IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タムロンの特許一覧

特開2023-39111回折光学素子、その製造方法および型の製造方法
<>
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図1
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図2
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図3
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図4
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図5
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図6
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図7
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図8
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図9
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図10
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図11
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図12
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図13
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図14
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図15
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図16
  • 特開-回折光学素子、その製造方法および型の製造方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039111
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】回折光学素子、その製造方法および型の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20230313BHJP
   G02B 1/118 20150101ALI20230313BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B1/118
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146108
(22)【出願日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】細谷 成紀
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊矢
【テーマコード(参考)】
2H249
2K009
【Fターム(参考)】
2H249AA04
2H249AA18
2H249AA39
2H249AA55
2H249AA63
2H249AA64
2K009AA01
2K009BB02
2K009CC01
2K009DD11
(57)【要約】
【課題】不要な回折光および反射光の発生を抑制可能な回折光学素子を提供する。
【解決手段】光透過性を有する複数の回折輪帯(21)と、光透過性を有するとともに隣り合う回折輪帯(21)を連結する段差部(22)と、特定の波長の光の反射を防止するための凹凸形状で構成される構造体部とを有する。構造体部は、回折輪帯(21)の表面および段差部(22)の表面のいずれにも形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する複数の回折輪帯と、光透過性を有するとともに隣り合う前記回折輪帯を連結する段差部とを有する回折光学素子であって、
特定の波長の光の反射を防止するための凹凸形状で構成される構造体部をさらに有し、
前記構造体部は、前記回折輪帯の表面および前記段差部の表面のいずれにも形成されている、回折光学素子。
【請求項2】
前記回折光学素子の光軸に対する前記段差部のベース面の傾斜角度は、27~59°である、請求項1に記載の回折光学素子。
【請求項3】
前記構造体部の前記凹凸形状の軸は、前記回折光学素子の光軸に平行である、請求項1または2に記載の回折光学素子。
【請求項4】
前記回折輪帯のベース面は、曲面である、請求項1~3のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項5】
前記段差部のベース面において個々の前記構造体部が占める部分は、前記回折輪帯のベース面において個々の前記構造体部が占める部分よりも大きい、請求項1~4のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項6】
前記回折輪帯、前記段差部および前記構造体部の表面が前記回折光学素子の表面である、請求項1~5のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項7】
前記特定の波長は、赤外線の波長である、請求項1~6のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項8】
回折光学素子の第一の主面の形状に対応する表面形状を有する第一の型と、回折光学素子の第二の主面の形状に対応する表面形状を有する第二の型とによってモールド材を圧縮成形して、前記第一の主面と前記第二の主面とを有する回折光学素子を製造する方法であって、
前記第一の型または前記第二の型には、複数の回折輪帯、隣り合う前記回折輪帯を連結する段差部、および、前記回折輪帯の表面および前記段差部の表面のいずれにも形成される、特定の波長の光の反射を防止するための凹凸形状で構成される構造体部、の表面形状に対応する表面形状を有する型を用いる、回折光学素子の製造方法。
【請求項9】
回折光学素子の第一の主面または第二の主面に対応する表面形状を有する型を製造する方法であって、
前記第一の主面または前記第二の主面は、複数の回折輪帯、隣り合う前記回折輪帯を連結する段差部、および、前記回折輪帯の表面および前記段差部の表面のいずれにも形成される、特定の波長の光の反射を防止するための凹凸形状で構成される構造体部、の表面形状を含み、
前記回折輪帯のベース面に対応する形状および前記段差部のベース面に対応する形状を有する前記型の中間製品の表面に、フォトリソグラフィーによって前記構造体部に対応する形状を形成する工程を含む、型の製造方法。
【請求項10】
前記構造体部に対応する形状を形成する工程は、製造すべき回折光学素子の光軸に対して直交する方向に沿って配置される平板状のマスクを介して前記型の中間製品の表面を露光する工程を含む、請求項9に記載の型の製造方法。
【請求項11】
前記露光する工程において、タルボ効果による周期的な分布を有する光を照射面で一定のドーズ量となるように統合した光で、前記型の中間製品の表面を照射する、請求項10に記載の型の製造方法。
【請求項12】
曲面で構成される前記回折輪帯のベース面に対応する形状を前記型の基材の表面に形成する工程をさらに含む、請求項9~11のいずれか一項に記載の型の製造方法。
【請求項13】
