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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038915
(43)【公開日】2023-03-17
(54)【発明の名称】光硬化性コーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20230310BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20230310BHJP
   C08F 22/10 20060101ALI20230310BHJP
   C09D 5/25 20060101ALI20230310BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230310BHJP
【FI】
C09D4/02
C08F2/50
C08F22/10
C09D5/25
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133811
(22)【出願日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021145419
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金子 哲
【テーマコード(参考)】
4J011
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J011QA12
4J011QA22
4J011QA24
4J011QA39
4J011QA42
4J011QA45
4J011QB19
4J011SA02
4J011SA14
4J011SA16
4J011SA20
4J011SA61
4J011SA84
4J011TA08
4J011TA10
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA02
4J038FA111
4J038FA131
4J038HA216
4J038HA446
4J038HA546
4J038JA34
4J038JA66
4J038JB01
4J038JB06
4J038JC05
4J038JC15
4J038JC18
4J038KA02
4J038KA04
4J038KA08
4J038MA09
4J038NA21
4J038NA24
4J038PA17
4J038PA19
4J038PB09
4J038PC02
4J100AL08P
4J100AL08R
4J100AL63Q
4J100AL66P
4J100AL66Q
4J100AL67P
4J100BA08P
4J100BA63R
4J100BC07P
4J100BC07Q
4J100BC73P
4J100CA01
4J100CA04
4J100CA05
4J100CA23
4J100DA55
4J100FA03
4J100FA18
4J100JA01
(57)【要約】
【課題】本発明では、コイルなどの絶縁コーティングにおいて、電気絶縁性が高く溶剤を使用しなくても低粘度の光硬化性コーティング剤を可能にする。
【解決手段】(A)成分および(B)成分を含み、(A-1)成分と(A-2)成分の合計に対して(A-1)成分が50~100質量%含む光硬化性コーティン剤:
(A)成分:下記の(A-1)成分または下記の(A-1)成分および下記の(A-2)成分からなる(メタ)アクリレート;および
(A-1)成分:環状構造を有する(メタ)アクリレート
(A-2)成分:鎖状構造を有し分子内に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート
(B)成分:光開始剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分および(B)成分を含み、(A-1)成分と(A-2)成分の合計に対して(A-1)成分を50~100質量%含む、光硬化性コーティング剤:
(A)成分:下記の(A-1)成分または下記の(A-1)成分および下記の(A-2)成分からなる(メタ)アクリレート;および
(A-1)成分:環状構造を有する(メタ)アクリレート
(A-2)成分:鎖状構造を有し分子内に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート
(B)成分:光開始剤。
【請求項2】
前記(A-1)成分が脂環構造を有する(メタ)アクリレートおよび/またはイソシアヌレート構造を有する(メタ)アクリレートである、請求項1に記載の光硬化性コーティング剤。
【請求項3】
(A-1)成分および(A-2)成分以外の(メタ)アクリレートを含まない、請求項1または2に記載の光硬化性コーティング剤。
【請求項4】
さらに、(C)成分として有機過酸化物を含む、請求項1または2に記載の光硬化性コーティング剤。
【請求項5】
さらに、(D)成分として嫌気硬化触媒を含む、請求項1または2に記載の光硬化性コーティング剤。
【請求項6】
25℃の粘度が20~3000mPa・sである、請求項1または2に記載の光硬化性コーティング剤。
【請求項7】
充填剤を含まない、請求項1または2に記載の光硬化性コーティング剤。
【請求項8】
溶剤を含まない、請求項1または2に記載の光硬化性コーティング剤。
【請求項9】
