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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039501
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】せん断補強の施工管理方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20230314BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
E04G23/02 D ESW
E04G21/12 105Z
E04G21/12 105D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146632
(22)【出願日】2021-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅津 基宏
(72)【発明者】
【氏名】井坂 幸俊
(72)【発明者】
【氏名】江里口 玲
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB21
2E176BB28
(57)【要約】
【課題】せん断補強工法が実施された各箇所において、適切な鉄筋が使用されているか等の工事内容を、簡易な方法で管理できる方法を提供する。
【解決手段】この方法は、既設コンクリート構造物に形成された第一削孔部内に、せん断補強鉄筋を、ICタグが埋設されたかぶり厚確保用スペーサと共に埋設した状態で第一削孔部を埋め戻す工程(a)と、ICタグに対して、かぶり厚確保用スペーサの埋設位置とせん断補強鉄筋の仕様に関する情報を含む第一情報を書き込む工程(b)と、第一情報に対応する情報を管理用の記憶部に記録する工程(c)と、既設コンクリート構造物の表面の外側から、リーダ又はリーダライタをICタグに対して通信させて第一情報を読み取る工程(d)と、工程(d)で読み取られた第一情報と記憶部に記録された第一情報とを照合する工程(e)とを有する。
【選択図】図14A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設コンクリート構造物に対するせん断補強の施工管理方法であって、
前記既設コンクリート構造物の表面から中心に向かう深さ方向に切削して形成された第一削孔部内に、せん断補強鉄筋を、ICタグを内蔵したかぶり厚確保用スペーサと共に埋設した状態で、前記第一削孔部を埋め戻す工程(a)と、
前記工程(a)の実行前又は実行後に、前記ICタグに対して、前記かぶり厚確保用スペーサの埋設位置に関する情報と前記せん断補強鉄筋の仕様に関する情報とを含む第一情報を書き込む工程(b)と、
前記第一情報に対応する情報を、管理用の記憶部に記録する工程(c)と、
前記工程(b)及び前記工程(c)の実行後、前記既設コンクリート構造物の表面の外側から、リーダ又はリーダライタを前記ICタグに対して通信させて、前記ICタグに記録されている前記第一情報を読み取る工程(d)と、
前記工程(d)で読み取られた前記第一情報と、前記記憶部に記録された前記第一情報とを照合する工程(e)とを有することを特徴とする、せん断補強の施工管理方法。
【請求項2】
前記工程(b)は、前記工程(a)の前に実行される工程であり、
前記工程(a)は、前記第一情報が書き込まれた状態の前記ICタグを内蔵した前記かぶり厚確保用スペーサを、前記第一削孔部内に埋設する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載のせん断補強の施工管理方法。
【請求項3】
前記記憶部は、サーバ内の記憶領域であり、
前記工程(c)は、前記かぶり厚確保用スペーサに内蔵された、前記第一情報が書き込まれた状態の前記ICタグに対して、前記リーダ又はリーダライタを通信させて前記第一情報を読み取るとともに、読み取られた前記第一情報を、電気通信回線を介して前記サーバに送信する工程を含み、
前記工程(e)は、前記サーバに記録された前記第一情報を前記電気通信回線を介して読み取る工程を含み、当該サーバから読み取られた前記第一情報と、前記工程(d)で読み取られた前記第一情報とを照合することを特徴とする、請求項2に記載のせん断補強の施工管理方法。
【請求項4】
前記工程(a)の実行前に、前記既設コンクリート構造物が存在する対象箇所に対して、前記第一情報が書き込まれた状態の前記ICタグを内蔵した前記かぶり厚確保用スペーサを搬送する工程(f)を更に有し、
前記工程(a)は、前記工程(f)で搬送された前記かぶり厚確保用スペーサを前記第一削孔部内に埋設する工程を含むことを特徴とする、請求項3に記載のせん断補強の施工管理方法。
【請求項5】
前記工程(b)は、前記第一情報に加えて、前記サーバに記録されている情報にアクセスするための認証に関する第二情報を、前記ICタグに対して書き込む工程であり、
前記工程(c)は、前記リーダ又はリーダライタを用いて、前記第一情報に加えて前記第二情報を読み取ると共に、前記第二情報に基づいて前記サーバへの接続の認証処理を行った後に前記第一情報を前記サーバに送信する工程を含み、
前記工程(d)は、前記リーダ又はリーダライタを用いて、前記第一情報に加えて前記第二情報を読み取る工程であり、
前記工程(e)は、前記第二情報に基づいて前記サーバへの接続の認証処理を行った後に、前記サーバに記録された前記第一情報を読み取る工程を含むことを特徴とする、請求項4に記載のせん断補強の施工管理方法。
【請求項6】
前記工程(a)の実行前に、前記既設コンクリート構造物が存在する対象箇所に対して、前記第一情報が書き込まれる前の前記ICタグを内蔵した前記かぶり厚確保用スペーサを搬送する工程(f)と、
少なくとも前記第一情報が記載された二次元コードを前記せん断補強鉄筋に貼付する工程(g)とを有し、
前記工程(b)は、二次元コードリーダを用いて前記せん断補強鉄筋に貼付された前記二次元コードを読み取ると共に、前記二次元コードに含まれる前記第一情報をリーダライタを用いて前記工程(f)で搬送された前記かぶり厚確保用スペーサに内蔵されている前記ICタグに対して書き込む工程を含むことを特徴とする、請求項3に記載のせん断補強の施工管理方法。
【請求項7】
前記工程(b)は、前記第一情報に加えて、前記サーバに記録されている情報にアクセスするための認証に関する第二情報を、前記リーダライタを用いて前記ICタグに対して書き込む工程であり、
前記工程(c)は、前記第二情報に基づいて前記サーバへの接続の認証処理を行った後に、前記第一情報を前記サーバに送信する工程を含み、
前記工程(d)は、前記リーダ又はリーダライタを用いて、前記第一情報に加えて前記第二情報を読み取る工程であり、
前記工程(e)は、前記第二情報に基づいて前記サーバへの接続の認証処理を行った後に、前記サーバに記録された前記第一情報を読み取る工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載のせん断補強の施工管理方法。
【請求項8】
