(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040092
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230314BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230314BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230314BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 E
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208567
(22)【出願日】2022-12-26
(62)【分割の表示】P 2018241691の分割
【原出願日】2018-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治朗
(72)【発明者】
【氏名】横山 潤
(72)【発明者】
【氏名】小向 哲史
(57)【要約】 (修正有)
【課題】リチウムイオン二次電池とした場合に高出力化が図れるリチウムイオン二次電池用正極活物質の提供。
【解決手段】リチウム金属複合酸化物粉末を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、前記リチウム金属複合酸化物粉末は、一般式:Li
zNi
1-x-yCo
xM
yO
2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、結晶構造が層状構造であるリチウム金属複合酸化物の粒子と、前記リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に配置されたタングステン酸リチウムの被覆と、を有する被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子を含んでおり、前記被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子の表面のうち、タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比が50%以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属複合酸化物粉末を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物粉末は、
一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、結晶構造が層状構造であるリチウム金属複合酸化物の粒子と、前記リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に配置されたタングステン酸リチウムの被覆と、を有する被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子を含んでおり、
加速電圧5kV、観察倍率0.1kの観察条件によるSEM観察により、観察場所を変えて5枚の観察像を得て、5枚の前記観察像について二値化処理を行い、前記被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子の表面を、前記タングステン酸リチウムの粒径が200nmより大きい部分および膜厚が200nmより厚い部分である前記タングステン酸リチウムの濃縮部分と、前記タングステン酸リチウムの濃縮部分以外の部分とに分離した場合に、前記被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子の表面のうち、前記タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比が50%以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解質等で構成され、負極および正極の活物質には、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、現在研究開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
これまで主に提案されている正極活物質としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)などを挙げることができる。
【0006】
このうちリチウムニッケル複合酸化物は、高い電池容量が得られる材料として注目されている。さらに、近年では高出力化に必要な低抵抗化が重要視されている。上記低抵抗化を実現する方法として異元素の添加が用いられており、とりわけW、Mo、Nb、Ta、Reなどの高価数をとることができる遷移金属が有用とされている。
【0007】
また、近年ではさらなる高出力化が求められており、各種検討がなされている。
【0008】
例えば特許文献1には、一般式LizNi1-x-yCoxMyO2(ただし、0.10≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦z≦1.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される一次粒子および前記一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物であって、前記リチウム金属複合酸化物の表面に、Li2WO4、Li4WO5、Li6W2O9のいずれかで表されるタングステン酸リチウムを含む微粒子を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【0009】
また、特許文献2~4においても、リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面にタングステン酸リチウムを形成した例が開示されている。
【0010】
特許文献1~4に開示された非水系電解質二次電池用正極活物質においては、リチウム金属複合酸化物粉末の表面に上記タングステン酸リチウムを含む微粒子を形成させることで、電解液との界面でリチウムの伝導パスを形成するため、活物質の反応抵抗を低減して出力特性を向上させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013-125732号公報
【特許文献2】特開2016-110999号公報
【特許文献3】特開2016-111000号公報
【特許文献4】特開2016-127004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、リチウムイオン二次電池とした場合に、より高出力化が図れるリチウムイオン二次電池用正極活物質が求められている。
【0013】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、リチウムイオン二次電池とした場合に、高出力化が図れるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、リチウム金属複合酸化物粉末を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物粉末は、
一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、結晶構造が層状構造であるリチウム金属複合酸化物の粒子と、前記リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に配置されたタングステン酸リチウムの被覆と、を有する被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子を含んでおり、
加速電圧5kV、観察倍率0.1kの観察条件によるSEM観察により、観察場所を変えて5枚の観察像を得て、5枚の前記観察像について二値化処理を行い、前記被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子の表面を、前記タングステン酸リチウムの粒径が200nmより大きい部分および膜厚が200nmより厚い部分である前記タングステン酸リチウムの濃縮部分と、前記タングステン酸リチウムの濃縮部分以外の部分とに分離した場合に、前記被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子の表面のうち、前記タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比が50%以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン二次電池とした場合に、高出力化が図れるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】インピーダンス評価の測定例と解析に使用する等価回路の概略説明図である。
【
図2】電池評価に使用した2032型コイン型電池の説明図である。
【
図3】実施例1で得られた正極活物質の走査型電子顕微鏡による表面観察結果を示す一例である。
【
図4】
図3の観察像を二値化処理した結果を示す一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
(1)リチウムイオン二次電池用正極活物質
以下に、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の一構成例について説明する。
【0018】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)は、リチウム金属複合酸化物粉末を含む。
