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特開2023-39157遺伝子組み換え細胞製造方法、培養方法、遺伝子組み換え細胞、発現ベクター製造方法、及び発現ベクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039157
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】遺伝子組み換え細胞製造方法、培養方法、遺伝子組み換え細胞、発現ベクター製造方法、及び発現ベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230313BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/63 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146183
(22)【出願日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】小林 正之
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BD21
(57)【要約】
【課題】神経幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉を簡便に生成することが可能な遺伝子組み換え細胞製造方法を提供する。
【解決手段】
OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、及びTERTを含む7因子の遺伝子配列を備えた発現ベクターを動物細胞に導入する。これにより、神経幹細胞状態と、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかの状態とに誘導可能な遺伝子組み換え細胞を製造する。この発現ベクターは、ヒストンH1FOO、及びDPPA3の遺伝子配列を更に含んでいてもよい。この発現ベクターは、更にMBD3機能阻害体、及びp53機能阻害体の遺伝子配列を更に含んでいてもよい。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、及びTERTを含む7因子の発現ベクターを動物細胞に導入し、
神経幹細胞状態と、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかの状態とに誘導可能な遺伝子組み換え細胞を製造する
ことを特徴とする遺伝子組み換え細胞製造方法。
【請求項2】
前記発現ベクターは、
ヒストンH1FOO、及びDPPA3を更に含む
ことを特徴とする請求項1に記載の遺伝子組み換え細胞製造方法。
【請求項3】
前記発現ベクターは、
MBD3機能阻害体、及びp53機能阻害体を更に含む
ことを特徴とする請求項2に記載の遺伝子組み換え細胞製造方法。
【請求項4】
OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、及びDPPA3を含む9因子に基づいて、
神経幹細胞状態から、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかに誘導可能な遺伝子組み換え細胞を製造する
ことを特徴とする遺伝子組み換え細胞製造方法。
【請求項5】
OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、DPPA3、MBD3機能阻害体、p53機能阻害体を含む11因子に基づいて、
神経幹細胞状態から、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかに誘導可能な遺伝子組み換え細胞を製造する
ことを特徴とする遺伝子組み換え細胞製造方法。
【請求項6】
更に、LIF受容体アゴニスト、線維芽細胞増殖因子受容体アゴニスト、並びにWntシグナル阻害剤を添加して培養する、又は、LIF受容体アゴニスト、アクチビン受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤、GSK3β阻害剤、Src阻害剤、並びにエピジェネティクス消去剤を添加して培養する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の遺伝子組み換え細胞製造方法。
【請求項7】
前記動物細胞の動物は、ウシ亜科(Bovinae)である
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の遺伝子組み換え細胞製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載された遺伝子組み換え細胞に、
LIF受容体アゴニスト、線維芽細胞増殖因子受容体アゴニスト、及びWntシグナル阻害剤を添加して培養し、
前記遺伝子組み換え細胞を神経幹細胞状態に保つ
ことを特徴とする培養方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載された遺伝子組み換え細胞に、
LIF受容体アゴニスト、アクチビン受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤、GSK阻害剤、Src阻害剤、及びエピジェネティクス消去剤を添加して培養し、
前記遺伝子組み換え細胞を、多能性幹細胞状態に保つ
ことを特徴とする培養方法。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載された遺伝子組み換え細胞に、
動物血清を添加して培養し、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかに誘導する
ことを特徴とする培養方法。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載された遺伝子組み換え細胞製造方法で製造された、又は
請求項8乃至10のいずれか1項に記載された培養方法で培養された
ことを特徴とする遺伝子組み換え細胞。
【請求項12】
OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、及びTERTを含む7因子の遺伝子配列を導入し、
神経幹細胞状態と、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかの状態とに誘導可能な動物細胞用の発現ベクターを製造する
ことを特徴とする発現ベクター製造方法。
【請求項13】
OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、及びTERTを含む7因子の遺伝子配列を導入し、
神経幹細胞状態と、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかの状態とに誘導可能である
ことを特徴とする発現ベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に多能性及び分化能を備えた遺伝子組み換え細胞を製造する遺伝子組み換え細胞製造方法、培養方法、遺伝子組み換え細胞、発現ベクター製造方法、及び発現ベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1を参照すると、いわゆる「山中4因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC)」をコードするDNA配列をコードするDNA配列の発現ベクターをヒト又はマウス体細胞に遺伝子導入して発現させることにより、人工多能性幹細胞(以下、「iPS細胞」という。)を作出することが可能である。
また、特許文献2を参照すると、同様の人工多能性幹細胞を作出するためのDNA配列として、いわゆる「トムソン4因子(OCT4、SOX2、NANOG、LIN28)」も記載されている。
【0003】
iPS細胞は、多能性幹細胞であり、動物体を構成する外胚葉、中胚葉、内胚葉に由来する細胞種いずれにも分化することが可能である。したがって、iPS細胞は、再生医療の細胞源となる。一方、マウスiPS細胞は再生医療の基礎研究に多用されている。マウスiPS細胞から精子、卵子が作出され、これにより子孫が得られている。すなわち、iPS細胞は再生医療にとどまらず、生殖医療にも応用できる。
また、山中4因子とトムソン4因子から構成される6因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28)をコードするDNA配列の発現ベクターを遺伝子導入した場合、ヒトiPS細胞とブタiPS細胞の樹立効率が向上することが知られている。他の動物種では、サル、ヤギ、ヒツジのiPS細胞が当該6因子の遺伝子導入により製造されている。
【0004】
一方、致死性の神経疾患である牛海綿状脳症(BSE)は、その罹患牛を食することによりヒトも罹患し、重篤な神経疾患を発症することが知られており、畜産業に甚大な悪影響を与えている。このため、家畜について、iPS細胞よりも分化した神経幹細胞の病態モデル細胞が必要とされている。
さらに、近年、家畜の培養肉生産技術は、省資源、家畜飼料として消費される穀類の低減、メタンガス排出の低減に資するため注目されている。ここで、上述のiPS細胞は、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉を生成することが可能である。このため、培養肉の製造のために、iPS細胞が期待されている。
さらに加えて、家畜iPS細胞から生成した中胚葉を介して生殖細胞を製造することが期待されている。優良家畜個体は必ず寿命が尽きてしまうが、この個体から製造したiPS細胞により、精子、卵子、受精卵を恒久的に活用することが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2007/069666号
