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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023039995
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】軟骨細胞の品質保証
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/32 20150101AFI20230314BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230314BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230314BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20230314BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230314BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230314BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20230314BHJP
【FI】
A61K35/32
A61P19/02
A61L27/38 112
C12N5/077
C12Q1/02
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199070
(22)【出願日】2022-12-14
(62)【分割の表示】P 2019568219の分割
【原出願日】2018-06-29
(31)【優先権主張番号】1750849-0
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(71)【出願人】
【識別番号】519050794
【氏名又は名称】シンテラ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ルンドグレン アーケランド,エヴィー
(72)【発明者】
【氏名】ケミラスカ マソウミ,カタルジーナ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高品質を有する軟骨細胞組成物、ならびに軟骨細胞組成物の品質保証および品質管理のための方法を提供する。
【解決手段】軟骨細胞を含む組成物の純度、品質、軟骨細胞同一性の度合い、軟骨細胞の効能、および/または軟骨細胞の表現型の度合いを計測するため、そして高品質の軟骨細胞の集団を単離および濃縮するため、ならびに高品質の軟骨細胞の培養および増大(expanding)を制御するために用いられる、軟骨細胞上でのインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現に基づく方法に関する。本発明は、軟骨細胞を含む組成物にも関する。
【選択図】図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離および培養された軟骨細胞を含む組成物であって、前記組成物は、少なくとも4対1のインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有する、組成物。
【請求項2】
前記インテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比が、少なくとも4対1、例えば少なくとも5対1など、少なくとも10対1など、少なくとも15対1など、少なくとも20対1など、少なくとも25対1など、少なくとも30対1など、少なくとも35対1など、少なくとも40対1など、少なくとも45対1など、少なくとも50対1など、少なくとも60対1など、少なくとも70対1など、少なくとも80対1など、少なくとも90対1など、少なくとも100対1など、少なくとも150対1など、少なくとも200対1などである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、分化された軟骨細胞を含み、前記分化された軟骨細胞が、インテグリンアルファ10を発現し、インテグリンアルファ11を実質的に発現せず、かつ/または
前記組成物が、部分的に脱分化された軟骨細胞を含み、前記部分的に脱分化された軟骨細胞が、インテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の両方を発現する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、軟骨組織調製物、軟骨細胞を含む組織調製物、単層軟骨細胞の細胞培養物、および三次元軟骨細胞の細胞培養物からなる群から選択され、前記三次元軟骨細胞の細胞培養物が、スフェロイド、ペレット、細胞シートまたは足場に培養された軟骨細胞であり、かつ/または
前記組成物が、軟骨組織、軟骨細胞を含む組織、単層軟骨細胞の細胞培養物および三次元軟骨細胞の細胞培養物に由来し、前記三次元軟骨細胞の細胞培養物が、スフェロイド、ペレット、細胞シートまたは足場に培養された軟骨細胞である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、混入細胞を実質的に含まず、前記混入細胞が、インテグリンアルファ11を発現するがインテグリン10を発現せず、かつ/または
前記組成物が、全組成物または細胞集団のうち、少なくとも80%、例えば少なくとも85%など、少なくとも90%など、少なくとも95%など、少なくとも98%など、少なくとも99%など、100%などの軟骨細胞を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記軟骨細胞が、CEP-68/CRTAC1、GP-39軟骨糖タンパク質、CD44、CD166、コラーゲンIIA、コラーゲンIIB、アグレカン、アリザリンレッド(neg)、アルシアンブルー、CRTAC1、CEP-68、CD146、CD90、CD49e、CD63およびSca-1からなる群から選択される二次マーカーをさらに発現する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
単離および培養された軟骨細胞を含む組成物の品質を決定するための方法であって、前記品質決定が、以下の基準:
・前記軟骨細胞の同一性、
・前記軟骨細胞の分化状態、
・前記軟骨細胞の純度、および
・前記軟骨細胞の効能
のうちの1つまたは複数を含み、
前記方法が、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前記組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現レベルを分析するステップと;
c)インテグリンアルファ10の発現レベルをインテグリンアルファ11の発現レベルと比較するステップと
を含み、
少なくとも4対1のインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比が、
・前記軟骨細胞組成物中の前記軟骨細胞の軟骨細胞同一性、
・前記軟骨細胞組成物中の前記軟骨細胞の分化状態、
・前記軟骨細胞組成物の純度、および/または
・前記軟骨細胞組成物の前記軟骨細胞の効能
の指標であり、それにより高品質の軟骨細胞組成物の指標となる、
方法。
【請求項8】
高品質の軟骨細胞の集団を単離および培養するための方法であって、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前記組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現を分析するステップと;
c)少なくとも4対1のインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有する軟骨細胞を濃縮し、それにより単離されかつ培養された高品質の軟骨細胞の集団を得るステップと
を含む、方法。
【請求項9】
高品質の軟骨細胞の集団を製造するための方法であって、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前記組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現を分析するステップと;
c)少なくとも4対1のインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有する軟骨細胞を増大させ(expanding)、それにより高品質の軟骨細胞の集団を製造するステップと
を含む、方法。
【請求項10】
前記インテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比が、少なくとも4対1、例えば少なくとも10対1など、少なくとも15対1など、少なくとも20対1など、少なくとも25対1など、少なくとも30対1など、少なくとも35対1など、少なくとも40対1など、少なくとも45対1など、少なくとも50対1など、少なくとも60対1など、少なくとも70対1など、少なくとも80対1など、少なくとも90対1など、少なくとも100対1など、少なくとも150対1など、少なくとも200対1などであり、かつ/または
前記インテグリンアルファ11の発現が、前記インテグリンアルファ10の発現の最大25%、例えば前記インテグリンアルファ10の発現の最大20%など、前記インテグリンアルファ10の発現の最大15%など、前記インテグリンアルファ10の発現の最大10%など、前記インテグリンアルファ10の発現の最大5%など、前記インテグリンアルファ10の発現の最大4%など、前記インテグリンアルファ10の発現の最大3%など、前記インテグリンアルファ10の発現の最大2%など、前記インテグリンアルファ10の発現の最大1%などである、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
インテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の両方の発現が、部分的に脱分化された軟骨細胞組成物の指標であり、かつ/または
インテグリンアルファ10の発現および実質的に存在しないインテグリンアルファ11の発現が、分化された軟骨細胞組成物の指標であり、かつ/または
前記軟骨細胞組成物中の最大20%の前記細胞が、インテグリンアルファ11を発現し、インテグリンアルファ10を実質的に発現しないことが、前記軟骨細胞組成物の純度の指標であり、かつ/または
前記軟骨細胞組成物中の最大20%、例えば最大15%など、最大10%など、最大5%など、最大4%など、最大3%など、最大2%など、最大1%など、最大0.5%などの前記細胞が、インテグリンアルファ11を発現し、インテグリンアルファ10を実質的に発現しないことが、前記軟骨細胞組成物の純度の指標であり、かつ/または
インテグリンアルファ11が、前記軟骨細胞組成物または集団中で実質的に発現されない、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記候補組成物が、軟骨組織調製物、軟骨細胞を含む組織調製物、単層軟骨細胞の細胞培養物、および三次元軟骨細胞の細胞培養物からなる群から選択され、前記三次元軟骨細胞の細胞培養物が、スフェロイド、ペレット、細胞シートまたは足場に培養された軟骨細胞であり、かつ/または
