(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039029
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】シート部構造
(51)【国際特許分類】
F02F 1/24 20060101AFI20230313BHJP
F16J 15/08 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
F02F1/24 S
F16J15/08 H
F16J15/08 K
F02F1/24 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145966
(22)【出願日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】303047034
【氏名又は名称】株式会社ジャパンエンジンコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 英生
(72)【発明者】
【氏名】木下 芳彦
【テーマコード(参考)】
3G024
3J040
【Fターム(参考)】
3G024AA15
3G024BA20
3G024FA08
3J040AA12
3J040BA04
3J040FA01
3J040HA04
3J040HA16
(57)【要約】
【課題】シリンダカバーと排気弁座とのシート部間のガスケットによるシール性の低下を抑制できるシート部構造を提供すること。
【解決手段】舶用ディーゼルエンジンの燃焼室を有するシリンダのシリンダカバーと、前記燃焼室の排気口を開閉する排気弁を着座させる排気弁座とを環状のガスケットを挟んで接合するためのシート部構造であって、前記シリンダカバーは、前記シリンダの長手軸を囲むように環状に形成され、前記ガスケットの外径よりも大きい外径を有し、前記ガスケットが載置されるシート部と、前記シート部の内周端部に沿って設けられ、前記シート部に載置された前記ガスケットの内周面と接触して前記ガスケットを係止する係止部と、を備える。前記排気弁座は、前記ガスケットを挟んで前記シート部と対向するように環状に形成され、前記ガスケットの外径よりも大きい外径を有する弁座シート部を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
舶用ディーゼルエンジンの燃焼室を有するシリンダのシリンダカバーと、前記燃焼室の排気口を開閉する排気弁を着座させる排気弁座とを、前記シリンダの長手軸を囲む環状のガスケットを挟んで接合するためのシート部構造であって、
前記シリンダカバーは、
前記シリンダの長手軸を囲むように環状に形成され、前記ガスケットの外径よりも大きい外径を有し、前記ガスケットが載置されるシリンダカバーシート部と、
前記シリンダカバーシート部の内周端部に沿って設けられ、前記シリンダカバーシート部に載置された前記ガスケットの内周面と接触して前記ガスケットを係止する係止部と、
を備え、
前記排気弁座は、前記ガスケットを挟んで前記シリンダカバーシート部と対向するように環状に形成され、前記ガスケットの外径よりも大きい外径を有する弁座シート部を備える、
ことを特徴とするシート部構造。
【請求項2】
前記係止部は、前記シリンダカバーシート部よりも前記弁座シート部側に突起する凸状に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のシート部構造。
【請求項3】
前記係止部は、前記シリンダカバーシート部の内周端部に沿って環状または弧状に設けられている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のシート部構造。
【請求項4】
前記シリンダカバーは、前記係止部の外周端部に沿って溝部をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載のシート部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舶用ディーゼルエンジンのシリンダカバーと排気弁座とを気密に接合するためのシート部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶に搭載される舶用ディーゼルエンジンにおいては、燃焼室からのガス漏れを防止するために、従来、燃焼室に面するシリンダ等の各部品同士の接合部にシール部材を挟み、これにより、当該接合部の隙間をシールしている。例えば、シリンダの一構成部品であるシリンダカバーと、燃焼室の排気口を開閉する排気弁を着座させる排気弁座とは、シール部材の一例であるガスケットを挟んで接合される。