【特許文献2】国際公開WO2008/118820号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、iPS細胞より、神経幹細胞、外胚葉、中胚葉、内胚葉に由来する種々の細胞種が生成されていた。しかし、多種類の分化誘導物質を組み合わせる必要があり、加えて1ヶ月を超える長期培養期間が必要なため、煩雑かつ困難であった。
このため、多能性幹細胞のように多能性をもたせられ、神経幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉を簡便に生成することが可能であるような細胞を製造する方法が望まれていた。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の遺伝子組み換え細胞製造方法は、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、及びTERTを含む7因子の発現ベクターを動物細胞に導入し、神経幹細胞状態と、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかの状態とに誘導可能な遺伝子組み換え細胞を製造することを特徴とする。
本発明の遺伝子組み換え細胞製造方法は、前記発現ベクターは、ヒストンH1FOO、及びDPPA3を更に含むことを特徴とする。
本発明の遺伝子組み換え細胞製造方法は、前記発現ベクターは、MBD3機能阻害体、及びp53機能阻害体を更に含むことを特徴とする。
本発明の遺伝子組み換え細胞製造方法は、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、及びDPPA3を含む9因子に基づいて、神経幹細胞状態から、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかに誘導可能な遺伝子組み換え細胞を製造することを特徴とする。
本発明の遺伝子組み換え細胞製造方法は、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、DPPA3、MBD3機能阻害体、p53機能阻害体を含む11因子に基づいて、神経幹細胞状態から、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかに誘導可能な遺伝子組み換え細胞を製造することを特徴とする。
本発明の遺伝子組み換え細胞製造方法は、更に、LIF受容体アゴニスト、線維芽細胞増殖因子受容体アゴニスト、並びにWntシグナル阻害剤を添加して培養する、又は、LIF受容体アゴニスト、アクチビン受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤、GSK阻害剤、Src阻害剤、並びにエピジェネティクス消去剤を添加して培養することを特徴とする。
本発明の遺伝子組み換え細胞製造方法は、前記動物細胞の動物は、ウシ亜科(Bovinae)であることを特徴とする。
本発明の培養方法は、前記遺伝子組み換え細胞に、LIF受容体アゴニスト、線維芽細胞増殖因子受容体アゴニスト、及びWntシグナル阻害剤を添加して培養し、前記遺伝子組み換え細胞を神経幹細胞状態に保つことを特徴とする。
本発明の培養方法は、前記遺伝子組み換え細胞に、LIF受容体アゴニスト、アクチビン受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤、GSK阻害剤、Src阻害剤、及びエピジェネティクス消去剤を添加して培養し、前記遺伝子組み換え細胞を、多能性幹細胞状態に保つことを特徴とする。
本発明の培養方法は、前記遺伝子組み換え細胞に、動物血清を添加して培養し、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかに誘導することを特徴とする。
本発明の遺伝子組み換え細胞は、前記遺伝子組み換え細胞製造方法で製造された、又は前記培養方法で培養されたことを特徴とする。
本発明の発現ベクター製造方法は、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、及びTERTを含む7因子の遺伝子配列を導入し、神経幹細胞状態と、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかの状態とに誘導可能な動物細胞用の発現ベクターを製造することを特徴とする。
本発明の発現ベクターは、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、及びTERTを含む7因子の遺伝子配列を導入し、神経幹細胞状態と、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかの状態とに誘導可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、及びTERTを含む7因子の遺伝子配列を備えた発現ベクターを動物細胞に導入することで、神経幹細胞状態と、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかの状態とに誘導可能な遺伝子組み換え細胞を製造することで、多能性幹細胞、神経幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉を簡便に生成することが可能な遺伝子組み換え細胞製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例に係る発現ベクターのDNA配列であるOSKN-T2A配列のアガロースゲル電気泳動の写真である。
図2】本発明の実施例に係る発現ベクターのDNA配列であるT2A-CL配列のアガロースゲル電気泳動の写真である。
図3】本発明の実施例に係る6因子発現ベクターpCAGPB-IRed2/OSKNCLのアガロースゲル電気泳動の写真である。
図4】本発明の実施例に係る6因子発現ベクターpCAGPB-IRed2/OSKNCLの構造を示す概念図である。
図5】本発明の実施例に係る各因子を単独で発現するベクターの構造を示す概念図である。
図6】本発明の実施例に係る各因子を単独で発現するベクターをEcoRVにより切断し、アガロースゲル電気泳動した写真である。
図7】本発明の実施例に係る遺伝子組み換え細胞を製造する第一の培養例における再播種した培養皿の写真である。
図8】本発明の実施例に係る遺伝子組み換え細胞を製造する第二の培養例における再播種した培養皿の写真である。
図9】本発明の実施例に係る7因子により製造した遺伝子組み換え細胞の神経幹細胞マーカー遺伝子の発現を示すグラフである。
図10】本発明の実施例に係る9因子により製造した遺伝子組み換え細胞の神経幹細胞マーカー遺伝子の発現を示すグラフである。
図11】本発明の実施例に係る9因子により製造した遺伝子組み換え細胞を多能性幹細胞維持培養した培養皿の写真である。
図12】本発明の実施例に係る7因子により製造した遺伝子組み換え細胞を多能性幹細胞状態に接着培養で誘導培養した際の多能性幹細胞マーカー遺伝子の発現量を示すグラフである。
図13】本発明の実施例に係る9因子により製造した遺伝子組み換え細胞を多能性幹細胞状態に浮遊培養で誘導培養した際の多能性幹細胞マーカー遺伝子の発現量を示すグラフである。
図14】本発明の実施例に係る外胚葉、中胚葉、内胚葉の生成を誘導する誘導培養をした際の外胚葉、中胚葉、内胚葉のマーカー遺伝子の発現量を示すグラフである。
図15】本発明の実施例に係る誘導培養した際の外胚葉、中胚葉、内胚葉のマーカー遺伝子の発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態>
上述の課題を解決すべく鋭意研究した結果、本発明者は、いわゆる山中4因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC)と、いわゆるトムソン4因子(OCT4、SOX2、NANOG、LIN28)から構成される6因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28)に加えて、TERT(Telomerase Reverse Transcriptase)から構成される計7因子を発現する発現ベクターを動物細胞に遺伝子導入することにより、神経幹細胞状態と、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかの状態とに簡便に誘導可能である遺伝子組み換え細胞を製造することに成功した。
さらに、他の4因子(ヒストンH1FOO、DPPA3(Developmental pluripotency-associated protein 3)、p53機能阻害体、MBD3(Methyl-CpG-binding domain protein 3)機能阻害体)を発現する発現ベクターから、いずれか一つ以上と上述の7因子とを組み合わせ、動物細胞に遺伝子導入することにより、神経幹細胞状態、及び多能性幹細胞状態、外胚葉、中胚葉、内胚葉を簡便に生成できる遺伝子組み換え細胞の製造効率が向上することを見出した。さらに、外胚葉、中胚葉、内胚葉の生成能が異なる遺伝子組み換え細胞を製造することを見出した。
その際、これら発現ベクターを導入した細胞に対し、LIF受容体アゴニスト、FGF(Fibroblast growth factors)受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤を添加して培養することにより、又は、LIF受容体アゴニスト、アクチビン受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤、GSK阻害剤、Src阻害剤、エピジェネティクス消去剤を添加して培養することにより、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞を製造できることを見出した。
加えて、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞について、LIF受容体アゴニスト、FGF受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤を添加して培養することにより、神経幹細胞状態を保つことができることを見出した。
