磁性シートを配置し、ノイズを吸収する軟磁性シートとした。この後、マイクロストリップラインに接続したネットワークアナライザー(アジレント・テクノロジー(株)の製品N5230A)を用いてSパラメータを測定した。なお、反射によるSパラメータS
11と透過によるSパラメータS
12とから、下記の数式2により、マイクロストリップラインにおける伝送損失が、電磁波の吸収量となる。
測定結果は、100kHzにおいて吸収量が12%、800kHzにおいて吸収量が24%、10MHzで吸収量が13%であった。従って、軟磁性シートは、100kHzから10MHzの周波数帯域において12%以上の吸収量であった。
(式2) 反射量(dB)=20log|S
11|
透過量(dB)=20log|S
12|
吸収量(%)=(1-|S
11|
2-|S
12|
2)×100
【0019】
実施例2
本実施例は、扁平パーマロイ粉を軟磁性の扁平粉として用い、扁平面同士を摩擦熱で直接接合した該扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを製造する。
パーマロイの扁平粉は、ニッケルが50%からなるパーマロイの扁平粉(山陽特殊鋼株式会社の開発品)を用いた。この扁平粉の扁平率は38で、平均粒径は14μmである。また、複素透磁率の虚部は、100MHz付近から鋭く立ち上がり、3.3GHzでピーク値の8.8をもち、4GHz付近から減少し、10GHzで3.5の値を持つ。従って、1-8GHzの周波数帯域で、複素透磁率の虚部が5以上の値を持つ。これに対し、直流磁場では、初比透磁率が1×104で、最大比透磁率は1.4×105と優れている。なお、1GHzにおける表皮深さは5.0μmである。
実施例1で作成したデカン酸の熱融解液に、扁平パーマロイ粉が82重量%の割合になるように混合し、混懸濁液を作成した。実施例1と同様に、第一のベルトコンベヤの平面に、0.2Gからなる3方向の振動加速度を交互に継続して加えた。また、第一のベルトコンベヤの10cmからなる平面の幅の全てに、懸濁液を毎秒1gの割合で垂らすとともに、第一のベルトコンベヤを毎秒4cmの速度で移動させ、平面の全体に懸濁液からなる厚みが薄い被膜を連続して形成した。さらに、移動する被膜に3方向の振動加速度を交互に継続して加えた。また、移動する被膜に20℃の冷風を連続して加えた。
次に、被膜の先端を第二のベルトコンベヤの平面に移し、被膜を第二のベルトコンベヤの平面の上を移動させ、熱処理装置を連続して通過させた。この後、被膜の先端を多段圧延機のワークロールの間隙に入り込ませ、被膜をワークロールの間隙で連続して圧縮した。
実施例1と同様に、切断した軟磁性シートの切断面を電子顕微鏡で観察した。0.4-0.5μmの厚みの物質が10層に積層されていた。この物質は、ニッケル原子と鉄原子とで構成されていたため、パーマロイである。
さらに、実施例1と同様の方法で、作成した軟磁性シートの磁気シールド性能を評価した。比較のために、ニッケルが47%のパーマロイからなる厚みが5μmのシートを用いた。実施例1と同様に、一辺が100mmの直方体形状のシールドボックスを、軟磁性シートと47Niパーマロイのシートとの各々で作成した。軟磁性シートは、40dBの磁気シールド性能Sの値をもち、47Niパーマロイのシートと比較して5dBほど良好な磁気シールド性能を持った。従って、作成した軟磁性シートは、優れた磁気シールド効果をもたらす。
次に、作成した軟磁性シートが電磁ノイズを吸収する性能を、実施例1と同様の方法で評価した。1GHzにおいて吸収量が8%、3GHzで吸収量が10%、6.8GHzで吸収量が8%であった。従って、作成した磁性シートは、1GHzから7GHzの周波数帯域において8%以上の吸収量であった。しかし、電磁波の吸収量は少ない。これは、パーマロイの扁平粉の平均粒径が小さく、扁平率が低いことに依る。
