(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040189
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】量子ゲートの制御パルスの確定方法及び装置、電子機器並びに媒体
(51)【国際特許分類】
G06N 10/00 20220101AFI20230314BHJP
【FI】
G06N10/00
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023001985
(22)【出願日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】202210023296.3
(32)【優先日】2022-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】514322098
【氏名又は名称】ベイジン バイドゥ ネットコム サイエンス テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Beijing Baidu Netcom Science Technology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】2/F Baidu Campus, No.10, Shangdi 10th Street, Haidian District, Beijing 100085, China
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ジーンボー ワーン
(72)【発明者】
【氏名】ユイチュヨン ドワン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】量子ゲートの制御パルス確定方法等を提供する。
【解決手段】方法は、量子ゲートを実現するためのイオントラップチップ内の各フォノンの周波数を取得し、制御パルスに対応するラマン光離調周波数及び第1のフォノンの周波数を確定する。第1のフォノンは、イオントラップチップ内の周波数がラマン光離調周波数に最も近いフォノンである。方法はまた、第1のパルスシーケンスを初期化し、且つ、第1のパルスシーケンスに基づいて第2のパルスシーケンスを確定することによって、第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスをイオントラップチップに順次作用させた後、第1のフォノンをイオンからデカップリングし、実現されるべき量子ゲートに対応する歪度関数に基づいてターゲット関数を確定し、第1のパルスシーケンスの振幅と位相を調節し、且つ、それに応じて第2のパルスシーケンスを確定することによって、ターゲット関数を最小化する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ゲートの制御パルスの確定方法であって、
量子ゲートを実現するためのイオントラップチップ内の各フォノンの周波数を取得することと、
前記制御パルスに対応するラマン光離調周波数及び第1のフォノンの周波数を確定し、前記第1のフォノンは、前記イオントラップチップ内の周波数が前記ラマン光離調周波数に最も近いフォノンであることと、
第1のパルスシーケンスを初期化し且つ前記第1のパルスシーケンスに基づいて第2のパルスシーケンスを確定することによって、前記第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスを前記イオントラップチップに順次作用させた後、前記第1のフォノンをイオンからデカップリングすることができることと、
実現されるべき量子ゲートに対応する歪度関数に基づいてターゲット関数を確定することと、
前記第1のパルスシーケンスの振幅と位相を調節し且つそれに応じて前記第2のパルスシーケンスを確定することによって、前記ターゲット関数を最小化することとを含む、方法。
【請求項2】
前記第1のパルスシーケンスにおける第1のパルススライス数は、前記第2のパルスシーケンスにおける第2のパルススライス数以上であり、且つ、
前記第2のパルスシーケンスにおけるパルススライスの振幅は、前記第1のパルスシーケンスにおける最初の第2のパルススライス数のパルススライスの振幅と同じであり、
前記第2のパルスシーケンスにおけるパルススライスの位相は、前記第1のパルスシーケンスにおける最初の第2のパルススライス数のパルススライスの位相と、予め設定される定数だけ異なり、
前記定数は、以下の式に基づいて確定され、
【数1】
ここで、ω
aは、前記第1のフォノンの周波数であり、μは、前記ラマン光離調周波数であり、τは、実現されるべき量子ゲートのゲート時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
予め設定されるパルススライスの総数を確定し、前記パルススライスの総数に基づいて前記第1のパルスシーケンスにおける第1のパルススライス数と前記第2のパルスシーケンスにおける第2のパルススライス数を確定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記パルススライスの総数が奇数である場合、前記第1のパルススライス数は、前記第2のパルススライス数より1大きく、
前記パルススライスの総数が偶数である場合、前記第1のパルススライス数は、前記第2のパルススライス数に等しい、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第1のパルスシーケンスを初期化することは、
以下の式に基づいて前記第1のパルスシーケンスにおける各パルスの振幅を初期化することを含み、
【数2】
ここで、τは、予め設定される前記量子ゲートのゲート時間であり、μは、前記ラマン光離調周波数であり、ω
aは、が前記ラマン光離調周波数に最も近いフォノンaの周波数であり、η
jaは、イオンjと前記フォノンaのLamb-Dickeカップリングパラメータを表し、η
iaは、イオンiと前記フォノンaのLamb-Dickeカップリングパラメータを表し、ここで、前記イオンiとjは、前記イオントラップ内に選定される、前記量子ゲートを生成するためのイオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第1のパルスシーケンスを初期化することは、
前記第1のパルスシーケンスにおける各パルスの位相を、第1の正数と第1の負数とが交互に変化するように初期化することを含み、前記第1の正数と前記第1の負数との絶対値は同じである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
予め設定される前記量子ゲートが耐え得るノイズ範囲を確定することをさらに含み、実現されるべき量子ゲートに対応する歪度関数に基づいてターゲット関数を確定することは、前記ノイズ範囲に基づいて前記歪度関数を確定して前記ターゲット関数をさらに確定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のパルスシーケンスにおける各パルススライスの振幅は、ラマン光の最大ラビ周波数を超えない、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ターゲット関数を最小化した後に取得される第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスを確定することと、
