(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039669
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】処理装置、処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
C10B 21/10 20060101AFI20230314BHJP
G05D 23/00 20060101ALI20230314BHJP
G05D 23/19 20060101ALI20230314BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C10B21/10
G05D23/00 F
G05D23/19 J
G05B11/36 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146905
(22)【出願日】2021-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 章
(72)【発明者】
【氏名】小山 雄也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 快洋
(72)【発明者】
【氏名】空尾 謙嗣
【テーマコード(参考)】
4H012
5H004
5H323
【Fターム(参考)】
4H012AA02
4H012AA05
4H012AA08
4H012AA09
5H004GB01
5H004HA01
5H004HB01
5H004HB02
5H004JA03
5H004KB01
5H004KC22
5H004KC24
5H004KC27
5H323AA01
5H323BB01
5H323BB07
5H323BB08
5H323CA08
5H323CB10
5H323DA04
5H323EE02
5H323EE04
5H323FF01
5H323FF02
5H323JJ01
5H323JJ06
5H323KK05
(57)【要約】
【課題】 非定常操業における目標炉温を精度よく決定する。
【解決手段】 処理装置300は、非定常操業時における炉温の予測値に影響を与える因子である第1影響因子に基づいて、非定常操業時における炉温の予測値を算出し、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量の予測値に影響を与える因子である第2影響因子に基づいて、当該物理量の予測値を算出する。そして、処理装置300は、当該炉温の予測値と、当該物理量の予測値と、に基づいて、目標炉温軌道Tr_refを決定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉における燃焼室の温度である炉温の非定常操業時における目標値である目標炉温を決定する処理装置であって、
前記非定常操業時における前記炉温の予測値に影響を与える因子である第1影響因子に基づいて、前記非定常操業時における前記炉温の予測値を算出し、前記非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量の予測値に影響を与える因子である第2影響因子に基づいて、前記非定常操業時における前記物理量の予測値を算出する予測値算出手段と、
前記非定常操業時における前記炉温の予測値と、前記非定常操業時における前記物理量の予測値と、に基づいて、前記目標炉温の時間変化である目標炉温軌道を決定する目標炉温決定手段と、
を備える、処理装置。
【請求項2】
前記第1影響因子は、
前記非定常操業時における前記燃焼室に対する投入熱量と、
前記非定常操業時における前記炉温の予測値の予測時刻よりも前のタイミングにおける前記炉温と、を含み、
前記第2影響因子は、
前記非定常操業時における前記炉温を含む、請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記予測値算出手段は、
前記炉温の予測値として、前記燃焼室に対する制御周期に基づいて定められる所定の時間ごとの変化量を算出する、請求項1または2に記載の処理装置。
【請求項4】
前記第2影響因子は、
乾留時間を更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項5】
前記予測値算出手段は、
前記非定常操業時における前記物理量の予測値として、前記非定常操業の開始時から前記非定常操業の終了時までの変化量を算出する、請求項1~4のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項6】
前記コークス炉は、
Daを2以上の整数として、前記コークス炉の複数の炭化室に対しDa通りの通り単位で窯出し装炭作業が実行されるコークス炉であり、
前記非定常操業の終了時は、
前記炭化室への装炭と押出との休止が終了してからDa+1通り目の通りにおけるコークスの押出作業の終了時である、請求項1~5のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項7】
前記非定常操業の開始時は、
Dbを1以上の整数として、前記炭化室への装炭と押出との休止が開始される時よりもDb通り前の通りにおけるコークスの押出作業の終了時である、請求項6に記載の処理装置。
【請求項8】
前記目標炉温決定手段により目標炉温軌道が決定された後に操業条件が変更された場合、
前記予測値算出手段は、前記第1影響因子および前記第2影響因子のうち、前記操業条件の変更により変更される影響因子を前記操業条件に応じて変更した上で、前記操業条件が変更されたタイミング以降のタイミングでの、前記非定常操業時における前記炉温の予測値および前記物理量の予測値を算出し直し、
前記目標炉温決定手段は、前記操業条件が変更されたタイミング以降のタイミングでの前記目標炉温軌道を決定し直す、請求項1~7のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項9】
前記目標炉温決定手段は、
前記目標炉温軌道の候補と、前記炉温の予測値と、の差と、前記物理量の目標値である目標物理量と、前記物理量の予測値と、の差と、を算出することを含む計算の結果に基づいて、前記目標炉温軌道を決定する、請求項1~8のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項10】
前記目標炉温決定手段は、
前記目標炉温軌道の候補と、前記炉温の予測値と、の差を評価する第1評価指標と、前記物理量の目標値である目標物理量と、前記物理量の予測値と、の差を評価する第2評価指標と、を含む評価関数の値に基づいて、前記目標炉温軌道を決定する、請求項1~9のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項11】
前記第1影響因子は、
前記非定常操業時における前記燃焼室に対する投入熱量を含み、
前記評価関数は、
前記投入熱量を評価する第3評価指標を更に含む、請求項10に記載の処理装置。
【請求項12】
前記目標炉温決定手段は、
前記目標炉温軌道の候補を異ならせて前記評価関数の値を算出し、算出した前記評価関数の値に基づいて、前記目標炉温軌道を決定する、請求項10または11に記載の処理装置。
【請求項13】
前記予測値算出手段は、
前記目標炉温軌道の候補と、前記炉温の予測値と、に基づいて、前記非定常操業時における前記燃焼室に対する投入熱量の予測値を算出し、
前記第1影響因子として、
前記投入熱量の予測値が含まれる、請求項1~12のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項14】
前記非定常操業時における前記物理量は、
前記非定常操業時に製造されるコークスの温度、または、前記非定常操業時における前記コークス炉の炉壁の温度である、請求項1~13のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項15】
前記炉温は、
前記コークス炉の複数の燃焼室における温度の代表値である炉団温度である、請求項1~14のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項16】
前記コークス炉の燃焼室に対する投入熱量を、前記目標炉温決定手段により決定された目標炉温軌道と、前記炉温の実績値と、の差に応じた熱量にするための制御信号を生成して出力する制御手段を更に備える、請求項1~15のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項17】
コークス炉における燃焼室の温度である炉温の非定常操業時における目標値である目標炉温を決定する処理方法であって、
前記非定常操業時における前記炉温の予測値に影響を与える因子である第1影響因子に基づいて、前記非定常操業時における前記炉温の予測値を算出し、前記非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量の予測値に影響を与える因子である第2影響因子に基づいて、前記非定常操業時における前記物理量の予測値を算出する予測値算出工程と、
前記非定常操業時における前記炉温の予測値と、前記非定常操業時における前記物理量の予測値と、に基づいて、前記目標炉温の時間変化である目標炉温軌道を決定する目標炉温決定工程と、
を備える、処理方法。
【請求項18】
請求項1~16のいずれか1項に記載の処理装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理装置、処理方法、およびプログラムに関し、特に、コークス炉における炉温を決定することを含む処理を実行するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
室式と呼ばれるコークス炉では、耐火煉瓦等で形成された炉壁を介して、複数の炭化室と複数の燃焼室とが1つずつ交互に配置される。コークス製造プロセスでは、まず、炭化室に石炭を装入する(このように炭化室に石炭を装入することは「装炭」とも称され、炭化室は「窯」とも称される)。その後、石炭が装入された炭化室に対し、燃焼室から炉壁を介して石炭に熱を与え続けて石炭を乾留してコークスケーキを製造する(以下の説明では「コークスケーキ」を単に「コークス」とも称する)。乾留が終了すると、炭化室の両端にある扉を開け、押出ラムと呼ばれる装置でコークスを排出する(このような炭化室からのコークスの押出は「窯出し」とも称される)。
【0003】
コークス炉の窯出し装炭作業として、所謂ブロック窯出し法が採用されている。窯出し装炭作業とは、押出ラムにより炭化室からコークスを押し出し、引き続きその炭化室に石炭を装入する作業である。ブロック窯出し法では、全炭化室をDa個(Daは2以上の整数)のブロックに分割し、分割したブロックの単位で窯出し装炭作業が実行される。このブロックは「通り」とも称され、炭化室の並び順でDa個置きの複数の炭化室が同一の通りに属するように各炭化室がいずれかの通りに割り当てられる。例えば、炭化室の並び順に「1」から昇順に各炭化室に番号(炭化室No.)が付与されており、通りの数(=Da)を5とすると、1の通り(炭化室No.1、6、11、・・・)、2の通り(炭化室No.2、7、12、・・・)、3の通り(炭化室No.3、8、13、・・・)、4の通り(炭化室No.4、9、14、・・・)、および5の通り(炭化室No.5、10、15、・・・)のように全炭化室を5窯間隔で分割し、通り単位で窯出し装炭作業が実行される。
