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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039084
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】ベシクル製剤および感染症治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/44 20060101AFI20230313BHJP
   A61K 38/45 20060101ALI20230313BHJP
   A61K 31/7076 20060101ALI20230313BHJP
   A61K 31/7084 20060101ALI20230313BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20230313BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230313BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20230313BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20230313BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230313BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230313BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230313BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230313BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20230313BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALN20230313BHJP
【FI】
A61K38/44 ZNA
A61K38/45
A61K31/7076
A61K31/7084
A61K9/127
A61K9/51
A61P43/00 105
A61P31/00
C12N9/02
C12N9/12
C07K19/00
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12Q1/26
C12N5/0786
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146060
(22)【出願日】2021-09-08
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】597039984
【氏名又は名称】学校法人 川崎学園
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮野 佳
【テーマコード(参考)】
2G045
4B050
4B063
4B065
4C076
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045DA31
2G045FB01
4B050CC07
4B050DD11
4B050DD20
4B050LL01
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ68
4B063QR48
4B063QR56
4B063QS33
4B063QX02
4B065AA94X
4B065BA30
4C076AA19
4C076AA65
4C076CC26
4C076CC31
4C076CC50
4C076DD15F
4C076DD63F
4C076DD70F
4C076EE23F
4C076FF16
4C076FF36
4C076FF43
4C076FF65
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA41
4C084BA44
4C084DC23
4C084DC25
4C084MA02
4C084MA05
4C084MA24
4C084MA38
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC751
4C084ZC781
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086EA17
4C086EA18
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA24
4C086MA38
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB35
4C086ZC75
4C086ZC78
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA89
4H045EA20
4H045EA29
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】本発明は、貪食細胞の殺菌能を改善し得るベシクル製剤、感染症治療剤および消毒剤を提供する。さらにはグルコース検出用試薬キットや活性酸素消去能を有する物質のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】グルコース存在下でNADPH生成を可能にする化合物を、ベシクル内に含むことを特徴とする、ベシクル製剤による。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース存在下で活性酸素生成を可能にする化合物を、ベシクル内に含むことを特徴とする、ベシクル製剤。
【請求項2】
前記活性酸素生成を可能にする化合物が、NADPHオキシダーゼ、G6PDH、ヘキソキナーゼ、Mg2+、ATPおよびNADP+である、請求項1に記載のベシクル製剤。
【請求項3】
前記NADPHオキシダーゼが活性化Nox2複合体である、請求項1または2に記載のベシクル製剤。
【請求項4】
前記ベシクルがリポソーム、ナノスフェアおよびニオソームからなる群から選択されるベシクルである、請求項1~3のいずれか一に記載のベシクル製剤。
【請求項5】
前記ベシクル製剤が、生体内で貪食細胞に貪食されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一に記載のベシクル製剤。
【請求項6】
前記ベシクル製剤の平均粒径が50~150nmまたは75~125nmまたは90~110nmである、請求項1~5のいずれか一に記載のベシクル製剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一に記載のベシクル製剤を有効成分とする、感染症治療剤。
【請求項8】
前記感染症が慢性肉芽腫症における感染症である、請求項7に記載の感染症治療剤。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一に記載のベシクル製剤を有効成分とする、消毒剤。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一に記載のベシクル製剤を含む、グルコース検出用試薬キット。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一に記載のベシクル製剤を含む、活性酸素消去能を有する物質のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベシクル製剤および感染症治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
免疫機能は大きく分けて自然免疫と獲得免疫に分類され、自然免疫では好中球等の貪食細胞が働く。貪食細胞は遊走、貪食、殺菌の各機能を有する。具体的には、貪食細胞は病原体が侵入した部位へ速やかに遊走し病原体を貪食し、細胞膜由来の食胞膜に包まれた食胞を形成する。食胞内に取り込まれた病原体は貪食細胞により殺菌される。その中心的な役割を担っているのが活性酸素であり、活性酸素はNADPHオキシダーゼの働きにより生成される。NADPHオキシダーゼは貪食細胞が刺激を受けると、すなわち病原体の貪食時のシグナル伝達によって複合体を形成することで活性化し、スーパーオキシド(O2 -)を生成する。このO2 -に由来する種々の活性酸素(H2O2、・OH、HOCL等)が強力な殺菌剤として働くことになる。
【0003】
NADPHオキシダーゼは、膜結合酵素複合体であり細胞膜や食胞膜上に存在している。NADPHオキシダーゼの酵素本体であるNox2(gp91phox)が、同じく膜タンパク質であるp22phoxとヘテロ二量体から成るチトクロムb588を形成しており、さらに細胞質に存在するp47phox、p67phox、p40phoxおよび低分子量Gタンパク質Racと複合体を形成することで活性化する。これらは、細胞質のNADPHから電子を受け取り、細胞外または食胞内の分子状酸素に電子を与えることにより、活性酸素の一種であるスーパーオキシド(O2 -)を生成する。
【0004】
原発性免疫不全症候群とは、先天的な要因により免疫系の構成要素が欠けている等の理由により、免疫系が正常に働かない疾患の総称である。原発性免疫不全症候群の分類は、複合免疫不全症、抗体産生不全症、明確に定義された免疫不全症、補体不全症、食細胞機能不全症がある。食細胞機能不全症の代表的疾患として、慢性肉芽腫症がある。
【0005】
慢性肉芽腫症(以下「CGD」という場合もある。)は、NADPHオキシダーゼ構成分子の遺伝的欠損により活性酸素能が障害され食細胞の殺菌能が低下し、幼少期より重篤な感染症を繰り返す先天性疾患である。CGDの多くはX連鎖劣性形質として遺伝するため男児に多い。病型別ではNox2欠損型が約80%と最も頻度が高く、p22phox欠損型が約10%、p47phox欠損型とp67phox欠損型はそれぞれ約5%である。CGDの治療は感染時に抗生剤等を投与されるが、好中球自体の殺菌能が低下しているため大幅な改善は望めない。一方、根治治療としては骨髄移植が行われるが、HLAが一致したドナーが見つかる可能性は低く、骨髄移植の合併症もあり治療成績は不十分である。
【0006】
