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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039585
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】根こぶ病軽減資材
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/10 20060101AFI20230314BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
A01N43/10 H
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146776
(22)【出願日】2021-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】591097702
【氏名又は名称】京都府
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】520152467
【氏名又は名称】朝日アグリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【弁理士】
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】北澤 勝好
(72)【発明者】
【氏名】久保 中央
(72)【発明者】
【氏名】辻 元人
(72)【発明者】
【氏名】浅野 智孝
(72)【発明者】
【氏名】見城 貴志
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】石川 伸二
(72)【発明者】
【氏名】小島 克洋
(72)【発明者】
【氏名】中村 春香
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA00
4H011BB08
4H011DA04
4H011DD04
(57)【要約】
【課題】根こぶ病の病原体である根こぶ病菌の休眠胞子の発芽誘導効果をもつ新規化学物質と当該新規化学物質を含有する資材。
【解決手段】根こぶ病の原因となる休眠胞子の発芽を誘導するアスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質。前記アスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質を含有してなる根こぶ病軽減資材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
根こぶ病の原因となる休眠胞子の発芽を誘導するアスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質。
【請求項2】
請求項1記載のアスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質を含有してなる根こぶ病軽減資材。
【請求項3】
担体資材に請求項1記載のアスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質を添加あるいは混合してなる根こぶ病軽減資材。
【請求項4】
粒状あるいは顆粒状の担体資材を請求項1記載のアスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質で被覆してなる根こぶ病軽減資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はアブラナ科野菜根こぶ病の軽減、防除に関する。
【背景技術】
【0002】
アブラナ科野菜は、指定野菜であるキャベツや白菜をはじめ国内における生産量が多く、日本の農業を支える主要な作物である(表1 令和元年度農林水産省作物統計)。
【0003】
【表1】
【0004】
多くの生産現場では、コスト優先の化成肥料栽培や過度の連作により、土壌の物理性・化学性・微生物性に偏りが生じ、それが様々な土壌病害発生の引き金となっている。中でもアブラナ科野菜の連作により引き起こされるアブラナ科野菜根こぶ病による被害は拡大しており、減収の一因となっている(表2 平成26年度(2014年度)農林水産省植物防疫年報)。