【0004】
特許文献1には、このようなコークス炉に対する投入熱量を制御するための技術として、目標コークス温度を達成するための燃焼室の温度(炉温)を求める技術が開示されている。具体的に、特許文献1には、将来の装入炭の予測装炭量、予測水分、計画乾留時間および実績炉温から、過去から将来までの各通りの目標炉温を演算し、各通りの目標炉温の重み付き平均値を、投入熱量を制御するための目標炉温として算出する技術が開示されている。
【0005】
このようなコークス炉において、定常操業時には、前述した窯出し装炭作業(装炭作業および押出作業)がほぼ一定の周期で繰り返されるが、設備のメンテンナンス等により窯出し装炭作業を一時的に休止する場合、非定常操業になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、予測装炭量および予測水分を用いた目標炉温の演算を行うものであり、定常操業時を前提とした技術である。また、特許文献1に記載の技術では、乾留状態の時間変化を考慮せずに、投入熱量を制御するための目標炉温を算出する。従って、特許文献1に記載の技術では、非定常操業時に乾留状態がどのように変化するのかを考慮することができない。よって、特許文献1に記載の技術では、非定常操業における目標炉温を精度よく決定することができない。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、非定常操業における目標炉温を精度よく決定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の処理装置は、コークス炉における燃焼室の温度である炉温の非定常操業時における目標値である目標炉温を決定する処理装置であって、前記非定常操業時における前記炉温の予測値に影響を与える因子である第1影響因子に基づいて、前記非定常操業時における前記炉温の予測値を算出し、前記非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量の予測値に影響を与える因子である第2影響因子に基づいて、前記非定常操業時における前記物理量の予測値を算出する予測値算出手段と、前記非定常操業時における前記炉温の予測値と、前記非定常操業時における前記物理量の予測値と、に基づいて、前記目標炉温の時間変化である目標炉温軌道を決定する目標炉温決定手段と、を備える。
【0010】
本発明の処理方法は、コークス炉における燃焼室の温度である炉温の非定常操業時における目標値である目標炉温を決定する処理方法であって、前記非定常操業時における前記炉温の予測値に影響を与える因子である第1影響因子に基づいて、前記非定常操業時における前記炉温の予測値を算出し、前記非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量の予測値に影響を与える因子である第2影響因子に基づいて、前記非定常操業時における前記物理量の予測値を算出する予測値算出工程と、前記非定常操業時における前記炉温の予測値と、前記非定常操業時における前記物理量の予測値と、に基づいて、前記目標炉温の時間変化である目標炉温軌道を決定する目標炉温決定工程と、を備える。
【0011】
本発明のプログラムは、前記処理装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非定常操業時における炉温の予測値と、非定常操業時おけるコークスの乾留状態を表す物理量の予測値と、を算出し、当該炉温の予測値と、当該物理量の予測値と、に基づいて、目標炉温軌道を決定する。従って、非定常操業時における炉温と、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量と、の予測結果が反映されるように、非定常操業における目標炉温を決定することができる。よって、非定常操業における目標炉温を精度よく決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】コークス炉およびコークス製造プロセスの一例を示す図である。
【
図2B】コークスが炭化室から押し出されている様子の一例を示す図である。
【
図3】処理装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図4】コークス温度、炉団温度、投入熱量、および乾留時間と時間との関係の一例を示す図である。
【
図6A】非定常操業の開始時刻に決定される目標炉温軌道の一例を説明する図である。
【
図6B】操業条件が変更されたタイミングで決定される目標炉温軌道の一例を説明する図である。
【
図7】処理方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図8】目標炉温軌道および実績炉温軌道の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
<コークス炉およびコークス製造プロセスの概要>
まず、
図1、
図2A、および
図2Bを参照して、コークス炉1の概略構成の一例と、コークス製造プロセスの一例の概要と、を説明する。
図1は、コークス炉およびコークス製造プロセスの一例を示す図である。
図2Aは、炉団温度の一例を説明する図である。
図2Bは、コークスが炭化室から押し出されている様子の一例を示す図である。なお、
図2Aおよび
図2Bでは、内部を透視した様子を示す。
図1および
図2Aに示すように、コークス炉1では、炭化室(窯)2と燃焼室3とが炉壁4を介して交互に配置されている。炭化室2は、装炭された石炭を乾留してコークスを得る。燃焼室3は、燃料ガスを燃焼させることにより、炭化室2を高温に保つ。
【0015】
背景技術の欄で説明したように、コークス炉1によるコークス製造プロセスにおいて、窯出し装炭作業には、所謂ブロック窯出し法が採用される。窯出し装炭作業は、
図2Bに示すような押出ラム7により炭化室2からコークスを押し出し、引き続きその炭化室2に石炭を供給する作業である。ブロック窯出し法では、全ての炭化室2をDa個(Daは2以上の整数)の通りに分割し、分割した通りの単位で窯出し装炭作業が実行される。炭化室2の並び順でDa個置きの複数の炭化室2が同一の通りに属するように各炭化室2がいずれかの通りに割り当てられる。本実施形態では、Daを5としてブロック窯出し法で窯出し装炭作業が実行される場合を例示する。この場合、例えば、1の通りに炭化室No.1、6、11、16、・・・の炭化室2が割り当てられ、2の通りに炭化室No.2、7、12、17、・・・の炭化室2が割り当てられ、3の通りに炭化室No.3、8、13、18、・・・の炭化室2が割り当てられ、4の通りに炭化室No.4、9、14、19、・・・の炭化室2が割り当てられ、5の通りに炭化室No.5、10、15、20、・・・の炭化室2が割り当てられる。通り単位で、若番の炭化室2から順に窯出し装炭作業が実行される。例えば、1の通りに割り当てられた炭化室2の窯出し装炭作業は、炭化室No.1の炭化室2、炭化室No.6の炭化室2、炭化室No.11の炭化室2、炭化室No.16の炭化室2、・・・の順に実行される。また、窯出し装炭順序は、急激な温度低下を防止するために、例えば1の通り、3の通り、5の通り、2の通り、4の通りの順とする。或る通りで窯出し装炭作業を終了したタイミングから、次の通りで窯出し装炭作業を終了するタイミングまでの時間を通り時間と称する。通り時間は、一般的に3~6時間程度になる。なお、本実施形態は、ブロック窯出し法に限定されない。例えば、以下の説明において、通り(ブロック)を個々の炭化室2として扱えば、1つの炭化室2の単位で窯出し装炭作業を実行する場合についても適用することができる。
【0016】
また、コークス炉製造プロセスにおいては、全燃焼室3の投入熱量を一括で調整し、各通りの平均的な乾留状態を制御する炉団制御が実行される。すなわち、コークス炉1への投入熱量は、全燃焼室3に対して設置された1個の調整弁5を操作することにより制御される。調整弁5は、燃料ガスおよび燃焼用空気の混合気体の流量を調整するための弁である。また、調整弁5は、後述する処理装置300の制御下で、不図示のアクチュエータを介して操作される。全燃焼室3の温度の代表値は、炉団温度と称される。例えば、
図2Aに示すように全燃焼室3のうちの複数の燃焼室3に、燃焼室3の雰囲気温度を測定する温度計6を設置し、温度計6が設置された燃焼室3の平均温度を炉団温度とする。本実施形態では、コークス炉1の燃焼室3における温度である炉温が炉団温度である場合を例示する。なお、本実施形態の手法は、全燃焼室3の投入熱量を一括で調整する場合に限定されない。例えば、1つの炭化室2の単位で窯出し装炭作業を実行する場合、各燃焼室3に調整弁およびアクチュエータを設置し、炭化室2ごとに乾留状態(投入熱量)を制御しても良い。
【0017】
また、温度計6は、全燃焼室3のそれぞれに設置されていても、一部の燃焼室3にのみ設置されていても良い。そして、例えば、全ての燃焼室3に温度計6を設置し、各燃焼室3の温度を当該燃焼室3の温度(炉温)としても良い。
また、前述したように、コークスは、押出ラム7により炭化室2から押し出される。
図2Bに示す例では、押出ラム7により炭化室2から押し出されたコークスは、ガイド車9を経由して、ガイド車9の下方に配置された不図示の消火車に排出され、当該消火車により下工程に運搬される場合を例示する。なお、ガイド車9は、窯出し装炭作業を行う炭化室2の位置に移動する。
図2Bでは、
図2Bの下に位置する炭化室2で製造されたコークスを、ガイド車9を経由して不図示の消火車に排出して窯出し装炭作業が終了した後、ガイド車9が
図2Bの上に位置する炭化室2に移動することを、移動後のガイド車9を二点鎖線で示すことにより表している。また、
図2Bでは、ガイド車9の内部に、非接触でコークスの温度を測定する温度計8が設置されている場合を例示する。温度計8は、ガイド車9に設けられている窓部を介してガイド車9の内部のコークスの通過経路を臨むように設置されている。このように本実施形態では、コークスの押出作業の最中(押出時)に炭化室2から出た直後のコークスの温度を測定する場合を例示する。なお、炭化室2から排出されたコークスの温度を測定していれば、コークス温度は、必ずしもこのようにして測定される必要はない。以下の説明では、このような炭化室2から出たコークスの温度をコークス温度とも称する。
【0018】
<処理装置300の概要>
図3は、処理装置300の機能的な構成の一例を示す図である。なお、処理装置300のハードウェアは、例えば、中央処理装置、主記憶装置、補助記憶装置、入力装置、および出力装置を備える情報処理装置を用いることにより実現される。また、処理装置300のハードウェアは、PLC(Programmable Logic Controller)により実現されても良いし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用のハードウェアにより実現されても良い。
【0019】
