(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039988
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】ヒト非小細胞肺癌における転座及び変異体ROSキナーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230314BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230314BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20230314BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/54
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022198413
(22)【出願日】2022-12-13
(62)【分割の表示】P 2018228744の分割
【原出願日】2007-01-19
(31)【優先権主張番号】60/760,634
(32)【優先日】2006-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】506034341
【氏名又は名称】セル・シグナリング・テクノロジー・インコーポレイテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アイラン・クォー
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・ポッセマト
(57)【要約】 (修正有)
【課題】NSCLCのような肺癌など、ヒト癌の進行に関与している融合タンパク質又は変異体タンパク質をもたらす新規遺伝子転座又は変異を同定し、並びにこのような融合タンパク質の研究及び検出のための新規試薬及び方法を提供する。
【解決手段】ナトリウム依存性リン酸輸送体イソフォームNaPi-3bタンパク質(SLC34A2)の一部を癌原遺伝子チロシンタンパク質キナーゼROS前駆体(ROS)キナーゼと組み合わせる融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列を含むSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(b)配列番号2又は配列番号4のヌクレオチド配列を含む、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(c)SLC34A2のN末端アミノ酸配列(配列番号5の残基1から126)及びROSのキナーゼドメイン(配列番号7の残基1945から2222)を含むSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(d)SLC34A2のN末端ヌクレオチド配列(配列番号6の残基1から378)及びROSのキナーゼドメインヌクレオチド配列(配列番号8の残基6032から6865)を含むヌクレオチド配列;
(e)SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチドの融合連結部(配列番号2の残基376から381又は配列番号4の残基376から381)を包含する少なくとも6つの連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列;
(f)SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチドの融合連結部(配列番号1の残基126から127又は配列番号3の残基126から127)を包含する少なくとも6つの連続するアミノ酸を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;並びに
(g)(a)から(f)のヌクレオチド配列の何れかに対して相補的なヌクレオチド配列;
からなる群から選択される配列と少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項2】
(b)の前記ヌクレオチド配列がATCC寄託番号PTA-7877中に含有されるcDNAクローンのコーディングヌクレオチド配列を含む、請求項1の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
厳格なハイブリッド形成条件下で、請求項1のポリヌクレオチドとハイブリッド形成する単離されたポリヌクレオチドであり、ハイブリッド形成する前記単離されたポリヌクレオチドが、厳格なハイブリッド形成条件下で、A残基のみ又はT残基のみからなるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドとハイブリッド形成しない、前記単離されたポリヌクレオチド。
【請求項4】
検出可能な標識をさらに含む、請求項3の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1の単離された核酸分子をベクター中に挿入することを含む、組換えベクターを作製する方法。
【請求項6】
請求項5の方法によって作製された組換えベクター。
【請求項7】
請求項6の組換えベクターを宿主細胞中に導入することを含む、組換え宿主細胞を作製する方法。
【請求項8】
請求項7の方法によって作製された組換え宿主細胞。
【請求項9】
組換えSLC34A2-ROS融合ポリペプチドを作製する方法であり、前記融合ポリペプチドの発現に適した条件下で、請求項8の組換え宿主細胞を培養すること、及び前記ポリペプチドを回収することを含む、前記方法。
【請求項10】
(a)配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列を含むSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするアミノ酸配列;
(b)SLC34A2のN末端アミノ酸配列(配列番号5の残基1から126)及びROSのキナーゼドメイン(配列番号7の残基1945から2222)を含むSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするアミノ酸配列;並びに
(c)SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチドの融合連結部(配列番号1の残基126から127又は配列番号3の残基126から127)を包含する少なくとも6つの連続するアミノ酸を含むポリペプチドをコードするアミノ酸配列;
からなる群から選択される配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド。
【請求項11】
(a)の前記アミノ酸配列がATCC寄託番号PTA-7877中に含有されるcDNAによってコードされるSLC34A2-ROS融合ポリペプチド配列を含む、請求項10の単離されたポリペプチド。
【請求項12】
請求項6の組換えベクター又は請求項8の組換え宿主細胞を用いて作製された組換えSLC34A2-ROS融合ポリペプチド又は切断されたROSキナーゼポリペプチド。
【請求項13】
請求項10のSLC34A2-ROS融合ポリペプチドを特異的に結合又は検出するが、野生型SLC34A2又は野生型ROSの何れも結合せず、又は検出しない単離された試薬。
【請求項14】
抗体又は重同位体標識された(AQUA)ペプチドである、請求項12の単離された試薬。
【請求項15】
SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの融合連結部のアミノ酸配列を含む、請求項15の重同位体標識された(AQUA)ペプチド。
【請求項16】
癌中の変異体ROSポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドの存在を検出するための方法であり、
(a)癌を有し、又は癌を有すると疑われる患者から生物学的試料を取得する工程;及び
(b)請求項1のポリヌクレオチドを検出する少なくとも1つの試薬及び/又は請求項13の少なくとも1つの試薬を使用して、SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドが前記生物学的試料中に存在するかどうかを決定する工程、
を含む前記方法。
【請求項17】
前記癌が肺癌である、請求項16の方法。
【請求項18】
前記肺癌が非小細胞肺癌(NSCLC)である、請求項17の方法。
【請求項19】
変異体ROSポリヌクレオチド又はポリペプチドの存在が、少なくとも1つのROSキナーゼ阻害治療薬を含む組成物に対して応答する可能性がある癌を特定する、請求項17の方法。
【請求項20】
フローサイトメトリー(FC)、免疫組織化学(IHC)又は免疫蛍光(IF)アッセイ形式で実行される、請求項17の方法。
【請求項21】
蛍光インサイチュハイブリッド形成(FISH)又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイ形式で実行される、請求項17の方法。
【請求項22】
前記SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの活性が検出される、請求項17の方法。
【請求項23】
化合物が、SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドによって特徴付けられる癌の進行を阻害するかどうかを決定するための方法であり、前記化合物が前記癌の中で前記SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの発現及び/又は活性を阻害するかどうかを決定する工程を含む、前記方法。
【請求項24】
前記SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの発現及び/又は活性の阻害が、請求項1のポリヌクレオチドを検出する少なくとも1つの試薬及び/又は請求項13の少なくとも1つの試薬を用いて決定される、請求項23の方法。
【請求項25】
SLC34A2-ROS融合ポリペプチドを発現する癌の進行を阻害する方法であり、前記癌中の前記SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの発現及び/又は活性を阻害する工程を含む、前記方法。
【請求項26】
前記癌が肺癌である、請求項25の方法。
【請求項27】
前記肺癌が非小細胞肺癌(NSCLC)である、請求項26の方法。
【請求項28】
生物学的試料中のSLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドを検出するためのキットであり、少なくとも1つの請求項1のポリヌクレオチド及び/又は少なくとも1つの請求項13の試薬並びに1つ以上の第二の試薬を含む前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、癌に関与するタンパク質及び遺伝子に関し、並びに癌の検出、診断及び治療に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの癌は、細胞プロセスの異常な調節又は細胞の制御されない成長及び増殖をもたらす細胞シグナル伝達経路の崩壊によって特徴付けられる。これらの崩壊は、多くの場合、キナーゼなどの特定のシグナル伝達タンパク質の活性の変化によって引き起こされる。これらの癌には、非小細胞肺癌(NSCLC)が存在する。NSCLCは、米国での癌死の原因の第一位であり、全ての肺癌の約87%に相当する。米国では、毎年、約151,000人の新たなNSCLC患者が存在し、米国のみで、120,000人を超える患者が、毎年、この病気で亡くなっていると推計されている。“Cancer Facts and Figures 2005”,American Cancer Societyを参照されたい。3つの異なるサブタイプを含むNSCLCは、多くの場合、転移後に検出されるに過ぎないので、診断の2年以内での死亡率は75%である。
【0003】
異常なシグナル伝達活性を有するキナーゼ融合タンパク質をもたらす遺伝子転座が、ある種の癌を直接的にもたらし得ることが知られている。例えば、チロシンキナーゼ融合タンパク質であるBCR-ABL発癌タンパク質は、ヒト慢性骨髄性白血病(CML)の原因因子であることが直接示されている。CML患者の少なくとも90から95%に見出されるBCR-ABL発癌タンパク質は、9番染色体上のc-ABLタンパク質チロシンキナーゼから22番染色体上のBCR配列中への遺伝子配列の転座によって生成され、いわゆるフィラデルフィア染色体をもたらす。例えば、「Kurzock et al.,N.Engl.J.Med.319:990-998(1988)」を参照のこと。転座は、急性リンパ性白血病及びAML患者にも観察される。
【0004】
他の様々な癌への関与が推定されている変異体又は融合タンパク質をもたらす遺伝子転座が記載されている。例えば、「Falini et al.,Blood 99(2):409-426(2002)」は、血液の癌に発生することが知られている転座について概説している。現在まで、Notch3を伴うt(15;19)転座など、肺癌に発生する遺伝子転座及び変異体タンパク質の限定された数が記載されてきたに過ぎない。例えば、「Dang et al.,J.Natl.Can.Instit.92(16):1355-1357(2000)」を参照されたい。小細胞及び非小細胞肺癌中に、RNA結合タンパク質―6(RBM-6)発現及び/又は活性の欠損が見出されている。「Drabkin et al.,Oncogene8(16):2589-97(1999)」を参照されたい。しかしながら、現在まで、タンパク質キナーゼが関与するヒトNSCLC癌内の転座は記載されていない。
【0005】
SLC34A2発現及び/又は活性化の欠損は、ヒト卵巣癌内に見出されている。「Rangel et al.,Oncogene22(46):7225-7232(2003)」を参照されたい。同様に、神経膠芽腫中のFIG-ROSdel(6)(q21,q21)転座から生じるROSキナーゼ発現の欠損が記載されている。「Charest et al.,Genes Chromos.Canc.37(1):58-71(2003)」を参照されたい。マウス中で腫瘍増殖を誘導することができるROSキナーゼの切断形態も記載されている。「Birchmeier et al.,Mol.Cell.Bio.6(9):3109-3115(1986)」を参照されたい。現在まで、ROSキナーゼ中に生じる公知の活性化点変異は存在しない。
【0006】
ヒトの癌内に転座及び変異を同定することは、このような融合又は変異体タンパク質を標的とする新たな治療薬の開発及びこのような遺伝子転座を有する患者を特定するための新たな診断薬に結実し得るので、極めて望ましい。例えば、BCR-ABLは、白血病を治療するための治療薬を開発するための標的となっている。ごく最近、ABLキナーゼの小分子阻害剤であるGleevec(R)(イマチニブ・メシラート、STI-571)が、CMLの治療に対して承認を受けた。この薬物は、腫瘍細胞の増殖を誘導するシグナル伝達経路を妨害するように設計された抗増殖因子の新しいクラスの最初の薬物である。周知の副作用という問題があり、悪性腫瘍の基礎原因を特異的に標的とすることができないので、しばしば効果が限られているCMLとALLに対する慣用の治療法、化学療法及び放射線照射に比べて、この薬物の開発は著しい進歩をもたらす。同様に、Gleevec(R)のような標的化された阻害剤に応答する可能性が最も高い患者を同定するために、患者内のBCR-ABL融合タンパク質を特異的に検出するための試薬及び方法が記載されている。
【0007】
従って、NSCLCのような肺癌など、ヒト癌の進行に関与している融合タンパク質又は変異体タンパク質をもたらす新規遺伝子転座又は変異を同定し、並びにこのような融合タンパク質の研究及び検出のための新規試薬及び方法を開発する必要性がなお存在している。このような融合タンパク質の同定は、とりわけ、望ましくは、標的化された治療法に対して患者を選択する新しいための方法及びこのような変異体/融合タンパク質を阻害する新たな薬物をスクリーニングするための新たな方法を可能とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“Cancer Facts and Figures 2005”,American Cancer Society
【非特許文献2】Kurzock et al.,N.Engl.J.Med.319:990-998(1988)
【非特許文献3】Falini et al.,Blood 99(2):409-426(2002)
【非特許文献4】Dang et al.,J.Natl.Can.Instit.92(16):1355-1357(2000)
【非特許文献5】Drabkin et al.,Oncogene8(16):2589-97(1999)
【非特許文献6】Rangel et al.,Oncogene22(46):7225-7232(2003)
【非特許文献7】Charest et al.,Genes Chromos.Canc.37(1):58-71(2003)
【非特許文献8】Birchmeier et al.,Mol.Cell.Bio.6(9):3109-3115(1986)
【発明の概要】
【0009】
(発明の概要)
本発明に従って、ナトリウム依存性リン酸輸送体イソフォームNaPi-3bタンパク質(SLC34A2)の一部を癌原遺伝子チロシンタンパク質キナーゼROS前駆体(ROS)キナーゼと組み合わせる融合タンパク質をもたらす、ヒト非小細胞肺癌(NSCLC)中の新規遺伝子転座(4p15,6q22)がここに同定された。2つのSLC34A2-ROS融合タンパク質は、融合タンパク質がその中で発現されるこのような癌のサブセットにおいて、ROSチロシンキナーゼ活性を保持し、NSCLCの増殖及び生存を誘導すると予測される。
【0010】
従って、本発明は、一つには、開示されている変異体ROSポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド及びベクター、これらを検出するためのプローブ及びアッセイ、単離された変異体ROSポリペプチド、組換え変異体ポリペプチド並びに変異体ROSポリヌクレオチド及びポリペプチドを検出するための試薬を提供する。開示されている新たな変異体ROSキナーゼタンパク質及びSLC34A2転座の同定によって、生物学的試料中の変異体ROSポリヌクレオチド又はポリペプチドの存在を決定するための新たな方法、変異体キナーゼタンパク質を阻害する化合物をスクリーニングする方法及び同じく本発明によって提供される、変異体ROSポリヌクレオチド又はポリペプチドの発現によって特徴付けられる癌の進行を阻害する方法が可能となる。本発明の態様及び実施形態が、以下でさらに詳しく記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】それぞれ、染色体4p及び6q上のSLC34A2遺伝子及びROS遺伝子の位置(パネルA)並びに完全長SLC34A2及びROSタンパク質のドメイン位置並びに2つのSLC34A2-ROS融合タンパク質バリアントのドメイン位置(パネルB及びC)を示している。第一の(長い)バリアントでは、ROSの膜貫通ドメインの上流にある残基1750に融合連結部が存在するのに対して、第二の(短い)バリアントでは、残基1853に融合連結部が存在する。
【
図2A】ヒトSLC34A2-ROS融合タンパク質第一の(長い)バリアントのアミノ酸配列(配列番号1)(1文字コード)(上パネル)であり、コードDNA配列(配列番号2)(下パネル)も示されている。SLC34A2部分の残基は斜字体であるのに対して、ROSのキナーゼドメインの残基は太字である。
【
図2B】ヒトSLC34A2-ROS融合タンパク質の第二の(短い)バリアントのアミノ酸配列(配列番号3)(1文字コード)(上パネル)であり、コードDNA配列(配列番号4)も示されている(下パネル)。SLC34A2部分の残基は斜字体であるのに対して、ROSのキナーゼドメインの残基は太字である。
【
図3】ヒトSLC34A2タンパク質のアミノ酸配列(1文字コード)(配列番号5)(SwissProt受託番号095436)(上パネル)であり、コードDNA配列も示されている(配列番号6)(GeneBank受託番号NM
006424)(下パネル)。転座に関与する残基に下線が付されている。
【
図4A】ヒトROSキナーゼのアミノ酸配列(1文字コード)(配列番号7)(SwissProt受託番号P08922)である。第一の(長い)バリアントの転座に関与している残基に下線が付されているのに対して、下線が付された太字の残基は、第二の(短い)バリアント転座に関与している残基である。
【
図4B-1】ヒトROSキナーゼのコードDNA配列であり(配列番号8)(GeneBank受託番号NM
002944)である。第一の(長い)バリアントの転座に関与している残基に下線が付されているのに対して、下線が付された太字の残基は、第二の(短い)バリアント転座に関与している残基である。
【
図4B-2】ヒトROSキナーゼのコードDNA配列であり(配列番号8)(GeneBank受託番号NM
002944)である。第一の(長い)バリアントの転座に関与している残基に下線が付されているのに対して、下線が付された太字の残基は、第二の(短い)バリアント転座に関与している残基である。
【
図5】完全長/野生型ROSよりずっと低い分子量を有するROSの形態の発現を示すヒトNSCLC細胞株(HCC78)から得られる抽出物のウェスタンブロット分析である。
【
図6】PCRの2巡後における、ROSプライマーを用いた5’RACE産物によるROSの検出を示すゲルである。用いたプライマー(配列番号13から15)が示されている。
【
図7】SLC34A2とROSの転座によって形成された融合遺伝子のRT-PCRによる検出を示すゲルである。2つの各バリアント(長い及び短い)のエキソン4/エキソン32融合連結部のタンパク質(及びDNA)配列(配列番号9及び10)及びエキソン4/エキソン34融合連結部のタンパク質(及びDNA)配列(配列番号11及び配列番号12)が示されている。
【
図8】融合タンパク質をもたらす転座に関与しているSLC34A2遺伝子中のエキソン1から4及びROS遺伝子中のエキソン32から34の位置を示す(上部)ダイアグラムを示している。矢印は、図示されているプライマー配列とともに(配列番号17から20)、融合タンパク質バリアントのPCR増幅のために使用されるプライマーの位置を示している。
【
図9】対照(レーン1及び2)と比較した、形質移入された293細胞(ヒト胎児由来腎臓)中でのSLC34A2-ROS融合タンパク質(第一の(長い)バリアント)の発現を示すゲルである。
【
図10】ヒトNSCLC細胞株中での変異体ROSキナーゼのsiRNA阻害を示している。パネルAは、siRNA形質移入後の細胞阻害のグラフを示している。パネルBは、(変異体ROSによって誘導された細胞株中での)ROSの特異的ノックダウン及び増加されたアポトーシスを示すイムノブロットであり、パネルCは、ROSの下流に位置するシグナル伝達分子の減少した活性を示すイムノブロットである。
【
図11】2色の分離型(break-a-part)プローブを用いたFISHによる、(ヒトNSCLC細胞株中での)SLC34A2-ROS融合/転座の特異的な検出を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の詳細)
本発明に従って、変異体キナーゼ融合タンパク質SLC34A2-ROSをもたらす、これまで公知でなかった遺伝子の転座が、ここに、肺癌のサブタイプであるヒト非小細胞肺癌(NSCLC)中に同定された。染色体(4p15)と染色体(6q22)の間に生じる転座は、690アミノ酸のリン酸輸送体タンパク質であるナトリウム依存性リン酸輸送体イソフォームNaPi-3bタンパク質(SLC34A2)のN末端と、2347アミノ酸の受容体チロシンキナーゼである癌原遺伝子チロシンタンパク質キナーゼROS前駆体(ROS)キナーゼの膜貫通及びキナーゼドメインとを組み合わせる2つの融合タンパク質バリアントを生成する。それぞれ、724アミノ酸(長いバリアント)と621アミノ酸(短いバリアント)である生じたSLC34A2-ROS融合タンパク質は、キナーゼ活性を保持し、融合タンパク質がその中で発現されているヒトNSCLC腫瘍のサブセットの増殖及び生存を誘導すると予測される。
【0013】
神経膠芽腫中のFIG-ROSdel(6)(q21,q21)転座(Charest et al.,(2003)、上記参照)及びROSの切断された活性形態(Birchmeier et al.,上記参照)を含む、ROSキナーゼが関与する異常な融合タンパク質をもたらす数個の遺伝子転座が記載されているが、本明細書に開示されているSLC34A2-ROS転座及び融合タンパク質は新規であり、この融合キナーゼは、ヒトNSCLCにおいて、初めて報告されたものである。SLC34A2は、ヒト肺及び小腸中で発現されており、ナトリウム依存性の活性を有するリン酸輸送体タンパク質である。SLC34A2発現及び/又は活性の欠損は、卵巣癌内に見出されている。Rangelら、上記参照。ROSは、インシュリン受容体サブファミリーに属する膜貫通受容体チロシンキナーゼであり、細胞増殖及び分化プロセスに関与している。ROSは、ヒトの中で、様々な異なる組織の上皮細胞中で発現されている。神経膠芽腫及び中枢神経系の腫瘍内で、ROS発現及び/又は活性化の欠損が見出されている。例えば、Charest et al.(2003)、上記を参照されたい。
【0014】
さらに以下に記載されているように、SLC34A2-ROS転座遺伝子及び融合タンパク質は、本発明において、単離及び配列決定され、変異体キナーゼタンパク質を発現させるためのcDNAが作製された。従って、本発明は、一つには、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド、このようなポリヌクレオチドとハイブリッド形成する核酸プローブ並びに組換え変異体ROSポリペプチドを作製するために、このようなポリヌクレオチドを使用するための方法、ベクター及び宿主細胞を提供する。本発明は、一つには、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド、組換え変異体ポリペプチド並びにSLC34A2-ROS融合ポリペプチドに特異的に結合し、及び/又はSLC34A2-ROS融合ポリペプチドを検出するが、野生型SLC34A2又は野生型ROSの何れかに結合せず、又は検出しない単離された試薬も提供する。以下でさらに詳しく記載されている本発明のこれらの態様は、とりわけ、変異体ROSキナーゼ発現/活性によって引き起こされる癌の機序をさらに研究する上で、SLC34A2-ROS転座及び/又は融合タンパク質によって特徴付けられる肺癌及びその他の癌を特定するために、並びに、以下でさらに記載されているように本発明の方法を実施する上で有用である。
【0015】
新規ROSキナーゼ変異体及び転座の同定は、この転座及び/又は融合タンパク質によって特徴付けられるNSCLCなどの疾病の診断及び治療の可能性に対して重要な示唆を与える。NSCLCは、米国での癌死の原因の第一位であり、しばしば、転移後でなければ診断が難しく、本疾患を効果的に治療又は治癒させることの困難さを増大させている。従って、NSCLCの死亡率は、診断の2年以内で75%である。American Cancer Society、上記参照。標的とされるEGFR阻害剤は、現在、NSCLCの治療に対して承認されているが、この治療法は、(EGFRではない、又はEGFRの他に)変異体ROSキナーゼがその中で発現されており、完全に又は部分的に、疾病を誘導する腫瘍を有する患者に対しては、部分的に又は完全に無効であり得ると予想されている。
【0016】
