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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039207
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】減速機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/08 20060101AFI20230313BHJP
【FI】
F16H1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146253
(22)【出願日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 幹明
(72)【発明者】
【氏名】時崎 哲平
【テーマコード(参考)】
3J009
【Fターム(参考)】
3J009EA05
3J009EA12
3J009EA21
3J009EA32
3J009EB02
3J009FA14
(57)【要約】
【課題】第1ギヤおよび第2ギヤの噛合強度を十分なものにして両者の動力伝達効率を向上させ、より大きな減速比にも容易に対応可能とする。
【解決手段】ピニオンギヤ31の軸方向視において、ピニオン本体31bの中心C1および螺旋状歯31cの中心C2が互いにずれており、ピニオン本体31bよりも螺旋状歯31cの方が大径であり、ピニオン本体31bの一部が、螺旋状歯31cの外形を形成する仮想円VCの外側にはみ出している。ピニオンギヤ31の断面形状を、螺旋状歯31cの外形を形成する仮想円VCの外側に、ピニオン本体31bの一部をはみ出させた非円形にできる。ピニオンギヤ31の大径化を抑え、その強度を向上させることができ、ピニオンギヤ31およびヘリカルギヤ32の双方の強度を向上させ、両者の動力伝達効率を向上させることができる。よって、より大きな減速比にも容易に対応可能となる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ギヤおよび第2ギヤを備えた減速機構であって、
前記第1ギヤは、
当該第1ギヤの軸方向と交差する方向の断面が円形に形成された第1本体部と、
前記第1本体部の周囲に螺旋状に設けられ、前記第1ギヤの軸方向と交差する方向の断面が三日月形に形成された1つの螺旋状歯と、
を有し、
前記第2ギヤは、
当該第2ギヤの軸方向と交差する方向の断面が円形に形成された第2本体部と、
前記第2本体部の周囲に設けられ、前記螺旋状歯が噛合される複数の斜歯と、
を有し、
前記第1ギヤの軸方向視において、
前記第1本体部の中心および前記螺旋状歯の中心が互いにずれており、
前記第1本体部よりも前記螺旋状歯の方が大径であり、
前記第1本体部の一部が、前記螺旋状歯の外形を形成する仮想円の外側にはみ出していることを特徴とする、
減速機構。
【請求項2】
請求項1に記載の減速機構において、
前記第1ギヤの軸方向視において、前記第1本体部の外形線および前記螺旋状歯の外形線が、前記第1ギヤの径方向外側に凸状となった円弧状接線により互いに接続されていることを特徴とする、
減速機構。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の減速機構において、
前記螺旋状歯には、当該螺旋状歯の前記仮想円よりも径方向内側に窪んだ窪み部が設けられていることを特徴とする、
減速機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1ギヤおよび第2ギヤを備えた減速機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に搭載されるワイパ装置やパワーウィンドウ装置等の駆動源には、小型でありながら大きな出力が得られるようにするために、減速機構が設けられている。このような車載用の駆動源に用いられる減速機構が、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された減速機構は、1つの螺旋状歯を有するピニオンギヤ(第1ギヤ)と複数の斜歯を有するヘリカルギヤ(第2ギヤ)とを備えており、1つの螺旋状歯を複数の斜歯に噛合させることで、ピニオンギヤの高速回転がヘリカルギヤの低速回転となる。