硬化物の2MHzの交流抵抗値が1MΩ以上である、請求項1または2に記載の光硬化性コーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性の光硬化性コーティング剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モーター等のコイルの絶縁コーティング部には、ポリマーや樹脂を溶剤に溶解させた溶剤揮発型のワニスや特許文献1の様に熱硬化性樹脂に溶剤を添加したコーティング剤が知られている。これらは、絶縁性の高い樹脂成分を溶剤により簡単に低粘度化できる一方で、加熱等で溶剤を揮発させても硬化物中に溶剤が残留し、電気絶縁性の低下や塗膜の欠陥を残すことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-007238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、コイルなどの絶縁コーティングにおいて、電気絶縁性(抵抗値)が高く、溶剤を使用しなくても低粘度の光硬化性コーティング剤は困難であった。
【0005】
本発明は、コイルなどの絶縁コーティングにおいて、電気絶縁性が高く溶剤を使用しなくても低粘度の光硬化性コーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、電気絶縁性が高い溶剤を含まない光硬化性コーティング剤に関する手法を発見し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の要旨を次に説明する。本発明の第一の実施態様は、(A)成分および(B)成分を含み、(A-1)成分と(A-2)成分の合計に対して(A-1)成分を50~100質量%含む、光硬化性コーティング剤である。
(A)成分:下記の(A-1)成分または下記の(A-1)成分および下記の(A-2)成分からなる(メタ)アクリレート
(A-1)成分:環状構造を有する(メタ)アクリレート
(A-2)成分:鎖状構造を有し分子内に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート
(B)成分:光開始剤。
【0008】
本発明の第二の実施態様は、前記(A-1)成分が脂環構造を有する(メタ)アクリレートおよび/またはイソシアヌレート構造を有する(メタ)アクリレートである第一の実施態様に記載の光硬化性コーティング剤である。
【0009】
本発明の第三の実施態様は、(A-1)成分および(A-2)成分以外の(メタ)アクリレートを含まない第一または第二の実施態様に記載の光硬化性コーティング剤である。
【0010】
本発明の第四の実施態様は、さらに、(C)成分として有機過酸化物を含む第一から第三の実施態様のいずれかに記載の光硬化性コーティング剤である。
【0011】
本発明の第五の実施態様は、さらに、(D)成分として嫌気硬化触媒を含む第一から第四の実施態様のいずれかに記載の光硬化性コーティング剤である。
【0012】
本発明の第六の実施態様は、25℃の粘度が20~3000mPa・sである第一から第五の実施態様のいずれかに記載の光硬化性コーティング剤である。
【0013】
本発明の第七の実施態様は、充填剤を含まない第一から第六の実施態様のいずれかに記載の光硬化性コーティング剤である。
【0014】
本発明の第八の実施態様は、溶剤を含まない第一から第七の実施態様のいずれかに記載の光硬化性コーティング剤である。
【0015】
本発明の第九の実施態様は、硬化物の2MHzの交流抵抗値が1MΩ以上である第一から第八の実施態様のいずれかに記載の光硬化性コーティング剤である。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、コイルなどの絶縁コーティングにおいて、電気絶縁性が高く溶剤を使用しなくても低粘度の光硬化性コーティング剤を可能にする。
【0017】
明細書中において数値の範囲を記載するために「~」を使用した場合は、上限値と下限値も含む範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の詳細を次に説明する。本発明で使用することができる(A)成分は、(A-1)成分として環状構造を有する(メタ)アクリレートまたは(A-1)成分として環状構造を有する(メタ)アクリレートと(A-2)成分として鎖状構造を有し分子内に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートとを含み(または、からなり)、(A)成分全体(全質量)に対して(A-1)成分を50~100質量%含む。(A)成分が(A-1)成分からなる場合、(A)成分は、(A)成分全体(全質量)に対して(A-1)成分を100質量%含む。(A)成分が(A-1)成分および(A-2)成分からなる場合、(A-1)成分および(A-2)成分の合計質量((A)成分全体)に対して、(A-1)成分を50質量%以上100質量%未満含み、(A-2)成分を0質量%を超えて50質量%以下含む、好ましくは(A-1)成分を50~90質量%含み、(A-2)成分を10~50質量%含む。ここで、(A-2)成分から(A-1)成分は除かれる。作業性の観点から、(A)成分の各成分の粘度(25℃)は50000mPa・s以下であることが好ましく、1~40000mPa・sであることがより好ましい(以下、アクリロイル基とメタクリロイル基のいずれかを指す場合には(メタ)アクリロイル基と記載し、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を(メタ)アクリレートとも呼ぶ)。
【0019】
