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特開2023-40102導電性ダイヤモンド電極を有する電気化学セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040102
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】導電性ダイヤモンド電極を有する電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/461 20230101AFI20230314BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20230314BHJP
   C25B 11/043 20210101ALI20230314BHJP
   C25B 15/023 20210101ALI20230314BHJP
   C25B 15/04 20060101ALI20230314BHJP
   C25B 9/05 20210101ALI20230314BHJP
   C25B 9/63 20210101ALI20230314BHJP
   C25B 1/34 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C02F1/461 101Z
B01J19/08 A
C25B11/043
C25B15/023
C25B15/04
C25B9/05
C25B9/63
C25B1/34
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209286
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2020205706の分割
【原出願日】2016-11-25
(31)【優先権主張番号】1522500.6
(32)【優先日】2015-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】514233369
【氏名又は名称】エレメント シックス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】エリス ジュリアン ジェイムズ サーグッド
(72)【発明者】
【氏名】モラート ティモシー ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ブランドン ジョン ロバート
(57)【要約】
【課題】流体を処理する電気化学セルを提供する。
【解決手段】流体を処理する電気化学セルであって、電気化学セルは、少なくとも2本の対向した電極を有し、少なくとも2本の対向した電極は、これら電極相互間に流体のための流路を画定し、電極のうちの少なくとも1本は、導電性ダイヤモンド材料で作られ、電気化学セルは、流体が電極相互間の流路を通って流されたときに電流が電極相互間に流れるよう電極両端に電位差を印加するよう構成された駆動回路と、電極が収納されたハウジングとを更に有し、ハウジングは、流体を流体経路内に収容するよう構成された圧力シールおよび電極を支持する支持構造体を有し、支持構造体および圧力シールは、電気化学セルが2barから10barまでの範囲にある動作圧力を有し、動作圧力の範囲内において、電極は、破損しないで支持されることを特徴とする電気化学セル。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を処理する電気化学セルであって、前記電気化学セルは、
少なくとも2本の対向した電極を有し、前記少なくとも2本の対向した電極は、該電極相互間に流体のための流路を画定し、前記電極のうちの少なくとも1本は、導電性ダイヤモンド材料で作られ、
前記流体が前記電極相互間の前記流路を通って流されたときに電流が前記電極相互間に流れるよう前記電極相互間に電位差を印加するよう構成された駆動回路を有し、
前記電極が収納されたハウジングを有し、前記ハウジングは、前記流体を前記流体経路内に収容するよう構成された圧力シールおよび前記電極を支持する支持構造体を有し、
前記支持構造体および前記圧力シールは、前記電気化学セルが2barから10barまでの範囲にある動作圧力を有し、前記動作圧力の範囲内において、前記電極は、破損しないで支持され、前記動作圧力の範囲内において、前記流体は、前記流路内に収容され、
前記電極は、0.5mmから4mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられ、
