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特開2023-3912アルカリ性電解水製造装置、その電解槽洗浄方法、および電解槽洗浄制御構造
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  • 特開-アルカリ性電解水製造装置、その電解槽洗浄方法、および電解槽洗浄制御構造 図1
  • 特開-アルカリ性電解水製造装置、その電解槽洗浄方法、および電解槽洗浄制御構造 図1-2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003912
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】アルカリ性電解水製造装置、その電解槽洗浄方法、および電解槽洗浄制御構造
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/461 20230101AFI20230110BHJP
【FI】
C02F1/461 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105291
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】521212144
【氏名又は名称】アールテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】類家 伸一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 千尋
(72)【発明者】
【氏名】春日 大生
【テーマコード(参考)】
4D061
【Fターム(参考)】
4D061DA03
4D061DB08
4D061EA02
4D061EB04
4D061EB13
4D061EB16
4D061EB20
4D061EB37
4D061EB39
4D061GA12
4D061GC20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】陽極と陰極を逆相し電圧をかけた場合の導電性スケールによる隔膜における電蝕現象発生を防止でき、これにより隔膜ピンホールの発生や電極のコーティング破損を防止でき、その結果、生成する電解水の品質を安定化でき、装置の故障も防止することのできる、アルカリ性電解水製造装置等を提供する。
【解決手段】アルカリ性電解水製造装置10は、二段以上の有隔膜電解槽1からなる多層型有隔膜電解槽7と、多層型有隔膜電解槽7内の洗浄を制御するための制御部8とを備え、有隔膜電解槽1は、陽極2を有し電解質水溶液流通用である陽極室3と、陰極4を有し製造するアルカリ性電解水の原水流通用である陰極室5と、陽極室3および陰極室5の間に挟設された隔膜6とを備え、有隔膜電解槽1中に発生するスケールを洗浄除去するための所定の洗浄処理工程が制御部8によりなされる構成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二段以上の有隔膜電解槽からなる多層型有隔膜電解槽と、該多層型有隔膜電解槽内の洗浄を制御するための制御部とを備えてなるアルカリ性電解水製造装置であって、該有隔膜電解槽は、陽極を有し電解質水溶液流通用である陽極室と、陰極を有し製造するアルカリ性電解水の原水流通用である陰極室と、該陽極室および該陰極室の間に挟設された陽イオン交換膜とを備えてなり、該有隔膜電解槽中に発生するスケールを洗浄除去するための下記<A>に示す洗浄処理工程が該制御部によりなされることを特徴とする、アルカリ性電解水製造装置。
<A> 洗浄処理工程は、該陰極室内の洗浄過程-該洗浄過程の後の逆相電圧負荷過程 を1サイクルとし、これを2サイクル以上行う工程である。
【請求項2】
前記サイクルが2回行われる、すなわち下記<A’>に示す洗浄処理工程が行われることを特徴とする、請求項1に記載のアルカリ性電解水製造装置。