本実施形態では、処理装置300は、炉温の非定常操業時における目標値である目標炉温を決定する。前述したように本実施形態では、炉温が炉団温度である場合を例示する。定常操業においては、前述した窯出し装炭作業が、通り時間に対応するほぼ一定の周期で繰り返し実行される。これに対し、非定常操業においては、設備のメンテンナンス等により窯出し装炭作業を一時的に休止する。そこで、非定常操業時においては、例えば、炉団温度を一時的に低下させて設備のメンテンナンス等を実施した後、炉団温度を上昇させる。非定常操業は、窯出し装炭作業を一時的に休止している期間と、当該期間に続く少なくとも1回の窯出し装炭作業(装炭および押出)が実行されている期間と、を含む期間における操業である。本実施形態では、非定常操業は、窯出し装炭作業を一時的に休止している期間と、当該期間に続く少なくとも1つの通りにおける窯出し装炭作業が実行されている期間と、を含む期間における操業とする。
【0020】
また、本実施形態では、非定常操業の開始時および終了時は、窯出し装炭作業(コークスの押出(窯出し)作業)の終了時であるものとする。コークスの押出作業の終了時は、炭化室2内の全てのコークスが当該炭化室2から押し出された(排出された)タイミング以降のタイミングである。コークスの押出作業の終了時は、例えば、炭化室2から全てのコークスが排出されたタイミングであっても良いし、その後、炭化室2の扉を閉めたタイミングであっても良いし、炭化室2から排出されたコークスの温度が測定されるタイミングであっても良いし、炭化室2から押し出されたコークスが下工程に運搬されることを開始したタイミングであっても良い。また、コークス工場の操業マニュアルにおいて、コークスの押出作業が終了するとされているタイミングでも良い。以下の説明では、窯出し装炭作業を一時的に休止している期間を、休止期間とも称する。なお、操業異常が生じた場合には、非定常操業の開始時を、操業異常を検出したタイミングとしても良い。
【0021】
図1において、コークス炉1における目標炉温を決定することを含む処理を実行する処理装置300は、取得部310と、予測値算出部320と、目標炉温決定部330と、制御部340と、を備える。
取得部310は、処理装置300で使用する各種のデータを取得する。取得部310が取得するデータには、現在から過去の操業の実績値と、将来の操業のスケジュール値と、操業の目標値と、処理装置300における計算に使用する各種の設定値と、が含まれる。データの取得形態として、オペレータによる入力装置に対する操作、外部装置からの受信、および可搬型記憶媒体からの読み出しのうちの少なくとも1つが例示される。なお、個々のデータは、任意のタイミングで処理装置300に入力され取得部310に取得される。従って、個々のデータは、必ずしも同じタイミングで処理装置300に入力され取得部310で取得される必要はない。
【0022】
予測値算出部320は、非定常操業時における炉団温度の予測値に影響を与える因子である第1影響因子に基づいて、非定常操業時における炉団温度の予測値を算出する。また、予測値算出部320は、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量の予測値に影響を与える因子である第2影響因子に基づいて、コークスの乾留状態を表す物理量の予測値を算出する。
【0023】
なお、コークスの乾留状態とは、製造されたコークスにおいて石炭がどの程度乾留(熱分解)された状態であるのかを示し、コークスの品質を表す指標である。また、第1影響因子は、非定常操業時における炉団温度の予測値に影響を与える因子であれば特に限定されない。本実施形態では、第1影響因子に、非定常操業時における燃焼室3に対する投入熱量の予測値と、非定常操業時における炉団温度の予測値の予測時刻よりも前のタイミングにおける炉団温度と、が含まれる場合を例示する。ここで、炉団温度の予測値の予測時刻よりも前のタイミングにおける炉団温度は、予測値であっても実測値であっても良い。
【0024】
また、第2影響因子は、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量(本実施形態では非定常操業の終了時のコークス温度)の予測値に影響を与える因子であれば特に限定されない。本実施形態では、第2影響因子に、炉団温度の予測値と、乾留時間とが含まれる場合を例示する。乾留時間は、Da(=5)個の全ての通りにおける窯出し装炭作業が1回ずつ実行されるのに要する時間に等しい。
【0025】
コークスの乾留状態を表す物理量としては、例えば、非定常操業時に製造されるコークスの温度、非定常操業時における炉壁4の温度などがある。非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量は、定常状態に復帰したときのコークスの乾留状態を目標の状態に近づけるために用いられる。このような観点から、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量は、非定常操業から定常状態に復帰するタイミングに近いタイミングにおけるものほど好ましい。そこで、本実施形態では、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量が、休止期間が終了した後、最初に炭化室2に装炭されている石炭についてのコークス温度である場合を例示する。なお、後述する
図4に示すように、本実施形態では、休止期間が終了してから6通り目の通りにおけるコークスの押出作業の終了時刻を、非定常操業の終了時(非定常操業の終了時刻t
e)としているので、休止期間が終了した後、最初に炭化室2に装炭されている石炭についてのコークス温度は、非定常操業の終了時のコークス温度である。そこで、以下の説明では、休止期間が終了した後、最初に炭化室2に装炭されている石炭についてのコークス温度を非定常操業の終了時のコークス温度とも称する。また、本実施形態では、コークス温度が、通り毎の代表値である通り代表値である場合を例示する。代表値として、例えば、算術平均値、中央値、最頻値、および最小値のいずれかが例示される。なお、前述したように、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量は、コークス温度に限定されず、例えば、非定常操業時における炉壁4の温度でも良い。
【0026】
コークス温度は、炭化室2から排出されたコークスの温度であり、例えば、
図2Bに示す温度計8による測定値により算出される。押出ラム7により炭化室2からコークスを押し出しているときに、炭化室2から順次排出されるコークスの温度を、温度計8で測定し、測定した各時刻および各位置における温度の代表値を、当該炭化室2で製造されたコークスの温度とする。代表値として、算術平均値(測定した各時刻および各位置における温度の和を、温度の測定数で割った値)、中央値、最頻値、および最小値のいずれかが例示される。そして、1つの通りに属する炭化室2で製造されたコークスの温度の代表値を、コークス温度(通り代表値)とする。前述したように、通り代表値は、例えば、通り平均値(1つの通りに属する炭化室2で製造されたコークスの温度の和を、当該通りに属する炭化室2の数で割った値)である。なお、コークス温度は、炭化室2から排出された直後のコークスの温度であることが好ましいため、
図2Bに示すようにしてコークス温度を定めることを例示するが、コークス温度を測定するための温度計やコークス温度の定め方自体は、例えば、コークス工場で採用されているものを用いればよく、以上のようなものに限定されない。なお、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量を、非定常操業時における炉壁4の温度とする場合にも、炉壁4の温度を、1つの通りに属する炭化室2でコークスを製造しているときの炉壁4の温度の代表値(通り代表値)とする。炉壁4の温度は、例えば、炉壁4に埋設された不図示の温度計により測定される。
【0027】
なお、第1影響因子および第2影響因子として採用する因子は、例えば、目的変数(非定常操業時における炉団温度の予測値、非定常操業の終了時のコークス温度の予測値)に対する説明変数(第1影響因子、第2影響因子)を選択するための公知の手法(例えば、教師データを用いた目的変数と説明変数との相関係数の算出や、多重共線性を有する説明変数の排除等)を用いて決定される。また、目的変数と説明変数の少なくとも1つとを同じ物理量とし、目的変数である予測値の予測時刻よりも前の時刻の予測値または実績値を説明変数(第1影響因子、第2影響因子)としても良い。説明変数から目的変数を算出する手法自体は、例えば、回帰分析などの公知の機械学習の手法により実現される。
【0028】
図4は、コークス温度、炉団温度、投入熱量、および乾留時間と時間との関係の一例を示す図である。
本実施形態では、コークス温度および乾留時間は、通り毎の代表値であるため、1つの通りにおける窯出し装炭作業が実行されると得られる。すなわち、コークス温度および乾留時間は、通り時間の周期で得られる。
図4に示すコークス温度および乾留時間のグラフ(一番上のグラフと一番下のグラフ)において、時間軸方向で隣り合う2個のプロット(●)の、時間軸方向における間隔が通り時間t
tになる。
図4では、時刻t
eにおける通り時間t
t(t
e)を例示する。なお、通り時間t
tは、概ね一定の時間であるが、異なる時間になる場合もある。
【0029】
前述したように乾留時間は、Da(=5)個の全ての通りにおける窯出し装炭作業が1回ずつ実行されるのに要する時間に等しい。従って、
図4に示すコークス温度および乾留時間のグラフにおいて、時間軸方向で隣り合う6個のプロット(●)の両端のプロットの、時間軸方向における間隔が乾留時間になる。
図4では、時刻t
eにおける乾留時間t
k(t
e)を例示する。
【0030】
また、休止期間においては窯出し装炭作業が実行されないため、コークス温度および乾留時間は得られない(
図4において、休止期間においてはコークス温度および乾留時間のグラフにプロット(●)が付されていないことを参照)。
【0031】
一方、炉団温度および投入熱量は、窯出し装炭作業とは無関係に得られる(
図4において、休止期間においても炉団温度および投入熱量のグラフにプロット(●)が付されていることを参照)。本実施形態では、コークス炉1の制御周期(後述する制御部340における制御信号の出力周期)で炉団温度および投入熱量の予測値および実績値が得られ、通り時間の周期でコークス温度の予測値および実績値が得られ、通り時間の周期で乾留時間のスケジュール値および実績値が得られる場合を例示する。また、コークス炉1の制御周期は1時間(hr)であるものとする。
【0032】
図4において、時刻t
sは非定常操業の開始時刻の一例であり、時刻t
eは非定常操業の終了時刻の一例である。
具体的に本実施形態では、窯出し装炭作業(炭化室2への装炭と押出)の休止が開始される時よりもDb通り(Dbは1以上の整数)前の通りにおけるコークスの押出作業の終了時刻を非定常操業の開始時刻t
sとする場合を例示する。より具体的に本実施形態では、Dbが2である場合を例示する。従って、
図4において、休止期間が開始される時よりも2通り前の通りにおけるコークスの押出作業の終了時刻(休止期間の開始時刻から過去に向かって数えて2つ目のコークス温度のプロットの時刻)が、非定常操業の開始時刻t