前記駆動回路は、動作電圧が20V以下の場合、少なくとも20cm2の電極面積にわたって15,000Amp/m2以上の電流密度を与える電位差を前記電極相互間に印加するよう構成されている、電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の導電性ダイヤモンド電極を有する電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
廃水または排水を処理して溶解汚染物を酸化により分解するとともに汚染物の害を小さくするための電気化学セルの使用が当該技術分野において知られている。十分に高い酸化電位を有する電極を選択するとともに高い電位を廃水と接触状態にあるかかる電極に加えると、反応性の高いラジカル、例えばヒドロキシルラジカルを生じさせることが可能であり、これらラジカルは、溶解汚染物を分解する酸化性の極めて高い環境を作る。
【0003】
また、当該技術分野においては、導電性ダイヤモンド電極をかかる廃水処理用途に使用することができるということが知られている。例えば、欧州特許第0659691号明細書は、導電性ダイヤモンド電極に関するかかる使用を記載している。導電性ダイヤモンド材料は、これら用途において多数の有利な特徴を有すると考えられており、かかる有利な特徴としては、硬度が高いこと、熱伝導率が高いこと、化学的不活性度が高いこと、および電位窓が広いことが挙げられる。これら特徴は、電極を損傷させず、かくして長期間にわたる使用を可能にしながら廃水浄化のための反応性の高いラジカルを電気化学的に生成するための最適な特性の組み合わせを導電性ダイヤモンド材料に与えると考えられる。
【0004】
ダイヤモンド電極を有する電気化学セルに関して考えられる一形態は、バイポーラセル形態である。かかる形態は、単一のアノード電気接続部と単一のカソード電気接続部との間に設けられたバイポーラ電極のスタックを有する。かかるバイポーラ形態では、複数の電極が端アノードと端カソードとの間に設けられ、その結果、広い磁界が端アノードと端カソードとの間に加えられると、各中間電極は、アノードとして機能する一方の側部およびカソードとして機能する反対側の側部を有することになる(すなわち、各中間電極は、バイポーラとなる)。かかる構成により、各導電性ダイヤモンド電極の両側部は、アクティブ状態になり、これは、電気化学反応の速度が電極のアクティブな表面積に依存すると仮定すると、重要であると言える。さらに、かかるバイポーラ電極形態では、中間バイポーラ電極への電気接続部を作ることが必要とされず、このことは、従来型金属電極と比較して、導電性ダイヤモンド材料で作られた電極にとって問題となる場合がある。
【0005】
国際公開第2008/029258号パンフレットは、中実の自立型ダイヤモンド電極がかかる用途では良好な寿命を有するが、かかる厚手の自立型ダイヤモンド電極に所要の導電性を達成することが困難な場合のあることを記載している。したがって、国際公開第2008/029258号パンフレットは、厚手の自立型ダイヤモンド電極中に高い硼素ドープ濃度を達成して適度に高い導電性を達成する方法を記載するとともにバイポーラ電気化学セル形態中におけるかかる電極の使用を記載している。バイポーラ形態において用いられる並列流れ形態と蛇行流れ形態の両方が示唆され、並列流れ形態は、好ましいものとして示されている。
【0006】
上述のことと関連して、図1は、国際公開第2008/029258号パンフレットによる並列流れ形態を備えたバイポーラ電気化学セルを記載し、図2は、国際公開第2008/029258号による蛇行流れ形態を備えたバイポーラ電気化学セルを記載している。これら形態の両方は、導電性ダイヤモンド電極のバイポーラスタックを有し、かかるバイポーラスタックは、端アノード2、端カソード4、およびアノード2とカソード4との間に設けられた複数の中間バイポーラ電極6を含む。アノード2およびカソード4は各々、スイッチングDC電源11に結合された単一の電気接続部8,10を有する。図1に示されている形態は、複数の導電性ダイヤモンド電極相互間に設けられた複数の並列流路12を有する。これとは対照的に、図2に示されている形態は、複数の導電性ダイヤモンド電極相互間を通る蛇行流路13を有する。
【0007】