従って、NSCLC腫瘍のサブセットにおいて増殖及び生存を誘導すると予測される、NSCLC中の遺伝子転座から生じたSLC34A2-ROS融合タンパク質の本発明における発見によって、哺乳動物の肺癌(NSCLCなど)及びSLC34A2-ROS融合タンパク質又は切断されたROSキナーゼがその中で発現されているその他の癌を正確に特定するための重要な新しい方法が可能となる。これらの腫瘍は、変異体ROSキナーゼのキナーゼ活性の阻害剤に対して応答する可能性が最も高い。変異体ROSキナーゼによって引き起こされる癌を可能な限り早く特定することができれば、ある患者に対して何れの治療薬又は治療薬の組み合わせが最も適切であるかを臨床的に決定する上で極めて役に立ち、従って、事実、癌を引き起こす一次シグナル伝達物質ではない他のキナーゼを標的とする阻害剤の処方を避けるのに役立つ。
【0017】
従って、本発明は、一つには、本発明の融合特異的及び変異体特異的試薬を用いて、癌中のSLC34A2-ROS転座(t(4,6)(p15,q22))及び/又は融合ポリペプチドの存在を検出するための方法を提供する。このような方法は、例えば、変異体タンパク質のROSキナーゼ活性の阻害剤に対して応答する可能性があるNSCLC腫瘍などの癌を特定するために実施し得る。本発明は、一つには、ある化合物がSLC34A2-ROS融合ポリペプチドによって特徴付けられる癌の進行を阻害するかどうかを決定するための方法も提供する。さらに、変異体ポリペプチドの発現及び/又は活性を阻害することによって、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドを発現する癌の進行を阻害する方法が、本発明によって提供される。このような方法は、以下でさらに詳しく記載されている。
【0018】
本発明のさらなる態様、利点及び実施形態が、以下でさらに詳しく記載されている。本明細書に引用されている全ての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0019】
定義
本明細書において使用される、以下の用語は、表記されている意味を有する。
【0020】
「抗体」とは、キメラ、ポリクローナル及びモノクローナル抗体を含むイムノグロブリンの全ての種類(IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEを含む。)(Fab又はこれらの抗原認識断片を含む。)を表す。本明細書において使用される「ヒト化抗体」という用語は、元の結合能力を保持しながら、ヒト抗体により近似するようにするために、非抗原結合領域中でアミノ酸が置換されている抗体分子を表す。
【0021】
「生物学的に活性な」という用語は、天然に存在する分子の構造的、制御的又は生化学的機能を有するタンパク質を表す。同様に、「生物学的に活性な」とは、天然、組み換え若しくは合成SLC34A2-ROS融合ポリペプチド若しくは切断されたROSポリペプチド又はこれらのあらゆるオリゴペプチドが、適切な動物又は細胞中に特異的生物応答を誘導し、特異抗体と結合する能力を表す。
【0022】
「生物学的試料」という用語は、その最も広い意味において使用され、SLC34A2-ROS融合又は切断されたROSポリヌクレオチド若しくはポリペプチド又はこれらの断片を含有すると疑われるあらゆる生物学的試料を意味し、細胞、細胞から単離された染色体(例えば、中期染色体の広がり)、(溶液中の、又はサザン分析などの固体支持体に結合した)ゲノムDNA、(溶液中の、又はノーザン分析などの固体支持体に結合した)RNA、(溶液中の、又は固体支持体に結合した)cDNA、細胞、血液、尿、髄又は組織などからの抽出物を含み得る。
【0023】
癌及び変異体ROSポリヌクレオチド又はポリペプチドに関する「によって特徴付けられる」とは、SLC34A2-ROS遺伝子転座及び/又は発現された融合ポリペプチドがその中に存在しない癌に比べて、このような転座及び/又は融合ポリペプチドがその中に存在する癌を意味する。このような融合ポリペプチドの存在は、完全に又は部分的に、このような癌の増殖及び生存を引き起こし得る。
【0024】
「コンセンサス」とは、必要とされていない塩基を分離するために再度配列決定された核酸配列、又はXL-PCRTM(Perkin Elmer,Norwalk,Conn.)を用いて5’及び/又は3’方向に伸長され、再度配列決定された核酸配列、又はGELVIEWTMFragment Assemblyシステム(GCG,Madison,Wis.)を用いて2以上のIncyteクローンの重複配列から構築された核酸配列、又は伸長され且つ構築された核酸配列を表す。
【0025】
「ROSキナーゼ阻害治療薬」とは、単独で、及び/又はSLC34A2-ROS融合タンパク質の一部として、直接的に又は間接的に、野生型又は切断されたROSの発現及び/又は活性を阻害する1つ又はそれ以上の化学的又は生物学的化合物を含むあらゆる組成物を意味する。
【0026】
「誘導体」とは、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードする核酸配列又はコードされているポリペプチド自体の化学的修飾を表す。このような修飾の例は、アルキル、アシル又はアミノ基による水素の置換である。核酸誘導体は、天然分子の不可欠な生物学的特性を保持するポリペプチドをコードする。
【0027】
ポリペプチド、ポリヌクレオチド又は本明細書に開示された試薬に関する「検出可能な標識」は、それによって目的の分子の存在を検出し得る、蛍光、集団(mass)、残基、色素、放射性同位体、標識又はタグ修飾などの(但し、これらに限定されない。)化学的、生物学的又は他の修飾を意味する。
【0028】
生物学的試料中のSLC34A2-ROS融合ポリペプチドに関する「発現」又は「発現された」とは、この融合ポリペプチドがその中で有意に発現されていない対照試料と比べて、有意に発現されていることを意味する。
【0029】
「重同位体標識されたペプチド」(AQUAペプチドと互換的に使用される。)とは、以下でさらに論述されているWO/03016861“Absolute Quantification of Proteins and Modified Forms Thereof by Multistage Mass Spectrometry”(Gygi et al.)に記載されているようなタンパク質の絶対的な定量又は検出に適した少なくとも1つの重同位体標識を含むペプチドを意味する。AQUAペプチドなどに関する「特異的に検出する」という用語は、ペプチドがAQUAペプチド配列を含有するポリペプチド及びタンパク質のみを検出及び定量し、AQUAペプチド配列を含有しないポリペプチド及びタンパク質を実質的に検出しないことを意味する。
【0030】
「単離された」(又は「実質的に精製された」)とは、それらの天然の環境から取り出され、単離され、又は分離されている核酸又はアミノ酸配列を表す。それらは、好ましくは、天然の状態で付随する他の成分が少なくとも60%存在せず、より好ましくは75%存在せず、最も好ましくは90%又はそれ以上存在しない。
【0031】
「模倣体」とは、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド又はその一部の構造の知見からその構造が開発されており、従って、転座関連タンパク質様分子の作用の一部又は全部を実行することができる分子を表す。
【0032】
「変異体ROS」ポリヌクレオチド又はポリペプチドは、本明細書に記載されているSLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド又はポリペプチドを意味する。
【0033】
「ポリヌクレオチド」(又は「ヌクレオチド配列」)とは、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド又はポリヌクレオチド及びこれらの断片又は一部、並びに一本鎖又は二本鎖であり得、センス鎖又はアンチセンス鎖に相当するゲノム又は合成起源のDNA又はRNAを表す。
【0034】
「ポリペプチド」(又は「アミノ酸配列」)とは、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質配列及びこれらの断片又は一部並びに天然に存在する分子又は合成分子を表す。天然に存在するタンパク質分子のアミノ酸配列を表すために、本明細書において「アミノ酸配列」と表記されている場合、「アミノ酸配列」及び「ポリペプチド」又は「タンパク質」などの類似の用語は、当該アミノ酸配列を、表記されているタンパク質分子に付随する完全な原型状態のアミノ酸配列に限定することを意味するものではない。
【0035】
「SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド」とは、任意の種、特に、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウス、ウマ及び好ましくはヒトを含む哺乳動物から得られ、天然、合成、半合成又は組換えを問わないあらゆる採取源から得られた、本明細書に記載されているような実質的に精製されたSLC34A2-ROS転座遺伝子産物又は融合ポリヌクレオチドの核酸配列を表す。
【0036】
「SLC34A2-ROS融合ポリペプチド」とは、任意の種、特に、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウス、ウマ及び好ましくはヒトを含む哺乳動物から得られ、天然、合成、半合成又は組換えを問わないあらゆる採取源から得られた、本明細書に記載されている実質的に精製されたSLC34A2-ROS融合ポリペプチドのアミノ酸配列を表す。
【0037】
抗体及びタンパク質又はペプチドの相互作用を表す「に特異的に結合する」(又は「特異的に結合する」又は「特異的な結合」という用語は、相互作用が、タンパク質上の特定の構造(すなわち、抗原性決定基又はエピトープ)の存在に依存すること、換言すれば、抗体が、タンパク質一般ではなく、特異的なタンパク質構造を認識し、結合することを意味する。抗体がそれらに対して特異的である配列又は抗原性決定基以外の配列又は抗原性決定基への抗体の結合に関する「結合しない」という用語は、抗体がそれらに対して特異的である抗原性決定基又は配列への抗体の結合に比べて、実質的に反応しないことを意味する。
【0038】
配列又はプローブハイブリッド形成条件に関する「厳格な条件」という用語は、約Tmマイナス5℃(プローブ又は配列の融解温度(Tm)を5℃下回る。)からTmより約20℃ないし25℃低い範囲内で起こる「厳格性」である。典型的な厳格な条件は、50%ホルムアミド、5×SSC(750mMNaCl、75mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×Denhardtの溶液、10%硫酸デキストラン及び20μg/mLの変性され、剪断されたサケ精子DNAを含む溶液中における42℃での一晩の温置に続く、約65℃での0.1×SSC中でのフィルターの洗浄である。当業者によって理解されるように、ハイブリッド形成の厳格性は、同一の又は関連するポリヌクレオチド配列を特定又は検出するために変化させ得る。
【0039】
SLC34A2-ROS融合ポリペプチドポリペプチドの「バリアント」は、1つ又はそれ以上のアミノ酸によって変化を受けたアミノ酸配列を表す。バリアントは、置換されたアミノ酸が類似の構造的又は化学的特性を有する(例えば、ロイシンをイソロイシンで置換)「保存的な」変化を有し得る。さらに稀には、バリアントは、「非保存的な」変化を有し得る(例えば、グリシンをトリプトファンで置換)。類似の僅かな変化は、アミノ酸の欠失若しくは挿入又は両者も含み得る。生物活性又は免疫学的活性を損なわずに、何れのアミノ酸残基が置換、挿入又は欠失され得るかを決定する上での指針は、本分野で周知のコンピュータプログラム、例えば、DNASTARソフトウェアを用いて見出し得る。
【0040】
A.ヒトNSCLC中での変異体ROSキナーゼの同定
驚くべきことに、肺癌の際タイプであるヒト非小細胞肺癌(NSCLC)の細胞株(HCC78)から得られた抽出物中のリン酸化されたペプチドの包括的な特性の検査中に、ヒトNSCLC中の染色体(4p15)と染色体(6q22)の間に生じ、及びSLC34A2のN末端(エキソン1から4)をROSの膜貫通及びキナーゼドメイン(それぞれ、エキソン32から43又はエキソン34から43)と組み合わせる2つのバリアント融合タンパク質の発現をもたらす、本明細書に開示されている新規ヒト遺伝子転移が同定された。この転座に関与している染色体、遺伝子及び選択的スプライシング産物(長い及び短い)が、
図1に示されている。
【0041】
本明細書中の実施例1にさらに記載されているように、複雑な混合物から修飾されたペプチドを単離し、質量分析で性質決定するための最近記載された技術(米国特許公開20030044848,Rush et al.,“Immunoaffinity Isolation of Modified Peptides from Complex Mixtures”(“IAP”技術)を用いて、この細胞株のリン酸化特性が解明された。ホスホチロシン特異的抗体(CELL SIGNALING TECHNOLOGY,INC.,Beverly,MA,2003/04 Cat.#9411)を用いたIAP技術の適用によって、HCC78細胞株は(ROSキナーゼを発現していない他の細胞株の多くとは異なり)ROSキナーゼを発現しているが、このキナーゼは明らかに切断されていることが同定された(
図5参照)。スクリーニングによって、ROSを含む、細胞株中の他の多くの活性化されたキナーゼが同定された。次いで、5’RACEによるROSの5’配列の分析によって、本キナーゼがSLC34A2のN末端に融合されていることが明らかとなった(
図6参照)。
【0042】
次いで、両ROSキナーゼ発現(HCC78細胞中の融合タンパク質)を調べるためのウェスタンブロット分析によって、及びそのリン酸化を確認するためのp-チロシン特異的抗体を用いた免疫沈降によって、HCC78細胞株中でのSLC34A2-ROS融合ポリペプチドの発現が確認された(実施例2;
図5参照)。PCRによってSLC34A2-ROS融合遺伝子が増幅され、単離され、配列決定された(実施例4;
図7(上パネル)参照)。
図1のパネルBに示されているように、SLC34A2-ROS転座は、SLC34A2のN末端(アミノ酸1から126)を、ROSの膜貫通及びキナーゼドメイン(それぞれ、アミノ酸1750から2347又はアミノ酸1853から2347)(配列番号3及び5も参照)と組み合わせて、2つの融合バリアント(長い及び短い)を生成する(
図1のパネルC参照)。転座は、SLC34A2の5’の最も末端の膜貫通ドメインを保持している。生成されたSLC34A2-ROS融合タンパク質は、それぞれ、724アミノ酸及び621アミノ酸を含み(
図1及び
図2AからBのパネルCを参照(配列番号1及び3))、ROSのキナーゼ活性を保持していると予想される。関与するエキソン及び融合連結部が、
図8に示されている。
【0043】
次いで、HCC78細胞中において生じるSLC34A2-ROSとして予想される分子量で、融合タンパク質が発現されたことを確定するために、SLC34A2-ROS融合タンパク質の長いバリアントをコードするcDNAを293細胞(ヒト胎児由来腎臓細胞)中に形質移入した。
図9を参照。
【0044】
周知の技術に従ってsiRNA発現停止を使用することによって、又はROSに対して活性を有する標的化されたキナーゼ阻害剤を使用することによって、SLC34A2-ROS融合タンパク質のROSキナーゼ活性の阻害が、HCC78細胞株に対して示され得る。このような検査の結果(実施例3参照)は、融合タンパク質が、実際に、このNSCLC細胞株の増殖及び生存を誘導することを確認する。ヒトNSCLC腫瘍の包括的ホスホペプチドプロファイリング及びFISH分析は、患者の僅かなパーセントが、実際にこの変異を保有していること(実施例7及び9参照)、これらの患者には、ROS阻害剤療法が有益であり得ることを示唆する。
【0045】
B.単離されたポリヌクレオチド
本発明は、一つには、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド、このようなポリヌクレオチドとハイブリッド形成するヌクレオチドプローブ並びに組換え融合ポリペプチドを作製するために、このようなポリヌクレオチドを使用するための方法、ベクター及び宿主細胞を提供する。
【0046】
別段の記載がなければ、本明細書中のDNA分子を配列決定することによって決定された全てのヌクレオチド配列は、自動化されたDNA配列決定装置(Applied Biosystems,Inc.のModel373など)を用いて決定され、本明細書で決定されたDNA分子によってコードされるポリペプチドの全てのアミノ酸配列は自動化されたペプチド配列決定装置を用いて決定された。本分野において公知であるとおり、この自動化されたアプローチによって決定された何れのDNA配列に関しても、本明細書で決定された何れのヌクレオチド配列も幾つかの誤りを含有し得る。自動操作によって決定されたヌクレオチド配列は、典型的には、配列決定されたDNA分子の実際のヌクレオチド配列に対して少なくとも約90%同一であり、より典型的には、少なくとも約95%から少なくとも99%同一である。実際の配列は、本分野において周知の手動DNA配列決定方法などの他のアプローチによって、さらに正確に決定することが可能である。同じく本分野において公知であるように、実際の配列と比べて、決定されたヌクレオチド配列中の単一の挿入又は欠失は、決定されたヌクレオチド配列によってコードされる予測アミノ酸配列が、配列決定されたDNA分子によって実際にコードされるアミノ酸配列と完全に異なるように、挿入又は欠失などの点から開始され、ヌクレオチド配列の翻訳にフレームシフトを引き起こす。
【0047】
別段の記載がなければ、本明細書に記載されている各ヌクレオチド配列は、デオキシリボヌクレオチド(A、G、C及びTと略記される。)の配列として表されている。しかしながら、核酸分子又はポリヌクレオチドの「ヌクレオチド配列」によって、DNA分子又はポリヌクレオチドに関しては、デオキシリボヌクレオチドの配列が意図され、RNA分子又はポリヌクレオチドに関しては、リボヌクレオチドの対応する配列(A、G、C及びU)(この場合、指定されているデオキシリボヌクレオチド配列中の各チミジンデオキシリボヌクレオチド(T)は、リボヌクレオチドウリジン(U)によって置換されている。)が意図される。例えば、配列番号2若しくは4の配列を有し、またはデオキシリボヌクレオチドの略号を用いて記載されているRNA分子の表記は、配列番号2又は4の各デオキシリボヌクレオチドA、G又はCが、対応するリボヌクレオチドA、G又はCによって置換されており、及び各デオキシリボヌクレオチドTがリボヌクレオチドUによって置換されている配列を有するRNA分子を示すものとする。
【0048】
一実施形態において、本発明は、
(a)配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列を含むSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(b)配列番号2又は配列番号4のヌクレオチド配列を含む、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(c)SLC34A2のN末端アミノ酸配列(配列番号5の残基1から126)及びROSのキナーゼドメイン(配列番号7の残基1945から2222)を含むSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(d)SLC34A2のN末端ヌクレオチド配列(配列番号6の残基1から378)及びROSのキナーゼドメインヌクレオチド配列(配列番号8の残基6032から6865)を含むヌクレオチド配列;
(e)SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチドの融合連結部(配列番号2の残基376から381又は配列番号4の残基376から381)を包含する少なくとも6つの連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列;
(f)SLC34A1-ROS融合ポリヌクレオチドの融合連結部(配列番号1の残基126から127又は配列番号3の残基126から127)を包含する少なくとも6つの連続するアミノ酸を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;並びに
(g)(a)から(f)のヌクレオチド配列の何れかに対して相補的なヌクレオチド配列;
からなる群から選択される配列と少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0049】
図2AからB(配列番号2及び4)中のヌクレオチド配列などの本明細書に提供されている情報を用いて、本発明の変異体ROSポリペプチドをコードする本発明の核酸分子は、mRNAを出発材料として用いてcDNAをクローニングするための操作など、標準的なクローニング及びスクリーニング操作を用いて取得され得る。本発明の一例として、
図2Aから2B中に記載されているポリヌクレオチド(配列番号2及び4)は、(以下の実施例4でさらに記載されているように)ヒトNSCLC細胞株由来のゲノムDNAから単離された。その中でSLC34A2-ROS転座(4p15、6q22)が生じている他の肺癌腫若しくは肺癌、又はその中で欠失若しくは別の転座が野生型キナーゼの細胞外ドメインを欠如する切断されたROSキナーゼの発現をもたらす他の肺癌腫若しくは肺癌中のゲノムDNA又はcDNAライブラリー中にも融合遺伝子を同定することができる。
【0050】
SLC34A2-ROS転座遺伝子産物(配列番号2及び配列番号4)の決定されたヌクレオチド配列は、それぞれ、724アミノ酸(
図2A(配列番号1)及び
図1参照)及び621アミノ酸(
図2B(配列番号3)及び
図1参照)の2つのキナーゼ融合タンパク質バリアント(長い及び短い)をコードする。SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチドは、野生型ROSタンパク質の膜貫通及びキナーゼドメイン(それぞれ、エキソン32から43又はエキソン34から43)をコードする野生型ROSのヌクレオチド配列の一部(
図4(配列番号8参照))とともに、野生型SLC34A2タンパク質のN末端(エキソン1から4)をコードする野生型SLC34A2のヌクレオチド配列の一部(
図3(配列番号6)参照)を含む。
図1を参照されたい。キナーゼドメインは、(第一のバリアント融合ポリヌクレオチドのヌクレオチド964から1797によってコードされる)第一の(長い)バリアント融合タンパク質中に残基322から599を含み、及び(第二のバリアント融合ポリヌクレオチドのヌクレオチド655から1488によってコードされる)第二の(短い)バリアント融合タンパク質中に残基219から496を含む。
【0051】
記載されているとおり、本発明は、一つには、SLC34A2-ROS融合タンパク質の成熟形態を提供する。シグナル仮説によれば、哺乳動物細胞によって分泌されるタンパク質は、粗面小胞体を横切る増殖中のタンパク質鎖の送出が一旦開始されると、成熟したタンパク質から切断されるシグナル又は分泌リーダー配列を有する。多くの哺乳動物細胞及び昆虫細胞さえ、分泌されたタンパク質を同じ特異性で切断する。しかしながら、幾つかの事例では、分泌されたタンパク質の切断は完全には均一でなく、これは、タンパク質上に2つ又はそれ以上の成熟した種をもたらす。さらに、分泌されたタンパク質の切断特異性は、最終的には、完全なタンパク質の一次構造によって決定されること、すなわち、分泌されたタンパク質の切断特異性は、ポリペプチドのアミノ酸配列に固有であることが以前から知られている。従って、本発明は、一つには、ブダペスト条約の規定に従って、2006年9月20日に、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(Manassas,Virginia,U.S.A.)に寄託され、ATCC寄託番号PTA-7877として特定されるcDNAクローンによってコードされるアミノ酸配列を有する成熟したSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を提供する。
【0052】
寄託されたcDNAクローンによってコードされるアミノ酸配列を有する成熟したSLC34A2-ROSポリペプチドによって、寄託された宿主細胞中のベクター中に含有されるクローンのヒトDNA配列によってコードされる完全な翻訳領域の哺乳動物細胞(例えば、以下に記載されているようなCOS細胞)中での発現によって産生されるこの融合タンパク質の成熟形態が意味される。
【0053】
記載されているとおり、本発明のポリヌクレオチドは、mRNAなどのRNAの形態であり得、又は、たとえば、クローニングによって得られた、若しくは合成的に作製されたcDNA及びゲノムDNAなどのDNAの形態であり得る。DNAは、二本鎖又は一本鎖であり得る。一本鎖DNA又はRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる。)であり得、又は非コード鎖(アンチセンス鎖とも表記される。)であり得る。
【0054】
本発明の単離されたポリヌクレオチドとは、それらの固有環境から取り出された核酸分子(DNA又はRNA)である。例えば、ベクター中に含有される組換えDNA分子は、本発明において、単離されたものと考えられる。単離されたDNA分子のさらなる例には、異種の宿主細胞中に維持された組換えDNA分子又は溶液中の(部分的に又は実質的に)精製されたDNA分子が含まれる。単離されたRNA分子には、本発明のDNA分子のインビボ又はインビトロRNA転写物が含まれる。さらに、本発明の単離された核酸分子には、合成的に作製されたこのような分子が含まれる。
【0055】
本発明の単離されたポリヌクレオチドには、
図2AからBに示されているDNA分子(配列番号2及び4)、
図1に示されている成熟SLC34A2-ROS融合タンパク質に対するコード配列を含むDNA分子(配列番号1及び3)、及び、上記されているものとは実質的に異なる配列を含むが、遺伝子コードの縮重のために、なお本発明の変異体ROSポリペプチドである配列を含むDNA分子が含まれる。遺伝子コードは、本分野において周知であり、従って、このような縮重バリアントを作製することは、当業者にとって定型的な作業である。
【0056】
別の実施形態において、本発明は、上記の寄託されたcDNAクローン中に含有されるSLC34A2-ROS転座ヌクレオチド配列を含むSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。好ましくは、このような核酸分子は、寄託されたcDNAクローンによってコードされた成熟融合ポリペプチドをコードする。別の実施形態において、本発明は、SLC34A2のN末端アミノ酸配列(配列番号5の残基1から126)及びROSのキナーゼドメイン(配列番号7の残基1945から2222)を含むSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードする単離されたヌクレオチド配列を提供する。一実施形態において、ROSのキナーゼドメインを含むポリペプチドは、配列番号7の残基1750から2347又は1853から2347を含む(
図1、パネルB参照)。別の実施形態において、ROSのSLC34A2及びキナーゼドメインの上記N末端アミノ酸配列は、それぞれ、配列番号6のヌクレオチド1から378及び配列番号8のヌクレオチド6032から6865を含むヌクレオチド配列によってコードされる。
【0057】
本発明は、さらに、本発明の変異体ROS融合ポリペプチドの1つと相補的な配列を有するヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供する。このような単離された分子、特に、DNA分子は、染色体とのインサイチュハイブリッド形成による遺伝子マッピングのための、及び、例えば、ノーザンブロット分析による、ヒト組織中でのSLC34A2-ROS融合タンパク質又は切断されたROSキナーゼポリペプチドの発現を検出するためのプローブとして有用である。
【0058】