そして、リチウム金属複合酸化物粉末は、リチウム金属複合酸化物の粒子と、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に配置されたタングステン酸リチウムの被覆と、を有する被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子を含んでいる。
なお、リチウム金属複合酸化物は、一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、結晶構造が層状構造である。
そして、上記被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子の表面のうち、タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比を50%以下とすることができる。
【0019】
本発明の発明者は、リチウムイオン二次電池とした場合にさらに高出力化が図れる正極活物質について、鋭意検討を行った。その結果、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面にタングステン酸リチウムの被覆を配置する場合に、タングステン酸リチウムの被覆の状態をリチウム金属複合酸化物粉末内で均一にすることで、高出力化を図れることを見出し本発明を完成させた。
【0020】
本実施形態の正極活物質は上述のようにリチウム金属複合酸化物粉末を含む。なお、本実施形態の正極活物質はリチウム金属複合酸化物粉末から構成することもできる。
【0021】
そして、リチウム金属複合酸化物粉末は、母材となるリチウム金属複合酸化物の粒子と、母材の表面に配置されたタングステン酸リチウムの被覆とを有することができる。
【0022】
母材としては、一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される、結晶構造が層状のリチウム金属複合酸化物の粒子を用いることができる。係るリチウム金属複合酸化物の粒子を用いることで、高い充放電容量を得ることができる。
【0023】
なお、より高い充放電容量を得るためには、上記一般式において、x+y≦0.2、0.95≦z≦1.10とすることが好ましい。高い熱的安定性が要求される場合には、x+y>0.2とすることが好ましい。
【0024】
リチウム金属複合酸化物の粒子は、一次粒子と一次粒子が凝集して形成された二次粒子とから構成された形態を有することが好ましい。そして、被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子は、リチウム金属複合酸化物の粒子の一次粒子の表面の一部または全部にタングステン酸リチウムの被覆を有することが好ましい。
【0025】
一般的に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるとも考えられる。
【0026】
しかしながら、タングステン酸リチウムは、リチウムイオン伝導性が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、リチウム金属複合酸化物の粒子の一次粒子表面にタングステン酸リチウムを配置することで、電解質との界面でリチウムの伝導パスを形成することができる。そして、正極活物質の反応抵抗、すなわち正極抵抗を低減して電池の出力特性を向上させることができる。
【0027】
正極抵抗が低減されることで、電池内で損失される電圧が減少し、実際に負荷側に印加される電圧が相対的に高くなるため、高出力が得られる。また、負荷側への印加電圧が高くなることで、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、電池の充放電容量、すなわち電池容量も向上させることができる。
【0028】
タングステン酸リチウムはLi2WO4、Li4WO5、Li6W2O9など多くの存在形態を有しており、いずれの状態のタングステン酸リチウムが被覆に含まれていても良い。ただし、Li2WO4は、リチウムイオン伝導性が高く、他のタングステン酸リチウムと比べて水等の溶媒によって解離しにくい性質を有する。
【0029】
このため、被覆中のLi2WO4の含有割合を高くすることで、正極抵抗がより大きく低減され、より大きな出力特性向上の効果が得られる。また、正極抵抗の低減により、電池容量の向上も可能となる。さらには、被覆のタングステン酸リチウム中に含まれるLi2WO4の割合を高めることで、電池の高温保存時におけるガス発生量を抑制することが可能であるため、安全性を特に高めることが可能である。
【0030】
このため、被覆のタングステン酸リチウムは、Li2WO4の含有割合が高い方が好ましく、例えば50mol%より高いことが好ましい。
【0031】
被覆のタングステン酸リチウム中のLi2WO4の割合の上限は特に限定されないが、例えば90%mol以下であることが好ましく、80mol%以下であることがより好ましい。これは、例えばリチウムイオン伝導性が高く、正極抵抗低減効果がLi2WO4より大きいLi4WO5を少量存在させることで、正極抵抗をさらに低減でき、好ましいからである。
【0032】
タングステン酸リチウムの存在形態の評価は、例えばX線や電子線を用いた機器分析により可能である。また、塩酸によるpH滴定分析によって算出してもよい。
【0033】
電解質と正極活物質との接触は、正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面で起こるため、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面にタングステン酸リチウムが配置されていることが好ましい。ここで、一次粒子表面とは、二次粒子の外面で露出している一次粒子表面や、二次粒子外部と通じて電解質が接触(浸透)可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子表面、さらには単独で存在する一次粒子の表面を含むものである。また、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全でその表面に電解質が接触(浸透)可能な状態となっていれば一次粒子表面に含まれる。
【0034】
正極活物質と電解質との接触は、正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物の一次粒子が凝集して形成された二次粒子の外面のみでなく、二次粒子の表面近傍および内部の一次粒子間の空隙、さらには不完全な粒界でも生じる。このため、上記一次粒子表面にもタングステン酸リチウムの被覆を配置し、リチウムイオンの移動を促すことが好ましい。このように、電解質との接触が可能なリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面の多くにもタングステン酸リチウムの被覆を配置することで、正極抵抗をより一層低減させることができ、好ましい。
【0035】
被覆を形成するタングステン酸リチウムの形態は特に限定されないが、微粒子の状態であることが好ましい。
【0036】
タングステン酸リチウムは、例えば粒子径が1nm以上200nm以下の粒子であることが好ましい。これはタングステン酸リチウムの粒径を1nm以上とすることで、十分なリチウムイオン伝導性を発揮することができるからである。また、タングステン酸リチウムの粒径を200nm以下とすることで、リチウム金属複合酸化物粒子の表面に特に均一に被覆を形成でき、正極抵抗を特に抑制できるからである。
【0037】
タングステン酸リチウムは、特性を発現するうえで、全ての粒子が粒子径1nm以上200nm以下の範囲に分布している必要はないが、例えばリチウム金属複合酸化物の粒子の表面に配置された粒子について、個数で50%以上が1nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0038】
なお、タングステン酸リチウムは、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面の全面に配置されている必要はなく、例えば点在している状態でも特性を発現することができる。
【0039】
また、タングステン酸リチウムは、薄膜の状態でリチウム金属複合酸化物の粒子の表面に存在していても特性を発現することができる。リチウム金属複合酸化物の粒子表面を薄膜で被覆すると、比表面積の低下を抑制しながら、電解質との界面でリチウムの伝導パスを形成させることができ、電池容量をさらに向上させ、正極抵抗の低減という効果が得られる。
【0040】
タングステン酸リチウムを薄膜の状態でリチウム金属複合酸化物の粒子の表面に配置する場合、該薄膜は膜厚が1nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0041】
これはタングステン酸リチウムが薄膜の状態で存在している場合、その膜の膜厚を1nm以上200nm以下とすることで、タングステン酸リチウムの薄膜が十分なリチウムイオン伝導性を発揮できるからである。
【0042】
タングステン酸リチウムが薄膜の状態で存在する場合でも、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面全体に配置されている必要はなく、例えば部分的に存在するのみでも特性を発現することができる。
【0043】
また、タングステン酸リチウムが薄膜の状態で存在する場合に、タングステン酸リチウムの薄膜全体が1nm以上200nm以下の膜厚である必要はなく、例えばタングステン酸リチウムの薄膜の一部が上記膜厚であっても特性を発現することができる。
【0044】
なお、タングステン酸リチウムの被覆は、複数の状態、例えば上述の微粒子の状態と、薄膜の状態とが混在していても特性を発現することができる。
【0045】
このようなリチウム金属複合酸化物の粒子表面におけるタングステン酸リチウムの性状は、例えば、電界放射型走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下SEMと略す)で観察することにより判断できる。
【0046】
具体的な観察手法として、例えば、加速電圧を適正な値に設定し、検出器として反射電子検出器を用いることで、タングステン酸リチウムの微粒子及び薄膜部分を際立たせて観察することができ、タングステン酸リチウムの分布状態を把握することができる。
