(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039238
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】樹脂の製造方法、超純水製造方法及び超純水製造装置
(51)【国際特許分類】
B01J 49/07 20170101AFI20230313BHJP
B01J 41/12 20170101ALI20230313BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20230313BHJP
B01J 31/08 20060101ALI20230313BHJP
C01B 5/00 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
B01J49/07
B01J41/12
C02F1/58 H
C02F1/58 T
B01J31/08 M
C01B5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146298
(22)【出願日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】近藤 司
(72)【発明者】
【氏名】市原 史貴
(72)【発明者】
【氏名】菅原 広
【テーマコード(参考)】
4D038
4G169
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB26
4D038AB27
4G169AA03
4G169BA23A
4G169BA23B
4G169BC69A
4G169BC72A
4G169BC75A
4G169CA05
4G169CA10
4G169CA11
4G169DA06
(57)【要約】
【課題】精製工程を効率化することが可能な新しい触媒金属担持樹脂の製造方法と、それによって製造された触媒金属担持樹脂を用いた超純水製造方法を提供する
【解決手段】樹脂Xの製造方法は、触媒金属が担持された第1のアニオン交換樹脂A1と、触媒金属が担持されていない第2のアニオン交換樹脂A2とを同一の容器に充填することと、上記容器に充填された第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2とを一緒に精製することと、を有する。超純水製造方法は、このようにして製造された樹脂Xを少なくとも含むイオン交換樹脂に、過酸化水素または溶存酸素を含む被処理水を接触させて、過酸化水素または溶存酸素の量を低減することを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒金属が担持された第1のアニオン交換樹脂と、触媒金属が担持されていない第2のアニオン交換樹脂とを同一の容器に充填することと、
前記容器に充填された前記第1のアニオン交換樹脂と前記第2のアニオン交換樹脂とを一緒に精製することと、
を有する樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記第1のアニオン交換樹脂が前記第2のアニオン交換樹脂の上に積層される、請求項1に記載の樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記第1のアニオン交換樹脂と前記第2のアニオン交換樹脂の少なくともいずれかは、精製前はCl形である、請求項1または2に記載の樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記第1のアニオン交換樹脂と前記第2のアニオン交換樹脂の母体樹脂が実質的に同じである、請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記触媒金属は過酸化水素分解能力を有する白金族金属であり、前記第1のアニオン交換樹脂に担持された前記触媒金属の担持量が、10mg-触媒/L-R以上、500mg-触媒/L-R以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂の製造方法。
【請求項6】
精製の際に、前記第1のアニオン交換樹脂から前記触媒金属の一部が脱離し、脱離した前記触媒金属が前記第2のアニオン交換樹脂に再担持される、請求項1から5のいずれか1項に記載の樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の樹脂の製造方法によって製造された触媒金属担持樹脂を少なくとも含むイオン交換樹脂に、過酸化水素または溶存酸素を含む被処理水を接触させて、前記過酸化水素または溶存酸素の量を低減することを有する、超純水製造方法。