また、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞について、LIF受容体アゴニスト、アクチビン受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤、GSK(Glycogen Synthase Kinase)阻害剤、Src(Proto-oncogene tyrosine-protein kinase Src)阻害剤、エピジェネティクス消去剤を添加して培養することにより、多能性幹細胞状態に保つ培養方法を見出した。
さらに、動物血清を添加して培養することにより、多能性幹細胞状態、外胚葉、中胚葉、内胚葉を簡便に生成することに成功した。
【0012】
以下、これらの本発明の実施の形態に係る発現ベクターとこの製造方法、この発現ベクターを用いた遺伝子組み換え細胞製造方法、培養方法、遺伝子組み換え細胞の詳細について、実施の形態により、より具体的に説明する。
【0013】
〔遺伝子組み換え細胞の製造方法の概要〕
まず、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞製造方法の概要について説明する。
本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞を遺伝子工学的に製造する行程は、上述の7因子や4因子をコードするDNA配列の製造、このDNA配列を組み込んだ発現ベクターの製造、動物細胞への発現ベクターでの遺伝子導入、改良iPS細胞誘導培養の適用、から構成される。
【0014】
まず、DNAを製造する場合、ヒト、マウス、ウシ等の哺乳動物に由来する7因子及び4因子をコードするDNA配列の塩基配列は、GenBank等の当業者に一般的なDNA配列のデータベースから取得可能である。この各DNA配列は、公知の化学合成法(Thermo Fisher社、GenScript社等)により製造可能である。または、各因子が発現する動物細胞から当業者に一般的な手法に基づいてメッセンジャーRNAを抽出し、当該メッセンジャーRNAを鋳型にしてDNAに逆転写し、PCR法により、各因子に個別にDNA配列を増幅して製造することも可能である。
【0015】
この上で、当業者に一般的な手法である組み換えDNA技術を用い、市販されているプラスミドベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター等に組み込むことにより、各因子のDNA配列を組み込んだ発現ベクターを製造することが可能である。その際、各因子のDNA配列を複数の因子をまとめて組み込むことも、個別の一因子毎に発現ベクターに組み込むことも可能である。たとえば、ウイルス由来2AペプチドコードDNA配列を用いて、一個のポリペプチドコードDNA配列として連結後、単一のベクターにまとめて組み込んで製造することが可能である。たとえば、当業者に一般的なウイルス由来2AペプチドコードDNA配列を用いて一個のポリペプチド鎖として連結した場合、遺伝子導入した細胞内で転写された一個のメッセンジャーRNAからポリペプチドに翻訳される。この際、各因子をコードする一個のポリペプチド鎖は2Aペプチド領域で個別の因子に分断されるので、機能的な因子をポリシストロニックに発現させることが可能となる。
【0016】
これらの発現ベクターについて、いずれも当業者に一般的な手法であるウイルス感染法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、もしくは電気穿孔(エレクトロポレーション)法等により、線維芽細胞等の動物細胞に遺伝子導入し、発現ベクターを組み込んだ動物細胞を製造することが可能である。
【0017】
この発現ベクターを組み込んだ動物細胞を、iPS細胞の誘導を行うiPS細胞誘導培養に基づいて本発明者らが応用、改良した培養方法(以下、単に「改良iPS細胞誘導培養」という。)を適用して培養する。これにより、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞を製造することが可能である。
【0018】
この遺伝子組み換え細胞は、主に神経幹細胞状態となり、他の培養法で培養することで、より未分化の多能性幹細胞状態に変換(スイッチ)可能である。
または、他の培養法で、外胚葉、中胚葉、内胚葉を簡便に生成することも可能である。
これらの各工程の詳細について、下記で説明する。
【0019】
(動物細胞)
本実施形態の対象となる動物細胞の由来となる動物は、例えば、哺乳類の各種の動物を用いることが可能である。特に、本実施形態では、ウシ亜科(subfamilia Bovinae)の動物細胞への各処理について説明する。後述する実施例では、家畜のウシ(Bos taurus)についての遺伝子組み換え細胞の生成について説明しているものの、ウシのゲノムの遺伝変異等から、この他にも、水牛(Bubalus)やバイソン属(Bison)についても、同様の結果が得られるものと考えられる。さらに、本実施形態に係る動物細胞としては、この他にも家畜、伴侶動物、実験動物、ヒト(Homo sapiens)、ヒト以外の霊長類等が挙げられる。家畜としては、ウシの他に、ブタ(Sus scrofa domesticus)、ウマ(Equus caballus)、ヒツジ(Ovis aries)、ウサギ(Leporinae Trouessart)等も挙げられる。また、伴侶動物としては、イヌ(Canis lupus familiaris)、ネコ(Felis silvestris catus)、等が挙げられる。また、実験動物としては、マウス(Mus musculus)、ラット(Rattus norvegicus)、ハムスター(Mesocricetus auratus)等が挙げられる。また、ヒト以外の霊長類としては、ゴリラ(Gorilla)やチンパンジー(Pan troglodytes)、アカゲサル(Macaca mulatta)、その他の真猿類や原猿類等が挙げられる。その他、稀少な哺乳動物を含む、真獣下綱(Eutheria)の有胎盤哺乳類の細胞について、本実施形態の遺伝子組み換え細胞の製造の対象としてすべて適用可能である。
【0020】
加えて、本実施形態の遺伝子組み換え細胞は、疾病モデル動物の細胞、各種ベクター等により、遺伝子組み換えの手法で遺伝子を導入されたトランスジェニック、遺伝子ノックアウト、コンディショナルノックアウト等の手法で遺伝情報を加工された哺乳動物の細胞であってもよい。
【0021】
本実施形態においては、上述の各種の動物体から得られた細胞を当業者に一般的な手法で取得可能である。この各種細胞は、核のある、接着細胞培養又は浮遊細胞培養が可能な細胞であってもよい。この細胞としては、例えば、線維芽細胞等を容易に取得することが可能である。
具体的には、ウシ(Bos taurus)の場合、例えば、ウシの耳から得た組織片を細切し、培養皿に播種してウシ胎仔血清(以下、「FCS」という。)等の栄養物を添加したDulbecco's MEM培地により培養する等により、ウシ線維芽細胞を得ることが可能である。
【0022】
(発現ベクター製造方法)
まず、神経幹細胞状態及び多能性幹細胞状態、外胚葉、中胚葉、内胚葉を簡便に生成する遺伝子組み換え細胞を製造するための7因子、これに付加される4因子を用いた発現ベクターの製造方法と、この発現ベクターの構造について説明する。
本実施形態においては、7因子のうち、TERTを除く6因子を含む発現ベクターの製造と、TERT及び残りの4因子をそれぞれ単独で発現する発現ベクターとを製造する一例について説明する。
【0023】
まず、OCT4、SOX2、KLF4、NANOG、c-MYC、LIN28の6因子を含む6因子のコードDNA配列の製造方法について説明する。
たとえば、動物のOCT4、SOX2、KLF4、NANOG、c-MYC、LIN28のタンパク質コードDNA配列について、当業者に一般的な手法である化学合成法(Thermo Fisher社、GenScript社等)により製造する。化学合成する際、遺伝子導入する細胞の動物種、合成の容易さ等を考慮して、コドンやAT/CG比やリピート数等を至適化してもよい。
または、6因子が発現する動物細胞から当業者に一般的な手法に基づいてメッセンジャーRNAを抽出し、当該メッセンジャーRNAを鋳型にしてDNAに逆転写し、PCR法により個別に6因子コードDNA配列を増幅して製造することも可能である。この場合、PCR法で用いるプライマーに、各種の翻訳効率を向上させるための配列、例えば、Kozak配列等を組み込んでもよい。さらに、個別の因子をコードするDNA配列を連結するために、プライマーにウイルス由来2Aペプチド配列(E2A、F2A、P2A等)コードDNA等を組み込み、且つ、下流に連結する因子をコードするDNA配列と約20~25塩基のオーバーラップDNA配列が生じるように設計してもよい。なお、プライマーは当業者に一般的な手法により化学合成したものを取得可能である。PCR法でのDNA配列の増幅には、耐熱性DNAポリメラーゼを用いてもよい。
ここで、種々の動物種の6因子は、塩基配列、アミノ酸配列、タンパク質の立体構造等に相同性が認められるため、ほ乳類、鳥類、両生類等、種々の脊椎動物に由来する6因子を製造してもよい。さらに、c-MYCに代えて L-MYC等、KLF4に代えてKLF2等、塩基配列、アミノ酸配列、タンパク質の立体構造等に相同性を示すファミリー遺伝子を用いてもよい。
【0024】
次に、製造された上述の6因子のコードDNA配列から、6因子の発現ベクターを製造する方法について説明する。
本実施形態においては、各種の動物細胞の発現ベクターのクローニング部位を制限酵素等で切断し、各因子のDNA配列を導入し、平滑末端化してライゲーションすることで、6因子発現ベクターを製造することが可能である。他の4因子についても同様に、発現ベクターを製造可能である。
ここで、発現ベクターは、市販されているプラスミドベクター(PB531A-2、SBI社)、レンチウイルスベクター(pLVSIN-CMV Neo Vector、タカラバイオ社)、レトロウイルスベクター(pGP Vector、タカラバイオ社)等、動物細胞に遺伝子導入した外来遺伝子を発現させることができればよい。
