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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038905
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】表面改質粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20230310BHJP
   C01B 15/037 20060101ALN20230310BHJP
【FI】
C01B25/45 H
C01B15/037 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116581
(22)【出願日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2021145642
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
(72)【発明者】
【氏名】畠 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 基文
(57)【要約】
【解決課題】固体の基材粒子の表面に、直に過酸化水素を長期間存在させる手段を提供すること。
【解決手段】基材粒子と、該基材粒子の表面に存在している過酸化水素及びリンのオキソ酸と、からなることを特徴とする表面改質粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材粒子と、該基材粒子の表面に存在している過酸化水素及びリンのオキソ酸と、からなることを特徴とする表面改質粒子。
【請求項2】
前記表面改質粒子は、基材粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸と、の接触物であることを特徴とする請求項1記載の表面改質粒子。
【請求項3】
前記表面改質粒子は、リン酸タングステン酸ジルコニウム粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸の溶液を混合することにより得られたものであることを特徴とする請求項1記載の表面改質粒子。
【請求項4】
前記リンのオキソ酸が、リン酸であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の表面改質粒子。
【請求項5】
基材粒子を、過酸化水素及びリンのオキソ酸に接触させて、表面改質粒子を得る接触工程を有することを特徴とする表面改質粒子の製造方法。
【請求項6】
前記基材粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液と、を混合することにより、前記接触工程を行うことを特徴とする請求項5に記載の表面改質粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材粒子の表面に過酸化水素が存在している粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過酸化物はその酸化性から酸化剤、漂白剤、殺菌剤等として広く用いられている。特に過酸化水素は酸素と水に分解することから環境負荷が少ない。また、過酸化水素は溶液だけでなく、使用の際の取り扱いが容易であるということから、各種化合物に過酸化水素を付加させ、固体状の過酸化水素付加物として広く利用され、代表的には過炭酸等がある。
【0003】
これらの固体状の過酸化水素付加物は多くの場合、湿分に対して不安定であり、水分の存在下に容易に酸素を放出して分解することから、過酸化水素付加物の粒子表面を種々の物質で被覆して安定化する方法が提案されている(例えば、特許文献1~2等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2011―506256号公報
【特許文献2】特表2009―544556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のような固体状の過酸化水素の性質のため、固体表面に直に過酸化水素を存在させようとしても、時間が経つにつれ、固体表面の過酸化水素が分解してしまう。そして、従来、過酸化水素を固体粒子の表面に直に長期間存在させる方法は知られていなかった。
【0006】
ここで、固体粒子の表面に、直に過酸化水素を長期間存在させることができれば、固体粒子の表面の改質が可能となる。また、抗菌、抗ウイルス剤、消臭剤としての効果なども期待できる。
【0007】
従って、本発明の目的は、固体の基材粒子の表面に、直に過酸化水素を長期間存在させる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、基材粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を接触させて、基材粒子の表面に、過酸化水素と共にリンのオキソ酸を存在させることにより、基材粒子表面に、直に過酸化水素を長期間存在させることができること等を見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
