(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039463
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】燃料電池用ガスケットとこれを備えた燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0284 20160101AFI20230314BHJP
H01M 8/0286 20160101ALI20230314BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20230314BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20230314BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230314BHJP
【FI】
H01M8/0284
H01M8/0286
H01M4/92
F16J15/10 Y
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146549
(22)【出願日】2021-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】吉本 規寿
(72)【発明者】
【氏名】山内 将樹
(72)【発明者】
【氏名】武田 憲有
【テーマコード(参考)】
3J040
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
3J040EA05
3J040EA16
3J040FA06
3J040HA15
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB03
5H018EE16
5H018EE17
5H018EE18
5H018HH00
5H018HH03
5H018HH05
5H126AA13
5H126BB06
5H126DD02
5H126GG17
5H126GG18
5H126JJ00
5H126JJ03
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】本開示は、燃料電池の電圧低下の原因となるガスケット製造時に発生する架橋剤分解生成物の芳香族カルボニル化合物の透過を抑え、燃料電池の電極にある触媒被毒とそれに伴う電圧低下を抑制できる燃料電池用ガスケットを提供する。
【解決手段】本開示の燃料電池用ガスケットは、表層と表層より内側が同じゴム材料で構成され、かつ、表層の架橋密度が、表層より内側の架橋密度に対し、+0.01%以上になるように構成される。ガスケット表層からブリードアウトする架橋剤分解生成物であり、それ自身もまた架橋剤である芳香族カルボニル化合物に対し、架橋反応を促進させることで、ガスケット表層の架橋密度を向上させる。これにより、芳香族カルボニル化合物の透過を抑え、燃料電池の電極にある触媒被毒を抑制し、電圧低下を抑制することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層と前記表層より内側がゴム系材料で構成され、かつ、前記表層の架橋密度が、前記表層より内側の架橋密度に対し、+0.01%以上である燃料電池用ガスケット。
【請求項2】
前記表層の層厚みが、0.1nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項3】
前記表層には、ガスケット材の未架橋ポリマーを架橋するラジカル生成物を有する請求項1または2に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項4】
前記ガスケット材の未架橋ポリマーを架橋するラジカル生成物が、芳香族カルボニル、ないしはその化合物のラジカル生成物であることを特徴とする請求項3記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池用ガスケットと、
白金を用いたアノード触媒層またはカソード触媒層と、
を備える燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池用ガスケットとこれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、触媒層に付着した有機物を効率的に除去する燃料電池の製造方法を開示する。この製造方法は、アノード側に水素、カソード側に窒素又は水素を封入した状態で燃料電池の電圧を0Vに保ち、触媒層から有機物を脱離させる工程と、燃料電池内の温度を上げて脱離させた有機物を蒸発させる工程と、蒸発させた有機物を燃料電池から排気する工程と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、燃料電池の電極にある触媒の被毒を抑制し、電圧低下を抑制できる燃料電池用ガスケットとこれを備えた燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の燃料電池用ガスケットは、表層と表層より内側が同じゴム材料で構成され、かつ、表層の架橋密度が、表層より内側の架橋密度に対し、+0.01%以上になるように構成されている。