予め設定されるノイズ範囲内で、前記第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスによってイオントラップチップ内に実現可能な量子ゲートの忠実度、及び前記イオントラップチップ内の各フォノンの位相空間内の軌跡図を確定することと、
前記忠実度及び前記軌跡図に基づいて前記第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスのノイズ適用範囲を確定することとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
量子ゲートの制御パルスの確定装置であって、
量子ゲートを実現するためのイオントラップチップ内の各フォノンの周波数を取得するように構成される取得ユニットと、
前記制御パルスに対応するラマン光離調周波数及び第1のフォノンの周波数を確定するように構成される第1の確定ユニットであって、前記第1のフォノンは、前記イオントラップチップ内の周波数が前記ラマン光離調周波数に最も近いフォノンである第1の確定ユニットと、
第1のパルスシーケンスを初期化し且つ前記第1のパルスシーケンスに基づいて第2のパルスシーケンスを確定することによって、前記第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスを前記イオントラップチップに順次作用させた後、前記第1のフォノンをイオンからデカップリングすることができるように構成される初期化ユニットと、
実現されるべき量子ゲートに対応する歪度関数に基づいてターゲット関数を確定するように構成される第2の確定ユニットと、
前記第1のパルスシーケンスの振幅と位相を調節し且つそれに応じて前記第2のパルスシーケンスを確定することによって、前記ターゲット関数を最小化するように構成される調節ユニットとを含む、装置。
【請求項11】
少なくとも1つのプロセッサと、
前記少なくとも1つのプロセッサに通信接続されたメモリとを含み、
前記メモリには、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令が記憶され、前記命令は、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されることにより、前記少なくとも1つのプロセッサに請求項1~9のいずれか一項に記載の方法を実行させることができる、電子機器。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータ命令が記憶された非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項13】
プロセッサに実行されると、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法を実現するコンピュータプログラムを含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンピュータ分野に関し、特に量子コンピュータ技術分野に関し、具体的には量子ゲートの制御パルスの確定方法、装置、電子機器、コンピュータ可読記憶媒体及びコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、量子コンピュータの強大な能力がますます顕著になり、イオントラッププラットフォームは、目覚ましい発展を遂げている。ハードウェアプラットフォームが百花斉放となる今日、どのように異なるメーカーが提供する異なるハードウェアに対して総合的な高精度パルス制御を効果的に行うかは、未来のイオントラップ量子計算の重要な方向である。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、量子ゲートの制御パルスの確定方法、装置、電子機器、コンピュータ可読記憶媒体及びコンピュータプログラム製品を提供する。
【0004】
本開示の一態様によれば、量子ゲートの制御パルスの確定方法を提供し、前記方法は、量子ゲートを実現するためのイオントラップチップ内の各フォノンの周波数を取得することと、前記制御パルスに対応するラマン光離調周波数及び第1のフォノンの周波数を確定し、ここで、前記第1のフォノンは、前記イオントラップチップ内の周波数が前記ラマン光離調周波数に最も近いフォノンであることと、第1のパルスシーケンスを初期化し且つ前記第1のパルスシーケンスに基づいて第2のパルスシーケンスを確定することによって、前記第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスを前記イオントラップチップに順次作用させた後、前記第1のフォノンをイオンからデカップリングすることができることと、実現されるべき量子ゲートに対応する歪度関数に基づいてターゲット関数を確定することと、前記第1のパルスシーケンスの振幅と位相を調節し且つそれに応じて前記第2のパルスシーケンスを確定することによって、前記ターゲット関数を最小化することとを含む。
【0005】
本開示の別の態様によれば、量子ゲートの制御パルスの確定装置を提供し、前記装置は、量子ゲートを実現するためのイオントラップチップ内の各フォノンの周波数を取得するように構成される取得ユニットと、前記制御パルスに対応するラマン光離調周波数及び第1のフォノンの周波数を確定するように構成される第1の確定ユニットであって、前記第1のフォノンは、前記イオントラップチップ内の周波数が前記ラマン光離調周波数に最も近いフォノンである第1の確定ユニットと、第1のパルスシーケンスを初期化し且つ前記第1のパルスシーケンスに基づいて第2のパルスシーケンスを確定することによって、前記第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスを前記イオントラップチップに順次作用させた後、前記第1のフォノンをイオンからデカップリングすることができるように構成される初期化ユニットと、実現されるべき量子ゲートに対応する歪度関数に基づいてターゲット関数を確定するように構成される第2の確定ユニットと、前記第1のパルスシーケンスの振幅と位相を調節し且つそれに応じて前記第2のパルスシーケンスを確定することによって、前記ターゲット関数を最小化するように構成される調節ユニットとを含む。
【0006】
本開示の別の態様によれば、電子機器を提供し、前記電子機器は、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つのプロセッサに通信接続されたメモリとを含み、メモリには、少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な命令が記憶され、この命令は、少なくとも1つのプロセッサによって実行されることにより、少なくとも1つのプロセッサに本開示に記載の方法を実行させることができる。
【0007】
本開示の別の態様によれば、本開示に記載の方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータ命令が記憶された非一時的コンピュータ可読記憶媒体が提供される。
