(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039648
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】森林画像合成システム
(51)【国際特許分類】
G06T 1/00 20060101AFI20230314BHJP
G06T 5/50 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
G06T1/00 285
G06T5/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146878
(22)【出願日】2021-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松林 健一
【テーマコード(参考)】
5B057
【Fターム(参考)】
5B057AA14
5B057CA08
5B057CA12
5B057CA16
5B057CB08
5B057CB12
5B057CB16
5B057CE08
5B057CE20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】的確に雲を除去することができ、しかも比較的短い期間で取得された少数の画像であってもより適切に合成画像を生成することができる森林画像合成システムを提供する。
【解決手段】森林画像合成システム100は、異なる時期に同じ領域の森林を撮影して得られた複数の森林画像に基づいて合成画像を作成するシステムであり、雲除去手段101及び画像合成手段102を備える。雲除去手段101は、雲除去画像セットに対して異なる種類の雲除去処理を行うことによって、複数種類の雲除去画像セットを生成する。また画像合成手段102は、複数種類の雲除去画像セットに基づいて複数の暫定合成画像を生成するとともに、複数の暫定合成画像に対して画像合成を行うことによって完成合成画像を生成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる時期に同じ領域の森林を撮影して得られた複数の森林画像に基づいて、合成画像を作成するシステムであって、
複数の前記森林画像に対してそれぞれ雲除去処理を行うことによって、該森林画像から雲が除去された雲除去画像を生成する雲除去手段と、
前記雲除去手段によって得られる複数の前記雲除去画像からなる雲除去画像セットに対して、画像合成を行うことによって暫定合成画像を生成する画像合成手段と、を備え、
前記雲除去手段は、前記雲除去画像セットに対して異なる種類の雲除去処理を行うことによって、複数種類の前記雲除去画像セットを生成し、
前記画像合成手段は、複数種類の前記雲除去画像セットに基づいて複数の前記暫定合成画像を生成するとともに、複数の該暫定合成画像に対して画像合成を行うことによって完成合成画像を生成する、
ことを特徴とする森林画像合成システム。
【請求項2】
前記雲除去手段は、前記森林画像ごとに雲が反映された1次除去画素を設定するとともに、すべての該森林画像に共通する該1次除去画素を2次除去画素として設定し、それぞれの該森林画像から該2次除去画素を除くことによって前記雲除去画像を生成する、
ことを特徴とする請求項1記載の森林画像合成システム。
【請求項3】
前記画像合成手段は、前記2次除去画素を除く有効画素ごとに、前記雲除去画像セットを構成する前記雲除去画像に係る該有効画素の画素値を統計処理することによって代表画素値を求め、該代表画素値に基づいて前記暫定合成画像を生成する、
ことを特徴とする請求項2記載の森林画像合成システム。
【請求項4】
前記画像合成手段は、前記1次除去画素とされた前記有効画素の前記画素値は除いたうえで、統計処理することによって前記代表画素値を求める、
ことを特徴とする請求項3記載の森林画像合成システム。
【請求項5】
前記画像合成手段は、前記暫定合成画像を構成する画素のうち前記2次除去画素は除いたうえで、複数の該暫定合成画像に係る画素の前記画素値を統計処理することによって前記代表画素値を求めるとともに、該代表画素値に基づいて前記完成合成画像を生成する、
ことを特徴とする請求項3又は請求項4記載の森林画像合成システム。
【請求項6】
前記画像合成手段は、複数の前記画素値の中央値を前記代表画素値として求める、
ことを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれかに記載の森林画像合成システム。
【請求項7】
前記画像合成手段は、植生指標を前記画素値として統計処理する、
