(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040185
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/10 20060101AFI20230314BHJP
H01G 9/02 20060101ALI20230314BHJP
H01G 9/035 20060101ALI20230314BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20230314BHJP
H01G 9/08 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
H01G9/10 D
H01G9/02
H01G9/035
H01G9/145
H01G9/08 F
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001795
(22)【出願日】2023-01-10
(62)【分割の表示】P 2020547554の分割
【原出願日】2018-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】595122132
【氏名又は名称】サン電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 隆志
(72)【発明者】
【氏名】細木 雅和
(72)【発明者】
【氏名】來海 肇
(72)【発明者】
【氏名】長池 優也
(72)【発明者】
【氏名】阿立 貴久
(57)【要約】 (修正有)
【課題】長期的に安定して特性を維持する電解コンデンサを提供する。
【解決手段】電解コンデンサにおいて、コンデンサ本体2は、コンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を収納する本体ケース3と、本体ケース3を封止する封口体5と、を備える。コンデンサ素子10は、セパレータを介して陽極箔と陰極箔とを巻回して、陽極箔と陰極箔との間に所定の溶液を保持する。溶液は、親油性溶媒に脂溶性酸化防止剤が溶解されており、セパレータは、封口体5に接触する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して陽極箔と陰極箔とを巻回して前記陽極箔と前記陰極箔との間に所定の溶液を保持したコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を収納する本体ケースと、前記本体ケースを封止する封口体とを備えた電解コンデンサにおいて、前記溶液が親油性溶媒に脂溶性酸化防止剤を溶解されており、前記セパレータが前記封口体に接触し、前記封口体の外面を前記脂溶性酸化防止剤が油膜状に覆うことを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記コンデンサ素子が固体電解質を保持することを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記溶液が前記親油性溶媒に前記脂溶性酸化防止剤及び電解質を溶解した電解液から成ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記電解液中の前記脂溶性酸化防止剤の濃度が1重量%~30重量%であることを特徴とする請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記電解液中の前記脂溶性酸化防止剤の濃度が3重量%~20重量%であることを特徴とする請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記親油性溶媒がガンマブチロラクトンであることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記親油性溶媒が、スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコールの少なくとも一つと、非イオン性界面活性剤とを含むことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
前記非イオン性界面活性剤がポリエチレングリコールまたはポリグリセリンに親油基を結合させたものであることを特徴とする請求項7に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】
前記非イオン性界面活性剤がポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体であることを特徴とする請求項7に記載の電解コンデンサ。
【請求項10】
前記脂溶性酸化防止剤が脂溶性ビタミンであることを特徴とする請求項1~請求項9のいずれかに記載の電解コンデンサ。
【請求項11】
前記脂溶性ビタミンがトコフェロールまたはトコトリエノールであることを特徴とする請求項10に記載の電解コンデンサ。