【0025】
なお、6因子は、下記で説明するTERT及び4因子の発現ベクターのように、一つ(単独、個別)の発現ベクターから発現させてもよく、4因子、3因子、又は2因子等に分割し、ポリシストロニックに発現するベクターを製造してもよい。つまり、4因子(OCT4、SOX2、KLF4、NANOG)と2因子(c-MYC、LIN28)をコードする2個のDNA配列を製造する場合、2因子(c-MYC、LIN28)をコードするDNA配列を製造する場合も、同様に実行可能である。
すなわち、本実施形態において、各因子のDNA配列は、任意の組み合わせで、一つ又は複数の発現ベクターに導入可能である。つまり、本実施形態の発現ベクターは、一つ又は複数であってもよい。
【0026】
次に、上述のTERT及び4因子を、それぞれ単独で発現する発現ベクターの製造法について説明する。これらの因子のうち、TERTは、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞に必須である。他の4因子は、遺伝子組み換え細胞の製造を促進し、製造効率を向上させる作用をもつ。
【0027】
具体的には、4因子のうち、ヒストンH1FOO、及びDPPA3の遺伝子配列を備える発現ベクターを導入すると本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞の製造効率が向上する。
【0028】
さらに、MBD3機能阻害体、及びp53機能阻害体の遺伝子配列を備える発現ベクターを導入しても、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞の製造効率が向上する。
【0029】
このうち、MBD3機能阻害体としては、アンチセンスMBD3 RNAを用いることが可能である。アンチセンスMBD3 RNAは、発現ベクターにMBD3コードDNA配列を逆方向に組み込むことで実現可能である。これにより、MBD3 mRNAに相補的に結合するアンチセンスRNAとして1本鎖のRNAを発現させ、MBD3タンパク質の発現を阻害することが可能である。または、MBD3機能阻害体は、MBD3タンパク質の遺伝子発現を阻害するshort hairpin MBD3 RNA、アンチセンスMBD3合成オリゴDNA等、MBD3遺伝子及びMBD3タンパク質の機能を阻害するポリペプチド、タンパク質、DNA、RNA、PNA(Peptide Nucleic Acid)等であってもよい。
【0030】
p53機能阻害体としては、p53DDを用いることが可能である。p53DDは、癌抑制遺伝子産物p53タンパク質のN末端側から数えてウシでは231番目から324番目に対応するポリペプチドであり、p53タンパク質に結合して機能を阻害する活性を有する。p53DDは、これらの因子が発現する動物細胞から当業者に一般的な手法に基づいてメッセンジャーRNAを抽出し、当該メッセンジャーRNAを鋳型にしてDNAに逆転写し、PCR法により個別にこれらの因子をコードするDNA配列を増幅して製造することも可能である。または、p53機能阻害体は、実質的にp53タンパク質の機能を阻害できればよく、他のポリペプチドを用いることも可能である。たとえば、p53機能阻害体として、p53遺伝子の発現を阻害するshort hairpin p53 RNA、アンチセンスp53 RNA、アンチセンスp53合成オリゴDNA等、p53遺伝子及びp53タンパク質の機能を阻害するポリペプチド、タンパク質、DNA、RNA、PNA等を用いることも可能である。
【0031】
上述のTERT及び4因子のDNA配列についても、化学合成法により製造することが可能である。化学合成する際、遺伝子導入する細胞の動物種に合わせて、コドンを至適化してもよい。また、種々の動物種の因子であっても塩基配列、アミノ酸配列、タンパク質の立体構造等に相同性が認められるため、ほ乳類、鳥類、両生類等、種々の脊椎動物に由来する因子を用いてもよい。
本実施形態においては、上述のTERT及び4因子を、それぞれ、一つの発現ベクターに導入する例について記載する。なお、上述のように、これらの因子を2因子以上、ポリシストロニックに発現するベクターを、任意の組み合わせで製造してもよい。
【0032】
(細胞への発現ベクターの導入)
次に、上述の発現ベクターを動物細胞に導入する方法について説明する。
動物細胞への発現ベクターによる遺伝子導入は、例えば、当業者に一般的なリポフェクション法により行うことが可能である。または、当業者に一般的な手法であるウイルス感染法、リン酸カルシウム法、又は電気穿孔(エレクトロポレーション)法等により、発現ベクターを動物細胞に遺伝子導入してもよい。
上述のウシ線維芽細胞の例の場合、発現ベクターとリポフェクション試薬であるViaFect(Promega社製)の複合体を加えて約6時間、保温することにより遺伝子導入することが可能である。
【0033】
本実施形態においては、遺伝子組み換え細胞を製造する発現ベクターは、6因子発現ベクターに加えてTERT発現ベクターを加え、合計7因子を導入する。
加えて、遺伝子組み換え細胞の製造効率を向上させるため、MBD3機能阻害体、p53機能阻害体、ヒストンH1FOO、DPPA3の中から1因子以上の発現ベクターを同時に導入してもよい。
【0034】
さらに、後述する外胚葉及び内胚葉を効率的に生成する遺伝子組み換え細胞を製造する場合は、上述の7因子に加えて、ヒストンH1FOO、DPPA3の発現ベクターの組み合わせを用いることが好適である。
すなわち、外胚葉及び内胚葉の生成に好適な本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞を製造する因子の組み合わせは、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、及びDPPA3の9因子である。
【0035】
または、後述する外胚葉及び中胚葉を効率的に生成する遺伝子組み換え細胞を製造する場合は、当該7因子に加えて、ヒストンH1FOO、DPPA3、p53機能阻害体、及びMBD3機能阻害体の発現ベクターの組み合わせを用いることが好適である。
すなわち、外胚葉及び中胚葉の生成に好適な本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞を製造する因子の組み合わせは、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、DPPA3、MBD3機能阻害体、及びp53機能阻害体の11因子である。
【0036】
(遺伝子組み換え細胞製造時の培養方法)
次に、発現ベクターを導入した動物細胞に改良iPS誘導培養を適用することで、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞を生成する。
具体的には、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞を生成する改良iPS誘導培養として、発現ベクターを組み込んだ動物細胞について、動物細胞用の基礎培養液に、白血病阻止因子の受容体アゴニスト(以下、単に「LIF」という。)、線維芽細胞増殖因子(以下、「FGF」という。)等のFGF受容体アゴニスト、アクチビン受容体アゴニスト、低分子酵素阻害剤、Src阻害剤、並びにエピジェネティクス消去剤を添加して改良iPS細胞誘導培養を行う。このうち、本実施形態において、低分子酵素阻害剤は、Wntシグナル阻害剤、GSK阻害剤を少なくとも含む。
【0037】
より具体的には、本実施形態に係る改良iPS誘導培養として、基礎培養液に、LIF受容体アゴニスト、線維芽細胞増殖因子受容体アゴニスト、並びにWntシグナル阻害剤を添加して培養することが可能である。または、基礎培養液に、LIF受容体アゴニスト、アクチビン受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤、GSK阻害剤、Src阻害剤、及びエピジェネティクス消去剤を添加した製造用培養液にて培養することが可能である。
これにより、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞が、容易に製造可能となる。
【0038】
ここで、本実施形態において、動物細胞用の基礎培養液は、FCS等の栄養物を含んだα-MEM等を用いることが可能である。この際、栄養物はFCSに限定されず、仔ウシ血清、ウマ血清、若しくはヒト血清等の動物血清、又はアルブミン、Knockout Serum Replacement(Gibco社製)、若しくはStemSure Replacement(和光純薬社製)等のような血清代替物等でもよい。
【0039】
LIF(LIF受容体アゴニスト)は、例えば、LIF受容体を刺激する効果が得られるならばIL6等、LIFファミリータンパク質等、LIF受容体アゴニストであればよく、合成LIF受容体アゴニストでもよい。また、LIF添加と同様な効果が得られるERK阻害剤、MEK阻害剤、GSK阻害剤、FGF受容体阻害剤を組み合わせた2i培養又は3i培養を用いてもよい。
【0040】
線維芽細胞増殖因子受容体アゴニストは、例えば、FGF2を用いることが可能である。FGF2は、FGF受容体を刺激する効果が得られるならばFGF1、FGF4等、FGF類及びFGF受容体アゴニストであればいずれでもよく、合成FGF受容体アゴニストでもよい。
【0041】
Wntシグナル阻害剤は、例えば、IWR1を用いることが可能である。または、Wntシグナル阻害剤として、XAV939等の阻害剤を用いることも可能である。
【0042】
アクチビン受容体アゴニストは、アクチビンAを用いることが可能である。または、アクチビン受容体アゴニストとして、アクチビン受容体を刺激する効果が得られる各種の阻害剤を用いることが可能である。たとえば、アクチビンB、アクチビンE、BMP、TGF等のTGFβスーパーファミリー類及びアクチビン受容体アゴニストを用いることも可能である。さらに、合成アクチビン受容体アゴニストを用いることも可能である。
【0043】
