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特開2023-38904負熱膨張材、その製造方法及びペースト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038904
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】負熱膨張材、その製造方法及びペースト
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20230310BHJP
   C04B 35/447 20060101ALI20230310BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C01B25/45 H
C04B35/447
C04B35/495
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116580
(22)【出願日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2021145641
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
(72)【発明者】
【氏名】畠 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 基文
(57)【要約】
【解決課題】溶媒としてプロピレンカーボネートを用いた場合において、適度な粘度を有するペーストが得られるリン酸タングステン酸ジルコニウムを含む負熱膨張材を提供すること。
【解決手段】少なくとも、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子と、該リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の粒子表面に存在している過酸化水素と、からなる表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子を含むことを特徴とする負熱膨張材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子と、該リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の粒子表面に存在している過酸化水素と、からなる表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子を含むことを特徴とする負熱膨張材。
【請求項2】
前記表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸と、の接触物であることを特徴とする請求項1記載の負熱膨張材。
【請求項3】
前記表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸の溶液を混合することにより得られたものであることを特徴とする請求項1記載の負熱膨張材。
【請求項4】
前記リンのオキソ酸が、リン酸であることを特徴とする請求項2又は3記載の負熱膨張材。
【請求項5】
前記リン酸タングステン酸ジルコニウムは、副成分元素を更に含有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の負熱膨張材。
【請求項6】
前記副成分元素が、Mg、V及びAlの金属元素から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項5に記載の負熱膨張材。
【請求項7】
プロピレンカーボネートを分散媒として下記計算式(1)から求められるRspの値が0.15以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の負熱膨張材。
Rsp=(Rav/Rb)-1 (1)
(式(1)中、Ravは、プロピレンカーボネートに負熱膨張材を分散させた状態でパルスNMR測定したときのNMR緩和時間の逆数である。Rbは、プロピレンカーボネートに負熱膨張材を分散させていない状態でパルスNMR測定したときのNMR緩和時間の逆数である。)
【請求項8】
リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を接触させて、表面改質リン酸タングスデン酸ジルコニウム粒子を得る接触工程を有することを特徴とする負熱膨張材の製造方法。
【請求項9】
前記リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液と、を混合することにより、前記接触工程を行うことを特徴とする請求項8に記載の負熱膨張材の製造方法。
【請求項10】
前記リン酸タングステン酸ジルコニウムは、副成分元素を更に含有することを特徴とする請求項8又は9記載の負熱膨張材の製造方法
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項記載の負熱膨張材を含むことを特徴とするペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度上昇に対して収縮する性質を有する負熱膨張材、その製造方法及び該負熱膨張材を含むペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの物質は温度が上昇すると、熱膨張によって長さや体積が増大する。これに対して、温めると逆に体積が小さくなる負の熱膨張を示す材料(以下「負熱膨張材」ということもある。)も知られている。負の熱膨張を示す材料は、他の材料とともに用いて、温度変化による材料の熱膨張の変化を抑制することができることが知られている。
【0003】
負の熱膨張を示す材料としては、例えば、β-ユークリプタイト、タングステン酸ジルコニウム(ZrW)、リン酸タングステン酸ジルコニウム(ZrWO(PO)、ZnCd1-x(CN)、マンガン窒化物、ビスマス・ニッケル・鉄酸化物等が知られている。
【0004】
リン酸タングステン酸ジルコニウムの線膨張係数は、0~400℃の温度範囲で、-3.4~-3.0ppm/Kであり負熱膨張性が大きく、正の熱膨張を示す材料(以下「正熱膨張材」ということもある。)と併用することで、低熱膨張の材料を製造することができる(例えば、特許文献1~2参照)。
【0005】
本発明者らも、先に負熱膨張材として有用なリン酸タングスデン酸ジルコニウムを提案した(特許文献3~4)。
【0006】
負熱膨張材、更にバインダー樹脂及び低融点ガラス等のフラックス材を含むペーストは、例えばOELD、FED、PDP、LCD等のFPD、OEL素子(OLED)等の発光素子を使用した照明装置、色素増感型太陽電池のような太陽電池等の電子デバイスを構成するガラスパネル、MEMS(Micro Electro Mecanical System)や光デバイス等の電子部品のパッケージ、照明用バルブ、複層ガラスのようなガラス部材等の封着材料や封止材料として用いることが提案されている。