【0005】
【表2】
【0006】
アブラナ科野菜根こぶ病は、絶対寄生性の病原体Plasmodiophora brassicae(和名:根こぶ病菌)によって引き起こされる土壌伝染性病害である。本菌は主に土壌中で耐久体である休眠胞子の状態で存在し、宿主の存在を感知すると発芽して遊走子となり、根毛感染、皮層感染の2段階の感染を経て宿主の細胞内で増殖し、根こぶ形成に至ると考えられている。また、こぶの中で大量に休眠胞子を形成し、それがこぶの腐敗・崩壊とともに土壌に拡散して、次作の感染源となる。感染した植物体は、根の機能障害により、地上部に萎凋症状が現れるようになり、重度の場合は枯死に至る(Kageyama and Asano, 2009)。
【0007】
国内の生産地の多くは「産地」という特性上、同一の品目が繰り返し栽培される傾向にある。そのような連作圃場では根こぶ病の発生が繰り返されることにより、土壌中の根こぶ病菌休眠胞子密度が経時的に増加し、現行の対策技術だけでは抑制が困難なレベルに達することが問題となっている。また、根こぶ病防除策として抵抗性品種の導入や土壌pH矯正、化学農薬の利用等が挙げられるが、抵抗性を打破する菌群の出現もあり、化学農薬への依存度が高まってきている。
【0008】
根こぶ病の防除に用いられる化学農薬は、効果として根こぶ病菌休眠胞子の静菌作用や遊走子の殺菌作用があるが、薬剤耐性を持つ根こぶ病菌を生み出すリスクもある。また、静菌作用では土壌中の菌密度の低減にはつながらないため、病害問題の根本的な解決には至っていない。加えて、都市近郊の産地では圃場が住宅地に接していることも多く、使用しづらい現状もある。このようなことから、化学農薬に過度に依存しない防除体系の構築が求められている。
【0009】
本菌は絶対寄生性であることから、宿主植物の非存在下で休眠胞子の発芽を誘導し、その感染環を断つことが土壌菌密度の低減に有効と考えられている(White, 1954)。また,その発芽誘導効果を期待して利用される植物は「おとり植物」と呼ばれ、国内においても古くから利用の試みがなされている(Murakami et al., 2001; 對馬, 2000; 山田ら, 1997)。しかしながら、「おとり植物」と本作との作期の重なりや、収穫につながらない「おとり植物」の栽培管理にかかる作業負担や経済的負担もあり、その導入は限られている。
【0010】
宿主植物の非存在下で土壌中の休眠胞子の発芽を誘導するもう一つの手段として、発芽誘導物質の利用も考えられる。こちらは生産者にとって「おとり植物」のような栽培管理が必要とされないところに大きな利点があるといえる。先行研究では、カフェイン酸やカテキン、クマル酸等の化合物が根こぶ病菌休眠胞子の発芽を促進させることを見出し(Ohi et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 67(1), 170-173, 2003)、当該物質による根こぶ病感染防除方法が模索されていた(特許文献1))が、実用化には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000-128708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、根こぶ病の病原体である根こぶ病菌の休眠胞子の発芽誘導効果をもつ新規化学物質と当該新規化学物質を含有する資材を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]
根こぶ病の原因となる休眠胞子の発芽を誘導するアスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質。
【0014】
[2]
[1]のアスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質を含有してなる根こぶ病軽減資材。
【0015】
上述の根こぶ病の原因となる休眠胞子の発芽を誘導するアスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質を休眠胞子に直接接触させることにより、発芽を誘導し、根こぶ病の発病度を低下させることができる。
【0016】
[3]