<A’> 該陰極室内の予備的な洗浄過程であるところの予備洗浄過程、その後の逆相電圧負荷過程、その後の該陰極室内の洗浄過程であるところの再洗浄過程、その後の逆走電圧負荷過程であるところの再逆相電圧負荷過程
【請求項3】
前記洗浄処理工程の逆相電圧負荷過程では、電圧が段階的に昇圧されることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載のアルカリ性電解水製造装置。
【請求項4】
前記洗浄処理工程の少なくともいずれかの逆相電圧負荷過程の後に、電気的な検知に基づき洗浄効果を評価する評価過程を備えることを特徴とする、請求項1、2、3のいずれかに記載のアルカリ性電解水製造装置。
【請求項5】
前記評価過程による洗浄効果評価結果を示す表示部を有することを特徴とする、請求項4に記載のアルカリ性電解水製造装置。
【請求項6】
前記評価過程により所定の洗浄効果が確認された後、アルカリ性電解水の製造がなされるよう構成されていることを特徴とする、請求項4、5のいずれかに記載のアルカリ性電解水製造装置。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5、6のいずれかに記載するアルカリ性電解水製造装置における電解槽洗浄方法であって、該有隔膜電解槽中に発生するスケールを洗浄除去するための下記<A>に示す洗浄処理工程を行うことを特徴とする、アルカリ性電解水製造装置の電解槽洗浄方法。
<A> 洗浄処理工程は、該陰極室内の洗浄過程-該洗浄過程の後の逆相電圧負荷過程 を1サイクルとし、これを2サイクル以上行う工程である。
【請求項8】
陽極を有し電解質水溶液流通用である陽極室、
陰極を有し製造するアルカリ性電解水の原水流通用である陰極室、および、
該陽極室ならびに該陰極室の間に挟設された陽イオン交換膜とからなる該有隔膜電解槽を、二段以上備えてなる多層型有隔膜電解槽を有するアルカリ性電解水製造装置における、該多層型有隔膜電解槽内洗浄用の制御構造であって、
該有隔膜電解槽中に発生するスケールを洗浄除去するための下記<A>に示す洗浄処理工程を制御することを特徴とする、アルカリ性電解水製造装置の電解槽洗浄制御構造。
<A> 洗浄処理工程は、該陰極室内の洗浄過程-該洗浄過程の後の逆相電圧負荷過程 を1サイクルとし、これを2サイクル以上行う工程である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ性電解水製造装置、その電解槽洗浄方法、および電解槽洗浄制御構造に係り、特に、供給するアルカリ性電解水の品質安定およびランニングコストの低減を実現できる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ性電解水製造装置は、水道水等の原水に電解助剤を加えて電気分解することによりアルカリ性電解水を製造する装置である。具体的には、電解槽と、電解槽内に配置した隔膜と、隔膜を挟んで配置した陰陽の各電極とを備えた構成であり、電解槽内に食塩水等の電解質液を供給しながら電気分解をすることで、陰極側にアルカリ性電解水、陽極側に酸性電解水が生成する。生成するアルカリ性電解水のpHは13程度という高いものであるため、細菌増殖抑制効果、また、含有されるNaOH等による洗浄効果に優れる。
【0003】
したがって、農業分野(pH調整、水質改善)、畜産分野(洗浄、殺菌、消臭)、食品加工分野(洗浄、除菌、消臭)、工業分野(脱脂洗浄、精密洗浄)、環境分野(水処理、煤煙処理)など、広範な産業分野において利用可能である。また、片側吐水方式とすることにより、たとえば目的とするアルカリ性電解水製造と同時に副成する酸性電解水を、廃棄せずに循環させて再利用に供することができる。
【0004】