前記回折輪帯のベース面に対応する形状が形成された前記型の中間製品の表面に、製造すべき回折光学素子の光軸に対して27~59°で傾斜する前記段差部のベース面に対応する形状を形成する工程をさらに含む、請求項12に記載の型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子、その製造方法および型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラなどの使用波長に一定の幅を持った光学系において、色収差を小さくすることは重要である。色収差を少なくする技術には、回折光学素子(DOE)といわれる、曲面と段差とを含む構造を有する光学素子が知られている。また、光学素子に入射する光の反射を防止して入射光のロスを少なくするための技術には、モスアイ構造とも言われる、光学素子の表面に配列する微細構造が知られている。モスアイ構造の構成単位の凹凸形状は、入射光の波長以下の大きさである。さらに、ガラス製の光学素子を製造する技術には、ガラスモールド法とも言われる圧縮成形方法が知られている。この方法は、製造されるべき光学素子の形状を反転させた形状の金型にガラス材料(プリフォーム)を収納し、加熱して軟化させた後、プレスをする方法である。
【0003】
モスアイ構造を有する光学素子には、反射防止構造を含むとともにベアリング曲線が連続である表面に有する赤外光用の光学素子が知られている。この光学素子では、金型の成形面にマスクをかぶせ露光とエッチングによって微細構造を形成し、このような金型をガラスモールドで成形することにより反射防止構造が形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、光学素子にモスアイ構造を付与する技術には、パターン付きフィルムでレンズの表面を加圧流体によって押圧してレンズの表面に微細構造を形成(インプリント)する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-72484号公報
【特許文献2】国際公開第2013/047753号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来技術で回折光学素子の表面に微細構造を形成する場合には、回折光学素子に特有の問題が生じる。たとえば、回折光学素子は、段差構造を含むことから、その表面形状は、通常の光学素子のそれに比べて複雑である。このため、特許文献1に記載の技術では、金型の成形面に沿う形状のマスクを作製することが困難である。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術では、回折光学素子の段差部にモスアイ構造を形成する場合に、段差部の壁面にモスアイ構造の形状を均一に転写することが困難である。また、図16に示されるように、当該壁面のモスアイ構造131はアンダーカットとなる。そのため、特許文献2に記載の技術で回折光学素子の上記壁面にモスアイ構造を形成することは困難である。
【0008】
上記のアンダーカットをなくす方法としては、例えば図17に示されるように、段差部の壁面の傾斜をより緩くすること、あるいは回折輪帯と段差部との間に十分に大きなR構造を採用すること、が考えられる。しかしながら、この場合では、より緩やかに傾斜する傾斜部分が生じ、この傾斜部分で不要な回折光が発生することがある。このため、回折光学素子の光学特性が不十分となることがある。
【0009】
本発明の一態様は、不要な回折光および反射光の発生が抑制される回折光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る回折光学素子は、光透過性を有する複数の回折輪帯と、光透過性を有するとともに隣り合う前記回折輪帯を連結する段差部とを有する回折光学素子であって、特定の波長の光の反射を防止するための凹凸形状で構成される構造体部をさらに有し、前記構造体部は、前記回折輪帯の表面および前記段差部の表面のいずれにも形成されている。
【0011】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る回折光学素子の製造方法は、回折光学素子の第一の主面の形状に対応する表面形状を有する第一の型と、回折光学素子の第二の主面の形状に対応する表面形状を有する第二の型とによってモールド材を圧縮成形して、前記第一の主面と前記第二の主面とを有する回折光学素子を製造する方法であって、前記第一の型または前記第二の型には、複数の回折輪帯、隣り合う前記回折輪帯を連結する段差部、および、前記回折輪帯の表面および前記段差部の表面のいずれにも形成される、特定の波長の光の反射を防止するための凹凸形状で構成される構造体部、の表面形状に対応する表面形状を有する型を用いる。
【0012】
さらに、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る型の製造方法は、回折光学素子の第一の主面または第二の主面に対応する表面形状を有する型を製造する方法であって、前記第一の主面または前記第二の主面は、複数の回折輪帯、隣り合う前記回折輪帯を連結する段差部、および、前記回折輪帯の表面および前記段差部の表面のいずれにも形成される、特定の波長の光の反射を防止するための凹凸形状で構成される構造体部、の表面形状を含み、前記回折輪帯のベース面に対応する形状および前記段差部のベース面に対応する形状を有する前記型の中間製品の表面に、フォトリソグラフィーによって前記構造体部に対応する形状を形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、不要な回折光および反射光の発生が抑制される回折光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る回折光学素子の断面を模式的に示す図である。
図2図1に示される回折光学素子を模式的に示す背面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る回折光学素子の段差構造の一例を模式的に示す要部断面図である。
図4図3に示される回折光学素子における破線で囲まれたB1部の段差構造を模式的に示す要部断面図である。
図5図3に示される回折光学素子における破線で囲まれたB2部の段差構造を模式的に示す要部断面図である。
図6図3に示される回折光学素子における破線で囲まれたC1部の段差構造を模式的に示す要部断面図である。
図7図3に示される回折光学素子における破線で囲まれたC2部の段差構造を模式的に示す要部断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る回折光学素子の表面の構造体部の一例を模式的に示す平面図である。
図9図8のD-D線で切断した回折光学素子の微視的な構造を模式的に示す要部断面図である。
図10】本発明の一実施形態に係る回折光学素子の製造方法における一連の工程を模式的に示す図である。
図11】本発明の一実施形態に係る回折光学素子の製造に用いられる型の製造方法における一連の工程を模式的に示す図である。
図12】本発明の一実施形態に係る回折光学素子の製造に用いられる型の製造方法における露光工程でのマスク通過後の光の強度分布を模式的に示す図である。
図13】本発明の一実施形態に係る回折光学素子の製造に用いられる型の製造方法における露光工程での基板の挙動の一例を模式的に示す図である。
図14図12に示す光の強度分布を当該強度分布の周期に応じた特定の距離で積分したときの光の強度分布を、模式的に示す図である。
図15】本発明の他の実施形態に係る回折光学素子の断面を模式的に示す図である。
図16】従来の技術で回折光学素子を製造した場合の回折光学素子における段差部および構造体部の表面形状を模式的に示す要部断面図である。
図17】従来の技術で回折光学素子を製造した場合の回折光学素子における段差部および構造体部の表面形状を模式的に示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔回折光学素子〕
