(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039771
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】鋼材冷却装置及び鋼材冷却方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20230314BHJP
B23K 25/00 20060101ALN20230314BHJP
【FI】
B23K31/00 J
B23K25/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147051
(22)【出願日】2021-09-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】592173124
【氏名又は名称】日本ファブテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】橋田 知幸
(72)【発明者】
【氏名】森平 久士
(72)【発明者】
【氏名】加賀 豊丈
(72)【発明者】
【氏名】市原 学
(57)【要約】
【課題】鋼材の溶接中の溶接対象部に対して効率的に冷却効果を発揮することができる鋼材冷却装置及び鋼材溶接方法を提供する。
【解決手段】第一鋼材の一面側に対して直交して配置された第二鋼材との溶接に用いられる鋼材冷却装置であって、前記第一鋼材と第二鋼材との間における上下方向に沿って配置された溶接対象部を下方から上方に向けて移動しながら溶接する溶接部材と、前記溶接対象部において前記溶接部材の先端部の下方に形成された溶融部の第1位置を検出する検出部と、前記検出部の検出結果に基づいて、前記第1位置に対応する前記第一鋼材の他面側の第2位置に冷却用気体及び冷却材が混合された混合気を噴射する冷却部と、を備えたことを特徴とする鋼材冷却装置である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一鋼材の一面側に対して直交して配置された第二鋼材との溶接に用いられる鋼材冷却装置であって、
前記第一鋼材と第二鋼材との間における上下方向に沿って配置された溶接対象部を下方から上方に向けて移動しながら溶接する溶接部材と、
前記溶接対象部において前記溶接部材の先端部の下方に形成された溶融部の第1位置を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記第1位置に対応する前記第一鋼材の他面側の第2位置に冷却用気体及び冷却材が混合された混合気を噴射する噴射ノズルを有する冷却部と、を備えることを特徴とする鋼材冷却装置。
【請求項2】
前記噴射ノズルは、上下方向に移動自在に設けられ、前記検出部の検出結果に基づいて、前記第2位置に対応する高さ位置に移動し前記第2位置に前記混合気を噴射する、
請求項1に記載された鋼材冷却装置。
【請求項3】
上下方向に沿って配置された複数の前記噴射ノズルを備え、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記第2位置に対応する高さ位置に対応した少なくとも1つの前記噴射ノズルから前記第2位置に前記混合気を噴射する、
請求項1に記載された鋼材冷却装置。
【請求項4】
前記冷却部は、前記第2位置において発生した熱に基づいて蒸発或いは昇華する分量の前記冷却材を噴射する、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の鋼材冷却装置。
【請求項5】
起立した第一鋼材の一面側に対して起立した第二鋼材を直交して配置する工程と、
前記第一鋼材と第二鋼材との間における上下方向に沿って配置された溶接対象部を下方から上方に向けて溶接部材を移動させながら溶接する工程と、
前記溶接対象部において前記溶接部材の先端部の下方に形成された溶融部の第1位置を検出する工程と、
前記第1位置の検出結果に基づいて、前記第1位置に対応する前記第一鋼材の他面側の第2位置に冷却用気体及び冷却材が混合された混合気を噴射する工程と、を備えることを特徴とする、鋼材冷却方法。
【請求項6】
前記第1位置の検出結果に基づいて、前記第2位置に対応する高さ位置において前記混合気を噴射する、
請求項5に記載の鋼材冷却方法。
【請求項7】
前記第1位置の検出結果に基づいて、上下方向に沿って配置された複数の冷却部をのうち、前記第2位置に対応する高さ位置に対応した前記冷却部から前記第2位置に前記混合気を噴射する、