これにより、減速比をより大きくしつつ、適切な噛合形状のギヤを備えた減速機構を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-184060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の特許文献1に記載された技術を実現するには、例えば、細長い部品であるピニオンギヤを鋼製とし、大きな円盤状の部品であるヘリカルギヤを樹脂製とすることが考えられる。その上で、これらのピニオンギヤおよびヘリカルギヤからなる減速機構は、比較的大きな減速比を容易に得ることができるため、両者の噛合強度を十分なものにする必要がある。
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に記載された技術では、軸方向と交差する方向において、螺旋状歯の外形を形成する仮想円(歯形円)の径方向内側に、ピニオンギヤの回転中心に配置される「芯」となる部分(芯円)が配置されている。そのため、減速機構を従前と同様の体格で形成する場合において、例えば、ヘリカルギヤの斜歯を肉厚にして対応すると、これとは逆に螺旋状歯が小径となり、これに伴いピニオンギヤの回転中心に配置される「芯」となる部分も細くなってしまう。すなわち、ヘリカルギヤの強度確保およびピニオンギヤの強度確保は、互いにトレードオフの関係となっている。
【0007】
本発明の目的は、第1ギヤおよび第2ギヤの噛合強度を十分なものにして両者の動力伝達効率を向上させ、より大きな減速比にも容易に対応することが可能な減速機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様では、第1ギヤおよび第2ギヤを備えた減速機構であって、前記第1ギヤは、当該第1ギヤの軸方向と交差する方向の断面が円形に形成された第1本体部と、前記第1本体部の周囲に螺旋状に設けられ、前記第1ギヤの軸方向と交差する方向の断面が三日月形に形成された1つの螺旋状歯と、を有し、前記第2ギヤは、当該第2ギヤの軸方向と交差する方向の断面が円形に形成された第2本体部と、前記第2本体部の周囲に設けられ、前記螺旋状歯が噛合される複数の斜歯と、を有し、前記第1ギヤの軸方向視において、前記第1本体部の中心および前記螺旋状歯の中心が互いにずれており、前記第1本体部よりも前記螺旋状歯の方が大径であり、前記第1本体部の一部が、前記螺旋状歯の外形を形成する仮想円の外側にはみ出していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1ギヤの軸方向視において、第1ギヤの形状を、螺旋状歯の外形を形成する仮想円(歯形円)の外側に、第1本体部(芯円)の一部をはみ出させた形状(非円形)にすることができる。これにより、第1ギヤの大径化を抑えつつ、第1ギヤの強度を向上させることができる。したがって、第1ギヤおよび第2ギヤの双方の強度を向上させて、両者の動力伝達効率を向上させることができる。よって、より大きな減速比にも容易に対応することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】減速機構付モータをコネクタ接続部側から見た斜視図である。
図2】減速機構付モータを出力軸側から見た斜視図である。
図3】減速機構付モータの内部構造を説明する斜視図である。
図4】減速機構の噛合部分を拡大した斜視図である。
図5図4のA矢視図である。
図6】(a),(b)は、減速機構の設計思想を説明する断面図である。
図7】シミュレーションによる微調整部分を説明する断面図である。
図8】ピニオンギヤの諸元(各部のデータ)を説明する断面図である。
図9】(a)~(e)は、減速機構の動作を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
図1は減速機構付モータをコネクタ接続部側から見た斜視図を、図2は減速機構付モータを出力軸側から見た斜視図を、図3は減速機構付モータの内部構造を説明する斜視図を、図4は減速機構の噛合部分を拡大した斜視図を、図5図4のA矢視図を、図6(a),(b)は減速機構の設計思想を説明する断面図を、図7はシミュレーションによる微調整部分を説明する断面図を、図8はピニオンギヤの諸元(各部のデータ)を説明する断面図を、図9(a)~(e)は減速機構の動作を説明する説明図をそれぞれ示している。
【0013】
