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特開2023-39919ハフニウム化合物含有ゾルゲル液、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法、および、ハフニア含有膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039919
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】ハフニウム化合物含有ゾルゲル液、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法、および、ハフニア含有膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 27/02 20060101AFI20230314BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20230314BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230314BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20230314BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C01G27/02
C09D1/00
C09D7/63
C09D7/20
B05D7/24 303B
B05D7/24 301H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131694
(22)【出願日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021146772
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】辻内 直人
(72)【発明者】
【氏名】巽 康司
【テーマコード(参考)】
4D075
4G048
4J038
【Fターム(参考)】
4D075CA02
4D075DA06
4D075DB02
4D075DB05
4D075DB06
4D075DB07
4D075DB14
4D075EA07
4D075EA12
4D075EB19
4D075EC08
4D075EC54
4G048AA02
4G048AA08
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD10
4G048AE05
4G048AE08
4J038JA20
4J038JA34
4J038JC38
4J038KA06
4J038NA24
4J038NA25
4J038PB06
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】親水性の基材表面に対しても、均一に塗布することが可能なハフニウム化合物含有ゾルゲル液を提供する。
【解決手段】溶媒となる炭素数が5以下の低級アルコールと、ハフニア源となるハフニウム化合物と、濡れ性改善剤として分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールと、を含有する。さらに安定化剤を含有していることが好ましい。また、前記ハフニウム化合物の含有量が0.05mass%以上10mass%以下の範囲内とされ、前記ポリアルコールの含有量が0.05mass%以上20mass%以下の範囲内とされていることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒となる炭素数が5以下の低級アルコールと、ハフニア源となるハフニウム化合物と、濡れ性改善剤として分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールと、を含有することを特徴とするハフニウム化合物含有ゾルゲル液。
【請求項2】
さらに安定化剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のハフニウム化合物含有ゾルゲル液。
【請求項3】
前記ハフニウム化合物の含有量が0.05mass%以上10mass%以下の範囲内とされ、
前記ポリアルコールの含有量が0.05mass%以上20mass%以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載のハフニウム化合物含有ゾルゲル液。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載されたハフニウム化合物含有ゾルゲル液を製造するハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法であって、
溶媒となる炭素数が5以下の低級アルコールに、前記ハフニウム化合物を添加するハフニウム化合物添加工程と、
前記ハフニウム化合物を添加した溶媒を還流する還流工程と、
室温にまで冷却した後、前記ポリアルコールを添加して混合するポリアルコール添加工程と、
を備えていることを特徴とするハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法。
【請求項5】
基材の表面にハフニア含有膜を成膜するハフニア含有膜の製造方法であって、
前記基材の表面に請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のハフニウム化合物含有ゾルゲル液を塗布するハフニウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程と、
塗布した前記ハフニウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥させてハフニウム化合物含有ゲル膜を形成する乾燥工程と、
前記ハフニウム化合物含有ゲル膜を焼成してハフニア含有膜を形成する焼成工程と、
を備えていることを特徴とするハフニア含有膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面にハフニア(別名:酸化ハフニウム(IV)、化学式:HfO)を含有するハフニア含有膜を成膜する際に用いられるハフニウム化合物含有ゾルゲル液、このハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法、および、このハフニウム化合物含有ゾルゲル液を用いたハフニア含有膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上述のハフニア含有膜は、硬度の高いハードコート膜やエッチング用マスクとして、各種基材の表面に成膜されている。
