(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039053
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】多機能磁気式ロータリーエンコーダ
(51)【国際特許分類】
G01D 5/12 20060101AFI20230313BHJP
G01D 5/245 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
G01D5/12 C
G01D5/245 110L
G01D5/245 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146005
(22)【出願日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】591013997
【氏名又は名称】株式会社 五十嵐電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】多田 純一
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA27
2F077CC02
2F077JJ01
2F077JJ07
2F077JJ23
2F077TT33
2F077TT66
2F077WW08
(57)【要約】
【課題】軸ブレが少なく、軸心の精度も高い、安価で高精度の磁気式のロータリーエンコーダを提供する。
【解決手段】磁気式のロータリーエンコーダであって、回転軸に接続可能に構成された回転主軸と、前記回転主軸を回転可能に支持する固定側ベースと、磁気センサと、磁気センサ出力処理回路と、初期設定部を含むエンコーダ出力信号生成部とが設けられ、前記エンコーダ出力信号生成部は、装着対象機器の回転軸の回転角度の情報と前記初期設定部で設定された条件に基づき、前記磁気センサ出力処理回路の出力を処理して出力信号を生成し、前記出力信号をCAN信号に変換したエンコーダ出力信号を生成する機能を備えている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着対象となる機器の回転軸の回転角度の情報を外部に出力するロータリーエンコーダであって、
前記回転軸に接続可能に構成された回転主軸と、
前記回転主軸を回転可能に支持する固定側ベースと、
磁気センサと、磁気センサ出力処理回路と、エンコーダ出力信号生成部とが設けられ、前記固定側ベースに固定された基板とを備え、
前記回転主軸は、第一の端部に前記機器の回転軸に接続するためのカップリング部を有し、第二の端部に、一対のN極とS極を有する円板状の磁石が固定され、
前記磁気センサは、前記回転主軸と共通の軸線上において所定の磁気ギャップを介して、前記磁石と対向しており、
前記基板及び前記磁石は、前記回転主軸、前記固定側ベース及びカバー部材で囲まれた磁気シールド空間内に配置されており、
前記磁気センサ出力処理回路は、前記磁気センサからの信号を基にアブソリュート信号を生成する、アブソリュート信号生成部と、SPI通信を行うための第一のSPIコントローラを備えており、
前記エンコーダ出力信号生成部は、初期設定部と、SPI通信を行うための第二のSPIコントローラと、CAN通信を行うためのCANコントローラを備えており、
前記エンコーダ出力信号生成部は、
前記装着対象機器の回転軸の回転角度の情報と前記初期設定部で設定された条件に基づき、前記磁気センサ出力処理回路から出力された前記アブソリュート信号を処理して、インクリメンタル若しくはアブソリュートの位相情報を出力信号として生成し、前記出力信号をCAN信号に変換したエンコーダ出力信号を生成する機能を備えており、
前記初期設定部は、前記CAN信号の生成条件として、前記位相情報の特性を決定するためのエンコーダ出力特性と、前記エンコーダ出力特性以外の参考情報を初期設定値として設定する機能を有しており、
前記CAN信号には、前記位相情報及び前記参考情報に関するデータが含まれていることを特徴とするロータリーエンコーダ。
【請求項2】
請求項1において、
前記エンコーダ出力信号生成部の前記CANコントローラにおいて、前記位相情報に関する優先度が前記参考情報に関する優先度よりも高く設定されていることを特徴とするロータリーエンコーダ。
【請求項3】
請求項2において、
前記回転主軸の前記第一の端部は、前記磁気シールド空間の外に露出しており、前記回転主軸の前記第一の端部に、前記磁石の前記一対のN極とS極の境界の1つの位置を示すマーキングが表示されており、前記マーキングは、前記装着対象機器の前記回転軸の原点を決定するために使用されるものであることを特徴とするロータリーエンコーダ。
【請求項4】
請求項2において、
前記初期設定部は、前記装着対象機器の前記回転軸に関する情報や前記エンコーダ出力信号生成部の出力条件を前記初期設定値として設定する機能を有しており、
前記エンコーダ出力信号生成部は、前記初期設定値に基づき、前記磁気センサ出力処理回路から出力される機械角の信号を処理し、前記回転軸の回転に関する前記CAN信号を生成して出力する機能を備えていることを特徴とするロータリーエンコーダ。
【請求項5】
請求項4において、
前記装着対象機器がモータであり、
前記初期設定部は、前記モータの種類や前記モータに関する前記エンコーダ出力信号生成部の出力条件を前記初期設定値として設定する機能を有しており、