本発明の一実施形態に係る回折光学素子は、光透過性を有する複数の回折輪帯と、光透過性を有するとともに隣り合う回折輪帯を連結する段差部とを有する。回折光学素子は、光透過性を有する材料で構成される。また、回折光学素子は、後述するガラスモールド法で製造可能な観点から、ガラス転移点を有する材料で構成されることが好ましい。当該材料の例には、硝子およびプラスチックスが含まれる。
【0016】
回折輪帯は、集光または発散などの、光学素子としての所期の光学特性を発現させる部分である。当該光学素子の例には、レンズ、プリズムおよび光学フィルターが含まれる。
【0017】
段差部は、複数の回折輪帯のうちの隣り合う回折輪帯間に形成される段差の部分である。回折輪帯および段差部は、回折光学素子を製造する公知の技術によって設計することが可能である。
【0018】
本発明の実施形態の回折光学素子は、回折輪帯の表面および段差部の表面のいずれにも形成されている構造体部をさらに有する。構造体部は、特定の波長の光の反射を防止するための凹凸形状で構成される部分であり、前述したように「モスアイ構造」とも言われる。構造体部の単位構造の形状は、凹形状であってもよいし凸形状であってもよい。
【0019】
本発明の実施形態の回折光学素子は、本発明の実施形態の効果を奏する範囲において、前述した回折輪帯、段差部および構造体部以外の他の構成をさらに含んでいてもよい。他の構成の例には、回折光学素子の外縁部を形成するフランジ部およびコバ部が含まれる。
【0020】
以下、レンズとして利用される回折光学素子を例に、本発明の実施形態の回折光学素子を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る回折光学素子の断面を模式的に示す図である。図2は、図1に示される回折光学素子を模式的に示す背面図である。図1に示されるように、回折光学素子10は、凸メカニカスレンズであり、凸曲面である第一の主面1と、凹曲面である第二の主面2とを含む。回折光学素子10は、ガラス製である。第一の主面1は、滑らかに形成されている。
【0021】
図2は、図1中の矢印Z1方向から見た回折光学素子10を模式的に示している。図2に示されるように、第二の主面2は、複数の回折輪帯21と複数の段差部22とによって形成されている。回折輪帯21の形状については、本発明の実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めればよく、本実施形態では光軸LAが位置する中央の回折輪帯21の平面視したときの形状(平面形状)は円形であり、他の回折輪帯21の平面形状は円環状である。また、段差部22の平面形状は、いずれも円環状である。段差部22は、「回折段差」とも言われる。図示していないが、すべての回折輪帯21および段差部22の表面には、後述する構造体部が形成されている。
【0022】
図3は、本発明の一実施形態に係る回折光学素子の段差構造の一例を模式的に示す要部断面図である。図3において、紙面に対して左側の図は、のこぎり形状と呼ばれる段差構造を模式的に示している。図3において、紙面に対して右側の図は、ステップ形状とも呼ばれる階段状の段差構造を模式的に示している。回折光学素子10の第二の主面2における表面の断面形状は、のこぎり形状であってもよいし、ステップ形状であってもよい。
【0023】
のこぎり形状は、光軸LAから離れる方向において湾曲する回折輪帯21と、その回折輪帯21の外周側の縁から、回折輪帯21が湾曲していく方向とは逆の方向に延在する段差部22とからなる単位形状の繰り返しによって形成される形状である。ステップ形状は、光軸LAから離れる方向において湾曲する回折輪帯21と、その回折輪帯21の外周側の縁から、回折輪帯21が湾曲していく方向に延在する段差部22とからなる単位形状の繰り返しによって形成される形状である。上記段差構造は、回折光学素子10のパワー(曲率および正負)および回折光学素子10についての位相関数の正、負に応じて上記のいずれかの形状に決めることができる。
【0024】
本発明の実施形態において、回折光学素子10の光軸LAに対する段差部22のベース面の傾斜角度は、27~59°である。ここで、「段差部のベース面」とは、回折光学素子の断面形状において、段差部の表面における構造体部を含まない部分を連続してつなぐ直線または曲線で表される面である。なお、本明細書において、「~」はその両端の数値を含む「以上以下」の範囲を示す。
【0025】
「傾斜角度」は、段差部のベース面と光軸とがなす二つの角度のうちの小さい方の角度である。のこぎり形状の段差構造における傾斜角度を図4および図5に示す。図4は、図3に示される回折光学素子10における破線で囲まれたB1部の段差構造を模式的に示す要部断面図である。図5は、図3に示される回折光学素子10における破線で囲まれたB2部の段差構造を模式的に示す要部断面図である。
【0026】
また、ステップ形状の段差構造における傾斜角度を図6および図7に示す。図6は、図3に示される回折光学素子10における破線で囲まれたC1部の段差構造を模式的に示す要部断面図である。図7は、図3に示される回折光学素子10における破線で囲まれたC2部の段差構造を模式的に示す要部断面図である。
【0027】
図4図7中の直線L1は、回折光学素子10の光軸LAに平行な直線であり、直線L2は、段差部22のベース面に沿う直線である。直線L1と直線L2がなす角度のうちの小さい方の角度が傾斜角度であり、「θ」で表されている。なお、段差部22が断面形状において曲線で表される場合は、傾斜角度は、段差部22の断面形状における回折輪帯との境界にあたる二つの変曲点のそれぞれから等距離にある位置での段差部22の表面の接線が光軸LAとなす角度である。
【0028】
段差部22のベース面の傾斜角度が27°以上であることは、段差部22に構造体部を形成して段差部22の反射防止機能を十分に発現させる観点から好ましい。また、段差部22のベース面の傾斜角度が59°以下であることは、段差部22による不要な回折光の発生を防止する観点から好ましい。
【0029】
回折光学素子10の第二の主面2におけるすべての回折輪帯21および段差部22の表面にも、構造体部23が形成されている。図8は、本発明の一実施形態に係る回折光学素子の表面の構造体部の一例を模式的に示す平面図である。図9は、図8のD-D線で切断した回折光学素子の微視的な構造を模式的に示す要部断面図である。
【0030】
図8および図9に示されるように、個々の構造体部23は、回折輪帯21のベース面または段差部22のベース面から起立する微細な先細りの凸部である。構造体部23の複数が配列した構造は「モスアイ構造」とも言われる。構造体部23は、回折光学素子10における第二の主面2の全面に、均等に、かつ最密な配置で配列している。構造体部23には、回折輪帯21と段差部22との境界に、回折輪帯21と段差部22とにまたがって形成されていてもよい。
【0031】
構造体部23は、上記のように軸対称かつ先細りの凸形状を有している。当該凸形状は、第二の主面2が向かう方向(図1であれば矢印Z1とは反対の方向)において断面形状が漸次減少する形状である。構造体部23の軸Amは、いずれの構造体部23においても実質的に同じ方向に沿っている。たとえば、軸Amは、回折光学素子の光軸LAに平行である。なお、構造体部23は、凹部であってもよい。凹部であれば、構造体部23の断面形状は、第二の主面2が向かう方向において漸次拡大する形状である。
【0032】
ここで、「回折輪帯のベース面」とは、回折光学素子の断面形状において、回折輪帯の表面における構造体部を含まない部分を連続してつなぐ直線または曲線で表される面である。回折光学素子10における回折光以外の所期の光学特性を発現させる形状を有している。たとえば、回折光学素子10がレンズである場合には、回折輪帯21のベース面は、当該レンズの機能を発現するための形状となっており、例えば非球面などの曲面となっている。
【0033】