担体資材に[1]のアスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質を添加あるいは混合してなる根こぶ病軽減資材。
【0017】
[4]
粒状あるいは顆粒状の担体資材を[1]のアスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質で被覆してなる根こぶ病軽減資材。
【0018】
前記担体資材としては、ゼオライト、珪藻土などの粘土鉱物や、畜糞堆肥ひまし粕などの有機質原料、木質灰、もみ殻灰などの灰原料を例示することができる。
【0019】
上述の根こぶ病の原因となる休眠胞子の発芽を誘導するアスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質を休眠胞子に直接接触させる機会を増やす観点から、上述の根こぶ病の原因となる休眠胞子の発芽を誘導するアスコルビン酸又は化学反応を受けた前記アスコルビン酸の関連物質を液体または粒状資材とし、その濃度は0.5-20% (w/w)とすることができる。
【0020】
また、施用方法は10倍希釈溶液または原液を1回、40 l/10 a施用することで上述の効果が発現する。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、根こぶ病の病原体である根こぶ病菌の休眠胞子の発芽誘導効果をもつ新規化学物質と当該新規化学物質を含有する資材を提供することができる。その発芽誘導効果をもつ新規化学物質資材をいわば「おとり資材」として導入することで根こぶ病を防除する体系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】各有機酸処理による根こぶ病発病度を表す図。
図2】各有機酸と休眠胞子の処理条件による根こぶ病発病度を表す図。
図3】各濃度アスコルビン酸と休眠胞子の処理条件における根こぶ病発病度を表す図。
図4】アスコルビン酸1時間処理による休眠胞子殺菌効果を表す図。
図5】アスコルビン酸長期処理による休眠胞子殺菌効果を表す図。
図6】休眠胞子の発芽誘導効果をもつ新規化学物質を含有する資材の施用による花菜根こぶ病発病調査結果を表す図。
図7】休眠胞子の発芽誘導効果をもつ新規化学物質を含有する資材を施用する前後の土壌を用いた根こぶ病発病確認結果を表す図。
図8】アスコルビン酸溶液溶解度、保管試験で一晩放冷後の沈殿の有無を示す参考写真。
図9】アスコルビン酸溶液溶解度、保管試験で30日保管後の沈殿の有無を示す参考写真。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<根こぶ病菌の休眠胞子に対する発芽誘引物質の選抜>
根こぶ病菌の休眠胞子(すなわち、根こぶ病菌休眠胞子)の発芽誘導に効果を有する物質(すなわち、発芽誘引物質)の選抜を次のように行った。
【0024】
根こぶ病菌休眠胞子の発芽誘引物質を選抜するため、既に効果が報告されている化学物質であるクマル酸、カフェイン酸、カテキン(各5 mM)の他に、候補の化学物質としてグルタチオン(5 mM)、L-アスコルビン酸、グルタミン酸ナトリウム、5’-リボヌクレオチドナトリウム(各0.1%)について検討した。
【0025】
各有機酸溶液に根こぶ病菌休眠胞子を添加して2.5×105個/mlの溶液を20 ml調製し、24℃で1週間静置した。
【0026】
その後、各種溶液20 mlを50 gの滅菌ニッピ園芸培土1号に添加し、24℃、乾燥条件下で2週間静置した。
【0027】
処理培土4反復をニッピ園芸培土1号で16倍希釈し、各処理培土をセルトレイ5セルに充填し、1セル当たり2株ずつ根こぶ病罹病花菜品種‘花飾り’を播種してセルトレイ検定を行った。
【0028】
また、各有機酸溶液と休眠胞子の混合溶液20 mlを調製後すぐに滅菌ニッピ園芸培土1号に添加し、24℃、乾燥条件下で3週間静置した場合についても同様に検討した。
【0029】
各有機酸が根こぶ病発病に及ぼす影響を図1に示した。クマル酸、カフェイン酸、カテキン、L-アスコルビン酸の直接処理による発病抑制効果が認められた。
【0030】
そこで、肥料原料として取り扱える可能性の高いカフェイン酸、カテキン、L-アスコルビン酸について、有機酸処理後に培土接種または培土への直接接種による発病抑制の影響を検証した(図2)。
【0031】
