(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004018
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】管理支援表示装置、管理支援表示方法及び管理支援表示プログラム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20230110BHJP
G06Q 50/26 20120101ALI20230110BHJP
【FI】
C02F1/00 Z
C02F1/00 K
C02F1/00 T
C02F1/00 D
G06Q50/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105472
(22)【出願日】2021-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】有村 良一
(72)【発明者】
【氏名】穂刈 啓志
(72)【発明者】
【氏名】難波 諒
(72)【発明者】
【氏名】荻野 翼
(72)【発明者】
【氏名】米元 亮馬
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC35
(57)【要約】
【課題】 水処理プラントの運転管理において、適切な運用を行うことを支援する管理支援表示装置を提供する。
【解決手段】 実施形態による管理支援表示装置20は、原水の水質に関する水質情報および原水への薬品の注入に関する注入情報と、ユーザーにより設定された水質情報と注入情報との設定値と、の一方を少なくとも用いて、薬品が注入された処理後の原水の水質を示す処理水質の予測値を演算する予測部―27と、原水の水質に関する水質情報および原水への薬品の注入に関する注入情報を現在値とし、設定値を用いて演算された予測値を試算値とし、現在値と試算値とを対比可能な態様でユーザーに提示する管理支援表示部25と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水の水質に関する水質情報および前記原水への薬品の注入に関する注入情報と、ユーザーにより設定された水質情報と注入情報との設定値と、の一方を少なくとも用いて、前記薬品が注入された前記原水の水質を示す処理水質の予測値を演算する予測部と、
前記原水の水質に関する前記水質情報および前記原水への前記薬品の注入に関する前記注入情報を現在値とし、前記設定値を用いて演算された前記予測値を試算値とし、前記現在値と前記試算値とを対比可能な態様でユーザーに提示する管理支援表示部と、を備えた管理支援表示装置。
【請求項2】
前記管理支援表示部は、前記現在値に対応するコスト、および、前記試算値に対応するコストを演算可能なコスト演算部を含み、前記現在値と前記試算値とのそれぞれに関連付けて対応する前記コストをユーザーに提示する、請求項1記載の管理支援表示装置。
【請求項3】
前記管理支援表示部は、前記試算値と、前記試算値に対応する前記コストの演算に用いた情報とを少なくとも含むログ情報を、前記試算値の予測時刻に関連付けて保存し、複数の前記ログ情報をユーザーに提示可能である、請求項2に記載の管理支援表示装置。
【請求項4】
前記管理支援表示部は、前記試算値および前記試算値の演算に用いた情報の少なくともいずれかについて、前記現在値との差分を演算する差分演算部を備え、複数の前記差分をユーザーに提示可能である、請求項1に記載の管理支援表示装置。
【請求項5】
前記管理支援表示部は、前記試算値、前記試算値の演算に用いた情報および前記コストの少なくともいずれかについて、前記現在値との差分を演算する差分演算部を備え、複数の前記差分をユーザーに提示可能である、請求項2に記載の管理支援表示装置。
【請求項6】
前記管理支援表示部は、前記試算値、前記試算値の演算条件および前記現在値の対応する項目を対比可能な態様で表示するグラフのグラフ表示用データを生成するグラフ演算部を備え、
前記試算値又は前記試算値の演算条件と、前記現在値との対応する前記項目のグラフをユーザーに提示可能である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の管理支援表示装置。
【請求項7】
前記管理支援表示部は、前記現在値と前記試算値との対応する項目について、前記現在値に対する前記試算値の変化率を演算する変化率演算部を備え、
複数の前記変化率をユーザーに提示可能である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の管理支援表示装置。
【請求項8】
原水の水質に関する水質情報および前記原水への薬品の注入に関する注入情報と、ユーザーにより設定された水質情報と注入情報との設定値と、の一方を少なくとも用いて、前記薬品が注入された処理後の前記原水の水質を示す処理水質の予測値を演算し、
前記原水の水質に関する前記水質情報および前記原水への前記薬品の注入に関する前記注入情報を現在値とし、前記設定値を用いて演算された前記予測値を試算値とし、前記現在値と前記試算値とを対比可能な態様でユーザーに提示する、管理支援表示方法。
【請求項9】
コンピューターに、請求項8に記載の方法を実行させる管理支援表示プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、管理支援表示装置、管理支援表示方法及び管理支援表示プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
浄水場における浄水処理プロセスの運転管理は、浄水処理後の水の水質が水道水の水質基準を下回るように維持することが主な目的である。そして、各浄水場は、一般的に、その水質基準よりも高いレベルの管理目標水質(例えば濃度でいえばより低濃度の水質)を設定しており、その上で、洗浄や汚泥処分にかかる費用やエネルギーについても、省エネルギーであって省コストの目標を達成するよう努力している。特に、近年においては水道事業体の運営基盤の強化の観点から、低コストの運転管理技術が要求されている。
【0003】
一般的に、浄水場などの水処理プラントでは、原水に含まれる懸濁浮遊物などを沈降除去するための、固液分離プロセスと呼ばれるプロセスがある。固液分離プロセスは、懸濁浮遊物などを水中から除去する除去効率を高めるために、薬品(例えば凝集剤)を注入して、フロックを形成して懸濁浮遊物の沈降速度を上げる凝集プロセスを含む。
