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特開2023-38910核酸配列改変用組成物および核酸配列の標的部位を改変する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038910
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】核酸配列改変用組成物および核酸配列の標的部位を改変する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230310BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230310BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C07K19/00 ZNA
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123946
(22)【出願日】2022-08-03
(62)【分割の表示】P 2021145726の分割
【原出願日】2021-09-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム「電界誘起気泡による植物種非依存なハイスループット分子導入」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】502251061
【氏名又は名称】株式会社ベックス
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】中村 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 壮
(72)【発明者】
【氏名】小橋 雄一
(72)【発明者】
【氏名】森泉 康裕
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】PAM配列、PFS配列に依存しない核酸配列改変用組成物および核酸配列の標的部位を改変する方法を提供する。
【解決手段】RNA2および融合タンパク質3を含む核酸配列改変用組成物であって、RNAは、核酸配列の標的部位の5’側または3’側の配列にハイブリダイズし得るハイブリダイズ領域21と、融合タンパク質をガイドするガイド領域22と、を含み、ガイド領域は、融合タンパク質と複合体を形成する認識領域23を含み、融合タンパク質は、RNAの認識領域を認識し、認識領域と複合体を形成する結合ドメイン31と(但し、結合ドメインがCasタンパク質群のRNA認識領域を含むことを除く。)、核酸配列の標的部位を改変する改変ドメイン32と、を含む核酸配列改変用組成物。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNAおよび融合タンパク質を含む核酸配列改変用組成物であって、
RNAは、
核酸配列の標的部位の5’側または3’側の配列にハイブリダイズし得るハイブリダイズ領域と、
融合タンパク質をガイドするガイド領域と、
を含み、
ガイド領域は、融合タンパク質と複合体を形成する認識領域を含み、
融合タンパク質は、
RNAの認識領域を認識し、認識領域と複合体を形成する結合ドメインと(但し、結合ドメインがCasタンパク質群のRNA認識領域を含むことを除く。)、
核酸配列の標的部位を改変する改変ドメインと、
を含む
核酸配列改変用組成物。
【請求項2】
ガイド領域が、認識領域を2つ含む
請求項1に記載の核酸配列改変用組成物。
【請求項3】
ハイブリダイズ領域の一端部に接続した第1相補領域を含み、
第1相補領域がガイド領域の一端部側と相補対を形成することで、ハイブリダイズ領域およびガイド領域が間接的に接続する
請求項1または2に記載の核酸配列改変用組成物。
【請求項4】
ガイド領域が、ステムループを含む
請求項1~3の何れか一項に記載の核酸配列改変用組成物。
【請求項5】
結合ドメインが、NovaのRNA結合領域を含み、
改変ドメインが、ゲノムDNAを切断するFokIの開裂領域を含む
請求項1~4の何れか一項に記載の核酸配列改変用組成物。
【請求項6】
核酸配列が、ゲノムDNAである
請求項1~5の何れか一項に記載の核酸配列改変用組成物。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載のRNAを転写するための鋳型となる核酸、および、
請求項1~6の何れか一項に記載の融合タンパク質を翻訳するための鋳型となる核酸、
を含む
核酸配列改変用組成物。
【請求項8】
請求項1~6の何れか一項に記載の核酸配列改変用組成物を形成するための、RNA。
【請求項9】
請求項7に記載の核酸配列改変用組成物を形成するための、RNAを転写するための鋳型となる核酸。
【請求項10】
請求項1~6の何れか一項に記載の核酸配列改変用組成物を形成するための、融合タンパク質。
【請求項11】
請求項7に記載の核酸配列改変用組成物を形成するための、融合タンパク質を翻訳するための鋳型となる核酸。
【請求項12】
核酸配列の標的部位を改変する方法であって、該方法は、
請求項1~7の何れか一項に記載の核酸配列改変用組成物を細胞に導入する導入工程と、
改変ドメインが核酸配列の標的部位を改変する改変工程と、
を含む
核酸配列の標的部位を改変する方法。
【請求項13】
導入工程の前に、核酸配列の標的部位の5’側または3’側の配列にハイブリダイズし得るハイブリダイズ領域を特定するハイブリダイズ領域特定工程を含む
請求項12に記載の核酸配列の標的部位を改変する方法。
【請求項14】
一つの標的部位を改変するために必要なハイブリダイズ領域が一つである、
請求項12または13に記載の核酸配列の標的部位を改変する方法。
【請求項15】
ガイド領域が、認識領域を2つ含む
請求項14に記載の核酸配列の標的部位を改変する方法。
【請求項16】
導入工程の前に、核酸配列の改変に必要な数の融合タンパク質と複合体を形成できるように、認識領域の数およびRNA配列を少なくとも設計するガイド領域設計工程を含む、
請求項15に記載の核酸配列の標的部位を改変する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、核酸配列改変用組成物および核酸配列の標的部位を改変する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な生物種において、ゲノムDNAの標的部位を改変する技術であるゲノム編集が注目されている。ゲノム編集方法としては、例えば、(1)ジンクフィンガーDNA結合ドメイン(Zinc finger array)と非特異的なDNA切断ドメイン(Nuclease domain)とを連結した、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を用い、宿主の植物細胞または昆虫細胞にDNA中の標的遺伝子座において組換えを行う方法(特許文献1、図1A参照)、(2)植物病原菌キサントモナス属が有するDNA結合モジュールである転写活性化因子様(TAL)エフェクターと、DNAエンドヌクレアーゼ(Nuclease domain)と、を連結したTALENを用いて、特定のヌクレオチド配列内又はそれに隣接する部位で、標的遺伝子を切断・修飾する方法(特許文献2、図1B参照)、が知られている。
【0003】
しかしながら、図1Aに示すように、上記特許文献1に記載の方法はゲノムDNAを認識するドメイン(Zinc finger array)が2つ必要であり、それぞれ、タンパク質で形成されている。そして、ゲノムDNAを認識する2つのドメインは、それぞれ、二本鎖DNAの標的部位から3’側を認識するように設計されている。したがって、ゲノムDNAの標的部位を改変する際には、配列が異なる一対のZinc finger arrayの設計が必要であるという問題がある。
