(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039490
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】通話機器
(51)【国際特許分類】
H04R 1/02 20060101AFI20230314BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
H04R1/02 107
H04R3/00 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146613
(22)【出願日】2021-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】北川 智則
【テーマコード(参考)】
5D017
5D220
【Fターム(参考)】
5D017BC03
5D220BA01
5D220BB04
(57)【要約】
【課題】受音した音声に含まれる雑音成分の抑圧を簡易な構成で実現できるようにした通話機器を提供する。
【解決手段】本例の通話機器20は、マイクロフォン24,25が実装された基板23を収容した筐体21と、筐体21の前面に設けられたマイク孔28,29と、マイク孔28とマイクロフォン24とを連通する左側導音路37と、マイク孔29とマイクロフォン25とを連通する右側導音路38とを有し、マイクロフォン24で受音した音声とマイクロフォン25で受音した音声との位相差に基づいて、これらマイクロフォンで受音した音声に含まれる雑音成分を抑圧する。
【選択図】
図2C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のマイクロフォン及び第2のマイクロフォンが実装された基板を収容した筐体と、
前記筐体の前面に間隔を置いて設けられた第1のマイク孔及び第2のマイク孔と、
前記第1のマイク孔と前記第1のマイクロフォンとを連通する第1の導音路と、
前記第2のマイク孔と前記第2のマイクロフォンとを連通する第2の導音路とを有し、
前記第1のマイクロフォンで受音した音声と前記第2のマイクロフォンで受音した音声との位相差に基づいて、これらマイクロフォンで受音した音声に含まれる雑音成分を抑圧することを特徴とする通話機器。
【請求項2】
請求項1に記載の通話機器において、
前記第1のマイク孔と前記第2のマイク孔の間の距離が、前記第1のマイクロフォンと前記第2のマイクロフォンの間の距離より大きいことを特徴とする通話機器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の通話機器において、
前記第1の導音路及び前記第2の導音路のそれぞれのマイク孔側端部に設けられた防水振動膜を有することを特徴とする通話機器。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の通話機器において、
前記第1の導音路及び前記第2の導音路は、前記筐体の前面に設けられた溝と、前記溝を覆うように前記筐体の前面に取り付けられるカバー部材とを用いて構成されており、
前記第1のマイク孔及び前記第2のマイク孔は、前記カバー部材に形成されていることを特徴とする通話機器。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の通話機器において、
前記基板に実装された第3のマイクロフォンと、
前記筐体の前面に、前記第1のマイク孔と前記第2のマイク孔とを通る直線から外れた位置に設けられた第3のマイク孔と、
前記第3のマイク孔と前記第3のマイクロフォンとを連通する第3の導音路とを有し、
前記第1のマイクロフォン及び/又は前記第2のマイクロフォンで受音した音声と前記第3のマイクロフォンで受音した音声との位相差に基づいて、これらマイクロフォンで受音した音声に含まれる雑音成分を抑圧することを特徴とする通話機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロフォンが実装された基板を筐体内に収容した通話機器に関する。
【背景技術】
【0002】
通話機器は、通話時の音声入力のためのマイク機能を備えている。特に、携帯無線機などの携帯型の通話機器は、小型化の要求があるため、小型のマイクロフォンを基板に実装するタイプのものが多い。マイクロフォンを実装した基板は筐体(外部カバー)に収容されるため、通話機器の筐体には音声入力用のマイク孔を設ける必要がある。