【請求項12】
前記セパレータの短手方向の幅が前記陽極箔及び前記陰極箔の短手方向の幅よりも大きく、前記セパレータが前記陽極箔及び前記陰極箔よりも前記封口体側に突出して前記封口体に接触することを特徴とする請求項1~請求項11のいずれかに記載の電解コンデンサ。
【請求項13】
前記本体ケースが内面上に突出して前記封口体の外周面を押圧する突出部を有し、前記突出部の頂点が前記封口体の厚み方向の中心よりも前記コンデンサ素子から離れた側に配されることを特徴とする請求項12に記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封口体により封止される電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電解コンデンサは特許文献1に開示されている。この電解コンデンサは本体ケース、コンデンサ素子及び封口体を備えている。本体ケースは金属によって有底筒状に形成され、円筒状の周壁の一端を閉塞して他端に開口部を開口する。
【0003】
コンデンサ素子は酸化皮膜が形成された陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回され、本体ケースに収納される。陽極箔と陰極箔との間には電解液が保持される。また、陽極箔及び陰極箔にはそれぞれリード端子が接続される。コンデンサ素子を収納した本体ケースの開口部はゴム等の封口体により封口され、リード端子は封口体を貫通して本体ケース外に引き出される。
【0004】
ゴム等の高分子は空気中等の酸素存在下で熱や光のエネルギーを受けると、ラジカルの生成をきっかけとして連鎖的な酸化反応が起こり、物性低下を生ずると言われている。このため、封口体に酸化反応を抑制するための老化防止剤を混入することが述べられる。
【0005】
また、特許文献2には電解液に替えて固体電解質を有する電解コンデンサが開示される。この電解コンデンサは特許文献1と同様の本体ケース、コンデンサ素子及び封口体を備えている。コンデンサ素子の陽極箔と陰極箔との間には固体電解質である導電性高分子が保持される。また、陽極箔と陰極箔との間には水分を含有する親水性高分子化合物が保持される。
【0006】
上記構成の電解コンデンサによると、導電性高分子によりESRを低くすることができる。また、親水性高分子化合物に含有される水分によって陽極箔及び陰極箔の酸化皮膜の欠陥を修復することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-100670号公報(第2頁-第4頁、第1図)
【特許文献2】国際公開第2014/050913号(第9頁-第23頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、電解コンデンサは搭載される機器の小型化及び高性能化により、大きな発熱を伴うモータ、エンジン、高速処理用半導体素子等の近傍に配置される高温環境下での使用が多くなってきている。
【0009】
上記特許文献1に開示される電解コンデンサによると、封口体に混入された老化防止剤は酸化防止作用を果たすにつれて消費され、次第に失われる。電解コンデンサを高温環境下で使用すると封口体は老化防止剤の消失に伴って急速に劣化する。このため、電解液が本体ケース外へ蒸散し、最終的にドライアップと言われる状態になることが多い。従って、電解コンデンサの特性を長期的に安定して維持できない問題があった。
【0010】
また、上記特許文献2に開示される電解コンデンサも同様に、電解コンデンサを高温環境下で使用すると封口体が劣化する。このため、陽極箔と陰極箔との間に保持される水分が本体ケース外へ抜け出て、酸化皮膜の修復を行うことができない。従って、電解コンデンサの特性を長期的に安定して維持できない問題があった。
【0011】
酸化皮膜の修復をするための水分に限られず、電解コンデンサの特性を高める機能を有した機能性液体をコンデンサ素子が保持する場合も同様に、高温環境下で封口体の劣化により機能性液体が抜け出る。これにより、電解コンデンサの特性を長期的に安定して維持できない問題がある。
【0012】
本発明は、長期的に安定して特性を維持できる電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、セパレータを介して陽極箔と陰極箔とを巻回して前記陽極箔と前記陰極箔との間に所定の溶液を保持したコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を収納する本体ケースと、前記本体ケースを封止する封口体とを備えた電解コンデンサにおいて、前記溶液が親油性溶媒に脂溶性酸化防止剤を溶解されており、前記セパレータが前記封口体に接触し、前記封口体の外面を前記脂溶性酸化防止剤が油膜状に覆うことを特徴としている。
【0014】
また本発明は、上記構成の電解コンデンサにおいて、前記コンデンサ素子が固体電解質を保持することを特徴としている。
【0015】