【0004】
フロックとは、懸濁浮遊物と凝集剤とが集塊化して形成されるものである。フロックは、目視では確認できない数十マイクロメートルのマイクロフロックと呼ばれるものから、肉眼でも観察できるようになるまで成長した数ミリメートルから数センチメートル程度の巨大フロックと呼ばれるものまで、様々な大きさのものがある。処理状態が良い凝集プロセスは、良好なフロックを形成する。ここでは、良好なフロックとは、密度が高く、粒径の大きいフロックを指す。密度が高く、粒径が大きいフロックは、沈降性が良く、固液分離が促進される。良好なフロックを形成するには、懸濁浮遊物に対する凝集剤の注入量のみでなく、その原水のpHやアルカリ度、水温といった水質パラメータも考慮することが大切である。
【0005】
浄水場等で用いられている凝集剤等の薬品の注入率の決定は、熟練員の経験やノウハウに基づいて調整されている場合が多く、技術の継承が難しい。この対策として、過去の水質データや薬品注入の実績データを統計学的に処理したり、または機械的に学習したりして、薬品の注入率を予測しガイダンスするという技術が提案されている。近年では、ビッグデータ分析を用いて、薬品注入率と水質との関係を分析する技術も提案されている。その他、例えば水質の予測値の演算結果をレーダーチャートなどで表示する技術も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまでの表示機能では、例えば処理水質の予測値の演算結果と、処理コストに関する情報とを同時に把握し、水質とコストとを考慮しながら適切な運用を行うことは困難であった。また、実際のオペレータの浄水場での動作を踏まえながら、例えば現在値と予測値とを対比可能な態様とするなど、必要な情報を見やすい形で提供することが望まれていた。
【0008】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、水処理プラントの運転管理において、適切な運用を行うことを支援する管理支援表示装置、管理支援表示方法及び管理支援表示プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態による管理支援表示装置は、原水の水質に関する水質情報および前記原水への薬品の注入に関する注入情報と、ユーザーにより設定された水質情報と注入情報との設定値と、の一方を少なくとも用いて、前記薬品が注入された処理後の前記原水の水質を示す処理水質の予測値を演算する予測部と、前記原水の水質に関する前記水質情報および前記原水への前記薬品の注入に関する前記注入情報を現在値とし、前記設定値を用いて演算された前記予測値を試算値とし、前記現在値と前記試算値とを対比可能な態様でユーザーに提示する管理支援表示部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、浄水場及び浄水場に適用された一実施形態の管理支援表示装置の一構成例を概略的に示す図である。
【
図2】
図2は、一実施形態の管理支援表示装置の運転管理支援表示部の一構成例を説明するためのブロック図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す運転管理支援表示部の表示部の一構成例を概略的に示す図である。
【
図4D】
図4Dは、
図3に示すグラフ表示部および変化率表示部の一表示例を概略的に示す図である。
【
図5】
図5は、一実施形態の管理支援表示装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施形態の管理支援表示装置、管理支援表示方法及び管理支援表示プログラムについて、図面を参照して説明する。
図1は、浄水場及び浄水場に適用された一実施形態の管理支援表示装置の一構成例を概略的に示す図である。
【0012】
浄水場1は、原水を処理するための貯水設備と、流量計2a~2dと、サンプリングポンプ4aと、水温計10と、濁度計11と、PH計12と、流量計13と、サンプリングポンプ7aと、沈殿池出口濁度計14と、凝集剤注入量制御部15と、凝集剤注入設備16と、pH調整剤注入量制御部17と、pH調整剤注入設備18と、プラント操作部26と、を備える。浄水場1の貯水設備は、着水井3、活性炭接触池4、混和池5、フロック形成池6、沈殿池7、砂ろ過池8及び浄水池9を含む。
【0013】
浄水場1では、着水井3を用いた取水プロセス、活性炭接触池4を用いた活性炭吸着プロセス、混和池5を用いた凝集剤注入プロセス、フロック形成池6を用いたフロック形成プロセス、沈殿池7を用いた沈殿ろ過プロセス、砂ろ過池8を用いた砂ろ過プロセスなどの複数の浄水プロセスが行なわれる。
【0014】
着水井3には、例えば、複数の取水源A系~D系から原水が取水されて、それぞれ配管を通じて着水井3に流入される(取水プロセス)。各取水源A系~D系からの原水の流量は、それぞれの配管に設けられた流量計2a~2dにより測定されている。流量計2a~2dで計測された取水流量データは、プラントデータとしてデータ収集・保存部21に送られる。
【0015】
着水井3には、pH調整剤注入設備18からpH調整剤が注入されるpH調整プロセスが実行される。pH調整剤は、例えばアルカリ側への調整を行う薬剤として水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、酸性側への調整を行う薬剤として硫酸が使用される。pH調整剤は、原水のpH及びアルカリ度を調整し、フロック形成に適した値にするために注入される。着水井3に取水された原水は、配管を通じて活性炭接触池4に流入する。
【0016】
活性炭接触池4に流入した原水は、活性炭吸着プロセスにより、臭気物質の除去などの処理が行われる。活性炭接触池4では、サンプリングポンプ4aにより原水サンプルが取り出されて、水温計10、濁度計11、PH計12により原水の水温、濁度、pHが測定される。水温計10、濁度計11及びPH計12で測定されたデータは、プラントデータとしてデータ収集・保存部21に送られる。なお、活性炭吸着プロセスにおいて活性炭が投入されるケースは、カビ臭などの臭気対策や、色度などに基づく色の除去が必要となった場合である。そのため、浄水場1が活性炭設備を備えていても、常時、活性炭を注入する必要はない。
