(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039350
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】研磨ロボット及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20230313BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146479
(22)【出願日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小河路 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】林 美由希
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS12
3C707BS09
3C707KS33
3C707KX06
3C707LU08
3C707LV05
(57)【要約】
【課題】作業者の技量に依存することなく、教示作業の工数を削減することができる研磨ロボット及び研磨方法を提供する。
【解決手段】研磨装置(3)を移動させながら研磨装置(3)を用いてワークを研磨する作業において、力覚センサ(40)が検出する各軸回りのモーメントのうちの、ワークのワーク表面内に配置されるx軸及びy軸の各軸回りのモーメントの少なくとも一方と、ワーク表面に垂直となるz軸の軸回りのモーメントとに基づいて、研磨装置(3)の、ワーク表面に押し当てられる研磨面がワーク表面の垂直方向に接するように、研磨装置(3)の姿勢を変化させる研磨ロボット(2)である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームと、
前記ロボットアームに装着された、ワークを研磨するための研磨装置と、
前記研磨装置に発生するモーメントを検出する力覚センサと、
前記力覚センサにより検出される、3軸の各軸回りのモーメントに基づいて、前記ロボットアームを制御する制御部と
を備え、
前記ロボットアームにより、前記研磨装置を移動させながら前記研磨装置を用いてワークを研磨する場合において、
前記制御部は、
前記力覚センサが検出する各軸回りのモーメントのうちの、前記ワークのワーク表面内に配置されるx軸及びy軸の各軸回りのモーメントの少なくとも一方と、前記ワーク表面に垂直となるz軸の軸回りのモーメントとに基づいて、前記研磨装置の、前記ワーク表面に押し当てられる研磨面が前記ワーク表面の垂直方向に接するように、前記ロボットアームを制御して前記研磨装置の姿勢を変化させる研磨ロボット。
【請求項2】
前記制御部は、
前記z軸回りのモーメントの大きさと所定の閾値との大小比較を行うことにより前記ロボットアームを制御することにより、前記研磨装置の姿勢変化を、前記研磨面が前記ワーク表面に押し当てられている現在の状態に応じたものとする、請求項1に記載の研磨ロボット。
【請求項3】
前記現在の状態は、
前記研磨装置の移動方向とは逆方向に前記研磨装置に加わる、前記ワーク表面との間の摩擦力により、前記研磨装置に前記x軸回りのモーメント又は前記y軸回りのモーメントの少なくとも一方が発生している状態と、
前記研磨ロボットが前記研磨装置の前記研磨面を前記ワーク表面の垂直方向から外れた方向に押し当てたことにより、前記研磨装置に前記x軸回りのモーメント又は前記y軸回りのモーメントの少なくとも一方が発生している状態と
を含む、請求項1又は2に記載の研磨ロボット。
【請求項4】
ロボットアームと、前記ロボットアームに装着された、ワークを研磨するための研磨装置と、前記研磨装置に発生するモーメントを検出する力覚センサとを備えた研磨ロボットを用いてワークを研磨する研磨方法であって、
前記ロボットアームにより、前記研磨装置を移動させながら前記研磨装置を用いてワークを研磨する場合において、
