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特開2023-40083炭素コーティングされたマクロポーラスシリコンのアノードを有するバッテリ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040083
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】炭素コーティングされたマクロポーラスシリコンのアノードを有するバッテリ
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20230314BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230314BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20230314BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230314BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230314BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230314BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230314BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230314BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M10/052
H01M4/134
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M10/0569
C01B33/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207663
(22)【出願日】2022-12-23
(62)【分割の表示】P 2019547259の分割
【原出願日】2018-09-06
(31)【優先権主張番号】62/555,580
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510239406
【氏名又は名称】ワシントン ステイト ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】ソン ミンギュ
(72)【発明者】
【氏名】チャ ヨンファン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アノード材料としての使用にとって好適なシリコン材料および関連する生成方法を提供する。
【解決手段】シリコン材料は、マトリックス中における結晶性シリコン214と、当該結晶性シリコンのマトリックス中に分散されたマクロスケールの細孔220と、を含み、当該マクロスケールの細孔は、100ナノメートルを超えるサイズを有することができ、当該マクロスケールの細孔における結晶性シリコンの表面は、炭素216でコーティングされる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
前記第1電極と電気的に連通する電解質であって、複数種の金属イオンを含む電解質と、
前記第1電極から離間され、前記電解質を介して前記第1電極と電気的に連通する第2電極と、
を含むバッテリであって、
前記第2電極は、
マトリックス状の結晶性シリコンと、
前記結晶性シリコンの前記マトリックス中に分散されたマクロスケールの細孔であって、100ナノメートルを超えるサイズを有する前記マクロスケールの細孔と、
を個別に有するシリコン材料の粒子を含有し、
前記マクロスケールの細孔における前記結晶性シリコンの表面は、炭素でコーティングされている、
ことを特徴とするバッテリ。
【請求項2】
前記マクロスケールの細孔における前記結晶性シリコンの前記表面は、炭素でコーティングされている、
請求項1記載のバッテリ。
【請求項3】
前記マクロスケールの細孔は、前記結晶性シリコンの前記マトリックス中にランダムに分散されており、ならびに、
前記マクロスケールの細孔における前記結晶性シリコンの前記表面は、炭素でコーティングされている、
請求項1記載のバッテリ。
【請求項4】
前記マクロスケールの細孔は、前記結晶性シリコンの前記マトリックス中にランダムに分散されており、ならびに、
前記マクロスケールの細孔における前記結晶性シリコンの前記表面は、炭素でコーティングされており、前記炭素は、非結晶形態、半結晶形態、または結晶形態、あるいはそれらの組み合わせである、
請求項1記載のバッテリ。
【請求項5】
前記第1電極は、コバルト酸リチウム(LiCoO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、フッ化リン酸鉄リチウム(LiFePOF)、80%のニッケルと、15%のコバルトと、5%のアルミニウムと、を有するLiNiCoAlO、100%のコバルトを有するLiCoO、100%のマンガンを有するLiMn、33.3%のニッケルと、33.3%のマンガンと、33.3%のコバルトと、を有するLiNiMnCoO、100%の鉄を有するLiFePO、あるいはリチウムコバルトニッケルマンガン酸化物(LiCo1/3Ni1/3Mn1/3)のうちの1つから構成され、
前記電解質は、LiPF、LiAsF、LiClO、LiBF、またはリチウムトリフレートを含有する、
請求項1記載のバッテリ。
【請求項6】
マトリックス状の結晶性シリコンと、
前記結晶性シリコンの前記マトリックス中に分散されたマクロスケールの細孔と、
を含み、
前記マクロスケールの細孔は、100ナノメートルを超えるサイズを有し、
前記マクロスケールの細孔における前記結晶性シリコンの表面は、炭素でコーティングされている、
ことを特徴とするシリコン材料。
【請求項7】
前記マクロスケールの細孔における前記結晶性シリコンの前記表面は、炭素でコーティングされている、請求項6記載のシリコン材料。
【請求項8】
前記マクロスケールの細孔は、前記結晶性シリコンの前記マトリックス中にランダムに分散されており、ならびに、
前記マクロスケールの細孔における前記結晶性シリコンの前記表面は、炭素でコーティングされている、
請求項6記載のシリコン材料。
【請求項9】
前記マクロスケールの細孔は、前記結晶性シリコンの前記マトリックス中にランダムに分散されており、ならびに、
前記マクロスケールの細孔における前記結晶性シリコンの前記表面は、炭素でコーティングされており、前記炭素は、非結晶形態、半結晶形態、または結晶形態、あるいはそれらの組み合わせである、
