(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039346
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】余剰汚泥の発生量削減方法及び発生量削減システム
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20230313BHJP
【FI】
C02F3/12 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146474
(22)【出願日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】591067185
【氏名又は名称】株式会社 小川環境研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107490
【弁理士】
【氏名又は名称】杉原 鉄郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 尊夫
【テーマコード(参考)】
4D028
【Fターム(参考)】
4D028BB06
4D028BC18
4D028BC24
4D028BC28
4D028BD06
4D028BD12
4D028BD16
4D028CA09
4D028CB03
4D028CC07
4D028CE02
(57)【要約】
【課題】有機性汚濁成分を含む被処理水を主として好気性微生物を使って処理する生物処理において、余剰汚泥の発生量を抑制する運転制御方法を提供する。
【解決手段】好気性微生物処理を行う2以上の曝気槽を用いて、第1曝気槽において、槽内に基準酸素量の0.7~1.0倍の酸素量を供給する管理を行い、第2曝気槽以降の少なくとも1つの曝気槽において、槽内の溶存酸素濃度(DO)を1.0mg/l以上に管理する。ここに、「基準酸素量」とは、酸素不足でなく、かつ、DO値が殆ど0mg/lの状態において、活性汚泥混合液の酸素消費速度と曝気による酸素供給速度とが一致する酸素量をいう。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥処理装置における余剰汚泥発生量削減のための曝気量制御方法であって、
好気性微生物処理を行う2以上の曝気槽を用いて、
第1曝気槽において、槽内に基準酸素量の0.7~1.0倍の酸素量を供給する管理を行い、
第2曝気槽以降の少なくとも1つの曝気槽において、槽内の溶存酸素濃度(DO)を1.0mg/l以上に管理する、ことを特徴とする曝気量制御方法。
ここに、「基準酸素量」とは、酸素不足でなく、かつ、DO値が殆ど0mg/lの状態において、活性汚泥混合液の酸素消費速度と曝気による酸素供給速度とが一致する酸素量をいう。
【請求項2】
前記「基準酸素量」の算出を、
活性汚泥混合液の酸素消費速度(Rr)と曝気槽DO値(C)の関係式である、
dC/dt=KLa×(Cs-C)-Rr (1)式
但し、t:曝気経過時間、KLa:総括物質移動係数、Cs:飽和溶存酸素濃度
を用いて、DO値が正確に測定できる範囲の値から、外挿によりDO=0mg/lのときの酸素消費速度(Rr)を推定することにより行う、ことを特徴とする請求項1に記載の曝気量制御方法。
【請求項3】
前記基準酸素量の算出を、
活性汚泥混合液の酸素消費速度(Rr)と曝気槽DO値(C)の関係式である、
dC/dt=KLa×(Cs-C)-Rr (1)式
但し、t:曝気経過時間、KLa:総括物質移動係数、Cs:飽和溶存酸素濃度
を用いて行うものであり、測定装置にサンプリングしたDO値が正確に測定できる下限の活性汚泥混合液を、一時的に短時間強曝気してCを上昇させた後、強曝気を停止してCを低下させる操作を行い、この間のCの変化に基づいて測定装置内の基準酸素量を求め、さらに予め求めた相関関係に基づいて、前記第1曝気槽における前記基準酸素量を推定することにより行う、ことを特徴とする請求項1に記載の曝気量制御方法。
【請求項4】
活性汚泥処理装置における余剰汚泥発生量削減のための曝気量制御システムであって、
好気性微生物処理を行う2以上の曝気槽を備え、
