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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039358
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】事前解凍専用冷凍麺
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20230313BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A23L7/109 B
A23L7/109 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146500
(22)【出願日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000151232
【氏名又は名称】シマダヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】八ツ橋 奏
(72)【発明者】
【氏名】遠口 祥
(72)【発明者】
【氏名】仲田 尚人
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA02
4B046LB10
4B046LC01
4B046LC04
4B046LG16
4B046LG21
4B046LG29
4B046LP03
4B046LP10
4B046LP17
4B046LP41
4B046LP69
4B046LP80
4B046LQ01
4B046LQ04
(57)【要約】
【課題】冷凍うどんを解凍した後、2時間以上経過した後であっても、食感を最適に調整すること、更には、澱粉の配合により脆弱化した茹麺の肌荒れを抑えて茹上げること。
【解決手段】小麦粉を主原料とし、エーテル化澱粉及びアセチル化澱粉のいずれか又は両方を含む粉体原料に練り水を加え、混錬により麺生地とする混錬工程、その麺生地を麺帯に成形、圧延及び細断して生麺とする製麺工程、その生麺を茹でるに際し加圧環境下の110℃~130℃の温度で茹上げ冷却し茹麺とする茹工程、茹麺を冷凍する冷凍工程、冷凍麺を解凍後5~25℃で2時間以上ねかせるねかし工程、を順次備えたことを特徴とするうどんの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を主原料とし、エーテル化澱粉及びアセチル化澱粉のいずれか又は両方を含む粉体原料に練り水を加え、混錬により麺生地とする混錬工程、その麺生地を麺帯に成形、圧延及び細断して生麺とする製麺工程、その生麺を茹でるに際し加圧環境下の110℃~130℃の温度で茹上げ冷却し茹麺とする茹工程、茹麺を冷凍する冷凍工程、冷凍麺を解凍後5~25℃で2時間以上ねかせるねかし工程、を順次備えたことを特徴とするうどんの製造方法。
【請求項2】
混錬工程において、エーテル化澱粉及びアセチル化澱粉の粉体原料に占める割合が20~40重量%であることを特徴とする請求項1に記載のうどんの製造方法。
【請求項3】
茹工程において、茹上げ温度が120℃~130℃で、茹上げる加圧環境を沸騰圧に対し5%以上高い圧力に維持すると共に、同じ加圧環境下で茹上げた麺を100℃以下に冷却し、その後に大気圧下に排出することを特徴とする請求項1又は2に記載のうどんの製造方法。
【請求項4】
小麦粉を主原料とし、エーテル化澱粉及びアセチル化澱粉のいずれか又は両方を含む粉体原料に練り水を加え、混錬により麺生地とする混錬工程、その麺生地を麺帯に成形、圧延及び細断して生麺とする製麺工程、その生麺を茹でるに際し加圧環境下の110℃~130℃の温度で茹上げ冷却し茹麺とする茹工程、茹麺を冷凍する冷凍工程を順次備えることにより得られる冷凍麺を、解凍後5~25℃で解凍後2時間以上経過後に喫食することを特徴とする冷凍うどんの食感向上方法。
【請求項5】