また、図9に示されるように、段差部22のベース面は、回折輪帯21のベース面に比べて、光軸LAに対する傾斜角度が大きい。このため、段差部22のベース面の構造体部23との接触面積S22は、回折輪帯21のベース面の構造体部23との接触面積S23よりも大きくなっている。このように、回折光学素子10では、段差部22のベース面において個々の構造体部23が占める部分は、回折輪帯21のベース面において個々の構造体部23が占める部分よりも大きい。
【0034】
なお、回折光学素子10は、第二の主面2を覆う構成を有しておらず、回折光学素子10において、回折輪帯21および段差部22および構造体部23は、いずれも回折光学素子10の表面を構成している。このように、回折輪帯21、段差部22および構造体部23の表面は、回折光学素子の表面となっている。
【0035】
回折光学素子10は、特定の波長を対象として、例えば赤外線を対象として、設計されている。このように、回折光学素子10における当該特定の波長は、赤外線の波長である。回折光学素子10における段差部22の大きさおよび位置、ならびに、構造体部23の間隔(隣り合う構造体部23の軸Am間の距離)および高さは、回折光学素子10における当該特定の波長などの諸条件に応じて適宜に決められる。
【0036】
たとえば、構造体部23によって反射が防止される光は、構造体部23の間隔以上の波長を有する光である。よって、構造体部23の間隔が回折光学素子10における前述の特定の波長λ以下であることにより、当該特定の波長を有する光の反射を防止する機能が発現される。特定の波長λを有する光に対する反射防止機能をより高める観点から、構造体部23の間隔は、0.2λ以上λ/2以下であることが好ましい。あるいは、隣り合う構造体部23の外縁は、反射特性を高める観点からは、互いに隣接することが好ましく、反射特性と円滑な型抜けとの両立の観点からは、隣り合う構造体部23の外縁間の最短距離は、隣り合う構造体の軸Am間の距離の1/3以下であることが好ましい。
【0037】
〔回折光学素子の製造方法〕
前述した本発明の実施形態の回折光学素子10は、ガラスモールド法とも言われるモールド成形によって製造することが可能である。すなわち、本発明の実施形態における回折光学素子の製造方法は、回折光学素子の第一の主面の形状に対応する表面形状を有する第一の型と、回折光学素子の第二の主面の形状に対応する表面形状を有する第二の型とによってモールド材を圧縮成形して、第一の主面と第二の主面とを有する回折光学素子を製造する方法である。
【0038】
図10は、本発明の一実施形態に係る回折光学素子の製造方法における一連の工程を模式的に示す図である。まず、第一の型101の凹部にモールド材(被成形物)110が収容される。
【0039】
第一の型101は、回折光学素子10の第一の主面1の形状に対応する表面形状を有する。第一の型101は、前述した第一の主面1、例えば非球面形状の第一の主面1に対応する表面形状を有している。
【0040】
第二の型102は、回折光学素子10の第二の主面2の形状に対応する表面形状を有する。すなわち、第二の型102は、複数の回折輪帯21、隣り合う回折輪帯を連結する段差部22、および、回折輪帯21の表面および段差部22の表面のいずれにも形成される構造体部23、に対応する表面形状を有している。
【0041】
モールド材110は、熱可塑性および光透過性などの、モールド成形に適用可能であり、かつ光学素子として適切な物性を有する材料である。モールド材110の形状は、光学素子の形状に近い形状を有することが、生産性などの観点から望ましく、このような観点から円盤状であることが好ましい。
【0042】
まず、モールド材110を収容している状態で第一の型101および第二の型102を成形温度まで加熱する。この加熱によりモールド材110が軟化する。
【0043】
第一の型101および第二の型102を加熱した状態で所定の成形荷重で第二の型102を第一の型101に押圧して、モールド材110を成形する。これにより、モールド材110に、非球面形状の第一の主面1と、回折輪帯21、段差部22および構造体部23を含む第二の主面2とが形成される。
【0044】
第一の型101および第二の型102を冷却し、モールド材110を硬化させる。これにより、上記の第一の主面1および第二の主面2を有する回折光学素子10が製造される。
【0045】
本発明の実施形態では、回折光学素子の製造方法は、本実施形態の効果が得られる範囲において、前述した以外の他の工程をさらに含んでもよい。このような他の工程の例には、成形前に型内を排気して雰囲気を真空にする工程が含まれる。この工程は、成形時にモールド材を型の表面形状の細部まで行き渡らせる観点から好ましい。
【0046】
上記のような製造方法は、筒状の胴型と胴型に摺動自在に嵌合されている上金型と下金型を備えるプレス成形装置を用いて好適に実施することが可能である。このプレス成形装置では、上金型が前述した第二の型であり、下金型が前述した第一の型である。プレス成形装置は、胴型全体を加熱できる加熱機構をさらに備え、好適には胴型全体を真空にする脱気機構をさらに備える。加熱機構により、成形時の加熱工程が実現され、脱気機構により、真空にする工程が実現される。
【0047】
〔型の製造方法〕
前述した本発明の実施形態における回折光学素子の製造方法で用いられる第二の型102は、以下の方法によって製造することが可能である。すなわち、本発明の実施形態における型の製造方法は、前述した回折輪帯、段差部および構造体部に対応する表面形状を有する型の製造方法であって、回折輪帯のベース面に対応する形状および段差部のベース面に対応する形状を有する型の中間製品の表面に、フォトリソグラフィーによって構造体部に対応する形状を形成する工程を含む。図11は、本発明の一実施形態に係る回折光学素子の製造に用いられる型の製造方法における一連の工程を模式的に示す図である。
【0048】
[型の中間製品の準備]
型の中間製品1021は、回折輪帯のベース面に対応する形状および段差部のベース面に対応する表面形状を有する。型の中間製品1021は、構造体部を含まない公知の回折光学素子を圧縮成形するための型であってよい。型の中間製品1021は、公知の技術によって製造することが可能である。たとえば、型の中間製品1021は、型の基材の表面に回折輪帯のベース面に対応する形状を形成する工程と、型の基材の表面に段差部のベース面に対応する形状を形成する工程と、によって製造することが可能である。
【0049】
型の基材は、回折輪帯のベース面に対応する形状および段差部のベース面に対応する表面形状が形成される前の物であり、これらの表面形状が形成されることで前述の型の中間製品1021になる。型の基材が十分な硬さ、例えばロックウェルC硬さで51以上の硬さを有すること、および、金属膜のエッチングとは異なる条件でのエッチングが可能な材料で構成されていること、が構造体部に対応する部分をより高い精度で製造する観点から好ましい。型の基材の材料の例には、炭化タングステン、炭化タングステン合金、SiC、グラッシーカーボンおよびステンレス鋼が含まれる。なお、型の基材は、前述した硬さを十分に発現させる構造を備えていてもよく、例えば無電解ニッケルめっき(NiPめっき)、窒化珪素膜、炭化珪素膜またはDLC(Diamond-Like Carbon)膜をその表面に有していてもよい。
【0050】
型の基材における上記の両ベース面に対応する部分は、切削加工によって形成することが可能である。両ベース面は、順次形成してもよいし、同時に並行して形成してもよい。
【0051】
回折輪帯のベース面に対応する形状を形成する工程は、曲面で構成される回折輪帯のベース面に対応する形状を型の基材の表面に形成する工程を含むことが好ましい。回折輪帯が曲面で構成されることは、製造される回折光学素子の光学的特性を高める観点から好ましい。また、曲面で構成される回折輪帯のベース面に構造体部をフォトリソグラフィーによって均一に形成することは、通常困難であるが、後述する露光工程は、このように連続して変化する表面形状において均一な露光を実現するのに有利である。よって、本発明の実施形態における型の製造方法は、曲面で構成される回折輪帯に均一な構造体部を形成する場合に、より優れた効果を発現し得る。