酵素欠損による先天性代謝異常の治療において、その欠損酵素自体を補う酵素補充療法の研究が進められており、リポソームに酵素タンパク質を封入するという方法が考えられている(非特許文献1)。例えば非特許文献2にはグルコースオキシダーゼを含むIgG被覆リポソームが、CGDの患者から得られた白血球の酸化的代謝能力を改善したことが報告されている。非特許文献3には、CGD患者の治療のためリポソームにグルコースオキシダーゼを封入し、グルコースと反応させることでH2O2を生成することが報告されている。非特許文献4には、リポソームの膜にNox2/p22phoxを埋め込みCGD患者の好中球膜に融合させることが報告されている。しかしながら、リポソームに活性酸素の生成源として活性化NADPHオキシダーゼを封入すること、そしてNADPHオキシダーゼを駆動させ活性酸素を生成させるために必要なNADPHを生成する酵素系/化合物を同時に封入することについては記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】膜(MEMBRANE), 15:321-328 (1990)
【非特許文献2】Pediatr., Res. 13:769-773 (1979)
【非特許文献3】BLOOD, 98:3097-3105(2001)
【非特許文献4】Int. J. Nanomedicine, 12:2161-2177(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、貪食細胞の殺菌能を改善し得るベシクル製剤、感染症治療剤および消毒剤を提供することを課題とする。さらにはグルコース検出用試薬キットや活性酸素消去能を有する物質のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために好中球が食胞内で活性酸素を生成することに着目し、鋭意検討を重ねた結果、グルコース存在下で活性酸素生成を可能にする化合物をベシクル内に含むことを特徴とする、ベシクル製剤により、上記課題を達成しうることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.グルコース存在下で活性酸素生成を可能にする化合物を、ベシクル内に含むことを特徴とする、ベシクル製剤。
2.前記活性酸素生成を可能にする化合物が、NADPHオキシダーゼ、G6PDH、ヘキソキナーゼ、Mg2+、ATPおよびNADP+である、前項1に記載のベシクル製剤。
3.前記NADPHオキシダーゼが活性化Nox2複合体である、前項1または2に記載のベシクル製剤。
4.前記ベシクルがリポソーム、ナノスフェアおよびニオソームからなる群から選択されるベシクルである、前項1~3のいずれか一に記載のベシクル製剤。
5.前記ベシクル製剤が、生体内で貪食細胞に貪食されることを特徴とする、前項1~4のいずれか一に記載のベシクル製剤。
6.前記ベシクル製剤の平均粒径が50~150nmまたは75~125nmまたは90~110nmである、前項1~5のいずれか一に記載のベシクル製剤。
7.前項1~6のいずれか一に記載のベシクル製剤を有効成分とする、感染症治療剤。
8.前記感染症が慢性肉芽腫症における感染症である、前項7に記載の感染症治療剤。
9.前項1~6のいずれか一に記載のベシクル製剤を有効成分とする、消毒剤。
10.前項1~6のいずれか一に記載のベシクル製剤を含む、グルコース検出用試薬キット。
11.前項1~6のいずれか一に記載のベシクル製剤を含む、活性酸素消去能を有する物質のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
グルコース存在下で活性酸素生成を可能にする化合物を、ベシクル内に含むことを特徴とする、ベシクル製剤によれば、該ベシクル製剤が好中球に貪食されることで好中球の殺菌能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】リポソーム製剤を超音波処理で破壊し、該リポソーム製剤にグルコースを添加し活性酸素産生の結果を示す図である。(実験例1)
図2】リポソーム製剤によるNox2欠損型好中球様細胞の食胞内の活性酸素産生の結果を示す図である。(実験例2)
図3】CGD好中球様細胞に対するリポソーム製剤による、大腸菌に対する好中球殺菌能改善評価を示す図である。(実験例3-1)
図4】CGD好中球様細胞に対するリポソーム製剤による、黄色ブドウ球菌に対する好中球殺菌能改善評価を示す図である。(実験例3-2)
図5】CGD好中球様細胞に対するリポソーム製剤による、アスペルギルスに対する好中球殺菌能改善評価を示す図である。(実験例3-3)
図6】CGD好中球様細胞に対するナノスフェア製剤による、大腸菌に対する好中球殺菌能改善評価を示す図である。(実験例4)
図7】CGD好中球様細胞に対するニオソーム製剤による、大腸菌に対する好中球殺菌能改善評価を示す図である。(実験例4)
図8】O2 -アッセイにより哺乳類の細胞系(CHO細胞)でのNox2の発現を示す図である(図8A)。免疫沈降により哺乳類の細胞系(CHO細胞)でのNox2の発現を示す図である(図8B)。(実験例5)
図9】Nox2ノックアウトマウス(CGD型マウス)であることの確認を示す図である(実験例6)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の「ベシクル製剤」は、グルコース存在下で活性酸素生成を可能にする化合物を、ベシクル内に含むことを特徴とする、ベシクル製剤である。
【0015】
(ベシクル)
本発明の「ベシクル製剤」に用いられるベシクルは、両親媒性分子で構成されている閉鎖空間を有する小胞である。本発明におけるベシクルはベシクルの表面が親水性または疎水性でもよく、合成化合物による修飾を有するものでもよい。合成化合物とは、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA) 、ポリグリセリン(PG) 、ポリプロピレングリコール(PPG)等が挙げられる。該ベシクルの表面が疎水性である場合は、例えばポリビニルアルコール(PVA)等で疎水性の部分を保護することが好ましい。本発明におけるベシクルは、例えばリポソーム、ナノスフェア、ニオソーム、PLGA(乳酸・グリコール酸共重合体)ナノ粒子、エマルジョン等が挙げられるが、特にリポソーム、ナノスフェアまたはニオソームが好ましい。本発明におけるベシクルは1つ以上の二重層を有していればよく、例えば多重膜小胞(multi-lamellar vesicle)、小さな単膜小胞(small uni-lamellar vesicle)、大きな単膜小胞(large uni-lamellar vesicle)等が挙げられる。本発明におけるベシクルは該ベシクル内に水層を保持できるものであればよくpHは特に限定されないが、ベシクルの内水相はpH 7.0~7.4が好ましい。
【0016】
本発明における生体に投与する場合のベシクルの粒径は、1,000nm未満であればよく、例えば2.5~900nmであればよく、通常は50~150nm、好ましくは75~125nm、より好ましくは90~110nmである。また、本発明のベシクル製剤を有効成分とする消毒剤の場合、ベシクル製剤の粒径は3,000nm未満であればよく、好ましくは50~1,000nm、より好ましくは100~200nmである。ベシクルの粒径は、ふるい分け法、沈降法、顕微鏡法、光散乱法、レーザー回折・散乱法、電気的抵抗試験、透過型電子顕微鏡による観察、および走査型電子顕微鏡による観察等で測定できる。粒径は粒度分布計で測定してもよい。粒径は、測定方法に応じて、ストーク相当径、円相当径および球相当径で表すことができる。また、粒径は、複数の粒子を測定対象として、平均で表した平均粒径、体積平均粒径および面積平均粒径等であってもよい。また、粒径は、レーザー回折・散乱法等の測定に基づく個数分布等から算出される平均粒径であってもよい。
【0017】
具体的には、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径である50%径(D50)を粒径としてもよい。累積カーブおよびD50は、市販の粒度分布計を用いて求めることができる。粒度分布計としては、例えば、NIKKISO NANOTRACK WAVE-EX150(日機装社製)が挙げられる。
【0018】
上記ベシクルの貪食細胞による貪食効率を高めるために、本発明のベシクル製剤に用いられるベシクルの粒度分布は、好ましくはシングルピークである。上記ベシクルの粒径の均一さの指標となるスパン値は、(D90-D10)/D50で求められる。ここで、D90は上記累積カーブが90%となる点の粒径である90%径である。D10は上記累積カーブ10%となる点の粒径である10%径である。D90およびD10は、市販の粒度分布計を用いて求めることができる。スパン値は、本発明のベシクル製剤の作用効果が得られるのであれば限定されないが、例えば2.5以下であり、好ましくは2.3以下、より好ましくは2.0以下、1.8以下、特に好ましくは1.6以下である。
【0019】
本発明におけるベシクルがリポソームの場合、主な構成成分はリン脂質である。リン脂質としては、例えば大豆レシチン(SPC)、卵黄レシチン等のレシチン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ジアシルホスファチジルイノシトール、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジン酸、ジミリスチルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアリルホスファチジルコリン(DSPC)、スフィンゴミエリン(Sphingomyelin)、カルジオリピン(ジホスファチジルグリセロール) およびこれらの水素添加物等の誘導等が挙げられ、好ましくはレシチンやその水素添加物である。
【0020】
本発明におけるベシクルがリポソームの場合、ベシクル製剤を安定的に形成できるものであれば、リン脂質とともに安定化剤を含んでもよい。膜の安定化剤として、例えばコレステロール、シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール等が挙げられる。本発明におけるベシクルがリポソームの場合、リン脂質としてレシチン、安定化剤としてコレステロールを含むことが好ましい。これらの組成比は、例えばレシチン:コレステロール=2:1~10:1(w/w)であればよく、水素添加レシチン:コレステロール:PEG化リン脂質=3:1:1(w/w)が好ましく、水素添加大豆レシチン(HSPC):コレステロール:PEG化リン脂質(MPEG2000-DSPE)=3:1:1(w/w)がより好ましい。