前記エンコーダ出力信号生成部は、前記初期設定値に基づき、前記機械角の信号を処理し、モータ制御用の電気角の信号を含む前記CAN信号を生成して出力する機能を備えていることを特徴とするロータリーエンコーダ。
【請求項6】
請求項4において、
前記装着対象機器の前記回転軸が他の部材で駆動される従動型の回転軸であり、
前記初期設定部は、前記従動型の回転軸の種類や前記エンコーダ出力信号生成部の出力条件を前記初期設定値として設定する機能を有しており、
前記エンコーダ出力信号生成部は、前記初期設定値に基づき、前記機械角の信号を処理し、前記従動型の回転軸の回転に関する前記CAN信号を生成して出力する機能を備えていることを特徴とするロータリーエンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気式ロータリーエンコーダに係り、特に、製造者若しくはエンドユーザが種々の機器の回転軸に容易に装着して使用可能な、多機能の磁気式ロータリーエンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリーエンコーダは、モータの回転軸や、モータで直接若しくは間接的に駆動される各種の機器の回転軸の、角度位置や回転数、及び回転の方向を測定するために使用される。
【0003】
特許文献1には、円筒部を有する本体内に設けられ回転軸を介して被検体に連結された回転円盤の回転変位量を変位信号変換器で電気信号に変換するロータリーエンコーダが開示されている。
このロータリーエンコーダは、本体の円筒部内に同心的に配置され変位信号変換器の検出部を取付けた円筒部を有する保持体を設け、この保持体の円筒部を、周辺に設けられた複数の弾性体により本体の円筒部に変位可能に連結すると共に、この保持体の内周面に回転円盤を一対の軸受けにより両側から保持して、軸心に設けられた回転軸を介して被検体に回転可能に連結している。
【0004】
特許文献2には、磁石ユニットを保持する磁石ホルダーが、一対の軸受けを介して、円筒状の函体に回転可能に保持された、ロータリーエンコーダが開示されている。磁石ホルダーには、平板状の磁石が固定され、函体内に固定された基板には、一対のMRセンサ等が実装されている。函体は、その外周端にばね状の保持部を有し、中空部に、モータの回転軸等の回転体が挿入された状態で、ブラシレスDCモータのモータハウジング等に固定されるように構成されている。
【0005】
特許文献3には、磁気式のロータリーエンコーダを備えた装置において、CAN(Controller Area Network)等の車両通信網を経由して、ロータリーエンコーダの出力信号を取得することが記載されている。
特許文献4には、車両ネットワークシステムを構成する通信システムとしての、CANに関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3094349号公報
【特許文献2】特許第6578499号公報
【特許文献3】特開2019-44911号公報
【特許文献4】特開2015-168376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロータリーエンコーダを使用して、各種の機器の駆動源であるモータを精度よく制御するためには、モータあるいはそれによって駆動される回転体の回転角度、回転数、回転方向等の正確な情報が必要である。
例えば、自動車に関して運転支援の技術が開発されつつある。そのため、ロータリーエンコーダに関しても、回転角度等の検出精度をより向上させるための、例えば高い耐ノイズ性等、様々な技術が必要とされている。
【0008】
特許文献1に記載の磁気式のロータリーエンコーダは、磁場間隙Gを常時均一に保持して適切な波形のパルス出力が得られるように構成すると共に、軸ブレを吸収して磁気円板の接触に基づく故障の発生を防止することを目的としている。しかし、軸方向に離間した2個のベアリングで支持された回転円板と、回転円板外周に配置された磁気抵抗素子の組み合わせでは、軸ブレを十分には解消できず、高い検出精度を確保するのは困難と考えられる。
また、特許文献2に記載のロータリーエンコーダによれば、マグネットが固定されたマグネットホルダーと基板上の一対のMRセンサとは、函体内に一体的設けられている。しかし、マグネットホルダーは離間した2個のベアリングで支持され、MRセンサとマグネットとの軸方向の長さも長い。そのため、軸ブレの解消や、マグネットと一対のMRセンサの中心位置(軸心)を高精度に一致させる作業に困難を伴う。また、マグネットは函体内にあり、軸の原点位置を決定する作業が別途必要になる。これは、このロータリーエンコーダが、モータと一体に製造することを前提としてモータのハウジングカバー内に装着されるものであり、製造者若しくはエンドユーザが機器の回転軸にロータリーエンコーダを容易に装着できることは、意図されていないためである。
【0009】
ロータリーエンコーダには、回転軸の角度位置や回転数等に関する基本的な情報以外に、多種の特性を出力できる多機能化のニーズも高まっている。
また、磁気式のロータリーエンコーダは、光学式のロータリーエンコーダと比較して、精度は若干劣る半面、構造が簡単であり、安価に供給できる利点があるため、多くの分野で使用されている。
このような磁気式のロータリーエンコーダに関して、構造が小型かつ簡単で安価であるという利点を生かしたまま、より高精度で信頼性が高く、かつ、多機能の製品を供給することが望まれている。
特許文献1~4には、ロータリーエンコーダを多機能化することに関しては記載がない。
【0010】
