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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039810
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】ハット形鋼矢板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 5/08 20060101AFI20230314BHJP
   B21B 1/082 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
B21D5/08 N
B21B1/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147109
(22)【出願日】2021-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】林 慎也
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩
【テーマコード(参考)】
4E002
4E063
【Fターム(参考)】
4E002AC01
4E002AC05
4E002BB01
4E063AA01
4E063BB02
4E063CA06
4E063EA06
4E063JA07
4E063MA11
(57)【要約】
【課題】同一の仕上圧延機のロール孔型を用いて仕上圧延を行った後の被圧延材に対し、熱間で曲げ成形を行うことでハット形鋼矢板を製造する際に、フランジ角度及び/又は板厚の異なる複数種の製品群を効率的に製造する。
【解決手段】被圧延材には、ウェブ対応部とフランジ対応部との接続箇所、及びフランジ対応部と腕対応部との接続箇所にコーナー部が形成され、曲げ成形では、熱間でコーナー部の内側に上下孔型ロールの一部を接触させ当該コーナー部を曲げることにより、同一ロールによって仕上圧延された被圧延材からフランジ角度及び/又は板厚の異なる複数種のハット形鋼矢板からなる製品群を作り分ける。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材に対して熱間圧延によって粗圧延、中間圧延及び仕上圧延を行った後、曲げ成形を行うハット形鋼矢板の製造方法であって、
前記被圧延材は、ウェブ対応部、フランジ対応部、腕対応部及び継手対応部から構成され、
前記被圧延材には、前記ウェブ対応部と前記フランジ対応部との接続箇所、及び前記フランジ対応部と前記腕対応部との接続箇所にコーナー部が形成され、
前記仕上圧延後の被圧延材は、前記ウェブ対応部と前記フランジ対応部とのなす角度が製品より広がり、且つ、少なくとも前記コーナー部を除く部位は製品と同じ厚みであり、
前記曲げ成形において、当該曲げ成形を行う上下孔型ロールの前記ウェブ対応部、前記フランジ対応部及び前記腕対応部に対向する部分のロール隙は、それぞれ前記ウェブ対応部、前記フランジ対応部及び前記腕対応部の厚みより大きく、
前記曲げ成形では、熱間で前記コーナー部の内側に前記上下孔型ロールの一部を接触させ当該コーナー部を曲げることにより、同一ロールによって仕上圧延された被圧延材からフランジ角度及び/又は板厚の異なる複数種のハット形鋼矢板からなる製品群を作り分けることを特徴とする、ハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項2】
前記仕上圧延では、前記製品群における製品の厚みに応じてロール隙を変更し、
前記曲げ成形では、前記製品群における最大のフランジ厚に対して前記上下孔型ロールのフランジ対応部に対向する部分のロール隙が大きくなるようにロール設計を行い、
前記仕上圧延において作り分けた厚みの異なる被圧延材に対し、前記上下孔型ロールのロール隙を変更して複数種のハット形鋼矢板からなる製品群を作り分けることを特徴とする、請求項1に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項3】
前記仕上圧延では、前記製品群のうちコーナー部の中央厚とウェブ厚の比が最大である製品に対する当該コーナー部の中央に対応するロール隙を、前記製品群のうちコーナー部の中央厚とウェブ厚の比が最大である製品の当該コーナー部の中央厚以上とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項4】
前記仕上圧延を行う仕上圧延ロールは、前記コーナー部の内側に対応するロールの曲率半径と、前記コーナー部の外側に対応するロールの曲率半径との比が、前記製品群の全ての製品のコーナー部内側の曲率半径とコーナー部外側の曲率半径との比に比べ大きくなるように設計されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項5】
前記曲げ成形では、前記上下孔型ロールにより前記コーナー部の厚みを圧下することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項6】
前記曲げ成形は1又は複数の成形スタンドで行われ、
前記成形スタンドの最終スタンドでは、当該最終スタンドにおける前記コーナー部の内側の弧長と、前記最終スタンドの成形前における前記コーナー部の内側の弧長との比が1.15以下で曲げ成形が行われることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項7】
前記成形スタンドの最終スタンドでは、当該最終スタンドにおける前記コーナー部の内側の弧長と、前記最終スタンドの成形前における前記コーナー部の内側の弧長との比が1.0未満で曲げ成形が行われることを特徴とする、請求項6に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項8】
前記曲げ成形は1又は複数の成形スタンドで行われ、
前記成形スタンドでは、前記被圧延材の腕対応部及び継手対応部を水平に成形することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項9】
前記曲げ成形は1又は複数の成形スタンドで行われ、
前記成形スタンドには、前記製品群のフランジ角度に対応した形状を有する上下孔型ロールが配置されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項10】
前記曲げ成形では、前記ウェブ対応部の外側において当該ウェブ対応部に対向する孔型ロールを接触させ、
前記腕対応部の外面において当該腕対応部に対向する孔型ロールを接触させることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項11】