本発明は、さらに、本明細書に記載されている単離された核酸分子の断片に関する。本発明の単離されたSLC34A2-ROSポリヌクレオチド又は切断されたROSポリヌクレオチドの断片によって、少なくとも約15ヌクレオチド、より好ましくは、少なくとも約20ヌクレオチド、さらに好ましくは、少なくとも約30ヌクレオチド、さらに好ましくは、少なくとも約40ヌクレオチドの長さの断片が意図され、これは、本明細書中に論述されているように、診断プローブ及びプライマーとして有用である。もちろん、寄託されたcDNAのSLC34A2-ROSヌクレオチド配列又は
図2A-Bに示されている(配列番号2及び4)SLC34A2-ROSヌクレオチド配列の全てではないとしても、その多くに対応する断片のように、約50から1500ヌクレオチド長のより大きな断片も、本発明において有用である。少なくとも20ヌクレオチド長の断片によって、例えば、断片が由来する各ヌクレオチド配列から得られる20又はそれ以上の連続する塩基を含む断片が意図される。
【0059】
このようなDNA断片の作製は、当業者にとって定型的なものであり、例えば、制限エンドヌクレアーゼ切断又は寄託されたcDNAクローンから取得可能なDNAの音波処理による剪断によって達成され得、又は本明細書中に開示されている配列に従って合成され得る。あるいは、このような断片は、合成的に直接作製することが可能である。
【0060】
本発明の好ましい核酸断片又はプローブは、SLC34A2-ROS転座遺伝子産物の融合連結部をコードする核酸分子を含む(
図1、パネルB及びC、並びに
図7、下パネル参照。)。例えば、ある種の好ましい実施形態において、本発明の単離されたポリヌクレオチドは、SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチドの融合連結部(配列番号2の残基376から381又は配列番号4の残基376から381)(
図7、下パネル参照)を包含する少なくとも6つの連続するヌクレオチドを含むヌクレオチド配列/断片を含む。別の好ましい実施形態において、本発明の単離されたポリヌクレオチドは、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの融合連結部(配列番号1の残基126から127又は配列番号3の残基126から127)(
図7、下パネル(配列番号9及び11)も参照)を包含する少なくとも6つの連続するアミノ酸を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列/断片を含む。
【0061】
別の態様において、本発明は、厳格なハイブリッド形成条件下で、本明細書に記載されているような本発明の変異体ROSキナーゼポリヌクレオチドの一部とハイブリッド形成する単離されたポリヌクレオチドを提供する。「厳格なハイブリッド形成条件」によって、50%ホルムアミド、5×SSC(750mMNaCl、75mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×Denhardtの溶液、10%硫酸デキストラン及び変性され、剪断されたサケ精子DNA20μg/mLを含む溶液中での、42℃での一晩の温置に続き、約65℃の0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意味される。
【0062】
ポリヌクレオチドの「一部」とハイブリッド形成するポリヌクレオチドによって、基準ポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、より好ましくは、少なくとも約20nt、さらに好ましくは、少なくとも約30nt、さらに好ましくは約30から70ntとハイブリッド形成するポリヌクレオチド(DNA又はRNAの何れか)が意図される。これらは、上に論述されているように、及び以下でさらに詳しく論述されているように、診断用プローブ及びプライマー(例えば、PCR用)として有用である。
【0063】
もちろん、寄託されたcDNAのヌクレオチド配列又は
図2Aから2B(配列番号2又は4)若しくは
図7(下部パネル)(配列番号10及び12)に示されているヌクレオチド配列の全てではなくても、その多くに対応するポリヌクレオチドのように、基準ポリヌクレオチドのより大きな一部と、例えば、50から750nt長の一部と、又は基準ポリヌクレオチドの全長とさえハイブリッド形成するポリヌクレオチド(例えば、
図2AからBに記載されている成熟したSLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド(配列番号2及び4))も、本発明のプローブとして有用である。
【0064】
「少なくとも20ヌクレオチド長」のポリヌクレオチドの一部によって、例えば、基準ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列から得られる20又はそれ以上の連続するヌクレオチドが意図される。前述のように、例えば、MOLECULAR CLONING,A LABORATORY MANUAL,2nd. edition,Sambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniatis,T.,eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)(その開示内容全体が、参照により、本明細書に組み込まれる。)に記載されているとおり、このような一部は、慣用のDNAハイブリッド形成技術に従いプローブとして、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による標的配列の増幅用のプライマーとして、診断において有用である。もちろん、ポリA配列(
図2に示されているSLC34A2-ROS配列の3’末端ポリA路(tract)など(配列番号2又は4))又はT(又はU)残基(resides)の相補的な連なりのみとハイブリッド形成するポリヌクレオチドは、ポリ(A)の連なり又はその相補物(例えば、事実上全ての二本鎖cDNAクローン)を含有するあらゆる核酸分子とハイブリッド形成するので、このようなポリヌクレオチドは、本発明の核酸の一部とハイブリッド形成させるために使用される本発明のポリヌクレオチド中には含まれない。
【0065】
上述のように、本発明の変異体ROSキナーゼポリペプチドをコードする本発明の核酸分子には、単独で、成熟したポリペプチドのアミノ酸配列をコードする核酸分子;成熟ポリペプチドと追加配列に対するコード配列(プレ又はプロ又はプレプロタンパク質配列などのリーダー又は分泌配列をコードするものなど);例えば、転写、mRNAプロセッシングにおいて役割を果たしている、転写され、翻訳されない配列(スプライシング及びポリアデニル化シグナルなど、例えば、mRNAのリボソーム結合及び安定性)などのイントロン及び非コード5’及び3’配列などの(但し、これらに限定されない。)追加の非コード配列と一緒に、先述の追加のコード配列を伴う又は伴わない成熟ポリペプチドのコード配列;さらなる機能を付与するものなど、追加のアミノ酸をコードする追加のコード配列を含み得るが、これらに限定されるものではない。
【0066】
従って、ポリペプチドをコードする配列は、融合されたポリペプチドの精製を促進するペプチドをコードする配列などのマーカー配列に融合され得る。本発明の本態様の好ましいある種の実施形態において、マーカーアミノ酸配列は、とりわけ、pQEベクター(Qiagen,Inc.)中に提供されているタグなどの六ヒスチジンペプチドであり、それらの多くは市販されている。「Gentz et al,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 86:821-824,1989」に記載されているように、例えば、六ヒスチジンは、融合タンパク質の便利な精製を与える。「HA」タグは、「Wilson et al.,Cell 37:767(1984)」によって記載されているインフルエンザヘマグルチニンタンパク質に由来するエピトープに対応する精製のために有用な別のペプチドである。以下に論述されているように、他のこのような融合タンパク質には、N末端又はC末端においてFcに融合されたSLC34A2-ROS融合ポリペプチドそのものが含まれる。
【0067】
さらに、本発明は、本明細書に開示されているSLC34A2-ROS融合ポリペプチド又は切断されたROSキナーゼポリペプチドの一部、類縁体又は誘導体をコードする本発明の核酸分子のバリアントに関する。天然の対立遺伝子バリアントのように、バリアントは、天然に存在し得る。「対立遺伝子バリアント」は、生物の染色体上の所定の遺伝子坐を占める遺伝子の数個の別個の形態の1つを意味するものとする。例えば、「GENES II,Lewin,B.,ed.,John Wiley & Sons,New York(1985)」を参照されたい。天然に存在しないバリアントは、本分野で公知の突然変異導入技術を用いて作製され得る。
【0068】
このようなバリアントには、ヌクレオチド置換、欠失又は付加によって生じたバリアントが含まれる。置換、欠失又は付加は、1つ又はそれ以上のヌクレオチドを含み得る。バリアントは、コード領域、非コード領域又は両者において変化され得る。コード領域中の変化は、保存的又は非保存的アミノ酸置換、欠失又は付加を生じ得る。これらのうち特に好ましいのは、本明細書に開示されている変異体ROSキナーゼポリペプチドの特性及び活性(例えば、キナーゼ活性)を変化させないサイレント置換、付加及び欠失である。同じく、この点に関して特に好ましいのは、保存的置換である。
【0069】
本発明のさらなる実施形態には、本発明の変異体ROSポリヌクレオチド(例えば、
図2A-Bに示されている完全なアミノ酸配列を有するRB-ROS融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号1若しくは3)又はSLC34A2のN末端及びROSのキナーゼドメインをコードするヌクレオチド配列(
図1参照、パネルB並びに
図3及び4)又はこのような典型的配列に対して相補的なヌクレオチド)と少なくとも90%同一、より好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドが含まれる。
【0070】
例えば、変異体ROSキナーゼポリペプチドをコードする基準ヌクレオチド配列と少なくとも95%「同一の」ヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドとは、ポリヌクレオチド配列が変異体ROSポリペプチドをコードする基準ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチド当り最大5個の点変異を含み得ることを除き、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が基準配列と同一であることを意味するものとする。換言すれば、基準ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを取得するために、基準配列中のヌクレオチドの最大5%が欠失され、若しくは別のヌクレオチドで置換され得、又は基準配列中の全ヌクレオチドの最大5%のヌクレオチドの数が基準配列中に挿入され得る。基準配列のこれらの変異は、基準ヌクレオチド配列の5’若しくは3’末端位置に又はこれらの末端位置の間の何れかの場所に生じ得、基準配列中のヌクレオチドの間に個別に散在され又は基準配列内に1つ若しくはそれ以上の連続した群で散在され得る。
【0071】
実際には、何れかの特定の核酸分子が、例えば、
図2AからBに示されているヌクレオチド配列(配列番号2又は4)と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%同一であり、又は上記寄託されたcDNAクローンのヌクレオチド配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%同一であるかどうかは、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix(登録商標),Genetics Computer Group,University Research Park,575 Science Drive,Madison,Wis. 53711)などの公知のコンピュータプログラムを用いて、従来法によって決定することが可能である。Bestfitは、2つの配列間の相同性の最良セグメントを見出すために、「Smith and Waterman,Advances in Applied Mathematics 2:482-489(1981)」の局所相同性アルゴリズムを使用する。ある配列が、例えば、本発明の基準SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド配列と95%同一であるかどうかを決定するために、Bestfit又は他の何れかの配列並置プログラムを使用する場合には、もちろん、基準ヌクレオチド配列の全長にわたって同一性の%が計算されるように、及び基準配列中のヌクレオチドの総数の最大5%の相同性におけるギャップが許容されるように、パラメータが設定される。
【0072】
本発明は、ROSキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするかどうかに関わらず、
図2Aから2B中に示されている核酸配列(配列番号2又は4)又は配列番号2のヌクレオチド379から2172又は配列番号4のヌクレオチド379から1863、寄託されたcDNAの核酸配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一である核酸分子をその範囲の中に含む。これは、ある核酸分子がROSキナーゼ活性を有する融合ポリペプチドをコードしない場合でさえ、当業者は、例えば、ハイブリッド形成プローブ又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマーとして、核酸分子をどのようにして使用するかどうかをなお知悉しているからである。キナーゼを有するポリペプチドをコードしない本発明の核酸分子の使用には、とりわけ、(1)cDNAライブラリー中のSLC34A2-ROS転座遺伝子又はその対立遺伝子バリアントを単離すること、(2)「Verma et al.,HUMAN CHROMOSOMES:A MANUAL OF BASIC TECHNIQUES,Pergamon Press,New York(1988)」に記載されているように、SLC34A2-ROS転座遺伝子の正確な染色体位置を与える、中期染色体スプレッドへのインサイチュハイブリッド形成(例えば、「FISH」)及び特定の組織中でのSLC34A2-ROS融合タンパク質mRNA発現を検出するためのNorthern Blot分析が含まれる。
【0073】
しかしながら、好ましいのは、本発明の変異体ROSキナーゼポリペプチドと、又は、実際に、ROSキナーゼ活性を有する融合ポリペプチドをコードしている寄託されたcDNAの核酸配列と少なくとも95%同一の配列を有する核酸分子である。このような活性は、ある生物学的アッセイにおいて測定された場合に、本明細書に開示されているSLC34A2-ROS融合タンパク質(完全長タンパク質、成熟したタンパク質又はキナーゼ活性を保持するタンパク質断片)の活性と類似しているが、必ずしも同一でない場合があり得る。例えば、ROSのキナーゼ活性は、1つ又はそれ以上のチロシン含有ペプチド基質、例えば、多くの受容体及び非受容体チロシンキナーゼに対する基質である「Src関連ペプチド」(RRLIEDAEYAARG)をリン酸化する能力を測定することによって調べることができる。
【0074】
遺伝子コードの縮重のために、当業者は、寄託されたcDNAの核酸配列又は
図2AからBに示されている核酸配列(配列番号2及び4)と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一の配列を有する核酸分子の多数がROSキナーゼ活性を有する融合ポリペプチドをコードすることを直ちに認識する。実際、これらのヌクレオチド配列の縮重バリアントは全て、同じポリペプチドをコードするので、上記比較アッセイを行わなくても、このことは当業者にとって明らかである。縮重バリアントでないこのような核酸分子に関しては、合理的な数がROSキナーゼ活性を保持するポリペプチドもコードすることが、本分野においてさらに認められる。これは、タンパク質機能に著しい影響を与える可能性がより少ない又は可能性がないアミノ酸置換(例えば、ある脂肪族アミノ酸を第二の脂肪族アミノ酸と置換すること)を当業者が完全に知悉しているからである。
【0075】
例えば、表現型的にサイレントなアミノ酸置換をどのように作製するかについての指針は、変化に対するアミノ酸配列の許容性を研究するための2つの主なアプローチを記載する「Bowie et al.,“Deciphering the Message in Protein Sequences:Tolerance to Amino Acid Substitutions,” Science 247:1306-1310(1990)」に提供されている。第一の方法は、変異が天然の選別によって受容又は拒絶される進化の過程に依存する。第二のアプローチは、クローニングされた遺伝子の特定位置にアミノ酸の変化を導入するための遺伝子工学及び機能性を維持する配列を特定するための選択又はスクリーニングを使用する。これらの研究は、驚くべきことに、タンパク質がアミノ酸置換を耐容することを明らかにした。このような技術に習熟している当業者は、タンパク質のある位置において、何れのアミノ酸の変化が許容され得るかについても理解している。例えば、多くの埋没されたアミノ酸残基は非極性側鎖を必要とするのに対して、一般に、表面側鎖の特徴はほとんど保存されない。このような表現型的にサイレントな他の置換は、上記Bowieら及びその中に引用されている参考文献中に記載されている。
【0076】
本発明のあらゆるポリヌクレオチド実施形態を実施するために、周知であり、本分野において一般的に利用可能なDNA配列決定法を使用し得る。この方法は、DNAポリメラーゼIのKlenow断片、SEQUENASE(R)(US Biochemical Corp,Cleveland,Ohio)、Taqポリメラーゼ(Perkin Elmer)、熱安定性T7ポリメラーゼ(Amersham,Chicago,III.)又は組換えポリメラーゼとGibcoBRL(Gaithersburg,Md.)によって販売されているELONGASE Amplification Systemなどの校正エキソヌクレアーゼとの組み合わせのような酵素を使用し得る。好ましくは、Hamilton Micro Lab 2200(Hamilton,Reno,Nev.)、Peltier Thermal Cycler(PTC200;MJ Research,Watertown,Mass.)及びABI377DNA配列決定装置(Perkin Elmer)などの機械を用いて、工程は自動化される。
【0077】
本発明の変異体ROSポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、部分的ヌクレオチド配列を用いて、並びにプロモーター及び制御要素などの上流配列を検出するための本分野で公知の様々な方法を用いて伸長され得る。例えば、使用され得る1つの方法は、「制限部位」PCRは、公知の坐に隣接する未知の配列を検索するために汎用プライマーを使用する(Sarkar,G.,PCR Methods Applic.2:318-322(1993))。特に、ゲノムDNAは、まず、リンカー配列に対するプライマー及び公知の領域に対して特異的なプライマーの存在下で増幅される。典型的なプライマーは、本明細書中の実施例4に記載されているものである。次いで、増幅された配列は、同じリンカープライマー及び第一のプライマーに内在する別の特異的プライマーを用いるPCRの第二ラウンドに供される。PCRの各ラウンドの産物は、適切なRNAポリメラーゼを用いて転写され、逆転写酵素を用いて配列決定される。
【0078】
公知の領域に基づき、多岐のプライマーを用いて配列を増幅又は伸長するために、逆PCRも使用し得る(Triglia et al.,Nucleic Acids Res.16:8186(1988))。プライマーは、OLIGO 4.06 Primer Analysis software(National Biosciences Inc.,Plymouth,Minn.)又は別の適切なプログラムを用いて、22から30ヌクレオチドの長さであるように、50%又はそれ以上のGC含量を有するように、及び約68から72℃の温度で標的配列に徐冷するように設計され得る。本方法は、遺伝子の公知の領域中の適切な断片を生成させるために、幾つかの制限酵素を使用する。次いで、断片は、分子内連結によって環状化され、PCRテンプレートとして使用される。
【0079】
使用され得る別の方法は、ヒト及び酵母人工染色体DNA中の公知の配列に隣接するDNA断片のPCR増幅を行う捕捉PCR(capture PCR)である(Lagerstrom et al.,PCR Methods Applic.1:111-1119(1991))。本方法では、PCRを実施する前に、DNA分子の未知の部分中に、加工された二本鎖配列を配置させるために、複数の制限酵素消化及び連結も使用し得る。未知の配列を検索するために使用し得る別の方法は、「Parker et al.,Nucleic Acids Res.19:3055-3060(1991)」に記載されているものである。さらに、PCR、入れ子状プライマー及びゲノムDNA中を歩行するためのPROMOTERFINDER(R)ライブラリー(Clontech,Palo Alto,Calif.)を使用し得る。このプロセスは、ライブラリーをスクリーニングする必要がなく、イントロン/エキソン連結部を発見する上で有用である。
【0080】
完全長cDNAをスクリーニングする場合、より大きなcDNAを含めるために、サイズによって選択されたライブラリーを使用することが好ましい。また、遺伝子の5’領域を含有するより多くの配列を含有する点で、ランダムに開始されたライブラリーも好ましい。オリゴd(T)ライブラリーが完全長cDNAを与えない情況に対しては、ランダムに開始されたライブラリーの使用は特に好ましい場合があり得る。ゲノムライブラリーは、5’及び3’非転写制御領域中への配列の伸長のために有用であり得る。
【0081】
サイズを分析するために、又は配列決定若しくはPCR産物のヌクレオチド配列を確認するために、市販されているキャピラリー電気泳動システムを使用し得る。特に、キャピラリー配列決定は、電気泳動分離用の流動可能ポリマー、レーザーによって活性化される4つの異なる蛍光色素(各ヌクレオチドに対して1つ)及び電荷結合素子カメラによる発光波長の検出を使用し得る。出力/光強度は、適切なソフトウェア(例えば、GENOTYPERTM及びSEQUENCE NAVIGATORTM、Perkin Elmer)を用いて電気シグナルへと変換され得、試料の搭載からコンピュータ分析及び電子的データ表示までのプロセス全体をコンピュータ制御し得る。キャピラリー電気泳動は、特定の試料中に限られた量で存在し得るDNAの小片の配列決定に特に好ましい。
【0082】
C.ベクター及び宿主細胞
本発明は、本発明の単離されたポリヌクレオチドを含む組換えベクター、該組換えベクターを用いて遺伝子操作された宿主細胞及び組換え技術による組換えSLC34A2-ROSポリペプチド又はその断片の作製も提供する。
【0083】
組換え構築物は、感染、形質導入、形質移入、トランスベクション、電気穿孔及び形質転換のような周知の技術を用いて、宿主細胞中に導入され得る。ベクターは、例えば、ファージ、プラスミド、ウイルス又はレトロウイルスベクターであり得る。レトロウイルスベクターは、複製能力を有し、又は複製欠損であり得る。後者の場合には、ウイルス増殖は、一般に、補完的宿主細胞中でのみ生じる。
【0084】
ポリヌクレオチドは、宿主中での増殖に関して選択可能なマーカーを含有するベクターに連結され得る。一般に、プラスミドベクターは、リン酸カルシウム沈殿などの沈殿中に、又は帯電した脂質との複合体中に導入される。ベクターがウイルスである場合には、適切なパッケージング細胞株を用いて、インビトロでパッケージングを行った後、宿主細胞中にベクターを形質導入し得る。
【0085】
好ましいのは、目的のポリヌクレオチドに対するシス作用調節領域を含むベクターである。適切なトランス作用因子は、宿主によって供給され、補完的ベクターによって供給され、又は宿主中への導入に際して、ベクターそのものによって供給され得る。これに関するある種の好ましい実施形態において、ベクターは、誘導性及び/又は細胞種特異的であり得る特異的な発現を与える。このようなベクターのうち特に好ましいのは、温度及び栄養素添加物など、操作が容易である環境因子によって誘導可能なベクターである。
【0086】
本発明において有用な発現ベクターには、染色体、エピソーム及びウイルス由来のベクター、例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体要素、バキュロウイルス、パポーバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス及びレトロウイルスなどのウイルスに由来するベクター並びにコスミド及びファミジドなど、これらの組み合わせに由来するベクターが含まれる。
【0087】
本発明のSLC34A2-ROSポリヌクレオチド又は切断されたROSポリヌクレオチドを含むDNA挿入物は、例を幾つか挙げると、ファージλPLプロモーター、イー・コリlac、trp及びtacプロモーター、SV40初期及び後期プロモーター並びにレトロウイルスLTRのプロモーターなどの適切なプロモーターへ作用可能に連結すべきである。他の適切なプロモーターが、当業者に公知である。発現構築物は、さらに、転写開始、終結のための部位を含有し、転写された領域中に、翻訳のためのリボソーム結合部位を含有する。構築物によって発現された成熟転写物のコード部分は、好ましくは、翻訳されるべきポリペプチドの末端に適切に配置された開始及び終結コドン(UAA、UGA又はUAG)から始まる翻訳を含む。
【0088】
上述のように、発現ベクターは、好ましくは、少なくとも1つの選択可能なマーカーを含む。このようなマーカーは、真核細胞培養に関しては、ジヒドロ葉酸還元酵素又はネオマイシン耐性を含み、イー・コリ及びその他の細菌中での培養に関しては、テトラサイクリン又はアンピシリン耐性遺伝子を含む。適切な宿主の代表的な例には、イー・コリ、ストレプトミセス(Streptomyces)及びサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)細胞などの細菌細胞、酵母細胞などの真菌細胞、ドロソフィラS2及びスポドプテラSf9細胞などの昆虫細胞、CHO、COS及びBowes悪性黒色腫細胞などの動物細胞並びに植物細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。上記宿主細胞のための適切な培地及び条件は、本分野において公知である。
【0089】
細菌中での使用に好ましいベクターには、Qiagenから入手可能なpQE70、pQE60及びpQE-9;Stratageneから入手可能なpBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A;並びにPharmaciaから入手可能なptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、pRIT5が含まれる。好ましい真核生物ベクターは、Stratageneから入手可能な真核生物:pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1及びpSG並びにPharmaciaから入手可能なpSVK3、pBPV、pMSG及びpSVLである。他の適切なベクターが、当業者に自明である。
【0090】
本発明での使用に適した公知の細菌プロモーターには、E.コリracI及びlacZプロモーター、T3及びT7プロモーター、gptプロモーター、λPR及びPLプロモーター並びにtrpプロモーターが含まれる。適切な真核生物プロモーターには、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期及び後期SV40プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のプロモーターなどのレトロウイルスLRTのプロモーター及びマウスメタロチオネイン-1プロモーターなどのメタロチオネインプロモーターが含まれる。