前記候補組成物が、軟骨組織、軟骨細胞を含む組織、単層軟骨細胞の細胞培養物および三次元軟骨細胞の細胞培養物に由来し、前記三次元軟骨細胞の細胞培養物が、スフェロイド、ペレット、細胞シートまたは足場に培養された軟骨細胞である、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記発現の分析が、遺伝子発現分析および任意の他の適切な方法からなる群から選択される方法により実行される、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
CEP-68/CRTAC1、GP-39軟骨糖タンパク質、CD44、CD166、コラーゲンIIA、コラーゲンIIB、アグレカン、アリザリンレッド(neg)、アルシアンブルー、CRTAC1、CEP-68、CD49e、CD63、CD146、CD90およびSca-1からなる群から選択される二次マーカーの発現を検出することをさらに含む、請求項7~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記インテグリンアルファ10発現の分析が、インテグリンアルファ10のmRNA発現を測定することを含み、かつ/または
前記インテグリンアルファ1発現の分析が、インテグリンアルファ11のmRNA発現を測定することを含む、請求項7~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
得られた前記軟骨細胞組成物または集団が、全細胞集団のうち、少なくとも80%、例えば少なくとも85%など、少なくとも90%など、少なくとも95%など、少なくとも98%など、少なくとも99%など、100%などの軟骨細胞を含む、請求項7~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
得られた前記軟骨細胞組成物または集団が、最大20%の混入細胞、例えば最大15%の混入細胞など、最大10%の混入細胞など、最大5%の混入細胞など、最大4%の混入細胞など、最大3%の混入細胞など、最大2%の混入細胞など、最大1%の混入細胞など、最大0.5%の混入細胞などを含み、前記混入細胞が、インテグリンアルファ11を発現するがインテグリンアルファ10を発現しない、請求項7~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
インテグリンアルファ10の発現を誘導する条件下で、軟骨細胞の組成物を育成すること、
インテグリンアルファ10を発現する細胞を選択すること、および/または
インテグリンアルファ11を発現する細胞を枯渇させること、をさらに含む、請求項7~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
a)軟骨細胞組成物を品質保証するための;
b)軟骨細胞組成物の一貫性および/もしくは再現性のモニタリングのための;
c)軟骨細胞組成物の効能を予測するための;
d)軟骨細胞組成物を工程内管理するための;
e)軟骨細胞組成物の増大の工程内管理のための;
f)軟骨細胞組成物の放出テストを実行するための;
g)軟骨細胞組成物の効能アッセイを実行するための;および/または
h)軟骨細胞組成物の臨床転帰の予測のための、
請求項7~18のいずれか1項に記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、高品質を有する軟骨細胞組成物、ならびに軟骨細胞組成物の品質保証および品質管理のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
関節のガラス軟骨への損傷は、傷害後に治癒するための本質的能力を限定する。これは、関節の変性促進と、早期発症型の骨関節炎に導く可能性がある。今日では、天然の関節軟骨を保存して関節形成術を遅らせるという要望が増えつつある。
【0003】
成人の関節軟骨細胞は、発達の最終ポイントとして完全に分化された状態に達した特有の細胞型である。軟骨基質内では、軟骨細胞が軟骨の恒常性を調節し、基質の構成要素を低ターンオーバー状態の平衡に維持する。
【0004】
軟骨細胞は、軟骨内の唯一の細胞型であり、多数の異なるインテグリンを発現する。インテグリンは、細胞-細胞および細胞-基質相互作用を媒介する膜貫通糖タンパク質の大きなファミリーである。このスーパーファミリーの全ての既知メンバーが、アルファ-およびベータ-サブユニットで構成される非共有結合で会合されたヘテロダイマーである。インテグリンアルファ10ベータ1は、軟骨細胞上の主要なコラーゲン結合インテグリンである。それは、分化された軟骨細胞により、そして軟骨形成分化能を有するMSCにより発現される。その一方でインテグリンアルファ11ベータ1は、滑膜線維芽細胞をはじめとする線維芽細胞により発現される。部分的に脱分化されて、軟骨コラーゲンII型の代わりに線維性コラーゲンI型を生成し、これにより軟骨細胞調製物の純度および品質を計測する方法を提供し得る、単層培養物中の軟骨細胞によっても、インテグリンアルファ11ベータ1は発現される。
【0005】
関節軟骨傷害の処置のための軟骨細胞に基づく細胞治療は、ガラス軟骨を修復および再吸収することを目的とした有望な方法である。
【0006】
軟骨細胞に基づく細胞治療の主要な制約は、軟骨基質を酵素により軟骨生検から取り出して軟骨細胞を単離する、という手順に関係する。この手順の間に、滑膜などの非軟骨組織の細胞が、軟骨細胞調製物に混入し(Dai et al. 2006, Stebuils et al. 2005)、それにより植込みに用いられる軟骨細胞調製物の純度および品質に影響を及ぼす場合がある。加えて軟骨細胞は多くの場合、軟骨基質から単離されると、脱分化する(Rapko et al. 2009)。これにより、コラーゲンII型からコラーゲンI型への合成の切り替えとして検出され得る特殊な軟骨細胞の特性が喪失する。したがって、軟骨細胞品質の品質管理のためのロバストな手順が求められている。
【発明の概要】
【0007】
概要
本発明者らは、細胞表面タンパク質であるインテグリンアルファ10ベータ1およびインテグリンアルファ11ベータ1の発現レベルと、単離および培養された軟骨細胞の品質との相関性を見出し、これにより軟骨細胞調製物を定義して、それらを品質保証および/または品質管理する新しい方法を見出した。
【0008】
本開示は、少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比が、高品質の軟骨細胞組成物および/または生成物の指標である、という発見に基づく。インテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現レベルは、培養条件に応じて変動するが、それらの比は、高品質の軟骨細胞組成物の予測となる。
【0009】
その上、本発明者らはまた、
・インテグリンアルファ10の発現が軟骨細胞の同一性の指標になり得ること;
・インテグリンアルファ11を伴うインテグリンアルファ10の発現が部分的に脱分化された軟骨細胞の指標になり得ること;
・インテグリンアルファ10の発現、および低いまたは実質的に存在しないインテグリンアルファ11の発現が分化された軟骨細胞の指標になり得ること;ならびに
・インテグリンアルファ11の発現、および低いまたは実質的に存在しないインテグリンアルファ10の発現が高度に脱分化された軟骨細胞、線維芽細胞様細胞および/または混入細胞をはじめとする非軟骨細胞の同一性の指標になり得ること
を見出した。
【0010】
したがって一態様において、本開示は、少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有する、軟骨細胞を含む組成物に関する。
【0011】
別の態様において、本開示は、軟骨細胞を含む組成物の品質を計測するための方法であって、該品質計測が、以下の基準:
・軟骨細胞の同一性、
・軟骨細胞の分化状態、
・軟骨細胞の純度、および
・軟骨細胞の効能
のうちの1つまたは複数を含み、
該方法が、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前述の組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現レベルを分析するステップと;
c)インテグリンアルファ10の発現レベルをインテグリンアルファ11の発現レベルに比較するステップと
を含み、
少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比が、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の軟骨細胞同一性、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の分化状態、
・軟骨細胞組成物の純度、および/または
・軟骨細胞組成物の軟骨細胞の効能
の指標であり、それにより高品質の軟骨細胞組成物の指標となる、
方法に関する。
【0012】
このため本開示は、軟骨細胞組成物を品質保証および品質管理するための方法に関する。
【0013】
さらなる態様において、本開示は、高品質の軟骨細胞の集団を単離するための方法であって、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前述の組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現を分析するステップと;
c)少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有する軟骨細胞を濃縮し、こうして高品質の軟骨細胞の単離集団を得るステップと
を含む、方法に関する。
【0014】
さらなる態様において、本開示は、高品質の軟骨細胞の集団を製造するための方法であって、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前述の組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現を分析するステップと;
c)少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有する軟骨細胞を増大させ(expanding)、こうして高品質の軟骨細胞の集団を製造するステップと
を含む、方法に関する。
【0015】
一態様において、本開示は、インテグリンアルファ10の発現を誘導することを含む、軟骨細胞を含む組成物の軟骨細胞の効能を最適化するための方法に関係する。
【0016】
一態様において、本開示は、インテグリンアルファ10の発現を誘導することを含む、軟骨細胞の増殖速度を上昇させる方法に関係する。
【0017】
一態様において、本開示は、少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有する、軟骨細胞のインビトロ細胞調製物または細胞培養物に関係する。
【0018】
一態様において、本発明は、
a)軟骨細胞組成物を品質保証するための;
b)軟骨細胞組成物の一貫性および/もしくは再現性のモニタリングのための;
c)軟骨細胞組成物および培養物の効能を予測するための;
d)軟骨細胞組成物を工程内管理するための;
e)軟骨細胞組成物の増大の工程内管理のための;
f)軟骨細胞組成物の効能アッセイを実行するための;