第1曝気槽は、槽内を基準酸素量の0.7~1.0倍の酸素量に制御する手段を備え、
第2曝気槽以降の少なくとも1つの曝気槽は、槽内の溶存酸素濃度(DO)を1.0mg/l以上に制御する手段を備え、て成ることを特徴とする。
ここに、「基準酸素量」とは、酸素不足でなく、かつ、DO値が殆ど0mg/lの状態において、活性汚泥混合液の酸素消費速度と曝気による酸素供給速度とが一致する酸素量をいう。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性汚濁成分を含む被処理水(以下、有機性廃水または流入水と称す)を主として好気性微生物を使って処理する生物処理において、余剰汚泥の発生量を抑制する運転操作条件に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃水を処理する方法としては、好気性微生物を使って廃水処理する生物処理方法が広く用いられている。これらの好気性微生物処理法のうち浮遊汚泥を利用する代表的な処理法は活性汚泥法である。活性汚泥法は、広範囲の有機性汚濁廃水に柔軟に対応でき、装置が簡単で、良好な処理水が得られるなど優れた性能を持つ処理法であるが、曝気に要する電力費が大きい、余剰汚泥の発生量が大きい、窒素やリンの除去が不十分、汚泥の沈降性が悪化する場合がある、などの課題がある。
【0003】
これらの課題のうち、特に余剰汚泥の発生量削減に関して、余剰汚泥を様々な化学的や物理的な処置を行って再栄養化して活性汚泥に戻す技術が提案され実用化されているが、余剰汚泥を再栄養化する装置費や運転コストが大きいなどの難点がある。
【0004】
これに対し、運転操作条件により余剰汚泥の発生量を削減する方法は、装置費や運転コストが安価で済む可能性があり、特に曝気槽DO条件が余剰汚泥の発生量に影響することはよく知られている。
【0005】
国際水協会(IWA、International Water Associatin)が提唱する活性汚泥モデル3(以下、ASM3)によれば、余剰汚泥の発生とは、微生物が廃水中の汚濁物を摂取し、種々の酵素反応により体内にポリハイドロキシアルカノエートやグリコーゲンなどの栄養物として貯蔵し、貯蔵した栄養物を使って汚泥の増殖や代謝活動(内生呼吸)を行うメカニズムと定義している。酵素反応の段階や代謝の段階でエネルギーを得るため酸素を必要とする。好気条件下での内生呼吸によるXSTOの分解速度は(2)式で
【0006】
【数1】
で表現されており、KO
2の値は0.2mg/lとされている。
ここに、X
STO:従属栄養生物の細胞内貯蔵有機物、SO
2:溶存酸素、b
STO,O
2:好気条件下におけるX
STOの比内生呼吸分解速度、KO
2:SO
2に対する飽和・阻害定数
曝気槽DO値であるSO
2の値として2.0mg/l、0.5mg/l、0.2mg/lを代入して計算すると、(2)式の値は、0.91、0.71、0.5となり、DO低下に伴いX
STOの分解速度は低下する。X
STOは代謝による微生物体内の栄養分の代謝による消費であるから、消費速度が大きくなれば汚泥の発生量すなわち余剰汚泥の発生量は低下し、消費速度が小さくなれば余剰汚泥の発生量は増加する。
このように、余剰汚泥を削減する方法として、曝気槽DOを高くして汚泥を自己消化させて減量する方法は行われているが、曝気槽DOを低くすることは減量化にならないというのが通説である。
【0007】
一方、曝気槽DOを低くしても、汚泥を硝酸呼吸状態にすることにより、余剰汚泥が少なくなるということが特許文献3に開示されている。
同文献には、硝酸イオンとアルカリの存在下で、曝気槽全体をDOが1.0mg/l以下、且つORPが0mV以上の微好気環境で曝気すると、曝気槽の汚泥に脱窒菌、窒素固定菌、硝化菌がいる状態になり、汚泥は硝酸イオンから酸素を取り込む硝酸呼吸を行う結果、余剰汚泥の発生量が50%から60%減少する、という記載がある。
しかしながら、この方法は、硝酸塩及びアルカリの添加条件下で、曝気槽全体を低DOで運転するため、原水変動が大きいと、バランスが崩れ、酸素不足による処理水の悪化が懸念される。懸念解消のため曝気槽のDOを上げると、通常の活性汚泥になってしまい、余剰汚泥の削減効果がなくなってしまうというという課題がある。