(A-1)成分としては、分子内に(メタ)アクリロイル基を1つ以上含み、環状構造を有していれば良く、環状構造とはイソシアヌレート(イソシアヌル酸)構造や、不飽和結合を含む炭化水素からなる脂環構造、飽和結合のみからなる炭化水素からなる脂環構造などが挙げられる。ただし、(A-1)成分に係る環状構造としては、芳香族の環状構造は除く。低粘度と高い電気絶縁性を維持するために、(A-1)成分として最も好ましいのは、分子内に環状構造を1つのみ有し、(メタ)アクリロイル基を2~3つ有する(メタ)アクリレートである。分子内に環状構造を2つ以上有すると粘度が高くなる。低粘度と電気絶縁性の両立をするためには、(A-1)成分は脂環構造を有する(メタ)アクリレートおよび/またはイソシアヌレート構造を有する(メタ)アクリレートであることが好ましい。(A-1)成分の具体例としては、イソシアヌル酸EO変性ジ及びトリ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。商品名としては、東亞合成株式会社製のアロニックスシリーズとしてM-313など、新中村化学工業株式会社製のNKエステルシリーズとしてA-DCP、DCPなど、昭和電工マテリアルズ株式会社製のファンクリルシリーズとしてFA-513ASなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。(A-1)成分は、1種単独でもよく、2種以上の混合であってもよい。(A)成分が(A-1)成分からなる場合、(A-1)成分は、1種単独、または2種の混合であることが好ましい。
【0020】
(A-2)成分における鎖状構造とは、環状構造を含まない直鎖または分岐した主鎖を示す構造であり、炭化水素鎖、エーテル基を有する鎖、エステル基を有する鎖などが挙げられ、3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する。(A-2)成分の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルコキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。商品名としては、新中村化学工業株式会社製のNKエステルシリーズとしてTMPTなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。(A-2)成分は、1種単独でもよく、2種以上の混合であってもよい。
【0021】
本発明に係る光硬化性コーティング剤は、(A-1)成分および(A-2)成分以外の(メタ)アクリレートを含んでもよい。(A-1)成分および(A-2)成分以外の(メタ)アクリレートの添加量は、(A)成分100質量部に対して、例えば0質量部を超えて0.5質量部以下であり、好ましくは0質量部を超えて0.3質量部以下である。一実施形態では、本発明に係る光硬化性コーティング剤は、低粘度と電気絶縁性の両立をするためには、(A-1)成分および(A-2)成分以外の(メタ)アクリレートを含まないことが好ましい。
【0022】
本発明で使用することができる(B)成分は光開始剤である。光硬化性を付与することで、コーティング剤が被着体からたれる前に硬化させることができ、さらには、硬化前の塗膜厚が偏る前に硬化することもできる。光開始剤とは、紫外線や可視光などの活性エネルギー線を照射することにより、光開始剤が分解してラジカル種を発生する化合物である。
【0023】
(B)成分としては、アセトフェノン系光開始剤、ベンゾイン系光開始剤、ベンゾフェノン系光開始剤、チオキサントン系光開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光開始剤などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。(B)成分は、好ましくはアセトフェノン系光開始剤またはアシルホスフィンオキサイド系光開始剤である。可視光領域のエネルギー線により硬化しやすいアシルホスフィンオキサイド光開始剤を組成物に添加すると組成物自体が黄色になりやすいが、光硬化性が向上することからアシルホスフィンオキサイド光開始剤を含むことがより好ましい。
【0024】
アセトフェノン系光開始剤としては、例えばジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマーなどが挙げられるが、この限りではない。アセトフェノン系光開始剤としては、好ましくは2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンまたは1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンである。
【0025】
ベンゾイン系光開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられるが、この限りではない。
【0026】
ベンゾフェノン系光開始剤としては、例えばベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-N,N-ジメチル-N-[2-(1-オキソ-2-プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドが挙げられるが、この限りではない。
【0027】
チオキサントン系光開始剤としては、例えば2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ)-3,4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オンメソクロリドなどが挙げられるが、この限りではない。
【0028】
アシルホスフィンオキサイド系光開始剤としては、例えばビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイドなどが挙げられるが、この限りではない。アシルホスフィンオキサイド系光開始剤は、好ましくは2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイドである。
【0029】
(A)成分100質量部に対して、(B)成分の添加量は0.1~10質量部であることが好ましい。0.1質量部以上であれば光硬化性を発現し、10質量部以下であれば硬化物が有色になる可能性が低くなる。
【0030】