前記曲げ成形では、前記継手対応部が略水平となるように当該継手対応部の外面において当該継手対応部に対向する孔型ロールを接触させることを特徴とする、請求項10に記載のハット形鋼矢板の製造方法。
【請求項12】
前記曲げ成形を行う曲げ成形機と、前記仕上圧延を行う仕上圧延機はタンデムとすることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の鋼矢板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハット形鋼矢板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハット形鋼矢板、U形鋼矢板等の両端に継手を有する鋼矢板の製造は、例えば特許文献1に示すような孔型圧延法によって行われている。具体的には、孔型圧延法の一般的な工程として、先ず加熱炉において所定の温度に加熱した矩形材を、孔型を備えた粗圧延機、中間圧延機及び仕上圧延機によって順に圧延することが知られている。
【0003】
また、特にハット形鋼矢板等の大型で非対称な製品を製造する場合に、上記粗圧延機、中間圧延機及び仕上圧延機で製造するためには、多数の孔型が必要となり大規模な設備が必要となる上、造形方法が複雑化し、製品の形状バラツキや形状不良が発生しやすくなる。更に、異なる形状の鋼矢板を製造するためには多数のロールが必要となる。これに対して、特許文献2に示すように、熱間圧延によって鋼矢板を圧延・製造した後に、ロールフォーミングによる冷間加工で曲げ加工(以下、曲げ成形とも呼称する)を行い、圧延設備を超える広幅の鋼矢板及び断面高の高い鋼矢板を製造する技術が知られている。また、特許文献3に示すように、圧延工程と曲げ工程を分離して、曲げ工程においてユニバーサルミルと2重式ミルを用いる技術が知られている。
【0004】
また、非特許文献1には、板厚が4~7mm程度の薄い鋼板を素材として複数の成形機を冷間で使用し、鋼板に対して曲げ成形を行い、軽量鋼矢板を製造する技術が開示されている。この技術においては、熱間圧延鋼矢板に比べて板厚が薄いため成形が容易であり、鋼板から多数のロールを用いて曲げ製造するために形状不良が生じにくいといった利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-192905号公報
【特許文献2】特開2003-230916号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ロール成形」日本塑性加工学会編、コロナ社、1999年初版第4刷、83頁~85頁、87頁~90頁、111頁~113頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
断面係数の異なる熱間圧延ハット形鋼矢板(以下、単にハット形鋼矢板とも記載)の製品を製造するためには、製品の高さを変更することが有効である。しかしながら、例えば特許文献1に開示された方法により高さの異なる複数種のハット形鋼矢板製品を製造しようとすると、各寸法の製品ごとにそれぞれ専用の孔型を使用する必要がある。即ち、孔型ロールを用意するための費用増や、ロール組替による作業効率低下など、生産性の低下が懸念される。また、設備によっては、ロール径の制約により断面係数の大きい(即ち、製品高さの大きい)製品の製造が困難であるといった問題もある。
【0008】
これに対し、例えば特許文献2には、熱間圧延後に冷間加工で曲げ成形を行うことで多品種のハット形鋼矢板を製造する技術が開示されている。しかしながら、冷間加工による曲げ成形では、材料の残留応力が高くなることが懸念される。また、冷間加工では加工負荷が高く大型の生産設備が必要となるといった課題がある。
【0009】
また、非特許文献1には、鋼板の曲げ成形により板厚が4mm~7mmである軽量鋼矢板の製造におけるロール設計の考え方が説明されている。しかしながら、左右非対称形状であり、一般的に板厚8mm以上であるハット形鋼矢板は、継手形状が複雑で高い嵌合性が求められ高精度な造形が求められる点や、ウェブ、フランジ、及び腕といった各部位同士の接続部であるコーナー部の厚みがそれぞれ異なるといった事情から、軽量鋼矢板の製造技術は必ずしも適用できない。また、非特許文献1には、ロール成形による形材の折り曲げ方法として種々の方式が説明され、各方式での折り曲げ部の曲げ半径や弧長の変化が説明されている。しかしながら、非特許文献1にはハット形鋼矢板についての適切な折り曲げ方法については何ら説明されておらず、当然、ハット形鋼矢板のサイズ作り分け技術や、その際の折り曲げ部の曲げ半径や弧長についての適正範囲について具体的な説明はされていない。
【0010】
本発明者らは、上記課題を踏まえ、同一の仕上圧延機のロール(いわゆる仕上圧延ロール)で仕上圧延を行った後の被圧延材に対し、熱間で曲げ成形を行い、フランジ角度を変更することで効率的に断面係数の異なる複数種の製品を製造するための技術について鋭意検討を行った。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、同一の仕上圧延機のロールを用いて仕上圧延を行った後の被圧延材に対し、熱間で曲げ成形を行うことでハット形鋼矢板を製造する際に、フランジ角度及び/又は板厚の異なる複数種の製品群を効率的に製造するハット形鋼矢板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、被圧延材に対して熱間圧延によって粗圧延、中間圧延及び仕上圧延を行った後、曲げ成形を行うハット形鋼矢板の製造方法であって、前記被圧延材は、ウェブ対応部、フランジ対応部、腕対応部及び継手対応部から構成され、前記被圧延材には、前記ウェブ対応部と前記フランジ対応部との接続箇所、及び前記フランジ対応部と前記腕対応部との接続箇所にコーナー部が形成され、前記仕上圧延後の被圧延材は、前記ウェブ対応部と前記フランジ対応部とのなす角度が製品より広がり、且つ、少なくとも前記コーナー部を除く部位は製品と同じ厚みであり、前記曲げ成形において、当該曲げ成形を行う上下孔型ロールの前記ウェブ対応部、前記フランジ対応部及び前記腕対応部に対向する部分のロール隙は、それぞれ前記ウェブ対応部、前記フランジ対応部及び前記腕対応部の厚みより大きく、前記曲げ成形では、熱間で前記コーナー部の内側に前記上下孔型ロールの一部を接触させ当該コーナー部を曲げることにより、同一ロールによって仕上圧延された被圧延材からフランジ角度及び/又は板厚の異なる複数種のハット形鋼矢板からなる製品群を作り分けることを特徴とする、ハット形鋼矢板の製造方法が提供される。
なお、ここで熱間とは、熱間圧延後に被圧延材の変態が完了する前の温度である。
【0013】
