(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039379
(43)【公開日】2023-03-20
(54)【発明の名称】カーボンナノファイバー含有組成物及び該カーボンナノファイバー含有組成物を含有する成型体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230313BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021166490
(22)【出願日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】599011377
【氏名又は名称】株式会社アルメディオ
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 典之
(72)【発明者】
【氏名】冨山 昌雄
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002AA011
4J002AA021
4J002BB031
4J002BB071
4J002BB121
4J002BC031
4J002BC061
4J002BD041
4J002BD101
4J002BD151
4J002BF021
4J002BN151
4J002CB001
4J002CC031
4J002CD001
4J002CF001
4J002CF211
4J002CG001
4J002CH071
4J002CH091
4J002CK011
4J002CK021
4J002CL001
4J002CM041
4J002CN031
4J002DA016
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD116
4J002GH01
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】アスペクト比が大きく、更に、サイズや分布が特定されたカーボンナノファイバー群を開発し、該カーボンナノファイバーがベース樹脂に分散性良く含有されてなるカーボンナノファイバー含有組成物を提供すること、また、該カーボンナノファイバーが、従来品より高濃度にベース材料に良好に分散された組成物、又は、該組成物を有する成型体若しくは塗料を提供すること。
【解決手段】ピッチ系炭素繊維を原料とし、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすることによって得られる「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲に、全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群」が、ベース材料に含有されてなるものであることを特徴とするカーボンナノファイバー含有組成物、並びに、該組成物を有してなる成型体及び塗料。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチ系炭素繊維を原料とし、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすることによって得られる「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲に、全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群」が、ベース材料に含有されてなるものであることを特徴とするカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項2】
上記カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均アスペクト比が3以上200以下である請求項1に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項3】
上記カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径が30nm以上1000nm以下であり、かつ、数平均長さが0.2μm以上70μm以下である請求項1又は請求項2に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項4】
上記カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーが、1本ずつ単離可能な状態になっているか、又は、1本ずつの分散状態若しくは分散可能状態になっている請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項5】
「原料である上記ピッチ系炭素繊維が有するフィラメント」を構成する素フィラメントの数平均厚さ又は数平均太さが、10nm以上200nm以下である請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項6】
「原料である上記ピッチ系炭素繊維が有するフィラメント」を構成する素フィラメントが2本以上20本以下の範囲で集合して上記カーボンナノファイバー群のカーボンナノファイバーが構成されている請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項7】
原料である上記ピッチ系炭素繊維が、メソフェーズピッチ系炭素繊維である請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項8】
原料である上記メソフェーズピッチ系炭素繊維が、ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維である請求項7に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項9】
数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕をした後に、湿式粉砕をすることによって得られるカーボンナノファイバー群が、ベース材料に含有されてなる請求項1ないし請求項8の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項10】
「実質的に混在樹脂を有さないカーボンナノファイバー」を含有する上記カーボンナノファイバー群が、ベース材料に含有されてなるものである請求項1ないし請求項9の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項11】
「上記乾式粉砕と上記湿式粉砕の間に加熱処理を行うことで、上記原料に混在する混在樹脂が除去された状態のカーボンナノファイバー群」が、ベース材料に含有されてなるものである請求項1ないし請求項10の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項12】
上記湿式粉砕が、界面活性剤が存在している水系媒体中で行うビーズミル粉砕又はボールミル粉砕である請求項1ないし請求項11の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項13】
上記ベース材料がベース樹脂であって、該ベース樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、(変性)ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、及び、ポリアミドイミドからなる群より選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂、又は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ウレア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、熱硬化性ポリウレタン、及び、熱硬化性ポリイミドからなる群より選ばれた1種以上の熱硬化性樹脂である請求項1ないし請求項12の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項14】
上記カーボンナノファイバー群が、全体の25質量%以上、分散状態で含有されている請求項1ないし請求項13の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項15】
上記カーボンナノファイバー群が、全体の45質量%以上、分散状態で含有されており、かつ、熱伝導率が1.0[W/(m・K)]以上である請求項1ないし請求項14の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項16】
上記ベース材料がポリアルキレン又はエポキシ樹脂であり、上記カーボンナノファイバー群が、全体の30質量%以上、分散状態で含有されており、かつ、曲げ弾性率が7GPa以上である請求項1ないし請求項15の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項17】
上記ベース材料がポリアルキレン又はエポキシ樹脂であり、上記カーボンナノファイバー群が、全体の30質量%以上、分散状態で含有されており、かつ、曲げ強度が70MPa以上である請求項1ないし請求項16の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項18】
上記カーボンナノファイバー群が含有されており、かつ、表面抵抗率が1.0×103[Ω/□]以下である請求項1ないし請求項17の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項19】
上記カーボンナノファイバー群が含有されており、かつ、体積抵抗率が1.0[Ω・cm]以下である請求項1ないし請求項18の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物。
【請求項20】
請求項1ないし請求項19の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物を有してなるものであることを特徴とする成型体。
【請求項21】
請求項1ないし請求項19の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー含有組成物を有してなるものであることを特徴とする塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、「特定の形状を有するカーボンナノファイバーが含有されてなるカーボンナノファイバー群」がベース材料に含有されてなる組成物、及び、該カーボンナノファイバー含有組成物を有してなる成型体又は塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維や、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)(carbon fiber reinforced plastics)は、軽量であり、強靭さとしなやかさを合わせ持っているため、金属の代替等として種々の成型品に多く利用されている。
中でも最も短い炭素繊維は、ミルドファイバーとも言われ、一般には平均繊維長は70μm~200μmであり、平均繊維径は約3μm~10μm(3000nm~10000nm)であり、その形状(サイズ)の小ささから、研磨剤、補強・補助剤等に利用されることが多い。
【0003】
ミルドファイバーより長い平均繊維長を持つチョップドファイバーや長繊維は、プリプレグ、フォージド等の成型品に用いられることが主流である。
また、これ以外のサイズとして、ミルドファイバーを更に粉砕し、繊維長を短くした微粒CFRPは、例えばコンクリートの補強材等に利用されている。
しかし、これらは、短くなるほど加工性が難しくなり、粉砕された後も凝集し易くなることから、良分散が要求される分野には、現在のところ利用価値は少ない。
【0004】
炭素繊維の実際の分散性(1本1本の存在性)や、該炭素繊維の利用価値から離れて、単純にその形状(サイズ)から定義すると、現在の一般的定義では、「直径3μm~10μm、長さ500μm~10000μmと定義されているカーボンファイバー」;「直径50nm~1000nm、長さ0.2μm~200μmのカーボンナノファイバー」;「直径0.4nm~100nm、長さ50nm~20000nmのカーボンナノチューブ」が知られている。
【0005】
炭素繊維の直径やアスペクト比が記載された文献はあるが(例えば、特許文献1、2)、現在のところ、本発明のように形状(サイズ)が小さく、特にアスペクト比が非常に大きく、かつ、略1本ずつ単離(分離)可能な状態になっているか、又は、略1本ずつ分散(可能)な状態になっているカーボンナノファイバーの炭素繊維群は殆ど存在しない。
現在のところ、上記で定義される形状(サイズ)の良好なカーボンナノファイバー群は、殆ど存在しないことに加え、該カーボンナノファイバーサイズの炭素繊維の利用度は、その分散性又は再分散性が悪い等のために極めて低いことが現状である。
【0006】
また、アスペクト比が大きいナノサイズの炭素繊維が分散している、又は、それが分散可能な状態になっているものは、少なくとも、市場には(商業的には)存在しない。その理由は、原料となる炭素繊維の粉砕時に、特異的に縦にきれいに割れる、言い換えれば、フィラメントから素フィラメントが好適に剥離させることができていないからだと考えられている。
従って、本発明のようにアスペクト比が大きい「カーボンナノファイバー等の炭素繊維」が安定して分散している分散液も知られていない。
【0007】
アスペクト比が大きく、分散可能で分散安定性もあるカーボンナノファイバー群は、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂と言った樹脂;ガラス、金属、合金等の無機物;等のベース材料に含有させてカーボンナノファイバー含有組成物若しくは成型体とする等、種々の広い需要(用途)が考えられるものの、従来は良好なものは実現できていなかった。
特に、ベース材料に多量に分散することは、従来はカーボンナノファイバー群の分散性の悪さから実現できていなかった。
【0008】
力学的(機械的)性能や、熱的・電気的性能等に優れたカーボンナノファイバー含有組成物、及び、それを有する成型体や塗料が強く求められている。
しかしながら、現在、カーボンナノファイバー群の分散性自体が悪いこと、及び、該分散性の悪さに起因する「高濃度にベース材料に含有させられない」こと等のために、上記のような組成物、成型体、塗料等は実現できておらず、開発の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012-188790号公報
