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特開2023-38995金型に塗型を形成させるための加工システム及び塗型形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023038995
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】金型に塗型を形成させるための加工システム及び塗型形成方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 23/02 20060101AFI20230313BHJP
   B22D 17/20 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
B22C23/02 E
B22D17/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145902
(22)【出願日】2021-09-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼提出日 令和3年4月30日 ▲2▼提出先 経済産業省発信の事業再構築補助金交付事業
(71)【出願人】
【識別番号】517056310
【氏名又は名称】株式会社Edge Creators
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 匡志
【テーマコード(参考)】
4E094
【Fターム(参考)】
4E094CC57
(57)【要約】
【課題】金型に塗型を形成する際に予熱炉が不要となる加工システム及び塗型形成方法を提供すること。
【解決手段】金型Wの塗型被形成面の一部の領域をロボット15のアーム16の先端のヒートガン18によって加熱し、放射温度計30によって加熱した塗型被形成面が塗型を形成させるための適正温度帯の温度となっていることを検出すると、アーム16の先端のスプレーガン17から加熱した塗型被形成面に塗型剤を噴射して塗型を形成させるようにした。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬入領域と、前記搬入領域から搬入された金型に塗型を形成させる加工処理を行うための加工領域と、塗型形成後の前記金型が前記加工領域から搬出される搬出領域と、アームの先端又は先端寄りに塗型剤を噴射する噴射装置を装着したロボットと、前記加工領域に配置された前記金型の塗型被形成面を加熱する加熱装置と、前記加熱装置によって加熱された前記塗型被形成面の温度を検出する検出手段と、を備え、
前記加熱装置によって前記塗型被形成面の一部の領域を加熱するとともに、前記検出手段によって加熱後の前記塗型被形成面が塗型剤を形成させるための適正温度帯の温度であることを検出し、前記アームを駆動させて前記適正温度帯の温度となった前記塗型被形成面に対して前記噴射装置によって塗型剤を噴射するように制御することを特徴とする金型に塗型を形成させるための加工システム。
【請求項2】
前記噴射装置は噴射位置をずらしながら前記塗型被形成面に塗型剤を噴射していくように制御されることを特徴とする請求項1に記載の金型に塗型を形成させるための加工システム。
【請求項3】
前記検出手段が前記塗型被形成面が前記適正温度帯以下の温度となったことを検出した際には、前記噴射装置による塗型剤の噴射動作が一旦中止され前記加熱装置によって前記塗型被形成面が再度加熱され、再び前記検出手段が前記適正温度帯となったことを検出することで前記噴射装置による塗型剤の噴射動作を再開するように制御されることを特徴とする請求項2に記載の金型に塗型を形成させるための加工システム。
【請求項4】
前記加熱装置は前記アームの先端又は先端寄りに装着され射出口から熱を放射する熱放射型であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の金型に塗型を形成させるための加工システム。
【請求項5】
前記射出口から熱を放射して加熱する際には前記射出口と前記金型との距離を所定の間隔に保持するように制御することを特徴とする請求項4に記載の金型に塗型を形成させるための加工システム。
【請求項6】
前記噴射装置は塗型剤を噴射する際に前記アームから前進した位置に噴射口が配置され、前記加熱装置の前記射出口は前記噴射口に対して相対的に後退した位置に配置されることを特徴とする請求項4又は5に記載の金型に塗型を形成させるための加工システム。
【請求項7】
前記加熱装置は前記金型に電極を取り付け電極間の抵抗熱を利用して加熱する抵抗加熱型であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の金型に塗型を形成させるための加工システム。
【請求項8】
前記加熱装置によって前記塗型被形成面の一部の領域が加熱され、その一部の領域の前記噴射装置による塗型剤の噴射処理が完了する工程を1つの噴射工程とし、前記1つの噴射工程が完了すると、前記アームは前もってプログラムされた経路に従って移動させられ、次の前記塗型被形成面の一部の領域について次の1つの噴射工程を実行するように制御されることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の金型に塗型を形成させるための加工システム。
【請求項9】
前記噴射装置によって塗型剤を噴射する際に噴射口と前記金型との距離を所定の間隔に保持するように制御することを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の金型に塗型を形成させるための加工システム。
【請求項10】
制御手段によって前記制御がされることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の金型に塗型を形成させるための加工システム。