ことを特徴とする請求項3乃至請求項6のいずれかに記載の森林画像合成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、衛星画像や空中写真(航空写真)の合成に関する技術であり、より具体的には、画像に映った雲を除去したうえで合成画像を生成することができる森林画像合成システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球上の天然森林の面積減少が進んでおり、国際連合からは2015年以降失われている天然森林の面積は1年間あたり約10万km2と報告されており、つまり1週間ごとに東京都と同程度の森林が失われていることになる。森林破壊ともいわれる森林減少現象は、道路等のインフラストラクチャーの建設や、農地の開拓、原材料(木材や紙、パルプ、パーム油、天然ゴムなど)獲得のための伐採、自然火災など様々な原因で発生している。
【0003】
森林破壊は、野生動物を絶滅の危機に追い込み、その結果、従前の生態系が崩壊し、延いては人間の生活にも影響を及ぼしかねない。また森林破壊は、現在地球にとって喫緊の課題である「地球温暖化」にも極めて大きな影響を与えている。樹木は空気中の二酸化炭素を取り込みながら生長を続けており、人間の活動に伴う二酸化炭素排出量の約29%に当たる量を森林が吸収しているともいわれ、すなわち森林は大量の二酸化炭素を蓄えているわけである。したがって樹木を伐採するということは、大気中の二酸化炭素の吸収能力が低下するだけでなく、樹木に蓄積された二酸化炭素が放出されることに他ならない。
【0004】
二酸化炭素は、地球からの放出熱を封じ込める効果をもついわゆる温室効果ガスである。そのため、大気中に放出される二酸化炭素の量が増加すると、地球の気温上昇が促進され、これに伴って北極海の海氷面減少や、海面水位の上昇などが発生し、さらに水害やハリケーン、熱波発生の増加、あるいは干ばつの長期化といった状況にもつながる。
【0005】
上記したとおり森林破壊は様々な原因で発生し、例えば予定されていない伐採が行われることもある。必要な最小限の伐採は許容されるとしても、不要、不急の伐採は回避すべきであり、また伐採の進行に伴って今後の伐採計画も制御されるべきである。したがって森林の伐採状況を管理することは極めて有益であり、その管理のもと今後の植樹や伐採を計画することが望ましい。森林の状況を管理するうえでは、定期的に撮影される画像を利用することが効果的である。光学センサを搭載した衛星が撮影した衛星画像や、航空機に搭載されたカメラによって撮影された空中写真を用い、上空から見た森林の経時的な変化を確認することによって森林の状況を管理するわけである。
【0006】
ところが、衛星画像や空中写真には森林を覆う障害物が写り込むことがあり、特に衛星画像の場合は天候に関わらず撮影されることから雲を含んだ画像が取得されることも珍しくない。当然ながら、雲の直下にある森林は撮影されず、その範囲の伐採状況などを把握することができない。また、雲が残った状態の画像と雲がないときの画像をマッチングする場合は適切な処理が行われないこともあり、雲を含む画像と他の画像を合成した場合は「つぎはぎ感」が目立つことも知られている。そこで、画像から雲を除く(マスクする)種々の技術が創出されており、例えば特許文献1では被雲率が最小になるように衛星画像データを重畳したうえで衛星画像を接合する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したとおりこれまで雲を除去するための種々の技術が提示されており、例えば薄い巻雲の検出とマスキングに優れているSCL(Scene Classification Map)-based masking手法や、過剰な雲除去を最小限にすることができる雲指数マスキング(cloud scoring masking)手法、エラーとなる可能性の高い小さなサイズの雲のパッチを減らす(つまりマスクアウトする)ことができるcloud-shadow shift手法、そのほかFMASK法など多くの雲除去技術が知られている。しかしながら、いずれの雲除去技術も完全に雲を抽出して(つまり、誤抽出や抽出漏れが皆無な状態で)除去することはできず、「霧のようなものまで除去する」、「影や人工物と雲との峻別性能が高い」などそれぞれ特長がある一方で、画像条件によっては適切に雲が抽出できないなどその技術特有の弱点もあった。
【0009】
通常、雲を除去した範囲に関しては、他の時期に撮影した画像で補う処理が行われる。つまり、同じ範囲を異なる時期に撮影した多数の画像を用い、画像から雲を除去したうえでこれらの画像を合成するわけである。例えば年間を通じて定期的に撮影するなど相当数の画像があれば、同じ領域が常に雲で覆われることは考えられないため、雲を除去したとしてもいずれかの画像で当該範囲を補うことができるわけである。
【0010】
ところが、比較的短い期間で森林の変化を把握したいケースでは、雲を除去した範囲を他の画像で補うことができないこともある。例えば、数日~1週間分の画像を用いるケースでは、全ての画像において同じ領域に雲があることも考えられ、この場合は当該期間に取得された画像では対応することができない。そのため、雲を除いた画像から森林の変化を把握することになるが、当然ながら画像から得られる情報が多いほど的確に森林変化を把握することができ、つまり画像のうち雲とされる領域が小さいほど好ましいわけである。他方、上記したとおり従来の雲除去技術はそれぞれ手法によって除去される雲が異なり、換言すれば採用する雲除去技術に応じて画像から得られる情報量が異なり、つまり森林変化を把握する精度は雲除去技術に依存することとなる。