前記第一情報は、前記第一削孔部内における前記せん断補強鉄筋のかぶり厚に関する情報を含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のせん断補強の施工管理方法。
【請求項9】
前記既設コンクリート構造物の表面から中心に向かう深さ方向に切削して形成された、誤削孔に由来する第二削孔部内に、前記せん断補強鉄筋を埋設せずに、前記ICタグを内蔵した前記かぶり厚確保用スペーサを埋設した状態で、前記第二削孔部を埋め戻す工程(h1)と、
前記工程(a)の実行前又は実行後に、前記ICタグに対して、誤削孔に関する第三情報を書き込む工程(h2)と、
前記第三情報に対応する情報を、前記記憶部に記録する工程(h3)とを有し、
前記工程(d)は、前記ICタグに記録されている前記第一情報に加えて前記第三情報を読み取る工程であり、
前記工程(e)は、前記工程(d)で読み取られた前記第三情報と、前記記憶部に記録された前記第三情報とを照合する工程を含み、前記工程(d)で読み取られた情報と、前記記憶部に記録された情報とが、相互に対応する前記第三情報である場合には、前記かぶり厚確保用スペーサが、誤削孔に由来する前記第二削孔部内に埋設されていることを検知することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のせん断補強の施工管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設コンクリート構造物に対して行われるせん断補強工法に係る施工管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既設コンクリート構造物に対する耐震補強方法として、せん断補強工法が知られている。せん断補強工法とは、既設構造物の表面に孔を形成し、その内部に鋼材を埋め込むことで、せん断応力を高める方法である(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-181473号公報
【特許文献2】特開2015-218465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
せん断補強工法を実施する際には、既設コンクリート構造物に設けられた切削孔に、補強用の鋼材としての鉄筋が挿入された後、切削孔の埋戻しが行われる。既設コンクリート構造物の規模にもよるが、同一の構造物の500~1000箇所にわたって、せん断補強鉄筋が埋設されるのが通常である。
【0005】
せん断補強工法では、補強箇所に応じて、利用される鉄筋の仕様が設定されている。つまり、既設コンクリート構造物の500~1000箇所について、それぞれの箇所に適切な仕様のせん断補強鉄筋を埋設する必要がある。
【0006】
ところで、既設コンクリート構造物に対してせん断補強鉄筋を埋設するための切削孔を設ける際には、予め、当該切削孔の形成箇所に主筋や配力筋といった既設の鉄筋が存在していないかどうかが、図面や電磁波レーダーによって確認される。しかし、実際の既設コンクリート構造物の状況が図面とは異なっている場合があり、また、電磁波レーダーでは検知されなかったものの実際には既設の鉄筋が存在することもある。このような場合には、既設の鉄筋と干渉するためにせん断補強鉄筋が埋設できないことから、形成された切削孔は誤削孔として埋め戻される。
【0007】
せん断補強工法が施工された後、所定の時期に竣工検査が行われるのが一般的である。この竣工検査の際には、既設コンクリート構造物の各箇所に所定仕様の鉄筋が適切に挿入されているか、並びに、埋め戻しの痕跡が正常な鉄筋挿入位置か誤削孔位置であるかを確認する必要がある。
【0008】
従来方法では、代表的な箇所についてのみ写真撮影による記録が残されているに留まっており、全ての補強箇所に適切な仕様の鉄筋が使用されているかについては、完全に保証することができない状況である。また、この写真も、通常はせん断補強鉄筋を挿入する前に撮影されたものであるため、不正の有無を確認する手段がないのが現状である。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑み、せん断補強工法が実施された各箇所において、適切な鉄筋が使用されているか等の工事内容を、簡易な方法で管理できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る既設コンクリート構造物に対するせん断補強の施工管理方法は、
前記既設コンクリート構造物の表面から中心に向かう深さ方向に切削して形成された第一削孔部内に、せん断補強鉄筋を、ICタグを内蔵したかぶり厚確保用スペーサと共に埋設した状態で、前記第一削孔部を埋め戻す工程(a)と、
前記工程(a)の実行前又は実行後に、前記ICタグに対して、前記かぶり厚確保用スペーサの埋設位置に関する情報と前記せん断補強鉄筋の仕様に関する情報とを含む第一情報を書き込む工程(b)と、
前記第一情報に対応する情報を、管理用の記憶部に記録する工程(c)と、
前記工程(b)及び前記工程(c)の実行後、前記既設コンクリート構造物の表面の外側から、リーダ又はリーダライタを前記ICタグに対して通信させて、前記ICタグに記録されている前記第一情報を読み取る工程(d)と、
前記工程(d)で読み取られた前記第一情報と、前記記憶部に記録された前記第一情報とを照合する工程(e)とを有することを特徴とする。
【0011】
上記方法によれば、かぶり厚確保用スペーサの埋設位置に関する情報とせん断補強鉄筋の仕様に関する情報を含む第一情報が、各かぶり厚確保用スペーサに埋設されたICタグに記載されているため、このICタグに記載された情報と、予め記録された管理用の記憶部に記録された情報とを照合することで、当該箇所に適切なせん断補強鉄筋が埋設されていることを確認できる。確認の際には、単にリーダ又はリーダライタを用いて既設コンクリート構造物の外側から埋設箇所のICタグとの間で通信させるのみで、第一情報を読み出すことができる。すなわち、この読み出された第一情報によって、当該箇所に埋設されているせん断補強鉄筋の仕様を検知できる。更に、この読み出された第一情報を、記憶部に記録された第一情報と照合することで、この情報が正しい情報であるかどうかを確認できる。
【0012】
前記第一情報のうち、前記かぶり厚確保用スペーサの埋設位置に関する情報とは、既設コンクリート構造物内の如何なる位置に、当該かぶり厚確保用スペーサが埋設されているかを示す情報である。例えば、図1は、せん断補強工法が施工された後の既設コンクリート構造物の表面状態を模式的に示す図面である。既設コンクリート構造物1の表面には、複数箇所に埋戻し跡が残されている。図1には、既設コンクリート構造物1の表面上の箇所A1~A5、B1~B5、C1~C5に埋戻し跡が残されている状況が模式的に図示されている。
【0013】
図1における既設コンクリート構造物1の表面上の箇所A1、A2等を特定するための情報が、埋設位置に関する情報に対応する。つまり、埋設位置に関する情報とは、既設コンクリート構造物内に形成された埋設位置同士を識別するための情報である。なお、図1についての説明は、後述される。