【0003】
図1Aには、従来技術に係る通話機器の外観図を示してある。
図1Bには、
図1Aに示す通話機器の1A-1A’線に沿った概略断面図を示してある。
図1A、
図1Bに示す通話機器10は、マイクロフォン14を実装した基板13を筐体11に収容し、筐体11の背面からシャーシ12で封止した構造の携帯無線機である。シャーシ12は、ネジ等により筐体11に固定される。筐体11の前面下側の中央部分には、音声入力用のマイク孔15が形成されている。マイクロフォン14は、基板13におけるマイク孔15の直下の位置に実装される。マイク孔15はマイクロフォン14の直前に配置された防水振動膜16で塞がれており、水を通さないが音は通すように構成されている。
【0004】
ここで、本発明に係る技術分野の従来技術としては、以下のようなものがある。例えば、特許文献1には、マイクへの入力音声が通過するマイク孔とスピーカからの出力音声が通過するスピーカ孔とを繋ぐ溝と、この溝に通ずる貫通孔とを前面パネルに設け、更に貫通孔に着脱自在なゴムキャップを設けた携帯無線機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無線通信機などの携帯型の通話機器には、無指向性マイクロフォンが使用されることが多い。このため、通話中の使用環境によっては、雑音(鉄道や高速道路の保守の際の工事音や、車のロードノイズなど)が入り込み、通話音声を聴き取りにくくなることがある。雑音抑圧のために、単一指向性を持つタイピン型マイクロフォンなどのオプション機器を使用する方法はあるが、携帯無線機単体で雑音抑圧するものはなかった。
【0007】
近年、信号処理技術の向上により、ある程度の間隔を置いて配置された複数の無指向性マイクロフォンを用いて音声に指向性を持たせることで、雑音抑圧を実現する方法が開発されている。しかしながら、携帯無線機の小型化や構造上の制限により、携帯無線機の基板上に複数のマイクロフォンを十分な間隔を置いて設けるスペースがない場合が多い。このため、マイク孔の直下の位置にマイクロフォンを配置する構造の携帯無線機に雑音抑圧機能を実装することは困難であった。
【0008】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、受音した音声に含まれる雑音成分の抑圧を簡易な構成で実現した通話機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様である通話機器は、以下のように構成される。
すなわち、本発明に係る通話機器は、第1のマイクロフォン及び第2のマイクロフォンが実装された基板を収容した筐体と、筐体の前面に間隔を置いて設けられた第1のマイク孔及び第2のマイク孔と、第1のマイク孔と第1のマイクロフォンとを連通する第1の導音路と、第2のマイク孔と第2のマイクロフォンとを連通する第2の導音路とを有し、第1のマイクロフォンで受音した音声と第2のマイクロフォンで受音した音声との位相差に基づいて、これらマイクロフォンで受音した音声に含まれる雑音成分を抑圧することを特徴とする。
【0010】
ここで、本発明に係る通話機器において、第1のマイク孔と第2のマイク孔の間の距離が、第1のマイクロフォンと第2のマイクロフォンの間の距離より大きくなるように構成され得る。
【0011】
また、本発明に係る通話機器において、第1の導音路及び第2の導音路のそれぞれのマイク孔側端部に設けられた防水振動膜を有し得る。
【0012】
また、本発明に係る通話機器において、第1の導音路及び第2の導音路は、筐体の前面に設けられた溝と、溝を覆うように筐体の前面に取り付けられるカバー部材とを用いて構成されており、第1のマイク孔及び第2のマイク孔は、カバー部材に形成され得る。
【0013】
また、本発明に係る通話機器において、基板に実装された第3のマイクロフォンと、筐体の前面に、第1のマイク孔と第2のマイク孔とを通る直線から外れた位置に設けられた第3のマイク孔と、第3のマイク孔と第3のマイクロフォンとを連通する第3の導音路とを有し、第1のマイクロフォン及び/又は第2のマイクロフォンで受音した音声と第3のマイクロフォンで受音した音声との位相差に基づいて、これらマイクロフォンで受音した音声に含まれる雑音成分を抑圧するように構成され得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、受音した音声に含まれる雑音成分の抑圧を簡易な構成で実現した通話機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1B】