根こぶ病菌休眠胞子を有機酸溶液で1週間処理後培土に接種した場合は、カフェイン酸、カテキン、L-アスコルビン酸による根こぶ病発病抑制が顕著であった。
【0032】
一方で、休眠胞子入り有機酸溶液を培土に直接接種した場合は、明確な発病抑制効果は認められなかった。これは、培土の緩衝作用により有機酸溶液の効果が緩和されたと推測される。
【0033】
<アスコルビン酸による根こぶ病抑制効果の条件検討>
L-アスコルビン酸溶液(0%、0.1%、0.5%、2.5%)に根こぶ病菌休眠胞子を添加し、2.5×105個/mlの混合溶液を20 ml調製した。
【0034】
<試験A>
混合溶液を24℃で1週間静置後、50 gの滅菌ニッピ園芸培土1号に添加し、24℃、乾燥条件下で2週間静置した。
【0035】
<試験B>
混合溶液を調製後すぐに50 gの滅菌ニッピ園芸培土1号に添加し、24℃、乾燥条件下で3週間静置した。
【0036】
<試験C>
混合溶液を調製後すぐに15 gの滅菌ニッピ園芸培土1号に添加し、24℃で1週間静置後、35 gの滅菌ニッピ園芸培土1号を追加して24℃、乾燥条件下で2-4週間静置した。
【0037】
各処理培土2反復をニッピ園芸培土1号で25倍希釈したものをセルトレイ10セルに充填し、1セル当たり2株ずつ根こぶ病罹病花菜品種‘花飾り’を播種してセルトレイ検定を行った。
【0038】
<検討結果>
各処理条件のL-アスコルビン酸による根こぶ病発病への影響を図3に示した。
【0039】
各濃度L-アスコルビン酸溶液と休眠胞子を直接処理したところ、いずれの濃度においても高い発病抑制効果が示された。
【0040】
休眠胞子入りL-アスコルビン酸混合溶液を培土に直接接種した結果、通常の水分条件および湛水条件において発病抑制効果を示し、且つL-アスコルビン酸濃度が高くなるほど効果は著しく向上した。
【0041】
このことから、培土にL-アスコルビン酸溶液を直接接種しても培土が湿る程度の水分添加量であれば発病抑制することが示された。また、L-アスコルビン酸濃度が高ければ休眠胞子との接触確率が向上しより効果を発揮したと考えられる。
【0042】
<根こぶ病休眠胞子に対するアスコルビン酸の殺菌効果確認>
アスコルビン酸による根こぶ病発病抑制が農薬に区分されないことを証明するため、休眠胞子のエバンスブルー染色による生死判定により、アスコルビン酸が休眠胞子殺菌効果を有するか確認した。
【0043】
京都府立大学において、各濃度アスコルビン酸の短時間処理による休眠胞子の生死判定を行った。500 &micro;lのL-アスコルビン酸溶液(0%、0.1%、0.5%、2.5%)に根こぶ病菌休眠胞子を5&micro;l添加し、終濃度1×107胞子/mlの混合液とし、24℃で1時間静置した(3連)。
【0044】
対照として休眠胞子液を95℃で1時間静置し熱処理区とした。各処理液100 &micro;Lを等量のエバンスブルー溶液と混合し、24℃、暗黒下で24時間静置して染色処理した。染色溶液に等量の滅菌水を添加し、光学顕微鏡で非染色胞子(生胞子)と染色胞子(死胞子)を計数し、染色胞子率=(非染色胞子数+染色胞子数)/総胞子数を算出した。
【0045】
朝日アグリア(株)社内試験において、L-アスコルビン酸の1週間処理による休眠胞子の生死判定を行った。
【0046】
滅菌水で調製した根こぶ病菌休眠胞子懸濁液1 ml(埼玉県コマツナ罹病株由来)と、20 mM HEPESバッファー(pH 7)または滅菌水で調製したL-アスコルビン酸溶液(0、0.2、2.0% (w/v))1 mlを試験管に添加し、L-アスコルビン酸終濃度0、0.1、1.0% (w/v)の混合液とした(2連)。休眠胞子が沈殿・団塊化してしまわないよう60往復/分、25℃で振盪し、1、5、14日目に150 &micro;lずつプラスチックチューブに分取した。150 &micro;lの内50 &micro;lを血球計算盤により計数した。100 &micro;lは集菌し、10 mM HEPESバッファー(pH 7)で3回洗浄後、50 &micro;lで懸濁し、10%エバンスブルー染色液を等量混和した。15分後に光学顕微鏡で非染色胞子と染色胞子を計数し、死胞子率を算出した。
【0047】
<アスコルビン酸処理による根こぶ病菌休眠胞子への殺菌効果>
L-アスコルビン酸が休眠胞子に及ぼす影響を図4図5に示した。
【0048】
L-アスコルビン酸1時間処理による休眠胞子の死滅はみられなかった。