【0011】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち従来技術に比して的確に雲を除去することができ、しかも比較的短い期間で取得された少数の画像であってもより適切に合成画像を生成することができる森林画像合成システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、2以上の雲除去技術を利用して画像から雲を除去する(マスクする)、換言すればそれぞれ技術特有の得失を補完しながら雲を除去する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0013】
本願発明の森林画像合成システムは、異なる時期に同じ領域の森林を撮影して得られた複数の森林画像に基づいて合成画像を作成するシステムであり、雲除去手段と画像合成手段を備えたものである。このうち雲除去手段は、複数の森林画像に対してそれぞれ雲除去処理を行うことによって森林画像から雲が除去された雲除去画像を生成する手段であり、一方の画像合成手段は、雲除去画像セット(雲除去手段によって得られる複数の雲除去画像からなる画像セット)に対して画像合成を行って暫定合成画像を生成する手段である。なお雲除去手段は、雲除去画像セットに対して異なる種類の雲除去処理を行うことによって、複数種類の雲除去画像セットを生成する。また画像合成手段は、複数種類の雲除去画像セットに基づいて複数の暫定合成画像を生成するとともに、複数の暫定合成画像に対して画像合成を行うことによって完成合成画像を生成する。
【0014】
本願発明の森林画像合成システムは、それぞれの森林画像から2次除去画素を除くことによって雲除去画像を生成するものとすることもできる。この場合の雲除去手段は、森林画像ごとに1次除去画素(雲が反映された画素)を設定するとともに、すべての森林画像に共通する1次除去画素を2次除去画素として設定する。
【0015】
本願発明の森林画像合成システムは、代表画素値に基づいて暫定合成画像を生成するものとすることもできる。この場合の画像合成手段は、雲除去画像セットを構成する雲除去画像に係る有効画素(2次除去画素を除く画素)の画素値を統計処理することによって、有効画素ごとに代表画素値を求める。
【0016】
本願発明の森林画像合成システムは、1次除去画素とされた有効画素の画素値は除いたうえで統計処理することによって代表画素値を求めるものとすることもできる。
【0017】
本願発明の森林画像合成システムは、代表画素値に基づいて完成合成画像を生成するものとすることもできる。この場合の画像合成手段は、暫定合成画像を構成する画素のうち2次除去画素は除いたうえで、複数の暫定合成画像に係る画素の画素値を統計処理することによって代表画素値を求める。
【0018】
本願発明の森林画像合成システムは、画像合成手段が複数の画素値の中央値を代表画素値として求めるものとすることもできる。
【0019】
本願発明の森林画像合成システムは、画像合成手段が植生指標を画素値として統計処理するものとすることもできる。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の森林画像合成システムには、次のような効果がある。
(1)雲除去技術の特性(得失)に影響されることなく、従来技術に比して的確に画像から雲を除去することができる。
(2)比較的短い期間で取得された少数の画像であっても、従来技術に比して適切に合成画像を生成することができる。
(3)その結果、短期間の撮影であっても森林の変化状況を的確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】7時期に取得された森林画像からなる森林画像セットを模式的に示すモデル図。
【
図2】本願発明によって合成画像を生成する手順を模式的に示すモデル図。
【
図3】本願発明の森林画像合成システムの主な構成を示すブロック図。
【
図4】雲除去手段が森林画像に対して雲除去処理を実行した結果得られた1次雲除去画像を模式的に示すモデル図。
【
図5】雲除去手段が森林画像に1次雲除去画像に基づいて生成した2次雲除去画像を模式的に示すモデル図。
【
図6】7つの森林画像から得られた画素値から得られる中央値を説明するグラフ図。
【
図7】統計処理の対象とする画素を説明するモデル図。
【
図8】本願発明の森林画像合成システムの主な処理の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の森林画像合成システムの実施形態の例を図に基づいて説明する。