【0047】
タングステン酸リチウムはタングステンを含むことでリチウム金属複合酸化物と比較して、平均原子番号が大きいため、電子線照射時の反射電子発生効率が高い。そのため検出器として反射電子検出器を使用して撮像することで、リチウム金属複合酸化物の粒子表面に分布しているタングステン酸リチウムの微粒子や薄膜等の被覆部分がリチウム金属複合酸化物部分よりも白く写るコントラストのSEM像を得ることができる。
【0048】
タングステン酸リチウムの被覆の分布状態をSEMにより観察する際の具体的な条件は特に限定されないが、この場合のSEM観察の加速電圧は5kV以下であることが望ましい。加速電圧が5kVより高くなると、SEM観察時の情報深さが深くなり、リチウム金属複合酸化物の粒子表面に分布しているタングステン酸リチウムの被覆部分の情報の割合が低くなって、前述のコントラストがつきにくくなるためである。
【0049】
なお、このような適正な加速電圧の選択においては、モンテカルロ法による電子線侵入深さのシミュレーション結果を参考とすることができ、タングステン酸リチウムの存在形態に応じて適切な値を選択することができる。
【0050】
SEM観察時のその他の条件についても、リチウム金属複合酸化物とタングステン酸リチウムとのコントラストが明瞭に観察できれば、特に限定されないが、例えば観察倍率は100倍以上であることが望ましい。これは、観察倍率が100倍よりも低いと、被覆内の濃縮部分が明瞭に観察できなくなる可能性があるためである。また、作動距離は12mm以下であることが望ましい。これは反射電子の発生効率の差には物質の平均原子番号に起因する発生効率の差の他にチャネリング効果(結晶方位の差)に起因する発生効率の差の要因があるが、作動距離が12mm以下であるほうが物質の平均原子番号に起因する発生効率の差がより際立って、リチウム金属複合酸化物とタングステン酸リチウムとのコントラストが明瞭になるためである。また、観察時の画素数は1000Pixel以上である方が、タングステン酸リチウムの分布を明瞭に観察するうえで望ましい。また、観察時の1Pixel当たりの積算時間は10μs以上であることがタングステン酸リチウムの分布を明瞭に観察するうえで望ましい。
【0051】
さらに本発明の発明者らは、上述の方法によって観察した観察像を画像解析することで、タングステン酸リチウムの被覆部分のリチウム金属複合酸化物の粒子表面における分布状態を定量的に把握し、分布状態のさらなる改善を図ることで、電池特性を向上させることができることを見出した。
【0052】
本発明の発明者らの検討によれば、リチウム金属複合酸化物の粒子にタングステン酸リチウムの被覆を配置する場合に、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面におけるタングステン酸リチウムの被覆中の濃縮部分を低減することでタングステン酸リチウムの被覆の分布状態をリチウム金属複合酸化物粉末内で均一にすることができる。そして、それによって、該タングステン酸リチウムの被覆を有するリチウム金属複合酸化物の粒子を含む正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池について、正極抵抗を抑制し、さらなる高出力化を図れるとともに高容量、高耐久性とすることができる。
【0053】
ここで、タングステン酸リチウムの濃縮部分とは、タングステン酸リチウム被覆の内、タングステン酸リチウムが濃縮して粗大に成長した粗大粒や、厚膜部分を意味する。タングステン酸リチウムの濃縮部分とは具体的には例えば、リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に配置されたタングステン酸リチウムの被覆に含まれる粒子の内、粒径がおおむね200nmより大きい部分や、タングステン酸リチウム被覆に含まれる膜の内、膜厚がおおむね200nmより厚い部分のことを示す。濃縮部分自体は電池特性に何ら悪影響を及ぼさないが、濃縮部分が多いことはリチウム金属複合酸化物の粒子の表面または内部にタングステン酸リチウムが配置されていない領域が増加することを間接的に示しているため、濃縮部分を少なくすることで、タングステン酸リチウムの分布の均一性を向上させることができる。
【0054】
本発明の発明者らは、SEM反射電子像のコントラストから、二値化法を用いて被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子の表面に占めるタングステン酸リチウムの濃縮部分の割合を定量的に把握することで、タングステン酸リチウムの分布の均一性を評価する方法を見出した。
【0055】
画像解析のツールは目的とする濃縮部分以外の被覆含有リチウム金属複合酸化物領域(非タングステン酸リチウム濃縮領域)と、タングステン酸リチウムの濃縮部分との分離が実施できれば特に限定されないが、例えばImage Jなどの画像解析ソフトを用いることができる。二値化に際しては、SEM画像からタングステン酸リチウムの濃縮部分と、濃縮部分以外の被覆含有リチウム金属複合酸化物部分(非タングステン酸リチウム濃縮領域)とをコントラストの強弱を示すGray Scaleの値によって切り分け、分離を実施する。Gray Scaleの閾値はSEM像を画素ごとに分離して、横軸をGray Scale、縦軸を頻度としてプロットしたヒストグラムを参照しながら決定することができる。
【0056】
分離した結果から、タングステン酸リチウムの濃縮部分の画像全体に対する面積比(以下「面積比A」と記載する)と、濃縮部分以外の被覆含有リチウム金属複合酸化物部分(非タングステン酸リチウム濃縮部分)の画像全体に対する面積比(以下、「面積比B」と記載する)とをそれぞれ算出する。そして、面積比A、及び面積比Bを用いて、以下の式(1)により、被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子の表面に占めるタングステン酸リチウムの濃縮部分の割合である面積比(以下、「面積比C」と記載する)を算出することができる。
【0057】
(面積比C(%)) = 面積比A/(面積比A+面積比B)×100 ・・・(1)
なお、評価に当たっては複数の視野で観察、二値化処理を行い、観察を行った複数の視野に関する面積比A、面積比Bを用いて、上記面積比Cを算出することもできる。
【0058】
本発明の発明者らの検討によれば、濃縮部分の面積比である面積比Cは50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、10%以下とすることがさらに好ましい。
【0059】
これは、本発明の発明者らの検討によれば、面積比Cを50%以下とすることで、タングステン酸リチウムの分布の均一性を向上させることができるからである。
【0060】
なお、濃縮部分は存在しないことが好ましいことから、被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子に含まれる濃縮部分の面積比Cの下限値は0%とすることができる。すなわち、面積比Cは0%以上であることが好ましい。
【0061】
本実施形態の正極活物質に含まれるタングステン量は特に限定されないが、正極活物質に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、0.05原子%以上であることが好ましい。
【0062】
これは、正極活物質に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対するタングステン量を0.05原子%以上とすることで、タングステン酸リチウムの形成量を、正極抵抗を低減させるために特に十分な量とすることができるからである。従って、上記タングステン量を0.05原子%以上とすることで、該正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池の出力特性を十分に高めることができる。
【0063】
なお、本実施形態の正極活物質に含まれるタングステン量の上限は特に限定されない。ただし、本実施形態の正極活物質に含まれるタングステン量は、正極活物質に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、1.5原子%以下であることがより好ましく、1.0原子%以下であることがさらに好ましい。
【0064】
これは、正極活物質に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対するタングステン量を1.5原子%以下とすることで、タングステン酸リチウムの形成量が過度に多くなることを抑制できるためである。タングステン酸リチウムが過度に形成されると、リチウム金属複合酸化物と電解質との間のリチウム伝導を阻害し、充放電容量が低下する場合があるが、上記タングステン量を上記範囲とすることで、係る充放電容量の低下をより確実に防ぐことができる。また、正極活物質に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対するタングステン量を1.5原子%以下とすることで、タングステン酸リチウムの濃縮部分が形成されることを特に抑制できる。
【0065】
また、本実施形態の正極活物質全体のリチウム量は、母材であるリチウム複合酸化物粒子部分のリチウム量と比較して、タングステン酸リチウムに含まれるリチウム分だけ増加する。本実施形態の正極活物質中のNi、CoおよびMの原子数の和(Me)とLiの原子数との比であるLi/Meは特に限定されないが、0.95以上1.30以下であることが好ましく、0.97以上1.25以下であることがより好ましく、0.97以上1.20以下であることがさらに好ましく、0.97以上1.15以下であることが特に好ましい。
【0066】
本実施形態の正極活物質全体のLi/Meを上記範囲とすることで、母材であるリチウム複合酸化物粒子のLi/Meを十分に高め、高い電池容量を得ると共に、タングステン酸リチウムの形成のために十分な量のリチウムを確保することができる。