本発明の目的は、高精度で信頼性が高く、かつ、用途に応じて多種多様の特性を選択的に出力できる、多機能の磁気式のロータリーエンコーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、ロータリーエンコーダは、装着対象となる機器の回転軸の回転角度の情報を外部に出力するロータリーエンコーダであって、
前記回転軸に接続可能に構成された回転主軸と、
前記回転主軸を回転可能に支持する固定側ベースと、
磁気センサと、磁気センサ出力処理回路と、エンコーダ出力信号生成部とが設けられ、前記固定側ベースに固定された基板とを備え、
前記回転主軸は、第一の端部に前記機器の回転軸に接続するためのカップリング部を有し、第二の端部に、一対のN極とS極を有する円板状の磁石が固定され、
前記磁気センサは、前記回転主軸と共通の軸線上において所定の磁気ギャップを介して、前記磁石と対向しており、
前記基板及び前記磁石は、前記回転主軸、前記固定側ベース及びカバー部材で囲まれた磁気シールド空間内に配置されており、
前記磁気センサ出力処理回路は、前記磁気センサからの信号を基にアブソリュート信号を生成する、アブソリュート信号生成部と、SPI通信を行うための第一のSPIコントローラを備えており、
前記エンコーダ出力信号生成部は、初期設定部と、SPI通信を行うための第二のSPIコントローラと、CAN通信を行うためのCANコントローラを備えており、
前記エンコーダ出力信号生成部は、
前記装着対象機器の回転軸の回転角度の情報と前記初期設定部で設定された条件に基づき、前記磁気センサ出力処理回路から出力された前記アブソリュート信号を処理して、インクリメンタル若しくはアブソリュートの位相情報を出力信号として生成し、前記出力信号をCAN信号に変換したエンコーダ出力信号を生成する機能を備えており、
前記初期設定部は、前記CAN信号の生成条件として、前記位相情報の特性を決定するためのエンコーダ出力特性と、前記エンコーダ出力特性以外の参考情報を初期設定値として設定する機能を有しており、
前記CAN信号には、前記位相情報及び前記参考情報に関するデータが含まれていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、ロータリーエンコーダは多種の対象機器に装着可能に構成され、それらの用途に応じて必要な初期設定を行うことで、このロータリーエンコーダの出力条件を変更し、多様な装着対象機器に対して適切な情報を選択的に提供し得る、多機能のロータリーエンコーダを提供することが容易である。
【0013】
また、本発明によれば、前記位相情報に関する優先度が前記参考情報に関する優先度よりも高く設定されている。すなわち、ロータリーエンコーダで生成される複数種のデータフレームに、それらのデータの優先度に応じたIDを設定することで、多種の用途に各々最適のCANネットワークを構築するノードとして使用できる、多機能でかつ耐ノイズ性に優れた磁気式のロータリーエンコーダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第一の実施例になるロータリーエンコーダの、正面図である。
【
図3】
図1に示したロータリーエンコーダの、側面図である。
【
図4A】第一の実施例になるロータリーエンコーダの、回転主軸、固定側ベース、及びボールベアリングの関係を示す図である。
【
図4B】磁石の一対のN極とS極の境界の1つの位置、M2を示す図である。
【
図5】第一の実施例になるロータリーエンコーダの、基板の正面図である。
【
図6】
図5の基板上に配設された、ロータリーエンコーダの磁気センサユニット及び処理回路の機能ブロックを示す図である。
【
図7】第一の実施例のロータリーエンコーダの、組立ての工程を示す図である。
【
図8】
図6に示した処理回路の基本的な動作の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図6に示したロータリーエンコーダの機能を説明する図である。
【
図10】
図6に示した処理回路における、信号の処理の一例を示す図である。
【
図11A】第一の実施例における、CAN信号の構成例を示す図である
【
図11B】第一の実施例における、CANネットワークの構成例を示す図である。
【
図12A】第二の実施例になる、ロータリーエンコーダが装着されたブラシレスDCモータの一例を示す縦断面図である。
【
図12B】
図12Aに示した、ブラシレスDCモータとロータリーエンコーダとの、続状態を示す横断面図である。
【
図13】
図12Aに示した、ブラシレスDCモータとロータリーエンコーダとの、組立工程を示すフローチャートである。
【
図14】本発明の第三の実施例になる、ロータリーエンコーダがエスカレータの状態監視装置に組み込まれた構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の各実施例について説明する。
【実施例0016】
本発明の第一の実施例になるロータリーエンコーダについて、
図1~
図11Bを参照しながら説明する。
まず、
図1~
図3を参照して、第一の実施例になるロータリーエンコーダの全体的な構造について説明する。
ロータリーエンコーダ100は、回転主軸110と、この回転主軸110を支持する固定側ベース120と、この固定側ベースの外周にねじ142で固定されたカバー部材140と、このカバー部材の内側に、基板固定ねじ144で固定された基板150と、固定側ベース120を装着対象機器、例えばモータに固定する支持部材としてのばね板180とを備えている。