【特許文献2】特開2017-066546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、アスペクト比が大きく、更に、サイズや分布が特定されたカーボンナノファイバー群を開発し、該カーボンナノファイバーがベース樹脂に分散性良く含有されてなるカーボンナノファイバー含有組成物を提供することにある。
また、該カーボンナノファイバーが、従来品より高濃度にベース材料に良好に分散された組成物、又は、該組成物を有する成型体若しくは塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、原料として特定の炭素繊維を用い、乾式粉砕をしてから湿式粉砕をすることによって初めて、サイズや分布が特定されたカーボンナノファイバーを、略1本ずつ単離可能な状態にするか、又は、略1本ずつの分散状態の又は分散可能状態のカーボンナノファイバー群が得られることを見出した。
【0012】
また、該カーボンナノファイバー群を用いれば、意外にも今までにないほど高濃度で、該カーボンナノファイバー群をベース材料に含有させられ、少なくとも、該「高濃度の含有」が主因となって、得られたカーボンナノファイバー含有組成物の種々の性能を、従来にないほど良好にできることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、ピッチ系炭素繊維を原料とし、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすることによって得られる「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲に、全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群」が、ベース材料に含有されてなるものであることを特徴とするカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均アスペクト比が3以上200以下である上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記カーボンナノファイバー群に含有されているカーボンナノファイバーの数平均直径が30nm以上1000nm以下であり、かつ、数平均長さが0.2μm以上70μm以下である上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、「原料である上記ピッチ系炭素繊維が有するフィラメント」を構成する素フィラメントの数平均厚さ又は数平均太さが、10nm以上200nm以下である上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、「原料である上記ピッチ系炭素繊維が有するフィラメント」を構成する素フィラメントが2本以上20本以下の範囲で集合して上記カーボンナノファイバー群のカーボンナノファイバーが構成されている上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、原料である上記ピッチ系炭素繊維が、メソフェーズピッチ系炭素繊維である上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、原料である上記メソフェーズピッチ系炭素繊維が、ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維である上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、「実質的に混在樹脂を有さないカーボンナノファイバー」を含有する上記カーボンナノファイバー群が、ベース材料に含有されてなるものである上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、「上記乾式粉砕と上記湿式粉砕の間に加熱処理を行うことで、上記原料に混在する混在樹脂が除去された状態のカーボンナノファイバー群」が、ベース材料に含有されてなるものである上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0022】
また、本発明は、上記カーボンナノファイバー群が、全体の25質量%以上、分散状態で含有されている上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0023】
また、本発明は、上記カーボンナノファイバー群が、全体の45質量%以上、分散状態で含有されており、かつ、熱伝導率が1.0[W/(m・K)]以上である上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0024】
また、本発明は、上記ベース材料がポリアルキレン又はエポキシ樹脂であり、上記カーボンナノファイバー群が、全体の30質量%以上、分散状態で含有されており、かつ、曲げ弾性率が7GPa以上である上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0025】
また、本発明は、上記ベース材料がポリアルキレン又はエポキシ樹脂であり、上記カーボンナノファイバー群が、全体の30質量%以上、分散状態で含有されており、かつ、曲げ強度が70MPa以上である上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0026】
また、本発明は、上記カーボンナノファイバー群が含有されており、かつ、表面抵抗率が1.0×103[Ω/□]以下である上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0027】
また、本発明は、上記カーボンナノファイバー群が含有されており、かつ、体積抵抗率が1.0[Ω・cm]以下である上記のカーボンナノファイバー含有組成物を提供するものである。
【0028】
また、本発明は、上記のカーボンナノファイバー含有組成物を有してなるものであることを特徴とする成型体を提供するものである。
【0029】
また、本発明は、上記のカーボンナノファイバー含有組成物を有してなるものであることを特徴とする塗料を提供するものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物によれば、前記問題点や課題を解決し、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下と言った、アスペクト比が大きいカーボンナノファイバーを、略1本ずつ単離可能の又は略1本ずつの分散状態又は分散可能状態にできる。
【0031】
カーボンナノファイバーは、通常知られている広い意味での炭素繊維の中に、複数本が強固に周囲と結合して一体となっている。従来は、そこから、高いアスペクト比を維持しながらカーボンナノファイバーを分離・剥離等で製造することができなかった。
言い換えれば、カーボンナノファイバーを、高いアスペクト比を維持させながら粉砕等によって製造し、凝集をさせずに、再現性良く安定的に、単離(分離)可能な状態若しくは(再)分散可能な状態にすることは現行技術ではできなかった。
【0032】
本発明の「ベース材料に本発明におけるカーボンナノファイバー群を分散したカーボンナノファイバー含有組成物」は、分散状態の良さに起因した種々の優れた特性を有する。例えば、ベース材料に良分散状態を保ちながら高濃度で分散できるようになる。
【0033】
本発明において、「良分散」とは、熱伝導率等の熱的物性;曲げ弾性率、曲げ強度等の機械的物性;表面抵抗率、体積抵抗率等の電気的物性;等が、分散性が良いときに生じるような方向に移動していることを言い、上記物性が向上していることを言う。
なお、該分散状態をその形態(形状)から規定することも、分散状態をパラメーターで直接規定することも不可能であるから、「カーボンナノファイバーがベース樹脂に分散された組成物の物性」でしか特定できない。
【0034】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物では、「本発明におけるカーボンナノファイバー群」を、良分散で、高濃度でベース樹脂に含有させられるので、今までになかった高濃度分散で新規なカーボンナノファイバー含有組成物が得られた。
本発明における「良分散で高濃度含有」が新規なものであることは、上記物性が今までになかったほど優れていることから分かる。
【0035】
単なる炭素繊維、すなわち「本発明におけるカーボンナノファイバー群ではない炭素繊維」を、ベース材料に、単に高濃度で含有させた成型体では、本発明のような、高い熱伝導率[W/(m・K)]、高い耐熱性等の優れた熱的特性;高い曲げ弾性率[GPa]等の優れた機械的特性;低い表面抵抗率[Ω/□]や体積抵抗率[Ω・cm]等の優れた電気的特性が達成されない。
【0036】
本発明において、原料として特定の炭素繊維を用い、乾式粉砕をしてから湿式粉砕をすることによって、そのサイズや分布が特定されたカーボンナノファイバー群を得ることができ、それを分散させた成型体や塗料では、カーボンナノファイバーを高濃度で分散含有させることができ、上記した優れた種々の特性が得られる。
【0037】
また、原料となる炭素繊維の種類を更に限定したり、乾式粉砕の方法及び/又は湿式粉砕の方法を更に限定したり、製造工程を加えて製造方法を更に限定したりすることによって、カーボンナノファイバー群の分散性を更に上げることができ、更に高濃度でベース材料に分散させることができ、それによって上記した種々の特性を上げることができる。
【0038】
また、本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、ベース樹脂等のベース材料に含有されて、繊維強化プラスチック用マトリックス(樹脂)として使用することも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】粉砕前の原料であるピッチ系炭素繊維の横断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(左)ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維 (中)ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維 (右)オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維
【
図2】ピッチ系炭素繊維の横断面の概略図である。(a)(a’)ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維 (b)ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維 (c)オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維
【
図3】原料として使用することが好ましいランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維1本の横断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図4】原料として使用することが好ましいランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維(粉砕前)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(a)400倍 (b)1300倍
【
図5】本発明における乾式粉砕後の炭素繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(a)600倍 (b)1500倍
【
図6】本発明における湿式粉砕の途中の光学顕微鏡(生物顕微鏡)による700倍の写真である(参考図)。
【
図7】本発明における湿式粉砕後の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(a)1500倍 (b)6500倍
【
図8】原料として使用することが好ましい(ランダム型)メソフェーズピッチ系炭素繊維のフィラメントの製造工程を示す模式図である。
【
図9】本発明において、乾式粉砕に用いられる装置の一例を示す概略図である。
【
図10】本発明におけるカーボンナノファイバー群が分散された成型体の熱伝導率[W/(m・K)]のカーボンナノファイバー濃度依存性を示すグラフである。
【
図11】本発明におけるカーボンナノファイバー群を含む計4種の炭素材(炭素質物)が分散された成型体の曲げ弾性率[GPa]の炭素材濃度依存性を示すグラフである。
【
図12】本発明におけるカーボンナノファイバー群を含む計4種の炭素材(炭素質物)が分散された成型体の曲げ強度[MPa]の炭素材濃度依存性を示すグラフである。
【
図13】本発明におけるカーボンナノファイバー群が分散された塗料の表面抵抗率[Ω/□]のカーボンナノファイバー濃度依存性を示すグラフである。
【
図14】本発明におけるカーボンナノファイバー群が分散された塗料の体積抵抗率[Ω・cm]のカーボンナノファイバー濃度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0041】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、ピッチ系炭素繊維を原料とし、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすることによって得られる「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲に、全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群」が、ベース材料に含有されてなるものであることを特徴とする。
【0042】
<カーボンナノファイバー(群)>
本発明において、「炭素繊維」とは、グラフェン構造を有するあらゆる炭素質物(炭素材)のうち細長いものを言い、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、及び、それらに近似するサイズの炭素質物(炭素材)等が含まれる。また、「炭素繊維」には、グラフェン構造を有する炭素質物(炭素材)のフィラメント、それを構成する素フィラメント、該フィラメントが縦に並列してなるストランド等が含まれる。
【0043】
本発明におけるカーボンナノファイバー群は、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下の範囲に、カーボンナノファイバー群全体の50個数%以上が分布しているものである。
上記範囲に全体の50個数%以上が分布していることが必須であるが、好ましくは70個数%以上、より好ましくは80個数%以上、更に好ましくは90個数%以上、特に好ましくは95個数%以上、最も好ましくは98個数%以上が分布しているものである。本発明によれば、上記個数%以上のものは製造することができるので、分散性やそれを含有する成型体や塗料の特性等を考えると分布はシャープなほど好ましいが、生産性等を考えるとブロードでもよい。