図1および図2に示される減速機構付モータ10は、例えば、自動車等の車両に搭載されるワイパ装置(図示せず)の駆動源に用いられる。具体的には、減速機構付モータ10は、フロントガラス(図示せず)の前方側に配置され、かつフロントガラス上に揺動自在に設けられたワイパ部材(図示せず)を、所定の払拭範囲(下反転位置と上反転位置との間)で揺動させる。
【0014】
減速機構付モータ10は、その外郭を形成するハウジング11を備えている。ハウジング11の内部には、図3に示されるように、ブラシレスモータ20および減速機構30が回転自在に収容されている。ここで、図1および図2に示されるように、ハウジング11は、アルミ製のケーシング12およびプラスチック製のカバー部材13から形成される。
【0015】
ケーシング12は、溶融されたアルミ材料を射出成形することにより、略お椀形に形成されている。具体的には、ケーシング12は、底壁部12aと、その周囲に一体に設けられた側壁部12bと、ケーシング12の開口側(図中左側)に設けられたケースフランジ12cと、を備えている。
【0016】
底壁部12aの略中央部分には、出力軸34を回転自在に支持する筒状のボス部12dが一体に設けられている。ボス部12dの径方向内側には、所謂メタルと呼ばれる筒状の軸受部材(図示せず)が装着され、これにより出力軸34は、ボス部12dに対してがたつくこと無くスムーズに回転可能となっている。
【0017】
また、ボス部12dの径方向外側には、ボス部12dを中心に放射状に延びる複数の補強リブ12eが一体に設けられている。これらの補強リブ12eは、ボス部12dと底壁部12aとの間に配置され、外観が略三角形となっている。これらの補強リブ12eは、ボス部12dの底壁部12aに対する固定強度を高めるもので、ボス部12dが底壁部12aに対して傾斜する等の不具合の発生を防止する。
【0018】
さらに、底壁部12aのボス部12dからオフセットした位置には、軸受部材収容部12fが一体に設けられている。軸受部材収容部12fは有底筒状に形成され、ボス部12dの突出方向と同じ方向に突出されている。軸受部材収容部12fの内部には、ピニオンギヤ31の先端側を回転自在に支持するボールベアリング33(図3参照)が収容される。
【0019】
ここで、図2に示されるように、ボス部12dと出力軸34との間には、止め輪12gが設けられている。これにより、出力軸34がボス部12dの軸方向にがたつくことが防止される。よって、減速機構付モータ10の十分な静粛性が確保される。
【0020】
ハウジング11を形成するカバー部材13は、プラスチック等の樹脂材料を射出成形することで略平板状に形成されている。具体的には、カバー部材13は、本体部13aと、その周囲に一体に設けられたカバーフランジ13bと、を備えている。カバーフランジ13bは、Oリング等のシール部材(図示せず)を介して、ケースフランジ12cに突き当てられる。これにより、ハウジング11の内部への雨水や埃等の進入が防止される。
【0021】
また、カバー部材13の本体部13aには、ブラシレスモータ20(図3参照)を収容するモータ収容部13cが一体に設けられている。モータ収容部13cは有底筒状に形成され、ケーシング12側とは反対側に突出されている。モータ収容部13cは、カバー部材13をケーシング12に装着した状態で、ケーシング12の軸受部材収容部12fと対向する。そして、モータ収容部13cの内側には、ブラシレスモータ20のステータ21(図3参照)が固定されている。
【0022】
さらに、カバー部材13の本体部13aには、車両側の外部コネクタ(図示せず)が接続されるコネクタ接続部13dが一体に設けられている。コネクタ接続部13dの内側には、ブラシレスモータ20に駆動電流を供給するための複数のターミナル部材13e(図1では1つのみ示す)の一端側が露出されている。これらのターミナル部材13eを介して、外部コネクタからブラシレスモータ20に駆動電流が供給される。
【0023】
なお、複数のターミナル部材13eの他端側とブラシレスモータ20との間には、ブラシレスモータ20の回転状態(回転数や回転方向等)を制御する制御基板(図示せず)が設けられている。これにより、出力軸34の先端側に固定されたワイパ部材が、フロントガラス上の所定の払拭範囲で揺動される。なお、制御基板は、カバー部材13における本体部13aの内側に固定されている。
【0024】