【0020】
実施例3
本実施例は、扁平センダスト粉を軟磁性の扁平粉として用い、扁平面同士を摩擦熱で直接接合した該扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを製造する。
センダストの扁平粉は、山陽特殊鋼株式会社の高透磁率タイプAという製品で、平均粒径が50μm以下と大きく、厚みが約1μmで、扁平率が50に近い。この扁平粉は、従来のセンダストに比べ、微量のニッケルを添加するとともに、ケイ素の添加量を減らし、扁平処理を容易にさせるとともに、扁平粉の粒径を大きくし、合わせて、複素透磁率の特性を大幅に改善させた。複素透磁率の虚部は、10-70MHzの周波数帯域で60以上の値を持ち、3-100MHzの周波数帯域で30以上の値を持つ。実施例2で用いたパーマロイの扁平粉に比べると、扁平粉の粒径が大きく、また、扁平率も大きく、複素透磁率の虚部の値が10倍を超える周波数帯域が3-100MHzに及ぶ。また、複素透磁率の実部は、1-3MHzで200と大きな値を持つ。従って、3GHz以上の周波数帯域での電磁波のノイズ対策に有効である。これに対し、直流磁場での透磁率は、実施例2で用いたパーマロイより2桁以上小さいため、磁気シールドの効果は低い。なお、3MHzにおける表皮深さは、20μmである。
実施例1で作成したデカン酸の熱融解液に、扁平センダスト粉が82重量%の割合になるように混合し、懸濁液を作成した。実施例1と同様に、第一のベルトコンベヤの平面に、0.2Gからなる3方向の振動加速度を交互に継続して加えた。また、第一のベルトコンベヤの10cmからなる平面の幅の全てに、懸濁液を毎秒1gの割合で垂らすとともに、第一のベルトコンベヤを毎秒2cmの速度で移動させ、平面の全体に懸濁液からなる厚みが薄い被膜を連続して形成した。さらに、移動する被膜に3方向の振動加速度を交互に継続して加えた。また、移動する被膜に20℃の冷風を連続して加えた。
次に、被膜の先端を第二のベルトコンベヤの平面に移し、被膜を第二のベルトコンベヤの平面の上を移動させ、熱処理装置を連続して通過させた。この後、被膜の先端を多段圧延機のワークロールの間隙に入り込ませ、被膜をワークロールの間隙で連続して圧縮した。
実施例1と同様に、切断した軟磁性シートの切断面を電子顕微鏡で観察した。1μmの厚みの物質が20層に積層されていた。この物質は、鉄原子が90%に近い割合で、シリコン原子とアルミニウム原子との順で割合が多く、僅かなニッケル原子が認められたため、センダストよりスーパーセンダストに近い物質である。
次に、作成した軟磁性シートが電磁ノイズを吸収する性能を、実施例1と同様の方法で評価した。3MHzにおいて吸収量が28%で、10MHzにおいて吸収量が38%で、20MHzで吸収量が42%、50MHzで吸収量が38%で、100MHzにおいて吸収量が28%あった。従って、作成した軟磁性シートは、3-100MHzの周波数帯域において28%以上の吸収量であった。実施例2に比べると、電磁波の吸収量が格段に増大した。これは、扁平粉の粒径が大きく、扁平率が大きいことに依る。
【0021】
実施例4
本実施例は、複素透磁率の虚部のピーク値が互いに異なる周波数で持つ3種類の扁平粉を用い、該3種類の扁平粉の扁平面同士を、摩擦熱でランダムに接合した該扁平粉の集まりからなる軟磁性シートを製造する。この軟磁性シートの複素透磁率は、3種類の扁平粉の複素透磁率が加算された特性になるため、3種類の扁平粉を単独で用いるより、広い周波数帯域に及ぶ電磁波を吸収する、ないしは、幅広い周波数帯域の電磁ノイズの干渉を防止する軟磁性シートになる。3種類の合金の扁平粉は、実施例2で用いたパーマロイの扁平粉に、ケイ素が3%のケイ素鋼の扁平粉と、電磁ステンレス鋼の扁平粉を加えた。