【0004】
また、図1Bに示すように、上記特許文献2に記載の方法は、ゲノムDNAを認識するドメイン(TAL effector)の方向が、二本鎖DNAの標的部位から5’側である点で特許文献1に記載の方法と異なる。しかしながら、特許文献1に記載の方法と同様に、ゲノムDNAの標的部位を改変する際には、配列が異なる一対のTAL effectorの設計が必要であるという問題がある。
【0005】
一方、ゲノムDNAの標的部位を改変する技術として、近年、CRISPR/Cas9が注目されている(特許文献3~6参照)。CRISPR/Cas9は、図2に示すように、改変したいDNAと相補的な配列を有するガイドRNAと、ガイドRNAと複合体を形成するキャス9タンパク質で構成されている。CRISPR/Cas9のガイドRNAは、2本鎖DNAの一方の鎖のみを認識して相補対を形成すればよい。したがって、上記特許文献1および2と異なり、ゲノムDNAの標的部位を改変するNuclease domainをガイドするガイドRNAは一つでよいというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4968498号公報
【特許文献2】特表2013-513389号公報
【特許文献3】特表2015-527889号公報
【特許文献4】特表2016-500262号公報
【特許文献5】特表2016-501531号公報
【特許文献6】特表2016-501532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3~6に記載のCRISPR/Cas9を用いた方法は、図2に示すように、ゲノムDNAのPAM配列(5’-NGG-3’等)の3~4塩基上流側の塩基がCas9エンドヌクレアーゼにより切断される。つまり、CRISPR/Cas9を用いた方法は、ゲノムDNAの標的部位がPAM配列の近傍に制限されるという問題がある。また、Cas13を用いることでRNAを改変することも知られているが、その場合も、標的部位がPFS(Protospacer Flanking Site)配列の近傍に制限されるという問題がある。
【0008】
本出願における開示は、上記問題点を解決するためになされたもので、鋭意研究を行ったところ、(1)ハイブリダイズ領域および認識領域を含むRNAと、(2)認識領域と複合体を形成する融合タンパク質と、を用いることで、PAM配列、PFS配列に依存することなく、核酸配列を改変できることを新たに見出した。すなわち、本出願における開示の目的は、PAM配列、PFS配列に依存しない核酸配列改変用組成物および核酸配列の標的部位を改変する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)RNAおよび融合タンパク質を含む核酸配列改変用組成物であって、
RNAは、
核酸配列の標的部位の5’側または3’側の配列にハイブリダイズし得るハイブリダイズ領域と、
融合タンパク質をガイドするガイド領域と、
を含み、
ガイド領域は、融合タンパク質と複合体を形成する認識領域を含み、
融合タンパク質は、
RNAの認識領域を認識し、認識領域と複合体を形成する結合ドメインと(但し、結合ドメインがCasタンパク質群のRNA認識領域を含むことを除く。)、
核酸配列の標的部位を改変する改変ドメインと、
を含む
核酸配列改変用組成物。
(2)ガイド領域が、認識領域を2つ含む
上記(1)に記載の核酸配列改変用組成物。
(3)ハイブリダイズ領域の一端部に接続した第1相補領域を含み、
第1相補領域がガイド領域の一端部側と相補対を形成することで、ハイブリダイズ領域およびガイド領域が間接的に接続する
上記(1)または(2)に記載の核酸配列改変用組成物。
(4)ガイド領域が、ステムループを含む
上記(1)~(3)の何れか一つに記載の核酸配列改変用組成物。
(5)結合ドメインが、NovaのRNA結合領域を含み、
改変ドメインが、ゲノムDNAを切断するFokIの開裂領域を含む
上記(1)~(4)の何れか一つに記載の核酸配列改変用組成物。
(6)核酸配列が、ゲノムDNAである
上記(1)~(5)の何れか一つに記載の核酸配列改変用組成物。
(7)上記(1)~(6)の何れか一つに記載のRNAを転写するための鋳型となる核酸、および、
上記(1)~(6)の何れか一つに記載の融合タンパク質を翻訳するための鋳型となる核酸、
を含む
核酸配列改変用組成物。
(8)上記(1)~(6)の何れか一つに記載の核酸配列改変用組成物を形成するための、RNA。
(9)上記(7)に記載の核酸配列改変用組成物を形成するための、RNAを転写するための鋳型となる核酸。
(10)上記(1)~(6)の何れか一つに記載の核酸配列改変用組成物を形成するための、融合タンパク質。
(11)上記(7)に記載の核酸配列改変用組成物を形成するための、融合タンパク質を翻訳するための鋳型となる核酸。
(12)核酸配列の標的部位を改変する方法であって、該方法は、
上記(1)~(7)の何れか一項に記載の核酸配列改変用組成物を細胞に導入する導入工程と、
改変ドメインが核酸配列の標的部位を改変する改変工程と、
を含む
核酸配列の標的部位を改変する方法。
(13)導入工程の前に、核酸配列の標的部位の5’側または3’側の配列にハイブリダイズし得るハイブリダイズ領域を特定するハイブリダイズ領域特定工程を含む
上記(12)に記載の核酸配列の標的部位を改変する方法。
(14)一つの標的部位を改変するために必要なハイブリダイズ領域が一つである、
上記(12)または(13)に記載の核酸配列の標的部位を改変する方法。
(15)ガイド領域が、認識領域を2つ含む
上記(14)に記載の核酸配列の標的部位を改変する方法。
(16)導入工程の前に、核酸配列の改変に必要な数の融合タンパク質と複合体を形成できるように、認識領域の数およびRNA配列を少なくとも設計するガイド領域設計工程を含む、
上記(15)に記載の核酸配列の標的部位を改変する方法。
【発明の効果】
【0010】
本出願で開示する核酸配列改変用組成物および核酸配列の標的部位を改変する方法により、PAM配列、PFS配列に依存することなく核酸配列を改変できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aはジンクフィンガーヌクレアーゼを用いたゲノム編集方法の概略を示す概略図である。図1BはTALENを用いたゲノム編集方法の概略を示す概略図である。
図2図2はCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集方法の概略を示す概略図である。
図3図3Aおよび図3Bは、改変用組成物1の概略を示す概略図である。
図4図4Aおよび図4Bは、改変用組成物1の変形例の概略を示す概略図である。
図5図5は実施例2の概略を示す図である。
図6図6は図面代用写真で、実施例2の電気泳動写真である。
図7図7は図面代用写真で、実施例2のレーン3の矢印に示すバンドを確認するための電気泳動写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、核酸配列改変用組成物(以下、「改変用組成物」と記載することがある。)および核酸配列の標的部位を改変する方法(以下、「改変方法」と記載することがある。)の実施形態について、詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一又は類似の符号が付されている。そして、同一又は類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0013】