【請求項8】
イオン交換樹脂が充填されたイオン交換装置を有し、前記イオン交換樹脂は少なくとも、請求項1から6のいずれか1項に記載の樹脂の製造方法によって製造された樹脂を含む、超純水製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の製造方法と、それによって製造された樹脂を用いた超純水製造方法及び超純水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理水に含まれる有機物を除去するために、被処理水に紫外線を照射することが知られている。被処理水に紫外線を照射することで水が分解され、ヒドロキシラジカル(OH-)が発生し、ヒドロキシラジカルと有機物が反応することで有機物が分解される。ヒドロキシラジカルが有機物と反応せず、ヒドロキシラジカル同士で反応すると過酸化水素が生成される。過酸化水素を含む超純水がユースポイント(例えば、ウエハ等の電子部品の洗浄装置等)に供給されると、ウエハへのダメージなどが生じる可能性があるため、余剰の過酸化水素は極力除去することが望ましい。そのための手段として、パラジウムなどの触媒金属を担持したアニオン交換樹脂(以下、触媒金属担持樹脂という)に被処理水を接触させる方法が知られている(特許文献1)。この方法によれば、触媒金属の触媒作用によって過酸化水素の分解反応(2H2O2→2H2O+O2)が促進され、過酸化水素を効率的に除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超純水製造装置などの水処理装置では、触媒金属を担持しないアニオン交換樹脂(以下、触媒金属非担持樹脂という)も用いられる。従来、触媒金属担持樹脂と触媒金属非担持樹脂は別々の製品であるため、別々に精製されている。このため、触媒金属担持樹脂と触媒金属非担持樹脂の両者が必要な場合、コストの削減や製造に要する時間の短縮が難しい。
【0005】
本発明は精製工程を効率化することが可能な新しい樹脂の製造方法と、それによって製造された樹脂を用いた超純水製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の樹脂の製造方法は、触媒金属が担持された第1のアニオン交換樹脂と、触媒金属が担持されていない第2のアニオン交換樹脂とを同一の容器に充填することと、上記容器に充填された第1のアニオン交換樹脂と第2のアニオン交換樹脂とを一緒に精製することと、を有する。
【0007】
本発明の超純水製造方法は、上記の樹脂の製造方法によって製造された樹脂に、過酸化水素または溶存酸素を含む被処理水を接触させて、過酸化水素または溶存酸素の量を低減することを有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、容器に充填された第1のアニオン交換樹脂と第2のアニオン交換樹脂とを一緒に精製する。このため、本発明によれば、精製工程を効率化することが可能な新しい樹脂の製造方法と、それによって製造された樹脂を用いた超純水製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る超純水製造装置のサブシステムの概要図である。
【
図2】触媒金属担持樹脂とカチオン交換樹脂の精製方法と充填方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る超純水製造装置のサブシステム1の概要を示している。サブシステム1は、1次純水システムで製造された純水から、ユースポイント20に供給される超純水を製造するためのシステムで、2次純水システムとも呼ばれる。サブシステム1は、1次純水タンク2と、純水供給ポンプ3と、熱交換器4と、紫外線酸化装置5と、イオン交換装置6と、脱気装置7と、限外ろ過膜装置8と、を有し、これらは母管L1に沿ってこの順で、被処理水の流通方向Dに沿って直列に配置されている。母管L1のユースポイント20への分岐部は、ユースポイント20で使用されなかった超純水を1次純水タンク2に還流するリターンラインL2によって、1次純水タンク2に接続されている。1次純水タンク2には1次純水システムで製造された純水が貯蔵されている。この純水、すなわちサブシステム1の被処理水は溶存酸素を含んでいてもよい。本実施形態の超純水製造方法によれば、少なくとも触媒金属担持樹脂を含むイオン交換樹脂に、過酸化水素または溶存酸素を含む被処理水を接触させることで、過酸化水素または溶存酸素の量が低減される。触媒金属担持樹脂は以下に述べる製造方法によって製造される。