【0021】
本発明におけるベシクルがナノスフェアの場合、主な構成成分は、生体に直接使用する場合は生体適合性高分子である。生体適合性高分子としては、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、乳酸・アスパラギン酸共重合体、およびポリアクリルシアノアクリレート等が挙げられ、好ましくはポリ乳酸である。
【0022】
本発明におけるベシクルがニオソームの場合、主な構成成分は非イオン界面活性剤である。非イオン界面活性剤としては、例えばソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪アルコールエトキシレート、およびポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられ、特にソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。
【0023】
本発明におけるベシクルは例えば自体公知の方法によって作成することができる。例えばベシクルがリポソームの場合、Presome法、Bangham法、逆相蒸発法、メカノケミカル法等が挙げれる。ベシクルがナノスフェアの場合、W/O/Wエマルション法、O/Wエマルション法およびエマルション溶媒拡散法等が挙げられる。本発明で使用するベシクルは作成した後、凍結、凍結乾燥または緩衝液中の状態で保存することが好ましい。本明細書における緩衝液としては例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、カリウムリン酸緩衝液、Tris緩衝液等が挙げられ、緩衝液のpHについては例えばpH 5~10が一般的である。
【0024】
(ベシクル製剤)
本発明の「ベシクル製剤」は、生体内で貪食細胞に貪食されることを特徴とする。本発明の「ベシクル製剤」が、好中球等の貪食細胞の殺菌能を改善する機能を有するには、本発明の「ベシクル製剤」が生体内で貪食細胞に貪食される必要がある。細菌等が生体内に侵入すると、感染部位では血管透過性亢進が生じ、感染部位へ「ベシクル製剤」の移行が起こる。感染部位で「ベシクル製剤」が高濃度に存在するようになり、細菌等の周囲にある「ベシクル製剤」を貪食細胞が貪食することにより食胞内への取り込みが起こる。そして、ベシクル製剤が食胞内で破壊されたときに、血中グルコースにより活性酸素が生成される。本発明の「ベシクル製剤」の投与により貪食細胞の殺菌能の改善は自体公知の方法によって確認することができる。例えば大腸菌、黄色ブドウ球菌またはアスペルギルス等の微生物を用いるKilling assay(コロニーアッセイ)等が挙げられる。
【0025】
本発明の生体内に投与する場合の「ベシクル製剤」の平均粒径は、1,000nm未満であればよく、例えば2.5~900nmであればよく、通常は50~150nm、好ましくは75~125nm、より好ましくは90~110nmである。本発明の「ベシクル製剤」の粒径は50~150nmであることにより、感染がない状態では、本発明の「ベシクル製剤」が網内系細胞への取り込みおよび通常の毛細血管からの漏出が起こりにくいため血中濃度を高く維持することができる。一方、感染状態では、本発明の「ベシクル製剤」の感染部位への移行により、貪食細胞が本発明を貪食することができ、これにより貪食細胞の殺菌能を改善することができる。本発明の「ベシクル製剤」の粒径は、ベシクルの製造後、例えばエクスツルージョン法、超音波法等によって調製することができる。
【0026】
本明細書において「貪食細胞」とは、細菌等を貪食する働きのある免疫細胞であればよく、例えば好中球、単球、マクロファージおよび樹状細胞等が挙げられ、特に好中球が好ましい。
【0027】
活性酸素は生体防御に必要な殺菌剤の役割がある一方、組織や細胞においては害を及ぼすため有害である。本発明の「ベシクル製剤」はグルコース存在下で活性酸素生成を可能にする化合物を含んでおり、グルコースからNADPHを生成する系とNADPHから活性酸素を生成する2つの酵素系を含んでいる。このため万が一、本発明の「ベシクル製剤」が血中に拡散した場合であっても活性酸素が生成されにくいため安全性が高い。
【0028】
(ベシクル製剤の作成方法)
本発明のベシクル製剤の作成は自体公知の方法によって行うことができる。例えば下記の方法によって作成したベシクルまたはベシクル作成中に、グルコース存在下で活性酸素生成を可能にする化合物を封入することで本発明の「ベシクル製剤」を作成することができる。該化合物を封入する方法は、本発明の有効成分を失活しない方法であれば自体公知の方法によって行うことができる。例えば凍結封入法、Dehydration-Rehydration Visicle(DRV)法、水和法、超音波法、コール酸除去法、Ca2+-重合法、逆相蒸発法等が挙げられ、特に凍結封入法およびDehydration-Rehydration Visicle(DRV)法が好ましい。例えば凍結封入法は、薬物を含まない空のベシクルと薬物水溶液とを混和し、凍結・解凍を繰り返す方法である(例えば、非特許文献1参照)。
【0029】
例えばベシクルがリポソームである場合、下記のようにベシクル製剤を作成することができる。まずプレソームをガラス瓶に入れ緩衝液を加え、例えば80℃に加温しながらボルテックスを行いリポソームを作成する。リポソームを例えばエクストルーダーで所望の粒径に調整し、遠心分離により沈殿したペレットを緩衝液で懸濁し回収しリポソーム液とする。回収したリポソーム液を、グルコース存在下で活性酸素生成を可能にする化合物水溶液に加えリポソーム懸濁液を得、凍結させる。凍結させた懸濁液を解凍後、遠心分離により沈殿したペレットを緩衝液又は生理食塩水等で懸濁し回収することでベシクル製剤を得ることができる。
【0030】
例えばベシクルがナノスフェアである場合、下記のようにベシクル製剤を作成することができる。クロロホルムに例えばポリ乳酸を溶解し、該ポリ乳酸溶液に、本発明の有効成分を含む溶液を入れて十分ボルテックスして一次乳化し、エマルジョンを作成する。エマルジョン溶液を例えばポリビニルアルコール(PVA)溶液の中に入れてボルテックスして二次乳化することでナノスフェアができる。ナノスフェアを含んだPVA溶液を緩衝液に加えて遠心分離してペレットを回収し、ペレットを緩衝液で懸濁してガラス試験管に移して蓋を外した状態で攪拌しながらクロロホルムを揮発させる。さらに緩衝液を加えて遠心分離し、ペレットを回収することでベシクル製剤を作成することができる。
【0031】
例えばベシクルがニオソームである場合、下記のようにベシクル製剤を作成することができる。例えばヘキサンに非イオン界面活性剤を溶解した溶液に、本発明の有効成分を含む溶液を加えて十分ボルテックスを行い、ボルテックス直後に非イオン界面活性剤に入れてボルテックス行いニオソームを作成する。ニオソームを含んだ非イオン界面活性剤溶液を遠心管に移して緩衝液を加えて遠心分離し、ニオソームを含んだ上澄みをガラス試験管に移して、さらに緩衝液を加えて蓋を外した状態で攪拌しながらヘキサンを揮発させ、緩衝液溶液の中間層を回収してベシクル製剤を作成することができる。
【0032】
本発明の「ベシクル製剤」は、作成した後に緩衝液中、凍結または凍結乾燥した状態で保存することができる。特に、長期保存または製剤化途中で保管が必要な場合には、ベシクル製剤の保護剤として糖または多価アルコールを添加・溶解した後、凍結乾燥により水分を除いて凍結乾燥物としてもよい。糖類として、例えばガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース等の単糖類; サッカロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、マルトース等の二糖類; ラフィノース、メレジトース等の三糖類; シクロデキストリン等のオリゴ糖; デキストリン等の多糖類; キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等の糖アルコール等が挙げられる。
【0033】
多価アルコール類として、例えばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン系化合物; ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール系化合物; エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ヘプタエチレングリコール、オクタエチレングリコール、ノナエチレングリコール等が挙げられる。
【0034】
(活性酸素生成を可能にする化合物)
本発明の「ベシクル製剤」はグルコース存在下で活性酸素生成を可能にする化合物をベシクル内に含むことを特徴とする。本明細書において、活性酸素生成を可能にする化合物は、例えば活性酸素の生成源としてのNADPHオキシダーゼ、およびNADPHオキシダーゼを駆動させ活性酸素を生成するために必要なNADPHを生成する酵素系/化合物が挙げられる。本明細書において、NADPHを生成する酵素系/化合物は例えばペントースリン酸経路に関与する酵素系/化合物であるG6DPH、ヘキソキナーゼ、Mg2+、ATPおよびNADP+が挙げられる。例えばペントースリン酸経路は解糖系のグルコース-6-リン酸から出発して、同じく解糖系のグリセルアルデヒド-3-リン酸へとつながる経路で、NADPH等の核酸の生合成に不可欠な糖を含む各種ペントースの産生に関与する。本明細書において「活性酸素生成を可能にする化合物」は、例えばNADPHオキシダーゼ、G6PDH、ヘキソキナーゼ、Mg2+およびNADP+が挙げられる。本発明における「活性酸素生成を可能にする化合物」は生体内においてグルコース存在下で活性酸素生成を可能にする化合物が好ましい。
【0035】
(NADPHオキシダーゼ)
本発明の「ベシクル製剤」に含まれる有効成分としてのNADPHオキシダーゼ(Noxという場合もある。)は、例えば好中球またはマクロファージ等で発現が見られる食細胞NADPHオキシダーゼである。NADPHオキシダーゼは殺菌剤である活性酸素の生成源として機能している膜結合酵素複合体であり、Nox1,Nox2,Nox3,Nox4,Nox5の5つのサブタイプがある。本発明におけるNADPHオキシダーゼは少なくともNADPHがあれば活性酸素を生成するものであればよく、好ましくは活性化Nox2複合体である。