また本発明は、上記構成の電解コンデンサにおいて、前記溶液が前記親油性溶媒に前記脂溶性酸化防止剤及び電解質を溶解した電解液から成ることを特徴としている。
【0016】
また本発明は、上記構成の電解コンデンサにおいて、前記電解液の前記脂溶性酸化防止剤の濃度が1重量%~30重量%であることを特徴としている。
【0017】
また本発明は、上記構成の電解コンデンサにおいて、前記電解液の前記脂溶性酸化防止剤の濃度が3重量%~20重量%であることを特徴としている。
【0018】
また本発明は、上記構成の電解コンデンサにおいて、前記親油性溶媒がガンマブチロラクトンであることを特徴としている。
【0019】
また本発明は、上記構成の電解コンデンサにおいて、前記親油性溶媒が、スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコールの少なくとも一つと、非イオン性界面活性剤とを含むことを特徴としている。
【0020】
また本発明は、上記構成の電解コンデンサにおいて、前記非イオン性界面活性剤がポリエチレングリコールまたはポリグリセリンに親油基を結合させたものであることを特徴としている。
【0021】
また本発明は、上記構成の電解コンデンサにおいて、前記非イオン性界面活性剤がポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体であることを特徴としている。
【0022】
また本発明は、上記構成の電解コンデンサにおいて、前記脂溶性酸化防止剤が脂溶性ビタミンであることを特徴としている。
【0023】
また本発明は、上記構成の電解コンデンサにおいて、前記脂溶性ビタミンがトコフェロールまたはトコトリエノールであることを特徴としている。
【0024】
また本発明は、上記構成の電解コンデンサにおいて、前記セパレータの短手方向の幅が前記陽極箔及び前記陰極箔の短手方向の幅よりも大きく、前記セパレータが前記陽極箔及び前記陰極箔よりも前記封口体側に突出して前記封口体に接触することを特徴としている。
【0025】
また本発明は、上記構成の電解コンデンサにおいて、前記本体ケースが内面上に突出して前記封口体の外周面を押圧する突出部を有し、前記突出部の頂点が前記封口体の厚み方向の中心よりも前記コンデンサ素子から離れた側に配されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、コンデンサ素子が親油性溶媒に脂溶性酸化防止剤を溶解した溶液を保持し、セパレータが封口体に接触するので、セパレータにより脂溶性酸化防止剤が継続的に封口体に供給される。封口体に供給された脂溶性酸化防止剤は封口体内部の分子間隙間を介して封口体の内部及び封口体の外面に到達する。これにより、封口体の表面を脂溶性酸化防止剤が油膜状に覆い、封口体の劣化を長期的に抑制することができる。このため、コンデンサ素子に保持される溶液が抜け出ることを防止し、電解コンデンサの特性を長期的に安定して維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る電解コンデンサを上方から見た斜視図
【
図2】本発明の第1実施形態に係る電解コンデンサを下方から見た斜視図
【
図3】本発明の第1実施形態に係る電解コンデンサのコンデンサ本体を示す正面断面図
【
図4】本発明の第1実施形態に係る電解コンデンサのコンデンサ素子を示す斜視図
【
図6】本発明の第1実施形態の電解コンデンサの耐久試験の静電容量の変化率を示す図
【
図7】本発明の第1実施形態に係る電解コンデンサの耐久試験後の封口体を示す図
【
図8】本発明の比較例の電解コンデンサの耐久試験後の封口体を示す図
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1実施形態>
以下に図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1及び
図2は第1実施形態の電解コンデンサ1を上方から見た斜視図及び下方から見た斜視図を示している。電解コンデンサ1はコンデンサ本体2と座板6とを備えている。座板6は合成樹脂により形成され、コンデンサ本体2を保持する。座板6には一対の貫通孔6a、6bが設けられる。後述するコンデンサ本体2に設けられたリード端子7、8は貫通孔6a、6bに挿通して折曲され、回路基板に半田付けされる。
【0029】
図3はコンデンサ本体2の正面断面図を示している。コンデンサ本体2は本体ケース3、コンデンサ素子10及び封口体5を備えている。本体ケース3はアルミニウム等の金属により断面円形の有底筒状に形成され、一端に開口部3cを開口する。本体ケース3内にコンデンサ素子10が収納され、開口部3cが封口体5により封止される。
【0030】
図4はコンデンサ素子10の斜視図を示している。コンデンサ素子10は陽極箔11、陰極箔12及びセパレータ13を有している。陽極箔11及び陰極箔12は金属箔によりそれぞれ長尺の帯状に形成される。セパレータ13は不織布等により長尺の帯状に形成される。
【0031】