請求項6記載のシリコン材料。
【請求項10】
前記マクロスケールの細孔は、前記結晶性シリコンの前記マトリックス中にランダムに分散されており、
前記マクロスケールの細孔における前記結晶性シリコンの前記表面は、炭素でコーティングされており、前記炭素は、非結晶形態、半結晶形態、または結晶形態、あるいはそれらの組み合わせであり、ならびに、
前記結晶性シリコンの前記マトリックスは、層化された2次元シリコンモルフォロジーを有する、
請求項6記載のシリコン材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2017年9月7日に出願された、米国特許仮出願第62/555,580号の継続出願であり、当該仮出願に対する優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリは、放電の際にリチウムイオンが負極から正極へと移動し、充電の際に戻るタイプのバッテリである。Liイオンバッテリは、電池を形成するために、カソードとしてのインターカレートされたリチウム化合物および炭素系アノードと接触する電解質を含み得る。リチウムイオンバッテリは、高いエネルギー対重量比と、低いまたは全くないメモリ効果と、使用時でないときの長い電荷保持能力と、を有する。リチウムイオンバッテリは、家電製品における用途に加えて、防衛、自動車、および航空宇宙用途における人気が高まっている。そのような新しい用途は、リチウムイオンバッテリのエネルギー密度を向上させる継続的な必要性を負わせる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明の概要は、後述の詳細な説明においてさらに説明される簡素化された形態において、概念の選択を導入するために提供される。この発明の概要は、権利主張する主題の重要な特徴または不可欠な特徴を識別することを意図するものではなく、権利主張する主題の範囲を限定するために使用されることを意図するものでもない。
【0004】
ある特定のリチウムイオンバッテリは、アノードとして、例えば、グラファイトなどの炭素系材料を使用する。しかしながら、そのような炭素系材料は、リチウムイオンバッテリの充電容量を制限する傾向がある。例えば、炭素系アノードのリチウム化は、約372mA・h/gの充電容量を生じ得るが、その一方で、シリコン(Si)のリチウム化は、約4,200mA・h/gの充電容量を生じ得る。しかしながら、シリコンのリチウム化は、約300%の体積変化を伴い得る。したがって、数回の充電-放電サイクルの後、バルクのシリコン系アノードは、粉々になるであろう。シリコンアノードは、リチウムバッテリ中の電解質との不安定な固体電解質界面(solid-electrolyte interphase)層も形成し得る。そのため、シリコンの乏しい機械的安定性と化学的不動態化特性とは、シリコン電極を、実用的なバッテリシステムに対して不適切にし得る。
【0005】
本開示の技術のいくつかの実施形態は、炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料を含むアノードを有するバッテリシステムを対象とする。当該炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料は、約100nmを超えるマクロスケールの細孔を有する結晶性シリコンを個別に含有する粒子を含み得る。当該結晶性シリコンの内側および外側の表面の両方は、非結晶形態、半結晶形態、または結晶形態、あるいはそれらの混合物の炭素により、少なくとも部分的にコーティングされ得る。実験は、当該炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料の例から構成されるアノードを有するバッテリが、高い電気容量およびサイクル性を示すことを示した。したがって、本明細書において開示されるシリコン材料は、バッテリ用途に対して好適である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示される技術の実施形態により、当該炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料は、CO熱酸化プロセス(CO-OP)を使用して調製され得る。ある特定の実践形態において、当該CO熱酸化プロセスは、金属ケイ化物を形成するために、シリコンと金属または金属混合物との間の初期固相反応を含み得る。好適な金属の例は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、およびバリウム(Ba)を含み得る。実施例としてマグネシウムを使用する固相反応は、以下のとおりであり得る。
2Mg+Si→MgSi
他の実施例において、当該固相反応は、前述の金属の少なくとも2種の混合物(例えば、マグネシウムおよびカルシウムの両方)も使用し得る。したがって、形成される金属ケイ化物は、2成分、3成分、4成分、または他の好適な次数の金属系であり得る。
【0007】
当該固相反応の完了時に、当該CO熱酸化プロセスは、熱反応を含むことができ、当該熱反応において、炭素でコーティングされ、単一反応で複数(例えば、数百)のナノメートルサイズの金属酸化物構造を有する、結晶性シリコンの粒子を形成するために、当該調製された金属ケイ化物は、二酸化炭素(CO)を使用して酸化される。当該熱反応を実施する技術の一例は、アニーリング、そうでなければ、好適な温度(例えば、700℃)においてCO環境下での当該金属ケイ化物の処理を含み得る。そのような条件下において、当該金属ケイ化物(例えば、MgSi)は、例えば、以下のように:
MgSi+CO→Si+C+2MgO
単一反応において、COと反応して、金属酸化物と、シリコンと、炭素と、を形成できる。
【0008】
当該CO熱酸化プロセスは、シリコンマトリックスを形成するために、当該熱反応の結果として得られる複合物から金属酸化物を除去するための酸浸出操作を含み得る。その結果、当該除去された金属酸化物は、ランダムに分散された、または他の好適な方法で分散された、マクロ細孔(例えば、数百ナノメートルのサイズ)を当該シリコンマトリックスに残し得る。そのため、当該金属酸化物(例えば、MgO)は、結晶性シリコンにマクロポーラス構造を作製する犠牲的テンプレートとしての役割を果たし得る。結果として得られる粒子は、炭素コーティングされたマクロポーラスシリコンを含み、バッテリにおけるアノードとしての使用に対して好適であり得る。炭素コーティングは、保護的な固体電解質界面(SEI)を形成し、結果として良好なサイクル性能を支援し得ると考えられる。したがって、CO熱酸化プロセスのいくつかの実施形態は、表面炭素コーティングとシリコン粒子のマクロポーラス構造とを同時にもたらし得る。そのため、例えば、時間のかかる化学蒸着および毒性有機前駆体の炭素化などの別々の炭素コーティング操作は、避けられる。