【0091】
酵母、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)では、アルファ因子、アルコールオキシダーゼ及びPGHなどの恒常性又は誘導性プロモーターを含有する多数のベクターを使用し得る。総説として、「Ausubel et al.(1989)CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley & Sons,New York,N.Y,and Grant et al.,Methods Enzymol.153:516-544(1997)」を参照されたい。
【0092】
宿主細胞中への構築物の導入は、リン酸カルシウム形質移入、DEAE-デキストランによって媒介される形質移入、陽イオン性脂質によって媒介される形質移入、電気穿孔、形質導入、感染又はその他の方法によって実施することが可能である。このような方法は、「Davis et al.,BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY(1986)」などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載されている。
【0093】
より高等な真核生物による本発明のSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増加させ得る。エンハンサーは、所定の宿主細胞種中でプロモーターの転写活性を増加させるように作用する、通常、約10から300bpのDNAのシス作用性要素である。エンハンサーの例には、100から270塩基対で複製起点の後期側(late side)に位置するSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー及びアデノウイルスエンハンサーが含まれる。
【0094】
小胞体の管腔中、細胞膜周辺腔中又は細胞外環境中へ翻訳されたタンパク質を分泌するために、発現されたポリペプチド中に、適切な分泌シグナルが取り込まれ得る。シグナルは、ポリペプチドに対して内在性であり得、又は異種のシグナルであり得る。
【0095】
ポリペプチドは、融合タンパク質(例えば、GST融合)などの修飾された形態で発現され得、分泌シグナルのみならず、さらなる異種の機能領域も含み得る。例えば、精製の間又はその後の取り扱い及び保存の間に、宿主細胞中での安定性及び持続性を改善するために、ポリペプチドのN末端に、追加のアミノ酸、特に帯電したアミノ酸の領域を付加し得る。また、精製を容易にするために、ペプチド部分をポリペプチドに付加し得る。このような領域は、ポリペプチドの最終調製前に除去され得る。とりわけ、分泌又は排出を生じさせるために、安定性を改善するために、及び精製を容易にするためにポリペプチドにペプチド部分を付加することは、本分野で周知の、定型的な技術である。好ましい融合タンパク質は、タンパク質を可溶化するのに有用なイムノグロブリン由来の異種領域を含む。
【0096】
例えば、EP-A-O464533(カナダ対応出願2045869)は、別のヒトタンパク質又はその一部と一緒に、免疫グロブリン分子の定常領域の様々な部分を含む融合タンパク質を開示する。多くの事例において、融合タンパク質中のFc部分は、治療及び診断における使用にとって完全に有利であり、従って、例えば、改善された薬物動態学的特性をもたらし得る(EP-A0232262)。他方、幾つかの使用に関しては、記載されている有利な様式で、融合タンパク質を発現し、検出し、精製した後に、Fc部分を欠失させ得ることが望ましい。治療及び診断での使用に対して、Fc部分が妨害であることが判明している場合、例えば、融合タンパク質が、免疫化のための抗原として使用されるべき場合には、このことが当てはまる。創薬において、hIL-5のアンタゴニストを同定する高情報量のスクリーニングアッセイのために、例えば、hIL-5などのヒトタンパク質はFc部分と融合されている。「Bennett et al.,Journal of Molecular Recognition 8:52-58(1995) and Johanson et al.,The Journal of Biological Chemistry 270(16):9459-9471(1995)」を参照されたい。
【0097】
SLC34A2-ROSポリペプチドは、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィーなどの周知の方法によって、組換え細胞培養物から回収及び精製することが可能である。最も好ましくは、精製のために高性能液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が使用される。本発明のポリペプチドには、自然に精製された産物、化学合成操作の産物及び原核生物宿主又は真核生物宿主(例えば、細菌、酵母、高等植物、昆虫及び哺乳動物細胞を含む。)からの組換え技術によって産生された産物が含まれる。組換え産生操作において使用される宿主に応じて、本発明のポリペプチドはグリコシル化されていてもよく、又はグリコシル化されていなくてもよい。さらに、本発明のポリペプチドは、幾つかの事例では、宿主によって媒介されるプロセスの結果として、修飾された開始メチオニン残基も含み得る。
【0098】
従って、一実施形態において、本発明は、融合ポリペプチドの発現に適した条件下で、(上述のような)組換え宿主細胞を培養し、及びポリペプチドを回収することによって、組換えSLC34A2-ROS融合ポリペプチドを作製する方法を提供する。宿主細胞の成長に適した培養条件及びこのような細胞からの組換えポリペプチドの発現は、当業者に周知である。例えば、「CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,Ausubel FM et al.,eds.,Volume 2,Chapter 16,Wiley Interscience」を参照されたい。
【0099】
D.単離されたポリペプチド
本発明は、一つには、単離されたSLC34A2-ROS融合ポリペプチド及びその断片も提供する。一実施形態において、本発明は、
(a)配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列を含むSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするアミノ酸配列;
(b)SLC34A2のN末端アミノ酸配列(配列番号5の残基1から126)及びROSのキナーゼドメイン(配列番号7の残基1945から2222)を含むSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするアミノ酸配列;並びに
(c)SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチドの融合連結部(配列番号1の残基126から127又は配列番号3の残基126から127)を包含する少なくとも6つの連続するアミノ酸を含むポリペプチドをコードするアミノ酸配列;
からなる群から選択される配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドを提供する。
【0100】
好ましい一実施形態において、本発明は、上記寄託されたcDNA(ATCC寄託番号PTA-7877)によってコードされるアミノ酸配列を有する単離されたSLC34A2-ROS融合ポリペプチドを提供する。別の好ましい実施形態において、上記組換えベクター又は組換え宿主細胞を用いて作製され得る本発明の組換え変異体ポリペプチドが提供される。
【0101】
SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの幾つかのアミノ酸配列が変異体タンパク質の構造又は機能の著しい影響なしに変動させ得ることが本分野において認められている。配列のこのような差が想定されるのであれば、活性を決定するタンパク質上の重要な領域(例えば、ROSのキナーゼドメイン)が存在することを銘記すべきである。一般に、類似の機能を実行する残基が使用されれば、三次構造を形成する残基を置換することが可能である。他の例では、変化がタンパク質の重要でない領域に生じる場合には、残基の種類は完全に重要でない場合があり得る。
【0102】
従って、本発明は、さらに、実質的なROSキナーゼ活性を示すSLC34A2-ROS融合ポリペプチドの変形物又はSLC34A2及びROSタンパク質の領域(以下で論述されているタンパク質部分など)を含むSLC34A2-ROS融合ポリペプチドの変形物を含む。このような変異体は、欠失、挿入、逆位、反復及び種類置換(ある親水性残基を、概して強度に親水性でなく、又は強度に疎水性でない別の残基に置換すること。)が含まれる。小さな変化又はこのような「中性」アミノ酸置換は、一般に、活性に対して殆ど効果を有しない。
【0103】
典型的には、保存的置換と考えられるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu及びIleの間で、あるアミノ酸を別のアミノ酸と置換すること、ヒドロキシル残基SerとThrの相互交換、酸性残基AspとGluの交換、アミド残基AsnとGlnの間での置換、塩基性残基LysとArgの交換、芳香族残基Phe、Tyr間での置換。当業者に公知の保存的アミノ酸置換の例は、芳香族:フェニルアラニン トリプトファン チロシン;疎水性:ロイシン イソロイシン バリン;極性:グルタミン アスパラギン;塩基性:アルギニン リジン ヒスチジン;酸性:アスパラギン酸 グルタミン酸;小:アラニン セリン スレオニン メチオニン グリシンである。上に詳しく示されているように、何れのアミノ酸の変化が表現型的にサイレントな可能性がある(すなわち、機能に対して著しい有害な効果を有する可能性がない)かに関するさらなる指針は、Bowie et al.,Science 247、上記に見出すことができる。
【0104】
本発明のポリペプチドは、好ましくは、単離された形態で提供され、好ましくは、実質的に精製されている。本発明のSLC34A2-ROS融合ポリペプチドの組み換え的に産生されたバージョンは、「Smith and Johnson,Gene 67:31-40(1988)に記載されている一段階法によって、実質的に精製することができる。
【0105】
本発明のポリペプチドは、
図2AからBのSLC34A2-ROS融合ポリペプチド(配列番号1及び3)(リーダー配列を含むかどうかを問わない。)、寄託されたcDNAクローン(ATCC番号PTA-7877)によってコードされた融合ポリペプチド、SLC34A2のN末端アミノ酸配列(配列番号5の残基1から126)とROSのキナーゼドメイン(配列番号7の残基1945から2222)を含むSLC34A2-ROS融合ポリペプチドをコードするアミノ酸配列及びSLC34A2-ROS融合ポリペプチドの融合連結部(配列番号1の残基126から127又は配列番号3の残基126から127)を包含する少なくとも6つの連続するアミノ酸を含むポリペプチドをコードするアミノ酸配列(
図7も参照、下パネル)、上記ポリペプチドと少なくとも90%の類似性、より好ましくは少なくとも95%の類似性、さらに好ましくは少なくとも96%、97%、98%又は99%の類似性を有するポリペプチドが含まれる。
【0106】
2つのポリペプチドに対する「%類似性」は、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix(登録商標),Genetics Computer Group,University Research Park,575 Science Drive,Madison,Wis. 53711)及び類似性を決定するための初期設定を用いて、2つのポリペプチドのアミノ酸配列を比較することによって得られた類似性スコアを意味するものとする。Bestfitは、2つの配列間の類似性の最良セグメントを見出すために、「Smith and Waterman(Advances in Applied Mathematics 2:482-489(1981))」の局所相同性アルゴリズムを使用する。
【0107】
本発明の変異体ROSポリペプチドの基準アミノ酸配列と、例えば、少なくとも95%「同一の」アミノ酸配列を有するポリペプチドとは、ポリペプチド配列がSLC34A2-ROS融合ポリペプチドの基準アミノ酸配列の各100アミノ酸当り最大5個のアミノ酸変化を含み得ることを除き、ポリペプチドのアミノ酸配列が基準配列と同一であることを意味するものとする。換言すれば、基準アミノ酸配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを取得するために、基準配列中のアミノ酸残基の最大5%が欠失され、若しくは別のアミノ酸で置換され得、又は基準配列中の全アミノ酸残基の最大5%のアミノの数が基準配列中に挿入され得る。基準配列のこれらの変化は、基準アミノ酸配列のアミノ若しくはカルボキシ末端位置に又はこれらの末端位置の間の何れかの場所に生じ得、基準配列中の残基の間に個別に散在され又は基準配列内に1つ若しくはそれ以上の連続した群で散在され得る。
【0108】
ある配列が、例えば、本発明の基準配列と95%同一であるかどうかを決定するために、Bestfit又は他の何れかの配列並置プログラムを使用する場合には、もちろん、基準アミノ酸配列の全長にわたって同一性の%が計算されるように、及び基準配列中のアミノ酸残基の総数の最大5%の相同性でギャップが許容されるように、パラメータが設定される。
【0109】
本発明のSLC34A2-ROS融合ポリペプチドは、例えば、当業者に周知の方法を使用して、SDS-PAGEゲル又は分子篩ゲルろ過カラム上の分子量マーカーとして使用することができる。
【0110】
以下でさらに詳しく記載されているように、本発明のポリペプチドは、以下に記載されているように変異体ROSポリペプチド発現を検出するためのアッセイにおいて、又は変異体ROSタンパク質機能/活性を増強又は阻害することができるアゴニスト及びアンタゴニストとして有用である融合ポリペプチド特異的試薬(ポリクローナル及びモノクローナル抗体など)を作製するために使用することも可能である。さらに、このようなポリペプチドは、本発明の候補アゴニスト及びアンタゴニストでもあるSLC34A2-ROS融合ポリペプチド結合タンパク質を「捕捉する」ための酵母ツーハイブリッドシステム中で使用することができる。酵母ツーハイブリッド系は、Fields and Song,Nature 340:245-246(1989)に記載されている。
【0111】
別の態様において、本発明は、本発明のポリペプチドのエピトープ保有部分、すなわち、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドバリアントの融合連結部を含むエピトープを含むペプチド又はポリペプチドを提供する(
図7、下パネル参照)。このポリペプチド部分のエピトープは、本発明のポリペプチドの免疫原性又は抗原性エピトープである。「免疫原性エピトープ」とは、完全なタンパク質が免疫原である場合に、抗体応答を惹起するタンパク質の一部として定義される。これらの免疫原性エピトープは、分子上の数個の坐に限局されていると考えられている。他方、抗体が結合することができるタンパク質分子の領域は、「抗原性エピトープ」として定義される。タンパク質の免疫原性エピトープの数は、一般に、抗原性エピトープの数より少ない。例えば、「Geysen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA81 3998-4002(1983)」を参照されたい。本発明の融合ポリペプチド特異的抗体の作製は、以下でさらに詳しく記載されている。
【0112】
抗原性エピトープを有するペプチド又はポリペプチドによって生成された抗体は、模倣されたタンパク質を検出するのに有用であり、翻訳後プロセッシングを受けるタンパク質前駆体の様々な領域の運命を追跡するために異なるペプチドに対する抗体を使用し得る。ずっと短いペプチド(例えば、約9アミノ酸)は、免疫沈降アッセイにおいて、より大きなペプチドを結合及び置換できることが示されているので、ペプチド及び抗ペプチド抗体は、模倣されたタンパク質に対する様々な定性又は定量アッセイにおいて、例えば、競合アッセイにおいて使用され得る。例えば、「Wilson et al.,Cell 37:767-778(1984)」の777を参照されたい。本発明の抗ペプチド抗体は、例えば、本分野で周知の方法を用いた吸着クロマトグラフィーによる模倣されたタンパク質の精製に関しても有用である。免疫学的アッセイの形式は、以下でさらに詳しく記載されている。
【0113】
組換え変異体ROSキナーゼポリペプチドも本発明の範囲に属し、上記セクションBに記載されているように、本発明の融合ポリヌクレオチドを用いて作製され得る。例えば、本発明は、融合ポリペプチドの発現に適した条件下で、(上述のような)組換え宿主細胞を培養し、及びポリペプチドを回収することによって、組換えSLC34A2-ROS融合ポリペプチドを作製する方法を提供する。宿主細胞の成長に適した培養条件及びこのような細胞からの組換えポリペプチドの発現は、当業者に周知である。
【0114】
E.変異体特異的試薬
開示されている方法の実施において有用な変異体ROSポリペプチド特異的試薬には、とりわけ、生物学的試料中のSLC34A2-ROS融合ポリペプチド発現に対応し、その検出及び定量に適した融合ポリペプチド特異的抗体及びAQUAペプチド(重同位体標識されたペプチド)が含まれる。融合ポリペプチド特異的試薬は、生物学的試料中の発現されたSLC34A2-ROS融合ポリペプチドに特異的に結合することが可能であり、生物学的試料中の発現されたSLC34A2-ROS融合ポリペプチドの存在/レベルを検出及び/又は定量することができるあらゆる試薬(生物学的又は化学的)である。本用語には、以下に論述されている好ましい抗体及びAQUAペプチド試薬が含まれるが、これらに限定されるものではなく、均等な試薬が本発明の範囲に属する。
【0115】
抗体。
【0116】
本発明の方法の実施において使用するのに適した試薬には、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的抗体が含まれる。本発明の融合特異的抗体は、本発明のSLC34A2-ROS融合ポリペプチド(例えば、配列番号1又は3)を特異的に結合するが、野生型SLC34A2又は野生型ROSの何れかを実質的に結合しない単離された1つ又は複数の抗体である。他の適切な試薬には、野生型ROSタンパク質配列の細胞外ドメイン(本ドメインは本明細書に開示されている切断されたROSキナーゼ中に存在しない。)中のエピトープに特異的に結合し、従って、試料中の野生型ROSの存在(又は不存在)を検出することが可能なエピトープ特異的抗体が含まれる。
【0117】
ヒトSLC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的抗体は、他の哺乳動物種、例えば、マウス又はウサギ中の高度に相同な及び均等なエピトープペプチド配列にも結合し得、逆も同様である。本発明の方法を実施するのに有用な抗体には、(a)モノクローナル抗体、(b)標的ポリペプチドに特異的に結合する精製されたポリクローナル抗体(例えば、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの融合連結部(
図7参照、下パネル)、(c)他の非ヒト種(例えば、マウス、ラット)中の均等な及び高度に相同なエピトープ又はリン酸化部位を結合する上記(a)から(b)に記載されている抗体及び(d)本明細書に開示されている典型的な抗体によって結合される抗原(又は、より好ましくはエピトープ)に結合する上記(a)から(c)の断片が含まれる。
【0118】
本明細書において使用される「抗体」という用語は、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEを含む免疫グロブリンの全ての種類を表す。抗体はモノクローナル又はポリクローナルであり得、(例えば)マウス、ラット、ウサギ、ウマ若しくはヒトを含むあらゆる起源の種であり得、又はキメラ抗体であり得る。例えば、「M.Walker et al.,Molec.Immunol.26:403-11(1989);Morrision et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.81:6851(1984);Neuberger et al.,Nature 312:604(1984))」を参照されたい。抗体は、米国特許4,474,893(Reading)又は米国特許4,816,567(Cabilly et al.)に開示されている方法に従って作製された組換えモノクローナル抗体であり得る。抗体は、米国特許4,676,980(Segel et al.)に開示されている方法に従って作製された、化学的に構築された特異的抗体でもあり得る。
【0119】
本発明のSLC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的抗体の好ましいエピトープ部位は、ヒトSLC34A2-ROS融合ポリペプチド配列(配列番号1又は3)の約11から17個のアミノ酸から実質的になるペプチド断片であり、該断片は融合連結部(第一及び第二の融合タンパク質バリアント中の残基126に存在する)を包含する(
図1(パネルC)及び
図7(下パネル)を参照されたい。)。SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの融合連結部を包含するより短い又はより長いペプチド/エピトープを特異的に結合する抗体が本発明の範囲に属することが理解される。
【0120】
本発明は抗体の使用に限定されるものではなく、融合タンパク質又は切断されたタンパク質特異的な様式で、本発明の方法において有用なSLC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的抗体又はROS切断点エピトープ特異的抗体が結合する実質的に同じエピトープに結合する均等な分子(タンパク質結合ドメイン又は核酸アプタマーなど)が含まれる。例えば、「Neuberger et al.,Nature 312:604(1984)」を参照されたい。このような均等な非抗体試薬は、以下でさらに記載されている本発明の方法において適切に使用され得る。
【0121】
本発明の方法を実施する上で有用なポリクローナル抗体は、公知の操作に従って、所望の融合タンパク質特異的なエピトープ(例えば、融合連結部(
図7参照、下パネル))を包含する抗原で適切な動物(例えば、ウサギ、ヤギなど)を免疫し、動物から免疫血清を集め、免疫血清からポリクローナル抗体を分離し、所望の特異性を有するポリクローナル抗体を精製することによって、標準的な技術に従って作製され得る。抗原は、所望のエピトープ配列を含む合成ペプチド抗原であり得、周知の技術に従って選択及び構築され得る。例えば、「ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL,Chapter 5,p.75-76,Harlow & Lane Eds.,Cold Spring Harbor Laboratory(1988);Czernik,Methods In Enzymology,201:264-283(1991);Merrifield,J.Am.Chem.Soc.85:21-49(1962))」を参照されたい。本明細書に記載されているとおりに作製されたポリクローナル抗体は、以下にさらに記載されているようにスクリーニング及び単離され得る。
【0122】
モノクローナル抗体は、本発明の方法においても有利に使用され得、Kohler and Milstein.Nature 265:495-97(1975);Kohler and Milstein,Eur.J.Immunol.6:511(1976)の周知の技術に従って、ハイブリドーマ細胞株中で作製され得る。「CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,Ausubel et al.Eds.(1989)」も参照されたい。このようにして作製されたモノクローナル抗体は高度に特異的であり、本発明によって提供されるアッセイ法の選択性及び特異性を改善する。例えば、適切な抗原を含有する溶液(例えば、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの融合連結部を含む合成ペプチド)をマウス中に注射し得、(慣用の技術に見合う)十分な時間の後、マウスを屠殺し、脾細胞が取得され得る。次いで、ハイブリドーマ細胞を作製するために、典型的には、ポリエチレングリコールの存在下で、脾細胞を骨髄腫細胞と融合させることによって脾細胞を不死化させる。例えば、ウサギ融合ハイブリドーマは、「米国特許5,675,063,C.Knight,1997年10月7日に付与」に記載されているように作製され得る。次いで、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン(HAT)などの適切な選択培地中でハイブリドーマ細胞を増殖させ、以下に記載されているように、所望の特異性を有するモノクローナル抗体に関して上清をスクリーニングする。分泌された抗体は、沈降、イオン交換又はアフィニティークロマトグラフィーなどの慣用法によって、組織培養上清から回収され得る。
【0123】
モノクローナルFab断片は、当業者に公知の組換え技術によって、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)中でも作製され得る。例えば、W.Huse,Science 246:1275-81(1989);Mullinax et al.,Proc.Nat’lAcad.Sci.87:8095(1990)を参照されたい。1つのイソタイプのモノクローナル抗体が特定の用途に対して好ましい場合には、最初の融合から選択することによって、特定のイソタイプを直接調製することが可能であり、又は、クラススイッチバリアントを単離するための同胞選択技術を使用することによって異なるイソタイプのモノクローナル抗体を分泌する親ハイブリドーマから副次的に調製することが可能である(Steplewski,et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci.,82:8653(1985);Spira et al.,J.Immunol.Methods,74:307(1984))。モノクローナル抗体の抗原結合部位は、イー・コリ中のファージディスプレイされた組換え抗体又は可溶性抗体として作製されたPCR及び一本鎖抗体によってクローニングすることができる(例えば、ANTIBODY ENGINEERING PROTOCOLS,1995,Humana Press,Sudhir Paul editor.を参照されたい。)。
【0124】
さらに、米国特許5,194,392,Geysen(1990)は、目的の抗体の特定のパラトープ(抗原結合部位)に対して相補的であるエピトープの形態学的均等物(すなわち、「ミモトープ」)である単量体の配列(アミノ酸又はその他の化合物)を検出又は決定する一般的な方法について記載している。より一般的には、この方法は、目的の受容体のリガンド結合部位に対して相補的であるリガンドの形態学的均等物である単量体の配列を検出又は決定することを含む。同様に、「米国特許5,480,971,Houghten et al.(1996)」は、C1-Cアルキルによってペルアルキル化された直鎖オリゴペプチド並びにこのようなペプチドの組及びライブラリー並びに目的のアクセプター分子に優先的に結合するペルアルキル化されたオリゴペプチドの配列を決定するためのこのようなオリゴペプチドの組及びライブラリーを使用するための方法を開示する。従って、本発明のエピトープ保有ペプチドの非ペプチド類縁体は、これらの方法によっても、定型的な様式で作製することが可能である。
【0125】
