(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040070
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】標的細胞捕捉フィルター及び標的細胞捕捉方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/10 20060101AFI20230314BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20230314BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
G01N1/10 B
G01N33/48 S
C12M1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206663
(22)【出願日】2022-12-23
(62)【分割の表示】P 2021522245の分割
【原出願日】2020-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2019098037
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598062952
【氏名又は名称】株式会社オジックテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100116573
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 幸司
(72)【発明者】
【氏名】中島 雄太
(72)【発明者】
【氏名】北村 裕介
(72)【発明者】
【氏名】安田 敬一郎
(57)【要約】
【課題】 血液などの生体試料中に含まれる標的細胞を簡便に短時間で且つ効率よく分離捕捉するためのフィルターであって、単位面積あたりの捕捉率を向上させた標的細胞捕捉フィルターを提供する。
【解決手段】 液体の中の標的細胞を捕捉する捕捉面を有する標的細胞捕捉フィルターであって、前記標的細胞捕捉フィルターは、前記捕捉面の一部が前記捕捉面に対して垂直な方向に弾性変形して隙間を形成することを可能とする切り込みを複数備え、複数の前記切り込みのうち少なくとも一部は、複数の前記切り込みであって、前記切り込みの最大変形箇所から前記捕捉面の外縁までの最短距離が互いに異なる複数の切り込みである第1切り込み群であり、単位面積当たりの力積に対する弾性変形の変形量が等しいことを特徴とする、標的細胞捕捉フィルターである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の中の標的細胞を捕捉する捕捉面を有する標的細胞捕捉フィルターであって、
前記標的細胞捕捉フィルターは、前記捕捉面の一部が前記捕捉面に対して垂直な方向に弾性変形して隙間を形成することを可能とする切り込みを複数備え、
複数の前記切り込みのうち少なくとも一部は、
複数の前記切り込みであって、前記切り込みの最大変形箇所から前記捕捉面の外縁までの最短距離が互いに異なる複数の切り込みである第1切り込み群であり、
単位面積当たりの力積に対する弾性変形の変形量が等しいことを特徴とし、
前記第1切り込み群に属する複数の前記切り込みのそれぞれが円を形成するように配置され、
前記第1切り込み群に属する複数の前記切り込みは、
入れ子状の図形形状を形成するように配置され、
前記図形形状は複数であり、
前記各図形形状は、半径が異なる複数の円を有して1つの中心を共有する同心円群であり、
前記同心円群の中心は互いに異なり、
前記複数の図形形状が、フィルターの中心と前記複数の同心円群の中心とはいずれも異なって前記フィルターの中心と任意のいずれかの前記同心円群の中心とを結ぶ直線に関して線対称に配置されている、標的細胞捕捉フィルター。
【請求項2】
液体の中の標的細胞を捕捉する捕捉面を有する標的細胞捕捉フィルターを用いた標的細胞捕捉方法であって、
前記標的細胞捕捉フィルターは、前記捕捉面の一部が前記捕捉面に対して垂直な方向に弾性変形して隙間を形成することを可能とする切り込みを複数備え、
複数の前記切り込みのうち少なくとも一部は、
複数の前記切り込みであって、前記切り込みの最大変形箇所から前記捕捉面の外縁までの最短距離が互いに異なる複数の切り込みである第1切り込み群であり、
単位面積当たりの力積に対する弾性変形の変形量が等しいものであり、
前記第1切り込み群に属する複数の前記切り込みのそれぞれが円を形成するように配置され、
前記第1切り込み群に属する複数の前記切り込みは、
入れ子状の図形形状を形成するように配置され、
前記図形形状は複数であり、
前記各図形形状は、半径が異なる複数の円を有して1つの中心を共有する同心円群であり、
前記同心円群の中心は互いに異なり、
前記複数の図形形状が、フィルターの中心と前記複数の同心円群の中心とはいずれも異なって前記フィルターの中心と任意のいずれかの前記同心円群の中心とを結ぶ直線に関して線対称に配置され、
前記標的細胞捕捉フィルターが、前記液体の中で前記標的細胞を捕捉する標的細胞捕捉ステップを含む、標的細胞捕捉方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的細胞捕捉フィルター及び標的細胞捕捉方法に関し、特に、液体の中の標的細胞を捕捉する捕捉面を有する標的細胞捕捉フィルター等に関する。