【0003】
一般に、排気弁座の上部には、排気弁を摺動自在に支持する排気弁箱が取り付けられる。排気弁箱は、シリンダカバーとの間に排気弁座を挟んだ状態で、ボルトの締結により、当該シリンダカバーの上部に固定される。また、シリンダカバーのシート部上にはガスケットが載置され、このガスケットをシリンダカバーのシート部と排気弁座のシート部との間に挟むようにして、シリンダカバーの上部に排気弁座が接合される。このようにシート部間にガスケットを挟んだ状態のシリンダカバーと排気弁座とは、上記ボルトの締結力によって上記排気弁箱とともに固定される。ここでいうシート部とは、ガスケットを挟むことによってシールされる各部品間の接合部である。
【0004】
なお、特許文献1には、シリンダカバーの下面とシリンダライナの上面とを、ガスケットを挟んで接合する構造が開示されている。この特許文献1に記載の接合構造では、シリンダライナの上面に、ガスケットのエッジ部における局所的な応力を無くすための周溝が形成されている。また、特許文献2には、シリンダカバーと排気弁座(弁座リング)とを、レーザ金属肉盛りによる肉盛層を介して接合する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-126023号公報
【特許文献2】特開2020-51335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したシリンダカバーと排気弁座とをガスケットを挟んで接合するための従来のシート部構造では、シリンダカバーのシート部上に載置されたガスケットが、シリンダカバーと排気弁座との接合作業時や燃焼室側から筒内圧力を受けた時に、当該シート部の片側(シリンダの内側または外側)に偏って位置ずれする場合がある。この場合、シリンダカバーと排気弁座との隙間の形状(例えば湾曲形状等)に沿ってガスケットが変形してしまい、この結果、当該ガスケットによるシート部間のシール性が低下して、燃焼室からのガス漏れが生じる恐れがある。
【0007】
また、舶用ディーゼルエンジンの稼働時には燃焼室が高温な状態になることから、この燃焼室から伝わる高熱により、シリンダカバーおよび排気弁座が膨張変形し、これに伴い、これらのシート部間のガスケットも膨張変形する場合がある。このようなガスケットの膨張変形は、上述したボルトに近い部位ほど強く抑制されるものの、当該ボルトから遠い部位ほど抑制され難いため、歪な変形(例えば円形から楕円形への変形)になり易い。この場合も、当該ガスケットによるシート部間のシール性が低下して、燃焼室からのガス漏れが生じる恐れがある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、シリンダカバーと排気弁座とのシート部間のガスケットによるシール性の低下を抑制することができるシート部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るシート部構造は、舶用ディーゼルエンジンの燃焼室を有するシリンダのシリンダカバーと、前記燃焼室の排気口を開閉する排気弁を着座させる排気弁座とを、前記シリンダの長手軸を囲む環状のガスケットを挟んで接合するためのシート部構造であって、前記シリンダカバーは、前記シリンダの長手軸を囲むように環状に形成され、前記ガスケットの外径よりも大きい外径を有し、前記ガスケットが載置されるシリンダカバーシート部と、前記シリンダカバーシート部の内周端部に沿って設けられ、前記シリンダカバーシート部に載置された前記ガスケットの内周面と接触して前記ガスケットを係止する係止部と、を備え、前記排気弁座は、前記ガスケットを挟んで前記シリンダカバーシート部と対向するように環状に形成され、前記ガスケットの外径よりも大きい外径を有する弁座シート部を備える、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るシート部構造は、上記の発明において、前記係止部は、前記シリンダカバーシート部よりも前記弁座シート部側に突起する凸状に形成されている、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るシート部構造は、上記の発明において、前記係止部は、前記シリンダカバーシート部の内周端部に沿って環状または弧状に設けられている、