【0007】
封着材料や封止材料のペーストの溶媒としては、多くの場合プロピレンカーボネート等が用いられている(例えば、特許文献5~7等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-35840号公報
【特許文献2】特開2015-10006号公報
【特許文献3】特開2020-2000号公報
【特許文献4】特許第6105140号公報
【特許文献5】特開2019-94250号公報、0050段落
【特許文献6】特開2021-35895号公報、0054段落
【特許文献7】特開2018-90434号公報、0067段落
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、リン酸タングステン酸ジルコニウムを負熱膨張材として用いた封着材料の調製において、溶媒としてプロピレンカーボネートを用いたときにペーストの粘度が低くなり易く、ペーストとして好適な粘度をもったものが得られ難いという問題があり、また、負熱膨張材と混合するバインダー樹脂、溶剤、或いは正熱膨張材料の物質は、その性状が様々であり、その性状に合った種々の表面特性を有するリン酸タングステン酸ジルコニウムを含む負熱膨張材の開発も要望されている。
【0010】
従って、本発明の目的は、溶媒としてプロピレンカーボネートを用いた場合において、適度な粘度を有するペーストが得られるリン酸タングステン酸ジルコニウムを含む負熱膨張材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、(1)リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を接触させることにより、粒子表面に安定的に過酸化水素が存在している表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子が得られること、(2)粒子表面に過酸化水素を存在させることにより、表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の粒子表面とプロピレンカーボネートとの親和性が低くなること、(3)プロピレンカーボネートとの親和性が低い表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子を、プロピレンカーボネートに分散させることにより、粘度が高いペーストが得られること等を見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
即ち、本発明が提供する第一の発明は、少なくとも、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子と、該リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の粒子表面に存在している過酸化水素と、からなる表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子を含むことを特徴とする負熱膨張材である。
【0013】
また、本発明が提供しようとする第二の発明は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を接触させて、表面改質リン酸タングスデン酸ジルコニウム粒子を得る接触工程を有することを特徴とする負熱膨張材の製造方法である。
【0014】
また、本発明が提供する第三の発明は、前記第一の発明の負熱膨張材を含むことを特徴とするペーストである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶媒としてプロピレンカーボネートを用いた場合において、適度な粘度を有するペーストが得られるリン酸タングステン酸ジルコニウムを含む負熱膨張材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明の負熱膨張材は、少なくとも、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子と、該リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の粒子表面に存在している過酸化水素と、からなる表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子を含むことを特徴とする負熱膨張材である。つまり、本発明の負熱膨張材は、表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子を含み、該表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子は、少なくとも、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子と、過酸化水素と、からなる。
【0017】
本発明の負熱膨張材に係るリン酸タングステン酸ジルコニウム粒子は、粒子表面に過酸化水素及びリンのオキソ酸を存在させることにより、粒子表面が改質される粒子である。つまり、本発明の負熱膨張材に係るリン酸タングステン酸ジルコニウム粒子は、過酸化水素及びリンのオキソ酸と接触される原料粒子(以下、原料ZWP粒子とも記載する。)である。
【0018】
本発明の負熱膨張材に係るリン酸タングステン酸ジルコニウム粒子(原料ZWP粒子)は、粒状のリン酸タングステン酸ジルコニウムである。リン酸タングステン酸ジルコニウムは、下記一般式(1)で表されるものである。
Zr(WO(PO (1)
(式中、xは、1.7≦x≦2.3、好ましくは1.8≦x≦2.2であり、yは、0.85≦y≦1.15、好ましくは0.90≦y≦1.10であり、zは、1.7≦z≦2.3、好ましくは1.8≦z≦2.2である。)
【0019】
分散性や充填特性を向上させるために、原料ZWP粒子には、一般式(1)で表されるリン酸タングステン酸ジルコニウムに含有されている元素であるP、W、Zr及びO以外の元素(以下、これを「副成分元素」ともいう。)が含有されていることが好ましい。
【0020】
副成分元素としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属元素、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属元素、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Yb等の希土類元素、Al、Zn、Ga、Cd、In、Sn、Pb、Bi等の遷移金属以外の他の金属元素、B、Si、Ge、Sb、Te等の半金属元素、S等の非金属元素、F、Cl、Br、I等のハロゲン元素等が挙げられる。これらの元素は、原料ZWP粒子中に1種又は2種以上含まれていてもよい。そして、分散性や充填特性を一層向上させることができる点で、原料ZWP粒子は、Mg、Al及びVの少なくとも1種の副成分元素を含むことが好ましく、これに加えて、熱膨張係数が抑制し易くなる点で、原料ZWP粒子は、副成分元素としてMg及び/又はAlを含有することが更に好ましい。