前記仕上圧延では、前記製品群における製品の厚みに応じてロール隙を変更し、前記曲げ成形では、前記製品群における最大のフランジ厚に対して前記上下孔型ロールのフランジ対応部に対向する部分のロール隙が大きくなるようにロール設計を行い、前記仕上圧延において作り分けた厚みの異なる被圧延材に対し、前記上下孔型ロールのロール隙を変更して複数種のハット形鋼矢板からなる製品群を作り分けても良い。
【0014】
前記仕上圧延では、前記製品群のうちコーナー部の中央厚とウェブ厚の比が最大である製品に対する当該コーナー部の中央に対応するロール隙を、前記製品群のうちコーナー部の中央厚とウェブ厚の比が最大である製品の当該コーナー部の中央厚以上としても良い。
【0015】
前記仕上圧延を行う仕上圧延ロールは、前記コーナー部の内側に対応するロールの曲率半径と、前記コーナー部の外側に対応するロールの曲率半径との比が、前記製品群の全ての製品のコーナー部内側の曲率半径とコーナー部外側の曲率半径との比に比べ大きくなるように設計されても良い。
【0016】
前記曲げ成形では、前記上下孔型ロールにより前記コーナー部の厚みを圧下しても良い。
【0017】
前記曲げ成形は1又は複数の成形スタンドで行われ、前記成形スタンドの最終スタンドでは、当該最終スタンドにおける前記コーナー部の内側の弧長と、前記最終スタンドの成形前における前記コーナー部の内側の弧長との比が1.15以下で曲げ成形が行われても良い。
【0018】
前記成形スタンドの最終スタンドでは、当該最終スタンドにおける前記コーナー部の内側の弧長と、前記最終スタンドの成形前における前記コーナー部の内側の弧長との比が1.0未満で曲げ成形が行われても良い。
【0019】
前記曲げ成形は1又は複数の成形スタンドで行われ、前記成形スタンドの各スタンドでは、前記被圧延材の腕対応部及び継手対応部を水平に成形しても良い。
【0020】
前記曲げ成形は1又は複数の成形スタンドで行われ、前記成形スタンドには、前記製品群のフランジ角度に対応した形状を有する上下孔型ロールが配置されても良い。
【0021】
前記曲げ成形では、前記ウェブ対応部の外側において当該ウェブ対応部に対向する孔型ロールを接触させ、前記腕対応部の外面において当該腕対応部に対向する孔型ロールを接触させても良い。
【0022】
前記曲げ成形では、前記継手対応部が略水平となるように当該継手対応部の外面において当該継手対応部に対向する孔型ロールを接触させても良い。
【0023】
前記曲げ成形を行う曲げ成形機と、前記仕上圧延を行う仕上圧延機はタンデムとしても良い。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、同一の仕上圧延機のロールを用いて仕上圧延を行った後の被圧延材に対し、熱間で曲げ成形を行うことでハット形鋼矢板を製造する際に、フランジ角度及び/又は板厚の異なる複数種の製品群を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態にかかる圧延ラインの概略説明図である。
図2】曲げ成形機の概略側面断面図である。
図3】曲げ成形機の概略正面図である。
図4】第1スタンドの孔型形状を示す概略的な拡大正面図である。
図5】第2スタンドの孔型形状を示す概略的な拡大正面図である。
図6】第1スタンド及び第2スタンドにおいて曲げ成形される被圧延材の形状変化についての説明図であり、(a)は第1スタンドでの加工前、(b)は第1スタンドでの加工時、(c)は第2スタンドでの加工時の概略断面図を示している。
図7】曲げ成形機における仕上材の接触箇所についての説明図である。
図8】2種類のハット形鋼矢板製品の断面形状を示す概略説明図である。
図9】仕上圧延ロールによって仕上圧延された被圧延材の断面形状を示す概略説明図である。
図10】仕上圧延後の被圧延材に対し曲げ成形を行った場合の曲げ成形の概略断面図である。
図11】コーナー部内側弧長比とねじれ量との関係を示すグラフである。
図12】コーナー部内側弧長比と成形荷重との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0027】
<ハット形鋼矢板の圧延ライン>
図1は、本発明の実施の形態にかかるハット形鋼矢板を製造する圧延ラインL(図中一点鎖線)と、圧延ラインLに備えられる圧延機等についての説明図である。なお、図1において圧延ラインLの圧延進行方向は矢印で示されている方向であり、当該方向へ被圧延材が流れ、ライン上の各圧延機、曲げ成形機において圧延・曲げ成形が行われ、製品が造形される。また、図1では、同一の圧延機において被圧延材を複数回往復させる圧延方法(所謂、多パス圧延)についても、一点鎖線にて記載している。
【0028】
図1に示すように、圧延ラインLには、上流から順に粗圧延機10、第1中間圧延機13、第2中間圧延機16、仕上圧延機19、曲げ成形機20が順に配置されている。また、第1中間圧延機13の上流側にはエッジャー圧延機14が、第2中間圧延機16の下流側にはエッジャー圧延機17がそれぞれ隣接して配置されている。
【0029】
圧延ラインLにおいては、図示しない加熱炉において加熱された矩形材(被圧延材)が粗圧延機10~仕上圧延機19において順次熱間で圧延され、更に、熱間で曲げ成形機20によって成形され、最終製品となる。なお、以下では説明のため、粗圧延機10で圧延された被圧延材を粗形材、第1中間圧延機13~第2中間圧延機16によって圧延された被圧延材を中間材、仕上圧延機19によって圧延された被圧延材を仕上材19aとも呼称する。即ち、仕上材19aを曲げ成形機20によって成形(断面変更)したものが最終製品(即ち、ハット形鋼矢板製品)となる。
【0030】
ここで、圧延ラインLに配置される粗圧延機10、第1中間圧延機13、第2中間圧延機16、仕上圧延機19や、付随して配置されるエッジャー圧延機14、17は従来から鋼矢板の製造において用いられている一般的な設備であるため、その装置構成等についての説明は本明細書では省略する。
【0031】
<曲げ成形機>
次に、曲げ成形機20の詳細な構成について図面を参照して説明する。図2は曲げ成形機20の概略側面断面図であり、図3は曲げ成形機20の概略正面図である。図2、3に図示した曲げ成形機20は、仕上圧延機19において仕上圧延された仕上材19aを曲げ成形するものである。なお、図3には以下に説明する曲げ成形機20が備える第1スタンド22の概略正面図を図示している。ここで、本実施の形態では曲げ成形機20は2つの成形スタンド(以下に説明する成形スタンド22、23)から構成される場合を例示して説明しているが、曲げ成形機20は単スタンドあるいは任意の複数のスタンドから構成されていても良い。
【0032】