請求項5に記載の鋼材冷却方法。
【請求項8】
前記冷却材は、前記第2位置において発生した熱に基づいて蒸発或いは昇華する分量が噴射される、
請求項5から7のうちいずれか1項に記載の鋼材冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高層建築等の鋼製構造部材の溶接時に用いられる鋼材冷却装置及び鋼材溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高層建築の柱部材は、鋼板を溶接して矩形断面の鋼管を形成し、この鋼管内の内部空間にコンクリートを充填して形成される場合がある。この柱部材用の鋼管は、4面ビルトボックス柱と呼ばれている。4面ビルトボックス柱には、H形鋼等により形成された梁部材がボルト締めや溶接等で連結される。
【0003】
例えば、4面ビルトボックス柱の内部空間には、梁部材が連結される部分において強度を確保するための矩形の板状に形成された内ダイアフラムが溶接される。内ダイアフラムと柱スキンプレートとの溶接には、例えば、エレクトロスラグ溶接と呼ばれる溶接方法が用いられる場合がある。
【0004】
エレクトロスラグ溶接は、上下方向に沿って配置された鋼製部材同士の隙間に、溶接棒の先端を先ず下方に配置してアーク放電して溶融部を形成し、溶融部を下方から上方に順次形成し、上下方向に沿った溶接部を形成するものである。エレクトロスラグ溶接は、入熱量が大きいため鋼材の冷却速度が小さい場合、鋼材が軟化し靭性が低下する場合がある。4面ビルトボックス柱においては、柱体表面の部材である柱スキンプレートの靭性の低下を抑制する必要がある。4面ビルトボックス柱に用いられるエレクトロスラグ溶接において、スキンプレート外側から一定量の水を噴射させて冷却速度を大きくし、靭性の低下を抑制する方法が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1に記載された溶接方法によれば、起立して配置された鋼製のスキンプレートの一面側に鋼製のダイアフラムを起立して直交方向に配置し、ダイアフラムとダイアフラムとの間における上下方向に沿って配置された溶接対象部を棒状の溶接部材が下方から上方に向けて移動しながらエレクトロスラグ溶接する方法が記載されている。この溶接方法において、溶接時にスキンプレートの他面側に配置された冷却水を噴射する多数本の噴射ノズルのうち、溶接位置に対応した噴射ノズルから所定量の冷却水を噴射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された発明によれば、大量の水を冷却材として溶接時における鋼材の溶接位置に噴射し、かけ流しの状態で冷却している。発明者らは、鋭意研究の下、より効率的に溶接時における鋼材の冷却対象部分への冷却効果を奏する冷却材及び冷却方法を見出した。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、鋼材の溶接中の溶接対象部に対して効率的に冷却効果を発揮することができる鋼材冷却装置及び鋼材溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、第一鋼材の一面側に対して直交して配置された第二鋼材との溶接に用いられる鋼材冷却装置であって、前記第一鋼材と第二鋼材との間における上下方向に沿って配置された溶接対象部を下方から上方に向けて移動しながら溶接する溶接部材と、前記溶接対象部において前記溶接部材の先端部の下方に形成された溶融部の第1位置を検出する検出部と、前記検出部の検出結果に基づいて、前記第1位置に対応する前記第一鋼材の他面側の第2位置に冷却用気体及び冷却材が混合された混合気を噴射する冷却部と、を備えたことを特徴とする鋼材冷却装置である。
【0010】
本発明によれば、溶接中の第1位置を冷却する際に第2位置に冷却用気体及び冷却材が混合された混合気を噴射することで、冷却材の使用量を低減しつつ、鋼材の靭性低下を抑制する冷却効果を奏することができる。
【0011】
また、本発明の前記冷却部は、上下方向に移動自在に設けられ、前記検出部の検出結果に基づいて、前記第2位置に対応する高さ位置に移動し前記第2位置に前記混合気を噴射してもよい。
【0012】
本発明によれば、冷却部が上下方向に移動自在に設けられているため、噴射ノズルを1本により構成することができ、装置構成を簡略化することができる。
【0013】
