(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040269
(43)【公開日】2023-03-22
(54)【発明の名称】がん処置の治療有効性及びがん予後を予測するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6827 20180101AFI20230314BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230314BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230314BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230314BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230314BHJP
C12Q 1/6858 20180101ALN20230314BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230314BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z
A61P35/00
A61P1/04
A61K39/395 T
A61K39/395 L
A61K47/68
C12Q1/6858 Z
C07K16/28
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005231
(22)【出願日】2023-01-17
(62)【分割の表示】P 2021183501の分割
【原出願日】2016-04-13
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2015/058212
(32)【優先日】2015-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513288447
【氏名又は名称】トロン-トランスラショナル・オンコロジー・アン・デア・ウニヴェルシテーツメディツィン・デア・ヨハネス・グーテンベルク-ウニヴェルシテート・マインツ・ゲマインニューツィゲ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウグール・サヒン
(72)【発明者】
【氏名】ウツレム・テューレチ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・マウルス
(57)【要約】
【課題】抗体療法について患者の適格性を測定する試験を開発する必要性が存在する。本発明は、抗体療法におけるそれぞれ好都合及び不都合な転帰に関連するマーカーを提供することによってこの必要性に対処する。更に、本発明は、これらのマーカーが、がん患者の臨床転帰の見通しを立てるためのマーカーとして有用であることを実証する。本明細書に提示される知見を使用して、がん患者に適した処置を選択する、特に、抗体療法ががん患者に投与されるべきであるか否かの判断を下すことができる。
【解決手段】本発明は一般に、がん処置の治療有効性及びがんの予後を予測するための方法及び組成物に関する。本発明は、ある特定のがん処置における、それぞれ好都合及び不都合な転帰に関連し、がんの予後マーカーとして有用であるマーカーを開示する。がん患者のがん療法利益を予測し、臨床転帰の見通しを立てるための、これらのマーカーを伴う方法が開示されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)腫瘍抗原陽性腫瘍を有するがん患者が、腫瘍抗原に対する抗体を用いた処置に対する応答者であるか否か、及び/又は
(ii)腫瘍抗原陽性腫瘍を有するがん患者が、無増悪生存期間を経験することになるか否か
を評価する方法であって、腫瘍抗原がCLDN18.2タンパク質であり、前記方法は、患者から得られるゲノムDNA試料中のFCGR2A rs1801274及びFCGR3A rs396991からなる群から選択される1種又は複数の一塩基多型を検出し、前記1種又は複数の一塩基多型の遺伝子型を判定する工程を含み、
(a)ヘテロ接合FCGR2A rs1801274[CT]遺伝子型の存在が、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示し;
(b)ホモ接合FCGR2A rs1801274[TT]遺伝子型及び/又はホモ接合FCGR2A rs1801274[CC]遺伝子型の存在が、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの増大及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの増大を示し;及び
(c)ヘテロ接合FCGR3A rs396991[TG]遺伝子型及び/又はホモ接合FCGR3A rs396991[TT]遺伝子型の存在が、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示し、
FCGR2Aについての参照は、配列番号61に示された通りであり、FCGR3Aについての参照は、配列番号77に示された通りである、方法。
【請求項2】
抗体が、患者の免疫系を動員して腫瘍細胞を破壊することによって、好ましくは抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)によって、作用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗体が、配列番号17若しくは51によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む重鎖、及び配列番号24によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む軽鎖を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
抗体を用いた処置に対する非応答性が、生存期間、無増悪生存期間、無再発生存期間、無遠隔再発生存期間、及び安定疾患のうちの1つ又は複数の相対的低減を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