【0036】
本発明における活性化Nox2複合体とは、Nox2活性化因子をすべて含む活性型複合体をいう。Nox2は、パートナー分子で同じく膜タンパク質であるp22phoxとヘテロ二量体を形成しているが、Nox2はp22phoxと複合体を形成しただけでは酵素活性をもたない。該活性化には、少なくともp47phox、p67phoxおよびRacであるNox2活性化因子と複合体を形成することが必要であり、複合体を形成することではじめてNox2はO2 -を生成することができる。In vivoではさらにp40phoxを必要とする場合もある。したがって、本発明における活性化Nox2複合体は少なくともNADPHがあれば活性酸素を生成するNox2である。
【0037】
(活性化Nox2複合体)
(1)p47phox、p67phoxおよびRac1を含む融合タンパク質の作成
活性化Nox2複合体は、例えばNox2-p22phoxと、p47phox、p67phoxおよびRac1を含む融合タンパク質によって構成される。活性化Nox2複合体を構成するp47phox、p67phoxおよびRac1を含む融合タンパク質は、例えば遺伝子工学的に作成することができる。p47phox、p67phoxおよびRac1を含む融合タンパク質はNox2活性化タンパク質と呼ぶ場合もある。p47phox、p67phoxおよびRac1の各タンパク質の部分もしくは全長をコードするDNA、例えばp47phox、p67phoxのうちNox2活性化に必要な各領域をコードするDNAおよびRac1の活性型変異体をコードするDNAを、発現ベクターにクローニングし作成することができる。p47phox、p67phoxおよびRac1の各タンパク質のうち1~数個のアミノ酸残基の欠失、置換、付加、および/または挿入されたアミノ酸(変異体)をコードするDNAを用いてもよい。Rac1の活性型変異体は、例えばRac1(Q61L)が挙げられる。該融合タンパク質はN末端からp47phox、p67phox、Rac1の順に連結されている。p47phox、p67phoxおよびRac1をコードする各DNA等は、各々自体公知の方法により作成し入手することができる。一般に1つのアミノ酸に対して複数種の遺伝暗号が存在するため、公知塩基配列または公知アミノ酸配列に基づく塩基配列とは異なる塩基配列を有するDNAであってもよい。
【0038】
p47phoxのうちNox2活性化に必要な領域は、例えばp47phoxのN末端領域(p47N)が挙げられる。p47NはGenBank ACCESION:NP_000256.4に示されるアミノ酸配列のうち例えば 1-286番目に示すアミノ酸配列で特定される(配列番号1)。P67phoxのうちNox2活性化に必要な領域は、例えばp67phoxのN末端領域(p67N)が挙げられる。p67NはGenBank ACCESION:NP_000424.2に示されるアミノ酸配列のうち例えば1-224番目に示すアミノ酸配列で特定される(配列番号2)。前記Rac1(Q61L)は、GenBank ACCESION:NP_008839.2に示されるアミノ酸配列のうち例えば1-188番目に示すアミノ酸配列で特定され(配列番号3)、それを基準としたきの第61番目のアミノ酸が、グルタミン(Q)からロイシン(L)に置換されたアミノ酸配列で特定されるタンパク質である。
【0039】
(配列番号1)
MGDTFIRHIALLGFEKRFVPSQHYVYMFLVKWQDLSEKVVYRRFTEIYEFHKTLKEMFPIEAGAINPENRIIPHLPAPKWFDGQRAAENRQGTLTEYCSTLMSLPTKISRCPHLLDFFKVRPDDLKLPTDNQTKKPETYLMPKDGKSTATDITGPIILQTYRAIANYEKTSGSEMALSTGDVVEVVEKSESGWWFCQMKAKRGWIPASFLEPLDSPDETEDPEPNYAGEPYVAIKAYTAVEGDEVSLLEGEAVEVIHKLLDGWWVIRKDDVTGYFPSMYLQKSGQD
(配列番号2)
MSLVEAISLWNEGVLAADKKDWKGALDAFSAVQDPHSRICFNIGCMYTILKNMTEAEKAFTRSINRDKHLAVAYFQRGMLYYQTEKYDLAIKDLKEALIQLRGNQLIDYKILGLQFKLFACEVLYNIAFMYAKKEEWKKAEEQLALATSMKSEPRHSKIDKAMECVWKQKLYEPVVIPVGKLFRPNERQVAQLAKKDYLGKATVVASVVDQDSFSGFAPLQPQA
(配列番号3)
MQAIKCVVVGDGAVGKTCLLISYTTNAFPGEYIPTVFDNYSANVMVDGKPVNLGLWDTAGQEDYDRLRPLSYPQTDVFLICFSLVSPASFENVRAKWYPEVRHHCPNTPIILVGTKLDLRDDKDTIEKLKEKKLTPITYPQGLAMAKEIGAVKYLECSALTQRGLKTVFDEAIRAVLCPPPVKKRKRK
【0040】
各タンパク質をコードするDNAを有する発現ベクターの作成は自体公知の方法によって行うことができる。例えば制限酵素法、ホモポリマー法、T4リガーゼ結合法等が挙げられる。本明細書において、ベクターの作成に用いられるプラスミドが例えば大腸菌を宿主とする場合は、大腸菌で発現可能なプラスミドであれば特に制限されない。プラスミドとして、例えばpGEX-6P、pUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218、pQE、およびpET等が挙げられる。必要に応じて、該プラスミドにプロモーター配列、ターミネーター配列等の調節配列、および選択マーカー遺伝子を導入することできる。選択マーカーとしては、例えばスペクチノマイシン(SPr)、アンピシリン(Ampr)、テトラサイクリン(TETr)、カナマイシン(KMr)、ストレプトマイシン(STr)、ネオマイシン(NEOr)等の抗生物質耐性マーカー;緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(REP)等の蛍光マーカー;LacZ等の酵素等が挙げられる。クローニングベクターのプロモーターの下流には、マルチクローニングサイトを有するリンカー等を備えてもよい。該プラスミドにp47N、p67NおよびRac1(Q61L)をコードする各DNAを組み込むことにより、p47N-p67N-Rac1(Q61L)を含む融合タンパク質を発現するベクターを作成することができる。
【0041】
該発現ベクターを宿主である、例えば大腸菌に導入する。大腸菌として、例えばEsherichia coli(E.coli)、BL21、HMS174、JM109、等が挙げられる。形質転換方法は、自体公知の方法によって行うことができ、例えば電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、カルシウムイオン法、プロトプラスト法、マイクロインジェクション法、パーティクル・ガン法等が挙げられる。
【0042】
形質転換株を培養する培地としては、宿主微生物それぞれに適した培地が挙げられ、例えば2×YT培地、LB培地、TB培地およびSOC培地等が挙げられる。
【0043】
融合タンパク質の抽出は、用いる宿主と目的タンパク質に応じて、最適な方法を適宜選択できるが、例えば酵素消化法、超音波処理、凍結融解法等が挙げられる。形質転換株は、公知の方法で後処理を行ってもよい。例えば、遠心分離等により粗精製を行ってもよい。また、所望により粗精製を行った後、生理食塩水、PBSまたは乳酸配合リンゲル液等の当該分野で従来から使用されている溶媒に溶解または懸濁させてもよい。また、所望により凍結乾燥または噴霧乾燥を行い、粉状物または粒状物にしてもよい。
【0044】
(2)Nox2-p22phoxの精製
本発明における活性化Nox2複合体を構成するNox2-p22phoxは、例えばヒト好中球から精製することができる。具体的に以下詳述する。健常ボランティアドナー1人あたり200 mLを採血する。デキストランが4.5% (w/v) になるように生理食塩水(0.9% (w/v))で溶解したデキストラン溶液を採血した血液へ100 mL加え、静かに攪拌し、20 分程度、赤血球成分が十分に沈降するまで室温で静置する。ピペッターで赤血球成分が混入しないように、上層を遠心管に分取する。230 xg、10分間遠心分離しペレットを1 mLの生理食塩水へ再懸濁する。氷冷した超純水を38 mL加え、素早く攪拌し、氷上で静置する。25秒間の静置後、直ちに18% (w/v) NaCl溶液を2 mL加え等張へ戻す。低張中に残存する赤血球成分は破砕される。続いて150 xg、10 分間で遠心分離し、ペレットを5 mLの生理食塩水へ再懸濁する。懸濁液 5 mLのリンパ球分離溶液に重層する。760 xg、20 分間で遠心分離しペレットを10 mLの生理食塩水へ再懸濁し、230 xg、10 分間で遠心分離する。再度、ペレットを10 mLの生理食塩水へ再懸濁し、230 xg、10 分間で遠心分離する。2 mLのPBSに沈降物を再懸濁し、好中球懸濁液とする。超音波処理により、好中球を破砕する。10,000 xg、20 分間で遠心分離し、上清を回収する。100,000 xg、60 分間で遠心分離し、好中球膜を沈降させる。ペレットをPBS 200 μLに再懸濁し、超音波処理により、好中球膜を均一に分散させた溶液を調整し、この溶液をNox2-p22phox成分として用いることができる。
【0045】
上記の方法以外に血液を用いることなくNox2-p22phoxを精製することもできる。例えば哺乳類培養細胞に、Nox2およびp22phoxの遺伝子を含む発現ベクターをトランスフェクションしNox2-p22phoxを異所性に発現させる。このNox2およびp22phoxの遺伝子をトランスフェクションしたNox2強制発現細胞から細胞膜を回収することで、Nox2-p22phoxを精製することもできる。
【0046】
(3)活性化Nox2複合体の作成
本発明の活性化Nox2複合体は、例えば上述に記載したNox2-p22phoxと、p47phox、p67phoxおよびRac1を含む融合タンパク質によって作成することができる。具体的には100 mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)に終濃度10 μMフラビンアデニンジヌクレオチド(Noxの補酵素)、100 μg/mL p47phox、p67phoxおよびRac1を含む融合タンパク質、100 μg/mL Nox2-p22phoxを加え、全量を1 mLとし、終濃度が100 μMになるようにラウリル硫酸ナトリウム(または、200 μM アラキドン酸)を加え、室温で5分間静置する。終濃度が10 mMになるようにEDCを加え攪拌する。直ちに、透析を開始し(透析外液はPBSで、時間は2時間を二回)、サンプルを回収することで活性化Nox2複合体を作成することができる。