【0067】
なお、母材であるリチウム複合酸化物粒子のLi/Meについても特に限定されないが、0.95以上1.25以下であることが好ましく、0.95以上1.20以下であることがより好ましく、0.95以上1.10以下であることがさらに好ましい。
【0068】
ここで、母材とは被覆であるタングステン酸リチウムを含まないリチウム金属複合酸化物粒子である。そして、リチウム金属複合酸化物粒子の一次粒子表面にタングステン酸リチウムの被覆が形成されることで本実施形態の正極活物質が含有する被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子とすることができる。
【0069】
上述のように母材であるリチウム複合酸化物粒子のLi/Meを0.95以上とすることで、該リチウム複合酸化物粒子を含む正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の正極抵抗を特に抑制し、出力特性を向上させることができる。また、母材であるリチウム複合酸化物粒子のLi/Meを1.25以下とすることで、該リチウム複合酸化物粒子を含む正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の初期放電容量を向上させ、正極抵抗も特に抑制することができる。
【0070】
以上に説明した本実施形態の正極活物質によれば、含有するリチウム金属複合酸化物粉末について、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に配置したタングステン酸リチウムの被覆の状態が均一になっている。このため、リチウムイオン二次電池とした場合に、高出力化を図ることができる。
(2)正極活物質の製造方法
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(以下、「正極活物質の製造方法」とも記載する)について説明する。なお、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法によれば、既述のリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造できる。このため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
【0071】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0072】
一般式:LizNi1-x-yCoxMyO2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、結晶構造が層状構造であるリチウム金属複合酸化物の粒子を含むリチウム金属複合酸化物粉末を水洗し、水洗後固液分離することでリチウム金属複合酸化物ケーキを得る水洗工程。
リチウム金属複合酸化物ケーキと、タングステン化合物、もしくはタングステン化合物およびリチウム化合物との混合物とを混合し、原料混合物を調製する混合工程。
【0073】
原料混合物を熱処理する熱処理工程。
そして、原料混合物中の水分率を2質量%以上8質量%以下とすることができる。
また、原料混合物中に含まれるタングステン量を、Ni、CoおよびMの原子数の合計に対して、0.05原子%以上1.5原子%以下とすることができる。
さらに、熱処理工程では80℃に昇温するまでの間、真空度が5.0×102Pa以上5.0×104Pa以下の雰囲気とし、かつ昇温速度を0.4℃/分以上4.0℃/分以下とすることができる。
【0074】
以下、各工程ごとに説明する。
[水洗工程]
リチウム金属複合酸化物の前駆体となる金属複合水酸化物もしくは金属複合酸化物と、リチウム化合物との混合物を焼成して得られたリチウム金属複合酸化物は、二次粒子や一次粒子の表面に未反応のリチウム化合物が存在している。このため、過剰となっているリチウムを除去すべく、リチウム金属複合酸化物粉末を水洗する水洗工程を有することができる。
【0075】
なお、金属複合酸化物は、例えばNi1-x-yCoxMyO1+βで表される。また、金属複合水酸化物は、例えばNi1-x-yCoxMy(OH)2+γで表される。式中のx、y、元素Mは、上述のリチウム金属複合酸化物の場合と同様であるため、ここでは記載を省略する。また、上記式中のβは0≦β≦0.15、γは0≦γ≦0.15とすることができる。そして、これらの金属複合酸化物、金属複合水酸化物は晶析法等により調製できる。
【0076】
また、リチウム化合物としては、例えば水酸化リチウム、および炭酸リチウムから選択された1種類以上を好適に用いることができる。なお、水酸化リチウムを用いる場合には、予め焙焼し、水和水を低減しておくことが好ましい。水酸化リチウムとしては、特に無水化した無水水酸化リチウムを好ましく用いることができる。
【0077】
水洗工程では、例えばリチウム金属複合酸化物粉末と水とを混合してスラリー化することで水洗できる。水洗を行った後は、固液分離することで、得られるリチウム金属複合酸化物ケーキの水分量を調整できる。
【0078】
水洗工程における水洗条件は特に限定されず、未反応のリチウム化合物を十分に低減、例えば、リチウム金属複合酸化物粉末の全量に対して、未反応のリチウム化合物が好ましくは0.08質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下となるように低減できればよい。スラリー化する際には、スラリーに含まれるリチウム金属複合酸化物粉末の濃度が、例えば水1Lに対して200g以上5000g以下となるように添加することが好ましい。
【0079】
リチウム金属複合酸化物粉末の濃度を上記範囲とすることで、リチウム金属複合酸化物粒子からのリチウムの溶出による劣化を抑制しながら、未反応のリチウム化合物をより十分に低減することができる。
【0080】
水洗時間、水洗温度も未反応のリチウム化合物を十分に低減可能な範囲とすればよく、例えば、水洗時間は5分以上60分以下、水洗温度は10℃以上40℃以下の範囲とすることが好ましい。上記水洗時間の間、スラリーを撹拌しておくことが好ましい。
【0081】
水洗工程を行った後には、固液分離を行うことができる。固液分離を行う方法は特に限定されないが、例えばフィルタープレス、ベルトフィルター等の圧搾手段により圧搾を行うことで固液分離を実施できる。また、例えばヌッチェ等を用いた吸引濾過により固液分離を行うこともできる。
[混合工程]
混合工程では、リチウム金属複合酸化物ケーキと、タングステン化合物、もしくはタングステン化合物およびリチウム化合物との混合物とを混合し、原料混合物を調製することができる。
【0082】
タングステン化合物は、リチウム金属複合酸化物の二次粒子内部の一次粒子表面まで浸透させるため、原料混合物に含有される水分に溶解する水溶性であることが好ましい。ただし、タングステン化合物は、常温では、水に溶解させることが困難であっても、熱処理時の加温で水に溶解する化合物であればよい。さらに、原料混合物中の水分は含有されるリチウムによってアルカリ性となるため、アルカリ性において溶解可能な化合物であってもよい。
【0083】
タングステン化合物の状態は特に限定されず、例えば固体の状態でもよく、水溶液の状態であっても良い。
【0084】
上述のようにタングステン化合物は、水に溶解可能であれば限定されるものではないが、酸化タングステン、タングステン酸リチウム、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウムから選択された1種類以上が好ましい。特に、不純物混入の可能性が低い酸化タングステン、タングステン酸リチウム、タングステン酸アンモニウムから選択された1種類以上がより好ましく、酸化タングステン、タングステン酸リチウムから選択された1種類以上がさらに好ましい。
【0085】
混合工程でタングステン化合物を添加する量は特に限定されないが、原料混合物中に含まれるタングステン量を、Ni、CoおよびMの原子数の合計に対して、0.05原子%以上1.5原子%以下とすることが好ましく、0.05原子%以上1.0原子%以下とすることがより好ましい。
【0086】
上記タングステン量を0.05原子%以上とすることで、十分な被覆を形成することができ、出力特性及び耐久性を特に向上させることができる。ただし、上記タングステン量が1.5原子%を超える場合、形成されるタングステン酸リチウムが多くなり過ぎてリチウム金属複合酸化物と電解質との間のリチウム伝導が阻害され、充放電容量が低下することがある。このため、タングステン量を1.5原子%以下とすることが好ましい。
【0087】
また、タングステン量を1.5原子%以下とすることでタングステン酸リチウムの濃縮部分の発生を抑制できる。
【0088】
混合工程でリチウム化合物を添加する場合、添加するリチウム化合物としては特に限定されないが、例えば水酸化リチウム、および炭酸リチウムから選択された1種類以上を好適に用いることができる。混合工程でリチウム化合物を添加する場合、例えば熱処理工程後に得られる正極活物質中のLi/Meが所望の値となるように、リチウム化合物の添加量を調整することができる。
【0089】
リチウム金属複合酸化物ケーキと、タングステン化合物、もしくはタングステン化合物およびリチウム化合物の混合物との混合は、均一に混合可能な装置であれば限定されず、一般的な混合機を使用することができる。例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いてリチウム金属複合酸化物粒子の形骸が破壊されない程度でタングステン化合物等と十分に混合してやればよい。
【0090】
本発明の発明者の検討によれば、原料混合物中の水分率を2質量%以上8質量%以下にすることが好ましく、2質量%以上6質量%以下にすることがより好ましく、3質量%以上6質量%以下にすることがさらに好ましい。
【0091】