DNA試料が、血液から抽出されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
DNA試料が、患者の身体の試料から抽出されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
腫瘍が固形腫瘍である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
腫瘍が胃食道腫瘍である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
腫瘍が、胃又は下部食道の進行した腺癌である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
CLDN18.2に対して陽性である腫瘍を有するがん患者の処置の方法における使用のための医薬の製造における、CLDN18.2に結合する抗体の使用であって、前記患者が、前記抗体を用いた処置に対する応答者でないリスクが低減していることによって特徴づけされ、前記方法が、がん患者が、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって抗体を用いた処置に対する応答者であるか否かを評価する工程と、患者が、抗体を用いた処置に対する応答者でないリスクが低減している場合、前記抗体を用いてがん患者を処置する工程とを含む、使用。
【請求項11】
がん患者の処置の方法における使用のための医薬の製造における、CLDN18.2に結合する抗体の使用であって、前記がん患者が、(i)CLDN18.2に対して陽性である腫瘍と、(ii)以下のもの:
(a)ヘテロ接合FCGR2A rs1801274[CT]遺伝子型;
(b)ヘテロ接合FCGR3A rs396991[TG]遺伝子型;及び
(c)ホモ接合FCGR3A rs396991[TT]遺伝子型
から選択される1種又は複数の一塩基多型の遺伝子型を有し、
前記患者が、前記抗体を用いた処置に対する応答者でないリスクが低減していることによって特徴づけされ、
FCGR2Aについての参照は、配列番号61に示された通りであり、FCGR3Aについての参照は、配列番号77に示された通りである、使用。
【請求項12】
治療レジメンが、抗体が腫瘍抗原に向けられている抗体-薬物コンジュゲートを用いた処置を含み、抗体-薬物コンジュゲートが、好ましくは放射性、化学療法剤、又は毒素部分にカップリングした抗体であり、または抗体-薬物コンジュゲートが、細胞増殖抑制性又は細胞傷害性化合物にカップリングした抗体である、請求項10又は11に記載の使用。
【請求項13】
腫瘍が固形腫瘍である、請求項10から12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
腫瘍が胃食道腫瘍である、請求項10から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
腫瘍が、胃又は下部食道の進行した腺癌である、請求項10から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
DNA試料が、血液から抽出されている、請求項10及び12から15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
DNA試料が、患者の身体の試料から抽出されている、請求項10及び12から15のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、がん処置の治療有効性及びがんの予後を予測するための方法及び組成物に関する。本発明は、ある特定のがん処置における、それぞれ好都合及び不都合な転帰に関連し、がんの予後マーカーとして有用であるマーカーを開示する。がん患者のがん療法利益を予測し、臨床転帰の見通しを立てるための、これらのマーカーを伴う方法が開示されている。
【背景技術】
【0002】
胃及び食道(胃食道;GE)のがんは、未だ対処されていない医療上の最も高い必要性を有する悪性腫瘍の1つである。胃がんは、世界中の死亡の第2の主要原因である。食道がんの発生率は、最近の10年で増大しており、GEがんの5年全生存率は、実質的な副作用を伴う確立された標準的処置の積極性にもかかわらず、20~25%である。このがんタイプに罹患している患者の医療上の必要性は高く、画期的な薬物が要求されている。
【0003】
タイトジャンクション分子クローディン18アイソタイプ2(CLDN18.2)は、クローディン18のがん関連スプライスバリアントである[Niimi, T.ら、Mol Cell Biol、2001、21(21):7380~90頁;Tureci, Oら、Gene、2011、481(2):83~92頁]。CLDN18.2は、2つの小細胞外ループ(疎水性領域1及び疎水性領域2によって包含されたループ1;疎水性領域3及び4によって包含されたループ2)とともに4つの膜スパニングドメインを含む27.8kDaの膜貫通タンパク質である。CLDN18.2は、短命の分化した胃上皮細胞上でもっぱら発現され、任意の他の正常なヒト組織内で検出可能でない高度に選択的な胃の系統抗原である。抗原は、胃食道がん及び膵がんを含む多様なヒトがんにおいてかなりのレベルで異所性に発現される。[Sahin, U.ら、Clin Cancer Res、2008、14(23):7624~34頁]。CLDN18.2タンパク質は、胃がんのリンパ節転移において、及び遠位転移においても頻繁に検出される。CLDN18.2は、CLDN18.2陽性腫瘍細胞の増殖に関与していると思われ、その理由は、siRNA技術によって標的を下方調節すると胃がん細胞の増殖が阻害されるためである。
【0004】
IMAB362は、CLDN18.2に向けられたIgG1サブタイプのキメラモノクローナル抗体である。IMAB362は、高い親和性及び特異性でCLDN18.2の第1の細胞外ドメインを認識し、クローディン18の密接に関係したスプライスバリアント1(CLDN18.1)を含めた任意の他のクローディンファミリーメンバーに結合しない。
【0005】
CLDN18.2を発現するヒト異種移植片では、生存利益及び腫瘍退縮が、IMAB362の投与後のマウスにおいて観察された。関連した動物種において静脈内に投与されたとき、標的エピトープがアクセス可能でないため、胃組織内の毒性は、観察されない。しかし、腫瘍標的は、悪性形質転換中にIMAB362にとってアクセス可能となる。IMAB362は、4つの独立した高度に強力な作用機序:(i)抗体依存性細胞傷害(ADCC)、(ii)補体依存性細胞傷害(CDC)、(iii)腫瘍表面で標的を架橋することによって誘導されるアポトーシスの誘導、及び(iv)増殖の直接阻害を束ねる。