回転主軸110は、その軸方向の中間部が、固定側ベース120の円筒部122に設けられた1個のボールベアリング130を介して、固定側ベース120に回転自在に支持されている。基板150には、磁気センサや磁気センサ出力処理回路等が設けられている。190はコネクタであり、基板150上の回路に電力を供給する電力ケーブルや、基板150上の回路と外部のECU(Electronic Control Unit)300等との通信を行う通信用バスや通信ケーブルの接続に使用される。なお、ケーブル等は図面上省略してある。
【0017】
回転主軸110、固定側ベース120及びカバー部材140は、所定の機械的強度を有する磁性材料、例えばSUS430等のステンレス合金鋼で構成されている。基板150及び磁石160は、回転主軸110、固定側ベース120及びカバー部材140で囲まれた磁気シールド空間146内に配置され、外部から加わる磁界の影響を受けないようにシ磁気シールドされている。一方、回転主軸110の第一の端部114の側は、磁気シールド空間146の外に露出した露出部となっており、この露出部に、軸固定用六角ナット等でモータに連結するための、モータ連結用ねじ穴116が設けられている。
【0018】
また、回転主軸110は、その第一の端部114に、ロータリーエンコーダの装着対象機器の回転軸に接続するためのカップリング部、この例では、差込穴112を有している。このカップリング部の差込穴112は、その開口部がテーパ面113となっている。なお、カップリング部の構造として、上記の例とは逆に、第一の端部に径小の軸部を設け、この径小の軸部を装着対象機器の回転軸に設けたカップリング用の穴に差し込むように構成しても良い。
あるいはまた、市販の円筒状のカップリング機構を使用し、回転主軸110の円柱状の第一の端部114と装着対象機器の回転軸の円柱状の端部とを、このカップリング機構の円筒部に差し込み、これらを一体に固定して接続するようにしても良い。
【0019】
一方、回転主軸110の第二の端部117には、磁石固定穴118が設けられ、この磁石固定穴に、一対のN極とS極を有する小型の円板状の磁石160が、接着材で固定されている。回転主軸110は、第一の端部114と第二の端部117の中間の位置において、ボールベアリング130を介して、固定側ベース120に支持されている。
円板状の磁石としては、フェライト磁石でも良く、ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石等の希土類磁石を採用しても良い。
カップリング部の差込穴112の軸心及び磁石160の中心は、回転主軸110と共通の軸線O-O上に位置している。この共通の軸線O-Oに沿って、磁石160と空隙(磁気ギャップ)Gを介して、基板150上に1対の磁気センサが対向して設置されている。一例として、この磁気ギャップGは、2.5mm±0.1mmとなるように管理されている。
【0020】
本発明のロータリーエンコーダにおける回転主軸110に必要な機能は、その第二の端部で、基板に対して軸ブレ無しに所定の磁気ギャップGを維持しながら磁石を保持する機能と、その第一の端部をロータリーエンコーダの装着対象機器の回転軸に接続可能とする機能である。
この実施例では、磁石160は回転主軸110の平坦な端面に接着により固定すれば良い。実用上、磁気センサとして必要な磁石160の直径は、7mm~11mmの範囲で足りる。
【0021】
上記の通り、本発明のロータリーエンコーダにおける回転主軸110に必要な機能は、小型の円板状の磁石を軸ブレ無しに保持する機能と、ロータリーエンコーダの装着対象機器の回転軸に接続可能とする機能のみである。従って、回転主軸110に必要なサイズは、小さなもので良い。そのため、この回転主軸110を支える固定側ベース120も小さなもので良い。従って、ボールベアリング130も1個で足りる。
【0022】
図1に示したように、回転主軸110の回転主軸110の第一の端部114の外周面には、マーキングM1が付与されている。
また、回転主軸110の第一の端部114の外周側に、プリロードナット170が設けられ、このプリロードナット170は、ねじ部174で回転主軸110に螺合し、ボールベアリング130に当接するように構成されている。175は、プリロードナットを工具で回転させるための切り欠き部である。
ばね板180のリング部182に、固定側ベース120がねじ184で固定される。また、ばね板180には、装着対象機器に固定するための固定用穴186が設けられている。
【0023】
ロータリーエンコーダの精度を高めるために、回転主軸110の軸心と磁石160の中心軸は共通の軸線O-O上において、完全に一致し、かつ、基板150の面が軸線O-Oに垂直であることが理想である。しかし、通常のボールベアリングを採用した製品では、軸線O-Oに対して磁石160の中心軸の微小なずれ(軸ずれ)は避けられない。そこで、この軸ずれを最小にするために、プリロードナット170が使用される。この点については、後で述べる。
【0024】
次に、
図4Aは、ロータリーエンコーダ100における、回転主軸110、固定側ベース120、及びボールベアリング130の関係を詳細に示す図である。1個のボールベアリング(転がり軸受)130は、環状に1列に配設された複数のボール132と、これらのボールを受けるインナーレース134及びアウターレース136で構成されている。