【0011】
1次純水タンク2に貯蔵される被処理水は、純水供給ポンプ3で圧送され熱交換器4で温度調整された後、紫外線酸化装置5に供給される。紫外線酸化装置5は被処理水に紫外線を照射し、被処理水に含まれる有機物を分解する。紫外線照射装置5としては、例えば254nm、185nm、172nmの少なくともいずれかの波長を含む紫外線ランプを用いることができる。紫外線が被処理水に照射されることで被処理水が分解され、ヒドロキシラジカル(OH-)が発生し、ヒドロキシラジカルと有機物が反応することで有機物が分解する。ヒドロキシラジカルが有機物と反応せず、ヒドロキシラジカル同士で反応すると過酸化水素が生成される。つまり、イオン交換装置6に供給される被処理水は、有機物を含む水に紫外線を照射して有機物を酸化分解することで得られる処理水であり、この処理水は紫外線照射によって生成された過酸化水素を含んでいる。イオン交換装置6については後述する。
【0012】
脱気装置7は被処理水に含まれる溶存酸素や二酸化炭素を除去する。脱気処理は例えば膜式脱気によって行われる。膜式脱気では脱気膜の一方の側に被処理水を通水し、他方の側を真空ポンプによって減圧する。これによって、被処理水中の溶存酸素や二酸化炭素が脱気膜を透過して被処理水から除去される。限外ろ過膜装置8は微粒子を除去するために設けられている。限外ろ過膜装置8としては分画分子量が4000以上(例えば、4000~6000程度)の膜を用いたものが挙げられる。限外ろ過膜は膜自体からの溶出が少ないものが好ましく、ポリスルフォンが好適に使用できる。限外ろ過膜装置8の処理水である超純水はユースポイント20に供給される。
【0013】
図示は省略するが、被処理水が溶存酸素を含む場合、被処理水に水素を添加してもよい。触媒金属によって酸素が水素と反応して水となることで、溶存酸素が除去される。水素は被処理水が触媒金属担持樹脂で処理される前に添加されればよいので、水素添加設備はイオン交換装置6の上流側に設けられる。
【0014】
イオン交換装置6には、触媒金属担持樹脂Xとカチオン交換樹脂K2(
図2参照)とが充填されている。触媒金属担持樹脂Xは第1の触媒金属担持樹脂R1’と第2の触媒金属担持樹脂R2’と、からなる。なお、以下の説明において、第1の触媒金属担持樹脂R1’(実施例)及び第2の触媒金属担持樹脂R2’(実施例)並びに触媒金属担持樹脂R1(比較例)及び触媒金属非担持樹脂R2(比較例)は、個々の樹脂の粒子である。第1の触媒金属担持樹脂R1’は過酸化水素分解能力を有する触媒金属が担持されたアニオン交換樹脂である。第1の触媒金属担持樹脂R1’は紫外線照射によって発生した過酸化水素を分解するとともに、アニオン成分を除去する。触媒金属としては、パラジウム(Pd)、白金(Pt)など白金族金属が挙げられる。第2の触媒金属担持樹脂R2’は、母体樹脂が第1の触媒金属担持樹脂R1’と実質的に同じであるか、または同じであることが好ましい。第2の触媒金属担持樹脂R2’は、過酸化水素分解能力を有する触媒金属が担持された樹脂の粒子と、過酸化水素分解能力を有する触媒金属が担持されていない樹脂の粒子と、を含んでもよいが、通常は、触媒金属が担持されていない樹脂の粒子の割合が第1の触媒金属担持樹脂R1’と比べて多い。第2の触媒金属担持樹脂R2’は第1の触媒金属担持樹脂R1’と同様に、紫外線照射装置5によって発生した過酸化水素を分解するとともに、アニオン成分を除去する。カチオン交換樹脂K2はカチオン成分を除去する。カチオン交換樹脂K2には過酸化水素分解能力を有する触媒金属は担持されていない。イオン交換装置6の流量は、触媒金属担持樹脂Xに被処理水を30(/hr)以上、2000(/hr)以下の通水空間速度で接触させるように設定することが好ましい。これによって、処理流量を確保しながら過酸化水素を効率よく除去することができる。触媒金属担持樹脂Xで処理された処理水中の過酸化水素濃度は5μg/L(ppb)以下まで低減される。
【0015】