また、図面において示す各構成の位置、大きさ、範囲などは、理解を容易とするため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、本出願における開示は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0014】
(核酸配列改変用組成物の実施形態)
図3および図4を参照して、実施形態に係る改変用組成物1について説明する。図3Aおよび図3Bは、改変用組成物1の概略を示す概略図である。図4Aおよび図4Bは、改変用組成物1の変形例の概略を示す概略図である。なお、以下の説明において、図3Aおよび図3Bに共通する説明は、単に「図3」と記載することがある。
【0015】
改変用組成物1は、RNA2および融合タンパク質3を含む。図3に示す例では、RNA2は、2重らせん構造を有するゲノムDNA4の標的部位(改変部位)41の5’側のゲノムDNA4にハイブリダイズし得るハイブリダイズ領域21と、融合タンパク質3をガイドするガイド領域22を含んでいる。なお、図3に示す例では、ハイブリダイズ領域21は標的部位41の5’側でゲノムDNA4にハイブリダイズする。代替的に、図示は省略するが、標的部位41の3’側でゲノムDNA4にハイブリダイズするようにハイブリダイズ領域21を形成してもよい。ガイド領域22は、ハイブリダイズ領域21に隣接して配置される。また、ガイド領域22は、融合タンパク質3の結合ドメイン31を認識することで融合タンパク質3と複合体を形成する認識領域23を含む。なお、図3および図4には、改変用組成物1が改変する対象がゲノムDNA4である例が示されている。代替的に、改変用組成物1は、核酸配列であるRNAを改変してもよい。以下の説明では、改変用組成物1が改変する対象がゲノムDNA4である例について説明するが、改変ドメイン32に関する説明以外の部分は、改変用組成物1が改変する対象がゲノムDNA4の場合でもRNA4の場合でも同じである。改変ドメイン32に関する説明以外の部分は、「ゲノムDNA4」を「RNA4」と読み替えればよい。
【0016】
融合タンパク質3は、RNA2の認識領域23と複合体を形成する結合ドメイン31と、ゲノムDNA4の標的部位41を改変する改変ドメイン32と、を含む。
【0017】
ハイブリダイズ領域21の長さは、ゲノムDNA4の標的部位41の5’側または3’側でRNA2の位置決めができる長さであれば特に制限はない。ハイブリダイズ領域21が短いと、オフターゲットのリスクがある。したがって、オフターゲットのリスクを考慮しながら、長さを適宜設定すればよい。限定されるものではないが、例えば、15bp以上、20bp以上、25bp以上、30bp以上、35bp以上、40bp以上、45bp以上とすればよい。一方、RNA2の位置決めとの観点では、ハイブリダイズ領域21の長さに特に制限はないが、ハイブリダイズ領域21が長いほどRNA2の製造コストが高くなる。したがって、限定されるものではないが、例えば、6kbp以下、5kbp以下、4kbp以下、3kbp以下、2kbp以下、1kbp以下、750bp以下、500bp以下、300bp以下、200bp以下、100bp以下、90bp以下、80bp以下、70bp以下、60bp以下、50bp以下とすればよい。
【0018】
ガイド領域22の長さは、融合タンパク質3のサイズ、ハイブリダイズ領域21の端部から標的部位41までの距離等を考慮しながら適宜調整すればよい。また、ガイド領域22は、ステムループを含んでいてもよい。図3Aに示す例では、一対の融合タンパク質3(より具体的には、一対の改変ドメイン32)で標的部位41を改変するため、ガイド領域22は2つの認識領域23を含んでいる。ガイド領域22がステムループを含む場合、2つの認識領域23を立体構造的に近接して配置できる。図3Aに示す例では、例えば、認識領域23がループ部分に配置されるように、2つのステムループを形成すればよい。なお、前記ステムループの数と認識領域23が配置される部分は単なる例示である。一対の改変ドメイン32が標的部位41を改変できる位置関係に配置されれば、ステムループの数は、1つ、3つ、4つであってもよい。また、認識領域23はステムに配置されていてもよいし、ステムとループに跨る様に配置されてもよい。認識領域23の間の長さ(ガイド領域22の一部の長さ)についても、融合タンパク質3のサイズ等を考慮しながら、適宜調整すればよい。
【0019】
認識領域23は、融合タンパク質3の結合ドメイン31と複合体を形成できるように、融合タンパク質3の種類に基づきRNA配列を決めればよい。認識領域23のRNA配列と結合ドメイン31の組合せについては後述する。
【0020】
なお、図3Aは、ゲノムDNA4の標的部位41に一対の融合タンパク質3の改変ドメイン32を配置し、標的部位41を改変する例を示している。したがって、ガイド領域22には、2つの認識領域23が含まれる。代替的に、図1Aおよび図1Bに示すように、一対の改変用組成物1を用い、標的部位41に改変ドメイン32が対向するように一対のハイブリダイズ領域21をゲノムDNA4にハイブリダイズしてもよい。ハイブリダイズ領域21を2つ設計する必要があることからコストアップ等にはなるが、技術的には可能である。更に代替的に、融合タンパク質3の改変ドメイン32が一つで標的部位41を改変できる場合は、図3Bに示すように、ガイド領域22に含まれる認識領域23は一つでもよい。ガイド領域22に含まれる認識領域23が一つの場合でも、ガイド領域22はステムループを含んでいてもよい。また、認識領域23は、ループ部分に配置されてもよいし、ステム部分に配置されてもよいし、ステムとループに跨る様に配置されてもよい。なお、図3Aおよび図3Bには、認識領域23がガイド領域22の一部である例が示されている。代替的に、認識領域23の長さがガイド領域22の長さと一致してもよい。本明細書において、ガイド領域22が認識領域23を含むとは、認識領域23がガイド領域22の一部である場合、および、認識領域23の長さがガイド領域22の長さと一致する場合、の何れも包含することを意味する。
【0021】
融合タンパク質3は、(1)RNA2のガイド領域22に含まれる特異的配列(認識領域23)を認識し、認識領域23と複合体を形成する結合ドメイン31と、(2)ゲノムDNA4の標的部位41を改変する改変ドメイン32と、を含めば特に制限はない。なお、本明細書において「融合タンパク質」とは、上記のとおり結合ドメイン31と改変ドメイン32を含むように人為的に合成したタンパク質であって、天然には存在しないタンパク質である。融合タンパク質3は、例えば、認識領域23と複合体を形成できるタンパク質と、ゲノムDNA4を改変するタンパク質を融合すればよい。なお、公知のタンパク質を用いて融合タンパク質3を作製する場合、公知のタンパク質の全アミノ酸配列を含む必要はない。例えば、RNA2の認識領域23に結合するタンパク質の場合、認識領域23に結合する領域のみを用いてもよい。また、ゲノムDNA4を改変するタンパク質の場合、ゲノムDNA4を改変する機能を有する領域のみを用いてもよい。
【0022】
融合タンパク質3は、公知の方法で作製すればよい。例えば、設計した融合タンパク質3のアミノ酸配列に基づき核酸配列を設計し、無細胞タンパク質合成系を用いて合成すればよい。或いは、プロモーター等を含めて核酸配列を設計し、当該設計した核酸配列をプラスミドに導入し、細胞を用いて融合タンパク質3を合成してもよい。上記のとおり、本明細書において「融合タンパク質」と記載した場合、天然タンパク質自体は除かれる。
【0023】