前記力覚センサが検出する各軸回りのモーメントのうちの、前記ワークのワーク表面内に配置されるx軸及びy軸の各軸回りのモーメントの少なくとも一方と、前記ワーク表面に垂直となるz軸の軸回りのモーメントとに基づいて、前記研磨装置の、前記ワーク表面に押し当てられる研磨面が前記ワーク表面の垂直方向に接するように、前記ロボットアームを制御して前記研磨装置の姿勢を変化させる研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、研磨ロボット及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工具を搭載したロボットにより、当該工具を移動させながら当該工具を用いてワークを加工する際には、当該ロボットの動作を事前に教示する必要がある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のロボットのように、研磨装置をロボットに装着し、ロボットに装着した研磨装置を移動させながら研磨装置をワーク表面に押し当ててワークを研磨する場合には、次の課題があった。
【0005】
先ず、研磨装置によりワークを研磨する場合、ワーク表面に押し当てられる研磨装置の研磨面がワーク表面に対して所定の角度で接することが要求される。このため、例えば研磨装置の研磨面をワーク表面に対して垂直に接するようにしたい場合、研磨装置の研磨面がワーク表面に接する方向がワーク表面の垂直方向から外れた場合を事前に考慮した教示を行うことが望まれる。しかしながら、この教示作業には多大な工数が必要である。
【0006】
また、教示作業が人手による場合、教示作業を行った作業者の技量の良し悪しによって教示データの精度に差が出てしまう。このため、教示作業の作業者の違いによって研磨の出来具合が変わってしまうという不具合もある。
【0007】
本開示は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、作業者の技量に依存することなく、教示作業の工数を削減することができる研磨ロボット及び研磨方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る研磨ロボットは、ロボットアームと、前記ロボットアームに装着された、ワークを研磨するための研磨装置と、前記研磨装置に発生するモーメントを検出する力覚センサと、前記力覚センサにより検出される、3軸の各軸回りのモーメントに基づいて、前記ロボットアームを制御する制御部とを備え、前記ロボットアームにより、前記研磨装置を移動させながら前記研磨装置を用いてワークを研磨する場合において、前記制御部は、前記力覚センサが検出する各軸回りのモーメントのうちの、前記ワークのワーク表面内に配置されるx軸及びy軸の各軸回りのモーメントの少なくとも一方と、前記ワーク表面に垂直となるz軸の軸回りのモーメントとに基づいて、前記研磨装置の、前記ワーク表面に押し当てられる研磨面が前記ワーク表面の垂直方向に接するように、前記ロボットアームを制御して前記研磨装置の姿勢を変化させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、作業者の技量に依存することなく、教示作業の工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る研磨システムの概要を示す図である。
【
図2】上記研磨システムに含まれる研磨ロボットの構造の一例を示す図である。
【
図3】上記研磨ロボットに含まれる力覚センサの構造と、当該力覚センサが検出するパラメータとを示す図である。
【
図4】上記研磨システムに含まれる情報処理装置、及び上記研磨ロボットの各内部構成を示すブロック図である。
【
図5】上記研磨ロボットに装着された研磨装置を用いてワークを研磨する様子を示す側面図である。
【
図6】上記研磨ロボットに装着された研磨装置を用いてワークを研磨する様子を示す斜視図である。
【
図7】上記研磨ロボットに装着された研磨装置を用いてワークを研磨する他の様子を示す側面図である。
【
図8】上記研磨ロボットに装着された研磨装置を用いてワークを研磨する他の様子を示す側面図である。
【
図9】上記研磨ロボットを用いた研磨方法の流れを示すフローチャートである。
【
図10】
図9の研磨工程の流れを示すフローチャートである。
【
図11】
図10の判定工程の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本開示の実施形態について説明する。
【0012】
≪研磨システムの概要≫
図1は、本開示の実施形態に係る研磨システム100の概要を示す図である。
図1に示すとおり、研磨システム100は、情報処理装置1と、研磨ロボット2と、研磨装置3と、を含む。情報処理装置1と研磨ロボット2とは、有線又は無線で接続されている。
【0013】
(情報処理装置1)