【0017】
流量計13は、原水が活性炭接触池4から混和池5へ流入する配管に設けられる。流量計13により測定された流入流量データは、プラントデータとしてデータ収集・保存部21に送られる。
【0018】
混和池5では、凝集剤注入設備16から凝集剤が注入される凝集剤注入プロセスが実行される。混和池5では、凝集剤が注入された原水中の濁質と凝集剤とが衝突しあい、また電荷的に引き合うことで集塊化し、マイクロフロックが形成される。混和池5の原水は、フロック形成池6に送られる。
フロック形成池6では、原水中に含まれるマイクロフロックや残留凝集剤、および残留濁質等が凝集することでフロック化されるフロック形成プロセスが行われる。
【0019】
さらに、沈殿池7では、沈殿ろ過プロセスにより、沈降分離により原水の濁質除去が行なわれる。沈殿池7の出口では、サンプリングポンプ7aにより処理水のサンプルが取り出されて、沈殿池出口濁度計14により、沈殿池7の出口における処理水の濁度(沈殿水濁度)が測定される。沈殿池7の出口における沈殿水濁度の測定値データは、プラントデータとしてデータ収集・保存部21に蓄積される。
沈殿池7から排出された処理水は、砂ろ過池8でろ過され、ろ過水が浄水池9に貯水される。
【0020】
プラント操作部26は、管理支援表示装置20からの操作条件に応じて自動で凝集剤の注入率を制御する。具体的には、プラント操作部26は、管理支援表示装置20からの操作条件に含まれる凝集剤注入率に応じて凝集剤注入量制御部15に対して凝集剤の注入率を制御する制御信号を出力する。
凝集剤注入量制御部15は、プラント操作部26から受信した制御信号に応じて凝集剤注入設備16において混和池5に注入する凝集剤の注入量を制御する。
【0021】
また、プラント操作部26は、管理支援表示装置20からの操作条件に含まれるpH調整剤注入率に応じてpH調整剤注入量制御部17に対してpH調整剤の注入率を制御する制御信号を出力する。
pH調整剤注入量制御部17は、プラント操作部26から受信した制御信号に応じてpH調整剤注入設備18において着水井3に注入するpH調整剤の注入量を制御する。
【0022】
なお、プラント操作部26は、管理支援表示装置20からの操作条件を、オペレータに表示するのみで、操作条件に基づいて凝集剤の注入率やpH調整剤の注入率を制御しないように構成されてもよい。この場合、オペレータは、表示された操作条件を確認し、実際にその操作を行うかを判断することができ、プラント操作部26は、オペレータによる操作に基づく凝集剤の注入率やpH調整剤の注入率を制御信号が凝集剤注入量制御部15およびpH調整剤注入量制御部17に出力する。
【0023】
管理支援表示装置20は、データ収集・保存部21に収集されたプラントデータに基づいて、凝集剤、pH調整剤等の薬品の注入率に関する情報(注入情報)を含むプラントの操作条件をプラント操作部26に送信する機能を有し、例えば複数台のコンピューター端末で構成され得る。
また、管理支援表示装置20は、ユーザーによる操作情報を取得し、操作情報に応じてユーザーに提示する情報およびプラント操作部26に送信する操作条件を調整することができる。
【0024】
管理支援表示装置20は、ソフトウェアにより種々の機能を実現するように構成されてもよく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせにより種々の機能を実現するように構成されてもよい。例えば、管理支援表示装置20は、以下に説明する種々の機能を実現するための演算処理を行うプロセッサを少なくとも1つと、プロセッサにより実行されるプログラムが記録されたメモリと、を備えている。管理支援表示装置20が種々の機能を実現するように動作させるプログラムは、コンピューターに読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0025】
管理支援表示装置20は、データ収集・保存部21と、予測部27と、運転管理支援表示部25とを備える。予測部27は、統計的演算部22と、水質反応モデル予測部23と、パラメータ調整部24と、を備える。
データ収集・保存部21は、流量計2a~2d、水温計10、濁度計11、PH計12、流量計13及び沈殿池出口濁度計14で計測されたデータ(以下、プラントデータという)を収集し保存する。
【0026】
データ収集・保存部21は、プラントの原水の水質情報、薬品情報及び処理結果としての沈殿池7の出口における処理水の濁度(沈殿水濁度)等が時系列データとして保存される。原水の水質情報は、原水濁度、原水pH、原水水温及び原水アルカリ度を含む。薬品情報は、凝集剤およびpH調整剤の注入率[mg/L]に関する情報を含む。また、薬品情報は、凝集剤の種類や、例えばアルミニウム系の凝集剤であればアルミニウムの塩基度といった情報を含む。
【0027】
データ収集・保存部21は、プラントの構造的な情報として、撹拌強度を表すG値、ここでは混和池5のG値とフロック形成池6のG値とをそれぞれ保存している。構造的な情報は変更される場合は少なく、プラントの更新等の工事が行われない限り一定の値を用いることができる。
【0028】
データ収集・保存部21は、流量計2a~2d及び流量計13から収集した原水の流量のデータも保存する。浄水場における原水の流量は、24時間一定である場合もあれば、水道水の需要に応じて変動する場合もある。原水の流量と、プラントの構造的な容積とを用いることで、各池における原水の滞留時間を算出することができる。この滞留時間をtとすると、上述したG値と滞留時間tとを乗じたGt値という指標を得ることができる。このGt値は、原水が、どの程度の時間撹拌の強度を受けたかを表す指標として用いられる。データ収集・保存部21は、例えば上記Gt値のような指標も保存し得る。データ収集・保存部21は、その他、凝集剤やpH調整剤などの薬品の注入率に関する情報(薬品注入率の実績値など)を保存することができる。
【0029】
データ収集・保存部21は、各プロセス処理を行った結果として処理水の水質データも保存できる。データ収集・保存部21は、例えば、沈殿池7の出口における沈殿水の濁度(沈殿水濁度)、砂ろ過池8の出口におけるろ過水の濁度及び砂ろ過池8の水位上昇速度(ろ抗上昇)を処理水の水質データとして保存する。この場合、浄水場1には、砂ろ過池8から排出されたろ過水の濁度を計測する濁度計(図示せず)と、砂ろ過池8の水位を計測する水位計(図示せず)とが設けられる。また、データ収集・保存部21は、沈殿池7に沈殿したある一定期間の汚泥の引抜量から、一定期間で発生した汚泥の総量を算出した場合に、その汚泥の総量を保存してもよい。