【0021】
優れた負熱膨張性を有し、且つ、分散性及び充填特性に優れたものとすることができる点で、原料ZWP粒子における副成分元素の含有量は、原料ZWP粒子に対して、好ましくは0.1~3.0質量%であり、更に好ましくは0.2~2.0質量%である。副成分元素が2種類以上含まれる場合は、副成分元素の含有量は、副成分元素の合計質量に基づいて算出される。副成分元素の含有量は、例えば、蛍光X線分析装置等の測定装置を用いて、粉末プレス法、溶融ガラスビード法等の方法で測定される。
【0022】
原料ZWP粒子が副成分元素としてMg及びAlの双方を含む場合、負熱膨張性、並びに正熱膨張材への分散性及び充填特性を一層優れたものにすることができる点で、原料ZWP粒子中のAl元素の含有量は、原料ZWP粒子に対して、好ましくは100~6000質量ppm、更に好ましくは1000~5000質量ppmである。また、実用的な線膨張係数を有し、更に分散性及び充填特性を優れたものにすることができる点で、原料ZWP粒子中のMg元素の含有量は、原料ZWP粒子に対して、好ましくは0.10~3.0質量%、更に好ましくは0.22~2.0質量%である。
【0023】
原料ZWP粒子は、ジルコニウム源、タングステン源、リン源及び必要に応じて副成分元素源を反応させることにより得られる。原料ZWP粒子の製造方法は、特に制限されず、例えば、(i)リンのオキソ酸ジルコニウム、酸化タングステン及びMgO等の反応促進剤を湿式ボールミルで混合し、次いで、得られる混合物を焼成する方法(例えば、特開2005-35840号公報参照)、(ii)塩化ジルコニウム等のジルコニウム源、タングステン酸アンモニウム等のタングステン源及びリンのオキソ酸アンモニウム等のリン源を湿式混合し、次いで、得られる混合物を焼成する方法(例えば、特開2015-10006号公報参照)、(iii)酸化ジルコニウム、酸化タングステン及びリンのオキソ酸二水素アンモニウムを含む混合物を焼成する方法(例えば、Materials Research Bulletin、44(2009)、p.2045-2049参照)、(iv)タングステン化合物、リンとジルコニウムとを含む無定形の化合物及び必要により添加される副成分元素源との混合物を反応前駆体として、該反応前駆体を焼成する方法(例えば、国際公開第2017/061402号パンフレット参照)等が挙げられる。
【0024】
また、本発明の負熱膨張材を正熱膨張材に対するフィラーとして用いる際の取扱いが容易になる点で、原料ZWP粒子のBET比表面積は、好ましくは0.1~50m/g、更に好ましくは0.1~20m/gであり、また、原料ZWP粒子の平均粒子径は、好ましくは0.02~50μm、更に好ましくは0.5~30μmである。なお、原料ZWP粒子の平均粒子径は、任意の100個の原料ZWP粒子を、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、各粒子の最大長さを測定し、それらの算術平均値を、原料ZWP粒子の平均粒子径として求められる。このとき、最大長さとは、粒子の二次元投影像を横断する線分のうち最も大きい長さをいう。
【0025】
原料ZWP粒子の粒子形状は、特に制限されるものではなく、例えば、球状、粒状、板状、鱗片状、ウィスカー状、棒状、フィラメント状、1若しくは2以上の稜線を有する不規則な砕石状(以下、これを「破砕状」ともいう。)、又はこれらの組み合わせであってもよいが、原料ZWP粒子の粒子形状は、流動性が良く、正熱膨張材に均一に混合分散させることが容易になる点で、球状が好ましい。
【0026】
本発明の負熱膨張材は、表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子を含む。表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子では、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子(原料ZWP粒子の粒子)の表面に、過酸化水素が存在している。
【0027】
本発明の負熱膨張材において、過酸化水素の存在量は、原料ZWP100.0質量部に対し、0.01~1.5質量部、好ましくは0.03~1.0質量部である。本発明の負熱膨張材における過酸化水素の存在量が、上記範囲にあることにより、原料ZWP粒子の表面が効率良く過酸化水素により被覆される。
【0028】
本発明の表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子において、表面に存在する過酸化水素は、室温(25℃)、密閉容器内で、20日以上放置した後に、後述する水溶出試験において、ろ過後にろ液に含まれる過酸化水素が、過酸化水素試験紙(メルク社製、品名Quantofix Peroxid25)で検出されることが、過酸化水素を粒子表面に安定に存在させることができ、また、該負熱膨張材が保存安定性に優れたものとなる観点から好ましい。
【0029】
また、本発明の負熱膨張材において、保存安定性に優れた負熱膨張材とする観点から、表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子では、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子(原料ZWP粒子の粒子)の表面に、リンのオキソ酸が、過酸化水素と共に存在しているものが好ましい。
【0030】
リンのオキソ酸は、リン原子に水酸基(-OH)とオキシ基(=O)とが結合した構造を有する化合物を指す。リンのオキソ酸としては、リン酸(HPO)、ホスホン酸(HPO)、ホスフィン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、ポリリン酸等が挙げられる。これらのうち、リンのオキソ酸としては、リン酸が、取り扱い易く且つ安価に入手できる点で好ましい。
【0031】
本発明の負熱膨張材において、リンのオキソ酸の存在量は、原料ZWP100.0質量部に対し、0.005~2.0質量部、好ましくは0.02~1.8質量部である。本発明の負熱膨張材におけるリンのオキソ酸の存在量が、上記範囲にあることにより、原料ZWP粒子の表面が効率良くリンのオキソ酸により被覆される。
【0032】
本発明の負熱膨張材における過酸化水素とリンのオキソ酸の存在割合であるが、過酸化水素100.0質量部に対し、リンのオキソ酸が、10.0~200.0質量部、好ましくは20.0~180.0質量部である。過酸化水素とリンのオキソ酸の存在割合が、上記範囲にあることにより、負熱膨張材を含有するペーストの溶媒としてプロピレンカーボネートを用いた場合に、より好ましい粘度を有するペーストが得られる点で好ましい。