【請求項11】
コンベヤ装置によって前記搬入領域から前記搬出領域へ前記金型を移動させるようにしたことを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の金型に塗型を形成させるための加工システム。
【請求項12】
金型の金属溶湯と接する面に塗型を形成させるための金型の塗型形成方法であって、
前記金型の塗型被形成面の一部の領域を加熱手段によって加熱し、加熱した前記塗型被形成面が塗型剤を形成させるための適正温度帯の温度となった際にアームの先端又は先端寄りに塗型剤を噴射する噴射装置を装着したロボットに加熱した前記塗型被形成面に対して塗型剤を噴射させるようにしたことを特徴とする金型に塗型を形成させるための塗型形成方法。
【請求項13】
前記噴射装置は噴射位置をずらしながら前記塗型被形成面に塗型剤を噴射していくことを特徴とする請求項12に記載の金型に塗型を形成させるための塗型形成方法。
【請求項14】
前記塗型被形成面が前記適正温度帯以下の温度となった際には前記噴射装置による塗型剤の噴射動作が一旦中止され、前記塗型被形成面が再度加熱され、再び前記適正温度帯となることで前記噴射装置による塗型剤の噴射動作が再開されることを特徴とする請求項13に記載の金型に塗型を形成させるための塗型形成方法。
【請求項15】
前記塗型被形成面の一部の領域が加熱され、その一部の領域の塗型剤の噴射処理が完了する工程を1つの噴射工程とし、前記1つの噴射工程が完了すると、前記アームは前もってプログラムされた経路に従って移動させられ、次の前記塗型被形成面の一部の領域について次の1つの噴射工程が実行されることを特徴とする請求項12~14のいずれかに記載の金型に塗型を形成させるための塗型形成方法。
【請求項16】
前記1つの噴射工程における塗型剤の噴射処理が完了した段階でその塗型被形成面を加熱して焼成処理を実行することを特徴とする請求項15に記載の金型に塗型を形成させるための塗型形成方法。
【請求項17】
前記金型のすべての塗型被形成面について塗型剤の噴射処理が完了した段階で前記アームを再度前記経路に沿って移動させ、前記加熱手段によって前記塗型被形成面を加熱して焼成処理を実行することを特徴とする請求項15に記載の金型に塗型を形成させるための塗型形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用の金型の金属溶湯と接する面に塗型を形成させるための加工システム及び塗型形成方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属溶湯を用いて鋳造品を成形する金型では金型表面を溶湯の熱から保護し、鋳肌を改善し焼付を防止する目的で従来から「塗型」(とがた)を金型表面に形成するようにしている。塗型は次のように形成される。
まず、シリカやジルコンのような無機材料をすりつぶした基材を希釈剤で溶いて塗型液を調整し、これを所定の適正温度帯(180度~230度程度)に加熱した金型の塗型を形成させる面(塗型被形成面)に吹き付けて定着させる(以下、この所定の適正温度帯とする加熱処理を「予熱」という)。塗型形成においては、適正温度帯以下の温度では塗型液が垂れてしまうおそれがあり、また適正温度帯以上では塗型液の蒸発気体の層が塗型液の下に生じて塗型液の密着を阻害するおそれがあるので適正温度帯に収まるように予熱することが肝要である。尚、適正温度帯は塗型液の種類や濃度内容等の条件によってより狭い範囲で設定される。
予熱工程においては一般には予熱炉内に金型を収容してガスバーナーやヒーターのような加熱装置を使用して金型全体を予熱し所定の適正温度帯とし、その金型を下流に搬送して作業者が塗型被形成面に塗型液をスプレーするようにする。一回のスプレーでは十分な厚みの塗型を成膜できない場合には予熱とスプレーとを何回か繰り返すようにする。つまり、下流に搬送した金型を上流の予熱炉側に一旦戻すという工程を繰り返し実施する。
そして、塗型が予定通りに成膜できた段階でこの金型を焼成炉に搬送して適正温度帯よりも高い温度(通常400度程度)で加熱焼成する。この焼成炉での加熱は塗型内に残った結合水を除去するために行われる。この加熱焼成処理によって塗型の完成とする。尚、以上の塗型形成方法は一例である。
このような塗型が形成された金型の一例として特許文献1を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-11272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の塗型形成方法では以下のようないくつかの課題があった。
(1)一般に塗型液は作業者が手動でスプレーするため、くせや技量等によって個人差がでてしまうこととなり、品質にばらつきがでてしまう。また、金型が所定の適正温度帯になっているかどうかや所定の膜厚になっているかどうかも作業者がチェックすることになるため手間と時間を要する。
(2)前もって金型を所定の適正温度帯に昇温させなければならず、そのための予熱炉を必要とするため、予熱炉のコストや予熱炉のスペースを考慮しなければならない。
(3)金型の全体を予熱して塗型液をスプレーするため、金型の塗型被形成面全体にスプレーするには時間がかかり作業途中で適正温度帯以下になってしまう場合が多い。そのため再び金型を予熱炉に戻して再度予熱する必要があるため、適正温度帯以下になってしまったかどうかの温度チェックも含めそのための作業全般が手間と時間を要する。
(4)最終的に焼成炉で加熱焼成させる必要があるため、加工ラインにおいて2つの炉が必要となりコスト的に不利である。また、2つの炉が必要であるため加工ラインが長くなってスペース的にも不利である。
(5)金型の温度チェックは作業者が温度センサを持って予熱炉から搬出された金型にかざして適宜検査することになるため、塗型液の塗布作業に専念できず非効率である。