【発明の効果】
【0006】
本開示における燃料電池用ガスケットは、濃度拡散でガスケット表層から大気へ拡散(以下、ブリードアウトという)する架橋剤分解生成物であり、それ自身もまた架橋剤である芳香族カルボニル化合物に対し、架橋反応を促進させることで、ガスケット表層の架橋密度を向上させる。これにより、芳香族カルボニル化合物の透過を抑え、燃料電池の電極にある触媒被毒を抑制し、電圧低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態1における燃料電池用ガスケットを用いた燃料電池の断面図
【
図2】実施の形態1における光照射前の燃料電池用ガスケットの断面図
【
図3】実施の形態1における光照射による架橋を示した燃料電池用ガスケットの断面図
【
図4】実施の形態1における光照射後の燃料電池用ガスケットの断面図
【
図5】他の実施の形態における燃料電池用ガスケットの断面図
【
図6】他の実施の形態における燃料電池用ガスケットの光照射による架橋を行っているときの断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、電解質として高分子電解質膜を用い、電解質膜-電極-枠体接合体に、系外へのガスリークを抑制するガスケットを配置し、ガス流路が形成されたセパレータで挟持して燃料電池を形成する技術があった。
【0009】
この燃料電池を形成する技術は、アノード及びカソード中にそれぞれ備えられる触媒層の触媒作用によって水素含有ガスと空気との電気化学反応を進行させ、外部回路に電子を取り出す構成を有するものであった。
【0010】
しかしながら、この燃料電池のアノード触媒層及びカソード触媒層には、特に燃料電池組立直後において、新品の燃料電池構成部材から溶出される有機物などの不純物が付着し、触媒層中の触媒である白金を被毒し、水素含有ガスと空気との電気化学反応を阻害し、発電電圧を低下させていた。
【0011】
こうした状況において、発明者らは、燃料電池構成部材から溶出される有機物の同定と発生源の探索を行った。
【0012】
そして、発明者らは、燃料電池用ガスケットの製造過程で生じたガスケットの架橋分解生成物が要因であることが分かった。
【0013】
即ち、ガスケット成型法として、未架橋ゴム材を密閉状態で加圧加熱処理してセパレータへ転写する際に同時に架橋反応を行う。このとき、架橋剤をあらかじめゴム材中に配合していた。
【0014】
架橋剤は、高い架橋効率や反応性を考慮した場合、有機過酸化物架橋剤の一種を用いる。これを用いると、ガスケット中に、架橋剤分解生成物である芳香族カルボニル化合物が残留し、ガスケット表層へ移動し、ブリードアウトが起こる。
【0015】
この芳香族カルボニル化合物は、カルボニル基を有し、触媒層中の白金表面に吸着して被毒し、電気化学反応を阻害して発電電圧を低下させていた。
【0016】
ここで、芳香族カルボニル化合物はラジカル分解により、その後再び架橋剤として反応できるようになるため、ガスケット表層の芳香族カルボニル化合物の架橋を促進させて架橋密度を高めれば、ガスケットの内部の芳香族カルボニル化合物がガスケット表層からブリードアウトすることを遅延させることができるという着想を得た。
【0017】
そこで、本開示は、製造後の燃料電池のガスケット材からブリードアウトする芳香族カルボニル化合物を、ラジカル分解させ、ガスケット表層を架橋させることで、芳香族カルボニル化合物がガスケットより外側にブリードアウトすることを抑制し、燃料電池の発電性能の低下を抑制することができる燃料電池用ガスケットとこれを用いた燃料電池を提供する。
【0018】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0019】
なお、添付図面及び以下の説明は、当事者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
(実施の形態1)
以下、
図1~3を用いて、実施の形態1を説明する。
[1-1.構成]
図1において、燃料電池100は、電解質膜-電極接合体104と、アノードガス拡散層105と、カソードガス拡散層106と、セパレータ107と、枠体108と、ガスケット110とから構成される。
【0020】
電解質膜-電極接合体104は、電解質膜101と、電解質膜101を挟んで一方の面に配置されるアノード触媒層102と、他方の面に配置されるカソード触媒層103と、を備える。
【0021】