小麦粉を主原料とし、エーテル化澱粉及びアセチル化澱粉のいずれか又は両方を含む粉体原料に練り水を加え、混錬により麺生地とする混錬工程、その麺生地を麺帯に成形、圧延及び細断して生麺とする製麺工程、その生麺を茹でるに際し加圧環境下の110℃~130℃の温度で茹上げ冷却し茹麺とする茹工程、茹麺を冷凍する冷凍工程を順次備えることにより得られる、解凍後5~25℃で解凍後2時間以上経過後に喫食するための冷凍うどん。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁当、総菜、宴会、ケータリングなどで事前に解凍を終えて待機し、時間経過後の喫食に適する冷凍うどん、冷凍うどんの食感向上方法、及びうどんの製造方法に関する。上記うどんの製造方法は、主原料の小麦粉に老化耐性澱粉を配合し加圧環境下の100℃を超える高温で茹上げる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
加圧釜で100℃を越える温度で茹上げることによりα化度を高め、麺の食感を高めることが知られる。しかし、意図しないヘッドスペースの減圧により茹水と共に麺自体が沸騰し、著しい肌荒れを起こす場合がある。また、100℃を越える高い温度で茹でる場合、高度にα化して脆弱化した麺の組織は水流に揉まれるなどの物理的衝撃により肌荒れを起こす原因となり易い。
【0003】
特許文献1によれば、減圧環境下で麺生地を脱気混練することで、肌荒れや崩壊を改善した技術が提案されている。また、特許文献2によれば、茹上げ時の麺の水分を55~68重量%に限定することにより弾力的な食感と、茹時間の短縮に伴う肌荒や崩壊の少ない茹麺を提供する技術が提案されている。
【0004】
特許文献3では、加圧ボイル室の加圧状態を維持するため、投入側に前室及び排出側に後室を具え、麺類等の食品を加圧ボイル室に投入し反転式のカゴで移し替えつつ茹水中を潜行させ、設けられた加圧手段により、加圧ボイル室の圧力低下を補えるようにしたボイル加工装置が提案されている。
【0005】
また、特許文献4では、(1)生麺線を大気圧下で茹でる70℃以上の低温茹工程と、(2)該茹麺線を、100℃を越える加圧環境下で、1食分以下の単位で並列移動して茹上げる高温茹工程と、(3)茹上げられた該単位麺線を、100℃を越える温度から70℃以下に並列移動し、該単位麺線を丸ごと冷却水槽に潜行させて冷却する冷却工程とを有し、(2)高温茹工程と(3)冷却工程を、共通する周回カゴによりそれぞれ高温水槽と冷却水槽を経由して移動させることで、共通する加圧環境の下で同時に行い、内外の管バルブを備えた投入管、取出し管により麺の投入、取り出しを行う茹麺類の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60-176554
【特許文献2】特開平3-195466
【特許文献3】特開2008-302119
【特許文献4】特開2017-130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
業務用の麺類市場では、弁当、総菜、宴会、ケータリングなどの喫食機会に応じるため、解凍後の時間経過後に喫食する場合に適した専用の冷凍麺のニーズがあり既に商品化されている。しかし、数時間のふやけによる麺の食感低下をカバーすることは、大気圧下での茹上げを前提とした、従来の原料や製麺方法の工夫では不十分だった。
【0008】
急速凍結された冷凍茹うどんも解凍後数時間放置すると、水分の平均化や澱粉のいわゆる老化により麺の食感は低下する。そのような食感の低下を緩和するため、一般的に老化耐性澱粉の配合が行われる。しかし、澱粉比率を過剰に高めると、ダシ汁を麺に掛けてもほぐれ難い問題や、相対的に小麦粉比率が低下することで小麦に由来する麺の風味が損なわれる問題があった。
【0009】
更に、加圧環境下100℃を超える温度で茹上げた茹うどんはもともと脆弱化し肌荒れ等が起きやすい状況にあるところで、エーテル化澱粉やアセチル化澱粉の配合により更に脆弱化し、更に肌荒れ等が生じやすい問題があった。