g)軟骨細胞組成物の放出テストを実行するための;そして/または
h)臨床転帰および/もしくは軟骨細胞組成物の予測のための、
本明細書に記載された方法の任意の1つの使用に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】2~6継代の単層で培養された、2つのヒト軟骨細胞調製物853および854でのアルファ10ベータ1発現のフローサイトメトリー分析。軟骨細胞を、ヒト血清(HS)または血小板溶解物(PL)のいずれかを含み、アスコルビン酸(A)が添加された、または添加されていない培地中で培養した。インテグリン発現は、軟骨細胞をHSのみで培養した場合に減少する。
図1B】2~6継代で、アスコルビン酸(A)が添加された、または添加されていない、ヒト血清(HS)、血小板溶解物(PL)中で培養された4つのヒト軟骨細胞調製物853、854、875および876のフローサイトメトリー分析。2継代の細胞は、HSのみで培養された。結果は、インテグリンアルファ10/インテグリンアルファ11の平均±SEM比を示す(n=2~4)。アスコルビン酸(A)の添加は、アルファ10/アルファ11比をアルファ10に傾くように変動させることに顕著かつ即時の効果を有する。この効果は、HSまたはPLの使用に関わらず明白である。
図2】ヒト血清(HS)、アスコルビン酸を含むHS(HSA)、血小板溶解物(PL)、またはアスコルビン酸を含むPL(PLA)中で培養された軟骨細胞853についての3~6継代でコンフルエントに達した細胞培養時間を示す成長速度分析。アスコルビン酸(A)およびPL、特にAの添加は、軟骨細胞増殖に顕著な効果を有した。
図3A】ヒト血清(HS)、アスコルビン酸を含むヒト血清(HSA)、またはアスコルビン酸を含む血小板溶解物(PLA)中で培養されたヒト軟骨細胞調製物853、854、875および876でのアルファ10ベータ1のフローサイトメトリー分析。インテグリンアルファ10ベータ1-(アルファ10)発現を、4つの軟骨細胞調製物の平均±SEMとして示す。これらの細胞を、図4の分化実験で用いた。
図3B】ヒト血清(HS)、アスコルビン酸を含むヒト血清(HSA)、またはアスコルビン酸を含む血小板溶解物(PLA)中で培養されたヒト軟骨細胞調製物853、854、875および876でのITGA10の遺伝子発現分析。相対的なITGA10遺伝子発現を、4つの細胞株での平均±SEMとして示す。GAPDHを、対照用のハウスキーピング遺伝子として用いた。
図4A】免疫組織化学的検査により分析された軟骨細胞ペレットの組織断片におけるコラーゲンII発現の評価スコアシステム。コラーゲンII発現の度合いを、0~5のスケールでスコア付けした。
図4B】HS中で増大され、再分化培地TIDAの存在下、1~4週間ペレット培養物中で生育された、ヒト軟骨細胞調製物853、854、875および876のコラーゲンII型(Col2)発現スコアの概要。
図4C】HSA中で増大され、再分化培地TIDAの存在下、1~4週間ペレット培養物中で生育された、ヒト軟骨細胞調製物853、854、875および876のコラーゲンII型(Col2)発現スコアの概要。
図4D】PLA中で増大され、再分化培地TIDAの存在下、1~4週間ペレット培養物中で生育された、ヒト軟骨細胞調製物853、854、875および876のコラーゲンII型(Col2)発現スコアの概要。
図5】HS中で単層に培養されたヒト軟骨細胞調製物853、854、875、876、803、811、816、842および914上でのインテグリンアルファ10ベータ1発現(フローサイトメトリー)と、ペレット培養物中で2週間後のコラーゲンII型発現(免疫組織化学的検査)の間の相関。ピアソン相関解析から、相関係数(R)0.75の高レベルの相関が実証された。はずれ値と見なされ得る試料914を除外すると、0.93のRが実現される(データは示さない)。
図6A】PLA中で単層に生育され、その後、再分化培地TIDAを含むペレット培養物中で2週間生育された、軟骨細胞調製物875でのコラーゲンII、コラーゲンIおよびインテグリンアルファ10ベータ1の免疫組織化学的分析。インテグリンアルファ10ベータ1は、コラーゲンII型と共存することが見出されたが、コラーゲンI型は、インテグリンアルファ10ベータ1が少量であるか、または存在しない、外部領域内で主に発現された。
図6B】PLA中で単層に培養され、その後、TIDAと共にペレット培養物中で2週間培養された、軟骨細胞875でのインテグリンアルファ11ベータ1(B)、インテグリンアルファ10ベータ1(C)、コラーゲンII(D)の免疫蛍光染色。核のDAPI染色が(A)に示され、異なる染色のマージ画像が(E)に示される。染色は、共焦点顕微鏡測定により視覚化した。スケールバー50μm。インテグリンアルファ10ベータ1は、コラーゲンII型と共存することが見出されたが、インテグリンアルファ11ベータ1は、コラーゲンI型の発現が見出されるペレットの外部領域中で発現される(図6A参照)。
図7A】線維芽細胞様滑膜細胞(HFLS)、軟骨細胞調製物875、HFLS-OA(骨関節炎患者からの線維芽細胞様細胞)およびヒト鼻軟骨細胞(HNC)でのインテグリンアルファ11ベータ1(X軸)のフローサイトメトリー分析。結果から、インテグリンアルファ11ベータ1が線維芽細胞様細胞上で発現されるが、軟骨細胞上では発現されないことが示される。側方散乱(SSC-A)が、Y軸上に示される。
図7B】軟骨細胞と滑膜線維芽細胞様細胞との混合物でのインテグリンアルファ11ベータ1のフローサイトメトリー分析。HNC(ヒト鼻軟骨細胞)の調製物への0、0.5%、1%、2.5%、5%、10%、25%、50%、100%HFLS-OA(骨関節炎患者のヒト線維芽細胞様軟骨細胞)の添加。結果から、インテグリンアルファ11ベータ1が軟骨細胞調製物中で微量ではあるが線維芽細胞様細胞を検出し得ること、およびインテグリンアルファ11ベータ1が線維芽細胞様細胞の添加により増加することが、示される。
図7C】インテグリンアルファ11ベータ1の発現と、軟骨細胞調製物へのHFLS-OA(骨関節炎患者のヒト線維芽細胞様軟骨細胞)の添加の間の相関。HNC(ヒト鼻軟骨細胞)の調製物への0、0.5%、1%、2.5%、5%、10%、25%、50%、および100%HFLS-OAの添加。これは、インテグリンアルファ11ベータ1を用いて軟骨細胞調製物中に混入した線維芽細胞様細胞を検出および定量し得ることを実証している。
図8A】インテグリンアルファ10(α10)およびアルファ11(α11)の発現を、ペレット培養の前に試料803および811から単層培養されたヒト軟骨細胞上で分析した。フローサイトメトリー分析から、試料811での低いインテグリンα10/インテグリンα11比、および試料803での高いインテグリンα10/インテグリンα11比が示された。
図8B】ペレット塊中で2および3週間培養された試料803および811からの軟骨細胞におけるCol2生成の組織学的評価。軟骨細胞ペレットからの組織断片を、コラーゲンII型(Col2)の発現について分析し、Col2発現の度合いを、0~5スケールでスコア付けした。結果から、軟骨細胞811からのペレット中でのCol2の全くない/非常に低い発現、および軟骨細胞803からのペレット中のCol2の高い発現が示される。
図9】ヒト軟骨細胞調製物803(高い効能、図8参照)および842(低い効能)でのインテグリンアルファ10(X軸)インテグリンアルファ11(Y軸)のフローサイトメトリー分析。それぞれインテグリンアルファ10およびアルファ11に向けられた2種の抗体組の結合を利用して、抗体の単一染色および二重染色の度合いを実証した。下右の四角は、インテグリンアルファ10の高い単一発現を示し、上左は、インテグリンアルファ11の高い単一発現を示し、上右は、インテグリンアルファ10およびアルファ11の両方の発現を有する細胞を示す。結果から、軟骨細胞調製物842が803に比較してより多くの脱分化細胞および非軟骨細胞を有することが示される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な記載
定義
本明細書で用いられる「インテグリンアルファ10」は、ヘテロダイマータンパク質のインテグリンアルファ10ベータ1のアルファ10サブユニット、およびヘテロダイマータンパク質のインテグリンアルファ10ベータ1を指す。この表記は、アルファ10サブユニットに結合し、これによりインテグリンアルファ10ベータ1ヘテロダイマーを形成する、ベータ1サブユニットの存在を除外しない。ヒトインテグリンアルファ10鎖配列は、公知であり、GenBank(商標)/EBI Data Bankアクセション番号AF074015として公開されている。
【0021】
本明細書で用いられる「抗インテグリンアルファ10抗体」は、少なくともインテグリンアルファ10サブユニットだけでなく、ヘテロダイマータンパク質インテグリンアルファ10ベータ1も認識および結合することが可能な抗体を指す。これらの抗体は、アルファ10およびベータ1サブユニットの両方のアミノ酸残基を含む、ヘテロダイマータンパク質インテグリンアルファ10ベータ1のエピトープを認識する抗体であってもよい。これらの抗体はまた、アルファ10サブユニットのみのアミノ酸残基を含む、ヘテロダイマータンパク質インテグリンアルファ10ベータ1のエピトープを認識する抗体であってもよい。
【0022】
本明細書で用いられる「インテグリンアルファ11」は、ヘテロダイマータンパク質インテグリンアルファ11ベータ1のアルファ11サブユニット、およびヘテロダイマータンパク質インテグリンアルファ11ベータ1を指す。この表記は、アルファ11サブユニットに結合し、これによりインテグリンアルファ10ベータ1ヘテロダイマーを形成する、ベータ1サブユニットの存在を除外しない。
【0023】
本明細書で用いられる「抗インテグリンアルファ11抗体」は、少なくともインテグリンアルファ11サブユニットだけでなく、ヘテロダイマータンパク質インテグリンアルファ11ベータ1のインテグリンアルファ11サブユニットも認識および結合することが可能な抗体を指す。これらの抗体は、アルファ11およびベータ1サブユニットの両方のアミノ酸残基を含む、ヘテロダイマータンパク質インテグリンアルファ11ベータ1のエピトープを認識する抗体であってもよい。これらの抗体はまた、アルファ11サブユニットのみのアミノ酸残基を含む、ヘテロダイマータンパク質インテグリンアルファ11ベータ1のエピトープを認識する抗体であってもよい。
【0024】
用語「インテグリンアルファ10/11」は、インテグリンアルファ10もしくはインテグリンアルファ11のいずれか、またはインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の両方を指す。
【0025】
本明細書で用いられる「アスコルビン酸」は、L-アスコルビン酸2-リン酸セスキマグネシウム塩水和物などのその(R)-3,4-ジヒドロキシ-5-((S)-1,2-ジヒドロキシエチル)フラン-2(5H)-オン誘導体を包含する。
【0026】
本明細書で用いられる用語「同定すること」は、細胞を特定の細胞型、例えば軟骨細胞または線維芽細胞様細胞として認識する行動を指す。同定することの代わりの用語「検出すること」は、本明細書では同じ意味で用いられる。
【0027】
本明細書で用いられる用語「単離すること」、「選別すること」、「選択すること」および「枯渇させること」は、細胞を特定の細胞型として同定する行動、およびその細胞を同じ細胞型または分化状態に属さない細胞と分別する行動、を指す。