また、本発明は、上下方向に沿って配置された複数の前記冷却部を備え、前記検出部の検出結果に基づいて、前記第2位置に対応する高さ位置に対応した前記冷却部から前記第2位置に前記混合気を噴射してもよい。
【0014】
本発明によれば、予め設置された複数の噴射ノズルのうち、第2位置に対応する高さ位置に対応した冷却部から混合気を噴射するため、噴射ノズルの切り替える簡便な操作により第2位置を冷却することができる。
【0015】
また、本発明の前記冷却材は、前記第2位置において発生した熱に基づいて蒸発或いは昇華する分量が噴射されてもよい。
【0016】
本発明によれば、第2位置の冷却において、冷却材が第2位置において発生した熱に基づいて蒸発或いは昇華する分量により噴射されるため、混合気中の気体及び冷却材自体の冷却効果に加えて冷却材の気化熱や昇華熱に基づく冷却効果が加わるため、少ない冷却材に基づいて冷却効果を高めることができる。
【0017】
本発明の一態様は、起立した第一鋼材の一面側に対して起立した第二鋼材を直交して配置する工程と、前記第一鋼材と第二鋼材との間における上下方向に沿って配置された溶接対象部を下方から上方に向けて溶接部材を移動させながら溶接工程と、前記溶接対象部において前記溶接部材の先端部の下方に形成された溶融部の第1位置を検出する工程と、前記検出部の検出結果に基づいて、前記第1位置に対応する前記第一鋼材の他面側の第2位置に冷却用気体及び冷却材が混合された混合気を噴射する工程と、を備えることを特徴とする鋼材冷却方法である。
【0018】
本発明によれば、溶接中の第1位置を冷却する際に第2位置に冷却用気体及び冷却材が混合された混合気を噴射することで、冷却材の使用量を低減しつつ、鋼材の靭性低下を抑制する冷却効果を奏することができる。
【0019】
また、本発明の前記混合気は、前記第1位置の検出結果に基づいて、前記第2位置に対応する高さ位置において前記混合気を噴射してもよい。
【0020】
本発明によれば、混合気を噴射する噴射元を1箇所により構成することができ、操作を簡略化することができる。
【0021】
また、本発明は、前記検出部の検出結果に基づいて、上下方向に沿って配置された複数の冷却部をのうち、前記第2位置に対応する高さ位置に対応した前記冷却部から前記第2位置に前記混合気を噴射してもよい。
【0022】
本発明によれば、予め設置された複数の混合気の噴射位置のうち、第2位置に対応する高さ位置から混合気を噴射するため、噴射元を切り替える簡便な操作により第2位置を冷却することができる。
【0023】
また、本発明の前記冷却材は、前記第2位置において発生した熱に基づいて蒸発或いは昇華する分量が噴射される。
【0024】
本発明によれば、第2位置の冷却において、冷却材が第2位置において発生した熱に基づいて蒸発或いは昇華する分量により噴射されるため、混合気中の気体及び冷却材自体の冷却効果に加えて冷却材の気化熱や昇華熱に基づく冷却効果が加わるため、少ない冷却材に基づいて冷却効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、鋼材の溶接中の溶接対象部に対して効率的に冷却効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】柱部材の製造工程の一部を示す斜視図である。
【
図3】エレクトロスラグ溶接を概略的に示す断面図である。
【
図7】鋼材冷却装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】鋼材冷却方法の各処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】変形例に係る鋼材冷却装置の構成を示す正面図である。
【
図10】変形例に係る鋼材冷却装置の構成を示すブロック図である。
【
図11】変形例に係る鋼材冷却方法を示す側面図である。
【
図12】変形例に係る鋼材冷却方法を示す側面図である。
【
図13】変形例に係る鋼材冷却方法を示す側面図である。
【
図14】変形例に係る鋼材冷却方法を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る鋼材冷却装置が適用された鋼材溶接装置及び鋼材溶接方法について説明する。
【0028】