電解水製造技術については従来、技術的な提案も多くなされている。たとえば後掲特許文献1には、半導体製造工程における金属不純物・パーティクル・腐食性残留ガス成分の洗浄に用いる電解水を生成する装置として、電極間距離または電極表面積を可変とし、隔膜材料としてイオン交換膜とガス透過性膜を使用し、電解時や洗浄時の温度制御機構を有し、電解槽を圧力可変とし、さらに超音波発振機構や磁場発生機構を備える構成が開示されている。これによって、電気分解の効率および電解水の生成効率を高められるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-256259号公報「電解水生成方法および電解水生成機構」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、上述した隔膜を有する電解槽を二段以上接続して構成される電解槽の形式を、以下、多層型有隔膜電解槽という。多層型有隔膜電解槽を用いることにより、アルカリ性電解水製造能力を高め、かつ長時間運転を高めることができる。しかし一方、電極と隔膜の間隔が狭いため、陽極と陰極を逆相し電圧をかけた場合、原水の性質によって電極にカルシウムスケールやマグネシウムスケールが固着し、イリジウム等による陽極と陰極のコーティングを被覆する。
【0007】
この導電性のスケールが、電解水の品質低下を招いたり、陽イオン交換膜に接触したりする程度にまでに肥大すると、隔膜に電蝕現象を発生させることがある。これは、隔膜ピンホールの発生や電極のコーティング破損の原因となる。隔膜ピンホールや電極のコーティング破損によって、生成する電解水の品質が不安定となる上、装置が故障する恐れもある。かかる問題の解決が求められている。
【0008】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点をなくし、多層型有隔膜電解槽による製造方式であっても、陽極と陰極を逆相し電圧をかけた場合の導電性スケールによる隔膜における電蝕現象発生を防止でき、これにより隔膜ピンホールの発生や電極のコーティング破損を防止でき、その結果、生成する電解水の品質を安定化でき、装置の故障も防止することのできる、アルカリ性電解水製造装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は上記課題について検討した結果、有隔膜電解槽中に発生するスケールを洗浄除去するための制御部を設けること、洗浄処理では洗浄と逆相電圧負荷を交互に行うこと、さらには逆相電圧負荷の際には段階的な昇圧を行うことなどによって解決できることを見出し、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0010】
〔1〕 二段以上の有隔膜電解槽からなる多層型有隔膜電解槽と、該多層型有隔膜電解槽内の洗浄を制御するための制御部とを備えてなるアルカリ性電解水製造装置であって、該有隔膜電解槽は、陽極を有し電解質水溶液流通用である陽極室と、陰極を有し製造するアルカリ性電解水の原水流通用である陰極室と、該陽極室および該陰極室の間に挟設された陽イオン交換膜とを備えてなり、該有隔膜電解槽中に発生するスケールを洗浄除去するための下記<A>に示す洗浄処理工程が該制御部によりなされることを特徴とする、アルカリ性電解水製造装置。
<A> 洗浄処理工程は、該陰極室内の洗浄過程-該洗浄過程の後の逆相電圧負荷過程 を1サイクルとし、これを2サイクル以上行う工程である。
〔2〕 前記サイクルが2回行われる、すなわち下記<A’>に示す洗浄処理工程が行われることを特徴とする、〔1〕に記載のアルカリ性電解水製造装置。
<A’> 該陰極室内の予備的な洗浄過程であるところの予備洗浄過程、その後の逆相電圧負荷過程、その後の該陰極室内の洗浄過程であるところの再洗浄過程、その後の逆走電圧負荷過程であるところの再逆相電圧負荷過程
〔3〕 前記洗浄処理工程の逆相電圧負荷過程では、電圧が段階的に昇圧されることを特徴とする、〔1〕、〔2〕のいずれかに記載のアルカリ性電解水製造装置。
〔4〕 前記洗浄処理工程の少なくともいずれかの逆相電圧負荷過程の後に、電気的な検知に基づき洗浄効果を評価する評価過程を備えることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載のアルカリ性電解水製造装置。
【0011】
〔5〕 前記評価過程による洗浄効果評価結果を示す表示部を有することを特徴とする、〔4〕に記載のアルカリ性電解水製造装置。