国際公開第2012/049512号パンフレットは、例えば、主としてダイヤモンド電極が電極の端部のところでのみ支持されているという事実と関連した国際公開第2008/029258号パンフレットに記載されているバイポーラ電気化学セル形態に関する多くの別の問題を記載している。これら問題としては、次に挙げる問題、すなわち、(1)薄手の自立型(すなわち、支持基材が設けられていない)ダイヤモンド電極が機械的破損を生じやすいという問題、(2)厚手のダイヤモンド電極を製造するのに費用が高くつくという問題、(3)電気短絡が起こらないようにするための電極間隔の事実上の下限が電気化学的性能にとって快適レベルよりも高いという問題、および(4)セル中の不十分な乱流が電極表面のところの質量輸送レートを減少させるという問題が挙げられる。国際公開第2012/049512号パンフレットは、バイポーラセル形態において多孔質支持構造体(例えば、耐腐食性プラスチックで作られている)をダイヤモンド電極相互間に設けることによってこれら全ての問題を少なくとも部分的に解決することができるということを提案している。かかる支持構造体により、比較的薄手のダイヤモンド電極を機械的破損なく利用することができる。さらに、かかる支持構造体により、電極間隔を電気短絡の恐れなく狭めることができる。また、この支持構造体は、電極表面のところの乱流および質量輸送レートを増大させるよう機能することができる。
【0008】
上述の内容に照らして、国際公開第2012/049512号パンフレットは、自立型導電性ダイヤモンド電極を有する電気化学セル形態に関して今日における技術の現状を記載している。かかるバイポーラ電気化学セル形態が図3に示され、図4は、図3の電気化学セルのダイヤモンド電極相互間において流量中に設けることができる多孔質支持構造体の一例を示している。図3に示されている形態は、図1に示されている形態とほぼ同じであり、かかる形態は、端アノード2、端カソード4、およびアノード2とカソード4との間に設けられた複数のバイポーラ電極6を含む導電性ダイヤモンド電極のバイポーラスタックから成っている。アノード2およびカソード4は各々、スイッチングDC電源11に結合された単一の電気接続部8,10を有する。図1に記載されているのと同様、図3に示されている形態は、複数の導電性ダイヤモンド電極相互間に設けられた複数の並列流路12を有する。図1に示されている形態と図3に示されている形態との差は、図3に示されている形態が電気化学セルのダイヤモンド電極相互間の流路中に設けられた多孔質支持構造体14を有していることにある。かかる支持構造体14の一例が図4に示され、この多孔質支持構造体は、流体が図4の矢印によって示されているように隣り合う導電性ダイヤモンド電極相互間を流れることができるようにしながら電極を支持するよう隣り合う導電性ダイヤモンド電極相互間でサンドウィッチできる多孔質ウェーハを形成する網状構造をなす耐腐食性プラスチック部材16を有する。
【0009】
図3および図4に示されている構成による形態は、以下の特徴を含む多くの有利な特徴を有する。
(1)多数のバイポーラ中実ダイヤモンド電極が設けられていることおよびアクティブな電極表面積を増大させる各バイポーラ電極の両方の表面が使用されていること。
(2)極性を切り換えること、かくしてファウリングが軽減すること。
(3)電気接続部が乾燥していること。
(4)2つの電気貫通部が単純であること。
(5)電極間隔が狭く、効率が増大すること。
(6)物理的堅牢さがあること。
(7)適切な設計の支持構造体により内部電極乱流が増大すること。
(8)1対の端電極によりn個のセルに対して容易にスケール変更できることおよび2×nを超えるボルトが印加されること。
【0010】
しかしながら、幾つかの問題は、廃水処理のための自立型ダイヤモンド電極を有する商業的に実行可能な電気化学セル形態を実現するという点で依然として提起される場合がある。恐らくは、これらのうちの最も重要なことは、バイポーラセル形態が動作上の観点からはコストがかかる場合のある所望の電流密度を達成するには高い動作電圧の使用を必要とすることにある。
【0011】
国際公開第2014/090663号パンフレットは、ダイヤモンドを利用した電気化学セルに関するバイポーラセル形態の幾つかの代替手段を開示している。しかしながら、かかる代替的形態は、実施するのがより複雑である場合があり、依然として、比較的高い動作電圧を必要とし、かくしてこのことは、経常費が商業的用途にとって依然として極めて重要な問題であることを意味している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許第0659691号明細書
【特許文献2】国際公開第2008/029258号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2012/049512号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2014/090663号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の実施形態の目的は、ダイヤモンドを利用した電気化学セルの上述の問題を少なくとも部分的に解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一観点によれば、流体を処理する電気化学セルであって、電気化学セルは、