【0033】
本発明の負熱膨張材に係る表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子としては、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子(原料ZWP粒子)と、過酸化水素及びリンのオキソ酸と、の接触物が挙げられる。
【0034】
原料ZWP粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸と、を接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、(a)過酸化水素を含む溶液と、リンのオキソ酸を含む溶液と、を別々に調製し、それぞれを、原料ZWP粒子と、接触させる方法、(b)原料ZWP粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液を接触させる方法等が挙げられる。
【0035】
本発明の負熱膨張材は、プロピレンカーボネートを分散媒として、下記計算式(1)から求められるRspの値が、好ましくは0.15以下、特に好ましくは0.05~0.15である。下記計算式(1)から求められるRspの値が、上記範囲にあることにより、負熱膨張材がプロピレンカーボネートに分散されているペーストの粘度を適切な粘度にし易くなる。
【0036】
計算式(1):
Rsp=(Rav/Rb)-1 (1)
式(1)中、Ravは、プロピレンカーボネートに負熱膨張材を分散させた状態でパルスNMR測定したときのNMR緩和時間の逆数である。Rbは、プロピレンカーボネートに負熱膨張材を分散させていない状態でパルスNMR測定したときのNMR緩和時間の逆数である。
【0037】
Rspの値は、分散媒となる溶媒への親和性や濡れ性を表す指標となることが知られている(例えば、特開2019-67590号公報、WO2018/116890号パンフレット、WO2020/091000号パンフレット等参照)。このRspの値が大きいということは分散媒となる溶媒に対して親和性が高く濡れ性に優れることを示す。
【0038】
原料ZWP粒子は、プロピレンカーボネートを分散媒として、上記計算式(1)から求められるRspの値が0.15より大きくなる。それに対して、本発明の負熱膨張材は、このRspが、原料ZWP粒子より小さいので、プロピレンカーボネートを溶媒として用いても、適度な粘度を有するペーストを得ることができるものと考えられる。
【0039】
プロピレンカーボネート分散粘度試験において、本発明の負熱膨張材をプロピレンカーボネートに混合分散させたときの分散粘度は、好ましくは20~100MPa・s、特に好ましくは20~80MPa・sである。プロピレンカーボネート分散試験における分散粘度が、上記範囲にあることにより、負熱膨張材を含有するペーストが適度な粘度となる。なお、本発明において、プロピレンカーボネート分散粘度試験は、以下の方法にて行われる。本発明の負熱膨張材20.0gをプロピレンカーボネート6.0gに添加し、ミキサー(例えば、シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて、回転速度2000rpmで10分間混合し、プロピレンカーボネートに本発明の負熱膨張材を分散させ、得られる混合分散物の粘度を、粘度計(例えば、エー・アンド・デイ社製、音叉式粘度計SV-10)で測定する。
【0040】
水溶出試験において、本発明の負熱膨張材の過酸化水素溶出濃度は、好ましくは0.5~10質量ppmである。水溶出試験における過酸化水素溶出濃度が、上記範囲にあることにより、負熱膨張材を含有するペーストが適度な粘度となる。なお、本発明において、水溶出試験は、以下の方法にて行われる。先ず、本発明の負熱膨張材4.0gを純水10.0mLに添加し、室温(25℃)で1分間撹拌混合した後、室温(25℃)で静置する。次いで、20時間後に、上澄み液を口径0.5μmのメンブランフィルターでろ過し、得られるろ液を、過酸化水素試験紙(メルク社製、品名:Quantofix Peroxid25)で分析し、ろ液の過酸化水素濃度を測定する。ろ液の過酸化水素濃度の評価は、過酸化水素濃度を0.5質量ppm、2質量ppm、5質量ppm、10質量ppm及び25質量ppmの濃度間隔で変化させた色見本との対比により行われる。
【0041】
表面改質リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の粒子表面には、過酸化水素及びリンのオキソ酸以外に、改質の効果を高めることを目的として、タングステン酸、リンタングステン酸等が吸着していてもよい。
【0042】
本発明の負熱膨張材は、主としてリン酸タングステン酸ジルコニウム粒子により構成されているので、負熱膨張性を有する。そして、本発明の負熱膨張材は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の表面に、過酸化水素及びリンのオキソ酸が化学吸着して存在しているので、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の粒子表面状態が改質され、溶媒、特にプロピレンカーボネートと、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の粒子表面の親和性が低くなる。そのことにより、本発明の負熱膨張材を、溶媒、特にプロピレンカーボネートに混合及び分散させたとき、得られるペーストの粘度が高くなる。更に、本発明の負熱膨張材では、過酸化水素、リンのオキソ酸及びリン酸タングステン酸ジルコニウム粒子表面のリン酸タングステン酸ジルコニウムの相互作用により、過酸化水素がリン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の表面に安定的に存在することができる。そのため、本発明の負熱膨張材では、過酸化水素及びリンのオキソ酸によるリン酸タングステン酸ジルコニウム粒子の粒子表面の改質状態が保持される。
【0043】
次いで、 本発明の負熱膨張材の製造方法について説明する。
本発明の負熱膨張材の製造方法は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を接触させて、表面改質リン酸タングスデン酸ジルコニウム粒子を得る接触工程を有することを特徴とする負熱膨張材の製造方法である。
【0044】
本発明の負熱膨張材の製造方法に係る接触工程は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子(原料ZWP粒子)に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を接触させる工程である。接触工程に係るリン酸タングステン酸ジルコニウム粒子(原料ZWP粒子)及びリンのオキソ酸は、本発明の負熱膨張材に係るリン酸タングステン酸ジルコニウム粒子(原料ZWP粒子)及びリンのオキソ酸と同様である。