図1に示されるように、4面ビルトボックス柱1は、外面を構成するスキンプレート2(第一鋼材)の内部に補強用のダイアフラム3(第二鋼材)が溶接される。本実施形態においては、例えば、製作途中のビルトボックス柱が倒置して配置されている。この状態において、例えば、上面側のスキンプレート2は、未溶接である。これにより、4面ビルトボックス柱1の内部空間が露出している。溶接方法は、後述のようにエレクトロスラグ溶接が用いられる。スキンプレート2は、例えば、4面ビルトボックス柱1のうち、一つの面を構成する矩形の帯状の板状体に形成されている。ダイアフラム3は、スキンプレート2によって囲まれた内部空間内を仕切るように、矩形の板状に形成されている。
【0029】
スキンプレート2は、例えば、50mm厚程度の鋼材である。ダイアフラム3は例えば60mm厚程度の鋼材である。鋼材の厚さは、この限りでなく、設計強度に応じて適宜調整される。スキンプレート2の内面(一面2aともいう)側には、ダイアフラム3が配置されている。溶接対象部は、例えば、起立したスキンプレート2の一面2aと、ダイアフラム3の上下方向に沿って配置された一端側である。溶接対象部において、スキンプレート2とダイアフラム3とは、平面視して直交し、T字状をなすように配置されている。スキンプレート2の一面2a側とダイアフラム3の一端側とは、所定距離離間して配置される。スキンプレート2の一面2a側とダイアフラム3の一端側との間は、ダイアフラム3の一端側の両側面に設けられた一対のガイド鋼6により覆われている。
【0030】
一対のガイド鋼6は、帯状の板状体に形成されている。一対のガイド鋼6は、例えば、スキンプレート2の一面2a側にスポット溶接等により位置決めされて固定されている。一対のガイド鋼6の間には、上下方向に沿った凹状の溝7が形成されている。溝7には、ダイアフラム3の一端部が挿入されている。これにより、溝7は、ダイアフラム3の一端部により閉塞され、空間8が形成されている。
【0031】
図3に示されるように、エレクトロスラグ溶接は、溶接対象部となる空間8に棒状の溶接部材10が挿入され空間8内を溶接する溶接方法である。溶接において、スキンプレート2とダイアフラム3には、例えば、電源装置(不図示)の負極電極が電気的に接続される。溶接部材10には、例えば、電源装置の陽極電極が電気的に接続される。溶接部材10の先端部は、最下端近傍まで到達する。溶接部材10の先端部と他の鋼材とは、所定距離(ギャップともいう)離間するように配置される。電源装置との接続により先端部とギャップとの間にアーク放電が行われる。空間8において、溶接部材10の先端部の下方には、アーク放電に基づいて溶接部材10、スキンプレート2、ダイアフラム3が溶融した溶融部9が形成される。
【0032】
溶接部材10の先端部は、アーク放電に基づいて溶融部9に溶出し消耗する。溶接部材10は、先端部と溶融部9との間の距離(ギャップ)を所定間隔に保ちながら上方への移動量が調整される。溶接部材10は、上下方向に沿って配置された空間8を下方から上方に向けて移動しながら溶接する。これにより、溶融部9が下方から上方に順次形成され、溶融部9が凝固した際に上下方向に沿った溶接部9Aが形成される。
【0033】
溶接の際に、スキンプレート2には、溶融部9からの熱が伝達される。上述したように、鋼材に熱が伝達されると、鋼材が軟化し靭性が低下する虞がある。そこで、スキンプレート2の外面側(他面2b側ともいう)は、以下に示す鋼材冷却装置により冷却される。
【0034】
図4から
図6に示されるように、鋼材冷却装置20は、空間8においてスキンプレート2、ダイアフラム3、溶接部材10が溶融している溶融部9の位置(第1位置)を検出する検出部21と、スキンプレート2を冷却する冷却部25と、を備える。検出部21は、例えば、スキンプレート2の他面2b側に配置されている。検出部21は、例えば、温度を検出する温度センサ、温度変化をサーモグラフィ等の画像に基づいて可視化する赤外線カメラ、溶接部材10の送り出し量を検出する位置センサ等が用いられる。検出部21は、溶融部9の位置が検出できればどのようなものが用いられてもよい。検出部21は、1つだけでなく複数個設けられていてもよい。
【0035】
冷却部25は、例えば、冷却用の冷却材を噴射する噴射ノズル26と、噴射ノズル26を支持するフレーム27とを備える。フレーム27は、スキンプレート2の他面2b側に取り付けられる。フレーム27は、例えば噴射ノズル26を上下方向に沿って移動自在に支持する。フレーム27は、例えば、噴射ノズル26を支持する移動レール27Aと、移動レール27Aを支持する支持フレーム27Bとを備える。支持フレーム27Bは、例えば、スキンプレート2の他面2b側に固定された枠体に形成されている。
【0036】