【0009】
理論に束縛されるわけではないが、金属ケイ化物を形成するために金属または金属混合物の好適な組み合わせおよび/または相対的組成を選択または調節することにより、炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン粒子において、異なるマクロスケールおよび/またはミクロスケールの構造が形成され得ると考えられる。例えば、カルシウムを使用して形成された、シリコンおよび炭素による炭素コーティングされたマクロポーラス粒子のモルフォロジーは、マグネシウムを使用して形成されたモルフォロジーと極めて異なり得る。特に、実験は、カルシウムの使用が、結果として得られるシリコン粒子において、独特な層化された2次元シリコンモルフォロジーをもたらし得ることを示した。したがって、好適な相対的組成(例えば、モル比、割合など)においてマグネシウムをカルシウム(または他の好適な金属)と組み合わせることにより、形成されるシリコン粒子において独特なモルフォロジーをもたらし得る。
【0010】
さらに、当該金属または金属混合物は、固相反応の際に、化学量論的にシリコンよりも過剰にできる。金属または金属混合物の過剰のレベルまたは割合を選択または調節することにより、炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料において、異なるマクロスケールおよび/またはミクロスケールの構造が形成され得るとも考えられる。例えば、前述の実例固相反応において、マグネシウムは、シリコンより10%、20%、30%、40%、またはそれ以上過剰でもよい。当該過剰なマグネシウムは、以下のように、熱反応の際にCOと反応できる。
2Mg+CO→C+2MgO
形成された酸化マグネシウム(MgO)は、酸浸出の際に除去することにより、最終粒子においてマクロスケールの細孔を形成し得る。したがって、マグネシウムの過剰のレベルを調節することにより、結果として得られるシリコン粒子において、様々な数および/または構成のマクロスケールの細孔は、得られる。さらに、当該シリコンの表面上に形成された炭素は、バッテリのアノードに使用される、結果として得られるシリコン粒子の全体としての電気伝導率を高めることができ、これは、サイクル性能に有益であり得る。さらなる実践形態において、当該金属または金属混合物の組成ならびに対応する過剰のレベルまたは割合に対する前述の選択または調節は、結果として得られる炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料において所望のモルフォロジーをもたらすために、併用して適用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】開示される技術の実施形態による、炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料を有するアノードを組み込んだ実例バッテリを示す概略図である。
図1B】開示される技術の実施形態による、炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料を有するアノードを組み込んだ実例バッテリを示す概略図である。
【0012】
図2図1Aおよび図1Bにおける炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料を形成するために好適な実例CO熱酸化プロセスを示す概略図である。
【0013】
図3A】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスの各段階からの対応する生成物の実例走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図3B】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスの各段階からの対応する生成物の実例走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図3C】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスの各段階からの対応する生成物の実例走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図3D】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスの各段階からの対応する生成物の実例走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0014】
図4A】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスの実例生成物のX線回折(XRD)の分析結果を示す。
【0015】
図4B】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスの実例生成物のN吸着-脱着分析の分析結果を示す。
【0016】
図5A】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスを使用して形成される実例生成物のシリコン表面上の球形マクロ細孔および炭素層の実例透過電子顕微鏡(TEM)画像である。
図5B】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスを使用して形成される実例生成物のシリコンマトリックス上の炭素層(破線内エリア)の実例透過電子顕微鏡(TEM)画像である。
【0017】
図5C】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスを使用して形成されるシリコン粒子全体における炭素の概して均一な分布を示す、実例エネルギー分散型X線分光法(EDS)の元素マッピングの結果である。
図5D】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスを使用して形成されるシリコン粒子全体における炭素の概して均一な分布を示す、実例エネルギー分散型X線分光法(EDS)の元素マッピングの結果である。
図5E】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスを使用して形成されるシリコン粒子全体における炭素の概して均一な分布を示す、実例エネルギー分散型X線分光法(EDS)の元素マッピングの結果である。
【0018】
図5F】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスを使用して形成されるシリコン粒子においてMgOが効率的に除去されたことおよび炭素の存在を示す、酸浸出の前後での実例ラマン分光法の結果を示す。