図3に示されるように、ハウジング11の内部に収容されるブラシレスモータ20は、環状のステータ(固定子)21を備えている。ステータ21は、カバー部材13におけるモータ収容部13c(図1および図2参照)の内部に、回り止めされた状態で固定される。
【0025】
ステータ21は、複数の薄い鋼板(磁性体)を積層して形成され、その径方向内側には複数のティース(図示せず)が設けられている。そして、これらのティースには、U相,V相,W相のコイル21aが、それぞれ集中巻き等により複数回巻装されている。これにより、それぞれのコイル21aに所定のタイミングで交互に駆動電流を供給することで、ステータ21の径方向内側に設けられたロータ22が、所定の回転方向に所定の駆動トルクで回転される。
【0026】
ステータ21の径方向内側には、微小隙間(エアギャップ)を介してロータ(回転子)22が回転自在に設けられている。ロータ22は、複数の薄い鋼板(磁性体)を積層して略円柱状に形成されたロータ本体22aを備えている。そして、ロータ本体22aの外周部分には、筒状の永久磁石22bが装着されている。ここで、永久磁石22bは、その周方向にN極およびS極が交互に並ぶように着磁されている。また、永久磁石22bは、ロータ本体22aの外周部分に接着剤等により強固に固定されている。
【0027】
このように、本実施の形態に係るブラシレスモータ20は、ロータ本体22aの外周部分(表面)に永久磁石22bが固定されたSPM(Surface Permanent Magnet)構造のブラシレスモータとなっている。ただし、SPM構造のブラシレスモータに限らず、ロータ本体22aに複数の永久磁石を埋め込んだIPM(Interior Permanent Magnet)構造のブラシレスモータを採用することもできる。
【0028】
また、筒状に形成された1つの永久磁石22bに換えて、ロータ本体22aの軸線と交差する方向の断面が円弧状に形成された複数の永久磁石を、ロータ本体22aの表面に磁極が交互に並ぶように等間隔で固定したものであっても良い。さらには、永久磁石22bの極数は、ブラシレスモータ20の仕様に応じて、2極あるいは4極以上等、任意に設定可能である。
【0029】
図3に示されるように、ハウジング11の内部に収容される減速機構30は、棒状に形成されたピニオンギヤ(第1ギヤ)31と、円盤状に形成されたヘリカルギヤ(第2ギヤ)32とを備えている。ここで、ピニオンギヤ31の軸線とヘリカルギヤ32の軸線とは互いに平行となっている。これにより、減速機構30においては、互いに軸線が直交するウォームおよびウォームホイールを備えたウォーム減速機に比して、その体格をよりコンパクトにすることが可能となっている。
【0030】
また、ピニオンギヤ31は減速機構付モータ10のブラシレスモータ20側(駆動源側)に配置され、ヘリカルギヤ32は減速機構付モータ10の出力軸34側(駆動対象物側)に配置されている。つまり、減速機構30は、歯数が少ないピニオンギヤ31の高速回転を、歯数が多いヘリカルギヤ32の低速回転に減速する。
【0031】
ここで、ピニオンギヤ31の基端側は、ロータ本体22aの回転中心に圧入等により強固に固定され、ピニオンギヤ31はロータ本体22aと一体回転する。つまり、ピニオンギヤ31は、ロータ22により回転駆動される。また、ピニオンギヤ31の先端側は、ボールベアリング33により回転自在に支持されている。さらに、ヘリカルギヤ32の回転中心には、出力軸34の基端側が圧入等により強固に固定され、出力軸34はヘリカルギヤ32と一体回転する。
【0032】
減速機構30を形成するピニオンギヤ31は鋼(金属)製であり、図4ないし図9に示されるような形状となっている。具体的には、ピニオンギヤ31の基端側および先端側には、円柱状に形成された装着部31aがそれぞれ設けられ、基端側の装着部31aはロータ本体22aに固定され、先端側の装着部31aはボールベアリング33に回転自在に支持されている。すなわち、ピニオンギヤ31(装着部31a)の中心C1は、ロータ本体22aおよびボールベアリング33の回転中心に一致している。
【0033】