支持フレーム27Bは、平面視コ字状に形成された上下に配置された一対の第1支持部27Cと、一対の第1支持部27Cを上下方向に沿って連結する一対の縦枠27Dとを備える。支持フレーム27Bは、移動レール27Aを上下方向に沿ってスキンプレート2の他面2b側から所定距離離間して支持している。所定距離は、噴射ノズル26から噴射される冷却材が他面2b側に到達するように、冷却材の種類、噴射圧、噴射量に応じて適宜設定される。
【0037】
噴射ノズル26は、移動レール27Aに沿って上下方向に移動する。噴射ノズル26は、例えば、駆動部26E(
図6参照)による駆動力に基づいて移動する。駆動部26Eは、モータや減速機等により構成されている。噴射ノズル26は、例えば、後述の制御装置30によって移動、噴射が制御される。噴射ノズル26は、手動により操作されてもよい。噴射ノズル26は、検出部21の検出結果に基づいて、溶融部9の位置(第1位置)に対応するスキンプレート2の他面2b側の位置(第2位置)に冷却用の混合気を噴射する。噴射ノズル26には、例えば、混合気が流通するホース26Hの一端側が接続されている。ホース26Hは、可撓性を有する管状に形成されている。ホース26Hの他端側は、混合気の流通を開閉する開閉バルブ26Bに接続されている。開閉バルブ26Bには、混合気の供給源(不図示)に接続されている。
【0038】
噴射ノズル26は、例えば、検出部21の検出結果に基づいて、第2位置に対応する高さ位置に移動する。噴射ノズル26は、第2位置を含む所定領域の範囲において混合気を噴射することにより、スキンプレート2の他面2b側を冷却し、第2位置の表面温度を低下させる。混合気は、例えば、冷却用気体及び冷却材が混合されたものである。冷却用気体は、例えば、空気である。冷却材は、例えば、水である。この場合、混合気は、空気と霧状に拡散された水との混合物である。
【0039】
冷却材は、水だけでなく、氷、水と氷が混合した氷スラリー、ドライアイス、液体窒素、または上記の物質の任意の組合せに基づく混合物が用いられてもよいし、上記物質を温度状態に応じて切り替えて用いてもよい。冷却材は、霧、粒子、液体、スラリー状粒子の状態において噴射される。冷却材は、冷却可能であれば他の物質が用いられてもよい。冷却用気体は、空気だけでなく、二酸化炭素、窒素等、冷却可能であり且つ安全性が担保可能であれば他の気体であってもよい。冷却材は、第2位置の冷却性能が担保可能であれば、他のものが用いられてもよい。
【0040】
発明者らは、鋭意研究の下、第2位置の冷却において水等の冷却材を掛け流す方法に比して、冷却材の量を削減しても、鋼材の靭性低下を抑制する冷却効果を奏することを見出した。更に、発明者らは、冷却材が冷却中に蒸発或いは昇華することで、より少ない冷却材に基づいて効率的な冷却効果を奏することを見出した。更に、発明者らは、冷却用気体と冷却材との混合気を噴射することで、より効率的な冷却効果を奏することを見出した。
【0041】
冷却材は、例えば、第2位置において発生した熱に基づいて蒸発或いは昇華する分量が噴射される。即ち、冷却材は、第2位置において蒸発に基づく気化熱、或いは昇華に基づく昇華熱により冷却可能な分量が噴射される。冷却材は、蒸発或いは昇華に加え、流れ落ちてもよい。これにより、冷却材は、第2位置に対してかけ流しする場合に比して大幅に低減されると共に、同等の冷却性能を担保することができる。また、鋼材冷却装置20によれば、第2位置を含む領域に水等の冷却材を掛け流す方式に比して、混合気における冷却材を過剰に噴射しないため、冷却材を回収する構成が不要となり、装置構成が簡略化される。
【0042】
図7に示されるように、鋼材冷却装置20は、検出部21の検出結果に基づいて、冷却部25を制御する制御装置30を備える。制御装置30は、例えばパーソナルコンピュータ等の汎用演算装置、制御用に回路が設計された専用装置等により構成されている。制御装置30は、例えば、冷却部25に設けられた駆動部26E、開閉バルブ26B、及び噴射ノズル26に設けられた噴射バルブ26Sを制御して噴射ノズル26から混合気を噴射させる制御部31と、制御部31の制御において必要なデータを記憶する記憶部32とを備える。記憶部32は、例えば、HDDやフラッシュメモリ等の非一時的な記憶媒体により構成されている。制御部31は、例えば、検出部21の検出結果に基づいて、駆動部26Eを制御し、噴射ノズル26を第2位置に対応する高さに移動させる。噴射ノズル26は、混合気を生成する場合、冷却用気体を噴射するものと、冷却材を噴射するものと別体に設けられていてもよい。