GSK阻害剤は、GSK3β阻害剤を用いることが可能である。より具体的には、GSK3β阻害剤として、CHIR99021を用いることが可能である。または、GSK3β阻害剤として、6Bio等を用いることも可能である。さらに、その他、GSK3β以外のGSKの阻害剤を用いることも可能である。
【0044】
Src阻害剤は、WH-4-023を用いることが可能である。その他にも、Src阻害剤として、AZM475271等を用いることが可能である。
【0045】
エピジェネティクス消去剤は、ビタミンC(L-アスコルビン酸)を用いることが可能である。その他にも、エピジェネティクス消去剤として、5-aza-シチジン、HDAC阻害剤(酪酸ナトリウム、トリコスタチンA、バルプロ酸、SAHA等)を用いることが可能である。
【0046】
これら、LIF受容体アゴニスト、線維芽細胞増殖因子受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤、アクチビン受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤、GSK阻害剤、Src阻害剤、及びにエピジェネティクス消去剤の基礎培養液への添加濃度は、実質的に効果が得られる濃度であればよい。
【0047】
なお、低分子酵素阻害剤として、MAPK阻害剤、ROCK阻害剤、HDAC阻害剤等も含まれてもよい。
また、本実施形態の改良iPS誘導培養の製造用培養液としては、動物細胞の種類に対応して、最適な培養液を使用することが可能である。また、培養液には、アミノ酸、ビタミン類、抗酸化剤、抗生物質、コラーゲン前駆体、微量金属イオンや錯体、各種塩等が別途加えられて使用されてもよい。他の成分についても、培養する動物や細胞の種類に応じて設定された濃度で加えられていてもよい。
【0048】
ここで、本実施形態に係る改良iPS誘導培養として、発現ベクターを組み込んだ動物細胞は、上述の成分を含んだ製造用培養液にて、3~4週間目まで培養する。その後、コラーゲン(ゼラチン)コート培養皿等に再播種する。そして、iPS細胞誘導培養6~8週目、培養皿上に形成された細胞コロニーを採取し、再播種する。細胞数が増加したところで当業者に一般的な手法により継代培養することにより、神経幹細胞状態、多能性幹細胞状態、外胚葉、中胚葉、内胚葉を簡便に生成できる遺伝子組み換え細胞を製造することができる。
すなわち、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、及びTERTを含む7因子と、これに、ヒストンH1FOO、DPPA3、MBD3機能阻害体、及びp53機能阻害体とを加えた11因子に基づいて、主に神経幹細胞状態と多能性幹細胞状態とに容易に変化(スイッチ)させることが可能であり、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかに簡便に分化誘導させることが可能な遺伝子組み換え細胞を製造することが可能となる。
【0049】
次に、神経幹細胞状態を保つ、又は、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかの状態に誘導する培養方法について説明する。
【0050】
(神経幹細胞状態に保つ培養方法)
次に、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞を神経幹細胞状態に保つ維持培養方法について説明する。
上述の遺伝子組み換え細胞に、LIF受容体アゴニスト、線維芽細胞増殖因子受容体アゴニスト、及びWntシグナル阻害剤を添加した維持培養液で培養することで、上述の改良iPS誘導培養で製造後の遺伝子組み換え細胞を神経幹細胞状態に保つことが可能となる。
上述のウシ線維芽細胞の例の場合、一例として、基礎培養液としてα-MEMを用い、栄養物としてFCSを添加し、LIF(10ng/ml)、FGF2(20ng/ml)、IWR1(2.5μM)を添加して遺伝子組み換え細胞を培養し(37℃、5%CO2)、細胞数が増加したところで当業者に一般的な手法により継代培養すれば、神経幹細胞状態に保つことができる。
なお、上述の製造用培養液と同様に、各成分及び濃度は、当業者による最適化の範囲で適宜変更可能であり、実質的に期待する効果が得られる濃度であればよい。
【0051】
(多能性幹細胞状態に保つ培養方法)
次に、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞について、多能性幹細胞状態に保つスイッチ培養方法について説明する。
上述の改良iPS誘導培養方法で培養された遺伝子組み換え細胞、又は上述の維持培養方法で培養され神経幹細胞状態で維持された遺伝子組み換え細胞について、LIF受容体アゴニスト、アクチビン受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤、GSK阻害剤、Src阻害剤、及びエピジェネティクス消去剤を添加して培養することで、iPS細胞と同様の多能性幹細胞状態に保つことが可能となる。
上述のウシ線維芽細胞の場合、一例として、基礎培養液としてα-MEMを用い、栄養物としてFCSを添加し、LIF(10ng/ml)、アクチビンA(20ng/ml)、IWR1(5μM)、WH-4-023(0.3μM)、CHIR99021(1μM)、ビタミンC(50μg/ml)を添加して遺伝子組み換え細胞を培養し(37℃、5%CO2)、細胞数が増加したところで当業者に一般的な手法により継代培養すれば、多能性幹細胞状態に保つことができる。
なお、上述の製造用培養液と同様に、各成分及び濃度は、当業者による最適化の範囲で適宜変更可能であり、実質的に期待する効果が得られる濃度であればよい。
【0052】
(多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉を簡便に生成する培養方法)
次に、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞について、多能性幹細胞状態、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉を簡便に生成する誘導培養方法について説明する。
上述の改良iPS誘導培養方法で培養された遺伝子組み換え細胞、上述の維持培養方法で培養され神経幹細胞状態で維持された遺伝子組み換え細胞、上述のスイッチ培養方法で多能性幹細胞状態に保たれた遺伝子組み換え細胞から、多能性幹細胞状態、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉を簡便に生成することが可能となる。
上述のウシ線維芽細胞の場合、一例として、基礎培養液としてα-MEMを用い、栄養物としてFCSを添加し、リピジュアコートプレート(日油社製)等の低接着性培養皿を用いて遺伝子組み換え細胞を浮遊培養(37℃、5%CO2)する。または、接着性培養皿(TrueLine社製等)を用いて接着培養(37℃、5%CO2)してもよい。これにより、多能性幹細胞状態、外胚葉、中胚葉、内胚葉を簡便に、接着培養で6日以内、浮遊培養で16日以内に生成することが可能となる。
なお、上述の製造用培養液と同様に、各成分及び濃度は、当業者による最適化の範囲で適宜変更可能であり、実質的に期待する効果が得られる濃度であればよい。
【0053】
なお、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞製造方法により製造された培養細胞は、PCR等で各因子がゲノム内又は外部遺伝子として組み込まれていることを確認し、他の細胞と区別することが可能である。
さらに、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞を、上述の各培養方法で培養した場合の細胞についても、各種マーカーや当業者に一般的な形質を観察、測定等することで、他の状態の細胞と区別することが可能である。さらに、このような状態の細胞は、複雑な生化学的プロセスの結果、状態が変化するため、構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという不可能、非実際的な特段の事情があることが、当業者に理解され得る。
【0054】
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
ウシやブタは産業上重要な家畜であり、その繁殖はヒトにより制御されている。交配する際、泌乳量や肉質等、重要な経済形質について遺伝的に改良を継続している。また、優良家畜の精子、卵子、受精卵は半永久的に凍結保存され、産仔を得ることができる。
一方、バイオマス等の有機物を分解し、培養液成分として有効利用することによる家畜の培養肉生産技術は、省資源、家畜飼料として消費される穀類の低減、メタンガス排出の低減に資することら製造したiPS細胞が注目されている。
さらに、家畜iPS細胞から生成した中胚葉を介して生殖細胞を製造できる。優良家畜個体は必ず寿命が尽きてしまうが、当該個体から製造したiPS細胞により、精子、卵子、受精卵を恒久的に活用できる。
そこで、神経幹細胞状態及び多能性幹細胞状態、外胚葉、中胚葉、内胚葉を簡便に生成する遺伝子組み換え細胞の製造方法が提供されることが望まれていた。
【0055】
ここで、iPS細胞より、外胚葉、中胚葉、内胚葉に由来する種々の細胞種(造血幹細胞、赤血球、心筋細胞、骨格筋細胞、始原生殖細胞等)が生成され得る。しかし、多種類の分化誘導物質を組み合わせる必要があるので煩雑であり、加えて1ヶ月を超える長期培養期間を必要としていた。
また、ヌードマウスにiPS細胞を移植して外胚葉、中胚葉、内胚葉を生成することも可能であった。しかし、マウスを無菌的に飼育する必要があり、煩雑であった。
また、iPS細胞から神経幹細胞を生成できるものの、マウス神経幹細胞を生成するには2ヶ月を要すること、ヒト神経幹細胞を生成するには6ヶ月を要すること、サイトカイン類であるNoggin、FGF2、Shh、Wnt3A、BMP4、レチノイン酸等を分化誘導段階に応じ、組み合わせて作用させる必要がある等、複雑、多段階の細胞培養方法を要するので、煩雑かつ困難であった。
【0056】