ピニオンギヤ31は、当該ピニオンギヤ31の軸方向に延びるピニオン本体31bを備えている。ピニオン本体31bは、本発明における第1本体部に相当し、ピニオンギヤ31の軸方向と交差する方向(直交方向)の断面は、円形に形成されている。また、ピニオン本体31bは、ピニオンギヤ31の「芯」となる部分を形成しており、中心C1を中心に回転される。ピニオンギヤ31の剛性の高低(曲げ強度等)は、当該ピニオン本体31bの太さに左右される。本実施の形態では、減速機構付モータ10の体格に合わせて、ピニオン本体31b(芯円)の太さは、図8に示されるように、半径r1≒1.7mm(直径2×r1≒3.4mm)となっている。
【0034】
さらに、ピニオンギヤ31は、ヘリカルギヤ32の斜歯32cに噛合される1つの(単一の)螺旋状歯31cを備えている。螺旋状歯31cは、本発明における第1歯部に相当し、ピニオン本体31bの周囲に螺旋状となるように一体に設けられている。また、ピニオンギヤ31の軸方向と交差する方向(直交方向)の螺旋状歯31cの断面は、三日月形に形成されている(図8の網掛部分)。螺旋状歯31cは、ピニオン本体31bの軸方向に螺旋状に連なっており、その歯数は「1」である。螺旋状歯31cの剛性、すなわち動力伝達効率の良し悪し等は、当該螺旋状歯31cの厚みに左右される。本実施の形態では、減速機構付モータ10の体格に合わせて、螺旋状歯31cを形成する仮想円(歯形円)VCの大きさは、図8に示されるように、半径r2≒2.0mm(直径2×r2≒4.0mm)となっている(r2>r1)。
【0035】
ここで、図8に示されるように、螺旋状歯31cの中心C2(仮想円VCの中心C2)は、ピニオン本体31bの中心C1に対して、所定の離間距離L1の分だけ偏芯(オフセット)されている。なお、本実施の形態では、離間距離L1は、基準偏芯量(≒1.0mm)に、偏芯補正量(≒0.8mm)を加算した値となっている(L1≒1.8mm)。つまり、ピニオンギヤ31の軸方向視(図4の矢印A方向)において、ピニオン本体31bの中心C1および螺旋状歯31cの中心C2は互いにずれている。また、ピニオン本体31bよりも螺旋状歯31c(仮想円VC)の方が大径となっている。さらには、ピニオン本体31bの一部は、螺旋状歯31cの外形を形成する仮想円VCの外側(図中上側)にはみ出している。
【0036】
これにより、ピニオンギヤ31の軸方向視において、ピニオンギヤ31の断面形状を略たまご形状(非円形)として、減速機構付モータ10の体格を殆ど大きくすることなく、ピニオン本体31bおよび螺旋状歯31cの強度を十分に確保することが可能となる。
【0037】
ここで、ピニオンギヤ31の軸方向視において、ピニオン本体31bの外形線LN1および螺旋状歯31cの外形線LN2は、ピニオンギヤ31の径方向外側に凸状となった一対の円弧状接線LN3によって互いに接続されている。したがって、ピニオンギヤ31の外形が滑らかな種々の曲率の曲線で形成されて、ひいては「ワーリング加工法(外径ワーリング)」によりピニオンギヤ31を精度良く製造することが可能となる。
【0038】
なお、図8に示されるように、ピニオンギヤ31における一対の円弧状接線LN3の部分には、ピニオン本体31bと螺旋状歯31cとの間の窪んだ部分を埋めるようにして、肉盛部31dがそれぞれ設けられている。
【0039】
このようにして、ピニオンギヤ31の全体の強度を十分に確保できるようになるため、減速機構30の動力伝達効率を向上させることが可能となる。ここで、螺旋状歯31c(仮想円VC)の中心C2は、ピニオン本体31bの回転に伴い、回転軌跡RTを辿る。言い換えれば、回転軌跡RTは、螺旋状歯31cの基準円となっている。
【0040】
また、図8に示されるように、ピニオン本体31bの中心C1から螺旋状歯31cの中心C2に向けて(図中下方に向けて)補助線ALを引き、当該補助線ALをさらに螺旋状歯31cの表面まで延ばすと、補助線ALと螺旋状歯31cの表面とが交差する。当該交差点は、螺旋状歯31cの頂点TPとなっている。
【0041】
次に、図6(a),(b)ないし図8を用いて、ピニオンギヤ31の設計思想について説明する。
【0042】
減速機構付モータ10(図1および図2参照)の体格を基準として、できる限り減速機構付モータ10の体格を大きくせずに、ピニオンギヤ31の強度を高めることを考える。具体的には、図6(a)に示されるように、直径2×r2の螺旋状歯31cに対して、直径2×r1のピニオン本体31bを、所定の離間距離L2の分だけ偏芯させる。当該設計段階では、螺旋状歯31cの中心C2とピニオン本体31bの回転中心C1との離間距離L2は、基準偏芯量(≒1.0mm)となっている。これにより、減速機構付モータ10の体格を殆ど大きくすることなく、ピニオンギヤ31の強度を高めることが可能となる。