【0008】
本開示の別の態様によれば、プロセッサによって実行されると、本開示に記載の方法を実施するコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品が提供される。
【0009】
本開示の一つ又は複数の実施例によれば、イオンと最も強く作用するフォノンのみに注目し、スライス数が量子ビット数に伴って直線的に増加するパルスシーケンスが作用した後にデカップリングを実現し、次にパルスシーケンスを最適化し、ゲート時間が終了した後に残りのフォノン-イオンカップリング強度を許容可能な範囲に減少することにより、忠実度が非常に高い量子ゲートを取得する。
【0010】
理解すべきこととして、この部分に説明される内容は、本開示の実施例の要点又は重要な特徴を識別することを意図しておらず、本開示の保護範囲を限定するためのものではないことである。本開示の他の特徴は、以下の明細書によって理解されやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図面は、実施例を例示的に示し、明細書の一部を構成し、明細書の文字による説明とともに、実施例の例示的な実施形態を説明するために使用される。図示の実施例は例示的目的のみであり、特許請求の範囲を限定するものではない。すべての図面において、同じ符号は類似しているが、必ずしも同じとは限らない要素を指す。
【
図1】本開示の実施例による量子ゲートの制御パルス確定方法のフローチャートを示す。
【
図2】本開示の実施例による量子ゲートのノイズ適用範囲を確定するフローチャートを示す。
【
図3】本開示の一つの例示的な実施例による制御パルス確定方法のフローチャートを示す。
【
図4A】
図4A~
図4Bは、一組のパラメータで従来の方法と本開示の実施例による方法で取得される量子ゲート歪度の曲線図をそれぞれ示す。
【
図4B】
図4A~
図4Bは、一組のパラメータで従来の方法と本開示の実施例による方法で取得される量子ゲート歪度の曲線図をそれぞれ示す。
【
図5】本開示の実施例によるイオン-フォノンカップリング強度の位相空間軌跡概略図を示す。
【
図6A】
図6A~
図6Bは、別の組のパラメータで従来の方法と本開示の実施例による方法で取得される量子ゲート歪度の曲線図をそれぞれ示す。
【
図6B】
図6A~
図6Bは、別の組のパラメータで従来の方法と本開示の実施例による方法で取得される量子ゲート歪度の曲線図をそれぞれ示す。
【
図7】本開示の実施例による量子ゲートの制御パルス確定装置の構造ブロック図を示す。
【
図8】本開示の実施例を実現するために使用できる例示的な電子機器の構造ブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に合わせて本開示の例示的な実施例を説明して、それに含まれる本開示の実施例における様々な詳細が理解を助けるためので、それらは単なる例示的なものと考えられるべきである。したがって、当業者であれば、本開示の範囲及び精神から逸脱することなく、本明細書で説明された実施例に対して様々な変更及び修正を行うことができることを認識すべきである。同様に、明瞭と簡潔のために、以下の説明では公知の機能及び構造についての説明を省略している。
【0013】
本開示では、特に明記しない限り、様々な要素を説明するための「第1の」、「第2の」などの用語の使用は、これらの要素の位置関係、タイミング関係、又は重要性関係を限定することを意図していない。このような用語は、ある要素を別の要素と区別するためにのみ使用される。いくつかの例では、第1の要素と第2の要素は、要素の同じ例を指すことができ、場合によっては、コンテキストの説明に基づいて、異なる例を指してもよい。
【0014】
本開示の様々な例の説明で使用される用語は、特定の例を説明することのみを目的としており、限定することを意図していない。コンテキストが別途に明確に示されていない限り、特に要素の数を限定しないなら、要素は一つであってもよいし、複数であってもよい。また、本開示で使用される用語「及び/又は」は、テーブルされた項目のいずれか及び可能な全ての組み合わせをカバーする。
【0015】
以下、図面を参照して本開示の実施例について詳細に説明する。
【0016】
現在まで、応用されている様々なタイプのコンピュータは、古典的な物理学を情報処理の理論基礎とするものであり、伝統的なコンピュータ又は古典的なコンピュータと呼ばれている。古典的情報システムは、物理的に最も容易に実現可能なバイナリデータビットを用いてデータ又はプログラムを記憶し、各バイナリデータビットは、最小情報ユニットとして、1ビットと呼ばれる0又は1で表される。古典的なコンピュータ自身には避けられない弱点が存在する。一つ目は計算過程のエネルギー消耗の最も基本的な制限である。論理素子又はメモリユニットに必要な最低エネルギーはkTの数倍以上にして、熱揺らぎにより誤動作を避けるべきである。二つ目は、情報エントロピーと発熱エネルギー消耗である。三つ目は、コンピュータチップの配線密度が非常に大きい場合、ハイゼンベルク不確定性関係から、電子位置の不確定量が非常に小さい場合、運動量の不確定量が非常に大きくなることである。電子はもはや束縛されず、チップの性能を破壊する量子干渉効果を有する。
【0017】
量子コンピュータ(quantum computer)は量子力学の性質、規則に従って高速数学と論理演算を行い、量子情報を記憶し処理する物理機器である。ある機器が処理し計算するのは量子情報であり、実行するのは量子アルゴリズムである場合、それは量子コンピュータである。量子コンピュータは独自の量子動力学法則(特に量子干渉)に従って情報処理の新しいモードを実現する。計算問題の並列処理に対して、量子コンピュータは古典的コンピュータよりも速度的に優れている。量子コンピュータが各重畳成分に対して実現する変換は一つの古典的な計算に相当し、すべての古典的な計算は同時に完成し、かつ一定の確率振幅で重畳し、量子コンピュータの出力結果を提供し、この計算は量子並列計算と呼ばれる。量子並列処理は量子コンピュータの効率を大幅に向上させ、古典的なコンピュータが完成できない動作、例えば大きい自然数の因子分解を完成させることができる。量子コヒーレンス性は、すべての量子超高速アルゴリズムにおいて本質的に利用されている。したがって、量子状態で古典状態を代える量子並列計算は、古典的なコンピュータが匹敵できない演算速度と情報処理機能を達成することができ、同時に大量の演算リソースを節約する。
【0018】
量子ゲート操作は量子コンピュータの核心機能であり、量子ゲート操作を正確に実現することはすべての量子アルゴリズムが正確に実現される前提である。汎用量子計算は、一組の完備した量子ゲートを必要とする。イオントラップは、量子計算提示のためのプラットフォームとして、ミクロイオンが豊富なエネルギー準位構造と量子特性に起因し、トラップに拘束されるイオンを理想的な量子ビットにすることにより、同じビットの量子ゲート操作を実現することができる。例えば、
(外1)
状態と
(外2)