【0047】
活性化Nox2複合体を安定させるために架橋剤を用いてもよい。架橋剤として、例えば1-エチル3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropy)carbodiimide:EDC、グルタルアルデヒド、スベリンイミド酸ジメチルニ塩酸塩(dimethyl suberimidate dihydrochloride:DMS)、3,3’-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル(dimethyl 3,3'-dithiobispropionimidate:DTBP)、カルシウムイオン等の金属イオン等が挙げられ、特にEDCが好ましい。
【0048】
本発明は、「ベシクル製剤」を有効成分とする感染症治療剤、消毒剤、グルコース検出用キットや活性酸素消去能を有する物質のスクリーニング方法にも及ぶ。本発明の「グルコース検出用試薬キット」を用いることで、活性酸素の生成によりグルコースを検出することができる。
【0049】
本明細書における感染症は、所謂当業者が述べる感染症であればよく、例えば細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症、呼吸器感染症、尿路感染症、胆道感染症、消化管感染症、中枢神経系感染症等が挙げられる。本明細書における感染症の原因となりうる微生物は、所謂当業者が述べる微生物であればよく、例えば大腸菌、黄色ブドウ球菌、クレブシエラ、サルモネル菌、緑膿菌等の非過酸化水素産生カタラーゼ陽性菌、肺炎球菌、連鎖球菌等のカタラーゼ陰性菌等の細菌、アスペルギルス属、カンジダ属の真菌等が挙げられる。
【0050】
本発明の「感染症治療剤」を投与することにより貪食細胞の殺菌能を改善することができる。感染症の原因の疾患は、例えば複合免疫不全症、抗体産生不全症、明確に定義された免疫不全症、補体不全症、および食細胞機能不全症等が挙げられ、食機能不全症が原因である場合、より効果的である。食細胞機能不全症の代表的疾患として慢性肉芽腫症、好中球機能異常症、および高IgG症候群等が挙げられるが、特に慢性肉芽腫症が好ましい。さらに抗がん剤および免疫抑制剤等使用中の易感染状態の患者の感染症治療補助剤としても有用である。本発明の「感染症治療剤」はベシクル製剤を有効成分とする、感染症治療補助剤も含む。
【0051】
慢性肉芽腫症はNox2欠損型、p22phox欠損型、p47phox欠損型、およびp67phox欠損型がある。本発明は貪食細胞に貪食されることで、活性酸素を産生することができるためどの遺伝子群でも使用可能である。ここで慢性肉芽腫症の患者の好中球は細菌の貪食能は維持されているが、活性酸素産生能が欠損している。
【0052】
慢性肉芽腫症の代表的な原因微生物は、所謂当業者が述べる微生物であればよく、例えば大腸菌、黄色ブドウ球菌、クレブシエラ、サルモネル菌、緑膿菌等の非過酸化水素産生カタラーゼ陽性菌等の細菌、アスペルギルス属、カンジダ属の真菌等が挙げられる。
【0053】
本発明の「感染症治療剤」は、グルコース存在下で活性酸素生成を可能にする化合物と、薬理学的に許容しうる担体を含んでもよい。該薬理学的に許容しうる担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤若しくは崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤若しくは溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、および粘着剤等を挙げることができる。
【0054】
本発明の「感染症治療剤」は、局所的に投与してもよいし、全身的に投与してもよい。治療剤の剤形としては、例えば非経口投与製剤、経口投与製剤が挙げられる。非経口投与製剤としては、例えば注射等による局所投与、カテーテルや内視鏡により肺(気管支)、腹腔・胸腔内、消化管内や臓器内等への局所投与、静脈内注射投与や、経管投与のできる形態にあるものが挙げられ、更には例えばローション剤、軟膏剤、テープ剤やパップ剤等の外用剤として経皮的に投与することができるものが挙げられる。非経口投与製剤には、滅菌した水性の、または非水性の溶液、懸濁液および乳濁液を含んでいてもよい。非水性希釈剤の例として、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えば、オリーブ油および有機エステル組成物、例えば、エチルオレエートであり、これらは注射用に適している。水性担体には、水、アルコール性水性溶液、乳濁液、懸濁液、食塩水および緩衝化媒体が含まれていてもよい。非経口的担体には、塩化ナトリウム溶液、リンゲル液、塩化ナトリウム、リンゲル乳酸および結合油が含まれていてもよい。注射等による局所投与、静脈内注射投与や、経管投与できる形態にある非経口投与製剤にあっては、担体として、例えば、液体用補充物、栄養剤(単糖類、オリゴ糖、多糖類、澱粉、澱粉部分分解物を含む)或いは電解質(例えば、リンゲルに基づくもの)が含まれていてもよい。
【0055】
経口投与用の液体製剤の製造には、例えば、水、サッカロース、ソルビトール、フルクトース等の糖類;ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ゴマ油、オリーブ油、大豆油等の油類;p-ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤等の製剤用添加物を用いることができる。また、カプセル剤、錠剤、散剤、または顆粒剤等の固形製剤の製造には、例えば、ラクトース、サッカロース、マンニトール等の賦形剤;澱粉、アルギン酸ソーダ等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤;ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤;脂肪酸エステル等の界面活性剤;グリセリン等の可塑剤を用いることができる。本発明の投与量は、投与対象の年齢、性別、体重、症状、投与回数、投与頻度、投与時期等に応じて適宜設定することができる。一般的には、本発明の投与量として、1~50mg/kg・体重である。本発明の投与時期は、感染症の感染のリスクが高い場合、および感染症発症時である。
【実施例0056】
以下、実験例および実施例により発明を具体的に示すが、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)リポソーム製剤の作成
本実施例では活性化Nox2複合体、G6PDH、ヘキソキナーゼ、Mg2+、ATPおよびNADP+をリポソームに封入したリポソーム製剤を作成した。
【0058】
1.p47N-p67N-Rac1(Q61L)融合タンパク質の精製
p47N:配列番号1に示すアミノ酸配列で特定されるタンパク質
p67N:配列番号2に示すアミノ酸配列で特定されるタンパク質
Rac1(Q61L):配列番号3に示すアミノ酸配列を基準としたときの第61番目のアミノ酸がグルタミン(Q)からロイシン(L)に置換されたアミノ酸配列で特定されるタンパク質
【0059】
Nox2活性化タンパク質(p47N、p67NおよびRac1(Q61L))およびグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質をコードするDNAを組み込んだ大腸菌タンパク質発現用プラスミドpGEX-6P(Cytiva社)をコンピテント大腸菌株BL-21株(Takara社)に導入した。アンピシリン(Nacalai社)でセレクションすることにより形質転換BL-21株を樹立した。形質転換BL-21株を400 mLの2×YT培地で培養し、終濃度が50 μMになるようにイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを加え、Nox2活性化タンパク質(p47N、p67NおよびRac1(Q61L))をグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質として発現させた。発現誘導したBL-21株を回収しPBS 50 mLに再懸濁した。超音波処理により、BL-21株を破砕した。10,000 xg、30分間で遠心分離し上清の可溶性画分を分取し、250 μLのグルタチオンセファロースビーズ(glutathione Sepharase beads、Cytiva社)を加え、4℃で1時間撹拌した。ビーズを洗浄し夾雑物を除去した。ビーズに結合したGST-Nox2活性化タンパク質にプレシジョンプロテアーゼ(prescission protease、Cytiba社)を加え、GSTからNox2活性化タンパク質を切り離し回収しp47N-p67N-Rac1(Q61L)融合タンパク質とした。
【0060】
2.Nox2-p22phoxの精製
健常ボランティアドナー1人あたり200 mLを採血した。デキストランが4.5% (w/v) になるように生理食塩水(0.9% (w/v))で溶解したデキストラン溶液を、採血した血液へ100 mL加えた。静かに攪拌し、20 分程度、赤血球成分が十分に沈降するまで室温で静置した。ピペッターで赤血球成分が混入しないように、上層を遠心管に分取し、230 xg、10分間で遠心分離した。ペレットを生理食塩水 1 mLへ再懸濁し、氷冷した超純水 38 mL加え、素早く攪拌し氷上で静置した。25秒間の静置後、直ちに18 % (w/v) NaCl溶液 2 mLを加え等張へ戻した。低張中に残存する赤血球成分は破砕された。続いて150 xg、10分間で遠心分離し、ペレットを生理食塩水 5 mLへ再懸濁し、該懸濁液をリンパ球分離溶液 5 mLに重層し、760 xg、20分間で遠心分離した。ペレットを生理食塩水 10 mLへ再懸濁し、230 xg、10分間で遠心分離した。再度、ペレットを生理食塩水 10 mLへ再懸濁し、230 xg、10分間で遠心分離した。PBS 2 mLにペレットを再懸濁し好中球懸濁液とした。好中球懸濁液を超音波処理により好中球を破砕し、10,000 xg、20分間で遠心分離し、上清を回収した。100,000 xg、60分間で遠心分離し好中球膜を沈降させた。ペレットをPBS 200 μLに再懸濁し、超音波処理により好中球膜を均一に分散させた溶液を調整し、この溶液をNox2-p22phox成分として用いた。