【0010】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、加圧環境下の100℃を超える温度で茹上げることで、澱粉配合率を適度な範囲に抑えながらも、解凍後の数時間経過後のうどん等麺類の食感を最適に調整すること、更には、澱粉の配合により脆弱化した茹麺の肌荒れを抑えて茹上げることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため、本発明者らが模索する中で、老化耐性澱粉を配合し、加圧環境下の120℃で茹上げた冷凍うどんを、解凍し2時間経過後に喫食したところ、大気圧下の茹上げでは見られなかった優れた食感を残せることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、以下の発明特定事項により特定されたとおりのものである。
(1)小麦粉を主原料とし、エーテル化澱粉及びアセチル化澱粉のいずれか又は両方を含む粉体原料に練り水を加え、混錬により麺生地とする混錬工程、その麺生地を麺帯に成形、圧延及び細断して生麺とする製麺工程、その生麺を茹でるに際し加圧環境下の110℃~130℃の温度で茹上げ冷却し茹麺とする茹工程、茹麺を冷凍する冷凍工程、冷凍麺を解凍後5~25℃で2時間以上ねかせるねかし工程、を順次備えたことを特徴とするうどんの製造方法。
(2)混錬工程において、エーテル化澱粉及びアセチル化澱粉の粉体原料に占める割合が20~40重量%であることを特徴とする上記(1)に記載のうどんの製造方法。
(3)茹工程において、茹上げ温度が120℃~130℃で、茹上げる加圧環境を沸騰圧に対し5%以上高い圧力に維持すると共に、同じ加圧環境下で茹上げた麺を100℃以下に冷却し、その後に大気圧下に排出することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のうどんの製造方法。
(4)小麦粉を主原料とし、エーテル化澱粉及びアセチル化澱粉のいずれか又は両方を含む粉体原料に練り水を加え、混錬により麺生地とする混錬工程、その麺生地を麺帯に成形、圧延及び細断して生麺とする製麺工程、その生麺を茹でるに際し加圧環境下の110℃~130℃の温度で茹上げ冷却し茹麺とする茹工程、茹麺を冷凍する冷凍工程を順次備えることにより得られる冷凍麺を、解凍後5~25℃で解凍後2時間以上経過後に喫食することを特徴とする冷凍うどんの食感向上方法。
(5)小麦粉を主原料とし、エーテル化澱粉及びアセチル化澱粉のいずれか又は両方を含む粉体原料に練り水を加え、混錬により麺生地とする混錬工程、その麺生地を麺帯に成形、圧延及び細断して生麺とする製麺工程、その生麺を茹でるに際し加圧環境下の110℃~130℃の温度で茹上げ冷却し茹麺とする茹工程、茹麺を冷凍する冷凍工程を順次備えることにより得られる、解凍後5~25℃で解凍後2時間以上経過後に喫食するための冷凍うどん。
本発明のその他の実施形態として以下を例示することができる。
(6)粉体原料が、さらに活性グルテンを含むことを特徴とする上記(1)に記載のうどんの製造方法。
(7)粉体原料が、国産「きたほなみ」単一の小麦粉として用いられていることを特徴とする上記(1)に記載のうどんの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小麦粉由来澱粉のアルファー化が促進されると共に、もともと糊化粘度が高く、かつ老化耐性を示すエーテル化澱粉又はアセチル化澱粉との相互作用により時間経過後の粘弾性を高めることができる。そして、解凍直後に喫食するには過剰に高められた粘弾性は、解凍後の時間を経て適度に低下し、2~4時間後の喫食に適し食感が向上した粘弾性を残すことができる。また、エーテル化澱粉やアセチル化澱粉の配合により、極度に脆弱化した茹上げ状態において、肌荒れの原因となる茹水の沸騰や麺自体の沸騰を防ぐことで茹うどんの外観を損なうことがない。その結果、解凍後数時間経過後に喫食する冷凍うどん等麺類の食味性を向上させ、弁当、総菜市場における麺類メニューの品質向上に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】麺線切断試験の状況を示す斜視図