ここで、上述のハフニア含有膜を成膜する方法としては、例えば特許文献1,2に示すように、ハフニア源となるハフニウム化合物を含有するハフニウム化合物含有ゾルゲル液が用いた方法が提案されている。
特許文献1,2においては、基材の表面にハフニウム化合物含有ゾルゲル液を塗布し、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液の塗布膜を硬化処理することにより、ハフニア含有膜を成膜している。
【0003】
ところで、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液は、特許文献1に示すように、金属表面に対して濡れ性が低いため、金属基材の表面にハフニウム化合物含有ゾルゲル液の塗布膜を均一な厚さで形成することが困難であった。
そこで、特許文献1においては、金属基材の表面に対して脱脂処理または電解処理を実施した後に、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液を塗布することによって、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液の塗布膜の均一化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-267822号公報
【特許文献2】特開2002-187738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、金属基材の表面に脱脂処理や電解処理を行う必要があり、工程が複雑化し、製造コストが増加するおそれがあった。また、脱脂処理や電解処理後の表面状態によっては、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液を均一に塗布できないおそれがあった。
特に、例えばアルミニウム等の酸化し易い金属からなる基材においては、基材表面に酸化膜が形成されて親水性になっており、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液を均一に塗布できないおそれがあった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、親水性の基材表面に対しても、均一に塗布することが可能なハフニウム化合物含有ゾルゲル液、このハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法、および、このハフニウム化合物含有ゾルゲル液を用いたハフニア含有膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の態様1のハフニウム化合物含有ゾルゲル液は、溶媒となる炭素数が5以下の低級アルコールと、ハフニア源となるハフニウム化合物と、濡れ性改善剤として分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールと、を含有することを特徴としている。
【0008】
本発明の態様1のハフニウム化合物含有ゾルゲル液においては、濡れ性改善剤として分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールを含有している。このポリアルコールは、分子内に複数の水酸基(-OH基)を含むことから親水性の表面への親和性が高く、かつ、分子内にエーテル基(-O-)およびN原子のいずれか一方又は両方を有していることからハフニウム化合物含有ゾルゲル液との親和性も高い。よって、このポリアルコールを含有したハフニウム化合物含有ゾルゲル液を、親水性の基材表面に均一に塗布することが可能となる。
また、ハフニア源としてハフニウム化合物を含有しているので、このハフニウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥および焼成することで、ハフニア含有膜を成膜することができる。
さらに、溶媒として、炭素数が5以下の低級アルコールを用いているので、比較的容易に溶媒を蒸発させることができ、ハフニア含有膜を安定して成膜することが可能となる。
【0009】
本発明の態様2は、態様1のハフニウム化合物含有ゾルゲル液において、さらに安定化剤を含有することを特徴としている。
本発明の態様2のハフニウム化合物含有ゾルゲル液によれば、安定化剤を含有しているので、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液の劣化を抑制でき、取り扱いが容易となる。
【0010】
本発明の態様3は、態様1又は態様2のハフニウム化合物含有ゾルゲル液において、前記ハフニウム化合物の含有量が0.05mass%以上10mass%以下の範囲内とされ、前記ポリアルコールの含有量が0.05mass%以上20mass%以下の範囲内とされていることを特徴としている。
本発明の態様3のハフニウム化合物含有ゾルゲル液によれば、前記ハフニウム化合物の含有量が上述の範囲内とされているので、このハフニウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥および焼成することで、ハフニア含有膜を確実に成膜することができる。
また、前記ポリアルコールの含有量が上述の範囲内とされているので、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液を、親水性の基材表面にさらに均一に塗布することが可能となる。
【0011】
本発明の態様4のハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法は、本発明の態様1から態様3のハフニウム化合物含有ゾルゲル液を製造するハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法であって、溶媒となる炭素数が5以下の低級アルコールに、前記ハフニウム化合物を添加するハフニウム化合物添加工程と、前記ハフニウム化合物を添加した溶媒を還流する還流工程と、室温にまで冷却した後、前記ポリアルコールを添加して混合するポリアルコール添加工程と、を備えていることを特徴としている。