sである。設備のメンテナンスが実行される場合のように休止期間が事前に把握されている場合には、Dbは1であっても2以上の整数であっても良い。一方、操業異常が生じた場合のように休止期間が事前に把握されないような場合には、Dbは1であるのが好ましい。なお、
図4では、表記の都合上、コークス温度および乾留時間のグラフにおいて、休止期間と重なっているプロットがあるが、当該プロットは、休止期間の直前、直後における通り単位での窯出し装炭作業により得られるものである。従って、前述した説明において休止期間が開始される時よりも2通り前の通りとは、休止期間の開始時刻に重なっているプロットを含めて、休止期間の開始時刻から過去に向かって数えて2つ目のコークス温度のプロットの時刻に対応する。
【0033】
また、本実施形態では、窯出し装炭作業(炭化室2への装炭と押出)の休止が終了してからDa+1通り目の通りにおけるコークスの押出作業の終了時刻が、非定常操業の終了時刻t
eである場合を例示する。なお、通りにおけるコークスの押出作業の開始とは、当該通りに属する炭化室2のうち、最初にコークスの押出作業が実行される炭化室2内のコークスの押出作業の開始を指し、通りにおけるコークスの押出作業の終了とは、当該通りに属する炭化室2のうち、最後にコークスの押出作業が実行される炭化室2内のコークスの押出作業の終了を指す。前述したように本実施形態では、Daが5である場合を例示する。従って、
図4において、休止期間が終了してから6通り目の通りにおけるコークスの押出作業の終了時刻(休止期間の終了時刻から未来に向かって数えて6つ目のコークス温度のプロットの時刻)が、非定常操業の終了時刻t
eである。休止期間が終了してから1通り目からDa通り(5通り)目までの通りにおいては、休止期間の間に炭化室2に存在している石炭からコークスが製造される。
【0034】
一方、休止期間が終了してからDa+1通り(6通り)目の通りにおいては、休止期間が終了した後に炭化室2に石炭が装入される。休止期間が終了した後に炭化室2に装入されたコークスの乾留状態が可及的に早く定常状態における乾留状態に近づくようにするのが好ましい。そこで、本実施形態では、窯出し装炭作業(炭化室2への装炭と押出)の休止が終了してからDa+1通り(6通り)目の通りにおけるコークスの押出作業の終了時刻を、非定常操業の終了時刻teとする。すなわち、非定常操業の終了時刻teは、休止期間が終了した後に最初に窯出し装炭作業を実行する通りにおけるコークスの押出作業の終了時刻である。ただし、非定常操業の終了時刻は、窯出し装炭作業(炭化室2への装炭と押出)の休止が終了してからDa+1通り目の通りにおけるコークスの押出作業の終了時刻に限定されない。例えば、窯出し装炭作業(炭化室2への装炭と押出)の休止が終了してからDa+x通り目の通りにおけるコークスの押出作業の終了時を、非定常操業の終了時刻とし、xの値を1以上の整数の中から選択しても良い。xやDbの値は、例えば、後述するように、目標炉温軌道に対する炉団温度の実績値の偏差に応じた投入熱量の制御を実際に実行した結果、所望の品質のコークスが得られるように適宜調整すれば良い。
以上のように非定常操業となる期間(非定常操業時)は時刻ts~teの期間になる。
【0035】
図3の説明に戻り、本実施形態では、予測値算出部320は、炉状態算出部321と、投入熱量算出部322と、を有する。
前述したように本実施形態では、第1影響因子は、燃焼室3に対する投入熱量の予測値を含む。そこで、投入熱量算出部322は、非定常操業時の燃焼室3に対する投入熱量の予測値を算出する。炉状態算出部321は、前述した第1影響因子に基づいて、非定常操業時の炉温の予測値を算出することと、前述した第2影響因子に基づいて、非定常操業時のコークスの乾留状態を表す物理量の予測値を算出することと、を実行する。本実施形態では、炉温は炉団温度であり、コークスの乾留状態を表す物理量はコークス温度である。
【0036】
目標炉温決定部330は、予測値算出部320で算出された非定常操業時の炉温の予測値と、予測値算出部320で算出された非定常操業時のコークスの乾留状態を表す物理量の予測値と、に基づいて、非定常操業時における炉温の目標値である目標炉温の時間変化である目標炉温軌道を決定する。本実施形態では、目標炉温は、炉団温度の目標値である目標炉団温度である。
制御部340は、燃焼室3に対する投入熱量を、目標炉温決定部330により決定された目標炉温軌道と、炉温の実績値と、の差に応じた熱量にするための制御信号を生成して出力する。
【0037】
ここで、本実施形態の炉状態算出部321、投入熱量算出部322、目標炉温決定部330、および制御部340における処理の具体例を説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて、燃焼室3に対する投入熱量を、投入熱量と略称し、非定常操業の終了時のコークス温度を、コークス温度と略称し、非定常操業時の炉団温度を、炉団温度と略称する。
【0038】
<炉状態算出部321>
まず、炉状態算出部321における処理の具体例を説明する。
本実施形態では、炉状態算出部321は、プロセスモデルとして、投入熱量(GJ/hr)を入力とする線形時系列モデルを用いた計算を実行することにより、炉団温度の予測値を算出する。線形時系列モデルは、プロセス状態の予測値を所定時間毎に計算する統計解析モデルの一つである。本実施形態では、線形時系列モデルを二次遅れ系のモデルとして、以下の(1)式~(3)式に示す回帰式を例示する。
【0039】
【0040】
ここで、Trは、炉団温度(℃)である。Qは、投入熱量(GJ/hr)である。ΔTr(t+1)、ΔTr(t)、ΔTr(t-1)は、それぞれ、時刻t+1、t、t-1における炉団温度Tr(t+1)、Tr(t)、Tr(t-1)の、時刻t、t-1、t-2における炉団温度Tr(t)、Tr(t-1)、Tr(t-2)に対する変化量(℃)である。すなわち、ΔTr(t+1)=Tr(t+1)-Tr(t)、ΔTr(t)=Tr(t)-Tr(t-1)、ΔTr(t-1)=Tr(t-1)-Tr(t-2)の関係が成り立つ。ΔQ(t+1)は、時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の、時刻tにおける投入熱量に対する変化量(GJ/hr)である。すなわち、ΔQ(t+1)=Q(t+1)-Q(t)の関係が成り立つ。なお、前述したように、t+1、t-1、t-2は、それぞれ、時刻tの1時間後、1時間前、2時間前の時刻である。
【0041】
Q(t)は、投入熱量算出部322により算出される投入熱量である。ΔQ(t+1)は、投入熱量算出部322により算出される投入熱量に基づいて算出される。時刻tが非定常操業の開始時刻tsである場合、Tr(t)、Tr(t-1)、Tr(t-2)は、それぞれ、時刻ts、ts-1、ts-2における炉団温度の実績値であり、ΔTr(t)、ΔTr(t-1)は、これらの実績値に基づいて算出される。時刻tが非定常操業の開始時刻tsよりも後の時刻である場合、ΔTr(t)、ΔTr(t-1)は、当該時刻tよりも前の時刻における(1)~(3)式の算出結果(ΔTr(t+1))に基づいて算出される。非定常操業の開始時刻tsよりも後の時刻t(>ts)における炉団温度Tr(t)が炉団温度の予測値になる。
【0042】
係数a1、a2、b1は、それぞれ、ΔTr(t)、ΔTr(t-1)、ΔQ(t+1)に対する係数である。係数a1、a2、b1として、コークス炉1の過去の操業結果に(1)式の形が最も合うときの係数が別途求められる。例えば、コークス炉1の過去の操業結果から得られる、一組のΔTr(t+1)、ΔTr(t)、ΔTr(t-1)、およびΔQ(t+1)のデータを1つの教師データとして多数の教師データを作成し、教師データを用いて重回帰分析を実行することにより係数a1、a2、b1を求めれば良い。
【0043】
また、本実施形態では、炉状態算出部321は、プロセスモデル(物理モデル)として、炉団温度(℃)および乾留時間(hr)を入力とする線形モデルを用いた計算を実行することにより、コークス温度の予測値を算出する。線形モデルは、プロセス状態の予測値を計算する統計解析モデルの一つであり、本実施形態では、線形モデルとして、以下の(4)式~(9)式に示す重回帰式を例示する。
【0044】
【0045】
ここで、Tcは、コークス温度(℃)であり、tkは、乾留時間(hr)である。Tc(ts)は、非定常操業の開始時刻tsにおけるコークス温度の実績値であり、Tc(te)は、非定常操業の終了時刻teにおけるコークス温度の予測値である。従って、(5)式に示すように、ΔTcは、非定常操業の開始時刻tsから非定常操業の終了時刻teまでの期間におけるコークス温度のコークス温度の変化量になる。Tr(ts)は、非定常操業の開始時刻tsにおける炉団温度の実績値である。Tr(te-Δt1)、Tr(te-Δt2)、Tr(te-Δt3)は、それぞれ、非定常操業の終了時刻teのΔt1時間前、Δt2時間前、Δt3時間前の時刻te-Δt1、te-Δt2、te-Δt3における炉団温度の予測値である。Tr(te-Δt1)、Tr(te-Δt2)、Tr(te-Δt3)は、(1)式~(3)式により算出される。ここで、Δt1、Δt2、およびΔt3は、Δt1≧0、Δt1<Δt2<Δt3、およびte-Δt3>tsの関係が成り立つように設定される。また、tk(ts)は、非定常操業の開始時刻tsにおける乾留時間の実績値であり、tk(te)は、非定常操業の終了時刻teにおける乾留時間のスケジュール値(hr)である。係数c1、c2、c3、d1は、それぞれ、ΔTr1、ΔTr2、ΔTr3、Δtkに対する係数である。係数c1、c2、c3、d1として、コークス炉1の過去の操業結果に(4)式の形が最も合うときの係数が別途求められる。例えば、コークス炉1の過去の操業結果から得られる、一組のΔTr1、ΔTr2、ΔTr3、Δtkのデータを1つの教師データとして多数の教師データを作成し、教師データを用いて重回帰分析を実行することにより係数c1、c2、c3、d1を求めれば良い。
【0046】
<投入熱量算出部322>
投入熱量算出部322は、目標炉温軌道の候補と、炉状態算出部321により算出された炉団温度の予測値と、に基づいて、非定常操業時における投入熱量の予測値を算出する。なお、本実施形態では、目標炉温軌道の候補は、目標炉温決定部330から出力される場合を例示する。投入熱量算出部322は、目標炉温軌道の候補と、炉状態算出部321により算出された炉団温度の予測値と、の差が小さくなる(好ましくは0(零)になる)投入熱量の予測値として、時刻tの1時間後の予測値Q(t+1)を算出する。このような投入熱量の予測値の算出方法自体は、公知の技術で実現される。投入熱量算出部322は、例えば、PID制御をコンピュータシミュレーションする制御シミュレータを用いて、目標炉温軌道の候補に対する、炉状態算出部321により算出された炉団温度の予測値の偏差に応じた投入熱量の予想値をPID制御により算出する。また、PID制御に代えてPI制御等の他の制御を用いても良い。
【0047】
この他、投入熱量算出部322は、以下の(10)式および(11)式を用いて、投入熱量の予測値Q(t+1)を算出しても良い。
【0048】
【0049】
ここで、Tr_ref(t+m)は、時刻t+mにおける目標炉温軌道(炉団温度の目標値)の候補であり、本実施形態では、目標炉温決定部330から与えられる場合を例示する(