【0043】
開閉バルブ26B及び噴射バルブ26Sは、例えばソレノイドバルブである。開閉バルブ26B及び噴射バルブ26Sは、通電のオン状態、オフ状態に基づいてバルブを開閉する。制御部31は、第2位置において開閉バルブ26Bを開放し、噴射ノズル26から混合気を噴射させる。制御部31は、検出部21の検出結果に基づいて、第2位置の移動に連動するように駆動部26Eを制御し、噴射ノズル26の高さを調整する。制御部31は、検出部21の検出結果に基づいて、噴射バルブ26Sの開閉のデューティ比を調整し、第2位置の温度に対応した混合気の量を調整する。噴射バルブ26Sは、冷却用気体と冷却材との混合比を調整可能に構成されていてもよく、制御部31は、検出部21の検出結果に基づいて、噴射バルブ26Sを制御して混合気の混合比を調整してもよい。制御部31は、例えば、冷却用気体の圧力を0.1MPaから0.6MPaの範囲に調整する。
【0044】
次に、鋼材冷却装置20を用いた鋼材冷却方法について説明する。
【0045】
図8には、鋼材冷却装置20を用いた鋼材冷却方法の各工程の処理の流れがフローチャートにより示されている。まず、溶接対象を配置する(ステップS100)。具体的には、起立したスキンプレート2の一面2a側に対して起立したダイアフラム3を直交して配置する。次に、溶接対象部をエレクトロスラグ溶接により溶接する(ステップS102)。具体的には、スキンプレート2の一面2a側とダイアフラム3の一端側との間における上下方向に沿って配置された溶接対象部を、下方から上方に向けて溶接部材10を移動させながら溶接する。このとき、検出部21を用いて、溶接対象部において溶接部材が溶融している溶融部の第1位置を検出する(ステップS104)。
【0046】
制御装置30は、検出部の検出結果に基づいて、冷却部25を制御して第1位置に対応するスキンプレート2の他面2b側の第2位置に冷却用気体及び冷却材が混合された混合気を噴射する(ステップS106)。このとき、制御装置30は冷却部25を制御して、第1位置の検出結果に基づいて、第2位置に対応する高さ位置において混合気を噴射する。制御装置30は、冷却部25を制御して、第2位置において発生した熱に基づいて、蒸発或いは昇華する分量の冷却材を噴射する。制御装置30は、混合気の噴射において、気体の圧力、流量、冷却材の流量、圧力を個別に調整する。
【0047】
上述したように、鋼材冷却装置20によれば、溶接中の第1位置を冷却する際に第2位置に冷却用気体及び冷却材が混合された混合気を噴射することで、冷却材の使用量を低減しつつ、鋼材の靭性低下を抑制する冷却効果を奏することができる。鋼材冷却装置20によれば、冷却部25が上下方向に移動自在に設けられているため、噴射ノズルを1本により構成することができ、装置構成を簡略化することができる。鋼材冷却装置20によれば、第2位置の局所的な冷却において、冷却材が第2位置において発生した熱に基づいて蒸発或いは昇華する分量により噴射されるため、混合気中の気体及び冷却材自体の冷却効果に加えて冷却材の気化熱や昇華熱に基づく冷却効果が加わるため、少ない冷却材に基づいて冷却効果を高めることができる。
【0048】
[変形例]
以下、鋼材冷却装置及び鋼材冷却方法の変形例について説明する。以下の説明では、上記実施形態と同一の構成については同一の名称及び符号を用い、重複する説明は適宜省略する。
【0049】
図9に示されるように鋼材冷却装置20Aは、複数の噴射ノズル26を有する冷却部25を備える。複数の噴射ノズル26は、移動レール27Aにおいて上下方向に沿って配置されている。複数の噴射ノズル26は、複数のホース26Hを介してそれぞれ切り替えバルブ26Kに接続されている。切り替えバルブ26Kは、例えば、後述の制御装置30Aにより制御され、複数の噴射ノズル26のうち、第2位置に応じた位置の少なくとも1つの噴射ノズル26から混合気を噴射させる。
【0050】
図10に示されるように、制御装置30Aにおいて制御部31は、検出部21の検出結果に基づいて、切り替えバルブ26Kを制御して、第2位置に対応する高さ位置に対応した少なくとも1つの噴射ノズル26から第2位置に混合気を噴射する。
【0051】
図11に示されるように、制御部31は、例えば、溶融部9の第1位置に対応する第2位置が1番目の噴射ノズル26の位置以下である場合、切り替えバルブ26Kを制御して噴射ノズル26を噴射させる。