本発明は、このような種々の課題を解決した金型に塗型を形成させるための加工システム及び塗型形成方法等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、手段1として、搬入領域と、前記搬入領域から搬入された金型に塗型を形成させる加工処理を行うための加工領域と、塗型形成後の前記金型が前記加工領域から搬出される搬出領域と、アームの先端又は先端寄りに塗型剤を噴射する噴射装置を装着したロボットと、前記加工領域に配置された前記金型の塗型被形成面の一部を加熱する加熱装置と、前記加熱装置によって加熱された前記塗型被形成面の温度を検出する検出手段と、を備え、前記加熱装置によって前記塗型被形成面を加熱するとともに、前記検出手段によって加熱後の前記塗型被形成面が塗型剤を形成させるための適正温度帯の温度であることを検出し、前記アームを駆動させて前記適正温度帯の温度となった前記塗型被形成面に対して前記噴射装置によって塗型剤を噴射するように制御するようにした。
これによって、加熱装置によって加熱した塗型被形成面の一部についてロボットのアームを操作して塗型剤を噴射するようにしたため、作業者が実施する際のくせや技量等の個人差が生じにくく、品質の安定した塗型を形成することができる。また、金型全体を加熱する予熱炉が不要となるためコスト削減に寄与する。
【0006】
「ロボット」は、例えばオペレーターによってティーチングボックスが操作され、オフラインティーチングあるいはオンラインティーチングによって金型の三次元データを獲得する。オフラインティーチングであれば例えば前もって塗型を形成される金型の三次元データを記憶装置に記憶させて、実際の金型に応じて対応する形状データを選択するようにするとよい。オンラインティーチングであればその場で金型に応じてプログラムを構築する。例えばモデル金型に沿ってアームを動作させ、その際のモデル金型に沿ったロボット(アーム)の動きを教示点位置データとして獲得して制御装置に記憶させるようにしてもよい。塗型被形成面との距離(間隔)はティーチングさせてもよく、アームを操作する際に常時距離計で測定したデータを更新し距離を設定してもよい。
「アームの先端又は先端寄りに塗型剤を噴射する噴射装置を装着」とは、噴射装置は先端だけではなく若干先端から退避した位置に配置するようにしてもよい意である。アームは複数の軸、例えば5軸以上の多軸構成とすることが滑らかで複雑な動作の実現のためによい。
「加熱装置」は、例えば塗型被形成面に熱風や火炎や高エネルギーのレーザー光等を射出する熱放射型でもよく、電気抵抗によるジュール熱(抵抗熱)を利用した抵抗加熱型であってもよい。熱放射型の場合には加熱装置はアームに配設されることがよい。
「金型の塗型被形成面の一部を加熱する加熱装置」であるため、金型全体を加熱する必要がなく、加熱エネルギーの軽減となる。
「加熱後の塗型被形成面が塗型剤を形成させるための適正温度帯の温度である」というのは、例えば加熱された塗型被形成面が放熱して適正温度帯の温度まで下がっている場合でもよく、塗型被形成面を加熱していってちょうど適正温度帯の温度となった場合のどちらでもよい。
「塗型被形成面の温度を検出する検出手段」は、例えば非接触型温度センサ、サーもセンサ等がよい。
「噴射装置」は、噴射量と噴射圧力の調整が可能な例えば空気圧を使用したスプレータイプの塗布装置であることがよい。噴射タイミングは強い圧力をある領域に集中させるようなバッチ式の噴射であっても、連続的に噴射をしつづけるタイプであってもよい。
これら用語の定義は以下の各手段でも同様である。
【0007】
また、手段2として、前記噴射装置は噴射位置をずらしながら前記塗型被形成面に塗型剤を噴射していくように制御されるようにした。
例えば噴射装置から噴射されて塗布される面積が加熱される面積よりも大きい場合にこのようにずらして噴射させることで加熱された領域をすべてカバーすることができる。この場合の噴射装置は常時噴射状態でもよく、一旦噴射を停止して圧力を付勢し高圧の噴射力で次々に噴射するようにしてもよい。
また、手段3として、前記検出手段が前記塗型被形成面が前記適正温度帯以下の温度となったことを検出した際には前記噴射装置による塗型剤の噴射動作が一旦中止され、前記加熱装置によって前記塗型被形成面が再度加熱され、再び前記検出手段が前記適正温度帯となったことを検出することで前記噴射装置による塗型剤の噴射動作を再開するように制御されるようにした。
外気で冷却されて放熱した塗型被形成面が適正温度帯以下の温度となってしまうと、塗布した塗布剤が垂れてしまうため再度加熱して適正温度帯まで昇温する必要があるためである。
【0008】
また、手段4として、前記加熱装置は前記アームの先端又は先端寄りに装着され射出口から熱を放射する熱放射型であるようにした。
加熱装置がこのような位置に配置されていると、アームの動きに追随してピンポイントに塗型被形成面を加熱することが可能となる。
「アームの先端又は先端寄り」であるため、加熱装置は完全にアーム先端になければいけないわけではなく、アーム先端から若干後退した位置に配置されていてもよい。
また、手段5として、前記射出口から熱を放射して加熱する際には前記射出口と前記金型との距離を所定の間隔に保持するように制御するようにした。
これによって、加熱領域の温度と面積が均質化され、噴射装置によって塗型剤を噴射する際に噴射位置や噴射量が加熱領域によってばらつくことがなくなり、加工システムの制御が実行しやすい。
また、手段6として、前記噴射装置は塗型剤を噴射する際に前記アームから前進した位置に噴射口が配置され、前記加熱装置の射出口は前記噴射口に対して相対的に後退した位置に配置されるようにした
これによって噴射装置から噴射された霧状の塗型剤に熱が直接あたることがなくなり塗布される前に乾燥してしまうという不具合が生じることがない。
また、手段7として、前記加熱装置は前記金型に電極を取り付け電極間の抵抗熱を利用して加熱する抵抗加熱型であるようにした。