図3の目標炉温決定部330から予測値算出部320に向かう矢印線を参照)。Tr(t+m)は、時刻t+mにおける炉団温度の予測値であり、本実施形態では、炉状態算出部321により算出される。従って、Tr_ref(t+m)からTr(t+m)を減算した値であるTr_errは、時刻t+mにおける炉団温度の予測誤差である。Q(t+1)_oldは、更新前の時刻t+1における投入熱量であり、Q(t+1)_newは、更新後の時刻t+1における投入熱量である。また、(11)式に示すGは、Tr_errに乗算される所定のゲインである。mは、2以上の正の整数であり、時刻tよりもどの程度先の時刻における炉団温度の予測誤差を算出対象とするのかに応じて適宜設定される。
【0050】
(10)式および(11)式の計算を実行する場合、投入熱量算出部322は、時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の候補の初期値を、炉状態算出部321に出力する。時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の候補の初期値は、どのようにして定めても良い。例えば、投入熱量算出部322は、時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の候補の初期値を、乱数を用いて定めても、予め設定された値に定めても良い。炉状態算出部321は、時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の候補の初期値を用いて、<炉状態算出部321>の項で説明したようにして炉団温度の予測値を算出する。このとき、炉状態算出部321は、少なくとも、時刻t~t+mにおける1時間ごとの炉団温度の予測値を算出する。投入熱量算出部322は、炉状態算出部321により算出された時刻t+mにおける炉団温度の予測値と、時刻t+mにおける目標炉温軌道(炉団温度の目標値)の候補と、に基づいて、(10)式により、時刻t+mにおける炉団温度の予測誤差Tr_errを算出する。
【0051】
そして、投入熱量算出部322は、時刻t+mにおける炉団温度の予測誤差Tr_errが所定値以下であるか否かを判定する。時刻t+mにおける炉団温度の予測誤差Tr_errは小さいほど好ましい。従って、所定値として、例えば、0(零)または0に近い値が設定される。投入熱量算出部322は、時刻t+mにおける炉団温度の予測誤差Tr_errが所定値以下でない場合、時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の候補の初期値を(11)式の右辺第1項(Q(t+1)_old)に与えると共に、時刻t+mにおける炉団温度の予測誤差Tr_errを(11)式の右辺第2項に与えて、(11)式により、更新後の時刻t+1における投入熱量Q(t+1)_newを算出する。投入熱量算出部322は、このようにして算出した更新後の時刻t+1における投入熱量Q(t+1)_newを、時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の新たな候補とする。そして、時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の新たな候補を用いて、時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の候補の炉状態算出部321への出力と、炉状態算出部321による炉団温度の予測値の算出と、時刻t+mにおける炉団温度の予測誤差Tr_errを算出と、更新後の時刻t+1における投入熱量Q(t+1)_newの算出とを、時刻t+mにおける炉団温度の予測誤差Tr_errが所定値以下になるまで繰り返し実行する。
【0052】
投入熱量算出部322は、時刻t+mにおける炉団温度の予測誤差Tr_errが所定値以下である場合、当該時刻t+mにおける炉団温度の予測誤差Tr_errを算出する際に用いた更新後の時刻t+1における投入熱量Q(t+1)_newを、時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の予測値として確定する。炉状態算出部321は、投入熱量算出部322により確定された時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の予測値を用いて時刻t+1における炉団温度Tr(t+1)の予測値を算出し、算出した予測値を、時刻t+1における炉団温度Tr(t+1)の予測値として確定する。
【0053】
予測値算出部320は、以上のようにして確定した、投入熱量Q(t+1)および炉団温度Tr(t+1)の予測値を、目標炉温決定部330に出力する(
図3の予測値算出部320から目標炉温決定部330に向かう矢印線(炉団温度、投入熱量)を参照)。
そして、時刻tを時刻t
s+1~t
e-1まで1時間ごとに後ろにずらして前述したようにして投入熱量Q(t+1)および炉団温度Tr(t+1)の予測値を確定することを繰り返す。これにより、時刻t
s+1~t
eまで1時間ごとの各時刻における、投入熱量Q(t+1)および炉団温度Tr(t+1)の予測値が確定する。非定常操業の終了時刻t
eにおける炉団温度Tr(t
e)の予測値が確定すると、炉状態算出部321は、(4)式~(9)式により、非定常操業の終了時のコークス温度Tc(t
e)の予測値を算出して確定する。予測値算出部320は、以上のようにして確定された、コークス温度Tc(t
e)の予測値を、目標炉温決定部330に出力する(
図3の予測値算出部320から目標炉温決定部330に向かう矢印線(コークス温度)を参照)。
【0054】
時刻t+mにおける目標炉温軌道の候補Tr_ref(t+m)の候補の数は1つであっても複数であっても良いが、後述する<目標炉温決定部330>の項では、時刻t+mにおける目標炉温軌道の候補Tr_ref(t+m)の候補の数が複数である場合を例示する。時刻t+mにおける目標炉温軌道の候補Tr_ref(t+m)の候補の数が複数である場合、予測値算出部320は、複数の候補のそれぞれについて、時刻ts+1~teの1時間ごとの各時刻における、投入熱量Q(t+1)および炉団温度Tr(t+1)の予測値を、以上のようにして確定する。
【0055】
<目標炉温決定部330>
目標炉温決定部330は、予測値算出部320により算出(確定)された、投入熱量の予測値、炉団温度の予測値、およびコークス温度の予測値に基づいて、目標炉温軌道を決定する。
【0056】
図5は、目標炉温軌道の一例を説明する図である。
図5の上に示すグラフは、コークス温度の時間変化の一例を示し、下に示すグラフは、炉団温度の時間変化の一例を示す。
図5において、白丸の時間軸上の位置(時刻)が、コークス温度、炉団温度が得られる時刻である。
図5では、表記の都合上、非定常操業の開始時刻t
sから終了時刻t
eまでの期間にのみ白丸を示すが、コークス温度および炉団温度は、当該期間外においても得られる。
【0057】
図5の上に示すグラフにおいて、Tc(t
e)は、予測値算出部320により算出(確定)されたコークス温度Tc(t
e)の予測値である。Tc_svは、非定常操業の終了時のコークス温度の目標値であり、コークスに要求される品質等に応じて設定される。以下の説明では、この目標値Tc_svを、目標コークス温度とも称する。
【0058】
図5の下に示すグラフにおいて、Tr(t
s)は、非定常操業の開始時の炉団温度Tr(t
s)の実績値である。ΔTr1は、非定常操業の開始直前の定常状態における炉団温度(=非定常操業の開始時の炉団温度)から、非定常操業時における最低炉団温度までの炉団温度の変化量(℃)である。以下の説明では、ΔTr1を、非定常開始時炉温変化量とも称する。ΔTr2は、非定常操業時における最低炉団温度から、非定常操業の終了直後の定常状態における炉団温度(=非定常操業の終了時の炉団温度)までの炉団温度の変化量(℃)である。以下の説明では、ΔTr2を、非定常終了時炉温変化量とも称する。time1は、炉団温度が、非定常操業の開始直前の定常状態における炉団温度から、非定常操業時における最低炉団温度まで変化するのに要する時間(hr)である。以下の説明では、この時間time1を、最低炉温到達時間time1とも称する。time2は、炉団温度が、非定常操業時における最低炉団温度から、非定常操業の終了直後の定常状態における炉団温度まで変化するのに要する時間(hr)である。以下の説明では、この時間time2を、最低炉温維持時間time2とも称する。time0は、非定常操業の期間(hr)である。そして、非定常操業の開始時刻t
sから終了時刻t
eまでの実線で示すグラフが、目標炉温軌道Tr_refである。
【0059】
本実施形態では、目標炉温決定部330が、組合せ最適化問題等の最適化問題を解くことにより、
図5の下に示すような目標炉温軌道Tr_refの最適解を算出して、目標炉温軌道Tr_refを決定する場合を例示する。この場合、非定常開始時炉温変化量ΔTr1、非定常終了時炉温変化量ΔTr2、最低炉温到達時間time1、および最低炉温維持時間time2が、設計変数(求解対象の変数)になる。
【0060】
まず、目標炉温決定部330は、目標炉温軌道Tr_refの候補群(複数の候補)を生成して予測値算出部320に出力する。本実施形態では、遺伝的アルゴリズム等のメタヒューリスティクス手法を用いて目標炉温軌道Tr_refの最適解を算出する場合を例示する。従って、目標炉温軌道Tr_refの候補群に含まれる個々の候補は、遺伝的アルゴリズム等のメタヒューリスティクス手法で用いられる手法に従って生成される。遺伝的アルゴリズム等のメタヒューリスティクス手法自体は公知の技術で実現されるので、その詳細な説明を省略する。
【0061】
予測値算出部320は、<炉状態算出部321>の項および<投入熱量算出部322>の項で説明したようにして、投入熱量Q(t)の予測値、炉団温度Tr(t)の予測値、およびコークス温度Tc(te)の予測値を算出(確定)する。投入熱量Q(t)の予測値および炉団温度Tr(t)の予測値は、非定常操業の開始時刻tsから非定常操業の終了時刻teまでの1時間ごとの値である。コークス温度Tc(te)の予測値は、非定常操業の終了時の値である。
【0062】
目標炉温決定部330は、予測値算出部320に出力した目標炉温軌道Tr_refの候補と、当該目標炉温軌道Tr_refの候補に対して予測値算出部320により算出(確定)された、投入熱量Q(t)の予測値、炉団温度Tr(t)の予測値、およびコークス温度Tc(te)の予測値と、を用いて、以下の(13)式の制約式を満足する場合の以下の(12)式の評価関数J(適合度関数)の値を算出する。
【0063】
【0064】
(12)式の右辺第1項および第3項のtの積算の範囲は、t
sからt
eまでの範囲である(t
s≦t≦t
e)。(12)式の右辺第1項は、目標炉温軌道Tr_refの候補と、炉団温度Tr(t)の予測値と、の差を評価する第1評価指標の一例である。(12)式の右辺第2項は、目標物理量の一例である目標コークス温度Tc_svと、コークスの乾留状態を表す物理量の予測値の一例であるコークス温度Tc(t