これに対して、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞製造方法は、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERTの7因子の発現ベクターを動物細胞に導入することで、神経幹細胞状態と、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかの状態とに誘導可能な遺伝子組み換え細胞を製造することが可能となる。
このように、上述の遺伝子組み換え細胞製造方法で製造した遺伝子組み換え細胞は、神経幹細胞状態と、多能性幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉のいずれかの状態とに、簡便な培養方法で、容易に誘導可能な細胞となる。すなわち、神経幹細胞、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉を簡便に生成することが可能な遺伝子組み換え細胞を提供することができる。
【0057】
一方、致死性の神経疾患である牛海綿状脳症(BSE)は、その罹患牛を食することによりヒトも罹患し、重篤な神経疾患を発症することが知られており、畜産業に甚大な悪影響を与えている。BSEの発症を防ぐ予防薬や治療薬は開発されていないため、食肉処理施設で病理検査を実行し、水際で罹患牛を発見して市場への流通を阻止している。
この状況を克服する手段として、BSEの病態モデル細胞として特にウシ等の神経幹細胞が求められた。しかし、ウシの生体から定常的に神経幹細胞を得ることはコストがかかること、増殖能が旺盛であり純度が高い神経幹細胞を得ることは困難であること、生体から得た神経幹細胞は生理機能に個体差があり再現性が高い実験結果を得ることが困難であること等の問題があった。
この状況を克服する手段として、BSEの病態モデル細胞として特にウシのiPS細胞が求められていた。しかし、iPS細胞のような多能性幹細胞の生成は、哺乳類により難易度がまったく異なることが当業者に知られており、従来、ウシ亜科(Bovinae)については、非常に生成しにくいことが知られていた。実際、ウシ(Bos taurus)のiPS細胞は、国内外の研究者によりいくつか作出が報告されていたものの再現性が非常に乏しかった。さらに、これらの細胞を神経幹細胞状態に分化させることも、困難であった。
【0058】
これに対して、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞は、神経幹細胞状態又は多能性幹細胞状態いずれにも簡便にスイッチできる。
本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞細胞は、神経幹細胞状態にある場合、神経変性疾患である牛海綿状脳症(BSE)の病態モデル細胞に応用できる。病態モデル細胞は、BSEの研究に有用であり、神経細胞の形成、成熟とBSE発症の関連を試験管内で研究できるのでBSE関連医薬品の開発に大きく資する。
【0059】
さらに、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞細胞は、多能性幹細胞状態にある場合、培養ステーキ肉、培養レバー、優良牛の精子、卵子等の製造に応用できる。中胚葉に分化誘導させた場合、骨格筋や脂肪細胞を製造できる。また、内胚葉から肝臓(レバー)を製造でき、外胚葉から表皮(皮革)を製造できることより、容易に培養肉を製造することが可能となる。
また、培養肉製造技術は、国内外でベンチャー企業が立ち上がっている。またウシiPS細胞は、優良遺伝資源の永久活用技術として、優良ウシの精子、卵子の製造に応用できる。
また、家畜胚に利用すれば、優良家畜の生産性向上に貢献できるようになり、また、実験動物や野生動物の胚に利用すれば、貴重な遺伝資源の保存、希少動物の保護に貢献できる。
【0060】
また、本実施形態の哺乳動物の遺伝子組み換え細胞製造方法は、特別な操作やテクニック等が必要なく、効率的に、品質が高い遺伝子組み換え細胞を作出することができる。
これにより、特別な機器の製造が必要なく、操作の習熟のためのトレーニング期間等が必要なくなるため、コストを削減できる。また、品質の高い細胞を取得できることで、各関係者の負担を減らすことができる。
【0061】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【実施例0062】
次に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【0063】
(各因子をコードするDNA配列の製造方法)
まず、下記の表1に、神経幹細胞状態及び多能性幹細胞状態を簡便に生成するための各因子であるウシのOCT4、SOX2、KLF4、NANOG、c-MYC、LIN28、これに加えてTERTのNCBIアクセッションナンバーを示す。
【0064】
【表1】
【0065】
ここで、神経幹細胞状態及び多能性幹細胞状態を簡便に生成する遺伝子組み換え細胞を製造する4因子(OCT4、SOX2、KLF4、NANOG)と2因子(c-MYC、LIN28)をコードする2個のDNA配列を製造する例を示す。
本実施例では、ウシの細胞から、当業者に一般的な手法に基づいて、合成DNAを鋳型にして、下記で示す表2のプライマーでPCR産物を得て、発現ベクターの製造に供した。
【0066】
【表2】
【0067】
各プライマーは、個別の因子をコードするDNA配列をPCR法より連結するために、プライマーに2AペプチドをコードするDNA配列を組み込み、且つ、下流に連結する因子をコードするDNA配列と約20~25塩基のオーバーラップDNA配列が生じるように設計した。この上で、設計されたプライマーが化学合成されたものを取得した(ファスマック社、北海道システムサイエンス社製)。PCR増幅には、耐熱性DNAポリメラーゼKOD plus(東洋紡社)を、添付のプロトコルに基づいて用いた。
【0068】
NANOGについては、NANOG配列のフォワードプライマー(bNANOG E2A F)にE2AペプチドコードDNA配列を組み込み、リバースプライマー(GAbNANOG NotI stop R)を用い、化学合成して製造したNANOGコードDNA配列を鋳型にしてPCR増幅した。
【0069】
PCR増幅したOCT4、SOX2、KLF4、NANOGコードDNA配列を混和し、フォワードプライマー(IFbOCT4 XbaI pCAGPB startF)、リバースプライマー(IFbNANOG T2A R)を用いて互いにオーバーラップするDNA配列を利用することにより、1個のOCT4-F2A-SOX2-P2A-KLF4-E2A-NANOG-T2A配列(OSKN-T2A配列)を得た。
【0070】
より具体的には、OCT4については、フォワードプライマー(GAbOCT4 NheI Kozak start F)に翻訳効率を向上させるためにKozak配列を組み込み、リバースプライマー(bOCT4 F2A R)にF2AペプチドコードDNA配列を組み込み、化学合成して製造したOCT4コードDNA配列を鋳型にしてKOD-plus DNA polymerase(東洋紡社)によりPCR増幅した。
SOX2については、SOX2のフォワードプライマー(bSOX2 F2A start F)にF2AペプチドコードDNA配列を組み込み、リバースプライマー(bSOX2 P2A R)にP2AペプチドコードDNA配列を組み込み、化学合成して製造したSOX2コードDNA配列を鋳型にしてPCR増幅した。
KLF4については、KLF4のフォワードプライマー(bKLF4 P2A F)にP2AペプチドコードDNA配列を組み込み、リバースプライマー(bKLF4 E2A R)にE2AペプチドコードDNA配列を組み込み、化学合成して製造したKLF4コードDNA配列を鋳型にしてPCR増幅した。
NANOGについては、NANOG配列のフォワードプライマー(bNANOG E2A F)にE2AペプチドコードDNA配列を組み込み、リバースプライマー(GAbNANOG NotI stop R)を用い、化学合成して製造したNANOGコードDNA配列を鋳型にしてPCR増幅した。PCR増幅したOCT4、SOX2、KLF4、NANOGコードDNA配列を混和し、フォワードプライマー(IFbOCT4 XbaI pCAGPB startF)、リバースプライマー(IFbNANOG T2A R)を用いて互いにオーバーラップするDNA配列を利用することにより、1個のOCT4-F2A-SOX2-P2A-KLF4-E2A-NANOG-T2A配列(以下「OSKN-T2A配列」という。)を得た。
【0071】
図1に、PCR法により製造したOSKN-T2A配列のアガロースゲル電気泳動像を示した。図中、右レーンの4.6kbのバンドが、OSKN-T2A配列を示す。左レーンは、DNAサイズマーカーであり、上より23.13kb、9.42kb、6.56kb、2.32kb、2.02kbをそれぞれ示す。
【0072】
次に、2因子(c-MYC、LIN28)をコードするCL配列を製造するために、表2で示したプライマーを使用してPCR増幅した。
c-MYCについては、フォワードプライマー(IFbc-MYC T2A F)にT2AペプチドコードDNA配列を組み込み、リバースプライマー(bc-MYC P2A R)にP2AペプチドコードDNA配列を組み込み、化学合成して製造したc-MYCコードDNA配列を鋳型にしてPCR増幅した。
LIN28については、フォワードプライマー(bLIN28 P2A F)にP2AペプチドコードDNA配列を組み込み、リバースプライマー(IFbLIN28 BamHI stopR)を用い、化学合成して製造したLIN28コードDNA配列を鋳型にしてPCR増幅した。
この上で、これらPCR増幅したc-MYC、LIN28コードDNAを混和した。ここで、フォワードプライマー(IFbc-MYC T2A F)とリバースプライマー(IFbLIN28 BamHI stopR)を用いてPCRを行った。ここでは、オーバーラップするDNA配列を利用することにより、これらを連結したT2A-c-MYC-P2A-LIN28(以下、「T2A-CL配列」という。)をコードする1つのDNA配列としてPCR増幅した。
【0073】