【0030】
統計的演算部22は、データ収集・保存部21に保存されたデータを用いて、統計的処理により処理水質の予測値を算出する機能を有する。処理水質は、少なくとも沈殿水濁度を含む。
統計的演算部22は、例えば、データ収集・保存部21に保存されたデータを原水の水質パターン別に分類する。統計的演算部22は、原水の水質情報及び薬品の注入率が入力されると、水質パターンの類似する過去の原水水質を抽出する。統計的演算部22は、抽出した原水水質に対応して保存される過去に行った薬品注入率及び沈殿水濁度の実績に基づいて、薬品注入率と沈殿水濁度の関係式を得て、入力された薬品の注入率に応じて注入された薬品による処理後の原水の水質(処理水質)の予測値を演算する。処理水質は、沈殿水濁度を含む。統計的演算部22は、演算した処理水質の予測値を、パラメータ調整部24と運転管理支援表示部25とへ送信する。また、統計的演算部22は、処理水質の予測値を演算する際に用いた薬品の注入率の値を含む操作条件を、予測値と関連付けて運転管理支援表示部25へ送信してもよい。
【0031】
なお、統計的演算部22は、処理水質の予測値の演算において、例えば主成分分析又は主成分回帰分析といった手法を用いてもよい。これらの手法は、プロセスの状態が変化してきたことを素早く捉える方法として、主に石油化学プロセスの分野で発展してきた「多変量統計解析手法」を用いた多変量統計的プロセス監視(MSPC:Multi-Variate Statistical Process Control)と呼ばれる方法を利用するものである。MSPCでは、主成分分析、主成分回帰分析、潜在変数射影法/部分最小二乗法などを用いた監視方法が用いられる。これらの手法は、多数の計測データから得られる多数のプロセスデータ間の相関情報を利用して、数個の統計量データを生成し、生成された統計量データによってプロセス状態の変化を検出するという方法である。また、統計的演算部22は、他の公知の手法を用いて処理水質の予測値を演算してもよい。
【0032】
水質反応モデル予測部23は、浄水場1における水質反応(原水に注入された薬品による反応)をより具体的に数式化したモデル(水質反応モデル)に基づいて、処理水質の予測値を演算する。水質反応モデル予測部23は、凝集プロセスの水質反応モデルを予め定義しておき、原水の水質情報に対して、任意の凝集剤等の薬品における注入率を選んだ際に得られる処理水質の予測値を演算する。
【0033】
水質反応モデル予測部23は、原水の水質情報と、薬品の注入率とを入力とし、水質反応モデルにより演算した、例えば沈殿水濁度と沈殿水アルミニウム濃度との予測値を含む処理水質の予測値を出力とする。また、水質反応モデル予測部23は、フロックが沈殿池7で沈降した結果である汚泥の発生量(一定期間に発生する汚泥の総量)と、砂ろ過池8の目詰まりの指標となる砂ろ過池8の水位上昇速度との予測値を演算して、これらを含む処理水質の予測値を出力してもよい。
【0034】
また、水質反応モデル予測部23は、ユーザーの操作による操作情報に基づいて、ユーザーが任意に設定した原水の水質情報と、ユーザーが任意に設定した薬品の注入率とを取得してもよい。水質反応モデル予測部23は、ユーザーにより設定された原水の水質情報と薬品の注入率とを入力とし、水質情報及び薬品の注入率の設定値に基づいて演算した、沈殿水濁度と沈殿水アルミニウム濃度とを含む処理水質の予測値を出力することができる。なお、ユーザーによる設定値は、水質情報と注入情報とに含まれる全ての値をユーザーが任意の値に設定したものである必要はなく、水質情報と注入情報との現在値の一部の値のみをユーザーが任意の値に設定したものであってもよく、原水の水質情報の現在値の一部のみを任意の値とした水質情報であってもよく、複数の薬品の一部の注入率を任意の値とした入力情報であってもよい。
【0035】
また、水質情報及び薬品の注入率の設定値に基づいて、フロックが沈殿池7で沈降した結果である汚泥の発生量と、砂ろ過池8の目詰まりの指標となる砂ろ過池8の水位上昇速度との予測値を演算し、これらを含む処理水質の予測値を出力してもよい。
水質反応モデル予測部23は、処理水質の予測値を演算する際に用いた薬品の注入率の値を含む操作条件(演算条件)を、予測値と関連付けて運転管理支援表示部25へ送信してもよい。
【0036】
パラメータ調整部24は、水質反応モデル予測部23に対して、統計的演算部22が処理水質を予測する際に利用した入力値(水質情報及び薬品の注入率)を設定値として用いて、処理水質を予測するよう指示することもできる。パラメータ調整部24は、指示に応じて水質反応モデル予測部23が演算した処理水質(例えば沈殿水濁度)の予測値と、統計的演算部22が演算した処理水質(例えば沈殿水濁度)の予測値とを比較して、2つの値が乖離しているか否かを判断することができる。パラメータ調整部24は、例えば、水質反応モデル予測部23が演算した処理水質(沈殿水濁度)の予測値と、統計的演算部22が演算した処理水質(沈殿水濁度)の予測値との差分値の絶対値が、所定の閾値を超えている(|差分値|>閾値)ときに、2つの値が乖離していると判断する。
【0037】
パラメータ調整部24は、2つの値が乖離していると判断したときに、データ収集・保存部21のデータを使って水質反応モデル予測部23で用いるパラメータを変更し、新たなパラメータを水質反応モデル予測部23に設定する。パラメータ調整部24は、水質反応モデル予測部23が演算した処理水質(例えば沈殿水濁度)の予測値と、統計的演算部22が演算した処理水質(例えば沈殿水濁度)の予測値とが乖離していないと判断されるパラメータを得るまで、パラメータの調整を繰り返すことで予測精度を向上させることができる。
【0038】
統計的演算部22及びパラメータ調整部24は、上述した精度向上の動作を周期的に行う。なお、統計的演算部22及びパラメータ調整部24は、周期的に動作する構成に限られるものではなく、データ収集・保存部21に保存される水質情報の変化を監視し、水質情報が大きく変化した場合に、上述した動作を行うようにしてもよいし、ユーザーが動作指示を与えてもよい。