e)の予測値と、の差を評価する第2評価指標の一例である。(12)式の右辺第3項は、投入熱量Q(t)を評価する第3評価指標の一例である。w1、w2、w3は、それぞれの評価指標(評価項目)をどの程度重視するかによって設定されるものであり、各評価指標間の評価のバランスを表す重み係数である(なお、重み係数はコスト係数等とも称される)。本実施形態では、重み係数w1、w2、w3は、正の値とする。この場合、重要な評価指標に対する重み係数を相対的に大きい値とする。また、(12)式に示す例では、(12)式の右辺の各項の値が小さいほど、それぞれの評価指標による評価が高いことを示す。従って、評価関数Jの値は0に近ければ近いほど好ましい。すなわち、目標炉温決定部330は、(13)式の制約式を満足する範囲で評価関数Jの値が(0以上の範囲で)最小になる設計変数を最適解として探索する。前述したように本実施形態では、設計変数は、非定常開始時炉温変化量ΔTr1、非定常終了時炉温変化量ΔTr2、最低炉温到達時間time1、および最低炉温維持時間time2である(
図5を参照)。なお、評価関数の値が最大となるような設計変数を最適解として探索しても良い。このようにする場合、例えば、(12)式の右辺の各項に(-1)を乗算したものを評価関数として用いる。目標炉温決定部330は、(13)式の制約式を満足する範囲で、当該評価関数の値が最大となる設計変数を最適解として探索する。
【0065】
なお、目標炉温決定部330は、生成した目標炉温軌道Tr_refの候補が(13)式の制約式を満足しない場合、当該目標炉温軌道Tr_refの候補を予測値算出部320に出力せずに破棄する。
【0066】
目標炉温決定部330は、目標炉温軌道Tr_refの候補群に含まれる個々の候補についての評価関数Jの値の算出結果に基づいて、収束条件を満足するか否かを判定する。収束条件は、遺伝的アルゴリズム等のメタヒューリスティクス手法で用いられる収束条件であれば、どのような条件であっても良い。収束条件は、例えば、目標炉温軌道Tr_refの候補群に含まれる個々の候補について算出した評価関数Jの値のうちの最小値が所定値以下であるという条件であっても、評価関数Jの値の算出回数(繰り返し処理の回数)が所定値であるという条件であっても良い。
【0067】
目標炉温決定部330は、収束条件を満足しない場合、目標炉温軌道Tr_refの候補群を再生成して更新する。そして、目標炉温決定部330は、収束条件を満足まで、前述したようにして評価関数Jの値の算出と、収束条件を満足するか否かの判定と、目標炉温軌道Tr_refの候補群の再生成と、を繰り返し実行する。
【0068】
目標炉温決定部330は、収束条件を満足したときに算出した複数の目標炉温軌道Tr_refの候補に対する評価関数Jの値のうち、評価関数Jの値が最小値となるときの設計変数(非定常開始時炉温変化量ΔTr1、非定常終了時炉温変化量ΔTr2、最低炉温到達時間time1、および最低炉温維持時間time2)により定まる目標炉温軌道Tr_refを、目標炉温軌道Tr_refの最適解として決定する。
【0069】
<制御部340>
制御部340は、投入熱量算出部322が投入熱量の予測値を算出する方法と同じ方法で現在時刻の1時間後の時刻における燃焼室3に対する投入熱量を算出する。例えば、投入熱量算出部322が、PID制御をコンピュータシミュレーションする制御シミュレータを用いて現在時刻の1時間後の時刻における投入熱量の予測値を算出する場合、制御部340は、PID制御器を有する。制御部340は、PID制御器を用いて、目標炉温決定部330により決定された目標炉温軌道Tr_refの現在時刻の1時間後の時刻における値を算出する。そして、制御部340は、燃焼室3に対する投入熱量を、算出した現在時刻の1時間後の時刻における燃焼室3に対する投入熱量と、目標炉温決定部330により決定された目標炉温軌道Tr_refの現在時刻の1時間後の時刻における値と、の差に応じた熱量にするための制御信号を生成して出力する。制御信号の出力先として、調整弁5を操作するアクチュエータの制御装置が例示される。当該制御装置は、制御信号に従う開度になるように調整弁5を操作することをアクチュエータに指示する。
【0070】
また、例えば、投入熱量算出部322が、(10)式および(11)式を用いて、投入熱量の予測値Q(t+1)を算出する場合、制御部340は、(10)式および(11)式を用いて、投入熱量の予測値Q(t+1)を算出し、燃焼室3に対する投入熱量を当該投入熱量の予測値Q(t+1)にするための制御信号を生成して出力しても良い。なお、このようにする場合には、現在時刻の1時間後の時刻までの投入熱量の予測値Q(t+1)が算出されれば良い。すなわち、このようにする場合、<投入熱量算出部322>の項における説明において、時刻tを時刻ts+1~te-1まで1時間ごとに後の時刻にずらして繰り返し実行する処理は不要である。
【0071】
<非定常操業中に操業条件が変更される場合>
以上の炉状態算出部321、投入熱量算出部322、および目標炉温決定部330における処理は、非定常操業の開始時刻tsになると実行され、目標炉温軌道が決定される。その後、非定常操業の途中で、目標炉温軌道の決定に影響する操業条件が変更される場合がある。このような場合には、当該操業条件が変更されたタイミング以降の目標炉温軌道を決定し直すのが好ましい。このような操業条件として、乾留時間のスケジュール値が例示される。乾留時間のスケジュール値が変更されると、非定常操業の終了時刻teが変更される。そこで、以下では、乾留時間のスケジュール値が非定常操業の開始時刻tsにおける値よりも長くなった場合を例示して、非定常操業中に操業条件が変更された場合の目標炉温軌道の再決定方法の一例を説明する。なお、或る通りに属する炭化室2におけるコークスの乾留時間のスケジュール値の変更は、例えば、当該通りよりも先に窯出し装炭作業が実行される通りに属する炭化室2における窯出し装炭作業が予定よりも遅れたり早まったりすることにより発生する。
【0072】
図6Aは、非定常操業の開始時刻t
sに決定される目標炉温軌道の一例を説明する図であり、
図6Bは、操業条件が変更されたタイミングで決定される目標炉温軌道の一例を説明する図である。
図6Aおよび
図6Bにおいて、Tr_ref_oldは、非定常操業の開始時刻t
sに決定された目標炉温軌道を示す。
図6Aおよび
図6Bにおいて、Tr_mesは、炉団温度Tr(t)の実績値である実績炉温軌道を示す。
図6Aでは、非定常操業の開始時刻t
sまで炉団温度Tr(t)の実績値が得られていることを示す。
図6Aでは、目標炉温軌道Tr_ref_oldに対応する設計変数(非定常開始時炉温変化量ΔTr1、非定常終了時炉温変化量ΔTr2、最低炉温到達時間time1、および最低炉温維持時間time2)を、ΔTr1_old、ΔTr2_old、time1_old、time2_oldと表記している。
【0073】
非定常操業の途中で、目標炉温軌道の決定に影響する操業条件が変更された場合には、非定常操業の開始時刻tsから、非定常操業の終了時刻teまでではなく、操業条件が変更された時刻から、非定常操業の終了時刻teまでの期間において、予測値算出部320(炉状態算出部321および投入熱量算出部322)による、投入熱量Q(t)の予測値、炉団温度Tr(t)の予測値、およびコークス温度Tc(te)の予測値の算出(確定)と、目標炉温決定部330による目標炉温軌道Tr_refの決定と、が実行される。この場合、設計変数のうち、操業条件が変更された時刻において変更できない設計変数については、目標炉温決定部330により既に決定されている(最新の)目標炉温軌道Tr_refにおける値にする。従って、目標炉温決定部330による評価関数Jの算出に際して、(13)式に示す制約式に加えて、操業条件が変更された時刻において変更できない設計変数が、目標炉温決定部330により既に決定されている(最新の)目標炉温軌道Tr_refにおける値であるという制約条件を示す制約式が追加される。
【0074】
また、非定常操業の開始時刻tsから、操業条件が変更された時刻までの期間における、投入熱量および炉団温度については、予想値ではなく実測値を用いる。従って、目標炉温決定部330による評価関数Jの算出に際して、(13)式に示す制約式に加えて、非定常操業の開始時刻tsから、操業条件が変更された時刻までの期間における、投入熱量Q(t)、炉団温度Tr(t)の値は、(予想値ではなく)実測値であるという制約条件を示す制約式が追加される。
【0075】
また、炉状態算出部321、投入熱量算出部322、および目標炉温決定部330における処理において、変更後の操業条件が用いられる。非定常操業の終了時刻teにおける乾留時間tk(te)のスケジュール値が変更される場合、(9)式におけるtk(te)の値が変更される。また、非定常操業の期間time0が変更される。
【0076】
図6Bでは、時刻t
mにおいて操業条件が変更された場合を例示する。この場合、操業条件が変更された時刻t
mまで炉団温度Tr(t)の実績値(実績炉温軌道Tr_mes)が得られていることになる。操業条件が変更された時刻t
mにおいて、設計変数のうち、操業条件が変更された時刻t
mにおいて変更できない設計変数は、非定常開始時炉温変化量ΔTr1および最低炉温到達時間time1である。従って、目標炉温決定部330による評価関数Jの算出に際して、(13)式に示す制約式に加えて、非定常開始時炉温変化量ΔTr1および最低炉温到達時間time1を、非定常操業の開始時刻t
sに決定された目標炉温軌道Tr_ref_oldにおける非定常開始時炉温変化量ΔTr1_oldおよび最低炉温到達時間time1_oldとする制約式(ΔTr1=ΔTr1_old、time1=time1_old)が追加される。また、(13)式の非定常操業の期間time0は、
図6Aに示す変更前の期間time0_oldから
図6Bに示す変更後の期間time0_newに変更される。なお、乾留時間のスケジュール値が変更されることは、例えば、窯出し装炭作業(コークスの押出作業)の際に把握される。
【0077】
以上の変更を行った上で前述した炉状態算出部321、投入熱量算出部322、および目標炉温決定部330における処理を実行することにより、操業条件が変更された時刻t
mにおいて変更可能な設計変数が決定される。
図6Bでは、操業条件が変更された時刻t
mにおいて変更可能な設計変数(非定常終了時炉温変化量ΔTr2、最低炉温維持時間time2)を、ΔTr2_new、time2_newと表記している。また、
図6Bでは、
図6Aに示す目標炉温軌道Tr_ref_oldのうち、操業条件が変更された時刻t
m以降の時刻における部分が、非定常終了時炉温変化量ΔTr2_new、最低炉温維持時間time2_newにより定まる目標炉温軌道Tr_ref_newに変更されることを示す。なお、
図6Bでは、目標炉温軌道Tr_ref_newとの比較のために、
図6Aに示す目標炉温軌道Tr_ref_oldのうち、操業条件が変更された時刻t
m以降の時刻における部分も示す。
【0078】
<フローチャート>
次に、
図7のフローチャートを参照しながら、処理装置300を用いた処理方法の一例を説明する。
【0079】
まず、ステップS701において、取得部310は、処理装置300で使用するデータを取得する。
本実施形態では、取得部310は、非定常操業の終了時のコークス温度の目標値である目標コークス温度Tc_sv(℃)を取得する(