図2に示すように、本実施の形態にかかる曲げ成形機20は隣接して直列配置された2つの成形スタンド22、23(以下、上流側の第1スタンド22、下流側の第2スタンド23とも呼称する)を備えている。また、図3に示すように、各スタンド22、23それぞれには、上孔型ロールと下孔型ロールとで構成される成形用孔型(後述する孔型45、55)が刻設されており、その孔型形状は第1スタンド22と第2スタンド23とで異なる形状となっている。
【0033】
ここで、第1スタンド22と第2スタンド23のロール構成ならびに孔型形状について説明する。図4は、第1スタンド22の孔型形状を示す概略的な拡大正面図であり、図5は第2スタンド23の孔型形状を示す概略的な拡大正面図である。なお、図4には曲げ成形機20による成形を行う前の状態である仕上材19aの断面形状を一点鎖線で図示し、図5には第2スタンド23で成形を行う前の状態である仕上材19a’の断面形状を一点鎖線で図示している。また、以下では、略ハット形形状の被圧延材を上開き(後述するウェブ対応部を下方とし、腕対応部を上方に位置させる)姿勢で曲げ成形する場合を例示して説明する。
【0034】
図3及び図4に示すように、第1スタンド22には、上孔型ロール40と下孔型ロール41が筐体44に支持されて設けられ、上孔型ロール40と下孔型ロール41によって孔型45が構成されている。この孔型45はフランジに対応する部分から継手に対応する部分の形状がハット形鋼矢板製品の一歩手前の形状(即ち、略ハット形鋼矢板製品形状)となっている。孔型45は、仕上材19aのフランジに対応する部分(即ち、フランジ対応部)と、仕上材19aのウェブに対応する部分(即ち、ウェブ対応部)とがなす角度、及び仕上材19aの腕に対応する部分(即ち、腕対応部)とがなす角度をそれぞれ変化させ、仕上材19aの高さ及び幅を所定の形状(即ち、製品に近似した断面形状)に曲げ成形するものである。ハット形鋼矢板を製造する場合に、粗圧延機10~仕上圧延機19において高さを低く抑えた形状でもって被圧延材(粗形材~仕上材19a)の圧延を行い、曲げ成形機20において被圧延材の高さを所望の製品高さまで高めるように曲げ成形を行うといった方法が採られる。これにより、大型サイズのハット形鋼矢板製品を製造することができるようになる。
【0035】
また、図5に示すように、第2スタンド23には、上孔型ロール50と下孔型ロール51が筐体54に支持されて設けられ、上孔型ロール50と下孔型ロール51によって孔型55が構成されている。この孔型55は所望の製品形状に近い形状となっており、曲げ成形機20の第1スタンド22にて成形されたフランジに対応する部分(即ち、フランジ対応部)と、仕上材19aのウェブに対応する部分(即ち、ウェブ対応部)とがなす角度、及び腕に対応する部分(即ち、腕対応部)とがなす角度をそれぞれ変化させ、フランジ形状、腕形状及び継手形状を所定の形状(即ち、製品の形状)に成形するものである。即ち、この第2スタンド23では、第1スタンド22での成形において製品形状に対して不十分であったフランジ対応部の傾斜角度を、製品形状に応じた角度まで変形させる成形が行われる。
【0036】
なお、第1スタンド22及び第2スタンド23の少なくとも一方のスタンドでは、被圧延材の腕対応部及び継手対応部を水平にするような曲げ成形が行われても良い。
【0037】
ここで、曲げ成形時における上記孔型45及び孔型55におけるロール隙(上孔型ロール40と下孔型ロール41のロール隙ならびに上孔型ロール50と下孔型ロール51のロール隙)は、仕上材19aのフランジ対応部及びウェブ対応部の厚みより大きくなるように構成されている。即ち、曲げ成形機20においては、仕上材19aの板厚圧下は行われず、第1スタンド22及び第2スタンド23の各孔型ロールと仕上材19aとは、後述する一部の所定箇所のみにおいて接触して曲げ成形が行われる構成となっている。
【0038】
また、後述するように、曲げ成形時には、第1スタンド22及び第2スタンド23の各孔型ロールと仕上材19aは、一部の所定箇所について接触に加え圧下が行われても良い。本明細書における「接触」とは、曲げ成形機20において、仕上材19aの特定箇所の上面あるいは下面の一方のみが孔型ロールの周面に当接した状態をいう。これに対し、「圧下」とは、曲げ成形機20において、仕上材19aの特定箇所の上面と下面の両方が孔型ロールに当接し、且つ、厚みを減ずるように力がかかるような状態をいう。
【0039】
<曲げ成形>
続いて、上述した成形スタンド22、23における被圧延材の成形について説明する。図6は、第1スタンド22及び第2スタンド23において曲げ成形される被圧延材(仕上材19a)の形状変化についての説明図であり、(a)は第1スタンド22での加工前、(b)は第1スタンド22での加工時、(c)は第2スタンド23での加工時の概略断面図を示している。図6(a)に示すように、仕上材19aは略ハット形形状であり、略水平であるウェブ対応部60と、ウェブ対応部60の両端に製品形状より大きい所定の角度(図中に角度αとして示している)のコーナー部70によって連結しているフランジ対応部62、63と、各フランジ対応部62、63においてウェブ対応部との連結側と異なる端部にコーナー部71を介して連結している腕対応部65、66と、腕対応部65、66の先端に形成される継手対応部68、69から構成されている。また、仕上材19aは、仕上圧延機19における圧延によって厚みが略製品の厚みとなっており、継手対応部68、69の形状も、略製品継手形状となっている。
【0040】
ここで、コーナー部70(以下、ウェブ-フランジコーナー部70とも呼称)の板厚は、製品板厚より厚くなるように寸法設計されても良い。ウェブ-フランジコーナー部70の板厚は、粗圧延機10、第1中間圧延機13、第2中間圧延機16、仕上圧延機19等(図1参照)で行われる熱間圧延での圧延条件や圧延設計により所望の板厚に圧延することができる。
【0041】
同様に、コーナー部71(以下、フランジ-腕コーナー部71とも呼称)の板厚は、製品板厚より厚くなるように寸法設計されても良い。フランジ-腕コーナー部71の板厚は、粗圧延機10、第1中間圧延機13、第2中間圧延機16、仕上圧延機19等(図1参照)で行われる熱間圧延での圧延条件や圧延設計により所望の板厚に圧延することができる。
【0042】
この図6(a)に示す仕上材19aは、第1スタンド22の孔型45においてウェブ対応部60とフランジ対応部62、63とのなす角度αが小さくなる(図6(b)に示す角度α’となる)ように曲げ成形され、図6(b)に示すように所望の高さとなる。即ち、第1スタンド22では、仕上材19aの高さが高くなるような曲げ加工が行われる。
【0043】
次いで、図6(c)に示すように、第2スタンド23の孔型55において、ウェブ対応部60とフランジ対応部62、63とのなす角度α’が小さくなる(図6(c)に示す角度α’’)ように曲げ成形される。これにより、仕上材19aが略製品形状に曲げ成形される。なお、第1スタンド22、第2スタンド23の少なくとも一方のスタンドにおいては、腕対応部65、66及び継手対応部68、69を水平とするような曲げ成形が行われても良い。