【0028】
本明細書で用いられる用語「組成物」は、軟骨細胞の調製物など、細胞の調製物を指す場合がある。本明細書で用いられる用語「組成物」はまた、軟骨細胞の培養物などの細胞培養物を指す場合がある。軟骨細胞の組成物はまた、軟骨細胞製品であってもよい。軟骨細胞製品の例は、当業者に公知であり、懸濁液中の単離された軟骨細胞、単層で、そしてスフェロイド、ペレット、細胞シートなどの三次元(3D)培養で培養された軟骨細胞、ならびに足場で培養された軟骨細胞であってもよい。例えば軟骨細胞の足場は、3Dヒドロゲル、コラーゲン基質、ヒアルロナン、ポリグリコール酸(PGA)-フィブリン、およびポリ乳酸(PLA)を用いて作製されてもよい。
【0029】
本明細書で用いられる用語「効能」または「細胞の効能」は、関連する生物学的機能の定量的尺度と定義されてもよい。効能アッセイは、バッチリリースのための製造工程および最終細胞製品が品質、一貫性および安定性のために綿密に検査されるメカニズムを提供する。
【0030】
インテグリンサブユニットアルファ10およびアルファ11の発現の分析
本発明の方法における不可欠なステップは、インテグリンアルファ10の発現およびインテグリンアルファ11の発現の検出である。
【0031】
一実施形態において、該発現の分析は、フローサイトメトリー、ELISA、ウェスタンブロット、免疫沈降法、ドットブロット、qPCR、免疫アッセイ、免疫蛍光法、免疫組織化学的検査、遺伝子発現分析および任意の他の適切な方法からなる群から選択される方法により実行される。好ましくはインテグリンアルファ10および/またはアルファ11の発現の分析は、特異的抗体を用いたフローサイトメトリーにより実行される。マルチカラー分析が、特に簡便であるフローサイトメトリーと共に用いられてもよい。当業者は、個々の例について発現の度合いを計測するための選択の方法を決定するのに充分適任である。
【0032】
インテグリンアルファ10および/またはアルファ11の発現を、同じ種の方法を使用して分析することができる。一実施形態において、該インテグリンアルファ10/11発現は、対応するタンパク質発現を測定することにより分析される。
【0033】
別の実施形態において、インテグリンアルファ10/11の発現は、インテグリンアルファ10/11 mRNA発現を測定することにより分析される。特異的タンパク質のmRNA発現の検出は、当業者に周知であり、一般には、該当するmRNAに特異的なDNAまたはRNAプローブで、該プローブが他のmRNA分子にハイブリダイズしないハイブリダイゼーション条件下で、mRNAをプロービングすることにより実施される。同じく、当業者に自明の異なるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてもよい。
【0034】
一実施形態において、該分析は、インテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現の定量的計測を含む。
【0035】
細胞マーカーの発現を検出するための複数の方法が、当業者に公知である。したがって本開示の一実施形態において、細胞によるインテグリンアルファ10/11の発現の検出は、免疫アッセイ、フローサイトメトリー、免疫蛍光法、免疫沈降法、免疫組織化学的検査およびウェスタンブロットからなる群から選択される方法により計測される。さらなる実施形態において、インテグリンアルファ10/11の発現は、免疫化学的プロトコル(Methods in molecular biology、Humana Press Inc)に記載された方法などの任意の免疫アッセイにより検出される。該検出は、様々な方法、例えば免疫沈降法、ウェスタンブロット、磁気活性化セルソーティング(MACS)またはフローサイトメトリー法、例えば蛍光活性化セルソーティング(FACS)などの当業者に公知の任意の免疫法により、実施されてもよい。
【0036】
幾つかの実施形態において、インテグリンアルファ10/11タンパク質の発現は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、またはその断片であり得る、抗インテグリンアルファ10/11抗体により検出される。別の実施形態において、該抗体は、非ヒト抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である。
【0037】
前述の抗体は、フルオロフォア、酵素または放射性トレーサーもしくは放射性同位体からなる群から選択される検出可能な部分などの検出可能な部分に共有結合されていてもよい。好ましい実施形態において、該抗体は、1種または複数のフルオロフォア(複数可)で標識される。前述のフルオロフォアは、フィコエリトリン、アロフィコシアニン、フルオレセイン、Texas red、Alexa Fluor 647、およびBrilliantdyeからなる群から選択されてもよい。多くの他のフルオロフォアが用いられてもよく、当業者は、特異的検出方法に従い、用いられる抗体の特徴にも従って、最も適したものを選択するであろう。幾つかの実施形態において、重複のない発光スペクトルを有するフルオロフォアが、抗インテグリンアルファ10抗体および抗インテグリンアルファ11抗体に結合される。
【0038】
一実施形態において、前述の抗体は、固相担体、例えば磁気ビーズに付着されている。
【0039】
一実施形態において、前述の抗体は、ビオチンに付着されている。
【0040】
さらに前述の抗体は、IgA、IgD、IgGおよびIgMからなる群から選択されるアイソタイプを有していてもよい。
【0041】
一実施形態において、該抗体は、
a)2003年2月4日にアクセション番号DSM ACC2583の下、Deutsche Sammlung von Microorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託されたハイブリドーマ細胞株により生成されたモノクローナル抗体;または
b)2003年2月4日にアクセション番号DSM ACC2583の下、Deutsche Sammlung von Microorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託されたハイブリドーマにより生成されたモノクローナル抗体により結合されたエピトープと同じエピトープに結合するために競合する抗体;または
c)インテグリンアルファ10鎖の細胞外I-ドメインに特異的に結合することが可能な、a)もしくはb)の断片
である。
【0042】
その上、同定は、インテグリンアルファ10/11分子に特異的に結合するタンパク質またはペプチドなどの任意の特異的分子により実施されてもよい。そのようなタンパク質またはペプチドの例は、インテグリンアルファ10/11分子に結合した天然リガンドである。そのような天然リガンドは、天然供給源から組換え生成、化学合成、または精製されてもよい。
【0043】
軟骨細胞組成物
本発明者らは、少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を特徴とする軟骨細胞組成物が、高品質の軟骨細胞組成物であることを見出した。
【0044】
こうして本開示の一態様は、少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有する、軟骨細胞を含む組成物に関する。
【0045】
一実施形態において、該インテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比は、少なくとも4対1、例えば少なくとも5対1など、少なくとも10対1など、少なくとも15対1など、少なくとも20対1など、少なくとも25対1など、少なくとも30対1など、少なくとも35対1など、少なくとも40対1など、少なくとも45対1など、少なくとも50対1など、少なくとも60対1など、少なくとも70対1など、少なくとも80対1など、少なくとも90対1など、少なくとも100対1など、少なくとも150対1など、少なくとも200対1などである。別の実施形態において、前述のインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比は、200対1未満、例えば150対1未満など、100対1未満など、50対1未満など、25対1未満などである。
【0046】
一実施形態において、該インテグリンアルファ11の発現は、インテグリンアルファ10発現の最大25%、例えばインテグリンアルファ10発現の最大20%など、インテグリンアルファ10発現の最大15%など、インテグリンアルファ10発現の最大10%など、インテグリンアルファ10発現の最大5%など、インテグリンアルファ10発現の最大4%など、インテグリンアルファ10発現の最大3%など、インテグリンアルファ10発現の最大2%など、インテグリンアルファ10発現の最大1%など、インテグリンアルファ10発現の最大0.5%などである。
【0047】
さらに別の実施形態において、インテグリンアルファ11が、実質的に発現されない。
【0048】
一実施形態において、該組成物は、分化された軟骨細胞を含んでいてもよく、前述の分化された軟骨細胞は、インテグリンアルファ10を発現し、インテグリンアルファ11を実質的に発現しなくてもよい。
【0049】
本明細書で用いられる「実質的に存在しないインテグリンアルファ11の発現」は、インテグリンアルファ11を発現するがインテグリンアルファ10を発現しない細胞、即ちアルファ11単一の細胞のパーセンテージが、20%未満であることを意味する。幾つかの実施形態において、インテグリンアルファ11を発現するがインテグリンアルファ10を発現しない細胞のパーセンテージは、15%未満、例えば10%未満など、5%未満など、4%未満など、3%未満など、2%未満など、1%未満など、0.5%未満などである。
【0050】
一実施形態において、該組成物は、部分的に脱分化された軟骨細胞を含んでいてもよく、前述の部分的に脱分化された軟骨細胞は、インテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の両方を発現してもよい。部分的に脱分化された軟骨細胞は、より多くの線維芽細胞様細胞に復帰した軟骨細胞である。それらは、育成条件に応じて軟骨細胞に再分化され得てもよい。
【0051】
一実施形態において、軟骨細胞を含む該組成物は、軟骨組織調製物、軟骨細胞を含む組織調製物、単層軟骨細胞の細胞培養物、および三次元(3D)軟骨細胞の細胞培養物、例えばスフェロイド、ペレットまたは細胞シートからなる群から選択される。
【0052】
一実施形態において、軟骨細胞を含む該組成物は、軟骨組織、組織を含む軟骨細胞、単層軟骨細胞の細胞培養物および三次元軟骨細胞の細胞培養物、例えばスフェロイド、ペレット、細胞シートまたは足場に培養された軟骨細胞に由来する。
【0053】
一実施形態において、軟骨細胞を含む該組成物は、哺乳動物細胞を含んでいてもよい。
【0054】
一実施形態において、軟骨細胞を含む該組成物は、ヒト細胞を含んでいてもよい。
【0055】
一実施形態において、軟骨細胞を含む該組成物は、ウマの細胞を含んでいてもよい。
【0056】
一実施形態において、軟骨細胞を含む該組成物は、イヌの細胞を含んでいてもよい。
【0057】
一実施形態において、インテグリンアルファ10および/またはインテグリンアルファ11は、哺乳動物軟骨細胞または線維芽細胞様細胞の細胞表面で発現される。
【0058】