ここで、第1の触媒金属担持樹脂R1’と第2の触媒金属担持樹脂R2’とカチオン交換樹脂K2の製造方法と充填方法について説明する。第1の触媒金属担持樹脂R1’は、過酸化水素分解能力を有する触媒金属が担持された第1のアニオン交換樹脂A1を精製することによって作られる。第2の触媒金属担持樹脂R2’は第2のアニオン交換樹脂A2を精製することによって作られる。精製工程では、酸性溶液を通液し、その後アルカリ溶液を通水する。第1及び第2のアニオン交換樹脂A1,A2から溶出する有機物等の不純物が設定値(目標値)以下となり、第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2を合わせた全アニオン交換樹脂の総交換容量に対するOH形の割合が設定値(目標値)以上となれば、酸性溶液及びアルカリ溶液の濃度、通液速度、通液時間等は適宜設定することができる。酸性溶液としては、例えばHCLやHNO3などが使用できる。アルカリ溶液としては、例えばNaOH、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)などが使用できる。第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2は、母体樹脂が実質的に同じであることが好ましい。母体樹脂が実質的に同じであるとは、母体樹脂の原料が同じで、かつ基本物性が同じものであることを意味する。これによって、第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2を混合する場合に、均一に混合しやすく、品質の均一化が図れる。特に、第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2の母体樹脂は同一銘柄の樹脂を使用するのが好ましい。
【0016】
第1及び第2のアニオン交換樹脂A1,A2はポーラス形、MR形などであってもよいが、有機物の溶出の少ないゲル形が好ましい。第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2の少なくともいずれかは、精製前(すなわち、精製容器に充填した時点)はCl形であってもよい。これはアニオン交換樹脂が一般的にはCl形で流通しているためである。第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2の両者が精製前にCl形であってもよい。これによって、第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2を同じ工程で精製することができ、全体工程のさらなる合理化が可能となる。また、第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2の両者が精製前にOH形であってもよい。
【0017】
本実施形態では、第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2を合わせた全アニオン交換樹脂の総交換容量の70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上が、精製後にOH形とされる。OH形の第1の触媒金属担持樹脂R1’と第2の触媒金属担持樹脂R2’はH2O2と接触しやすいため、H2O2分解除去性能が向上する。第1のアニオン交換樹脂A1に担持された触媒金属の担持量は、10mg-触媒/L-R(RはOH形基準のアニオン交換樹脂であり、アニオン交換樹脂1L当たりの触媒の重量を意味する)以上、500mg-触媒/L-R以下であることが好ましい。
【0018】
図2(a)は比較例1(従来例)における触媒金属担持樹脂R1と触媒金属非担持樹脂R2とカチオン交換樹脂K2の精製方法と充填方法を示す概念図、
図2(b)は実施例1における第1の触媒金属担持樹脂R1’と第2の触媒金属担持樹脂R2’とカチオン交換樹脂K2の精製方法と充填方法を示す概念図である。
【0019】
比較例1では、触媒金属担持樹脂R1と触媒金属非担持樹脂R2とカチオン交換樹脂K2は別々に製造される。すなわち、過酸化水素分解能力を有する触媒金属が担持された第1のアニオン交換樹脂A1と、過酸化水素分解能力を有する触媒金属が担持されていない第2のアニオン交換樹脂A2と、カチオン交換樹脂K1と、が別々に精製容器に供給され、それぞれが工場で精製される。第1のアニオン交換樹脂A1はCl形であり、精製によってOH形に変化して、触媒金属担持樹脂R1となる。第2のアニオン交換樹脂A2はCl形であり、精製によってOH形に変化して触媒金属非担持樹脂R2となる。カチオン交換樹脂K1はNa形であり、精製によってH形に変化してカチオン交換樹脂K2となる。このように、精製とは樹脂のイオン交換基のイオンの形を変えることを含む工程である。