このような加熱装置であれば噴射装置から塗型剤を噴射する際に霧状の塗型剤に熱が直接あたることがない。
【0009】
また、手段8として、前記加熱装置によって前記塗型被形成面の一部の領域が加熱され、その一部の領域の前記噴射装置による塗型剤の噴射処理が完了する工程を1つの噴射工程とし、前記1つの噴射工程が完了すると、前記アームは前もってプログラムされた経路に従って移動させられ、次の前記塗型被形成面の一部の領域について次の1つの噴射工程を実行するように制御されるようにした。
これによって、塗型被形成面の一部に次々とバッチ式に塗型剤を噴射して塗型を形成し最終的に塗型被形成面全体に塗型を形成することができる。つまり、必ずしも予熱炉がなくとも塗型被形成面の一部を加熱して塗型形成を繰り返すことで塗型被形成面全体に塗型を形成することができる。
また、手段9として、前記噴射装置によって塗型剤を噴射する際に噴射口と前記金型との距離を所定の間隔に保持するように制御するようにした。
これによって、噴射されて塗型被形成面に展着される塗型剤の面積や厚みがばらつきにくく均質の塗膜を形成させることができる。
距離の測定は、例えばレーザー測距儀のような熱に影響を受けにくく離れた位置で距離を測定できる測定手段によって得られた距離情報に基づいて噴射口と前記金型との距離を所定の間隔に保つようにすることがよい。
また、手段10として、制御手段によって前記制御がされるようにした。
制御手段は前記ロボットのティーチングボックス内に配置されていてもよく、ティーチングボックスと接続されたコンピュータ装置内に配置されていてもよい。
また、手段11として、コンベヤ装置によって前記搬入領域から前記搬出領域へ前記金型を移動させるようにした。
金型のような固形のワークを運搬するにはコンベヤ装置が安定してかつ、駆動制御もしやすいからである。
【0010】
また、手段12として、金型の金属溶湯と接する面に塗型を形成させるための金型の塗型形成方法であって、
前記金型の塗型被形成面の一部の領域を加熱手段によって加熱し、加熱した前記塗型被形成面が塗型剤を形成させるための適正温度帯の温度となった際にアームの先端又は先端寄りに塗型剤を噴射する噴射装置を装着したロボットに加熱した前記塗型被形成面に対して塗型剤を噴射させるようにした。
これによって、加熱した塗型被形成面の一部についてロボットのアームを操作して塗型剤を噴射するようにしたため、作業者が実施する際のくせや技量等の個人差が生じにくく、品質の安定した塗型を形成することができる。また、金型全体を加熱する予熱炉が不要となるためコスト削減に寄与する。手段11は手段1と同じ発明の思想を方法的観点から特定した内容である。「加熱した塗型被形成面が適正温度帯の温度となる」のは例えば加熱された塗型被形成面が放熱して適正温度帯の温度まだ下がる場合でもよく、塗型被形成面を加熱していってちょうど適正温度帯の温度となる場合のどちらでもよい。
また、手段13として、前記噴射装置は噴射位置をずらしながら前記塗型被形成面に塗型剤を噴射していくようにした。
例えば噴射装置から噴射されて塗布される面積が加熱される面積よりも大きい場合にこのようにずらして噴射させることで加熱された領域をすべてカバーすることができる。この場合の噴射装置は常時噴射状態でもよく、一旦噴射を停止して圧力を付勢し高圧の噴射力で次々に噴射するようにしてもよい。
また、手段14として、前記塗型被形成面が前記適正温度帯以下の温度となった際には前記噴射装置による塗型剤の噴射動作が一旦中止され、前記塗型被形成面が再度加熱され、再び前記適正温度帯となることで前記噴射装置による塗型剤の噴射動作が再開されるようにした。
塗型被形成面が適正温度帯以下の温度となってしまうと、塗布した塗布剤が垂れてしまうため再度加熱して適正温度帯まで昇温する必要があるためである。
また、手段15として、前記塗型被形成面の一部の領域が加熱され、その一部の領域の塗型剤の噴射処理が完了する工程を1つの噴射工程とし、前記1つの噴射工程が完了すると、前記アームは前もってプログラムされた経路に従って移動させられ、次の前記塗型被形成面の一部の領域について次の1つの噴射工程が実行されるようにした。
これによって、塗型被形成面の一部に次々とバッチ式に塗型剤を噴射して塗型を形成し最終的に塗型被形成面全体に塗型を形成することができる。つまり、必ずしも予熱炉がなくとも塗型被形成面の一部を加熱して塗型形成を繰り返すことで塗型被形成面全体に塗型を形成することができる。
また、手段16として、前記1つの噴射工程における塗型剤の噴射処理が完了した段階でその塗型被形成面を加熱して焼成処理を実行するようにした。
これによって塗型剤の噴射処理が完了した当該塗型被形成面を加熱焼成することができ、塗型内に残った結合水を除去することができる。
また、手段17として、前記金型のすべての塗型被形成面について塗型剤の噴射処理が完了した段階で前記アームを再度前記経路に沿って移動させ、前記加熱手段によって前記塗型被形成面を加熱して焼成処理を実行するようにした。
これによって塗型剤の噴射処理が完了した当該塗型被形成面を加熱焼成することができ、塗型内に残った結合水を除去することができる。
【0011】