図2】「圧縮後期1/3面積率」の説明図
図3】実施例 検討-1の圧縮後期1/3面積率の推移グラフ
図4】実施例 検討-2の圧縮後期1/3面積率の推移グラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のうどんの製造方法としては、小麦粉を主原料とし、エーテル化澱粉及びアセチル化澱粉のいずれか又は両方を含む粉体原料に練り水を加え、混錬により麺生地とする混錬工程、その麺生地を麺帯に成形、圧延及び細断して生麺とする製麺工程、その生麺を茹でるに際し加圧環境下の110℃~130℃の温度で茹上げ冷却し茹麺とする茹工程、茹麺を冷凍する冷凍工程、冷凍麺を解凍後5~25℃で2時間以上ねかせるねかし工程を順次備えた方法であれば特に制限されず、本発明の冷凍うどんの食感向上方法としては、小麦粉を主原料とし、エーテル化澱粉及びアセチル化澱粉のいずれか又は両方を含む粉体原料に練り水を加え、混錬により麺生地とする混錬工程、その麺生地を麺帯に成形、圧延及び細断して生麺とする製麺工程、その生麺を茹でるに際し加圧環境下の110℃~130℃の温度で茹上げ冷却し茹麺とする茹工程、茹麺を冷凍する冷凍工程を順次備えることにより得られる冷凍麺を、解凍後5~25℃で解凍後2時間以上経過後に喫食する方法であれば特に制限されず、本発明の冷凍うどんとしては、小麦粉を主原料とし、エーテル化澱粉及びアセチル化澱粉のいずれか又は両方を含む粉体原料に練り水を加え、混錬により麺生地とする混錬工程、その麺生地を麺帯に成形、圧延及び細断して生麺とする製麺工程、その生麺を茹でるに際し加圧環境下の110℃~130℃の温度で茹上げ冷却し茹麺とする茹工程、茹麺を冷凍する冷凍工程を順次備えることにより得られる、解凍後5~25℃で解凍後2時間以上経過後に喫食するためのという調理方法が特定されている冷凍うどんであれば特に制限されない。
【0016】
本発明の主原料粉に適する小麦粉は、麺用粉として流通販売されている製品であれば使用することができる。例えば、豪州産ASW、より好ましくは国内産きたほなみを単一原料とする麺用粉が茹工程で煮崩れにくい点で適している。また、豪州産ASWやきたほなみを主体とし、他の小麦をブレンドした小麦粉であってもよい。
【0017】
本発明に適する老化耐性澱粉は、エーテル化澱粉(ヒドロキシプロピル化澱粉)及びアセチル化澱粉(酢酸澱粉)である。より好ましくは、アセチル化タピオカ澱粉及びエーテル化タピオカ澱粉である。なお、アセチル基やヒドロキシプロピル基の置換度の調整により、適する糊化開始温度や糊化粘度にすれば、由来原料は、馬鈴薯、甘藷、小麦又はコーンでも良い。又、エーテル化およびアセチル化による水酸基の置換と共に、軽度にリン酸架橋されたアセチル化リン酸架橋澱粉やエーテル化リン酸架橋澱粉を利用することもできる。ただし、リン酸架橋の程度は、うどんの食感を硬くしない程度がよい。これら耐老化性澱粉の粉体原料に占める割合は、好ましくは20~40重量%、より好ましくは30~35重量%が適する。
【0018】
粉体原料には、小麦粉や澱粉の他に活性グルテンを添加してもよい。活性グルテンは澱粉の配合によって相対的に不足する小麦粉由来のグルテンを補い、製麺性や麺食感の低下を防ぐことができる。活性グルテンは小麦から分画、乾燥した粉末状で、加水混錬により弾性と結着性を示し麺生地の骨格を形成するものであれば何れも使用できるが、好ましくは白く無臭に近く、うどん等麺類の風味を損なわないものがよい。
【0019】
混錬工程において、練り水は原則食塩水を用いる。加水率はミキサーや製麺機の特性、粉体原料の吸水率に合わせて調整する。ミキサーは真空ミキサーを利用し減圧環境下で混錬、好ましい減圧度は80キロPa以上、より好ましくは90キロPa以上とする。練り上がりはしっとりと均質に混錬された3~10cm大、脱気された透明感のある生地状態とする。