【0052】
段差部のベース面に対応する形状を形成する工程は、製造すべき回折光学素子の光軸に対して27~59°で傾斜する前記段差部のベース面に対応する形状を形成する工程を含むことが好ましい。本発明の実施形態では、回折輪帯のベース面および段差部のベース面の全体にわたって、微細な構造体部が均一に配置される。前述したように、段差部における反射光および不要な回折光の発生を十分に抑制する観点から、上記の型において、当該段差部のベース面に対応する部分の、光軸に対応する軸に対する傾斜角度は27~59°であることが好ましい。
【0053】
[金属膜の作製]
次いで、型の中間製品1021の表面に金属膜1022を作製する。金属膜1022は、スパッタ、化学気相成長(CVD)あるいは蒸着などの公知の技術によって作製することが可能である。金属膜1022の材料の金属は、型の基材とは独立してエッチング可能であればよく、型の基材の材料に応じて適宜に決定することが可能である。たとえば、型の基材の材料がグラッシーカーボンであれば、金属膜1022の金属は、アルミニウムまたはクロムであってよい。金属膜1022の作製により、型の中間製品1021における回折輪帯のベース面に対応する部分および段差部のベース面に対応する部分が金属膜1022で被覆される。
【0054】
[レジスト膜の作製]
次いで、金属膜1022上にレジスト膜1023を作製する。レジスト膜1023は、レジスト剤のスピンコートおよび乾燥などの公知の技術によって作製することが可能である。レジスト剤は、高精細なパターンの形成に好適であることから、露光部が現像されるポジ型のレジスト剤であることが好ましい。
【0055】
[露光]
次いで、レジスト膜1023にマスク1024を介して光を照射し、レジスト膜1023における、マスク1024の開口に応じたサイズおよび位置に感光部を作製する。この工程では、製造すべき回折光学素子の光軸に対して直交する方向に沿って配置される平板状のマスク1024を介して型の中間製品1021の表面を露光する。マスク1024の開口は、構造体部のサイズおよび位置に対応している。当該開口のサイズは、全て同じであってもよいし異なっていてもよい。この工程により、構造体部に対応する位置にレジスト膜1023の感光部が形成される。
【0056】
ここで、露光する工程では、タルボ効果による周期的な分布を有する光を照射面で一定のドーズ量となるように統合した光で、型の中間製品の表面を照射することが好ましい。
【0057】
図12は、本発明の一実施形態に係る回折光学素子の製造に用いられる型の製造方法における露光工程でのマスク通過後の光の強度分布を模式的に示す図である。図12に示されるように、レーザー光などの空間的に可干渉な照明下にマスク1024があると、マスク1024から特定の距離において、光の周期的な強度パターンが空間的に形成される。これはタルボ効果として知られている。図12では、光の強度が高いほど黒く表示されている。また、この周期をタルボット距離Stという。
【0058】
図13は、本発明の一実施形態に係る回折光学素子の製造に用いられる型の製造方法における露光工程での基板の挙動の一例を模式的に示す図である。図12に示されるような状態で中間製品1021を、図13に示されるようにタルボット距離St以上あるいはタルボット距離Stの整数倍(m倍、mは正の整数)の距離で露光中上下方向に往復させる。
【0059】
ここで、図12に示す光の強度分布を当該強度分布の周期に応じた特定の距離で積分したときの光の強度分布を図14に示す。なお、図14でも、光の強度が高いほど黒く表示している。実際に中間製品1021が受ける光の量(ドーズ量)は、タルボット距離St間において、光の照射方向(縦方向)の積分で表される。図12に示す光の強度分布をタルボット距離Stで積分すると、光の強度は、図14に示されるように、光の強度の分布位置に応じて、光の照射方向に沿って一様に分布する。このドーズ量は、中間製品1021の表面の高低差に関わらず一定である。したがって、中間製品1021を、図13に示されるようにタルボット距離Stまたはその整数倍(例えばmSt)の距離において一定速度で上下方向(すなわち光の照射方向)に往復させると、中間製品1021に実際に照射される光の量(ドーズ量)は、図12の強度分布をタルボット距離StでZ方向に積分した光の量と同等となる。このように、レジスト膜1023に照射される光の強度分布は、疑似的に均一に統合されるため、中間製品1021の曲面においても均一なパターン露光が可能となる。
【0060】
曲面を含む回折輪帯上に構造体部を形成するために平板状のマスク1024を配置すると、マスク1024から光軸に沿う方向における回折輪帯のベース面まで距離は、当該ベース面の形状に応じて異なる。露光工程において、マスク1024から当該ベース面までの距離が異なると、照射光の強さあるいは照射範囲が変化し、露光が不均一になることがある。本実施形態では、タルボ効果による周期的な分布を有する光で、一定のドーズ量となるように型の中間製品1021の表面を照射することにより、当該周期的な分布に応じてレジスト膜1023が露光される。よって、マスク1024からレジスト膜1023までの距離が様々に異なる条件であっても、構造体部に対応する部分を均一に露光するのに好適である。
【0061】
[現像]
露光によって発生する干渉光に対応する位置に感光部が形成されたレジスト膜1023を現像液で現像する。これにより、感光部のみが溶解し、レジスト膜1023には、マスク1024の開口に対応した光の分布位置に、当該光の分布領域に応じたサイズの孔が形成され、当該孔には金属膜1022が露出する。現像液は、レジスト剤の種類に応じて適宜に決めることが可能である。
【0062】
[エッチング]
現像されたレジスト膜1023を有する型の中間製品1021に、金属膜1022のための第一のエッチングを実施する。この第一のエッチングにより、レジスト膜1023の孔から露出する金属膜1022の金属が腐食あるいは溶解し、レジスト膜1023の孔に応じた位置およびサイズの孔が金属膜0122に形成される。金属膜1022の孔には、型の中間製品1021の表面が露出する。第一のエッチングにおけるエッチング剤は、金属膜1022に作用すればよく、第一のエッチングは、ウェットエッチングであってもよいし、ドライエッチングであってもよい。
【0063】
第一のエッチングにより表面が露出している型の中間製品1021に、型の中間製品1021のための第二のエッチングを実施する。第二のエッチングにより、型の中間製品1021が表面から腐食あるいは溶解し、金属膜1022の孔に応じた位置とサイズの凹部が型の中間製品1021に形成される。その結果、露光の際の干渉光の分布の位置とサイズに応じた凹部が型の中間製品1021の表面に形成される。型の中間製品1021の表面は、回折輪帯のベース面と段差部のベース面とを含むことから、当該凹部は、両ベース面の全体において、マスク1024の開口に応じた位置およびサイズで形成される。こうして、型102が製造される。
【0064】
[洗浄]
本実施形態では、第一のエッチング後に、金属膜1022上に残存するレジスト膜1023を溶解、除去する第一の洗浄工程をさらに含んでいてもよい。洗浄剤には、通常、有機溶剤が使用される。洗浄剤は、レジスト膜1023の種類に応じて適宜に決めることが可能である。
【0065】
また、本実施形態では、第二のエッチング後に、型の中間製品1021上に残存する金属膜1022を溶解、除去する第二の洗浄工程をさらに含んでもよい。第二の洗浄工程における洗浄剤には、金属膜1022を溶解する酸またはアルカリを使用することができる。また、第二の洗浄工程における洗浄剤には、第一のエッチングのエッチング剤を用いてもよい。
【0066】
[その他の工程]