上述の手段1~手段17に示した発明は、任意に組み合わせることができる。例えば、手段1に示した発明の全てまたは一部の構成に手段2以降の少なくとも1つの発明の少なくとも一部の構成を加える構成としてもよい。特に、手段1に示した発明に、手段2以降の少なくとも1つの発明の少なくとも一部の構成を加えた発明とするとよい。また、手段1から手段17に示した発明から任意の構成を抽出し、抽出された構成を組み合わせてもよい。本願の出願人は、これらの構成を含む発明について権利を取得する意思を有する。また「~の場合」「~の際」という記載があったとしてもその場合やそのときに限られる構成として記載はしているものではない。これらの場合やときでない構成についても開示しているものであり、権利取得する意思を有する。また順番を伴った記載になっている箇所もこの順番に限らない。一部の箇所を削除したり、順番を入れ替えた構成についても開示しているものであり、権利取得する意思を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加熱した塗型被形成面の一部についてロボットのアームを操作して塗型剤を噴射するようにしたため、作業者が実施する際のくせや技量等の個人差が生じにくく、品質の安定した塗型を形成することができる。また、金型全体を加熱する予熱炉が不要となるためコスト削減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明において(a)は実施の形態の加工システムの模式図、(b)は従来の加工システムの模式図。
図2】本発明の実施形態の加工システムにおいて第1~第3のローラーコンベヤ装置の配置状態を説明する側面図。
図3】同じ実施形態の加工システムの平面図。
図4】同じ実施形態の加工システムの正面図。
図5】ロボットのアーム先端に装着されるシリンダー装置とスプレーガン及びヒートガンを説明する(a)は側面図(b)は正面図。
図6】ロボットのアーム先端に装着されるシリンダー装置とスプレーガン及びヒートガンを説明する(a)はスプレーガンが進出した状態の側面図、(b)はヒートガンが進出した状態の側面図。
図7】ヒートガンが金型までの距離に応じて進出量が異なることを説明する説明図。
図8】本発明の実施形態の加工システムの電気的構成を説明するブロック図。
図9】ロボットのアームが金型の形状に応じた固有の経路でその表面を移動することを説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態である金型に塗型を形成させるための加工システムと塗型形成方法について図面に基づいて説明する。
図1(a)に示すように、本実施の形態の加工システム1は金型Wの搬入路となる搬入領域2と、金型Wを予熱~塗型剤噴射~加熱焼成のすべてを実行する塗型加工領域3と、加工後の金型Wの搬出路となる搬出領域4とから構成される。図1(b)は従来の加工システム5である。従来の加工システム5では搬入路となる搬入領域2の下流には順に予熱炉を有する予熱領域6、予熱後の金型Wを加熱焼成する焼成炉を有する焼成領域7、加工後の金型Wの搬出路となる搬出領域8とから構成される。つまり、本実施の形態の加工システム1は予熱炉と焼成炉がない。以下、加工システム1の具体的な構成について説明する。
【0015】
図2図4に示すように、加工システム1は搬入領域2を構成する搬入側の第1のローラーコンベヤ装置11を備えている。図2及び図4に示すように、第1のローラーコンベヤ装置11にはローラー上を通過する金型Wを検出するための透過型赤外線センサの投光器12aと受光器12bが配設されている。尚、図2図4は模式的な図であるため、投光器12a及び受光器12bのサポート部材は省略されている。第1のローラーコンベヤ装置11の下流には塗型加工領域3を構成する第2のローラーコンベヤ装置13が配設されている。図3及び図4に示すように、第2のローラーコンベヤ装置13に隣接した位置にはロボット15が配設されている。本実施の形態のロボット15は6軸構成のアーム16を備え、アーム16先端にはスプレーガン17とヒートガン18が取り付けられている。図4に示すように、ロボット15に隣接してプレーガン17に塗型剤を供給するめの塗型剤循環装置19が配設されている。アーム16に対するスプレーガン17とヒートガン18の装着状態については後述する。
図3に示すように、第2のローラーコンベヤ装置13を挟んだ対角線となる位置には位置決め装置20が配設されている。位置決め装置20は電動のシリンダー装置21を備え、シリンダー装置21から延出されて進退するロッド21aの先端には金型Wが載置されたベースBの角部に係合する保持部21bが取着されている。図3及び図4に示すように、第2のローラーコンベヤ装置13の斜め側方には形状認識センサ22が配設されている。形状認識センサ22は金型Wの台座Bに表記された金型Wの型番を示すマークを認識する。尚、図4は模式的な図であるため、形状認識センサ22のサポート部材は省略されている。
第2のローラーコンベヤ装置13の下流には加工後の金型Wが搬出される搬出領域4を構成する第3のローラーコンベヤ装置23が配設されている。第3のローラーコンベヤ装置23にはローラー上を通過する金型Wを検出するための透過型赤外線センサの投光器24aと受光器24bが配設されている。尚、図2は模式的な図であるため、投光器24a及び受光器24bのサポート部材は省略されている。図2に示すように、第1~第3のローラーコンベヤ装置11、13、23の下方にはそれぞれモータ25、26、27が配設されている。
【0016】
次に、ロボット15のアーム16のスプレーガン17とヒートガン18及びその周辺の構成について説明する。
図5図7に示すように、アーム16の先端にはアクチュエーターとしての電動のシリンダー装置28が配設されている。シリンダー装置28に対してスプレーガン17とヒートガン18が進退可能に装着されている。スプレーガン17及びヒートガン18はそれぞれシリンダー装置28から突出するロッド29先端に取り付けられている。ロッド29はシリンダー装置28内部の図示しないボールネジに螺合されており、ボールネジの回動に応じて進退する。
噴射装置としてのスプレーガン17は図示しないタンクから供給される液体状の塗型剤をエアーによってノズル先端から霧状に噴射する。スプレーガン17は圧縮空気がコンプレッサー(例えば、レシプロコンプレッサーやスクリューコンプレッサー等)から供給されることで間欠的に一定の量の塗型剤を吹き付ける間欠噴射タイプである。加熱装置としてのヒートガン18はジュール熱による熱風ヒーターをコンプレッサーからの圧縮空気を噴射することで対象物を加熱する。ヒートガン18は熱源としての熱風ヒーターを電圧によって制御するとともにコンプレッサーの調整バルブの開閉量を制御することで熱風の噴出量を調整することで温度を調整する。本実施の形態では1つのスプレーガン17と1つのヒートガン18がセットになっており、隣接して3セットがシリンダー装置28に配設されている。そのため、合計で6つのロッド29を進退させるための各ボールネジを回動させる6つのモータ36がシリンダー装置28内部に配設されている。