本発明で使用することができる(C)成分としては、有機過酸化物であり、一般式1の様な化合物である。ここで、Rは有機基であり、Rは有機基または水素である。(B)成分と併用することで、光照射ができない影部を加熱により硬化するために熱硬化性を付与することができる。(C)成分の具体的として、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなど挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
【化1】
【0032】
(A)成分100質量部に対して、(C)成分は0.01~5.0質量部添加されることが好ましく、さらに好ましくは0.1~3.0質量部である。有機過酸化物の添加量は0.01質量部以上であると熱硬化性または後述の(D)成分と併用することで嫌気硬化性を発現し、有機過酸化物の添加量は5.0質量部以下であると保存安定性を維持することができる。
【0033】
本発明で使用することができる(D)成分としては、嫌気硬化触媒である。(C)成分と併用することで、光照射ができない隙間において嫌気硬化性を付与する事ができ、被着体が金属の場合に室温により硬化することができる。(D)成分の具体的には式2の様なサッカリンが挙げられる。
【0034】
【化2】
【0035】
(D)成分とは別に(D)成分の重合促進剤として、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-P-トルイジン、ジイソプロパノール-P-トルイジン、トリエチルアミン等の3級アミン類;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン類;チオ尿素、エチレンチオ尿素、ベンゾイルチオ尿素、アセチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素等のチオ尿素類、単官能チオール類、1-アセチルー2-フェニルヒドラジン等のヒドラジン化合物などを加えることができる。
【0036】
(A)成分100質量部に対して(D)成分は0.01~10質量部を添加することが好ましい。0.01質量部以上であると嫌気硬化性を発現し、10質量部以下であると保存安定性を維持することができる。
【0037】
(D)成分1質量部に対して、重合促進剤は0.01~0.5質量部添加されることが好ましい。0.01質量部以上であると嫌気硬化性を促進し、0.5質量部以下であると保存安定性を維持することができる。
【0038】
一実施形態では、本発明に係る光硬化性コーティン剤は、(D)成分および重合促進剤を含まない。
【0039】
本発明に係る光硬化性コーティン剤は、その他成分として、本発明の目的を損なわない範囲で、カップリング剤、無機充填剤および有機充填剤などの充填剤、重合禁止剤、キレート剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、染料、顔料、難燃剤、増感剤、重金属不活性剤、イオントラップ剤、乳化剤、水分散安定剤、消泡剤、離型剤、レベリング剤、ワックス、レオロジーコントロール剤、界面活性剤などの添加剤を配合しても良い。
【0040】
ただし、溶剤は乾燥後に塗膜厚が目減りするため、および抵抗値を高く維持することができないため、本発明に係る光硬化性コーティング剤は、溶剤を含まないことが好ましい。溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メトキシプロパノールなどのアルコール溶剤(アルコール溶剤にはエーテル基を含むアルコール溶剤も含まれる。)、ジクロロエタン、トリクロロエタンなどの塩素系溶剤、トリクロロフルオロエタンなどのフッ素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテルなどのエーテル系溶剤、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族溶剤などが挙げられる。
【0041】
また、粘性が高くなり糸ひきなど作業性に支障がでるため、本発明に係る光硬化性コーティング剤は、成膜剤としてゴム、エラストマーおよび熱可塑性樹脂(アクリルやエポキシと溶解(相溶)させて使用する材料)を含まないことが好ましい。ここで、ゴムとしては、特に制限されるものではなく、例えば、天然ゴムとしてはイソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレン(ブチルゴム)、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の合成ゴムが挙げられる。エラストマーとしては、特に制限されるものではなく、例えば、スチレン系、オレフィン/アルケン系、塩ビ系、ウレタン系、アミド系等の(熱可塑性)エラストマーが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、特に制限されるものではなく、例えば、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリアルキレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、フェノキシ樹脂(例えばビスフェノールA/ビスフェノールF共重合型フェノキシ樹脂)等が挙げられる。
【0042】
本発明で使用することができるカップリング剤としては、特にはシランカップリング剤である。その具体例として、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのグリシジル基含有シランカップリング剤、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル基含有シランカップリング剤、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有シランカップリング剤、その他γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの中でもより密着性の向上が期待できるという観点で、エポキシ基または(メタ)アクリロイル基を含有するシランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0043】