【0039】
運転管理支援表示部25は、処理水質の目的とする水質レベルを取得する機能を有する。運転管理支援表示部25は、統計的演算部22からの操作条件と、水質反応モデル予測部23からの操作条件とに基づいて、目的とする水質レベルを達成する範囲で最適な操作条件を生成し、プラント操作部26へ出力する。運転管理支援表示部25が処理する条件としては、統計的演算部22からの操作条件のみでもよいし、水質反応モデル予測部23からの操作条件のみでもよく、どちらか片方の演算部だけでも機能するものでもよい。
【0040】
プラント操作部26は、運転管理支援表示部25からの操作条件に応じて自動で凝集剤の注入率を制御することができる。具体的には、プラント操作部26は、運転管理支援表示部25からの操作条件に含まれる凝集剤注入率に応じて、凝集剤注入量制御部15に対して凝集剤の注入率を制御する制御信号を出力する。凝集剤注入量制御部15は、プラント操作部26から受信した制御信号に応じて、凝集剤注入設備16において混和池5に注入する凝集剤の注入量を制御する。
【0041】
また、プラント操作部26は、運転管理支援表示部25からの操作条件に含まれるpH調整剤注入率に応じて、pH調整剤注入量制御部17に対してpH調整剤の注入率を制御する制御信号を出力する。pH調整剤注入量制御部17は、プラント操作部26から受信した制御信号に応じて、pH調整剤注入設備18において着水井3に注入するpH調整剤の注入量を制御する。
【0042】
プラント操作部26は、運転管理支援表示部25からの操作条件を、オペレータに表示するのみで、自動で凝集剤やpH調整剤を制御しない場合もある。オペレータは表示された操作条件を確認し、実際にその操作を行うかを判断することができる。
【0043】
運転管理支援表示部25とプラント操作部26とは、ネットワークを介して通信可能に接続される構成である。前記した通り、運転管理支援表示部25とプラント操作部26との間は、ネットワークを介して通信可能とする構成に限られるものではない。運転管理支援表示部25から、プラント操作部26を操作する操作員に対して操作条件を提示する(例えば、操作員が所持する携帯端末から管理支援表示装置20にアクセスすることにより、携帯端末に操作条件を表示させる)構成であってもよい。これにより、運転管理支援表示部25とプラント操作部26との間をネットワーク等で接続しない構成であっても、操作員は、提示された操作条件に応じた操作をプラント操作部26に対して行うことができる。
【0044】
以上の構成により、管理支援表示装置20は、浄水場1において凝集剤やpH調整剤を注入する際に、より適量を注入するための支援を行うことができる。統計的演算部22は過去のデータに基づいて注入率を算出するため、処理水質を維持しつつどこまで凝集剤の注入率を下げることができるかのデータを示すことが困難である。しかし、水質反応モデル予測部23は、水質反応モデルに基づいて、所定の処理水質の範囲内で最低となる凝集剤の注入率およびpH調整剤の注入率を求めることができる。管理支援表示装置20は、水質反応モデル予測部23で求めた注入率を考慮した凝集剤やpH調整剤の注入率を浄水場1のプラント操作部26に提示することができる。
【0045】
次に、運転管理支援表示部25の詳細な構成について説明する。
図2は、一実施形態の管理支援表示装置の運転管理支援表示部の一構成例を説明するためのブロック図である。
【0046】
運転管理支援表示部25は、表示内容演算部201と、表示部202とを備える。表示内容演算部201は、格納部203と、コスト演算部204と、差分演算部205と、グラフ演算部206と、変化率演算部207と、ログ表示調整部208と、を備える。
【0047】
格納部203には、水質反応モデル予測部23で演算した処理水質の予測値および操作条件と、統計的演算部22で演算した処理水質の予測値および操作条件とを含む、処理水質情報が保存される。また、格納部203には、フロックが沈殿池7で沈降した結果である汚泥の発生量と、砂ろ過池8の目詰まりの指標となる砂ろ過池8の水位上昇速度と、の予測値も合わせて保存され得る。
【0048】
ここでは、格納部203に格納される予測値の演算結果は、現在の原水水質や薬品注入率条件で演算した処理水質の予測値の演算結果だけではなく、任意に設定した原水水質や薬品注入率で演算した処理水質の予測値(試算値)の演算結果も含む。これにより、格納部203には、薬品注入率の変更など、予測値の演算条件(プラントの操作条件)を変更した場合の処理水質の予測値(試算値)のデータが保存されることになる。
【0049】
格納部203は、ユーザーの操作による操作情報に基づく任意の設定値が入力され、任意の設定値を用いて水質反応モデル予測部23が処理水質の予測値を演算する毎に、新たな処理水質の予測値および操作条件を格納してもよく、試算値の演算条件を変更して(例えばユーザーにより設定された任意の設定値を用いて)予測値を試算した複数の試算値を格納し得る。
格納部203には、凝集剤使用量、砂ろ過池8の水位上昇速度(ろ抗上昇)や発生した汚泥量など、データ収集・保存部21に保存された実績値(現在値を含む)のデータの一部も保存され得る。
【0050】
コスト演算部204は、凝集剤使用量、砂ろ過池8の洗浄費用、汚泥処分費用など、コストに関わる項目の演算を行う。コスト演算部204は、データ収集・保存部21に保存された凝集剤使用量、砂ろ過池8の水位上昇速度(ろ抗上昇)や発生した汚泥量などから、それぞれの原単位に基づきコスト換算する。コスト演算部204は、得られたコストを対応する現在値又は対応する試算値と関連付けて格納部203に保存する。
【0051】
例えば、凝集剤の原単位は、1トンあたりの凝集剤購入費用である。原単位は、購入量や購入場所や購入時期によって異なるため、任意に設定できるものであればよい。コスト演算部204は、水位上昇速度から砂ろ過池8の洗浄費用を演算できる。砂ろ過池8は、ある一定の水位まで達すると運転を止めて洗浄する必要がある。砂ろ過池8の洗浄は、ポンプ等の動力を使用して洗浄するため、洗浄回数が多いほど洗浄費用が増加する。コスト演算部204は、水位上昇速度と洗浄を行う上限の水位情報(設定値)とを用い、砂ろ過池8の洗浄間隔を演算することで、砂ろ過池8の洗浄費用を算出できる。
【0052】