状態との間のラビ発振プロセスでシングルビット量子ゲートの操作を実現することができる。一般的には、二光子ラマンプロセスを採用してシングルビット量子ゲートを実現することができ、非常に高い忠実度に達することができる。デュアルビット量子ゲート操作は、イオン振動モードに依存し、低温でイオンがトラップ内に鎖状に配列される時、イオンのバランス位置付近での振動は、測定可能なフォノンに互にカップリングすることになる(すなわちフォノンモード、phonon modeとも呼ばれ、且つフォノン数がイオン数に等しい)。離調されたラマン光は、単一イオンの
(外3)
状態と
(外4)
状態をイオン鎖のフォノンにカップリングすることができ、イオントラップにおける複数のイオンに離調ラマン光を照射すれば、フォノンによって複数のイオンをカップリングし、それによりデュアルビット量子ゲートの操作を実現することができる。
【0019】
理想的なデュアルビット量子ゲート操作が終了した後にイオン間のカップリングのみを保留すべきである。イオン-フォノンカップリングを解消するために、パルススライスの方式によってデュアルビット量子ゲート操作を実現することができる。現在の実験において、量子ドットレーザ超狭線幅はKHzレベルであり、飽和吸収等の周波数安定化方法は、レーザ周波数をサブMHzまで正確にすることしかできない。パルススライス方案により発生した量子ゲートは、ラマン光周波数がドリフトし、ゲート時間が歪む時に忠実度が大幅に低下し、且つイオン数が増加する時、その最適化求解時間が非常に長く、実用性が大幅に制限される。
【0020】
これらの問題を解決するために、パルス位相調節方案が提供され、ラマン光パルスをパルスシーケンスにスライスして且つそれらの間の位相関係を調整することによって、イオン-フォノンのカップリングが一つのゲート時間を経た後に位相空間の原点に戻ることを可能にする。フォノンiとイオンjとのカップリング強度αijの変化は、ラマン光の強度Ω、ラマン光位相φ、ラマン光と対応するフォノンとの周波数差(ωi-ωj)に関する。イオンjに当たる総時間がτであるパルスシーケンス[Ω0,Ω1,…,Ωn]、[φ0,φ1,…,φn]に対して、作用が終了した後にフォノンiとイオンjのカップリング強度は、0からαijに変更する。このパルスシーケンスが作用した後、レーザの位相を変換し、その位相にδi=-π+(ωi-ωj)τを統一的に加算し、変換されたパルスシーケンス[Ω0,Ω1,…,Ωn]、[φ0+δi,φ1+δi,…,φn+δi]をイオンjに再作用すれば、このパルス作用が終了した後にフォノンiとイオンjのカップリング強度をαijから0に変更し、これは、補償法によるフォノンiとイオンjのデカップリングに関する方法である。一つのフォノンをデカップリングした後、パルスシーケンススライス数は、nから2nに変更することが分かる。N個のイオンを含むシステムに対して、有効フォノン数もNである。これらのN個のフォノンを順次デカップリングすれば、パルスシーケンスのスライス数は、2Nn(n*2*2…*2)に変更し、これは、位相調節の方法である。この方法の補償思想は、各フォノン-イオンカップリング強度をいずれもパルスシーケンスが終了した後に0に戻し、一定の範囲内のゲート時間歪み、ラマン光周波数揺れの下で、依然として補償方程式を満たすため、この方法で生成されたパルスシーケンスは、非常に耐ノーズ能力を有する。しかし、2Nこのように指数的に増加するパルススライス数は、イオントラップの元々長い量子ゲート時間をさらに爆発的に増加させ、実験的に許容されない。総時間2Nτを合理的な範囲内に短くすれば、τが短すぎてパルスシーケンス変化が頻繁になる。現在のレーザ、音響光学変調器等の制御コンポーネントは、このような迅速な操作に達することが難しく、レーザによる立ち上がり、立ち下がりを変更すると、忠実度に対する影響が大きい。
【0021】
また、QCTRL会社は、環境ノイズ干渉に耐えるイオントラップパルススライス生成方法を提案し、パルスシーケンス[Ω0,Ω1,…,Ωn]、[φ0,φ1,…,φn]に対してターゲット関数最適化を行うことによって、初級耐ノイズを備えるイオントラップパルス制御方案を実現する。しかし、QCTRLで採用される方法の応用範囲は、実験パラメータに対して非常に敏感であり、パルス時間、離調選択等の面に対する要求が厳しく、多くの実験パラメータで正常に最適化することができず、多様な実験プラットフォームを満たすことが難しく、且つマルチイオンの場合、この方法で生成されたパルスは、ノイズ<KHzレベルの範囲のみで一定の耐干渉能力があり、現在のレーザ線幅と周波数安定化方式に対して、まだ実用性を備えない。
【0022】
そのため、本開示の実施例によれば、イオントラップパルス位相調節方案を改良し、それをより実用化する量子ゲートの制御パルス確定方法が提供される。
図1に示すように、この量子ゲートの制御パルス確定方法100は、量子ゲートを実現するためのイオントラップチップ内の各フォノンの周波数を取得する(ステップ110)と、前記制御パルスに対応するラマン光離調周波数及び第1のフォノンの周波数を確定し、第1のフォノンは、イオントラップチップ内の周波数がラマン光離調周波数に最も近いフォノンである(ステップ120)と、第1のパルスシーケンスを初期化し且つ第1のパルスシーケンスに基づいて第2のパルスシーケンスを確定することによって、第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスをイオントラップチップに順次作用させた後、第1のフォノンをイオンからデカップリングすることができる(ステップ130)と、実現されるべき量子ゲートに対応する歪度関数に基づいてターゲット関数を確定する(ステップ140)と、第1のパルスシーケンスの振幅と位相を調節し且つそれに応じて前記第2のパルスシーケンスを確定することによって、ターゲット関数を最小化する(ステップ150)とを含む。
【0023】
本開示の実施例の方法によれば、イオンと最も強く作用するフォノンのみに注目し、スライス数が量子ビット数に伴って直線的に増加するパルスシーケンスが作用した後にデカップリングを実現し、次にパルスシーケンスを最適化し、ゲート時間が終了した後に残りのフォノン-イオンカップリング強度を許容可能な範囲に減少することにより、忠実度が非常に高い量子ゲートを取得する。
【0024】
いくつかの例示的な実施例では、イオントラップチップの基本的なパラメータ、例えばトラップ周波数ω
x,ω
z、イオン数N、イオン質量m等を予め取得することができる。これらの基本的なパラメータに基づいてイオントラップ内のイオンのバランス位置、イオン鎖のフォノン周波数
(外5)
(N個の数値のベクトルを含む)及びLamb-Dickeカップリングパラメータη
jk(j番目のイオンとk番目のフォノンのLamb-Dickeカップリングパラメータを表す)等をさらに確定することができる。本開示の方法に基づいてシミュレート操作を行う時、イオントラップチップのパラメータは、ユーザによりカスタマイズして入力することができる。また、設定したいパルスパラメータ、例えばラマン光離調周波数μ、量子ゲート時間τ、所望のパルススライスの総数l、到達可能な最大ラビ周波数Ω
max等を予め取得することもできる。
【0025】