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るシート部構造は、上記の発明において、前記シリンダカバーは、前記係止部の外周端部に沿って溝部をさらに備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリンダカバーと排気弁座とのシート部間のガスケットによるシール性の低下を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る舶用ディーゼルエンジンのシート部構造付近の一構成例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係るシート部構造の一構成例を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係るシート部構造の要部を拡大して示す拡大断面模式図である。
【
図4】
図4は、
図2に示すシート部構造のA-A線断面模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係るシート部構造の係止部の作用を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係るシート部構造のシリンダカバーシート部および弁座シート部の作用を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係るシート部構造の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
【0016】
(舶用ディーゼルエンジンの構成)
まず、本発明の実施形態に係るシート部構造が適用されるシリンダカバーおよび排気弁座を備えた舶用ディーゼルエンジンの構成について説明する。本発明の実施形態において、シート部構造は、舶用ディーゼルエンジンの燃焼室を有するシリンダのシリンダカバーと、当該燃焼室の排気口を開閉する排気弁を着座させる排気弁座とを、当該シリンダの長手軸を囲む環状のガスケットを挟んで接合するための接合構造である。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る舶用ディーゼルエンジンのシート部構造付近の一構成例を示す模式図である。
図1に示す舶用ディーゼルエンジン1は、プロペラ軸を介して船舶の推進用プロペラ(いずれも図示せず)を回転運動させる推進用の機関(主機関)である。例えば、舶用ディーゼルエンジン1は、公知のユニフロー掃排気式のクロスヘッド式ディーゼルエンジン等の2ストロークディーゼルエンジンである。舶用ディーゼルエンジン1としては、6気筒エンジン等が挙げられるが、気筒数は特に限定されない。また、舶用ディーゼルエンジン1の動作制御方式としては、カム式または電子制御式等が挙げられるが、特に限定されない。
【0018】
なお、舶用ディーゼルエンジン1のシート部構造付近の構成は、いずれの気筒(シリンダ)においても同様である。このため、以下では、その中の一つの気筒について、舶用ディーゼルエンジン1のシート部構造付近の構成を説明する。
【0019】
図1に示すように、舶用ディーゼルエンジン1は、シリンダライナ2と、シリンダカバー3と、ピストン5と、排気弁6と、排気弁座7と、排気弁箱9と、上部動弁装置11とを含んで構成されている。
【0020】
シリンダライナ2は筒状の構造体であり、シリンダライナ2の上部にはシリンダカバー3が取り付けられる。これらのシリンダライナ2およびシリンダカバー3は、舶用ディーゼルエンジン1における一つのシリンダ4を構成するものであり、ピストン5が往復運動する筒状の空間(すなわちシリンダ4内の空間)を形成している。ピストン5は、この空間内に往復運動自在に設けられる。特に図示しないが、ピストン5の下部にはピストン棒が接続され、このピストン棒の下部は、クロスヘッド等を介してクランクシャフトに連結されている。このクランクシャフトは、ピストン5の往復運動に連動して回転運動し、これにより、プロペラ軸等を回転させる。
【0021】
また、
図1に示すように、排気弁6は、弁体6aと弁棒6bとを備える。排気弁座7は、排気弁6の弁体6aを全周に亘って着座させ得る座面を有するよう環状に構成され、燃焼室8の排気口に通じる排気ポート7aを内部に形成する。排気弁座7は、
図1に示すように、シリンダカバー3の上部に組み込まれている。これらのシリンダライナ2と、シリンダカバー3と、ピストン5と、弁体6aとにより、シリンダ4が内部に有する燃焼室8が形成される。この燃焼室8の内部には、シリンダカバー3に取り付けられた燃料噴射弁(図示せず)から燃料(重油や軽油等の化石燃料、或いは水素等の代替燃料)、または水等の燃料以外の液体が噴射される。