一実施形態において、該インテグリンアルファ10および/またはインテグリンアルファ11は、インテグリンベータ1と組み合わせてヘテロダイマーとして発現される。
【0059】
一実施形態において、軟骨細胞を含む該組成物は、混入細胞を実質的に含まなくてもよく、該混入細胞は、インテグリンアルファ11を発現するがインテグリン10を発現しなくてもよく、即ちそれらは、アルファ11単一の細胞であってもよい。インテグリンアルファ11を発現するがインテグリンアルファ10を発現しない細胞は、混入細胞、線維芽細胞様細胞または高度に脱分化された細胞であってもよい。インテグリンアルファ11を発現するがインテグリンアルファ10を発現しない細胞は、非機能性の軟骨細胞であってもよく、つまりそれらは、軟骨細胞組成物の微量成分であってもよい。
【0060】
インテグリンアルファ11を発現するがインテグリンアルファ10を発現しない細胞の数が少ない程、組成物中の軟骨細胞数が多い、つまり軟骨細胞組成物の純度が高くなる。
【0061】
インテグリンアルファ10の発現を誘導し、こうして軟骨細胞を再分化させるように、再分化された軟骨細胞の培養条件を最適化することが可能であってもよい。つまり軟骨細胞を含む組成物は、インテグリンアルファ11を発現するがインテグリンアルファ10を発現しない細胞のパーセンテージが20%未満の場合に、混入細胞を実質的に含まないと定義されてもよい。幾つかの実施形態において、インテグリンアルファ11を発現するがインテグリンアルファ10を発現しない細胞のパーセンテージは、15%未満、例えば10%未満など、5%未満など、4%未満など、3%未満など、2%未満など、1%未満など、0.5%未満などであってもよい。
【0062】
一実施形態において、軟骨細胞を含む該組成物は、全組成物または細胞集団のうち、少なくとも70%の軟骨細胞、例えば少なくとも75%など、少なくとも80%など、少なくとも85%など、少なくとも90%など、少なくとも95%など、少なくとも98%など、少なくとも99%など、100%などの軟骨細胞を含んでいてもよい。
【0063】
一実施形態において、軟骨細胞を含む該組成物は、全組成物または細胞集団のうち、少なくとも80%、例えば少なくとも85%など、少なくとも90%など、少なくとも95%など、少なくとも98%など、少なくとも99%など、100%などの軟骨細胞を含んでいてもよい。
【0064】
一実施形態において、軟骨細胞を含む該組成物は、CEP-68/CRTAC1、GP-39軟骨糖タンパク質、CD44、CD166、コラーゲンIIA、コラーゲンIIB、アグレカン、アリザリンレッド(neg)、アルシアンブルー、CRTAC1、CEP-68、CD146、CD90、CD49e、CD63およびSca-1からなる群から選択される二次マーカーをさらに発現してもよい。
【0065】
本明細書に開示された軟骨細胞組成物は、細胞懸濁液、細胞培養物、細胞単層、または三次元(3D)足場、例えばスフェロイド、ペレット、細胞シートおよび足場で培養された軟骨細胞として配合されていてもよい。3D足場の例は、当該技術分野で公知であり、例えば3Dヒドロゲル、コラーゲン基質、ヒアルロナン、ポリグリコール酸(PGA)-フィブリンおよびポリ乳酸(PLA)、の使用に基づいていてもよい。
【0066】
本明細書に開示された軟骨細胞組成物は、その後、例えば軟骨再生および軟骨修復の領域など、複数の適用例に用いられてもよい。本明細書で開示された軟骨細胞組成物は、自家使用および同種使用の両方に適し得る。
【0067】
純度品質、軟骨細胞同一性の度合い、機能的効能、分化状態および/または軟骨細胞表現型を計測するための方法
一態様において、本開示は、軟骨細胞を含む組成物の品質を計測するための方法であって、該品質計測が、以下の基準:
・軟骨細胞の同一性、
・軟骨細胞の分化状態、
・軟骨細胞の純度、および
・軟骨細胞の効能
のうちの1つまたは複数を含み、
該方法が、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前述の組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現レベルを分析するステップと;
c)インテグリンアルファ10の発現レベルをインテグリンアルファ11の発現レベルに比較するステップと
を含み、
少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比が、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の軟骨細胞同一性、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の分化状態、
・軟骨細胞組成物の純度、および/または
・軟骨細胞組成物の軟骨細胞の効能
の指標であり、それにより高品質の軟骨細胞組成物の指標となる、
方法に関する。
【0068】
一実施形態において、前述の方法は、最大20%、例えば最大15%など、最大10%など、最大5%など、最大4%など、最大3%など、最大2%など、最大1%など、最大0.5%などというアルファ11を発現してインテグリンアルファ10を全くまたは実質的に発現しない軟骨細胞組成物中の細胞、即ちアルファ11単一の細胞が、該軟骨細胞組成物の純度の指標である、インテグリンアルファ10の発現レベルをインテグリンアルファ11の発現レベルに比較することを含んでいてもよい。
【0069】
事実、インテグリンアルファ11を発現するがインテグリンアルファ10を発現しない細胞(アルファ11単一の細胞)の数が少ない程、組成物中の軟骨細胞数が多い、つまり軟骨細胞組成物の純度が高くなる。
【0070】
一実施形態において、前述の方法は、インテグリンアルファ11を伴うインテグリンアルファ10の発現が部分的に脱分化された軟骨細胞組成物の指標である、インテグリンアルファ10の発現レベルをインテグリンアルファ11の発現レベルに比較することを含んでいてもよい。例えばインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の両方を発現する軟骨細胞は、部分的に脱分化された軟骨細胞であってもよい。
【0071】
一実施形態において、前述の方法は、インテグリンアルファ10の発現および実質的に存在しないインテグリンアルファ11の発現が、分化された軟骨細胞組成物の指標であり得る、インテグリンアルファ10の発現レベルをインテグリンアルファ11の発現レベルに比較することを含んでいてもよい。例えばインテグリンアルファ10を発現してインテグリンアルファ11を実質的に発現しない軟骨細胞は、分化された軟骨細胞であってもよい。
【0072】
一実施形態において、前述の方法は、インテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現の定量的計測を含んでいてもよい。
【0073】
一実施形態において、前述の方法は、インテグリンアルファ10の発現および実質的に存在しないインテグリンアルファ11の発現が、分化された軟骨細胞組成物の指標であり得る、インテグリンアルファ10の発現レベルをインテグリンアルファ11の発現レベルに比較することを含んでいてもよい。「実質的に存在しないインテグリンアルファ11の発現」は、組成物に含まれる細胞の20%未満がインテグリンアルファ11を発現してインテグリンアルファ10を発現しないことを指してもよい。幾つかの実施形態において、インテグリンアルファ11を発現するがインテグリンアルファ10を発現しない細胞のパーセンテージは、15%未満、例えば10%未満など、5%未満など、4%未満など、3%未満など、2%未満など、1%未満など、0.5%未満などである。
【0074】
本発明者らは、軟骨細胞中のインテグリンアルファ11の発現および実質的に存在しないインテグリンアルファ10の発現が線維芽細胞様細胞の指標になり得ることも見出した。
【0075】
一実施形態において、前述の方法は、CEP-68/CRTAC1、GP-39軟骨糖タンパク質、CD44、CD166、コラーゲンIIA、コラーゲンIIB、アグレカン、アリザリンレッド(neg)、アルシアンブルー、CRTAC1、CEP-68、CD146、CD90、CD49e、CD63およびSca-1からなる群から選択される二次軟骨細胞または線維芽細胞マーカーの発現を検出することをさらに含む。当業者は、個々の例について前述のマーカーの発現を計測するための選択の方法を決定するのに充分適任である。
【0076】
一実施形態において、該方法は、インビトロで実施される。
【0077】
一実施形態において、インテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現の分析は、インテグリンアルファ10の発現を誘導するために最適化された培地中で該細胞を培養した後に実施される。インテグリンアルファ10発現の誘導は、本明細書内の本開示に記載される。
【0078】
一実施形態において、インテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現の分析は、同時に実施される。別の実施形態において、インテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現の分析は、別に実施される。例えば実施例4ならびに図7および9で報告されたデータを参照されたい。
【0079】
高品質の軟骨細胞の集団を単離するための方法
一態様において、本発明は、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前述の組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現を分析するステップと;
c)少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有する軟骨細胞を選択し、こうして高品質の軟骨細胞の集団を得るステップと
を含む、高品質の軟骨細胞の集団を単離するための方法に関係する。
【0080】
一実施形態において、高品質の軟骨細胞の集団は、少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を特徴とする軟骨細胞の集団であってもよい。
【0081】
一実施形態において、前述の方法は、インテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現の定量的計測を含んでいてもよい。
【0082】
一実施形態において、該インテグリンアルファ10および/またはインテグリンアルファ11は、哺乳動物軟骨細胞および/または線維芽細胞様細胞の細胞表面で発現されてもよい。
【0083】
一実施形態において、高品質の軟骨細胞の前述の得られた単離集団は、軟骨細胞の濃縮および/または精製された集団であってもよい。好ましくは軟骨細胞の前述の得られた単離集団は、前述の集団の軟骨細胞が高いインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有するように濃縮および/または精製されてもよい。一実施形態において、軟骨細胞の得られた単離集団におけるインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比は、少なくとも4対1、例えば少なくとも5対1など、少なくとも10対1など、少なくとも15対1など、少なくとも20対1など、少なくとも25対1など、少なくとも30対1など、少なくとも35対1など、少なくとも40対1など、少なくとも45対1など、少なくとも50対1など、少なくとも60対1など、少なくとも70対1など、少なくとも80対1など、少なくとも90対1など、少なくとも100対1など、少なくとも150対1など、少なくとも200対1などである。