原料混合物の水分率を2質量%以上とすることで、添加あるいは反応によって生じたタングステン酸リチウムが水分を介してリチウム金属複合酸化物の二次粒子表面を拡散する拡散現象や、二次粒子外部と通じている一次粒子間の空隙や不完全な粒界まで浸透する浸透現象を十分に生じさせることができる。このため、リチウム金属複合酸化物の表面にタングステン酸リチウムを特に均一に分布させることができる。
【0092】
また、本発明の発明者の検討によれば、既述の濃縮部分は、混合工程後、熱処理を行う過程で特定の粒子の表面にタングステン酸リチウム水溶液が濃縮することで生じている。このため、原料混合物の水分率を低減することで、特定の粒子の表面にタングステン酸リチウムが濃縮されることを抑制することができる。原料混合物の水分率は上述のように8質量%以下にすることが好ましく、6質量%以下にすることがより好ましく、5質量%以下にすることがさらに好ましい。
【0093】
なお、原料混合物の水分率は水洗後のリチウム金属複合酸化物ケーキの脱水条件を調整することで調整することができる。また、水分率は加熱乾燥式水分計などを用いて計測することができる。
【0094】
上記水洗工程と、混合工程とは同時に実施することもできる。この場合、母材となるリチウム金属複合酸化物粉末を、タングステン化合物、もしくはタングステン化合物およびリチウム化合物の混合物を含む水溶液に添加、浸漬し、撹拌後、固液分離することで、水洗工程と、混合工程とを同時に実施することができる。
[熱処理工程]
熱処理工程は、作製した原料混合物を熱処理する工程である。
【0095】
これにより、原料混合物の水分に含まれるリチウムとタングステンからタングステン酸リチウムがリチウム金属複合酸化物の粒子表面に形成され、非水系電解質二次電池用正極活物質が得られる。
【0096】
熱処理工程の雰囲気は、雰囲気中の水分や炭酸とリチウム金属複合酸化物が反応して劣化することを避けるため、真空雰囲気中で行うことが好ましい。
【0097】
前記熱処理工程における熱処理温度は特に限定されないが、熱処理時の最高到達温度は例えば100℃以上600℃以下とすることが好ましい。熱処理時の最高到達温度が100℃未満の場合、水分が十分に除去できない可能性がある。一方、熱処理時の最高到達温度が600℃を超える場合、正極活物質に含まれるリチウム金属複合酸化物の一次粒子が焼結を起こすとともに一部のタングステンがリチウム金属複合酸化物の層状構造に固溶し、電池の充放電容量が低下することがある。このため、最高到達温度は100℃以上600℃以下とすることが好ましい。
【0098】
さらに、本発明の発明者らは、真空雰囲気での熱処理時の真空度と昇温速度を同時に精密に制御することで特定の粒子の表面にタングステン酸リチウムが濃縮されることを抑制できることを見出した。
【0099】
すなわち、原料混合物中では添加あるいは反応によって生じたタングステン酸リチウムが原料混合物中の水分を介して、二次粒子表面や内部の空隙部に拡散、浸透する。このとき、水分の蒸発速度が速いと、タングステン酸リチウムの拡散、浸透が不十分となり、特定の粒子の面にタングステン酸リチウムが濃縮される。したがって、水分が蒸発するまでの蒸発速度を十分に遅くすることでタングステン酸リチウムが濃縮されることを抑制することができる。
【0100】
具体的には熱処理工程では80℃に昇温するまでの間、真空度が5.0×102Pa以上5.0×104Pa以下の雰囲気とすることが好ましく、1.0×103Pa以上1.0×104Pa以下の雰囲気とすることがより好ましい。
【0101】
なお、80℃を超えた後の真空雰囲気の真空の程度は特に限定されず、例えば80℃以下での真空度と同じ真空度としたり、80℃以下での真空度よりも真空度を高めるすなわち例えば5.0×102Pa未満とすることもできる。
【0102】
また、上記真空雰囲気とすることに加えて、上述のように昇温速度を所定の範囲とすることが好ましい。具体的には、80℃に昇温するまでの間、昇温速度を0.4℃/分以上4.0℃/分以下とすることが好ましく、0.6℃/分以上2.0℃/分以下とすることがより好ましく、0.6℃/分以上1.0℃/分以下とすることがさらに好ましい。
【0103】
熱処理工程における80℃までの昇温時の雰囲気、及び昇温速度を上記範囲とすることでタングステン酸リチウムが濃縮されることを特に抑制することができる。
(3)リチウムイオン二次電池
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池の一構成例について説明する。
【0104】
本実施形態のリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」とも記載する)は、既述の正極活物質を正極材料として用いた正極を有することができる。
【0105】
以下、本実施形態の二次電池の一構成例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。本実施形態の二次電池は、例えば正極、負極及び非水系電解質を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(正極)
本実施形態の二次電池が有する正極は、既述の正極活物質を含むことができる。
【0106】
以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、正極活物質(粉末状)、導電材および結着剤(バインダー)を混合して正極合材とし、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製することができる。
【0107】
正極合材中のそれぞれの材料の混合比は、リチウムイオン二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウムイオン二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60質量%以上95質量%以下、導電材を1質量%以上20質量%以下、結着剤を1質量%以上20質量%以下の割合で含有することができる。
【0108】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもある。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。
【0109】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0110】
結着剤(バインダー)としては、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸などを用いることができる。
【0111】
必要に応じ、正極活物質、導電材および活性炭を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0112】
正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。例えば正極合材をプレス成形した後、真空雰囲気下で乾燥することで製造することもできる。
(負極)
負極は、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0113】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置することができる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
(非水系電解質)
非水系電解質としては、例えば非水系電解液を用いることができる。
【0114】
非水系電解液としては、例えば支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることができる。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状の塩をいう。
【0115】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらにテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物等から選ばれる1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0116】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0117】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0118】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
【0119】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、Li3PO4NX、LiBO2NX、LiNbO3、LiTaO3、Li2SiO3、Li4SiO4-Li3PO4、Li4SiO4-Li3VO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li2O-B2O3-ZnO、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3(0≦X≦1)、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3(0≦X≦1)、LiTi2(PO4)3、Li3XLa2/3-XTiO3(0≦X≦2/3)、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3.6Si0.6P0.4O4等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0120】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-B2S3、Li3PO4-Li2S-Si2S、Li3PO4-Li2S-SiS2、LiPO4-Li2S-SiS、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0121】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li3N、LiI、Li3N-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0122】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