上記のとおり、融合タンパク質3は、結合ドメイン31および改変ドメイン32を含めば特に制限はなく、必要に応じて、任意の配列を追加してもよい。例えば、結合ドメイン31および改変ドメイン32を連結するためのリンカー配列や、融合タンパク質3を細胞の核へ輸送するための目印となる核局在化配列(nuclear localization signal/sequence:NLS)を追加してもよい。NLSは公知の配列を用いればよい。NLSを追加する場合は、NLSが奏する機能が得られれば配置する位置に特に制限はない。例えば、アミノ酸配列でみて、上流側から結合ドメイン31→改変ドメイン32の順に融合タンパク質3が形成される場合、NLSは結合ドメイン31の上流側、結合ドメイン31と改変ドメイン32との間、改変ドメイン32の下流側に配置すればよい。また、上流側から改変ドメイン32→結合ドメイン31の順に融合タンパク質3が形成される場合、NLSは改変ドメイン32の上流側、改変ドメイン32と結合ドメイン31との間、結合ドメイン31の下流側に配置すればよい。
【0024】
また、本明細書において、核酸配列(より具体的には、ゲノムDNA4またはRNA4)の標的部位41を「改変」するとは、二本鎖DNA4または一本鎖(二本鎖)RNA4の標的部位41をオリジナルの状態とは物理的に及び/又は機能的に異なる状態にすることを意味する。換言すると、改変ドメイン32が、核酸配列を当該「異なる状態」にする機能を有することを意味する。
【0025】
ゲノムDNA4の標的部位41を物理的に異なる状態(物理的に異なれば、結果として機能も異なる場合が多い)にする改変ドメイン32としては、限定されるものではないが、例えば、以下の機能を有するものが挙げられる。
(1)二本鎖DNAの糖とリン酸の間のホスホジエステル結合を加水分解してヌクレオチドとするヌクレアーゼ(nuclease)
(2)二本鎖DNAの片鎖にニックを導入するニッカーゼ(nickase)
(3)DNAのメチル基(例えば、5-メチルシトシン)を脱メチル化するDNA脱メチル化酵素
(4)DNAの塩基に含まれるNH2をc=Oに変化する脱アミノ化酵素
(5)上記(3)および(4)以外のDNAが有する基を置換する酵素
【0026】
ゲノムDNA4の標的部位41を機能的に異なる状態にする改変ドメイン32としては、限定されるものではないが、例えば、以下の機能を有するものが挙げられる。
(6)転写活性化因子
(7)転写抑制因子
【0027】
上記(1)~(7)に記載の改変ドメイン32のより具体的な例を以下に示す。なお、特許文献および非特許文献に記載の酵素は、改変ドメイン32としてそのまま用いてもよい。或いは、記載した酵素がゲノムDNA4を改変する機能を奏する範囲内であれば、一部領域が欠損していてもよいし、追加されていてもよい。
【0028】
(1)ヌクレアーゼ
(1-1)FokI(特許第5266210号公報;T. Sakuma et al.,“Repeating pattern of non-RVD variations in DNA-binding modules enhances TALEN activity”,Scientific Reports 3,Article number:3379 (2013))
(1-2)FirmCutヌクレアーゼ(国際公開第2020/045281号公報)
【0029】
(2)ニッカーゼ
(2-1)RuvC ヌクレアーゼ・ドメイン D10A点変異(M. Jinek et al.,“A Programmable Dual-RNA-Guided DNA Endonuclease in Adaptive Bacterial Immunity”, Science (2012),Vol.337,Issue 6096,pp.816-821;和研薬株式会社から入手も可能である。)
本酵素は、Cas9の10番目のアミノ酸をアスパラギン酸(D)からアラニン(A)に変えたものである。Cas9に2つあるヌクレアーゼドメインのうちRuvC様ドメインのヌクレアーゼ活性が消失するため、D10A変異体はニッカ―ゼとして作用し、二本鎖DNA切断ではなく、一本鎖DNA切断(ニック)を生じる。ダブルニッキング法では、二本鎖DNAの標的配列に対して各々の鎖まで案内する2つのsgRNAとCas9ニッカ―ゼを作用させる。
(2-2)HNH ヌクレアーゼ・ドメイン H840A点変異(上記(2-1)に記載の文献参照。和研薬株式会社から入手も可能である。)
上記(2-1)に記載の酵素は、DNAのtarget Strandのみを切断するが、(2-2)に記載の酵素はnon-target strandを切断する。
【0030】
(3)DNA脱メチル化酵素
(3-1)メチル化シトシンヒドロキシラーゼTet1(S. Morita et al.,“Targeted DNA demethylation in vivo using dCas9-peptide repeat and scFv-TET1 catalytic domain fusions”, Nature Biotechnology 34,p:1060-1065 (2016))
【0031】
(4)脱アミノ化酵素
(4-1)アデノシンデアミナーゼ(C. Li et al.,“Expanded base editing in rice and wheat using a Cas9-adenosine deaminase fusion”,Genome Biology 19,Article number:59(2018))
(4-2)シチジンデアミナーゼ(A. Komor et al.,“Programmable editing of a target base in genomic DNA without double-stranded DNA cleavage”,nature 533,p:420-424(2016))
【0032】
(5)その他の酵素
ヒストンアセチル基転移酵素、ヒストン脱アセチル化酵素、ヒストンリジンメチル基転移酵素、ヒストンリジン脱メチル化酵素等。
【0033】
(6)転写活性化因子
(6-1)Vp64(L. Lowder et al.,“Robust Transcriptional Activation in Plants Using Multiplexed CRISPR-Act2.0 and mTALE-Act Systems”,Molecular Plant,Volume 11,Issue 2,2018,p:245-256)
(6-2)Vp16(上記(6-1)に記載の文献参照。)
【0034】
(7)転写抑制因子
(7―1)KRAB(M. Boettcher et al.,“Choosing the Right Tool for the Job: RNAi, TALEN, or CRISPR”,Molecular Cell,2015 21;58(4):575-85)
(7-2)SRDX(L. Lowder et al.,“A CRISPR/Cas9 Toolbox for Multiplexed Plant Genome Editing and Transcriptional Regulation”,Plant Physiology,2015,169(2):971-85)
【0035】
また、上記(1)~(7)と一部重複するが、特表2015-527889号公報に記載の「トランスポザーゼドメイン、インテグラーゼドメイン、リコンビナーゼドメイン、リゾルバーゼドメイン、インベルターゼドメイン、プロテアーゼドメイン、DNAメチルトランスフェラーゼドメイン、DNAヒドロキシメチラーゼドメイン、DNAデメチラーゼドメイン、ヒストンアセチラーゼドメイン、ヒストンデアセチラーゼドメイン、ヌクレアーゼドメイン、リプレッサードメイン、アクチベータードメイン、核局在化シグナルドメイン、転写-調節タンパク質(または転写複合体リクルート)ドメイン、細胞取り込み活性関連ドメイン、核酸結合ドメイン、抗体提示ドメイン、ヒストン修飾酵素、ヒストン修飾酵素のリクルーター;ヒストン修飾酵素のインヒビター、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、ヒストンキナーゼ、ヒストンホスファターゼ、ヒストンリボシラーゼ(ribosylase)、ヒストンデリボシラーゼ(deribosylase)、ヒストンユビキチナーゼ(ubiquitinase)、ヒストンデユビキチナーゼ、ヒストンビオチナーゼ(biotinase)およびヒストンテイルプロテアーゼ」等を用いてもよい。特表2015-527889号公報の記載事項は、参照により本明細書に含まれる。