情報処理装置1は、研磨ロボット2を直接的に、又は間接的に制御する装置である。なお、情報処理装置1と研磨装置3とが接続されている場合、情報処理装置1は研磨装置3の動作を制御してもよい。本実施形態では一例として、情報処理装置1は、研磨ロボット2に教示データを送信することとする。これにより、情報処理装置1は、研磨ロボット2を間接的に制御することができる。
【0014】
教示データとは、研磨ロボット2に特定の動作を実行させるためのプログラム及び/又はパラメータである。本実施形態における教示データは、研磨ロボット2に研磨対象であるワークを研磨させるための一連の動作を実行させるためのプログラム及び/又はパラメータである。教示データは、研磨ロボット2を動かす直接教示、CADデータ等を用いるオフライン教示、及び作業者による数値入力等によって作成される。情報処理装置1は、作成された教示データを研磨ロボット2に送信する。そして、研磨ロボット2においてこの教示データに基づく動作が実行される。これにより、情報処理装置1は、教示データの規定のとおりに、研磨ロボット2にワークを研磨させることができる。
【0015】
(研磨ロボット2と研磨装置3)
研磨ロボット2は、情報処理装置1の制御に従ってワークを研磨するロボットである。研磨装置3は、ワークの表面を研磨するための装置である。研磨ロボット2は、自身に装着された研磨装置3をワークに押し当てることで、ワークを研磨する。
【0016】
≪研磨ロボット2の構造≫
図2は、研磨ロボット2の構造の一例を示す図である。研磨ロボット2は、
図2に示すとおり、土台22と、基部23と、ロボットアーム24と、ジョイント部25と、を含む。また、ロボットアーム24とジョイント部25との間には、力覚センサ40が組み込まれている。
【0017】
土台22は、研磨ロボット2の土台である。土台22は回転可能であってもよい。土台22が回転すると、土台22に固定されている基部23、及び基部23と接続している、後述する
図4のロボ通信IF26、力覚センサ40、及びジョイント部25が併せて回転する。これにより研磨ロボット2は向きを変えることができる。なお、土台22はAGV(Automatic Guides Vehicle)等、自走可能な機構に固定されていてもよい。換言すると、研磨ロボット2は自走可能なロボットであってもよい。
【0018】
基部23は、土台22とロボットアーム24とを繋ぐ構造物である。後述する
図4の制御部20、記憶部21、及びロボ通信IF26は、基部23又は土台22に内蔵されていてよい。また、基部23はロボットアーム24を動かすためのモータ等の動力源が内蔵されていてもよい。
【0019】
ロボットアーム24は、研磨ロボット2が作業を行う際の「手」となるアームである。ロボットアーム24は、研磨装置3を所定の姿勢で保持するものである。ロボットアーム24は
図2に示すように、多関節で構成されていてよい。ロボットアーム24は関節部分の折り曲げ角度を調節することによって、ジョイント部25の先の位置及び向きを調節することができる。ロボットアーム24の先端は、力覚センサ40が取り付け可能な構造になっている。ジョイント部25は、研磨装置3をロボットアーム24に装着するための構造物である。ジョイント部25は研磨装置3を固定するための構造と、力覚センサ40を取り付けるための構造とを有している。そして、ロボットアーム24とジョイント部25との間に力覚センサ40が取り付けられる。
【0020】
力覚センサ40は、ワークにかかる力及びモーメントを検出するためのセンサである。
図2の例では、力覚センサ40は、ロボットアーム24とジョイント部25との間に取り付けられているが、力覚センサ40の取り付け位置は
図2の例に限定されない。力覚センサ40は、ワークにかかる力及びモーメントを検出可能な位置であれば、研磨ロボット2のどの位置に取り付けられても構わない。
【0021】
≪研磨装置3の構造≫
研磨装置3は、
図2に示すとおり、長手状の本体部31と、本体部31の一端側に設けられた駆動部32と、回転駆動する円形状の研磨ディスク33と、を有する。研磨装置3は、円板形の研磨ディスク33を回転させながらワークを研磨する。本体部31は、駆動源としての電動モータを内蔵する。当該電動モータの回転が、駆動部32を介して、研磨ディスク33に伝達され、研磨ディスク33が回転する。
【0022】
≪力覚センサ40の構造≫
図3は、
図2に示す力覚センサ40の構造と、力覚センサ40が検出するパラメータとを示す図である。
図3に示すように、力覚センサ40は、第1面401を有する第1部材と、第2面402を有する第2部材と、第1部材及び第2部材の間に配置された起歪体(図示しない)とを有する。
【0023】