即ち、本発明が提供する第一の発明は、基材粒子と、該基材粒子の表面に存在している過酸化水素及びリンのオキソ酸と、からなることを特徴とする表面改質粒子である。
【0010】
また、本発明が提供しようとする第二の発明は、基材粒子を、過酸化水素及びリンのオキソ酸に接触させて、表面改質粒子を得る接触工程を有することを特徴とする表面改質粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材粒子の表面に、直に過酸化水素が長期間存在している表面改質粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明の表面改質粒子は、基材粒子と、該基材粒子の粒子表面に存在している過酸化水素及びリンのオキソ酸と、からなる表面改質粒子である。そして、本発明の表面改質粒子では、過酸化水素は、基材粒子の表面に、直に存在している。なお、本発明において、「過酸化水素が、基材粒子の表面に、直に存在している」とは、基材粒子の表面に存在している過酸化水素が、安定化用の被膜等で被覆されることなく、基材粒子表面に存在していることを指す。過酸化水素が、安定化用の被膜で被覆されることなく、直に基材粒子表面に存在していることは、例えば、後述する水溶出試験で過酸化水素が溶出することで確認
することができる。
【0013】
本発明の表面改質粒子に係る基材粒子は、粒子表面に過酸化水素及びリンのオキソ酸を存在させる対象物である。つまり、本発明の表面改質粒子に係る基材粒子は、本発明の表面改質粒子の製造の際に、過酸化水素及びリンのオキソ酸と接触される粒子である。
【0014】
基材粒子は、特に制限されず、粒子表面に存在している過酸化水素と反応して、過酸化水素の分解を促すものでなく、且つ、粒子表面に、過酸化水素及びリンのオキソ酸が存在できるものであればよい。
【0015】
基材粒子としては、無機化合物粒子、有機化合物粒子、無機有機複合体等が挙げられる。
【0016】
無機化合物からなる基材粒子としては、例えば、下記一般式(1)で表されるリン酸タングステン酸ジルコニウム粒子(以下、「ZWP粒子」とも記載する。)が挙げられる。
Zr(WO(PO (1)
(式中、xは、1.7≦x≦2.3、好ましくは1.8≦x≦2.2であり、yは、0.85≦y≦1.15、好ましくは0.90≦y≦1.10であり、zは、1.7≦z≦2.3、好ましくは1.8≦z≦2.2である。)
【0017】
基材粒子に係るZWP粒子には、一般式(1)で表されるリン酸タングステン酸ジルコニウムに含有されている元素であるP、W、Zr及びO以外の元素(以下、これを「副成分元素」ともいう。)が含有されていてもよい。
【0018】
副成分元素としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属元素、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属元素、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Yb等の希土類元素、Al、Zn、Ga、Cd、In、Sn、Pb、Bi等の遷移金属以外の他の金属元素、B、Si、Ge、Sb、Te等の半金属元素、S等の非金属元素、F、Cl、Br、I等のハロゲン元素等が挙げられる。これらの元素は、ZWP粒子中に1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0019】
ZWP粒子における副成分元素の含有量は、ZWP粒子に対して、好ましくは0.1~3.0質量%であり、更に好ましくは0.2~2.0質量%である。副成分元素が2種類以上含まれる場合は、副成分元素の含有量は、副成分元素の合計質量に基づいて算出される。副成分元素の含有量は、例えば、蛍光X線分析装置等の測定装置を用いて、粉末プレス法、溶融ガラスビード法等の方法で測定される。
【0020】
ZWP粒子が副成分元素としてMg及びAlの双方を含む場合、ZWP粒子中のAl元素の含有量は、基材粒子に対して、好ましくは100~6000質量ppm、更に好ましくは1000~5000質量ppmである。また、ZWP粒子中のMg元素の含有量は、基材粒子に対して、好ましくは0.10~3.0質量%、更に好ましくは0.22~2.0質量%である。
【0021】
ZWP粒子は、ジルコニウム源、タングステン源、リン源及び必要に応じて副成分元素源を反応させることにより得られる。基材粒子の製造方法は、特に制限されず、例えば、(i)リンのオキソ酸ジルコニウム、酸化タングステン及びMgO等の反応促進剤を湿式ボールミルで混合し、次いで、得られる混合物を焼成する方法(例えば、特開2005-35840号公報参照)、(ii)塩化ジルコニウム等のジルコニウム源、タングステン酸アンモニウム等のタングステン源及びリンのオキソ酸アンモニウム等のリン源を湿式混合し、次いで、得られる混合物を焼成する方法(例えば、特開2015-10006号公報参照)、(iii)酸化ジルコニウム、酸化タングステン及びリンのオキソ酸二水素アンモニウムを含む混合物を焼成する方法(例えば、Materials Research Bulletin、44(2009)、p.2045-2049参照)、(iv)タングステン化合物、リンとジルコニウムとを含む無定形の化合物及び必要により添加される副成分元素源との混合物を反応前駆体として、該反応前駆体を焼成する方法(例えば、国際公開第2017/061402号パンフレット参照)等が挙げられる。