【0022】
排気弁箱9は、
図1に示すように、シリンダカバー3との間に排気弁座7を挟んだ状態で、シリンダ4の上部に取り付けられている。本実施形態において、排気弁箱9は、例えばシリンダ4の長手軸4aの軸回り方向に所定の間隔で位置する複数(
図1では2本)のボルト13a、13bの締結により、シリンダカバー3の上部に固定される。これにより、排気弁箱9の下端部は、シリンダカバー3の上部に組み込まれた状態の排気弁座7の上端部と連結される。これと同時に、シリンダカバー3と排気弁座7とが、互いのシート部間にガスケット15を挟んだ状態で、ボルト13a、13bの締結力によって接合固定される。なお、シリンダ4の長手軸4aは、シリンダ4の長手方向の中心軸である。また、排気弁箱9は、排気弁座7の排気ポート7aと連通する排気ポート9aと、排気弁6の弁棒6bを摺動自在に支持する弁棒案内部10とを内部に有する。
【0023】
上部動弁装置11は、排気弁箱9の上部に取り付けられており、排気弁6を往復移動可能に構成されている。上部動弁装置11は、圧縮ばねまたは空気ばね等の付勢部材(図示せず)を内部に備え、この付勢部材の作用により、排気弁6を、排気ポート7aを閉止する方向に付勢させた状態で支持している。また、上部動弁装置11は、配管を通じて給油ポンプ(図示せず)から供給された作動油の油圧により、排気弁6を付勢部材に抗して下降させる。このようにして、上部動弁装置11は、排気ポート7aを開放するように排気弁6を作動させる。排気弁6は、上部動弁装置11に作動油が供給されている間だけ、排気ポート7aを開放し、この作動油の供給が停止されると排気ポート7aを閉止する。
【0024】
このような舶用ディーゼルエンジン1では、掃気ポート(図示せず)から空気等の燃焼用ガスが燃焼室8に導入された後にピストン5が上昇し、排気弁6によって排気ポート7aが閉じることにより、燃焼室8内の燃焼用ガスが圧縮される。燃焼室8内では、上記圧縮された燃焼用ガスと燃料噴射弁から噴射された燃料等の噴射液とが混合して燃焼し、燃焼エネルギーによってピストン5が下降する。燃焼室8内の排ガスは、排気弁6が排気弁座7の排気ポート7aを開放したタイミングに、当該排気ポート7aを通じて排気弁箱9内の排気ポート9aに排出される。その後、排ガスは、排気ポート9aから配管を通じて排気マニホールド(図示せず)に排出される。
【0025】
(シート部構造)
つぎに、本発明の実施形態に係るシート部構造について説明する。本実施形態に係るシート部構造は、上述したシリンダカバー3と排気弁座7とをガスケット15を挟んで接合するための接合構造である。
図2は、本発明の実施形態に係るシート部構造の一構成例を示す断面模式図である。
図3は、本発明の実施形態に係るシート部構造の要部を拡大して示す拡大断面模式図である。なお、
図3には、
図2中の破線で囲まれた部分が拡大して図示されている。
図4は、
図2に示すシート部構造のA-A線断面模式図である。
【0026】
本実施形態に係るシート部構造において、
図2~4に示すように、シリンダカバー3は、ガスケット15を挟んで排気弁座7のシート部と接合されるシリンダカバーシート部31と、ガスケット15を係止するための係止部32とを備える。
【0027】
シリンダカバーシート部31は、
図3、4に示すように、ガスケット15を挟んで排気弁座7の弁座シート部71と接合される接合面であり、シリンダ4(
図1参照)の長手軸4aを囲むように環状に形成される。例えば
図4に示すように、シリンダカバーシート部31は、長手軸4aの方向の上側から見た上面視で円環状の面であることが好ましい。また、シリンダカバーシート部31は、
図3に示すように、環状をなすガスケット15の外径R1よりも大きい外径R2を有する。このようなシリンダカバーシート部31上には、
図3、4に示すように、ガスケット15が載置される。
【0028】
なお、シリンダカバーシート部31の内径は、シリンダカバーシート部31上にガスケット15が載置可能であり且つ当該ガスケット15によってシリンダカバー3と排気弁座7とのシート部間のシールが可能であれば、ガスケット15の内径に比べて、大きくてもよいし、小さくてもよいし、同じであってもよい。また、シリンダカバーシート部31の幅は、その内周端部31aと外周端部31cとの間隔であり、例えば、ガスケット15とシリンダカバーシート部31との接合強度およびシール性に適した接合面積を確保し得るように設定される。