図2に、PCR法により製造したT2A-CL配列のアガロースゲル電気泳動像を示した。左レーンは、2.1kbのバンドがT2A-CL配列を示す。右レーンは、DNAサイズマーカーであり、上より6.18kb、3.63kb、2.94kb、2.03kb、1.44kbをそれぞれ示す。
【0074】
(6因子発現ベクター製造方法)
次に、6因子発現ベクターを製造する方法について示す。
発現ベクター531A-2(SBI社製)を制限酵素StuIとXbaI(NEB社製)により切断し、EF1αプロモーターを除去した。発現ベクターpMK10(Kobayashiら、Biotechniques、21巻398~402項、1996年)を制限酵素NruIとXbaI(NEB社製)により切断し、CAGプロモーターを切り出して531A-2のStuIとXbaI間に組み込み、pCAGPB-IRed2を製造した。このpCAGPB-IRed2(SBI社製)のクローニング部位を、制限酵素XbaIとBamHI(NEB社製)により切断した。このクローニング部位は、後述する図4で示す。
切断したpCAGPB-IRed2、OSKN-T2A配列、T2A-CL配列を混和した。そして、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)により、XbaI部位とBamHI部位の間に、OCT4-F2A-SOX2-P2A-KLF4-E2A-NANOG-T2A-c-MYC-P2A-LIN28をコードするDNA配列(以下、「OSKNCL配列」という。)を組み込んだ6因子発現ベクターpCAGPB-IRed2/OSKNCLを製造した。
【0075】
図3に、製造した6因子発現ベクターpCAGPB-IRed2/OSKNCL配列のアガロースゲル電気泳動像を示す。左レーンは、14.7kbのpCAGPB-IRed2/OSKNCLを制限酵素XhoIにより切断し、9.7kbと5.0kbに分離した配列のバンドを、それぞれ示す。右レーンはDNAサイズマーカーであり、上より23.13kb、9.42kb、6.56kb、2.32kb、2.02kbを、それぞれ示す。
【0076】
図4は、この6因子発現ベクターpCAGPB-IRed2/OSKNCLの構造を示す。
【0077】
(遺伝子組み換え細胞製造促進ベクター製造方法)
次に、遺伝子組み換え細胞の製造を促進する因子を単独で発現する発現ベクターの製造法について示す。
図5(a)~図5(e)に、この遺伝子組み換え細胞の製造を促進する因子として、それぞれ、ヒトTERT、ウシアンチセンスMBD3、ウシヒストンH1FOO、ウシp53DD、ウシDPPA3を単独で発現するベクターの構造を示す。
加えて、これらの因子、TERT、アンチセンスMBD3、ヒストンH1FOO、p53DD、DPPA3のタンパク質をコードするDNA配列のNCBIアクセッションナンバーを、下記の表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
これらの因子をコードするDNA配列をPCR法により増幅するために、上述の表2のプライマーを用いた。
具体的には、制限酵素NheIとNotIにより切断した発現ベクターPBQM812A-1(SBI社製)と各因子をコードするDNA配列を混和し、In-Fusion HD Cloning KitによりNheI部位とNotI部位の間に組み込み、これらの因子を個別に発現する発現ベクターPBQM812A-1/TERT、PBQM812A-1/アンチセンスMBD3、PBQM812A-1/ヒストンH1FOO、PBQM812A-1/p53DDを製造した。DPPA3をコードするDNA配列は、制限酵素NheIとNotIにより切断し、NheIとNotIにより切断したPBQM812A-1にRapid DNA Ligation Kit(Promega社製)により組み込み、PBQM812A-1/DPPA3を製造した。
これらの発現ベクターについて、更に、制限酵素MfeIとHpaIにより切断し、Blunting high kit(東洋紡社製)により平滑末端化し、Rapid DNA Ligation Kitによりセルフライゲーション反応を行った。
これにより、これらの因子を個別に発現するpCMV5PB/TERT、pCMV5PB/アンチセンスMBD3、pCMV5PB/ヒストンH1FOO、pCMV5PB/p53DD、及びpCMV5PB/DPPA3をそれぞれ製造した。
【0080】
図6は、製造したTERT、p53DD、アンチセンスMBD3、ヒストンH1FOO、DPPA3を単独で発現するベクターを、それぞれ制限酵素EcoRVにより切断し、アガロースゲル電気泳動したものを示す。図中、TERTはレーン1であり、7.5kbと3.4kbのバンドに分離した。p53DDは、レーン3であり、7.8kbのバンドとなった。アンチセンスMBD3はレーン4であり、8.3kbのバンドとなった。ヒストンH1FOOはレーン5であり、8.6kbのバンドとなった。DPPA3はレーン7であり、8.0kbのバンドとなった。一方、レーン2、6、8はDNAサイズマーカーであり、上より23.13kb、9.42kb、6.56kb、2.32kb、2.02kbのバンドを示す。
【0081】
(遺伝子組み換え細胞を製造する培養方法)
次に、神経幹細胞状態並びに多能性幹細胞状態、及び、外胚葉、中胚葉、若しくは内胚葉を簡便に生成する遺伝子組み換え細胞を製造する培養方法について示す。
第一の培養例として、ウシの耳から得た組織片を細切し、培養皿に播種してウシ胎仔血清(以下、「FCS」という。)等の栄養物を添加したDulbecco's MEM培地(Sigma社製)により培養(37℃、5%CO2)することにより、ウシ線維芽細胞を得た。6-wellプレートにウシ線維芽細胞を播種(1.0×106細胞/well)し、保温した(16時間、37℃、5%CO2)。発現ベクター(2μg)とリポフェクション試薬ViaFect(10μl、Promega社製)を混和した。なお、遺伝子組み換え細胞を製造する発現ベクターは、6因子発現ベクターに加えてTERT発現ベクターを加え、計7因子を導入した。ウシ線維芽細胞に対し、発現ベクターとViaFectの複合体を加えて約6時間、保温することにより遺伝子導入した。
ウシ線維芽細胞へ発現ベクターを遺伝子導入した後、iPS細胞誘導培養を開始した(37℃、5%CO2)。基礎培養液はα-MEM(和光純薬社製)を用い、10%FCS(Biological Industries社製)、LIF(10ng/ml、メルクミリポア社製)、線維芽細胞増殖因子FGF2(20ng/ml、abm社製)、Wntシグナル阻害剤IWR1(2.5μM、Cayman社製)を添加した。
iPS細胞誘導培養3~4週目に、0.1%ゼラチンコート済培養皿(φ6cm、TrueLine社製)に再播種した。iPS細胞誘導培養6~8週目、培養皿上に形成された細胞コロニーを採取し、0.1%ゼラチンコート済12穴培養皿(TrueLine社)に再播種した。
【0082】
図7に、上述の第一の培養例における、再播種した培養皿上の細胞の状態を示す。すなわち、図7は、LIF受容体アゴニスト、線維芽細胞増殖因子受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤を添加して添加して培養することにより生成した遺伝子組み換え細胞を示す。この細胞は、9因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、DPPA3)により製造した遺伝子組み換え細胞である。黒い楕円の枠内には、遺伝子組み換え細胞が形成した扁平状の細胞コロニーが確認できる。
【0083】
第二の培養例として、上述の第一の培養例と同様にウシ線維芽細胞を用意し、発現ベクターを遺伝子導入した。その後、iPS細胞誘導培養を開始した(37℃、5%CO2)。基礎培養液はα-MEM(和光純薬社製)を用い、10%FCS(Biological Industries社製)、LIF(10ng/ml)、アクチビンA(20ng/ml、和光純薬社製)、Wntシグナル阻害剤IWR1(5μM)、Src阻害剤WH-4-023(0.3μM、Enzo社製)、GSK阻害剤CHIR99021(1μM、Focus社製)、エピジェネティクス消去剤ビタミンC(50μg/ml、Sigma社製)を添加した。
iPS細胞誘導培養3~4週目に、0.1%ゼラチンコート済培養皿(φ6cm、TrueLine社製)に再播種した。iPS細胞誘導培養6~8週目、培養皿上に形成された細胞コロニーを採取し、0.1%ゼラチンコート済12穴培養皿(TrueLine社製)に再播種した。
【0084】
図8に、上述の第二の培養例における再播種した培養皿上の細胞の状態を示す。すなわち、図8は、LIF受容体アゴニスト、アクチビン受容体アゴニスト、Wntシグナル阻害剤、GSK阻害剤、Src阻害剤、ビタミンCを添加して培養することにより生成した遺伝子組み換え細胞を示す。この細胞は、9因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、DPPA3)により製造した遺伝子組み換え細胞である。黒い楕円の枠内には、遺伝子組み換え細胞が形成したドーム状の細胞コロニーが確認できる。
【0085】
第一の培養例、第二の培養例とも、細胞数が増加したところで当業者に一般的な手法により継代培養することにより、神経幹細胞状態、多能性幹細胞状態、外胚葉、中胚葉、内胚葉を簡便に生成できる遺伝子組み換え細胞を製造することができる。
この遺伝子組み換え細胞の製造結果を下記の表4に示す:
【0086】
【表4】
【0087】
従来の山中4因子とトムソン4因子から構成される6因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28)では多能性を持った遺伝子組み換え細胞を生成することはできなかった。
しかしながら、7因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT)、9因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、DPPA3)、11因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、DPPA3、アンチセンスMBD3、p53DD)を遺伝子導入することにより、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞を効率的に製造することができる。