上記で取得されるイオントラップチップの基本的なパラメータ及びパルスパラメータに基づいて、イオントラップチップ内の各フォノンの周波数及びその周波数がラマン光離調周波数に最も近いフォノン(第1のフォノン)を確定することができ、すなわち|μ-ωk|(k=1,…,N)が最小となる時のフォノン周波数ωaを確定する。選択されるラマン光離調周波数が一般的にある具体的なフォノン周波数ωaに近く、このフォノンとイオンのカップリングが最も強く、ほとんどのフォノン-イオンカップリング強度に寄与したことを考慮する。そのため、このカップリングが最も強いフォノンのみに注目し、パルスシーケンス作用によって補償デカップリングを実現することによって、パルスシーケンスのスライス数を大幅に低減させる。
【0026】
いくつかの実施例によれば、第1のパルスシーケンスに対して初期化及び調節最適化を行うプロセスにおいて、第1のパルスシーケンスにおける各パルススライスの振幅がラマン光の最大ラビ周波数を超えないΩmaxように設定することができる。
【0027】
いくつかの実施例によれば、予め設定されるパルススライスの総数を確定し、前記パルススライスの総数に基づいて前記第1のパルスシーケンスにおける第1のパルススライス数と前記第2のパルスシーケンスにおける第2のパルススライス数を確定することをさらに含む。
【0028】
いくつかの実施例では、所望のパルススライスの総数l(lは、正整数である)を予め確定することができる。確定されるパルススライスの総数lに基づいて、第1のパルスシーケンスの第1のパルススライス数と第2のパルスシーケンスの第2のパルススライス数をそれぞれ確定する。第1のパルススライス数と第2のパルススライス数の和は、このパルススライスの総数lに等しい。
【0029】
いくつかの実施例によれば、パルススライスの総数lが奇数である場合、第1のパルススライス数は、第2のパルススライス数より1大きくすることができ、パルススライスの総数lが偶数である場合、第1のパルススライス数は、第2のパルススライス数に等しくすることができる。
【0030】
例示的に、予め設定されるパルススライスの総数lに基づいて、長さが
(外6)
である初期パルス変数[Ω
1,…,Ω
n]を生成し、[φ
1,…,φ
n]は、第1のパルスシーケンスとして、ここで、Ωは、振幅を表し、φは、位相を表す。その後に、(l-n)は、すなわち第2のパルスシーケンスのパルススライス数である。
【0031】
いくつかの例において、パルススライスの総数lに基づいて他の方式によってこの第1のパルススライス数と第2のパルススライス数を確定することができ、例えば、lが偶数である場合に第1のパルススライス数は、第2のパルススライス数より2大きく、lが奇数である場合に第1のパルススライス数は、第2のパルススライス数より3大きいこと等であり、ここで制限しない。
【0032】
第1のパルススライス数と第2のパルススライス数が等しくない(すなわち第1のパルススライス数が第2のパルススライス数よりも大きい)時、第2のパルスシーケンスにおける各パルススライスは、第1のパルスシーケンスにおける最初の第2のパルススライス数のパルススライスに一対一で対応する。
【0033】
いくつかの実施例によれば、第2のパルスシーケンスにおけるパルススライスの振幅は、第1のパルスシーケンスにおける対応するパルススライスの振幅と同じであり、且つ第2のパルスシーケンスにおけるパルススライスの位相は、第1のパルスシーケンスにおける対応するパルススライスの位相と、予め設定される定数だけ異なる。この予め設定される定数は、以下の式に基づいて確定されることができる。
【0034】
【数1】
ここで、ω
aは、前記第1のフォノンの周波数であり、μは、前記ラマン光離調周波数であり、τは、実現されるべき量子ゲートのゲート時間である。
【0035】
例示的には、第1のパルスシーケンスにおける対応するパルスの位相にこの予め設定される定数を加算することによって、第2のパルスシーケンスを取得することができる。初期化して得られる第1のパルスシーケンス[[Ω1,…,Ωn]、[φ1,…,φn]]に対して、第1のパルスシーケンスのパルススライス数が第2のパルスシーケンスのパルススライス数に等しい場合、第2のパルスシーケンスは、[[Ω1,…,Ωn]、[φ1+δa,…,φn+δa]]であってもよく、第1のパルスシーケンスのパルススライス数が第2のパルスシーケンスのパルススライス数より1大きい場合、第2のパルスシーケンスは、[[Ω1,…,Ωn,Ω1,…,Ωn-1]、[φ1+δa,…,φn-1+δa]]であってもよい。第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスは、イオントラップにおける指定イオンに順次作用する。
【0036】
いくつかの実施例によれば、以下の式に基づいて第1のパルスシーケンスにおける各パルスの振幅を初期化することができる。
【0037】
【数2】
ここで、τは、予め設定される前記量子ゲートのゲート時間であり、μは、前記ラマン光離調周波数であり、ω
aは、が前記ラマン光離調周波数に最も近いフォノンaの周波数であり、η
jaは、イオンjと前記フォノンaのLamb-Dickeカップリングパラメータを表し、η
iaは、イオンiと前記フォノンaのLamb-Dickeカップリングパラメータを表し、ここで、前記イオンiとjは、前記イオントラップ内に選定される、前記量子ゲートを生成するためのイオンである。このように、パルスシーケンスの振幅初期値を科学的に設定することによって、後続の最適化を容易に行うことができる。
【0038】
いくつかの実施例によれば、第1のパルスシーケンスにおける各パルスの位相を、第1の正数と第1の負数とが交互に変化するように初期化することができる。前記第1の正数と前記第1の負数との絶対値は同じである。すなわち、第1のパルスシーケンスの位相を、1、-1、1、-1……のように、絶えず反転するように初期化することができる。実験により、第1のパルスシーケンスの位相を、絶対値が同じである正値と負値とが交互に変化するように初期化することは、ほとんどの場合にランダムに初期化されるパルスシーケンスと比べて、後続の最適化の後のプロセスに対して効果がより高い。
【0039】
無論、理解できるように、他の方式、例えばランダム初期化で、第1のパルスシーケンスを初期化してもよく、ここで制限しない。
【0040】
いくつかの実施例によれば、本開示に基づく方法は、予め設定される前記量子ゲートが耐え得るノイズ範囲pを確定し、前記ノイズ範囲に基づいて対応する歪度関数を確定し、且つターゲット関数をさらに確定することをさらに含んでもよい。このように、パルスシーケンスを、一定のノイズに対する耐性を有するように、予め設定されるノイズ範囲内に最適化するとともに、パルススライス数を直線的増加レベルに制限し、本開示に基づく方法の実用性を大幅に増加させる。
【0041】
本開示の実施例の方法によれば、ほとんどのイオントラップパラメータで、量子ビット数に応じて直線的に増加するレーザパルススライス数だけで、忠実度が非常に高いイオントラップ量子ゲート制御パルスシーケンスを取得することができ、且つ例えばラマン光周波数ドリフト、ゲート時間ドリフト等のノイズ作用で非常に高い忠実度を依然として保持することができる。
【0042】