【0044】
上記カーボンナノファイバーの直径は、30nm以上1000nm以下であるが、50nm以上900nm以下が好ましく、100nm以上850nm以下がより好ましく、300nm以上800nm以下が特に好ましい。本発明によれば上記範囲の直径のものならば収率良く製造することができる。
直径が小さ過ぎると、製造が難しくなる場合や、同時に長さも短くなってしまうためにアスペクト比が小さくなってしまう場合等がある。一方、直径が大き過ぎると、使用先での性能が劣ったり、カーボンナノファイバー群の用途が限定されたりする場合がある。
【0045】
該カーボンナノファイバーの長さは、0.2μm以上70μm以下であるが、1μm以上50μm以下がより好ましく、2μm以上30μm以下が更に好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。本発明によれば上記範囲の長さのものならば収率良く製造することができる。
長さが短過ぎると、アスペクト比が小さくなってしまう場合や、使用先(例えば、成型体、塗料等)での性能が劣る場合、カーボンナノファイバー群の用途が限定される場合、凝集を防止し難くなる場合等がある。一方、長さが長過ぎると、カーボンナノファイバー群の用途が限定される場合、アスペクト比を大きく保ったままでの製造が難しくなる場合等がある。
【0046】
本発明で製造される、単離・分散可能なカーボンナノファイバーは、直径と長さが上記範囲であるので(上記範囲が好ましいので)、そのアスペクト比が大きいことが特徴である。
該カーボンナノファイバーの数平均アスペクト比は、3以上200以下が好ましく、5以上160以下がより好ましく、7以上130以下が更に好ましく、15以上100以下が特に好ましく、20以上70以下が最も好ましい。
数平均アスペクト比が小さ過ぎると、カーボンナノファイバー群の使用先(例えば、成型体、塗料等)での性能が劣ったり、用途が限定されたりする場合がある。一方、(数平均)アスペクト比が大き過ぎると、製造が難しくなる場合等がある。
【0047】
ピッチ系炭素繊維を原料とし、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすれば、原料となる炭素繊維の粉砕時に、特異的に縦にきれいに割れる、言い換えれば、長さをあまり短くさせずに、フィラメントから素フィラメントを好適に剥離させることができる。本発明では、そのことによって、今までになかった好適なアスペクト比を有するカーボンナノファイバーが得られたが、アスペクト比が大きいことや好適なサイズ・形状によって、得られたカーボンナノファイバー群が分散された成型体や塗料の物性が上がったと考えられる。
【0048】
本発明で製造されるカーボンナノファイバー群に含有されるカーボンナノファイバーの直径と長さは、光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡(SEM)で、無作為に100本選択し、1本ずつその直径と長さを測定して相加平均をとることによって求める。該光学顕微鏡はサイズ測定用のゲージが付属しているものが測定精度の向上と測定時間短縮のために好ましい。拡大倍率を上げなくては測定し難いときは、光学顕微鏡に代えて走査型電子顕微鏡(SEM)(写真)を用いる。
本発明で製造されるカーボンナノファイバーは、アスペクト比が大きいので、粒度分布計による測定より、顕微鏡を用いて1本ずつその直径と長さを測定する。自動の粒度分布計では、直径と長さを好適には測定できないので、上記のようにせざるを得ない。
本発明における、直径、長さ、数平均アスペクト比等のサイズ・値は、上記のように測定したものとして定義される。
【0049】
カーボンナノファイバー群をベース樹脂等のベース材料に含有・分散させるときには、固体(粉末)で含有させても、一旦分散液として含有させてもよい。
固体(粉末)で存在している場合は、例えば、
図7に示したように、カーボンナノファイバー1本ずつ単離可能な状態になっているか、又は、1本ずつの分散が可能な状態になっている。分散液中に存在している場合は、カーボンナノファイバー1本ずつの分散状態になっている。なお、後述する素フィラメントには1本ずつに分離可能であるとは限らないが、カーボンナノファイバー1本1本に分散可能ならばよい。
本発明におけるカーボンナノファイバー群は、上記したような分散性や分散状態にすることが可能である。
【0050】
<カーボンナノファイバー(群)の製造>
本発明における、上記したような形状(直径と長さ)を有するカーボンナノファイバー、及び、上記したような分布を有するカーボンナノファイバー群は、少なくとも、乾式粉砕を行い、それに次いで湿式粉砕することによって得られる。更に、原料となる炭素繊維を特定のものとすることによって、上記形状と分布を有する、(再)分散可能なカーボンナノファイバー群が得られる。
該乾式粉砕の前、上記2種の粉砕の間若しくは途中、又は、該湿式粉砕の後に、必要に応じて他の処理(操作)を加えることも好ましい。また、上記乾式粉砕と上記湿式粉砕は、それぞれ1段階でも2段階以上で行ってもよい。
【0051】
「ピッチ系炭素繊維を原料とし、乾式粉砕をした後に湿式粉砕をすることによって得られたカーボンナノファイバー群」は、高濃度でベース樹脂等のベース材料に分散可能で、該高濃度で分散させた成型体若しくは塗料は、後記するように優れた物性を有するが、本発明における「より好ましい製造工程」を以下に示す。なお、製造工程については、下記の処理を行う場合は、下記順番で行うことが特に好ましい。
原料炭素繊維用意、前粉砕、乾式粉砕、加熱処理、湿潤処理、湿式粉砕、凝集防止処理、水除去処理。
【0052】
上記のうち、少なくとも、特定の原料炭素繊維を用意すること、乾式粉砕、及び、湿式粉砕は必須であり、そうであれば、本発明のカーボンナノファイバー含有組成物、それを有する成型体若しくは塗料等が製造可能である。
上記のうち、前粉砕、加熱処理、湿潤処理、凝集防止処理、水除去処理は、何れも必須ではないが、良好に製造するために、必要に応じて、そのうちの幾つか又は全部を行うことが好ましい。特に加熱処理は、原料がサイジング材等の樹脂を含有するときは行うことが好ましく、原料がサイジング処理等されていないときは行わなくてもよい。
以下、処理順に各処理工程を説明する。
【0053】
<<原料炭素繊維>>
本発明は、粉砕前の炭素繊維(原料の炭素繊維)として、ピッチ系炭素繊維を使用することが必須であるが、メソフェーズピッチ系炭素繊維を使用することが好ましく、ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を使用することが特に好ましい。
PAN系炭素繊維では、どのような粉砕方法を用いても、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバー群であって、前記したような高い数平均アスペクト比を有するものは得られない。
【0054】
また、ピッチ系炭素繊維であっても等方性ピッチ系炭素繊維では、上記サイズ・形状・分布のカーボンナノファイバー群が得られ難い場合がある。
【0055】
一方、メソフェーズピッチ系炭素繊維は、その断面形状(すなわち内部形状)から、少なくとも、ラジアル型(
図1(左)、
図2(b))、ランダム型(
図1(中)、
図2(a)(a’)、
図3)、オニオン型(
図1(右)、
図2(c))に分類されている。「ランダム型」とは、繊維断面がランダムになっているものである。そのことから、ランダム型と名付けられた。
【0056】
本発明において、メソフェーズピッチ系炭素繊維であっても、ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維又はオニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維では、上記サイズ・形状・分布のカーボンナノファイバー群がやや得られ難い場合がある。
原料となる炭素繊維として、ラジアル型やオニオン型を用いると、上記形状・形態・分布のものは、好適には得られない場合があり、特に数平均アスペクト比が大きいカーボンナノファイバー群が好適には得られない(例えば数平均アスペクト比が3未満のものしか得られない)場合がある。
【0057】
「上記ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を構成するフィラメント」は、棒状又は板状(シート状)の更に小さいサイズのものが集合してできている。例えば、
図3では、板状(シート状)のものが縦に集合している。
本明細書では、フィラメントを構成する該「棒状又は板状(シート状)の更に小さいサイズのもの」を「素フィラメント」と略記する。
1つの素フィラメント(内で)は、ベンゼン環の縮合したグラフェン構造が同方向を向いて積み重なって1つとなっているか、カーボンナノチューブの1本又は2本以上が同方向を向いて束ねられて1つとなっている、等と考えられる。
【0058】
本発明において原料である炭素繊維は、フィラメントを構成する該素フィラメントの数平均厚さ又は数平均太さが、10nm以上200nm以下のものであることが好ましい。より好ましくは15nm以上150nm以下であり、更に好ましくは20nm以上100nm以下であり、特に好ましくは30nm以上70nm以下である。
原料の炭素繊維の素フィラメントのサイズが、上記下限以上であると、該素フィラメントを含有するフィラメントの熱伝導率[W/(m・K)]が急激に上昇するので、該素フィラメントを含有するカーボンナノファイバー(を含有する成型体、塗料等)の「熱伝導率を含む種々の熱的特性」も向上する。
一方、上記上限以下であると、そのような素フィラメントを含有する「フィラメントや炭素繊維」を原料として用意し易い。
【0059】
図8に、メソフェーズピッチ系炭素繊維のフィラメント10の製造工程の概略を示す。ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維1も、
図8において、紡糸粘度、ノズル形状、原料ピッチの流動状態等を調整することで得られる。
メソフェーズピッチ系炭素繊維の製造工程には延伸工程が存在しない。紡糸工程で制御されたミクロ構造が、ほぼそのままフィラメント10の結晶構造となり、結晶構造の向きが異なる境界ができ、素フィラメント20が見られる(存在する)ようになる。
【0060】
図8において、原料となるフィラメント10の太さは、通常4000nm~10000nm、多くは5000nm~7000nmであり、一方、本発明において原料となる炭素繊維フィラメント10中の素フィラメント20の数平均厚さ又は数平均太さは、好ましくは10nm以上200nm以下、より好ましくは15nm以上100nm以下であるので、原料となる炭素繊維において、1本のフィラメント10中に、通常40~700本、殆どの場合60~400本の素フィラメント20が存在している。
結晶構造の向きが異なる境界で、1本の素フィラメント20を分ける(定義する)と、上記本数の素フィラメント20が束ねられて1本のフィラメント10ができている。なお、
図8では、概略的に見易いように、前面から見てたまたま3本の素フィラメントで、1本のフィラメントができているように描かれている。
【0061】
本発明において、原料としてランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を用いるときは、限定はされないが、上記のような態様のものであることが特に好ましい。
本発明におけるカーボンナノファイバー群の、形状・分布等、及び、そもそもそのようなカーボンナノファイバー群ができるか否かを含めて、原料である炭素繊維の種類が何であるかに大きく依存する。
【0062】
<<<本発明のカーボンナノファイバーと素フィラメントの関係>>>
本発明によって製造されるカーボンナノファイバーは、「原料となる上記フィラメントを構成する上記素フィラメント」が2本以上20本以下の範囲で集合して構成されていることが好ましい。より好ましくは3本以上16本以下、特に好ましくは4本以上12本以下である。上記素フィラメントの数は、カーボンナノファイバー群において、カーボンナノファイバー毎に平均を採った値である。
カーボンナノファイバーを製造する際に、該素フィラメントの結晶性や外形等が若干崩れる場合もあるが、それを含めて上記のように「本数」と言う。また、素フィラメントがもともと板状の場合であっても、粉砕後、細長くなるので、上記のように「本数」と言う。
【0063】
<<前粉砕>>
原料となる炭素繊維は、チョップドファイバー形状でも、ミルドファイバー形状でもよいが、チョップドファイバー形状であることが好ましい。ミルドファイバー形状の場合、長さが1μm程度の短いものが多く混在するので、アスペクト比の大きいカーボンナノファイバーを得るために、チョップドファイバー形状であることが好ましい。ミルドファイバー形状の場合、例えば「平均長さ70μm」と言っていても、長さが1μm程度の短いものが多く混在する場合がある。
【0064】
限定はされないが、前粉砕で原料となる炭素繊維を、平均で1mm~15mmにすることが好ましく、2mm~10mmにすることがより好ましく、5mm~8mmにすることが特に好ましい。例えば、長繊維ボビンタイプの場合は、前粉砕する必要が生じる場合がある。最初から、上記範囲であれば、前粉砕は行わないことが好ましい。
【0065】
前粉砕の粉砕方式は特に限定はなく、市販の乾式粉砕機が何れも使用可能であるが、例えば装置としてカッターミル等が挙げられる。
【0066】
<<乾式粉砕>>
本発明における乾式粉砕は、気流式粉砕、カッター式粉砕、又は、「気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕」であることが好ましい。「気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕」とは、「気流式粉砕機構・機能とカッター式粉砕機構・機能の両方を同時に有しているような粉砕」の意味である。
【0067】
<<<気流式粉砕>>>
気流式粉砕としては、例えば、サイクロンミル等の気流粉砕機や、ジェットミル等を用いた粉砕が挙げられる。
サイクロンミルによる気流式粉砕は、インペラ(回転翼)の回転によって気流を発生させ、気流中に投入された対象物を乾式で粉砕して微粒子を製造するものである。また、ジェットミルによる気流粉砕は、衝突板に対象物を衝突させて対象物を乾式で粉砕して微粒子を製造するものである。
インペラ、回転翼、ブレード、回転刃等の回転体を有さない粉砕機(ジェットミル等)より、それらを有する気流粉砕機や、<<気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕>>で後述する粉砕機の方が、湿式粉砕で所定の形状のカーボンナノファイバー群を得るために、「湿式粉砕の前の乾式粉砕」として好ましい。
【0068】