【0043】
その一方で、図6(b)に示されるように、減速機構30の作動時において、ピニオン本体31bとヘリカルギヤ32の斜歯32cとが干渉しないようにするために、斜歯32cを、後退寸法BKの分だけ後退させる必要が生じる。つまり、斜歯32cの歯たけHを、後退寸法BKの分だけ短くする必要が生じる。このような対応では、螺旋状歯31cと斜歯32cとの噛合深さが浅くなってしまい、螺旋状歯31cと斜歯32cとの噛合強度が低下してしまう。したがって、減速機構30の動力伝達効率を下げることなる。
【0044】
これを回避すべく、本実施の形態の減速機構30では、図6(b)に示されるように、十分な斜歯32cの歯たけHを確保するために、直径2×r1のピニオン本体31bを、ヘリカルギヤ32の径方向外側に逃がしている(オフセットさせている)。具体的には、直径2×r2の螺旋状歯31cに対して、直径2×r1のピニオン本体31bを、所定の離間距離L1の分だけ偏芯させている。この場合の離間距離L1と離間距離L2との差が、上述した偏芯補正量(≒0.8mm)となる。これにより、減速機構付モータ10の体格を殆ど大きくすることなく、螺旋状歯31cと斜歯32cとの噛合強度を十分なものにしている。
【0045】
その後の設計段階(最終段階)において、減速機構30が実際に動作可能か否かを、有限要素法を用いたシミュレーション等(FEM解析等)で確認したところ、別の不具合が発見された。具体的には、図6(b)に示される設計段階では、ヘリカルギヤ32の隣り合う斜歯32cの間の噛合凹部32dに対して、直径2×r2の螺旋状歯31cが略隙間なく入り込んでいる。この状態では、図7に示されるように、シミュレーション上で減速機構30を作動させると、螺旋状歯31cの歯先の部分(図8の頂点TPの近傍部分)と、斜歯32cの歯先の部分(図7の上側の部分)とが干渉することが判明した(図中網掛部分)。
【0046】
そこで、本実施の形態では、図8に示されるように、螺旋状歯31cの歯先の部分を、斜歯32cの歯先の部分と干渉しない程度に、最小限の微小量Dの分だけ円弧状に削る(微調整する)処理を施している。具体的には、図8の二点鎖線に示されるように、螺旋状歯31cの歯先部分に、当該螺旋状歯31cの仮想円VCよりも径方向内側に窪んだ窪み部31eを設けている。このように、窪み部31eを設けることで、螺旋状歯31cと斜歯32cとの干渉を防止している。よって、減速機構30のスムーズな動作が可能となる。
【0047】
ただし、窪み部31eを設けたことに起因して、ピニオンギヤ31の強度が低下するようであれば、ピニオンギヤ31の周囲でスペース的に余裕がある箇所、具体的には、図8に示されるように、ピニオン本体31b側でかつ外側の部分に、例えば、厚み寸法Gの他の肉盛部31f(図中破線部分)を設けることもできる。この場合、他の肉盛部31fを形成する部分の外形線においても、ピニオンギヤ31の径方向外側に凸状かつ円弧状となるようにする。これにより「ワーリング加工法(外径ワーリング)」を用いて、容易かつ高精度でピニオンギヤ31の製造が可能となる。
【0048】
上述のように、ピニオンギヤ31の断面形状を、ピニオン本体31bよりも螺旋状歯31cの方を大径とし、かつ螺旋状歯31cの歯先の部分(頂点TPの近傍部分)を、干渉を避ける最小限の微小量Dの分だけ削るようにしたので、螺旋状歯31cと斜歯32cとの接触状態が十分に適正化されることが判った。より具体的には、図9(a)および図9(e)に示されるように、螺旋状歯31cが接触部分CPにおいて斜歯32cの略真横に接触した状態となり、かつ螺旋状歯31cから加わる荷重Fの方向が、ヘリカルギヤ32の回転方向Rbに略一致した状態となる。言い換えれば、螺旋状歯31cの斜歯32cに対する「圧力角」が小さくなっている。
【0049】
このように、ピニオンギヤ31の強度およびヘリカルギヤ32の強度がいずれも十分なものとなり、かつ螺旋状歯31cが斜歯32cに干渉することもないため、減速機構30の動力伝達効率は、十分に高められたことが判明した。
【0050】
図3ないし図7に示されるように、減速機構30を形成するヘリカルギヤ32はプラスチック等の樹脂材料を射出成形することで略円盤状に形成されている。具体的には、ヘリカルギヤ32はギヤ本体32aを備えており、当該ギヤ本体32aは、ヘリカルギヤ32の軸方向と交差する方向(直交方向)の断面が円形となっている。ギヤ本体32aは、本発明における第2本体部に相当する。そして、ギヤ本体32aの回転中心に、出力軸34の基端側が固定されており、ギヤ本体32aの外周部分には、出力軸34の軸方向に延びる筒状部32bが一体に設けられている。