シリンダー装置28の筐体28aの側面には各ヒートガン18ごとに1つずつ熱センサとしての放射温度計30が配設されている。放射温度計30はヒートガン18の前方に配置される物体(本実施の形態では金型W)の表面の温度を測定する。筐体28aの底面の各スプレーガン17及びヒートガン18に隣接した位置にはそれぞれレーザー測定器31が配設されている。レーザー測定器31は物体(本実施の形態では金型W)までの距離を測定する測定装置とされ、スプレーガン17及びヒートガン18から金型Wの表面までの距離を測定する。
【0017】
次に、加工システム1の電気的構成について図8のブロック図に基づいて説明する。
加工システム1はメインコントローラMCを備えている。メインコントローラMCは制御手段としてのMPU(Micro Processing Unit)33を備えている。MPU33にはROM34及びRAM35が接続されている。
ROM34にはシステム駆動用のアプリケーションプログラム、アーム16の動作に応じてスプレーガン17やヒートガン18を動作させるための制御プログラム、各種センサ(形状認識センサ22、赤外線センサ、放射温度計30、レーザー測定器31等)の情報に基づく計算プログラム、金型形状データをロードするためのアプリケーションプログラム等が格納されている。RAM35はロードされた各種のデータ(例えばワークの形状データ、アームのラインデータ等)あるいはプログラムが一時的に記憶される。また、MPU33にはデータインターフェース手段としてのCD-ROM・ドライブ38と、データ入力手段としてのキーボード39及びマウス40と、データ出力手段、表示手段としてのモニター41がそれぞれ図示しないインターフェースを介して接続されている。
CD-ROM・ドライブ38はCD-ROM43を駆動させる。CD-ROM43には金型形状データ、金型形状データごとに関連付けされたアームの移動ラインの情報(ラインデータ)等が保存される。オペレーターはモニタ38のGUI画面上でシステム稼動における開始~終了にかけての各種操作を実行する。
また、MPU33には上記システムを構成するローラーコンベヤ装置11、13、23のモータ25、26、27、シリンダー装置28のモータ36、スプレーガン17のコンプレッサー用モータ45、ヒートガン18の熱風ヒーター46、ヒートガン18のコンプレッサーのバルブ開閉調整用のモータ47、シリンダー装置21のモータ48等の各種装置がそれぞれ図示しないインターフェースを介して接続されている。また、MPU33はメインコントローラMCに隣接するロボット15のサブコントローラSCと接続されている。
また、MPU33には上記各種装置を制御するための各種情報を取得するための形状認識センサ22、透過型赤外線センサ(投光器12a、24a、受光器12b、24b)、放射温度計30、レーザー測定器31等がそれぞれ図示しないインターフェースを介して接続されている。
このような構成において、MPU33はシリンダー装置28のモータ36を制御してスプレーガン17を進出させて塗型剤の噴射動作を実行させる。噴射動作を実行させる際にはスプレーガン17のコンプレッサー用モータ45を駆動制御して間欠的にスプレーガン17から所定量の塗型剤を噴射させる。
また、MPU33はシリンダー装置28のモータ36を制御してヒートガン18を進出させて加熱動作を実行させ、加熱休止状態においてモータ36を制御してヒートガン18を後退させる。加熱動作の際にはMPU33はヒートガン18の熱風ヒーター46の出力とコンプレッサーのバルブ開閉調整用のモータ47を制御(つまり風力を制御)して設定した最大の熱量を供給できるようにし、加熱休止状態では逆にこれらを制御して最小の熱量とする。
【0018】
次に、加工システム1における具体的な加工方法の一例についてMPU33の実行する制御とともに説明する。尚、以下の工程は一例であって他の加工方法や制御方法によって金型Wを加工するようにしてもよい。
(1)金型の搬入~加工位置への配置
作業者は搬入領域2にある第1のローラーコンベヤ装置11の上流位置に金型Wを載置する。そして、加工システム1を駆動させる。オペレーターはメインスイッチを投入後、モニター41上でマウス40等の入力手段を使用して加工プログラムを実行させるための入力を行う。
MPU33は第1のローラーコンベヤ装置11のモータ25を駆動させて、第1のローラーコンベヤ装置11上の金型Wを下流に移動させる。MPU33は、同時に第2のローラーコンベヤ装置12のモータ26も駆動させる。
第1のローラーコンベヤ装置11上で金型Wを載置するベースBの前端と後端がそれぞれ透過型赤外線センサ(投光器12aと受光器12b)によって同時に検出されることで、金型Wの初期位置が決定される。この初期位置に達したときから所定の時間(例えば5秒)経過した段階で金型Wは第2のローラーコンベヤ装置12の加工位置に達するため、MPU33は所定の時間経過により一旦第1及び第2のローラーコンベヤ装置11のモータ25、26を停止させる。このとき、金型Wは第2のローラーコンベヤ装置12の加工位置に停止する。そして、MPU33は停止と同時に位置決め装置20のシリンダー装置21のモータ43を駆動させ、ロッド21aを進出させベースBの角部に保持部21bを係合させて金型Wを動かないように固定する。このように固定されることで金型Wは停止位置で若干のずれがあっても修正される。この位置を金型Wの加工位置とする。
【0019】
(2)金型の塗型被形成面への塗型の形成