少なくとも2本の対向した電極を有し、少なくとも2本の対向した電極は、これら電極相互間に流体のための流路を画定し、電極のうちの少なくとも1本は、導電性ダイヤモンド材料で作られ、
流体が電極相互間の流路を通って流されたときに電流が電極相互間に流れるよう電極両端に電位差を印加するよう構成された駆動回路を有し、
電極が収納されたハウジングを有し、ハウジングは、流体を流体経路内に収容するよう構成された圧力シールおよび電極を支持する支持構造体を有し、
支持構造体および圧力シールは、電気化学セルが2barから10barまでの範囲にある動作圧力を有し、動作圧力の範囲内において、電極は、破損しないで支持され、動作圧力の範囲内において、流体は、流路内に収容され、
電極は、0.5mmから4mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられ、
駆動回路は、動作電圧が20V以下の場合、少なくとも20cm2の電極面積にわたって15,000Amp/m2以上の電流密度を与える電位差を電極両端に印加するよう構成されていることを特徴とする電気化学セルが提供される。
【0015】
本発明の良好な理解のため、そして本発明をどのように実施することができるかということを示すために、次に、添付の図面を参照して本発明について説明するが、これは例示に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】国際公開第2008/029258号による並列流れ形態を備えたバイポーラ電気化学セルを示す図である。
図2】国際公開第2008/029258号による蛇行流れ形態を備えたバイポーラ電気化学セルを示す図である。
図3】国際公開第2012/049512号による並列流れ形態および電極相互間に設けられ複数の支持構造体を有するバイポーラ電気化学セルを示す図である。
図4】国際公開第2012/049512号による支持構造体の一例を示す図である。
図5】国際公開第2012/049512号による電気化学セルの一例を示す図である。
図6】本発明の一実施形態による改造型電気化学セルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態は、国際公開第2012/049512号パンフレットに記載されている本所有権者自身の初期のダイヤモンドを利用したバイポーラ電気化学セルの改造版を利用している。国際公開第2012/049512号パンフレットに記載された形態は、支持構造体、電極間隔(5mm)および動作電力が8Vの場合、少なくとも20cm2の電極面積に全体にわたってほぼ1barの動作圧力および5,000Amp/m2の電流密度または動作電圧が12Vの場合、少なくとも20cm2の電極面積全体にわたり10,000Amp/m2の電流密度を提供するよう構成されたシールを有する。実際には、印加される電位差が所与の場合、広い電極面積を保持しながら電流密度を増大させることが有利であることが判明した。小型電極を備えたダイヤモンド利用形態の電気化学セルについて大きな電流密度が達成されたが、結果として効率の高い電気化学処理セルが得られるようにするのは、高い電流密度と広い電極面積の組み合わせである。
【0018】
図5は、国際公開第2012/049512号による電気化学セルの一例を示している。この形態は、以下のコンポーネント、すなわち、本体組立体20、ばね押しクランプ22、マニホルド24、カセット組立体26、端電極28、外側クランプリング30、アダプタ32、Oリング34,36,38、スタッド材40、座金42、ナット44、および植込みボルト46,48を有する。
【0019】
図6は、本発明の一実施形態としての改造型電気化学セルを示している。この形態は、以下のコンポーネント、すなわち、Oリング60、外側クランプリング62、円板ばね64、トラニオン66、ねじ込み植込みボルト68,70、座金72、ナット74、本体76、ばねクランプ78、電極組立体80、カセット組立体82、ねじ込み植込みボルト84、Oリング86、およびマニホルド88を有する。
【0020】
本発明は、ダイヤモンドを利用した電気化学セルの電気抵抗を次の2つの主要の仕方で、すなわち、(i)ダイヤモンド電極間隔を減少させることにより、(ii)ダイヤモンド電極支持構造体および圧力使用を含むハウジングを設計し直して動作圧力および流速を増大させることにより電気抵抗を減少させた。この点に関し、電極間隔を減少させることにより、電流が電極相互間の流体を通って流れるのに必要な距離が短くなり、かくして電気抵抗が減少する。動作圧力を増大させることにより、流体中の気泡のサイズが減少し、かくして流体の抵抗率が減少する。さらに、かかる改造型電気化学セルの動作圧力限度を超えないで、流体の流速を増大させることができる。流体の流速を増大させることにより、ダイヤモンドの電極の表面から泡の除去が助長され、それにより、この場合もまた、ダイヤモンド電極相互間の流体の抵抗率の減少が得られる。