【0044】
<曲げ成形におけるロールと被圧延材との接触箇所>
また、図7は曲げ成形機20における仕上材19aの接触箇所についての説明図であり、(a)~(d)はそれぞれ接触箇所の一例を示している。なお、図7では接触箇所を太線にて図示している。第1スタンド22の孔型45及び第2スタンド23の孔型55では、各孔型ロールと仕上材19aとは一部の所定箇所のみにおいて接触しており、板厚の圧下は行われない。孔型ロールと仕上材19aとの具体的な接触箇所は、例えば図7(a)に示すように、ウェブ対応部60とフランジ対応部62、63との境界のコーナー部内側70a、70bと、フランジ対応部62、63と腕対応部65、66との境界のコーナー部内側71a、71bである。ここで、「接触」とは、少なくとも材料と孔型ロールが接触していれば良く、更に材料を押圧するような力がかかる状態でも良い。
【0045】
図7(a)に記載されるように、接触箇所である70a、70bはウェブ対応部60とフランジ対応部62、63との境界のコーナー部70の内側である。一方、接触箇所である71a及び71bはフランジ対応部62、63と腕対応部65、66との境界のコーナー部71の内側である。接触箇所である71a及び71bではそれぞれ70a及び70bでの反力に釣り合う方向に反力が生じる。
【0046】
ここで、図7(b)に示すウェブ対応部60の下面(外側)中央部60aをこれに対向する下孔型ロール41、51に接触させることにより、フランジ対応部62、63とウェブ対応部60とがなす角の曲げが効率的に行える。曲げ成形時には、ウェブ対応部60が図中の下方向に反ろうとするため、ウェブ対応部60の両側(コーナー部70)から離れた下面中央部60aに下孔型ロールを接触させることにより、ウェブ対応部60の両端に効果的に曲げモーメントを付与できるからである。
【0047】
また、少なくとも最終スタンドである第2スタンド23においては、腕対応部65、66を略水平とするために腕対応部65、66の上面(外面)65a、66aが接触箇所となる。加えて、図7(c)に示すように、第1スタンド22の孔型45及び第2スタンド23の孔型55では、仕上材19aのフランジ対応部62、63の内側上方部分62a、63aを上孔型ロール40、50に接触させると共に、フランジ対応部62、63の外側下方部分62b、63bを下孔型ロール41、51に接触させることが望ましい。この図7(c)に示す箇所を接触させることで、コーナー部70、71に孔型ロール形状による3点曲げを生じさせることにより精度の高い曲げ成形を行うことが可能となる。
【0048】
また、図7(d)に示すように、上記図7(a)~(c)で説明した箇所に加え、継手対応部68、69の上面(外面)68a、69aを上孔型ロール40、50に接触させても良い。この図7(d)に示す箇所を接触させることで、継手対応部68、69についても略水平となるような成形を行い、更に精度の高い曲げ成形を行うことが可能となる。
【0049】
なお、図7(a)~(d)を参照して曲げ成形における仕上材19aに対する好適な接触箇所について説明したが、図7に示すように、曲げ成形において接触するそれぞれの箇所は、仕上材19aの板厚を圧下するような位置構成とはなっていない。具体的には、仕上材19aの特定の箇所を上下孔型ロール双方によって両側から押圧する(即ち、圧下する)ような構成とはなっておらず、上下孔型ロールのロール隙も仕上材19aの板厚より大きくなるように構成されていることから、板厚の圧下は行われない。ウェブ対応部60やフランジ対応部62、63を圧下しなければ、圧下反力を不必要に上げなくて済む。
【0050】
なお、後述するように同一の仕上圧延ロールによって仕上圧延された被圧延材(仕上材19a)から複数種製品の作り分けを行う場合に、コーナー部70、71の圧下を行っても良い。曲げ成形機20が複数スタンドで構成される場合、全てのスタンドでコーナー部70、71の圧下を行っても良いが、少なくとも最終スタンド(本実施形態では第2スタンド23)においてコーナー部70、71の圧下を行えば、成形後のスプリングバッグを減少させる効果を享受することができる。
【0051】
<同一の仕上圧延ロールからの複数種製品の作り分け>
次に、上述したように構成される圧延ラインLにおいて、仕上圧延機19に備えられた上下ロールである仕上圧延ロールとして同一のものを用い、仕上圧延ロールの設計と曲げ成形機20に設けられた成形用孔型(孔型45、55)の設計や、それら両者の設計の関係性を好適に定めることで、同一の仕上圧延ロールによって仕上圧延された被圧延材(仕上材19a)からフランジ角度及び/又は板厚の異なる複数種のハット形鋼矢板からなる製品群を作り分ける方法について説明する。
【0052】
図8(a)、(b)は同一の仕上圧延ロールによって仕上圧延された被圧延材(仕上材19a)から曲げ成形を経て作られる2種類のハット形鋼矢板製品の断面形状を示す概略説明図であり、(b)は(a)に比べフランジ角度(フランジ傾斜角度)が大きいものを示している。また、これら2種類のハット形鋼矢板製品の作り分けでは、フランジ角度の変更と合わせて板厚を変更しても良い。ここでは、図8(a)を第1のハット形鋼矢板90、(b)を第2のハット形鋼矢板92とする。
【0053】
また、図9は仕上圧延ロールによって仕上圧延された被圧延材(仕上材19a)の断面形状を示す概略説明図である。図10(a)、(b)は図9に示した仕上圧延後の被圧延材に対し曲げ成形を行った場合の曲げ成形の概略断面図であり、(a)は第1スタンドのみで曲げ成形を行った場合、(b)は第1スタンドでの曲げ成形に続いて、第2スタンドで曲げ成形を行った場合、を示している。ここで、図8で示した製品群に関し、図6(b)に示す第1スタンドでの成形後の角度α’は第1のハット形鋼矢板90の角度αに相当し、図6(c)に示す第2スタンドでの成形後の角度α’’は第2のハット形鋼矢板92の角度αに相当する。なお、図10では、主に孔型形状を図示し、被圧延材は一部のみ(腕対応部65、66及び継手対応部68、69)図示している。
【0054】
図9に示すように、仕上圧延ロール100(上仕上ロール100a、下仕上ロール100b)によって仕上材19aが圧延される。この仕上材19aに対し条件の異なる曲げ成形を行うことで、例えば図8(a)、(b)に示すような複数種(ここでは2種類)の断面性能を有するハット形鋼矢板製品90、92が製造される。図9で示した仕上材19aの各コーナー部70、71の形状(曲率)は、所望する製品寸法のコーナー部70(以下、ウェブ-フランジコーナー部70とも記載)及びコーナー部71(以下、フランジ-腕コーナー部71とも記載)の内側コーナー部及び外側コーナー部の曲率半径及び弧長に応じて定められる。