本発明で使用することができる充填剤としては、特には無機充填剤である。無機充填剤の具体的としてはガラス粉、フュームドシリカ粉、シリカ粉、アルミナ粉、マイカ粉、シリコーンゴム粉、炭酸カルシウム粉、窒化アルミ粉、カーボン粉、カオリンクレー粉、乾燥粘土鉱物粉、乾燥珪藻土粉、金属粉などが挙げられる。さらに、フュームドシリカ粉としては、オルガノクロロシラン類、ポリオルガノシロキサン、ヘキサメチルジシラザンなどで表面を化学修飾(疎水化)したものなどが挙げられ、例えば日本アエロジル株式会社製のアエロジルシリーズとしてR974、R972、R972V、R972CF、R805、R812、R812S、R816、R8200、RY200、RX200、RY200S、R202などの市販品が挙げられる。しかしながら、粘度が高くなることを考慮すると、本発明に係る光硬化性コーティング剤は、充填剤を含まないことが好ましい。
【0044】
本発明で使用することができる重合禁止剤としては、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、p-tert-ブチルカテコール等のキノン系重合禁止剤、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール等のアルキルフェノール系重合禁止剤、アルキル化ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、フェノチアジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,4-ジヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-ヒドロキシ-4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等のアミン系重合禁止剤、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル等のN-オキシル系重合禁止剤などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0045】
本発明で使用することができるキレート剤の具体例としては、株式会社同人化学研究所製のEDTA・2Na(2NA:エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸二ナトリウム塩二水和物)、EDTA・4Na(4NA:エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸四ナトリウム塩四水和物)などが挙げられ、25℃で液状のキレート剤としてはキレスト株式会社製のMZ-8などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
本発明の光硬化性コーティング剤では粘度を低くするために無機充填剤を含まないことが好ましい。これにより、粘度(25℃)が20~3000mPa・sの光硬化性コーティング剤を実現出来る。また、溶剤を使用すると塗膜に気泡が発生することから溶剤を含まないことが好ましい。用途としてはモーター等のコイルの絶縁コーティング部の用途に使用でき、塗布方法は含浸や噴霧などにより、光照射により硬化して塗膜を形成し、仮に影部が存在する場合には、熱硬化性や嫌気硬化性を付与することで塗膜全体を硬化することができる。
【実施例0047】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。以下、本願発明の光硬化性コーティン剤を単に組成物とも呼ぶ。また、参考例としてポリエステル樹脂としてイミド変性ポリエステル樹脂と、重合性モノマーとしてスチレンモノマーとの混合物である日東シンコー株式会社製のNV-800を使用した。
【0048】
[実施例1~12、比較例1~3]
実施例1~12、比較例1~3の光硬化性コーティン剤を調製するために下記成分を準備した。
(A)成分:(A-1)成分および(A-2)成分の(メタ)アクリレート
(A-1)成分:環状構造を有する(メタ)アクリレート
・イソシアヌル酸EO変性ジ及びトリアクリレート(粘度(25℃):28000mPa・s)(アロニックスM-313 東亞合成株式会社製)
・ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(粘度(25℃):135mPa・s)(NKエステルA-DCP 新中村化学工業株式会社製)
・ジメチロールトリシクロデカンジメタクリレート(粘度(25℃):110mPa・s)(NKエステルDCP 新中村化学工業株式会社製)
・ジシクロペンタニルアクリレート(粘度(25℃):12mPa・s)(FA-513AS 昭和電工マテリアルズ株式会社製)
(A-2)成分:鎖状構造を有し分子内に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート
・トリメチロールプロパントリメタクリレート(粘度(25℃):45mPa・s)(NKエステルTMPT 新中村化学工業株式会社製)
(A’)成分:(A)成分以外の(メタ)アクリレート
・2-ヒドロキシエチルメタクリレートアシッドホスフェート(粘度(25℃):150mPa・s)(城北化学工業株式会社製 JPA-514)
・変性エポキシアクリレート/メタクリル酸2-ヒドロキシエチル=6:4の混合物(粘度(25℃):70mPa・s)(DIC株式会社製 EPOCLON UE-8071-60BH)
(B)成分:光開始剤