次いで、MPU33は形状認識センサ22の情報に基づいて金型Wの形状を分析し、その結果に基づいてロボット15のサブコントローラSCに金型形状データに対応したラインデータを送る。サブコントローラSCはロボット15のアーム16に加工位置にある金型Wの表面に沿った所定の動きをさせる。同時にMPU33はスプレーガン17のコンプレッサー用モータ45、ヒートガン18の熱風ヒーター41、ヒートガン18のコンプレッサーのバルブ開閉調整用のモータ47をそれぞれ制御して塗型を形成させていく。
より具体的には、次のような工程で塗型形成が実行される。
イ)アームの動作
例えば図9に示すようにロボット15はラインデータに従って金型Wごとに決まっている経路に沿ってアーム16先端を金型Wに正対させながら金型Wとの距離を略一定に保つように移動する。このときその経路上で停止してヒートガン18とスプレーガン17とによって加熱と塗型剤の噴射をすることとなる。つまり、MPU33からの命令に基づいてアーム16は少しずつ止まりながら移動し、ラインデータに沿って塗型を形成していくこととなる。
ロ)スプレーガンについて
アーム16先端に配置されたスプレーガン17は合計で3つとされる。スプレーガン17はそれぞれアーム16先端からの距離と方向が様々であることから各スプレーガン17とそれらと対向する金型Wとの距離も一定とはならない。また、スプレーガン17が対向する金型Wの表面までの距離も金型の形状によって異なる可能性がある。そのため、3つのスプレーガン17はそれぞれ独立に進退する。スプレーガン17ごとにレーザー測定器31で金型Wとの距離が測定され、レーザー測定器31の測定数値に基づいてMPU33は各スプレーガン17とそれらと対向する金型Wとの距離が一定となるように制御する。スプレーガン17の進出量はシリンダー装置28のモータ36の回転量の制御によって定まる。MPU33はーザー測定器31の測定数値に基づいて当該スプレーガン17のモータ36の回転量を調整する。これによってスプレーガン17によって噴射された塗型剤の一回の噴射によって塗型剤が塗布される領域(以下、一回噴射領域)の塗型面が均質化することとなる。
スプレーガン17は前もって一回の噴出量とはコンプレッサー用モータ40の回転速度を設定しておく。
ハ)ヒートガンについて
アーム16先端に配置されたヒートガン18は合計で3つあり、それぞれ異なる位置を同時に加熱することとなる。1つのヒートガン18が加熱する領域はスプレーガン17の一回噴射領域よりも広い。ヒートガン18についてもレーザー測定器31で金型Wとの距離が測定され、MPU33は各ヒートガン18とそれらと対向する金型Wとの距離が一定となるように制御する。ヒートガン18の進出量はシリンダー装置28のモータ36の回転量の制御によって定まる。MPU33はレーザー測定器31の測定数値に基づいて当該ヒートガン18のモータ36の回転量を調整する。
ヒートガン18は前もって熱風ヒーター41の出力と加熱時の風力を設定しておく。
【0020】
ニ)スプレーガンとヒートガンの具体的な制御
MPU33はアーム16が止まった位置で後退状態の初期位置に配置されているスプレーガン17とヒートガン18の進退とそれにともなう噴射動作あるいは加熱動作を制御する。まず、図6(a)に示すようにヒートガン18を、金型W方向に進出させて設定した熱風ヒーター41の最大出力と設定した最大風力で所定時間加熱動作を制御する(例えば10秒)。
このとき、図7に示すように、金型Wとの距離が計測されて金型Wまでの距離に応じた進出位置でヒートガン18は起動される(高熱の熱気が放射される)。
そして、加熱完了後に図6(b)に示すようにヒートガン18を一旦後退させ、代わりにスプレーガン17を進出させる。ヒートガン18を後退させると同時にMPU33はヒートガン18の熱風ヒーター41の出力と加熱時の風力を最小とする。
ヒートガン18で加熱された金型Wの表面は放射温度計30で常時温度が測定されている。MPU33は測定値に基づいて塗型剤を噴射してもよい適正温度帯(180度~230度程度)となっていると判断するとスプレーガン17を制御して塗型剤の噴射動作をさせる。図示しないがヒートガン18と同様スプレーガン17も金型Wまでの距離に応じた進出位置で起動される(噴射動作が実行される)。スプレーガン17の噴射間隔は塗型剤の噴射量やコンプレッサーの能力によって決定されるが、例えば0.2秒間隔で実行される。
【0021】
ここで、ある停止状態でヒートガン18による加熱される領域はスプレーガン17の一回噴射領域よりも広い。本実施の形態では一回噴射領域に対して3倍ほどの加熱領域とされる。そのため、各回の加熱においてはMPU33はアーム16の噴射角度を変化させて加熱領域のそれぞれ異なる位置に合計4回の噴射を実行させるように制御している。この変化させる角度はヒートガン18とスプレーガン17の取り付け位置や金型Wとの距離に基づいて設定される。
また、複数回の塗型剤の噴射をさせる際に、MPU33は放射温度計30での測定において加熱領域の温度が適正温度帯(180度~230度程度)よりも低くなったと判断した場合には、スプレーガン17の噴射動作を一旦中断させて初期位置に後退させる。そして、再度ヒートガン18を進出させて所定時間加熱するよう制御する。そしてMPU33は放射温度計30での測定において改めて塗型剤を噴射してもよい適正温度帯(180度~230度程度)となっていると判断するとスプレーガン17を制御して残りの塗型剤の噴射動作を継続させる。
【0022】
ある停止状態での加熱領域の所定の複数回(つまりここでは4回)の塗型剤の噴射が完了すると、MPU33は当該加熱領域の全域での塗型剤の塗布が完了したと判断し、スプレーガン17を初期位置に後退させ、改めてヒートガン18を進出させ所定時間加熱する(例えば10秒)。この加熱は成膜させた塗型剤から結合水を除去するための加熱焼成工程となる。これによって当該位置における塗型が形成される。