サイクロンミルとしては、市販されている装置も好適に使用できる。市販品としては、例えば、静岡製機株式会社製のサイクロンミル、株式会社西村機械製作所製のスーパーパウダーミル、三庄インダストリー株式会社製のトルネードミル、古河産機システムズ株式会社製のドリームミル等が挙げられる。
【0069】
上記サイクロンミルの構造は、特に限定はないが、1個又は2個以上のインペラを有し、該インペラが発生させる旋回気流によって主に粉砕対象物同士を衝突させて粉砕するものであることが、前記気流粉砕機を使用することによる前記効果を奏し易い;金属コンタミが非常に少ない;等の点から特に好ましい。
【0070】
ジェットミルとしては、市販されている装置も好適に使用できる。市販しているメーカーとしては、例えば、株式会社セイシン企業、ホソカワミクロン株式会社、日本ニューマチック株式会社、日清エンジニアリング株式会社が挙げられる。
【0071】
<<<カッター式粉砕>>>
また、カッター式粉砕としては、クラッシャーミル、ピンミル、カッターミル、ハンマーミル、軸流ミル等を用いた粉砕が挙げられる。
【0072】
<<<気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕>>>
本発明における乾式粉砕としては、気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕であることが特に好ましい。
特に、本発明における乾式粉砕は、ブレードを有し、剪断と衝撃とを与える乾式粉砕機で行うことが好ましい。又は、「ブレードによる剪断と衝撃」とを加える乾式粉砕機で行うことが好ましい。
かかる乾式粉砕機の一例の概略図を
図9に示す。
【0073】
ジェットミル、サイクロンミル、トルネードミル、ドリームミル(登録商標)等の「インペラ等で粉砕させない全気流式粉砕機」の場合は、原料によっては、乾式粉砕の段階で直径が小さくなり過ぎる等のために、次の湿式粉砕でアスペクト比が小さくなり過ぎる(丸い形状になる)場合もあるため、限定はされないが、湿式粉砕の前に行う粉砕としては、あまり向かない場合もある。
【0074】
乾式粉砕する場合の雰囲気温度又は設定温度は、特に限定はなく使用する装置の使用方法に従えばよいが、好ましくは0℃以上50℃以下、特に好ましくは5℃以上35℃以下である。
また、インペラ回転数も、使用する装置の使用方法に従えばよいが、好ましくは4000rpm以上20000rpm以下、特に好ましくは8000rpm以上15000rpm以下である。
【0075】
上記したような装置を用いて、上記した粉砕方法で、数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕した後に、次の工程に供される。
100μm以下になるまで乾式粉砕してから湿式粉砕をすることによって、カーボンナノファイバーの、直径、長さ、(数平均)アスペクト比、形状分布等が前記した必須の範囲又は好適な範囲に収まり易くなる。
【0076】
乾式粉砕によって、数平均長さを100μm以下にすることが好ましいが、より好ましくは5μm以上70μm以下、更に好ましくは7μm以上50μm以下、特に好ましくは10μm以上40μm以下にしておくことが望ましい。
乾式粉砕後の数平均長さが長過ぎると、次の工程である湿式粉砕で、該湿式粉砕の条件を調整しても、最終的にカーボンナノファイバーの直径や長さが、前記した範囲に入り難い場合がある。
一方、乾式粉砕後の長さが短過ぎると、湿式粉砕後にカーボンナノファイバーの長さがそれ以上にはなり得ないので、最終的にカーボンナノファイバーの長さや数平均アスペクト比が前記した好ましい範囲になり難い場合等がある。特に、最終的に得られるカーボンナノファイバーのアスペクト比が小さくなり過ぎる場合がある。
【0077】
乾式粉砕後の数平均直径については、そもそも乾式粉砕のみでは小さくし難く、すなわちアスペクト比が大きくなるように粉砕し難く、また、乾式粉砕で無理に直径を小さくしてしまっては、長さも短くなってしまい、湿式粉砕後の最終的なアスペクト比が好適な範囲に収まり難くなる。
乾式粉砕後の直径は、3000nm以上が好ましく、5000nm以上15000nm以下がより好ましく、7000nm以上12000nm以下が特に好ましい。この範囲になるように乾式粉砕を行っておくことが望ましい。
【0078】
乾式粉砕後の数平均アスペクト比は、特に限定はないが、10以下であることが好ましく、より好ましくは1.2以上7以下、特に好ましくは1.5以上5以下である。
乾式粉砕によっては、そもそも数平均アスペクト比を上記上限より大きくし難い。すなわち、数平均アスペクト比を上記上限より大きくできる程度に平均繊維径を小さくし難い。
本発明において、乾式粉砕によって、数平均長さを、好ましくは100μm以下にしておき、比較的大きな直径や比較的小さな数平均アスペクト比にしておいても、或いは、しておくことによって、後の湿式粉砕によって、最終的に前記したような、好適な「直径や長さ、大きな数平均アスペクト比」のカーボンナノファイバー群が得られることを見出した。
【0079】
<<加熱処理>>
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、好ましくは、「実質的に混在樹脂を有さないカーボンナノファイバー」を含有する上記カーボンナノファイバー群が、ベース材料に含有されてなるものである。
ここで、混在樹脂は、例えば、原料である炭素繊維にサイジング剤等が含まれている場合等が挙げられる。すなわち、上記混在樹脂としては、限定はないが、例えばサイジング剤等が挙げられる。
【0080】
本発明おいては、乾式粉砕物に樹脂が混在している場合、加熱処理を行って該樹脂を除去することが好ましい。言い換えると、本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、「上記乾式粉砕と上記湿式粉砕の間に加熱処理を行うことで、上記原料に混在する混在樹脂が除去された状態のカーボンナノファイバー群」が、ベース材料に含有されてなるものである。
なお、例えばサイジング剤等の樹脂の混在がない場合には、該加熱処理を省略することができる。
【0081】
加熱処理の条件は、限定はされないが、例えば、炉の温度320℃~480℃で、5分~15分間加熱し、樹脂の含有を、好ましくは0.1質量%以下に、特に好ましくは0.01質量%以下にまでする。
該加熱処理をすることで、好ましくは、乾式粉砕の後であって湿式粉砕の前に該加熱処理をすることで、後の工程である(湿潤処理を行う場合は)湿潤処理や湿式粉砕の際に使用する湿潤剤や界面活性剤が有する粉砕・分散効果が上がる。
【0082】
<<湿潤処理>>
限定はされないが、更に湿潤処理をすることが好ましい。好ましくは乾式粉砕後又は加熱処理後に湿潤処理をすることが特に好ましい。
該湿潤処理は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、又は、両性界面活性剤を含有する水溶液に、上記で得られたものを浸漬することも好ましい。該界面活性剤は、後の湿式粉砕でも好適に使用できる。
【0083】
上記陰イオン界面活性剤は、高分子陰イオン界面活性剤(「高分子」にはオリゴマーも含まれる)であることが好ましく、酸基を有する(共)重合物の、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩、アルキロールアンモニウム塩等であることがより好ましい。
上記した陰イオン界面活性剤は、単独で用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
【0084】
上記「酸基を有する(共)重合物」は、(メタ)アクリル酸の(共)重合物、(無水)フタル酸の(共)重合物、ビニルベンゼンスルホン酸の(共)重合物、及び、ナフタレンスルホン酸の(共)縮合物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の(共)重合物であることが特に好ましい。ここで、「(共)」、「(メタ)」、「(無水)」と言う記載は、括弧がある場合もない場合も含むことを示す。共重合物の場合の共重合モノマーとしては、特に限定はないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
ナフタレンスルホン酸の(共)縮合物とは、ホルムアルデヒド等のアルデヒドで環を結合したものが挙げられる。共縮合物の場合の共縮合モノマーとしては、フェノール、クレゾール、ナフトール等が挙げられる。
【0085】
また、上記陽イオン界面活性剤は、第四級アンモニウムが親水基である界面活性剤であることが好ましく、第四級アンモニウムの「N+」への置換基としては、特に限定はないが、ステアリル基、パルミチル基、ドデシル基、メチル基、ベンジル基、ブチル基等の(置換基を有していてもよい)アルキル基等が好ましい。また、炭素数が好ましくは6以上、特に好ましくは12個以上の長鎖アルキル基が望ましい。
対アニオンとしては、特に限定はないが、塩素イオン、臭素イオン等のハロゲンイオンが特に好ましい。
【0086】
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン型、脂肪酸アミドプロピルベタイン型、アルキルイミダゾール型、アミノ酸型、アミンオキシド型等が挙げられる。
【0087】
中でも、陰イオン界面活性剤又は両性界面活性剤を用いることが好ましい。
界面活性剤の含有量、及び、水系の分散媒中の(乾式粉砕後の)炭素繊維の含有量は、下記する<湿式粉砕>の数値範囲と同様である。
【0088】
界面活性剤を用いることによって、更には、上記した好ましい陰イオン界面活性剤又は両性界面活性剤を用いることによって、炭素繊維を縦に解く効果を奏し、長さを長いまま保ちつつ直径を細くすることができ、平均アスペクト比の大きなカーボンナノファイバー(群)を得ることができる。
【0089】
<<湿式粉砕>>
本発明においては、乾式粉砕の後に湿式粉砕をすることが必須である。該湿式粉砕は、特に限定はされないが、ビーズミル粉砕又はボールミル粉砕であることが好ましい。界面活性剤が存在している水系媒体中で行うビーズミル粉砕又はボールミル粉砕であることが特に好ましい。
なお、乾式粉砕と湿式粉砕の間には、上記した加熱処理、湿潤処理等の「他の処理」を挟んでもよい。「他の処理」としては、更に、予備混合、予備調液等が挙げられる。
【0090】
上記界面活性剤としては、上記湿潤処理をした場合であっても、上記湿潤処理をしなかった場合であっても、何れの場合でも、上の<湿潤処理>の項で記載した界面活性剤が挙げられる。
好ましい界面活性剤も同様のものが挙げられる。すなわち、<湿潤処理>の項で上記したような、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、又は、両性界面活性剤が好ましいものとして挙げられる。なお、湿潤処理の際に用いた界面活性剤をそのまま湿式粉砕において用いてもよいし、湿式粉砕の際に、新たに配合したり、追加したり、湿潤処理のときとは異なる別種類の界面活性剤を配合したりすることができる。
【0091】
界面活性剤の使用量は、使用しなくてもよく特に限定はないが、粉砕・分散の対象である炭素繊維(粉砕途中のカーボンナノファイバー)100質量部に対して、(界面活性剤を2種以上併用するときはその合計量として)、好ましくは30質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以上20質量部以下であり、特に好ましくは0.5質量部以上10質量部以下である。
界面活性剤の使用量が多過ぎると、炭素繊維が縦に解けていく途中で凝集を招く場合がある。その結果、カーボンナノファイバーが凝集した状態の分散液になるので、対象物に付与した場合、得られたものの物性に影響が出る場合等がある。
【0092】
湿潤処理をした場合、湿式粉砕に際しては、新たに界面活性剤を加えてもよいし、湿潤処理の際に配合してあった界面活性剤をそのまま使用してもよい。
湿式粉砕に際して新たに界面活性剤を加える場合は、湿潤処理の界面活性剤と同一のものでもよいし、異なるものでもよい。
【0093】
<<<湿式粉砕の方式・装置・条件>>>
湿式粉砕をすることによって、はじめて、前記したような特定の形状(直径、長さ、アスペクト比)や粒度分布を有するカーボンナノファイバー群を製造することができる。
湿式粉砕の条件は、本発明の前記した特定の形状(直径、長さ、アスペクト比)のカーボンナノファイバー(群)が得られるように調整する。
【0094】
湿式粉砕に用いられる粉砕メディアの材質としては、ガラス、アルミナ、ジルコン(ジルコニア・シリカ系セラミックス)、ジルコニア、金属(スチール)等が好ましいものとして挙げられる。
【0095】
ビーズミルを例にすると、用いられるビーズのビーズ径は、0.1mm以上3mm以下が好ましく、0.2mm以上2mm以下がより好ましく、0.3mm以上1mm以下が特に好ましい。
ビーズ径が大き過ぎると、ビーズミル容器内のビーズ個数が減り、接触点が減ることになり、好適に粉砕・分散ができない場合、直径を十分小さく粉砕できない場合等がある。一方、ビーズ径が小さ過ぎると、好適に粉砕・分散できない場合、粉砕に時間がかかり過ぎる場合等がある。
【0096】
ビーズミルに用いられるビーズ充填率としては、45%以上90%以下が好ましく、55%以上87%以下がより好ましく、65%以上85%以下が特に好ましい。
ビーズ充填率が小さ過ぎると、炭素繊維が縦割れし難くなり、アスペクト比の大きなカーボンナノファイバーができ難い場合等がある。一方、ビーズ充填率が大き過ぎると、ビーズミルの撹拌羽根が回り難くなる場合等がある。
【0097】
ビーズミル処理の対象となるスラリー全体に対して、乾式粉砕後の炭素繊維が、1質量%以上20質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下がより好ましく、5質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0098】
上記ビーズミル処理に用いる撹拌羽根の形状は、特に限定はされない。
撹拌羽根(アジテータ)の回転数は、撹拌羽根の差し渡し長さやビーズミルの容量にも依るが、容量2Lの場合に換算して、600rpm以上4500rpm以下が好ましく、800rpm以上4000rpm以下がより好ましく、1000rpm以上3500rpm以下が特に好ましい。
撹拌羽根(アジテータ)の先端の周速度は、撹拌羽根の差し渡し長さにも依るが、直径20cmとして、上記回転数から計算できる範囲が好ましい。具体的には、5m/s以上40m/s以下が好ましく、7m/s以上30m/s以下がより好ましく、9m/s以上20m/s以下が特に好ましい。
【0099】
ビーズミルの粉砕分散の運転方式は、循環式でもバッチ式でもよいが、循環式が好ましい。循環式の場合は、バッチ式のように容器に受け渡しすることがないので、その際に凝集が進んでしまうことがない。