【0022】
無機化合物からなる基材粒子としては、他に、シリカ、多孔質シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、Cu2-xZn(xは、0<x<2である。)、β-ユークリプタイト、タングステン酸ジルコニウム(ZrW)、ビスマス・ニッケル・鉄酸化物、MSrBaZnSi(Mは、Na、Ca、のいずれか一種以上、x+y+z=1、0<x≦0.5、0.3<z<1.0とする。)、リン酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、コージェライト、ガラス、金属炭化物、金属窒化物等が挙げられる。
【0023】
有機化合物からなる基材粒子としては、粒状の有機ポリマー、例えば、天然繊維、天然樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリブテン、ポリアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルニトリル、ポリアセタール、アイオノマー、ポリエステル等の熱可塑性樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられ、これらを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
無機有機複合体からなる基材粒子としては、スチレンシリカ複合樹脂、アクリルシリカ複合樹脂、架橋したアルコキシリルポリマー-アクリル樹脂、ポリオルガノシロキサン-シリカ等が挙げられる。
【0025】
基材粒子の平均粒子径は、好ましくは0.02~50μm、特に好ましくは0.1~30μmである。なお、本発明において、平均粒子径は、レーザー回折散乱法により求められるD50であり、レーザー回折散乱法により測定される体積頻度粒度分布測定により求められる積算50%(D50)の粒径を指す。
【0026】
基材粒子のBET比表面積は、好ましくは0.1~50m/g、特に好ましくは0.1~20m/gである。
【0027】
基材粒子の粒子形状は、特に制限されるものではなく、例えば、球状、粒状、板状、鱗片状、ウィスカー状、棒状、フィラメント状、1若しくは2以上の稜線を有する不規則な砕石状(以下、これを「破砕状」ともいう。)、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0028】
本発明の表面改質粒子では、基材粒子の表面に、過酸化水素が存在している。
【0029】
本発明の表面改質粒子において、過酸化水素の存在量は、基材粒子100.0質量部に対し、0.01~15.0質量部、好ましくは0.03~10.0質量部である。本発明の表面改質粒子における過酸化水素の存在量が、上記範囲にあることにより、基材粒子の表面が効率良く過酸化水素により被覆される。
【0030】
本発明の表面改質粒子において、表面に存在する過酸化水素は、室温(25℃)、密閉容器内で、20日以上放置した後に、後述する水溶出試験において、ろ過後にろ液に含まれる過酸化水素が、過酸化水素試験紙(メルク社製、品名Quantofix Peroxid25)で検出されることが、過酸化水素を粒子表面に安定に存在させることができる点で好ましい。
【0031】
本発明の表面改質粒子では、基材粒子の表面に、過酸化水素と共にリンのオキソ酸が存在している。過酸化水素がリンのオキソ酸と共に存在していることにより、基材粒子の表面で、過酸化水素がリンのオキソ酸との相互作用で安定化されるので、本発明の表面改質粒子では、基材粒子の表面に、過酸化水素が長期間存在できる。
【0032】
リンのオキソ酸は、リン原子に水酸基(-OH)とオキシ基(=O)とが結合した構造を有する化合物を指す。リンのオキソ酸としては、リン酸(HPO)、ホスホン酸(HPO)、ホスフィン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、ポリリン酸等が挙げられる。これらのうち、リンのオキソ酸としては、リン酸が、取り扱い易く且つ安価に入手できる点で好ましい。
【0033】
本発明の表面改質粒子において、リンのオキソ酸の存在量は、基材粒子100.0質量部に対し、0.005~20.0質量部、好ましくは0.02~18.0質量部である。本発明の表面改質粒子におけるリンのオキソ酸の存在量が、上記範囲にあることにより、基材粒子の表面が効率良くリンのオキソ酸により被覆される。
【0034】
本発明の表面改質粒子における過酸化水素とリンのオキソ酸の存在割合であるが、過酸化水素100.0質量部に対し、リンのオキソ酸が、10.0~200.0質量部、好ましくは20.0~180.0質量部である。過酸化水素とリンのオキソ酸の存在割合が、上記範囲にあることにより、基材粒子表面での過酸化水素水の安定性が高くなる。
【0035】
本発明の表面改質粒子としては、基材粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸と、の接触物が挙げられる。
【0036】