電解質膜101は、アノード触媒層102で生成する水素イオンをカソード触媒層103に輸送する機能を果たし、水素イオン伝導性を有する高分子材料で構成され、具体的には、水素イオン交換基としてスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸系の高分子材料で構成されている。
【0022】
アノード触媒層102は、アノード側のセパレータ107のガス流路109からアノードガス拡散層105を通過してアノード触媒層102に供給される水素含有ガスに含まれる水素を水素イオンに解離する電気化学反応を促進する機能を果たし、触媒として白金(Pt)を担持したカーボン粒子と高分子電解質樹脂とを含んでいる。
【0023】
カソード触媒層103は、アノード触媒層102から電解質膜101を通ってカソードガス拡散層106を通過してカソード触媒層103に移動する水素イオンと、カソード側のセパレータ107のガス流路109からカソード触媒層103に供給される空気に含まれる酸素から水を生成する電気化学反応を促進する機能を果たし、触媒として白金(Pt)を担持したカーボン粒子と高分子電解質樹脂とを含んでいる。
【0024】
アノードガス拡散層105は、アノード触媒層102の電解質膜101と接している面と反対側に配置される。
【0025】
アノードガス拡散層105は、アノード触媒層102への水素含有ガスの供給と、アノード触媒層102との間で電子の授受を行う機能を果たし、ガス透過性と電子伝導性を併せ持つ導電性カーボンペーパーを主な構成部材として構成されている。
【0026】
カソードガス拡散層106は、カソード触媒層103の電解質膜101と接している面と反対側に配置される。
【0027】
カソードガス拡散層106は、カソード触媒層103への空気の供給と、カソード触媒層103との間で電子の授受を行う機能を果たし、ガス透過性と電子伝導性を併せ持つ導電性カーボンペーパーを主な構成部材として構成されている。
【0028】
セパレータ107は、アノードガス拡散層105のアノード触媒層102と接している面と反対側と、カソードガス拡散層106のカソード触媒層103と接している面と反対側とに配置され、ガス透過性のない導電性部材である圧縮カーボンによって構成されている。
【0029】
ガスケット110は、セパレータ107の周縁部に配置され、架橋剤分解生成物として芳香族カルボニル化合物を含有するガスケット内部111と、ガスケット内部111の表層に配置され、ガスケット内部111の架橋密度ν1(mol/cc)に対し、架橋密度ν2(mol/cc)が+0.01%以上であるガスケット表層112と、を備える。
【0030】
架橋密度ν(mol/cc)は、未加硫ゴムである純ゴムに架橋剤などで架橋反応させたものである加硫ゴム中における膨潤した純ゴムの容積(純ゴム容積+吸収した溶剤の容積)に対する純ゴムの容積分率νR(単位なし)、ゴム―溶剤間の相互作用定数μ、溶剤の分子容量V0(cc)を用いて、Flory?Rehnerの式(数1)で表される有効網目鎖濃度(mol/cc)のことを指す。
【0031】
【数1】
枠体108は、製造時のハンドリング性の向上のため、比較的硬度が高い非導電性樹脂によって構成され、セパレータ107の間かつ電解質膜101の外周領域に額縁状に形成されている。
【0032】
ガス流路109は、セパレータ107に形成される。
【0033】
ガスケット110は、水素含有ガスの外部への漏出を遮断又は抑制するため、セパレータ107と枠体108との間に配置され、ガスケット内部111とガスケット表層112ともに弾性体であるゴム系材料で形成される。ガスケット110はセパレータ107に圧接着されてガスケット一体セパレータ120となり、燃料電池100組立て時に枠体108との間で圧縮されて反力を発生し、ガスケット110としての機能を発揮する。ゴム系材料としては、耐久性に優れたフッ素ゴムを用いる。
【0034】
[1-2.ガスケット一体セパレータの製造方法]
ガスケット一体セパレータ120を製造する方法を
図2~3を用いて説明する。
【0035】
まず、未架橋ゴムであるガスケット110をセパレータ107に転写成型した後、密閉下で、加圧加熱処理をして架橋反応を行い、ゴム架橋を行う(図示せず)。
【0036】
この処理により、
図2に示すようにガスケット一体型セパレータができる。
【0037】
本実施の形態では、圧力30MPa、温度180度で加圧加熱処理を行ったが、この値は一例であり、この値に限定されない。ゴム系材料の種類や加圧加熱処理を行う装置によって他の値を用いてもよい。
【0038】
このとき、架橋剤をあらかじめゴム材中に配合しておくことが必要である。架橋剤としては、高い架橋効率や反応性を考慮した場合、有機過酸化物架橋剤を用いる。
【0039】
次に、
図3に示すようにガスケット表層112に光照射装置130から紫外線照射を行い、ガスケット110のガスケット表層112の架橋密度を向上させる。
【0040】
これにより、
図4に示すように、ガスケット表層112の架橋密度ν2がガスケット内部111の架橋密度ν1より高いガスケット110を得ることができる。