【0051】
筒状部32bの径方向外側、つまりギヤ本体32aの周囲には、筒状部32bの周方向に並ぶようにして、複数の斜歯(第2歯部)32cが一体に設けられている。これらの斜歯32cは、ヘリカルギヤ32の軸方向に対して所定角度で傾斜して設けられ、ピニオンギヤ31の螺旋状歯31cが噛合される。これにより、螺旋状歯31cの回転に伴い、ヘリカルギヤ32は回転される。なお、ヘリカルギヤ32の斜歯32cの歯数は「40」となっている。つまり、本実施の形態では、減速機構30の減速比は「40」であり、ピニオンギヤ31が40回転すると、ヘリカルギヤ32が漸く1回転される減速度が得られる。
【0052】
そして、隣り合う斜歯32cの間には、ピニオンギヤ31の螺旋状歯31cが入り込める噛合凹部32dが設けられている。すなわち、噛合凹部32dにおいても、斜歯32cと同様に、ヘリカルギヤ32の軸方向に対して所定角度で傾斜されている。そして、噛合凹部32dの曲率中心C3は、ヘリカルギヤ32の基準円BC1上に配置されている。また、噛合凹部32dには、半径r2の螺旋状歯31c(図8の網掛部分)が略隙間なく入り込めるようになっている。
【0053】
ここで、斜歯32cの歯たけHは、噛合凹部32dの最も深い部分を通過する歯底円BC2から基準円BC1までの高さとなっている(図5参照)。また、隣り合う噛合凹部32dのなす角度は、ヘリカルギヤ32の歯数が「40」であり、かつ噛合凹部32dの数も「40」であるため、本実施の形態では「9度」となっている。
【0054】
次に、以上のように形成された減速機構30の動作、つまりピニオンギヤ31とヘリカルギヤ32との噛合動作について、図面を用いて詳細に説明する。
【0055】
図9(a)に示されるように、ブラシレスモータ20(図3参照)の駆動によりピニオンギヤ31が矢印Raの方向に回転されると、螺旋状歯31cが斜歯32cに噛合される。これにより、接触部分CPにおいて、斜歯32cの側方に螺旋状歯31cからの駆動力(荷重F)が伝達される。このような螺旋状歯31cの斜歯32cに対する噛合動作(接触部分CP)は、ピニオンギヤ31およびヘリカルギヤ32の回転に伴い、ピニオンギヤ31およびヘリカルギヤ32の軸方向に徐々に移動していくことになる。そして、斜歯32cは、ヘリカルギヤ32の軸方向に対して傾斜しているので、これによりヘリカルギヤ32は、ピニオンギヤ31よりも減速された状態で回転される。
【0056】
ここで、図9(a)~(e)に示されるように、ピニオンギヤ31およびヘリカルギヤ32の軸方向における一部分のみに着目すると、ピニオンギヤ31が矢印Raの方向に1回転することで、図9(a)~(e)のように、螺旋状歯31cは1つの斜歯32c(図中星印)を乗り越える。これにより、図9(e)に示されるように、1回転された螺旋状歯31cは、次の斜歯32c(図中星印)に噛合される。なお、図9(b)~(d)に示されるように、ピニオンギヤ31の軸方向における一部分の螺旋状歯31cが、斜歯32cに噛合されていない状態では、ピニオンギヤ31の軸方向における他の部分の螺旋状歯31cが、斜歯32cに噛合された状態となる。
【0057】
このように、螺旋状歯31cが1回転すると、ヘリカルギヤ32は斜歯32cの1つ分だけ回転される(図中星印の斜歯32cの移動状態を参照)。すなわち、ピニオンギヤ31が1回転する間に、ヘリカルギヤ32は9度分だけ回転される。言い換えれば、ピニオンギヤ31が40回転することで、ヘリカルギヤ32が漸く1回転される(減速比40)。よって、ヘリカルギヤ32は、ピニオンギヤ31の40倍の回転トルク(高トルク)で回転されることになる。
【0058】
以上詳述したように、本実施の形態によれば、ピニオンギヤ31の軸方向視において、ピニオン本体31bの中心C1および螺旋状歯31cの中心C2が互いにずれており、ピニオン本体31bよりも螺旋状歯31cの方が大径であり、ピニオン本体31bの一部が、螺旋状歯31cの外形を形成する仮想円VCの外側にはみ出している。
【0059】