次いでMPU33は隣接するラインデータの経路上の塗型被形成面にアーム16を移動させ上記と同様にスプレーガン17とヒートガン18の進退とそれにともなう噴射動作あるいは加熱動作を制御して塗型を形成させていく。このように少しずつアーム16をラインデータの経路に沿って移動させて金型W表面に塗型を形成させていく。
【0023】
(3)金型の搬出
上記(2)においてMPU33はアーム16が金型Wのすべての経路を通過し、最後の位置での塗型形成が完了したと判断すると、位置決め装置20のシリンダー装置21のモータ43を駆動させてロッド21aを後退させ、金型Wを固定状態から解除させる。同時にMPU33は第2及び第3のローラーコンベヤ装置11のモータ26、27を駆動させ金型Wを下流に搬送する。第3のローラーコンベヤ装置11上に金型Wが至ると、ベースBの前端と後端がそれぞれ透過型赤外線センサ(投光器24aと受光器24b)によって同時に検出されることで、MPU33は金型Wの搬出が完了したと判断し、第2及び第3のローラーコンベヤ装置11のモータ26、27を停止させる。
【0024】
以上のような構成によって、実施の形態の加工システム1では次のような効果が奏されることとなる。
(1)金型Wに塗型を形成させる際に金型W全体を予熱する必要がなくなり、予熱炉が不要となる。また、塗型が形成された際に従来では金型Wを焼成炉に搬送して加熱焼成しなければならなかったが、そのような焼成炉も不要となる。予熱炉・焼成炉が不要になることから設備コストや加熱のためのエネルギーコストが軽減され、予熱炉・焼成炉のためのスペースも不要になるためシステム全体として大型化を抑制できる。
(2)ある1つの加熱領域に繰り返しスプレーガン17によって塗型剤を噴射する際に時間が経過することで温度が下がった場合でも再度加熱することでその加熱領域を再度塗型剤を噴射できる温度に加熱することができるため、加熱領域が広くともその領域に塗型剤を成膜させることができる。
(3)金型Wの表面形状が一様でなくともスプレーガン17やヒートガン18の進出位置を最適な位置に進出させることができるため、どのような金型Wであっても均質な塗型を形成することができる。
【0025】
本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記の実施の形態は一例である。他の形態で実施するようにしてもよい。例えば、コンベヤ装置11、13、23を用いずに塗型加工領域3のみを設けるようにしてもよい。また、例えばロボットとして6軸構成のアーム16以外のアームを用いるようにしてもよい。また、例えば金型Wの外形形状をティーチングさせてそのラインデータを利用してアームを経路に沿って移動させるようにしてもよい。加熱時間や塗型剤の噴射回数も上記はあくまでも一例である。
・上記で使用したスプレーガン17やヒートガン18の仕様は一例であってその形態として様々なものを使用できる。例えば、上記実施の形態ではアーム16の先端のスプレーガン17は3つであったが、1つや2つあるいは4つ以上でもよい。また、スプレーガンとして他の機構で塗型剤を噴射させたり、ヒートガンとしてジュール熱ではない他の加熱手段、例えば化石燃料を燃焼するバーナーやレーザー光線のようなエネルギーの高い電磁波による加熱であってもよい。
・上記実施の形態ではスプレーガン17による塗型剤の噴射回数は、ある加熱領域について4回としたが、この回数は加熱領域の面積や一回噴射領域の面積によって適宜変更可能である。加熱領域と一回噴射領域が一致するのであれば塗型剤を複数回噴射する必要はない。
・上記実施の形態ではレーザー測定器31はスプレーガン17とヒートガン18の1セットごとに1台がシリンダー装置28に取り付けられていたが3セットで1台のレーザー測定器31であってもよい。1台のレーザー測定器31だけでもシリンダー装置28に位置に基づいて距離は演算できるからである。
・上記実施の形態では加熱領域ごとに塗型剤から結合水を除去するための加熱焼成を行うような例を説明したが、例えば加熱焼成はすべての金型Wの塗型形成が必要な面の成膜が完了してから改めてラインデータに基づいてアーム16を経路に沿って移動させヒートガン18で加熱焼成するようにしてもよい。
・上記で使用した各種センサ(形状認識センサ22、透過型赤外線センサ(投光器12a、24a、受光器12b、24b)、放射温度計30、レーザー測定器31等)は一例であって、同様の機能を果たすのであれば他の手法によってそれぞれ情報を取得するようにしてもよい。
・上記実施の形態では加熱手段(加熱装置)としてヒートガン18を使用したが、このように外から熱エネルギーを与えるだけではなく、例えば金型W自体に電極を接触させ、その電極間に電流を流してジュール熱を発生させるような抵抗加熱による加熱手段であってもよい。
【0026】
本願発明は上述した実施の形態に記載の構成には限定されない。上述した各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
また、意匠出願への変更出願により、全体意匠または部分意匠について権利取得する意思を有する。図面は本装置の全体を実線で描画しているが、全体意匠のみならず当該装置の一部の部分に対して請求する部分意匠も包含した図面である。例えば当該装置の一部の部材を部分意匠とすることはもちろんのこと、部材と関係なく当該装置の一部の部分を部分意匠として包含した図面である。当該装置の一部の部分としては、装置の一部の部材としてもよいし、その部材の部分としてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1…加工システム、2…搬入領域、3…加工領域、4…搬出領域、15…ロボット、16…アーム、17…噴射装置としてのスプレーガン、18…加熱装置としてのヒートガン、30…検出手段としての放射温度計、W…金型。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9