【0012】
本発明の態様4のハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法によれば、上述のように、溶媒となる低級アルコールにハフニア源となるハフニウム化合物を添加して還流処理し、その後に室温に冷却した後にポリアルコールを添加しているので、溶媒に、ハフニウム化合物およびポリアルコールを均一に分散させることができ、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液を安定して製造することができる。
【0013】
本発明の態様5のハフニア含有膜の製造方法は、基材の表面にハフニア含有膜を成膜するハフニア含有膜の製造方法であって、前記基材の表面に本発明の態様1から態様3のハフニウム化合物含有ゾルゲル液を塗布するハフニウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程と、塗布した前記ハフニウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥させてハフニウム化合物含有ゲル膜を形成する乾燥工程と、前記ハフニウム化合物含有ゲル膜を焼成してハフニア含有膜を形成する焼成工程と、を備えていることを特徴としている。
【0014】
本発明の態様5のハフニア含有膜の製造方法によれば、上述のハフニウム化合物含有ゾルゲル液を用いているので、親水性の基材表面にも均一に塗布することができる。そして、均一に塗布されたハフニウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥および焼成しているので、均一な厚みのハフニア含有膜を安定して製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、親水性の基材表面に対しても、均一に塗布することが可能なハフニウム化合物含有ゾルゲル液、このハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法、および、このハフニウム化合物含有ゾルゲル液を用いたハフニア含有膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法を示すフロー図である。
図2】本発明の一実施形態に係るハフニア含有膜の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法、および、ハフニア含有膜の製造方法について、図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液においては、溶媒となる炭素数が5以下の低級アルコールを含有し、さらに、ハフニア源となるハフニウム化合物と、濡れ性改善剤として分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールと、を含有する。これらに加えて、さらに安定化剤を含有していてもよい。
【0019】
なお、本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液においては、ハフニア源となるハフニウム化合物の含有量が0.05mass%以上10mass%以下の範囲内とされ、ポリアルコールの含有量が0.05mass%以上20mass%以下の範囲内とされていることが好ましい。
すなわち、本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液の組成は、ハフニウム化合物の含有量が0.05mass%以上10mass%以下の範囲内、ポリアルコールの含有量が0.05mass%以上20mass%以下の範囲内、安定化剤の含有量が0mass%以上20mass%以下の範囲内、残部が溶媒(炭素数が5以下の低級アルコール)であることが好ましい。ここで、低級アルコール とは、分子内の炭素数が5以下であり、水酸基(-OH基)の数が2以下のアルコールである。
【0020】
ここで、溶媒となる低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2―メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール等の1価アルコール類、並びにエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、及び1,4-ブタンジオール等の2価アルコール類を挙げることができる。
本実施形態では、低級アルコールとして、プロパノールまたはブタノールを用いることが好ましい。
【0021】
ハフニア源となるハフニウム化合物としては、例えば、ハフニウムハロゲン化物、ハフニウム亜ハロゲン酸塩、ハフニウム次亜ハロゲン酸塩、ハフニウムハロゲン酸塩、ハフニウム過ハロゲン酸塩、ハフニウム無機酸塩、ハフニウム有機酸塩、ハフニウムアルコキシド、及びハフニウム錯体からなる群から選択されたハフニウム化合物を挙げることができる。
【0022】
本実施形態では、ハフニア源となるハフニウム化合物として、炭素数が5以下のハフニウムアルコキシドを用いることが好ましく、具体的には、ハフニウム(IV)メトキシド、ハフニウム(IV)エトキシド、ハフニウム(IV)プロポキシド、ハフニウムブトキシドハフニウム(IV) n-ブトキシド、ハフニウム(IV) t-ブドキシド、ハフニウム(IV)ペントキシド、ハフニウム(IV)イソプロポキシドモノイソプロピレート等を用いることが好ましい。
これらのハフニア源となるハフニウム化合物を含むハフニウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥および焼成することにより、ハフニア(HfO)が形成され、ハフニア含有膜が形成されることになる。
【0023】
ここで、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液におけるハフニウム化合物の含有量を0.05mass%以上10mass%以下の範囲内とすることにより、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥および焼成することで十分にハフニアが形成され、確実にハフニア含有膜を成膜することが可能となる。
なお、ハフニウム化合物の含有量の下限は、0.1mass%以上とすることがさらに好ましく、0.2mass%以上とすることがより好ましい。一方、ハフニウム化合物の含有量の上限は、8mass%以下とすることがさらに好ましく、5mass%以下とすることがより好ましい。