コスト演算部204は、汚泥発生量から汚泥処分費用を演算する際に、換算係数を用いる。換算係数とは、発生量をコストに換算するもので、例えば、汚泥1トンあたりの処分費用のことである。汚泥は、産廃業者などに引き取られる場合もあれば、汚泥処分用の機械にて処理される場合などがある。機械にて処理される場合でも、使用電気代などから換算係数を算出することができる。
【0053】
コスト演算部204では、格納部203に保存された各演算条件における処理水質の試算値に対応するコストに換算し、得られたコストを対応する試算値と関連付けて格納部203に保存する。これにより、現在値に対応するコストや、薬品注入率などの演算条件を任意に変更した処理水質の試算値に対応するコストなどが格納部203に保存される。
【0054】
差分演算部205は、処理水質の予測値の今回の演算結果(試算値)と現在値との差分(=試算値-現在値)を演算する。差分を求める項目は、例えば、処理水質の予測値(試算値)の演算結果である、処理後の濁度や、アルミニウム濃度や、凝集剤注入率や、汚泥発生量、砂ろ過池8の水位上昇速度などである。差分演算部205で演算される差分は上記項目に限定されるものではなく、水質反応モデル予測部23で使用したpHの値や、コスト演算部204で演算した各条件のコストについて、それぞれの試算値と現在値との差分を演算してもよい。
【0055】
グラフ演算部206は、今回の試算値と現在値をグラフで可視化し、その変化を視覚的にも分かりやすい状態で表示するためのグラフ表示用データを生成する。可視化するためのグラフは、例えば、トレンドグラフや棒グラフなどであってもよい。例えば今回の試算値の棒グラフと現在値の棒グラフとを並べて配置すると、棒グラフの高さが異なることで今回の試算値と現在値の違いを視覚的にも把握することができる。
【0056】
変化率演算部207は、対応する項目の各々について、現在値を100%としたときの今回の試算値の変化率((試算値-現在値)/現在値×100[%])を演算する。変化率を求める項目は、例えば、処理水質の予測値の演算結果である、処理後の濁度や、アルミニウム濃度や、凝集剤注入率や、汚泥発生量や、砂ろ過池8の水位上昇速度などである。変化率演算部207が変化率を演算する項目は上記に限定されるものではなく、水質反応モデル予測部23で使用したpHや、コスト演算部204で演算した各条件におけるコストについて、それぞれの試算値と現在値との変化率を演算してもよい。
【0057】
ログ表示調整部208は、格納部203に保存された複数の試算値結果の中から任意のログを表示させることを調整する機能を持つ。ログ表示調整部208は、予め設定された項目について、所定期間の実績値を抽出してログ表示用のデータを生成することができる。ログ表示調整部208は、例えば、ユーザーの操作によりログ表示する項目が変更されたときには、ユーザーの操作に応じたログ表示用のデータを生成することができる。具体的には、ユーザーが必要と判断したログを表示し、その後ユーザーが不要と判断した項目はログ表示用のデータから削除することもできる。また、ログ表示調整部208は、例えば将来的にも活用できる重要度の高いログ情報など、重要な項目の情報や所定期間のログ情報を保護し、ログ表示用のデータから削除できないようにしてもよい。
【0058】
また、試算値の中には、原水水質情報を現在値で試算したログと、任意の原水水質をユーザーが設定して試算したログが混在するが、ログ表示調整部208は、これらを区別して表示したり、ユーザーの操作により設定された条件により分類した結果を表示したりできる。具体的には、ログ表示調整部208は、現在値で試算した値のログと設定値で試算した値のログとを色分けして表示したり、ユーザーにより設定された条件に基づくデータフィルターで分類した結果を表示したりすることもできる。
【0059】
図3は、
図2に示す運転管理支援表示部の表示部の一構成例を概略的に示す図である。
表示部202は、ユーザーに提示される監視画面(モニタ)を含む。表示部202は、格納部203、差分演算部205、グラフ演算部206、変化率演算部207、および、ログ表示調整部208から得られる表示用のデータを用いて、ユーザーを支援するための情報を監視画面に表示させる。
表示部202の監視画面は、現在値表示部209、差分表示部210、グラフ表示部211、変化率表示部212の少なくとも1つを備える。表示部202は、ユーザーの操作に応じて、重要度の高い表示部を拡大することもできるし、重要度の低い表示部を表示させない状態にすることもできる。
【0060】
図4Aは、
図3に示す現在値表示部の一表示例を概略的に示す図である。
現在値表示部209には、水質反応モデル予測部23や統計的演算部22で処理水質の予測値の演算に用いられた演算条件(例えば原水水質の情報や薬品注入率の情報)、処理水質の予測値、汚泥の発生量、水位上昇速度、コスト演算部204で演算されたコスト、の少なくともいずれかが表示され得る。
図4Aに示す例では、処理水質の予測値(試算値)の演算に用いられた原水水質の情報の現在値と、薬品注入率の現在値とが表示されている。
【0061】
図4Bは、
図3に示す差分表示部の一表示例を概略的に示す図である。
差分表示部210は、表示内容演算部201で演算した、現在値と試算値との差分が表示される。差分表示部210に表示される差分は、処理水質の予測値(試算値)である処理後の濁度や、アルミニウム濃度や、凝集剤注入率や、汚泥発生量や、砂ろ過池8の水位上昇速度などの現在値と試算値との差分である。差分表示部210に表示される差分は上記に限定されるものではなく、例えば、水質反応モデル予測部23で演算に使用したpHや、コスト演算部204で演算した各条件のコストについての、現在値と試算値との差分であってもよい。差分表示部210には、複数項目についての差分が同時に表示され得る。また、複数の試算値がユーザーに提示可能である場合には、差分表示部210には、複数の試算値のそれぞれについて、複数項目の差分が同時に表示されてもよい。
【0062】
図4Bに示す例では、複数の項目の各々について、現在値と、試算値と、差分値とが表示されている。ユーザーは、監視画面上で試算値の演算条件(試算値の演算に用いる設定値)を入力し、「試算」ボタンを選択(クリック)することにより、入力した演算条件により試算値を演算する指令を操作情報として管理支援表示装置20に入力することができる。