【0019】
図6A】開示される技術の実施形態による、ガス状COの初期バルク拡散の際のガス状COとMgSiとの間の実例反応速度論を示す概略図である。
図6B】開示される技術の実施形態による、MgO/Si/C複合物の早期形成を引き起こす表面拡散を示す概略図である。
図6C】開示される技術の実施形態による、MgSiと拡散したCOとの間の後続の反応を示す概略図である。
【0020】
図7A】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスを使用して形成される炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料を組み込んだバッテリの実例第1サイクル電圧プロファイルを示す。特に、図7Aは、それぞれ約2732mA・h/gおよび2273mA・h/gのリチウム化および脱リチウム化容量を示しており、これは、結果として>83.2%のクーロン効率をもたらすことを示す。図7Aは、差し込み図も含み、当該差し込み図は、約0.05Vにおいて鋭いピークを示す第1サイクルに対するdQ/dVプロットを示しており、これは、非結晶性Siへの結晶性Siの相転移を示す。
【0021】
図7B】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスを使用して形成される炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料を組み込んだバッテリの、1.0Cレートにおいて約1000mA・h/gの比容量を示し、0.2Cレートにおいて約2000mA・h/gに回復する、実例レート特性の結果を示す。
【0022】
図7C】開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスを使用して形成される炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料を組み込んだバッテリの0.2、0.5、0.8、および1.0のCレートに対する代表的な実例電圧プロファイルを示す。
【0023】
図7D】開示される技術の実施形態による、実例バルクのシリコン材料、MgSiの空気酸化によるシリコン、およびCO熱酸化プロセスによる炭素コーティングされたマクロポーラスシリコンにおける、0.2Cレートサイクル性能の比較を示す。
【0024】
図7E】開示される技術の実施形態による、様々なサイクルにおける炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料の実例リチウム化-脱リチウム化プロファイルを示す。
【0025】
図8A】開示される技術の実施形態による、層化されたシリコン/炭素複合物の実例SEM画像を示す。
【0026】
図8B】開示される技術の実施形態による、主要相が、出発材料におけるFeの存在に起因すると考えられるおよそ<10重量%のFeSiを伴う結晶性Siであることを示すエクスサイチュ(ex-situ)XRD分析の実例結果を示す。
【0027】
図8C】開示される技術の実施形態による、0.5Cレートにおける層化された2次元シリコン/炭素複合物の実例サイクル性能を示す。
【0028】
図9A】CO熱酸化プロセスの際のMgSiの実例インサイチュ(in-situ)高温XRD(HT-XRD)分析を示す。特に、図9Aは、約500℃において始まる、MgOおよびSiの相展開ならびにMgSiピーク強度の減少を示す。
【0029】
図9B】開示される技術の実施形態による、SiおよびMgOの明確な相展開を示すインサイチュHT-XRDの際の実例ピーク強度変化を示す。
【0030】
図9C】温度変化に対して、Siピーク強度における明白な変化が見られる、約2Θ=28°-29°、42°-44°、および39°-40°における、拡大された実例インサイチュHT-XRDピークを示す。
図9D】温度変化に対して、MgOピーク強度における明白な変化が見られる、約2Θ=28°-29°、42°-44°、および39°-40°における、拡大された実例インサイチュHT-XRDピークを示す。
図9E】温度変化に対して、MgSiピーク強度における明白な変化が見られる、約2Θ=28°-29°、42°-44°、および39°-40°における、拡大された実例インサイチュHT-XRDピークを示す。
【0031】
図10】開示される技術の実施形態による、空気(またはO)酸化と比較した、MgSi形成および後続のMgSiのCO熱酸化プロセスに対する様々な温度での実例Gibbs自由エネルギーを示す。
【0032】
図11A】MgSiの完全な転化に対する温度(600℃-800℃)の影響を調査するための実例エクスサイチュXRD分析を示す。
図11B】MgSiの完全な転化に対する保持時間(50分-600分)の影響を調査するための実例エクスサイチュXRD分析を示す。
【0033】
図12A】50分の保持時間に対する700℃でのMgO+Si+C複合物の実例SEM画像を示す。
図12B】50分の保持時間に対する700℃でのMgO+Si+C複合物の実例SEM画像を示す。
図12C】100分の保持時間に対する700℃でのMgO+Si+C複合物の実例SEM画像を示す。
図12D】100分の保持時間に対する700℃でのMgO+Si+C複合物の実例SEM画像を示す。
図12E】200分の保持時間に対する700℃でのMgO+Si+C複合物の実例SEM画像を示す。
図12F】200分の保持時間に対する700℃でのMgO+Si+C複合物の実例SEM画像を示す。
図12G】400分の保持時間に対する700℃でのMgO+Si+C複合物の実例SEM画像を示す。
図12H】400分の保持時間に対する700℃でのMgO+Si+C複合物の実例SEM画像を示す。
図12I】600分の保持時間に対する700℃でのMgO+Si+C複合物の実例SEM画像を示す。
図12J】600分の保持時間に対する700℃でのMgO+Si+C複合物の実例SEM画像を示す。これらの図は、粒子サイズ全体はあまり変わらないが、モルフォロジーは50分-400分の保持時間により著しく変わることを示す。
【0034】
図13】開示される技術の実施形態による、CaSiによるCO熱酸化プロセス後のCaO+Si+C複合物(下側)、およびCaO除去後のSi+C複合物(中央および上側)の実例XRDパターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(詳細な説明)