【0006】
以前の第I相トライアルでは、後期胃食道がんを有する患者における単回用量での単剤療法としてのIMAB362が評価された。このトライアルでは、5種のIMAB362用量(33、100、300、600、及び1000mg/m2)が単剤療法として適用された。この試験は、用量群間のAEプロファイル及び他の安全性パラメータの関連した差異を認めることができないため、この抗体の単回投与が、最大で1000mg/m2の投与量において安全で耐容性良好であることを示す(AE=有害事象)。抗腫瘍活性に関する最良の結果は、300mg/m2及び600mg/m2群で得られた。300mg/m2群の2人の患者において、疾患は、制御された。彼らは、非標的病変部のみを有していたので、彼らは、非CR、非PD(CR=完全奏効;PD=進行性疾患)と評価された。非CR、非PDの継続時間は、それぞれ約2カ月及び6週間であった。これらの3人の患者の腫瘍マーカーレベルは、安定なままであった。600mg/m2群中の1人の患者は、安定疾患(SD)を提示した。SDの継続時間は、約2カ月であった。
【0007】
IMAB362の細胞殺傷の誘導に関する高度に強力な作用機序、CLDN18.2陽性腫瘍を抱えたIMAB362処置マウスの生存利益、IMAB362関連毒性の任意の兆しの非存在、及び第Iトライアル相の有望な結果に基づいて、第IIa相試験が開始された。この第IIa相臨床トライアルは、組織診断によって証明された胃又は下部食道の進行した腺癌の転移性、難治性、又は再発性疾患を有する患者におけるIMAB362の反復用量の安全性、耐容性、及び抗腫瘍活性を判定するために行われた。
【0008】
この第IIa相トライアルでは、治験薬が、順次動員された3つのコホートに適用された。3人の患者の第1のコホートは、より低い用量レベル(300mg/体表面積1m2)でIMAB362の反復投与を受けた。抗体は、2時間静脈内注入として与えられた。IMAB362関連毒性の兆しは、第1のコホートにおいて検出されなかったので、第2のコホート(3人の患者)のIMAB362用量が600mg/体表面積1m2に増やされた。第3のコホートでは、19人の患者が同じ用量(600mg/体表面積1m2の反復適用)に割り当てられた。このコホートからの患者試料が、いくつかの付随する分析論、即ち、ADCC、CDC、イムノフェノタイピング、及び遺伝的免疫多型(genetic immune polymorphism)について分析された。すべてのコホートのすべての患者は、来院2、5、6、7、及び8回目(5回の適用)に、2週間毎にIMAB362の反復投与を受けた。
【0009】
IMAB362等の治療的モノクローナル抗体を用いた介入に対する応答性に関する抗原陽性腫瘍(同様の程度に標的抗原を過剰発現する)の不一致は、療法転帰に関連する追加の要因が存在することを示唆する。これは、抗体療法から利益を有し得る患者の慎重な選択を要求する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】US2003/0118592
【特許文献2】US2003/0133939
【特許文献3】WO02/43478
【特許文献4】WO2004 035607
【特許文献5】WO87/04462
【特許文献6】WO89/01036
【特許文献7】EP338841
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Niimi, T.ら、Mol Cell Biol、2001、21(21):7380~90頁
【非特許文献2】Tureci, Oら、Gene、2011、481(2):83~92頁
【非特許文献3】Sahin, U.ら、Clin Cancer Res、2008、14(23):7624~34頁
【非特許文献4】「A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)」、H.G.W. Leuenberger、B. Nagel、及びH. Kolbl編、Helvetica Chimica Acta、CH-4010 Basel、Switzerland、(1995)
【非特許文献5】Molecular Cloning: A Laboratory Manual、2版、J. Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor 1989
【非特許文献6】Wardら、(1989) Nature、341: 544~546
【非特許文献7】Birdら、(1988) Science、242: 423~426
【非特許文献8】Hustonら、(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85: 5879~5883
【非特許文献9】Holliger, P.ら、(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90: 6444~6448
【非特許文献10】Poljak, R. J.ら、(1994) Structure、2: 1121~1123
【非特許文献11】Arnonら、「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy、Reisfeldら(編)、243~56頁(Alan R. Liss, Inc. 1985)
【非特許文献12】Hellstromら、「Antibodies For Drug Delivery」、Controlled Drug Delivery (2版)、Robinsonら(編)、623~53頁(Marcel Dekker, Inc. 1987)
【非特許文献13】Thorpe、「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review」、Monoclonal Antibodies '84: Biological And Clinical Applications、Pincheraetら(編)、475~506頁(1985)