本実施形態では、型102の表面に離型性を高めるさらなる膜を製膜する工程をさらに含んでもよい。このような膜を製膜することにより、成形品(回折光学素子)の型からの離型性をより高めることが可能である。当該さらなる膜の材料の例には、白金などの貴金属および炭素が含まれる。当該製膜する工程は、材料に応じた製膜の公知の技術によって実施可能である。
【0067】
なお、前述した金属膜の作製は実施しなくてもよく、その場合は、その後の金属膜のエッチング工程も不要である。
【0068】
型102において、当該方向における回折光学素子の全長(例えば光軸に沿う方向における第二の主面の周縁部から第一の主面の中央部までの距離)は、露光時のコリメート長に応じて適宜に設定することが可能である。「最低部」とは、前述した回折光学素子であれば第二の主面の中央部である。「最高部」とは、前述した回折光学素子であれば第二の主面の周縁部である。光軸に沿う方向における最低部から最高部までの距離は、10mm以下であってよい。
【0069】
上記凹部の開口径の比は、前述したように、平板状のマスクと、タルボ干渉を利用した露光とによって実現可能である。あるいは、タルボ干渉を利用しない露光であれば、レジスト膜からの距離が実質一定となる、第二の主面の表面形状に沿う形状を有するマスクを用いてもよい。
【0070】
上記の型102をモールド成形に用いることにより、レンズである回折光学素子の全面における構造体部の平面視したときの径が100±10%、より好ましくは100±5%、さらに好ましくは100±1%である回折光学素子10を製造することが可能である。このような構造体部の平面視したときの径は、位相マスクの孔径を揃えることによって100%により近づけることが可能である。
【0071】
〔作用効果〕
本発明の実施形態に係る回折光学素子は、回折輪帯の表面および段差部の表面のいずれにも構造体部が形成されている。よって、このように、反射防止のための構造体部を形成することで回折輪帯および段差部での光の反射が抑制され、かつ段差部の反射光による不要な回折光の発生が抑制され得る。
【0072】
また、本発明の実施形態に係る回折光学素子は、回折輪帯、段差部および構造体部に対応する形状を有する型を用いてモールド材を圧縮成形することで製造され得る。従来、レンズの色収差の低減は、屈折率と分散とが異なる硝材を貼り合わせることにより実現可能であることが知られている。レンズの材料コスト削減、光学系におけるレンズ枚数の削減およびレンズの厚み削減の観点から、硝材の貼り合わせに代えて回折光学素子による色収差補正が、特に遠赤外領域でより多く利用される。
【0073】
遠赤外領域で用いられる材料は、一般に反射率が高く、反射防止技術の重要性は高い。反射防止については、スパッタ、蒸着などの成膜法によって反射防止膜をレンズの表面に付与することも知られているが、モスアイ構造は、当該成膜法による反射防止に比べ、反射率の波長依存性および入射角度依存性が小さい、という利点がある。
【0074】
本発明の実施形態では、これらの技術が組み合わされた所望の形状に対応する形状を有する型を用いて、ガラスモールド法で回折光学素子を製造する。これにより、上述した反射率の波長依存性および入射角度依存に対する利点が得られることに加えて、反射防止構造を持った回折光学素子を安価に、かつ大量に製造することが可能となる。また、構造体部は、回折光学素子と同一の材質で一体となってプレス成形されるため、構造体部の回折光学素子からの剥がれが発生しない。このため、安定した品質の回折光学素子を製造することが可能であり、かつ安価に製造可能である。
【0075】
本発明の実施形態において、上記型では、フォトリソグラフィーによって構造体部に対応する形状が形成され得る。従来のナノインプリント法では、回折光学素子の段差部にモスアイ構造を形成することが困難である。また、アンダーカットを避けるために段差部のベース面をよりなだらかになるようにさらに傾斜させた場合では、不要光によるフレアが増大することがある。フォトリソグラフィーで形成された構造体部に対応する形状であれば、構造体部に対応する凹部は、エッチングの進行方向で決まる形状となることから、アンダーカットを防止することが可能である。このように凹部を形成する観点からも、前述した第二のエッチングは、ドライエッチングであることが有利である。当該型は、段差部の壁面にも構造体部を有する回折光学素子の製造に用いられ得る。
【0076】
一方で、回折光学素子のベース面に対応する部分に構造体部に対応する部分を露光およびエッチングで形成するためには、十分に精密な露光が求められる。しかしながら、当該ベース面に対応する曲面を含む形状のマスクの製造およびそれの使用(露光時における適切な配置)は困難である。
【0077】
本発明の実施形態では、露光する工程において、タルボ効果による周期的な分布を有する光を照射面で一定のドーズ量となるように統合した光で、型の中間製品の表面を照射してもよい。構造体部に対応する形状のための露光にタルボ干渉を利用することにより、マスクからレジスト膜までの距離が一定とはならない複雑な形状の表面にも実質一様な露光が可能となる。よって、形成される構造体部に対応する形状の寸法安定性がさらに向上する。また、回折光学素子の光軸に対して直交する方向に沿って配置される平板状のマスクを介して回折光学素子のベース面に対応する表面形状を有する型の中間製品に光を照射しても、上述のような精密な露光の実現が可能となる。
【0078】
〔その他の実施形態〕
図15は、本発明の他の実施形態に係る回折光学素子の断面を模式的に示す図である。図15の紙面に対して左側に示される回折光学素子50は、凸曲面である第一の主面51にのこぎり形状の段差構造を有しており、第一の主面51の全体に不図示の構造体部が最密に配置されている。回折光学素子50における第二の主面52は、段差構造を含まない曲面に形成されており、例えば非球面に形成されている。図15の紙面に対して右側に示される回折光学素子60は、凸曲面である第一の主面61にステップ形状の段差構造を有しており、第一の主面61の全体に不図示の構造体部が最密に配置されている。回折光学素子60における第二の主面62は、段差構造を含まない曲面に形成されており、例えば非球面に形成されている。このように、本発明の実施形態に係る回折光学素子は、第一の主面に回折輪帯、段差部および構造体部を有していてもよい。
【0079】
また、本発明の実施形態では、回折光学素子の第一の主面のみならず第二の主面にも構造体部が形成されてもよい。たとえば、回折光学素子の第一の主面が回折輪帯、段差部および第一の構造体部を含み、回折光学素子の第二の主面が非球面のベース面と当該ベース面に形成される第二の構造体部とを含んでもよい。第一の構造体部と第二の構造体部とは同じ形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。また、第二の構造体部は、第二の主面の平面形状の全体に分布していてもよいし、一部(例えば周縁部のみ)に分布していてもよい。
【0080】
さらに、本発明の実施形態では、構造体部は、反射防止の対象となる光の波長以下の間隔で配置される範囲において、様々な単位形状の凹凸形状を有していてよい。たとえば、構造体部の形状は、曲面で構成される形状以外にも、平面の組み合わせで構成される形状、例えば四角錘台などの角錐台形状、の凸部であってもよいし、そのような形状の凹部であってもよい。
【0081】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態における回折光学素子(10)は、光透過性を有する複数の回折輪帯(21)と、光透過性を有するとともに隣り合う回折輪帯を連結する段差部(22)とを有し、特定の波長の光の反射を防止するための凹凸形状で構成される構造体部(23)をさらに有する。そして、構造体部は、回折輪帯の表面および段差部の表面のいずれにも形成されている。よって、本発明の実施形態によれば、不要な回折光および反射光の発生を抑制可能な回折光学素子を提供することができる。
【0082】