【0020】
次に混合工程が行われる。混合工程では触媒金属非担持樹脂R2とカチオン交換樹脂K2が混合される。触媒金属担持樹脂R1については混合されず、製品として出荷される。現場では、触媒金属非担持樹脂R2とカチオン交換樹脂K2の混合樹脂が、イオン交換装置6に充填される。次に触媒金属担持樹脂R1がイオン交換装置6に充填される。この結果、イオン交換装置6の下部に触媒金属非担持樹脂R2とカチオン交換樹脂K2の混合樹脂が充填され、その上に触媒金属担持樹脂R1が充填される。
【0021】
これに対して実施例1では、まず工場で触媒金属が担持された第1のアニオン交換樹脂A1と触媒金属が担持されていない第2のアニオン交換樹脂A2とが同一の精製容器に充填される。第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2は混合してもよいが、第1のアニオン交換樹脂A1を第2のアニオン交換樹脂A2の上に積層した方が好ましい。これは、第1のアニオン交換樹脂A1から脱離した触媒金属が重力で落下し、第2のアニオン交換樹脂A2に再付着しやすくなるためである。第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2を混合する場合、混合のタイミングは精製開始前であればいつでもよく、精製容器への充填前に行ってもよいし、精製容器への充填後に行ってもよい。
【0022】
精製工程では積層または混合されたこれらの樹脂がCl形からOH形に変化し、新規な触媒金属担持樹脂Xが作製される。つまり、精製容器に充填された第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2とが一緒に精製されて、第1の触媒金属担持樹脂R1’と第2の触媒金属担持樹脂R2’とからなる触媒金属担持樹脂Xが作られる。具体的には、触媒金属が担持された第1のアニオン交換樹脂A1は精製されて第1の触媒金属担持樹脂R1’となるが、第1の触媒金属担持樹脂R1’を構成する樹脂から金属触媒の一部が脱離する。また、第2のアニオン交換樹脂A2は精製されて第2の触媒金属担持樹脂R2’となるが、第2の触媒金属担持樹脂R2’を構成する樹脂に第1のアニオン交換樹脂A1から脱離した金属触媒が再担持される。このように、実施例1の触媒金属担持樹脂Xは比較例1の触媒金属担持樹脂R1と触媒金属非担持樹脂R2の混合物とは異なる新規な触媒金属担持樹脂である。カチオン交換樹脂K1は精製によってNa形からH形に変化してカチオン交換樹脂K2となるが、この工程は比較例1と同じである。次に混合工程で、新規な触媒金属担持樹脂Xとカチオン交換樹脂K2が混合されて新規な混合樹脂Yが作製され、現場で混合樹脂Yがイオン交換装置6に充填される。
【0023】
表1に、アニオン交換樹脂の精製に関する実施例1と比較例1の比較を示す。使用水量は洗浄等に使用した純水の水量、使用薬品量は精製で使用した薬品の量、所要時間は精製に要した総時間、コストは精製に要した総コストであり、いずれも比較例1を1として基準化している。比較例1では、第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2のそれぞれに対して精製を行い、合計2回の精製が行われている。触媒金属担持樹脂R1は触媒金属非担持樹脂R2と比べて需要が少ないため、第1のアニオン交換樹脂A1の精製量は第2のアニオン交換樹脂A2の精製量より少なくて済む。このため、第1のアニオン交換樹脂A1の精製量は第2のアニオン交換樹脂A2の精製量の1/6とした。実施例1では、第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2の混合樹脂に対して1回の精製だけを行っている。第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2を合わせた精製量は比較例1の第2のアニオン交換樹脂A2の精製量と同じとした。いずれの指標も、実施例1が比較例1より良好な結果となっている。
【0024】
【0025】