【0029】
係止部32は、シリンダカバーシート部31に載置されるガスケット15の位置決めを行い且つ載置後のガスケット15の位置ずれを抑制するためのものである。詳細には、
図3、4に示すように、係止部32は、シリンダカバーシート部31の内周端部31aに沿って、環状または弧状に設けられる。例えば、係止部32は、シリンダカバーシート部31よりもシリンダカバー3の内周側に位置し、シリンダカバーシート部31の内周側の全周に亘って連続する円環状に設けられている。
【0030】
また、係止部32は、
図3、4に示すように、シリンダカバーシート部31よりも排気弁座7の弁座シート部71側に突起する凸状に形成され、シリンダカバーシート部31側から弁座シート部71側に延在する側壁面32aを有している。係止部32の側壁面32aは、シリンダカバー3の径方向において、シリンダカバーシート部31上のガスケット15の内周面15aと対向する。例えば、係止部32がシリンダカバーシート部31の内周端部31aに沿って環状または弧状に形成された場合、係止部32の側壁面32aは、環状または弧状の外周面である。特に、係止部32がシリンダカバーシート部31の内周側の全周に亘って連続する円環状をなす場合、係止部32の側壁面32aは、当該円環状の全周に亘って連続する外周面である。なお、シリンダカバー3の径方向は、シリンダ4の長手軸4aに対して垂直な方向である。係止部32は、シリンダカバーシート部31に載置されたガスケット15の内周面15aと自身の側壁面32aとを接触させて、当該ガスケット15を係止する。
【0031】
このような係止部32は、シリンダカバーシート部31に載置されたガスケット15の内周面15aと接触してガスケット15を係止することにより、シリンダカバーシート部31上におけるガスケット15の載置の位置決めを行う。さらに、係止部32は、シリンダカバーシート部31と弁座シート部71との間に挟まれた状態のガスケット15の位置ずれを、上記ガスケット15の係止によって抑制する。
【0032】
なお、係止部32によってガスケット15を係止するという観点から、係止部32は、上述した環状に形成されることが好ましいが、シリンダカバーシート部31の内周端部31aに沿って間欠的な弧状に形成されてもよい。この場合、係止部32によってガスケット15を内周面15aのいずれの部位においても確実に係止し得るという観点から、弧状の係止部32は、シリンダ4の長手軸4aの軸回り方向に等間隔で設けられることが好ましい。
【0033】
また、
図3、4に示すように、シリンダカバー3は、係止部32の外周端部に沿って溝部33を備えている。溝部33は、上述した係止部32をシリンダカバーシート部31の内周側に形成し易くするための溝である。詳細には、シリンダカバー3と排気弁座7とのシート部構造において、例えば、ガスケット15を介して排気弁座7と接合するシリンダカバー3の接合面を削る等の加工を行うことにより、シリンダカバーシート部31が形成されるとともに、シリンダカバーシート部31よりも突起した係止部32が形成される。この際、係止部32の側壁面32aが、係止部32側からシリンダカバーシート部31側に向かって急峻に下る傾斜面(好ましくはシリンダカバーシート部31の径方向と直交する垂直面)となるように形成される。このような側壁面32aは、係止部32の外周端部に沿って溝部33が形成されるように係止部32の外周側の面を削ることにより、簡易に形成することができる。すなわち、溝部33の形成は、上述したガスケット15の内周面15aと対向する係止部32の側壁面32aの簡易な形成を可能にする。
【0034】
一方、排気弁座7は、上述したように、燃焼室8の排気口を開閉する排気弁6の弁体6aを着座させるものである。このような排気弁座7は、本実施形態に係るシート部構造において、
図2、3に示すように、ガスケット15を挟んでシリンダカバー3のシート部と接合される弁座シート部71を備える。
【0035】
弁座シート部71は、
図3に示すように、ガスケット15を挟んでシリンダカバーシート部31と接合される接合面であり、シリンダ4の長手軸4aを囲むように環状に形成される。すなわち、弁座シート部71は、ガスケット15を挟んでシリンダカバーシート部31と対向するように環状に形成されている。例えば、弁座シート部71は、長手軸4aの方向の下側から見た下面視で円環状の面であることが好ましい。また、弁座シート部71は、
図3に示すように、環状をなすガスケット15の外径R1よりも大きい外径R3を有する。