【0061】
3.活性化Nox2複合体の作成
100 mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)に終濃度 10μMフラビンアデニンジヌクレオチド(Noxの補酵素)、p47N-p67N-Rac1(Q61L)融合タンパク質 100μg/mL、および Nox2-p22phox 100μg/mLを加え、全量を1 mLとした。終濃度が 100μMになるようにラウリル硫酸ナトリウムを加え、室温で5分間静置し終濃度が10 mMになるようにエチレンジクロリド(EDC)を加え攪拌した。直ちに、透析を開始した(透析外液はPBSで、時間は2時間を2回)。透析後サンプルを回収することで活性化Nox2複合体を作成することができた。
【0062】
4.リポソームの作成
リポソーム作成用混合脂質(商品名「Presome」(ACD-1:水素添加大豆レシチン(HSPC):コレステロール(CHO-HP):PEG化リン脂質(MPEG2000-DSPE)=3:1:1(w/w))、日本精化株式会社)を用いてリポソームを作成した。プレソーム(Presome) 1,000 μgをガラス瓶に入れ、PBS 2,000 μLを加え、80℃で加温しながらボルテックスミキサーでリポソームを作成した。作成したリポソームをNanoSizer Liposome Extruder(T&T Scientific Corporation)で、ポアサイズが100 nmのポリカーボネートフィルター(T&T Scientific Corporation)を用いて、平均粒径を約100 nmに調製した。この時に使用するエクストルーダーを80℃に加温しておいた。次に、100 nmに調製したリポソームを、超遠心(100,000 xg, 4℃, 60分間)し、ペレットをPBS 100 μLで懸濁しリポソーム液を回収した。
【0063】
5.リポソーム製剤の作成
活性化Nox2複合体溶液 500 μL、G6PDH 250 μg(Sigma-Aldrich社)、50ユニットのヘキソキナーゼ(Sigma-Aldrich社)、10 mM Mg2+ (塩化マグネシウム, Nacalai社)、10 mM ATP (Sigma-Aldrich社)および10 mM NADP+ (オリエンタル酵母社)をPBSで合計900 μLにし、上記回収したリポソーム液 100 μLと混ぜ合わせリポソーム懸濁液を得、プログラムフリーザー(-80℃)で凍結させた。リポソーム懸濁液の凍結物を解凍後、超遠心(100,000 xg, 4℃, 60分間)し、ペレットをPBS 100μLで懸濁して回収し、平均粒径が約100nmのリポソーム製剤(Noxリポソーム)を作成した。コントロールとして、PBSのみで懸濁した溶液を処理してPBSのみを封入したリポソーム製剤(PBSリポソーム)を作成した。
【0064】
(実験例1)リポソーム製剤とグルコースによる活性酸素産生の確認
本実験例ではリポソーム製剤を超音波処理により破壊し、該リポソーム製剤にグルコースを添加し活性酸素が産生するか確認した。
【0065】
実験原理:Nox2が生成したスーパーオキシドは、シトクロムc(cyt.c)を直ちに還元する。Cyt.cは、還元されると550 nmにおける吸光度が増加する。吸光度の増加を分光計で経時的にモニターすることにより、スーパーオキシドが生成されていることを確認することができる。スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)は、スーパーオキシドを過酸化水素へと付均化する酵素である。SOD(牛赤血球由来(Cu/Zn型), Cas登録番号9054-89-1、富士フィルム和光純薬社)の添加により、吸光度の変化がなくなるということは、それまでの変化がスーパーオキシドに依存したものであると説明できる。
【0066】
実施例1と同様に作成したリポソーム懸濁液の凍結物を解凍した溶液 100 μLを超遠心(100,000 xg, 4℃, 60分間)し、ペレットをカリウムリン酸緩衝液(pH7.0)100 μLに懸濁し回収し、超音波処理により破壊した。超音波処理は、BIORUPTUR(サンプル密閉式超音波破砕装置、ソニック・バイオ株式会社製)を用い、出力200 Wで「10 秒破砕、20秒休止」を25回繰り返した。石英キュベットに超音波処理で破壊した溶液を移して、終濃度 75 μM になるようにcyt.c溶液(馬心臓由来、Cas登録番号9007-43-6、富士フィルム和光純薬社)を加え、分光計(Shimadzu社製品, UV-160A)で550 nmの波長での吸光度(OD550 nm)の増加を1分間連続で記録した。該破壊した溶液と75 μM cyt.c溶液との混合時に、吸光度をゼロ補正した。その後血糖値と同程度のグルコース濃度(終濃度5 mM)を添加した。再び、550 nmの波長での吸光度(OD550 nm)の増加を記録し、吸光度が0.75~1付近になった時に、SODを添加し吸光度が増加しないことを確認した。SOD添加後に増加がなかったため、それまでに見られた吸光度の増加はスーパーオキシド依存であることが示された(図1)。さらにリポソーム内にNADPH産生系および活性酸素の生成系の2つの系が封入できたことが示された。
【0067】
また、この実験例1の結果は、本発明のベシクル製剤が活性酸素発生装置として有用であり、活性酸素の発生量は反応系内に存在するグルコース量に依存することから、殺菌剤やグルコース検出等の医薬用途或いは医薬用途以外に利用できることを示している。さらに、実験例1のSODを他の成分と置き換えることにより、当該成分の活性酸素の消去能の有無やその程度を確認することができることを示している。
【0068】
(実験例2)リポソーム製剤によるNox2欠損好中球様細胞の食胞内の活性酸素産生の確認
【0069】
本実験例では、本発明のベシクル製剤が慢性肉芽腫症患者のNox2欠損好中球等の貪食細胞の活性酸素産生能を回復し、抗菌作用を改善させることができることを確認するために、Nox2遺伝子をノックアウトしたヒト白血病細胞株(PLB-985、Dr. Mary C Dinauer(Department of Pathology and Immunology, School of Medicine, Washington University in St. Louis, St. Louis, MO.)から分与)を0.65% DMF(ジメチルホルムアミド)で7日間処理してNox2欠損好中球様細胞に分化させて実験に用いた。PLB-985細胞は好中球細胞モデルとして用いられており(例えば、Immunobiology,215:38-52 (2010)参照)、そのNox2欠損好中球様細胞は、慢性肉芽腫症患者の好中球と同様に、細菌の貪食能は維持されているが活性酸素産生能が欠損している。なお、PLB-985-Nox2ノックアウト細胞株は、Dr. Mary C Dinauer(Department of Pathology and Immunology, School of Medicine, Washington University in St. Louis, St. Louis, MO.;Proc. Natl. Acad. USA,90:9832-9836(1993)参照)から分与されたものを用いた。
【0070】
好中球様細胞の食胞内で産生される活性酸素をニトロテトラゾリンブルー(NBT)アッセイで測定した。NBTアッセイとはNBTが活性化酸素により還元されブルーホルマザンが産生されブルーホルマザン量の比較により活性酸素産生量を比較することができるアッセイである。
【0071】
≪Nox2欠損好中球様細胞の準備≫
Nox2欠損好中球様細胞を5×106個回収してグルコース添加(2,000mg/L)済みの培養液(RPMI-1640)400 μLに懸濁し、細胞懸濁液とした。比較のためNox2遺伝子を操作していない野生型PLB-985細胞(野生型好中球様細胞)を、同様に5×106個回収してグルコース添加(2,000mg/L)済みの培養液(RPMI-1640)400 μLに懸濁し、細胞懸濁液とした。
≪ザイモサン準備≫
ザイモサン(富士フィルム和光純薬社)をPBSで懸濁した25mg/mLの濃度のザイモサン溶液 100 μLとヒト血清 100 μLを合わせて37℃で1時間オプソニン化した。1時間後にPBSで洗浄して2.5mg/mLの濃度のザイモサン溶液とした。
≪NBT試薬準備≫
NBT 10mgをPBS(脂肪酸Freeアルブミン1%含有)3mLに懸濁し、十分ボルテックスした後に2,000 rpm、3分間遠心して上清のみ回収してNBT試薬とした。
【0072】
細胞懸濁液 400 μLに、NBT試薬 100 μL、ザイモサン溶液 50 μL、およびリポソーム製剤 100 μLを加えてピペッティングして37℃で静置した。2時間後にブルーホルマザン量を比較し活性酸素産生量を比較した。コントロールには、PBSを封入したリポソーム製剤を実施例1の方法で作成し使用した。
【0073】
この結果、野生型好中球様細胞では、ザイモサンの貪食に伴い活性酸素が産生されるため、ブルーホルマザンが多量に産生されていた。Nox2欠損好中球様細胞にザイモサンとコントロールリポソームを貪食させると、活性酸素は産生されないため、ブルーホルマザンの産生量は極めて少量であった。一方、Nox2欠損好中球様細胞にザイモサンと、本発明のリポソーム製剤を貪食させた場合、ブルーホルマザンが産生されていた(図2)。このことは、本発明のリポソーム製剤により、Nox2欠損好中球様細胞に活性酸素産生能を回復させたことを意味している。
【0074】
(実験例3-1)リポソーム製剤による、大腸菌に対する好中球殺菌能改善評価
本実験例では、実験例2と同様にNox2欠損好中球様細胞(PBL-CGD)を用いて、大腸菌に対する好中球の殺菌能がリポソーム製剤により改善するかを評価した。
【0075】
≪Nox2欠損好中球様細胞の準備≫
PBL-CGDを1×106個回収して、グルコース添加(2,000mg/L)済み、抗生剤フリーの培養液(RPMI-1640)500 μLに懸濁し細胞懸濁液とした。
≪E.coliの準備≫
E.coli標準株(ATCC4157)を使用した。E.coli懸濁液の濁度とコロニー数の関係を測定し、1×107個のE.coliをPBS 50 μLで懸濁して回収して氷上で静置した。
【0076】
(Killing assay)