本発明の方法において有用な抗体(ポリクローナルであるか、又はモノクローナルであるかを問わない。)は、標準的な技術に従い、エピトープ及び融合タンパク質特異性に関してスクリーニングされ得る。例えば、「Czemik et al.,Methods in Enzymology,201:264-283(1991)」を参照されたい。例えば、所望の抗原に対する特異性を確保するとともに、所望であれば、野生型SLC34A2又は野生型ROSとの反応性なしに、本発明のSLC34A2-ROS融合ポリペプチドのみとの反応性に対して特異性を確保するために、ELISAによって、ペプチドライブラリーに対して抗体をスクリーニングし得る。所望の標的のみとの反応性を確認するために、及びROSを含む他の融合タンパク質への明確な結合が存在しないことを確保するために、抗体は、標的タンパク質を含有する細胞調製物に対するウェスタンブロッティングによっても検査され得る。融合タンパク質特異的な抗体の作製、スクリーニング及び使用は当業者に公知であり、記載されている。例えば、2005年9月29日、Wetzelら、米国特許公開20050214301を参照されたい。
【0126】
本発明の方法において有用な融合ポリペプチド特異的抗体は、他の融合タンパク質中の類似の融合エピトープとの、又は融合連結部を形成する野生型SLC34A2及び野生型ROS中のエピトープとの幾らかの限られた交叉反応性を示し得る。多くの抗体は交叉反応性の幾らかの程度を示すので、これは予期されないことではなく、抗ペプチド抗体は、しばしば、免疫化ペプチドとの高い相同性又は同一性を有するエピトープと交叉反応する。例えば、上記Czernikを参照されたい。他の融合タンパク質との交叉反応性は、既知の分子量のマーカーとともに、ウェスタンブロッティングによって容易に性質決定される。抗体が結合するSLC34A2-ROS融合ポリペプチド配列と高度に相同な部位又は同一の部位を同定するために、交叉反応するタンパク質のアミノ酸配列を検査し得る。ペプチドカラム上での抗体精製を用いた負の選択(例えば、野生型SLC34A2及び/又は野生型ROSの何れかを結合する抗体を選び出す。)によって、望ましくない交叉反応性を除去することができる。
【0127】
本明細書に開示されている方法を実施する上で有用な本発明のSLC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的抗体は、理想的には、ヒト融合ポリペプチドに対して特異的であるが、それ自体、ヒト種への結合のみに限定されない。本発明は、他の哺乳動物種(例えば、マウス、ラット、サル)中の保存された高度に相同なエピトープ又は同一のエピトープも結合する抗体の作製及び使用を含む。他の種における高度に相同な配列又は同一の配列は、本明細書に開示されているヒトSLC34A2-ROS融合ポリペプチド配列(配列番号1及び3)とともに、BLASTを使用するなどの標準的な配列比較によって容易に同定することが可能である。
【0128】
本発明の方法において使用される抗体は、特定のアッセイ形式、例えば、FC、IHC及び/又はICC中での使用によってさらに特徴付けられ、及び前記使用に対して検証され得る。このような方法におけるSLC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的抗体の使用は、以下のセクションFにさらに記載されている。以下のセクションFにさらに記載されているように、他のシグナル伝達(ホスホ-AKT、ホスホ-Erk1/2)及び/又は細胞マーカー(サイトケラチン)抗体とともに、マルチパラメトリック分析において使用するために、抗体は蛍光色素(例えば、Alexa488、PE)又は量子ドットなどの標識にも有利に連結され得る。
【0129】
本発明の方法を実施する際には、ある種の生物学的試料中での野生型SLC34A2及び/又は野生型ROSの発現及び/又は活性は、これらの野生型タンパク質に対する抗体(リン酸化型特異的又は完全の何れか)を用いても有利に検査され得る。例えば、CSF受容体リン酸化部位特異的抗体は市販されている(CELL SIGNALING TECHNOLOGY,INC.,Beverly MA,2005/06 Catalogue,#’s 3151,3155,and 3154;and Upstate Biotechnology,2006 Catalogue,#06-457を参照されたい。)。このような抗体は、上述のように、標準的な方法に従っても作製され得る。他の種から得られたこれらのタンパク質の配列と同様に、ヒトSLC34A2及びROSの両者のアミノ酸配列が公表されている(
図3及び4並びに参照されるSwissProt受付番号を参照されたい。)。
【0130】
生物学的試料(例えば、腫瘍試料)中でのSLC34A2-ROS融合ポリペプチド発現とともに、野生型SLC34A2及び野生型ROS発現及び/又は活性化を検出することによって、融合タンパク質が単独で腫瘍を誘導するかどうか、又は野生型ROSも活性化され、腫瘍を誘導するかどうかに関する情報を得ることができる。このような情報は、融合タンパク質若しくは野生型タンパク質若しくは両タンパク質を標的とするかどうかを評価する上で臨床的に有用であり、又は腫瘍の進行を阻害する上で、及び適切な治療薬若しくはその組み合わせを選択する上で最も有益な可能性がある。本明細書に開示されている切断されたROSキナーゼ中に存在しない野生型ROSキナーゼ細胞外ドメインに対して特異的な抗体は、変異体ROSキナーゼの存在/不存在を決定するために特に有用であり得る。
【0131】
上記方法を実施する際に2個以上の抗体を使用し得ることが理解される。以下のような癌から得られた細胞を含む生物学的試料中での以下のような他のシグナル伝達分子の活性を検出するために、例えば、その中でSLC34A2-ROS融合ポリペプチドが発現されている癌中で活性化されていることが疑われ、又は活性化されている可能性がある別のキナーゼ、受容体又はキナーゼ基質に対して特異的な1つ又はそれ以上の抗体と一緒に、1つ又はそれ以上のSC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的抗体を同時に使用し得る。
【0132】
本発明のSLC34A2-ROS融合ポリペプチド及び上述されているその融合連結部エピトープ保有断片は、免疫グロブリン(IgG)の定常ドメインの一部と組み合わされて、キメラポリペプチドをもたらし得ることを、当業者は理解する。これらの融合タンパク質は精製を容易にし、インビボで増加した半減期を示す。これは、例えば、ヒトCD4ポリペプチドの最初の2つのドメイン及び哺乳動物の免疫グロブリンの重鎖又は軽鎖の定常領域の様々なドメインからなるキメラタンパク質に対して示されている(EPA394,827;Traunecker et al.,Nature 331:84-86(1988))。また、IgG部分のためにジスルフィド連結された二量体構造を有する融合タンパク質は、単量体SLC34A2-ROS融合ポリペプチド単独より、他の分子を結合及び中和する上でより効率的であり得る(Fountoulakis et al.,J Biochem 270:3958-3964(1995))。
【0133】
重同位体標識されたペプチド(AQUAペプチド)
開示されている方法の実施において有用なSLC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的試薬は、生物学的試料中の発現されたSLEC34A2-ROS融合ポリペプチドの絶対的定量に適した重同位体標識されたペプチドも含み得る。複雑な混合物中のタンパク質(AQUA)の絶対的定量のためのAQUAペプチドの作製及び使用は記載されている。WO/03016861“Absolute Quantification of Proteins and Modified Forms Thereof by Multistage Mass Spectrometry”、Gygiら及び「Gerber et al.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.100:6940-5(2003)」(これらの教示は、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。)を参照されたい。
【0134】
AQUA法は、ペプチド標準に対する比較によって、生物学的試料中の同じ配列を有するペプチドの絶対量及びタンパク質修飾を測定するために、(LC-SRM)クロマトグラフィーによって検出可能な特有のシグナチャを有する)少なくとも1つの重同位体標識されたペプチド標準の既知の量の、消化された生物学的試料中への導入を使用する。要約すれば、AQUA法は、ペプチド内部標準の選択及び検証及び方法の開発、並びに試料中の標的タンパク質を検出及び定量するために、検証されたペプチド内部標準を用いた実行という2つの段階を有する。本方法は、細胞可溶化液などの複雑な生物学的混合物内の所定のペプチド/タンパク質を検出及び定量するための強力な技術であり、例えば、薬物治療の結果として、タンパク質リン酸化の変化を定量するために、異なる生物学的状態におけるタンパク質のレベルの差を定量するために使用し得る。
【0135】
一般に、適切な内部標準を開発するために、標的タンパク質配列内の特定のペプチド(又は修飾されたペプチド)は、そのアミノ酸配列及び消化するために使用される具体的なプロテアーゼに基づいて選択される。次いで、1つの残基が安定な同位体(13C、15N)を含有する同じ残基で置換されるように、固相ペプチド合成によってペプチドを作製される。その結果、タンパク質分解によって形成されたその固有の対応物と化学的に同一であるが、7Daの質量シフトを介してMSによって容易に識別可能なペプチドが得られる。次いで、新たに合成されたAQUA内部標準ペプチドがLC-MS/MSによって評価される。このプロセスは、逆相クロマトグラフィー、イオン化効率及び衝突によって誘導された解離を介した断片化によるペプチド保持についての定性的情報を提供する。原型状態のペプチド及び内部標準ペプチドの組に関して、情報を与える多数の断片イオンを選択し、次いで、ペプチド標準の特有のプロファイルに基づいて、選択された反応モニタリング(LC-SRM)法を形成するために、クロマトグラフィー保持の関数として、素早く連続して特異的にモニターする。
【0136】
AQUA戦略の第二の段階は、複雑な混合物からタンパク質又は修飾されたタンパク質の量を測定するためのその実行である。完全な細胞可溶化液は、通例、SDS-PAGEゲル電気泳動によって分画され、タンパク質の泳動と合致するゲルの領域が切り出される。このプロセスの後には、AQUAペプチドの存在下でのゲル内タンパク質分解及びLC-SRM分析が続く。(上記Gerberら、参照)。タンパク分解酵素での完全な細胞可溶化液の消化によって得られた複雑なペプチド混合物中にAQUAペプチドを加えて、上述のように免疫アフィニティー精製に供される。消化(例えば、トリプシン消化)によって形成された原型状態のペプチドの保持時間及び断片化パターンは、予め決定されたAQUA内部標準ペプチドのものと同一である。従って、SRM実験を用いたLC-MS/MS分析は、内部標準及び極めて複雑なペプチド混合物から直接得られた分析物の高度に特異的で、感度が高い測定を与える。
【0137】
AQUAペプチドの絶対量が添加されるので(例えば、250fmol)、曲線下面積の比は、元の細胞可溶化液中のタンパク質又はタンパク質のリン酸化された形態の正確な発現レベルを決定するために使用することができる。さらに、原型状態ペプチドが形成されるので、ゲル片からのペプチド抽出効率、試料の取り扱い(真空遠心を含む。)の間の絶対的な喪失及びLC-MSシステム中への導入時の変動が原型状態のペプチド及びAQUAペプチドの存在量の測定される比に影響を与えないように、ゲル内消化の間に内部標準が存在する。
【0138】
標的タンパク質内のIAP-LC-MS/MS法によって予め同定された既知の配列に対して、AQUAペプチド標準が開発される。部位が修飾されている場合には、部位内の特定の残基の修飾された形態を取り込んでいる1つのAQUAペプチドが開発され得、及び残基の修飾されていない形態を取り込んでいる第二のAQUAペプチドが開発され得る。このようにして、生物学的試料中の部位の修飾された形態と修飾されていない形態の両者を検出及び定量するために、2つの標準を使用し得る。
【0139】
タンパク質の一次アミノ酸配列を調べ、プロテアーゼ切断によって生成されたペプチドの境界を決定することによっても、ペプチド内部標準を作製し得る。あるいは、タンパク質は、実際に、プロテアーゼで消化され得、次いで、得られたペプチド断片を配列決定することができる。適切なプロテアーゼには、セリンプロテアーゼ(例えば、トリプシン、ヘプシン)、メタロプロテアーゼ(例えば、PUMP1)、キモトリプシン、カテプシン、ペプシン、サーモリシン、カルボキシペプチダーゼなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0140】
標的タンパク質内のペプチド配列は、内部標準としてのペプチドの使用を最適化するための1つ又はそれ以上の基準に従って選択される。好ましくは、ペプチド配列が他の非標的タンパク質中の他の場所で反復される可能性を最小限に抑えるように、ペプチドのサイズが選択される。従って、ペプチドは、好ましくは、少なくとも約6アミノ酸である。ペプチドのサイズは、イオン化頻度を最大化するために最適化される。従って、約20アミノ酸より長いペプチドは好ましくない。好ましい範囲は、約7から15アミノ酸である。質量分析の間に化学的に反応する可能性がないペプチド配列も選択されるので、システイン、トリプトファン又はメチオニンを含む配列は避けられる。
【0141】
タンパク質の全ての形態の量を決定するためにペプチド内部標準を使用することができるように、標的領域の修飾された領域を含まないペプチド配列を選択し得る。あるいは、修飾されたアミノ酸を包含するペプチド内部標準は、標的タンパク質の修飾された形態のみを検出及び定量することが望ましい場合があり得る。特定の試料中での修飾の程度を決定するために(すなわち、タンパク質の総量のどの割合が修飾された形態によって占められているかを決定するために)、修飾された領域と修飾されていない領域の両方に対するペプチド標準を一緒に使用することが可能である。例えば、試料中のリン酸化された形態の量を定量するために、特定の部位でリン酸化されることが知られているタンパク質のリン酸化された形態とリン酸化されていない形態の両形態に対するペプチド標準を使用することが可能である。
【0142】
1つ若しくはそれ以上の標識されたアミノ酸を用いてペプチドを標識し(すなわち、標識はペプチドの実際の部分である。)、又はより好ましくないが、標準的な方法に従って、合成後に標識を付着させ得る。好ましくは、標識は、以下の考慮に基づいて選択された質量変化標識である。すなわち、質量は、バックグラウンドが低いスペクトルの領域に対するMS分析によって生じたシフト断片質量に対して特有であるべきである。イオン質量シグナチャ成分は、好ましくは、MS分析中の特有のイオン質量シグナチャを示す標識部分の一部である。標識の構成成分原子の質量の合計は、好ましくは、全ての可能なアミノ酸の断片と一意的に異なる。その結果、標識されたアミノ酸及びペプチドは、得られた質量スペクトル中のイオン/質量パターンによって、標識されていないアミノ酸及びペプチドと容易に区別される。好ましくは、イオン質量シグナチャ成分は、20の天然アミノ酸の何れに対しても残基質量が合致しない質量をタンパク質断片に付与する。
【0143】
標識はMSの断片化条件下において強固であり、好ましくない断片化を受けるべきでない。標識化学は、幅広い条件下、特に、変性条件下において効率的であるべきであり、標識されたタグは、選択されるMS緩衝系中で可溶性の状態を保つことが好ましい。好ましくは、標識は、タンパク質のイオン化効率を抑制せず、化学的に反応性でない。標識は、各標識された断片位置に特有の質量分析パターンを生成するために、同位体的に異なる2つ又はそれ以上の種の混合物を含有し得る。2H、13C、15N、17O、18O又は34Sなどの安定な同位体が好ましい標識に属する。異なる同位体標識を取り込むペプチド内部標準の対も好ましい場合があり得る。重同位体標識がその中に取り込まれ得る好ましいアミノ酸残基には、ロイシン、プロリン、バリン及びフェニルアラニンが含まれる。
【0144】
ペプチド内部標準は、それらの質量/電荷(m/z)比に従って、好ましくは、クロマトグラフィーカラム(例えば、HPLCカラム)上でのそれらの保持時間に従っても特徴付けられる。同じ配列の標識されていないペプチドと同時溶出する内部標準は、最適な内部標準として選択される。次いで、内部標準は、何れかの適切な手段によってペプチドを断片化することによって、例えば、衝突ガスとしてアルゴン又はヘリウムを用いる衝突によって誘導される解離(CID;collision-induced dissociation)による断片化によって分析される。次いで、断片イオンスペクトルを得るために、ペプチド断片化シグナチャを得るために、例えば、多段階質量分析(「MS」)によって断片を分析する。好ましくは、各断片に対応するピークを十分に分離できるようにするために、ペプチド断片は、著しく異なるm/zの比を有し、標的ペプチドに対して特有のシグナチャが得られる。適切な断片シグナチャが第一段階で得られない場合には、特有のシグナチャが得られるまで、MSのさらなる段階が実施される。
【0145】
MS/MS及びMS3スペクトル中の断片イオンは、通例、目的のペプチドに対して高度に特異的であり、LC法と組み合わせて、何千もの又は何万ものタンパク質を含有する細胞可溶化液などの複雑なタンパク質混合物中の標的ペプチド/タンパク質を検出及び定量する高度に選択的な手段を可能とする。目的の標的タンパク質/ペプチドを含有している可能性がある何れの生物学的試料もアッセイし得る。好ましくは、未精製又は部分的に精製された細胞抽出物が使用される。一般に、試料は、タンパク質の少なくとも0.01mg、典型的には0.1から10mg/mLの濃度タンパク質を有し、所望の緩衝液濃度及びpHになるように調整され得る。
【0146】
次いで、検出/定量されるべき標的タンパク質に相当する標識されたペプチド内部標準の既知の量、好ましくは、約10fmolが、細胞可溶化液などの生物学的試料に添加される。次いで、添加された試料を、消化を可能とするのに適した時間にわたって、1つ又はそれ以上のプロテアーゼで消化する。次いで、標識された内部標準及び試料中の他のペプチドから得られた対応するその標的ペプチドを単離するために、(例えば、HPLC、逆相HPLC、キャピラリー電気泳動、イオン交換クロマトグラフィーなどによって)分離を実施する。ミクロキャピラリーLCが好ましい方法である。
【0147】
次いで、MS中の選択された反応のモニタリングによって、各単離されたペプチドを調べる。これは、ペプチド内部標準の性質決定によって得られた予備知識を使用し、次いで、目的のペプチド及び内部標準の両者に対するMS/MS又はMSnスペクトル中の特異的イオンを継続的にモニターするためにMSを必要とする。溶出後、ペプチド標準及び標的ペプチドピークの両方に対する曲線下面積(AUC)が計算される。2つの面積の比は、分析において使用される細胞の数に対して標準化することが可能な絶対的定量及びタンパク質の分子量を与え、細胞当りの正確なタンパク質のコピー数を提供する。AQUA法のさらなる詳細は、Gygiら及びGerberら、上記に記載されている。
【0148】
本発明の変異体ROSポリペプチド内のあらゆる特有の部位(例えば、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド内の融合連結部)を検出、定量するために、望ましくは、上述のように、AQUA内部ペプチド標準(重同位体標識されたペプチド)を作製し得る。例えば、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの融合連結部の配列に対応するAQUAホスホペプチドを調製し得る(
図7(下パネル)参照)。SLC34A2-ROS融合連結部に対してペプチド標準を作製し得、このような標準は、生物学的試料中の融合連結部(すなわち、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの存在)を検出及び定量するためにAQUA法において使用される。
【0149】
例えば、本発明の典型的なAQUAペプチドは、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの第二の(短い)バリアント中の融合連結部のそれぞれの側に直接隣接する3つのアミノ酸に対応するアミノ酸配列LVGDDF(
図7参照、下パネル)を含む(配列番号11参照)。融合連結部配列(及びその下流又は上流のさらなる残基)を含むより大きなAQUAペプチドも構築され得ることが理解される。あるいは、同様に、このような配列の残基の全てより少ない残基を含むより小さなAQUAペプチド(但し、融合連結部の点自体をなお含む。)を構築し得る。このようなより大きな又はより短いAQUAペプチドは本発明の範囲に属し、好ましいAQUAペプチドの選択及び作製は、上述のように実施し得る(Gygi et al.,Gerber et al.,上記参照)。
【0150】
核酸プローブ
本発明によって提供される融合特異的試薬は、上記セクションBに詳しく記載されているように、SLC34A2-ROSポリヌクレオチドの検出に適した核酸プローブ及びプライマーも含む。蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)又はPCR増幅などのアッセイにおけるこのようなプローブの具体的使用は、以下のセクションFに記載されている。
【0151】
生物学的試料中のSLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドを検出するためのキットであり、少なくとも1つの本発明の融合ポリヌクレオチド又はポリペプチド特異的試薬及び1つ又はそれ以上の第二の試薬を含むキットも、本発明によって提供される。キット中で使用するための適切な第二の試薬は当業者に周知であり、例として、緩衝液、検出可能な二次抗体又はプローブ、キナーゼ、活性化因子、キナーゼ基質などが含まれる。
【0152】
F.診断用途及びアッセイ形式
本発明の方法は、当業者に公知の様々な異なるアッセイ形式で実施され得る。
【0153】
イムノアッセイ
本発明の方法の実施において有用なイムノアッセイは、均一イムノアッセイ又は不均一イムノアッセイであり得る。均一アッセイでは、免疫学的反応は、通常、変異体ROSポリペプチド特異的試薬(例えば、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的抗体)、標識された分析物及び目的の生物学的試料を含む。標識された分解物に抗体が結合すると、標識に起因するシグナルは、直接又は間接に修飾される。免疫学的反応及びその程度の検出は何れも、均一な溶液中で実施される。使用され得る免疫化学的標識は、フリーラジカル、放射性同位体、蛍光色素、酵素、バクテリオファージ、補酵素などが含まれる。半導体ナノ結晶標識又は「量子ドット」も、有利に使用することができ、それらの調製及び使用は多数記載されてきた。一般に、「K.Barovsky,Nanotech.Law & Bus.1(2):Article 14(2004)」及びその中に引用されている特許を参照されたい。
【0154】
不均一アッセイアプローチでは、試薬は、通常、生物学的試料、変異体ROSキナーゼポリペプチド特異的試薬(例えば、抗体)及び検出可能なシグナルを生成するための適切な手段である。以下でさらに記載されている生物学的試料を使用し得る。一般に、抗体は、ビーズ、プレート又はスライドなどの支持体上に固定化され、抗原を含有すると疑われる試料と液相で接触される。次いで、支持体を液相から分離し、このようなシグナルを生成するための手段を使用する検出可能なシグナルに関して、支持体相又は液相の何れかを検査する。シグナルは、生物学的試料中の分析物の存在に関連する。検出可能なシグナルを生成するための手段には、放射性標識、蛍光標識、酵素標識、量子ドットなどの使用が含まれる。例えば、検出すべき抗原が第二の結合部位を含有するのであれば、当該部位に結合する抗体は、検出可能な基に連結され、分離工程の前に、液相反応溶液に添加することができる。固相支持体上の検出可能な基の存在は、検査試料中の抗原の存在を示唆する。適切なイムノアッセイの例は、ラジオイムノアッセイ、免疫蛍光法、酵素結合免疫検定法などである。
【0155】
本明細書に開示されている方法を実施するために有用であり得るイムノアッセイの形式及びそれらの変形物は、本分野において周知である。一般に、E.Maggio,Enzyme-lmmunoassay,(1980)(CRC Press,Inc.,Boca Raton,FIa.)を参照されたい。例えば、米国特許4,727,022(Skold et al,“Methods for Modulating Ligand-Receptor Interactions and their Application”);米国特許4,659,678(Forrest et al.,“Immunoassay of Antigens”);米国特許4,376,110(David et al.,“Immunometric Assays Using Monoclonal Antibodies”)も参照されたい。試薬-抗体複合体の形成に適した条件は、当業者にとって周知である。同文献参照。SLC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的モノクローナル抗体は、標識されたモノクローナル抗体及び結合されたモノクローナル抗体の両者に対する源としての役割を果たす単一のハイブリドーマ細胞株とともに、「2部位」又は「サンドイッチ」アッセイにおいて使用され得る。このようなアッセイは、米国特許4,376,110に記載されている。検出可能な試薬の濃度は、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの結合がバックグラウンドと比較して検出可能であるように十分であるべきである。
【0156】
本明細書に開示されている方法の実施において有用な抗体は、沈降などの公知の技術にしたがって、診断アッセイに適した固相支持体(例えば、ラテックス又はポリスチレンなどの材料から形成されたビーズ、プレート、スライド又はウェル)に連結され得る。同様に、抗体又は他のSLC34A2-ROS融合ポリペプチド結合試薬は、公知の技術にしたがって、放射性標識(例えば、35S、125I、131I)、酵素標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)及び蛍光標識(例えば、フルオレセイン)などの検出可能な基に連結され得る。
【0157】
フローサイトメトリー(FC)、免疫組織化学(IHC)又は免疫蛍光(IF)のような細胞をベースとしたアッセイ形式は臨床的に適切であり、変異体ROSポリペプチド発現のインビボでの検出を可能とし、抽出物を得るために、例えば、腫瘍試料から得られた細胞を操作することによって生じる活性の人為的変化のリスクが回避されるので、このようなアッセイ形式は、本発明の方法を実施する上で特に望ましい。従って、幾つかの好ましい実施形態において、本発明の方法は、フローサイトメトリー(FC)、免疫組織化学(IHC)又は免疫蛍光(IF)アッセイ形式で実行される。
【0158】
フローサイトメトリー(FC)は、ROSキナーゼ活性の阻害に標的化された薬物での治療前、治療中及び治療後に、哺乳動物腫瘍中での変異体ROSポリペプチドの発現を測定するために使用され得る。例えば、微細針吸引液から得られた腫瘍細胞は、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド発現及び/又は活性化に関して、並びに所望であれば、癌細胞の種類などを同定するマーカーに関して、フローサイトメトリーによって分析され得る。フローサイトメトリーは、標準的な方法に従って実施され得る。例えば、「Chow et al.,Cytometry (Communications in Clinical Cytometry)46:72-78(2001)」を参照されたい。簡潔に述べると、例として、細胞数測定分析のための以下のプロトコールを使用し得る。すなわち、37℃で10分間、2%パラホルムアルデヒドで細胞を固定した後、氷上で30分間、90%メタノール中で透過化を行う。次いで、一次SLC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的抗体で細胞を染色し、洗浄し、蛍光標識された二次抗体で標識し得る。次いで、使用した装置の特有のプロトコールに従って、フローサイトメーター(例えば、Beckman Coulter FC500)上で細胞を分析する。このような分析は、腫瘍中の発現されたSLC34A2-ROS融合ポリペプチドのレベルを同定する。ROS阻害治療薬で使用を処理した後の類似の分析によって、ROSキナーゼの標的化された阻害剤に対する、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドを発現している腫瘍の応答性が明らかとなる。