【0045】
接触工程において、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、(a)過酸化水素水と、リンのオキソ酸の水溶液と、を別々に調製し、それぞれを原料ZWP粒子と接触させる方法、(b)原料ZWP粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液を接触させる方法等が挙げられる。これらのうち、(b)の方法が、工程が簡素化できるため好ましい。
【0046】
(a)の方法としては、(a1)原料ZWP粒子に、先に過酸化水素を含む溶液を接触させた後、原料ZWP粒子と過酸化水素との接触物を回収し、次いで、回収した原料ZWP粒子と過酸化水素水との接触物に、リンのオキソ酸を含む溶液を接触させる方法、(a2)原料ZWP粒子に、先にリンのオキソ酸を含む溶液を接触させた後、原料ZWP粒子とリンのオキソ酸との接触物を回収し、次いで、回収した原料ZWP粒子とリンのオキソ酸との接触物に、過酸化水素を含む溶液を接触させる方法、(a3)原料ZWP粒子に、先に過酸化水素を含む溶液を接触させた後、次いで、接触物を回収することなく、原料ZWP粒子と過酸化水素水との接触物に、リンのオキソ酸を含む溶液を接触させる方法、(a4)原料ZWP粒子に、先にリンのオキソ酸を含む溶液を接触させた後、次いで、接触物を回収することなく、原料ZWP粒子とリンのオキソ酸との接触物に、過酸化水素を含む溶液を接触させる方法が挙げられる。
【0047】
接触工程に用いる過酸化水素及びリンのオキソ酸は、工業的に入手できるものであれば、特に制限されない。また、過酸化水素及びリンのオキソ酸は、水溶液として用いられてもよい。
【0048】
(b)の方法に係る過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液は、過酸化水素及びリンのオキソ酸を水溶媒に溶解した水溶液である。なお、水溶媒は、水単独でも、水と親水性溶媒との混合溶媒であってよい。
【0049】
(b)の方法に係る過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液中の過酸化水素の含有量は、好ましくは10.0~50.0質量%、特に好ましくは20.0~40.0質量%である。過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液中の過酸化水素の含有量が、上記範囲にあることにより、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができる点で好ましい。
【0050】
(b)の方法に係る過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液中のリンのオキソ酸の含有量は、好ましくは1.0~40.0質量%、特に好ましくは5.0~30.0質量%である。過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液中のリンのオキソ酸の含有量が、上記範囲にあることにより、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができる点で好ましい。
【0051】
(b)の方法に係る過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液中の過酸化水素とリンのオキソ酸の含有割合は、リンのオキソ酸100.0質量部に対して過酸化水素が、好ましくは70.0~130.0質量部、特に好ましくは80.0~120.0質量部である。過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液中の過酸化水素とリンのオキソ酸の含有割合が、上記範囲にあることにより、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができる点で好ましい。
【0052】
(b)の方法において、原料ZWP粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液を接触させる方法としては、例えば、原料ZWP粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸とを含む溶液と、を混合する方法が挙げられる。
【0053】
(b)の方法において、原料ZWP粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液を接触させるときの原料ZWP粒子と過酸化水素の量比は、原料ZWP粒子100.0質量部に対して過酸化水素が、好ましくは0.01~1.5質量部、特に好ましくは0.03~1.0質量部である。原料ZWP粒子と過酸化水素の量比が、上記範囲にあることにより、原料ZWP粒子の表面が効率良く過酸化水素により被覆される。なお、上記原料ZWP粒子と過酸化水素の量比において、過酸化水素の量は、過酸化水素溶液の量を指すのではなく、過酸化水素自体の量を指す。
【0054】
(b)の方法において、原料ZWP粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液を接触させるときの原料ZWP粒子とリンのオキソ酸の量比は、原料ZWP粒子100.0質量部に対してリンのオキソ酸が、好ましくは0.005~2.0質量部、特に好ましくは0.02~1.8質量部である。原料ZWP粒子とリンのオキソ酸の量比が、上記範囲にあることにより、原料ZWP粒子の表面が効率良くリンのオキソ酸により被覆される。なお、上記原料ZWP粒子と過酸化水素の量比において、リンのオキソ酸の量は、リンのオキソ酸の溶液の量を指すのではなく、リンのオキソ酸自体の量を指す。
【0055】
(b)の方法において、原料ZWP粒子100.0重量部に対して、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液を、好ましくは0.01~2.5質量部、特に好ましくは0.01~2.0質量部混合することが、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができ、また、特に乾燥処理を行う必要がなく接触処理後のものをそのまま負熱膨張材として用いることができる点で好ましい。
【0056】
(a)の方法に係る過酸化水素を含む溶液は、過酸化水素が水溶媒に溶解した水溶液であり、また、リンのオキソ酸を含む溶液は、リンのオキソ酸を水溶媒に溶解した水溶液である。なお、水溶媒は、水単独でも、水と親水性溶媒との混合溶媒であってよい。
【0057】
(a)の方法に係る過酸化水素を含む溶液中の過酸化水素の含有量は、好ましくは10.0~50.0質量%、特に好ましくは20.0~40.0質量%である。過酸化水素を含む溶液中の過酸化水素の含有量が、上記範囲にあることにより、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができる点で好ましい。