図1Aに示す通話機器の1A-1A’線に沿った断面図である。
【
図2A】本発明の一実施形態に係る通話機器の外観図である。
【
図2B】
図2Aに示す通話機器のカバー部分を透視した外観図である。
【
図2C】
図2Aに示す通話機器の2A-2A’線に沿った断面図である。
【
図3】複数のマイクロフォンを用いた雑音抑圧の原理を説明する図である。
【
図4A】マイク孔の間隔が狭い場合の雑音の位相差を説明する図である。
【
図4B】マイク孔の間隔が広い場合の雑音の位相差を説明する図である。
【
図5A】本発明の別の実施形態に係る通話機器の外観図である。
【
図5B】
図5Aに示す通話機器のカバー部分を透視した外観図である。
【
図5C】
図5Aに示す通話機器の5A-5A’線に沿った断面図である。
【
図6A】本発明の更に別の実施形態に係る通話機器の外観図である。
【
図6B】
図6Aに示す通話機器のカバー部分を透視した外観図である。
【
図6C】
図6Aに示す通話機器の6A-6A’線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図2Aには、本発明の一実施形態に係る通話機器の外観図を示してある。
図2Bには、
図2Aに示す通話機器のカバー部分を透視した外観図を示してある。
図2Cには、
図2Aに示す通話機器の2A-2A’線に沿った断面図を示してある。
図2Dには、
図2Aに示す通話機器の
図2Bに示す2B-2B’線に沿った断面図を示してある。
【0017】
図2A~
図2Dに示す通話機器20は、2つのマイクロフォン24,25を実装した基板23を筐体21に収容し、筐体21の背面からシャーシ22で封止した構造の携帯無線機である。シャーシ22は、ネジ等により筐体21に固定される。筐体21の前面下側には、中心部分から左方向及び右方向にそれぞれ延びる2つの溝(凹部)31,32を形成してあり、これらを覆うように横長プレート状のカバー部材27を貼り付けてある。カバー部材27は、音を通しにくい樹脂や金属などの材料により形成される。
【0018】
カバー部材27の左右両端部分には、音声入力用の2つのマイク孔28,29が形成されている。すなわち、筐体21の前面に、カバー部材27を貫通する2つのマイク孔28,29が間隔を置いて形成されている。左側のマイク孔28は、左側の溝31の左端(又はその近傍)に連通するよう形成されており、右側のマイク孔29は、右側の溝32の右端(又はその近傍)に連通するよう形成されている。また、左側の溝31の右端(又はその近傍)には、その直下の位置に実装されるマイクロフォン24と連通するように通音孔を設けてある。同様に、右側の溝32の左端(又はその近傍)にも、その直下の位置に実装されるマイクロフォン25と連通するように通音孔を設けてある。左右の溝31,32及びこれらを覆うカバー部材27は、左側のマイク孔28とマイクロフォン24を連通する左側導音路37と、右側のマイク孔29とマイクロフォン25を連通する右側導音路38とを形成する。
【0019】
マイク孔28,29のカバー裏側(筐体の内部側)の開口部は、カバー部材27の裏面から覆うように貼り付けられた防水振動膜34,35でそれぞれ塞がれる。つまり、防水振動膜34,35を、左側導音路37及び右側導音路38のそれぞれのマイク孔側端部に設けてある。したがって、マイク孔28,29に水が入ったとしても、マイク孔28,29のカバー裏側を塞ぐ防水振動膜34,35で防水されるので、導音路37,38には水が侵入しない。また、カバー部材27は、筐体21の厚さよりも薄く形成されており、マイク孔28,29の長さも短い(つまり、浅い)構造であるため、マイク孔28,29から水が抜け易い。
【0020】
左側のマイク孔28に入った音声は、マイク孔28の直下の防水振動膜34を振動させ、左側導音路37を伝搬してマイクロフォン24に到達し、マイクロフォン24にて受音される。また、右側のマイク孔29に入った音声は、マイク孔29の直下の防水振動膜35を振動させ、右側導音路38を伝搬してマイクロフォン25に到達し、マイクロフォン25にて受音される。このように、対になるマイク孔とマイクロフォンを導音路で接続する構造とすることで、マイクロフォンの実装位置がマイク孔の直下に制限されなくなり、設計自由度が高まる。