【0088】
(神経幹細胞状態保持方法)
次に、本実施形態に係る遺伝子組み換え細胞を神経幹細胞状態に保つ培養方法について示す。
上述の7因子及び9因子に基づいて製造した遺伝子組み換え細胞について、基礎培養液としてα-MEMを用い、栄養物として10%FCSを添加し、LIF(10ng/ml)、FGF2(20ng/ml)、IWR1(2.5μM)を添加して、本実施例の遺伝子組み換え細胞を継代培養した(37℃、5%CO2)。
この状態の遺伝子組み換え細胞は、図7図8と同様の形状を保っていた。このコロニーをそれぞれ取得して、RNeasy-mini kit(Qiagen社製)によりRNAを抽出し、ReverTra Ace(東洋紡社製)、ランダムプライマーとoligo dTプライマーによりcDNAを合成した。QuantiTect RT-PCR kit(Qiagen社製)により、リアルタイムPCR法にて、遺伝子発現量を定量した。
【0089】
このリアルタイムPCR法のプライマーを、下記の表5に示す。
【0090】
【表5】
【0091】
図9は、7因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT)により製造した遺伝子組み換え細胞において、神経幹細胞状態を保持する神経幹細胞維持培養を行った際の、神経幹細胞マーカー遺伝子であるNESTINの発現量を示す。それぞれ、遺伝子組み換え細胞のNESTINの発現量と、線維芽細胞での発現量を相対量で示す。
【0092】
図10は、9因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、DPPA3)により製造した遺伝子組み換え細胞において、同様の条件での神経幹細胞マーカー遺伝子であるSOX2及びNESTINの発現量を示した図である。それぞれ、遺伝子組み換え細胞のNESTINの発現量と、線維芽細胞での発現量を相対量で示す。
このように、9因子により製造した遺伝子組み換え細胞においても、神経幹細胞マーカー遺伝子が強く発現していた。また、細胞数が増加したところで、当業者に一般的な手法により継代培養すれば神経幹細胞状態に保つことができた。
【0093】
(多能性幹細胞状態に保つ培養方法)
次に、製造された遺伝子組み換え細胞について、多能性幹細胞状態に保つ培養方法を示す。
基礎培養液としてα-MEMを用い、栄養物として10%FCSを添加し、LIF(10ng/ml)、アクチビンA(20ng/ml)、IWR1(5μM)、WH-4-023(0.3μM)、CHIR99021(1μM)、ビタミンC(50μg/ml)を添加して遺伝子組み換え細胞を継代培養した(37℃、5%CO2)。
【0094】
図11は、このようにして多能性幹細胞状態を保持する多能性幹細胞維持培養した、細胞コロニーの形態を示す。この図では、9因子を用いて製造した遺伝子組み換え細胞が培養された培養皿の様子を示す。黒い楕円の枠内には、遺伝子組み換え細胞が形成した、多能性幹細胞状態に特異的なドーム状の細胞コロニーが確認できる。
このように、細胞数が増加したところで当業者に一般的な手法により継代培養すれば、多能性幹細胞状態に保つことが可能となる。
【0095】
(多能性幹細胞状態、外胚葉、中胚葉、内胚葉を簡便に生成する培養方法)
次に、多能性幹細胞状態、外胚葉、中胚葉、内胚葉を簡便に生成する培養方法(以下、「誘導培養」という。)を示す。
基礎培養液としてα-MEMを用い、栄養物としてFCSを添加し、リピジュアコートプレート(日油社)に例示される低接着性培養皿を用いて遺伝子組み換え細胞を浮遊培養(37℃、5%CO2)した。または、接着性培養皿(TrueLine社製等)を用いて接着培養(37℃、5%CO2)した。
これにより、多能性幹細胞状態、外胚葉、中胚葉、内胚葉を簡便に、接着培養で6日以内、浮遊培養で16日以内に生成することが可能であった。
【0096】
まず、上述の誘導培養にて、多能性幹細胞状態を生成した結果について説明する。7因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT)により製造した遺伝子組み換え細胞を、10%FCSを添加したα-MEMを用い、接着性培養皿(7×104細胞/φ10cm、TrueLine社製等)を用いて、接着培養(37℃、5%CO2)した。培養6日目に、コロニーをそれぞれ取得して、上述の各実験と同様にRNAを取得し、リアルタイムPCR法にて、各マーカーのmRNA発現量を調べた。
【0097】
図12は、7因子により製造した遺伝子組み換え細胞を多能性幹細胞状態に誘導培養した際の接着培養6日目における多能性幹細胞マーカー遺伝子の発現量を示す。それぞれ、図12(a)はOCT4、図12(b)はNANAGについて、遺伝子組み換え細胞と、線維芽細胞との間のmRNA発現量の相対量を示す。本実施例の遺伝子組み換え細胞は、これら多能性幹細胞状態のマーカーを発現していた。
【0098】
次に、9因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、DPPA3)により製造した遺伝子組み換え細胞を、より未分化の多能性幹細胞状態にするよう培養した。
この場合は、10%FCSを添加したα-MEMを用い、低接着性培養皿であるリピジュアコートプレート(96穴、日油社製)により、9因子の遺伝子組み換え細胞を浮遊培養(5~10×103細胞/well、37℃、5%CO2)し、細胞塊を形成させた。6日後、6-wellプレート(細胞塊2~4個/well、TrueLine社製)に、遺伝子組み換え細胞を移し、接着培養(37℃、5%CO2)を開始した。
【0099】
図13は、9因子により製造した遺伝子組み換え細胞を多能性幹細胞状態に誘導培養した際の浮遊培養開始から16日目における多能性幹細胞マーカー遺伝子の発現量を示す。
図12の7因子により製造した遺伝子組み換え細胞と比較して、多能性幹細胞マーカーの発現量が高くなっていた。
【0100】
次に、外胚葉、中胚葉、内胚葉の生成を誘導するような誘導培養を行った。
まず、7因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT)により製造した遺伝子組み換え細胞について、10%FCSを添加したα-MEMを用い、接着性培養皿(7×104細胞/φ10cm、TrueLine社製等)を用いて接着培養(37℃、5%CO2)を開始した。
【0101】
図14は、外胚葉、中胚葉、内胚葉の生成を誘導する誘導培養をした際に、接着培養6日目における、マーカー遺伝子の発現量を示した。それぞれ、マーカー遺伝子として、外胚葉はTUBB3、中胚葉はBMP4、内胚葉はGATA6遺伝子の発現を、誘導培養した遺伝子組み換え細胞、コントロールの線維芽細胞について、いずれも測定した。結果として、本実施例の誘導培養された遺伝子組み換え細胞は、いずれのマーカーも、線維芽細胞よりも多く発現していた。
【0102】
次に、11因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、DPPA3、アンチセンスMBD3、p53DD)により製造した遺伝子組み換え細胞と、9因子(OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、NANOG、LIN28、TERT、ヒストンH1FOO、DPPA3)により製造した遺伝子組み換え細胞について、外胚葉、中胚葉、内胚葉の生成を誘導する分化誘導培養を行った。それぞれの遺伝子組み換え細胞について、10%FCSを添加したα-MEMを用い、低接着性培養皿であるリピジュアコートプレート(96穴、日油社製)により、遺伝子組み換え細胞を浮遊培養(5~10×103細胞/well、37℃、5%CO2)し、細胞塊を形成させた。6日後、6-wellプレート(細胞塊2~4個/well、TrueLine社製)に遺伝子組み換え細胞を移し、接着培養(37℃、5%CO2)を開始した。
【0103】
図15は、これらの遺伝子組み換え細胞について、外胚葉、中胚葉、内胚葉の生成を誘導する分化誘導培養を行い、浮遊培養開始から16日目おけるマーカー遺伝子の発現量を示した図である。
図15(a)(b)(c)は、11因子により製造したウシの遺伝子組み換え細胞における、外胚葉はFGF5、中胚葉はT、内胚葉はGATA6遺伝子の発現を測定した例である。それぞれ、神経幹細胞状態の維持培養をした際の遺伝子組み換え細胞でのマーカーの測定値、誘導培養した際の測定値、コントロールの線維芽細胞の測定値を示す。
この11因子により製造したウシの遺伝子組み換え細胞は、iPS細胞と同様に分化誘導させることができ、外胚葉及び中胚葉の生成が可能であった。
加えて、この11因子により製造した場合、線維芽細胞に比較して分化誘導後の中胚葉マーカー発現量が特に高くなった。
【0104】
図15(d)(e)(f)は、9因子により製造したウシの遺伝子組み換え細胞におけるマーカー遺伝子の発現を同様に測定した例である。それぞれ、神経幹細胞状態の維持培養をした際の遺伝子組み換え細胞でのマーカーの測定値、誘導培養した際の測定値、コントロールの線維芽細胞の測定値を示す。
この9因子により製造したウシの遺伝子組み換え細胞も、iPS細胞と同様に分化誘導させることができ、外胚葉及び内胚葉の生成が可能であった。
加えて、9因子により製造した場合、線維芽細胞に比較して分化誘導後の内胚葉マーカー発現量が特に高くなった。
【0105】
加えて、これら9因子、11因子により製造した遺伝子組み換え細胞は、いずれも、7因子により製造された遺伝子組み換え細胞よりも、外胚葉、中胚葉、内胚葉のマーカー遺伝子の発現量が高くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、畜産分野では家畜生産や人工肉の製造等に利用することができ、産業上利用することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15