【0058】
(a)の方法に係るリンのオキソ酸を含む溶液中のリンのオキソ酸の含有量は、好ましくは1.0~40.0質量%、特に好ましくは5.0~30.0質量%である。リンのオキソ酸を含む溶液中のリンのオキソ酸の含有量が、上記範囲にあることにより、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができる点で好ましい。
【0059】
(a)の方法に係る過酸化水素を含む溶液中の過酸化水素とリンのオキソ酸を含む溶液中のリンのオキソ酸の割合は、リンのオキソ酸100.0質量部に対して過酸化水素が、好ましくは70.0~130.0質量部、特に好ましくは80.0~120.0質量部である。過酸化水素を含む溶液中の過酸化水素とリンのオキソ酸を含む溶液中のリンのオキソ酸の割合が、上記範囲にあることにより、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができる点で好ましい。
【0060】
(a)の方法において、原料ZWP粒子に、過酸化水素を含む溶液又はリンのオキソ酸を含む溶液を接触させる方法としては、例えば、原料ZWP粒子と、過酸化水素を含む溶液又はリンのオキソ酸とを含む溶液と、を混合する方法が挙げられる。
【0061】
(a)の方法において、原料ZWP粒子に、過酸化水素を含む溶液を接触させるときの原料ZWP粒子と過酸化水素の量比は、原料ZWP粒子100.0質量部に対して過酸化水素が、好ましくは0.01~1.5質量部、特に好ましくは0.03~1.0質量部である。原料ZWP粒子と過酸化水素の量比が、上記範囲にあることにより、原料ZWP粒子の表面が効率良く過酸化水素により被覆される。なお、上記原料ZWP粒子と過酸化水素の量比において、過酸化水素の量は、過酸化水素溶液の量を指すのではなく、過酸化水素自体の量を指す。
【0062】
(a)の方法において、原料ZWP粒子に、リンのオキソ酸を含む溶液を接触させるときの原料ZWP粒子とリンのオキソ酸の量比は、原料ZWP粒子100.0質量部に対してリンのオキソ酸が、好ましくは0.005~2.0質量部、特に好ましくは0.02~1.8質量部である。原料ZWP粒子とリンのオキソ酸の量比が、上記範囲にあることにより、原料ZWP粒子の表面が効率良くリンのオキソ酸により被覆される。なお、上記原料ZWP粒子と過酸化水素の量比において、リンのオキソ酸の量は、リンのオキソ酸の溶液の量を指すのではなく、リンのオキソ酸自体の量を指す。
【0063】
(a)の方法において、原料ZWP粒子100.0重量部に対して、過酸化水素を含む溶液及びリンのオキソ酸を含む溶液を、それらの合計で、好ましくは0.05~5.0質量部、特に好ましくは0.1~4.5質量部混合することが、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができ、また、特に乾燥処理を行う必要がなく接触処理後のものをそのまま負熱膨張材として用いることができる点で好ましい。
【0064】
(a)及び(b)の方法において、リン酸タングスデン酸ジルコニウム粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸との接触物は、添加する溶液量により、粉末状のもの、スラリー状のもの、ペースト状のもの、固体状のものになる。このため、リン酸タングスデン酸ジルコニウム粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を接触させるための混合処理は、得られる混合物の性状に応じて、常法の湿式又は乾式の混合処理を適宜選択して行えばよい。
【0065】
湿式混合に用いられる装置としては、均一な混合物(接触物)が得られるものであれば特に制限はないが、例えば、スターラー、撹拌羽による攪拌機、3本ロール、ボールミル、ディスパーミル、ホモジナイザー、振動ミル、サンドグラインドミル、アトライター及び強力撹拌機等の装置が挙げられる。湿式混合処理は、上記で例示した機械的手段による混合処理に限定されるものではない。
【0066】
乾式で混合処理を行う方法としては、機械的手段にて行うことが均一な混合物が得られる点で好ましい。乾式混合に用いられる装置としては、均一な混合物が得られるものであれば特に制限はないが、例えば、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサー、アイリッヒミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、V型混合機、コニカルブレンダー、ジェットミル、コスモマイザー、ペイントシェイカー、ビーズミル、ボールミル等が挙げられる。なお、実験室レベルでは、家庭用ミキサーや手作業でも十分である。
【0067】
(a)及び(b)の方法において、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子を、過酸化水素及びリンのオキソ酸に接触させるときの温度は、特に制限はないが、多くの場合は10~50℃、好ましくは20~40℃である。なお、(a)の方法の場合は、リンのオキソ酸を含む溶液又は過酸化水素を含む溶液を、それぞれ原料ZWP粒子に接触させる時の温度を示す。
【0068】
(a)及び(b)の方法において、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子を、過酸化水素及びリンのオキソ酸に接触させるときの時間は、本製造方法において臨界的でなく、多くの場合、10分以上、好ましくは15~60分で、満足の行く負熱膨張材を得ることができる。なお、(a)の方法の場合は、リンのオキソ酸を含む溶液又は過酸化水素を含む溶液で、それぞれ原料ZWP粒子に接触させる時の時間を示す。
【0069】
(a)及び(b)の方法において、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子を、過酸化水素及びリンのオキソ酸に接触させるときに、過酸化水素及び/又はリンのオキソ酸を含む溶液には、必要に応じて、改質の効果を高める目的で、タングステン酸、リンタングステン酸等を含有させてもよい。
【0070】
このようにして、接触工程では、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子を、過酸化水素及びリンのオキソ酸に接触させることにより、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸との接触物である表面改質リン酸タングスデン酸ジルコニウム粒子を得る。
【0071】
本発明の負熱膨張材の製造方法において、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液の添加量の好適な範囲、あるいは、過酸化水素を含む溶液及びリンのオキソ酸を含む溶液の添加量の好適な範囲では、原料ZWP粒子に対し、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液の添加量が少ない、あるいは、過酸化水素を含む溶液及びリンのオキソ酸を含む溶液の添加量が少ないので、原料ZWP粒子と、(a)又は(b)の方法で接触させて得られる接触物の性状は、基本的に乾燥を行わないでも粉体の状態を保持している。