【0021】
本例の通話機器20は、左側のマイク孔28を通じてマイクロフォン24で受音した音声と、右側のマイク孔29を通じてマイクロフォン25で受音した音声とを合成し、合成音声を相手側の通話機器へ送信する。このとき、各マイクロフォンで受音した音声を単純に合成した合成音声を得るのではなく、各マイクロフォンで受音した音声の位相差(時間差)に基づいて、雑音成分が抑圧された合成音声を得るように構成されている。
【0022】
以下、複数のマイクロフォンを用いた雑音抑圧の原理について、
図3を参照して説明する。ここでは、通話機器20の正面方向に目的音源(通話者)が存在し、正面から外れた斜め方向に雑音源が存在ものとする。すなわち、通話機器20に正面方向から到来する音声を通話音声とみなし、斜め方向から到来する音声を雑音とみなす。なお、左右の導音路37,38は同じ長さであるものとする。
【0023】
通話機器20に正面方向から到来する通話音声は、左側のマイク孔28と右側のマイク孔29に同じタイミングで到達するので、マイクロフォン24で受音した音声とマイクロフォン25で受音した音声には有意な位相差が生じない。これに対し、通話機器20に斜め方向から到来する雑音は、左側のマイク孔28と右側のマイク孔29に異なるタイミングで到達するので、マイクロフォン24で受音した音声とマイクロフォン25で受音した音声には有意な位相差が生じる。したがって、所定値以上の位相差を有する音声成分を抑圧することで、雑音抑圧を実現できることが分かる。
【0024】
マイクロフォン24,25の各々で受音された音声は、雑音抑圧部NSに入力される。雑音抑圧部NSは、マイクロフォン24,25の各々で受音された音声に基づいて、異なる方向に指向性を持つ複数の音声を生成する。具体的には、左側のマイクロフォン24で受音した音声に遅延を付加して右側のマイクロフォン25で受音した音声との差分を取ることで、左方向の音声を抑圧して右方向に指向性を持たせた音声を生成する。また、右側のマイクロフォン25で受音した音声に遅延を付加して左側のマイクロフォン24で受音した音声との差分を取ることで、右方向の音声を抑圧して左方向に指向性を持たせた音声を生成する。また、左側のマイクロフォン24で受音した音声と右側のマイクロフォン25で受音した音声とを遅延なしで差分を取ることで、正面方向の音声を抑圧して左右方向に指向性を持たせた音声を生成する。なお、上記の処理で片方の音声に付加する遅延量は、指向性を形成する角度(位相差)に応じて設定される。
【0025】
雑音抑圧部NSは、次に、左方向に指向性を有する音声と右方向に指向性を有する音声とを比較して、音声レベルが低い方を特定する。例えば、左方向から雑音が到来した場合は、左方向からの雑音が抑圧された音声、すなわち、右方向に指向性を有する音声が特定される。そして、特定した音声(上記の例では、右方向に指向性を有する音声)と左右方向に指向性を有する音声との差分を取ることで、正面方向に指向性を有する音声を生成する。これにより、左方向又は右方向から到来する雑音を抑圧して正面方向から到来する通話音声を強調した合成音声を得ることができる。なお、上記で特定した音声レベルが低い方の音声に比べて、左右方向に指向性を有する音声の音声レベルが高い場合は、通話者が通話を行っていない無音区間であるとみなせるので、この場合には合成音声の出力を抑制してもよい。
【0026】
なお、上述した雑音抑圧部NSの処理は一例であり、他の手法により、位相差に基づく雑音抑圧を実現しても構わない。例えば、遅延量の増減により、左右の互いに異なる方向に指向性を有する4つ以上の音声を生成し、これらの音声レベルに応じた加算や減算を選択的に行って、正面方向に指向性を有する音声を生成してもよい。
【0027】
ここで、通話機器20に斜め方向から到来する雑音の位相差は、マイク孔の間隔に比例して増減する。
図4Aには、マイク孔の間隔D1が狭い場合の雑音の位相差P1を示してあり、
図4Bには、マイク孔の間隔D2が広い場合(D1<D2)の雑音の位相差P2を示してある。なお、
図4A及び