【0036】
上記例示した改変ドメイン32を形成できる酵素の内、図3Aに示すように2つの改変ドメイン32でゲノムDNA4を改変する酵素、図3Bに示すように1つの改変ドメイン32でゲノムDNA4を改変する酵素、或いは、4つの改変ドメインでゲノムDNA4を改変する酵素は、例えば、以下の種類が挙げられる。
【0037】
<1つの改変ドメイン32>
RuvC ヌクレアーゼ・ドメイン D10A点変異、HNH ヌクレアーゼ・ドメイン H840A点変異
<2つの改変ドメイン32>
FokI、アデノシンデアミナーゼ、シチジンデアミナーゼ、Vp16
<4つの改変ドメイン32>
VP64
【0038】
また、RNA4の標的部位41を機能的に異なる状態にする改変ドメイン32としては、限定されるものではないが、例えば、二本鎖RNA特異的アデノシンデアミナーゼであるAdenosine Deaminase Acting on RNA(ADAR)(Marina et al.,“Evaluation of Engineered CRISPR-Cas-Mediated Systems for Site-Specific RNA Editing”, Cell Reports 33,108350,November 3,2020)等が挙げられる。
【0039】
結合ドメイン31および認識領域23の配列は、RNA2の認識領域23を認識して認識領域23と複合体を形成できるタンパク質およびRNA配列の組合せであれば特に制限はない。したがって、ガイド領域22が2つ以上の認識領域23を含む場合、同一の結合ドメイン31に対して同一のRNA配列を有する認識領域23を含んでもよし、RNA配列が異なる認識領域23を含んでもよい。同じ理由により、ガイド領域22が2つ以上の認識領域23を含む場合、同一のRNA配列(認識領域23)に対して同一の結合ドメイン31が複合体を形成してもよいし、異なる結合ドメイン31が複合体を形成してもよい。
【0040】
結合ドメイン31および認識領域23の配列は、限定されるものではないが、例えば、以下の組合せが挙げられる。
(1)Nova:5’-UCAY-3’(K. Jensen et al.,“The tetranucleotide UCAY directs the specific recognition of RNA by the Nova K-homology 3 domain”,PNAS,2000,97(11),5740-5745。以下、本論文を「非特許文献1」と記載することがある。)
なお、上記5’-UCAY-3’は、ステムループのループ部分に形成されている。
(2)上記非特許文献1のFIG.6に記載の組合せ(以下の表1参照)。
【表1】
【0041】
(3)TLS:5’-GGUG-3’(Wang et al.,“Induced ncRNAs allosterically modify RNA-binding proteins in cis to inhibit transcription”,nature,Vol 454,3,July 2008)
【0042】
また、RNA配列は明記されていないが、RNAに結合するタンパク質として以下のタンパク質が挙げられる。RNAと結合することは公知であることから、RNA配列は適宜設計すればよい。
(4)RNG105(N. Shiinaet et al.,“A Novel RNA-Binding Protein in Neuronal RNA Granules:Regulatory Machinery for Local Translation”,The Journal of Neuroscience,April 27,2005・25(17):4420-4434)
【0043】
(5)NAPOR(W. ZHANGet et al.,“Region-specific alternative splicing in the nervous system: Implications for regulation by the RNA-binding protein NAPOR”,RNA(2002),8:671-685).Cambridge University Press)
【0044】
(6)DAZLおよびRBFOX(D. Sharma1 et al.,“The kinetic landscape of an RNA-binding protein in cells”,Nature,Vol 591,4 March 2021)
【0045】
(7)Sam68(P. Bielli et al.,“The RNA-binding protein Sam68 is a multifunctional player in human cancer”,Endocrine-Related Cancer (2011) 18 R91-R102)
【0046】
(8)Spi-1/PU.1(M. Hallier et al.,“The Transcription Factor Spi-1/PU.1 Binds RNA and Interferes with the RNA-binding Protein p54nrb”),THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,Vol.271,No.19,pp.11177-11181,1996)
【0047】
(9)PUM2 Protein、QKI Protein、IGF2BP Protein(M. Hafner et al.,“Transcriptome-wide Identification of RNA-Binding Protein and MicroRNA Target Sites by PAR-CLIP”,Cell,141,129-141,2010)
【0048】
上記した結合ドメイン31および改変ドメイン32の具体例を示すために引用した各論文の記載事項、並びに、各論文が引用する論文の記載事項は、参照により本明細書に含まれる。
【0049】
なお、Casタンパク質群であるCas9等は、ゲノムDNA4のPAM配列を認識することは公知である。また、PAM配列はヌクレアーゼが由来する細菌種やヌクレアーゼの型/亜型によって異なることも公知である(以下の表2参照)。更に、Casタンパク質群であるCas13はRNAのPFS配列を認識することは公知である。したがって、本出願で開示する結合ドメイン31は、PAM配列、PFS配列を認識して結合するタンパク質、および、当該タンパク質のPAM配列またはPFS配列を認識する領域を含むことは除かれる。代替的に、結合ドメイン31が、Casタンパク質群のRNA認識領域を含むことを除くと換言してもよい。Casタンパク質群としては、例えば、Cas9、Cpf1、Cas3、Cas8a-c、Cas10、Cse1、Csy1、Csn2、Cas4、Csm2、またはCm5等が挙げられる。一方、Casタンパク質群の内、核酸配列を改変する領域は、改変ドメイン32として含まれてもよい。
【0050】
【表2】
【0051】
第1の実施形態に係る改変用組成物を用いることで、以下の効果を奏する。
(1)RNA2は、ゲノムDNA4またはRNA4とハイブリダイズするハイブリダイズ領域21と、ガイド領域22とを含む。そして、ガイド領域22は、融合タンパク質3と複合体を形成する認識領域23を1つ以上含む。したがって、図3Aおよび図3Bに示すように、改変ドメイン32が改変機能を有するのが1量体または2量体(若しくはそれ以上)を問わず、ハイブリダイズ領域21は一つでよい。そのため、ハイブリダイズ領域21の設計が容易になる。