(二次電池の形状、構成)
以上のように説明してきた本実施形態のリチウムイオン二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、本実施形態の二次電池が非水系電解質として非水系電解液を用いる場合であれば、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉した構造とすることができる。
【0123】
なお、既述の様に本実施形態の二次電池は非水系電解質として非水系電解液を用いた形態に限定されるものではなく、例えば固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて変更することができる。
(特性)
既述の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、正極抵抗を抑制して、放電容量を高めるとともに、耐久性も高めることができる。
【0124】
既述の正極活物質を用いた本実施形態のリチウムイオン二次電池は、例えば、2032型コイン型電池とした場合、200mAh/g以上の高い初期放電容量と低い正極抵抗が得られ、さらに高容量で高出力である。また、熱的安定性が高く、安全性においても優れているといえる。
【0125】
なお、正極抵抗の測定方法は、電気化学的評価手法として一般的な交流インピーダンス法にて電池反応の周波数依存性について測定を行うと、溶液抵抗、負極抵抗と負極容量、および正極抵抗と正極容量に基づくナイキスト線図が
図1(A)のように得られる。ナイキスト線図は、溶液抵抗、負極抵抗と容量、および、正極抵抗と容量を示す特性曲線の和として表れているため、等価回路である
図1(B)を用いてフィッティング計算し、正極抵抗の値を見積もることができる。正極抵抗は、得られるナイキスト線図の低周波数側の半円の直径と等しい。
【0126】
以上のことから、作製される正極について、交流インピーダンス測定を行い、得られたナイキスト線図に対し等価回路でフィッティング計算することで、正極抵抗を見積もることができる。
【0127】
以上に説明した本実施形態のリチウムイオン二次電池は、既述の正極活物質を正極材料として用いた正極を備えている。このため、正極抵抗を抑制して、放電容量を高めるとともに、耐久性も高めることができるリチウムイオン二次電池とすることができる。
【0128】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適に用いることができ、高出力、耐久性が要求される電気自動車用電池にも好適に用いることができる。
【0129】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、優れた安全性を有し、小型化、高出力化が可能であり、高耐久性であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。なお、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【実施例0130】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0131】
以下の実施例、比較例で得られた正極活物質を用いた正極を有するリチウムイオン二次電池について、その性能(初期放電容量、正極抵抗、サイクル特性)を評価した。そこで、まず最初にリチウムイオン二次電池の製造方法、および評価方法について説明する。
(リチウムイオン二次電池の製造および評価)
正極活物質の初期放電容量および正極抵抗の評価には、
図2に示す2032型コイン型電池20(以下、コイン型電池と称す)を使用した。
【0132】
図2に示すように、コイン型電池20は、ケース21と、このケース21内に収容された電極22とから構成されている。ケース21は、中空かつ一端が開口された正極缶21aと、この正極缶21aの開口部に配置される負極缶21bとを有しており、負極缶21bを正極缶21aの開口部に配置すると、負極缶21bと正極缶21aとの間に電極22を収容する空間が形成されるように構成されている。電極22は、正極22a、セパレータ22cおよび負極22bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極22aが正極缶21aの内面に接触し、負極22bが負極缶21bの内面に接触するようにケース21に収容されている。
【0133】
なお、ケース21はガスケット21cを備えており、このガスケット21cによって、正極缶21aと負極缶21bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット21cは、正極缶21aと負極缶21bとの隙間を密封してケース21内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
図2に示すコイン型電池20は、以下のようにして製作した。まず、各実施例、比較例で作製したリチウム二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mgおよびポリテトラフッ化エチレン(PTFE)樹脂7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極22aを作製した。その作製した正極22aを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0134】
この正極22aと、負極22b、セパレータ22cおよび電解液とを用いて、
図2に示すコイン型電池20を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。なお、負極22bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。セパレータ22cには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO
4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0135】
製造したコイン型電池20の性能を示す初期放電容量、正極抵抗、サイクル特性は、以下のように評価した。初期放電容量は、コイン型電池20を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0136】
正極抵抗は、コイン型電池20を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン社製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定すると、
図1(A)に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき
図1(B)に示す等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。なお、正極抵抗は、実施例1における正極抵抗を100とし、相対的な値で示している。
【0137】
また、サイクル特性は、500サイクル充放電を行った時の容量維持率を測定することにより評価した。具体的には、作製したコイン型電池20を、25℃に保持された恒温槽内で、電流密度0.3mA/cm2として、カットオフ電圧4.9Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.5Vまで放電するサイクルを5サイクル繰り返すコンディショニングを行った後、60℃に保持された恒温槽内で、電流密度2.0mA/cm2として、カットオフ電圧4.9Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.5Vまで放電するサイクルを500サイクル繰り返し、各サイクルの放電容量を測定することにより評価した。そして、コイン型電池のコンディショニング後の1サイクル目で得られた放電容量で、コンディショニング後500サイクル後のサイクル目で得られた放電容量を割った割合である容量維持率を算出した。
[実施例1]
(正極活物質の製造条件)
Niを主成分とする金属複合酸化物粉末と水酸化リチウムとを混合して焼成する公知技術で得られたLi1.030Ni0.82Co0.15Al0.03O2で表されるリチウム金属複合酸化物粉末の粒子を母材(芯材)とした。このリチウム金属複合酸化物粉末の平均粒径は12.4μmであり、比表面積は0.3m2/gであった。なお、平均粒径はレーザー回折散乱法における体積積算平均値を用い、比表面積は窒素ガス吸着によるBET法を用いて評価した。
【0138】
一方、電気伝導率が0.8μS/cmの純水100mLに5.6gの水酸化リチウム(LiOH)を溶解した水溶液中に、15.6gの酸化タングステン(WO3)を添加して撹拌することにより、タングステン化合物の水溶液を得た。
【0139】
次に、母材とするリチウム金属複合酸化物粉末75gを、温度を25℃に調整した上記タングステン化合物の水溶液に浸漬し、さらに10分間撹拌することで十分に混合すると同時にリチウム金属複合酸化物粉末を水洗した。その後、ヌッチェを用いて吸引ろ過することで固液分離し、リチウム金属複合酸化物粒子と、液成分と、タングステン化合物とからなるタングステン混合物(原料混合物)を得た。吸引濾過の時間を調整することで、原料混合物の水分率が目的範囲内に入るように調整した。加熱乾燥式水分計を用いて、測定した水分率は5.5質量%であった。また、原料混合物のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.30原子%の組成であることが確認された(水洗工程、混合工程)。
【0140】
得られたタングステン混合物を、ステンレス(SUS)製焼成容器に入れ、真空乾燥機を用いて真空雰囲気中において、熱処理を行った。