【0055】
ここで、「内側コーナー部」とは、被圧延材断面において折り曲げ形状を有する部分の内側を指す。例えば、上仕上ロール100aにおけるウェブ-フランジコーナー部70に対向する部分の曲率半径(図中Ri)や、下仕上ロール100bにおけるフランジ-腕コーナー部71に対向する部分の曲率半径(図中R’i)は、各コーナー部70、71における「内側コーナー部の曲率半径」となる。
【0056】
また、「外側コーナー部」とは、被圧延材断面において折り曲げ形状を有する部分の外側を指す。例えば、下仕上ロール100bにおけるウェブ-フランジコーナー部70に対向する部分の曲率半径(図中Ro)や、上仕上ロール100aにおけるフランジ-腕コーナー部71に対向する部分の曲率半径(図中R’o)は、各コーナー部70、71における「外側コーナー部の曲率半径」となる。
【0057】
仕上材19aの各コーナー部70、71の厚みは、所望する製品(例えば第1のハット形鋼矢板90又は第2のハット形鋼矢板92)のコーナー部70、71の厚み以上の厚みに設定される。一方で、仕上材19aの各コーナー部70、71を除く部位は、所望する製品と同じ厚みに設定される。なお、コーナー部70、71の厚みとは、図8図9に破線で示したように、ウェブ対応部60、フランジ対応部62、63、腕対応部65、66の厚みの中心を通る直線において、ウェブ-フランジ間角度、フランジ-腕間角度の2等分線と、各コーナー部70、71の内側と外側の交点間と、の距離(図8中のtr1、tr2、tr’1、tr’2、図9中のtr、tr’)とし、以下ではコーナー中央厚とも呼称する。また、コーナー部70、71の中央部のロール隙についても同様に、図10に破線で示したように、ウェブ対応部、フランジ対応部、腕対応部に対向する部分のロール隙の中心を通る直線において、ウェブ-フランジ間角度、フランジ-腕間角度の2等分線と、各コーナー部70、71の内側と外側の交点間と、の距離(図10中のgr1、gr2、gr’1、gr’2)とした。
【0058】
上述したように、曲げ成形機20の上下孔型ロールのロール隙は、原則として仕上材19aの板厚より大きくなるように構成されている。よって、図8図10に示すように複数種のハット形鋼矢板の作り分けを行う場合に、製品群における各製品の板厚は仕上圧延ロール100のロール隙によって定まる。即ち、製品群における各製品のウェブ対応部60あるいは腕対応部65、66と、フランジ対応部62、63との厚み比はほぼ一定となる。
【0059】
ここで、曲げ成形機20のロール隙を仕上圧延機19のロール隙と同じ量だけ調整した場合、曲げ成形機20におけるフランジ角度θ、θ図10参照)の方が、仕上圧延機19のフランジ角度θ(図9参照)に比べて大きい。そのため、曲げ成形機20におけるフランジ対応部の板厚方向のロール隙変化量が仕上圧延機19におけるフランジ対応部の板厚方向のロール隙変化量に比べて小さくなる。これにより、曲げ成形機20の上下孔型ロール(フランジ対応部に対向する部分)では仕上材19aの板厚が圧下される恐れがある。そこで、製品群における最大のフランジ厚に対して曲げ成形機20の上下孔型ロールのフランジ対応部に対向する部分のロール隙が大きくなるようにロール設計を行い、仕上圧延において作り分けた厚みの異なる被圧延材に対し、フランジ厚みを圧下しないようにして、複数種のハット形鋼矢板からなる製品群を作り分ければ良い。
【0060】
一方で、コーナー部70、71の厚み(コーナー中央厚)については、仕上圧延ロール100のロール隙によって定めても良く、あるいは、製品群の製品毎に個別のコーナー中央厚を設計しても良い。複数種の製品群を製造するに際し、コーナー中央厚を個別に設定する場合には、製品群のうちコーナー中央厚とウェブ厚の比が最大である製品に対し、仕上圧延ロール100のコーナー中央のロール隙がその製品のコーナー中央厚以上となるようにロール設計を行えば良い。仕上圧延後の被圧延材のコーナー中央厚が所望とする製品の厚みよりも厚く設計された場合には、曲げ成形によりコーナー部70、71を厚み圧下することでコーナー中央厚を所望の値にすれば良い。
【0061】
<ねじれの発生とその抑制方法>
以上説明した、曲げ成形機20を用いたハット形鋼矢板の製造方法においては、ハット形鋼矢板の断面形状が左右非対称であり、曲げ成形における被圧延材とロールとの接触状態も左右非対称となる。特に、左右の継手形状は大きく異なっており、この左右非対称な断面形状に起因し曲げ成形後の被圧延材にはねじれが生じやすい。本発明者らは、曲げ成形におけるねじれの発生量(以下、単にねじれ量とも記載)について鋭意検討を行った。
【0062】
一例として、本実施形態に係る2つの成形スタンド(第1スタンド22、第2スタンド23)を備えた曲げ成形機20で曲げ成形を行う場合について検討を行った。具体的には、ウェブ厚14.7mm、フランジ厚11.4mmのハット形鋼矢板製品を製造する場合に、仕上圧延後の被圧延材のフランジ角度を40°、第1スタンドの孔型ロールのフランジ対向部分の傾斜角度を53°又は56°、第2スタンドの孔型ロールのフランジ対向部分の傾斜角度を67°とし、第1スタンド22と第2スタンド23の孔型ロールのコーナー部の曲率半径の組み合わせを変更し、曲げ成形後のハット形鋼矢板製品への影響を調査した。
【0063】
図11は、曲げ成形機20の最終スタンドである第2スタンド23における曲げ成形時のコーナー部の内側弧長と、その直前スタンドである第1スタンド22における曲げ成形時のコーナー部の内側弧長との比(即ち、第2スタンド内側弧長/第1スタンド内側弧長)を横軸とし、曲げ成形後に生じたねじれ量を縦軸としたグラフである。即ち、図11はコーナー部内側弧長比とねじれ量との関係を示すグラフである。なお、本実施形態におけるコーナー部の内側弧長は、円弧の長さであるとして説明する。
【0064】
ここで、「コーナー部の内側弧長」は、被圧延材の各コーナー部70、71の内側に接触する孔型ロールの内側コーナー部における「曲率半径×フランジ角度×π/180」と定義した。また、「コーナー部の内側弧長比」は曲げ成形機20の最終スタンドにおける曲げ成形時のコーナー部の内側弧長と、最終スタンドの曲げ成形前のコーナー部の内側弧長との比であれば良い。例えば、曲げ成形が単スタンドで行われる場合には、当該単スタンドを最終スタンドとし、その成形時のコーナー部の内側弧長と、成形前のコーナー部の内側弧長によって規定される。
【0065】