基材粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸と、を接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、(a)過酸化水素を含む溶液と、リンのオキソ酸を含む溶液と、を別々に調製し、それぞれを、基材粒子と、接触させる方法、(b)基材粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液を接触させる方法等が挙げられる。
【0037】
水溶出試験において、本発明の表面改質粒子の過酸化水素溶出濃度は、好ましくは0.5~10質量ppmである。
【0038】
なお、本発明において、水溶出試験は、以下の方法にて行われる。先ず、本発明の表面改質粒子4.0gを純水10.0mLに添加し、室温(25℃)で1分間撹拌混合した後、室温(25℃)で静置する。次いで、20時間後に、上澄み液を口径0.5μmのメンブランフィルターでろ過し、得られるろ液を、過酸化水素試験紙(メルク社製、品名:Quantofix Peroxid25)で分析し、ろ液の過酸化水素濃度を測定する。ろ液の過酸化水素濃度の評価は、過酸化水素濃度を0.5質量ppm、2質量ppm、5質量ppm、10質量ppm及び25質量ppmの濃度間隔で変化させた色見本との対比により行われる。
【0039】
本発明の表面改質粒子では、過酸化水素及びリンのオキソ酸が、基材粒子の表面の化合物と種々の結合を形成して、粒子表面に存在している。過酸化水素及びリンのオキソ酸と、基材粒子の表面との結合は、水素結合、イオン結合、配位結合のいずれでもよい。そして、本発明の表面改質粒子では、過酸化水素とリンのオキソ酸との相互作用により、過酸化水素がリンのオキソ酸によって安定化され、過酸化水素が基材粒子の表面に安定な状態で存在することができる。
【0040】
次いで、 本発明の表面改質粒子の製造方法について説明する。
本発明の表面改質粒子の製造方法は、基材粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を接触させて、表面改質粒子を得る接触工程を有することを特徴とする表面改質粒子の製造方法である。
【0041】
本発明の表面改質粒子の製造方法に係る接触工程は、基材粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を接触させる工程である。接触工程に係る基材粒子及びリンのオキソ酸は、本発明の表面改質粒子に係る基材粒子及びリンのオキソ酸と同様である。
【0042】
接触工程において、基材粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、(a)過酸化水素水と、リンのオキソ酸の水溶液と、を別々に調製し、それぞれを基材粒子と接触させる方法、(b)基材粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液を接触させる方法等が挙げられる。これらのうち、(b)の方法が、工程が簡素化できるため好ましい。
【0043】
(a)の方法としては、(a1)基材粒子に、先に過酸化水素を含む溶液を接触させた後、基材粒子と過酸化水素との接触物を回収し、次いで、回収した基材粒子と過酸化水素水との接触物に、リンのオキソ酸を含む溶液を接触させる方法、(a2)基材粒子に、先にリンのオキソ酸を含む溶液を接触させた後、基材粒子とリンのオキソ酸との接触物を回収し、次いで、回収した基材粒子とリンのオキソ酸との接触物に、過酸化水素を含む溶液を接触させる方法、(a3)基材粒子に、先に過酸化水素を含む溶液を接触させた後、次いで、接触物を回収することなく、基材粒子と過酸化水素水との接触物に、リンのオキソ酸を含む溶液を接触させる方法、(a4)基材粒子に、先にリンのオキソ酸を含む溶液を接触させた後、次いで、接触物を回収することなく、基材粒子とリンのオキソ酸との接触物に、過酸化水素を含む溶液を接触させる方法が挙げられる。
【0044】
接触工程に用いる過酸化水素及びリンのオキソ酸は、工業的に入手できるものであれば、特に制限されない。また、過酸化水素及びリンのオキソ酸は、水溶液として用いられてもよい。
【0045】
(b)の方法に係る過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液は、過酸化水素及びリンのオキソ酸を水溶媒に溶解した水溶液である。なお、水溶媒は、水単独でも、水と親水性溶媒との混合溶媒であってよい。
【0046】
(b)の方法に係る過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液中の過酸化水素の含有量は、好ましくは10.0~50.0質量%、特に好ましくは20.0~40.0質量%である。過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液中の過酸化水素の含有量が、上記範囲にあることにより、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができる点で好ましい。
【0047】