【0024】
濡れ性改善剤となる分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールとしては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジグリセロール、ジペンタエリトリトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、ヘプタノールアミン、メタノールアミン、ジメチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン等を用いることが好ましい。
分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールは、分子内に複数の水酸基(-OH基)を含むことから親水性の表面への親和性が高く、かつ、分子内にエーテル基(-O-)およびN原子のいずれか一方又は両方を有していることからハフニウム化合物含有ゾルゲル液との親和性も高い。よって、このポリアルコールを含有したハフニウム化合物含有ゾルゲル液は、親水性の基材表面に均一に塗布することが可能となる。
【0025】
ここで、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液における、分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールの含有量を0.05mass%以上20mass%以下の範囲内とすることにより、十分に濡れ性を改善でき、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液を親水性の基材表面に均一に塗布することが可能となる。
なお、分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールの含有量の下限は、0.1mass%以上とすることがさらに好ましく、0.2mass%以上とすることがより好ましい。一方、分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールの含有量の上限は、10mass%以下とすることがさらに好ましく、5mass%以下とすることがより好ましい。
【0026】
安定化剤としては、例えば、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、アセトイン、ヒドロキシアセトン、マロン酸、酢酸、無水酢酸、乳酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸等を用いることが好ましい。
ハフニウム化合物含有ゾルゲル液に安定化剤を添加することで、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液の劣化を抑制でき、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液の取り扱い性を向上させることができる。よって、安定化剤を必要に応じて適宜添加してもよい。
【0027】
ここで、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液における、安定化剤の含有量は0mass%以上10mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、安定化剤の含有量の下限は、0.05mass%以上とすることがさらに好ましく、0.1mass%以上とすることがより好ましい。一方、安定化剤の上限は、8mass%以下とすることがさらに好ましく、5mass%以下とすることがより好ましい。
【0028】
次に、上述した本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液を製造する方法について、図1のフロー図を参照して説明する。
【0029】
本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法においては、図1に示すように、溶媒となる炭素数が5以下の低級アルコールに、ハフニウム化合物を添加するハフニウム化合物添加工程S01と、ハフニア源となるハフニウム化合物を添加した溶媒を還流する還流工程S02と、室温にまで冷却した後、分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールを添加して混合するポリアルコール添加工程S03と、を備えている。なお、組成を調整するために、溶媒添加工程S04を有していてもよい。また、安定化剤を添加する場合には、安定化剤添加工程S05を有することになる。
【0030】
ハフニウム化合物添加工程S01においては、溶媒となる低級アルコールを加温・撹拌した状態で、ハフニウム化合物を溶媒に添加する。
なお、添加する際の雰囲気は、非酸化雰囲気とすることが好ましく、本実施形態では窒素雰囲気としている。
また、ハフニウム化合物を添加する際の低級アルコールの温度は、5℃以上40℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0031】
還流工程S02においては、ハフニウム化合物を添加した溶媒を、攪拌しながら加熱して還流処理する。
この還流工程S02における加熱温度は80℃以上200℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、加熱温度での保持時間は0.5時間以上5時間以下の範囲内とすることがこのましい。
なお、安定化剤を添加する場合には、この還流工程S02の前に、安定化剤添加工程S05を実施することが好ましい。
【0032】
ポリアルコール添加工程S03においては、還流工程S02を実施した溶媒を室温(例えば、20℃以上30℃以下の範囲内)にまで冷却した後、分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールを添加して、攪拌混合する。
【0033】
溶媒添加工程S04においては、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液の組成を調整するために、溶媒となる低級アルコールを追加する。
【0034】
以上の各工程によって、本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液が製造されることになる。