【0021】
それと同時に、所望の動作条件をセルのコンポーネントの公差に対してバランス取りしなければならない。例えば、高すぎるほどの圧力で動作させると、ダイヤモンド電極、特に比較的薄い大面積ダイヤモンド電極の割れが生じる場合がある。電極面積を減少させると、割れに対する堅牢性を高めることができるが、電極面積の減少により、セルの酸化容量が減少する。それゆえ、動作電圧の増大と大面積電極の保持と漏れおよび割れに対する堅牢さのバランスを取らなければならない。さらに、電極間隔を減少させると、その結果として、流体の流路のサイズが減少し、それにより流体中の固体粒子による流路の詰まりの問題が生じる場合がある。さらに、電極相互間の流路のサイズを減少させると、流量が所与の場合、流体の流速が増大する。流速の増大は、泡除去の上述の理由により有利であるが、流速の増大の結果として圧力の増大が高すぎるようになると、これにより漏れまたは電極の割れが生じる場合がある。それゆえ、本発明者は、動作圧力および電極間隔について上限および下限を定めるとともに堅牢な形態を保持しながら所望の電極間隔および動作圧力を達成するよう電極支持構造体および圧力シールを設計し直した。
【0022】
上述のことに照らして、電気化学セル形態が提供され、この電気化学セル形態は、
少なくとも2本の対向した電極を有し、少なくとも2本の対向した電極は、これら電極相互間に流体のための流路を画定し、電極のうちの少なくとも1本は、導電性ダイヤモンド材料で作られ、
流体が電極相互間の流路を通って流されたときに電流が電極相互間に流れるよう電極両端に電位差を印加するよう構成された駆動回路を有し、
電極が収納されたハウジングを有し、ハウジングは、流体を流体経路内に収容するよう構成された圧力シールおよび電極を支持する支持構造体を有し、
支持構造体および圧力シールは、電気化学セルが2barから10barまでの範囲にある動作圧力を有し、動作圧力の範囲内において、電極は、破損しないで支持され、動作圧力の範囲内において、流体は、流路内に収容され、
電極は、0.5mmから4mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられ、
駆動回路は、動作電圧が20V以下の場合、少なくとも20cm2の電極面積にわたって15,000Amp/m2以上の電流密度を与える電位差を電極両端に印加するよう構成されている。
【0023】
電極は、2つの端電極およびこれら端電極相互間に設けられた1つまたは2つ以上の中間電極を含むのが良く、それによりバイポーラセル形態が形成されている。しかしながら、注目されるべきこととして、電気化学セル形態は、バイポーラセル形態には限定されず、本明細書の教示は、例えば国際公開第2014/090663号パンフレットに記載されているような別の形態にも利用できる。
【0024】
支持構造体および圧力シールは、電気化学セルの動作圧力が少なくとも3または4bar、オプションとして8bar以下または5bar以下であるように構成されるのが良い。圧力形態に対する下限は、圧力を増大させ、かくして泡のサイズを減少させ、更にかくして流体の抵抗率を減少させることが望ましいかどうかによって定められる。圧力形態に対する上限は、漏れおよび/または電極の割れが生じる圧力によって定められる。これは、ダイヤモンド電極の強度、電極の支持構造体、および圧力シールの圧力定格で決まる。圧力シールは、電極が割れる圧力よりも低い圧力で破損するよう選択されるのが良い。さらに、漏れの検出時にセルを作動停止させるための漏れ検出システムが設けられるのが良い。かかる特徴の組み合わせは、例えば、セルを損傷させる場合のある圧力増大を招く場合のある固体粒子による流路の閉塞が生じた場合にセルの損傷を制限する。
【0025】
電極間隔は、3.5mm以下、3.0mm以下、2.5mm以下、または2mm以下でありかつオプションとして0.75mm以上、1mm以上、1.25mm以上、または1.5mm以上であるのが良い。電極間隔の上限は、電極相互間の距離を減少させ、かくしてセルの抵抗を減少させるとともに体積流量が所与の場合、泡のサイズおよび数を減少させ、かくして電極相互間の流体の抵抗率を減少させる流体の流速および圧力の増大をもたらすのが望ましいかどうかで設定される。電極間隔の下限は、固体粒子によって引き起こされる閉塞を回避し、漏れまたは電極の割れが問題になるほど流速および圧力が高くはならないようにすることが望ましいかどうかによって設定される。