【0014】
前記第一情報のうち、前記せん断補強鉄筋の仕様に関する情報とは、せん断補強鉄筋の物理的特性を認識できる情報である。具体的な例としては、材質(鉄筋の種類、メッキの有無、メッキ材の種類、被覆材の種類、等)、長さ、及び直径等が挙げられる。
【0015】
ところで、せん断補強鉄筋が仮に外気に接触する状態に置かれると、錆等による腐食が進行する。このため、鉄筋の端部が露出することのないよう、鉄筋の全体を切削孔内に完全に位置させた上で、補修材が充填される。このとき、せん断補強鉄筋があまりに表面に近接している場合も、経時的に腐食が少しずつ進行する可能性が否定できないことから、ある程度のかぶり厚を確保した状態で、せん断補強鉄筋が埋設されるのが好ましい。
【0016】
従来方法では、上述したように、代表的な箇所についてのみ写真撮影による記録が残されているに留まっているため、せん断補強鉄筋が埋設された全ての箇所で、適切なかぶり厚が確保できていることを保証できなかった。
【0017】
上記方法によれば、かぶり厚確保用スペーサがせん断補強鉄筋と共に埋設されているため、少なくともこのスペーサの長さ分については、かぶり厚が確保された状態でせん断補強鉄筋が埋設されていることが保証される。
【0018】
ただし、このスペーサの大きさが、既設コンクリート構造物や埋設箇所に応じて異なる場合も想定されるため、かぶり厚の実際の値を正確に保証する観点からは、前記第一削孔部内における前記せん断補強鉄筋のかぶり厚に関する情報が、前記第一情報に含まれるのが好適である。
【0019】
すなわち、前記第一情報は、前記第一削孔部内における前記せん断補強鉄筋のかぶり厚に関する情報を含むものとしても構わない。
【0020】
上記方法によれば、かぶり厚に関する情報が第一情報に含まれているため、リーダ又はリーダライタによってICタグから第一情報を読み出すことで、当該箇所に埋設されているせん断補強鉄筋のかぶり厚を容易に確認できる。また、この情報を、管理用の記憶部に記録された情報と照合することで、このかぶり厚が適切な値であることを保証できる。
【0021】
上記方法において、前記工程(b)は、前記工程(a)の前に実行される工程であり、
前記工程(a)は、前記第一情報が書き込まれた状態の前記ICタグを内蔵した前記かぶり厚確保用スペーサを、前記第一削孔部内に埋設する工程を含むものとしても構わない。
【0022】
前記記憶部は、サーバ内の記憶領域であり、
前記工程(c)は、前記かぶり厚確保用スペーサに内蔵された、前記第一情報が書き込まれた状態の前記ICタグに対して、前記リーダ又はリーダライタを通信させて前記第一情報を読み取るとともに、読み取られた前記第一情報を、電気通信回線を介して前記サーバに送信する工程を含み、
前記工程(e)は、前記サーバに記録された前記第一情報を前記電気通信回線を介して読み取る工程を含み、当該サーバから読み取られた前記第一情報と、前記工程(d)で読み取られた前記第一情報とを照合するものとしても構わない。
【0023】
このとき、前記工程(c)において、第一情報は、電気通信回線(インターネット等)に接続する機能が搭載されたリーダ又はリーダライタによって、サーバに送信されるものとしても構わないし、リーダ又はリーダライタとは別体の通信機器によって、サーバに送信されるものとしても構わない。
【0024】
前記せん断補強の施工管理方法は、前記工程(a)の実行前に、前記既設コンクリート構造物が存在する対象箇所に対して、前記第一情報が書き込まれた状態の前記ICタグを内蔵した前記かぶり厚確保用スペーサを搬送する工程(f)を更に有し、
前記工程(a)は、前記工程(f)で搬送された前記かぶり厚確保用スペーサを前記第一削孔部内に埋設する工程を含むものとしても構わない。
【0025】
上記方法において、前記工程(b)は、前記第一情報に加えて、前記サーバに記録されている情報にアクセスするための認証に関する第二情報を、前記ICタグに対して書き込む工程であり、
前記工程(c)は、前記リーダ又はリーダライタを用いて、前記第一情報に加えて前記第二情報を読み取ると共に、前記第二情報に基づいて前記サーバへの接続の認証処理を行った後に前記第一情報を前記サーバに送信する工程を含み、
前記工程(d)は、前記リーダ又はリーダライタを用いて、前記第一情報に加えて前記第二情報を読み取る工程であり、
前記工程(e)は、前記第二情報に基づいて前記サーバへの接続の認証処理を行った後に、前記サーバに記録された前記第一情報を読み取る工程を含むものとしても構わない。
【0026】
上記方法によれば、サーバに対する情報の不正な書き込みが防止されるため、各箇所において埋め込まれているせん断補強鉄筋の仕様等の情報の保証度を更に高めることができる。
【0027】
前記せん断補強の施工管理方法は、前記工程(a)の実行前に、前記既設コンクリート構造物が存在する対象箇所に対して、前記第一情報が書き込まれる前の前記ICタグを内蔵した前記かぶり厚確保用スペーサを搬送する工程(f)と、
少なくとも前記第一情報が記載された二次元コードを前記せん断補強鉄筋に貼付する工程(g)とを更に有し、
前記工程(b)は、二次元コードリーダを用いて前記せん断補強鉄筋に貼付された前記二次元コードを読み取ると共に、前記二次元コードに含まれる前記第一情報をリーダライタを用いて前記工程(f)で搬送された前記かぶり厚確保用スペーサに内蔵されている前記ICタグに対して書き込む工程を含むものとしても構わない。
【0028】
前記工程(b)は、前記第一情報に加えて、前記サーバに記録されている情報にアクセスするための認証に関する第二情報を、前記リーダライタを用いて前記ICタグに対して書き込む工程であり、
前記工程(c)は、前記第二情報に基づいて前記サーバへの接続の認証処理を行った後に、前記第一情報を前記サーバに送信する工程を含み、
前記工程(d)は、前記リーダ又はリーダライタを用いて、前記第一情報に加えて前記第二情報を読み取る工程であり、
前記工程(e)は、前記第二情報に基づいて前記サーバへの接続の認証処理を行った後に、前記サーバに記録された前記第一情報を読み取る工程を含むものとしても構わない。
【0029】
上記方法において、前記リーダライタに記録された前記第二情報が、前記ICタグに対して書き込まれるものとして構わない。また、前記工程(c)は、サーバに送信する機器側に前記第二情報が事前に記録されており、この第二情報が、サーバに送信されることで、アクセス認証が行われるものとしても構わないし、前記リーダ又はリーダライタを用いて、前記ICタグから、前記第一情報に加えて前記第二情報を読み取った後に、この第二情報がサーバに送信されることで、アクセス認証が行われるものとしても構わない。
【0030】
上記方法によれば、サーバに対する情報の不正な書き込みが防止されるため、各箇所において埋め込まれているせん断補強鉄筋の仕様等の情報の保証度を更に高めることができる。
【0031】
前記せん断補強の施工管理方法は、
前記既設コンクリート構造物の表面から中心に向かう深さ方向に切削して形成された、誤削孔に由来する第二削孔部内に、前記せん断補強鉄筋を埋設せずに、前記ICタグを内蔵した前記かぶり厚確保用スペーサを埋設した状態で、前記第二削孔部を埋め戻す工程(h1)と、