いくつかの実施例によれば、本開示に基づく方法は、量子ゲートのノイズ適用範囲を確定するステップ200をさらに含んでもよく、このステップ200は、ターゲット関数を最小化した後に取得される第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスを確定する(ステップ210)と、予め設定されるノイズ範囲内で、前記第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスによってイオントラップチップ内に実現可能な量子ゲートの忠実度、及び前記イオントラップチップ内の各フォノンの位相空間内の軌跡図を確定する(ステップ220)と、前記忠実度及び前記軌跡図に基づいて前記第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスのノイズ適用範囲を確定する(ステップ230)とを含んでもよい。最適化が完了したパルスシーケンスに対して予め設定されるノイズ範囲内でノイズ処理を行うことによって、その量子ゲートの忠実度がノイズに伴う変化を観察し、各フォノンの位相空間内の軌跡図を作成し、この量子ゲートがノイズに耐え得る適用範囲を与えることができる。
【0043】
図3は、本開示の一つの例示的な実施例による制御パルス確定方法のフローチャートを示す。
図3に示すように、ステップ310において、まず、イオントラップチップの基本的なパラメータ、例えばトラップ周波数ω
x,ω
z、イオン数N、イオン質量m等を取得し、且つこれらの基本的なパラメータに基づいてこのイオントラップ内のイオンのバランス位置、イオン鎖のフォノン周波数
(外7)
及びLamb-Dickeカップリングパラメータη
jkを確定することができる。ステップ320において、実験的に設定したいパルスパラメータ、例えばラマン光離調周波数μ、ゲート時間τ、所望のレーザスライスの総数l(ここでは、簡単に記述するためにlを偶数に直接設定する)、到達可能な最大ラビ周波数Ω
max、耐ノイズ範囲pと作用するイオンi、j等を取得する(ステップ3201)。また、上記で取得されるパラメータに基づいて、|μ-ω
a|が最小となる時のフォノン周波数ω
aを確定し、位相変調パラメータδ
a=-π+(ω
a-μ)τ/2を計算することができる(ステップ3202)。ステップ330において、既知のイオントラップとパルスからパラメータを設定し、長さが
(外8)
(lが偶数であるため、n=l/2)の初期パルス変数[[Ω
1,…,Ω
n]、[φ
1,…,φ
n]]を生成し、且つパルスシーケンスの各振幅、位相パラメータがいずれも自由変数であるように初期化する。すなわち、Ω
0,Ω
1,…,Ω
n、φ
0,φ
1,…,φ
nは、いずれも自由変数であり、自由変数は、その後にターゲット関数に基づいて調節最適化を行う必要がある。自由変数の初期値は、ゲート時間、フォノン周波数、ラマン光離調周波数、イオンi、jと周波数がω
aであるフォノンのLamb-Dickeカップリングパラメータη
ja、η
iaに関するように設定されてもよく、後続の最適化を容易にすることができる。
【0044】
ステップ340において、パルス変数からフォノンω
a補償デカップリングを満たす初期パルスシーケンス[[Ω
1,…,Ω
n,Ω
1,…,Ω
n]、[φ
1,…,φ
n,φ
1+δ
a,…,φ
n+δ
a]]を生成し、このパルスシーケンスのパルススライスの総数は、lであり、n個の自由変数を含み、S=[[Ω
1,…,Ω
l]、[φ
1,…,φ
l]]に設定する。ステップ350において、パルスシーケンスSと耐ノイズ範囲p等をターゲット関数に入力し、量子ゲート歪度としてターゲット値fを計算する。ここで、f=f
0+f
++f
-、ノイズ項
(外9)
を含まず、ノイズ項
(外10)
、
(外11)
を含む。ここで、
(外12)
は、歪度関数がイオン-フォノンカップリング強度αに対して行われる一次テイラー展開である。例えば、ターゲットカップリング強度がφ(このターゲットカップリング強度は、実現されるべき量子ゲートに基づいて確定することができ、例えば実現されるべき量子ゲートが最大エンタングルメントゲートである時、このターゲットカップリング強度は、
(外13)
である)であるデュアルビットゲート操作に対して、ここで完全な忠実度関数式が与えられる。
【0045】
【数3】
ここで、1-Fは、すなわち歪度関数である。以下では、χ、α及びβの関数式が与えられる。
【0046】
【数4】
ステップ360において、反復条件として、相応な量子ゲート忠実度の要求を満たすか否かを判断する。満たさなければ(ステップ3360、「否」)、ステップ370において、量子ゲート歪度に基づいて、入力されるパルスシーケンスにおける自由変数[Ω
1,…,Ω
n]、[φ
1,…,φ
n]を動的に調整するとともに、最大ラビ周波数Ω
maxの制限を超えない。設定される最適化終了条件を満たすまで、ステップ340、350を繰り返す。ステップ380において、最適化が完了したパルスシーケンスに対して、設定されるノイズ範囲内のノイズ処理を行うことができ、その量子ゲートの忠実度がノイズに伴う変化を観察し、各フォノンモードの位相空間内の軌跡図を作成し、且つノイズに耐え得る適用範囲を与えることができる。それにより、ステップ390において、最適化が完了したパルスシーケンス情報Sを出力する。
【0047】
上記実施例に記述されている方法によれば、パルス調節の実用性ニーズを満たすことができ、且つ、パルスシーケンスを初期化する時、選択されるパルス振幅の初期値が科学的で合理的であるため、それは、最適化プロセスにおける初期値として、いくつかの合理的でないターゲット関数プラトー、局所最適値等を避けることができる。この実施例では、実現される最適化方法は、かなり広い実験パラメータ範囲において優れた表現があり、生成された最適化パルスは、かなりの程度のノイズ範囲内に非常に高い忠実度を示し、且つ必要とするパルススライス数は、イオン数の増加に伴って直線的に増加し、方案の実用性を補強する。
【0048】
本開示の実施例による一つの例示的な応用において、5つのイッテルビウム(Yb)イオンを選択して演出を行う。横方向の拘束周波数が縦方向の拘束周波数よりも小さい一次元イオン鎖から、一番目のイオンと五番目のイオンを選択して位相変調方法で
(外14)
MS(
(外15)
)相互作用ゲートを最適化する。イオントラップ環境情報の選択、パルスパラメータの設定は、表1に示す通りである。
【0049】
【表1】
このようなパラメータ選択の下で、従来の方法(すなわち業界方案)と本開示の実施例による方法(本方案)で生成されたパルスシーケンスとを比較することによって、離調ノイズとゲート時間ノイズの下で、その
(外16)
デュアル量子ゲートの歪度は、それぞれ
図4Aと4Bに示す通りである。-2.0KHz、-0.7KHzの離調ノイズにおいて、本開示の実施例の方法で生成されたパルスシーケンスに対応する量子ゲート歪度は、0.017、0.02であり、従来の方法で生成されたパルスシーケンスに対応する量子ゲートは、この二つの点で歪度が0.24、0.07に達することが分かる。ゲート時間ノイズに対して、0.996~1.004のゲート時間変動において、本開示の実施例の方法の歪度は、常に0.0001以下に保持され、従来の方法は、両端の歪度が0.056、0.022に達する。
【0050】
本開示の実施例による方法で取得されるパルス作用で、二つのイオンと各フォノンのカップリング強度の位相空間の軌跡画像は、
図5に示す通りである。合理的な初期変数の選択のため、本開示の実施例の方法は、いくつかの従来の方法で最適化することができない状況を最適化することができる。例えば表2に示されるパラメータ設定であり、従来の方法は、最適化することができないが、本開示の実施例の方法は、依然として正常に最適化する。