【0020】
製麺工程は定法に従う。手打ちタイプのうどんであれば手打ち式の麺機を利用し、縦横に圧延すればよく、手延べタイプのうどんであれば、紐状に成形し縦に延伸すればよい。麺線の太さ形状のみ特徴があればいい場合、例えば、本発明のうどんに含まれる細うどん、ひやむぎ、きしめん、そうめん等の場合は平ロール式製麺機を用い麺帯成形後圧延すればよい。どのような製麺工程でも、麺帯成形の後適宜時間をとり生地の伸展性を回復させつつその後の圧延等を行い、包丁切り装置や回転式の切刃により生麺を得る。
【0021】
本発明の茹工程では、その生麺を茹水中に投入して茹始め、茹上げ、冷却する経過において、茹後期を含む茹上げを加圧環境下の110℃~130℃の温度で行う必要がある。よって、本発明の茹工程では、茹前期を含む茹始めから茹上げ迄の全経過を、加圧環境下110℃~130℃としてもよいが、茹前期を含む茹始めは大気圧下の98℃で茹で、茹後期を含む茹上げを加圧環境下110℃~130℃としてもよい。茹工程最後の含水率が高まり麺線中心部に水分が浸透した状態で高温にすることにより効率よくα化できる。うどんの麺線の太さにより中心迄の伝熱時間は異なるため、茹上げ最後の1分以上、好ましくは2分以上を、加圧環境下の110℃~130℃、好ましくは120℃~130℃で、茹上げるとよい。
【0022】
また、茹上げる加圧環境を沸騰圧に対し5%以上高い圧力に維持するとよい。本発明の沸騰圧とは茹上げ温度を沸点とする水蒸気圧とする。例えば、110℃を沸点とする水蒸気圧はゲージ圧で凡そ42kPa、120℃を沸点とする水蒸気圧はゲージ圧で凡そ97kPa、130℃を沸点とする水蒸気圧はゲージ圧で凡そ169kPaとなる。
例えば、120℃で茹上げる場合、沸騰圧の97kPaを維持しようとすると、圧力容器外周の冷却と熱源の関係で生じる温度差により沸騰は避けられない。高圧エアー等により5%以上加圧し、例えば110kPaを維持すれば沸騰が適度に抑えられた安定状態を維持することができる。
【0023】
また茹上げた麺は、沸騰圧に対し5%以上高い加圧環境で、100℃以下に冷却するとよい。沸騰を抑える圧力で100℃以下にすれば、大気圧下に取り出した際に麺自体の沸騰は生じない。そして更に冷やしてから取り出せば、冷却により麺線の強度は高められ、加圧茹装置から取り出す際の水流や移載の衝撃に耐えることができる。
【0024】
大気圧下に取り出されたうどんは、冷水に浸漬し10℃以下に冷却後、凍結を終えて冷凍麺を得る。冷凍うどんの含水率は、好ましくは65~70%、より好ましくは66~69%が適する。
【0025】
本発明は、解凍後2時間以上経過後に喫食する用途専用冷凍麺の製造方法である。本発明で得られた冷凍麺の解凍は、流水解凍、自然解凍、熱水解凍のいずれでもよい。熱水解凍した場合は冷却水で室温以下に冷却する。いずれも解凍した麺は必要に応じ水をきり、喫食単位に分けておくとよい。本発明により得られた冷凍麺は、解凍後5~25℃で2時間以上ねかせると経時的に粘弾性が緩和する。解凍後5~25℃で2時間から6時間のねかし工程の経過により適正な食感を呈する。なお、喫食のタイミングは、利用者の都合により決めることができる。例えば、適切な衛生管理のもとで低温販売され、加熱後に喫食する場合は6時間経過後、例えば8時間経過、10時間経過、又は12時間経過でもよい。
【実施例0026】
本発明の効果を検討-1~3により示すが、本発明はこれらの内容に限定されない。
【0027】
<検討-1>
検討-1では、大気圧下の沸騰状態98~99℃で茹で上げるエーテル化タピオカ澱粉の配合モデルを対照とし、茹上げ条件を加圧環境下の120℃とした場合の実施例について、時間経過後の食感の改善効果を確認した。
【0028】
《冷凍茹うどんの調製》