循環式で行う場合、パス回数で微細化の程度が変わってくる。例えば、1パス当たりの滞留時間を長くした場合、処理物のショートパスがないことで、粒度分布はシャープになるが、カーボンナノファイバーのアスペクト比も小さくなってしまう。そのため、例えば、4Lに換算した場合、好ましくは70分以上270分以下、より好ましくは80分以上230分以下、特に好ましくは90分以上180分以下で循環させてビーズミル処理する。
【0100】
湿式処理における温度は、好ましくは0℃以上50℃以下、特に好ましくは5℃以上35℃以下である。ビーズミルは、縦型でも横型でもよい。
また、ビーズミルは、市販の装置も使用できる。市販の装置としては、例えば、ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社のダイノーミル、ネッチ社(米)のビーズミル等が挙げられる。
【0101】
1パス当たりの時間(連続運転時間)、パス回数、及び、トータルの時間は、装置構造、スラリー濃度、粉砕分散条件、界面活性剤の種類等に依存する場合があるので、1パス毎に又は湿式粉砕の途中で抜き出し、粒子径分布測定装置、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)等で逐一観察して適宜調節することが好ましい。
【0102】
前記した「乾式粉砕と湿式粉砕を必須とする製造方法」を使用し、前記した範囲で粉砕条件等を適宜調整すれば、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバー(群)が得られる。カーボンナノファイバーが、1本ずつ単離可能な状態になっているか、又は、1本ずつの分散状態又は分散可能状態になっているカーボンナノファイバー群が得られる。また、数平均アスペクト比が5以上200以下のカーボンナノファイバー(群)を得ることができる。
本発明は、上記のカーボンナノファイバー群の製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群でもある。
【0103】
<<凝集防止処理>>
湿式粉砕した後、限定はされないが、凝集防止処理をすることが特に好ましい。
該凝集防止処理に用いられる凝集防止剤としては、限定はされないが、(複合)金属キレート化合物、(複合)金属酸化物の微粒子、金属を含有するワックス、(複合)金属イオン水等の金属含有凝集防止剤;ポリエステル、ポリアクリレート、ポリウレタン等を単位として有するコブロックポリマー;該ポリマーを単位として有する櫛型コブロックポリマー;界面活性剤等が挙げられる。該凝集防止処理は、該凝集防止剤を配合することによって行うことが好ましい。
該凝集防止処理は、前記した湿式粉砕した直後に行ってもよいし、後記する水除去処理後に行ってもよく、両方の段階で行ってもよい。
【0104】
凝集防止処理において使用する凝集防止剤としては、上記したような金属含有凝集防止剤を用いる場合には、(複合)金属キレート化合物がより好ましく、HEDTA、EDTA、PDTA、NTA、エチレンジアミン、ビピリジン、フェナントロリン、ポルフィリン等の金属塩が更に好ましい。
中でも、HEDTA(hydroxyethyl ethylene diamine triacetic acid)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid))、PDTA(1,3-propanediamine tetraacetic acid)、NTA(nitrilo triacetic Acid)等の(酢酸誘導体の)金属塩等が特に好ましい。
【0105】
また、凝集防止処理において使用する界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、又は、両性界面活性剤が好ましいものとして挙げられ、陰イオン界面活性剤又は両性界面活性剤がより好ましいものとして挙げられる。限定はされないが、特に好ましい具体的界面活性剤としては、前記<湿潤処理>や<湿式粉砕>の項に記載したものと同様のものが挙げられる。
【0106】
金属含有凝集防止剤、凝集防止処理において使用する界面活性剤、コブロックポリマー等の凝集防止剤については、該凝集防止処理直前の凝集防止対象物の表面状態を勘案してその種類を決定する。
金属含有凝集防止剤、界面活性剤、コブロックポリマー等の凝集防止剤の種類が上記であると、分散媒(水)の除去処理工程、その後の経時等で、凝集し難くなり、保存安定性が良くなる。
【0107】
「(複合)金属キレート化合物等の金属含有凝集防止剤;凝集防止処理において使用する界面活性剤;コブロックポリマー;等の凝集防止剤」の使用量は、特に限定はないが、湿式粉砕後のスラリー全体量に対して(凝集防止剤を2種以上併用するときはその合計量として)、0.1質量%以下で加えることが好ましく、0.0001質量%以上0.06質量%以下で加えることがより好ましく、0.0002質量%以上0.03質量%以下で加えることが特に好ましい。
【0108】
また、上記凝集防止剤の使用量は、特に限定はないが、カーボンナノファイバー群と言った凝集防止対象物の全体量に対して(凝集防止剤を2種以上併用するときはその合計量として)、1質量%以下で加えることが好ましく、0.001質量%以上0.5質量%以下で加えることがより好ましく、0.002質量%以上0.3質量%以下で加えることが更に好ましく、0.003質量%以上0.1質量%以下で加えることが特に好ましい。
【0109】
「金属含有凝集防止剤、凝集防止処理において使用する界面活性剤、コブロックポリマー等」の凝集防止剤の配合量が上記範囲であると、分散媒(水)の除去処理工程、その後の経時等で、凝集し難くなり、保存安定性が良くなる。
【0110】
凝集防止処理中の撹拌は、特に限定はないが、例えば、ハンドミキサー等による撹拌が挙げられる。撹拌速度は、特に限定はないが、300~1200rpmが好ましく、500~1000rpmが特に好ましい。
凝集防止処理の温度は、特に限定はないが、20℃~100℃が好ましく、40℃~90℃がより好ましく、60℃~80℃が特に好ましい。
【0111】
<<水除去処理>>
本発明は、上記のカーボンナノファイバー群の製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群でもある。
すなわち、湿式粉砕後のスラリーに含有されているカーボンナノファイバー群でもよく、上記凝集防止処理をした後のスラリーに含有されているカーボンナノファイバー群でもよく、該スラリーから水を除去した後の粉末状のカーボンナノファイバー群でもよい。
上記何れの状態のカーボンナノファイバー群であっても、製品(完成品)として、種々の用途に使用することができる。
【0112】
水除去処理における方法は、特に限定はなく、減圧及び/又は昇温によって行うことができる。サイクロン分離回収方法で半ドライアップした後、オーブン内で減圧及び/又は昇温によって水を除去(乾燥)させることが特に好ましい。
水除去処理の温度は、特に限定はないが、40℃~160℃が好ましく、55℃~150℃がより好ましく、70℃~130℃が特に好ましい。
【0113】
更に、界面活性剤等を除去するため、例えば、250℃以上400℃以下で焼成することも好ましい。
本発明の製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群を構成するカーボンナノファイバーは、該カーボンナノファイバー自体の分散性が良いので、その表面に分散剤や界面活性剤が付着していないものであることも好ましい。
【0114】
前記した凝集防止処理を、上記水除去処理の後に行うことも好ましい。すなわち、前記した凝集防止剤や界面活性剤を、上記水除去処理の後の、濃縮されたスラリー又は粉末に配合することも好ましい。
【0115】
本発明の製造方法で製造された、粉末状のカーボンナノファイバー群は(固形化したものであっても)、用途先の、樹脂エマルジョンや樹脂自体に、容易に分散し凝集せず拡散する。該樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられ、熱硬化性樹脂については、主剤にでも硬化剤にでも良好に分散する。
用途先の樹脂エマルジョンとしては、限定はされないが、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン・(無水)マレイン酸樹脂、ウレタン樹脂等が、特に分散性が良いものとして挙げられ、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂としては、後記するものが好ましいものとして挙げられる。
【0116】
<カーボンナノファイバー分散液>
前記したカーボンナノファイバー含有組成物を含有するカーボンナノファイバー分散液は、分散性が良く、要すれば高濃度にできる。
該カーボンナノファイバー分散液は、上記湿式粉砕後の又は上記凝集防止処理後のスラリーそのものでもよく、該スラリーに対して新たな分散媒を加えたり、新たな分散媒で分散媒を置換したりして得られたものでもよく、上記した水除去処理後のカーボンナノファイバーの粉体を改めて分散させたものであってもよい。
【0117】
上記カーボンナノファイバー分散液も、用途先の樹脂又は樹脂エマルジョンに、凝集させることなく、分散状態のまま適用可能である。
【0118】
<カーボンナノファイバー含有組成物>
前記した通り、本発明においては、特定のカーボンナノファイバーを高濃度でベース材料に含有させることができるので、本発明は、好ましくは、該カーボンナノファイバー群が、全体の25質量%以上、分散状態で含有されているカーボンナノファイバー含有組成物でもある。より好ましくは全体の30質量%以上、更に好ましくは全体の35質量%以上、特に好ましくは全体の40質量%以上、分散状態で含有されているカーボンナノファイバー含有組成物である。前記の形状・サイズ・分布のカーボンナノファイバー群が上記高濃度の範囲で、かつ良分散状態で含有されている組成物自体が新規である。
【0119】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物では、上記ベース材料は、特に限定はされず、樹脂等の有機物;ガラス、金属、合金等の無機物;等が挙げられる。
特に好ましいベース材料としてはベース樹脂であり、該ベース樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0120】
該熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、(変性)ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、及び、ポリアミドイミドからなる群より選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂であることが特に好ましい。
【0121】
本発明における前記したカーボンナノファイバー(群)は、熱可塑性樹脂に好適に(特に高濃度で)分散されて、他のカーボンナノファイバー(群)に比べて、前記したように、熱的・機械的・電気的に優れた効果を奏する。
【0122】
該熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ウレア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、熱硬化性ポリウレタン、及び、熱硬化性ポリイミドからなる群より選ばれた1種以上の熱硬化性樹脂であることが特に好ましい。
【0123】
本発明における前記したカーボンナノファイバー(群)は、熱硬化性樹脂の(官能基を有する未反応樹脂を含有する)主剤、及び/又は、(該官能基を架橋・反応・重合させる)硬化剤に、好適に(特に高濃度で)分散されて、他のカーボンナノファイバー(群)に比べて、前記したように、熱的・機械的・電気的に優れた効果を奏する。前記した優れた効果を奏する。
【0124】
<その他の成分>
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物や、「本発明のカーボンナノファイバー含有組成物」を有してなる成型体若しくは塗料は、本発明の効果が得られる範囲で、必要に応じて、「その他の成分」を含有することができる。
該「その他の成分」としては、例えば、無機顔料、有機染料等の着色剤;酸化防止剤;造核剤等の結晶化調節剤;ワックス等の離型剤;滑剤;帯電防止剤;光安定剤;紫外線吸収剤;無機フィラー、有機フィラー等の粒子;各ベース材料用の加工助剤;難燃剤;可塑剤等が挙げられる。これらの「その他の成分」は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その含有量は、適宜決められる。
【0125】
<成型体、塗料等>
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、限定はされないが、本発明のカーボンナノファイバー含有樹脂であることが好ましい。
また、本発明のカーボンナノファイバー含有組成物を有してなる成型体は、種々の分野に好適に利用される。
なお、(本発明のカーボンナノファイバー含有組成物を有してなる)塗膜も、(本発明の)成型体に概念的に含まれる。
また、本発明で得られたカーボンナノファイバー群や、本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維等で織られた若しくは編まれた布(シート)の網目等に含浸・侵入させて、繊維強化プラスチック(FRP)(fiber reinforced plastics)と言う成型体の形態で使用することもできる。
【0126】
成型体の製造方法は、特に限定はないが、組成物の、射出成型、押出成型、ブロー(空中)成型、真空成型、圧空成型、圧延成型、注型成型、圧縮成型、塗料の塗布乾燥、含浸等が挙げられる。必要ならば、成型前に組成物を、混錬機(ニーダー)、ミキサー等で混錬することもできる。
【0127】
また、塗料の製造方法としては、特に限定はないが、カーボンナノファイバー含有組成物(カーボンナノファイバー群、ベース樹脂等のベース材料、及び、必要に応じて「その他の成分」等)を容器に入れ、撹拌機等で、溶媒(分散媒)に、混合撹拌・分散させて、該塗料を得ることができる。
【0128】
特に本発明の前記効果を顕著に奏する、「本発明のカーボンナノファイバー含有組成物」や「それを有してなる成型体若しくは塗料」の、「濃度と物性を規定した特に好ましい形態」を以下に示す。該形態は、本発明において初めて得られたものである。
なお、塗料の場合、組成物全体に対するカーボンナノファイバー群の含有率は、塗料全体に対する含有率ではなく、塗料中の固形分全体に対する、すなわち、該塗料によって形成される塗膜(成型体)全体に対する含有率である。
【0129】
<<熱的特性に優れたカーボンナノファイバー含有組成物>>
本発明の組成物の好ましい態様は、上記カーボンナノファイバー群が、全体の45質量%以上、分散状態で含有されており、かつ、熱伝導率が1.0[W/(m・K)]以上である上記のカーボンナノファイバー含有組成物である。