【背景技術】
【0002】
液体中のターゲット物質(主に細胞や微生物、たんぱく質、エクソソームなど)を選択的に取り出すことは医療、健康、農業などのライフサイエンスやバイオテクノロジー分野において非常に重要な課題となっており、ターゲット物質のみを簡便に短時間でかつ効率よく捕捉する手法が望まれている。
【0003】
本願発明者らは、これまでに血液等の生体試料中に含まれる標的細胞を簡便に短時間で効率よく分離捕捉する標的細胞捕捉装置を提案してきた(特許文献1)。
【0004】
また、特許文献2には、「細胞捕獲通路内においてアビディンを固定しマイクロ流体チップ」を用いて、予め「サンプルにビオチンが修飾されている核酸アプタマを加え、孵化」し、「孵化後の混合溶液をマイクロ流体チップ中に充填し、混合溶液中の目標ガン細胞がビオチンを介してアビディンに結合され、目標ガン細胞の分離を実現する」方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-83265号公報
【特許文献2】中国特許出願公開第103087899号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の捕捉方法(特許文献1及び特許文献2)では、ターゲット細胞の捕捉は可能であるが、単位面積あたりの捕捉率が向上しない問題点を有していた。
【0007】
そこで、本発明は、単位面積あたりの捕捉率を向上させた標的細胞捕捉フィルターを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の第1の観点は、液体の中の標的細胞を捕捉する捕捉面を有する標的細胞捕捉フィルターであって、前記標的細胞捕捉フィルターは、前記捕捉面の一部が前記捕捉面に対して垂直な方向に弾性変形して隙間を形成することを可能とする切り込みを複数備え、複数の前記切り込みのうち少なくとも一部は、複数の前記切り込みであって、前記切り込みの最大変形箇所から前記捕捉面の外縁までの最短距離が互いに異なる複数の切り込みである第1切り込み群であり、単位面積当たりの力積に対する弾性変形の変形量が等しいことを特徴とする、標的細胞捕捉フィルターである。
【0009】
本願発明の第2の観点は、第1の観点の標的細胞捕捉フィルターであって、前記第1切り込み群に属する複数の前記切り込みは、図形形状を形成するように配置され、さらに、前記図形形状は入れ子状に形成されており、入れ子状に配置されている前記図形形状は、内側から外側に向かうほど密に配置されている、標的細胞捕捉フィルターである。
【0010】
本願発明の第3の観点は、第2の観点の標的細胞捕捉フィルターであって、前記入れ子状に配置されている図形形状を複数備える、標的細胞捕捉フィルターである。
【0011】
本願発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点の標的細胞捕捉フィルターであって、前記第1切り込み群に属する複数の前記切り込みの前記線分の長さが等しい、標的細胞捕捉フィルターである。
【0012】
本願発明の第5の観点は、第1から第4のいずれかの観点の標的細胞捕捉フィルターであって、前記第1切り込み群に属する複数の前記切り込みが、同心円を形成するように配置されている、標的細胞捕捉フィルターである。
【0013】
本願発明の第6の観点は、第5の観点の標的細胞捕捉フィルターであって、前記同心円は、半径が小さい順に第1半径を有する第1円、第2半径を有する第2円及び第3半径を有する第3円を有し、前記第2半径と前記第1半径の長さの差は、第3半径と第2半径の長さの差よりも大きい、標的細胞捕捉フィルターである。
【0014】
本願発明の第7の観点は、液体の中の標的細胞を捕捉する捕捉面を有する標的細胞捕捉フィルターを用いた標的細胞捕捉方法であって、前記標的細胞捕捉フィルターは、前記捕捉面の一部が前記捕捉面に対して垂直な方向に弾性変形して隙間を形成することを可能とする切り込みを複数備え、複数の前記切り込みのうち少なくとも一部は、複数の前記切り込みであって、前記切り込みの最大変形箇所から前記捕捉面の外縁までの最短距離が互いに異なる複数の切り込みである第1切り込み群であり、単位面積当たりの力積に対する弾性変形の変形量が等しいものであり、前記標的細胞捕捉フィルターが、前記液体の中で前記標的細胞を捕捉する標的細胞捕捉ステップを含む、標的細胞捕捉方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の観点によれば、標的細胞捕捉フィルターが弾性変形した際の隙間の変形量を等しくしたことにより、標的細胞捕捉フィルターの全面に渡り均等に液体が通過し、フィルター全面での捕捉が可能となる。そのため、フィルターの単位面積あたりの捕捉率を向上させることが可能となる。
【0016】
また、本発明の第2又は第3又は第5の観点によれば、標的細胞捕捉フィルターの剛性を均等にし、従来のフィルターよりも弾性変形した際の変形量が等しくなることによって、フィルター全面での捕捉をさらに容易とする。
【0017】
発明者らは、従来の標的細胞捕捉フィルターの外側部分での捕捉量が極端に少ないことを発見し、その不具合がフィルターの構造的な剛性のアンバランスさにあり、弾性変形した際の隙間に問題があると考えたことから想到したものである。