ケイ素が3%のケイ素鋼からなる扁平粉(山陽特殊鋼株式会社の開発品)は、扁平率は34で、平均粒径は9μmである。また、複素透磁率の虚数部は、実施例1のパーマロイとは対照的に高周波数帯域で必要な大きさを持つ。すなわち、10MHz付近から緩やかに増大し、1GHzで2.3の値を持ち、4.7GHzでパーマロイの複素透磁率の虚数部の値と交差し、5.9GHzでピーク値の8.7を示し、6.3GHz付近からなだらかに減少し、10GHzでも5.9の値を持ち、12GHzで3.7の値を持つ。このため、4.7GHz以上では、パーマロイより複素透磁率の虚数部の値が大きい。
鉄に7%のクロムと1%のケイ素と1.6%のアルミニウムとを加えた電磁ステンレス鋼からなる扁平粉(山陽特殊鋼株式会社の開発品)は、扁平率は29で平均粒径は12μmである。また、複素透磁率の虚部は、10MHz付近から急激に増大し、1GHzで3.4の値を持ち、4.2GHzでケイ素が3%のケイ素鋼の虚部と交差し、4.8GHzでピーク値の7.5を示し、5.5GHz付近からなだらかに減少し、10GHzでも4.8の値を持ち、12GHzで3.1の値を持つ。
従って、パーマロイの扁平粉とケイ素が3%のケイ素鋼の扁平粉と電磁ステンレス鋼の扁平粉からなる3種類の扁平粉を用いると、3種類の扁平粉の複素透磁率の虚部の特性が加算され、2-8GHzに至る中間の周波数帯域の電磁ノイズを吸収する性能が向上する。特に、パーマロイの複素透磁率の虚数部がピーク値を示す3.3GHzから、ケイ素が3%のケイ素鋼の複素透磁率の虚数部がピーク値を示す4.8GHzまでの周波数帯域における電磁ノイズを吸収する性能が向上する。
パーマロイの扁平粉とケイ素が3%のケイ素鋼の扁平粉と電磁ステンレス鋼の扁平粉からなる3種類の扁平粉を、10対9対20の重量比で秤量し、混合した。実施例1で作成したデカン酸の熱融解液に、3種類の扁平粉を混合した扁平粉の集まりが82重量%の割合になるように混合し、懸濁液を作成した。実施例1と同様に、第一のベルトコンベヤの平面に、0.2Gからなる3方向の振動加速度を交互に継続して加えた。また、第一のベルトコンベヤの10cmからなる平面の幅の全てに、懸濁液を毎秒1gの割合で垂らすとともに、第一のベルトコンベヤを毎秒4cmの速度で移動させ、平面の全体に懸濁液からなる厚みが薄い被膜を連続して形成した。さらに、移動する被膜に3方向の振動加速度を交互に継続して加えた。また、移動する被膜に20℃の冷風を連続して加えた。
次に、被膜の先端を第二のベルトコンベヤの平面に移し、被膜を第二のベルトコンベヤの平面の上を移動させ、熱処理装置を連続して通過させた。この後、被膜の先端を多段圧延機のワークロールの間隙に入り込ませ、被膜をワークロールの間隙で連続して圧縮した。
実施例1と同様に、切断した軟磁性シートの切断面を電子顕微鏡で観察した。扁平紛の集まりが、10層に積層されていた。
次に、作成した軟磁性シートが電磁ノイズを吸収する性能を、実施例1と同様の方法で評価した。1GHzにおいて吸収量が8%、3.3GHzにおいて吸収量が10%、4.7GHzにおいて吸収量が9%、5.9GHzにおいて吸収量が10%、10GHzにおいて吸収量が8%であった。この結果、1-10GHzの広い周波数帯域において8%以上の吸収量であった。しかし、電磁波の吸収量は少ない。これは、実施例3で用いた扁平粉に比べると、3種類の合金の平均粒径が小さく、扁平率が低いことに依る。
なお、複数種類の合金からなる軟磁性扁平粉を組み合わせる事例は、実施例4に限らない。つまり、複素透磁率の虚数部が広い周波数帯域で一定の値を持つように、軟磁性扁平粉を組み合わると、扁平面同士が重なり合って結合した軟磁性扁平粉の集まりは、各々の扁平粉の複素透磁率の虚数部の特性が加算された複素透磁率の虚数部の特性を示し、この結果、広い周波数帯域において、電磁ノイズを吸収する軟磁性シートが実現できる。
【符号の説明】
【0022】
1 扁平鉄粉