図5を参照)。
また、取得部310は、通り時間t
tと、通り数Da(個)とを取得する。通り時間t
tは、スケジュール値または実績値である。
また、取得部310は、非定常操業の開始時刻t
sにおける乾留時間t
k(t
s)の実績値(hr)と、非定常操業の終了時刻t
eにおける乾留時間t
k(t
e)のスケジュール値(hr)と、を取得する。
【0080】
また、取得部310は、非定常操業の開始時刻t
sと、非定常操業の終了時刻t
eとを取得する(
図5を参照)。非定常操業の開始時刻t
sは実績値である。非定常操業の終了時刻t
eは、予定時刻である。取得部310は、非定常操業の開始時刻t
sに、非定常操業の開始時刻t
eにおける乾留時間(t
e)のスケジュール値を加算した値を非定常操業の終了時刻t
eとして算出する。このようにすることに代えて、取得部310は、非定常操業の開始時刻t
sと、各通りにおける通り時間t
tの加算値と、を加算した値を、非定常操業の終了時刻t
eとして算出しても良い。そして、取得部310は、非定常操業の開始時刻t
sと、非定常操業の終了時刻t
eと、に基づいて、非定常操業の期間time0(hr)を算出する(
図5を参照)。
【0081】
また、取得部310は、非定常操業の開始時刻t
sにおける炉団温度Tr(t
s)の実績値(℃)を取得する(
図5を参照)。
取得部310は、前述した実績値の他に、炉団温度Tr(t)、コークスの押出作業の終了時のコークス温度Tc(t)、および燃焼室3に対する投入熱量Q(t)等、コークス炉1における各種の実績値(操業実績データ)を取得する。
図4を参照しながら前述したように、炉団温度Trおよび燃焼室3に対する投入熱量Qは、コークス炉1の制御周期で取得される。また、コークスの押出作業の終了時のコークス温度Tcは、通り時間の周期で取得される。
【0082】
また、取得部310は、予測値算出部320および目標炉温決定部330における処理で使用される定数として、重み係数w1、w2、w3、係数a1~a2、b1、c1~c3、d1、時間Δt
1、Δt
2、Δt
3、ゲインG、および非定常操業の終了時のコークス温度の目標値Tc_sv等を取得する。また、取得部310は、コークス炉1における操業条件として前述した操業条件(目標コークス温度Tc_svや乾留時間(t
e)のスケジュール値等)以外の操業条件を取得しても良い。
なお、取得部310におけるデータの取得のタイミングは、
図7に例示するタイミングに限定されず、
図7のいずれのタイミングであっても良い。
【0083】
次に、ステップS702において、取得部310は、目標炉温軌道Tr_refを決定するタイミングであるか否かを判定する。本実施形態では、取得部310は、非定常操業が開始したタイミングと、操業条件が変更されたタイミングで、目標炉温軌道Tr_refを決定するタイミングであると判定する。取得部310は、例えば、ステップS701において、非定常操業の開始時刻tsを取得している場合に、非定常操業が開始したと判定する。また、取得部310は、例えば、ステップS701において、非定常操業の終了時刻teにおける乾留時間tk(te)のスケジュール値として、既に取得しているスケジュール値と異なるスケジュール値を取得している場合に、操業条件が変更されたと判定する。
【0084】
ステップS702の判定の結果、目標炉温軌道Tr_refを決定するタイミングでない場合(ステップS702でNOの場合)、ステップS701の処理が再び実行される。そして、ステップS702の判定の結果、目標炉温軌道Tr_refを決定するタイミングであると判定されると(ステップS702でYESの場合)、ステップS703の処理が実行される。
【0085】
ステップS703において、目標炉温決定部330は、目標炉温軌道Tr_refの候補群の初期値を生成する。
次に、ステップS704において、処理装置300は、現在処理時刻tを、目標炉温軌道Tr_refを決定する時刻tcに設定する。本実施形態では、目標炉温軌道Tr_refを決定する時刻tcは、非定常操業の開始時刻tsまたは操業条件が変更された時刻tmである。なお、現在処理時刻tは、現実の時刻ではなく、コンピュータシミュレーションにおけるシミュレーション時刻である。
【0086】
次に、ステップS705において、投入熱量算出部322は、目標炉温軌道Tr_refの候補と、炉状態算出部321により算出された炉団温度の予測値と、に基づいて、時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の予測値を、目標炉温軌道Tr_refの候補群に含まれる複数の候補のそれぞれについて算出する。前述したように時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の予測値の算出は、例えば、PID制御をコンピュータシミュレーションする制御シミュレータや、(10)式および(11)式を用いた計算等により実現される。
【0087】
次に、ステップS706において、炉状態算出部321は、ステップS705で算出された時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の予測値と、時刻t+1よりも前の時刻t、t-1、t-2における炉団温度Tr(t)、Tr(t-1)、Tr(t-2)の予測値および/または実測値と、を用いて、炉団温度の予測値Tr(t+1)を算出する((1)式~(3)式を参照)。なお、時刻t+1が時刻ts+1である場合、炉団温度Tr(t)、Tr(t-1)、Tr(t-2)の実測値が用いられる。時刻t+1が時刻ts+4以降においては、炉団温度Tr(t)、Tr(t-1)、Tr(t-2)の予測値が用いられる。時刻t+1が、これらの間の時刻である場合、炉団温度Tr(t)、Tr(t-1)、Tr(t-2)の予測値と実測値との双方が用いられる。
【0088】
次に、ステップS707において、処理装置300は、現在処理時刻tが時刻te-1であるか否かを判定する。この判定の結果、現在処理時刻tが時刻te-1でない場合(ステップS707でNOの場合)、ステップS708の処理が実行される。
【0089】
ステップS708において、処理装置300は、現在処理時刻tに1時間を加算して現在処理時刻tを更新する。そして、ステップS705~S706において、更新後の現在処理時刻tの1時間後の時刻t+1における、投入熱量Q(t+1)の予測値および炉団温度Tr(t+1)の予測値が、目標炉温軌道Tr_refの候補群に含まれる複数の候補のそれぞれについて算出される。以上のように、ステップS707において、現在処理時刻tが時刻te-1になると判定されるまで、ステップS705~S708の処理は繰り返し実行される。
【0090】
ステップS707において、現在処理時刻tが時刻te-1であると判定されると(ステップS707でYESの場合)、目標炉温軌道Tr_refを決定する時刻tc(非定常操業の開始時刻tsまたは操業条件が変更された時刻tm)から、非定常操業の終了時刻teまでの1時間ごとの各時刻t+1における投入熱量Q(t+1)の予測値および炉団温度Tr(t+1)の予測値が、目標炉温軌道Tr_refの候補群に含まれる複数の候補のそれぞれについて算出される。この場合、ステップS709の処理が実行される。
【0091】
ステップS709において、炉状態算出部321は、非定常操業の開始時刻tsにおける炉団温度Tr(ts)の実績値、非定常操業の終了時刻teにおける炉団温度Tr(te)の予測値、非定常操業の開始時刻tsにおける乾留時間tk(ts)の実績値、および非定常操業の終了時刻teにおける乾留時間tk(te)のスケジュール値に基づいて、非定常操業の終了時刻teにおけるコークス温度Tc(te)の予測値を、目標炉温軌道Tr_refの候補群に含まれる複数の候補のそれぞれについて算出する((4)式~(9)式を参照)。なお、非定常操業の終了時刻teにおけるコークス温度Tc(te)の予測値を算出する際には、(6)~(8)式により計算される非定常操業中の炉団温度の予測値Tr(te-Δt1)、Tr(te-Δt2)、Tr(te-Δt3)も用いられる。
【0092】
次に、ステップS710において、目標炉温決定部330は、(13)式を含む制約式を満足する場合の(12)式の評価関数Jの値を、目標炉温軌道Tr_refの候補群に含まれる複数の候補のそれぞれについて算出する。
次に、ステップS711において、目標炉温決定部330は、収束条件を満足するか否かを判定する。この判定の結果、収束条件を満足しない場合(ステップS711でNOの場合)、ステップS712の処理が実行される。ステップS712において、目標炉温決定部330は、目標炉温軌道Tr_refの候補群を更新する。そして、更新後の目標炉温軌道Tr_refの候補を用いて、ステップS704~S711の処理が実行される。このようにステップS704~S712の処理は、収束条件を満足するまで繰り返し実行される。
【0093】
そして、ステップS711において、収束条件を満足すると判定されると(ステップS711でYESの場合)、ステップS713の処理が実行される。ステップS713において、目標炉温決定部330は、収束条件を満足したときに算出した複数の目標炉温軌道Tr_refの候補に対する評価関数Jの値のうち、評価関数Jの値が最小値となるときの設計変数(非定常開始時炉温変化量ΔTr1、非定常終了時炉温変化量ΔTr2、最低炉温到達時間time1、および最低炉温維持時間time2)により定まる目標炉温軌道Tr_refを、目標炉温軌道Tr_refとして決定する。
次に、ステップS714において、制御部340は、ステップS705で投入熱量算出部322により投入熱量Q(t+1)の予測値を算出するのと同じ方法で現在時刻の1時間後の時刻における燃焼室3に対する投入熱量を算出する。そして、制御部340は、燃焼室3に対する投入熱量を、算出した現在時刻の1時間後の時刻における燃焼室3に対する投入熱量と、目標炉温決定部330により決定された目標炉温軌道Tr_refの現在時刻の1時間後の時刻における値と、の差に応じた熱量にするための制御信号を生成して出力する。なお、現在時刻は、当該ステップS714を実行するときの現実の時刻である。ステップS714の処理が終了すると、
図7のフローチャートによる処理は終了する。
【0094】
<計算例>
図8は、目標炉温軌道Tr_refおよび実績炉温軌道Tr_mesの一例を示す図である。
図8に示す実績炉温軌道Tr_mesは、過去の操業の結果から所望の品質を満足するコークスが製造されたときの炉団温度である。目標炉温軌道Tr_refは、当該過去の操業において、目標炉温軌道Tr_refを決定する時刻t
c(非定常操業の開始時刻t
sまたは操業条件が変更された時刻t
m)よりも後の時刻の実績値を用いずに目標炉温軌道Tr_refを決定する時刻t
cまでの実績値を用いて本実施形態の手法で決定した炉団温度である。
【0095】
図8(a)は、非定常操業の間、操業条件が変更されなかった場合の計算結果を示す。
図8(a)に示すように、目標炉温軌道Tr_refを実績炉温軌道Tr_mesに高精度に追従させることができることが分かる。
【0096】
図8(b)は、非定常操業の途中で、操業条件(乾留時間)が変更された場合の計算結果を示す。
図8(b)では、