〔6〕 前記評価過程により所定の洗浄効果が確認された後、アルカリ性電解水の製造がなされるよう構成されていることを特徴とする、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載のアルカリ性電解水製造装置。
〔7〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕のいずれかに記載するアルカリ性電解水製造装置における電解槽洗浄方法であって、該有隔膜電解槽中に発生するスケールを洗浄除去するための下記<A>に示す洗浄処理工程を行うことを特徴とする、アルカリ性電解水製造装置の電解槽洗浄方法。
<A> 洗浄処理工程は、該陰極室内の洗浄過程-該洗浄過程の後の逆相電圧負荷過程 を1サイクルとし、これを2サイクル以上行う工程である。
〔8〕 陽極を有し電解質水溶液流通用である陽極室、陰極を有し製造するアルカリ性電解水の原水流通用である陰極室、および、該陽極室ならびに該陰極室の間に挟設された陽イオン交換膜とからなる該有隔膜電解槽を、二段以上備えてなる多層型有隔膜電解槽を有するアルカリ性電解水製造装置における、該多層型有隔膜電解槽内洗浄用の制御構造であって、該有隔膜電解槽中に発生するスケールを洗浄除去するための下記<A>に示す洗浄処理工程を制御することを特徴とする、アルカリ性電解水製造装置の電解槽洗浄制御構造。
<A> 洗浄処理工程は、該陰極室内の洗浄過程-該洗浄過程の後の逆相電圧負荷過程 を1サイクルとし、これを2サイクル以上行う工程である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルカリ性電解水製造装置、その電解槽洗浄方法、および電解槽洗浄制御構造は上述のように構成されるため、これらによれば、多層型有隔膜電解槽によるアルカリ性電解水製造において、陽極と陰極を逆相し電圧をかけた場合の導電性スケールによる隔膜における電蝕現象発生を有効に防止でき、これにより隔膜ピンホールの発生や電極のコーティング破損を有効に防止でき、その結果、生成する電解水の品質を有効に安定化でき、装置の故障も有効に防止することができる。
【0013】
多くはイリジウム、プラチナ等が用いられる電極のコーティングにおける破損・剥離を防止でき、また隔膜(陽イオン交換膜)におけるピンホール発生を防止できることは、これらの長寿命化に繋がるため、装置のランニングコストを低減できることになる。また、本発明によって、製造されるアルカリ性電解水の品質を良好に安定化できるため、特に電解水の品質安定を重視する産業分野における電解水利用・普及拡大を促進することができる。
【0014】
アルカリ性電解水製造装置に供給される原水としては、我が国では軟水を容易に用いることができる。しかしながら海外では、MgやCa等の含有量が高い硬水の多い国も少なくない。本発明装置等を用いれば、たとえばMgやCa量が過多な水質などでも良好に処理可能であり、原水として対応可能な水質の幅が広い。したがって本発明装置等は、硬水の多い海外市場においても利用拡大が望める。
【0015】
本発明のアルカリ性電解水製造装置、その電解槽洗浄方法、および電解槽洗浄制御構造によれば、その品質安定・ランニングコスト低減・装置の長寿命化の各効果により、農業分野におけるpH調整・水質改善等への利用、畜産分野における洗浄・殺菌・消臭等への利用、食品加工分野における洗浄・除菌・消臭等への利用、工業分野における脱脂洗浄・精密洗浄への利用、環境分野における水処理・煤煙処理等への利用、さらには飲食業やクリーニング業など広範な産業分野に亘る利用において、アルカリ性電解水の利用を従来以上に拡大すること、あるいは導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のアルカリ性電解水製造装置の基本構成を示す概念図である。
図1-2】図1に示す本発明アルカリ性電解水製造装置における制御部の作用を示すフロー図である。
図2図1に示す本発明アルカリ性電解水製造装置において2サイクルによる洗浄処理工程がなされる例を示すフロー図である。
図3】評価過程を備えた洗浄処理工程を示すフロー図である。