さらに、触媒金属担持樹脂R1と触媒金属非担持樹脂R2を同じ設備を用いて精製する場合、以下の課題がある。工業的には大規模設備を用いて樹脂の精製を行った方が、効率、品質、コストの観点から有利である。しかし、上述のように、触媒金属担持樹脂R1は需要が限られているため、1回の精製で作る触媒金属担持樹脂R1の量は精製設備の定格容量より少なくなる。このため、第1のアニオン交換樹脂A1の層高が低くなり、通水量が場所によってばらつく、つまり、場所によって薬品や洗浄水が樹脂層の一部に対して十分に供給されないなどの精製不良の可能性が生じる。薬品や洗浄水の水量(あるいは通水空間速度SV、線速度LV)を落として対処することも考えられるが、本来の使用方法とは異なる方法で精製設備を使用することになるため、精製工程における品質管理が難しくなる。触媒金属担持樹脂R1を精製設備の定格容量と同程度の量作ればこの問題は解消するが、触媒金属担持樹脂R1の在庫が増える可能性がある。触媒金属担持樹脂R1の必要量(市場規模)に合わせて、最適な規模の精製設備を設けることも可能であるが、設備投資によるコスト増となる。
【0026】
これに対して、実施例1では第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2を所望の比率で含むアニオン樹脂を精製する。上述のように第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2の精製工程は同一であるので、第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2を積層または混合した樹脂に対して同じ精製工程が適用できる。この樹脂を精製設備の定格容量と同程度の量作ることから、品質管理の問題や在庫の問題も解消される。
【0027】
また比較例においては、触媒金属非担持樹脂R2とカチオン交換樹脂K2を混合してから充填し、その後触媒金属担持樹脂R1を充填する。しかし、混合充填の工程が増えることで、樹脂の清浄度が損なわれる可能性がある。この問題を解決するためには各工程の作業をできるだけ簡素化することが望ましい。本実施形態では充填作業は1回だけでよいため、樹脂の汚染の可能性も低減される。
【0028】
さらに、比較例においては精製工程において、金属触媒の一部が第1のアニオン交換樹脂A1から脱離し、系外に排出されるが、白金族金属触媒は高価であり、コストへの影響が大きい。これに対して実施例1では、前述のように第1のアニオン交換樹脂A1から脱離した金属触媒の一部が、金属触媒を担持していない第2のアニオン交換樹脂A2に再担持されるため、高価な金属触媒を有効に利用することができる。
【0029】
次に、
図1に示すのと同等の試験装置を用いて、上述の方法で作った触媒金属担持樹脂R1と触媒金属担持樹脂Xの特性を確認した。Cl形のアニオン交換樹脂に金属触媒を担持させた第1のアニオン交換樹脂A1と、金属触媒を担持していないことを除き金属触媒担持樹脂Aと同じである第2のアニオン交換樹脂A2とを用意した。実施例2では第1のアニオン交換樹脂A1と第2のアニオン交換樹脂A2を同一カラム(上述の精製容器に相当)に充填し、精製した。比較例2では第1のアニオン交換樹脂A1のみをカラムに充填し、精製した。表2において、R-OHはOH形の占める比率、すなわち精製がどの程度の割合で行われたかを示す指標である。触媒担持量は精製後にカラム内の全アニオン交換樹脂が担持する金属触媒の重量である。H
2O
2除去性能は、カラムにH
2O
2を含む被処理水を通水したときのカラム入口とカラム出口のH
2O
2の濃度を示している。精製効率(R-OH)は実施例2の方が優れており、実施例2の方が、品質が向上していることが確認された。触媒担持量も実施例2の方が優れている。これは第1のアニオン交換樹脂A1から脱離した金属触媒の一部が第2のアニオン交換樹脂A2に再担持されたためと考えられる。H
2O
2除去性能は実施例2と比較例2で同等であった。
【0030】
【符号の説明】
【0031】
1 サブシステム
2 1次純水タンク
3 純水供給ポンプ
4 熱交換器
5 紫外線酸化装置
6 イオン交換装置
7 膜脱気装置
8 限外ろ過膜装置
20 ユースポイント
A1 第1のアニオン交換樹脂(Cl形)
A2 第2のアニオン交換樹脂(Cl形)
K1 カチオン交換樹脂(Na形)
K2 カチオン交換樹脂(H形)
R1 触媒金属担持樹脂(OH形)(比較例)
R1’ 第1の触媒金属担持樹脂(OH形)(実施例)
R2 触媒金属非担持樹脂(OH形)(比較例)
R2’ 第2の触媒金属担持樹脂(OH形)(実施例)
X 触媒金属担持樹脂