力覚センサ40の第1面401は、ロボットアーム24に取り付けられる。
【0024】
第2面402は、ジョイント部25に取り付けられる。力覚センサ40は、内部の起歪体の変形を検出することにより、力覚センサ40において3軸(x軸、y軸、z軸)の各方向に対し作用する力の大きさ(
図3のfx、fy、fz)と、各軸回りのモーメントの大きさ(
図3のmx、my、mz)とを検出する。力覚センサ40は、ジョイント部25を介して研磨装置3と接続している。したがって、力覚センサ40の検出する各種力及び各モーメントは、研磨装置3にかかる各種力及び各モーメントと略同一であるとみなすことができる。
【0025】
≪情報処理装置1及び研磨ロボット2の各内部構成≫
図4は、情報処理装置1及び研磨ロボット2の各内部構成を示すブロック図である。情報処理装置1は、プロセッサ10と、メモリ11と、入力インタフェース(以下、「入力IF」と称する。)12と、出力インタフェース(以下、「出力IF」と称する。)13と、装置通信インタフェース(以下、「装置通信IF」と称する。)14と、とを含む。プロセッサ10、メモリ11、入力IF12、出力IF13、及び装置通信IF14は、バスを介して相互に接続されている。
【0026】
研磨ロボット2は、制御部20、記憶部21、ロボ通信インタフェース(以下、「ロボ通信IF」と称する。)26と、力覚センサ40と、を含む。制御部20、記憶部21、及びロボ通信IF26は、バスを介して相互に接続されている。なお、土台22がモータ等の電気的構成を有する場合、土台22もバスを介し、上述した各構成と相互に接続されていてもよい。
【0027】
研磨ロボット2は、自身に取り付けられた力覚センサ40と接続する。研磨ロボット2と力覚センサ40との接続IFは特に限定されない。例えば、力覚センサ40はロボットアーム24の端部を介して、研磨ロボット2のバスと接続する構成であってもよい。
【0028】
(情報処理装置1の内部構成)
メモリ11は、情報処理装置1の動作に必要なデータ及びプログラムを記憶する。メモリ11として利用可能なデバイスとしては、例えば、半導体RAM(Random Access Memory)を挙げることができる。
【0029】
教示データは、研磨ロボット2を動作させるための教示データである。教示データは、プロセッサ10によって作成される。
【0030】
プロセッサ10は、メモリ11に格納されているプログラムに記述された命令を実行することで、各種演算を実行する演算装置である。研磨ロボット2を動作させるための教示データは、プロセッサ10によって作成される。
【0031】
入力IF12は、情報処理装置1が入力装置からの入力を受け付けるためのインタフェースである。出力IF13は、情報処理装置1が出力装置にデータを出力するためのインタフェースである。装置通信IF14は、情報処理装置1と研磨ロボット2とを接続するためのインタフェースである。
【0032】
(研磨ロボット2の内部構成)
記憶部21は、研磨ロボット2の動作に必要なデータ及びプログラムを記憶する。より詳細には、記憶部21は、研磨ロボット2が情報処理装置1から受信した教示データを記憶している。
【0033】
制御部20は、記憶部21に格納されているプログラムに記述された命令を実行することで、研磨ロボット2を統括的に制御する。より具体的には、制御部20は、記憶部21に記憶されている教示データを読み出して実行することにより、教示データにより指定される通りに土台22、基部23、ロボットアーム24、及びジョイント部25の各々に備えられている各種モータ及びギア等の駆動機構を動作させる。これにより、制御部20は、研磨ロボット2全体を、教示データの指示通りに動かすことができる。
【0034】
ロボ通信IF26は、研磨ロボット2と情報処理装置1を接続する通信IFである。また、制御部20とロボットアーム24とは、ロボ通信IF26を介して、接続されている。また、制御部20と力覚センサ40とは、ロボ通信IF26を介して、接続されている。
【0035】
力覚センサ40は、制御部20に対し、力覚センサ40が検出した力及びモーメントの各パラメータを送信する。力覚センサ40の各パラメータの検出及び送信は、随時行われてよい。また、制御部20は力覚センサ40からの検出値を監視し、当該検出値に応じて研磨ロボット2全体をフィードバック制御してもよい。
【0036】
≪研磨ロボットを用いた研磨方法≫
次に、研磨ロボット2を用いた研磨方法について説明する。なお、以下では、初めに、研磨ロボット2の基本動作について説明しておく。