図4】表示部を備えた本発明のアルカリ性電解水製造装置の基本構成を示す概念図である。
図5】本発明実施例アルカリ性電解水製造装置の構成をその多層型有隔膜電解槽の構成を中心にして示す説明図である。
図6】実施例アルカリ性電解水製造装置の制御構造を示すブロック図である。
図7】実施例アルカリ性電解水製造装置の制御フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明のアルカリ性電解水製造装置の基本構成を示す概念図である。また、図1-2は、図1に示す本発明アルカリ性電解水製造装置における制御部の作用を示すフロー図である。これらに示すように本アルカリ性電解水製造装置10は、二段以上の有隔膜電解槽1、1、・・・が連続してなる多層型有隔膜電解槽7と、多層型有隔膜電解槽7内の洗浄を制御するための制御部8とを備えてなる構成であって、有隔膜電解槽1は、陽極2を有し電解質水溶液流通用である陽極室3と、陰極4を有し製造するアルカリ性電解水の原水流通用である陰極室5と、陽極室3および陰極室5の間に挟設された陽イオン交換膜(隔膜)6とを備えてなり、有隔膜電解槽1中に発生するスケールを洗浄除去するための下記<A>に示す洗浄処理工程P10が該制御部8によりなされることを、主たる構成とする。
<A> 洗浄処理工程P10は、陰極室5内の洗浄過程P1-洗浄過程P1の後の逆相電圧負荷過程P2 を1サイクルとし、これを2サイクル以上行う工程である。図1-2中のnは、2以上の自然数である。
【0018】
かかる構成の本アルカリ性電解水製造装置10では、各有隔膜電解槽1、1、・・・からなる多層型有隔膜電解槽7内における洗浄処理工程P10が、制御部8による制御のもと実行され、有隔膜電解槽1中に発生するスケールが洗浄除去される。すなわち、洗浄過程P1において陰極室5内が洗浄され、ついで、逆相電圧負荷過程P2において陽極2と陰極4の極性を逆転させた状態で電圧が負荷される。洗浄処理工程P10では、この洗浄過程P1-逆相電圧負荷過程P2を1サイクルとして、2サイクル以上がなされる。かかる洗浄処理工程P10が制御、実行される本発明アルカリ性電解水製造装置10によれば、有隔膜電解槽1中に発生するスケールが有効に洗浄除去され、生成する電解水の品質が安定し、また装置故障が防止される。
【0019】
すなわち、原水の性質によってカルシウムスケール等の導電性のスケールが発生した場合、これが放置されると、電極のコーティングの被覆、隔膜の電蝕現象、ピンホールの発生、さらには電極のコーティングの剥離や剥離後の再結合、滞留等の不都合が生じるのだが、本アルカリ電解水製造装置10によれば、それらの根本的な原因であるスケールを洗浄除去することができる。
【0020】
図2は、図1に示す本発明アルカリ性電解水製造装置において2サイクルによる洗浄処理工程がなされる例を示すフロー図である。図示するように本アルカリ性電解水製造装置10においては、図1-2で示した洗浄過程-逆相電圧負荷過程のサイクルが2回行われる構成とすることができる。3サイクル以上を行わなくても、2サイクルで十分な洗浄効果を得る構成である。すなわち、陰極室5内の予備的な洗浄過程であるところの予備洗浄過程P11、その後の逆相電圧負荷過程P12、その後の陰極室5内の洗浄過程であるところの再洗浄過程P21、そして最後に、その後の逆走電圧負荷過程であるところの再逆相電圧負荷過程P22が順に行われる工程であり、洗浄過程-逆相電圧負荷過程>として2サイクル、全4過程による洗浄処理工程P210である(上述の課題を解決するための手段の〔2〕に示した「洗浄処理工程<A’>と同じ)。
【0021】
かかるフローにより、まず予備洗浄過程P11で陰極室5内の予備的な洗浄が行われ、その後、陽極2と陰極4の極性を逆転させた状態で電圧が負荷される逆相電圧負荷過程P12が行われ、その後再び、陰極室5内の洗浄過程(再洗浄過程P21)が行われ、そして最後に再び、逆走電圧負荷過程(再逆相電圧負荷過程P22)が行われ、かかる2サイクル全4過程の洗浄処理工程P210によって、隔膜の電蝕現象・ピンホールの発生・電極コーティングの剥離等の根本原因であるスケールが十分に洗浄除去され、生成する電解水の品質が安定し、また装置故障が防止される。