このボールベアリング130は、プリロードナット170の凸部172で押圧されて、そのインナーレース134が回転主軸110の段部119に当接し、そのアウターレース136が固定側ベース120の段部124に当接するように構成されている。また、プリロードナット170は、嫌気性接着材で回転主軸110に固着されている。
図4Aの例では、プリロードナット170でアウターレース136を押圧することにより、ボール132がPa、Pbの点で、各々、アウターレース136及びインナーレース134に接して回転する。
回転主軸110の軸ずれを最小化するために、1個のボールベアリングのアウターレースやインナーレースを、プリロードナットで固定することで、回転主軸110の軸心を固定する。これにより、回転主軸の軸ずれを抑制できる。すなわち、円板状の磁石160と1対の磁気センサとが、回転主軸110と共通の軸線O-O上に配列された状態で、プリロードナット170が、嫌気性接着材で回転主軸110に固着されている。
円板状の磁石と1対の磁気センサの組み合わせの場合、回転主軸110の軸心と磁石160の中心の、共通の軸線O-Oに対する軸ずれを、±0.1mm以内に管理することで、高精度の磁気式のロータリーエンコーダを得ることができる。
【0025】
図4Bに示したように、磁石160の一対のN極とS極の境界の1つの位置をM2とすると、このM2は、
図1における、回転主軸110の第一の端部の外周面のマーキングM1と、同じ回転角度の位置を示している。M2の位置は、磁気シールド空間146内にあるため、磁気シールド空間の外に露出した回転主軸の第一の端部114に、マーキングM1を付与し、その位置を外部から容易に確認できるようにしている。
【0026】
図5は、ロータリーエンコーダ100の、基板150の正面図である。1501Aは第一のMRセンサ、1501Bは第二のMRセンサであり、これらは機械角度で90度異なる角度位置に配置されている。1440は、基板150を基板固定ねじ144でカバー部材140に固定するための、基板固定用穴である。基板150は、電気絶縁性かつ非磁性の材料からなる片面基板若しくは両面基板である。基板150は、第一のMRセンサが、磁石160の境界位置M2と対向し、第二のMRセンサが、これと機械角度で90度異なるM3の位置になるようにして、カバー部材140に固定される。なお、基板150は、カバー部材140の代わりに、ピンを介して、固定側ベース120に固定しても良い。
MRセンサには、磁気抵抗効果素子(MR:AMR、GMR、TMR等)のいずれかを用いたセンサを採用することができる。また、磁気センサとして、ホール素子から出力された電圧(ホール電圧)を増幅し、IC内部の回路で信号処理するホールICを採用しても良い。
基板150には、磁気センサユニット1500とエンコーダ出力信号生成部1510(
図6参照)も設けられている。基板150は、さらにコネクタ190にも接続されている(図示略)。
【0027】
図6に、
図5の基板150上に配設された、ロータリーエンコーダ100の磁気センサユニット1500及びエンコーダ出力信号生成部1510の機能ブロックを示す。
磁気センサユニット1500は、第一のMRセンサ1501A、第二のMRセンサ1501B、温度センサ1501C、及び、磁気センサ出力処理回路部を備えている。この磁気センサ出力処理回路部は、AD変換器1502、軸ずれ補正処理部1503、センサメモリ1504、逆正接演算処理部1505、アブソリュート信号生成部1506、インクリメンタル信号生成部1507、及び、第一のSPIコントローラ1508を備えている。これらは、プログラムを有するマイクロコンピュータで実現することができる。
【0028】
インクリメンタル信号生成部1507では、逆正接演算処理部1505からの出力に基づき、任意の、例えば4Kパルス/回転の、A相、B相のデジタル信号に回転方向の情報を付加して、4Kパルス/回転のインクリメンタル信号(機械角)のデータが生成される。これらの情報は、時系列データとして、センサメモリ1504等に記録される。
アブソリュート信号生成部1506の出力は、エンコーダ出力信号生成部1510へ送られる。
インクリメンタル信号生成部1507で生成されたインクリメンタルのデジタル信号は、磁気センサユニット1500からロータリーエンコーダ100の外部へ出力され、例えば4Kパルス/回転のインクリメンタルの制御信号として利用可能である。
【0029】
第一、第二のSPIコントローラ1508、1580は、磁気センサユニット1500のアブソリュート信号生成部1506と、エンコーダ出力信号生成部1510の信号処理部1520、及びロータリーエンコーダ100の外部の制御回路(ECU1、ECU2、ECUN)等との間で、通信用バス(若しくは通信ケーブル)500を介して、各種の情報を、パラレル信号若しくはシリアル信号に変換し、通信する機能を有している。例えば、パラレル伝送処理により生成されたA相・B相信号、及び、Z相信号が、シリアル伝送通信の規格に適合したシリアル伝送用の送信データ(BUS)に変換され、このBUS信号が通信ケーブルを介してロータリーエンコーダ100の外部のモータドライバ(ECU)へ送信される。
また、ロータリーエンコーダ100には、通信用バス(若しくは通信ケーブル)500を介して、複数の外部のセンサ600,601からそれらの検出データが入力される。例えば、ロータリーエンコーダの雰囲気温度、ロータリーエンコーダが装着されたモータの電流値等である。
【0030】