【0037】
(研磨ロボットの基本動作)
図5は、研磨ロボット2に装着された研磨装置3を用いてワークWを研磨する様子を示す側面図である。なお、
図5、並びに後述の
図6、
図7及び
図8においては、図面の見易さを考慮して、研磨装置3を保持する研磨ロボット2の記載が省略されている。
【0038】
図5には、研磨ロボット2が、ロボットアーム24に装着された研磨装置3をワークWに対し適切な力Fzで押し当てている様子が描かれている。
【0039】
ここで、ワークWの表面WSの研磨においては、研磨装置3が有する研磨ディスク33の研磨面33Sがワーク表面WSに接する方向をワーク表面WSに対して所定の角度となるようにすることで、高い研磨品質を得ることができる。なお、本実施形態の研磨装置3では、上記の所定の角度は、ワーク表面WSに対して垂直方向であることが好ましいが、本実施形態はこれに限るものではない。以下では、研磨装置3が有する研磨ディスク33の研磨面33Sがワーク表面WSに接する方向をワーク表面WSの垂直方向となるようにすることを例として、本実施形態を説明する。
【0040】
研磨ロボット2は、研磨ディスク33の研磨面33Sをワーク表面WSに押し当てる。この状態で、力覚センサ40は、x軸、y軸及びz軸の各方向に対し作用する力と、x軸、y軸及びz軸の各軸回りのモーメントとを検出する。制御部20は、検出された力及びモーメントに基づきロボットアーム24を制御して、研磨ディスク33の研磨面33Sがワーク表面WSの垂直方向に接するようにロボットアーム24の姿勢を変化させる。なお、
図5の例では、x軸及びy軸がワーク表面WS内に配置され、z軸がワーク表面に垂直となる。
【0041】
図6には、研磨ロボット2が、研磨装置3をワークWに対し適切な力Fzで押し当てながら移動させてワークWS表面を研磨する様子が描かれている。研磨装置3は、移動方向Hに沿って、位置3Aから位置3Bに向かって移動する。
【0042】
研磨装置3の研磨ディスク33が回転しつつ、研磨装置3が移動すると、研磨装置3に対し、移動方向Hとは逆方向に、研磨装置3の移動に逆らう抵抗力、すなわち、摩擦力が加わることになる。そして、この摩擦力により、
図5の例では、研磨装置3にx軸回りのモーメントmx又はy軸回りのモーメントmyのうちの少なくとも一方が発生する。以下、
図5の例においてモーメントmxが発生した状態を「
図5の状態」と称する。
【0043】
また、研磨ロボット2が研磨装置3をワークWに押し当てる際、ロボットアーム24の制御不良により、研磨面33Sをワーク表面WSの垂直方向から外れた方向に押し当ててしまう場合がある。この場合、研磨装置3にはx軸回りのモーメントmx又はy軸回りのモーメントmyのうちの少なくとも一方が発生する。
図7には、モーメントmxが発生した状態(以下、「
図7の状態」と称する。)が描かれている。
図7の状態では、符号U1で示す箇所にて、研磨ディスク33の研磨面33Sがワーク表面WSから離れてしまっており、研磨面33Sはワーク表面WSの垂直方向に接していない。また、
図8にも、モーメントmxが発生した状態(以下、「
図8の状態」と称する。)が描かれている。
図8の状態では、符号U2で示す箇所にて、研磨ディスク33の研磨面33Sがワーク表面WSから離れてしまっており、
図7の状態と同様、研磨面33Sはワーク表面WSの垂直方向に接していない。
【0044】
研磨ロボット2は、上述の
図7の状態又は
図8の状態のいずれであっても、研磨面33Sがワーク表面WSの垂直方向に接するように、ロボットアーム24を制御してモーメントmxが小さくなる方向にロボットアーム24の姿勢を変化させることになる。なお、以下、
図7及び
図8の各状態を総称して「非垂直状態」と称する場合がある。
【0045】
ここで問題となるのが、力覚センサ40により検出されたモーメントmxの大きさからは、研磨装置3が、
図5の状態にあるのか、それとも、非垂直状態にあるのか、を区別することができない、という点にある。すなわち、
図5の状態において検出されたモーメントmxの大きさと、非垂直状態において検出されたモーメントmxの大きさとが一致してしまうと、モーメントmxの大きさからは、研磨装置3が
図5の状態にあるのか、それとも、非垂直状態にあるのかを区別できない。
【0046】
上述のとおり、研磨ロボット2は、ロボットアーム24を制御してモーメントmxが小さくなる方向にロボットアーム24の姿勢を変化させる。ロボットアーム24の姿勢を変化させる際に重要となるのは、モーメントmxの発生が