これにより、ピニオンギヤ31の軸方向視において、ピニオンギヤ31の形状(断面形状)を、螺旋状歯31cの外形を形成する仮想円(歯形円)VCの外側に、ピニオン本体31b(芯円)の一部をはみ出させた形状(略たまご形状の非円形)にすることができる。したがって、ピニオンギヤ31の大径化を抑えつつ、当該ピニオンギヤ31の強度を向上させることができる。よって、ピニオンギヤ31およびヘリカルギヤ32の双方の強度を向上させて、両者の動力伝達効率を向上させることができる。よって、より大きな減速比にも容易に対応することが可能となる。
【0060】
また、本実施の形態によれば、ピニオンギヤ31の軸方向視において、ピニオン本体31bの外形線LN1および螺旋状歯31cの外形線LN2が、ピニオンギヤ31の径方向外側に凸状となった一対の円弧状接線LN3により互いに接続されている。
【0061】
これにより、ピニオンギヤ31の外形を滑らかな種々の曲率の曲線で形成することができ、ひいては「ワーリング加工法(外径ワーリング)」を用いて、ピニオンギヤ31を容易にかつ精度良く製造することが可能となる。
【0062】
さらに、本実施の形態によれば、螺旋状歯31cには、螺旋状歯31cの仮想円VCよりも径方向内側に窪んだ窪み部31eが設けられている。
【0063】
これにより、螺旋状歯31cと斜歯32cとの干渉を防止することができ、減速機構30のスムーズな動作、つまり螺旋状歯31cと斜歯32cとのスムーズな噛合動作が可能となる。よって、減速機構30の動力伝達効率を向上させることができ、ひいては駆動源であるブラシレスモータ20の消費電力を抑えること等が可能となる。
【0064】
また、本実施の形態によれば、ピニオンギヤ31およびヘリカルギヤ32の強度を十分に確保して長寿命化が図れ、かつ駆動源であるブラシレスモータ20の消費電力を抑えることができる。したがって、製造および動作に関わるエネルギーの省力化を図ることが可能となる。よって、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)において、特に目標7(手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する)および目標13(気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る)に貢献することができる。
【0065】
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上述の実施の形態では、減速機構30を、車両に搭載されるワイパ装置の駆動源に適用したものを示したが、本発明はこれに限らず、パワーウィンドウ装置の駆動源,サンルーフ装置の駆動源,シートリフター装置の駆動源等の他の駆動源にも適用することができる。
【0066】
さらに、上述の実施の形態では、減速機構30をブラシレスモータ20で駆動させたものを示したが、本発明はこれに限らず、ブラシレスモータ20に換えてブラシ付きモータ等で駆動させることもできる。
【0067】
その他、上述の実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、上述の実施の形態に限定されない。
【符号の説明】
【0068】
10:減速機構付モータ,11:ハウジング,12:ケーシング,12a:底壁部,12b:側壁部,12c:ケースフランジ,12d:ボス部,12e:補強リブ,12f:軸受部材収容部,12g:止め輪,13:カバー部材,13a:本体部,13b:カバーフランジ,13c:モータ収容部,13d:コネクタ接続部,13e:ターミナル部材,20:ブラシレスモータ,21:ステータ,21a:コイル,22:ロータ,22a:ロータ本体,22b:永久磁石,30:減速機構,31:ピニオンギヤ(第1ギヤ),31a:装着部,31b:ピニオン本体(第1本体部),31c:螺旋状歯,31d:肉盛部,31e:窪み部,31f:他の肉盛部,32:ヘリカルギヤ(第2ギヤ),32a:ギヤ本体(第2本体部),32b:筒状部,32c:斜歯,32d:噛合凹部,33:ボールベアリング,34:出力軸,AL:補助線,BC1:基準円,BC2:歯底円,C1:ピニオン本体31bの中心,C2:螺旋状歯31cの中心,CP:接触部分,LN1:ピニオン本体31bの外形線,LN2:螺旋状歯31cの外形線,LN3:円弧状接線,VC:仮想円(歯形円)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9