【0049】
また、アスコルビン酸長期処理について、被検液中に団塊が生じたため、15日の総菌数計数は断念したが、5日間のL-アスコルビン酸処理により菌数が急激に減少することはなかった。
【0050】
L-アスコルビン酸0%区は14日目にかけて死胞子率が増加した一方、L-アスコルビン酸処理区は横ばいまたは減少傾向を示した。
【0051】
L-アスコルビン酸0%区における死胞子率増加は、溶液中での経時的な休眠胞子の死滅と考えられる。
【0052】
以上の結果から、L-アスコルビン酸による休眠胞子の顕著な分解や殺菌効果はないことが認められた。
【0053】
【表3】
【0054】
<アスコルビン酸溶液溶解度、保管試験>
50℃に加温した水にL-アスコルビン酸を添加し、スターラーで攪拌した。L-アスコルビン酸の溶解が確認できてからさらに10分以上撹拌した。室温で一晩放冷後、沈殿の有無を確認し、溶液のpHと比重を測定した。溶液を3つの容器に分注し、室温、4℃、35℃で静置し、保管性を確認した。
【0055】
【表4】
【0056】
結果
L-アスコルビン酸10-50% (w/w)溶液を作製したところ、いずれも溶解した。一晩静置後、35%以上の溶液は結晶や沈殿を生成していた(表5、図8)。10-30%溶液は、無色透明または少し黄色がかった透明の溶液であった。pHは2前後であり、濃度を高くするほど下がった。
【0057】
【表5】
【0058】
結晶・沈殿を生じなかったL-アスコルビン酸溶液を、室温、4℃、35℃で静置した結果、25-30%溶液は室温と4℃で結晶を生じ、20% 溶液は4℃で結晶を生じた。また、室温保管品は20日以降、35℃保管品は3日目以降より、アスコルビン酸溶液が色づき始め、30日目には黄色~褐色に変色した(図9)。
【0059】
<根こぶ病休眠胞子の発芽誘導効果をもつ新規化学物質を含有する資材の候補資材作製>
根こぶ病汚染圃場で今後想定される資材形態として液材とペレット資材を作製した。
【0060】
液材について、L-アスコルビン酸20% (w/w)溶液を調製した。
【0061】
また、カフェイン酸を含有しているコーヒー粕とL-アスコルビン酸を組合せたペレット資材を作製した。うずら堆肥と風乾したコーヒー粕を6:4(重量比)で混合し、最大容水量の30%となるよう水分調整し、10 l容発酵槽に充填した。
【0062】
1週間に一度混和・水分調整しながら4週間発酵させ、コーヒー粕堆肥とした。
【0063】
下記の表6に示した配合比率で、コーヒー粕ペレットとL-アスコルビン酸入りコーヒー粕ペレットを造粒した。
【0064】
【表6】
【0065】
<根こぶ病休眠胞子発芽誘引物質施用による花菜根こぶ病圃場試験>
京都府農林水産技術センター試験圃場で根こぶ病発病が確認されている12号田にて、L-アスコルビン酸溶液(20% (w/w))、コーヒー粕ペレット、L-アスコルビン酸入りコーヒー粕ペレットを施用し、無処理とオラクル粉剤処理を対照とした。
【0066】
L-アスコルビン酸溶液(20% (w/w)) 500 g/m2を水で5倍希釈して希釈液2.5 l/m2(L-アスコルビン酸100 kg/10 a相当)を散布し、降雨による流亡防止のためにL-アスコルビン酸溶液処理区をマルチで覆った。
【0067】
L-アスコルビン酸溶液処理は、8月6日のみの1回散布と、7月28日、8月3日、8月6日の3回散布とした。
【0068】
コーヒー粕ペレットとL-アスコルビン酸入りコーヒー粕ペレットは、8月6日に200 g/m2(200 kg/10 a相当)施用した。
【0069】
オラクル粉剤は8月7日に施用した。栽培品種は、根こぶ病罹病花菜品種である‘花飾り’で実施した。
【0070】
1畝3条とし、立枯病対策のために各条を播種1回目(8月18-19日)、定植(8月25日)、播種2回目(9月1日)とした。1区2.4 m2、3反復で実施した。
【0071】
10月1日に播種1回目、10月12日に播種2回目の根こぶ病発病調査を実施した。
【0072】
各処理区につき10株を調査し、立枯症・根のちぎれ等により評価不可能な株は除外し、定植株から不足分を同様に調査した。
【0073】
<セルトレイ検定>
風乾処理した供試土壌から植物残渣や石を除去後、ハンマーで粉砕し、2 mmで篩別した。土壌とニッピ園芸培土1号を1:4で混合し、25穴セルボックスに充填した。花菜品種‘花飾り’を播種し、底面給水法で栽培し、播種1ヶ月後に根部の発病程度を評価した(セルトレイ検定法、吉本ら, 2001)。