図5の状態によるものか、それとも、非垂直状態によるものかを把握することである。
図5の状態によるものか、それとも、非垂直状態によるものかを把握できないと、研磨ロボット2は、ロボットアーム24の姿勢を正確に制御することができない。
【0047】
このような状況を鑑み、研磨装置3の研磨面33Sがワーク表面WSの垂直方向に接しないあらゆる状態を事前に考慮した教示を行うことが考えられる。しかしながら、この教示作業には多大な工数が必要となるのは明らかである。また、仮に、この教示作業を人手によって行ったとしても、熟練の作業者が行った教示作業と経験の少ない作業者が行った教示作業とでは、作成される教示データの精度に大きな差が出てしまう。
【0048】
ここで注目すべきは、
図5の状態において検出されたモーメントmxの大きさと、非垂直状態において検出されたモーメントmxの大きさとが一致する場合であっても、各々の状態において検出されるz軸回りのモーメントmzの大きさが互いに異なる点である。
図5の状態における研磨面33Sとワーク表面WSとの接触面積は、非垂直状態における研磨面33Sとワーク表面WSとの接触面積よりも大きくなる。非垂直状態、すなわち、
図7の状態又は
図8の状態においては、研磨ディスク33の研磨面33Sがワーク表面WSから離れてしまっているからである。このため、
図5の状態において検出されるモーメントmzの大きさは、非垂直状態の状態において検出されるモーメントmzの大きさよりも大きくなる。
【0049】
そこで、研磨ロボット2は、モーメントmxの発生が、
図5の状態によるものなのか、それとも、
図7又は
図8の状態によるものか、を把握する。
【0050】
なお、上記では、
図5~
図8を用いてモーメントmxが発生した場合を例として研磨ロボット2の基本動作を説明したが、モーメントmyが発生した場合であっても、モーメントmx及びモーメントmyの両方が発生した場合であっても、研磨ロボット2の基本動作を同様に説明できることに留意すべきである。
【0051】
以上説明したとおり、研磨装置3の研磨面33Sがワーク表面WSの垂直方向に接しないあらゆる状態を考慮することなく教示することができるので、教示作業に要する工数は削減される。また、経験の少ない作業者であっても熟練の作業者と同等の教示データを作成することも可能となる。
【0052】
(処理の流れ)
以下、上述の研磨ロボット2の基本動作を踏まえて、研磨ロボット2を用いた研磨方法について説明する。
【0053】
図9は、研磨ロボット2の研磨方法の流れを示すフローチャートである。
図9に示すように、まず、情報処理装置1が研磨ロボット2に対し、研磨プログラムを設定する設定工程(S1)が実施される。研磨プログラムは
図1の教示データの一例である。
【0054】
次に、研磨ロボット2によって、配置工程(S2)と、研磨工程(S3)とが順に行われる。次に、研磨ロボット2において、研磨プログラムが完了したか否かの判定が行われる(S4)。次に、設定工程(S1)にて設定された研磨プログラムが完了するまで(S4:YES)、配置構成(S2)及び研磨工程(S3)が繰り返し実行される。以下、各工程について詳しく説明する。
【0055】
設定工程(S1)において、情報処理装置1は、研磨ロボット2に研磨プログラムを設定する。より詳細には、情報処理装置1は、研磨ロボット2に適用する研磨プログラムを作成し、作成した研磨プログラムを研磨ロボット2に送信する。
【0056】
情報処理装置1は、装置通信IF14を介して、研磨ロボット2に研磨プログラムを送信する。研磨ロボット2は、ロボ通信IF26を介して、研磨プログラムを受信し、記憶部21に記憶させる。制御部20は、記憶部21から研磨プログラムを読み出して実行することで、以降の配置工程(S2)及び研磨工程(S3)を実行する。
【0057】
設定工程(S1)終了後、配置工程(S2)が実行される。配置工程(S2)では、まず、研磨ロボット2は、ロボットアーム24の姿勢を制御して、研磨装置3をワークの研磨開始位置に配置する。これにより、ロボットアーム24の研磨装置3により、ワークのワーク表面の研磨がすぐに行える状態にする。
【0058】
次に、研磨工程(S3)が行われる。
図10は、研磨工程(S3)の流れを示すフローチャートである。研磨工程S3では、処理工程(S11)と、検出工程(S12)及び判定工程(S13)とが並行して、又は順不同に行われる。
【0059】