【0072】
そのため、本発明の負熱膨張材の製造方法では、接触工程を行った後、必要に応じて、乾燥処理を行えばよい。また、本発明の負熱膨張材の製造方法では、更に必要に応じ、粉砕、解砕、分級等を行ってもよい。また、乾燥処理を行う場合は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸との接触物を、そのまま全量乾燥処理してもよい。
【0073】
そして、本発明の負熱膨張材の製造方法では、接触工程を行うことにより、あるいは、接触工程を行った後、必要に応じて、乾燥処理、粉砕、解砕、分級等を行うことにより、負熱膨張材を得る。
【0074】
原料ZWP粒子に過酸化水素のみを接触させた場合には、接触後、粒子表面の過酸化水素が時間とともに分解するため、ZWPの粒子表面は改質され難い。それに対して、原料ZWP粒子に、過酸化水素に加えてリンのオキソ酸も接触させることにより、ZWPの粒子表面で、過酸化水素及びリンのオキソ酸が安定な状態で存在し、ZWPの粒子表面に化学吸着することでZWPの粒子表面が改質されるため、溶媒としてプロピレンカーボネートを用いた場合にも、適度の粘度を有するペーストが得られるものと考えられる。
【0075】
本発明の負熱膨張材を、粉体又はペーストして用いることができる。ペーストとして用いる場合には、本発明の負熱膨張材を、溶媒及び必要によりバインダー樹脂を含有させたペーストの状態で好適に用いることができる。つまり、本発明のペーストは、本発明の負熱膨張材を含有することを特徴とする。
【0076】
ペーストに用いられる溶剤としては、当該技術分野で一般的なものが用いられる。例えば、N,N’-ジメチルホルムアミド、エチレングルコール、ジメチルスルホキシド、炭酸ジメチル、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン、カプロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、ブチルカルビトールアセテート、ポロピレングリコールジセテート、α-テルピネール、α-ターピネオール、γ-ブチルラクトン、テトラリン、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3-メトキシ-3-メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられ、これらは1種単独であっても又は2種以上の併用であってもよい。また、本発明の負熱膨張材を、プロピレンカーボネートを溶剤として用いても、適度な粘度を有するペーストを得ることができるので、本発明のペーストにおいては、溶媒としてプロピレンカーボネートが好適に用いられる。
【0077】
また、本発明のペーストには、必要に応じて、バインダー樹脂を含有させることができる。バインダー樹脂としては、当該技術分野で一般的なものが用いられる。バインダー樹脂としては、具体的には、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキシエチルセルロース、ベンジルセルロース、プロピルセルロース等のセルロース類、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート等のポリアルキレンカーボネート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロオキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸樹脂類、ポリエチレングルコール誘導体、ポリメチルスチレン等が挙げられ、これらは1種単独であっても又は2種以上の併用であってもよい。
【0078】
本発明のペースト中の負熱膨張材の含有量は、特に制限されるものではないが、多くの場合1~99体積%であり、好ましくは10~90体積%である。
【0079】
本発明の負熱膨張材を含み、更にフラックス材を含むペーストは、例えば、封着材料用ペーストや封止材料用ペーストとして好適に用いられる。
【0080】
本発明のペーストに含有させるフラックス材としては、低融点ガラスが挙げられ、当該技術分野で一般的なものが用いられる。例えば、PbO-B系、PbO-SiO-B系、Bi-B系、Bi-SiO-B系、SiO-B-Al系、SiO-B-BaO系、SiO-B-CaO系、ZnO-B-Al系、ZnO-SiO-B系、P系、SnO-P系、V-P系、V-Mo系、及びV-P-TeO等が挙がられる。
【0081】
本発明のペースト中のフラック材の含有量は、特に制限されるものではないが多くの場合10~90体積%であり、好ましくは15~90体積%である。
【0082】
封着材料用ペーストとして用いる場合は、フラックス材と負熱膨張材を含む封着材料とした際に、フラックス材が60~90体積%となり、本発明の負熱膨張材が10~40体積%となるフラックス材と負熱膨張材の配合量で、バインダー樹脂0.1~40質量%、溶剤5~40質量%となるようにペーストを調製することが好ましい。
【0083】
また、複層ガラスの封止材料用ペーストとして用いる際は、前記封着材料用ペーストに当該分野で公知のガラスビーズを含有させて用いることができる。
【0084】
本発明のペーストは、必要に応じて、更に当該分野で公知の消泡剤、分散剤、着色顔料、チキソトロピー付与剤等の添加剤を含有することができる。
【0085】
また、本発明の負熱膨張材は、負熱膨張材をそのまま粉体として用いて、正熱膨張材に含有させて複合材料とし、負熱膨張材の配合比により、負熱膨張、零熱膨張又は低熱膨張の材料として用いることもできる。
【0086】
本発明の負熱膨張材を含有させる正熱膨張材としては、各種有機化合物又は無機化合物が挙げられる。
【0087】
前記有機化合物としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリスチレン、ABS、ポリアクリレート、ポリフェニレンスルファイド、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)及びポリ塩化ビニル樹脂などを挙げることができる。
【0088】
前記無機化合物としては、例えば、金属、合金、二酸化ケイ素、グラファイト、サファイア、各種のガラス、コンクリート材料、各種のセラミックス材料などを挙げることができる。
【0089】
これらのうち、正熱膨張材は、金属、合金、ガラス、セラミックス、ゴム及び樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。本発明に係る複合材料において、本発明の負熱膨張材の添加量は、当該技術分野において、一般的な添加量を採用することができる。