細胞懸濁液 500 μL、E.coli懸濁液 50 μL、およびリポソーム製剤 100 μLを加えて37℃で30分間静置した。30分後に3,000 rpm、3分間遠心してPBL-CGDのみ回収し、プライモシン(抗生剤)入りの培養液に懸濁し37℃で30分間静置して食胞外のE.coliを殺菌した。30分後にもう一度3,000 rpm、3分間遠心し、PBL-CGDのみ回収し、ゲンタマイシン(抗生剤)入りの培養液に懸濁して37℃で静置し、アッセイ開始4時間後に3,000 rpm、3分間遠心してPBL-CGDのみ回収しPBS 1,000 μLに懸濁した。該懸濁液 100 μLをLB培地に播種して24時間後にコロニー数をカウントした。コントロールには、PBSを封入したリポソーム製剤を実施例1の方法で作成し使用した。
【0077】
この結果、コントロール成分ベシクル(PBSのみ封入したリポソーム製剤:PBSリポソーム)ではコロニー数が407個であったのに対し、Nox2成分ベシクル(リポソーム製剤:Noxリポソーム)ではコロニー数が47個であった(表1、図3)。PBL-CGDによる殺菌能がリポソーム製剤により改善したといえる。
【表1】
【0078】
(実験例3-2)リポソーム製剤による、黄色ブドウ球菌に対する好中球殺菌能改善評価
本実験例では、黄色ブドウ球菌に対する好中球の殺菌能がリポソーム製剤により改善するかを評価した。
【0079】
≪Nox2欠損好中球様細胞の準備≫
PBL-CGDをMOIが10になるように1×106個回収して、グルコース添加(2,000mg/dl)済み、抗生剤フリーの培養液(RPMI-1640)で最終的に500 μLとし、細胞懸濁液とした。
≪S.aureus標準株の準備≫
S.aureus標準株(ATCC BAA-1026)を使用した。S.aureus懸濁液の濁度とコロニー数の関係を測定した。次に濁度が0.2になるように希釈し、1サンプルあたり、1×107個になるようにS.aureusを回収した。オプソニン化せずに、PBS 50 μLに懸濁して氷上で静置した。
≪リポソーム準備≫
実施例1で作成したリポソーム懸濁液の凍結物を解凍した溶液 1,000 μLを、超遠心(100,000 xg, 4℃, 60分間)してバッファーを除去し、PBS 50 μLで懸濁し、リポソーム製剤を作成した。
【0080】
(Killing assay)
細胞懸濁液 500 μL、S.aureus懸濁液 50 μLとリポソーム製剤 50 μLを合わせて遠心せず、37℃で30分貪食を行った。30分後に、全てのサンプルを3,000rpm、5分間遠心して、ペニシリン/ストレプトマイシン入りの培養液に置き換えて、貪食開始時4時間で解析を行った。全てのサンプルを3,000 rpm 、3分間遠心して洗浄し、回収してPBS 1,000 μLに懸濁し、100 μLをディッシュに播種した。10、100、1,000、または10,000倍とPBSで希釈したサンプルも播種した。コントロール成分ベシクルとして、PBSを封入したリポソーム製剤を使用した。
【0081】
コントロール成分ベシクル(PBSのみ封入したリポソーム:PBSリポソーム)に比べて、Nox2成分ベシクル(リポソーム製剤:Noxリポソーム)でコロニー数が減少しており、リポソーム製剤によりPBL-CGDの殺菌能が改善したことが示された(表2、図4)。
【表2】
【0082】
(実験例3-3)リポソーム製剤による、アスペルギルスに対する好中球殺菌能改善評価
本実験例では、アスペルギルス(クロコウジカビ:A. niger)に対する好中球の殺菌能がリポソーム製剤により改善するかを評価した。
【0083】
≪Nox2欠損好中球様細胞の準備≫
PBL-CGDを1×106個回収してグルコース添加(2,000mg/L)済み、抗生剤フリーの培養液(RPMI-1640)で最終的に500 μLとし、細胞懸濁液とした。
≪A. nigerの準備≫
A. niger標準株(ATCC6275)の分生子をPBSに懸濁して濁度とコロニー数の関係を測定した。次に、濁度の結果からA. niger標準株分生子を1×106個回収した。回収したA. niger標準株分生子を37℃でヒト通常血清(非動化なし)で30分オプソニン化し、PBSで洗浄してから、PBS 50 μLに懸濁して氷上で静置し、A. niger液とした。
≪リポソーム準備≫
実施例1で作成したリポソーム懸濁液の凍結物を解凍した溶液 1,000 μLを、超遠心(100,000xg, 4℃, 60分間)しバッファーを除去しPBS 100μ Lで懸濁し、リポソーム製剤を作成した。
【0084】
(Killing assay)
細胞懸濁液 500 μL、A. niger液 50 μLとリポソーム製剤 100 μLとを合わせてしっかりピペッティングし、遠心せず37℃で30分貪食を行った。30分後に、全てのサンプルを3,000 rpm、3分間遠心してPBL-CGDのみ回収して、アンホテリシンB入りの培養液に置き換えて37℃で静置した。貪食開始時4時間で解析を行った。全てのサンプルを洗浄、回収してPBS 1,000 μLに懸濁し、そのうち100 μLをディッシュに播種した。PBSで10倍希釈したサンプルも作成してディッシュに播種した。1条件2枚のディッシュに播種した。コントロール成分ベシクルとして、PBSを封入したリポソーム製剤を使用した。
【0085】
10倍希釈のサンプルで、解析が可能であった。コントロール成分ベシクル(PBSのみ封入したリポソーム製剤:PBSリポソーム)に比べてNox2成分ベシクル(リポソーム製剤:Noxリポソーム)でコロニー数が少なく、リポソーム製剤を加えることで、アスペルギルスに対するPBL-CGDの殺菌能も改善することを確認した(表3、図5)。
【表3】
【0086】
(実験例4)
本実験例では、リポソーム以外のベシクルによるベシクル製剤の有効性を確認した。
【0087】
(ナノスフェアの作成)
クロロホルム 200 μLにポリ乳酸(Sigma-Aldrich社)を15 mg溶解した。このポリ乳酸溶液に、活性化Nox2複合体溶液 100μL(総タンパク質量 300 μg、実施例1と同様に作成)、G6PDH 250 μg 、50ユニットヘキソキナーゼ、10 mM Mg2+、10 mM ATPおよび10 mM NADP+をPBS 1,000 μLで懸濁した溶液 200μL入れて十分ボルテックスしてエマルジョンを作成した。200 μLのエマルジョン溶液を、5% ポリビニルアルコール(PVA)溶液 2 mLの中に入れてボルテックスをするとナノスフェアができた。ナノスフェアを含んだPVA溶液をPBS 10 mLに加えて1,500 rpm、5分間で遠心してペレットを回収した。ペレットをPBS 4 mLで懸濁してガラス試験管に移して蓋を外した状態で24時間、4℃で攪拌しながらクロロホルムを揮発させた。24時間後に、PBSを加えて1,500rpm 5分間で遠心しペレットを回収し、粒子径が、主として50nm~500nmの粒子を含むナノスフェア製剤(Noxナノスフェア)とした。コントロール成分ベシクルとして内容物がPBSのナノスフェア(PBSナノスフェア)も同様に作成した。
【0088】
(ニオソームの作成)
Sorbitan Monooleate(非イオン性界面活性剤:商品名「Span80」、東京化成工業社販売)によるベシクル(ニオソーム)を作成した。ヘキサン 2,000 μLにSpan80 0.5 gを加えて溶解し、黄色の透明な溶液にした。Span80溶液 1 mLに、活性化Nox2複合体溶液 100 μL(総タンパク質量300 μg、実施例1と同様に作成) 、250 μg G6PDH、50ユニットヘキソキナーゼ、10 mM Mg2+、10 mM ATPおよび10 mM NADP+をPBS 1,000 μLで懸濁した溶液 100 μLを加えて十分ボルテックスを行った。ボルテックス直後に5% Tween80(Sigma-Aldrich社)溶液 1,000 μLに入れてボルテックスしてニオソームを作成した。ニオソームを含んだTween80溶液を遠心管に移して、PBS 10 mL加えて1,500rpm 5分間遠心した。ニオソームを含んだ上澄みをガラスのガラス試験管に移して、さらにPBS 1,000 μLを加えて蓋を外した状態で24時間、4℃攪拌しながらヘキサンを揮発させた。翌日に、PBS溶液の中間層を回収し、粒子径が、主として50nm~500nmの粒子を含むニオソーム製剤(Noxニオソーム)とした。コントロール成分ベシクルとして内容物がPBSのニオソーム(PBSニオソーム)も同様に作成した。
【0089】
≪Nox2欠損好中球様細胞の準備≫
PBL-CGDをMOIが10になるように1×106個回収してグルコース添加(2,000mg/L)済み、抗生剤フリーの培養液(PRMI-1640) 900 μLに懸濁し、細胞懸濁液とした。
≪E.coliの準備≫
E.coli標準株を使用した。濁度0.2になるようPBSで希釈し、オプソニン化せずに使用した。1サンプルあたり、1×107個になるように回収して50 μLのPBSで懸濁して氷上で静置した。
【0090】
(Killing assay)
細胞懸濁液 900 μLとE.coli懸濁液 50 μLを合わせて十分ピペッティングしてから、ナノスフェア製剤、PBSナノスフェア、ニオソーム製剤、およびPBSニオソームを各々 PBS で10倍希釈した溶液 100 μL加えて、十分ピペッティングし、遠心せず、37℃で30分貪食を行った。30分後に、全てのサンプルを3,000 rpm、3分間遠心してPBL-CGDのみ回収してプライモシンを加えた培養液に置き換えて37℃で30分間静置して、食胞外のE.coliを殺菌した。30分後にPBSで洗浄してゲンタマイシン有りの培養液に置き換えてkilling assayを行った。貪食開始時4時間後に、3,000rpm、3分間遠心し、さらにPBSで1回洗浄してPBS 1mLで懸濁して100 μLをディッシュに播種した。翌日にコロニーをカウントした。
【0091】
この結果、NoxニオソームおよびNoxナノスフェアを加えたサンプルは、PBSニオソームおよびPBSナノスフェアに比較してコロニー数が少なかった(表4、表5、図6、7)。リポソーム以外のベシクル製剤でもリポソーム製剤と同様に、活性酸素産生能を増強しPBL-CGDの殺菌能を改善するベシクルの作成が可能であることを確認した。

【表4】
【表5】
【0092】
(実験例5)哺乳類の細胞系でのNox2の発現系の構築