本発明の実施形態において、回折光学素子の光軸に対する段差部のベース面の傾斜角度は27~59°であってもよい。この構成は、段差部における反射光および段差部における不要な回折光の発生を抑制する観点からより一層効果的である。
【0083】
また、本発明の実施形態において、構造体部の凹凸形状の軸は回折光学素子の光軸に平行であってもよい。この構成は、モールド成形によって回折光学素子を製造する際の段差部における構造体部がアンダーカットとなることを防止する観点からより一層効果的である。
【0084】
また、本発明の実施形態において、回折輪帯のベース面は曲面であってもよい。この構成は、回折光学素子の所望の光学特性を実現し、あるいは高める観点からより一層効果的である。
【0085】
また、本発明の実施形態において、段差部のベース面において個々の構造体部が占める部分は、回折輪帯のベース面において個々の構造体部が占める部分よりも大きくてもよい。この構造は、構造体部の軸が所定の方向に沿う場合に生じ得ることから、モールド成形によって回折光学素子を製造する際の段差部における構造体部がアンダーカットとなることを防止する観点からより一層効果的である。
【0086】
また、本発明の実施形態において、回折輪帯、段差部および構造体部の表面が回折光学素子の表面であってよい。上記の構成の組み合わせによって本実施形態の効果が十分に発現され得るので、上記の構成は、簡素な構造で上述の効果を発現させる観点からより一層効果的である。
【0087】
また、本発明の実施形態において、上記の、すなわち構造体部が反射を防止する光の特定の波長は赤外線の波長であってもよい。この構成は、他の構造の回折光学素子と同等かそれ以上の光学特性と、他の構造の回折光学素子よりも優れたコスト削減とを実現する観点からより一層効果的である。
【0088】
本発明の実施形態における回折光学素子の製造方法は、回折光学素子の第一の主面(1)の形状に対応する表面形状を有する第一の型(101)と、回折光学素子の第二の主面(2)の形状に対応する表面形状を有する第二の型(102)とによってモールド材を圧縮成形して、第一の主面と第二の主面とを有する回折光学素子を製造する。そして、第一の型または第二の型には、複数の回折輪帯、隣り合う回折輪帯を連結する段差部、および、回折輪帯の表面および段差部の表面のいずれにも形成される、特定の波長の光の反射を防止するための凹凸形状で構成される構造体部、の表面形状に対応する表面形状を有する型を用いる。この構成によれば、不要な回折光および反射光の発生を抑制可能な回折光学素子を提供することができる。
【0089】
本発明の実施形態における型の製造方法は、回折光学素子の第一の主面または第二の主面に対応する表面形状を有する型を製造する方法である。第一の主面または第二の主面は、複数の回折輪帯、隣り合う回折輪帯を連結する段差部、および、回折輪帯の表面および段差部の表面のいずれにも形成される、特定の波長の光の反射を防止するための凹凸形状で構成される構造体部、の表面形状を含む。そして、本発明の実施形態における型の製造方法は、回折輪帯のベース面に対応する形状および段差部のベース面に対応する形状を有する型の中間製品(1021)の表面に、フォトリソグラフィーによって構造体部に対応する形状を形成する工程を含む。
【0090】
本発明の実施形態において、構造体部に対応する形状を形成する工程は、製造すべき回折光学素子の光軸に対して直交する方向に沿って配置される平板状のマスク(1024)を介して型の中間製品の表面を露光する工程を含んでもよい。この構成は、構造体部に対応する形状に対応するマスクの準備および利用を簡易にする観点からより一層効果的である。
【0091】
本発明の実施形態では、露光する工程において、タルボ効果による周期的な分布を有する光を照射面で一定のドーズ量となるように統合した光で、型の中間製品の表面を照射してもよい。この構成は、構造体部に対応する部分を均一に形成する観点からより一層効果的である。
【0092】
本発明の実施形態において、曲面で構成される回折輪帯のベース面に対応する形状を型の基材の表面に形成する工程をさらに含んでもよい。この構成は、所望の光学特性を実現し、あるいは高める回折光学素子を実現する観点からより一層効果的である。
【0093】
本発明の実施形態において、回折輪帯のベース面に対応する形状が形成された型の中間製品の表面に、製造すべき回折光学素子の光軸に対して27~59°で傾斜する段差部のベース面に対応する形状を形成する工程をさらに含んでもよい。この構成は、段差部における反射光および段差部における不要な回折光の発生がより一層抑制される回折光学素子を実現する観点からより一層効果的である。
【0094】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0095】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0096】
〔実施例1〕
[回折光学素子]
図1および図2に示すような回折光学素子を用意した。回折光学素子は、ガラス転移点が180℃のカルコゲナイドガラスをプレス成形した凸メニスカスレンズであり、8~12μm(平均10μm)の特定の波長の光に使用される素子として設計されている。
【0097】
回折光学素子の第一の主面は、有効径が36.0mmの非球面である。第一の主面の形状は、光軸に対して垂直に距離R離れた位置での光軸方向の面位置をSag(R)としたとき、下記式(1A)の関係を満足する形状である。第一の主面の最大傾斜角は24°である。
【0098】
【数1】
【0099】
なお、第一の主面における上記式(1A)の各文字の数値を以下に示す。「e」は「×10」を表している。
r=58.1347
K=2.1591
A4=3.00362e-6
A6=1.25309e-8
A8=-3.18909e-11
A10=-9.12415e-15
A12=5.04133e-17
【0100】
回折光学素子の第二の主面は、有効径が33mmの非球面上に回折格子が形成された形状である。回折輪帯のベースとなる非球面の形状は、光軸に対して垂直に距離R離れた位置での光軸方向の面位置をSag2(R)としたとき、上記の式(1B)の関係を満足する形状である。式(1B)の「Sag(R)」は、式(1A)で表される。式(1B)中の「L」は後述の式(2)で表される。第二の主面の最大傾斜角は18°である。
[数2]
Sag2(R)=Sag(R)+L (1B)
【0101】
第二の主面における上記非球面の形状の、上記式(1B)における式(1A)中の各文字の数値を以下に示す。
r=101.7014
K=18.9225
A4=5.30336e-6
A6=1.23813e-8
A8=-4.22908e-11
A10=1.97569e-14
A12=-2.49251e-17
【0102】
回折光学素子の第二の主面における段差部のベース部において、光軸に対して垂直に距離H離れた位置での光軸方向の面位置をLとすると、当該Lは、位相関数Φ(R)、上記の特定の波長(平均)λおよびその時の屈折率nから以下の式(2)で表される。下記式(2)中、iは0または正の整数(1,2,3・・・)を表す。また、式(2)中の位相関数Φ(R)は、下記式(3)で表される。
【0103】
[数3]
L=(Φ(R)+iλ)/(n-1) (2)
Φ(R)=C+C+C+C48+C510 (3)
【0104】
第二の主面における上記段差部のベース部における形状の、上記式(2)中のnおよびλ、ならびに上記式(3)中の各係数を以下に示す。
n=2.5861
λ=0.010
=-1.656485e-4
=-4.601276e-7
=2.848235e-9
=-5.538859e-12
=1.394301e-15
【0105】
回折光学素子における上記の式で表される第二の主面の段差部の段差高さは、約6μmである。第二の主面の形状は、6段ののこぎり形状である。
【0106】