エンコーダ出力信号生成部1510は、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、若しくはマイクロコンピュータ等により構成されている。このエンコーダ出力信号生成部1510は、信号処理部1520、初期設定部1530、インクリメンタル信号(A,B,Z,(U,V,W))生成ユニット1540、アブソリュート信号(A,B,Z,U,V,W)生成ユニット1550、アブソリュート信号(A,B,Z)生成ユニット1560、不揮発性メモリ(EEPROM)1570、第二のSPIコントローラ1580、及びCANコントローラ1590を備えている。
信号処理部1520は、I/O部、マイクロプロセッサ、メモリ等で構成されている。信号処理部を構成するプログラム等は外部のEEPROMに記録されている。
【0031】
エンコーダ出力信号生成部1510の初期設定部1530は、出力特性設定部1532、参考情報設定部1534、通信特性設定部1536を備えている。初期設定部1530は、ユーザによる、ロータリーエンコーダ100の出力条件等の初期設定値を、端末などのユーザインタフェースを介して受け付ける機能を有する。ユーザインタフェースには、例えば、ロータリーエンコーダ100に接続されるECUの画面等を使用する。
出力特性設定部1532は、モータの種類・スロット数等を設定する機能や、エンコーダからのA,B,Z,U,V,W等の位相情報の出力条件を設定する機能を備えている。ユーザは、予め、装着対象機器の駆動源であるモータの諸元(種類、極数、スロット数等)及び、用途に応じて、信号処理部1520のどの機能を採用するかを決定し、初期設定値を設定する。
参考情報設定部1534は、出力特性以外の参考情報、例えば、モータの電流波形やエンコーダの出力に関係した情報を取得し、これらを参考情報としてエンコーダから出力し、或いはネットワークに接続されたユーザインタフェースの画面に表示する等の機能を備えている。なお、参考情報は、位相情報に比べてより少ない頻度で出力可能なものが多い。
通信特性設定部1536は、SPI/CAN選択部1537と、CANの詳細設定部1538を備えている。SPI/CAN選択部1537は、エンコーダの出力に、SPIとCANのいずれの出力を採用するか、選定する機能を備えている。CANの詳細設定部1538は、CANが選定された場合に、ロータリーエンコーダ100が、CANプロトコルに基づき他の複数のノードとの間で通信ネットワークを構成するために必要な条件・データを設定する。
【0032】
信号処理部1520において、インクリメンタル信号(A,B,Z,(U,V,W))生成ユニット1540は、アブソリュート信号生成部1506で生成されたアブソリュート信号(機械角)と、初期設定の条件に基づき、モータの種類やスロット数、極数等に応じた、任意の、例えば32Kパルス/回転の、1組のインクリメンタルのモータ制御信号(電気角)を生成する機能を有する。1つの例を挙げると、スロット数が6の場合電気角120度毎、スロット数が8の場合電気角90度毎に繰り返される、インクリメンタルのモータ制御信号が生成される。このモータ制御信号は、モータのECU内で、ブラシ付きモータやブラシレスDCモータを制御するための、インクリメンタルモータ駆動信号(A,B,Z、或いは、A,B,Z,U,V,W)を生成するのに使用される。
【0033】
また、アブソリュート信号(A,B,Z,U,V,W)生成ユニット1550は、アブソリュート信号生成部1506で生成されたアブソリュート信号(機械角)と、初期設定の条件に基づき、モータ制御信号として、例えば32Kパルス/回転のA,B,Z,U,V,W信号を含むアブソリュート信号(電気角)を生成する機能を有する。このモータ制御信号は、モータのECU内で、PWM等のモータ駆動信号を生成するのに使用される。
【0034】
アブソリュート信号(A,B,Z)生成ユニット1560では、初期設定の条件がステッピングモータ等を対象とするものである。ここでは、アブソリュート信号生成部1506で生成されたアブソリュート信号(機械角)と、初期設定の条件に基づき、モータの種類、スロット数、極数等に応じた、例えば32Kパルス/回転のアブソリュートのモータ制御信号(電気角)が生成される。ステッピングモータでは、このモータ駆動信号や運転指令等に基づいてモータ駆動信号が生成され、PWM駆動回路を介して、ステッピングモータのA相用ステータコイル、B相用ステータコイルに電圧を印加し、これによってロータ磁石が回転する。
【0035】
FPGAやASIC等の内部構成は、プログラムの記述の変更等で柔軟に変更できる。そのため、ロータリーエンコーダの装着対象であるモータの種類や用途等に応じた、初期設定の内容を予め幅広く想定し、エンコーダ出力信号生成部1510が有する機能を豊富なものとすることで、モータの種類や用途の如何に拘わらず種々のニーズに応えることができる。特に、信号処理部1520の構成は、上記のインクリメンタル信号生成ユニット1540、アブソリュート信号生成ユニット1550、1560に限定されるものではなく、各種の回転体を駆動する駆動源の用の制御信号を生成する他の機能を追加しても良い。例えば、ロータリーエンコーダの装着対象が、永久磁石型の同期電動機等のACモータであっても良い。
【0036】
図7は、第一の実施例になるロータリーエンコーダの、組立ての工程を示す図である。
S702では、回転主軸110を、1個のボールベアリング130を介して、固定側ベース120に保持する。S704では、プリロードナット170により、ボールベアリング130のアウターレース136を固定側ベース120の段部124に押し付けることにより、アウターレース136の固定側ベース120に対する軸方向移動を拘束し、その後、アウターレース136と固定側ベース120とを嫌気性接着剤で固着する。なお、インナーレース134を回転主軸110の段部119に当接させて、嫌気性接着剤で固着しても良い。