【0084】
一実施形態において、該インテグリンアルファ11の発現は、インテグリンアルファ10発現の最大25%、例えばインテグリンアルファ10発現の最大20%など、インテグリンアルファ10発現の最大15%など、インテグリンアルファ10発現の最大10%など、インテグリンアルファ10発現の最大5%など、インテグリンアルファ10発現の最大4%など、インテグリンアルファ10発現の最大3%など、インテグリンアルファ10発現の最大2%など、インテグリンアルファ10発現の最大1%など、インテグリンアルファ10発現の最大0.5%などである。
【0085】
さらに別の実施形態において、インテグリンアルファ11が、軟骨細胞の得られた単離集団中で実質的に発現されない。
【0086】
一実施形態において、該得られた組成物は、全細胞集団のうち、少なくとも70%の軟骨細胞、例えば少なくとも75%など、少なくとも80%など、少なくとも85%など、少なくとも90%など、少なくとも95%など、少なくとも98%など、少なくとも99%など、100%などの軟骨細胞を含んでいてもよい。
【0087】
さらなる一実施形態において、該得られた組成物は、全細胞集団のうち、少なくとも80%、例えば少なくとも85%など、少なくとも90%など、少なくとも95%など、少なくとも98%など、少なくとも99%など、100%などの軟骨細胞を含んでいてもよい。
【0088】
別の実施形態において、該得られた集団は、混入細胞が実質的に存在しなくてもよい。本明細書に文脈において、混入細胞は、軟骨細胞以外の細胞、例えば線維芽細胞または線維芽細胞様細胞であってもよい。一実施形態において、混入細胞は、インテグリンアルファ11を発現するがインテグリンアルファ10を発現しない細胞であってもよい。
【0089】
該得られた組成物は、最適条件下で育成された場合に軟骨細胞に再分化され得る、高度に脱分化された軟骨細胞および線維芽細胞様細胞を含んでいてもよい。
【0090】
「実質的に存在しないインテグリンアルファ11」および「実質的に含まれない混入細胞を」は、本明細書内の本開示で定義されている。
【0091】
一実施形態において、高品質の軟骨細胞の前述の集団は、軟骨細胞のインテグリンアルファ10濃縮集団であってもよい。前述のインテグリンアルファ10濃縮集団は、インテグリンアルファ11を発現する細胞の枯渇を含む方法により得られてもよい。一実施形態において、高品質の軟骨細胞の該集団は、インテグリンアルファ11を実質的に発現しなくてもよい。
【0092】
前述のインテグリンアルファ10濃縮集団は、インテグリンアルファ10を発現する細胞を選択することを含む方法により得られてもよい。インテグリンアルファ10を発現する細胞は、例えば抗インテグリンアルファ10抗体を用いることにより、または当業者に公知の他の方法により、本明細書に記載された通り選択されてもよい。
【0093】
前述のインテグリンアルファ10濃縮集団は、インテグリンアルファ10発現を誘導する条件下で軟骨細胞の組成物を育成することを含む方法により得られてもよい。そのようなインテグリンアルファ10を誘導する条件の例は、本開示に見出される。インテグリンアルファ10を誘導し得る薬剤、ならびにアスコルビン酸および血小板溶解物。
【0094】
一実施形態において、少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有する軟骨細胞の前述の選択は、インテグリンアルファ10を発現する軟骨細胞の単離により実施されてもよい。別の実施形態において、前述の選択は、アルファ11を発現する軟骨細胞の枯渇により実現される。
【0095】
高品質の軟骨細胞の集団の単離は、インテグリンアルファ10の発現が実質的に存在しない軟骨細胞からの、そして/またはインテグリンアルファ11を発現するがインテグリンアルファ10を発現しないまたは実質的に発現しない細胞からの、インテグリンアルファ10を発現する軟骨細胞の分離のための手順に基づいていてもよい。前述の分離は、例えば抗体コーティング磁気ビーズと、固体基質、例えばプレートに付着された抗体を含む「パンニング」と、を用いた磁気分離、または他の従来の技術を包含してもよい。正確な分離を提供する技術は、当業者に公知の様々な度合いの精巧化、例えば複数のカラーチャネル、光散乱検出チャネル、インピーダンスチャネルなどを有し得る蛍光活性化セルソーターを含む。
【0096】
抗体またはその断片が、マーカーを検出するのに用いられる場合、それは、固相担体、例えば磁気ビーズに付着されていて、高度に特異的な分離を可能にしてもよい。用いられる特定の分離手順、例えば遠心分離、機械的分離、例えばカラム、膜または磁気分離は、回収される画分の生存性を最大にしなければならない。当業者に知られる異なる有効性の様々な技術が、用いられてもよい。用いられる特定の技術が、分離の効率、方法の細胞傷害性、性能の容易さおよび速度、ならびに精巧化された器具および/または技術的鍛錬の必要性に依存するであろう。
【0097】
一実施形態において、高品質の軟骨細胞の該集団は、軟骨組織調製物、軟骨細胞を含む組織調製物、単層軟骨細胞の細胞培養物、および三次元軟骨細胞の細胞培養物、例えばスフェロイド、ペレット、細胞シートおよび様々な足場で培養された軟骨細胞からなる群から選択される候補組成物から単離される。
【0098】
一実施形態において、高品質の軟骨細胞の該集団は、軟骨組織、軟骨細胞を含む組織、単層軟骨細胞の細胞培養物、および三次元軟骨細胞の細胞培養物、例えばスフェロイド、ペレット、細胞シートおよび様々な足場で培養された軟骨細胞に由来する候補組成物から単離される。
【0099】
一実施形態において、本明細書に記載された方法は、CEP-68/CRTAC1、GP-39軟骨糖タンパク質、CD44、CD166、コラーゲンIIA、コラーゲンIIB、アグレカン、アリザリンレッド(neg)、アルシアンブルー、CRTAC1、CEP-68、CD49e、CD63、CD146、CD90、およびSca-1からなる群から選択される二次マーカーの発現を検出することをさらに含んでいてもよい。
【0100】
軟骨細胞におけるインテグリンアルファ10発現の誘導
本発明者らは、増殖への影響、およびインテグリンアルファ10発現の誘導への効能を実証した。
【0101】
したがって一態様において、本発明は、インテグリンアルファ10の発現を誘導することを含む、軟骨細胞を含む組成物の品質および軟骨細胞の効能を最適化するための方法に関係する。一実施形態において、前述の方法は、インテグリンアルファ11の発現を抑制することをさらに含む。
【0102】
別の態様において、本発明は、インテグリンアルファ10の発現を誘導することを含む、軟骨細胞の増殖速度を上昇させる方法に関係する。一実施形態において、前述の方法は、インテグリンアルファ11の発現を抑制することをさらに含む。
【0103】
一実施形態において、インテグリンアルファ10の発現の誘導は、インテグリンアルファ10の発現を誘導し得る、そして/またはインテグリンアルファ11を抑制し得る因子を含む培地中でインテグリンアルファ10発現細胞を培養することにより実行される。
【0104】
一実施形態において、インテグリンアルファ10の発現の誘導は、アスコルビン酸および/または血小板溶解物を含む培地中でインテグリンアルファ10発現細胞を培養することにより実行されてもよい。
【0105】
一実施形態において、こうして得られたインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比は、少なくとも4対1、例えば少なくとも5対1など、少なくとも10対1など、少なくとも15対1など、少なくとも20対1など、少なくとも25対1など、少なくとも30対1など、少なくとも35対1など、少なくとも40対1など、少なくとも45対1など、少なくとも50対1など、少なくとも60対1など、少なくとも70対1など、少なくとも80対1など、少なくとも90対1など、少なくとも100対1など、少なくとも150対1など、少なくとも200対1などである。
【0106】
一実施形態において、得られたインテグリンアルファ11の発現は、得られたインテグリンアルファ10発現の最大25%、例えば得られたインテグリンアルファ10発現の最大20%など、得られたインテグリンアルファ10発現の最大15%など、得られたインテグリンアルファ10発現の最大10%など、得られたインテグリンアルファ10発現の最大5%など、得られたインテグリンアルファ10発現の最大4%など、得られたインテグリンアルファ10発現の最大3%など、得られたインテグリンアルファ10発現の最大2%など、得られたインテグリンアルファ10発現の最大1%など、得られたインテグリンアルファ10発現の最大0.5%などである。
【0107】
インテグリンアルファ10発現細胞が、暴露される培養条件に応じて異なるレベルでインテグリンアルファ10を発現し得ることは、公知である。こうして、軟骨細胞中のインテグリンアルファ10発現を誘導する一方法は、例えば培地を交換することによる、培養条件の変更の方法であってもよい。
【0108】
細胞調製物および細胞培養物
一態様において、本発明は、少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有する軟骨細胞のインビトロ細胞調製物または細胞培養物に関係する。一実施形態において、前述のインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比は、少なくとも4、例えば少なくとも10など、少なくとも15など、少なくとも20など、少なくとも25など、少なくとも30など、少なくとも35など、少なくとも40など、少なくとも45など、少なくとも50など、少なくとも60など、少なくとも70など、少なくとも80など、少なくとも90など、少なくとも100などであってもよい。別の実施形態において、前述のインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比は、200未満、例えば150未満など、100未満などであってもよい。
【0109】
一態様において、本発明は、該インテグリンアルファ11の発現が、インテグリンアルファ10発現の最大25%、例えばインテグリンアルファ10発現の最大20%など、インテグリンアルファ10発現の最大15%など、インテグリンアルファ10発現の最大10%など、インテグリンアルファ10発現の最大5%など、インテグリンアルファ10発現の最大4%など、インテグリンアルファ10発現の最大3%など、インテグリンアルファ10発現の最大2%など、インテグリンアルファ10発現の最大1%など、インテグリンアルファ10発現の最大0.5%などである、軟骨細胞のインビトロ細胞調製物または細胞培養物に関係する。
【0110】
一実施形態において、本発明は、抗インテグリンアルファ10抗体および抗インテグリンアルファ11抗体での細胞調製物/培養物から単離された軟骨細胞のインテグリンアルファ10濃縮集団に関係する。
【0111】
一実施形態において、軟骨細胞の前述の濃縮集団は、高発現のインテグリンアルファ10を有する軟骨細胞を選択すること、またはインテグリンアルファ10発現を誘導すること、により得られてもよい。別の実施形態において、軟骨細胞の前述の濃縮集団は、高度に脱分化された軟骨細胞もしくはインテグリンアルファ11の発現を有する線維芽細胞の枯渇、またはインテグリンアルファ11の発現の抑制により得られてもよい。