前記工程(a)の実行前又は実行後に、前記ICタグに対して、誤削孔に関する第三情報を書き込む工程(h2)と、
前記第三情報に対応する情報を、前記記憶部に記録する工程(h3)とを更に有し、
前記工程(d)は、前記ICタグに記録されている前記第一情報に加えて前記第三情報を読み取る工程であり、
前記工程(e)は、前記工程(d)で読み取られた前記第三情報と、前記記憶部に記録された前記第三情報とを照合する工程を含み、前記工程(d)で読み取られた情報と、前記記憶部に記録された情報とが、相互に対応する前記第三情報である場合には、前記かぶり厚確保用スペーサが、誤削孔に由来する前記第二削孔部内に埋設されていることを検知するものとしても構わない。
【0032】
図1を参照して説明する。既設コンクリート構造物1の表面には、複数箇所(ここではA1~A5、B1~B5、C1~C5)に埋戻し跡(2a,2b)が残されている。埋戻しの際には、モルタル等の補修材で切削孔が充填される。この補修材は、既設コンクリート構造物とは完全には同一の色とすることがないため、埋戻し跡は目視により確認できる。
【0033】
ここで、既設鉄筋等に干渉するおそれがあるために誤削孔として埋め戻された場合、適切な近接位置に再度削孔部を形成した後、せん断補強鉄筋が埋設されるのが一般的である。図1の例では、例えば箇所A1、A3、及びC1は、そのような状況が模式的に図示されている。
【0034】
しかし、外から見ただけでは、せん断補強後の埋戻し跡2aと誤削孔の埋戻し跡2bとを識別することができない。つまり、従来の方法では、特に箇所A1、A3、及びC1において、せん断補強後の埋戻し跡2aと誤削孔の埋戻し跡2bとを識別することができない。また、仮に箇所C3に形成されているのが埋戻し跡2bであることもあり得るが、従来方法では、箇所C3が、せん断補強後の埋戻し跡2aであるか誤削孔の埋戻し跡2bであるかを、検知することはできない。
【0035】
これに対し、上記方法によれば、埋戻し跡が誤削孔由来の第二削孔部を埋め戻した事によるものである場合には、当該第二削孔部内に埋設されたかぶり厚確保用スペーサが内蔵するICタグには、誤削孔であることを示す第三情報が書き込まれている。このため、竣工検査の際に、前記工程(d)において前記リーダ又はリーダライタを前記ICタグに対して通知させることで、読み取られた情報に前記第三情報が含まれる場合には、当該箇所の埋戻し跡が、誤削孔由来のものであることを認識することができる。更に、前記工程(e)において、この第三情報を記憶部に記録された情報と照合することで、その情報の正確性を担保することができる。
【0036】
なお、前記工程(c)において、前記第一情報に対応する情報に加えて、前記第一削孔部又は前記第二削孔部に対応する箇所の撮像情報、施工日時に関する情報の少なくとも一方を含む第四情報が、前記記憶部に記録されるものとしても構わない。この場合、前記工程(e)において、前記第一情報又は前記第三情報を照合する際に、併せて前記第四情報を前記記憶部から読み出すものとしても構わない。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、せん断補強工法が実施された各箇所において、適切な鉄筋が使用されているか等の工事内容を、簡易な方法で管理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】せん断補強工法が施工された後の既設コンクリート構造物の表面状態を模式的に示す図面である。
図2】せん断補強の施工管理方法の全体的な処理手順を模式的に示すフローチャートである。
図3】第一実施形態のせん断補強工事工程S1の詳細な処理手順の一例を模式的に示すフローチャートの一部である。
図4】既設コンクリート構造物に対してせん断補強を行う手順を模式的に示す概念図である。
図5】既設コンクリート構造物に対してせん断補強を行う手順を模式的に示す概念図である。
図6A】定着用治具が付設されたせん断補強鉄筋を、スペーサと共に模式的に図示した図面である。
図6B】定着用治具が付設されていないせん断補強鉄筋を、スペーサと共に模式的に図示した図面である。
図7A】ICタグを内蔵したスペーサの製造方法の一例を模式的に示す図面である。
図7B】ICタグを内蔵したスペーサの製造方法の一例を模式的に示す図面である。
図8】せん断補強鉄筋のかぶり厚を説明するための図面である。
図9】ステップS19で行われる処理内容を模式的に示すブロック図である。
図10】第一実施形態のせん断補強工事工程S1の詳細な処理手順の一例を模式的に示すフローチャートの一部である。
図11】ステップS13bで行われる処理内容を模式的に示すブロック図である。
図12】ステップS19aで行われる処理内容を模式的に示すブロック図である。
図13】竣工検査工程S2の詳細な処理手順の一例を模式的に示すフローチャートの一部である。
図14A】竣工検査工程S2における処理内容を模式的に示すブロック図である。
図14B】竣工検査工程S2における処理内容を模式的に示す別のブロック図である。
図15】第二実施形態のせん断補強工事工程S1の詳細な処理手順の一例を模式的に示すフローチャートの一部である。
図16】ステップS14で行われる処理内容を模式的に示すブロック図である。
図17】ステップS15で行われる処理内容を模式的に示すブロック図である。
図18】第二実施形態のせん断補強工事工程S1の詳細な処理手順の一例を模式的に示すフローチャートの一部である。
図19】第二実施形態において、ステップS13bで行われる処理内容を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明に係るせん断補強の施工管理方法の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。ただし、以下の図面は模式的に図示されたものであり、実際の寸法比と図面上の寸法比は必ずしも一致しておらず、図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0040】
[第一実施形態]
図2は、本実施形態のせん断補強の施工管理方法の全体的な処理手順を模式的に示すフローチャートである。管理方法は、せん断補強工事工程S1と、竣工検査工程S2の2つのステップに分離される。
【0041】
せん断補強工事工程S1は、既設コンクリート構造物1に対して、せん断補強工事を実際に行う工程に対応する。一方、竣工検査工程S2は、せん断補強工事工程S1の完了後に行われ、既設コンクリート構造物1に対するせん断補強工事が、適切に行われたかどうかを確認・検査する工程に対応する。竣工検査工程S2が行われるタイミングは、種々の事情により変動するが、典型的な一例として、せん断補強工事工程S1の完了後から数日の間に実行される。
【0042】
《せん断補強工事工程S1》
図3は、せん断補強工事工程S1の詳細な処理手順の一例を模式的に示すフローチャートである。以下の各ステップS11~S13、S16~S19の符号は、図3のフローチャート内の符号に対応する。
【0043】