【0063】
なお、差分表示部210で表示される凝集剤注入率の差分は、一般的に浄水場1で用いられているフィードフォワード制御の係数の調整に利用することができる値である。具体的には、フィードフォワードの関数は、(凝集剤注入率)=f(x)+c、といった関数で構築されており、上記関数のxに該当する変数は、原水濁度や原水アルカリ度などの原水水質情報である。また、上記フィードフォワード関数のc値は、ユーザーが微調整する設定値である。ここでc値の調整は、ベテラン職員の経験に基づいて調整されているケースが多い。そこで、ユーザーは、差分表示部210で表示される値により、c値の調整に関する情報を得ることができる。
【0064】
図4Dは、
図3に示すグラフ表示部および変化率表示部の一表示例を概略的に示す図である。
グラフ表示部211は、グラフ演算部206で生成されたグラフ表示用データに基づいてグラフの画像を表示する。グラフ表示部211に表示されるグラフは、例えば項目別の棒グラフである。
【0065】
グラフ表示部211は、コストに関しては、コストに関わる複数の項目を積み上げた棒グラフを表示してもよい。具体的には、凝集剤に関わるコスト、汚泥発生量に関するコスト、砂ろ過池8の洗浄に関するコスト、の棒グラフを積み上げて表示することも可能である。また、グラフ表示部211で棒グラフを積み上げる順番として、総コストに占める割合の小さい(若しくは大きい)順に下から積み上げることで、よりコストに寄与している項目を目立たせることもできる。
図4Dに示す例では、現在値と試算値とのそれぞれについて、総コストに占める割合の小さい順に下(棒グラフの0)から、砂ろ過池の洗浄に関するコスト、汚泥発生量に関するコスト、凝集剤に関わるコスト、の棒グラフが積み上げられた例が表示されている。
【0066】
また、グラフ表示部211は、浄水場1の処理フローの水の流れの順に上から下に(又は下から上に)棒グラフを配置することで、処理フローの流れとコストとを関連付けてユーザーに提示することもできる。グラフ表示部211は、視覚的にコストの違いが捉えられやすいように、項目別に棒グラフが色分けがされてもいい。例えば、凝集剤に関わるコストを赤色、汚泥発生量に関するコストを青色、および、砂ろ過池8の洗浄に関するコストを黄色、とそれぞれが異なる色で表示され、それらを積み上げた総コストのグラフが項目別に色分けして表示されてもよい。
【0067】
また、グラフ表示部211に棒グラフを表示させる場合は、現在値からの増分又は減少分を棒グラフで表現するために、現在値の棒グラフの高さは固定(100%)とし、試算値側の棒グラフを現在値に対する増分又は減少分を変化させた棒グラフとして表示してもよい。この場合、試算値側の棒グラフが大きくなりすぎるときは、高さを表示可能な最大値とし、最大値を超えたことを別途表現させてもよい。
【0068】
変化率表示部212は、変化率演算部207で演算した今回の試算値と現在値との変化率を表示する。変化率表示部212に表示される変化率は、例えば、処理水質の予測値(試算値)である、処理後の濁度や、アルミニウム濃度や、凝集剤注入率や、汚泥発生量や、砂ろ過池8の水位上昇速度などの変化率である。その他、水質反応モデル予測部23で使用したpHや、コスト演算部204で演算した各条件のコストの変化率であってもよい。変化率表示部212に表示される変化率は、グラフ表示部211の棒グラフとリンクする位置に表示させてもよく、変化率表示部212とグラフ表示部211とが一体に表示されていてもよい。
【0069】
図4Cは、
図3に示すログ表示部の一表示例を概略的に示す図である。
ログ表示部213は、ログ表示調整部208で調整された一又は複数の項目についてのログ(一又は複数組の試算値および対応する演算条件)が表示される。ログ表示部213には、複数のログ情報が同時に表示され得る。ログ表示部213に表示されるログは、ログ表示調整部208によって、任意に削除したり、保護したり、色分けを行ったりされる。
【0070】
次に、本実施形態の管理支援表示装置の動作の一例について説明する。
図5は、一実施形態の管理支援表示装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
先ず、データ収集・保存部21は、原水の水質情報と、凝集剤を含む薬品の注入率とのデータを取得する(ステップS71)。データ収集・保存部21が取得した原水の水質情報及び薬品(凝集剤等)の注入率は、統計的演算部22及び水質反応モデル予測部23の9少なくとも一方に入力される。
【0071】
統計的演算部22と水質反応モデル予測部23との少なくとも一方は、データ収集・保存部21から取得した原水の水質情報及び薬品(凝集剤等)の注入率を用いて、データ収集・保存部21に保存されているデータの統計的処理または水質反応モデルを使ったモデル予測により沈殿水濁度を含む処理水質の予測値(又は試算値)を演算する(ステップS72)。統計的演算部22または水質反応モデル予測部23は、予測値の演算に用いた原水の水質情報及び薬品(凝集剤等)の注入率と予測値の演算結果とを格納部203へ出力する。
【0072】
格納部203では、統計的演算部22または水質反応モデル予測部23から出力された、予測値の演算に用いた原水の水質情報及び薬品(凝集剤等)の注入率と予測値の演算結果とを、予測時刻毎に保存する(ステップS73)。ここでは、演算条件が実現することにより処理水質が予測値となる時刻を別途表示させてもよい。
【0073】
コスト演算部204は、格納部203に保存された原水の水質情報、凝集剤の注入率及び予測値の演算結果に基づいて、予測値および予測値の演算条件により生じる各コストを演算する。コスト演算部204は、演算したコストおよびコストに関する情報を、予測時刻と関連付けて格納部203に保存する(ステップS74)。上記のように、格納部203に予測時刻におけるコストのログが蓄積される。
【0074】
差分演算部205、グラフ演算部206、変化率演算部207、ログ表示調整部208で、それぞれの処理が行われ表示部202に出力する。(ステップS75)。
【0075】
表示部202の監視画面において、現在値情報を現在値表示部209に表示し、差分の情報を差分表示部210に表示し、グラフをグラフ表示部211に表示し、変化率の情報を変化率表示部212に表示し、ログの情報をログ表示部213に表示する(ステップS76)。