【0112】
一実施形態において、該濃縮集団は、少なくとも4対1、例えば少なくとも5対1など、少なくとも10対1など、少なくとも15対1など、少なくとも20対1など、少なくとも25対1など、少なくとも30対1など、少なくとも35対1など、少なくとも40対1など、少なくとも45対1など、少なくとも50対1など、少なくとも60対1など、少なくとも70対1など、少なくとも80対1など、少なくとも90対1など、少なくとも100対1など、少なくとも150対1など、少なくとも200対1などのインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比を有していてもよい。
【0113】
一実施形態において、該濃縮集団は、インテグリンアルファ10発現の最大25%、例えばインテグリンアルファ10発現の最大20%など、インテグリンアルファ10発現の最大15%など、インテグリンアルファ10発現の最大10%など、インテグリンアルファ10発現の最大5%など、インテグリンアルファ10発現の最大4%など、インテグリンアルファ10発現の最大3%など、インテグリンアルファ10発現の最大2%など、インテグリンアルファ10発現の最大1%など、インテグリンアルファ10発現の最大0.5%などのインテグリンアルファ11の発現を有していてもよい。
【0114】
記載された方法の使用
一態様において、本発明は、
a)軟骨細胞組成物を品質保証するための;
b)軟骨細胞組成物の一貫性および/もしくは再現性のモニタリングのための;
c)軟骨細胞組成物および培養物の効能、つまり機能を予測するための;
d)軟骨細胞組成物を工程内管理するための;
e)軟骨細胞組成物の増大の工程内管理のための;
f)軟骨細胞組成物の放出テストを実行するための;
g)軟骨細胞組成物の効能アッセイを実行するための;そして/または
h)軟骨細胞組成物の臨床転帰の予測のための、
本明細書に記載された方法の任意の1つの使用に関係する。
【0115】
こうして一実施形態において、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前述の組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現レベルを分析するステップと;
c)インテグリンアルファ10の発現レベルをインテグリンアルファ11の発現レベルに比較するステップと
を含み、
少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比が、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の軟骨細胞同一性、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の分化状態、
・軟骨細胞組成物の純度、および/または
・軟骨細胞組成物の軟骨細胞の効能
の指標である、
軟骨細胞を含む組成物の品質を計測するための方法が、軟骨細胞組成物を品質保証するために用いられてもよい。
【0116】
こうして一実施形態において、本開示は、軟骨細胞組成物を品質保証するため、そして/または品質管理するための、軟骨細胞を含む組成物の品質を計測するための方法の使用であって、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前述の組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現レベルを分析するステップと;
c)インテグリンアルファ10の発現レベルをインテグリンアルファ11の発現レベルに比較するステップと
を含み、
少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比が、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の軟骨細胞同一性、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の分化状態、
・軟骨細胞組成物の純度、および/または
・軟骨細胞組成物の軟骨細胞の効能
の指標である、
使用に関する。
【0117】
一実施形態において、本開示は、軟骨細胞組成物および/または軟骨細胞組成物の増大の工程内管理のための、軟骨細胞を含む組成物の品質を計測するための方法の使用であって、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前述の組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現レベルを分析するステップと;
c)インテグリンアルファ10の発現レベルをインテグリンアルファ11の発現レベルに比較するステップと
を含み、
少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比が、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の軟骨細胞同一性、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の分化状態、
・軟骨細胞組成物の純度、および/または
・軟骨細胞組成物の軟骨細胞の効能
の指標である、
使用に関する。
【0118】
一実施形態において、本開示は、軟骨細胞組成物の放出テストを実施するための、軟骨細胞を含む組成物の品質を計測するための方法の使用であって、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前述の組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現レベルを分析するステップと;
c)インテグリンアルファ10の発現レベルをインテグリンアルファ11の発現レベルに比較するステップと
を含み、
少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比が、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の軟骨細胞同一性、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の分化状態、
・軟骨細胞組成物の純度、および/または
・軟骨細胞組成物の軟骨細胞の効能
の指標である、
使用に関する。
【0119】
一実施形態において、本開示は、軟骨細胞組成物の効能アッセイを実施するための、軟骨細胞を含む組成物の品質を計測するための方法の使用であって、
a)軟骨細胞を含む候補組成物を用意するステップと;
b)前述の組成物中のインテグリンアルファ10およびインテグリンアルファ11の発現レベルを分析するステップと;
c)インテグリンアルファ10の発現レベルをインテグリンアルファ11の発現レベルに比較するステップと
を含み、
少なくとも4対1というインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比が、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の軟骨細胞同一性、
・軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の分化状態、
・軟骨細胞組成物の純度、および/または
・軟骨細胞組成物の軟骨細胞の効能
の指標である、
使用に関する。
【0120】
実施例
実施例1:アスコルビン酸を添加した、または添加していない、ヒト血清(HS)または血小板溶解物(PL)中で培養された軟骨細胞上でのインテグリンアルファ10ベータ1およびインテグリンアルファ11ベータ1の発現
4種の異なる調製物853、854、875および876からの軟骨細胞を、アスコルビン酸(50μg/ml)を含み、または含まずに、DMEM中の10%HSまたはDMEM中の5%PLの存在下で培養した。インテグリンアルファ10ベータ1およびアルファ11ベータ1発現を、以下のモノクローナル抗体を用いてフローサイトメトリーによる2、3、4および6継代の後に分析した:FACS緩衝液(PBS、1% FBS、0.1% NaN)に希釈された、フィトエリトリン(PE)に直接コンジュゲートされたアルファ10抗体およびAlexa Fluor A647(Xintela AB)に直接コンジュゲートされたアルファ11抗体が添加された(1μg/ml)。
【0121】
結論:この分析で、インテグリンアルファ10ベータ1の表面発現がHSのみの存在下で培養された軟骨細胞の継代培養物で減少することが実証された。軟骨細胞が、PLの存在下で培養された場合、インテグリンアルファ10の表面発現が増加し、6回の継代全てで依然として高度であった。図1Aは、軟骨細胞調製物853および854の結果を示す。培地へのアスコルビン酸の添加は、特に後期継代では、HS培養物中のインテグリンアルファ10ベータ1の発現を維持し、予測に反して増加もさせたが、PL中で培養された軟骨細胞ではインテグリンアルファ10ベータ1の既に高い発現を改変しなかった(図1A)。フローサイトメトリー分析は、予想に反して、培地へのアスコルビン酸の添加がインテグリンアルファ11ベータ1の発現を減少させ、これによりインテグリンアルファ10ベータ1/インテグリンアルファ11ベータ1比を上昇させることを示した。この影響は、軟骨細胞調製物853、854、875および875からの結果を要約した図に示された(図1B)アスコルビン酸の存在下でのHSおよびPL培養物の両方で認められた。
【0122】
実施例2:異なる培養条件の成長速度および評価
軟骨細胞の特異的成長速度と、異なる培地との関連性を検討した。この目的のために、調製物853からの軟骨細胞を、2継代までのHSのみを含有する培地で培養した。2継代の後、細胞をアスコルビン酸の非存在下または存在下、HSまたはPLで培養した。細胞が80%のコンフルエントに達したら、細胞を回収してカウントし、同じ密度で再度播種した。
【0123】
結論:アスコルビン酸およびPLは、軟骨細胞の増殖速度を上昇させる。アスコルビン酸の存在下では、アスコルビン酸を欠く培地に比較して、細胞が各継代でより急速に増殖した(図2)。これは、HSを含有する培地およびPLを含有する培地の両方で認められた。この影響は、より早期の継代よりも後期の継代(5~6)でより顕著であった。アスコルビン酸の非存在下では、軟骨細胞は、コンフルエントに達するのにより長時間を要した。PLはまた、HSに比較して増殖を増加させた。
【0124】
実施例3.軟骨細胞の品質および効能に及ぼす単層増大の間の異なる培養条件の影響
軟骨細胞の増大の間にインテグリンアルファ10ベータ1およびアルファ11ベータ1の発現を変化させることが知られる培養条件が、軟骨細胞の品質および効能(再分化能)に影響を及ぼすか否かを検討するために、以下の実験を実施した。
【0125】
調製物853、854、875および876からの軟骨細胞を、HS、HSAまたはPLA中の4種の継代物で培養し、その後、ペレット培養に移行させた。加えて、異なる軟骨細胞培養物の試料を、ペレット培養の開始直前にフローサイトメトリーおよびQ-PCRによりインテグリンアルファ10ベータ1発現について分析した。
【0126】
Q-PCR