(ステップS11)
図4に示すように、せん断補強工事が行われる対象となる既設コンクリート構造物1(以下、「既設構造物1」と略記する。)に対して、有底の削孔部3を形成する。削孔部3の形成に際しては、コアドリル等の穿孔装置や、ウォータージェット等の高圧水噴射装置を利用することができる。
【0044】
この削孔部3は、後のステップS16において、せん断補強鉄筋5を挿入する空間を確保するために設けられる。そのため、既設構造物1内に設けられている主筋や配力筋等の既設鉄筋を避けた場所に削孔部3を形成する必要がある。したがって、削孔部3を形成する前に、例えばRCレーダー等の電磁波を利用した鉄筋探査装置によって、主筋や配力筋の設置箇所を事前に把握しておくのが好ましい。
【0045】
削孔部3を形成する際には、壁面1aに近い位置、すなわち開口面に近い箇所の削孔部3の内径を広くする拡幅処理を行ってもよい。また、削孔部3の形成後には、必要に応じてエアコンプレッサ等を用いて高圧空気を削孔部3内に送り込み、削孔部3内の削孔屑等の異物を除去するものとしてもよい。
【0046】
なお、図4では、せん断補強鉄筋5の挿入方向をX方向とし、既設構造物1の高さ方向(典型的には鉛直方向)をY方向としている。以下の図面においても、断りのない限り同様の方法で座標軸が取られる。
【0047】
(ステップS12)
ステップS11の実行中に、形成した削孔部3が、既設構造物1に既に配設された主筋や配力筋と干渉する場合がある。仮にステップS11の実行前に、図面やレーダー探査結果に基づいて、削孔部3の形成予定箇所に主筋や配力筋が存在していないことを確認していたとしても、図面と実際の鉄筋位置が異なっていたり、レーダーで正しく検知できなかった等の事情によって、このような事態が起こる可能性は考えられる。
【0048】
このステップS12は、形成した削孔部3が、既設構造物1に既に配設された主筋や配力筋と干渉していないこと、すなわち誤削孔ではないことを確認する工程である。
【0049】
(ステップS13,ステップS16)
削孔部3が誤削孔でない場合(ステップS12においてYes)、削孔部3内にせん断補強鉄筋5が埋設される(図5参照)。なお、誤削孔ではない場合、ステップS11で形成された削孔部3は、「第一削孔部」に対応する(ステップS13)。
【0050】
具体的には、まず、削孔部3内に、後からせん断補強部材としてのせん断補強鉄筋5が挿入された状態においても、削孔部3の開口面を通じて外側に溢れ出ない程度の量の定着材(グラウト材)7を注入する。この工程により、定着材7は、削孔部3内の内底3aを含む所定の領域に充填される。定着材7としては、モルタル、セメントミルク(セメントと水の混練体)、又は樹脂が好適に利用でき、この中ではモルタルが特に好ましい。この後に、定着材7が内部に注入された状態の削孔部3内にせん断補強鉄筋5を挿入するため、定着材7としては、硬化前の状態では流動性が高く、その後の時間経過と共に硬化される性質を有する材料が用いられる。
【0051】
次に、図5に示すように、削孔部3内に+X方向の向きにせん断補強鉄筋5を挿入する。せん断補強鉄筋5は、既に注入された定着材7を押しのけながら、削孔部3内を+X方向に侵入する。
【0052】
なお、図5の例では、せん断補強鉄筋5の長手方向の両端に定着用の治具(5a,5b)が付設されている構造が示されているが、図6A図6Bを参照して後述されるように、この治具(5a,5b)の有無は任意である。せん断補強鉄筋5は、-X側の端部(治具5aが付設されている場合には治具5a)が、削孔部3内に完全に収容される位置まで挿入される。より詳細には、次のステップS17においてせん断補強鉄筋5の-X側に隣接した位置にスペーサ10を完全に埋設するための空間を確保できる位置まで、せん断補強鉄筋5が深さ方向(+X方向)に挿入される。
【0053】
(ステップS17)
次に、図5に示すように、削孔部3内にせん断補強鉄筋のかぶり厚確保用スペーサ10(以下、単に「スペーサ10」と略記する。)を挿入する。このスペーサ10は、後述する図9に示されるように、リーダ又はリーダライタ(以下、「リーダライタ40」と総称する。)との間で通信可能なICタグ30を内蔵している。このICタグ30は、スペーサ10の内部に完全に埋められた状態で存在しているものとして構わない。
【0054】
本実施形態においては、このICタグ30には、スペーサ10の埋設位置に関する情報と当該箇所に埋設されるせん断補強鉄筋5の仕様に関する情報とを含む第一情報i1が、予め書き込まれている。例えば、図1における既設構造物1内の箇所A2の位置に埋設する対象のスペーサ10については、第一情報i1として、箇所A2内に埋設すべきせん断補強鉄筋5の仕様(材質、長さ及び直径等)に関する情報と、この「箇所A2」を特定するための情報とが含まれる。なお、第一情報i1には、せん断補強鉄筋5のかぶり厚L5(後述する図8参照)に関する情報が含まれていても構わない。
【0055】
更に、ICタグ30には、第一情報i1に加えて、後述する図9に示すサーバ50に対して接続するための認証に関する第二情報i2が書き込まれていてもよい。第二情報i2は、例えば、同一の既設構造物1に対しては同一情報としても構わないし、埋設箇所ごとに異なる情報としても構わない。第二情報i2は、後述するサーバ50に対する接続の認証に用いられるものであるため、その機能が発揮される限りにおいて記載内容は任意である。
【0056】
スペーサ10は、せん断補強鉄筋5の-X側の端部(治具5aが付設されている場合には治具5a)に当接されるまで、スペーサ10が挿入される。このスペーサ10は、-X側の端部が既設構造物1の壁面1a側に露出することのないように挿入される。
【0057】
図6Aに示すように、せん断補強鉄筋5に治具(5a,5b)が付設されている場合には、スペーサ10の+X側の端面(第一面11)が、治具5aに当接される。また、図6Bに示すように、せん断補強鉄筋5に治具(5a,5b)が付設されていない場合には、スペーサ10の+X側の端面(第一面11)が、せん断補強鉄筋5の-X側の端部に当接される。
【0058】
図7A図7Bは、ICタグ30を内蔵するスペーサ10の製造方法の一例を模式的に示す図面である。
【0059】
スペーサ10の本体は、モルタル、セラミックス、又はプラスチック等で形成され、モルタル又はセラミックスであるのが好ましい。スペーサ10の本体をモルタルで形成する場合には、高強度モルタルが好適に利用される。スペーサ10の本体をセラミックスで形成する場合には、Al23やZrO2が好適に利用される。
【0060】
スペーサ10の形状については、柱状体、柱状体と錐台体とが結合された形状等が利用可能である。本発明は、スペーサ10の形状には限定されない。
【0061】
スペーサ10を製造するに際しては、例えば、図7Aに示すように2つの部分スペーサ(10A,10B)を接着する方法が利用できる。例えば、一方の部分スペーサ10Aの一方の面10a側に、ICタグ30を埋め込むための孔部31を設けておき、この孔部31内にICタグ30を埋設する。その後、他方の部分スペーサ10Bの面10bと、部分スペーサ10Aの面10aとを例えばモルタル等を介して接着させる。これにより、図7Bに示すように、内部にICタグ30が埋設されたスペーサ10が得られる。