【0041】
このとき、ガスケット表層112の架橋密度ν2は、ガスケット内部111の架橋密度ν1に対し、+0.01%以上になるように構成されている。
[1-3.作用]
以上のように構成された燃料電池100において、
図3~4に基づいて、その動作、作用を以下に説明する。
【0042】
架橋剤として有機過酸化物架橋剤を用いた場合、架橋反応の際に、熱分解によりガスケット110中に芳香族カルボニル化合物が生成する。架橋剤分解生成物である芳香族カルボニル化合物は、製造直後のガスケット110中に残留し、ガスケット110の内部から外部へブリードアウトして放出される。
【0043】
ここで
図3に示すように、紫外線照射によりガスケット110の表面であるガスケット表層112の芳香族カルボニル化合物が更に架橋反応をすることで、
図4に示すように、ガスケット110の表層にガスケット内部111より架橋密度の高いガスケット表層112を有したガスケット一体セパレータ120を得る。
【0044】
これを用いた燃料電池100は、ガスケット110のガスケット内部111中に残存した芳香族カルボニル化合物が燃料電池100内部に拡散することをガスケット表層112の架橋された層により抑制し、アノード触媒層102またはカソード触媒層103中の白金表面への吸着を抑制する。
[1-4.効果等]
以上のように、本実施の形態において、燃料電池100は、電解質膜-電極接合体104と、アノードガス拡散層105と、カソードガス拡散層106と、セパレータ107と、枠体108と、ガスケット110とから構成される。
【0045】
電解質膜-電極接合体104は、電解質膜101と、電解質膜101を挟んで一方の面に配置されるアノード触媒層102と、他方の面に配置されるカソード触媒層103と、を備える。
【0046】
ガスケット110は、セパレータ107の周縁部に配置され、架橋剤分解生成物として芳香族カルボニル化合物を含有する。ガスケット110のガスケット表層112の架橋密度ν2が、ガスケット110のガスケット内部111の架橋密度ν1に対し、+0.01%以上であるように構成されている。
【0047】
これにより、ガスケット110のガスケット内部111中に残存した芳香族カルボニル化合物が燃料電池100内部に拡散することをガスケット表層112のガスケット内部111より架橋密度が高い層により抑制し、アノード触媒層102またはカソード触媒層103中の白金表面への吸着を抑制することができる。そのため、燃料電池100の触媒被毒による電圧低下を抑制することができる。
【0048】
本実施の形態の燃料電池100は、ガスケット表層112の層厚みが0.1nm以上1000nm以下のガスケット110を用いる方が好ましい。
【0049】
ガスケット表層112の層厚みが0.1nm以上であれば、芳香族カルボニル化合物が燃料電池100内部に拡散することを防止でき、1000nm以下であれば、燃料電池100の組立時にガスケット110の反力が組み立てを阻害しない。
【0050】
そのため、ガスケット110中に残存した芳香族カルボニル化合物が燃料電池100内部に拡散することを抑制し、アノード触媒層102またはカソード触媒層103中の白金表面への吸着を抑制し、触媒被毒による電圧低下を抑制することができる。
【0051】
また本実施の形態において、ガスケット110は、紫外線照射により生成された、ガスケット材の未架橋ポリマーを架橋するラジカル生成物をガスケット表層112に備えている。
【0052】
これにより、ガスケット表層112にある未架橋ポリマーと芳香族カルボニル化合物がラジカル反応し、素早く架橋反応が進むため、効率よくガスケット内部111より架橋密度の高いガスケット表層112を形成し、ガスケット110中に残存した芳香族カルボニル化合物が燃料電池100内部に拡散することを抑制し、アノード触媒層102またはカソード触媒層103中の白金表面への吸着を抑え、触媒被毒による電圧低下を抑制することができる。
【0053】
また、本実施の形態において、ガスケット110は、
図3に示すように、光照射装置130の波長100nm~400nmの紫外線照射により分解してラジカル生成物を生成することができる芳香族カルボニル化合物を備える。
【0054】
これにより、簡便な設備で、効率よく、ガスケット表層112を架橋することができ、ガスケット110中に残存した芳香族カルボニル化合物が燃料電池100内部の拡散を抑え、アノード触媒層102またはカソード触媒層103中の白金表面への吸着を抑制し、アノード触媒層102またはカソード触媒層103の触媒被毒による電圧低下を抑制することができる。
【0055】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
【0056】
そこで、以下、他の実施の形態を
図5および
図6を用いて例示する。
【0057】