回折光学素子の第二の主面の全体に配置されている構造体部は、底の直径が2~4.4μm、高さが4~4.5μmの釣鐘型の凸部である。構造体部の凸形状の軸は、回折光学素子の光軸に沿って延在している。第二の主面における構造体部のピッチ(隣り合う構造体部の軸間の距離)は3μmであり、各構造体部は、図8に示されるように、正三角形格子の各頂点に位置する最密の位置関係で配置されている。なお、構造体部の底の直径は、回折輪帯上で2μmであり、段差部上で4.4μmである。
【0107】
[型の製造例]
<ベース面の加工>
金型の材料としてグラッシーカーボン材を用いる。まず、グラッシーカーボンの円筒状の基材を研削加工機で、光学駒の形状に外形加工を行う。次いで、装置の分解能が1nmに制御されている非球面研削加工機で回折輪帯を加工する。その後、回折輪帯の光学研磨を行い。最後に有機溶剤で洗浄する。このようにして得られた金型の中間製品における回折輪帯をZygo走査型白色干渉計で測定したところ、上記金型の回折輪帯に対応する部分の表面粗さは、算術平均粗さRaで1.5nmであった。また、上記金型の段差部の光軸に対する傾斜角度が27°となるように段差部を形成した。
【0108】
<構造体部に対応する凹部の形成>
次いで、上記の金型の加工した表面に、金属膜としてAl膜を作製する。Al膜の厚みは、400nmであった。
【0109】
次いで、Al膜の表面にポジ型フォトレジストのレジスト膜をスピンコートにより作製する。
【0110】
次いで、マスクからのタルボ干渉光が生じるように制御された干渉露光装置に、タルボット距離でピッチ3μm、径2μmの円形の領域が細密に配列された光を発生するように設計された位相マスクをセットする。位相マスクは、金型の上方に、製造されるべき回折光学素子の光軸に対応する金型の軸に対して垂直に延在するように配置される。この時の位相マスクのピッチばらつきは照射面全体で±1%に収まっており、このため発生する光のピッチのばらつきも3μm±1%に収まっている。
【0111】
次いで、金型の上面に露光を行う。この時の干渉光は、マスクの平面方向において、ピッチ3μm、径2μmの円形の領域が細密に配列された周期的な領域において実質的に同じ強度を有する光であり、回折輪帯のベース面および段差部のベース面に対応する金型の表面には、上記のようなパターン形状に光が照射され、レジスト膜には当該パターン形状の感光部が形成される。
【0112】
次いで、レジスト膜を現像し、感光部を溶解する。これにより、レジスト膜には、Al膜に到達する上記のパターン形状の孔が形成されて、Al膜上にはレジスト膜のパターニング層が形成される。
【0113】
次いで、当該金型をAl膜用のエッチング液内に所定時間浸漬する。これにより、Al膜における露出した部分のみが溶解し、金型の基材に到達する上記のパターン形状の孔が形成されて、金型上にはAl膜のパターニング層が形成される。
【0114】
次いで、当該金型を有機溶剤で洗浄してレジスト膜のパターニング層を除去する。
【0115】
次いで、Al膜のパターニング層を有する金型に、ドライエッチング装置で、Oガス下で10分間ドライエッチングを行う。これにより、Al膜のパターニング層の孔の位置において、金型基材に窪みが形成される。
【0116】
次いで、Al膜のパターニング層を除去する。こうして、第二の主面用の金型を作製する。当該金型は、ピッチが3μmであり、回折輪帯における開口径(長径)が2μm、段差部における開口径(長径)が4.4μmであり、深さが6μmの一様の凹部を有する。
【0117】
[回折光学素子の製造例]
前述した第二の主面を形成するための金型(上型)と、別途加工された第一の主面を形成するための金型(下型)とを用いて、外径36mmの平板形状のカルコゲナイドガラスの被成形物のプレス成形を行い、回折光学素子を製造した。
【0118】
より詳しくは、プレス環境を排気して真空にし、上金型と下金型を加熱し、225℃の両金型で被成形物を軟化させるために400秒間保持した後にプレス成形を行う。成形荷重(成形圧力)は0.5kNであり、225℃で550秒間保持した後に成形圧力を解除する。その後、被成形物を室温まで冷却した。こうして、回折光学素子(レンズ)を製造した。
【0119】
当該レンズの第二の主面における構造体部の高さは、回折輪帯で4μm、段差部では4.5μmであった。この回折光学素子の反射率をThermoFisher社FT-IR装置で測定したところ、波長8~12μm帯の平均反射率は0.6%となり、良好な反射率特性が得られた。このレンズをカメラに組み込み、撮影評価したところ、回折光学素子における段差部での不要光がない良好な画像が得られた。
【0120】
〔比較例1〕
段差部のベース面の傾斜角度を10~20°に変更する以外は、実施例1と同様にして第二の主面用の金型基材に、回折輪帯に対応する部分および段差部に対応する部分を研削加工により形成する。
【0121】
次いで、ピッチ3μm、底面の直径2μmの釣り鐘状の構造体部が細密配列されているナノインプリント用のマスターモールド平板に、軟性のシリコーン樹脂を塗布し、次いで硬化する。こうしてレプリカモールドを作製する。
【0122】
次いで、当該レプリカモールドで金型基材の加工面を加圧流体によって押圧し、レプリカモールドに対応する微細構造(構造体部)を形成した。こうして、微細構造付きの金型を作製した。次いで、前述した金型(上型)と、別途加工された第一の主面を形成するための金型(下型)とを用いて、外径36mmの平板形状のカルコゲナイドガラスの被成形物のプレス成形を行い、回折光学素子を製造した。
【0123】
得られた回折光学素子の段差部には、構造体部が形成されなかった。この回折光学素子の波長8~12μm帯の平均反射率は4.6%であった。このレンズをカメラに組み込み、撮影評価したところ、フレアまたはゴーストなどの、回折光学素子における段差部での反射光による画像不良が観察された。
【0124】
〔比較例2〕
段差部のベース面の傾斜角度を65°に変更する以外は、比較例1と同様にして回折光学素子を製造した。
【0125】
得られた回折光学素子の第二の主面には、回折輪帯および段差部の両方に構造体部が形成されていた。この回折光学素子の波長8~12μm帯の平均反射率は4.8%であった。このレンズをカメラに組み込み、撮影評価したところ、画像には、フレアまたはゴーストなどの回折光学素子における段差部での不要光による画像不良が観察された。
【0126】
なお、上述の実施例では特定の波長が赤外領域の波長のうち特に8~12μmである場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されず、ここで言う「特定の波長」は、本発明に係る回折光学素子が使用される光の波長に応じて適宜に決められればよい。たとえば、本発明に係る回折光学素子が、可視光域で使用される場合には380~780nm、赤外領域で使用される場合には780~25000nm、赤外領域の中でも近赤外領域で使用される場合は780~2500nm、遠赤外領域で使用される場合は8000~25000nm、の範囲から、「特定の波長」は任意に設定され得る。この場合、「特定の範囲」は、波長の数値範囲であってもよいし、その数値範囲の代表値(例えば平均値)であってもよい。また、「特定の波長」は、実質的に一定の波長を有する光であれば、波長領域ではなく、そのような特定の波長で表されてもよい。たとえば、本発明に係る回折光学素子が使用される光が炭酸ガスレーザー光である場合では、「特定の波長」は約10μmであってもよい。構造体部は、回折光学素子が使用対象とする光の特定の波長に応じた反射防止機能を有するように構成される。
【符号の説明】
【0127】
1、51、61 第一の主面
2、52、62 第二の主面
10、50、60 回折光学素子
21 回折輪帯
22 段差部
23 構造体部
101 第一の型
102 第二の型
131 モスアイ構造
110 モールド材
1021 型の中間製品
1022 金属膜
1023 レジスト膜
1024 マスク
LA 光軸
θ 傾斜角度

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17