【0051】
【表2】
このようなパラメータ選択の下で、従来の方法(すなわち業界方案)と本開示の実施例による方法(即ち本方案)で生成されたパルスシーケンスとを比較することによって、離調ノイズとゲート時間ノイズの下で、その量子ゲートの歪度は、それぞれ
図6Aと6Bに示す通りである。従来の方法で与えられるパルスシーケンスは、ノイズがない場合に、歪度も0.2よりも大きく、このような状況は、従来の方法で形成される量子ゲートの忠実度が0.8よりも小さく、量子コンピュータが許容可能な忠実度閾値よりも遥かに低いことを示すことが分かる。故に、従来の方法は、このようなパラメータ設定に対して効果的な最適化を行っていない。対照的に、本開示の実施例の方法は、周波数ノイズが2KHzに達する時に依然として0.008の歪度を保持し、ゲート時間ノイズ倍数が1.004である時に0.0007の歪度を保持する。
【0052】
既存の位相調節方法に対して、イオン数が増える時に必要とするパルススライス数が指数的に増加する。本開示の実施例による方法は、イオン数に伴って直線的に増加するスライス数だけで、比較的に高い効果に達することができる。表3は、異なるイオン数の場合に二つの方案で生成されたパルスが2KHzノイズでの歪度比較を示す。
【0053】
【表3】
ここで、パラメータ選択は、表1と同じであり、唯一異なる点は、作用するイオンが[1、2]に変更することである。既存の位相変調方法は、非常に優れた表現があるが、必要とする最少スライス数がイオン数が増えることに伴って指数的に増加し、このように実験プラットフォームで実際に実現することができないことが分かる。本開示の方法によれば、必要とするスライス数がイオン数が増えることに伴って直線的に増加し、且つ2KHzのノイズ作用で忠実度が依然として許容可能なレベルに維持される。
【0054】
本開示の実施例によれば、
図7に示すように、量子ゲートの制御パルス確定装置700をさらに提供し、前記装置は、量子ゲートを実現するためのイオントラップチップ内の各フォノンの周波数を取得するように構成される取得ユニット710と、前記制御パルスに対応するラマン光離調周波数及び第1のフォノンの周波数を確定するように構成される第1の確定ユニット720であって、前記第1のフォノンは、前記イオントラップチップ内の周波数が前記ラマン光離調周波数に最も近いフォノンである第1の確定ユニット720と、第1のパルスシーケンスを初期化し且つ前記第1のパルスシーケンスに基づいて第2のパルスシーケンスを確定することによって、前記第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスを前記イオントラップチップに順次作用させた後、前記第1のフォノンをイオンからデカップリングすることができるように構成される初期化ユニット730と、実現されるべき量子ゲートに対応する歪度関数に基づいてターゲット関数を確定するように構成される第2の確定ユニット740と、前記第1のパルスシーケンスの振幅と位相を調節し且つそれに応じて前記第2のパルスシーケンスを確定することによって、前記ターゲット関数を最小化するように構成される調節ユニット750とを含む。
【0055】
ここで、量子ゲートの制御パルス確定装置700の上述した各ユニット710~750の動作は、上述したステップ110~150の動作とそれぞれ同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0056】
本開示の実施例によれば、電子機器、可読記憶媒体及びコンピュータプログラム製品をさらに提供する。
【0057】
図8を参照して、ここでは、本開示の様々な態様に適用可能なハードウェア装置の一例である、本開示のサーバ又はクライアントとして利用可能な電子機器800の構造ブロック図について説明する。電子機器は、様々な形態のデジタル電子コンピュータ機器、例えば、ラップトップ型コンピュータ、デスクトップ型コンピュータ、ステージ、個人用デジタル補助装置、サーバ、ブレードサーバ、大型コンピュータ、その他の適切なコンピュータを指すことを意図している。電子機器は更に、様々な形態の移動装置、例えば、個人デジタル処理、携帯電話、スマートフォン、着用可能な装置とその他の類似する計算装置を表すことができる。本明細書に示される部品、これらの接続関係及びこれらの機能は例示的なものに過ぎず、本明細書に説明した及び/又は請求した本開示の実現を制限することを意図するものではない。
【0058】
図8に示すように、電子機器800は、計算ユニット801を含み、それはリードオンリーメモリ(ROM)802に記憶されたコンピュータプログラムまた記憶ユニット808からランダムアクセスメモリ(RAM)803にロードされるコンピュータプログラムによって、種々の適当な動作と処理を実行することができる。RAM 803において、更に電子機器800を操作するために必要な様々なプログラムとデータを記憶してよい。計算ユニット801、ROM 802及びRAM 803はバス804によって互いに接続される。入力/出力(I/O)インターフェース805もバス804に接続される。
【0059】
電子機器800における複数の部品はI/Oインターフェース805に接続され、入力ユニット806、出力ユニット807、記憶ユニット808及び通信ユニット809を含む。入力ユニット806は、電子機器800に情報を入力することが可能な任意のタイプの装置であってもよく、入力ユニット806は、入力された数字又は文字情報と、電子機器のユーザ設定及び/又は機能制御に関するキー信号入力を生成することができ、マウス、キーボード、タッチスクリーン、トラックボード、トラックボール、操作レバー、マイク及び/又はリモコンを含んでもよいが、これらに限定されない。出力ユニット807は、情報を提示することが可能ないずれかのタイプの装置であってもよく、ディスプレイ、スピーカ、映像/オーディオ出力端末、バイブレータ、及び/又はプリンタを含んでもよいが、これらに限定されない。記憶ユニット808は磁気ディスク、光ディスクを含むことができるが、これらに限定されない。通信ユニット809は、電子機器800が例えば、インターネットであるコンピュータネットワーク及び/又は様々な電気通信ネットワークを介して他の装置と情報/データを交換することを可能にし、モデム、ネットワークカード、赤外線通信装置、無線通信送受信機、及び/又はチップセット、例えば、ブルートゥース(登録商標)装置、802.11装置、WiFi装置、WiMax装置、セルラー通信装置及び/又は類似物を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0060】