また、「ねじれ量」は、ねじれの無い状態をねじれ量0とし、左右の継手対応部68、69の高さの差で規定した。ねじれは、特に被圧延材の長手方向先端部に生じやすい。そこで、曲げ成形後の先端のクロップ部1mを除く10mの長さで後端を水平にした姿勢でテーブル(搬送テーブル)に置いた状態でねじれ量の規定を行った。即ち、テーブルに置いた状態での長手方向に垂直な断面において、左右の継手対応部68、69の高さの差の長手方向最大値をねじれ量と規定した。なお、左右の継手対応部68、69の形状は非対称であるため、ねじれの無い状態の継手高さの差を0となるように補正した。
【0066】
図11に示すように、コーナー部内側弧長比が1.0未満ではねじれ量は低い値でほぼ一定となっている。また、コーナー部内側弧長比が1.0以上ではねじれ量が大きく増加している。特に、コーナー部内側弧長比が1.15を超えると12mmを超えるねじれ量となっている。ハット形鋼矢板製品におけるねじれ量の公差はJISに規定されていないが、曲がりに対する公差(長さ×0.12%以下)を基準にすると、コーナー部内側弧長比が1,15を超えると長さの0.12%、即ち12mmを超えるねじれ量となっていることが分かる。即ち、ねじれ量を長さの0.12%以下とするためには、コーナー部内側弧長比を1.15以下とすることが望ましい。より好ましくは、コーナー部内側弧長比を1.0未満とすることでねじれ量を低く抑えることができる。
【0067】
コーナー部内側弧長比が1.0以上でねじれ量が増加するのは、曲げ成形においてコーナー部70、71の内側からの押さえが小さくなりコーナー部70、71の塑性変形が小さくなるためである。また、コーナー部内側弧長比が1.0未満でもねじれ量が0とならないのは、ハット形鋼矢板の断面形状が左右非対称なためであり、曲げ成形では被圧延材の厚みよりもロール隙を大きくするような構成を採っているからである。
【0068】
なお、図12は、コーナー部内側弧長比1.2の第2スタンドの荷重を1とした場合の、各コーナー部内側弧長比に対する第2スタンドの荷重(荷重比)を示したグラフである。図12に示すように、コーナー部内側弧長比が小さくなるほど、曲げ成形機20の最終スタンド(第2スタンド23)での荷重は増加することが分かっている。同様にトルクも増加する傾向があり、コーナー部内側弧長比の下限は成形荷重やトルクに関する設備スペックによって決定すれば良い。
【0069】
<本発明の作用効果>
以上説明した本実施形態に係るハット形鋼矢板の製造方法によれば、同一の仕上圧延ロールによって仕上圧延された被圧延材(仕上材19a)から、フランジ角度及び/又は板厚の異なる複数種の製品群(例えば第1のハット形鋼矢板90と第2のハット形鋼矢板92)を効率的に製造することができる。
【0070】
また、ハット形鋼矢板の断面形状が左右非対称であることに起因し、曲げ成形後の被圧延材にねじれが生じやすいとの課題に対し、曲げ成形を行う最終スタンドにおいて、コーナー部内側弧長比の最適化(例えば1.15以下)を図ることでねじれの発生を抑制させ、ねじれ量の低減を実現させることができる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0072】
例えば、上記実施の形態では、曲げ成形機20が第1スタンド22と第2スタンド23から構成される場合について図示し、説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば曲げ成形機20は単スタンドでもよく、また、任意の数の複数スタンドから構成されてもよい。なお、本明細書における「最終スタンド」とは、製造対象の製品を製造する際に最後の曲げ成形を行う成形スタンドを指し、例えば、単スタンドの場合、曲げ成形機20の最終スタンドとは当該単スタンドを指す。また、図8に示す第2のハット形鋼矢板92を製造する場合、前述のコーナー部の厚み及び曲率半径、弧長の関係を満たしていれば、第1スタンドは第1のハット形鋼矢板90と必ずしも同じ孔型ロールとする必要はなく、任意の角度α’となる孔型ロールに変更しても良い。
【0073】
また、上記実施の形態において、曲げ成形機20の成形スタンド22、23の孔型形状は、製造対象とする製品群のそれぞれの製品の寸法形状に対応した孔型形状としても良い。この場合の製品の寸法形状に対応した孔型形状とは、曲げ成形後の変形によりフランジ角度が孔型のフランジ対向部分の傾斜角度と同じにならない場合に、その変形による誤差を考慮した孔型形状を含む。各コーナー部の曲率半径についても、製品の形状と曲げ成形を行う孔型ロールの形状との間の誤差を含む。
【0074】
また、上記実施の形態において、曲げ成形機20と仕上圧延機19はタンデム状態として通材を行ってもよい。タンデム状態の構成とすることで、仕上圧延機19によって被圧延材の先端を曲げ成形機20へ押し込むことができ、曲げ成形機20における被圧延材の噛み込みの安定化が図られる。この場合、仕上圧延機19のテーブルローラー上面と、曲げ成形機20における下孔型ロールのウェブ対応部上面の高さはほぼ一致させることが好ましい。
【0075】
以上の実施の形態においては、ハット形鋼矢板製品を上開き(ウェブ対応部に対して腕対応部を上側にした)姿勢で製造する場合を例示して説明したが、逆の下開き(ウェブ対応部に対して腕対応部を下側にした)姿勢で製造する場合にも本発明は適用できる。その場合、継手の向き及び上下孔型ロールを逆配置するものとして考えれば良い。
【実施例0076】
<実施例1>
本発明の実施例1として、以下の表1に示す3種類のハット形鋼矢板製品(サイズ1、サイズ2、サイズ3)を同一の仕上圧延ロールを用いて製造した。以下の表1には、本実施例の製品段階での寸法設計、仕上圧延段階での寸法設計、曲げ成形の第1スタンドでの寸法設計、第2スタンドでの寸法設計を示している。但し、サイズ1、サイズ2については第1スタンドのみを用いて曲げ成形を行っており、表1中にも第1スタンドのみの寸法設計を記載している。
【0077】
【表1】
【0078】
表1の設計例では、仕上圧延ロールをサイズ1の製品厚み(ウェブ厚、フランジ厚)に基づき設計し、サイズ2、サイズ3については同じ仕上圧延ロールを用い、そのロール隙を変えて製造を行った。また、仕上圧延後の被圧延材の内側コーナー部の曲率半径と外側コーナー部の曲率半径は、仕上圧延後の被圧延材のコーナー中央厚がサイズ1、2の製品と等しくなるように決定した。また、サイズ3の製品における内側コーナー部の曲率半径と外側コーナー部の曲率半径は、仕上圧延ロールのロール隙をサイズ3に合わせた厚みに設定した場合の仕上圧延後の被圧延材のコーナー中央厚に製品のコーナー中央厚が同じになるように決定した。
【0079】
表1の設計例では仕上圧延における仕上圧延ロールは、被圧延材のコーナー部の内側に対応するロールのコーナー部(内側コーナー部)の曲率半径と、被圧延材のコーナー部の外側に対応するロールのコーナー部(外側コーナー部)の曲率半径との比は、全ての製品(サイズ1、2、3)のコーナー部内側(内側コーナー部)の曲率半径とコーナー部外側(外側コーナー部)の曲率半径との比に比べ大きくなるように設計される。