粉体原料は、国産「きたほなみ」単一の小麦粉67重量%、配合澱粉はエーテル化タピオカ澱粉「松谷ゆり(松谷化学工業社)」を33重量%、活性グルテン「AグルAS(グリコ栄養食品社)」を3重量%とした。
なお、澱粉の配合率は、製麺作業性や風味の低下、喫食時のほぐれ性の低下が澱粉の増量により顕著となり、取り分け3割と4割の間で大きく変化することから合理的な限界点として33%とした。また、表1に併記した単位「%」はいずれも質量%を意味する。
【0029】
【表1】
【0030】
検討-1では、これら表1の粉体原料3kgを真空ミキサーに投入し練り水を加え、加水混合高速2分、減圧度(ゲージ圧)80~85kPaとして低速混錬5分とし、粒径2~8cm大、温度30℃の均質な生地に練り上げた。練り上げた生地は、麺帯成形後に複合し、厚み10mmの麺帯として30分ねかした。その後2段の圧延を経て、9番相当の回転式切刃で細断、厚さ3.0~3.3mm、長さ30cmの生麺を得た。
【0031】
茹条件は、生蒸気による攪拌機能とジャケット式の加熱機能を備え、冷却水は釜の底部と上部から任意に給水可能な加圧釜を用い、茹時間は7分及び10分とした。実施1の10分茹は、生蒸気により攪拌した熱水中のカゴ内に前記の生麺を投入してほぐし、大気圧下98℃で5分茹でた後、密閉耐圧状態として3分加熱し120℃に達温、120℃を1分維持した。その後、釜の底部から冷却水を注入攪拌し90℃前後に冷却、その後上部から冷却水を注入、1分程度で復圧し、麺を取り出した。実施1の7分茹は、同10分茹の大気圧下98℃での茹時間5分を2分に変更した以外は同様に行い、麺を取り出した。
【0032】
対照の茹時間は10分のみとした。対照は実施1と同じ釜を用い、同様に生麺を投入してほぐした後は、大気圧下の98~99℃を維持し麺を取り出した。いずれの試作区分も茹上がった麺は5℃の冷水で冷やした後に水をきり、凍結トレーに100g毎に取り分け凍結し冷凍麺とした。
【0033】
《官能評価試験》
調製した冷凍麺は、後日流水解凍し、解凍後10℃で4時間経過した時点で官能評価を行った。採点は対照のうどんを基準の5点として0点~10点の範囲で行い、評価項目はかたさの程度(かたいのが高得点)、粘弾性(もちもち感があるのが高得点)、食感総合(好ましいのが高得点)の3項目とした。パネラーは4名で評価し平均点を求めた。
【0034】
【表2】
【0035】
「実施1-10分茹」は、かたさの程度で対照と差がなく、粘弾性(もちもち感の程度)では平均6.5点、食感総合(好ましさ)は平均6.8点で、粘弾性と食感総合は対照の5点に対し全てのパネラーが6点以上の採点をしたことから、明らかに優れていた。「実施1-7分茹」は、対照の5点に対しかたさの程度で平均6.8点と高く、粘弾性平均は6.0点、食感総合平均は6.3点と、粘弾性と食感総合は「実施1-10分茹」に近い採点だったが、「実施1-7分茹」ではパネラーにより4点から8点と採点にバラツキがあった。試作区分「実施1-10分茹」の結果から120℃の加圧状態で茹上げた冷凍麺は大気圧下の98~99℃で茹上げたものに比べ、解凍後4時間後の食感に優れていた。また、麺線の肌荒れなど外観の状態に関してはいずれの試験区分も遜色なかった。
【0036】
《麺線切断試験》
麺線切断試験は、テクスチャーアナライザー(株式会社島津製作所製)により行った。凍結状態の冷凍麺を容器に入れ水道水を注ぎ込みオーバーブローさせ、10分間で全体が解凍を終えるように水量を調整した。麺線温度を10℃で安定させた解凍直後と、ざるで水を切り皿に載せ替えラップをして10℃で保存、その2時間後、4時間後及び6時間後に、麺100gに対し50mlの水を掛けてほぐし、それぞれ5回測定した。
【0037】
測定は図1に示した感圧軸により圧縮した。麺線は5cm程度の切片として感圧軸の押圧部と直交方向に試料台に載せ、試料台の上昇速度は毎秒1mm、応力の記録は0.1秒以下の間隔とした。記録された応力変形曲線と圧縮経過を示す応力0の横軸との間で形成される面積の内、圧縮経過最後の1/3の面積が占める割合を、「圧縮後期1/3面積率」として食感の優劣の目安とした。