【0008】
また、活性汚泥の変形プロセスとして、前段で細菌処理、後段で活性汚泥処理を行う、いわゆる2相活性汚泥(例えば特許文献1)が提案されている。この方法は、設備投資や運転コストが再栄養化より有利であるため、余剰汚泥の削減に有力であるものの、原水変動が大きいと前段の細菌処理を適正に保つ制御が難しいという課題がある。
【0009】
細菌処理を適正に保つ方法として、一過式で通水する細菌槽の溶存酸素濃度(以下、DOと称す)を0.5mg/l以下の微好気状態にすることにより、1~5μm程度以下の分散菌を優占化して後続の生物処理槽で捕食しやすくする方法が提示されている(例えば特許文献2)。
しかしながら、この方法はDOが0.5mg/l以上の場合より分散菌が優占化する効果はあるものの、流入水の処理量変動が大きく細菌槽での滞留時間が長くなる場合や、原水BOD変動の大きい流入水に対しては、細菌槽の混合液が粘性を帯びたり、糸状菌が繁殖するなどにより、安定処理の点でなお不十分である。
【0010】
これらの方法は、いずれも曝気槽DOが0mg/l以上の微好気状態あるいは好気状態での操作であり、酸素不足状態の曝気槽DOが0mg/lでの操作において、余剰汚泥の生量を削減されるという報告は見当たらない。
なお、本願出願人は、BODと脱窒同時処理の制御方法として、DO計を用いて極低DO領域の曝気槽曝気量を制御する方法を開示している(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭55-20649
【特許文献2】特開2008-36580
【特許文献3】W02014/200056
【特許文献4】特許5996819
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は従来技術では解決できなかった上記各課題を解決して余剰汚泥の発生量削減可能な曝気量制御技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願出願人は、鋭意研究を重ね、複数の曝気槽のうち一つの曝気槽内において、指標S/D(曝気による酸素供給量(S)と汚泥による酸素消費量(D)の比、詳細は後述する)を酸素不足の所定範囲に制御することにより、余剰汚泥の発生量を抑制可能とする技術を考案した。
本発明は以下の内容を要旨とする。
(1) 活性汚泥処理装置における余剰汚泥発生量削減のための曝気量制御方法であって、
好気性微生物処理を行う2以上の曝気槽を用いて、
第1曝気槽において、槽内に基準酸素量の0.7~1.0倍の酸素量を供給する管理を行い、
第2曝気槽以降の少なくとも1つの曝気槽において、槽内の溶存酸素濃度(DO)を1.0mg/l以上に管理する、ことを特徴とする曝気量制御方法。
ここに、「基準酸素量」とは、酸素不足でなく、かつ、DO値が殆ど0mg/lの状態において、活性汚泥混合液の酸素消費速度と曝気による酸素供給速度とが一致する酸素量をいう。
【0014】
以下、本発明による余剰汚泥発生量低減の作用について説明する。通常、曝気槽の曝気量はDOの値で管理・制御されるが、本発明は酸素不足状態における制御に関するものであるからDOは常に0mg/lとなり、DO値は本発明の内容を表現する指標として不適挌である。また酸素不足の状態は、一般にはORP(酸化還元電位)計の値で表現されるが、ORPはあくまで酸化還元の電位を測定するものであり、流入水の基質などにより大きく影響されるため、必ずしも酸素不足の程度を正確に反映する指標とはならない。そこで本願出願人は、本発明の内容を正確に表現可能な制御指標として、指標(S/D)を導入したものである。
なお、本発明において「酸素不足でなく」とは、DO値が計測可能範囲からさらに減少した、プラス側のほぼ0mg/l(DO≒0mg/l)の領域を意味する概念である。
【0015】
S/Dは、曝気による酸素供給量(S)と汚泥による酸素消費量(D)の比である。Dが酸素不足でなく、かつ、DO値が殆ど0mg/lの状態の酸素消費量のとき、両者が一致する状態を1とすると、1より十分大きい状態は完全好気領域であり、0近辺は無酸素領域となる。S/Dが1.1以上は、通常の活性汚泥の利用領域である。S/Dが1~1.1近傍の状態は、微生物のフロック表面で好気、フロック内部で酸素不足の領域であり、さらに硝酸が存在する場合、一部の微生物は硝酸呼吸により酸素を取り込むという微好気領域となる。活性汚泥の場合、微好気領域は曝気槽内のDOが0mg/l以上かつ概ね0.5mg/l以下の範囲である。