図4Bでは、斜め方向から到来する雑音の入射角度は同じである。このように、雑音の入射角度が同じでも、マイク孔の間隔が大きいほど到達時間差が大きくなるため、雑音の位相差を検出し易くなる。
【0028】
そこで、本例の通話機器20は、対になるマイク孔とマイクロフォンを導音路で接続する構造を利用して、マイク孔の間隔(マイク孔28とマイク孔29の間の距離)をマイクロフォンの間隔(マイクロフォン24とマイクロフォン25の間の距離)より大きくしてある。これにより、設計上マイクロフォンを接近させて配置せざるを得ない場合でも、マイク孔の間隔を十分に広く取れるので、通話機器に斜め方向から到来する音声の位相差を捉え易くなり、雑音の検出及び抑圧を精度よく実施できる。
【0029】
以上のように、本例の通話機器20は、マイクロフォン24,25が実装された基板23を収容した筐体21と、筐体21の前面に間隔を置いて設けられたマイク孔28,29と、マイク孔28とマイクロフォン24とを連通する左側導音路37と、マイク孔29とマイクロフォン25とを連通する右側導音路38とを有し、マイクロフォン24で受音した音声とマイクロフォン25で受音した音声との位相差に基づいて、これらマイクロフォンで受音した音声に含まれる雑音成分を抑圧するように構成されている。
【0030】
このように、対になるマイク孔とマイクロフォンを導音路で接続する構造としたことで、マイクロフォンの実装位置がマイク孔の直下に制限されなくなるため、通話機器の設計自由度が高まり、通話機器の小型化及び高性能化を実現し易くなる。また、異なる位置に設けられた2つのマイク孔を通じて集音された各音声を受音し、その位相差に基づいて雑音抑圧する仕組みであるため、受音した音声に含まれる雑音成分を抑圧して通話音声を強調できる通話機器を簡易な構造で実現できる。また、マイク孔の間隔を広く取れるので、音声の到来方向の相違が位相差として現れ易くなり、雑音の検出及び抑圧を効率よく行うことが可能となる。
【0031】
ここで、上記の説明では、位相差がゼロとなる正面方向を基準にして、基準とは異なる方向から到来する音声成分を雑音として抑圧しているが、正面以外の方向を基準にしてもよい。一例として、事前に、通話機器20に対する発声をユーザに試行させて音声レベルが最大となる方向を基準方向として検出し、その方向を示す情報(例えば、位相差情報)を記憶しておき、基準方向の位相差に対して所定値以上の位相差を有する音声成分を雑音とみなして抑圧してもよい。別の例として、通話機器20を用いた通話時に、所定の閾値以上の音声レベルが検出された方向を基準方向として検出し、基準方向の位相差に対して所定値以上の位相差を有する音声成分を雑音とみなして抑圧してもよい。このような構成により、通話機器20の正面以外の位置から発話が行われる場合でも、受音した音声に含まれる雑音成分を抑圧することが可能となる。
【0032】
また、上記の説明では、左右の導音路の長さを同じにしたが、左右の導音路の長さを異ならせてもよい。この場合には、一方のマイクロフォンで受音した音声に付加する遅延量を、導音路の路長差を考慮して調整することで、所望の方向に指向性を持たせた音声を得て雑音抑圧することが可能となる。
【0033】
図5Aには、本発明の別の実施形態に係る通話機器の外観図を示してある。
図5Bには、
図5Aに示す通話機器のカバー部分を透視した外観図を示してある。
図5Cには、
図5Aに示す通話機器の5A-5A’線に沿った断面図を示してある。
図5Dには、
図5Aに示す通話機器の
図5Bに示す5B-5B’線に沿った断面図を示してある。
【0034】
図5A~
図5Dに示す通話機器40は、マイクロフォン44と他の部品59とを実装した基板43を筐体41に収容し、筐体41の背面からシャーシ42で封止した構造の携帯無線機である。シャーシ42は、ネジ等により筐体41に固定される。筐体41の前面下側には、中心部分から右方向に延びる溝(凹部)51を形成してあり、これを覆うように横長プレート状のカバー部材47を貼り付けてある。カバー部材47は、音を通しにくい樹脂や金属などの材料により形成される。
【0035】
カバー部材47の左右中央部分には、音声入力用のマイク孔48が形成されている。