【0035】
次に、上述した本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液を用いてハフニア含有膜を製造する方法について、図2のフロー図を参照して説明する。
【0036】
本実施形態であるハフニア含有膜の製造方法においては、図2に示すように、基材の表面に、本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液を塗布するハフニウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程S11と、塗布したハフニウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥させてハフニウム化合物含有ゲル膜を形成する乾燥工程S12と、ハフニウム化合物含有ゲル膜を焼成してハフニア含有膜を形成する焼成工程S13と、を備えている。
【0037】
ここで、本実施形態においては、ハフニア含有膜を成膜する基材は、金属基材とされているが、金属に限定されるものではない。基材の表面に酸化膜等の親水性の皮膜が形成されているものであれば特に制限は無い。
また、この基材表面には、ブラスト処理やエッチング処理等によって凹凸が形成されていてもよい。
基材としては、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、銅などの単金属や、それらの合金、酸化物、シリコン、ガリウムなどの元素半導体、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、リン化インジウム、窒化ガリウム、ガリウムヒ素、酸化ガリウムなどの化合物半導体を用いることができる。
【0038】
ハフニウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程S11においては、基材の表面に本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液を塗布する。このとき、塗布方法に特に制限はなく、スプレー法、ディップ法などを用いてもよいが、本実施形態においては、スピンコートによりハフニウム化合物含有ゾルゲル液を塗布する。
ここで、本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液は、上述のように、分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールを含有していることから、親水性の基材表面にも均一に塗布することが可能となる。
【0039】
なお、このハフニウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程S11においては、基材の表面に最初に塗布する際に、本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液(濡れ改善剤として分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールを含有)を塗布し、その後、重ね塗り用のハフニウム化合物含有ゾルゲル液を塗布する。
ここで、重ね塗り用のハフニウム化合物含有ゾルゲル液は、上述の濡れ改善剤を含有していてもよいし、濡れ改善剤を含有していなくてもよい。
また、重ね塗り用のハフニウム化合物含有ゾルゲル液においては、本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液よりも、ハフニウム化合物の含有量が高いものを用いることが好ましい。
【0040】
乾燥工程S12においては、基材表面に塗布したハフニウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥させることで、ハフニウム化合物含有ゲル膜を形成する。ここで、本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液は、溶媒として炭素数が5以下の低級アルコールを用いているので、乾燥工程S12によって溶媒を比較的容易に蒸発させることができる。
この乾燥工程S12における加熱条件は、大気もしくは酸素雰囲気、加熱温度を100℃以上400℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を0.5分以上10分以下の範囲内、とすることが好ましい。
なお、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程S11と乾燥工程S12とを繰り返し実施することで、所定の厚さのハフニウム化合物含有ゲル膜を形成してもよい。
【0041】
焼成工程S13においては、ハフニウム化合物含有ゲル膜を加熱して焼成することにより、ハフニア含有膜を形成する。
この焼成工程S13における加熱条件は、大気もしくは酸素雰囲気、加熱温度を400℃以上1000℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を0.5分以上10分以下の範囲内、とすることが好ましい。
なお、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程S11と乾燥工程S12とを繰り返し実施する場合には、毎回の乾燥工程S12後に焼成工程S13を行ってもよい。
【0042】
以上の工程により、基材の表面にハフニア含有膜が製造されることになる。
【0043】
以上のような構成とされた本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液によれば、濡れ性改善剤として分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールを含有しているので、親水性の表面への親和性が高く、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程S11において、親水性の基材表面に均一に塗布することが可能となる。
【0044】
また、ハフニア源としてハフニウム化合物を含有しているので、このハフニウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥および焼成することで、ハフニア含有膜を成膜することができる。