図6Bと同様に、比較のため、操業条件が変更された時刻t
m以降においても、非定常操業の開始時刻t
sにおいて決定された目標炉温軌道Tr_ref_oldを示す。
図8(b)において、非定常操業の開始時刻t
sから操業条件が変更された時刻t
mまでは、非定常操業の開始時刻t
sにおいて決定された目標炉温軌道Tr_ref_oldが目標炉温軌道として用いられる。そして、操業条件が変更された時刻t
mから非定常操業の終了時刻t
eまでは、操業条件が変更された時刻t
mにおいて決定された目標炉温軌道Tr_ref_newが用いられる。
【0097】
図8(b)に示すように、操業条件が変更された時刻t
mにおいて目標炉温軌道Tr_ref_newを決定し直すと、目標炉温軌道Tr_refを実績炉温軌道Tr_mesにより一層高精度に追従させることができることが分かる。
【0098】
<まとめ>
以上のように本実施形態では、処理装置300は、非定常操業時における炉温の予測値に影響を与える因子である第1影響因子に基づいて、非定常操業時における炉温の予測値を算出し、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量の予測値に影響を与える因子である第2影響因子に基づいて、当該物理量の予測値を算出する。そして、処理装置300は、当該炉温の予測値と、当該物理量の予測値と、に基づいて、目標炉温軌道Tr_refを決定する。従って、非定常操業時における炉温と、非定常操業時におけるコークスの乾留状態と、がどのようになるのかを予測し、予測した結果が反映されるように、目標炉温軌道を動的に決定することができる。非定常操業における目標炉温を精度よく決定することができる。
【0099】
また、本実施形態では、処理装置300は、非定常操業時における炉温の予測値に影響を与える因子である第1影響因子として、非定常操業時における燃焼室3に対する投入熱量と、当該予測値の予測時刻(炉温の予測値が得られた時刻)よりも前のタイミングにおける炉温と、を含む影響因子を用いる。また、処理装置300は、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量に影響を与える因子である第2影響因子として、非定常操業時における炉温の予測値を含む影響因子を用いる。そして、処理装置300は、第1影響因子に基づいて、既に算出している炉温の予測値の予測時刻よりも後の予測時刻における炉温の予測値を算出する(具体例として(1)式~(3)式を参照)。また、処理装置300は、このようにして算出した非定常操業時における炉温の予測値を含む第2影響因子に基づいて、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量の予測値を算出する(具体例として(4)式~(8)式を参照)。従って、非定常操業時における炉温の予測値およびコークスの乾留状態を表す物理量の予測値に与える影響が大きい影響因子を用いて、炉温の予測値およびコークスの乾留状態を表す物理量の予測値を算出することができる。
【0100】
また、本実施形態では、処理装置300は、炉温の予測値として、燃焼室3に対する制御周期に基づいて定められる所定の時間ごとの変化量を算出する。従って、燃焼室3に対する制御周期と同期したタイミングで、炉温の予測値の変化量を算出することができる。よって、例えば、炉温の予測値の時刻を、燃焼室3に対する制御周期に合う時刻に調整するための計算が不要になると共に、炉温の変化量の予測値を累積加算することにより炉温を予測することができる。
【0101】
また、本実施形態では、処理装置300は、第2影響因子として、乾留時間を更に含む影響因子を用いる。従って、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量の予測値の予測精度をより向上させることができる。
【0102】
また、本実施形態では、処理装置300は、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量の予測値として、非定常操業の開始時から非定常操業の終了時までの変化量を算出する。従って、非定常操業の開始時と非定常操業の終了時とのそれぞれにおけるコークスの乾留状態を表す物理量を予測することにより、コークスの乾留状態を表す物理量を予測することができる。
【0103】
また、本実施形態では、処理装置300は、非定常操業の終了時を、炭化室2への装炭と押出との休止が終了してからDa+1通り目の通りにおけるコークスの押出作業の終了時として処理を実行する。従って、コークス炉におけるバッチ式の操業の区切りとなるタイミングで、非定常操業の終了時を定めることができる。また、例えば、コークス温度が測定されるタイミングに合わせて非定常操業の終了時を定めることができる。
【0104】
また、本実施形態では、処理装置300は、非定常操業の開始時を、炭化室2への装炭と押出との休止が開始される時よりもDb通り前の通りにおけるコークスの押出作業の終了時として処理を実行する。従って、コークス炉におけるバッチ式の操業の区切りとなるタイミングで、非定常操業の終了時を定めることができる。また、例えば、コークス温度が測定されるタイミングに合わせて非定常操業の開始時を定めることができる。
【0105】
また、本実施形態では、処理装置300は、目標炉温軌道が決定された後に操業条件が変更された場合、第1影響因子および第2影響因子のうち、操業条件の変更により変更される影響因子を操業条件に応じて変更した上で、操業条件が変更された時刻tm以降の時刻での、非定常操業時における炉温の予測値およびコークスの乾留状態を表す物理量の予測値を算出し直し、目標炉温軌道を決定し直す。従って、目標炉温軌道が決定された後に操業条件が変更された場合であっても、非定常操業における目標炉温を精度よく決定することができる。
【0106】
また、本実施形態では、処理装置300は、目標炉温軌道の候補と炉温の予測値との差(具体例として(12)式の右辺第1項を参照)と、コークスの乾留状態を表す物理量の目標値である目標物理量とコークスの乾留状態を表す物理量の予測値との差(具体例として(12)式の右辺第2項を参照)と、を算出することを含む計算の結果に基づいて、目標炉温軌道を決定する。従って、炉温の予測値の定量的な評価と、コークスの乾留状態を表す物理量の予測値の定量的な評価と、の双方を実現することができる。よって、非定常操業における目標炉温を、これらの定量的な評価に基づいて精度よく決定することができる。
【0107】
また、本実施形態では、処理装置300は、目標炉温軌道の候補と炉温の予測値との差を評価する第1評価指標(具体例として(12)式の右辺第1項を参照)と、コークスの乾留状態を表す物理量の目標値である目標物理量とコークスの乾留状態を表す物理量の予測値との差を評価する第2評価指標(具体例として(12)式の右辺第2項を参照)と、を含む評価関数の値に基づいて、目標炉温軌道を決定する。従って、炉温の予測値の定量的な評価とコークスの乾留状態を表す物理量の予測値の定量的な評価とを、最適化問題を解くことにより実行することができる。
【0108】
また、本実施形態では、処理装置300は、投入熱量を評価する第3評価指標(具体例として(12)式の右辺第3項を参照)を更に含む評価関数の値に基づいて、目標炉温軌道を決定する。従って、非定常操業における目標炉温を決定するための最適化問題を、より高精度な最適解が得られる最適化問題とすることができる。
【0109】
また、本実施形態では、処理装置300は、目標炉温軌道の候補を異ならせて評価関数の値を算出し、算出した評価関数の値に基づいて、目標炉温軌道を決定する。従って、物理現象を記述する微分方程式等を用いなくても、メタヒューリスティクス手法により目標炉温軌道を決定することができる。
【0110】
また、本実施形態では、処理装置300は、目標炉温軌道の候補と炉温の予測値とに基づいて、投入熱量の予測値を算出する。従って、第1影響因子として投入熱量の予測値を定量的に求めることができる。
【0111】
また、本実施形態では、処理装置300は、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量として、非定常操業時に製造されるコークスの温度、または、非定常操業時における炉壁4の温度を用いる。従って、非定常操業時におけるコークスの乾留状態を表す物理量として、非定常操業時に測定可能な物理量を用いることができる。よって、例えば、コークスの乾留状態を表す物理量の予測値の検証が可能になる。なお、
図2Bを参照しながら説明したように、非定常操業時に製造されるコークスの温度は、例えば、コークスの押出作業の最中に測定される。非定常操業時における炉壁4の温度についても同様に、例えば、コークスの押出作業の最中に測定される。
【0112】
また、本実施形態では、処理装置300は、炉温として、複数の燃焼室3における温度の代表値である炉団温度を用いる。従って、炉温に関する変数を少なくすることができる。よって、例えば、計算負荷をより軽減することができる。
【0113】
また、本実施形態では、処理装置300は、燃焼室3に対する投入熱量を、目標炉温軌道と炉温の実績値との差に応じた熱量にするための制御信号を生成して出力する。従って、処理装置300において、目標炉温軌道を実現するための制御を実行することができる。
【0114】
なお、本実施形態では、炉温が炉団温度である場合を例示した。しかしながら、炉温は炉団温度に限定されない。例えば、前述したように全ての燃焼室3に調整弁およびアクチュエータを設置すると共に全ての燃焼室3に温度計6を設置している場合、通り(ブロック)を個々の炭化室2として扱うように各式を変更し、コークス炉1の燃焼室3における温度である炉温を、炉団温度ではなく、個々の燃焼室3の温度としても良い。このようにする場合、例えば、(1)式~(3)式、(10)式~(11)式を燃焼室3ごとの式に変更しても良い。また、非定常操業の開始時刻tsおよび終了時刻teにおけるコークス温度がどの炭化室2におけるコークス温度であるかに応じて、当該炭化室2に近い1つまたは複数の燃焼室3の燃焼室の温度を、(4)式の説明変数であるΔTr1~ΔTr3を定める温度にしても良い。また、(12)式の右辺第1項および第3項について、Σ|Tr(t)-Tr_ref|およびΣ|Q(t)|を、燃焼室3ごとに算出し、燃焼室3ごとのΣ|Tr(t)-Tr_ref|およびΣ|Q(t)|の和を、それぞれ重み係数w1、w3に乗算される評価指標としても良い。
【0115】
なお、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0116】
1 コークス炉
2 炭化室
3 燃焼室
4 炉壁
5 調整弁
6 温度計
7 押出ラム
8 温度計
9 ガイド車
300 処理装置
310 取得部
320 予測値算出部
321 炉状態算出部
322 投入熱量算出部
330 目標炉温決定部
340 制御部
tk 乾留時間
tt 通り時間
ts 非定常操業の開始時刻
te 非定常操業の終了時刻
tm 操業条件が変更された時刻
Tc コークス温度
Tr 炉団温度
Tr_ref 目標炉温軌道
Tr_mes 実績炉温軌道
time0 非定常操業の期間
time1 最低炉温到達時間
time2 最低炉温維持時間
ΔTr1 非定常開始時炉温変化量
ΔTr2 非定常終了時炉温変化量