コンデンサ素子10は陽極箔11と陰極箔12とをセパレータ13を介して円筒状に巻回して形成される。陽極箔11または陰極箔12の終端は巻止めテープ14によって固定される。陽極箔11にはリード端子7が接続され、陰極箔12にはリード端子8が接続される。
【0032】
セパレータ13の短手方向(軸方向)の幅は陽極箔11及び陰極箔12の短手方向の幅よりも大きく形成される。これにより、セパレータ13は陽極箔11及び陰極箔12に対して上方(開口部3cの反対側)及び下方(開口部3c側)に突出し、陽極箔11と陰極箔12との短絡が防止される。
【0033】
陽極箔11はアルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン等の弁作用金属から成っている。陰極箔12はセパレータ13を介して陽極箔11に対向し、アルミニウム等により形成される。陽極箔11及び陰極箔12の表面には酸化皮膜(不図示)が形成される。
【0034】
また、コンデンサ素子10の陽極箔11と陰極箔12との間には電解液が保持される。電解液にコンデンサ素子10を所定時間浸漬することにより、電解液がセパレータ13に浸透して陽極箔11と陰極箔12との間に保持される。電解液は実質上の陰極として機能する。また、電解液によって陽極箔11及び陰極箔12の酸化皮膜の欠陥を修復することができる。
【0035】
電解液は親油性溶媒に電解質を溶解した溶液から成っている。親油性溶媒としてガンマブチロラクトンを用いることができる。また親油性溶媒として、スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコールの少なくとも一つに非イオン性界面活性剤を含む液を用いることができる。非イオン性界面活性剤として、ポリエチレングリコールまたはポリグリセリンに親油基を結合させたもの、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体等を用いることができる。
【0036】
電解質は溶媒に溶解することによってイオンに解離して電気伝導性を発揮し、ホウ酸化合物またはカルボン酸化合物の有機アミン塩等が用いられる。
【0037】
また、電解液には親油性溶媒に溶解した脂溶性酸化防止剤が含まれる。脂溶性酸化防止剤は酸素と酸化反応を起こし、詳細を後述するように封口体5の酸化を抑制する。脂溶性酸化防止剤として親油性溶媒に溶解する酸化防止剤が用いられ、例えば脂溶性ビタミンを用いることができる。脂溶性ビタミンとして、ビタミンA(レチノール、α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチン)、ビタミンD(ビタミンD2、ビタミンD3)、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール)、ビタミンK(ビタミンK1、ビタミンK2、メナキノン7)等が挙げられる。
【0038】
電解液中の脂溶性酸化防止剤の濃度が1重量%よりも少ないと、封口体5に対する酸化抑制効果を長期的に継続できない。電解液中の脂溶性酸化防止剤の濃度が30重量%を超えると、電解液の粘度が高くなるためコンデンサ素子10に電解液を保持させる時間が長く工数が大きくなる。このため、電解液中の脂溶性酸化防止剤の濃度を1重量%~30重量%にすると望ましい。また、電解液中の脂溶性酸化防止剤の濃度を3重量%~20重量%にすると、より酸化抑制効果を発揮して工数を削減できるためより望ましい。
【0039】
図3において、封口体5はゴム等の絶縁体の弾性材料の成形品により一対の貫通孔5a、5bを有した円板状に形成される。コンデンサ素子10のリード端子7、8は圧入によって貫通孔5a、5bに挿通される。封口体5として、耐熱老化性、耐薬品性、耐光性等の環境抵抗性や電気絶縁特性が高く、ガス透過性の低いブチルゴムを用いることができる。また、封口体5に劣化を抑制する老化防止剤を含有してもよい。
【0040】
本体ケース3の開口部3cに封口体5を配した状態で、本体ケース3の開口端は封口体5上に折り返される。また、本体ケース3には外周面を押圧する絞り加工が施され、本体ケース3の内面側に突出する突出部3dが形成される。これにより、コンデンサ素子10とともに封口体5を固定して封口体5の脱落が防止され、本体ケース3の開口部3cが封口体5により封止される。
【0041】
この時、突出部3dの頂点が封口体5の厚み方向の中心よりもコンデンサ素子10から離れた側に配される。これにより、封口体5の外周面が図中、下方から押圧され、封口体5の上面(コンデンサ素子10側)が上に凸に湾曲して中央部がコンデンサ素子10側に突出する。
【0042】
図5は
図3のH部詳細図を示している。陽極箔11及び陰極箔12よりも下方に突出するセパレータ13の少なくとも一部は封口体5に接触する。この時、封口体5の中央部が上方に突出するように湾曲するため、セパレータ13が封口体5に沿った状態で複数点または面で確実に封口体5に当接することとなる。
【0043】