すなわち、筐体41の前面に、カバー部材47を貫通するマイク孔48が形成されている。マイク孔48は、溝51の左端(又はその近傍)に連通するよう形成されている。また、溝51の右端(又はその付近)には通音孔を設けてあり、その直下の位置にマイクロフォン44が実装されている。これは、他の部品59の存在により、マイク孔48の直下にマイクロフォン44を実装できないためである。溝51及びこれを覆うカバー部材47は、マイク孔48とマイクロフォン44とを連通する導音路57を形成する。
【0036】
マイク孔48のカバー裏側(筐体の内部側)の開口部は、カバー部材47の裏面から覆うように貼り付けられた防水振動膜54で塞がれる。つまり、防水振動膜54を、導音路57のそれぞれのマイク孔側端部に設けてある。したがって、マイク孔48に水が入ったとしても、マイク孔45のカバー裏側を塞ぐ防水振動膜54で防水されるので、導音路57には水が侵入しない。また、カバー部材47は、筐体41の厚さよりも薄く形成されており、マイク孔48の長さも短い(つまり、浅い)構造であるため、マイク孔48から水が抜け易い。
【0037】
マイク孔48に入った音声は、マイク孔48の直下の防水振動膜54を振動させ、導音路57を伝搬してマイクロフォン44に到達し、マイクロフォン44にて受音される。このように、対になるマイク孔とマイクロフォンを導音路で接続する構造としたことで、マイクロフォンの実装位置がマイク孔の直下に制限されなくなる。本実施形態では、位相差に基づく雑音抑圧は行わないものの、上記のような導音路構造を採用することで、通話機器の設計自由度が高まるため、通話機器の小型化及び高性能化を実現し易くなる。
【0038】
図6Aには、本発明の一実施形態に係る通話機器の外観図を示してある。
図6Bには、
図6Aに示す通話機器のカバー部分を透視した外観図を示してある。
図6Cには、
図6Aに示す通話機器の6A-6A’線に沿った断面図を示してある。
図6Dには、
図6Aに示す通話機器の
図6Bに示す6B-6B’線に沿った断面図を示してある。
【0039】
図6A~
図6Dに示す通話機器60は、3つのマイクロフォン64,65,66を実装した基板63を筐体61に収容し、筐体61の背面からシャーシ62で封止した構造の携帯無線機である。シャーシ62は、ネジ等により筐体61に固定される。筐体61の前面下側には、中心部分から左方向及び右方向にそれぞれ延びる2つの溝(凹部)71,72と、溝71と溝72の間の位置から上方向に延びる溝(凹部)73とを形成してあり、これらを覆うように横長プレート状のカバー部材67を貼り付けてある。カバー部材67は、音を通しにくい樹脂や金属などの材料により形成される。
【0040】
カバー部材67の左右両端部分には、音声入力用の2つのマイク孔68,69が形成されている。更に、カバー部材67の中央上端部分にも、音声入力用のマイク孔70が形成されている。すなわち、筐体61の前面に、カバー部材67を貫通する3つのマイク孔68,69,70が間隔を置いて形成されている。また、マイク孔68,69,70によって三角形が描かれるように、中央のマイク孔70を、左側のマイク孔68と右側のマイク孔69とを通る直線から外れた位置に設けてある。
【0041】
左側のマイク孔68は、左側の溝71の左端(又はその近傍)に連通するよう形成されており、右側のマイク孔69は、右側の溝72の右端(又はその近傍)に連通するよう形成されており、中央のマイク孔70は、中央の溝73の上端(又はその近傍)に連通するよう形成されている。また、左側の溝71の右端(又はその近傍)には、その直下の位置に実装されるマイクロフォン64と連通するように通音孔を設けてある。同様に、右側の溝72の左端(又はその近傍)にも、その直下の位置に実装されるマイクロフォン65と連通するように通音孔を設けてある。更に、中央の溝73の下端(又はその近傍)にも、その直下の位置に実装されるマイクロフォン66と連通するように通音孔を設けてある。溝71,72,73及びこれらを覆うカバー部材67は、左側のマイク孔68とマイクロフォン64を連通する左側導音路77と、右側のマイク孔69とマイクロフォン65を連通する右側導音路78と、中央のマイク孔70とマイクロフォン66を連通する中央導音路79とを形成する。
【0042】