【0038】
上記「圧縮後期1/3面積率」を図2の応力変形曲線のモデルで説明する。垂直に吊り下げた状態で固定された感圧軸に対し、試料台に載せられた麺線が上昇し接触した状態がAで、Aは応力変形曲線の起点となる。試料台はこのAを等速通過して麺線を圧縮、それに伴い応力は上昇しひずみが限界に達すると応力変形曲線はピークを形成して応力は低下、その後、試料台が感圧軸に接触した状態Cが応力変形曲線の終点となる。「圧縮後期1/3面積率」は、応力変形曲線と横軸の区間ACによって形成される面積を、横軸の区間ACを2対1に分けた位置Bで垂直に区分し、区間AC上で形成される面積の内、圧縮後期の1/3の区間BC上で形成される面積(斜線で示した部分)が占める割合とした。一般的に食感良好な、解凍直後の応力変形曲線モデルでは「圧縮後期1/3面積率」は高く、一般的に食感が劣る解凍後時間経過後の応力変形曲線モデルの「圧縮後期1/3面積率」は低くなる。「圧縮後期1/3面積率」の高さは、食感が良好であることの指標となる。なお、応力変形曲線から食感指標として「圧縮後期1/3面積率」を採用した理由は、本発明が、冷凍麺解凍後の時間経過後に麺の評価を行うため、4~6時間に及ぶ保管中に生じる、水分の均一化や澱粉成分の老化により、圧縮毎の応力変形曲線が不揃いな形となってピーク座標がぶれやすい特徴があった。その結果、ピーク座標に基づく指標では有意差が得られず、その結果、統計的な評価が困難だったことによる。
【0039】
また検討-1では、「圧縮後期1/3面積率」の経時変化を、対照と実施1でより公正に比較するため、実施1の7分茹と10分茹のそれぞれの水分と値から、対照と同一水分に換算した「圧縮後期1/3面積率」の水分換算値を用いた。
なお、実施1と対照の平均値の差の検定は、実施1の7分茹、10分茹のそれぞれと対照の間でT分布に従う確率を「両側分布、不等分散」の条件で求め判定指標とした。
【0040】
【表3】
【0041】
「圧縮後期1/3面積率」の結果は表3に示した。表3の試作区分「実施1」の7分茹と10分茹の列には、それぞれ5回の切断試験より得た、平均値(n=5)と、7分茹と10分茹のそれぞれと「対照」の間で「t分布に従う確率」を示し、「水分換算値」の列には「圧縮後期1/3面積率」を「対照」と同一水分に換算した値を示した。
「対照」は解凍直後の78.7%が2時間後~6時間後の間で70%以下に低下して推移したのに対し、「実施1」は解凍直後に84.1%(水分換算値)から2時間後~6時間経過後に75.2%~74.2%で推移し、「対照」の解凍直後の値78.7%に比較的近い値を維持していた。
また、「t分布に従う確率」は、7分茹と10分茹の2、4、6時間後の全てにおいて5%以下を示し、「対照」と「実施1」に有意差を認めた。
【0042】
検討-1より、120℃の加圧状態で茹上げた冷凍うどんは大気圧下の98~99℃で茹上げたものに比べ、解凍後4時間後の食感に優れ、時間経過後の品質低下の抑制効果は、切断試験の応力変形曲線から「圧縮後期1/3面積率」によって裏付けられた。
【0043】
<検討-2>
検討-2では、配合するエーテル化タピオカ澱粉の配合率を下げた場合の食感の維持効果を確認した。
【0044】
《冷凍茹麺の調製》
表4に示したように、検討-1のエーテル化タピオカ澱粉の配合率を20%(実施2)及び10%(比較1)に減らした冷凍うどんを調製した。その際の製麺条件、茹上げ条件は検討-1「実施1-10分茹」と同様に行った。
【0045】
【表4】
【0046】
《官能評価試験》
調製した冷凍麺は、後日流水解凍し、解凍後10℃で4時間経過した時点で官能評価を行った。検討-2の官能評価では検討-1の評価項目に「風味の好ましさ」を追加し、検討-1の「対照」を評価基準として、「実施1」の10分茹のうどんを含めて評価した。採点方法、パネラーは検討-1と同一とした。
【0047】
【表5】
【0048】