封口体5に接触するセパレータ13を介して封口体5には継続的に電解液の脂溶性酸化防止剤が供給される。脂溶性酸化防止剤は封口体5の内部の分子間隙間を介して封口体5の内部及び封口体5の外面(コンデンサ素子10の反対側の面)に到達する。このため、封口体5の外面が脂溶性酸化防止剤によって油膜状態で覆われる。
【0044】
また、脂溶性酸化防止剤は沸点が高く、融点が低い(例えば、トコフェロールの沸点は235℃、融点は3℃)。このため、封口体5の表面を覆う脂溶性酸化防止剤の蒸散が抑制される。これにより、室温付近の25℃から150℃の間で脂溶性酸化防止剤が液状を保ち、安定した油膜状態を形成することができる。
【0045】
これにより、封口体5と空気中の酸素との接触が抑制されるとともに、脂溶性酸化防止剤が封口体5の表面または内部の酸素と酸化反応する。従って、封口体5の酸化による劣化を長期的に抑制することができる。このため、封口体5のクラック等を介して電解液が蒸散されることを防止することができる。
【0046】
図6は本実施形態の電解コンデンサ1の耐久試験による静電容量の変化を示す図である。同図において縦軸は静電容量の変化率(単位:%)を示し、横軸は経過時間を示している。
【0047】
図中、Aは本実施形態の電解コンデンサ1であり、電解液の親油性溶媒としてガンマブチロラクトンを用いて脂溶性酸化防止剤としてトコフェロールを用いている。電解液中の脂溶性酸化防止剤の濃度は10重量%である。また、封口体5をブチルゴムにより形成し、老化防止剤を添加している。
【0048】
図中、Bは比較例の電解コンデンサを示しており、Aに示す電解コンデンサ1の電解液から脂溶性酸化防止剤を省いている。
【0049】
本実施形態及び比較例の電解コンデンサ1を150℃の高温環境下で耐久試験を行い、静電容量を測定した。
図7はAに示す電解コンデンサ1の8000時間経過時の封口体5の撮影画像を示している。
図8はBに示す電解コンデンサの4000時間経過時の封口体5の撮影画像を示している。
【0050】
耐久試験を行った結果、比較例の電解コンデンサは1500時間経過時点で封口体5の表面が老化防止剤の効果を失われて乾燥状態にあることが確認された。また、4000時間の経過時点で封口体5にクラックが発生し(
図8参照)、電解液が急速に蒸散して静電容量が急速に低下した。
【0051】
これに対して、本実施形態の電解コンデンサ1は1500時間及び8000時間経過時点で封口体5の表面が脂溶性酸化防止剤により油膜状態で覆われた光沢を有していることが確認された。即ち、封口体5の表面においてトコフェロールはガンマブチロラクトンよりも蒸発が遅く、封口体5の酸化劣化が速くなる150℃の高温度域でも安定して脂溶性酸化防止剤の油膜状態を保つことができていた。
【0052】
また、本実施形態の電解コンデンサ1は8000時間経過時点で静電容量の変化率が20%よりも小さくなっている。従って、高温環境下でも長期的に安定した特性を発揮することができる。この時、ESRも低い状態を保っており、電解液中の電解質に対して脂溶性酸化防止剤による悪影響はなかった。
【0053】
本実施形態によると、コンデンサ素子10が親油性溶媒に脂溶性酸化防止剤を溶解した電解液を保持し、セパレータ13が封口体5に接触する。これにより、電解液中の脂溶性酸化防止剤がセパレータ13を介して封口体5に継続的に供給され、封口体5の劣化を長期的に抑制することができる。このため、コンデンサ素子10に保持される電解液の蒸散を防止し、電解コンデンサ1の特性を長期的に安定して維持することができる。
【0054】
また、電解液中の脂溶性酸化防止剤の濃度が1重量%~30重量%であるので、工数の増大を抑制し、封口体5に対する酸化抑制効果を長期的に継続することができる。
【0055】
また、電解液中の脂溶性酸化防止剤の濃度が3重量%~20重量%であるので、より酸化抑制効果を長くして工数を削減できる。
【0056】
また、電解液の親油性溶媒をガンマブチロラクトンにより容易に実現することができる。
【0057】
また、電解液の親油性溶媒を、スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコールの少なくとも一つと、非イオン性界面活性剤とを含む液により容易に実現することができる。
【0058】
また、非イオン性界面活性剤をポリエチレングリコールまたはポリグリセリンに親油基を結合させた液により容易に実現することができる。
【0059】
また、非イオン性界面活性剤をポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体により容易に実現することができる。
【0060】
また、電解液の脂溶性酸化防止剤を脂溶性ビタミンにより容易に実現することができる。
【0061】
また、電解液の親油性溶媒に溶解する脂溶性ビタミンをトコフェロールまたはトコトリエノールにより容易に実現することができる。
【0062】
また、セパレータ13が陽極箔11及び陰極箔12よりも封口体5側に突出するので、セパレータ13を容易に封口体5に接触させることができる。