【0076】
ここで、ユーザーによって追加の予測値演算の要求が入力された場合(ステップS77のYES)、ユーザーによって入力された任意の原水水質や薬品注入率の条件を取り込み(ステップS78)、それらを予測値の演算の入力情報として再びステップS71からの処理を行う。これにより、所定の予測時刻における1セット(予測値および予測値に関連する一連の値)のログが追加されることになる。ユーザーによる追加の予測要求が無い場合(ステップS77のNO)、処理は終了となる。
なお、管理支援表示装置は、上記処理が終了したとき、必要に応じて(若しくはユーザーの操作により)、プラントの操作条件をプラント操作部26に出力する(ステップS79)。なお、処理水質の試算値やコストの処理結果をユーザーに提示するのみで終了する場合には、ステップS79は省略可能である。
【0077】
上記のように、管理支援表示装置20は、浄水場1において凝集剤等の薬品を注入する際に、より適量を注入するために用いられる情報(例えば水質とコストとの両方の情報)の現在値と予測値(試算値)とを対比可能な態様でユーザーに提供することにより、ユーザーの判断や行動の支援を行うことができる。これにより、ユーザーは水質とコストとを考慮した判断が可能となり、過剰に注入していた薬品を、必要量まで削減することができる。薬品を節約することで、以下の3点の理由により、浄水場1の運営管理を低コスト化することができる。
【0078】
(1)凝集剤等の薬品の使用量を低減することができる。
(2)凝集剤等の薬品が過剰となる可能性をより低減することで、過剰な薬品により発生した残留アルミニウムの影響で砂ろ過池8における目詰まりの発生頻度を低減することができる。目詰まりの発生頻度が低減すると砂ろ過池8を洗浄する頻度を低減することができる。
(3)凝集剤等の薬品の過剰により残留アルミを多く含む汚泥は、含水量が多くなる傾向があり、乾燥処理により長い時間が必要となる。しかし、凝集剤等の薬品が過剰となる可能性を低減することで、汚泥の乾燥処理により長い時間が必要となることを防ぐことができる。
すなわち、本実施形態によれば、水処理プラントの運転管理において、適切な運用を行うことを支援する管理支援表示装置、管理支援表示方法及び管理支援表示プログラムを提供することができる。
【0079】
なお、本実施形態の管理支援表示装置20において、データ収集・保存部21が、流量計2a~2d、水温計10、濁度計11、PH計12、流量計13及び沈殿池出口濁度計14で計測されたデータを収集する構成としては、どのような構成であってもよい。データ収集・保存部21は、例えば、有線又は無線通信により計測されたデータを収集する構成であって、インターネット等のネットワークを介して通信する構成や、専用回線を用いて通信する構成等が考えられる。例えば、データ収集・保存部21は、クラウドコンピューティング等のインターネットをベースとした構成としてもよい。この場合、管理支援表示装置20は、例えば、統計的演算部22と、水質反応モデル予測部23と、パラメータ調整部24と、運転管理支援表示部25とを備える管理支援装置を設置し、その管理支援装置からクラウド上のデータ収集・保存部21を利用する構成としてもよい。
【0080】
上述した実施形態において、管理支援表示装置20内の各機能部は、ソフトウェア機能部であるものとしたが、LSI等のハードウェア機能部であってもよい。また、管理支援表示装置20内の各機能部は、PCL(programmable logic controller)を用いて構成してもよい。上述した実施形態において、管理支援表示装置20が支援の対象とするプロセスとして、浄水場プロセスの一例を示しているが、原水に対して薬品を用いて浄化するプロセスであれば適用できる。
【0081】
また、以上に説明した管理支援表示装置20内の機能をソフトウェアによって実現する場合は、それらの機能を実現するためのプログラムを、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録し、そのプログラムをコンピューターシステムに読み込ませて実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピューターシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD(Compact Disk)-ROM等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピューターシステム内部の揮発性メモリー(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0082】
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピューターシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピューターシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
【0083】
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0084】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0085】
1…浄水場、2a~2d…流量計、3…着水井、4…活性炭接触池、4a…サンプリングポンプ、5…混和池、6…フロック形成池、7…沈殿池、7a…サンプリングポンプ、8…砂ろ過池、9…浄水池、10…水温計、11…濁度計、12…PH計、13…流量計、14…沈殿池出口濁度計、15…凝集剤注入量制御部、16…凝集剤注入設備、17…pH調整剤注入量制御部、18…pH調整剤注入設備、20…管理支援表示装置、21…データ収集・保存部、22…統計的演算部、23…水質反応モデル予測部、24…パラメータ調整部、25…運転管理支援表示部、26…プラント操作部、27…予測部、201…表示内容演算部、202…表示部、203…格納部、204…コスト演算部、205…差分演算部、206…グラフ演算部、207…変化率演算部、208…ログ表示調整部、209…現在値表示部、210…差分表示部、211…グラフ表示部、212…変化率表示部、213…ログ表示部