図12に示されるように、制御部31は、例えば、第2位置が1番目の噴射ノズル26と2番目の噴射ノズル26の位置の中間位置に到達した場合、切り替えバルブ26Kを制御して1番目の噴射ノズル26及び2番目の噴射ノズル26を噴射させる。
【0052】
図13に示されるように、制御部31は、例えば、第2位置が2番目の噴射ノズル26の位置に到達した場合、切り替えバルブ26Kを制御して1番目の噴射ノズル26、2番目の噴射ノズル26、及び3番目の噴射ノズル26を噴射させる。
図14に示されるように、制御部31は、例えば、第2位置が2番目の噴射ノズル26と3番目の噴射ノズル26の位置の中間位置に到達した場合、切り替えバルブ26Kを制御して2番目の噴射ノズル26、及び3番目の噴射ノズル26を噴射させる。このとき、制御部31は、1番目の噴射ノズル26の噴射範囲におけるスキンプレート2の温度が基準値以上である場合、切り替えバルブ26Kを制御して1番目の噴射ノズル26を噴射させてもよい。
【0053】
即ち、制御部31は、検出部21の検出結果に基づいて、第2位置の移動と温度の状態に応じて、混合気の噴射領域に第2位置が含まれるように1つ以上の噴射ノズル26から混合気を噴射させる。
【0054】
変形例に係る鋼材冷却装置20Aによれば、切り替えバルブ26Kを切り替える制御に基づいて第2位置に混合気を噴射することができる。鋼材冷却装置20Aによれば、駆動部26E等の可動する構成を用いないことで、装置動作の信頼性を向上させることができる。
【0055】
上述した制御部31は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、記憶部32が有するHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、鋼材冷却装置は、4面ビルトボックス柱1の構築だけでなく、他のエレクトロスラグ溶接による部材の溶接に適用してもよい。鋼材冷却装置は、制御装置30による制御だけでなく、検出部21の検出結果に基づいて、手動に基づいて噴射ノズル26が噴射されてもよい。
【符号の説明】
【0057】
2a 一面
2b 他面
9 溶融部
9A 溶接部
10 溶接部材
20 鋼材冷却装置
20A 鋼材冷却装置
21 検出部
25 冷却部
26 噴射ノズル
【手続補正書】
【提出日】2022-01-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一鋼材の一面側に対して直交して配置された第二鋼材との溶接に用いられる鋼材冷却装置であって、
前記第一鋼材と第二鋼材との間における上下方向に沿って配置された溶接対象部を下方から上方に向けて移動しながら溶接する溶接部材と、
前記溶接対象部において前記溶接部材の先端部の下方に形成された溶融部の第1位置を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記第1位置に対応する前記第一鋼材の他面側の第2位置に冷却用気体及び冷却材が混合された混合気を噴射する噴射ノズルを有する冷却部と、を備え、
前記冷却部は、上下方向に沿って配置された複数の前記噴射ノズルを備え、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記第2位置に対応する高さ位置に対応した少なくとも1つの前記噴射ノズルから前記第2位置に前記混合気を噴射することを特徴とする鋼材冷却装置。
【請求項2】
前記冷却部は、前記第2位置において発生した熱に基づいて蒸発或いは昇華する分量の前記冷却材を噴射する、
請求項1に記載の鋼材冷却装置。
【請求項3】
起立した第一鋼材の一面側に対して起立した第二鋼材を直交して配置する工程と、
前記第一鋼材と第二鋼材との間における上下方向に沿って配置された溶接対象部を下方から上方に向けて溶接部材を移動させながら溶接する工程と、
前記溶接対象部において前記溶接部材の先端部の下方に形成された溶融部の第1位置を検出する工程と、
前記第1位置の検出結果に基づいて、前記第1位置に対応する前記第一鋼材の他面側の第2位置に冷却用気体及び冷却材が混合された混合気を噴射する工程と、を備え、
前記混合気を噴射する工程において、前記第1位置の検出結果に基づいて、上下方向に沿って配置された複数の冷却部のうち、前記第2位置に対応する高さ位置に対応した前記冷却部から前記第2位置に前記混合気を噴射することを特徴とする、鋼材冷却方法。
【請求項4】
前記冷却材は、前記第2位置において発生した熱に基づいて蒸発或いは昇華する分量が噴射される、
請求項3に記載の鋼材冷却方法。