・2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(DAROCUR1173 DoubleBondChemical社製)
・1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン(IRGACURE184 BASF社製)
・2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(SPEEDCURE TPO Lambson社製)
(C)成分:有機過酸化物
・t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(パーキュアーO 日油株式会社製)
・クメンハイドロパーオキサイド(パークミルH-80 日油株式会社製)
(D)成分:嫌気硬化触媒
・サッカリン(不溶性サッカリンB-1P 大和化成株式会社製)
(D)成分の重合促進剤
・1-アセチルー2-フェニルヒドラジン(APH 讃岐化学工業株式会社製)
重合禁止剤
・2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)(試薬)
キレート剤
・エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸二ナトリウム塩二水和物(2NA(EDTA・2Na) 株式会社同人化学研究所製)
成膜剤
・ビスフェノールA/ビスフェノールF共重合型フェノキシ樹脂(フェノトート YP-70 日鉄ケミカル&マテリアル株式会社)。
【0049】
(A-1)成分と(A-2)成分(または(A’)成分)とその他成分(成膜成分、安定剤、重合禁止剤)を撹拌釜に秤量して25℃雰囲気下で1時間撹拌した。その後、(B)成分、(C)成分、(D)成分((D)成分の重合促進剤も含む)を撹拌釜に秤量してさらに30分撹拌した。詳細な調製量は表1に従い、数値は全て質量部で表記する。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1~12および比較例1~3の光硬化性コーティング剤をそれぞれ0.5ml採取して測定用カップ内に吐出した。EHD型粘度計(東機産業株式会社製)にて25℃環境下、せん断速度1/sで粘度測定を行った。その結果、全ての粘度は、20~3000mPa・sの範囲に含まる結果になった。
【0052】
嫌気硬化性および熱硬化性が発現するか確認するため、内径6mm×長さ15mmのSPCC製のカラーと直径略6mmのSPCC製のピンからなる嵌合用テストピースを使用した。カラーの内側に実施例4を塗布して、ピンを嵌め込み、25℃で1時間放置した。その後、ピンに指で力を加えても固定されているため、嫌気硬化性が発現していることを確認した。同様の嵌合用テストピースを用いて、実施例1~3、実施例5~12および比較例1~3をそれぞれカラーの内側に塗布し、ピンを嵌め込み、150℃×30分に設定された熱風乾燥炉により加熱硬化した。テストピースの温度が室温に下がった後、ピンに指で力を加えても固定されているため、熱硬化性が発現していることを確認した。
【0053】
実施例1~12、比較例1~3および参考例に対して交流抵抗値測定と直流抵抗値測定を実施した。結果は表2に表記し、Gはギガ、Mはメガ、kはキロを意味する。
【0054】
[交流抵抗値測定]
櫛形電極を有するテストピースに対して、スペーサーとして厚さ130μmのマスキングテープを電極の左右両側に貼った。その後、組成物を滴下して、ブレードで組成物の厚さが130μmになるようにスキージした。高圧水銀灯を搭載したベルトコンベアー式の紫外線照射器にて積算光量30kJ/mを照射してUV硬化した後、150℃×30分に設定された熱風乾燥炉により加熱硬化した。マスキングテープを剥がし、櫛形電極の両端に抵抗値測定用電線を半田で取り付けた。KEYSIGHT E4980A(KEYSIGHT社製)/VHR-S13B(東陽テクニカ株式会社製)にて2MHz、1kHzおよび50Hz時の「交流抵抗値(単位:Ω)」を測定した。2MHzの交流抵抗値は1MΩ以上、1kHzの交流抵抗値は1GΩ以上、50Hzの交流抵抗値は1GΩ以上であることが好ましい。
【0055】
[直流抵抗値測定]
櫛形電極を有するテストピースに対して、スペーサーとして厚さ130μmのマスキングテープを電極の左右両側に貼った。その後、組成物を滴下して、ブレードで組成物の厚さが130μmになるようにスキージした。高圧水銀灯を搭載したベルトコンベアー式の紫外線照射器にて積算光量30kJ/mを照射してUV硬化した後、150℃×30分に設定された熱風乾燥炉により加熱硬化した。マスキングテープを剥がし、櫛形電極の両端に抵抗値測定用電線を半田で取り付けた。Agilent4339B/16008B(アジレント・テクノロジー株式会社製)にて、印加電圧が500Vの「直流抵抗値(単位:Ω)」を測定した。直流抵抗値は1.0×1011Ω以上であることが好ましい。
【0056】
【表2】
【0057】
2MHzの交流抵抗値において、実施例1~12と比較例1~3を比較するとメガオーダーとキロオーダーの違いがあり、実施例の抵抗値が非常に高く電気絶縁性が良好であることが分かる。他の周波数においても同様の傾向が見られる。また、直流抵抗値においては若干の抵抗値の上下はあるものの、直流抵抗値は1.0×1011Ω以上であることから十分な電気絶縁性が保たれている。
【産業上の利用可能性】
【0058】
モーター等のコイルの絶縁コーティング部以外にも、高い電気絶縁性が必要な電気電子部品に使用ができ、光硬化性であることから使用時のランニングコストが低く、仮に影部や隙間に光が届かない場合は熱硬化性や嫌気硬化性を付与することができ様々な被着体に対応できる。
【0059】
本出願は、2021年9月7日に出願された日本特許出願番号2021-145419に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。