本実験例では哺乳類の細胞系(CHO-K1細胞(CHO細胞)、ATCC社)でのNox2の発現系の構築を行った。哺乳類培養細胞のCHO細胞は、Nox2およびその活性化タンパク質(p67phox、p47phox、Rac1(Q61L)、p22phox)のいずれも内在性に発現していない。発現用ベクターであるpcDNA-3にNox2およびその活性化タンパク質のcDNAを組み込み、CHO細胞にトランスフェクションすることでCHO細胞にNox2およびその活性化タンパク質を強制発現させた。Nox2が発現しているかどうかは、CHO細胞のスーパーオキシドの産生能を指標とした。
【0093】
(Nox2再構成)
CHO細胞を6ウェルプレートへ3.5×105細胞播種した後、24時間 CO2インキュベーターで培養し、Nox2およびその活性化タンパク質(p47phox、p67phox、Rac1(Q61L)、およびp22phox)をコードするDNAを組み込んだ発現用ベクター(pcDNA-3)、またはコントロールベクターをCHO細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションは、下記(表4)の混合溶液をプレートへ移し、24時間 CO2インキュベーターで培養し行った。
【表6】
【0094】
(O2 - アッセイ)
Nox2を発現する細胞をPMA (phorbol 12-myristate 13-acetate)で刺激し、生成されるスーパーオキシドを化学発光法で検出した。
【0095】
トランスフェクションしたCHO細胞を回収し、PBS 250 μLに1ウェル分の細胞をサスペンドした。Diogenes/Luminol溶液(コスモバイオ社) 10 μLを加え、マルチスペクトロ マイクロプレートリーダー(a spectral scanning multimode reader Varioskan Flash (Thermo社))で化学発光を検出した。終濃度200 ng/mL PMA (phorbol 12-myristate 13-acetate)で刺激し、終濃度0.1 mg/mL SODで消光を確認した。
【0096】
(免疫沈降(Immunoprecipitation))
トランスフェクションしたCHO細胞をLysisバッファー 500 μLで溶解した(Lysisバッファー:20 mM Tris-Cl (pH 7.4), 150 mM NaCl, 1% (w/v) Triton X-100)。抗FLAG M2抗体 アフィニティーゲル(Anti-flag M2 Affinity Gel (Sigma-Aldrich社))を加え撹拌した。Lysisバッファー 1,000 μLで洗浄した。ゲルにSDSサンプルバッファー(SDS-sample buffer)を加え、SDS-PAGEとウエスタン・ブロッティング(WB)を行った。
【0097】
Nox2およびその活性化タンパク質(p47phox、p67phox、Rac1(Q61L)、p22phox)をコードするDNAを組み込んだ発現用ベクターをトランスフェクションしたCHO細胞は、PMAで細胞刺激するとスーパーオキシドを生成した(化学発光が増強された)。一定時間の経過後、SODを加えると消光したので、この化学発光はスーパーオキシド由来であることが示された。一方、コントロールベクターをトランスフェクションしたCHO細胞では化学発光は見られなかった。これらの結果により、CHO細胞に組換えNox2を強制発現させることができることが示された(図8A)。
【0098】
このNox2には、FLAGタグがN末端に付加されており、Nox2を発現させてCHO細胞のライセートに、FALGタグに対する抗体(抗FLAG M2抗体 sigma社)をコンジュゲートさせたゲルを加え免疫沈降を行った。沈降物のSDS-PAGEおよびWBにより、Nox2が精製できていることが分かった(図8B)。
【0099】
(実験例6) リポソーム製剤による、アスペルギルス(クロコウジカビ:A.niger)肺炎改善評価
本実験例では、リポソーム製剤の有効性を、Nox2ノックアウトマウスの肺炎モデルで確認した。
【0100】
≪Nox2ノックアウトマウスの作成≫
マウス(C57BL/6JJmsS1c、日本SLC社)を過剰排卵処理した(PMSG、CARD Hyper Ova(登録商標)、hCG 7.5 IU、3日間)。卵子と精子を採取し、媒精し、前核期胚を選別した。6 μM crRNA (Cybb(cytochrome b heavy chain)配列に対して欠失する領域の上流と下流の2種類のRNA、INTEGRATED DNA TECHNOLOGIES社) および tracrRNA(INTEGRATED DNA TECHNOLOGIES社)、1.2 μM Alt-RS.p. HiFi Cas9 nuclease(INTEGRATED DNA TECHNOLOGIES社)になるようにOPTI-MEM(Thermo Fisher Scientific社)で希釈して合計で50 μLにした。室温で10分静置し、混合液と胚(50個)をエレクトロポレーション用の電極に配列した(エレクトロポレーションは、NEPA21(ネッパジーン社)を使用した)。1日間培養し、偽妊娠雌の卵管に1匹あたり30個の胚を移植した。20日間後に、産仔のジェノタイピング解析を行い、Nox2ノックアウトマウス(CGD型マウス)であることを確認して、以下の実験に用いた。
【0101】
(ジェノタイピング)
REDExtract-N-AmpTMキット(Sigma-Aldrich社)を使用した。あらかじめextra solution 40 μLとTissue preparation solution 10 μLを混合したチューブへ、カットしたマウス尾を入れて、95℃で3分間処理した。次にNeutralization solution 40 μLを加えた。2 μLの抽出物、 PCR mixuture(キット) 5 μL、 5 μM プライマーを0.8 μLずつ3種、 蒸留水で合計10 μLにした。サーマルサイクラーで、第一セグメントは 94℃で3分間、第二セグメントは94℃で1分間、 60℃で1分間、 72℃で1分間を30回繰り返し、第三セグメントは 72℃で10分間で反応させた。反応物を2% アガロース電気泳動で分離し、増幅されたDNAをエチジウムブロマイド(Nacalai社)で染色した。プライマーセットは、配列番号4、5および6に示すオリゴヌクレオチドの三種(ユーロフィン社に合成を委託)を使用した。これらのプライマーのPCR産物は、Cybbのエクソン4とエクソン5がCRISPR-Casシステムで欠失されていれば、KOアウトでは540 b.p.、野生型は392 b.p.にバンドが出現する。その結果を図9に示す。
【0102】
配列番号4:5'-GGCTATCTGAACTGGGAGGG-3'
配列番号5:5'-TCTGCCCAAGGTATGAATCC-3'
配列番号6:5'-CACCTGAGGCTGGGTTCATT-3'
【0103】
≪アスペルギルス肺炎マウス≫
アスペルギルス鼻腔投与方法によりアスペギルス肺炎マウスを作成した(日本化学療法学会雑誌,50, supp.1: 37-42 (2002)参照)。10週齢の野生型マウス(雄)1匹、CGD型マウス(雄)2匹にセボフルラン麻酔下にアスペルギルス分生子を5×105個懸濁したPBS 40 μLを、ピペットマンを用いて、鼻の上に滴下し、マウスの呼吸により肺へ経鼻的に吸入させて投与した。
【0104】
≪リポソーム製剤投与≫
実施例1と同様に作成した平均粒径が約100nmのリポソーム製剤を使用した。解凍した1,000 μLのリポソーム懸濁液を超遠心(100,000 xg、4℃、60分間)しバッファーを除去し、さらに生理食塩水 1,000 μLで懸濁してもう一度超遠心(100,000 xg、4℃、 60分間)してリポソームを洗浄した。ペレットとなったリポソームを生理食塩水 300 μLで懸濁して、NanoSizer Liposome Extruder(T&T Scientific Corporation)で、ポアサイズが200 nmのポリカーボネートフィルター(T&T Scientific Corporation)を用いて、リポソーム以外の膜タンパク成分を除去して、平均粒径が約100nmのリポソーム製剤(Nox リポソーム)を作成した。コントロールとしてNoxリポソームと同様にPBSを封入したリポソーム製剤(PBSリポソーム)を作成した。野生型マウスへはリポソーム製剤の投与は行わずに生存期間の確認を行った。CGD型マウスへ、リポソーム製剤(Nox リポソーム) 300 μLを投与した。コントロールとしてCGD型マウスへ、PBSを封入したリポソーム製剤 300 μL投与した。リポソーム製剤の投与は、マウス尾静脈から行った。投与スケジュールはアスペルギルス分生子を経鼻投与した日をday1とし、day1、day3、day5、day8の計4回投与を行った。PBSリポソームを投与したCDG型マウスはday13に死亡した。肺の病理標本でアスペルギルス菌を確認(J. Antimicrob. Chemother., 64:379-382 (2009)参照)し、アスペルギルス肺炎により死亡したことを確認した。野生型雄マウスとNoxリポソームを投与したCGD型マウスはday28の時点でも生存していた(表7)。
【0105】
この結果から、リポソーム製剤は生体に投与した場合も感染症治療剤として有効であることが確認された。また、リポソーム製剤を投与したマウスは、野生型マウスと同様に外見や行動に異常は認められなかったので、リポソーム製剤は生体に投与しても安全な製剤であると判断した。
【表7】
【0106】
実験例2~実験例4および実験例6の結果は、本発明のベシクル製剤が、慢性肉芽腫症疾患等の患者に投与することで、生体においても好中球等の貪食細胞に貪食され、その細胞の活性酸素産生能を増強し、抗菌作用を改善する細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症、呼吸器感染症、尿路感染症、胆道感染症、消化管感染症、中枢神経系感染症等、とりわけ、慢性肉芽腫症の感染症治療剤として有用であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0107】
以上詳述したように、本発明の「ベシクル製剤」によれば、該ベシクル製剤が好中球に貪食されることで好中球の殺菌能を改善するができ、さらに感染症治療剤または消毒剤として使用することができる。特に、本発明のベシクル製剤は、グルコースからNADPHを生成する系とNADPHから活性酸素を生成する2つの酵素系を含んでいるため安全性が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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