【0063】
また、本体ケース3の内面上に突出する突出部3dの頂点が封口体5の厚み方向の中心よりもコンデンサ素子10から離れた側に配される。これにより、封口体5の中央部がコンデンサ素子10側に突出し、セパレータ13が封口体5に沿った状態で複数点または面で確実に封口体5に当接する。
【0064】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態はコンデンサ素子10が電解液に替えて固体電解質(不図示)及び所定の機能性液体を保持する。その他の部分は第1実施形態と同様である。
【0065】
固体電解質は導電性高分子等により構成される。導電性高分子によって電解コンデンサ1のESRを低くすることができる。導電性高分子として、ポリチオフェン、ポリピロールまたはこれらの誘導体等を用いることができ、ポリエチレンジオキシチオフェンは電気伝導率が高いためより望ましい。
【0066】
導電性高分子の分散液にコンデンサ素子10を所定時間浸漬した後に乾燥することにより、導電性高分子から成る固体電解質を陽極箔11と陰極箔12との間に保持することができる。
【0067】
また、陽極箔11と陰極箔12との間には耐電圧を高くする機能を有した機能性液体が保持される。機能性液体は親油性溶媒に脂溶性酸化防止剤を溶解した溶液から成っている。親油性溶媒として、ガンマブチロラクトンを用いることができる。また親油性溶媒として、スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコールの少なくとも一つに非イオン性界面活性剤を含む液を用いることができる。非イオン性界面活性剤として、ポリエチレングリコールまたはポリグリセリンに親油基を結合させたもの、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体等を用いることができる。これらの親油性溶媒により耐電圧を高くすることができるとともに、脂溶性酸化防止剤を溶解させることができる。
【0068】
脂溶性酸化防止剤として親油性溶媒に溶解する酸化防止剤が用いられ、例えば脂溶性ビタミンを用いることができる。脂溶性ビタミンとして、ビタミンA(レチノール、α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチン)、ビタミンD(ビタミンD2、ビタミンD3)、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール)、ビタミンK(ビタミンK1、ビタミンK2、メナキノン7)等が挙げられる。
【0069】
また、固体電解質は機能性液体により膨潤状態となるため、固体電解質を挟む陽極箔11及び陰極箔12に対する固体電解質の密着度が高くなる。これにより、電解コンデンサ1のESRを低下させることができる。従って、機能性液体は電解コンデンサ1のESRを低下させる機能も有している。
【0070】
第1実施形態と同様にコンデンサ素子10のセパレータ13は封口体5に接触しており、機能性液体の脂溶性酸化防止剤はセパレータ13を介して封口体5に供給される。脂溶性酸化防止剤は封口体5の内部の分子間隙間を介して封口体5の内部及び封口体5の外面(コンデンサ素子10の反対側の面)に到達する。このため、封口体5の外面が脂溶性酸化防止剤によって油膜状態で覆われる。
【0071】
これにより、封口体5と空気中の酸素との接触が抑制されるとともに、脂溶性酸化防止剤が封口体5の表面または内部の酸素と酸化反応する。従って、封口体5の酸化による劣化を抑制することができ、機能性液体が抜け出ることを防止できる。
【0072】
本実施形態によると、コンデンサ素子10が親油性溶媒に脂溶性酸化防止剤を溶解した機能性液体及び固体電解質を保持し、セパレータ13が封口体5に接触する。これにより、機能性液体中の脂溶性酸化防止剤がセパレータ13を介して封口体5に継続的に供給され、封口体5の劣化を長期的に抑制することができる。このため、コンデンサ素子10に保持される機能性液体が抜け出ることを防止し、電解コンデンサ1の特性を長期的に安定して維持することができる。
【0073】
本実施形態において、上記機能性液体に電解質を溶解した電解液を陽極箔11と陰極箔12との間に保持してもよい。陽極箔11と陰極箔12との間に固体電解質及び電解液を保持することにより、酸化皮膜の修復機能を高めるとともに、電解コンデンサ1のESRをより低くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、電解コンデンサ及び電解コンデンサを制御回路に実装した自動車、電子機器等に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 電解コンデンサ
2 コンデンサ本体
3 本体ケース
3c 開口部
3d 突出部
5 封口体
5a、5b 貫通孔
6 座板
6a、6b 貫通孔
7、8 リード端子
10 コンデンサ素子
11 陽極箔
12 陰極箔
13 セパレータ
14 テープ