バッテリシステム、デバイス、関連する製造方法の様々な実施形態が、本明細書において開示される。当該技術は、一例としてリチウムイオンバッテリを使用して、以下において説明されるが、他の実施形態では、当該技術は、(例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、カドミウムイオン、または銅イオンを含有する)他のタイプのバッテリ、化学センサ、有機薄膜トランジスタ、電気機械アクチュエータ、気体分離膜、燃料電池、および/または他の好適な電子部品に適用されてもよい。以下の説明において、部品についての特定の詳細は、開示される技術のある特定の実施形態の十分な理解を提供するために含められる。当業者は、開示される技術が、追加の実施形態を有し得ること、または図1A図13を参照しながら後述したとおりの実施形態のいくつかの詳細なしに実践され得ることも理解するであろう。
【0036】
ある特定のリチウムイオンバッテリは、アノードとして、例えば、グラファイトなどの炭素系材料を使用する。しかしながら、そのような炭素系材料は、リチウムイオンバッテリの充電容量を制限する傾向がある。例えば、炭素系アノードのリチウム化は、約372mA・h/gの充電容量を生じ得るが、その一方で、シリコン(Si)のリチウム化は、約4,200mA・h/gの充電容量を生じ得る。しかしながら、シリコンのリチウム化は、約300%の体積変化を伴い得る。したがって、数回の充電-放電サイクルの後、バルクのシリコン系アノードは、粉々になるであろう。シリコンアノードは、リチウムバッテリ中の電解質との不安定な固体電解質界面層も形成し得る。そのため、シリコンの乏しい機械的安定性と化学的不動態化特性とは、シリコン電極を、実用的なバッテリシステムに対して不適切にし得る。
【0037】
本開示の技術のいくつかの実施形態は、炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料を含むアノードを有するバッテリシステムを対象とする。当該炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料は、約100nmを超えるマクロスケールの細孔を有する結晶性シリコンを個別に含有する粒子を含み得る。当該結晶性シリコンの内側および外側の表面の両方は、非結晶形態、半結晶形態、または結晶形態、あるいはそれらの混合物の炭素により、少なくとも部分的にコーティングされ得る。実験は、そのような炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料の例から構成されるアノードを有するバッテリが、高い電気容量およびサイクル性を示すことを示した。さらに、当該シリコン材料の例は、下記においてより詳細に説明されるように、単一反応で結晶性シリコンおよびコーティングされた炭素を形成するために、CO熱酸化プロセスを使用して生成され得る。
【0038】
図1Aは、当該技術の実施形態による、放電の際の実例リチウムイオンバッテリ100の概略図であり、図1Bは、当該技術の実施形態による、充電の際の当該リチウムイオンバッテリ100の概略図である。図1Aおよび図1Bに示されるように、当該リチウムイオンバッテリ100は、アノード104と、カソード106と、電解質108と、当該電解質108中における任意選択の膜110と、を保持する容器102を含み得る。図1Aおよび図1Bには、ある特定の部品のみが示されているが、他の実施形態では、当該リチウムイオンバッテリ100は、絶縁体、ガスケット、ベント穴、および/または他の好適な部品(不図示)も含み得る。さらなる実施形態において、当該膜110は、省略されてもよい。
【0039】
カソード106は、層化された酸化物(例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO))、ポリアニオン(例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO))、またはスピネル(例えば、マンガン酸リチウム(LiMn))から構成され得る。カソード106のための他の好適な材料は、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、フッ化リン酸鉄リチウム(LiFePOF)、リチウムコバルトニッケルマンガン酸化物(LiCo1/3Ni1/3Mn1/3)、Li(LiNiMnCo)O、および/または他の好適なカソード材料を含み得る。カソード106にとって好適な金属組成物の追加の例は、以下:
・80%のニッケルと、15%のコバルトと、5%のアルミニウムと、を有するLiNiCoAlO
・100%のコバルトを有するLiCoO
・100%のマンガンを有するLiMn
・33.3%のニッケルと、33.3%のマンガンと、33.3%のコバルトと、を有するLiNiMnCoO
・100%の鉄を有するLiFePO
も含み得る。
【0040】
ある特定の実施形態において、電解質108は、例えば、リチウムイオンの錯体を含むエチレンカーボネートまたはジエチルカーボネートなどの有機カーボネートの非水性溶液を含み得る。電解質108は、例えば、LiPF、LiAsF、LiClO、LiBF、およびリチウムトリフレートなどの非配位性アニオン塩を含有し得る。他の実施形態において、電解質108は、リチウム塩および/または他の好適な組成物の水性および/または部分的水性溶液を含んでもよい。
【0041】
アノード104は、少なくとも部分的に、炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料で構成され得る。当該炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料は、ランダムにまたは他の好適な方法でその中に分散された約100nmを超えるマクロスケールの細孔を有する結晶性シリコンを個別に含有する粒子を含み得る。当該結晶性シリコンの内側および外側の表面の両方は、非結晶形態、半結晶形態、または結晶形態、またはそれらの混合物の炭素により、少なくとも部分的にコーティングされ得る。そのようなシリコン材料は、本明細書において説明されるCO熱酸化プロセスを使用して形成され得る。当該結晶性シリコンのマクロスケールの細孔の数および/または分布ならびにモルフォロジーは、図2図13を参照しながら下記においてより詳細に説明されるように、金属ケイ化物の選択または当該金属ケイ化物を形成する金属の過剰のレベルのうちの1つまたは複数を調節することにより制御され得る。
【0042】
図1Aに示されるように、放電の際、リチウムイオン112は、アノード104から抽出され、電解質108を介してカソード106に向かって移動する。当該リチウムイオン112は、任意選択の膜110を通過し、カソード106内へと挿入される。結果として、電流114は、カソード106から、負荷116を通ってアノード104へと流れる。図1Bに示されるように、充電の際、充電器118は、カソード106に充電電流120を提供する。当該充電電流120は、リチウムイオン112をカソード106から抽出させて、アノード104に向かって移動させる。当該リチウムイオン112は、任意選択の膜110を通過し、例えば、合金化および/または、そうでなければ、アノード104の材料と結合することにより、アノード104内に挿入される。