S706では、回転主軸110の第二の端部117の円形の穴118に、1対のN,S極を有する円板状の磁石160を固定する。S708では、磁石160の外周のN,S極の境界の1つの位置M2に対応するマーキングM1を、回転主軸110の第一の端部114の外周面に表示する。S710では、1組の磁気センサ1501A、1501Bが配設された円板状の基板150を、円周方向における各磁気センサ1501A、1501Bの位置が、固定側ベース120に対して所定の位置関係になるように管理して、固定側ベースに仮止めする。すなわち、
図5に示した位置関係が確保されるようにして、基板150を、固定側ベース120に仮止めする。
S712では、磁石160と1組の磁気センサ1501A、1501Bの軸芯、及び磁石160と1組の磁気センサ間の磁気ギャップGを所定の公差以内に管理して、基板150を固定側ベース120に固定する。
【0037】
次に、第一の実施例になるロータリーエンコーダ100の、全般的な動作について、
図8~
図10を参照しながら説明する。
図8は、
図6に示したエンコーダ出力信号生成部1510の動作の一例を示すフローチャートであり、
図9は、エンコーダ出力信号生成部1510の機能を説明する図である。
図10は、磁気センサユニット1500及びエンコーダ出力信号生成部1510における信号の処理を示す図である。
【0038】
磁気センサユニット1500の第一、第二のMRセンサ1501A、1501Bからは、モータの回転軸の回転に対応してMRセンサの電気抵抗値、換言するとセンサのアナログ出力信号の電圧がSIN波、COS波として出力される(
図10の(A)を参照)。アブソリュート信号生成部1506では、逆正接演算処理部1505から出力される直線状の信号を基に、モータの回転・角度(機械角)の絶対値を示す例えば32Kパルス/回転のアブソリュート信号のデータが生成される(
図10の(B)を参照)。なお、MRセンサ1122の原点の位置(Z
0)は、M2に対応する位置である。
【0039】
エンコーダ出力信号生成部1510では、まず、初期設定の情報を取得する(S802)。初期設定の条件が、「インクリメンタル(A,B,Z,(U,V,W))信号の生成」である場合には(S804)、第一、第二のSPIコントローラ1508、1580を介して(
図9参照)、アブソリュート信号生成部1506から出力される、32Kパルス/回転のA相、B相、及びZ相のアブソリュート信号を取得して、メモリに記録する(S805)。そして、インクリメンタル信号(A,B,Z,(U,V,W))生成ユニット1540で、インクリメンタルの32Kパルス/回転のA,B,Z相の位相情報、及び回転方向の情報を生成して、不揮発性メモリに記録する(S806)。さらに、アブソリュート信号から、32Kパルス/回転のA,B,Z(U,V,W)のインクリメンタルの位相情報、及び回転方向の情報を生成して不揮発性メモリに記録する(S807)。そして、指定された通信方式(SPI/CAN)のデーに変換し、不揮発性メモリに記録すると共に、外部へ出力する(S808)。
初期設定の条件が、例えばブラシレスDCモータの制御を前提とした、「アブソリュート信号(A,B,Z,U,V,W)の生成」である場合には(S810)、第一、第二のSPIコントローラ1508、1580を介して、アブソリュート信号生成部1506から出力される、32Kパルス/回転のA相、B相、及びZ相の、アブソリュート信号を取得して、メモリに記録する(S811)。
【0040】
さらに、アブソリュート信号(A,B,Z,U,V,W)生成ユニット1550において、Z相の信号を基準として、A相若しくはB相の出力信号の立ち上がり位相に同期する、原点位置Z
0を基準とする、U相、V相、W相の各位相情報、及び回転方向の情報を、アブソリュートの情報として生成してメモリに記録する(S812)。さらに、初期設定の情報から、モータの極数やスロット数に応じた、32Kパルス/回転のアブソリュート(A,B,Z,U,V,W)信号を生成して不揮発性メモリに記録する(S813、
図10の(C)参照)。そして、指定された通信方式(SPI/CAN)のデーに変換し、不揮発性メモリに記録すると共に、外部へ出力する(S814)。
【0041】
もし、初期設定の条件が、「アブソリュート(A,B,Z)信号」の生成である場合には(S820)、第一、第二のSPIコントローラ1508、1580を介して、アブソリュート信号生成部1506から出力される、32Kパルス/回転のA、B、Z相の、アブソリュート信号を取得して、メモリに記録する(S821)。さらに、アブソリュート信号生成ユニット1560において、Z相の信号を基準として、A相若しくはB相の出力信号の立ち上がり位相に同期する、各位相情報、及び回転方向の情報を、アブソリュートの情報として生成してメモリに記録する(S822)。さらに、初期設定の情報から、モータの極数やスロット数に応じた、32Kパルス/回転のアブソリュート(A,B,Z)信号を生成して不揮発性メモリに記録する(S823)。そして、指定された通信方式(SPI/CAN)のデーに変換し、不揮発性メモリに記録すると共に、外部へ出力する(S824)。
【0042】
ロータリーエンコーダと外部のECU等の機器とのCANバスを介した通信は、CANプロトコルにおける通信フレームの単位で実施される。