実施の形態1では、燃料電池用ガスケットの一例として、ガスケット一体セパレータ120を説明した。燃料電池用ガスケットは、ガスケット表層112の架橋密度ν2が、ガスケット内部111の架橋密度ν1に対し、+0.01%以上のガスケット表層112を有しておればよい。したがって、燃料電池用ガスケットとセパレータを組み合わせた構造体は、ガスケット一体セパレータ120に限定されない。
【0058】
例えば、燃料電池用ガスケットとセパレータとを組み合わせた構造体として、
図5に示すように特定の場所に設けられたガスケット保持溝221を有したセパレータ207と、そのガスケット保持溝221に設置されるガスケット110とから構成される、ガスケット別体セパレータ220であっても良い。
【0059】
ガスケット別体セパレータ220は、ガスケット110をセパレータ207のガスケット保持溝221に設置する前に、ガスケット110のガスケット表層112にUV照射などの処理を行うことで、ガスケット表層112の架橋密度を向上させたのち、セパレータ207のガスケット保持溝221に嵌め込むことで固定し、ガスケット一体セパレータ120と同じように構成することができる。
【0060】
これにより、ガスケット110をセパレータ207とは別で分けて処理することができるので、セパレータ207の耐熱温度などの制約条件に左右されずに処理することができる。
【0061】
実施の形態1では、架橋剤のラジカルを生成させる方法として、紫外線照射を説明したが、ラジカル生成物を発生させる方法であれば、特に制限されない。例えば他に、加圧、加湿などの条件を伴う加熱処理や、光(活性エネルギー線)を照射する照射法があり、それぞれ単独で用いても組み合わせで用いても良い。ここで活性エネルギー線とは、α線やβ線等の放射線、γ線やX線等の電磁波、電子線(EB)、波長が100~400nm程度の紫外線、波長が400~800nm程度の可視光線等の広義の光全てを含むものであり、好ましくは紫外線である。
【0062】
また、架橋剤分解生成物の芳香族カルボニル化合物を生成する成分としては、例えば、アセトフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、アシルホスフィンオキサイド系、チタノセン系、ベンゾインエーテル系等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
また、ゴムの架橋密度としては、ガスケット表層112の架橋密度がガスケット内部111の架橋密度より+0.01%以上であれば、特に制限されないが、+0.5%以上が好適に用いられる。
【0064】
また、ゴムの架橋密度が高くなると、ゴム材の硬度が高くなり、締結時にガスケット110の圧縮割れの原因となるため、ガスケット表層112のゴムの硬度(ショアA硬度)が、ガスケット表層112より内側のガスケット内部111のゴムの硬度(ショアA硬度)よりも+20度以内であればよい。これは+20度より大きくなるとガスケット110が割れてしまう場合があることが実験的にわかったためである。
【0065】
実施の形態1では、光照射装置130から締結工程前の非締結状態のガスケット110に光照射することによるラジカル生成の一例として、ガスケット表層112に波長100nm~400nmの紫外線照射する方法を説明した。非締結状態の方が、ガスケット110の表面全体を照射することができる。
【0066】
ただし、光照射装置130を用いたガスケット110への紫外線照射は、非締結状態に限定されない。光照射装置130を用いたガスケット110への紫外線照射は、先に締結時に近い状態に加工した上での照射であっても良い。
図6に示すように光透過締結板140を用いて、ガスケット110を一定量押しつぶして紫外線照射することで、照射面積を大きくすることができ、ガスケット表層112における架橋面積を増やすことができる。
【0067】
このため、架橋剤分解生成物のガスケット表層112の透過を抑制し、ガスケット110中に残存した芳香族カルボニル化合物が燃料電池100内部に拡散することを抑え、アノード触媒層102またはカソード触媒層103中の白金表面への吸着を抑制し、触媒被毒による電圧低下を抑制することができる。
【0068】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本開示は、高耐久な燃料電池用ガスケット材であり、燃料電池車や定置型燃料電池等に適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
100 燃料電池
101 電解質膜
102 アノード触媒層
103 カソード触媒層
104 電解質膜-電極接合体
105 アノードガス拡散層
106 カソードガス拡散層
107 セパレータ
108 枠体
109 ガス流路
110 ガスケット
111 ガスケット内部
112 ガスケット表層
120 ガスケット一体セパレータ
130 光照射装置
140 光透過締結板
207 セパレータ
220 ガスケット別体セパレータ
221 ガスケット保持溝