(2)特許文献3~6に記載のCRISPR/Cas9は、ゲノムDNA4の標的部位41がPAM配列近傍に制限される。また、Cas13の場合も、RNA4の標的部位41がPFS配列の近傍に制限される。一方、第1の実施形態に係る改変用組成物1は、ゲノムDNA4またはRNA4の配列の制限を受けずに標的部位41を決めることができる。
(3)ガイド領域22に含まれる認識領域23の数を任意に設計できる。したがって、融合タンパク質3の種類に応じてガイド領域22を設計できることから、ガイド領域22の設計の自由度が向上する。
(4)融合タンパク質3は、天然タンパク質(および一部を改変したタンパク質)と異なり、結合ドメイン31として機能する領域および改変ドメイン32として機能する領域を選択して融合することで形成できる。したがって、従来の天然タンパク質(および一部を改変したタンパク質)と比較して、融合タンパク質3のサイズを小さくできる。更に、融合タンパク質3の設計の自由度が向上する。
【0052】
(核酸配列改変用組成物の変形例1)
次に、図4Aおよび図4Bを参照して、実施形態に係る改変用組成物1の変形例1を説明する。図3に示す例では、RNA2のハイブリダイズ領域21およびガイド領域22は、直接接続している。一方、図4Aおよび図4Bに示す変形例では、RNA2は、ハイブリダイズ領域21の一端部に接続した第1相補領域24を含んでいる。そして、第1相補領域24がガイド領域22の一端部側と相補対を形成することで、ハイブリダイズ領域21およびガイド領域22が間接的に接続する。
【0053】
実施形態に係る改変用組成物1の場合、ハイブリダイズ領域21およびガイド領域22が直接接続しているため、RNA2を一体的に形成する必要がある。一方、変形例1では、標的部位41に応じてハイブリダイズ領域21および第1相補領域24のみ設計すればよい。したがって、ガイド領域22および融合タンパク質3を大量生産することでコストダウンを図ることができる。また、改変用組成物1を提供する事業者はガイド領域22および融合タンパク質3のみを提供し、ユーザー側でハイブリダイズ領域21および第1相補領域24を設計・合成することもできるので、速やかに実験に着手することもできる。
【0054】
(核酸配列改変用組成物の変形例2)
次に、実施形態に係る改変用組成物1の変形例2を説明する。上記実施形態に係る改変用組成物1および変形例1では、RNA2および融合タンパク質3で改変用組成物1を形成している。代替的に、変形例2として、RNA2を転写するための鋳型となる核酸(以下、「RNA2用鋳型」と記載することがある。)、および、融合タンパク質3を翻訳するための鋳型となる核酸(以下、「融合タンパク質3用鋳型」と記載することがある。)、を用いて改変用組成物1を形成してもよい。RNA2用鋳型および融合タンパク質3用鋳型は、DNAまたはRNAを用いることができる。RNA2用鋳型は、RNA2を転写するための配列を少なくとも含んでいればよい。また、融合タンパク質3用鋳型は、融合タンパク質3を翻訳するための配列を少なくとも含んでいればよい。RNA2用鋳型および融合タンパク質3用鋳型は、必要に応じて、プロモーターや翻訳促進用の非翻訳領域を含んでいてもよい。
【0055】
より具体的には、RNA2用鋳型および融合タンパク質3用鋳型がDNAの場合、RNA2用鋳型の上流にRNA転写用のプロモーターを連結し、融合タンパク質3用鋳型の上流にタンパク質翻訳用のプロモーターを連結する。そして、RNA2用鋳型および融合タンパク質3用鋳型を細胞に導入することで、細胞内で、(1)RNA2用鋳型からRNA2が転写され、(2)融合タンパク質3用鋳型からmRNAが転写され、転写されたmRNAから融合タンパク質3が翻訳され、(3)細胞内で改変用組成物1が形成される。
【0056】
また、RNA2用鋳型および融合タンパク質3用鋳型がDNAの場合は、プロモーターと共に同一のプラスミドベクターに挿入されてもよいし、異なるプラスミドベクターに挿入されてもよい。或いは、プラスミドベクターに換え、RNA2用鋳型および融合タンパク質3用鋳型は、プロモーターと共にアデノ随伴ウイルス(AAV)等のDNA型ウイルスに挿入されてもよい。プラスミドベクターまたはDNA型ウイルスを細胞に導入することで、細胞内で改変用組成物1が形成される。なお、プラスミドベクターまたはDNA型ウイルスが既にプロモーターを含んでいる場合は、プロモーターを含まないRNA2用鋳型および融合タンパク質3用鋳型をプラスミドベクターまたはDNA型ウイルスに挿入すればよい。
【0057】
RNA2用鋳型および融合タンパク質3用鋳型がRNAの場合は、DNA型ウイルスに換え、レンチウイルス等のRNA型ウイルスを用いればよい。RNA型ウイルスを用いた場合、細胞に導入されたRNA型ウイルスに挿入されているRNA2用鋳型および融合タンパク質3用鋳型から、先ずDNAが逆転写される。そして、逆転写されたDNAからRNA2が転写され、また、逆転写されたDNAからmRNAが転写され当該mRNAから融合タンパク質3が翻訳される。なお、融合タンパク質3用鋳型は、mRNAであってもよい。融合タンパク質3用鋳型がmRNAの場合、mRNAにプロモーターを連結する必要はない。mRNAを細胞内に導入することで、細胞内でmRNAから融合タンパク質3を直接翻訳できる。
【0058】
上記のとおり、鋳型となる核酸の種類に応じて、最終的にRNA2および融合タンパク質3が得られる経路が異なる。本明細書において「RNAを転写するための鋳型となる核酸」と記載した場合、鋳型となる核酸は、直接RNA2を転写する鋳型(鋳型DNA)に加え、間接的にRNA2を転写する鋳型(鋳型RNA)も含む概念である。同様に、「融合タンパク質を翻訳するための鋳型となる核酸」と記載した場合、鋳型となる核酸は、直接融合タンパク質3を翻訳する鋳型(mRNA)に加え、間接的に融合タンパク質3を翻訳する鋳型(鋳型DNA、鋳型RNA)も含む概念である。
【0059】
なお、RNA2用鋳型および融合タンパク質3用鋳型は、細胞内で最終的に改変用組成物1が形成されれば、種類(鋳型DNA、鋳型RNA、mNRA)および形態(ベクターやウイルスへの挿入の有無)が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0060】
RNA転写用のプロモーター、タンパク質翻訳用のプロモーター、プラスミド、DNA型ウイルス、RNA型ウイルスは、上記機能を奏するものであれば特に制限はなく、公知のものを用いればよい。限定されるものではないが、例えば、RNA転写用のプロモーターとしては、U6 Promoter等が挙げられる。タンパク質翻訳用のプロモーターとしては、CMV Promoter等が挙げられる。プラスミドとしては、哺乳類用としてpcDNA3.1;バクテリア用としてpBluescriptII KS、pET系;酵母用としてpPIC系;等が挙げられる。DNA型ウイルスとしては、上記アデノ随伴ウイルス(AAV)が挙げられる。RNA型ウイルスとしては、上記レンチウイルス等が挙げられる。なお、変形例2に係る改変用組成物1は、改変用組成物形成用の組成物と換言してもよい。
【0061】
(核酸配列改変用組成物の変形例3)
次に、実施形態に係る改変用組成物1の変形例3を説明する。上記実施形態に係る改変用組成物1および変形例1では、RNA2および融合タンパク質3を組み合わせて改変用組成物1を形成している。また、変形例2では、RNA2用鋳型および融合タンパク質3用鋳型を組み合わせて改変用組成物1を形成している。代替的に、変形例3では、改変用組成物1を形成する組み合わせ要素の一方のみを提供し、別々に提供された要素を使用の際に組み合すことで、改変用組成物1を形成してもよい。
【0062】