【0130】
前記カーボンナノファイバー群が、カーボンナノファイバー含有組成物全体に対して45質量%以上の含有率でベース材料に分散状態で含有されていることが好ましいが、より好ましくは45質量%以上90質量%以下、更に好ましくは50質量%以上85質量%以下、特に好ましくは55質量%以上80質量%以下の含有率範囲で、ベース材料に分散状態で含有されていることが望ましい。
【0131】
分散されるベース材料としては、特に限定はないが、前記したような熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂が挙げられる。ベース材料が樹脂である場合、熱伝導率は該樹脂の種類にはあまり依存しないので、「熱伝導率が1.0[W/(m・K)]以上」なる物性は、ベース材料である樹脂を特には選ばない。
【0132】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、熱伝導率が大きいカーボンナノファイバー含有組成物である。本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、上記含有率でベース樹脂に分散状態で含有され、かつ、熱伝導率が1.0[W/(m・K)]以上であることが好ましい。
該熱伝導率は、3[W/(m・K)]以上がより好ましく、10[W/(m・K)]以上が更に好ましく、30[W/(m・K)]以上が特に好ましく、50[W/(m・K)]以上が最も好ましい。
【0133】
ベース材料が樹脂等の有機物の場合には、熱伝導率は、カーボンナノファイバーの含有率が大きくなると大きくなる。本発明におけるカーボンナノファイバー群は、ベース材料に対する分散性が良く含有率を高くできるので、熱伝導率を高くできる。
ベース材料中の分散性が悪い場合には、そもそも上記のように「ベース材料に分散状態で含有され」とは言わないが、その場合には一般に熱伝導率が低くなる。
【0134】
また、例えば、ベース材料がポリイミドの場合には、「直径50nm~1000nm、長さ0.2μm~200μmと定義される一般的カーボンナノファイバー」は、良分散を保ったままポリイミドに高濃度で含有させられない(含有させられたものはない)。
或いは、従来は、たとえ45質量%以上含有させたとしても、上記熱伝導率の高さは達成できない。特に、本願発明の「長さ70μm以下のカーボンナノファイバーが全体の50個数%以上であるカーボンナノファイバー群」や、「数平均長さが70μm以下のカーボンナノファイバー群」の場合は、尚更、熱伝導率は低くなっていた。
【0135】
三井化学株式会社製の熱可塑性ポリイミドである「スーパーエンプラ-AURUM(登録商標)」のカタログの物性一覧には、炭素繊維を30質量%で含有する熱可塑性ポリイミドの熱伝導率の例が1点だけ記載されているが、0.49[W/(m・K)]である。
かかる典型的なカタログ値の場合、含有率は30質量%と若干低いが、熱伝導率は本発明に比べ1桁以上小さい値である。
【0136】
また、特開2014-076750の
図4には、ポリイミド中の含有率が80質量%の複合材の熱伝導率が、0.12[W/(m・K)]であることが示されているが、含有率が高くても、熱伝導率は約2桁低い。
【0137】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、含有されているカーボンナノファイバーの分散性が良いために熱伝導率が高くなる。また、カーボンナノファイバーの分散性が良いために良分散のまま高濃度で含有させられるので、それによっても熱伝導率が高くなる。その結果、前記した含有率と熱伝導率が初めて達成できた。前記した含有率と熱伝導率のカーボンナノファイバー含有組成物は新規組成物である。
【0138】
<<機械的特性に優れたカーボンナノファイバー含有組成物>>
<<<曲げ弾性率>>>
本発明の組成物の好ましい態様は、上記ベース材料がポリアルキレン又はエポキシ樹脂であり、上記カーボンナノファイバー群が、全体の30質量%以上、分散状態で含有されており、かつ、曲げ弾性率が7GPa以上である上記のカーボンナノファイバー含有組成物である。
【0139】
すなわち、前記カーボンナノファイバー群が、カーボンナノファイバー含有組成物全体に対して30質量%以上の含有率でベース材料に分散状態で含有されていることが好ましいが、より好ましくは33質量%以上75質量%以下、更に好ましくは36質量%以上70質量%以下、特に好ましくは40質量%以上65質量%以下、最も好ましくは43質量%以上60質量%以下の含有率範囲で、ベース材料に分散状態で含有されていることが望ましい。
【0140】
曲げ弾性率は、ベース材料の種類に依存するので、この場合のベース材料は、ポリアルキレン又はエポキシ樹脂である。
ベース材料がポリアルキレンの場合には、一般的カーボンナノファイバーは、良分散を保ったままベース材料に高濃度で含有させられない(含有させられたものはない)。従来は、ベース材料がポリアルキレンの場合には、カーボンナノファイバーは、組成物全体に対して30質量%未満しか分散状態で含有されられていなかった。
例えば、特開2006-124454の表6、表8によれば、平均繊維長は本発明のカーボンナノファイバーより長いが、ポリプロピレンに5質量%程度しか配合できていない(マスターバッチの濃度30質量%×マスターバッチの配合比16.7質量%=5.0質量%)。
【0141】
また、ベース材料がエポキシ樹脂の場合も、一般的カーボンナノファイバーでは、良分散の状態で、高濃度で分散・含有させられなかった。特に、30質量%以上を含有させることできていなかった。
本発明によれば、本発明における上記カーボンナノファイバーは、良分散状態を保ったまま、上記したような高濃度でポリアルキレン又はエポキシ樹脂に含有させられる。
【0142】
ベース材料としてのポリアルキレンは、特に限定はないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等が挙げられる。また、これらの共重合体も挙げられる。
該ポリアルキレンの、分子量、立体規則性、結晶性、5モル%以下の他の共重合ビニル化合物等は、本発明における前記カーボンナノファイバー群を30質量%以上分散状態で含有でき、曲げ弾性率7GPa以上にできれば特に限定はない。
【0143】
ベース材料としてのエポキシ樹脂は、特に限定はなく、公知の主剤と硬化剤からなるカーボンナノファイバー含有組成物(エポキシ樹脂)や、それが硬化したカーボンナノファイバー含有組成物(エポキシ樹脂)が挙げられる。
【0144】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、曲げ弾性率が極めて大きいカーボンナノファイバー含有組成物である。本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、上記含有率でポリアルキレン又はエポキシ樹脂に分散状態で含有され、かつ、曲げ弾性率が7GPa以上であることが好ましい。
該曲げ弾性率は、8.5GPa以上であることがより好ましく、10GPa以上であることが更に好ましく、11.5GPa以上であることが特に好ましく、13GPa以上であることが最も好ましい。
【0145】
ベース材料がポリアルキレン等の樹脂の場合には、曲げ弾性率は、カーボンナノファイバーの含有率が大きくなると大きくなる。本発明におけるカーボンナノファイバー群は、ベース材料に対する分散性が良く含有率を高くできるので、曲げ弾性率を高くできる。
ベース材料中の分散性が悪い場合には、そもそも上記のように「ベース材料に分散状態で含有され」とは言わないが、その場合には一般に曲げ弾性率が低くなる。
【0146】
例えば、特開2006-124454の表7、9、10によれば、上記した通り、ポリプロピレンに5質量%程度しか配合できておらず(配合できていないが)、曲げ弾性率は、1.6~3.3GPa(1600~3300MPa)程度であり、本発明の上記曲げ弾性率の数分の一である。
【0147】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、含有されているカーボンナノファイバーの分散性が良いために曲げ弾性率が高くなる。また、カーボンナノファイバーの分散性が良いために良分散のまま高濃度で含有させられるので、それによっても曲げ弾性率が高くなる。その結果、前記した含有率と曲げ弾性率が初めて達成できた。ポリアルキレン又はエポキシ樹脂をベース材料とした前記含有率と曲げ弾性率のカーボンナノファイバー含有組成物は新規組成物である。
【0148】
<<<曲げ強度>>>
本発明の組成物の好ましい態様は、上記ベース材料がポリアルキレン又はエポキシ樹脂であり、上記カーボンナノファイバー群が、全体の30質量%以上、分散状態で含有されており、かつ、曲げ強度が70MPa以上である上記のカーボンナノファイバー含有組成物である。
【0149】
前記カーボンナノファイバー群のカーボンナノファイバー含有組成物全体に対しての含有率は、好ましい範囲、特に好ましい範囲等を含めて、前記した曲げ弾性率の場合と同様である。従来は、ベース材料がポリアルキレン又はエポキシ樹脂の場合には、カーボンナノファイバーは、組成物全体に対して30質量%未満しか分散状態で含有されられていなかった。
【0150】
ベース材料としてのポリアルキレン又はエポキシ樹脂については、前記した曲げ弾性率の場合と同様である。該ポリアルキレンの、分子量、立体規則性、結晶性、5モル%以下の他の共重合ビニル化合物等は、本発明における前記カーボンナノファイバー群を30質量%以上分散状態で含有でき、曲げ強度70MPa以上にできれば特に限定はない。
【0151】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、曲げ強度が極めて大きいカーボンナノファイバー含有組成物である。本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、上記含有率でポリアルキレン又はエポキシ樹脂に分散状態で含有され、かつ、曲げ弾性率が70MPa以上であることが好ましい。
該曲げ弾性率は、75MPa以上であることがより好ましく、80MPa以上であることが更に好ましく、85MPa以上であることが特に好ましく、90MPa以上であることが最も好ましい。
【0152】
ベース材料がポリアルキレン等の樹脂の場合には、曲げ強度は、カーボンナノファイバーの含有率が大きくなると大きくなる。本発明におけるカーボンナノファイバー群は、ベース材料に対する分散性が良く含有率を高くできるので、曲げ強度を高くできる。
ベース材料中の分散性が悪い場合には、そもそも上記のように「ベース材料に分散状態で含有され」とは言わないが、その場合には一般に曲げ強度が低くなる。
【0153】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、含有されているカーボンナノファイバーの分散性が良いために曲げ強度が高くなる。また、カーボンナノファイバーの分散性が良いために良分散のまま高濃度で含有させられるので、それによっても曲げ強度が高くなる。その結果、前記した含有率と曲げ強度が初めて達成できた。ポリアルキレン又はエポキシ樹脂をベース材料とした前記含有率と曲げ強度のカーボンナノファイバー含有組成物は新規組成物である。
【0154】
<<電気的特性(表面抵抗率)に優れたカーボンナノファイバー含有組成物>>
本発明の組成物の好ましい態様は、上記カーボンナノファイバー群が、全体の30質量%以上含有されており、かつ、表面抵抗率が1.0×103[Ω/□]以下である上記のカーボンナノファイバー含有組成物である。
【0155】
前記カーボンナノファイバー群が、カーボンナノファイバー含有組成物全体に対して30質量%以上の含有率でベース材料に分散状態で含有されていることが好ましいが、より好ましくは35質量%以上90質量%以下、更に好ましくは40質量%以上85質量%以下、特に好ましくは45質量%以上80質量%以下、最も好ましくは50質量%以上75質量%以下の含有率範囲で、ベース材料に分散状態で含有されていることが望ましい。
【0156】
分散されるベース材料としては、特に限定はないが、前記したような熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂が挙げられる。ベース材料が樹脂である場合、表面抵抗率は該樹脂の種類にはあまり依存しないので、「表面抵抗率が1.0×103[Ω/□]以下」なる物性は、ベース材料である樹脂を特には選ばない。
【0157】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、表面抵抗率が小さいカーボンナノファイバー含有組成物である。本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、上記含有率でベース樹脂等のベース材料に分散状態で含有され、かつ、表面抵抗率が1.0×103[Ω/□]以下であることが好ましい。
該表面抵抗率は、4×102[Ω/□]以下がより好ましく、2×102[Ω/□]以下が更に好ましく、3×101[Ω/□]以下が特に好ましく、1.0×101[Ω/□]以下が最も好ましい。
【0158】
ベース材料が樹脂等の有機物の場合には、表面抵抗率は、カーボンナノファイバーの含有率が大きくなると小さくなる。本発明におけるカーボンナノファイバー群は、ベース材料に対する分散性が良く含有率を高くできるので、表面抵抗率を小さくできる。
ベース材料中の分散性が悪い場合には、そもそも上記のように「ベース材料に分散状態で含有され」とは言わないが、その場合には一般に表面抵抗率が大きくなる。
【0159】
また、例えば、ベース材料がポリイミドの場合には、「直径50nm~1000nm、長さ0.2μm~200μmと定義される一般的カーボンナノファイバー」は、良分散を保ったままポリイミドに高濃度で含有させられない(含有させられたものはない)。
或いは、従来は、たとえ30質量%以上含有させたとしても、上記表面抵抗率の低さは達成できない。特に、本願発明の「長さ70μm以下のカーボンナノファイバーが全体の50個数%以上であるカーボンナノファイバー群」や、「数平均長さが70μm以下のカーボンナノファイバー群」の場合は、尚更、表面抵抗率は高くなっていた。
【0160】
三井化学株式会社製の熱可塑性ポリイミドである「スーパーエンプラ-AURUM(登録商標)」のカタログの物性一覧には、炭素繊維を30質量%で含有する熱可塑性ポリイミドの表面抵抗率の例が1点だけ記載されているが、104~108[Ω]、すなわち、104~108[Ω/□]である。
かかる典型的なカタログ値の場合、含有率を同じにすると、表面抵抗率は本発明に比べ1~5桁ほど大きい値である。