さらに、溶媒として炭素数が5以下の低級アルコールを用いているので、乾燥工程S12において、溶媒を比較的容易に溶媒を蒸発させることができ、ハフニア含有膜を安定して成膜することが可能となる。
【0045】
ここで、本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液において、さらに安定化剤を含有する場合には、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液の劣化を抑制でき、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液の取り扱いが容易となる。
【0046】
また、本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液において、ハフニウム化合物の含有量が0.05mass%以上10mass%以下の範囲内とされ、ポリアルコールの含有量が0.05mass%以上20mass%以下の範囲内とされている場合には、このハフニウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥および焼成することで、ハフニア含有膜を確実に成膜することができるとともに、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液を、親水性の基材表面にさらに均一に塗布することが可能となる。
【0047】
本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液の製造方法によれば、上述のように、溶媒となる炭素数が5以下の低級アルコールにハフニウム化合物を添加するハフニウム化合物添加工程S01と、ハフニウム化合物を添加した溶媒を還流する還流工程S02と、室温にまで冷却した後、ポリアルコールを添加して混合するポリアルコール添加工程S03と、を備えているので、溶媒に、ハフニウム化合物およびポリアルコールを均一に分散させることができ、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液を安定して製造することが可能となる。
また、安定化剤添加工程S05を有する場合には、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液の劣化を抑制することができる。
【0048】
本実施形態であるハフニア含有膜の製造方法によれば、基材の表面に本実施形態であるハフニウム化合物含有ゾルゲル液を塗布するハフニウム化合物含有ゾルゲル液塗布工程S11と、塗布したハフニウム化合物含有ゾルゲル液を乾燥させてハフニウム化合物含有ゲル膜を形成する乾燥工程S12と、ハフニウム化合物含有ゲル膜を焼成してハフニア含有膜を形成する焼成工程S13と、を備えているので、親水性の基材表面にハフニウム化合物含有ゾルゲル液を均一に塗布することができ、均一な厚さのハフニア含有膜を安定して製造することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0050】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0051】
窒素雰囲気下で、表1に示す溶媒を、表2に示す温度に加温して攪拌しながら、表1に示すハフニウム化合物を添加した。
次に、表1に示す安定化剤を添加した後、表2に示す条件で還流処理を実施した。
その後、室温まで冷却した後、表1に示す濡れ改善剤を添加し、攪拌混合した。そして、さらに溶媒となる低級アルコールを添加し、組成を調整した。
これにより、本発明例および比較例のハフニウム化合物含有ゾルゲル液を製造した。なお、後述する濡れ性評価の際の基準とするために、濡れ性改善剤を添加しない以外はそれぞれの本発明例および比較例と同等の組成および条件でハフニウム化合物含有ゾルゲル液を製造した。
【0052】
本発明例および比較例のハフニウム化合物含有ゾルゲル液について、親水性の基材表面における濡れ性を以下のように評価した。
【0053】
基材として、50mm角、厚み2mmのアルミニウム合金基板(A5052)を用意した。この基板表面を、SiC用いてブラスト処理を行い、表面粗さ(算術平均粗さ)Raが2μmである凹凸面を形成した。
なお、基材をブラストして凸凹面を形成することにより、基材からの反射光が抑えられるので、色差的に濡れ広がりの面積率評価がし易くなる。また、表面積が大きく濡れ広がりし難い表面とすることで、各サンプルの効果の差が顕著となる。
【0054】
ブラスト処理後の基材のブラストされた面の中央部に、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液を0.1mL滴下し、静置した。滴下されたハフニウム化合物含有ゾルゲル液は、表面張力により基材上に濡れ広がることになる。
滴下後5分間静置した後、ハフニウム化合物含有ゾルゲル液が濡れ広がった面積を、顕微鏡を用いて測定した。同様の評価を3回行い、平均値を算出した。
【0055】
濡れ改善剤を添加しなかったハフニウム化合物含有ゾルゲル液と比べて、濡れ広がり面積の増加率が20%以上の場合を、改善効果「あり」とした。
濡れ改善剤を添加しなかったハフニウム化合物含有ゾルゲル液と比べて、濡れ広がり面積の増加率が20%未満のものを、改善効果「なし」とした。
評価結果を表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
比較例1においては、濡れ改善剤として分子内にエーテル基を有さないエチレングリコールを添加したが、濡れ性を向上させることができなかった。
比較例2においては、濡れ改善剤として分子内に水酸基を1つ有するジエチレングリコールモノメチルエーテルを添加したが、濡れ性を十分に向上させることができなかった。
比較例3においては、濡れ改善剤として分子内に水酸基を有していないジエチレングリコールメチルエーテルを添加したが、濡れ性を十分に向上させることができなかった。
比較例4においては、濡れ改善剤として分子内にエーテル基およびN原子を有さないグリセリンを添加したが、濡れ性を十分に向上させることができなかった。
【0059】
これに対して、本発明例1-11においては、濡れ改善剤として分子内にエーテル基およびN原子のいずれか一方又は両方を有するポリアルコールを添加しており、濡れ性が十分に改善されることが確認された。
よって、本発明例によれば、親水性の基材表面に対しても、均一に塗布することが可能なハフニウム化合物含有ゾルゲル液を提供可能であることが確認された。
図1
図2