【0023】
1.全体概要
本願発明は、森林を撮影して得られた衛星画像や空中写真(以下、「森林画像」という。)を用いて、森林の経時的な変化を確認するために好適な画像を得るものであり、
図1に示すように異なる時期に同じ領域を撮影した複数の森林画像(以下、「森林画像セット」という。)に基づく合成画像を生成する技術である。なお
図1では、毎日取得された1週間分(第1時期~第7時期)の森林画像からなる森林画像セットを示しているが、これに限らず2以上の森林画像からなる森林画像セットを利用することができる。
【0024】
図2は、本願発明によって合成画像を生成する手順を模式的に示すモデル図である。この図に示すように本願発明では、森林画像に対して雲除去処理を実行したうえで画像を合成する。ただし、同一の森林画像セットに対して異なる2以上の種類の雲除去処理を実行する。この図では、森林画像セットを構成するすべて(図では7つ)の森林画像に対して、異なる3種類の雲除去処理(第1雲除去処理~第3雲除去処理)を実行している。この雲除去処理としては、既述したSCL-based masking手法や、雲指数マスキング(cloud scoring masking)手法、cloud-shadow shift手法、FMASK法など、従来用いられている種々の技術を採用することができる。
【0025】
森林画像セットを構成する森林画像に対して複数種類の雲除去処理を行うと、雲除去された画像(以下、「雲除去画像」という。)からなる組み合わせ(以下、「雲除去画像セット」という。)が、やはり複数種類得られることになる。例えば
図2では、7つの森林画像に対して3種類の雲除去処理を実行した結果、3種類の雲除去画像セット(第1雲除去画像セット~第3雲除去画像セット)が取得されている。雲除去画像セットが得られると、それぞれの雲除去画像セットを合成して合成画像(以下、「暫定合成画像」という。)を生成する。
図2では、3種類の雲除去処理を実行していることから3種類の暫定合成画像(第1暫定合成画像~第3暫定合成画像)が生成されている。そして、複数種類(図では3種類)の暫定合成画像をさらに合成することによって、最終的な成果となる合成画像(以下、「完成合成画像」という。)を生成する。
【0026】
2.森林画像合成システム
図3は、本願発明の森林画像合成システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように森林画像合成システム100は、雲除去手段101と画像合成手段102を含んで構成され、さらにディスプレイやプリンタといった出力手段103や森林画像記憶手段104を含んで構成することもできる。
【0027】
森林画像合成システム100を構成する雲除去手段101と画像合成手段102は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイ(つまり、出力手段103)を含むものもあり、例えばパーソナルコンピュータ(PC)やサーバなどによって構成することができる。
【0028】
また、森林画像セットを記憶する森林画像記憶手段104は、汎用的コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)の記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0029】
以下、本願発明の森林画像合成システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0030】
(雲除去手段)
雲除去手段101は、森林画像記憶手段104から森林画像セットを読み出し、その森林画像セットを構成する複数の森林画像に対して雲除去処理を実行する手段である。ただしこの雲除去手段101は、既述したように同一の森林画像セットに対して異なる2以上の種類の雲除去処理を実行する。なお雲除去手段101は、それぞれの森林画像に対して雲除去処理を行った画像(以下、「1次雲除去画像」という。)を生成するとともに、この1次雲除去画像に基づいてさらに処理を行うことで雲を除去した画像(以下、「2次雲除去画像」という。)を生成する。以下、
図4と
図5を参照しながら雲除去手段101が1次雲除去画像~2次雲除去画像を生成する手順について説明する。
【0031】
まず雲除去手段101は、森林画像セットを構成するそれぞれの森林画像(
図4では4つの森林画像)に対して雲除去処理を実行することによって雲が反映された画素(以下、「1次除去画素」という。)を設定し、この1次除去画素を除去対象(つまり、マスク対象)とする。
図4は、雲除去手段101が森林画像に対して雲除去処理を実行した結果、すなわち1次除去画素をマスクした結果得られた1次雲除去画像を模式的に示すモデル図であり、全画素(画素A1~画素F8)のうちグレーで網掛した画素を1次除去画素(例えば画素C2など)として示している。なお1次除去画素は、画素ごとに設定されるが、単独の画素(例えば、図のうち第1時期の1次雲除去画像の画素F3)に対しても設定する仕様とすることもできるし、ある程度(事前に定めた閾値以上)の画素の集合(クラスタ)に対してのみ設定する仕様とすることもできる。