【実施例0090】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0091】
(原料ZWP粒子の調製)
市販の三酸化タングステン(WO;平均粒子径1.2μm)15質量部をビーカーに入れ、更に純水84質量部を添加した。
室温(25℃)で120分間撹拌して、三酸化タングステンを含む15質量%スラリーを調製した。スラリー中の固形分の平均粒子径は1.2μmであった。
次いで、このスラリーに水酸化ジルコニウムと、85質量%リン酸水溶液と水酸化マグネシウムとを、スラリー中のZr:W:P:Mgのモル比が2.00:1.00:2.00:0.10となるように室温(25℃)で添加した後、80℃に昇温して4時間撹拌下に反応を行った。
反応終了後、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を1質量部、仕込み、スラリーを撹拌しながら、直径0.5mmのジルコニアビーズを仕込んだメディア撹拌型ビーズミルに供給し、15分間混合して湿式粉砕を行った。湿式粉砕後のスラリー中の固形分の平均粒子径は0.3μmであった。
次いで、220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度でスラリーを供給し、反応前駆体を得た。得られた反応前駆体について、X線回折を行った結果、三酸化タングステンの回折ピークのみが観察された。また、FT-IRで分析を行ったところ、950~1150cm-1に赤外線吸収ピークを持ち、この間の赤外線吸収ピークの極大値は1042cm-1に現れた。
次いで、得られた反応前駆体を1050℃で2時間にわたり大気中で焼成反応を行い、白色の焼成品を得た。
得られた焼成品をX線回折分析したところ、焼成品は単相のZr(WO)(POであった。これを原料ZWP粒子とした。
【0092】
【表1】
【0093】
(過酸化水素及びリン酸を含む溶液の調製)
30.0質量%過酸化水素水溶液と85.0質量%リン酸水溶液を10:2の重量比で混合し、過酸化水素及びリン酸を含む溶液を調製した。
【0094】
(実施例1)
上記で調製した原料ZWP粒子100.0gをチャック付きポリ袋に入れた。次いで、これに上記で調製した過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液0.40gを添加し、手作業で10分間、室温(25℃)で混合処理して、接触物を得、室温(25℃)、密閉容器内で20日間放置し、これを負熱膨張材試料とした。
【0095】
(実施例2)
上記で調製した原料ZWP粒子100.0gをチャック付きポリ袋に入れた。次いで、これに上記で調製した過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液0.60gを添加し、手作業で10分間、室温(25℃)で混合処理して、接触物を得、室温(25℃)、密閉容器内で20日間放置し、これを負熱膨張材試料とした。
【0096】
(実施例3)
上記で調製した原料ZWP粒子100.0gをチャック付きポリ袋に入れた。次いで、これに上記で調製した過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液0.80gを添加し、手作業で10分間、室温(25℃)で混合処理して、接触物を得、室温(25℃)、密閉容器内で20日間放置し、これを負熱膨張材試料とした。
【0097】
(比較例1)
上記で調製した原料ZWP粒子をそのまま用い、これを負熱膨張材試料とした。
【0098】
(比較例2)
上記で調製した原料ZWP粒子100.0gをチャック付きポリ袋に入れた。次いで、これにイオン交換水0.33gを添加し、手作業で10分間、室温(25℃)で混合処理して混合物を得、これを負熱膨張材試料とした。
【0099】
(比較例3)
上記で調製した原料ZWP粒子100.0gをチャック付きポリ袋に入れた。次いで、30.0質量%過酸化水素水溶液0.40gを添加し、手作業で10分間、室温(25℃)で混合処理して混合物を得、室温(25℃)、密閉容器内で20日間放置し、これを負熱膨張材試料とした。
【0100】
【表2】
【0101】
(線熱膨張係数の測定)
<セラミック成型体の作製>
実施例及び比較例で得られた負熱膨張材試料0.5gとバインダー(SpectroBlend 44μm Powder)0.05gを乳鉢で5分間混合し、3mm×20mmの金型に全量充填した。次いで、ハンドプレスを用いて2tの圧力で成型して粉末成型体を作製した。得られた粉末成型体を電気炉にて1100℃で2時間、大気雰囲気中で焼成して、リン酸タングステン酸ジルコニウムのセラミック成型体を得た。
<熱膨張係数の測定>
セラミック成型体の線熱膨張係数を熱機械測定装置(NETZSCH JAPAN製 TMA4000SE)で測定した。測定条件は、窒素雰囲気、荷重10g、温度範囲50℃~250℃とした。
【0102】
(プロピレンカーボネートを分散媒としたRspの値の測定)
負熱膨張材試料1.0gをピロピレンカーボネート20.0mlに加えて20分間、超音波分散処理(130W)して分散液を得た。次いで、パルスNMR装置(日本ルフト社製)で、25℃における緩和時間を測定し、下記の計算式(1)からRspの値を求めた。
Rsp=(Rav/Rb)-1 (1)
なお、式(1)中、Ravは、プロピレンカーボネート20.0mlに負熱膨張材試料1.0gを分散させた状態でパルスNMR測定したときのNMR緩和時間の逆数であり、Rbは、プロピレンカーボネート20.0mlに負熱膨張材を分散させていない状態をブランクしてパルスNMR測定したときのNMR緩和時間の逆数である。
【0103】
(プロピレンカーボネート分散粘度試験)
負熱膨張材試料20.0gとプロピレンカーボネート6.0gを秤量し、ミキサー(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)にて、回転速度2000rpmで10分間、混合して30Vol%の混合分散物(ペースト)を作成した。
この混合分散物(ペースト)の粘度を、音叉式粘度計SV-10(株式会社エー・アンド・デイ社製)で測定した。
【0104】
(水溶出試験)
負熱膨張材試料4.0gを純水10.0mLに添加し、室温(25℃)で1分間撹拌混合した後、室温(25℃)で静置した。次いで、20時間後に、上澄み液を口径0.5μmのメンブランフィルターでろ過し、得られるろ液を、過酸化水素試験紙(メルク社製、品名:Quantofix Peroxid25)で、ろ液の過酸化水素濃度を分析した。ろ液の過酸化水素濃度の判定には、過酸化水素濃度を0.5質量ppm、2質量ppm、5質量ppm、10質量ppm及び25質量ppmの濃度間隔で変化させた色見本との対比により行った。
【0105】
【表3】
【0106】
表2から明らかなように実施例で得られた負熱膨張材は、プロピレンカーボネートに混合分散させた場合に、適度な粘性のペーストを与えることが分かる。