(b)の方法に係る過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液中のリンのオキソ酸の含有量は、好ましくは1.0~40.0質量%、特に好ましくは5.0~30.0質量%である。過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液中のリンのオキソ酸の含有量が、上記範囲にあることにより、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができる点で好ましい。
【0048】
(b)の方法に係る過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液中の過酸化水素とリンのオキソ酸の含有割合は、リンのオキソ酸100.0質量部に対して過酸化水素が、好ましくは70.0~130.0質量部、特に好ましくは80.0~120.0質量部である。過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液中の過酸化水素とリンのオキソ酸の含有割合が、上記範囲にあることにより、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができる点で好ましい。
【0049】
(b)の方法において、基材粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液を接触させる方法としては、例えば、基材粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸とを含む溶液と、を混合する方法が挙げられる。
【0050】
(b)の方法において、基材粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液を接触させるときの基材粒子と過酸化水素の量比は、基材粒子100.0質量部に対して過酸化水素が、好ましくは0.01~1.5質量部、特に好ましくは0.03~1.0質量部である。基材粒子と過酸化水素の量比が、上記範囲にあることにより、基材粒子の表面が効率良く過酸化水素により被覆される。なお、上記基材粒子と過酸化水素の量比において、過酸化水素の量は、過酸化水素溶液の量を指すのではなく、過酸化水素自体の量を指す。
【0051】
(b)の方法において、基材粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液を接触させるときの基材粒子とリンのオキソ酸の量比は、基材粒子100.0質量部に対してリンのオキソ酸が、好ましくは0.005~2.0質量部、特に好ましくは0.02~1.8質量部である。基材粒子とリンのオキソ酸の量比が、上記範囲にあることにより、基材粒子の表面が効率良くリンのオキソ酸により被覆される。なお、上記基材粒子と過酸化水素の量比において、リンのオキソ酸の量は、リンのオキソ酸の溶液の量を指すのではなく、リンのオキソ酸自体の量を指す。
【0052】
(b)の方法において、基材粒子100.0重量部に対して、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液を、好ましくは0.01~2.5質量部、特に好ましくは0.01~2.0質量部混合することが、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができ、また、特に乾燥処理を行う必要がなく接触処理後のものをそのまま用いることができる点で好ましい。
【0053】
(a)の方法に係る過酸化水素を含む溶液は、過酸化水素が水溶媒に溶解した水溶液であり、また、リンのオキソ酸を含む溶液は、リンのオキソ酸を水溶媒に溶解した水溶液である。なお、水溶媒は、水単独でも、水と親水性溶媒との混合溶媒であってよい。
【0054】
(a)の方法に係る過酸化水素を含む溶液中の過酸化水素の含有量は、好ましくは10.0~50.0質量%、特に好ましくは20.0~40.0質量%である。過酸化水素を含む溶液中の過酸化水素の含有量が、上記範囲にあることにより、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができる点で好ましい。
【0055】
(a)の方法に係るリンのオキソ酸を含む溶液中のリンのオキソ酸の含有量は、好ましくは1.0~40.0質量%、特に好ましくは5.0~30.0質量%である。リンのオキソ酸を含む溶液中のリンのオキソ酸の含有量が、上記範囲にあることにより、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができる点で好ましい。
【0056】
(a)の方法に係る過酸化水素を含む溶液中の過酸化水素とリンのオキソ酸を含む溶液中のリンのオキソ酸の割合は、リンのオキソ酸100.0質量部に対して過酸化水素が、好ましくは70.0~130.0質量部、特に好ましくは80.0~120.0質量部である。過酸化水素を含む溶液中の過酸化水素とリンのオキソ酸を含む溶液中のリンのオキソ酸の割合が、上記範囲にあることにより、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができる点で好ましい。
【0057】
(a)の方法において、基材粒子に、過酸化水素を含む溶液又はリンのオキソ酸を含む溶液を接触させる方法としては、例えば、基材粒子と、過酸化水素を含む溶液又はリンのオキソ酸とを含む溶液と、を混合する方法が挙げられる。
【0058】