【0062】
ICタグ30としては公知のものを利用でき、リーダライタ40(後述する図9参照)を用いて、電源供給と同時にメモリへの書込みと読取りが行えるものであればよい。ICタグ30によって送受信される電波の周波数帯は、一般的な数百kHz~3GHzを利用できる。
【0063】
ICタグ30は、不図示のアンテナを備えており、このアンテナによってリーダライタ40からの電波を受信する。竣工検査工程S2の説明の際に後述するように、スペーサ10が内蔵するICタグ30は、既設構造物1の壁面1aの外側に位置するリーダライタ40から電波を受信する。このため、受信に必要な電波感度を確保する観点から、既設構造物1の壁面1aに近い側、すなわち図7Bにおける第二面12からの、ICタグ30の埋設深さd30はある程度の範囲内に制限される。好適には、削孔部3の深さ方向(すなわちX方向)と平行な方向に係るスペーサ10の長さをd10とすると、ICタグ30の埋設深さd30は、d30<0.6×d10に設定されるのが好ましい。また、d30<0.2×d10の場合には、スペーサ10自体の強度が小さくなるおそれがある。よって、ICタグ30の埋設深さd30は、0.2×d10<d30<0.6×d10と設定されるのが好ましい。
【0064】
また、受信感度を高める観点から、ICタグ30の受信面は、削孔部3の開口面(図5参照)と実質的に平行となるように設置されるのが好ましい。より詳細には、第一面11又は第二面12とほぼ平行な面上にICタグ30が埋設された状態のスペーサ10が、第一面11又は第二面12に直交する方向に沿って削孔部3内に挿入されるのが好ましい。
【0065】
例えば上記の方法で製造された、ICタグ30を内蔵したスペーサ10が、既設構造物1の現場に搬送され、ステップS17において削孔部3内に埋設される。
【0066】
本実施形態では、上述したように、スペーサ10が内蔵するICタグ30に対して、予め必要な情報(i1,i2)が書き込まれている。ICタグ30に対する情報(i1,i2)の書き込みは、スペーサ10内に埋設される前に行われても構わないし、スペーサ10に埋設された後に行われても構わない。本実施形態においては、この情報の書き込み工程が工程(b)に対応する。なお、情報(i1,i2)が書き込まれた状態のICタグ30を内蔵したスペーサ10を、既設構造物1の現場に搬送する工程が、工程(f)に対応する。
【0067】
(ステップS18)
次に、図5に示すように、削孔部3内の残りの空間に補修材8を充填し、削孔部3の開口面を既設構造物1の壁面1aと連続させることで、開口面を塞ぐ。本ステップにより、削孔部3(第一削孔部)が埋め戻される。
【0068】
補修材8は、定着材7と同じ材料であっても異なっていても構わない。ただし、補修材8は、定着材7とは異なり、既設構造物1の壁面1aとの連続性を確保する目的で注入されるため、その一部が外に露出される。かかる観点から、大気に接触しても安定的な性質を示す材料であることが好ましい。好適には、モルタル又はセメントミルクが利用される。
【0069】
なお、特に補修材8として、定着材7と共通の材料が用いられる場合には、図5において、補修材8と定着材7とは一体化されているものとして構わない。
【0070】
なお、スペーサ10を埋設させるステップS17と、補修材8を注入するステップS18とは、その順序を逆転させても構わない。つまり、補修材8を先に注入してからスペーサ10を削孔部3内に埋設させてもよい。この場合、スペーサ10を深さ方向(X方向)に侵入させることで、補修材8の一部が押し出されて、スペーサ10と削孔部3との間の空間を通じて既設構造物1の壁面1a側(すなわち削孔部3の開口面側)に向かう。これにより、補修材8が削孔部3の開口面を覆い、補修される。なお、削孔部3の外側に位置する既設構造物1の壁面1a上に付着した一部の補修材8は、露出量に応じて適切に除去されるものとして構わない。
【0071】
上記ステップS11~S13、S16~S18を経て、既設構造物1内に、鉛直方向(Y方向)とは異なる方向(ここではX方向)にせん断補強鉄筋5が挿入されるため、既設構造物1に対するせん断耐力が上昇し、耐震性が高められる。また、ステップS17においてスペーサ10が埋設されているため、せん断補強鉄筋5は、少なくともスペーサ10のX方向に係る長さ分だけ、かぶり厚が確実に確保される。
【0072】
なお、せん断補強鉄筋5のかぶり厚とは、施工後における、せん断補強鉄筋5の既設構造物1の、壁面1aに近い側(-X側)の端部と、既設構造物1の壁面1aとの距離L5である(図8参照)。なお、図8に示すように、せん断補強鉄筋5の端部に治具(5a,5b)が付設されている場合には、この治具の-X側の端面と既設構造物1の壁面1aとの距離L5をもって、せん断補強鉄筋5のかぶり厚として構わない。また、せん断補強鉄筋5の端部に治具(5a,5b)が付設されていない場合には、せん断補強鉄筋5の自体の-X側の端面と既設構造物1の壁面1aとの距離L5をもって、せん断補強鉄筋5のかぶり厚として構わない。
【0073】
上記ステップS11、S16~S18を経て、既設構造物1内の削孔部3内に、せん断補強鉄筋5と、少なくとも第一情報i1が書き込まれた状態のICタグ30を内蔵したスペーサ10とを共に埋設した状態で、削孔部3が埋め戻される。すなわち、図3に示すステップS11、S16~S18が、工程(a)に対応する。
【0074】
(ステップS19)
図9に示すように、作業者は、リーダライタ40を用いて、スペーサ10内のICタグ30に書き込まれている情報(i1,i2)を読み取ると共に、通信機器41を用いて、電気通信回線NWを介して情報(i1,i2)をサーバ50に送信する。サーバ50は、第二情報i2に基づく認証処理の後、受信した第一情報i1を所定の記憶領域に記憶する。このステップS19は、工程(c)に対応する。
【0075】
なお、このステップS19において、リーダライタ40によってICタグ30の識別情報i30が読み取られるものとしても構わない。この場合、通信機器41によって、識別情報i30が第一情報i1と共にサーバ50に送信され、格納されるものとしても構わない。
【0076】
通信機器41としては、例えば汎用のスマートフォンや、携帯型のコンピュータを利用することができる。前者の場合、リーダライタ40と一体化可能な構成であっても構わない。
【0077】
このステップS19は、対象となるスペーサ10を削孔部3内に埋設した後に行われるのが好適であるが、削孔部3内に埋設する前に行うことを排除するものではない。なお、前者においては、削孔部3を埋め戻す前に行っても構わないし、埋め戻した後に行っても構わない。
【0078】
なお、このステップS19の実行時に、削孔部3の撮像写真、施工日時等の他の情報(「第四情報」に対応する。)を併せてサーバ50に送信するものとしても構わない。この場合、サーバ50は、第一情報i1と共にこの第四情報を前記記憶領域に格納する。
【0079】
(ステップS13a,ステップS13b)