【0161】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、含有されているカーボンナノファイバーの分散性が良いために表面抵抗率が低くなる。また、カーボンナノファイバーの分散性が良いために良分散のまま高濃度で含有させられるので、それによっても表面抵抗率が低くなる。その結果、前記した含有率と表面抵抗率が初めて達成できた。前記した含有率と表面抵抗率のカーボンナノファイバー含有組成物は新規組成物である。
【0162】
<<電気的特性(体積抵抗率)に優れたカーボンナノファイバー含有組成物>>
本発明の組成物の好ましい態様は、上記カーボンナノファイバー群が、全体の30質量%以上含有されており、かつ、体積抵抗率が1.0[Ω・cm]以下である上記のカーボンナノファイバー含有組成物である。
【0163】
前記カーボンナノファイバー群が、カーボンナノファイバー含有組成物全体に対して30質量%以上の含有率でベース材料に分散状態で含有されていることが好ましいが、より好ましくは35質量%以上90質量%以下、更に好ましくは40質量%以上85質量%以下、特に好ましくは45質量%以上80質量%以下、最も好ましくは50質量%以上75質量%以下の含有率範囲で、ベース材料に分散状態で含有されていることが望ましい。
【0164】
分散されるベース材料としては、特に限定はないが、前記したような熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂が挙げられる。ベース材料が樹脂である場合、体積抵抗率は該樹脂の種類にはあまり依存しないので、「体積抵抗率が1.0[Ω・cm]以下」なる物性は、ベース材料である樹脂を特には選ばない。
【0165】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、体積抵抗率が小さいカーボンナノファイバー含有組成物である。本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、上記含有率でベース樹脂等のベース材料に分散状態で含有され、かつ、体積抵抗率が1.0[Ω・cm]以下であることが好ましい。
該体積抵抗率は、1.0[Ω・cm]未満がより好ましく、0.5[Ω・cm]以下が更に好ましく、0.3[Ω・cm]以下が特に好ましい。
【0166】
ベース材料が樹脂等の有機物の場合には、体積抵抗率は、カーボンナノファイバーの含有率が大きくなると小さくなる。本発明におけるカーボンナノファイバー群は、ベース材料に対する分散性が良く含有率を高くできるので、体積抵抗率を小さくできる。
ベース材料中の分散性が悪い場合には、そもそも上記のように「ベース材料に分散状態で含有され」とは言わないが、その場合には一般に体積抵抗率が大きくなる。
【0167】
また、例えば、ベース材料がポリイミドの場合には、一般的なカーボンナノファイバー」は、良分散を保ったままポリイミドに高濃度で含有させられない(含有させられたものはない)。
或いは、従来は、たとえ30質量%以上含有させたとしても、上記体積抵抗率の低さは達成できない。特に、本願発明の「長さ70μm以下のカーボンナノファイバーが全体の50個数%以上であるカーボンナノファイバー群」や、「数平均長さが70μm以下のカーボンナノファイバー群」の場合は、尚更、体積抵抗率は高くなっていた。
【0168】
本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、含有されているカーボンナノファイバーの分散性が良いために体積抵抗率が低くなる。また、カーボンナノファイバーの分散性が良いために良分散のまま高濃度で含有させられるので、それによっても体積抵抗率が低くなる。その結果、前記した含有率と体積抵抗率が初めて達成できた。前記した含有率と体積抵抗率のカーボンナノファイバー含有組成物は新規組成物である。
【0169】
<作用・原理>
本発明は、以下の作用・原理が成立する範囲に限定される訳ではないが、本発明においては、カーボンナノファイバーの形状・サイズ(の分布)、アスペクト比;カーボンナノファイバーの(化学的又は物理的)表面状態によって、上記したように種々の特性が良好になったと考えられる。また、カーボンナノファイバーの上記形状等と上記表面状態によって、ベース材料に対する高分散が可能になったと考えられる。
そして、高分散が可能になったために、高分散させることで、種々の特性が更に良好になり、新規な組成と物性を有する組成物が得られたと考えられる。
【実施例0170】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0171】
実施例1
[原料炭素繊維]
<乾式粉砕>
サイジング処理がされていないランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維である「約6mmのチョップドファイバー」を、前粉砕をせずに、
図9に示したような、「ブレードを持った剪断と衝撃による粉砕機」を用いて、直径10μm、かつ、長さについては、10μm~40μmの範囲に全体の90個数%が入るように、1000gを、10分かけて、30℃で乾式粉砕を行った。
【0172】
<湿潤処理>
乾式粉砕された炭素繊維(例えば、
図5(a)(b))で、加熱処理を行っていないもの100質量部;湿潤剤(界面活性剤)1質量部;及び;精製水1500質量部を混合し撹拌して、スラリーを得た。
ここで、上記湿潤剤(界面活性剤)は、酸基を有する化合物のアンモニウム塩とした。
【0173】
上記スラリーを、30℃で、10分間、ハンドミキサーで、800rpmで撹拌させることで、湿潤処理を行った。
【0174】
<湿式粉砕>
容積0.6Lのビーズミルを用い、ビーズの直径0.3mmφ、ビーズ充填量60%、ベッセルモーター回転数1500rpm、循環ポンプはチューブ式ポンプを用い、移送量毎分500mLで、上記で得たスラリー4Lを90分以上循環させた。
【0175】
<凝集防止処理>
得られたスラリーを、3500mLだけ、上記ビーズミルの容器から別容器に移した後、凝集防止剤として、コブロックポリマーを、スラリー全体(3500mL)に対して、0.01質量%を添加した。
添加後、常温(15~25℃)にて、ハンドミキサーを用いて800rpmで5分間撹拌して、凝集防止処理を行った。
【0176】
<水除去処理>
加熱と減圧を加えて、サイクロン分離回収方法で、半ドライアップしたものを回収し、150℃のオーブンで、240分間加熱して、水を除去して、固体状のカーボンナノファイバー群を調製した。その後、260℃のオーブンで1時間加熱して、界面活性剤等を除去した。
【0177】
<実施例1で得られたカーボンナノファイバー群の評価>
得られた固体状のカーボンナノファイバー群、及び、水除去処理前の分散液(スラリー)中のカーボンナノファイバー群を、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観測して前記のように測定したところ、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の90個数%が分布しているカーボンナノファイバー群が得られた。
【0178】
得られた固体状のカーボンナノファイバー群を、アクリル樹脂の水性エマルジョン、スチレン・(無水)マレイン酸樹脂の水性エマルジョン、ポリウレタン樹脂の水性エマルジョンに、それぞれ投入し、通常に撹拌することで、固体状のカーボンナノファイバー群から、カーボンナノファイバーが、略1本ずつ好適に水中に分散した。分散中に凝集せず、経時でも凝集しなかった。
【0179】
また、得られた固体状のカーボンナノファイバー群を、汎用のあらゆる熱可塑性樹脂をベース樹脂とし、該樹脂中に常用の混錬機(ニーダー)を用いて分散させたところ、略1本ずつ好適にベース樹脂中に分散した。
【0180】
また、得られた固体状のカーボンナノファイバー群を、汎用のあらゆる熱硬化性樹脂の硬化剤側に、常用の撹拌機を用いて分散させたところ、略1本ずつ好適に硬化剤中に分散した。
カーボンナノファイバーが分散した硬化剤と、エポキシ樹脂又はウレタン樹脂をそれぞれ含有する主剤とを混合したところ、何れも分散が保持され凝集せずに、熱硬化性樹脂として好適に使用できた。
【0181】
原料として、ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維に代えて、等方性ピッチ系炭素繊維、ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維、オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維を使用した以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を調製した(又は調製しようとした)。
【0182】
「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下、好ましくは数平均アスペクト比が3以上のカーボンナノファイバー」の製造にし易さは、以下の通りであった。
なお、「>>」「>」「≒」に関しては、上(左)に行くほど、優れていることを示す。また、優劣の程度も、「>>」「>」「≒」で示す。
ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維
>>ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維
≒オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維
>>等方性ピッチ系炭素繊維(実際は調製できなかった)
≒PAN系炭素繊維(比較例1(後記)、実際は調製できなかった)
【0183】
また、分散性、分散安定性、高濃度分散性、熱的特性、機械的特性、及び、電気的特性についても、概ね上記の順番であった。また、優劣の程度も、上記「>>」「>」「≒」のようであった。
【0184】
比較例1
実施例1のピッチ系炭素繊維に代えてPAN系炭素繊維を原料として用いた以外は、実施例1と同様に、カーボンナノファイバー群を調製しようとしたが、何れも、数平均アスペクト比が3未満であり、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群が得られなかった。
【0185】
実施例2
原料を、チョップドファイバーに代えて、直径10μm、長さ70μmのミルドファイバーを用いた以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
長さが約1μmと言った短いものが多く混在するため、数平均アスペクト比が小さくなる傾向があったが、良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
【0186】
実施例3
実施例1の「6mmのチョップドファイバー」に代えて、原料として、長繊維ボビンタイプを用いた。カッターミルでの前粉砕が必要であったが、実施例1と同様にして、良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
【0187】
実施例4
実施例1の乾式粉砕の段階で、「ブレードを持った剪断と衝撃による粉砕機」に代えて、ジェットミル、サイクロンミル、トルネードミル、ドリームミルと言った、インペラ、ブレード等で粉砕しない(又はインペラ等を使用していない)全気流式粉砕機を用いた以外は、実施例1と同様に処理した。
【0188】
好適にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であったが、若干、乾式粉砕の段階で、数平均アスペクト比が小さくなる傾向があり、次の湿式粉砕を行った後も、数平均アスペクト比が小さくなる傾向が残存した。
【0189】
実施例5
実施例1において、サイジング処理がされていないランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維に代えて、サイジング処理がされているランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を原料として用い、更に、乾式粉砕後に加熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
加熱処理は、電気炉内で、温度400℃で10分間、加熱した。
【0190】
原料に含まれていたエポキシ樹脂が、0.01質量%以下にまで減少した。その結果、フィラメント内に(素フィラメント同士の隙間に)、界面活性剤(湿潤剤)が効果的に入っていって、好適に数平均アスペクト比の大きいカーボンナノファイバーができた。
【0191】
実施例6
実施例1において、湿潤処理を行わず、その代わりに、実施例1で湿潤処理に用いた湿潤剤(界面活性剤)と同一のものを、湿式粉砕において界面活性剤として配合した。
それ以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
【0192】
若干、実施例1より、湿潤剤(界面活性剤)の効果が下がり、数平均アスペクト比が小さくなる傾向ではあったが、良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
【0193】
実施例7
実施例6において使用した界面活性剤(実施例1で湿潤処理に用いた湿潤剤(界面活性剤))に代えて、カルボベタイン型、イミダゾリン型、アミドベタイン型、アミドスルホベタイン型、又は、アミドアミンオキシド型の両性界面活性剤を用いた以外は、実施例6と同様にして、複数種類のカーボンナノファイバー群を得た。両性界面活性剤を用いたものは、硬水及び幅広いpH領域で高い起泡性を示し良好であった。
カルボベタイン型の両性界面活性剤としては、ソフタゾリン(川研ファインケミカル株式会社製)を用いた。
【0194】
実施例1や実施例6と同様に、良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
【0195】
実施例8
実施例5の原料を用い、実施例1において、凝集防止処理を行わなかった以外は、実施例1及び実施例5と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
【0196】
何れも良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
ただ、得られたカーボンナノファイバー分散液は、実施例1で得られた分散液より、経時で若干凝集する方向であったが、問題にならないレベルであった。
【0197】
実施例9
実施例1において、水除去処理を行わず、カーボンナノファイバー分散液を得た。分散性に優れ、分散液のまま次の用途に提供することができた。
【0198】
実施例10
実施例1の凝集防止処理において、実施例1で用いた複合金属キレートに代えて、陰イオン界面活性剤である高縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウムを、スラリー全体(3500mL)に対して5質量%添加した。すなわち、対象物100質量部に対して50質量部を添加した。それ以外は実施例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