【0032】
1次雲除去画像が生成されると、雲除去手段101はこの1次雲除去画像に基づいて2次雲除去画像を生成する。具体的には、森林画像セットを構成するすべての1次雲除去画像に共通する1次除去画素を2次除去画素として設定し、この2次除去画素を除去対象(つまり、マスク対象)とする。
図5は、2次除去画素をマスクした結果得られた2次雲除去画像を模式的に示すモデル図であり、全画素(画素A1~画素F8)のうち黒で網掛した画素を2次除去画素(例えば画素D7など)として示している。例えば、画素C2と画素C3、画素D2、画素D3からなる画素集合や、画素D7と画素D8、画素E6、画素E7からなる画素集合は、4つの1次雲除去画像(第1時期の1次雲除去画像~第4時期の1次雲除去画)において1次雲除去画像と設定されていることから2次除去画素とされる。一方、第2時期の1次雲除去画像において1次雲除去画像と設定されている画素A2や画素D1は、他の時期の1次雲除去画像では1次雲除去画像と設定されていないため、これら画素A2や画素D1は2次除去画素とされない。また第1時期の1次雲除去画像において1次雲除去画像と設定されている画素F3は、第4時期の1次雲除去画像においても1次雲除去画像と設定されているが、第2時期や第3時期の1次雲除去画像では1次雲除去画像と設定されていないため、やはり2次除去画素とされない。
【0033】
このように雲除去手段101は、すべての1次雲除去画像で共通する1次除去画素のみを2次除去画素として除去(マスク)することとし、換言すれば雲が反映されている可能性が高い画素のみを除去することとしている。これにより、2次除去画素として除去されない画素(以下、「有効画素」という。)がより多く確保され、つまり画像のうちマスクされない領域をより広く確保することができるため、森林の経時的な変化を確認するためより多くの情報が得られるわけである。なお、森林画像に対して雲除去処理を実行した結果、1次除去画素とされなかった画素(例えば画素A1など)いう。)はもちろん有効画素であるが、1次除去画素とされたものの2次除去画素とされない画素(例えば画素E8など)もやはり有効画素となる。
【0034】
雲除去手段101は、森林画像セットを構成するすべての森林画像(
図2の例では7つの森林画像)に対して2次雲除去画像を生成することで雲除去画像セットを形成し、また2以上の種類の雲除去処理を実行することで複数の雲除去画像セット(
図2の例では3種類の雲除去画像セット)を形成する。
【0035】
(画像合成手段)
画像合成手段102は、雲除去画像セットを構成する森林画像(2次雲除去画像)を合成することによって暫定合成画像を生成するとともに、複数の暫定合成画像を合成することによって完成合成画像を生成する手段である。以下、暫定合成画像を生成する(以下、「1次画像合成」という。)手順と完成合成画像を生成する(以下、「2次画像合成」という。)手順について詳しく説明する。
【0036】
1次画像合成では、雲除去画像セットを構成するすべての2次雲除去画像(
図5の例では4つの2次雲除去画像)を合成することによって「暫定合成画像」を生成する。具体的には、まず2次雲除去画像を構成する全画素のうち2次除去画素として除去されない(つまりマスクされない)画素、すなわち有効画素を選出する。そして、同一の有効画素に付与されるそれぞれの画素値を統計処理することによってその有効画素を代表する画素値(以下、単に「代表画素値」という。)を求める。例えば、
図5に示す画素A8は有効画素であり、第1時期の2次除去画素における画素A8の画素値と、第2時期の画素A8の画素値、第3時期の画素A8の画素値、第4時期の画素A8の画素値を統計処理することによって画素A8の代表画素値を求めるわけである。
【0037】
ここで画素値とは、森林画像セットを構成する画素から得られる種々の物理量であって、RGBやグレースケール、あるいは植生指標などを利用することができる。この植生指標は、植物による光の反射の特徴を生かした植生状況(植物の量や活力)を把握する指標であり、衛星データを入力値とする計算式によって得られる物理量である。代表的な植生指標としては、正規化植生指標(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)が知られている。
【0038】
画素値を統計処理するにあたっては、単純平均値を求める手法や、重みづけを伴う加重平均値を求める手法、最頻値を求める手法、中央値を求める手法など、従来用いられている種々の手法を採用することができる。なお本願発明の発明者は、比較的短い期間(例えば1週間)に得られた森林画像セットを用いて合成画像(特に完成合成画像)を生成する場合、画素値の中央値を代表画素値として求める統計処理の採用が適していることを見出した。例えば