【0159】
免疫組織化学(IHC)染色は、ROSキナーゼ活性の阻害に標的化された薬物での治療前、治療中及び治療後に、哺乳動物の癌(例えば、NSCLC)中での変異体ROSキナーゼポリペプチドの発現及び/又は活性化状態を測定するためにも使用され得る。IHCは、周知の技術に従って実施され得る。例えば、「ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL,Chapter 10,p.75-76,Harlow & Lane Eds.,Cold Spring Harbor Laboratory(1988)」を参照されたい。簡潔に述べると、例として、パラフィン除去された組織切片をキシレンで染色した後、エタノールで染色し、水中で、次いでPBS中で水和させ、クエン酸ナトリウム緩衝液中でスライドを加熱することによって抗原を露出させ、過酸化水素中で切片を温置し、ブロッキング溶液中でブロッキングし、一次抗SLC34A2-ROS融合ポリペプチド抗体及び二次抗体中でスライドを温置し、最後に、製造業者の指示書に従って、ABCアビジン/ビオチン法を用いて検出することによって、免疫組織化学的染色のために、パラフィン包埋された組織(例えば、生検由来の腫瘍組織)が調製される。
【0160】
免疫蛍光(IF)アッセイは、ROSキナーゼ活性の阻害に標的化された薬物での治療前、治療中及び治療後に、哺乳動物の癌中でのSLC34A2-ROS融合ポリペプチドの発現及び/又は活性化状態を測定するためにも使用され得る。IFは、周知の技術に従って実施され得る。例えば、「J.M.polak and S.Van Noorden(1997)INTRODUCTION TO IMMUNOCYTOCHEMISTRY,2nd Ed.;ROYAL MICROSCOPY SOCIETY MICROSCOPY HANDBOOK 37,BioScientific/Springer-Verlag」を参照されたい。簡潔に述べると、例として、患者の試料は、パラホルムアルデヒド中で、続いてメタノール中で固定され、ウマ血清などのブロッキング溶液でブロッキングされ、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドに対する一次抗体とともに、続いてAlexa488などの蛍光色素で標識された二次抗体とともに温置され、落射蛍光顕微鏡で解析され得る。
【0161】
他のシグナル伝達(EGFR、ホスホ-AKT、ホスホ-Erk1/2)及び/又は細胞マーカー(サイトケラチン)抗体とともに、マルチパラメトリック分析において使用するために、上記アッセイにおいて使用される抗体は、蛍光色素(例えば、Alexa488、PE)又は量子ドットなどの標識にも有利に連結され得る。
【0162】
酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)及び蛍光標示式細胞分取器(FACS)など、変異体ROSキナーゼポリペプチドを測定するための様々な他のプロトコールが、本分野において公知であり、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド発現の変化したレベル又は異常なレベルを診断するための基礎を与える。SLC34A2-ROS融合ポリペプチド発現に対する正常値又は標準値は、複合体形成に適した条件下で、正常な哺乳動物検体、好ましくはヒトから採取された体液又は細胞抽出物をSLC34A2-ROS融合ポリペプチドに対する抗体と組み合わせることによって確立される。標準的な複合体形成の量は、様々な方法によって定量化され得るが、好ましくは、測光的手段によって定量化され得る。生検によって得られた組織からの検体、対照及び疾病試料中で発現されたSLC34A2-ROS融合ポリペプチドの量は、標準値と比較される。標準値と検体値の乖離が疾病を診断するためのパラメータを確立する。
【0163】
ペプチド及びヌクレオチドアッセイ
同様に、腫瘍由来の細胞を含む生物学的試料中の発現された変異体ROSポリペプチドの検出/定量のためのAQUAペプチドは、上記セクションEに詳しく記載されているように、標準的なAQUAアッセイにおいて調製及び使用され得る。従って、本発明の方法の幾つかの好ましい実施形態において、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的試薬は、セクションEに上述されているように、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの融合連結部を含むペプチド配列に対応する重同位体標識されたホスホペプチド(AQUAペプチド)を含む。
【0164】
本発明の方法を実施する上で有用な変異体ROSキナーゼペプチド特異的試薬は、生物学的試薬中の融合又は切断されたポリペプチド発現転写物に直接ハイブリッド形成し、検出することが可能なmRNA、オリゴヌクレオチド又はDNAプローブでもあり得る。このようなプローブは、上記セクションBに詳しく論述されている。簡潔に述べると、例として、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された患者試料は、フルオレセイン標識されたRNAプローブでプローブした後、ホルムアミド、SSC及びPBSで洗浄され、蛍光顕微鏡で分析され得る。
【0165】
変異体ROSキナーゼポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、診断目的のためにも使用され得る。使用され得るポリヌクレオチドには、オリゴヌクレオチド配列、アンチセンスRNA及びDNA分子並びにPNAが含まれる。ポリヌクレオチドは、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド又は切断されたROSポリペプチドの発現が疾病と相関し得る生検された組織中での遺伝子発現を検出及び定量するために使用され得る。診断アッセイは、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの不存在、存在及び過剰発現を区別し、治療的介入の間のSLC34A2-ROS融合ポリペプチドレベルの制御をモニターするために使用され得る。
【0166】
好ましい一実施形態において、変異体ROSポリペプチドをコードする核酸配列を同定するために、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド若しくは切断されたROSキナーゼポリペプチド又は密接に関連する分子をコードするポリヌクレオチド配列(ゲノム配列を含む。)を検出することが可能なPCRプローブとのハイブリッド形成を使用し得る。このようなプローブの構築及び使用は、セクションBに上記されている。プローブの特異性(高度に特異的な領域(例えば、融合連結部中の10個の特有のヌクレオチド)から作製されているか、又はより特異性が低い領域(例えば、3’コード領域)から作製されているかを問わない。)及びハイブリッド形成又は増幅の厳格性(最大、高い、中間又は低い)が、プローブが変異体ROSキナーゼポリペプチド、対立遺伝子又は関連配列をコードする天然に存在する配列のみを同定するかどうかを決定する。
【0167】
プローブは、関連配列の検出のためにも使用され得、好ましくは、変異体ROSポリペプチドコード配列の何れかから得られるヌクレオチドの少なくとも50%を含有すべきである。本発明のハイブリッド形成プローブはDNA又はRNAであり得、配列番号2又は4のヌクレオチド配列(最も好ましくは融合連結部を包含する(
図7参照、下パネル)。)に由来し得、又は上記セクションBでさらに述べられているように、天然に存在するSLC34A2及びROSポリペプチドのプロモーター、エンハンサー要素並びにイントロンを含むゲノム配列に由来し得る。
【0168】
本発明のSLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド又は切断されたROSポリヌクレオチドは、サザン又はノザン分析、ドットブロット若しくは膜をベースとする他の技術において、PCR技術において、又は変化した変異体ROSキナーゼポリペプチド発現を検出するために患者の生検から得られた流体又は組織を使用する尿試験紙、ピン、ELISA若しくはチップアッセイにおいて使用され得る。このような定性的又は定量的方法は、本分野において周知である。特定の態様において、変異体ROSポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、NSCLCを含む肺癌を含む様々な癌の活性化又は誘導を検出するアッセイにおいて有用であり得る。変異体ROSポリヌクレオチドは、標準的な方法によって標識され、ハイブリッド形成複合体の形成に適した条件下で、患者から流体又は組織試料に添加され得る。適切な温置期間後、試料を洗浄し、シグナルを定量化し、標準値と比較する。生検された試料又は抽出された試料中のシグナルの量が同等の対照試料のシグナルの量と大幅に変化していれば、ヌクレオチド配列は試料中のヌクレオチド配列とハイブリッド形成し、試料中のSLC34A2-ROS融合ポリペプチド又は切断されたROSキナーゼポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の変化したレベルの存在は付随する疾病の存在を示唆する。このようなアッセイは、動物研究、臨床試験において特定の治療的処置計画の有効性を評価するために、又は各患者の治療をモニタリングする際にも使用され得る。
【0169】
変異体ROSポリペプチドの発現によって特徴付けられる疾病の診断に対する基礎を与えるために、発現に対する正常なプロファイル又は標準的なプロファイルが確立される。これは、正常な検体(動物又はヒトの何れか)から採取された体液又は細胞抽出物を、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド又は切断されたROSキナーゼポリペプチドをコードする配列又はその断片と、ハイブリッド形成又は増幅に適した条件下で合わせることによって達成し得る。標準的なハイブリッド形成は、正常な検体から得られた値を、実質的に精製されたポリヌクレオチドの既知量が使用されている実験から得られた値と比較することによって定量化し得る。正常な試料から得られた標準値は、疾病に対して症候性である患者由来の試料から得られた値と比較され得る。標準値と検体値の乖離が疾病の存在を確立するために使用される。
【0170】
一旦、疾病が確立され、治療プロトコールが開始されると、患者中の発現のレベルが正常な患者中に観察される発現レベルを近似し始めるかどうかを評価するために、ハイブリッド形成アッセイが定期的に反復され得る。連続的アッセイから得られた結果は、数日から数ヶ月の期間にわたって、治療の有効性を示すために使用され得る。
【0171】
本発明の変異体ROSポリヌクレオチドに対するさらなる診断的使用には、当業者にとって標準的である別の好ましいアッセイ形式であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の使用が含まれ得る。例えば、「MOLECULAR CLONING,A LABORATORY MANUAL,2nd.edition,Sambrook,J.,Fritsch,E. F. and Maniatis,T.,eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)」を参照されたい。PCRオリゴマーは、化学的に合成し、酵素的に作製し、又は組換え源から生成され得る。オリゴマーは、好ましくは、特定の遺伝子又は条件を同定するために最適化された条件下で使用される2つのヌクレオチド配列(一方はセンス方向性(5’から3’)、他方はアンチセンス(3’から5’)からなる。密接に関連したDNA又はRNA配列の検出及び/又は定量のために、より厳格性が低い条件下で、同一の2つのオリゴマー、オリゴマーの入れ子状セット又はオリゴマーの縮重プールさえ使用され得る。
【0172】
SLC34A2-ROS融合ポリペプチド又は切断されたROSキナーゼポリペプチドの発現を定量するためにも使用され得る方法には、放射線標識又はビオチン化ヌクレオチド、対照核酸の同時増幅及び実験結果がその上に内挿される標準曲線が含まれる(Melby et al.,J.Immunol.Methods,159:235-244(1993);Duplaa et al.Anal.Biochem.229-236(1993))。複数の試料の定量速度は、目的のオリゴマーが様々な希釈で与えられ、分光学的又は比色応答が迅速な定量を与えるELISA形式のアッセイを実行することによって加速され得る。
【0173】
本発明の別の実施形態において、天然に存在するゲノム配列をマッピングするのに有用なハイブリッド形成プローブを作製するために、本発明の変異体ROSポリヌクレオチドを使用し得る。配列は、周知の技術を用いて、特定の染色体に又は染色体の特定の領域にマッピングされ得る。このような技術には、「Price,C.M.,Blood Rev.7:127-134(1993),and Trask,B.J.,Trends Genet.7:149-154(1991)」に概説されているように、蛍光インサイチュハイブリッド形成(FISH)、FACS又は酵母人工染色体、細菌人工染色体、細菌P1構築物又は単一染色体cDNAライブラリーなどの人工染色体構築物が含まれる。
【0174】
好ましい一実施形態において、(Verma et al.,HUMAN CHROMOSOMES:A MANUAL OF BASIC TECHNIQUES,Pergamon Press,New York,N.Y.(1988)に記載されているように)FISHが使用され、他の物理的染色体マッピング技術及び遺伝子マップデータと相関付けられ得る。遺伝子マップデータの例は、1994 Genome Issue of Science(265:1981f)に見出すことができる。SLC34A2-ROS融合ポリペプチド又は切断されたROSポリペプチドをコードする物理的遺伝子上での遺伝子の位置と特定の疾病又は特定の疾病に対する素因との相関は、遺伝病と関連するDNAの領域の限界を確定する上で役立ち得る。本発明のヌクレオチド配列は、正常な個体、保因者又は罹患した個体間での遺伝子配列の差を検出するために使用され得る。
【0175】
染色体調製物のインサイチュハイブリッド形成及び確立された染色体マーカーを用いた連鎖分析などの物理的マッピング技術を、遺伝子マップを拡張するために使用し得る。特定のヒト染色体の数又は腕が不明である場合でさえ、マウスなどの別の哺乳動物種の染色体上での遺伝子の配置は、しばしば、関連するマーカーを明らかにし得る。新しい配列は、物理的マッピングによる染色体腕又はその一部に割り当てることができる。これは、位置クローニング又は他の遺伝子発見技術を用いて疾病遺伝子を探索している研究者に貴重な情報を与える。特定のゲノム領域への遺伝的連鎖(例えば、ATを11q22-23に)(Gatti et al.,Nature 336:577-580(1988))によって、一旦、疾病又は症候群が大まかに位置決定されたら、その領域にマッピングされているあらゆる配列が、さらなる調査のための関連遺伝子又は制御遺伝子に相当し得る。本発明のヌクレオチド配列は、正常な個体、保因者又は罹患した個体間での、転座、逆位などに起因する染色体の位置の差を検出するためにも使用され得る。
【0176】
生物学的試料
本発明の方法の実施において有用な生物学的試料は、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの存在によって特徴付けられる癌が存在し、若しくは発達しており、又は存在し得、若しくは発達し得る何れかの哺乳動物から取得され得る。一実施形態において、哺乳動物はヒトであり、ヒトはROS阻害治療薬に対する候補であり得、肺癌、例えば、NSCLCの治療に対する候補であり得る。ヒト候補は、ROSキナーゼ阻害剤で現在治療されている患者又はROSキナーゼ阻害剤での治療が検討されている患者であり得る。別の実施形態において、哺乳動物はウマ又はウシなどの巨大な動物であるのに対して、他の実施形態においては、哺乳動物はイヌ又はネコなどの小動物であり、これらの全てが肺癌を含む癌を生じることが知られている。
【0177】
哺乳動物の癌から得られた細胞(又は細胞の抽出物)を含む何れの生物学的試料も、本発明の方法での使用に適している。一実施形態において、生物学的試料は腫瘍生検から得られた細胞を含む。生検は、標準的な臨床技術に従って、哺乳動物の臓器中に存在する原発性腫瘍から又は他の組織中に転移した続発性腫瘍によって取得され得る。別の実施形態において、生物学的試料は腫瘍から採取された微細針吸引液から得られた細胞を含み、このような吸引液を取得するための技術は本分野において周知である(Cristallini et al.,Acta Cytol.36(3):416-22(1992)を参照されたい。)。
【0178】
生物学的試料は、胸水などの浸出液から得られた細胞も含み得る。胸水(胸腔中の肺の外側に形成され、癌細胞を含有する液体)は、進行した肺癌(NSCLCを含む。)を有する多くの患者内で形成されることが知られており、このような浸出液の存在は不良な結果及び短い生存時間を予測する。胸水試料を取得するための標準的な技術が記載されており、本分野において周知である(Sahn,Clin Chest Med.3(2):443-52(1982)を参照されたい。)。循環している腫瘍細胞は、腫瘍マーカー、サイトケラチンタンパク質マーカー又は記載されているような他の負の選択方法を用いて血清からも取得され得る(Ma et al.,Anticancer Res.23(1A):49-62(2003)を参照されたい。)。血清及び骨髄試料は、白血病を有する患者に対して特に好ましいものであり得る。ROSの異常な発現は、神経膠芽腫中に観察されている。Charestら、上記参照。
【0179】
生物学的試料は、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド又は切断されたROSキナーゼポリペプチドがその中で発現及び/又は活性化されており、野生型ROSキナーゼが発現及び/又は活性化されていない癌由来の細胞(又は細胞抽出物)を含み得る。あるいは、試料は、変異体ROSポリペプチドと野生型ROSキナーゼの両者が発現及び/又は活性化されており、又は野生型ROSキナーゼ及び/又はSLC34A2が発現され及び/又は活性であるが、変異体ROSポリペプチドが発現されておらず及び/又は活性でない癌由来の細胞を含み得る。
【0180】
先述の生物学的試料の細胞抽出物は、標準的な技術に従って、未精製又は部分的に(又は完全に)精製されて調製され得、本発明の方法において使用され得る。あるいは、完全な細胞を含む生物学的試料は、上でさらに記載されているように、免疫組織化学(IHC)、フローサイトメトリー(FC)及び免疫蛍光(IF)などの好ましいアッセイ形式で使用され得る。このような完全細胞アッセイは、腫瘍細胞試料の操作を最小限に抑え、従って、細胞のインビボシグナル伝達/活性化状態を変化させるリスク及び/又は人為的シグナルを導入するリスクを低減する点で有利である。腫瘍及び正常な細胞の混合物でなく、腫瘍細胞中のみで発現及びシグナル伝達を特徴付けるので、完全細胞アッセイも有利である。
【0181】
ある化合物がSLC34A2-ROS転座及び/又は融合ポリペプチドによって特徴付けられる腫瘍の進行を阻害するかどうかを決定するための開示された方法を実施する場合には、哺乳動物の異種移植片(又は骨髄移植)から得られた細胞を含む生物学的試料も有利に使用され得る。好ましい異種移植片(又は移植レシピエント)は、変異体ROSキナーゼポリペプチドを発現するヒト腫瘍(又は白血病)を保有する小さな哺乳動物(マウスなど)である。ヒト腫瘍を有する異種移植片は本分野において周知であり(Kal,Cancer Treat Res.72:155-69(1995)を参照されたい。)、ヒト腫瘍を保有する哺乳動物の異種移植片の作製は詳しく記載されている(Winograd et al.,In Vivo.1(1):1-13(1987)を参照されたい)。同様に、骨髄移植モデルの作製及び使用が詳しく記載されている(例えば、Schwaller,et al.,EMBO J.17:5321-333(1998);Kelly et al.,Blood 99:310-318(2002)を参照されたい。)。SLC34A2-ROS転座及び/又は融合ポリペプチド「によって特徴付けられる癌」とは、このような転座及び/又は融合ポリペプチドがその中に存在しない癌に比べて、このような変異体ROS遺伝子及び/又は発現されたポリペプチドがその中に存在する癌を意味する。
【0182】
哺乳動物の癌腫瘍から得られた細胞を含む生物学的試料中での変異体ROSポリヌクレオチドの存在又はポリペプチドの発現を評価する際には、望ましくは、このような転座及び/又は融合タンパク質がその中に存在しない細胞に相当する対照試料が比較のために使用され得る。理想的には、対照試料は、変異(例えば、SLC34A2-ROS転座)が存在せず、及び/又は融合ポリペプチドが発現されていないサブセットの代表である特定の癌(例えば、NSCLC)のサブセットから得られた細胞を含む。従って、対照試料中のレベルを検査生物試料と比較することによって、変異体ポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドが存在するかどうかが特定される。あるいは、SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドは癌の大半に存在し得ないので、変異体ROSポリペプチドを同様に発現しない(又は変異体ポリヌクレオチドを保有する)何れの組織も、対照として使用され得る。
【0183】
以下に記載されている方法は、変異体ROSポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドによって特徴付けられる癌に対して及び前記癌に関する治療の決定に対して価値ある診断的な有用性を有する。例えば、生物学的試料は、SLC34A2-ROS転座及び/又は融合ポリペプチドによって特徴付けられる癌を有すると以前に診断されたことがなく、このような癌に対する治療を受けたこともない対象から取得され得るので、このような対象中の腫瘍が、変異体ROSポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドがその中で存在/発現していない腫瘍(例えばNSCLC腫瘍)のサブセットに属すると診断的に特定するために、前記方法が使用される。
【0184】
あるいは、生物学的試料は、EFGRなどのキナーゼの一種によって引き起こされる癌を有すると診断され、このような癌の治療のためにEGFR阻害剤治療(例えば、TarcevaTM、IressaTM)などの治療を受けている対象から取得され得、対象の腫瘍がSLC34A2-ROS転座及び/又は融合ポリペプチドによっても特徴付けられ、従って、既存の治療法に完全に応答する可能性があるかどうか、及び/又は別の若しくはさらなるROSキナーゼ阻害療法が望ましく若しくは適正であるかを特定するために、本発明の方法が使用される。本発明の方法は、ROSキナーゼ阻害治療薬又は治療薬の組み合わせを含む組成物での対象の治療後に変異体ROSポリペプチド発現癌の進行又は阻害をモニターするためにも使用され得る。
【0185】
このような診断アッセイは、予備的な評価又は手術監視操作の後又は前に実施され得る。本発明の特定方法は、SLC34A2-ROS融合タンパク質によって引き起こされる癌(NSCLCなど)を有する何れの患者が、ROSキナーゼ活性の阻害に対して標的化された治療薬に対して最も応答する可能性が高いかを特定するための診断薬として有利に使用され得る。このような患者を選択する能力は、ROSを標的とする将来の治療薬の効果の臨床的評価及びこのような薬物の患者への将来の処方においても有用である。
【0186】
診断薬
診断目的でこのような腫瘍を正確に特定するための重要な新規方法並びにこのような腫瘍がROS阻害治療組成物に対して応答する可能性があるかどうか、又は、癌の治療のために単一の因子として投与された場合に、異なるキナーゼを標的とする阻害剤に対して部分的に若しくは完全に応答しない可能性があるかどうかを決定する上で有用な情報を取得するための重要な新規方法が、SLC34A2-ROS転座及び/又は融合ポリペプチドがその中に存在する癌を選択的に特定する能力によって可能となる。
【0187】
従って、一実施形態において、本発明は、
(a)癌を有する患者から生物学的試料を取得する工程;及び
(b)SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドが前記生物学的試料中に存在するかどうかを決定するために、本発明の変異体ROSポリヌクレオチド又はポリペプチドを検出する少なくとも1つの試薬を使用する工程、
を含む、癌中の変異体ROSポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドの存在を検出するための方法を提供する。
【0188】
幾つかの好ましい実施形態において、癌は、非小細胞肺癌(NSCLC)などの肺癌である。他の好ましい実施形態において、変異体ROSキナーゼポリペプチドの存在は、少なくとも1つのROSキナーゼ阻害治療薬を含む組成物に対して応答する可能性がある癌を特定する。
【0189】
幾つかの好ましい実施形態において、本発明の診断方法は、フローサイトメトリー(FC)、免疫組織化学(IHC)又は免疫蛍光(IF)アッセイ形式で実行される。別の好ましい実施形態において、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの活性が検出される。別の好ましい実施形態において、本発明の診断方法は、蛍光インサイチュハイブリッド形成(FISH)又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイ形式で実行される。
【0190】
さらに、本発明は、ある化合物が、SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド又はポリペプチドによって特徴付けられる癌の進行を阻害するかどうかを決定する方法であり、前記化合物が前記癌の中で前記SLC34A2-ROS融合の発現及び/又は活性を阻害するかどうかを決定する工程を含む、前記方法を提供する。好ましい一実施形態において、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの発現及び/又は活性の阻害は、本発明のSLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド又はポリペプチドを検出する少なくとも1つの試薬を用いて決定される。ROSキナーゼ活性の阻害に適した化合物は、以下のセクションGでさらに詳しく論述されている。
【0191】
本発明の方法を実施する上で有用な変異体ROSポリヌクレオチドプローブ及びポリペプチド特異的試薬は、上記セクションB及びDでさらに詳しく記載されている。好ましい一実施形態において、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド特異的試薬は融合ポリペプチド特異的抗体を含む。別の好ましい実施形態において、融合ポリペプチド特異的試薬は、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの融合連結部に対応する重同位体標識されたホスホペプチド(AQUAペプチド)を含む(