【0036】
なお、弁座シート部71の内径は、シリンダカバーシート部31と弁座シート部71とがガスケット15を挟んで接合可能であれば特に限定されないが、例えば、シリンダカバーシート部31の内径よりも小さく設定される。また、弁座シート部71の幅は、その内周端部と外周端部71cとの間隔であり、例えば、ガスケット15と弁座シート部71との接合強度およびシール性に適した接合面積を確保し得るように設定される。例えば、
図3に示すように、弁座シート部71の幅は、シリンダカバーシート部31の外周端部31cから係止部32の内周端部に至る環状領域の幅以上に設定されてもよい。
【0037】
また、
図2に示すように、ガスケット15は、互いに接合されるシリンダカバー3と排気弁座7とのシート部間に挟まれるシ-ル部材である。詳細には、ガスケット15は、例えば金属等の素材からなるシール部材であり、
図3、4に示すように、シリンダ4の長手軸4aを囲み得る環状(例えば円環状)に形成される。ガスケット15は、シリンダカバー3における係止部32の外周側に位置するように、シリンダカバーシート部31の上に載置される。この載置状態において、ガスケット15の内周面15aは、係止部32の外周側の側壁面32aと対向している。このようなガスケット15は、その内周面15aと係止部32の側壁面32aとを互いに接触させることにより、シリンダカバーシート部31上における径方向の変位が制限されるとともに位置決めされる。なお、
図3、4には、ガスケット15の内周面15aと係止部32の側壁面32aとが接触する前の状態、すなわち、シリンダカバーシート部31上におけるガスケット15の変位の制限および位置決めが行われる前の状態が示されている。
【0038】
このようにシリンダカバーシート部31上に載置されたガスケット15は、上述したボルト13a、13bの締結力により、シリンダカバーシート部31と弁座シート部71との間に挟まれる。これにより、ガスケット15は、これらシリンダカバーシート部31と弁座シート部71との間を気密にシールする。
【0039】
(シート部構造の作用)
つぎに、本発明の実施形態におけるシリンダカバー3と排気弁座7とのシート部構造の作用について説明する。当該シート部構造の作用の一例として、まず、シリンダカバー3の係止部32がガスケット15に及ぼす作用について説明する。
【0040】
図5は、本発明の実施形態に係るシート部構造の係止部の作用を説明するための模式図である。シリンダカバー3と排気弁座7とは、シリンダカバーシート部31と弁座シート部71との間にガスケット15を挟んで接合される。これらシリンダカバー3と排気弁座7とのシート部構造において、ガスケット15は、
図5に示すように、係止部32を内周側に囲んだ状態でシリンダカバーシート部31と弁座シート部71との間に介在している。このガスケット15の内周面15aは、係止部32の側壁面32a(本実施形態では係止部32の外周面)と対向している。
【0041】
このようにガスケット15を挟んで互いに接合されたシリンダカバー3と排気弁座7との間には、上述した燃焼室8とガスケット15の内周面15aとを連通する隙間が生じている(
図2、3参照)。例えば、
図5中の太線矢印によって示すように、上記シリンダカバー3と排気弁座7との隙間16を通じて、燃焼室8の圧力(筒内圧力)が、ガスケット15の内周面15aに加わる場合がある。この場合、ガスケット15の内周面15aは上記の筒内圧力によって外周側へ押圧され、これにより、この筒内圧力を受けた内周面15aの部分とともにガスケット15の全体が、シリンダカバーシート部31の片側(
図5では紙面右側)へ過度に偏って変位しようとする。なお、ガスケット15の過度に偏った変位とは、環状のガスケット15における何れかの部位の外周端部がシリンダカバーシート部31の外周端部31cよりも外周側へ変位することを意味する。
【0042】
しかし、本実施形態に係るシート部構造では、
図5に示すように、ガスケット15の内周面15aが係止部32の側壁面32aと対向した状態にある。このため、上述のようにガスケット15がシリンダカバーシート部31の片側へ過度に変位しようとしても、筒内圧力を受けた内周面15aとはシリンダ4の長手軸4a(
図1、2参照)を挟んで対向する反対側のガスケット15の内周面15aが、
図5に示すように、係止部32の側壁面32aと接触して係止される。これにより、ガスケット15の全体が、上記反対側の内周面15aとともに係止部32によって係止され、この結果、ガスケット15の全体の変位が係止部32によって制限されることから、ガスケット15がシリンダカバーシート部31の片側へ過度に偏って変位(位置ずれ)する事態を回避することができる。