次に、削孔部3が誤削孔であった場合(ステップS12においてNo)について説明する。図10は、削孔部3が誤削孔であった場合における、せん断補強工事工程S1の詳細な処理手順の一例を模式的に示すフローチャートである。以下の各ステップS13a、S13b、S17a、S18a、及びS19aの符号は、図10のフローチャート内の符号に対応する。
【0080】
削孔部3が誤削孔であった場合、ステップS11で形成された削孔部3は、「第二削孔部」に対応する(ステップS13a:図10参照)。
【0081】
削孔部3が誤削孔の場合、せん断補強鉄筋5が削孔部3内には埋設されない。一方で、本実施形態では、削孔部3内に前記スペーサ10が埋設される。
【0082】
本実施形態において、削孔部3が誤削孔であった場合、作業者は、リーダライタ40を用いて、ICタグ30に対して誤削孔である旨の第三情報i3を書き込む(ステップS13b:図11参照)。このステップS13bが工程(h2)に対応する。
【0083】
(ステップS17a)
ICタグ30に第三情報i3が書き込まれた状態のスペーサ10が、削孔部3内に埋設される。本ステップにおいても、上述したステップS17と同様に、後述される竣工検査工程S2において、既設構造物1の壁面1aの外側に位置するリーダライタ40との間で電波の受信が可能なように、スペーサ10は、ある程度、壁面1aの近くに位置させるのが好適である。
【0084】
(ステップS18a)
ステップS18と同様の方法で、削孔部3(第二削孔部)が埋め戻される。つまり、上記各ステップS11、S17a、S18を経て、既設構造物1内の削孔部3内に、少なくとも第三情報i3が書き込まれた状態のICタグ30を内蔵したスペーサ10が埋設された状態で、削孔部3が埋め戻される。つまり、上記各ステップS11、S17a、S18は、工程(h1)に対応する。
【0085】
(ステップS19a)
図12に示すように、ステップS19と同様の方法で、作業者は、リーダライタ40を用いて、スペーサ10内のICタグ30に書き込まれている情報(i1,i2,i3)を読み取ると共に、通信機器41を用いて、電気通信回線NWを介して情報(i1,i2,i3)をサーバ50に送信する。サーバ50は、第二情報i2に基づく認証処理の後、受信した第一情報i1及び第三情報i3を所定の領域に記憶する。このステップS19aは、工程(h3)に対応する。
【0086】
このステップS19aによれば、第一情報i1に記載された埋設箇所に対応する位置が、第三情報i3に基づいて誤削孔であることが、サーバ50の記憶領域に記録される。
【0087】
このステップS19aは、対象となるスペーサ10を削孔部3内に埋設する前に行われても、埋設した後に行われても構わない。
【0088】
なお、ステップS19aにおいても、ステップS19と同様に、リーダライタ40によって読み取られたICタグ30の識別情報i30や、削孔部3の撮像写真、施工日時等の第四情報が、上記第三情報i3と共に、サーバ50に送信されて、サーバ50の記憶領域に記録されるものとしても構わない。
【0089】
《竣工検査工程S2》
図13は、竣工検査工程S2の詳細な処理手順の一例を模式的に示すフローチャートである。以下の各ステップS21~S23、及びS23aの符号は、図13のフローチャート内の符号に対応する。
【0090】
(ステップS21~S23)
検査員は、検査対象となる既設構造物1の場所に到着すると、図14Aに示すように、リーダライタ40を既設構造物1の壁面1aに近づけて、埋設されているスペーサ10に内蔵されたICタグ30との通信を行う(ステップS21)。なお、図1を参照して上述したように、埋戻し跡(2a,2b)は、既設構造物1の表面において、周囲と異なる色味を示すことから、作業員は、リーダライタ40を近接させるべき位置を外側から認識できる。このステップS21により、リーダライタ40が、ICタグ30に記載された情報を読み取る。ステップS21が、工程(d)に対応する。
【0091】
なお、埋戻し跡(2a,2b)のうち、せん断補強後の埋戻し跡2aは、誤削孔ではなくせん断補強鉄筋5及びスペーサ10が埋設された削孔部3(第一削孔部)の埋戻し跡であり、ステップS18が実行された後の痕跡である。また、誤削孔の埋戻し跡2bは、せん断補強鉄筋5が埋設されずに、スペーサ10のみが埋設された削孔部3(第二削孔部)の埋戻し跡であり、ステップS18aが実行された後の痕跡である。
【0092】
上述したように、本実施形態のせん断補強工事工程S1によれば、削孔部3が、せん断補強鉄筋5が埋設された第一削孔部であっても、誤削孔による第二削孔部であっても、ICタグ30が内蔵されたスペーサ10が埋設されている。このため、本ステップS21において、リーダライタ40を接近させることで、ICタグ30との間で通信が行え、ICタグ30に書き込まれている情報を読み取ることができる。
【0093】
ICタグ30から読み出された情報が第三情報i3を含まない場合(ステップS22においてNo)、リーダライタ40には、ICタグ30から、スペーサ10の埋設位置及びせん断補強鉄筋5の仕様に関する情報を含む第一情報i1と、認証用の第二情報i2とが読み出される。また、好ましくは、ICタグ30自体の識別情報i30も併せて読み出される。
【0094】
検査員は、このICタグ30に記載された情報が正確な情報であるかどうかにつき、通信機器41を用いて電気通信回線NWを介してサーバ50に接続し、サーバ50に格納されている情報と照合する(ステップS23)。この際に、ICタグ30から読み出された第二情報i2に基づく認証処理が行われるものとして構わない。このステップS23が、工程(e)に対応する。
【0095】
サーバ50は、通信機器41からの第一情報i1を受信すると、受信した第一情報i1からスペーサ10の埋設位置に関する情報を認識すると共に、当該埋設位置に関する情報が格納されている記憶領域を特定する。そして、特定された記憶領域に保存されていた情報、すなわち、せん断補強工事工程S1のステップS19においてサーバ50に記録された第一情報i1と、通信機器41から送信された第一情報i1とが照合される。なお、サーバ50内の記憶領域を特定するに際して、ICタグ30から読み出されたICタグの識別情報i30が用いられても構わない。
【0096】
両者の第一情報i1には、少なくとも当該箇所に埋設されているせん断補強鉄筋5の仕様に関する情報が記載されているため、これらが一致していることが確認されると、正しくせん断補強工事が行われたことが確認できる。また、現場写真や施工日時に関する第四情報がサーバ50に記憶されている場合には、検査員は、この情報をサーバ50から読み出して、確認することもできる。
【0097】
(ステップS23a)
一方、ICタグ30から読み出された情報が第三情報i3を含む場合(ステップS22においてYes)、リーダライタ40には、ICタグ30から、スペーサ10の埋設位置に関する情報を含む第一情報i1、認証用の第二情報i2、及び誤削孔であることを示す第三情報i3が読み出される(図14B参照)。検査員は、このICタグ30に記載された情報が正確な情報であるかどうかにつき、通信機器41を用いて電気通信回線NWを介してサーバ50に接続し、サーバ50に格納されている情報と照合する(ステップS23a)。この際に、ICタグ30から読み出された第二情報i2に基づく認証処理が行われるものとして構わない。このステップS23aは、工程(e)に対応する。