【0043】
リチウムイオンバッテリ100のいくつかの実施形態は、アノードに炭素系材料を使用する従来のバッテリより高い充電容量を有し得る。例えば、前述のとおり、炭素系アノードを有する従来のリチウムイオンバッテリは、約372mA・h/gの充電容量を有し得るが、その一方で、リチウムイオンバッテリ100のいくつかの実施形態は、約2,000mA・h/gの充電容量を有し得る。結果として、リチウムイオンバッテリ100の充電容量は、従来のリチウムイオンバッテリと比較して向上し得る。
【0044】
リチウムイオンバッテリ100のアノード104のいくつかの実施形態は、向上した充電/放電サイクル性を有し得る。理論に束縛されるわけではないが、アノード104のいくつかの実施形態は、結晶性シリコンのマクロ細孔が収縮および拡張し得ることから、リチウムの挿入に関連する大きな体積変化に適応できると考えられる。例えば、当該マクロ細孔は、全体として、アノード104を粉々にすることも、および/または他の構造破壊を生じることもなく、リチウムの挿入の際に収縮し、リチウムの抽出の際に拡張し得る。シリコン材料上の炭素コーティングは、リチウムバッテリ中の電解質との不安定な固体電解質界面層の形成からシリコンを保護することもできると考えられる。そのため、アノード104を実用的なバッテリシステムに対して好適にするために、当該シリコン材料の化学的不動態化特性は向上し得る。
【0045】
図2は、図1Aおよび図1Bにおける炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料を形成するために好適な実例CO熱酸化プロセスを示す概略図である。図2において、開示される技術の態様を示すために、ケイ化マグネシウム(MgSi)が使用された。他の実践形態において、CO熱酸化プロセスにおいて、マグネシウムに加えて、またはマグネシウムの代わりに、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、または他の好適な金属が使用されてもよい。
【0046】
当該CO熱酸化プロセスの初期段階は、金属とシリコンとの間の固相反応200を含み得る。例えば、図2に示されるように、シリコン/マグネシウム混合物210を形成するために、元素マグネシウム(Mg)およびシリコン(Si)粉末は、混合され得る。ある特定の実施形態において、当該マグネシウムおよびシリコンは、MgSiの化学量論比であり得る。他の実施形態において、当該マグネシウムは、MgSiへのSiの完全な転化を確保するために、MgSiの化学量論比を超え得る。次いで、固相反応200は、以下のように:
2Mg+Si→MgSi
MgSiの金属間相212を得るために、ある期間(例えば、約10時間)にわたって、不活性(例えば、アルゴン)環境下において、反応温度(例えば、約500℃)でシリコン/マグネシウム混合物を加熱する工程を含み得る。他の実施例において、当該固相反応200は、例えば、スズ化マグネシウム(MgSn)およびMgCuなどの金属間化合物を形成するために、他の好適な金属を反応させる工程を含み得る。
【0047】
当該固相反応200に続いて、当該CO熱酸化プロセスは、形成された金属間化合物が二酸化炭素により酸化される熱反応202も含み得る。例えば、図2に示されるように、以下のように:
MgSi+CO→2MgO+Si+C
二酸化炭素によりケイ化マグネシウムを酸化できる。上記に示されるように、熱反応202の生成物は、炭素216でコーティングされた結晶性シリコン214のマトリックスと、当該結晶性シリコン214中にランダムにまたは他の好適な方法で分散された酸化マグネシウム(MgO)218と、を含み得る。炭素216は、非結晶形態、半結晶形態、または結晶形態、あるいはそれらの組み合わせであり得る。当該マグネシウムがMgSiの化学量論比を超える実施形態において、当該過剰なマグネシウムは、さらなる酸化マグネシウム218および炭素を形成するために、以下のように:
2Mg+CO→2MgO+C
二酸化炭素と反応し得る。
【0048】
当該熱反応202の完了時に、CO熱酸化プロセスはさらに、酸浸出反応204を含むことができ、当該酸浸出反応では、フッ化水素酸(HF)、塩酸(HCl)、または他の好適なタイプの酸を使用して、金属酸化物(例えば、MgO)が結晶性シリコン214から除去される。したがって、図2に示されるように、酸浸出反応206の後、結晶性シリコン214にマクロスケールの細孔220を形成するために、当該酸化マグネシウムが除去される。結晶性シリコン214の内側および外側の表面の両方は、炭素216で覆われ得る。そのため、当該CO熱酸化プロセスを使用することにより、マクロスケールの細孔および表面の炭素216を有する結晶性シリコン214の粒子は、効率的に形成され得る。当該CO熱酸化プロセスの段階における様々な生成物のモルフォロジーの変化については、図3A図3Dを参照しながら下記においてより詳細に説明する。
【0049】
図3A図3Dは、開示される技術の実施形態による、モルフォロジーにおける変化を示すための、図2のCO熱酸化プロセスの各段階からの実例生成物の実例走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。図3Aに示されるように、出発シリコン粉末は、滑らかなファセットおよび約15μmの平均粒径を示し、それらは、マグネシウム粉末との熱反応202の後に、ゴツゴツした塊(図3Bに示される)へと劇的に変化する。SiからMgSiへの移行は、粒径の増加(例えば、約20μm)をもたらしてもよい。当該固相反応200に基づいて、a=0.543nmの格子定数を有するSiダイアモンド立方晶構造から、a=0.634nmの格子定数を有するMgSiの逆蛍石型構造への相転移の際に、およそ160%の体積増加が生じてもよい。
【0050】
マグネシウムは、シリコンとの固相反応200の際の主要な拡散種であると考えられる。一般的に、より低い融点を有する物質は、比較的弱い原子結合およびより大きいモル体積を有し、それは、より高い融点を有する物質と比べてより速い拡散を可能にする。示された実施例において、MgおよびSiの融点は、それぞれ、650℃および1414℃である。したがって、Mgは、Siマトリックスの最も深い部分へとより容易に拡散することができ、したがって、MgSiの金属間相への完全な変化を可能にする。続いて、熱反応202の際に、MgSiの熱酸化が生じ、酸化マグネシウム218と、結晶性シリコン214と、炭素216とによる複合物を生じる。
【0051】