処理工程(S11)では、制御部20は、ロボ通信IF26を介してロボットアーム24を制御することで、研磨装置3を移動させつつ、ワークのワーク表面に研磨装置3の研磨面33Sを押し当てながら研磨ディスク33を回転させることにより、ワークのワーク表面を研磨する。
【0060】
研磨装置3が移動方向Hに移動すると、研磨装置3には、3軸の各軸回りのモーメントmx、my及びmzが発生する。検出工程(S12)では、力覚センサ40が、研磨装置3に発生する各モーメントを検出し、検出結果を制御部20へ出力する。
【0061】
判定工程(S13)では、制御部20は、検出工程(S12)にて検出された各モーメントが所定の条件を満たしているか否かを判定する。以下、
図11を用いて判定工程(S13)について具体的に説明する。
【0062】
図11は、
図10の判定工程(S13)の流れを示すフローチャートである。
図11において、研磨装置3はワークに押し当てられる(S101)。そして、制御部20は、研磨装置3に発生したモーメントmxの大きさが第1閾値以下であるか否かを判定する(S102)。モーメントmxの大きさが第1閾値以下であれば(ステップS102にてYES)、ステップS103へ進む。なお、モーメントmxの大きさが第1閾値以下であれば、研磨装置3は上述の
図5の状態又は非垂直状態のいずれにかにあると考えられる。
【0063】
次に、制御部20は、研磨装置3に発生したモーメントmzの大きさが第2閾値以上であるか否かを判定する(S103)。モーメントmzの大きさが第2閾値以上であれば(ステップS103にてYES)、本処理は終了する。なお、モーメントmzの大きさが第2閾値以上であれば、研磨装置3は上述の
図5の状態にあることになる。
【0064】
また、モーメントmzの大きさが第2閾値よりも小さければ(ステップS103にてNO)、制御部20は、ロボットアーム24の姿勢を制御し、モーメントmzの大きさが第2閾値以上となるようにロボットアーム24の姿勢を変化させる(ステップS104)。そして、本処理は終了する。なお、モーメントmzの大きさが第2閾値よりも小さければ、研磨装置3は上述の非垂直状態にあることになる。
【0065】
一方、ステップS102において、モーメントmxの大きさが第1閾値よりも大きければ(ステップS102にてNO)、ステップS105へ進む。制御部20は、研磨装置3に発生したモーメントmzの大きさが第3閾値以上であるか否かを判定する(S105)。モーメントmzの大きさが第3閾値以上であれば(ステップS105にてYES)、本処理は終了する。また、モーメントmzの大きさが第3閾値よりも小さければ(ステップS105にてNO)、制御部20は、ロボットアーム24の姿勢を制御し、モーメントmxの大きさが第1閾値以下となり、モーメントmzの大きさが第3閾値以上となるようにロボットアーム24の姿勢を変化させる(ステップS106)。そして、本処理は終了する。
【0066】
なお、
図11の例では、ステップS102において、研磨装置3にモーメントmxが発生した場合が想定されているが、モーメントmyが発生した場合、並びにモーメントmx及びモーメントmyの両方が発生した場合であっても、研磨ロボット2を用いた研磨方法を同様に説明できることに留意すべきである。
【0067】
(第2閾値及び第3閾値)
研磨装置3の研磨ディスク33の種類、研磨時における研磨ディスク33の回転速度、ワークの材料、及び研磨時において研磨装置3をワークに押し当てる力、といった研磨条件により、上述の
図7の状態と
図8の状態において発生するモーメントmzの大きさが異なる。このため、各種研磨条件と研磨装置3に発生する各軸回りのモーメントとの関係を機械学習させた学習済モデルを作成し、当該学習済モデルを用いて上述の第2閾値及び第3閾値の値を算出するのが好ましい。
【0068】
なお、学習済モデルは、各ノードの出力に対する重み付け係数が機械学習により最適化されたニューラルネットワーク(NN:Neural Network)であってもよい。なお、学習済モデルがNNである場合、学習済モデルは、高い特定精度が期待できる多層(例えば、4層以上)のNNであることが好ましい。
【0069】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
100 研磨システム、1 情報処理装置、2 研磨ロボット、3 研磨装置、10 プロセッサ、11 メモリ、12 入力IF、13 出力IF、14 装置通信IF、20 制御部、21 記憶部、22 土台、23 基部、24 ロボットアーム、25 ジョイント部、26 ロボ通信IF、40 力覚センサ