S/Dが0の領域は、無酸素領域でBOD処理能力は殆ど0であるが、硝酸イオンが存在すれば微生物は硝酸呼吸を行うため、完全好気処理との組み合わせにより、生物脱窒に利用される領域である。また、無酸素処理と完全好気処理を繰り返すことにより、リン除去に利用される領域でもある。
【0016】
S/Dが1.0以下かつ0.9程度以上の領域は、溶存酸素不足領域ではあるが、硝酸イオンが存在する場合は、微生物は硝酸呼吸により酸素を取り込めるため、BODと脱窒同時処理として利用されている領域である。
S/Dが0以上、且つ、硝酸イオンが存在する場合は0.9程度未満、硝酸イオンが十分にない場合は1.0未満、の酸素不足領域は、酸素不足の程度との関係において活性汚泥を運転するために必要な特性(例えば、どの程度酸素不足だとどの程度BOD処理能力が低下するか、脱窒能力がどう変化するか、汚泥の増殖はどうなるか、汚泥の沈降性への影響はどうなるか、など)が明確になっていない。また、実用的にも殆ど利用されていない領域である。
【0017】
後述する比較例に示すように、曝気槽が1つの場合は、DO低下に伴い酸素取り込み速度が低下して、微生物の代謝が低下することから余剰汚泥の発生量が増加する。S/D<1~1.1の微好気状態および酸素不足状態は、DO低下の延長線上にあることから余剰汚泥はさらに増加すると予想され、その通りの結果が得られた。
これに対し、曝気槽が2つ以上で、第1曝気槽においてS/Dが1.0から0.7、かつ、第2曝気槽のDOが1.0mg/l以上の場合には余剰汚泥の発生量が減少することを、本願出願人は見出した。
【0018】
本願出願人は、本発明による余剰汚泥の発生量低下は、硝酸呼吸による効果及び細菌類の優占効果の協働によるものと考えている。すなわち、第1曝気槽においてS/D<1~1.1では曝気槽DOは0.5mg/l以下となり、窒素分が除去されることから(後述の実施例1 A-3~A-6参照)、第1曝気槽内では脱窒が進行していると推定される。
微生物は硝酸、亜硝酸イオンからの酸素を得る硝酸呼吸の状態となり、BODからエネルギーを得て生体を維持しているが、溶存酸素からの酸素を通常の酸素呼吸でBODから得るエネルギーより小さいため、汚泥増殖量が小さくなることが報告されている(上記特許文献3参照)。T-Nの除去量から逆算すると、実施例1の場合、流入水BOD=675mg/lのうち、硝酸呼吸により40%程度が消費されると思われ、その分溶存酸素から通常の酸素呼吸によるBODが減少して、全体としての余剰汚泥の発生量が減少したと推定される。
【0019】
さらに、第1曝気槽はS/D<1で酸素不足状態になっているので、微生物間で酸素の取り合いが生じていると思われ、活性汚泥を構成する微生物ピラミッド(
図2参照)に示す活性汚泥を構成する微生物群のうち、比表面積が大きい形状が小さい最下層の細菌類のほうが圧倒的に有利になる。形状の大きな原生動物や後生動物のような中上位の生物群は、酸素の獲得が不利になり、生物活動が著しく低下する結果、捕食関係にある細菌群が相対的に多くなると推定される。
この現象は、比較例2で確認されており、S/D<1では汚濁水のBODは除去されるものの、形状の大きな微生物量を表すMLSSの増加を抑制できることから、中上位の生物群の活動が抑制されていると推定される。この推定は、「細菌槽のDOを0.5mg/l以下にすると分散菌が優占化する」と述べている特許文献2の記載からも正当化される。
【0020】
前段の細菌槽において分散菌により流入水のBODを除去し、分散菌を含む処理水を後段の活性汚泥槽で処理することにより、余剰汚泥の大幅な削減ができることが2相活性汚泥の特徴であることは既知である。これに対し本発明の構成によれば、第1曝気槽は活性汚泥槽ではあるものの、S/Dを1以下にすることにより2相活性汚泥と同様な現象を起こすことを可能としているものと推定される。
【0021】