図7(下パネル)参照)。
【0192】
上記本発明の方法は、野生型ROS及びEGFR又は前記生物学的試料中の他の下流シグナル伝達分子などの他のキナーゼの発現又は活性化のレベルを測定する工程も場合によって含み得る。所定の生物学的試料中でのSLC34A2-ROS融合ポリペプチド発現/活性化及び他のキナーゼ及び経路の発現/活性化の両者の特性を決定することによって、何れのキナーゼ及び経路が疾病を引き起こすかについての貴重な情報、従って、何れの治療計画が最も有益である可能性が高いかについての貴重な情報を得ることができる。
【0193】
化合物のスクリーニング
本明細書に記載されている新規SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの発見によって、これらの変異体ROSタンパク質の活性、特に、それらのROSキナーゼ活性を阻害する新規化合物の開発も可能となる。従って、本発明は、一つには、化合物が、SLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドによって特徴付けられる癌の進行を阻害するかどうかを決定する方法であり、前記化合物が前記癌の中で前記SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの発現及び/又は活性を阻害するかどうかを決定する工程を含む、前記方法も提供する。好ましい一実施形態において、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドの発現及び/又は活性の阻害は、本発明の変異体ROSポリヌクレオチド及び/又は変異体ROSポリペプチドを検出する少なくとも1つの試薬を用いて決定される。本発明の好ましい試薬は上に記載されている。ROSキナーゼ活性の阻害に適した化合物は、以下のセクションGでさらに詳しく論述されている。
【0194】
化合物は、例えば、小分子又は抗体阻害剤などのキナーゼ阻害剤であり得る。化合物は、数個の異なるキナーゼに対して活性を有する汎キナーゼ阻害剤(pan-kinase inhibitor)又はキナーゼ特異的阻害剤であり得る。ROSキナーゼ阻害化合物は、以下のセクションGにさらに詳しく論述されている。患者の生物学的試料は、阻害剤での治療前及び治療後に採取され、次いで、上記方法を用いて、下流の基質タンパク質のリン酸化などのROSキナーゼ活性に対する阻害剤の生物学的効果に関して分析され得る。このような薬物動態学的アッセイは、薬物の生物学的活性用量を決定する上でも有用であり得、これは好ましくは最大許容用量まで達し得る。このような情報は、薬物の作用機序を示すことによって、薬物承認のための提出においても有用であり得る。このような所望の阻害的特性を有する化合物の同定は、以下のセクションGにさらに記載されている。
【0195】
G.癌の治療的阻害
本発明において、ヒトNSCLCの少なくとも1つの亜群において、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドが生じることがここに示された。従って、SLC34A2-ROS融合タンパク質がその中で発現されている哺乳動物の癌(例えば、NSCLC)の進行は、このような癌中でのROSキナーゼの活性を阻害することによって、インビボで阻害され得る。変異体ROSキナーゼの発現によって特徴付けられる癌中のROS活性は、癌(例えば、腫瘍)をROSキナーゼ阻害治療薬と接触させることによって阻害され得る。従って、本発明は、一つには、癌中のROSキナーゼの発現及び/又は活性を阻害することによって、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドを発現する癌の進行を阻害する方法を提供する。
【0196】
ROSキナーゼ阻害治療薬は、以下に記載されている化合物の典型的なクラスを含む、ROSキナーゼの発現及び/又は活性をインビボで直接又は間接に阻害する少なくとも1つの生物学的又は化学的化合物を含むあらゆる組成物であり得る。このような化合物には、ROSキナーゼそのものに対して直接的に、又はROSの活性を修飾するタンパク質若しくは分子に対して作用し、又はROSの発現を阻害することによって間接的に作用する治療薬が含まれる。このような組成物には、単一のROSキナーゼ阻害化合物のみを含む組成物及び化学療法剤又は一般的な転写阻害剤のような非特異的治療剤も含み得る複数の治療薬(他のRTKに対する治療薬を含む。)を含む組成物も含まれる。
【0197】
小分子阻害剤
幾つかの好ましい実施形態において、本発明の方法の実施において有用なROS阻害治療薬は標的化された小分子阻害剤である。標的化された小分子阻害剤は、特異的に、しばしば不可逆的に、酵素の触媒部位への結合によって、及び/又はATP結合の裂け目若しくは酵素がその活性のために必要な立体構造を採らないようにする酵素内の他の結合部位への結合によって、それらの標的酵素の活性を典型的に阻害する分子のクラスである。標的化される典型的な小分子キナーゼ阻害剤は、CSF1R及びBCR-ABLを阻害するGleevec(R)(Imatinib,STI-571)であり、その特性は詳しく記載されている。「Dewar et al.,Blood 105(8):3127-32(2005)」を参照されたい。
【0198】
小分子阻害剤は、ROSキナーゼ三次元構造のX線結晶若しくはコンピュータモデリングを用いて合理的に設計され得、又はROSの阻害に関する化合物ライブラリーの高情報量スクリーニングによって見出され得る。このような方法は本分野において周知であり、記載されている。ROS阻害の特異性は、例えば、キナーゼの群において、ROS活性を阻害するが、他のキナーゼ活性を阻害しないこのような化合物の能力を調べることによって、及び/又は、以下に記載されているように、NSCLC腫瘍細胞を含む生物学的試料中のROS活性の阻害を調べることによって確認され得る。このようなスクリーニング法は、以下でさらに記載されている。
【0199】
抗体阻害剤
本発明の方法において有用なROSキナーゼ阻害治療薬は、ROS活性のために必要とされる重要な触媒性部位又は結合部位又はドメインに特異的に結合し、リガンド、基質又は第二の分子のαへの接近を遮断し、及び/又は酵素がその活性のために必要な立体構造を採ることを妨げることによってキナーゼを阻害する標的化された抗体でもあり得る。ヒト化された標的特異的抗体の作製、スクリーニング及び治療的使用は詳しく記載されている。「Merluzzi et al.,Adv Clin Path.4(2):77-85(2000)」を参照されたい。ヒト化された標的特異的阻害抗体の高情報処理量の作製及びスクリーニングための市販の技術及び系(Morphosys,Inc.のHuman Combinatorial Antibody Library(HuCAL(R))など)を利用することができる。
【0200】
様々な抗受容体キナーゼ標的化抗体の作製及び標的化された受容体の活性を阻害するためのそれらの使用が記載されている。例えば、米国特許公開20040202655、“Antibodies to IGF-I Receptor for the Treatment of Cancers,” October 14,2004,Morton et al.;米国特許公開20040086503,“Human anti-Epidermal Growth Factor Receptor Single-Chain Antibodies,” April 15,2004,Raisch et al.;米国特許公開20040033543,“Treatment of Renal Carcinoma Using Antibodies Against the EGFr,” February 19,2004,Schwab et. al.を参照されたい。受容体チロシンキナーゼ活性阻害抗体を作製及び使用するための標準化された方法は本分野において公知である。例えば、「欧州特許EP1423428,“Antibodies that Block Receptor Tyrosine Kinase Activation,Methods of Screening for and Uses Thereof,” June 2,2004,Borges et alを参照されたい。
【0201】
ファージディスプレイアプローチは、ROS特異的抗体阻害剤を作製するためにも使用することができ、組換え抗体のバクテリオファージライブラリーの構築及び選択のためのプロトコールは、周知の参考文献「CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY,Colligan et al.(Eds.),John Wiley & Sons,Inc.(1992-2000),Chapter 17,Section 17.1」に記載されている。米国特許6,319,690,November 20,2001,Little et al.;米国特許6,300,064,October 9,2001 ,Knappik et al.;米国特許5,840,479,November 24,1998,Little et al.,米国特許公開20030219839,November 27,2003,Bowdish et alも参照されたい。
【0202】
バクテリオファージの表面上にディスプレイされた抗体断片のライブラリーを作製し(例えば、米国特許6,300,064,October 9,2001,Knappik et al.を参照されたい。)、(ROSのような)受容体タンパク質キナーゼの可溶性二量体形態への結合に関してスクリーニングされ得る。スクリーニングのために使用されるRTKの可溶性二量体形態に結合する抗体断片は、細胞中の標的RTKの恒常的な活性化を遮断するための候補分子として同定されている。欧州特許EP1423428,Borges et al.,上記参照。
【0203】
次いで、上述のような抗体ライブラリーのスクリーニングにおいて同定されたROS結合標的化抗体は、インビトロキナーゼアッセイで、並びに細胞株及び/又は腫瘍中においてインビボで、ROSの活性を遮断する能力に関してさらにスクリーニングされ得る。ROS阻害は、例えば、キナーゼの群において、ROSキナーゼ活性を阻害するが、他のキナーゼ活性を阻害しないこのような抗体治療薬の能力を調べることによって、及び/又は、上に記載されているように、癌細胞を含む生物学的試料中のROS活性の阻害を調べることによって確認され得る。ROSキナーゼ阻害のためのこのような化合物をスクリーニングする方法は、さらに上述されている。
【0204】
間接的阻害剤
開示されている方法の実施に有用なROS阻害化合物は、ROSキナーゼそのもの以外のタンパク質又は分子の活性を阻害することによってROS活性を間接的に阻害する化合物でもある。このような阻害治療薬は、ROSそのものをリン酸化若しくは脱リン酸化する(従って、活性化又は脱活性化する)又はリガンドの結合を妨害する中心的な制御キナーゼの活性を調節する標的化された阻害剤であり得る。他の受容体チロシンキナーゼと同様に、ROSはアダプタータンパク質及び下流のキナーゼのネットワークを通じて下流のシグナル伝達を制御する。その結果、これらの相互作用又は下流タンパク質を標的化することによって、ROS活性による細胞増殖及び生存の誘導を阻害し得る。
【0205】
ROSキナーゼ活性は、ROSがその活性な立体構造を採るのに必要な活性化分子の結合を阻害する化合物を使用することによっても、間接的に阻害され得る。例えば、抗PDGF抗体の作製及び使用が記載されている。米国特許公開20030219839、「Anti-PDGF Antibodies and Methods for Producing Engineered Antibodies」、Bowdish et al.を参照されたい。受容体に結合するリガンド(PDGF)の阻害は、受容体活性を直接下方制御する。
【0206】
ROS活性の間接的阻害剤は、ROS三次元構造のX線結晶若しくはコンピュータモデリングを用いて合理的に設計され得、又はROSキナーゼ活性の阻害をもたらす中心的な上流制御酵素及び/又は必要な結合分子の阻害に関する化合物ライブラリーの高情報量スクリーニングによって見出され得る。このようなアプローチは本分野において周知であり、記載されている。このような治療薬によるROS阻害は、例えば、キナーゼの群において、ROS活性を阻害するが、他のキナーゼ活性を阻害しない化合物の能力を調べることによって、及び/又は、上記されているように、癌細胞(例えば、NSCLC細胞)を含む生物学的試料中のROS活性の阻害を調べることによって確認され得る。SLC34A2-ROS転座及び/又は融合ポリペプチド及び/又は切断されたROSポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドによって特徴付けられる癌を阻害する化合物を同定するための方法が、以下でさらに記載されている。
【0207】
アンチセンス及び/又は転写阻害剤。
【0208】
ROS阻害治療薬は、ROSをコードする遺伝子及び/又はSLC34A2-ROS融合遺伝子の転写を遮断することによって、ROSキナーゼ活性を阻害するアンチセンス及び/又は転写阻害化合物も含み得る。癌の治療のためのアンチセンス治療薬によるVEGFR、EGFR及びIGFR及びFGFRを含む様々な受容体キナーゼの阻害が記載されている。例えば、米国特許6,734,017;6,710,174,6,617,162;6,340,674;5,783,683;5,610,288を参照されたい。
【0209】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、公知の技術に従って、標的遺伝子に対する治療因子として設計され、構築され、使用され得る。例えば、Cohen,J.,Trends in Pharmacol.Sci.10(11):435-437(1989);Marcus-Sekura,Anal.Biochem.72:289-295(1988);Weintraub,H.,Sci.AM.pp.40-46(1990);Van Der Krol et al.,BioTechniques6(10):958-976(1988);Skorski et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1994)91:4504-4508を参照されたい。EGFRのアンチセンスRNA阻害剤を用いてヒト癌腫増殖をインビボで阻害することが最近記載された。米国特許公開20040047847,“Inhibition of Human Squamous Cell Carcinoma Growth In vivo by Epidermal Growth Factor Receptor Antisense RNA Transcribed from a Pol III Promoter,” March 11 ,2004,He et alを参照されたい。同様に、哺乳動物ROS遺伝子(
図4参照(配列番号8)又はSLC34A2-ROS融合ポリヌクレオチド若しくは切断されたROSポリヌクレオチド(
図2参照(配列番号2又は4))に対する少なくとも1つのアンチセンスオリゴヌクレオチドを含むROS阻害治療薬は、上記方法に従って調製され得る。ROS阻害アンチセンス化合物を含む医薬組成物は、以下でさらに記載されているように調製及び投与され得る。
【0210】
低分子干渉RNA
RNA干渉のプロセスを通じてROSの翻訳を阻害し、従ってROSの活性を阻害する低分子干渉RNA分子(siRNA)組成物も、本発明の方法において望ましく使用され得る。標的タンパク質をコードするmRNAに対して相補的な配列を含む外来の小さな二本鎖RNA分子の導入によるRNA干渉及び標的タンパク質発現の選択的発現停止は、多数記載されている。例えば、米国特許公開20040038921,“Composition and Method for Inhibiting Expression of a Target Gene,” February 26,2004,Kreutzer et al.;米国特許公開20020086356,“RNA Sequence-Specific Mediators of RNA Interference,”June 12,2003,Tuschl et .al.,;米国特許公開20040229266,“RNA Interference Mediating Small RNA Molecules,”November 18,2004,Tuschl et .al.を参照されたい。
【0211】
例えば、実施例3に記載されているように、SLC34A2-ROS融合タンパク質の発現のsiRNA媒介性発現停止は、融合タンパク質を発現するヒトNSCLC細胞株中で実施され得る。
【0212】
二本鎖RNA分子(dsRNA)は、RNA干渉(RNAi)として知られる高度に保存された制御機構で遺伝子発現を遮断することが示されている。簡潔に述べると、RNAseIII Dicerは、dsRNAを約22ヌクレオチドの低分子干渉RNA(siRNA)へ加工し、低分子干渉RNAは、RNAによって誘導される発現停止複合体RISCによる標的特異的mRNA切断を誘導するためのガイド配列としての役割を果たす(Hammond et al.,Nature(2000)404:293-296を参照されたい。)。RNAiは、より長いdsRNAの連続的切断を通じて新たなsiRNAを生成する触媒型反応を含む。従って、アンチセンスとは異なり、RNAiは、非化学量論的な様式で標的RNAを分解する。細胞又は生物に投与されると、外来dsRNAは、RNAiを通じて、内在性メッセンジャーRNA(mRNA)の配列特異的分解を誘導することが示されている。
【0213】
現在、標的特異的siRNA産物の発現のための及び哺乳動物細胞中で使用するためのベクター及び系を含む多様な標的特異的siRNA産物が市販されている。例えば、Promega,Inc.(www.promega.com);Dharmacon,Inc.(www.dharmacon.com)を参照されたい。RNAi用のdsRNAの設計、構築及び使用の詳細な技術マニュアルが入手可能である。例えば、Dharmaconの“RNAi Technical Reference & Application Guide”;Promegaの“RNAi:A Guide to Gene Silencing”を参照されたい。ROS阻害siRNA産物も市販されており、本発明の方法において適切に使用され得る。例えば、Dharmacon,Inc.,Lafayette,CO(カタログ番号M-003162-03,MU-003162-03,D-003162-07から-10(siGENOMETMSMARTselection及びSMARTpool(R)siRNA)を参照されたい。
【0214】
標的mRNA配列の一部と実質的に同一である少なくとも1つの配列を含み、最適には、少なくとも1つの1から4個のヌクレオチドの突出部を末端に有する、49ヌクレオチド長未満、好ましくは19から25ヌクレオチドの小さなdsRNAが、哺乳動物中でRNAiを媒介する上で最も有効であることが最近確定された。米国特許公開20040038921,Kreutzer et al.,上記;米国特許公開20040229266,Tuschl et al.,上記を参照されたい。このようなdsRNAの構築及びインビボで標的タンパク質の発現を停止させるための医薬調製物におけるそれらの使用は、このような公報に詳しく記載されている。
【0215】
哺乳動物中で標的とされるべき遺伝子の配列が公知であれば、例えば、21から23ヌクレオチドのRNAを作製し、ヒト又は他の霊長類細胞などの哺乳動物細胞中でRNAiを媒介する能力に関して検査することができる。所望であれば、インビボでのそれらの有効性をさらに評価するために、RNAiを媒介することが示された21から23ヌクレオチドのRNA分子を適切な動物モデル中で検査することができる。公知の標的部位、例えば、他の核酸分子、例えばリボザイム若しくはアンチセンスを用いた研究に基づいて有効な標的部位であることが決定された標的部位、又は変異若しくは欠失を含有する部位など、疾病又は症状と関連することが知られている標的は、これらの部位を標的とするsiRNA分子を設計するためにも使用することが可能である。
【0216】
あるいは、有効なdsRNAの配列は、標的部位に対する目的の標的mRNAをスクリーニングして、例えば、コンピュータ折り畳みアルゴリズムを使用することによって、合理的に設計/予測することが可能である。標的配列は、特注のPerlスクリプト又はOligo、MacVector若しくはGCG Wisconsin Packageなどの市販の配列分析プログラムを用いて、特定長の全ての断片又は部分配列、例えば23ヌクレオチド断片のリストへ、コンピュータシミュレーションで解析することができる。
【0217】
何れの部位が標的RNA配列内の最も適切な標的部位であるかを決定するために、様々なパラメータを使用することができる。これらのパラメータには、二次若しくは三次RNA構造、標的配列のヌクレオチド塩基組成、標的配列の様々な領域間の相同性の程度又はRNA転写物内の標的配列の相対的位置が含まれるが、これらに限定されるものではない。これらの決定に基づいて、例えば、インビトロRNA切断アッセイ、細胞培養又は動物モデルを使用することによって、有効性に関してsiRNA分子をスクリーニングするために、RNA転写物内の標的部位のあらゆる数を選択することができる。例えば、米国特許公開20030170891、2003年9月11日を参照されたい。「McSwiggen J. An algorithm for identifying and selecting RNAi target sites」も、最近記載された。米国特許公開20040236517,“Selection of Target Sites for Antisense Attack of RNA”2004年11月25日、Drlica et alを参照されたい。
【0218】
一般に使用される遺伝子導入技術には、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン、電気穿孔及び微小注入及びウイルス法が含まれる(Graham et al.(1973)Virol.52:456;McCutchan et al.,(1968),J.Natl.Cancer Inst.41:351;Chu et al.(1987),Nucl.Acids Res.15:1311;Fraley et al.(1980),J.Biol.Chem.255:10431;Capecchi(1980),Cell22:479)。また、DNAは、陽イオン性リポソームを用いて細胞中に導入され得る(Feigner et al.(1987),Proc.Natl.Acad.Sci USA 84:7413)。市販の陽イオン性脂質製剤には、Tfx 50(Promega)又はLipofectamin 200(Life Technologies)が含まれる。あるいは、dsRNAを細胞に送達し、RNAiを媒介させるために、ウイルスベクターを使用し得る。米国特許公開20040023390,“siRNA-mediated Gene Silencing with Viral Vectors,”Feb. 4,2004,Davidson et al.を参照されたい。
【0219】
哺乳動物細胞中でのRNAiのための形質移入及びベクター/発現系は市販されており、多数記載されている。例えば、Dharmacon,Inc.,DharmaFECTM系;Promega,Inc.,siSTRIKETMU6 Hairpin系を参照されたい。Gou et al.(2003)FEBS.548,113-118;Sui,G.et al.A DNA vector-based RNAi technology to suppress gene expression in mammalian cells(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.99,5515-5520;Yu et al.(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.99,6047-6052;Paul,C. et al.(2002)Nature Biotechnology 19,505-508;McManus et al.(2002)RNA 8,842-850も参照されたい。
【0220】
次いで、調製されたdsRNA分子を用いた、哺乳動物中でのsiRNA干渉は、dsRNAを含む医薬調製物を哺乳動物へ投与することによって実施し得る。医薬組成物は、標的遺伝子の発現を阻害するのに十分な投薬量で投与される。dsRNAは、典型的には、5mgdsRNA/kg体重/日未満の投薬量で投与することができ、標的遺伝子の発現を阻害し又は完全に抑制するのに十分である。一般に、dsRNAの適切な用量は、0.01から2.5mg/kgレシピエント体重/日の範囲、好ましくは、0.1から200μg/kg体重/日、より好ましくは0.1から100μg/kg体重/日の範囲、さらに好ましくは1.0から50μg/kg体重/日の範囲、最も好ましくは1.0から25μg/kg体重/日の範囲である。dsRNAを含む医薬組成物は、一日一回投与され、又は、例えば、本分野で周知の徐放製剤を用いて、複数の亜用量で投与される。このような医薬組成物の調製及び投与は、以下でさらに記載されているように、標準的な技術に従って実施され得る。
【0221】
次いで、上述のように、このようなdsRNAの治療的有効量を含む医薬調製物を調製し、例えば、腫瘍への直接的注射を介して、SLC34A2-ROS融合タンパク質又は切断されたROSキナーゼポリペプチドを発現する癌を有するヒト対象に前記調製物を投与することによって、癌中でのROS発現及び活性を阻害するために、このようなdsRNAを使用し得る。siRNA阻害剤を用いて、VEGFR及びEGFRなどの他の受容体チロシンキナーゼの類似の阻害が、最近記載された。米国特許公開20040209832,October 21,2004,McSwiggen et .al.,;米国特許公開20030170891 ,September 11 ,2003,McSwiggen;米国特許公開20040175703,September 9,2004,Kreutzer et al.を参照されたい。
【0222】
治療用組成物;投与。
【0223】
本発明の方法の実施において有用なROSキナーゼ阻害治療用組成物は、経口又は非経口経路(静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、経皮、気道(エアロゾル)、直腸、膣及び局所(口内及び舌下を含む。)投与を含む。)を含む(但し、これらに限定されない。)本分野で公知の何れの手段によっても、哺乳動物に投与され得る。
【0224】
経口投与に関しては、ROS阻害治療薬は、一般に、錠剤又はカプセルの形態で、粉末若しくは顆粒として、又は水性溶液若しくは懸濁液として与えられる。経口で使用するための錠剤は、不活性希釈剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、甘味剤、芳香剤、着色剤及び防腐剤などの医薬として許容される賦形剤と混合された活性成分を含み得る。適切な不活性希釈剤には、炭酸ナトリウム及びカルシウム、リン酸ナトリウム及びカルシウム並びにラクトースが含まれるのに対して、コーンスターチ及びアルギン酸は適切な崩壊剤である。結合剤には、デンプン及びゼラチンが含まれ得るのに対して、存在する場合、潤滑剤は、一般に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクである。所望であれば、胃腸管中での吸収を遅延させるために、錠剤は、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの材料で被覆され得る。
【0225】