「実施2」は、かたさが平均6.3点で「実施1」より高く、粘弾性および食感総合は共に平均4.8点、風味の好ましさは5.3点で「対照」と概ね同等だった。「比較1」は、かたさが平均7.5点で「実施2」より高く、粘弾性は平均2.3点、食感総合は平均2.8点で「対照」及び「実施2」より低く、風味の好ましさは5.5点で高くパネラーの半数が6点を付けた。また、再評価となる「実施1」の採点は検討-1と概ね同じ傾向だった。
「実施2」の結果から、解凍後4時間後の評価において、120℃の加圧状態で茹上げたエーテル化タピオカ澱粉2割配合の冷凍うどんの食感の程度は、98℃の通常通り茹上げたエーテル化タピオカ澱粉3割配合の冷凍うどんに相当した。
【0049】
《テクスチャーアナライザーによる切断試験》
麺線切断試験は検討-1と同様に行い、得られた応力変形曲線から食感指標として「圧縮後期1/3面積率」を求め比較検討した。
【0050】
【表6】
【0051】
「圧縮後期1/3面積率」の結果は表6に、そのグラフを図4に示した。なお、グラフには比較のために「実施1(10分茹)」の値を併記した。
「対照」が2時間後~6時間後の間で70%以下に低下して推移したのに対し、「実施2」は、解凍直後の81.4%から、2時間後73.7%、4時間後70.8%、6時間後69.7%で「対照」より2時間以降も高く推移すると共に、2時間後及び4時間後では「対照」との間で有意差を示した。
「比較1」は、解凍直後では80.8%と「実施2」に近い値を示したが、2時間後~6時間後の区間で低下し、「対照」との間で有意差を示さなかった。
【0052】
検討-2より、エーテル化タピオカ澱粉3割配合して98℃で茹上げた対照の冷凍うどんの解凍後の2~4時間後の食感を維持する為には、加圧環境下の120℃で茹上げることで、エーテル化タピオカ澱粉3割を2割に減らすことが可能であることを示していた。
【0053】
<検討-3>
検討-3では、検討-1で配合したエーテル化タピオカ澱粉を、アセチル化タピオカ澱粉、漂白タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチに替えて食感の維持効果を比較した。
【0054】
《冷凍茹麺の調製》
表7に示したように、配合澱粉の異なる試作区分「実施3」はアセチル化タピオカ澱粉「サクラ-2(松谷化学工業)」、「比較2」は漂白タピオカ澱粉「MKK-100(松谷化学工業)」、「比較3」はワキシーコーンスターチ「日食ワキシースターチY(日本食品化工)」による冷凍うどんを調製した。その際の製麺条件、茹上げ条件などは検討-1「実施1-10分茹」と同様に行った。
【0055】
【表7】
【0056】
《官能評価試験》
調製した冷凍麺は、後日流水解凍し、解凍後10℃で4時間経過した時点で官能評価を行った。検討-3の官能評価では、検討-1の「対照」のうどんを基準0点、検討-1の「実施1(10分茹)」のうどんを基準5点、の二つの評価基準を設け、評価項目は、粘弾性と食感総合の2項目に絞り「実施3」、「比較2」及び「比較3」を採点した。
【0057】
【表8】
【0058】
「実施3」は、粘弾性(もちもち感の程度)が平均4.8点、食感総合(好ましさ)が平均4.5点で、「実施3」と「実施1」とは概ね同等だった。
「比較2」は、粘弾性が平均2点、食感総合が平均2.3点で、「比較2」は「実施1」より明らかに低く、パネラー毎の採点では対照と同じ0点を含んでいた。「比較3」は、粘弾性が平均1.8点、食感総合が平均1.3点で、「比較3」は実施1より明らかに低く、かつ比較2より低い採点だった。
【0059】
検討-3より、アセチル化タピオカ澱粉を配合した冷凍うどんは、エーテル化タピオカ澱粉を配合した冷凍うどん同様に、120℃の加圧状態で茹上げることで、大気圧下の98~99℃で茹上げたものに比べ、解凍後4時間経過後の食感の低下が抑制された。一方、漂白タピオカ澱粉やワキシーコーンスターチにはそのような効果は認められず、時間経過後の食感の低下抑制効果は、老化耐性澱粉であるエーテル化澱粉およびアセチル化澱粉に共通する効果であることを示していた。
図1
図2
図3
図4