【0199】
良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も分散安定性の評価も良好であった。
【0200】
実施例11
実施例1と実施例10において、凝集防止処理と水除去処理の順番を逆にして、水除去処理を行って濃厚なスラリー又は粉末とした対象物に、実施例10の「陰イオン界面活性剤である界面活性剤」、又は、実施例1の「凝集防止剤である複合金属キレート」を配合した以外は、実施例1と実施例10と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
【0201】
良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も分散安定性の評価も良好であった。
【0202】
比較例2
実施例1において、湿式粉砕を行わずに乾式粉砕だけで、カーボンナノファイバーを得ようとしたが、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群は得られなかった。
【0203】
比較例3
実施例1において、乾式粉砕を行わずに湿式粉砕だけで、カーボンナノファイバーを得ようとしたが、粉砕が進行せず、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群は得られなかった。
【0204】
実施例12
実施例1及び実施例8で得られたカーボンナノファイバー群を、それぞれ熱可塑性樹脂であるポリカーボネート(帝人株式会社製、パンライトL-1225Z100(登録商標))に、全体に対して5質量%となるように混合して、カーボンナノファイバー含有組成物を得た。
【0205】
得られた上記カーボンナノファイバー含有組成物の成型体について、機械特性を、専用の測定装置で測定した。
その結果、実施例1で得られたカーボンナノファイバー群でも、実施例8で得られたカーボンナノファイバー群でも、得られた成型体は、カーボンナノファイバー群を含有しない上記ポリカーボネートのみの成型体に比較して20%以上の物性向上が見られた。
【0206】
実施例13
実施例1及び実施例8で得られたカーボンナノファイバー群を、それぞれ熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂の主剤である(三菱ケミカル株式会社製、jER828(登録商標))に、該主剤と「後から混合する下記硬化剤」の合計(樹脂全体)に対して10質量%となるように混合して、カーボンナノファイバー含有組成物を得た。
次いで、そこに、専用のエポキシ樹脂の硬化剤(同社製、jERキュアST14(登録商標))を説明書に記載の比率で混合して、成型体形成用のカーボンナノファイバー含有組成物を得た。その後、静置して成型体を得た。
【0207】
得られた上記カーボンナノファイバー含有組成物の成型体について、機械特性を、専用の測定装置で測定した。
その結果、実施例1で得られたカーボンナノファイバー群でも、実施例8で得られたカーボンナノファイバー群でも、カーボンナノファイバー群を含有しない上記硬化エポキシ樹脂に比較して、抵抗率ダウン等の電気的性能の向上は勿論のこと、機械的性能の向上も見られた。中でも、特に、曲げ弾性率[GPa]の向上が著しく、20%以上の向上が見られた。
【0208】
実施例14
実施例1及び実施例8で得られたカーボンナノファイバー群を、実施例13と同じエポキシ樹脂の主剤に、主剤と「後から混合する硬化剤」の合計(樹脂全体)に対して、20.0質量%、25.0質量%、30.0質量%となるように混合して、カーボンナノファイバー含有組成物を得た。
次いで、そこに、実施例13と同じ硬化剤を説明書に記載の比率で混合して、成型体形成用のカーボンナノファイバー含有組成物を得た。その後、静置して成型体を得た。
すなわち、実施例13の混合割合「14.5質量%」を、「20.0質量%」、「25.5質量%」、「30.0質量%」に、それぞれ上げた以外は実施例13と同様にして成型体を得た。
【0209】
得られた上記カーボンナノファイバー含有組成物の成型体について、JISK6921-2に準拠して成型を行い、曲げ弾性率と曲げ強度の測定は、JISK7171に準拠して行った。
【0210】
その結果、実施例1で得られたカーボンナノファイバー群でも、実施例8で得られたカーボンナノファイバー群でも、「30.0質量%含有成型体」については、曲げ弾性率が7.45GPaであり、曲げ強度が78.7MPaであった。
カーボンナノファイバー群を含有しない上記硬化エポキシ樹脂に比較して、特に、曲げ弾性率[MPa]が、「30.0質量%含有成型体」については2.5倍にもなり、その向上が著しかった。
【0211】
実施例21
<成型体の熱伝導率>
実施例1で得られたカーボンナノファイバー群15質量部、熱硬化性ポリイミド(宇部興産株式会社製、ユピア(固形分20質量%)(登録商標))60質量部を、室温において、自公転式撹拌機を用いて混合して、カーボンナノファイバー含有組成物を調製した。
同様に、
図10の横軸に示した濃度になるように、上記カーボンナノファイバー群と上記熱可塑性ポリイミドとの混合比を振って、複数個のカーボンナノファイバー含有組成物を調製した。何れも、分散性に関して極めて優れていた。
【0212】
得られたカーボンナノファイバー含有組成物を、アルミ箔上に塗布し、硬化乾燥後、剥離して、膜単体を取り出し試料とした。
熱拡散率の測定は、キセノンフラッシュアナライザー法により測定した。使用機器は、ネッチ・ジャパン株式会社製、LFA447 Nanoflashを用いて、面方向の熱拡散率を測定した。
【0213】
結果を
図10に示す。全体の45質量%以上のカーボンナノファイバーが分散状態で含有されているカーボンナノファイバー含有組成物は、従来品に比べて熱伝導率が高かった。そして、カーボンナノファイバーの含有量が多くなると熱伝導率が
図10に示すように高くなった。
【0214】
実施例22
<成型体の曲げ弾性率>
(1)実施例5で得られたカーボンナノファイバー群30質量部、ホモ型のポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製、J105G)70質量部を、200℃において、バッチ式混錬機を用いて混合して、カーボンナノファイバー含有組成物を調製した。
同様に、
図11の横軸に示した濃度になるように、上記カーボンナノファイバー群と上記ポリプロピレンとの混合比を振って、複数個の濃度の異なるカーボンナノファイバー含有組成物を調製した。何れも、分散性に関して極めて優れていた。
【0215】
比較のために、上記と同様にして、以下の(2)、(3)及び(4)に示した炭素材(炭素質物)を含有する組成物を調製した。
(2)原料として、PAN系の炭素繊維(東レ株式会社製、T700)を用い、直径7μm、数平均長さ80μm~100μm、数平均アスペクト比10~15に粉砕したカーボンナノファイバー;
(3)直径10μmであり、数平均長さ10μm~20μmのピッチ系カーボンマイクロファイバー;及び;
(4)平均粒径20μm~30μmの鱗片状グラファイト(グラフェン)
について、上記(1)と同様にしてカーボン含有組成物(炭素材含有組成物)を調製又は準備した。
【0216】
上記(1)と同様に、それぞれ
図11の横軸に示した濃度になるように、上記(2)~(4)のカーボンと上記ポリプロピレンとの混合比を振って、それぞれ複数個のカーボン含有組成物(炭素材含有組成物)を調製した。
【0217】
得られた「カーボンナノファイバー等の炭素材(炭素質物)含有組成物」を、JISK6921-2「プラスチック-ポリプロピレン(PP)成型用及び押出用材料-第2部:試験片の作製方法及び特性の求め方」に準拠して成型を行った。
曲げ弾性率の測定は、JISK7171に準拠して行った。
結果を
図11に示す。
図11のグラフ中に付した(1)~(4)は、それぞれ上記した炭素材(炭素質物)を示す。
【0218】
公知(従来)のカーボンナノファイバー等の炭素材(炭素質物)((2)(3)(4))では、30質量%未満しか良好な分散状態で含有させられないのに対して、本発明におけるカーボンナノファイバー(1)では、良好な分散状態で30質量%以上にまで含有させることができた。なお、
図11にプロットされている本発明の(1)の組成物は、全て良分散できたことをも示す。
【0219】
全体の30質量%以上のカーボンナノファイバーが良分散状態で含有されている本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、他の炭素材(炭素質物)に比べて曲げ弾性率が高かった(
図11参照)。
そして、カーボンナノファイバーの含有量が多くなると、曲げ弾性率が
図11に示すように高くなった。その結果、従来なかったような、高い曲げ弾性率を有する組成物が得られた。
【0220】
実施例23
<成型体の曲げ強度>
実施例5で得られた(1)カーボンナノファイバー群30質量部、ホモ型のポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製、J105G)70質量部を、200℃において、バッチ式混錬機を用いて混合して、カーボンナノファイバー含有組成物を調製した。
同様に、
図12の横軸に示した濃度になるように、上記カーボンナノファイバー群と上記ポリプロピレンとの混合比を振って、複数個のカーボンナノファイバー含有組成物を調製した。何れも、分散性に関して極めて優れていた。
【0221】
炭素材(1)、(2)、(3)及び(4)は、上記した<成型体の曲げ弾性率>の測定に用いたものと同一である。
図12の横軸に示した濃度にそれぞれなるように、上記炭素材群と上記ポリプロピレンとの混合比を振って、それぞれ複数個の試料組成物を調製した。
【0222】
得られた「カーボンナノファイバー等の炭素材(炭素質物)含有組成物」を、曲げ強度測定用に、JISK6921-2「プラスチック-ポリプロピレン(PP)成型用及び押出用材料-第2部:試験片の作製方法及び特性の求め方」に準拠して成型を行った。
曲げ強度の測定は、JISK7171に準拠して行った。
結果を
図12に示す。
図12のグラフ中に付した(1)~(4)は、それぞれ上記した炭素材(炭素質物)を示す。
【0223】
公知(従来)のカーボンナノファイバー(群)等の炭素材(炭素質物)では、30質量%未満しか良好な分散状態で含有させられなかったのに対して、本発明におけるカーボンナノファイバーでは、良好な分散状態で30質量%以上にまで含有させられた。なお、
図12にプロットされている本発明の(1)の組成物は、全て良分散できたことをも示す。
【0224】
全体の30質量%以上のカーボンナノファイバーが分散状態で含有されている本発明のカーボンナノファイバー含有組成物は、他の炭素材(炭素質物)に比べて曲げ強度が高かった(
図12参照)。
そして、カーボンナノファイバーの含有量が多くなると、曲げ強度が
図12に示すように高くなった。その結果、従来なかったような高い曲げ強度を有する組成物が得られた。
【0225】
実施例24
<塗膜の表面抵抗率>
実施例1で得られたカーボンナノファイバー群16.2質量部、ポリイミド(宇部興産株式会社製、U-ワニス-A(登録商標))30質量部(固形分)、及び、溶媒・分散媒であるNMP(N-メチルピロリドン)を、室温において、自公転式の撹拌機で混合して、カーボンナノファイバー含有組成物を調製した(
図13の横軸の「CNF35%」)。
同様に、
図13の横軸に示した濃度になるように、上記カーボンナノファイバー群と上記ポリイミドとの混合比を振って、溶媒・分散媒であるNMPに投入し、室温で、自公転式撹拌機を用いて撹拌して、複数個のカーボンナノファイバー含有組成物を有する塗料を調製した。
何れも、分散性に関して極めて優れていた。
【0226】
得られた塗料を、表面抵抗率測定用に、ガラス基板上に、乾燥膜厚50μmとなるようにバーコーターを用いて塗布して、その後、200℃で加熱乾燥させて塗膜を形成した。
表面抵抗率の測定は、JIS・K・7194「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に準拠して行った。
【0227】
結果を
図13に示す。本発明におけるカーボンナノファイバーは、今までにないほど、高濃度でベース材料であるポリイミドに、この場合は塗膜に、良分散状態で含有させられることが分かった。
なお、
図13中の「CNF」は、本発明におけるカーボンナノファイバーを示し、「CFRP」は、炭素繊維とエポキシ樹脂を用いた炭素繊維強化プラスチックを示す。
【0228】
本発明のカーボンナノファイバーが分散状態で含有されているカーボンナノファイバー含有組成物、すなわち得られた塗膜は、従来品に比べて表面抵抗率が小さかった。そして、カーボンナノファイバーの含有量が多くなると、それと共に、表面抵抗率が
図13に示すように更に小さくなった。
【0229】
実施例25
<塗膜の体積抵抗率>
実施例24と同様な方法で、
図14の横軸に示した濃度になるように、上記カーボンナノファイバー群と上記熱可塑性ポリイミドとの混合比を振って、複数個のカーボンナノファイバー含有組成物を有する塗料を調製した。
何れも、分散性に関して極めて優れていた。
【0230】
得られた塗料を、体積抵抗率測定用に、乾燥膜厚50μmとなるように、バーコーターを用いて塗布して、その後、乾燥させて塗膜を形成した。
体積抵抗率の測定は、JISK7194に準拠して行った。
【0231】
結果を
図14に示す。本発明におけるカーボンナノファイバーは、高濃度でベース材料(ベース樹脂)に、この場合は塗膜に、良分散状態で含有させられることが分かった。
そして、本発明のカーボンナノファイバー群が分散状態で含有されているカーボンナノファイバー含有組成物は、従来のカーボンナノファイバーが含有されている組成物に比べて、表面抵抗率が低かった。また、カーボンナノファイバーの含有量が多くなると、表面抵抗率が
図14に示すように更に低くなった。
本発明における特殊な形状・サイズ・分布等と表面状態を有するカーボンナノファイバー群は、特にアスペクト比が大きく、微細である等、優れた形状をしたカーボンナノファイバー1本1本の集合であり、更にカーボンナノファイバー自身以外の不純物が殆どなく、液体(水性媒体、油性媒体等)にも、(融解した)固体(ベース樹脂等)にも分散性が良く、高分散が可能で、凝集もし難く、樹脂に含有させて成型もできるので、分散液、塗料、フィルム、構造体、層(膜)、回路、粉末等の形態で、耐熱性物体、高熱伝導性物体、高機械強度物体、耐摩耗物体、電波遮蔽・吸収物体、高電気伝導性物体等、種々の性能が要求される種々の分野に広く利用されるものである。
更に、本発明におけるカーボンナノファイバー群は、FRP用のマトリックス樹脂に分散含有させ、それを繊維基材に含浸させて、種々の繊維強化プラスチック(FRP)を製造できる。
従って、本発明は、繊維強化プラスチック(FRP)の製造分野、及び、FRPの利用分野にも広く利用されるものである。