より具体的には、(1)実施形態に係る改変用組成物1および変形例1に記載のRNA2のみを、改変用組成物1を形成するためのRNA2として提供、(2)実施形態に係る改変用組成物1および変形例1に記載の融合タンパク質3のみを、改変用組成物1を形成するための融合タンパク質3として提供、(3)変形例2に記載のRNA2用鋳型のみを、改変用組成物1を形成するためのRNA2用鋳型として提供、(4)変形例2に記載の融合タンパク質3用鋳型のみを、改変用組成物1を形成するための融合タンパク質3用鋳型として提供、すればよい。RNA2および融合タンパク質3は、実施形態に係る改変用組成物1および変形例1で既に説明済みで、RNA2用鋳型および融合タンパク質3用鋳型は、変形例2で既に説明済みである。したがって、重複記載となることから具体的な記載は省略する。
【0063】
(核酸配列の標的部位を改変する方法の実施形態)
改変方法は、上記改変用組成物の実施形態および変形例で説明した改変用組成物1を細胞に導入する導入工程と、改変ドメイン32が核酸配列4の標的部位41を改変する改変工程と、を含む。
【0064】
細胞は、核酸配列4を含むものであれば特に制限はない。例えば、ヒトまたは非ヒト動物細胞;植物細胞;昆虫細胞;大腸菌、酵母、カビなどの微生物細胞;などが挙げられる。また、細胞は、単一細胞でもよいし、細胞同士が凝集して塊になったもの(スフェロイド)であってもよい。本明細書において「細胞」と記載した場合、単一の細胞および複数の細胞が凝集した塊の何れの概念も包含する。
【0065】
導入工程は、改変用組成物1を細胞に導入できれば特に制限はなく、エレクトロポレーション等、公知の方法を用いればよい。また、変形例2に係る改変用組成物としてDNAウイルスまたはRNAウイルスを用いた場合は、公知の方法により細胞に感染させればよい。なお、変形例2に係る改変用組成物1を用いた場合は、導入工程の後に、細胞内においてRNA2および融合タンパク質3が形成される工程を含む。
【0066】
改変工程では、細胞に導入された改変用組成物1のハイブリダイズ領域21が核酸配列4にハイブリダイズし、改変ドメイン32が核酸配列4の標的部位41を改変する。なお、上記のとおり、一つの標的部位41を改変するために必要なハイブリダイズ領域21は一つであってもよいし、2つであってもよい。しかしながら、本出願で開示する改変用組成物1は、一つのガイド領域22に2つ以上の認識領域23を含むことができる。したがって、一つの標的部位41を改変するために必要なハイブリダイズ領域21が一つでも、核酸配列4の改変に必要な数の融合タンパク質3と複合体を形成できるように認識領域23を設計できる。一つの標的部位41を改変するために必要なハイブリダイズ領域21を一つにした場合には、製造コストの削減や実験の利便性が向上できる。
【0067】
改変方法は、導入工程の前に、核酸配列4の標的部位41の5’側または3’側の配列にハイブリダイズし得るハイブリダイズ領域21を特定するハイブリダイズ領域特定工程を含んでもよい。ハイブリダイズ領域特定工程で特定したハイブリダイズ領域21を含めてRNA2全体を作製してもよい。また、ユーザー側でハイブリダイズ領域21と第1相補領域24を作製し、別途提供されたガイド領域22および融合タンパク質3と組み合わせることで、改変用組成物1を作製し改変方法を実施してもよい。
【0068】
改変方法は、導入工程の前に、核酸配列4の改変に必要な数の融合タンパク質3と複合体を形成できるように、認識領域23の数およびRNA配列を少なくとも設計するガイド領域設計工程を含んでもよい。ガイド領域設計工程は、必要に応じて、2以上の認識領域23を連結するリンカー配列の設計を含んでもよい。一つのガイド領域22が、2つ以上の融合タンパク質3と複合体を形成し、当該融合タンパク質3に含まれる改変ドメイン32が核酸配列4を改変することは知られていない。したがって、上記ガイド領域設計工程は新規工程である。
【0069】
また、DNAは自己修復機能を有する。したがって、核酸配列4がゲノムDNAの場合、改変工程実施後に、必要に応じて標的部位41へのDNA導入工程を実施してもよい。改変ドメイン32がFokI等のゲノムDNA4を切断する酵素の場合、改変工程によりゲノムDNA4の標的部位41は切断され物理的に異なる状態に改変される。その結果、ゲノムDNA4は、機能を喪失する場合がある(ノックアウト)。一方、切断後のゲノムDNA4は自己修復機能により、切断箇所を修復する場合がある。ssODN、ssDNA、または、dsDNAを改変組成物1と同時に細胞に導入することで、改変工程で切断されたゲノムDNA4の標的部位41を修復する際に、切断箇所に所望のDNA断片を挿入できる。所望のDNA断片を挿入することで、ゲノムDNA4に意図した機能を追加することもできる(ノックイン)。
【0070】
なお、本出願における開示は、上記の実施形態に制限されない。本出願における開示の範囲内において、上記の各実施形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施形態の任意の構成要素の変形、または、任意の構成要素の省略が可能である。
【0071】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例0072】
<実施例1>
以下の手順により、改変用組成物1を作製した。
(1)融合タンパク質(FokI-Nova)の作製
融合タンパク質3として、FokI-Novaを作製した。FokI-Novaのアミノ酸配列をSEQ.ID.1(配列番号1)に示す。なお、以下の表3に示すSEQ.ID.1の内、下線部分(1行目右から7列目の“Q”~5行目左から11列目の“F”)がFokIの開裂領域(改変ドメイン32)を示し、二重下線部分(5行目左から28列目の“K”~6行目右から8列目の“G”)がNOVAのRNA結合領域(結合ドメイン31)を示し、太文字下線部分(6行目右から3列目の“P”~7行目左から4列目の“V”)がNLSを示す。その他は、リンカー配列等である。
【表3】
【0073】
(1-1)発現ベクターの発現用大腸菌へのクローニング
配列番号1に示すFokI-Novaを発現するように設計した発現ベクターを発現用大腸菌へクローニングした。10ng/μLの濃度に調整した発現ベクター1μLと発現用大腸菌50μLを混合し、氷上で20分静置した。その後、42℃ 1分間処理にてヒートショックを与えた後氷上に戻した。形質転換した大腸菌全量とSOC培地250μLを混合し、37℃で1時間培養した。このうち、100μLをLBプレート(抗生物質入り)に撒いて37℃で一晩培養した。
プレートから単一のコロニーをピックアップし、37℃、overnight培養した。培養液と50%グリセロール溶液を等量混合した後、-80℃で保存した。
<試薬>
・発現用大腸菌:BL21(DE3)pLysS
・抗生物質:カナマイシン
【0074】
(1-2)100mL培養・精製
大腸菌グリセロールストックから植菌し、10mlのLB培地(抗生物質入り)にて37℃、overnight培養した。100mLのLB培地(抗生物質入り)に、前培養液を10ml添加し、37℃にて培養した。OD=0.6付近であることを確認し、IPTGを終濃度1mMになるよう添加し、25℃でOver night培養した。菌体に5mlのタンパク質抽出試薬を加えて懸濁した。タンパク質抽出試薬、10μlのLysonase Bioprocessing Reagent(Novagen)を添加し、室温で5分攪拌した。遠心分離にて上清を可溶性画分として回収した。カラムにレジン1mlを入れ、沈降させた。保存液を流した後、平衡バッファーを10bed volumes入れ、レジンを平衡化した。