【0080】
また、曲げ成形は、全ての製品(サイズ1、2、3)に関し第1スタンドでは同じ上下孔型ロールを用いロール隙を変更して行われる。表1に示すように、最終スタンドの曲げ成形におけるコーナー部内側弧長比は、サイズ1、2では0.92であり、サイズ3では0.99であり、いずれの製品においてもねじれ量が低く抑えられる条件となっている。
【0081】
実施例1に係る各設計例によれば、サイズ1、2、3の3種類のハット形鋼矢板製品が、同一の仕上圧延ロールを用いて製造可能であることが確認された。また、いずれの製品においても、製造時に生じるねじれ量を低く抑えることができることが確認された。
【0082】
<実施例2>
本発明の実施例2として、以下の表2に示す3種類のハット形鋼矢板製品(サイズ1、サイズ2、サイズ3)を同一の仕上圧延ロールを用いて製造した。以下の表2には、本実施例の製品段階での寸法設計、仕上圧延段階での寸法設計、曲げ成形の第1スタンドでの寸法設計、第2スタンドでの寸法設計を示している。但し、サイズ1、サイズ2については第1スタンドのみを用いて曲げ成形を行っており、表2中にも第1スタンドのみの寸法設計を記載している。
【0083】
【表2】
【0084】
表2の設計例では、3種類のハット形鋼矢板製品(サイズ1、サイズ2、サイズ3)においてコーナー中央厚とウェブ厚の比が最大であるサイズ3のコーナー中央厚に基づき、仕上圧延ロールのロール隙が決定される。これに伴い、仕上圧延ロールにおける被圧延材のコーナー部の内側に対応するロールのコーナー部(内側コーナー部)の曲率半径と、被圧延材のコーナー部の外側に対応するロールのコーナー部(外側コーナー部)の曲率半径が決定される。
【0085】
表2の設計例では、コーナー中央厚とウェブ厚の比が最大であるサイズ3のコーナー中央厚に基づき、仕上圧延ロールのロール隙を決定したため、サイズ1、2に関しては、仕上圧延後のコーナー中央厚が製品に比べ厚くなるような設計となっている。そこで、曲げ成形の第1スタンドの上下孔型ロールにおいて、被圧延材のコーナー部の内側に対応するロールのコーナー部(内側コーナー部)の曲率半径と、被圧延材のコーナー部の外側に対応するロールのコーナー部(外側コーナー部)の曲率半径と、を適正に設計し、曲げ成形時にコーナー部の厚み圧下を行っている。これにより適正な製品寸法として3種類のハット形鋼矢板製品(サイズ1、サイズ2、サイズ3)が製造される。
【0086】
表2に示すように、最終スタンドの曲げ成形におけるコーナー部内側弧長比は、サイズ1、2では0.78であり、サイズ3では1.13であり、いずれの製品においてもねじれ量が許容範囲となる条件となっている。
【0087】
実施例2に係る各設計例によれば、サイズ1、2、3の3種類のハット形鋼矢板製品が、同一の仕上圧延ロールを用いて製造可能であることが確認された。また、いずれの製品においても、製造時に生じるねじれ量を許容範囲内に抑えることができることが確認された。
【0088】
<実施例3>
本発明の実施例3として、上記実施例2のサイズ3の製品と同じ厚みを有し、コーナー部の曲率半径が小さい製品(表3中のサイズ3)を実施例2と同様に同一の仕上圧延ロールを用いて製造した。以下の表3には、本実施例の製品段階での寸法設計、仕上圧延段階での寸法設計、曲げ成形の第1スタンドでの寸法設計、第2スタンドでの寸法設計を示している。
【0089】
【表3】
【0090】
表3に示すように、本設計例ではコーナー部の曲率半径が小さい製品を製造するため、第2スタンドの上下孔型ロールにおいて、被圧延材のコーナー部の内側に対応するロールのコーナー部(内側コーナー部)の曲率半径と、被圧延材のコーナー部の外側に対応するロールのコーナー部(外側コーナー部)の曲率半径と、を適正に設計している。本設計例における最終スタンドの曲げ成形でのコーナー部内側弧長比は0.85であり、ねじれ量が低く抑えられる条件となっている。
【0091】
実施例3に係る設計例によれば、上記実施例2のサイズ3の製品と同じ厚みを有し、コーナー部の曲率半径が小さい製品を同一の仕上圧延ロールを用いて製造できることが確認された。また、その際、製造時に生じるねじれ量を低く抑えることができることが確認された。
【0092】
<比較例>
本発明の比較例として、上記実施例2のサイズ3の製品と同じ厚みを有し、コーナー部の曲率半径が大きい(表2のサイズ1、2に相当)製品を同一の仕上圧延ロールを用いて製造した。以下の表4には、本比較例の製品段階での寸法設計、仕上圧延段階での寸法設計、曲げ成形の第1スタンドでの寸法設計、第2スタンドでの寸法設計を示している。
【0093】
【表4】
【0094】
表4に示すように、本設計例ではコーナー部の曲率半径が大きい製品を製造するため、第2スタンドの上下孔型ロールにおいて、被圧延材のコーナー部の内側に対応するロールのコーナー部(内側コーナー部)の曲率半径と、被圧延材のコーナー部の外側に対応するロールのコーナー部(外側コーナー部)の曲率半径と、が大きいような条件で設計している。本設計例における最終スタンドの曲げ成形でのコーナー部内側弧長比は1.31であり、ねじれ量が大きくなる恐れがある。
【0095】
本比較例に係る設計例によれば、同一の仕上圧延ロールを用いてコーナー部の曲率半径の異なるハット形鋼矢板製品を製造しようとした場合に、設計条件によっては曲げ成形時にねじれが生じてしまう。このことから、複数種のハット形鋼矢板製品を作り分ける場合には、曲げ成形を行う最終スタンドにおいて、コーナー部内側弧長比の最適化を行う必要があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、例えばハット形鋼矢板の製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0097】
10…粗圧延機
13…第1中間圧延機
14…エッジャー圧延機
16…第2中間圧延機
17…エッジャー圧延機
19…仕上圧延機
19a…仕上材
20…曲げ成形機
22…第1スタンド
23…第2スタンド
40…上孔型ロール
41…下孔型ロール
44…筐体
45…孔型
45a…ウェブ部分
45b…フランジ部分
50…上孔型ロール
51…下孔型ロール
54…筐体
55…孔型
60…ウェブ対応部
62、63…フランジ対応部
65、66…腕対応部
68、69…継手対応部
70…コーナー部
70a、70b…コーナー部内側
70c、70d…コーナー部外側
71…コーナー部
71a、71b…コーナー部内側
71c、71d…コーナー部外側
90…第1のハット形鋼矢板
92…第2のハット形鋼矢板
100…仕上圧延ロール
L…圧延ライン
図1
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図12