図6では、7つの森林画像から得られた画素値(NDVI)を観測時期(つまり撮影時期)の順でプロットしており、このケースでは5回目に得られた画素値(NDVI=4.0)が中央値として求められる。
【0039】
1次画像合成では、同一の有効画素に付与されるそれぞれの画素値を統計処理すると説明したが、既述したとおり1次除去画素とされたが2次除去画素とされない画素(
図5のうちグレーで網掛した画素)も有効画素となるため、この2次除去画素ではない1次除去画素(以下、「純粋1次除去画素」という。)の画素値も統計処理の対象になり得る。しかしながら、雲を含む画像と他の画像を合成すると「つぎはぎ感」が目立ち、森林状況判断の精度が落ちることが知られているため、この純粋1次除去画素は統計処理の対象に含めないことが望ましい。例えば、
図7のCASE1では対象とする4つの画素(第1時期の画素A1~第4時期の画素A1)に純粋1次除去画素が含まれないためすべての画素の画素値を対象として代表画素値を求めているが、CASE2では第3時期の画素C4が純粋1次除去画素とされているためこれを除いた3つ画素(第1時期の画素C4と第2時期の画素C4、第4時期の画素C4)の画素値を対象として代表画素値を求めている。同様にCASE2では、第1時期の画素F3と第4時期の画素F3が純粋1次除去画素とされているためこれらを除いた2つ画素(第2時期の画素F3と第3時期の画素F3)の画素値を対象として代表画素値を求めている。
【0040】
有効画素ごとに代表画素値が求められると、その有効画素に対して代表画素値を付与することによって、2次除去画素がマスクされた「暫定合成画像」が生成される。もちろん、
図2に示すように実行した雲除去処理の数(
図2では3つ)だけ暫定合成画像が生成される。
【0041】
2次画像合成では、複数の暫定合成画像を合成することによって「完成合成画像」を生成する。具体的には、1次画像合成と同様、同一の画素に付与されるそれぞれの画素値を統計処理することによって代表画素値を求め、その画素に対して代表画素値を付与することで完成合成画像を生成する。このときの画素値としては、1次画像合成で用いたものと同じ画素値(例えばNDVI)を採用するとよい。一方、画素値の統計処理の手法としては、1次画像合成の手法(例えば中央値を求める手法)を採用することもできるし、最頻値を求める手法など1次画像合成とは異なる手法を採用することもできる。また画素値を統計処理するにあたっては、2次除去画素は除いたうえで(つまり有効画素のみに対して)画素値を統計処理することが望ましい。
【0042】
(処理の流れ)
以下、
図8を参照しながら森林画像合成システム100の主な処理について詳しく説明する。
図8は、本願発明の森林画像合成システム100の主な処理の流れを示すフロー図である。なおこのフロー図では、中央の列に実施する行為を示し、左列にはその行為に必要なものを、右列にはその行為から生ずるものを示している。また、この場合の森林画像セットはn個の森林画像によって構成されており、m種類の雲除去処理が実行されている。
【0043】
図8に示すように、まず森林画像記憶手段104から森林画像セットを読み出し、雲除去手段101がその森林画像セットを構成する森林画像に対して雲除去処理を実行することによって雲除去画像(1次雲除去画像~2次雲除去画像)を生成する(Step201)。雲除去手段101がn回繰り返して雲除去画像を生成することで雲除去画像セットが得られると、画像合成手段102がその雲除去画像セットを構成するすべての2次雲除去画像を合成することによって「暫定合成画像」を生成する(Step202)。
【0044】
雲除去手段101がm回繰り返して雲除去画像セットを生成するとともに、画像合成手段102が繰り返し2次雲除去画像を合成することによってm個の暫定合成画像が得られると、これらm個の暫定合成画像を合成することによって「完成合成画像」を生成する(Step203)。ここで生成された完成合成画像は、ディスプレイやプリンタといった出力手段103に出力することで確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明の森林画像合成システムは、自然森林のほか人工森林など、種々の森林の状況を管理するケースで効果的に利用することができる。本願発明が、森林破壊に伴う野生動物の絶滅危機を低減するとともに、今まさに喫緊の課題である地球温暖化を抑制する効果があることを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献が期待できる発明といえる。
【符号の説明】
【0046】
100 本願発明の森林画像合成システム
101 (森林画像合成システムの)雲除去手段
102 (森林画像合成システムの)画像合成手段
103 (森林画像合成システムの)出力手段
104 (森林画像合成システムの)森林画像記憶手段