本発明において、S/D下限値を0.7としたのは以下の理由による。後述の実施例1において、S/D=0.7(A-6)のとき、TOC=8.6[mg/l]は処理水悪化レベルではあるものの、TOC除去率は98%以上であること、凝集沈殿処理などの後処理や、第2曝気槽の大容量化等により対応可能であることを考慮し、余剰汚泥の削減効果を優先して許容範囲内と判断したものである。
S/Dが0.7を下回る領域では酸素不足により第1曝気槽において硝化が進まなくなり、且つ、第1曝気槽の汚泥は代謝が大幅に不足するため、第2曝気槽においても硝化が進まなくなる。その結果、硝酸イオンが減少して脱窒も起きず、硝酸呼吸による余剰汚泥発生量減少効果は小さくなる。また、細菌処理におけるBOD処理も、酸素不足により多量のBODが処理未了の状態で後段の活性汚泥槽に流入することになるため、細菌処理による余剰汚泥発生量減少効果も小さくなる。
なお、硝酸呼吸による効果と細菌類の優占効果の両者の働きにより、余剰汚泥の発生量が低下すると推定されることは上記説明の通りであるが、どちらの働きの寄与が大きいかは、流入水の性状によるものと考えられる。
【0022】
第1曝気槽で除去されたBOD成分は微生物内に取り込まれた状態であるため、第2曝気槽で酸素を十分に供給して代謝で消費させることが、余剰汚泥の削減のための仕上げになる。一般に酸素供給速度は曝気槽DOが高いほうが有利になるが、概ね曝気槽DOが1.0mg/l以上であれば、ほぼ最大の酸素供給速度に近い値になることが知られており、第2曝気槽におけるDO値は1.0mg/l以上であれば本発明の目的が達成できる。
【0023】
(2)前記「基準酸素量」の算出を、
活性汚泥混合液の酸素消費速度(Rr)と曝気槽DO値(C)の関係式である、
dC/dt=KLa×(Cs-C)-Rr (1)式
但し、t:曝気経過時間、KLa:総括物質移動係数、Cs:飽和溶存酸素濃度
を用いて、DO値が正確に測定できる範囲の値から、外挿によりDO=0mg/lのときの酸素消費速度(Rr)を推定することにより行う、ことを特徴とする上記(1)に記載の曝気量制御方法。
【0024】
活性汚泥処理において一般に用いられているDO計では0mg/l以下が測定できないため、曝気槽の活性汚泥混合液を単純に測定するだけでは、曝気槽での酸素不足状態を定量化できない。また曝気槽DOが0.2mg/l以下の領域は、流入水変動がまったくない実験室レベルでもDO計で正確に測定することは困難である。
【0025】
曝気槽のDOと曝気による酸素供給速度と汚泥の酸素消費速度の関係は、一般に(1)式で表される
dC/dt=KLa×(Cs-C)-Rr (1)式
定常状態(曝気による酸素供給速度=汚泥の酸素消費速度)では、dC/dt=0であるから、(1)式より(2)式が導き出される。
Rr=KLa×(Cs-C) (3)式
(2)式はDOが概ね0.5mg/l以上の領域では実測値とよく一致するが、DOが概ね0.5mg/l以下になるとバラツキが大きくなり、正確な測定は困難になる。
従って、DO=0mg/lの状態における、活性汚泥混合液の酸素消費速度と曝気による酸素供給速度とが一致する酸素量(基準酸素量)を求めるには、DOが正確に測れる範囲のRrを測定していき、DOが0mg/lの位置に外挿すればよい(以下、本方法を「外挿法」という)。
【0026】
さらに、第1曝気槽は独立した曝気槽であり、曝気対象の液量Vは常に一定であるから、基準酸素量はV・Rrで決定できる。この値は、基質変動や硝化活性の変動などでRrが変化する場合には、その都度、酸素不足でなく、かつ、DO値が殆ど0mg/l時のRrの値に修正する必要がある。しかしながら、原水変動が小さい活性汚泥の場合には、修正する頻度が少なく、また基質が同じなので、DOが正確に測れる範囲の値から比例で求めることが可能となるなど、基準酸素量を求める負担を小さくできるので、基準酸素量を求める方法として適当である。
【0027】
(3)前記基準酸素量の算出を、
活性汚泥混合液の酸素消費速度(Rr)と曝気槽DO値(C)の関係式である、
dC/dt=KLa×(Cs-C)-Rr (1)式
但し、t:曝気経過時間、KLa:総括物質移動係数、Cs:飽和溶存酸素濃度