【0043】
また、本実施形態に係るシート部構造では、上記筒内圧力に起因するガスケットの位置ずれ防止の場合と同様に、係止部32がガスケットに及ぼす作用により、ガスケット15をシリンダカバーシート部31の上に載置する際、シリンダカバーシート部31上におけるガスケット15の径方向の位置を制限して、当該ガスケット15の位置決めを行うことができる。
【0044】
つぎに、本発明の実施形態に係るシート部構造の作用の一例として、シリンダカバーシート部31および弁座シート部71がガスケット15に及ぼす作用について説明する。
図6は、本発明の実施形態に係るシート部構造のシリンダカバーシート部および弁座シート部の作用を説明するための模式図である。
【0045】
ガスケット15を挟んでシリンダカバー3と排気弁座7とを接合するためのシート部構造において、上述したように、シリンダカバーシート部31の外径R2および弁座シート部71の外径R3は、双方とも、ガスケット15の外径R1よりも大きい(
図3参照)。すなわち、
図3に示すように、シリンダカバーシート部31は、ガスケット15の外周端部よりも外周側に位置する外周部31bを有する。弁座シート部71は、ガスケット15の外周端部よりも外周側に位置する外周部71bを有する。なお、
図3には、シリンダカバーシート部31の外径R2に比べて弁座シート部71の外径R3が大きい場合を例示しているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、シリンダカバーシート部31の外径R2は、弁座シート部71の外径R3に比べて、大きくてもよいし、小さくてもよいし、同じであってもよい。
【0046】
シリンダカバーシート部31および弁座シート部71の各外周部31b、71bは、排気弁座7とともにシリンダカバー3と排気弁箱9とを固定するボルト13a、13b(
図1参照)の締結力により、互いに近づく方向に曲げ変形する。
【0047】
詳細には、
図6に示すように、シリンダカバーシート部31の外周部31bは、弁座シート部71の外周部71bの下方に位置し、上記ボルト13a、13bの締結力により、ガスケット15の外周端部側からシリンダカバーシート部31の外周端部31c側に向かって緩やかに上昇する傾斜面を形成するように曲げ変形する。弁座シート部71の外周部71bは、シリンダカバーシート部31の外周部31bの上方に位置し、上記ボルト13a、13bの締結力により、ガスケット15の外周端部側から弁座シート部71の外周端部71c側に向かって緩やかに下降する傾斜面を形成するように曲げ変形する。これにより、シリンダカバーシート部31および弁座シート部71は、それぞれの変形前の状態(
図6中の破線部参照)に比べ、各外周端部31c、71cの間隔Lを狭くする。この結果、シリンダカバーシート部31の外周端部31cと弁座シート部71の外周端部71cとの間隔Lは、これらシリンダカバーシート部31と弁座シート部71との間に挟まれたガスケット15(以下、シート部間のガスケット15と適宜略記する)の厚さHよりも小さくなる。
【0048】
上述したシリンダカバーシート部31および弁座シート部71の各外周部31b、71bの曲げ変形は、ボルト13a、13bからの遠近に応じて程度が変わる。しかし、シリンダカバーシート部31および弁座シート部71の各外周端部31c、71cの間隔Lは、たとえ上記曲げ変形の程度に違いがあっても、シリンダカバーシート部31および弁座シート部71の全周に亘って、シート部間のガスケット15の厚さHよりも小さくなる。
【0049】
ここで、シリンダカバー3および排気弁座7は、舶用ディーゼルエンジン1の稼働時における高温状態の燃焼室8から伝わる高熱によって膨張変形する。これに伴い、シート部間のガスケット15は、当該高熱によって膨張変形する場合がある。この場合、ガスケット15の膨張変形は、ボルト13a、13bに近い部位ほど、上記締結力によって強く抑制されるものの、ボルト13a、13bから遠い部位ほど、抑制され難い。故に、シート部間のガスケット15は、円形から楕円形への変形に例示されるように、歪に膨張変形しようとする。
【0050】
これに対し、本実施形態に係るシート部構造では、