経口で使用するためのカプセルには、活性成分が固体希釈剤と混合されている硬質ゼラチンカプセル剤、及び活性成分が、水若しくは落花生油、流動パラフィン若しくはオリーブオイルなどの油と混合されている軟質ゼラチンカプセルが含まれる。筋肉内、腹腔内、皮下及び静脈内での使用に関しては、本発明の医薬組成物は、一般に、適切なpH及び等張性になるように緩衝化された無菌水溶液又は懸濁液中に与えられる。適切な水性ビヒクルには、リンゲル溶液及び等張塩化ナトリウムが含まれる。担体は、専ら水性緩衝液からなり得る(「専ら」とは、ROS阻害治療薬の取り込みに影響を与え、又はROS阻害治療薬の取り込みを媒介し得る補助剤又は封入物質が存在しないことを意味する。)。このような物質には、例えば、以下に記載されているように、リポソーム又はキャプシドなどのミセル状構造が含まれる。水性懸濁液には、セルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン及びトラガカントゴムなどの懸濁剤並びにレシチンなどの湿潤剤が含まれ得る。水性懸濁液のための適切な防腐剤には、p-ヒドロキシ安息香酸エチル及びn-プロピルが含まれる。
【0226】
ROSキナーゼ阻害治療用組成物には、インプラント及び微小封入された送達系を含む徐放製剤など、身体からの急速な排除に対して治療薬(例えば、dsRNA化合物)を保護するための封入された製剤も含まれ得る。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸などの生物分解可能な生体適合性ポリマーを使用することが可能である。このような製剤の調製方法は、当業者に自明である。材料は、Alza Corporation及びNova Pharmaceuticals,Inc.から市販されている。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いて、感染細胞に標的化されるリポソームを含む。)も、医薬として許容される担体として使用することが可能である。これらは、例えば、米国特許4,522,811;PCT公開WO91/06309;及び欧州特許公開EP-A-43075に記載されているように、当業者に公知の方法に従って調製することが可能である。封入された製剤は、ウイルスのコートタンパク質を含み得る。ウイルスのコートタンパク質は、ポリオーマウイルスなどのウイルスから誘導され得、若しくはウイルスに付随し得、又は部分的に若しくは完全に人工であり得る。例えば、コートタンパク質は、ポリオーマウイルスのウイルスタンパク質1及び/又はウイルスタンパク質2又はこれらの誘導体であり得る。
【0227】
ROS阻害組成物は、リポソームなど、対象に投与するための送達ビヒクル、担体及び希釈剤及びこれらの塩も含むことができ、及び/又は医薬として許容される製剤中に存在し得る。例えば、核酸分子の送達方法は、Akhtar et al.,1992,Trends Cell Bio.,2,139;DELIVERY STRATEGIES FOR ANTISENSE OLIGONUCLEOTIDE THERAPEUTICS,ed. Akbtar,1995,Maurer et al.,1999,Mol.Membr.Biol.,16,129-140;Hofland and Huang,1999,Handb.Exp.Pharmacol.,137,165-192;and Lee et al.,2000,ACS Symp.Ser.,752,184-192に記載されている。Beigelman et al.,米国特許6,395,713及びSullivan et al.,PCTWO 94/02595は、さらに、核酸分子を送達するための一般的な方法を記載している。これらのプロトコールは、実質的にあらゆる核酸分子の送達のために使用することが可能である。
【0228】
ROS阻害治療薬は、リポソーム中への封入、イオン泳動、又はヒドロゲル、シクロデキストリン、生分解性ナノ粒子及び生物接着性小球体などの他のビヒクル中への取り込み又はタンパク質性ベクターなど(但し、これらに限定されない。)、当業者に公知の様々な方法によって、哺乳動物腫瘍へ投与することが可能である(O’Hare and Normand,国際PCT公開 WO00/53722)。あるいは、治療薬/ビヒクルの組み合わせは、直接的な注射によって、又は注入ポンプの使用によって、局所的に送達される。組成物の直接注射(皮下、筋肉内又は皮内かどうかを問わない。)は、標準的な針と注射器の方法を用いて、又は「Conry et al.,1999,Clin.Cancer Res.,5,2330-2337」及び「Barry et al.,国際PCT公開WO99/31262」に記載されているものなど無針技術によって実施することが可能である。
【0229】
ROSキナーゼ阻害治療薬の医薬として許容される製剤は、上記化合物の塩、例えば、酸付加塩、例えば、塩酸、臭化水素酸、酢酸及びベンゼンスルホン酸の塩を含む。薬理学的組成物又は製剤は、細胞又は患者(例えばヒトを含む。)内への投与(例えば、全身投与)に適した形態の組成物又は製剤を表す。適切な形態は、一つには、用途又は進入経路、例えば、経口、経皮又は注射に依存する。このような形態は、組成物又は製剤が標的細胞に到達するのを妨げるべきでない。例えば、血流中に注射される薬理学的組成物は可溶性であるべきである。他の要因が本分野において公知であり、組成物又は製剤がその効果を発揮するのを妨げる毒性及び形態などの考慮が含まれる。
【0230】
全身的な吸収(すなわち、全身的な吸収又は血流中への薬物の蓄積に続く、全身にわたる分配)をもたらす投与経路が望ましく、静脈内、皮下、腹腔内、吸入、経口、肺内及び筋肉内が含まれるが、これらに限定されない。これらの投与経路のそれぞれが、ROS阻害治療薬を接近可能な罹病組織又は腫瘍に曝露させる。循環中への薬物の進入速度は、分子量又はサイズの関数であることが示されている。本発明の化合物を含むリポソーム又は他の薬物担体の使用は、例えば、網様内皮系(RES)の組織など、ある種の組織の種類に薬物を局所化できる可能性を秘めている。リンパ球及びマクロファージなどの細胞の表面との薬物の会合を促進させることができるリポソーム製剤も有用である。このアプローチは、癌細胞などの異常な細胞のマクロファージ及びリンパ球免疫認識の特異性を活用することによって、標的細胞への薬物の強化された送達を提供することが可能である。
【0231】
「医薬として許容される製剤」とは、本発明の核酸分子の所望の活性に最も適した身体の位置に、本発明の核酸分子を効果的に分布させることが可能な組成物又は製剤を意味する。本発明の核酸分子を加えた製剤に適した因子の非限定的な例には、中枢神経系内への薬物の進入を強化することができるP-糖タンパク質阻害剤(PluronicP85など);(Jolliet-Riant and Tillement,1999,Fundam.Clin.Pharmacol.,13,16-26);脳内植え込み後の徐放送達のためのポリ(DL-ラクチド-コグリコリド)小球体などの生分解性ポリマー(Emerich et al,1999,Cell Transplant,8,47-58)(Alkermes,Inc.Cambridge,Mass.)並びに血液脳関門を横切って薬物を送達することができ、及び神経細胞の取り込み機構を変化させることができるポリブチルシアノアクリラートから作製されたものなど、搭載されたナノ粒子(Prog Neuro-psychopharmacol Biol Psychiatry,23,941-949,1999)が含まれる。本発明の方法において有用なROS阻害化合物に対する送達戦略の他の非限定的な例には、Boado et at.,1998,J.Pharm.Sci.,87,1308-1315;Tyler et al.,1999,FEBS Lett.,421,280-284;Pardridge et al.,1995,PNAS USA,92,5592-5596;Boado,1995,Adv.Drug Delivery Rev.,15,73-107;Aldrian-Herrada et al.,1998,Nucleic Acids Res.,26,4910-4916;及びTyler et al.,1999,PNAS USA.,96,7053-7058に記載されている材料が含まれる。
【0232】
ポリ(エチレングリコール)脂質を含有する表面修飾されたリポソーム(PEG修飾された若しくは長時間循環するリポソーム又はステルスリポソーム)を含む治療用組成物も、本発明の方法において適切に使用され得る。これらの製剤は、標的組織中での薬物の蓄積を増加させるための方法を与える。薬物担体のこのクラスは、単核貪食作用系(MPS又はRES)によるオプソニン化及び除去に耐えることにより、封入された薬物に対して、より長い血液循環時間及び強化された組織曝露を可能にする(Lasic et al.Chem.Rev.1995,95,2601-2627;Ishiwata et al.,Chem.Pharm.Bull.1995,43,1005-1011)。このようなリポソームは、おそらく、新血管新生が生じた標的組織中への血管外遊走と捕捉によって、腫瘍中に選択的に蓄積することが示されている(Lasic et al.,Science 1995,267,1275-1276;Oku et al.,1995,Biochim.Biophys.Acta,1238,86-90)。長時間循環するリポソームは、とりわけ、MPSの組織中に蓄積することが知られている慣用の陽イオン性リポソームと比べて、DNA及びRNAの薬物動態学及び薬力学を強化する(Liu et al.,J.Biol.Chem.1995,42,24864-24870;Choi et al.,国際PCT公開WO96/10391;Ansell et al.,国際PCT公開WO96/10390;Holland et al.,国際PCT公開WO96/10392)。長時間循環するリポソームは、肝臓及び脾臓などの代謝的に攻撃的なMPS組織中への蓄積を回避する能力に基づいて、陽イオン性リポソームに比べて、より大きな程度で、薬物をヌクレアーゼ分解から保護する可能性もある。
【0233】
治療用組成物は、医薬として許容される担体又は希釈剤中に、所望の化合物の医薬的有効量を含み得る。治療用途に対して許容される担体又は希釈剤は本分野において周知であり、例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro edit.1985)に記載されている。例えば、防腐剤、安定化剤、色素及び芳香剤を与えることができる。これらには、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸及びp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが含まれる。さらに、抗酸化剤及び懸濁剤を使用することが可能である。
【0234】
医薬的有効量とは、疾病状態を予防し、発症を抑制し、又は治療する(症候をある程度、好ましくは症候の全てを緩和する)ために必要とされる用量である。医薬的有効量は、疾病の種類、使用される組成物、投与経路、治療されている哺乳動物の種類、検討されている特定の哺乳動物の物理的特徴、同時に行われている薬物療法及び医学分野の当業者が認識する他の因子に依存する。一般に、負に帯電したポリマーの効力に応じて、活性成分の0.1mg/kgと100mg/kg体重/日の間の量が投与される。
【0235】
上記症状の治療において、約0.1mgから約140mg/kg体重/日までの桁の投薬レベルが、上記症状の治療において有用である(約0.5mgから約7g/患者/日)。単一の剤形を生成するために担体材料と組み合わせることが可能な活性成分の量は、治療される宿主及び具体的な投与様式に応じて変動する。投薬単位形態は、一般に、活性成分の約1mgから約500mgを含有する。具体的な患者に対する具体的な投薬レベルは、使用されている具体的化合物の活性、年齢、体重、一般的な健康、性別、食事、投与の時間、投与の経路、及び排泄の速度、薬物の組み合わせ及び治療を行っている具体的な病気の重篤度など様々な因子に依存することが理解される。
【0236】
ヒト以外の動物に投与する場合、動物の餌又は飲料水に組成物を添加することも可能である。その食餌とともに組成物の治療的に適切な量で動物が摂取するように、動物の餌及び飲料水組成物を製剤化することが都合よい場合があり得る。餌又は飲料水に添加するためのプレミックスとして組成物を与えることが都合よい場合もあり得る。
【0237】
本発明の実施において有用なROS阻害治療薬は、上記のような単一の化合物又は複数の化合物の組み合わせ(阻害剤の同一クラス(すなわち、抗体阻害剤)に属するか、又は異なるクラス(すなわち、抗体阻害剤と小分子阻害剤)に属するかを問わない。)を含み得る。化合物のこのような組み合わせは、融合タンパク質を発現する癌の進行を阻害する上で総合的な治療効果を増加させ得る。例えば、治療組成物は、STI-571(Gleevec(R))単独又はROS活性を標的とする他のGleevec(R)類縁体との組み合わせ及び/又はEGFRの小分子阻害剤(TarcevaTM又はIressaTMなど)などの小分子阻害剤であり得る。治療組成物は、1つ又はそれ以上の標的化される阻害剤に加えて、1つ又はそれ以上の非特異的化学療法剤も含み得る。このような組み合わせは、最近、多くの癌で相乗的腫瘍死滅効果を与えることが示されている。ROS活性及びインビボでの腫瘍増殖を阻害する上でのこのような組み合わせの有効性は、以下に記載されているように評価することができる。
【0238】
変異体ROSキナーゼ阻害化合物の同定
本発明は、一つには、化合物が癌の中でSLC34A2-ROS融合ポリペプチドの活性を阻害するかどうかを決定することによって、化合物がSLC34A2-ROS転座及び/又は融合ポリペプチドによって特徴付けられる癌の進行を阻害するかどうかを決定する方法も提供する。幾つかの好ましい実施形態において、ROSの活性の阻害は、骨髄、血液又は腫瘍から得られる細胞を含む生物学的試料を調べることによって測定される。別の好ましい実施形態において、ROSの活性の阻害は、少なくとも1つの本発明の変異体ROSポリヌクレオチド又はポリペプチド特異的試薬を用いて測定される。
【0239】
検査された化合物は、上記治療薬又は組成物のあらゆる種類であり得る。化合物の有効性を測定するための方法は、インビトロ及びインビボの何れにおいても、本分野において十分に確立されており、公知である。例えば、組成物は、ROSキナーゼが活性化されている細胞又は細胞抽出物を用いてインビトロでROSを阻害する能力に関して検査され得る。(EGFR又はPDGFRなどの他の標的ではなく)ROSに対する化合物の特異性を検査するために、化合物の群を使用し得る。
【0240】
使用され得る薬物スクリーニングのための別の技術は、公開されたPCT出願W084/03564に記載されているように、目的のタンパク質に対して適切な結合親和性を有する化合物の高情報量スクリーニングを提供する。この方法において、変異体ROSポリペプチドに適用される場合、異なる小さな検査化合物の多数が、プラスチックのピン又は他の何らかの表面などの固体支持体上に合成される。検査化合物を、変異体ROSポリペプチド又はその断片と反応させ、洗浄する。次いで、結合された変異体ポリペプチド(例えば、SLC34A2-ROS融合ポリペプチド)は、本分野で周知の方法によって検出される。精製された変異体ROSポリペプチドは、上記薬物スクリーニング技術において使用するためのプレート上に直接コートすることも可能である。あるいは、ペプチドを捕捉し、ペプチドを固体支持体上に固定化するために、非中和抗体を使用することができる。
【0241】
インビトロでROS活性の有効な阻害剤であることが見出された化合物は、次いで、例えば、SLC34A2-ROS融合タンパク質によって引き起こされるヒトNSCLC腫瘍を有する哺乳動物異種移植片を用いて、SLC34A2-ROS融合ポリペプチドを発現する癌の進行を阻害する能力に関して検査され得る。この操作において、SLC34A2-ROS融合タンパク質によって誘導されることが知られている細胞株が、マウスの皮下に配置される。次いで、細胞は、視覚的にモニターされ得る腫瘍塊へと増殖する。次いで、マウスは薬物で処理され得る。腫瘍サイズに対する薬物処理の効果は、外部から観察し得る。次いで、マウスを屠殺し、IHC及びWesternブロットによる分析のために腫瘍を取り出す。同様に、変異体ROSキナーゼを発現する血液腫瘍における薬物応答を調べるために、標準的な方法によって、哺乳動物の骨髄移植を調製し得る。このように、薬物の効果は、最も患者に似通った生物学的設定において観察され得る。腫瘍細胞又は周囲の間質細胞中でのシグナル伝達を変化させる薬物の能力は、リン酸化特異的抗体を用いた分析によって決定され得る。細胞死又は細胞増殖の阻害を誘導する上での薬物の有効性は、切断されたカスパーゼ3及び切断されたPARPなどのアポトーシス特異的マーカーを用いた分析によっても観察され得る。
【0242】
このような化合物の毒性及び治療的効力は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的な用量)及びED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定するために、細胞培養又は実験動物中での標準的な医薬操作によって測定することができる。毒性効果と治療効果の間の用量比が治療指数であり、比LD50/ED50として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。
【0243】
上及び下で引用されている全ての教示は、参照により本明細書に組み込まれる。以下の実施例は、本発明をさらに例示するためにのみ記載されており、本明細書に添付されている特許請求の範囲の記載を除き、その範囲を限定することを意図するものではない。本発明は、当業者に自明な、本明細書中に教示されている方法の修飾及び変形を包含する。
【実施例0244】
包括的ホスホペプチドプロファイリングによるNSCLC細胞株中でのROSキナーゼ活性の同定
最近記載された強力な単離技術と複雑な混合物から得られる修飾ペプチドの質量分析による性質決定を用いて(「IAP」技術、Rush et al,上記参照)、HCC78を含む幾つかのヒトNSCLC細胞株中でのキナーゼ活性化の包括的なリン酸化特性を調べた。IAP技術は、NSCLC細胞株の抽出物から得られるホスホチロシン含有ペプチドを単離し、その後、性質決定するために、ホスホチロシン特異的抗体を用いて行った(CELL SIGNALING TECHNOLOGY,INC.,Beverly,MA,2003/04 Cat,#9411)。
【0245】
具体的には、本疾病の新規誘導物質を同定するために、NSCLC細胞株中での活性化されたチロシンキナーゼの同定を容易にするために、IAPアプローチが使用された。
【0246】
細胞培養。
【0247】
HCC78細胞は、DSMZ(the German National Resource Centre for Biological Material)から取得し、10%ウシ胎児血清(FBS)(Sigma)を加えたRPMI-1640培地(Invitrogen)中で増殖させた。
【0248】
ホスホペプチドの免疫沈降。
【0249】
1.25×108細胞/mLで、尿素溶解緩衝液(20mMHEPESpH8.0、9M尿素、1mMバナジン酸ナトリウム、2.5mMピロリン酸ナトリウム、1mMβ-グリセロリン酸)中で計2×108個の細胞を溶解し、音波処理した。音波処理された溶解液を、20,000×gでの遠心によって清浄化し、以前に記載されているとおりに、タンパク質を還元及びアルキル化した(Rush et al.,Nat.Biotechnol.23(1):94-101(2005)を参照)。2Mの最終尿素濃度になるように、20mMHEPESpH8.0で試料を希釈した。清澄化された溶解液を、1:100v/vで、トリプシン(0.001MHCL中、1mg/mL)に添加した。室温で、試料を一晩消化した。
【0250】
消化後、1%TFAの最終濃度になるように、溶解液を酸性化した。以前に記載されているようにSep-PakC18カラムを用いて、ペプチド精製を実施した(Rush et al.,上記参照)。精製後、全ての溶出液(0.1%TFA中、8%、12%、15%、18%、22%、25%、30%、35%及び40%アセトニトリル)を合わせて、凍結乾燥した。乾燥されたペプチドを、1.4mLMOPS緩衝液(50mMMOPS/NaOHpH7.2、10mMNa2HPO4、50mMNaCl)中に再懸濁し、12,000×gで10分間、遠心によって不溶性物質を除去した。
【0251】
腹水から得られたホスホチロシンモノクローナル抗体P-Tyr-100(Cell Signaling Technology)を、4mg/mLビーズで、一晩4℃で、プロテインGアガロースビーズ(Roche)に非共有結合させた。結合後、PBSで2回、MOPS緩衝液で3回、抗体-樹脂を洗浄した。可溶化されたペプチド画分に、MOPSIP緩衝液中の1:1スラリーとして、固定化された抗体(40μL、160μg)を添加し、混合物を4℃で一晩温置した。固定化された抗体ビーズを、MOPS緩衝液で3回、ddH2Oで2回洗浄した。それぞれ20分間、0.1%TFAの40μLとの温置によって、ペプチドをビーズから2回溶出し、画分を合わせた。
【0252】
LC-MS/MS質量分析による分析
IP溶出液(40μL)中のペプチドを濃縮し、StopandGo抽出チップ(StageTips)を用いて、溶出された抗体から分離した(Rappsilber et al.,Anal.Chem.,75(3):663-70(2003)を参照されたい。)。60%MeCN、0.1%TFAの1μLで、0.4%酢酸/0.005%ヘプタフルオロ酪酸(HFBA)7.6μL中に、ミクロカラムからペプチドを溶出した。不活性な試料注射バルブ(Dionex)を備えたFamosオートサンプラーを用いて、MagicC18AQ逆相樹脂(Michrom Bioresources)が充填された10cm×75μmPicoFritキャピラリーカラム(New Objective)上に、試料を搭載した。280nL/分で送達された0.4%酢酸、0.005%HFBA中のアセトニトリルの45分線形グラジエントを用いて、カラムを展開した(Ultimate、Dionex)。
【0253】
トップフォー法(top-four method)、1の動的排除反復カウント(dynamic exclusion repeat count)及び0.5分の反復時間を使用し、LCQDecaXPPlusイオン捕捉質量分析装置(ThermoFinnigan)を用いて、データ依存的様式で、直列質量スペクトルを集めた。
【0254】
データベース解析と割り当て。
【0255】
(BioWorks3.0の一部として供給されたSequest Browser package(v.27,rev.12)中の)TurboSequest(ThermoFinnigan)を用いて、MS/MSスペクトルを評価した。以下の設定で、Sequest BrowserプログラムCreateDtaを用いて、個別のMS/MSスペクトルを生データファイルから抽出した。最低分子量、700;最高分子量、4,500;イオンの最低数20;最低TIC、4×105;及び前駆体電荷状態、指定せず。試料注入前の生データファイルの開始から溶出グラジエントの終了まで、スペクトルを抽出した。Sequest分析のためのMS/MSスペクトルをさらに選択するために、IonQuest及びVuDtaプログラムは使用しなかった。MS/MSスペクトルは、以下のTurboSequestパラメータを用いて評価した。ペプチド質量許容度、2.5;断片イオン許容度、0.0;修飾当りの異なるアミノ酸の最大数、4;マスタイプペアレント(mass type parent)、平均;マスタイプ断片、平均;内部切断部位の最大数、10;相関解析では、b及びyイオン由来の水及びアンモニアの中性的喪失を考慮した。エラスターゼ消化物から収集されたスペクトルを除き、タンパク分解酵素は指定された。
【0256】
動的修飾として酸化されたメチオニン(M+16)及びリン酸化(Y+80)を可能し、27,175のタンパク質を含有する、2004年8月24日に公開されたNCBIヒトデータベースに対して検索を実施した。
【0257】
プロテオミクス研究では、タンパク質が実際に試料中に存在することを示すために、専ら1つの実験結果での単一ペプチドの観察に基づいて、タンパク質の同定を検証することが望ましい。これによって、ペプチドの割り当てを検証するための統計学的方法(これは、まだ一般的に受け入れられていない。)並びにタンパク質及びペプチドの同定結果を公開するための指針が開発され(Carr et al.,Mol.Cell Proteomics3:531-533(2004)を参照)、本実施例では本指針に従った。しかしながら、免疫親和性戦略は、リン酸化されたペプチドをリン酸化されていないペプチドから分離し、多くのリン酸化されたタンパク質はチロシンリン酸化された部位を1つだけ有するので、1つのタンパク質から唯一つのホスホペプチドを観察することは一般的な結果である。
【0258】
この理由のため、ホスホペプチドの割り当てを検証するためにさらなる基準を使用することが適切である。これらのさらなる基準の何かに合致すれば、割り当ては正しいと推定される。(i)MS/MSスペクトルは荷電状態とともに顕著に変化するので、同じ配列が異なる荷電状態を有する同時溶出イオンに割り当てられる;(ii)不完全なタンパク分解から得られた配列の重複又はトリプシン以外のプロテアーゼの使用のために、2以上のペプチド配列環境(context)中に当該部位が見出される;(iii)均一であるが同一でないタンパク質のイソフォームのために、2個以上のペプチド配列環境中に当該部位が見出される;(iv)種間の均一であるが同一でないタンパク質のために、2個以上のペプチド配列環境中に当該部位が見出される;及び(v)イオン捕捉質量分析装置は高度に再現性のあるMS/MSスペクトルを生成するので、割り当てられた配列に対応する合成ホスホペプチドのMS/MS分析によって検証された部位。最後の基準は、目的の新規部位の割り当てを確認するために一般的に使用されている。
【0259】
Sequestによって作製された全てのスペクトル及び全ての配列割り当は、リレーショナルデータベース中に取り込まれた。割り当てられた配列は、保守的な二段階プロセスに従って受容され又は拒絶された。第一の工程では、高スコアの配列割り当てのサブセットは、+1の荷電状態に関しては少なくとも1.5、+2に関しては2.2、+3に関しては3.3のXCorr値に対してフィルタリングを行うことによって選択し、10の最大RSp値を可能とした。このサブセット中の割り当ては、以下の基準の何れかを充足すれば拒絶された。(i)スペクトルが、a、b若しくはyイオンとして、a、b若しくはyイオンからの水若しくはアンモニアの中性的喪失から生じたイオンとして、又は多重プロトン化されたイオンとして、割り当てられた配列にマッピングすることができない少なくとも1つの主ピーク(スペクトル中の最も高い強度のイオンの少なくとも10%の強度)を含有した;(ii)スペクトルが、少なくとも6つの分断されていない残基に等しいb若しくはyイオンの系列を含有しなかった;又は(iii)本発明者らが実施した全ての研究において、少なくとも5回、配列が観察されなかった(不完全なタンパク分解又はトリプシン以外のプロテアーゼの使用による重複配列を除く。)。第二の段階では、低スコアスペクトルが、真の参照ライブラリー検索戦略を模倣する別の研究で収集された高スコアスペクトルへの類似性の高い程度を示した場合には、閾値を下回るスコアを有する割り当てが受容された。割り当てられた配列の最終リストを支持する全てのスペクトル(ここには示さず。)は、信頼性を確立するために、少なくとも3人の科学者によって調査された。
【0260】
先述のIAP分析によって、454の非重複ホスホチロシン含有ペプチド、395のホスホチロシン部位及び240のチロシンリン酸化されたタンパク質がHCC78細胞から同定され、これらの多くは新規である(データは示さず。)。チロシンリン酸化されたキナーゼのうち、ROSキナーゼを含む検出された幾つかのキナーゼは、他のNSCLC細胞株中でのMS分析によって、通常検出されない(未公開データ)。
ウェスタンブロットは、ROS融合タンパク質がチロシンリン酸化されていることを確認する。ホスホチロシン抗体によって、HCC78細胞からのタンパク質溶解液を免疫沈降し、全ROS抗体を用いてイムノブロッティングが行われた。ROS抗体による全可溶化液から得られたものと同じバンドがpY-IPから検出され、IPedバンドは僅かに遅い泳動を有しており、同じく、タンパク質のリン酸化を示唆している。