を用いて、行うものであり、測定装置にサンプリングしたDO値が正確に測定できる下限の活性汚泥混合液を、一時的に短時間強曝気してCを上昇させた後、強曝気を停止してCを低下させる操作を行い、この間のCの変化に基づいて測定装置内の基準酸素量を求め、さらに予め求めた相関関係に基づいて、前記第1曝気槽における前記基準酸素量を推定することにより行う、ことを特徴とする上記(1)に記載の曝気量制御方法。
【0028】
本発明は、基準酸素量の推定に際して、本願出願人が特許文献4に開示した技術を援用したものである。
同文献に示す通り、基準酸素量の算出を具体的には以下のステップにより行う。
1)一時的に短時間強曝気してCを上昇させたときのCの変化から、KLaを求める。
2)強曝気を停止してCを低下させる操作の過程におけるCの変化からRrを求める。
3)KLaとRrから(1)式を使って、一時的に曝気を強くしたときの平衡DO値C1を求める。
4)C1=0の時の測定装置内の曝気量G0をG0=((Cs-C1)/Cs)・(Ea1/Ea0)・G1の関係式から求める。ここに、G1は強曝気量、Ea0、Ea1は、曝気量G0、G1のときの酸素溶解効率、Csは飽和溶存酸素濃度である。
5)曝気槽での曝気量G2*を、測定装置内の曝気量G0に基づき相関関係により求める。
以上のステップにより求めたG2*が、曝気槽に基準酸素量を供給する曝気量となる。同文献には、ステップごとに更なる詳細が開示されている。
【0029】
なお、上記(2)、(3)発明により求める基準酸素量は、酸素が十分存在する条件下での測定に基づく推定値であるため、例えばRrについて見ると厳密な意味では酸素不足状態のRrとは異なる。しかしながら、DOをDO計が正確に測定できる値に上昇させる時間の短縮により誤差を小さくでき、実用上の問題はない。
【0030】
(4)活性汚泥処理装置における余剰汚泥発生量削減のための曝気量制御システムであって、
好気性微生物処理を行う2以上の曝気槽を備え、
第1曝気槽は、槽内を基準酸素量の0.7~1.0倍の酸素量に制御する手段を備え、
第2曝気槽以降の少なくとも1つの曝気槽は、槽内の溶存酸素濃度(DO)を1.0mg/l以上に制御する手段を備え、て成ることを特徴とする曝気量制御システム。
ここに、「基準酸素量」とは、酸素不足でなく、かつ、DO値が殆ど0mg/lの状態において、活性汚泥混合液の酸素消費速度と曝気による酸素供給速度とが一致する酸素量をいう。
【発明の効果】
【0031】
本発明は活性汚泥処理方式であるから、2相活性汚泥における前段の細菌処理を適正に保つための難しい制御が必要なく、細菌処理が持つ余剰汚泥削減の機能を生かすことができ、また、硝酸呼吸を行わせると汚泥増殖が小さくなるという作用を、曝気量の制御のみで引き出せるという効果がある。
また、本発明によれば、活性汚泥の余剰汚泥の発生量を削減できる。本発明は好気性の浮遊汚泥で処理する場合の現象であるから、活性汚泥に限らず、浮遊汚泥の処理作用を併用するタイプの担体活性汚泥や生物膜処理などにも有効に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明による廃水処理システムの一実施形態を説明するための概略図、及び、実施例1、2で使用した廃水処理システム1を示す図である。
【
図2】活性汚泥における食物連鎖の概念を説明する図である。
【
図3】比較例1による廃水処理システム100を示す図である
【
図4】比較例2による廃水処理システム200を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の一実施形態による廃水処理システム1の概略構成を
図1に示す。廃水処理システム1は2つの曝気槽を備えており、第1曝気槽2の処理水を第2曝気槽3に導入する。第1曝気槽2では、基準酸素量の0.7倍から1.0倍の酸素量で曝気し、第2曝気槽3では曝気槽のDOが1.05mg/l以上となるように運転する。第2曝気槽3で処理された活性汚泥混合液は、沈殿槽4に導入されて固液分離され、上澄水は放流され、沈殿汚泥は返送汚泥ポンプ5により第1曝気槽2に返送される。なお、本実施形態では返送汚泥を全量第1曝気槽2に戻す例を示しているが、一部のみを第2槽以降に戻す態様とすることもできる。
【0034】