可溶性画分をカラムに加え、His-Tag融合タンパク質を結合させた。8bed volumesの平衡バッファーにてカラムを洗浄した。7bed volumesの平衡バッファー(10mM Imidazoleを含む)にてカラムを洗浄した。3bed volumesの溶出バッファーにてHis-Tag融合タンパク質を溶出した。
精製後のタンパク質を、EzApply(ATTO)と等量混合し、95℃ 5min熱処理を行い電気泳動サンプルを調整した。5-20% ポリアクリルアミドゲルにサンプルをアプライし、20mA 70min泳動した。FokI抗体を使用し、設計したサイズのFokI-Nova融合タンパク質を合成できたことを確認した。
<試薬>
・タンパク質抽出試薬:BugBuster Protein Extraction Reagent(Novagen)
・精製レジン:TALON Metal Affinity Resin(タカラバイオ)
・平衡バッファー:50mM sodium phosphate,300mM sodium chloride;pH7.4
・溶出バッファー:50mM sodium phosphate,300mM sodium chloride,150mM imidazole;pH7.4
・泳動バッファー:25mM Tris pH8.3,192mM Glycine,0.1% SDS
【0075】
(2)RNA2(ハイブリダイズ領域21+ガイド領域22)の作製
実施例で作製したRNA2の配列をSEQ.ID.2に示す。RNA2は、以下の手順により作製した。
(a)ハイブリダイズ領域21
pEGFP-N1(SEQ.ID.3)を鋳型に、
・Fwプライマー(eGFP Xba5P:5’-GCTCTAGAAAACGGCCACAAGTTCAGCGTGTC-3’:SEQ.ID.4)
・Rvプライマー(eGFP Spe3P:5’-TGACTAGTGGGTGTCGCCCTCGAACTTCACCT-3’:SEQ.ID.5)
を用い、290bpを増幅し、両端に制限酵素サイトを付加した。pCR2.1ベクターに、XbaIとSpeIで常法によりligationした。
なお、SEQ.ID.4および5のアンダーライン部分は、図5に示すGFPをコードするDNA配列4と相補対を形成する配列(ハイブリダイズ領域21の両端部)である。なお、図5では、紙面の都合上、配列番号の「ID.」を省略して記載する。
(b)ガイド領域22
UCAY5P(5’-TCGGATCCGCAGTCTCATCATCATTTTCATTTTGTTCGTTAGCACATTGGGCAGTCTCAT-3’:SEQ.ID.6)、および、UCAY3P(5’-GAAGATCTCAAAATGAAAATGATGATGAGACTGCCCAATGTGCTAACGAACAAAATGAAA-3’:SEQ.ID.7)をアニールし、伸長反応を行った。BamHIサイトにアニールした鋳型をBamHIとBglIIで制限酵素処理し、上記(a)の下流側に常法によりligationを行った。
(c)RNA2の合成
pCR2.1ベクターをHindIIIで制限酵素処理をおこない、in vitro Transcription T7 KitでRNAを合成した。
なお、RNA2は、認識領域23として非特許文献1のFIG.6のα2-glyR(GCAGUCUCAUCAUCAUUUUCAUUUUG:SEQ.ID.8)を、リンカーを介して2つ含む。
【0076】
【表4】
【0077】
<実施例2>
実施例1で作製した改変用組成物1を用い、以下の手順でGFPをコードするゲノムDNA4(SEQ.ID.9)の切断実験を行った。図5は実施例2の概略を示す図である。
(1)GFPのPCR増幅
SEQ.ID.3を鋳型にして、以下のプライマーを用い常法によりSEQ.ID.9に示すGFPのPCR産物を得た。
・Fwプライマー(5’-GTGAGCAAGGGCGAGGAGCTG-3’:SEQ.ID.10)
・Rvプライマー(5’-CTTGTACAGCTCGTCCATGCCG-3’:SEQ.ID.11)
【0078】
(2)上記(1)で得たPCR産物を200ng、実施例1で作製したRNAを200ng、実施例1で作製した融合タンパク質(Nova-FokI)を125ng用いた。CutSmart Bufferを用い37℃で2時間処理した後、RNase処理し、電気泳動を行った。図6に結果を示す。図6に示す電気泳動写真の各レーンは以下のとおりである。
M:100bp Marker
1:GFPのPCR産物のみ
2:GFPのPCR産物+融合タンパク質
3:GFPのPCR産物+融合タンパク質+RNA
【0079】
図6に示すように、レーン2の「GFPのPCR産物+融合タンパク質」では、FokIにより、PCR産物がランダムに切断されたことを確認した。一方、レーン3の「GFPのPCR産物+融合タンパク質+RNA」では、改変用組成物1のハイブリダイズ領域21がGFPのPCR産物にハイブリダイズすることから、所定の長さでPCR産物が切断されることを確認した。
【0080】
なお、ハイブリダイズ領域21は、図5に示すように、GFPをコードする配列(714bp)のほぼ中央付近で切断されるように設計した。そのため、図6のレーン3の矢印に示すDNA断片が、GFPをコードする配列の上流側および下流側の両方を含んでいることを確認する実験を行った。
【0081】
図6のレーン3の矢印で示すバンドを、キアゲン社の QIAquick Gel Extraction Kitによりゲル抽出した(以下、「バンド抽出物」と記載する。)。図5を参照して確認実験の概略を説明する。
(1)バンド抽出物の増幅
1:FwプライマーにSEQ.ID.10、RvプライマーにSEQ.ID.12を用いて、バンド抽出物を増幅した。増幅産物の長さは221bpである。
2:FwプライマーにSEQ.ID.13、RvプライマーにSEQ.ID.11を用いて、バンド抽出物を増幅した。増幅産物の長さは251bpである。
(2)SEQ.ID.3を鋳型にしたGFP断片の増幅
3:FwプライマーにSEQ.ID.10、RvプライマーにSEQ.ID.12を用いて、GFP断片をコードする配列を増幅した。増幅産物の長さは221bpである。
4:FwプライマーにSEQ.ID.13、RvプライマーにSEQ.ID.11を用いて、GFP断片をコードする配列を増幅した。増幅産物の長さは251bpである。
なお、SEQ.ID.12および13の配列は以下の通りである。
・SEQ.ID.12:5’-TAGCGGCTGAAGCACTGCAC-3’
・SEQ.ID.13:5’-ACAAGCAGAAGAACGGCATCAAG-3’
【0082】
上記増幅産物の電気泳動を行った。図7に結果を示す。図7のMは100bp Marker、図7のレーン1~4は上記1~4に記載の増幅産物に相当する。図7のレーン1および2に示す結果から、融合タンパク質3で切断したバンド抽出物には、GFP断片をコードする配列の上流側と下流側が含まれていることを確認した。以上の結果より、本出願で開示する改変用組成物を用いることで、PAM配列、PFS配列に依存することなく核酸配列を改変できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本出願で開示する核酸配列改変用組成物および核酸配列の標的部位を改変する方法を用いることで、PAM配列、PFS配列に依存することなく核酸配列を改変できる。したがって、製薬業界、研究機関等、ゲノム編集が必要な産業に有用である。
【符号の説明】
【0084】
1…ゲノムDNA改変用組成物、2…RNA、21…ハイブリダイズ領域、22…ガイド領域、23…認識領域、24…第1相補領域、3…融合タンパク質、31…結合ドメイン、32…改変ドメイン、4…核酸配列、ゲノムDNA、RNA、41…標的部位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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