【0022】
本アルカリ性電解水製造装置10の洗浄処理工程P10、P210の逆相電圧負荷過程P2、P12、P22では、電圧を段階的に昇圧する構成とすることができる。たとえば、DC10VAで1分間、ついで昇圧してDC20VAで1分間、さらに昇圧してDC28VAで1分間、等の段階的昇圧である。これにより、急激な昇圧による不具合発生の可能性を低減しつつ、確実な昇圧による逆転洗浄の効果を担保することができる。なお、急激な昇圧による不具合としては、帯電スケールの急激な電極間の移動による隔膜の破損、および電子振動による電極に電着されたコーティング金属の剥離がある。
【0023】
図3は、評価過程を備えた洗浄処理工程を示すフロー図である。図示するように本アルカリ性電解水製造装置10は、制御部8により制御・実行される洗浄処理工程P310の逆相電圧負荷過程P12、P22等の少なくともいずれかの後に、電気的な検知に基づいて、洗浄処理工程P310中の先行過程を経た後の洗浄処理結果の良否を評価する評価過程P13、P23を備える構成とすることができる。電気的な検知としては、たとえば陰極4-陽極2間の直流電流値を用いることができるが、これに限定されない。
【0024】
かかる構成により本洗浄処理工程P310のフローによれば、逆相電圧負荷過程P12の後に評価過程P13、または逆相電圧負荷過程P22の後に評価過程P23、少なくともいずれかの評価過程が行われ、電気的な検知に基づいて、先行過程を経た後の洗浄処理結果の良否が評価される。なお、評価過程P13、P23の両方が設けられ、洗浄効果の評価がなされる構成が最も望ましい。また、図では2サイクルの構成を示すが、前出図1-2を用いて説明した3サイクル以上の場合でも、各逆相電圧負荷過程P2等の後に評価過程を設ける構成とすることも、本発明の範囲内である。
【0025】
評価過程P13等における洗浄処理結果の良否評価、およびその評価に基づくその後の運転制御の具体的パターンは、適宜に設計可能である。たとえば、洗浄効果良否の電気的な検知の閾値設定、また、評価結果が不良である場合の運転制御として、洗浄処理によるスケール洗浄除去は不可能として装置部品の交換を促す指令とするか、再度の洗浄処理工程を行わせる指令とするか、などである。これらの運転制御は、洗浄処理工程P310等の制御・実行と同様に、制御部8の担当機能とすることができる。
【0026】
図4は、表示部を備えた本発明のアルカリ性電解水製造装置の基本構成を示す概念図である。図示するように本アルカリ性電解水製造装置410は、図1により説明した各構成要素に加えて、評価過程による洗浄効果評価結果を示す表示部49を備えた構成とすることができる。表示部49に表される所定の表示によって、スケール除去のための洗浄処理結果の良否を本装置410使用者は知り、装置410の状態の良否を確認することができる。なお、表示部49の表示には、評価結果に基づく部品交換・再度洗浄などの対処法の表示が含まれてもよいことは言うまでもない。
【0027】
また、アルカリ性電解水製造装置410は、評価過程P13等により所定の洗浄効果が確認された後、アルカリ性電解水の製造が自動的になされる構成とすることができる。洗浄処理工程P310等は、製造されるアルカリ電解水の品質保持と装置の正常状態保持のためになされる工程であり、所定のスケール洗浄除去効果が確認された以上、何ら問題なくアルカリ性電解水製造を開始できる。
【0028】
以上説明したいずれかの構成のアルカリ性電解水製造装置10等における電解槽洗浄方法であって、有隔膜電解槽1等中に発生するスケールを洗浄除去するための下記<A>に示す洗浄処理工程P10等を行う電解槽洗浄方法も、本発明の範囲内である。
<A> 洗浄処理工程P10等は、陰極室5等内の洗浄過程P1等-洗浄過程P1等の後の逆相電圧負荷過程P2等 を1サイクルとし、これを2サイクル以上行う工程。
【0029】