曝気量制御装置6aは、第1曝気槽2の曝気量を制御する信号を、曝気ブロア7、8に出力する装置である。第1曝気槽2からサンプリングした活性汚泥混合液に対し、測定装置6内で曝気量をオンオフ操作を行ってDOの変化を測定する。
測定値に基づき基準酸素量を演算し、基準酸素量の0.7倍~1.0倍の酸素供給量になるような曝気量を求め、曝気ブロア7に出力して第1曝気槽2の曝気量を適切に制御する。さらに、曝気ブロア8の曝気量を第2曝気槽DO値が1.0mg/l以上になるように制御する。
基準酸素量の推定に際しては、流入水の変動、処理条件の変動などの条件に応じて、上述した(2)発明(外挿法)又は、(3)発明(特許文献4技術の援用)を適宜使い分けることができる。
【0035】
なお、本実施形態では、第1曝気槽2から活性汚泥混合液を測定装置6に汲み上げて、測定装置6内で曝気量をオンオフ操作して行う形態としたが、曝気槽内にDO計を浸漬して曝気量をオンオフ操作して行うこともできる。
【0036】
また、本実施形態では曝気槽を2槽備えた例を示したが、3槽以上備えた構成としても本発明の趣旨を逸脱するものではない。例えば、曝気槽を3槽備え、第1槽は基準酸素量の0.7倍から1.0倍の酸素量で曝気し、第2槽をクッション槽またはDOが0.5mg/l程度の曝気槽とし、第3槽をDOを2mg/lで運転してもよい。また、第1槽の前に実質的に曝気を行わない嫌気槽を設置してもよい。
【実施例0037】
以下、本発明の効果を確認するための実施例(テストA、B)について説明する。なお、実施例との対比のため行った、比較例(テストC、D)についても併せて説明する。
【0038】
(実施例1:テストA)
図1に示す曝気槽2槽連結処理において、第1曝気槽の容量700cc、第2曝気槽の容量1100ccとし、MLSSは約3,000mg/lで、表1の組成の流入水を70cc/hr、BOD容積負荷0.63[kg/m3・日]、温度約27℃で連続処理したとき、第2曝気槽の曝気をDOが2.0mg/lになるように曝気した。第1曝気槽の曝気をS/Dが1.25から0.7まで変化させたときの、処理水および汚泥の増殖量を示すBOD汚泥変換率データを表2に示す。
テストA-1の曝気条件は、表2のなかでは通常使用される条件である。A-1で得られた結果を比較対照とすると、BOD汚泥転換率は、A-2が比較対照より大きく最大であった。A-3からA-6が比較対照より小さく、余剰汚泥の削減効果が認められ、A-4が最小であった。削減効果が認められたテスト条件における第1曝気槽のS/Dは1.0から0.7であり、最も削減効果の大きいS/Dは0.9であった。
【0039】
第2曝気槽処理後の処理水TOCは、A-5で僅かに悪化し、A-6では明らかに悪化している。比較対照ではS/Dが1.2で曝気槽DOは0.7mg/l程度なので、脱窒は進行していないはずである。流入水のT-Nは、汚泥の増殖により微生物体内に取り込まれる分程度しか除去できないため、第1曝気槽処理後および第2曝気槽処理後のT-Nは高い。これに対し、S/Dが1.05以下になると、曝気槽DOは0.3mg/l程度以下になり、BODの処理とともに脱窒反応が進行し、処理水T-Nが低下する。脱窒率が最も高いのは、S/Dが0.9あたりで、S/Dが0.9以下になると、脱窒率は低下している。これは酸素不足により硝化が進まなくなるためと思われる。
処理水TOCは、S/D>=0.8であれば比較対照と殆ど変わらない。S/D=0.7では、処理水は酸素不足のため悪化が顕著になるものの(TOC=5.2)、余剰汚泥の減少効果は持続している。S/D=0.7では処理水の悪化程度は、第2曝気槽の容量を大きくすることによりカバーできる程度であり、余剰汚泥の削減効果を優先する場合には適用範囲内といえるが、処理水の観点から、S/D=0.7が限界といえる。
【0040】
【0041】
【0042】
(実施例2:テストB)
図1の曝気槽2槽連結処理において、第1曝気槽の容量700cc、第2曝気槽の容量1100ccとし、MLSSは約3,000mg/l、表1の組成の流入水を70cc/hr、BOD容積負荷0.63[kg/m3・日]、温度約27℃で連続処理した。上記テストAにおいて、余剰汚泥削減効果が最も高かったA-4の第1曝気槽曝気条件であるS/D=0.9に固定し、第2曝気槽のDOを0.3、0.7、1.0、2.0mg/lに変化させたときの得られた結果を表3に示す。なお、B-4は実施例1のA-4の結果を援用した。