図3Cに示されるように、熱反応202の後の当該複合物のモルフォロジーは、表面に多数の斑点を有する不規則な形状の塊であった。酸浸出反応204の際、酸化マグネシウム218を除去することにより図3Dに示されるポーラス構造を供給するために、酸浸出工程を実施した。例えば、MgOおよび場合によりSiOなどの除去された酸化物は、結晶性シリコン214にマクロポーラス構造を作製する犠牲的テンプレートとしての役割を果たした。当該マクロスケールの細孔は、Si系アノード材料にとって望ましいと考えられ、より高いタップ密度に貢献し得る。タップ密度は、典型的に、体積変化がほとんど観察されなくなるまで、容器を機械的にタップすることによって測定される。タップ密度は、試験される材料のサイズおよび多孔性に密接に関連すると考えられる。ある特定の実験において、炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料は、市販のナノサイズのシリコン粉末よりおよそ3倍高いタップ密度を示した。
【0052】
図4Aは、開示される技術の実施形態による、CO熱酸化プロセスの実例生成物のX線回折(XRD)の分析結果を示す。当該XRD分析は、シリコンから、ケイ化マグネシウムへ、酸化マグネシウムとシリコンと炭素とによる複合物へ、最終的にシリコン/炭素複合物への移行の様々な段階を示した。当該実例シリコン材料に対して実施したN吸着-脱着分析は、酸浸出工程の前後における試料のBET表面積が15.1m/gおよび67.6m/gであることを示しており、これは、マクロポーラス構造と、典型的なナノ設計されたSi系アノード材料と比べて比較的低い表面積と、を作製する犠牲的テンプレートとしての酸化マグネシウム218の役割を示している。さらに、図5Aおよび図5BのSEMおよびTEMの高倍率画像は、酸浸出工程の後のSi/C複合物が、100nmを超えるサイズのポーラス構造と、多孔性の結晶性シリコン上における炭素の概して均一な層と、を示すことを示す。
【0053】
金属間化合物によるCO熱酸化プロセスを介した炭素216の形成を例示するために、EDS元素マッピング(図5C図5Eに示される)およびラマン分光法(図5Fに示される)を実施した。EDSの結果において、当該粒子全体における炭素の概して均一な分布が確認された。ラマン分析における約1350/cm(Dバンド)および1580/cm(Gバンド)の2つのピークは、当該試料中の炭素の存在を示す。DバンドおよびGバンドの強度は、およそ1:1であり、これは、当該CO熱酸化プロセスにより合成された炭素は、非結晶炭素(または無秩序な炭素)および黒鉛状炭素の混合物であったことを示す。
【0054】
ガス状COとMgSiとの間の反応メカニズムは、図6A図6Cに示されるように、当該転化全体を通してガス状COの挙動に基づく3つの拡散段階を含み得る。最初、図6Aに示されるように、CO分子は、バルクのガス層を通って、MgSi表面に向かって移動する。次いで、図6Bに示されるように、MgSi粒子の外側に沿ったCO分子の表面拡散が生じ、MgSiの第1酸化反応が生じ、これは、表面においてMgO+Si+C複合物の形成を引き起こす。最初の表面のMgO+Si+C複合物層の形成の後、MgSiの内側へのCOガス分子の連続供給は、概して完全な転化が達成されるまでMgSi内部との酸化反応を連続的に促進するために、新たに形成されたMgO+Si+C複合物層を通じたCO分子の粒子間/粒子内拡散により、達成できる。
【0055】
実験の際に生成された実例炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料の電気化学特性(例えば、サイクル性能およびレート特性)を評価した。図7Aに示されるように、それぞれ、約2732mA・h/gおよび約2273mA・h/gの初期リチウム化および脱リチウム化容量が観察された。そのような容量は、約83.2%の初期クーロン効率に対応する。さらに、当該炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料は、1.0Cレートにおいておよそ1000mA・h/gの良好なレート特性(図7Bに示される)も示し、これは、0.2Cレートにおいて2000mA・h/gに回復した。各Cレートにおける代表的なリチウム化/脱リチウム化プロファイルは、図7Cに示され、これは、サイクルの際の非結晶シリコンの相転移を示す。図7Dおよび図7Eにおいて、当該Si/C複合物の0.2Cレートにおけるサイクル性能を、バルクのSiおよび空気酸化されたSi試料と比較した。結果は、400サイクルを超える実例シリコン材料の良好なサイクル安定性が、サイクルの際の約87%の容量保持および典型的なリチウム化/脱リチウム化相転移を示すことを示した。
【0056】
図8A図8Cおよび図13に示されるように、CO熱酸化プロセスによるCaSiの試験も実施した。これらの結果は、COにより酸化される強い熱力学的傾向を有することに対して、CaSiも好適であることを示した。CaSiからの反応生成物の最終モルフォロジーは、結果として歪んで層化された2次元シリコンモルフォロジーを生じるCaSiの独特な結晶構造におそらく起因して、MgSiと異なる。CaSiのCO熱酸化プロセスによる、層化したモルフォロジーを有するSi/C複合物は、90回のサイクルにおいて約1000mA・h/gの安定なサイクル性能を示す(図8Cに示される)。
【0057】
図9Aは、CO熱酸化プロセスの際のMgSiの実例インサイチュ高温XRD(HT-XRD)分析を示す。図9Aに示されるように、MgOおよびSiの相展開ならびにMgSiのピーク強度の減少は、明らかに約500℃において始まるように見える。図9Bは、SiおよびMgOの明確な相展開を示す、インサイチュHT-XRDの際の実例ピーク強度変化を示す。図9C図9Eは、温度変化に対する、それぞれ、Si、MgO、およびMgSiのピーク強度における明確な変化が見られる、約2Θ=28°-29°、42°-44°、および39°-40°における、拡大された実例インサイチュHT-XRDピークを示す。図9A図9Eに示されるように、MgOおよびSiの相展開ならびにMgSiピーク強度の減少は、明らかに約500℃において始まるように見える。
【0058】
図10は、開示される技術の実施形態による、空気(またはO)酸化と比較した、MgSi形成および後続のMgSiのCO熱酸化プロセスに対する様々な温度での実例Gibbs自由エネルギーを示す。図10に見られるように、この酸化反応のための熱力学的駆動力は十分であり(700℃においてΔG=-519kJ/mol)、MgSiへのマグネシウムの犠牲的転化は、容易に進行し得る。CO環境下において、当該反応は、空気中よりはるかに穏やかな発熱反応である。
【0059】
図11Aおよび図11Bは、それぞれ、MgSiの完全な転化に対する温度(600℃-800℃)および保持時間(50分-600分)の影響を調査するための実例エクスサイチュXRD分析を示す。図11Aおよび図11Bに示されるように、約650℃-約800℃の温度および約100分-約600分の保持時間は、二酸化炭素との反応により、MgSiを酸化マグネシウム、シリコン、および炭素へ転化させるのに十分であり得る。