【0141】
熱処理条件としては、80℃まで昇温速度を1.0℃/分として昇温し、80℃に到達後100℃まで昇温して12時間乾燥し、さらに190℃まで昇温して3時間熱処理し、その後室温まで炉冷した。なお、80℃まで、真空乾燥機内は1.0×103Pa以上1.0×104Pa以下の真空雰囲気となるように圧力範囲に制御した。
【0142】
最後に目開き38μmの篩にかけ解砕することにより、被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子からなるリチウム金属複合酸化物粉末により構成された正極活物質を得た。なお、被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子はその一次粒子表面にタングステン酸リチウムからなる被覆を有している。
【0143】
得られた正極活物質の組成、タングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、Ni:Co:Alは、原子数比で82:15:3であり、タングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.30原子%の組成であることが確認され、そのLi/Meは0.987であり、母材のLi/Meは0.985であった。すなわち、母材であるリチウム金属複合酸化物の組成はLi0.985Ni0.82Co0.15Al0.03O2になっており、得られた正極活物質について、X線回折パターンを測定したところ、該母材の結晶構造が層状構造であることも確認できた。
【0144】
なお、以下の他の実施例においても母材となるリチウム金属複合酸化物が層状構造の結晶構造を有することが確認できた。
【0145】
母材のLi/Meは、水洗時と同濃度のLiを含む水酸化リチウム溶液を用い、同条件で水洗した母材の原料として用いたリチウム金属複合酸化物粉末をICP発光分光法により分析することにより求めた。
(タングステン酸リチウムの形態、分布評価)
得られた正極活物質について評価を行った。
【0146】
得られた正極活物質の被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子の表面に占めるタングステン酸リチウムの濃縮部分の割合(面積比C)を算出するためSEM観察を実施した。試料を導電性両面テープ上に固定し、そのままSEM観察を実施した。SEM観察条件として、加速電圧5kV、作動距離12mm、観察倍率0.1k、画素数1280×1024Pixel、1Pixel当たりの積算時間10μsの条件で反射電子検出器を用いて反射電子像を取得した。なお、観察場所を変え、5枚の観察像を得た。
【0147】
【0148】
得られた観察像5枚に対してから画像解析ソフトImage Jを用いて二値化処理を行い、タングステン酸リチウムの濃縮部分と、タングステン酸リチウムの濃縮部分を除くリチウム金属複合酸化物部分とに分離した。
図3に示した観察像について二値化処理後の画像の例を
図4に示す。
【0149】
そして、タングステン酸リチウムの濃縮部分の画像全体に対する面積比(面積比A)と、濃縮部分以外の被覆含有リチウム金属複合酸化物部分の画像全体に対する面積比(面積比B)とを求めた。次いで、既述の式(1)により、被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子の表面に占めるタングステン酸リチウムの濃縮部分の割合(面積比C)を算出した。その結果、表1に示すように面積比は3.3%であった。なお、表1中、被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子のうちの、タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比は濃縮部分の面積比として記載している。
【0150】
さらに得られた正極活物質が含有する被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子を、樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工を行い断面観察用試料を作製した。その断面観察用試料を用いて倍率を5000倍としたSEMによる断面観察を行ったところ、被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子は、リチウム金属複合酸化物の一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなり、一次粒子表面に微粒子が形成されていることが確認された。なお、上記一次粒子表面には、二次粒子の表面を構成している一次粒子の表面、及び二次粒子の内部に存在する一次粒子の表面を含む。その微粒子の粒径は20nm以上200nm以下であった。また、一次粒子表面に微粒子が形成されている二次粒子は、観察した二次粒子数の90%であり、二次粒子間で均一に微粒子が形成されていることが確認された。また、一次粒子および二次粒子と、微粒子とのコントラストの違いから、一次粒子および二次粒子と微粒子とは異なる物質であることが分かった。
【0151】
さらに、得られた正極活物質の一次粒子の表面付近を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、一次粒子の表面に膜厚2nm以上80nm以下の被覆が形成されていること、電子エネルギー損失分光法(EELS)による分析により被覆はタングステン酸リチウムであることを確認した。
【0152】
なお、以下の他の実施例においても被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子は同様の粒子構造を有し、かつ同様の形態の被覆を有することを確認できた。
[実施例2]
熱処理工程の熱処理条件に関して、80℃まで昇温速度を0.4℃/分として昇温し、80℃まで真空乾燥機内は1.0×104Pa以上5.0×104Pa以下の真空雰囲気となるように圧力範囲に制御した。以上の点以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価を行った。なお、混合工程で得られた原料混合物の水分率は5.6質量%であり、タングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.31原子%の組成であった。また、正極活物質の被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子表面のうちの、タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比は1.5%であった。なお、正極活物質全体のLi/Me、及び母材の組成は実施例1と同様であった。また、正極活物質のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.31原子%の組成であった。
[実施例3]
実施例1で用いたものと同じリチウム金属複合酸化物粉末の粒子を母材として用いた。
【0153】
そして、電気伝導率が0.8μS/cmの純水100mLに3.9gの水酸化リチウム(LiOH)を溶解した水溶液中に、10.8gの酸化タングステン(WO3)を添加して撹拌することにより、タングステン化合物の水溶液を得た。
【0154】
次に、母材とするリチウム金属複合酸化物粉末75gを、温度を25℃に調整した上記タングステン化合物の水溶液に浸漬し、さらに10分間撹拌することで十分に混合すると同時にリチウム金属複合酸化物粉末を水洗した。その後、ヌッチェを用いて吸引ろ過することで固液分離し、リチウム金属複合酸化物粒子と、液成分と、タングステン化合物からなるタングステン混合物(原料混合物)を得た。吸引濾過の時間を調整することで、原料混合物の水分率が目的範囲内に入るように調整した。加熱乾燥式水分計を用いて、測定した原料混合物の水分率は7.5質量%であった。また、原料混合物のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.30原子%の組成であることが確認された(水洗工程、混合工程)。
【0155】
その後、得られた上記原料混合物を用い、熱処理工程の熱処理条件に関して、80℃まで昇温速度を4.0℃/分として昇温し、80℃まで真空乾燥機内は5.0×102Pa以上1.0×103Pa以下の真空雰囲気となるように圧力範囲に制御した。以上の点以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価を行った。
得られた正極活物質の組成、タングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、Ni:Co:Alは、原子数比で82:15:3であり、そのLi/Meは0.986であり、母材のLi/Meは0.984であった。すなわち、母材であるリチウム金属複合酸化物の組成はLi0.984Ni0.82Co0.15Al0.03O2になっていることが確認できた。
また、正極活物質のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.30原子%の組成であった。また、正極活物質の被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子表面のうちの、タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比は29.8%だった。
[実施例4]
水洗工程、混合工程で用いるタングステン化合物の水溶液を、電気伝導率が0.8μS/cmの純水100mLに0.8gの水酸化リチウム(LiOH)を溶解した水溶液中に、2.2gの酸化タングステン(WO3)を添加して撹拌することにより得たこと以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0156】