第2曝気槽のDOが0.3(B-1)のときのBOD汚泥転換率がもっとも大きく、DOの上昇にしたがってBOD汚泥転換率が低下する変化となった。第2曝気槽DOが平均1.0mg/lのとき(B-3)、上述のテストA-1(表1の流入水組成のとき活性汚泥において通常使用されるDO条件)におけるBOD汚泥転換率0.37以下になり、余剰汚泥の削減効果が認められ、さらに第2曝気槽DOが平均2.0mg/l(B-4)でさらに削減効果が認められ、第2曝気槽のDOが高いほど大きくなった。
【0043】
【0044】
(比較例1:テストC)
本比較例は、従来技術による処理方式の場合の、S/DとBOD汚泥転換率との関係を評価したものである(以下、テストCという)。
原水(流入水)組成を表1に示す(実施例と同一組成)。試験装置100は
図3のように、単独の曝気槽101と沈殿槽102を備えて構成される。曝気槽容量1100cc、MLSSは約3,100mg/l、原水添加量は70cc/hr、BOD容積負荷0.63[kg/m3・日]、温度約26℃で連続処理した。曝気条件を表4のようにS/Dを1.4から0.8まで変えて、処理水のTOC及び汚泥の増殖量をBOD汚泥転換率として示した。
【0045】
テストC-1の曝気条件のS/Dが1.4のとき、曝気槽DOは約2.0mg/lで、この条件は通常使用される曝気条件である。この曝気条件で得られた結果を比較対照として、テストC-2~テストC-5を評価すると、表2に示すように、S/Dが小さくなるにつれ汚泥転換率は増大していき、S/Dが1.05、曝気槽DOとしては0.3mg/lあたりで、汚泥転換率が急増大し、S/Dが1.0以下では汚泥転換率が高止まりする変化となっている。処理水TOCは、S/Dが1.0以下で悪化の程度が大きくなっている。以上のように、単独曝気槽の場合、S/Dを1.0以下にしても汚泥増殖量は小さくならず、余剰汚泥の削減効果がないことが実証された。
【0046】
【0047】
(比較例2:テストD)
本比較例は、本発明が効果を奏する根拠を検証するためのテストである。
図4を参照して、2相活性汚泥処理装置200において、第1槽201は容量700ccの細菌処理槽、第2槽202は容量1100ccの活性汚泥の曝気槽であり、沈殿槽206からの返送汚泥は第2槽202に戻す構成である。表1の組成の流入水70cc/hrを第1槽201に供給し、温度約27℃で連続処理したとき、第2槽202の曝気量がDO=2.0mg/lになるように曝気した。
表5に、第1槽201の曝気をS/Dが1.5から0.7に変化させたときの、処理日数2日後及び4日後の第1槽201におけるMLSSの推移を示す。MLSSはJISに記載されたろ紙法で測定した。
同表に示すように、S/Dが大きく細菌槽内DOが高いD-1と比較して、S/Dが1以下のD-3、D-4については、MLSSの増加速度が小さいことが明らかである。MLSSは、ろ紙にトラップされる微生物量であり、形状の小さな細菌類は計測されないので、MLSSの増殖速度が抑制されていることは、
図2における中位や最上位の微生物群が増加していないことの証左となる。一方で汚濁物は処理されているので、同図の最下位微生物群(細菌類)が増加していることになる。
【0048】
このように第1槽においてS/Dを1以下にすることにより、2相活性汚泥の第1槽と同様に、本発明の第1曝気槽において増殖する微生物は細菌相が主体の状態になる。これにより、2相活性汚泥の余剰汚泥削減効果を活性汚泥においても得ることができることとなる。
また、MLSSの増殖はS/Dを1以下にすることにより抑制されるが、、本発明の第1曝気槽は返送汚泥によってMLSSが高い値になっているため、2相活性汚泥の第1槽のように活性汚泥混合液が粘性を帯びたり、糸状菌が繁殖することはない。このことが特許文献2とは異なる本発明の大きな特徴である。
【0049】
本発明は活性汚泥処理に限らず、好気性微生物処理において、返送汚泥がある担体活性汚泥の曝気槽や生物膜方式の曝気槽など、浮遊汚泥の処理の寄与が大きい曝気槽にも適用可能である。