【0026】
電極面積は、少なくとも40cm2、少なくとも60cm2、少なくとも80cm2、少なくとも100cm2、または少なくとも120cm2でありかつオプションとして200cm2以下、150cm2以下、または130cm2以下であるのが良い。電極面積は、流体にさらされる電極の一方の側の表面積である。下限は、酸化容量を増大させる大きな電極面積を有することが望ましいかどうかによって設定される。上限は、電極のコストおよび大面積ダイヤモンド電極を支持する一方で電極を破損なく高い圧力で動作することが困難であるかどうかによって設定される。
【0027】
駆動回路は、電極面積全体にわたって20,000Amp/m2以上、25,000Amp/m2以上、28,000Amp/m2以上、または29,000Amp/m2以上の電流密度かつオプションとして、電極面積全体にわたって40,000Amp/m2以下、35,000Amp/m2以下、32,000Amp/m2以下の電流密度を与えるよう構成されるのが良い。これら電流密度は、20V以下の動作電圧の場合に達成される。高い酸化容量を提供するためには極めて高い電流密度を提供することが望ましい。さらに、これは、比較的低い電圧で提供されるべきことが望ましく、と言うのは、使用時点において有効電力が制限される場合がありかつ高い電力の結果として多大な経常費が生じることになるからである。上限は、電力要件およびコストを下げたままにすることが望ましいかどうかによって設定される。
【0028】
電気化学セルは、この電気化学セルを通って少なくとも1ms-1、少なくとも1.3ms-1、少なくとも1.6ms-1、または少なくとも2ms-1の流速でかつオプションとして、10ms-1以下、5ms-1以下、または3ms-1以下の流速で流体を圧送するポンプシステムを更に備えるのが良い。上述したように、流速の増大により泡を電極表面から除くことができるとともに圧力を増大させることができ、かくして泡の寸法が減少する。これら作用効果の両方の結果として、抵抗率が減少し、かくして印加される電圧が所与の場合、電流密度が増大する。しかしながら、流速が高すぎる場合、圧力は、漏れまたはダイヤモンド電極の割れが問題となる程度まで増大する場合がある。
【0029】
図5に示されている従来のセル形態と比較して、図6に示されている改造型セル形態は、今や、フランジ付き入口および出口を備えた直線形態を有する。電極クランプ力が増大しており、Oリングシールの材質は、化学的抵抗、負荷、および熱的効果を考慮に入れて変更されている。有限要素解析(FEA)が負荷/熱的作用効果に基づいてシールの負荷および材料選択を最適化するよう利用されている。この点に関し、高い電流密度および水圧で動作するよう設計された電気化学セルがダイヤモンド電極を封止するとともに包装するために用いられるコンポーネントに対する要求を増大させることに注目されなければならない。電解液にさらされるポリマーコンポーネントは、有利には、電解液の局所的に近くに見受けられる化学的腐食の増大に抵抗するようフルオロポリマーまたは関連材料である。動作圧力を増大するには、封止のために用いられる圧縮力を増大させる必要があり、また、予荷重を加えるために全ての締結具に対して皿座金の使用が有利である。ダイヤモンド電極と裏当てクランプとの間の支持インターフェースは、引っ張り応力がダイヤモンド電極に割れを生じさせるのを阻止する一方で圧縮クランプ力が封止面に加えられるようにするのに十分硬くなければならない。
【0030】
改造型バイポーラセル形態は、間隔が1.6mmの21個の硼素ドープダイヤモンド電極を有する。各電極は、130mmの直径および0.6mmの厚さを有する。セルは、約3barの圧力、約25,000リットル/時間の流量、1.0ms-1を超える流速、および28,000Amp/m2以上の電流密度で動作するよう構成されている。電力要件は、120~250kWであり、最大酸化容量は、0.5kgh-1の先の値と比較して、ほぼ2kgh-1である。
【0031】
上述の実施形態は、バイポーラ形態をしているが、本発明は、他の電気化学セル形態に利用できることが想定される。さらに、動作中、アノード電極は、酸化種を生じさせるよう機能することが注目できる。したがって、一形態では、複数の電極は、複数の対向した対をなす電極から成り、電極の各対向した対は、導電性ダイヤモンド材料の中実シートで形成された1つの電極および非ダイヤモンド材料、例えば金属または金属複合材料で形成されたもう1つの電極を含む。しかしながら、好ましい形態では、複数の電極は、複数の対向した対をなす電極から成り、この場合、電極の各対向した対に属する両方の電極は、導電性ダイヤモンド材料の中実シートで形成される。