【0098】
サーバ50は、通信機器41からの第一情報i1及び第三情報i3を受信すると、受信した第一情報i1からスペーサ10の埋設位置に関する情報を認識すると共に、当該埋設位置に関する情報が格納されている記憶領域を特定する。そして、特定された記憶領域に保存されていた情報、すなわち、せん断補強工事工程S1のステップS19aにおいて、サーバ50に記憶された第三情報i3と、通信機器41から送信された第三情報i3とが照合される。なお、サーバ50内の記憶領域を特定するに際して、ICタグ30から読み出されたICタグの識別情報i30が用いられても構わない。
【0099】
両者の情報が一致している場合、作業員は、当該箇所が誤削孔であることを認識できる。
【0100】
[第二実施形態]
せん断補強の施工管理方法の第二実施形態について、第一実施形態と異なる点のみを説明する。図15は、本実施形態のせん断補強の施工管理方法の処理手順を模式的に示すフローチャートである。以下の各ステップS11~S19の符号は、図3及び図15のフローチャート内の符号に対応する。
【0101】
本実施形態では、第一実施形態と比較して、せん断補強工事工程S1の内容が異なる。なお、竣工検査工程S2については、第一実施形態と共通するため説明が割愛される。
【0102】
本実施形態では、せん断補強鉄筋5に二次元コード35(図16参照)が付されている点、並びにスペーサ10に内蔵されているICタグ30には事前に第一情報i1が書き込まれていない点が、第一実施形態と異なる。
【0103】
つまり、本実施形態では、第一情報i1が書き込まれていない状態のICタグ30を内蔵したスペーサ10が、既設構造物1の現場に搬送されることになる。この搬送工程が、工程(f)に対応する。
【0104】
二次元コード35は、典型的には、二次元コードが印字されたシールである。この二次元コード35には、少なくとも当該せん断補強鉄筋5の仕様に関する第一情報i1が記載されている。一例として、せん断補強鉄筋5は、二次元コード35が印字されたシールが予め貼付された状態で、対象となる既設構造物1の現場に搬送される。二次元コード35に記載される第一情報i1は、せん断補強鉄筋5の仕様に関する情報であるため、例えば鉄筋の製造メーカー側で知り得る情報のみで実現できる。このため、せん断補強鉄筋5の発送時点で二次元コード35を貼付することが可能である。せん断補強鉄筋5に二次元コード35を貼付する工程が、工程(g)に対応する。
【0105】
(ステップS11~S13)
第一実施形態と共通である。すなわち、削孔部3が誤削孔でない場合(ステップS12においてYes)、ステップS11で形成された削孔部3は、「第一削孔部」に対応する。
【0106】
(ステップS14)
上述したように、本実施形態において、せん断補強鉄筋5には予め二次元コード35が貼付されている(図16参照)。作業員は、二次元コードリーダ42を用いて二次元コード35を読み取る。これにより、二次元コードリーダ42において、二次元コード35に記載された第一情報i1が展開される。
【0107】
(ステップS15)
作業員は、二次元コードリーダ42で読み取られた情報を含む第一情報i1を、リーダライタ40を用いて、スペーサ10に内蔵されたICタグ30に書き込む(図17参照)。このとき、作業員は、当該スペーサ10が埋め込まれる予定の位置に関する情報(第一情報i1)についても、併せてICタグ30に書き込む。更に、その際に、認証に関する第二情報i2についても、ICタグ30に書き込むものとして構わない。書き込むべき第二情報i2については、リーダライタ40が予め記憶している情報が利用されるものとして構わない。
【0108】
なお、リーダライタ40と二次元コードリーダ42とは、一体化されていても構わない。
【0109】
ステップS14~S15を経て、所定の情報が書き込まれた状態のICタグ30が書き込まれたスペーサ10が準備される。つまり、第一実施形態と同様の状況が得られる。
【0110】
ステップS14~S15が工程(b)に対応する。
【0111】
(ステップS16以後)
第一実施形態と共通であるため、説明が割愛される。
【0112】
(ステップS13a,13b)
次に、削孔部3が誤削孔であった場合(ステップS12においてNo)について説明する。図18は、削孔部3が誤削孔であった場合における、本実施形態のせん断補強工事工程S1の詳細な処理手順の一例を模式的に示すフローチャートである。以下の各ステップS13a、S13b、S17a、S18a、及びS19aの符号は、図18のフローチャート内の符号に対応する。
【0113】
削孔部3が誤削孔であった場合(ステップS12においてNo)、ステップS11で形成された削孔部3は、「第二削孔部」に対応する(ステップS13a:図18参照)。
【0114】
削孔部3が誤削孔であった場合には、作業者は、リーダライタ40を用いて、ICタグ30に対して、誤削孔である旨の第三情報i3を書き込む(ステップS13b)。このとき、当該削孔部3の位置、すなわち当該ICタグ30を内蔵するスペーサ10の埋設位置に関する第一情報i1が併せて書き込まれる(図19参照)。このステップS13bにおいて、埋設位置に関する情報が書き込まれる点が、第一実施形態と異なる。このステップS13bが、工程(h2)に対応する。
【0115】
(ステップS17a以後)
第一実施形態と共通であるため、説明が割愛される。
【0116】
なお、本実施形態において、既設構造物1の存在する現場に搬送されるスペーサ10が内蔵するICタグ30に対して、第二情報i2については予め書き込まれていても構わない。
【0117】
[別実施形態]
上記実施形態では、ステップS19、S19aにおいて、ICタグ30に書き込まれていた情報(i1,i3等)が、サーバ50に送信され、サーバ50内の記憶領域に記録されるものとして説明した。しかし、本発明は、管理用の情報データベースがサーバ50内ではなく、スタンドアロン型の装置の記憶領域に構築されている場合を排除しない。この場合、本発明に係る方法を実行するに際しては、上述した「サーバ50」を「前記スタンドアロン型の装置」に置換した上で、同様の処理手順で行われる。
【符号の説明】
【0118】
1 :既設コンクリート構造物
1a :既設コンクリート構造物の壁面
2a,2b:埋戻し跡
3 :削孔部
3a :削孔部の内底
5 :せん断補強鉄筋
5a,5b:治具
7 :定着材
8 :補修材
10 :かぶり厚確保用スペーサ
10A,10B:部分スペーサ
30 :ICタグ
31 :孔部
35 :二次元コード
40 :リーダライタ
41 :通信機器
42 :二次元コードリーダ
50 :サーバ
図1
図2
図3
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図6A
図6B
図7A
図7B
図8
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