図6に示すように、シリンダカバーシート部31および弁座シート部71の各外周部31b、71bは、その全周に亘り、各外周端部31c、71cの間隔Lがシート部間のガスケット15の厚さHよりも小さくなるように曲げ変形する。このように各外周部31b、71bを曲げ変形させたシリンダカバーシート部31および弁座シート部71は、全周に亘って均等に、シート部間のガスケット15の外周側への膨張変形を抑制し、これにより、当該ガスケット15の歪な膨張変形を防止する。
【0051】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係るシート部構造では、舶用ディーゼルエンジン1の燃焼室8を有するシリンダ4のシリンダカバー3に、シリンダ4の長手軸4aを囲むように環状に形成され且つガスケット15の外径R1よりも大きい外径R2を有するシリンダカバーシート部31と、シリンダカバーシート部31の内周端部31aに沿って配置される係止部32と、を設け、燃焼室8の排気口を開閉する排気弁6を着座させる排気弁座7に、シリンダカバーシート部31と対向するように環状に形成され且つガスケット15の外径R1よりも大きい外径R3を有する弁座シート部71を設け、シリンダ4の長手軸4aを囲む環状のガスケット15をシリンダカバーシート部31と弁座シート部71との間に挟んでシリンダカバー3と排気弁座7とを接合し、シリンダカバーシート部31に載置されたガスケット15の内周面15aと接触する係止部32により、ガスケット15を係止するようにしている。
【0052】
このため、シリンダカバーシート部31上にガスケット15を載置する際のガスケット15の位置決めを係止部32によって行えるとともに、たとえシート部間のガスケット15の内周面15aに筒内圧力が加わっても、当該ガスケット15がシリンダカバーシート部31の片側へ過度に偏って位置ずれする事態を係止部32によって防止することができる。さらには、排気弁座7とともに排気弁箱9とシリンダカバー3とを固定するボルト13a、13bの締結力により、シリンダカバーシート部31および弁座シート部71の各外周部31b、71bを曲げ変形させて、これらの各外周端部31c、71cの間隔Lをシート部間のガスケット15の厚さH未満に小さくすることができる。これにより、当該ガスケット15の高熱による膨張変形をシリンダカバーシート部31および弁座シート部71の全周に亘って抑制できることから、当該ガスケット15の歪な膨張変形を防止することができる。以上より、シリンダカバーシート部31と弁座シート部71との間のガスケット15によるシール性が向上することから、シリンダカバー3と排気弁座7とのシート部間のガスケット15によるシール性の低下を抑制することができ、この結果、シリンダカバー3と排気弁座7との隙間から燃焼室8のガス漏れが生じる事態を防止することができる。
【0053】
なお、上述した実施形態では、シリンダカバー3のシート部の内周側に環状または弧状の係止部32を設けていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、係止部32は、シリンダカバーシート部31の内周端部31aに沿ってシリンダカバー3に取り付けられる複数のピンまたは枠体等の凸部材によって構成されてもよい。この場合、係止部32の外周側には、上述した溝部33が形成されていなくてもよい。
【0054】
また、上述した実施形態では、シリンダカバーシート部31および弁座シート部71の各外周部31b、71bを曲げ変形させていたが、本発明において、当該各外周部31b、71bを曲げ変形は、弾性変形であってもよいし、塑性変形であってもよい。
【0055】
また、上述した実施形態では、2つのボルト13a、13bによって排気弁座7とともに排気弁箱9とシリンダカバー3とを固定していたが、本発明において、これらを固定するためのボルトの数は特に限定されない。例えば、当該ボルトの数は、1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0056】
また、上述した実施形態により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0057】
1 舶用ディーゼルエンジン
2 シリンダライナ
3 シリンダカバー
4 シリンダ
4a 長手軸
5 ピストン
6 排気弁
6a 弁体
6b 弁棒
7 排気弁座
7a 排気ポート
8 燃焼室
9 排気弁箱
9a 排気ポート
10 弁棒案内部
11 上部動弁装置
13a、13b ボルト
15 ガスケット
15a 内周面
16 隙間
31 シリンダカバーシート部
31a 内周端部
31b 外周部
31c 外周端部
32 係止部
32a 側壁面
33 溝部
71 弁座シート部
71b 外周部
71c 外周端部