さらに、以上説明したいずれかの構成のアルカリ性電解水製造装置10等における、多層型有隔膜電解槽7等内洗浄用の制御構造であって、有隔膜電解槽1等中に発生するスケールを洗浄除去するための下記<A>に示す洗浄処理工程P10等を制御する、アルカリ性電解水製造装置の電解槽洗浄制御構造もまた、本発明の範囲内である。
<A> 洗浄処理工程P10等は、陰極室5等内の洗浄過程P1等-洗浄過程P1等の後の逆相電圧負荷過程P2等 を1サイクルとし、これを2サイクル以上行う工程。
【実施例0030】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。
図5は、本発明実施例アルカリ性電解水製造装置の構成をその多層型有隔膜電解槽の構成を中心にして示す説明図である。図示するように本実施例アルカリ性電解水製造装置510は、三の有隔膜電解槽51、51、51が連続してなる多層型有隔膜電解槽57と、多層型有隔膜電解槽57内の洗浄を制御するための制御部(図示せず)とを備えてなる構成であって、各有隔膜電解槽51は、陽極52を有し電解質水溶液流通用である陽極室53と、陰極54を有し製造するアルカリ性電解水の原水流通用である陰極室55と、陽極室53および陰極室55の間に挟設された陽イオン交換膜(隔膜)56とを備えてなり、有隔膜電解槽51中に発生するスケールを洗浄除去するための所定の洗浄処理工程、すなわち既に述べた<A>または<A’>が制御部によりなされる構成である。
【0031】
また、図示するように本装置510は、各有隔膜電解槽51の陰極室55に通す原水(処理水)を供給するための原水(処理水)供給口OW、原水の電解処理の結果生成されるアルカリ性電解水を吐出するためのアルカリ性電解水吐出口PW、各有隔膜電解槽51の陽極室53に通す電解質溶液を供給するための電解質溶液供給口ES、電解処理により副成する電解水を排出するための電解質液排水口DRを備える。
【0032】
かかる構成の本実施例アルカリ性電解水製造装置510においては、次のようなアルカリ性電解水製造の通常運転がなされる。すなわち、原水(処理水)供給口OWには各有隔膜電解槽51の陰極室55に通す原水(処理水)が供給され、一方、電解質溶液供給口ESに各有隔膜電解槽51の陽極室53に通す電解質溶液が供給され、これらが多層型有隔膜電解槽57に流通している状態で、各有隔膜電解槽51の機能によって原水の電解処理がなされてアルカリ性電解水が生成し、アルカリ性電解水吐出口PWから吐出され、一方、副成する電解水は電解質液排水口DRから排出される。この通常運転の前段階で、この後述べる洗浄処理工程が制御部によりなされる。
【0033】
図6は、実施例アルカリ性電解水製造装置の制御構造を示すブロック図である。また、図7は、実施例アルカリ性電解水製造装置の制御フロー図である。これらに基づき、洗浄処理工程を構成する各工程1.~5.を追いながら説明する。
【0034】
工程1.電極および原水・電解質液によるリセット予洗制御
V1三方弁の方向を排水側へ開放し、その後、陰極室・陽極室にそれぞれ、原水・電解質液をポンプP1、P2により一定時間(例.380mL/min)供給する。その後、陰極室を帯電させ、滞留浮遊したアルカリ性電解水およびカルシウムスケール、マグネシウムスケール等の水溶性金属類を排出することで、陰極室内の予洗い(リセット洗浄)とする。本工程1は、逆転(逆相)電圧負荷時における、残留スケールによる電蝕現象を予防する効果を有する。
【0035】
工程2.電極コーティングの剥離・破損防止のための逆相段階電圧負荷制御
工程1終了後、原水・電解質液の水量を一定量(例.200ml/min)供給しながら、陽極・陰極に負荷する電圧を、一定時間段階制御によって昇圧する。段階制御は、積層されたスケールの確実な除去と急激な電圧変化による陽イオン交換膜およびイリジウム等コーティングの破損を防止する効果を有する。
【0036】
電圧昇圧の段階制御の例を示す。
直流電源ユニットDCU1により、下記3段階の制御を行う。
制御1)設定電流DC10VA、1min
制御2) 〃 DC20VA、1min
制御3) 〃 DC28VA、1min
いずれの制御においても、直流電流計VC1による監視計測を行い、設定電流(規定値)±5%を規定値範囲内とする。