【0018】
さらに、本発明の第4の観点によれば、切り込みの線分の長さを等しくすることにより、弾性変形する際の隙間の変形量を等しくして、フィルター全面での捕捉をさらに容易とする。
【0019】
本発明の第5の観点によれば、同心円を形成する切り込みにすることによって、通常用いられる円錐形状の容器に適した標的細胞捕捉フィルターの全面に偏りなく隙間を配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】標的細胞捕捉フィルターの切り込みの一例を示す図である。
【
図2】フィルターの切り込みの違いによるターゲット細胞の捕捉密度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0022】
本発明は、主に液体中に存在する目的物質をサイズ選択的かつアフィニティ特異的に分類する3次元フィルター及びこれを用いた標的細胞捕捉方法に関し、特に、液体中に存在する標的細胞を効果的に捕捉する3次元フィルター等に関する。
【0023】
図1(A)は、本実施例に係る標的細胞捕捉フィルター1及び標的細胞捕捉フィルター21を例示した図である。標的細胞捕捉フィルター1及び標的細胞捕捉フィルター21は、使用時以外は板状の形状をしている。また、標的細胞捕捉フィルター1及び標的細胞捕捉フィルター21は、それぞれ、本願請求項における「標的細胞捕捉フィルター」の一例である。
【0024】
図1(A)に示す標的細胞捕捉フィルター1(以下、「複合3Dフィルター1」と称する)は、1つの面(本願請求項における「捕捉面」の一例)内に異なる複数の同心円(本願請求項における「図形形状」及び「同心円」の一例)の形状の切り込み3(本願請求項における「切り込み」の一例)を有する。また、
図1(B)の標的細胞捕捉フィルター21(以下、「等間隔フィルター21」と称する)は、1つの同心円(本願請求項における「図形形状」及び「同心円」の一例)の形状の切り込み3を有する。切り込み3があることにより、面の一部が面に対して垂直な方向に弾性変形して隙間を形成することが可能となる。中心から同心状に隙間が外側にいくほど、面内にて隙間を形成する間隔を狭くすることにより、流体力により弾性変形した際の隙間の幅が等間隔になるようになっている。
【0025】
図2は、標的細胞捕捉フィルターの切り込みの違いによる標的細胞の捕捉密度を測定した結果を示すグラフである。ここで、測定について説明する。ターゲット細胞に予め核酸アプタマ―を修飾し、フィルターとの結合はビオチン-アビディン結合を利用することを考えており、具体的には、ターゲット細胞を含むサンプル溶液中に末端にビオチンを修飾した核酸アプタマ―を導入し、ターゲット細胞と核酸アプタマ―を結合させ、フィルターにアビディンを修飾させるようにしている。そして、フィルターにサンプル溶液を導入することにより、ビオチン-アビディン結合によりターゲット細胞が捕捉される仕組みになっている。
図2に示すように、本実施例に係る等間隔フィルター21と従来のフィルター51を比較すると、等間隔フィルター21においてターゲット細胞の捕捉密度が3倍以上に向上している。さらに、複合3Dフィルター1と従来のフィルター51では、複合3Dフィルター1において、標的細胞の捕捉密度が約20倍に向上していることが分かる。
【0026】
標的細胞捕捉フィルター1及び21は、弾性変形して隙間を形成する切り込み3を複数備え、複数の切り込み3のうち少なくとも一部は、以下の特徴を備える。すなわち、
(1)複数の切り込みであり、
(2)各切り込みの最大変形箇所から標的細胞捕捉フィルターの外縁5までの最短距離が互いに異なる
という特徴を備えている。以下、このような特徴を備える複数の切り込みを「第1切り込み群」(本願請求項における「第1切り込み群」の一例)と称する。
【0027】
また、第1切り込み群は、フィルターの中心を含む領域である中心部7における単位面積当たりの力積に対する弾性変形の変形量と、フィルターの外縁に接する領域である外縁部9における単位面積当たりの力積に対する弾性変形の変形量とが等しい、という特徴も備えている。
【0028】
ここで、変形量は、隙間の面積で表され、隙間の長さと変形した距離の積でおおよそ求めることが可能である。
【0029】
また、標的細胞捕捉フィルター21については、切り込み3の長さを等しくそろえている。外側の同心円ほど切り込みの長さが長い従来のフィルター51と比べて、フィルターの剛性を上げたことにより、3次元形状に変形する前の目詰まりが起こりやすくなり、標的細胞捕捉フィルタ-21上に捕捉対象物が滞留しやすくなった。この点も標的細胞の捕捉率向上につながったと考えられる。
【0030】
他方、標的細胞捕捉フィルター1は、小さな円弧の切り込みほど切り込みの長さが短くなっている。
【0031】
本実施例に係る細胞捕捉フィルターは、中心部と外縁部で同程度にフィルターが弾性変形するため、フィルター全面にわたり液体が均等に通過しやすくなった。このため、中心部も外縁部も単位面積当たりにフィルターが接触する捕捉対象物の量が同程度となり、従来のフィルターに比べて捕捉対象物の大幅な捕捉率向上を可能とした。
【0032】
なお、本実施例では、標的細胞捕捉フィルターが板状であるとしたが、捕捉面を有する形状であれば、板状以外の形状、例えば、薄膜状の形状であってもよい。また、捕捉面は、平面であることに限定されず、曲面であってもよい。