(a)の方法において、基材粒子に、過酸化水素を含む溶液を接触させるときの基材粒子と過酸化水素の量比は、基材粒子100.0質量部に対して過酸化水素が、好ましくは0.01~1.5質量部、特に好ましくは0.03~1.0質量部である。基材粒子と過酸化水素の量比が、上記範囲にあることにより、基材粒子の表面が効率良く過酸化水素により被覆される。なお、上記基材粒子と過酸化水素の量比において、過酸化水素の量は、過酸化水素溶液の量を指すのではなく、過酸化水素自体の量を指す。
【0059】
(a)の方法において、基材粒子に、リンのオキソ酸を含む溶液を接触させるときの基材粒子とリンのオキソ酸の量比は、基材粒子100.0質量部に対してリンのオキソ酸が、好ましくは0.005~2.0質量部、特に好ましくは0.02~1.8質量部である。基材粒子とリンのオキソ酸の量比が、上記範囲にあることにより、基材粒子の表面が効率良くリンのオキソ酸により被覆される。なお、上記基材粒子と過酸化水素の量比において、リンのオキソ酸の量は、リンのオキソ酸の溶液の量を指すのではなく、リンのオキソ酸自体の量を指す。
【0060】
(a)の方法において、基材粒子100.0重量部に対して、過酸化水素を含む溶液及びリンのオキソ酸を含む溶液を、それらの合計で、好ましくは0.05~5.0質量部、特に好ましくは0.1~4.5質量部混合することが、作業性が良く効率的に接触処理を行うことができ、また、特に乾燥処理を行う必要がなく接触処理後のものをそのまま用いることができる点で好ましい。
【0061】
(a)及び(b)の方法において、基材粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸との接触物は、添加する溶液量により、粉末状のもの、スラリー状のもの、ペースト状のもの、固体状のものになる。このため、基材粒子に、過酸化水素及びリンのオキソ酸を接触させるための混合処理は、得られる混合物の性状に応じて、常法の湿式又は乾式の混合処理を適宜選択して行えばよい。
【0062】
湿式混合に用いられる装置としては、均一な混合物(接触物)が得られるものであれば特に制限はないが、例えば、スターラー、撹拌羽による攪拌機、3本ロール、ボールミル、ディスパーミル、ホモジナイザー、振動ミル、サンドグラインドミル、アトライター及び強力撹拌機等の装置が挙げられる。湿式混合処理は、上記で例示した機械的手段による混合処理に限定されるものではない。
【0063】
乾式で混合処理を行う方法としては、機械的手段にて行うことが均一な混合物が得られる点で好ましい。乾式混合に用いられる装置としては、均一な混合物が得られるものであれば特に制限はないが、例えば、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサー、アイリッヒミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、V型混合機、コニカルブレンダー、ジェットミル、コスモマイザー、ペイントシェイカー、ビーズミル、ボールミル等が挙げられる。なお、実験室レベルでは、家庭用ミキサーや手作業でも十分である。
【0064】
(a)及び(b)の方法において、基材粒子を、過酸化水素及びリンのオキソ酸に接触させるときの温度は、特に制限はないが、多くの場合は10~50℃、好ましくは20~40℃である。なお、(a)の方法の場合は、リンのオキソ酸を含む溶液又は過酸化水素を含む溶液を、それぞれ基材粒子に接触させる時の温度を示す。
【0065】
(a)及び(b)の方法において、基材粒子を、過酸化水素及びリンのオキソ酸に接触させるときの時間は、本製造方法において臨界的でなく、多くの場合、10分以上、好ましくは15~60分である。なお、(a)の方法の場合は、リンのオキソ酸を含む溶液又は過酸化水素を含む溶液で、それぞれ基材粒子に接触させる時の時間を示す。
【0066】
このようにして、接触工程では、基材粒子を、過酸化水素及びリンのオキソ酸に接触させることにより、基材粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸との接触物である表面改質粒子を得る。
【0067】
本発明の表面改質粒子の製造方法において、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液の添加量の好適な範囲、あるいは、過酸化水素を含む溶液及びリンのオキソ酸を含む溶液の添加量の好適な範囲では、基材粒子に対し、過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液の添加量が少ない、あるいは、過酸化水素を含む溶液及びリンのオキソ酸を含む溶液の添加量が少ないので、基材粒子と、(a)又は(b)の方法で接触させて得られる接触物の性状は、基本的に乾燥を行わないでも粉体の状態を保持している。
【0068】
そのため、本発明の表面改質粒子の製造方法では、接触工程を行った後、必要に応じて、乾燥処理を行えばよい。また、本発明の表面改質粒子の製造方法では、更に必要に応じ、粉砕、解砕、分級等を行ってもよい。また、乾燥処理を行う場合は、基材粒子と、過酸化水素及びリンのオキソ酸との接触物を、そのまま全量乾燥処理してもよい。
【0069】
そして、本発明の表面改質粒子の製造方法では、接触工程を行うことにより、あるいは、接触工程を行った後、必要に応じて、乾燥処理、粉砕、解砕、分級等を行うことにより、表面改質粒子を得る。