マイク孔68,69,70のカバー裏側(筐体の内部側)の開口部は、カバー部材67の裏面から覆うように貼り付けられた防水振動膜74,75,76でそれぞれ塞がれる。つまり、防水振動膜74,75,76を、左側導音路77、右側導音路78、及び中央導音路79のそれぞれのマイク孔側端部に設けてある。したがって、マイク孔68,69,70に水が入ったとしても、マイク孔68,69,70のカバー裏側を塞ぐ防水振動膜74,75,76で防水されるので、導音路77,78,79には水が侵入しない。また、カバー部材67は、筐体61の厚さよりも薄く形成されており、マイク孔68,69,70の長さも短い(つまり、浅い)構造であるため、マイク孔68,69,70から水が抜け易い。
【0043】
左側のマイク孔68に入った音声は、マイク孔68の直下の防水振動膜74を振動させ、左側導音路77を伝搬してマイクロフォン64に到達し、マイクロフォン64にて受音される。また、右側のマイク孔69に入った音声は、マイク孔69の直下の防水振動膜75を振動させ、右側導音路78を伝搬してマイクロフォン65に到達し、マイクロフォン65にて受音される。また、中央のマイク孔70に入った音声は、マイク孔70の直下の防水振動膜76を振動させ、中央導音路79を伝搬してマイクロフォン66に到達し、マイクロフォン66にて受音される。このように、対になるマイク孔とマイクロフォンを導音路で接続する構造としたことで、マイクロフォンの実装位置がマイク孔の直下に制限されなくなるため、通話機器の設計自由度が高まり、通話機器の小型化及び高性能化を実現し易くなる。
【0044】
ここで、中央のマイク孔70を通じてマイクロフォン66で受音した音声は、上下方向の雑音を抑圧するために使用される。すなわち、通話機器60は、マイクロフォン64又はマイクロフォン65の一方で受音した音声、又はその両方で受音した音声(つまり、合成音声)と、マイクロフォン66で受音した音声との位相差に基づいて、これらマイクロフォンで受音した音声に含まれる上下方向の雑音成分を抑圧する。
【0045】
このような構成により、左右方向に指向性を有する雑音の抑圧だけでなく、上下方向に指向性を有する雑音も抑圧できるため、通話音声をより強調した合成音声を得ることができる。なお、マイク孔及びマイクロフォンの数を4つ以上に増やしてもよく、これにより、指向性の精度を高めることができ、雑音抑圧性能の更なる向上を実現することが可能となる。
【0046】
なお、これまでに挙げた実施形態では、携帯無線機を例にして本発明の説明を行ったが、本発明に係る通話機器はこれに限定されない。例えば車載無線機のハンドセットなど、他の形態の通話機器にも本発明を適用することが可能である。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これら実施形態は例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明は、その他の様々な実施形態をとることが可能であると共に、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等の種々の変形を行うことができる。これら実施形態及びその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0048】
また、本発明は、上記の説明で挙げたような装置や、これら装置で構成されたシステムとして提供することが可能なだけでなく、これら装置により実行される方法、これら装置の機能をプロセッサにより実現させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、マイクロフォンが実装された基板を筐体内に収容した通話機器に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
10:通話機器、 11:筐体、 12:シャーシ、 13:基板、 14:マイクロフォン、 15:マイク孔、 16:防水振動膜、 20:通話機器、 21:筐体、 22:シャーシ、 23:基板、 24,25:マイクロフォン、 27:カバー部材、 28,29:マイク孔、 31,32:溝、 34,35:防水振動膜、 37,38:導音路、 40:通話機器、 41:筐体、 42:シャーシ、 43:基板、 44:マイクロフォン、 47:カバー部材、 48:マイク孔、 51:溝、 54:防水振動膜、 57:導音路、 59:他の部品、 60:通話機器、 61:筐体、 62:シャーシ、 63:基板、 64,65,66:マイクロフォン、 67:カバー部材、 68,69,70:マイク孔、 71,72,73:溝、 74,75,76:防水振動膜、 77,78,79:導音路