【0037】
工程3.逆相段階電圧負荷制御後の陽極室内および陰極室内の再洗浄制御
工程2実施の際に陰極および陽イオン交換膜の陰極側より剥離・滞留・浮遊したカルシウムスケールやマグネシウムスケール等の水溶性金属類を排出するとともに、陽極側に生成されたアルカリ性電解水を排出する。工程1と同様の制御によって排出する。次工程において陽極側にアルカリ性電解水が残留してしまうと、電圧負荷による電子移動量が多くなり、陽イオン交換膜の穿孔やピンホールが発生してしまう。本工程はこれらを防止する効果を有する。
【0038】
工程4.陽イオン交換膜の電蝕ピンホール防止のための再逆相段階電圧負荷制御
工程3終了後、工程2と同様に一定時間段階制御によって昇圧し、陰極と陽極間の直流電流値(DC/VA)および電圧値を計測する。 これは洗浄工程による最終チェック工程となり、品質低下・故障・破損等の有無を確認する効果を有する。
【0039】
工程5.機器および品質保護のための電圧正常運転監視制御
工程4の計測時に直流電流値および電圧値が規定値内である場合には、操作モニターに「洗浄終了」の表示を指令し、正常運転が可能な状態であることを表示する。直流電流値および電圧値が規定値±5%を超える差異が発生した場合には、操作モニターに異常電圧の表示を指令し、機器および品質保護のための表示をする。
【0040】
なお、工程2の段階制御の監視計測結果が、規定値よりも高圧または低圧(±5%を超える)である場合には、操作モニターに異常電圧の表示を指令し、機器および品質保護のための表示を行い、修理・部品交換等を促すこととする。ここで、「規定値よりも高圧または低圧(±5%を超える)である場合」とは、直流電流値および電圧値が規定値±5%を超える差異が生じた場合」のことである(以下も同様)。
【0041】
また、工程4の段階制御の監視計測結果が規定値範囲内の場合には、操作モニターに「洗浄終了」の表示を指令し、正常運転が可能の状態を表示する。一方、規定値よりも高圧または低圧(±5%を超える)である場合には、操作モニターに異常電圧の表示を指令し、機器および品質保護のための表示を行い、修理・部品交換等を促すこととする。
【0042】
なお、工程2、工程4において異常電圧の表示がなされた場合、これに対してリセット処理(リセットスイッチ(SW))を行って、電解水生成を開始させたり、洗浄処理工程を再度開始させたりすることもできる。しかしながら本装置使用者としては、機器および品質保護のためには、表示が促す通りに修理・部品交換等を行うことが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のアルカリ性電解水製造装置、その電解槽洗浄方法、および電解槽洗浄制御構造によれば、多層型有隔膜電解槽によるアルカリ性電解水製造において、陽極と陰極を逆相し電圧をかけた場合の導電性スケールによる隔膜における電蝕現象発生を有効に防止でき、これにより隔膜ピンホールの発生や電極のコーティング破損を有効に防止でき、生成する電解水の品質を有効に安定化でき、装置の故障も有効に防止できる。したがって、農畜産業・食品加工業・半導体製造等の工業・環境関連産業・飲食業・クリーニング業等のアルカリ性電解水利用分野、電解水製造装置製造分野、およびこれらのいずれかに関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0044】
1、41、51…有隔膜電解槽
2、42、52…陽極
3、43、53…陽極室
4、44、54…陰極
5、45、55…陰極室
6、46、56…陽イオン交換膜(隔膜)
7、47、57…多層型有隔膜電解槽
8、48…制御部
10、410、510…アルカリ性電解水製造装置
49…表示部
DR…電解質液排水口
ES…電解質溶液供給口
OW…原水供給口
P1、P11、P21…洗浄過程
P2、P12、P22…逆相電圧負荷過程
P10、P210、P310…洗浄処理工程
P13、P23…評価過程
PW…アルカリ性電解水吐水口
図1
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
図7