軟骨細胞のmRNAを、RNeasy Mini Kit(Qiagen、ドイツ所在)を用いて単離し、cDNAを高品質総RNA試料から合成し、2つの連続qPCR分析でGAPDHにより正規化および検証した。インテグリンアルファ10のリアルタイムPCR検出を、遺伝子特異的プライマーおよびTaqManプローブ(Life Technologyの遺伝子発現アッセイHS00174623_m1、およびHs02758991_g1)を用いて実施し、製造業者の推奨通り運転した。検出システムは、StepOne Plus(Applied Biosystems)であった。インテグリンアルファ10の発現を、対照GAPDHに対して正規化して、インテグリンアルファ10の相対的定量値(RQ)を計算した。
【0127】
ペレット培養
軟骨細胞を、3mMグルタミン、HS(10%)またはPL(5%)を含み、L-アスコルビン酸2-リン酸セスキマグネシウム塩水和物(A)および抗生物質-抗真菌薬を含む、または含まない、培地(Biochromのアルファ改変型最小必須培地(アルファ-MEM)およびハムF12培地、1:1の割合)中の単層内で培養した。4継代後に、細胞を剥離して遠心分離し、TIDA培地(高グルコースのDMEM F12(4.5g/L フェノールレッド不含)、抗生物質-抗真菌薬(1×)、TGFベータ1(13ng/ml)、インスリン/トランスフェリン/セレン(ITS-X;1×)、デキサメタゾン(10nM)、A(50μg/ml)およびHS(2%))に再懸濁させた。細胞200000個を含有する試料を14ml Falconチューブに移して、細胞懸濁液を遠心分離し、ペレットを形成させた。次に、細胞ペレットを低酸素条件(4%O2、5%CO2および95%湿度)下で1~4週間培養し、その後、免疫組織化学的検査(IHC)により分析した。
【0128】
免疫組織化学的検査
軟骨細胞ペレットをTissueTekで包埋して、凍結させた。切片をスライドガラス上に採取して、一次モノクローナル抗体(抗コラーゲンI、抗コラーゲンIIまたは抗アルファ10インテグリン)で、その後、二次抗体抗マウス-HRP(ポリマー、DAKO)で免疫標識した。
【0129】
結論(I):
単層培養後の結果で実施例2からの知見を確証し、PLおよびアスコルビン酸が、単層培養の軟骨細胞上でHSのみに比較してインテグリンアルファ10の発現を誘導し、インテグリンアルファ10ベータ1発現を明確に増加させることが示された。フローサイトメトリーデータ(図3A)から、PLおよびHSをアスコルビン酸と共に用いた場合にアルファ10ベータ1の発現を増加させることが示された(図3A)。インテグリンアルファ10遺伝子転写産物ITGA10により表される遺伝子発現レベルで、同様の結果が認められた(図3B)。
【0130】
ペレット培養における軟骨細胞の品質および効能を評価するために、軟骨の特異的コラーゲンII型の発現の免疫組織化学的分析に基づくスコアリングシステムを確立した。コラーゲンII型発現の増加を表すスコアは、0~5の公称範囲を有する(図4A)。
【0131】
様々な培養条件(HS、HSAおよびPLA)についてのコラーゲンII型スコアを、図4に要約している。これらの結果から、細胞をHS中で培養した場合に、異なる軟骨細胞調製物の間でのコラーゲンII型発現(再分化/効能)の大きな変動が示された(図4B)。軟骨細胞調製物853は、全時間でコラーゲンII型の低い発現を示したが、876は、既に1週間後に若干のコラーゲンII型発現を、そして3週間後に高い発現を示した。
【0132】
HSA(アスコルビン酸を含むHS)中で培養された軟骨細胞は、コラーゲンII型発現に関連して不均一な挙動を実証した。調製物875および876からの軟骨細胞は、4週間後に高いコラーゲンII型発現を示したが、853および854は、4週間のアッセイの間に高スコアに達しなかった(図4C)。その一方で、該細胞をPLA中で培養した場合、全ての軟骨細胞調製物が、均一パターンのコラーゲンII型発現に従った。コラーゲンII型の発現は、急速に増加し、4種の軟骨細胞調製物全てで、既に3週間後に最高スコアに達した(図4D)。
【0133】
ペレット培養(2および3週目)でのコラーゲンII型発現による判定で、HS中の単層増大後の軟骨細胞上のインテグリンアルファ10ベータ1発現と、それらの効能(再分化力)との可能な相関性を検討するために、本発明者らは、HS中で培養された9種(803、811、816、842、853、854、875、876および914)の個々の調製物からの軟骨細胞でピアソン相関解析を実施した。
【0134】
図5は、単層培養された軟骨細胞でのインテグリンアルファ10ベータ1発現レベルと、ペレット培養におけるコラーゲンII型生成能の間で高度の相関性を示している(2週間後に0.75のR値)。このことから、インテグリンアルファ10ベータ1が軟骨細胞の品質のマーカーになり、軟骨細胞の効能を予測し得ることが実証される。
【0135】
さらに、ペレット培養(2および3週目)におけるコラーゲンII型発現による判定で、HS中の単層増大後の軟骨細胞のインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11の発現比(アルファ10/アルファ11比)と、それらの効能(再分化能)の可能な相関性を検討するために、本発明者らは、低い(811)および高い(803)再分化能を有する軟骨細胞でのアルファ10/アルファ11比を分析した。
【0136】
図8では、低いアルファ10/アルファ11比を有する軟骨細胞調製物(811)が低い再分化能を有し、高いアルファ10/アルファ11比を有する軟骨細胞調製物(803)が高い再分化能を有することが実証される。このことから、アルファ10/アルファ11比を使用して軟骨細胞の品質を計測し得ること、ならびに軟骨細胞組成物中の軟骨細胞の効能、特に軟骨細胞の同一性および軟骨細胞の分化状態を予測し得ることが実証される。
【0137】
結論(II):結果から、単層培養での軟骨細胞のインテグリンα10/インテグリンα11比が次のペレット培養でのCol-IIの発現と相関することが示される(図8)。このことから、インテグリンα10/インテグリンα11の比を用いて、培養軟骨細胞の再分化力および機能を予測し得ること、ならびに軟骨細胞組成物の軟骨細胞の分化状態および機能的効能を計測し得ることが実証される。
【0138】
実施例4.それぞれインテグリンアルファ10ベータ1およびインテグリンアルファ11ベータ1とコラーゲンIIおよびI型との共存を示すペレット培養
マーカーであるインテグリンアルファ10ベータ1とインテグリンアルファ11ベータ1がそれぞれ軟骨および線維性コラーゲンと共存することを実証するために、本発明者らは、IHCおよび免疫蛍光法によりタンパク質発現パターンを検討した。本発明者らは、アスコルビン酸を含むPL(PLA)中、単層で増大された軟骨細胞調製物875から発生したペレットを用い、次にTIDA分化培地の存在下でペレット培養により2週間培養した。ペレットをIHC(図6A)および免疫蛍光法(図6B)により分析して、インテグリンおよびコラーゲンの発現パターンを実証した。
【0139】
免疫蛍光手順
軟骨細胞ペレットをTissueTek(Sakura、日本所在)で包埋し、ドライアイスで凍結させた。8μm切片(MICROM HM 500 OMクリオスタットで作製)をSuperFrost Plusスライドガラス上に採取して、他の抗原に対して生成された抗体と混合された一次抗体、およびフルオロフォアコンジュゲート化二次Ab/Abでの免疫標識に用いた。
【0140】
多重標識のための二次抗体(高親和性精製された、主にFab2断片)を、ウサギ、マウスもしくはヤギIgG、またはニワトリIgYに対してロバまたはヤギで作製し、1%BSAを含有するPBSで希釈した。2つのエピトープの同時蛍光可視化のために、一次および二次抗体を混合物として適用する。
【0141】
結論:IHC染色から、インテグリンアルファ10ベータ1がペレットの中央領域内でコラーゲンII型と明確に共存するが、インテグリンアルファ10ベータ1が存在しない、または少ないペレットの外側の部分でコラーゲンI型が主に見出されることが示される(図6A)。本発明者らは、免疫蛍光法を用いて、インテグリンアルファ10ベータ1とコラーゲンII型との明確な共存を確認し、さらにコラーゲンI型が高濃度であるペレットの外側部分の細胞にインテグリンアルファ11ベータ1が主に存在することを確認した(図6B)。
【0142】
実施例5.軟骨細胞調製物の純度および品質を計測するためのインテグリンアルファ10ベータ1およびインテグリンアルファ11ベータ1のフローサイトメトリー分析
軟骨細胞調製物の品質アッセイとして、インテグリンアルファ10ベータ1およびインテグリンアルファ11ベータ1の発現を評定して同一性および純度を計測することの実行可能性を評価するために、軟骨細胞と線維芽細胞様滑膜細胞の組み合わせを用いた。異なる量の線維芽細胞様滑膜細胞を軟骨細胞調製物に添加して、インテグリンアルファ10ベータ1およびアルファ11ベータ1をフローサイトメトリーにより分析した。健常対象(HFLS)および骨関節炎患者(HFLS-OA)からの線維芽細胞様滑膜細胞に加え、調製物875からの軟骨細胞およびヒト鼻軟骨(HNC)からの軟骨細胞を用いた。アッセイの感度を検討するために、増加量の滑膜細胞(HFLS-OA)を、0.5%~100%HFLS-OAの範囲内でHNC細胞に添加した。
【0143】
結論(I):フローサイトメトリー分析により、インテグリンアルファ11ベータ1がHFLSおよびHFLS-OAで高度に発現されるが、調製物875またはHNCからの軟骨細胞では高度に発現されないことが実証された(図7A)。
【0144】
アッセイの感度を、HNC細胞の調製物中の滑膜細胞(HFLS-OA)の量を増加させることにより検討した場合(図7Bおよび7C)、該分析は、添加されたHFLS-OAのほとんどを捉え、HFLS-OA細胞の最低量(0.5%)さえも検出することができた(図7C)。その結果は、HFLSを用いた場合と類似していた(データは示さない)。このため、フローサイトメトリーによるインテグリンアルファ11ベータ1の分析は、軟骨細胞調製物中で潜在的に混入する線維芽細胞、線維芽細胞様細胞、または他のインテグリンアルファ11ベータ1発現細胞を検出するための効果的方法として働き、軟骨細胞調製物の純度および品質を分析する高感度の方法を提供する。
【0145】
加えて図9に示される通り、ヒト軟骨細胞調製物803(高い効能、図8参照)および842(低い効能、データは示さない)でのインテグリンアルファ10(X軸)、インテグリンアルファ11(Y軸)のフローサイトメトリー分析を実施した。それぞれインテグリンアルファ10およびアルファ11に対する2つの抗体の組み合わせの結合を利用して、該抗体の単一染色および二重染色の度合いを示した。
【0146】
結論(II):このフローサイトメトリー分析から、803が主にインテグリンアルファ10の単一発現を有することが実証され、軟骨細胞の純粋な集団および高度に分化された状態が示される。842は、より大きなインテグリンアルファ11の発現を有し、部分的に脱分化された状態(アルファ11およびアルファ10の両方を有する細胞)、および脱分化され、そして/または混入した細胞(アルファ11のみ)が示される。このことから、インテグリンアルファ10およびアルファ11の組み合わせに対する抗体がインテグリンアルファ10とインテグリンアルファ11との比を定義し、軟骨細胞の分化状態および純度を、つまり軟骨細胞組成物の品質を計測し得ることが実証される。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8
図9