図11Aは、CANプロトコルで規定されるデータフレームのフォーマットを示す図である。また、
図11Bは、CANネットワークの構成例を示す図である。CANプロトコルではCANバス190として、2線式通信ラインが使用される。CANバス190は、CAN-H線とCAN-L線の2つの信号線で構成されている。
図11Aにおいて、車載ネットワークシステムこのデータフレームは、CANプロトコルで規定される標準IDフォーマットを示している。データフレームは、SOF、IDフィールド、RTR、IDE、r、DLC、データフィールド、CRC、DEL、ACK、DEL、及び、EOFの各フィールドで構成される。
IDフィールドは、データの種類を示す値であるID(メッセージID)を格納するフィールドである。複数のノードが同時に送信を開始した場合、IDが小さい値を持つフレームを優先させて通信調停が行われる。
データフィールドは、フレームで送信されるデータの内容を含み、長さは8bit単位で可変である。
基板150は磁気シールド空間146内に配置されているため、ロータリーエンコーダ内で生成されるCAN信号は、電磁波ノイズの影響を受けないので、通信エラーの発生を低減できる。なお、CAN通信では、通信エラーに関する制御は重要な要素であるが、この具体的な構成は本発明の特徴ではないので、説明を省略する。
【0043】
図11Bに示したCANネットワークは、ノードの1つであるロータリーエンコーダ100の基板150に設けられたCANコントローラ1590と、他のードの1つであるECU250のCANコントローラ2590を含んでいる。CAN通信では、情報を"0"と"1"で構成されたデジタル信号に変換して送信する。CANプロトコルではデジタル信号の“0”がドミナント(優勢)レベルであり、デジタル信号の“1”はレセッシブレベルである。すなわち、複数の異なるノードからドミナントとレセシブが同時に送信された場合はドミナントが優先される。レセッシブレベルはドミナントレベルによって上書きされる。
例えば、複数のノードの1つであるCANコントローラ1590において、データフレーム700で、CAN信号として、32Kパルス/回転の(A,B,Z,U,V,W)の位相情報(
図10の(C)参照)に基づくデータを生成・送信し、データフレーム702で、ロータリーエンコーダの回転方向CW/CCW等のデータを生成・送信し、データフレーム704で、ロータリーエンコーダの雰囲気温度Teやモータで駆動される回転体の回転数Mrpm等のデータを生成し、CAN通信を行うように構成することができる。
この場合、データフレーム700の位相情報データの優先度が高いので、初期設定において、IDフィールドのIDを小さい値とし、他方、データフレーム702、データフレーム704データの優先度は相対的に低いので、IDフィールドのIDを大きな値に設定する。これにより、32Kパルス/回転の(A,B,Z,U,V,W)の位相情報データは、CANネットワークの複数のノード間で、優先的に通信される。このように、CANコントローラ1590で生成される複数種のデータフレームのIDを、それらのデータの優先度に応じた値に設定することで、このロータリーエンコーダのノードを含む複数のノード間における、CAN通信を適切に行うことができる。
【0044】
本発明によれば、ロータリーエンコーダの磁石と磁気センサとを回転主軸と共通の軸線上に配列すると共に、回転主軸を固定側ベースに保持する構成としたため、磁石と磁気センサの軸芯、及び磁石と磁気センサ間の磁気ギャップGを所定の公差以内に管理することが容易である。そのため、高精度で信頼性の高い、かつ小型で構造が簡単な磁気式のロータリーエンコーダを提供することができる。
また、磁石の位置を示すマーキングが磁気シールド空間の外の軸上に表示されているため、ブラシレスDCモータの場合、軸の原点位置を決定する作業が不要である。
さらに、ロータリーエンコーダは、初期設定機能を有しており、装着対象機器に応じた初期設定の条件により、多種の特性を選択的に出力できる、多機能の磁気式のロータリーエンコーダを提供することができる。
また、CAN通信機能も備えているので、耐ノイズ性の高い、多機能の磁気式のロータリーエンコーダを提供することができる。例えば、ロータリーエンコーダで生成される位相情報データと、モータの電流波形やエンコーダの出力に関係した参考情報とに関する、複数種のデータフレームを生成し、各データフレームにそれらのデータの優先度に応じたIDを設定し、他のノードとの間でCAN通信することができる。そのため、多種の情報を選択的に出力できる、耐ノイズ性の高い、多機能の磁気式のロータリーエンコーダを提供することができる。
本実施例によれば、製造者若しくはエンドユーザが、ブラシレスDCモータの回転軸の一端とロータリーエンコーダの回転主軸とを連結することで、ロータリーエンコーダの磁石と磁気センサとが、モータの回転軸と共通の軸線上に高精度に配列される。これにより、高精度で信頼性の高い、かつ小型で構造が簡単な磁気式のロータリーエンコーダを備えた、ブラシレスDCモータ提供することができる。
また、ロータリーエンコーダは、初期設定機能を有しており、かつ、CAN通信機能も備えているので、ブラシレスDCモータに対して、種々のニーズに応えて出力を選択可能でかつ耐ノイズ性の高い、多機能の磁気式のロータリーエンコーダを容易に装着することができる。また、モータドライバでは、ロータリーエンコーダからのモータ制御信号を基に、モータ駆動信号を生成できるため、モータドライバの構成が簡略化される。