【0074】
根こぶ病発病程度は、Kuginuki et al. (1999)の評価方法に基づき、0:瘤なし、1:側根に小瘤がみられる、2:1-3の間、3:主根・側根に大瘤がみられるの4段階に分けて評価し、以下の式で発病度を算出した。
【0075】
【数1】
【0076】
また、資材施用前(7月28日)と施用後(8月18日)に各処理区から土壌を採取し、セルトレイ試験と土壌中の根こぶ病菌密度測定に用いた。根こぶ病菌密度は委託によりLAMP法で測定した。
【0077】
LAMP法では、篩別した被検土壌0.4 gをバッファー中で加熱・混合し、バインディングバッファーと2-プロパノールを添加後、スピンカラムによりDNAを精製する。精製したDNAをLAMP反応試薬に添加し根こぶ病菌DNAの増幅を濁度測定装置により測定することで、増幅結果から根こぶ病菌の定量を行う。
【0078】
<根こぶ病休眠胞子の発芽誘導効果をもつ新規化学物質を含有する資材の施用による花菜根こぶ病圃場試験>
資材施用による花菜根こぶ病発病程度を図6に示した。
【0079】
いずれも初期生育は良好であったが、調査1回目では立枯症状のみられる株が多く、根のちぎれが多かった(結果記載なし)。
【0080】
調査2回目では立枯症状の株は少なかった。発病度は全体として低く、処理区間の差が明確ではないが、L-アスコルビン酸3回処理区とL-アスコルビン酸入りコーヒー粕ペレット処理区は、無処理区に比べ発病抑制傾向を示した。
【0081】
また、本年は例年よりも降水量が少なく、根こぶ病が発病しにくい条件であった上に、オラクル処理による発病抑制効果がみられなかったことから、資材の効果が発揮できなかったと考えられる。
【0082】
<根こぶ病休眠胞子の発芽誘導効果をもつ新規化学物質を含有する資材の施用による花菜根こぶ病圃場試験(セルトレイ検定)>
圃場試験では降水量が例年よりも少なかったため、根こぶ病発病度への影響が考えられる。
【0083】
そこで、資材施用前(7月28日)と施用後(8月18日)の採取土壌を用いてセルトレイ検定と土壌菌密度を測定し、図7に示した。
【0084】
各資材の施用による土壌pHへの影響はみられなかった。また、資材処理後はいずれの処理区も根こぶ病菌密度の明らかな減少はしなかったが、L-アスコルビン酸3回処理区は、無処理区よりも発病度が有意に低下した(U検定、5%水準)。
【0085】
資材の処理前後で比較すると、L-アスコルビン酸3回処理区、コーヒー粕ペレット処理区、L-アスコルビン酸入りコーヒー粕ペレット処理区の発病度は処理前より有意に低下した(U検定、1%水準)。
【0086】
このことから、L-アスコルビン酸は複数回施用により発病抑制効果を示すと考えられる。
【0087】
資材処理前後土壌の根こぶ病菌密度と発病度との間には相関がみられなかった。これは、資材処理の際にL-アスコルビン酸処理区のみマルチで覆っていたことによる他処理区との条件の差や、土壌中の水分が勾配の低い方向に流れたことに伴い休眠胞子が移動した影響が考えられる。
【0088】
以上の結果から、天候や圃場の土壌状態にもよるが、L-アスコルビン酸溶液による根こぶ病軽減効果が期待でき、L-アスコルビン酸は複数回処理で土壌中の根こぶ病菌との接触が増え、発病抑制効果を有すると考えられる。
【0089】
上述した複数の検討ではいずれもアスコルビン酸のL体であるL-アスコルビン酸で検討を行ったが、これらの検討結果から、アスコルビン酸そのもの及び、L-アスコルビン酸、等の化学反応を受けたアスコルビン酸の関連物質は、いずれも、上述した複数の検討で確認できた、根こぶ病菌の休眠胞子の発芽誘導効果、根こぶ病発病抑制効果、根こぶ病軽減効果を発揮できるものと考えられる。
【0090】
化学反応を受けたアスコルビン酸の関連物質としては、L-アスコルビン酸の他に、アスコルビン酸ラジカル、デヒドロアスコルビン酸(DHA)、2,3-ジケトグロン酸(DKG)、レダクチン酸、L-キシロソン、3-ケト-4-デオキシペントスロース(KDP)、シュウ酸、L-トレオン酸、など、温度・水分等の要因による化学反応でアスコルビン酸から生成した物質を例示することができる。
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