計算ユニット801は処理及び計算能力を有する様々な汎用及び/又は専用の処理コンポーネントであってもよい。計算ユニット801の例には、中央処理ユニット(CPU)、グラフィックス処理ユニット(GPU)、様々な専用人工知能(AI)計算チップ、様々な機械学習モデルアルゴリズムを実行する計算ユニット、デジタル信号プロセッサ(DSP)、及びいずれかの適当なプロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラなどが含まれるがこれらに限定されないことである。計算ユニット801は上記内容で説明した各方法と処理、例えば方法100を実行する。例えば、一部の実施例において、方法100はコンピュータコンピュータプログラムとして実現してよく、機械可読媒体、例えば、記憶ユニット808に有形に含まれる。いくつかの実施例において、コンピュータプログラムの部分又は全てはROM 802及び/又は通信ユニット809を経由して電子機器800にロード及び/又はインストールされてよい。コンピュータプログラムがRAM 803にロードされて計算ユニット801によって実行される場合、以上で説明される方法100の1つ又は複数のステップを実行することができる。代替的に、別の実施例において、計算ユニット801は他のいかなる適切な方式で(例えば、ファームウェアにより)方法100を実行するように構成されてよい。
【0061】
本明細書で上述したシステム及び技術の様々な実施形態は、デジタル電子回路システム、集積回路システム、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、特定用途向け標準製品(ASSP)、システムオンチップ(SOC)、複雑なプログラマブル論理デバイス(CPLD)、ソフトウェア・ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、及び/又はこれらの組み合わせにおいて実装することができる。これらの様々な実施形態は、1つ又は複数のコンピュータプログラムに実施され、この1つ又は複数のコンピュータプログラムは少なくとも1つのプログラマブルプロセッサを含むプログラマブルシステムで実行し及び/又は解釈してもよく、このプログラマブルプロセッサは専用又は汎用プログラマブルプロセッサであってもよく、記憶システム、少なくとも1つの入力装置、少なくとも1つの出力装置からデータと命令を受信し、データと命令をこの記憶システム、この少なくとも1つの入力装置、この少なくとも1つの出力装置に送信してよいこと、を含んでもよい。
【0062】
本開示の方法を実施するプログラムコードは1つ又は複数のプログラミング言語のいかなる組み合わせで書かれてよい。これらのプログラムコードを汎用コンピュータ、特殊目的のコンピュータ又は他のプログラマブルデータ処理装置のプロセッサ又はコントローラに提供してよく、よってプログラムコードはプロセッサ又はコントローラにより実行される時にフローチャート及び/又はブロック図に規定の機能/操作を実施する。プログラムコードは完全に機械で実行してよく、部分的に機械で実行してよく、独立ソフトウェアパッケージとして部分的に機械で実行し且つ部分的に遠隔機械で実行してよく、又は完全に遠隔機械又はサーバで実行してよい。
【0063】
本開示のコンテキストにおいて、機械可読媒体は有形の媒体であってもよく、命令実行システム、装置又はデバイスに使用される又は命令実行システム、装置又はデバイスに結合されて使用されるプログラムを具備又は記憶してよい。機械可読媒体は機械可読信号媒体又は機械可読記憶媒体であってもよい。機械可読媒体は、電子的、磁気的、光学的、電磁的、赤外線的、又は半導体システム、装置又はデバイス、又は上記内容のいかなる適切な組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。機械可読記憶媒体のより具体的な例は、1つ又は複数のリード線による電気接続、ポータブルコンピュータディスク、ハードディスク、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、消去可能なプログラマブル読み出し専用メモリ(EPROM又はフラッシュメモリ)、光ファイバー、ポータブルコンパクトディスク読み出し専用メモリ(CD-ROM)、光記憶装置、磁気記憶装置、又は上記内容のいかなる適切な組み合わせを含む。
【0064】
ユーザとのインタラクションを提供するために、コンピュータにはここで説明したシステムと技術を実施してよく、このコンピュータは、ユーザに情報を表示するための表示装置(例えば、CRT(陰極線管)又はLCD(液晶ディスプレイ)監視モニタ)、及びキーボードとポインティング装置(例えば、マウスやトラックボール)を備え、ユーザはこのキーボードとこのポインティング装置を介してコンピュータに入力してよい。その他の種類の装置は更に、ユーザとのインタラクティブを提供するためのものであってもよい。例えば、ユーザに提供するフィードバックはいかなる形態の感覚フィードバック(例えば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、又は触覚フィードバック)であってもよく、いかなる形態(音入力、音声入力、又は触覚入力を含む)でユーザからの入力を受信してよい。
【0065】
ここで述べたシステムや技術は、バックステージ部材を含む計算システム(例えば、データサーバとして)や、ミドルウェア部材を含む計算システム(例えば、アプリケーションサーバ)や、フロントエンド部材を含む計算システム(例えば、グラフィカルユーザインターフェースやウェブブラウザを有するユーザコンピュータ、ユーザが、そのグラフィカルユーザインターフェースやウェブブラウザを通じて、それらのシステムや技術の実施形態とのインタラクティブを実現できる)、あるいは、それらのバックステージ部材、ミドルウェア部材、あるいはフロントエンド部材の任意の組み合わせからなる計算システムには実施されてもよい。システムの部材は、いずれかの形式や媒体のデジタルデータ通信(例えば、通信ネットワーク)により相互に接続されてもよい。通信ネットワークの一例は、ローカルネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)とインターネットを含む。
【0066】
コンピュータシステムは、クライアントとサーバを含んでもよい。クライアントとサーバは、一般的に相互に遠く離れ、通常、通信ネットワークを介してインタラクションを行う。互にクライアント-サーバという関係を有するコンピュータプログラムを対応するコンピュータで運転することによってクライアントとサーバの関係を生成する。サーバーは、クラウドサーバであってもよく、分散型システムのサーバでも、又はブロックチェーンと組み合わされサーバであってもよい。
【0067】
理解すべきこととして、以上に示した様々な形態のフローを用いて、ステップを改めて順位付け、増加又は削除することができる。例えば、本開示に記載された各ステップは、並列的に実行してもよいし、順次実行してもよいし、異なる順序で実行させてもよいし、本開示に開示された技術案が所望する結果を実現できれば、本文はこれに限定されないことである。
【0068】
本開示の実施例又は例は図面を参照して説明されたが、上記の方法、システム、及び装置は単なる例示的な実施例又は例であり、本開示の範囲はこれらの実施例又は例によって制限されるものではなく、授権後の特許請求の範囲及びその均等範囲のみによって限定されることを理解されたい。実施例又は例の様々な要素は省略されてもよく、又はそれらの均等要素によって代替されてもよい。また、各ステップは、本開示で説明した順序とは異なる順序で実行されてもよい。さらに、実施例又は例の様々な要素は、様々な方法で組み合わせられてもよい。重要なのは、技術の進化に伴い、ここで説明される多くの要素は、本開示の後に現れる同等の要素に置き換えることができるということである。
【外国語明細書】