なお、原料混合物の水分率は5.4質量%であり、タングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.05原子%の組成であった。
【0157】
得られた正極活物質の組成、タングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、Ni:Co:Alは、原子数比で82:15:3であり、そのLi/Meは0.984であり、母材のLi/Meは0.983であった。すなわち、母材であるリチウム金属複合酸化物の組成はLi0.983Ni0.82Co0.15Al0.03O2になっていることが確認できた。
【0158】
また、正極活物質のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.05原子%の組成であった。また、正極活物質の被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子表面のうちの、タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比は0.005%だった。
[実施例5]
熱処理工程の熱処理条件に関して、80℃まで昇温速度を0.4℃/分として昇温し80℃まで、真空乾燥機内は1.0×104Pa以上5.0×104Pa以下の真空雰囲気となるように圧力範囲に制御した。以上の点以外は実施例4と同様にして、正極活物質を得るとともに評価を行った。なお、原料混合物の水分率は5.7質量%であり、タングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.05原子%の組成であった。
【0159】
正極活物質のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.05原子%の組成であった。また、正極活物質の被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子表面のうちの、タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比は0.003%だった。
【0160】
なお、正極活物質全体のLi/Me、及び母材の組成は実施例4と同様であった。
[実施例6]
実施例1にて用いたものと同じリチウム金属複合酸化物粉末の粒子を母材として用いた。
【0161】
そして、150gの母材に、25℃、電気伝導率が0.8μS/cmの純水を100mL添加しスラリーとし、15分間の水洗を行った。水洗後はヌッチェを用いて濾過することで固液分離した。得られたリチウム金属複合酸化物ケーキの水分率は5.4質量%であった(水洗工程)。
【0162】
次にリチウムニッケル複合酸化物に含まれるNi、Co及びAlの原子数の合計に対してW量が1.5原子%となるように、リチウム金属複合酸化物ケーキに酸化タングステン(WO3)を5.29g添加し、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合し、原料混合物を得た。なお、原料混合物の水分率は5.2質量%であった。
【0163】
得られた原料混合物を用いた点以外、その後の工程は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0164】
得られた正極活物質の組成、タングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、Ni:Co:Alは、原子数比で82:15:3であり、そのLi/Meは0.982であり、母材のLi/Meは0.978であった。すなわち、母材であるリチウム金属複合酸化物の組成はLi0.978Ni0.82Co0.15Al0.03O2になっていることが確認できた。
正極活物質のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して1.50原子%の組成であった。また、正極活物質の被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子のうちの、タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比は25.3%だった。
[実施例7]
混合工程において原料混合物の水分率を7.5質量%に調整し、熱処理工程の熱処理条件に関して、80℃まで昇温速度を4.0℃/分として昇温し、80℃まで真空乾燥機内は5.0×102Pa以上1.0×103Pa以下の真空雰囲気となるように圧力範囲を制御した。以上の点以外は実施例6と同様にして、正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0165】
得られた正極活物質の組成、タングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、Ni:Co:Alは、原子数比で82:15:3であり、そのLi/Meは0.983であり、母材のLi/Meは0.980であった。すなわち、母材であるリチウム金属複合酸化物の組成はLi0.980Ni0.82Co0.15Al0.03O2になっていることが確認できた。
また、正極活物質のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して1.50原子%の組成であった。また、正極活物質の被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子のうちの、タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比は45.5%だった。
[比較例1]
実施例1にて用いたものと同じリチウム金属複合酸化物粉末の粒子を母材として用いた。
【0166】
そして、電気伝導率が0.8μS/cmの純水100mLに3.0gの水酸化リチウム(LiOH)を溶解した水溶液中に、8.3gの酸化タングステン(WO3)を添加して撹拌することにより、タングステン化合物の水溶液を得た。
【0167】
次に、母材とするリチウム金属複合酸化物粉末75gを、温度を25℃に調整した上記タングステン化合物の水溶液に浸漬し、さらに10分間撹拌することで十分に混合すると同時にリチウム金属複合酸化物粉末を水洗した。その後、ヌッチェを用いて吸引ろ過することで固液分離し、リチウム金属複合酸化物粒子と、液成分と、タングステン化合物からなるタングステン混合物(原料混合物)を得た。吸引濾過の時間を調整することで、原料混合物の水分率が目的範囲内に入るように調整した。加熱乾燥式水分計を用いて、測定した水分率は9.5質量%であった。また、原料混合物のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.30原子%の組成であることが確認された(水洗工程、混合工程)。
【0168】
得られた上記原料混合物を用いた点以外、その後の工程は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0169】
なお、正極活物質のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.30原子%の組成であった。また、正極活物質の被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子のうちの、タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比は60.3%だった。
[比較例2]
水洗工程において、水洗後のリチウム金属複合酸化物ケーキの水分率を7.3質量%に調整し、リチウム金属複合酸化物ケーキに添加する酸化タングステンの重量を7.05gとした点以外は実施例6と同様にして、正極活物質を得るとともに評価を行った。なお、原料混合物の水分率は7.0質量%であった。また、原料混合物のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して2.00原子%の組成であった。
【0170】
正極活物質のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して2.0原子%の組成であった。また、正極活物質の被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子のうちの、タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比は58.8%だった。
[比較例3]
熱処理工程の熱処理条件に関して、80℃までの昇温速度を5.0℃/分とし、80℃まで真空乾燥機内は1.0×102Pa以上5.0×102Pa以下の真空雰囲気となるように圧力範囲に制御した。以上の点以外は実施例3と同様にして、正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0171】
正極活物質のタングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.30原子%の組成であった。また、正極活物質の被覆含有リチウム金属複合酸化物粒子のうちの、タングステン酸リチウムの濃縮部分の面積比は57.9%だった。
【0172】
【表1】
表1に示した結果によると、濃縮部分の面積比が50%以下である実施例1~実施例7では、濃縮部分の面積比が50%を超える比較例1~比較例3と比較して、正極抵抗が抑制できることを確認できた。実施例1~実施例7の正極活物質では、上述のように正極抵抗が低減されることから、電池内で損失される電圧が減少し、実際に負荷側に印加される電圧が高くなるため、リチウムイオン二次電池に適用した場合に高出力が得られる。
【0173】
また、実施例1~実施例7では、さらに初期放電容量が200mAh/g以上、500サイクル後の容量維持率が80%以上と高くなることを確認できた。これは、上述のように正極抵抗を抑制することで、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、電池容量やサイクル特性も向上させることができたためと考えられる。