【0060】
図12A図12Jは、50分、100分、200分、400分、および600分の様々な保持時間に対する700℃でのMgO+Si+C複合物の実例SEM画像を示す。これらの図は、粒子サイズ全体はあまり変化しないが、モルフォロジーは50分-400分の保持時間により著しく変わることを示す。図12A図12Jに示されるように、粒子サイズ全体はあまり変化したようには見えないが、モルフォロジーは50分-400分の保持時間により著しく変わる。このモルフォロジーの変化は、例えば、バルクのMgSi中へのCOの拡散およびMgSi+CO→2MgO+Si+Cの反応速度などの酸化反応の反応速度論に密接に関連すると考えられる。
【0061】
図13は、開示される技術の実施形態による、CaSiによるCO熱酸化プロセス後のCaO+Si+C複合物(下側)、およびCaO除去後のSi+C複合物(中央および上側)の実例XRDパターンを示す。図13に示されるように、不純物相(FeSi)の減少は、HF浸出後に明確に見られる。
【0062】
(実験)
熱力学的実現可能性研究、インサイチュ相展開分析、およびCO熱酸化反応の徹底的な微細構造キャラクタリゼーションを含む、モデル系として金属間化合物(MgSiおよびCaSi)を使用したCO熱酸化プロセスの特定の実験を実施した。
【0063】
当該CO熱酸化プロセスは、例えば、リチウムバッテリなどの先進的なエネルギー貯蔵システムのための好適なアノード材料を製作するために効果的な方法であることが見出された。当該反応生成物は、優れた長期サイクル安定性および中程度のレート特性を示した。これらの結果は、酸化金属間化合物による、提案されたCO熱酸化プロセスが、機能性エネルギー材料の形成に関して、COガスの再利用および利用のための道筋であることを示した。
【0064】
ケイ化マグネシウムの合成
市販のシリコン金属粉末を購入した。手作業により、1グラムのシリコン粉末および2グラムのマグネシウム粉末を混合した後、当該混合物をステンレス鋼のオートクレーブ反応器に入れ、不活性環境下においてしっかりと密封した。ケイ化物へのシリコンの完全な転化を確保するために、MgSiの化学量論比を超える過剰なマグネシウムを使用した。空気への曝露を抑えるために、当該反応器を密封する前に、少なくとも3回の不活性ガスによるパージを行った。密封後、当該反応器を、1℃/分の昇温速度において500℃に設定した加熱条件の管状炉に10時間入れ、次いで、室温まで自然に冷ました。
【0065】
Mg SiのCO 熱酸化プロセス
調製したケイ化マグネシウムの2グラムを細砕し、アルミナるつぼに広げた。次いで、当該るつぼを、二酸化炭素ガス流入下で、1℃/分の昇温速度において700℃に設定した管状炉に10時間入れた。当該加熱処理後、結果として得られる粉末を、酸化マグネシウムを除去するために1mol/Lの塩酸に少なくとも2時間浸漬し、その後、吸引ろ過し、60℃で一晩乾燥させた。
【0066】
材料のキャラクタリゼーション
結晶構造および材料組成を調査するために、X線回折計、すなわち、XRDを使用した。電界放出型走査電子顕微鏡(FEI Quanta 200F)および透過電子顕微鏡(200kVのLaB電子源を備えるFEI Technai G2 20Twin)を使用して、粉末モルフォロジーをキャラクタライズした。さらに、元素分析を実施するために、エネルギー分散型分光法(Tescan Vega3)を使用した。インサイチュ合成した後のシリコン/炭素複合物の炭素の構造を調査するために、ラマン分光法(532nmのレーザを備えるHoriba LabRAM HRシステム)を使用した。Anton Paar XRK900S高温室を備えるRigaku Smartlabを使用して、インサイチュXRDデータを収集した。当該XRDデータは、加熱および冷却の間、連続的に記録した。各スキャンは、およそ30分を要し、スキャン範囲(2Θ)は、シリコン、ケイ化マグネシウム、酸化マグネシウム、および炭素の全ての主要ピークを検出できる、20°-50°であった。
【0067】
電気化学特性の測定
当該シリコン/炭素複合物の電気化学特性を評価するために、作用電極としての合成したままの炭素コーティングされたマクロポーラスシリコンと、対電極としてのリチウム金属チップ(MTI)と、を有する2032コイン電池。当該電極は、精製された蒸留水中の、炭素コーティングされたマクロポーラスシリコン材料(60重量%)と、Super P45カーボンブラック導電剤(20重量%)と、ポリ(アクリル酸)(PAA、100g/モルの平均分子量、Sigma Aldrich)/カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、高純水中における5重量%、Sigma Aldrich)バインダ(20重量%、PAA:CMC=1:1重量比)と、から成るスラリーを、銅ホイル(集電体)の上に均等に広げて真空乾燥させる、スラリーキャスト法により調製した。
【0068】
使用する電解質は、10重量%のフルオロエチレンカーボネート(FEC)添加剤を含むエチレンカーボネート(EC)/ジエチレンカーボネート(DEC)(体積比3:7)中における1.3モル/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)であった。バッテリサイクル試験のための電流条件は、以下のとおりであった:第1活性化サイクルに対して、組み立てられた各コイン電池の見掛け上の容量を測定するために、0.05Cレート(非常に遅い電流)を適用した。第1サイクル(1Cレート)からの容量に基づいて、後続のサイクル試験は、0.01Vと1.2Vの電圧の範囲の間において、0.2Cレートで実施した。それに応じて、各コイン電池の見掛け上の容量に基づいて、後続のサイクル試験のための電流条件を再計算(または調節)した。後続のサイクル試験は、0.01Vと1.2Vの電圧の範囲の間において、0.2Cレートで実施した。
【0069】
前述のことから、本開示の特定の実施形態が例示の目的のために本明細書において説明されているが、本開示から逸脱することなく、様々な変更が為され得ることは、理解されるであろう。さらに、一実施形態の要素の多くは、他の実施形態の要素に加えて、またはその代わりに、当該他の実施形態と組み合わされてもよい。したがって、当該技術は、添付の特許請求の範囲以外により限定されることはない。

図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A-5B】
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C-9E】
図10
図11A-11B】
図12A-12J】
図13