【0070】
基材粒子に過酸化水素のみを接触させた場合には、接触後、粒子表面の過酸化水素が時間の経過と共に分解するため、基材粒子の粒子表面に、過酸化水素を長期間存在させておくことができない。
【0071】
それに対して、本発明では、基材粒子に、過酸化水素に加えてリンのオキソ酸も一緒に接触させることにより、粒子表面に、過酸化水素と共にリンのオキソ酸を存在させることができる。そして、粒子表面に存在している過酸化水素とリンのオキソ酸は相互作用により、過酸化水素がリンのオキソ酸により安定化されるため、基材粒子の粒子表面で、過酸化水素が安定な状態で存在することができる。
【実施例0072】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0073】
(基材粒子の調製)
市販の三酸化タングステン(WO;平均粒子径1.2μm)15質量部をビーカーに入れ、更に純水84質量部を添加した。
室温(25℃)で120分間撹拌して、三酸化タングステンを含む15質量%スラリーを調製した。スラリー中の固形分の平均粒子径は1.2μmであった。
次いで、このスラリーに水酸化ジルコニウムと、85質量%リン酸水溶液と水酸化マグネシウムとを、スラリー中のZr:W:P:Mgのモル比が2.00:1.00:2.00:0.10となるように室温(25℃)で添加した後、80℃に昇温して4時間撹拌下に反応を行った。
反応終了後、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を1質量部、仕込み、スラリーを撹拌しながら、直径0.5mmのジルコニアビーズを仕込んだメディア撹拌型ビーズミルに供給し、15分間混合して湿式粉砕を行った。湿式粉砕後のスラリー中の固形分の平均粒子径は0.3μmであった。
次いで、220℃に設定したスプレードライヤーに、2.4L/hの供給速度でスラリーを供給し、反応前駆体を得た。得られた反応前駆体について、X線回折を行った結果、三酸化タングステンの回折ピークのみが観察された。また、FT-IRで分析を行ったところ、950~1150cm-1に赤外線吸収ピークを持ち、この間の赤外線吸収ピークの極大値は1042cm-1に現れた。
次いで、得られた反応前駆体を1050℃で2時間にわたり大気中で焼成反応を行い、白色の焼成品を得た。
得られた焼成品をX線回折分析したところ、焼成品は単相のZr(WO)(POであった。これを基材粒子とした。
【0074】
【表1】
【0075】
(過酸化水素及びリン酸を含む溶液の調製)
30.0質量%過酸化水素水溶液と85.0質量%リン酸水溶液を10:2の重量比で混合し、過酸化水素及びリン酸を含む溶液を調製した。
【0076】
(実施例1)
上記で調製した基材粒子100.0gをチャック付きポリ袋に入れた。次いで、これに上記で調製した過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液0.40gを添加し、手作業で10分間、室温(25℃)で混合処理して、接触物を得、室温(25℃)、密閉容器内で20日間放置し、これを表面改質粒子試料とした。
【0077】
(実施例2)
上記で調製した基材粒子100.0gをチャック付きポリ袋に入れた。次いで、これに上記で調製した過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液0.60gを添加し、手作業で10分間、室温(25℃)で混合処理して、接触物を得、室温(25℃)、密閉容器内で20日間放置し、これを表面改質粒子試料とした。
【0078】
(実施例3)
上記で調製した基材粒子100.0gをチャック付きポリ袋に入れた。次いで、これに上記で調製した過酸化水素及びリンのオキソ酸を含む溶液0.80gを添加し、手作業で10分間、室温(25℃)で混合処理して、接触物を得、室温(25℃)、密閉容器内で20日間放置し、これを表面改質粒子試料とした。
【0079】
(比較例1)
上記で調製した基材粒子をそのまま用い、これを表面改質粒子試料とした。
【0080】
(比較例2)
上記で調製した基材粒子100.0gをチャック付きポリ袋に入れた。次いで、これにイオン交換水0.33gを添加し、手作業で10分間、室温(25℃)で混合処理して混合物を得、これを表面改質粒子試料とした。
【0081】
(比較例3)
上記で調製した基材粒子100.0gをチャック付きポリ袋に入れた。次いで、30.0質量%過酸化水素水溶液0.40gを添加し、手作業で10分間、室温(25℃)で混合処理して混合物を得、室温(25℃)、密閉容器内で20日間放置し、これを表面改質粒子試料とした。
【0082】
【表2】
【0083】
(水溶出試験)
表面改質粒子試料4.0gを純水10.0mLに添加し、室温(25℃)で1分間撹拌混合した後、室温(25℃)で静置した。次いで、20時間後に、上澄み液を口径0.5μmのメンブランフィルターでろ過し、得られるろ液を、過酸化水素試験紙(メルク社製、品名:Quantofix Peroxid25)で、ろ液の過酸化水素濃度を分析した。ろ液の過酸化水素濃度の判定には、過酸化水素濃度を0.5質量ppm、2質量ppm、5質量ppm、10質量ppm及び25質量ppmの濃度間隔で変化させた色見本との対比により行った。
【0084】
【表3】