【0032】
本明細書において説明したような水処理用途に加えて、本発明の実施形態はまた、塩水溶液の電解液経由で漂白剤(OCl-)を生じさせるために使用できる。
【0033】
実施形態を参照して本発明を具体的に図示するとともに説明したが、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく、形態および細部における種々の変更を行うことができるということは当業者には理解されよう。
また、好ましい構成態様として、本発明を次のように構成することもできる。
1. 流体を処理する電気化学セルであって、前記電気化学セルは、
少なくとも2本の対向した電極を有し、前記少なくとも2本の対向した電極は、該電極相互間に流体のための流路を画定し、前記電極のうちの少なくとも1本は、導電性ダイヤモンド材料で作られ、
前記流体が前記電極相互間の前記流路を通って流されたときに電流が前記電極相互間に流れるよう前記電極相互間に電位差を印加するよう構成された駆動回路を有し、
前記電極が収納されたハウジングを有し、前記ハウジングは、前記流体を前記流体経路内に収容するよう構成された圧力シールおよび前記電極を支持する支持構造体を有し、
前記支持構造体および前記圧力シールは、前記電気化学セルが2barから10barまでの範囲にある動作圧力を有し、前記動作圧力の範囲内において、前記電極は、破損しないで支持され、前記動作圧力の範囲内において、前記流体は、前記流路内に収容され、
前記電極は、0.5mmから4mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられ、
前記駆動回路は、動作電圧が20V以下の場合、少なくとも20cm2の電極面積にわたって15,000Amp/m2以上の電流密度を与える電位差を前記電極相互間に印加するよう構成されている、電気化学セル。
2. 前記電極は、2つの端電極および前記2つの端電極相互間に設けられた1つまたは2つ以上の中間電極を含み、それによりバイポーラセル形態が形成されている、上記1記載の電気化学セル。
3. 前記支持構造体および前記圧力シールは、前記電気化学セルの前記動作圧力が少なくとも3barであるように構成されている、上記1または2記載の電気化学セル。
4. 前記支持構造体および前記圧力シールは、前記電気化学セルの前記動作圧力が少なくとも4barであるように構成されている、上記1~3のうちいずれか一に記載の電気化学セル。
5. 前記圧力シールは、前記電気化学セルの前記動作圧力が8bar以下であるように構成されている、上記1~4のうちいずれか一に記載の電気化学セル。
6. 前記圧力シールは、前記電気化学セルの前記動作圧力が5bar以下であるように構成されている、上記1~5のうちいずれか一に記載の電気化学セル。
7. 前記電極間隔は、3.5mm以下、3.0mm以下、2.5mm以下、または2mm以下である、上記1~6のうちいずれか一に記載の電気化学セル。
8. 前記電極間隔は、0.75mm以上、1mm以上、1.25mm以上、または1.5mm以上である、上記1~7のうちいずれか一に記載の電気化学セル。
9. 前記電極面積は、少なくとも40cm2、少なくとも60cm2、少なくとも80cm2、少なくとも100cm2、または少なくとも120cm2である、上記1~8のうちいずれか一に記載の電気化学セル。
10. 前記電極面積は、200cm2以下、150cm2以下、または130cm2以下である、上記1~9のうちいずれか一に記載の電気化学セル。
11. 前記駆動回路は、前記電極面積全体にわたって20,000Amp/m2以上、25,000Amp/m2以上、28,000Amp/m2以上、または29,000Amp/m2以上の電流密度を与えるよう構成されている、上記1~10のうちいずれか一に記載の電気化学セル。
12. 前記駆動回路は、前記電極面積全体にわたって40,000Amp/m2以下、35,000Amp/m2以下、32,000Amp/m2以下の電流密度を与えるよう構成されている、上記1~11のうちいずれか一に記載の電気化学セル。
13. 前記電気化学セルを通って少なくとも1ms-1、少なくとも1.3ms-1、少なくとも1.6ms-1、または少なくとも2ms-1の流速で流体を圧送するポンプシステムを更に有する、上記1~12のうちいずれか一に記載の電気化学セル。
14. 前記ポンプシステムは、前記流速が10ms-1以下、5ms-1以下、または3ms-1以下であるよう構成されている、上記13記載の電気化学セル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6