【非特許文献14】「Analysis, Results, And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy、Baldwinら(編)、303~16頁(Academic Press 1985)
【非特許文献15】Thorpeら、「The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates」、Immunol. Rev.、62: 119~58 (1982)
【非特許文献16】Berzofskyら「Antibody-Antigen Interactions」、Fundamental Immunology、Paul, W. E.編、Raven Press New York、N Y (1984)
【非特許文献17】Kuby、Janis Immunology、W. H. Freeman and Company New York、N Y (1992)
【非特許文献18】Scatchardら、Ann N.Y. Acad. ScL、51:660 (1949)
【非特許文献19】Smith及びWaterman、1981、Ads App. Math.、2、482
【非特許文献20】Neddleman及びWunsch、1970、J. Mol. Biol.、48、443
【非特許文献21】Pearson及びLipman、1988、Proc. Natl Acad. Sci. USA、85、2444
【非特許文献22】Kohler及びMilstein、Nature、256: 495 (1975)
【非特許文献23】Spieker-Poletら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、92:9348 (1995)
【非特許文献24】Rossiら、Am. J. Clin. Pathol.、124: 295 (2005)
【非特許文献25】Babcockら、1996; A novel strategy for generating monoclonal antibodies from single, isolated lymphocytes producing antibodies of defined specificities
【非特許文献26】Welschof及びKraus、Recombinant antibodes for cancer therapy、ISBN-0-89603-918-8
【非特許文献27】Benny K.C. Lo、Antibody Engineering、ISBN 1-58829-092-1
【非特許文献28】Morrison, S. (1985) Science、229: 1202
【非特許文献29】Verma, R.ら、(1998) J. Immunol. Meth.、216: 165~181
【非特許文献30】Pollockら、(1999) J. Immunol. Meth.、231: 147~157
【非特許文献31】Fischer, R.ら、(1999) Biol. Chem.、380: 825~839
【非特許文献32】Krausら、Methods in Molecular Biology series, Recombinant antibodies for cancer therapy、ISBN-0-89603-918-8
【非特許文献33】Riechmann, L.ら、(1998) Nature、332: 323~327
【非特許文献34】Jones, P.ら、(1986) Nature、321: 522~525
【非特許文献35】Queen, C.ら、(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.、86: 10029~10033
【非特許文献36】「Epitope Mapping: A Practical Approach」Practical Approach Series、248、Olwyn M. R. Westwood、Frank C. Hay
【非特許文献37】Andersenら、2008: Cancer treatment: the combination of vaccination with other therapies、Cancer Immunology Immunotherapy、57(11):1735~1743
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、抗体療法について患者の適格性を測定する試験を開発する必要性が存在する。本発明は、抗体療法におけるそれぞれ好都合及び不都合な転帰に関連するマーカーを提供することによってこの必要性に対処する。更に、本発明は、これらのマーカーが、がん患者の臨床転帰の見通しを立てるためのマーカーとして有用であることを実証する。
【0013】
本明細書に提示される知見を使用して、がん患者に適した処置を選択する、特に、抗体療法ががん患者に投与されるべきであるか否かの判断を下すことができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、がんの治療的処置に応答する個体の見込みを評価すること、治療若しくは予防レジメンを選択すること(例えば、がんを有する、若しくは将来がんを発生させるリスクの増大している個体に特定の治療剤を投与すべきか否かの判断を下すこと)、又は疾患の重症度及び回復についての個体の予後を評価することにおいて使用する等のためのSNP(一塩基多型)遺伝子型同定の方法を提供する。
【0015】
本発明は、SNPのある特定の遺伝子型が、抗体処置、例えば、IMAB362を用いたCLDN18.2陽性がん、特に、CLDN18.2陽性胃食道がんの処置等に対するがんの感受性/非感受性に関連しているという知見に基づく。本発明は、SNPのある特定の遺伝子型が、がん患者の臨床転帰に関連し、したがってがんの見通しを立てるのに有用であるという知見に更に基づく。
【0016】
一態様では、本発明は、
(i)腫瘍抗原陽性腫瘍を有するがん患者が、腫瘍抗原に対する抗体を用いた処置に対する応答者であるか否か、及び/又は
(ii)がん患者、好ましくは腫瘍抗原陽性腫瘍を有するがん患者が、無増悪生存期間を経験することになるか否か
を評価する方法であって、患者から得られる試料中のFCGR2A rs1801274、MUC1 rs4072037、IL-10 rs1800896、DNMT3A rs1550117、SMAD4 rs12456284、EGF rs4444903、CDH1 rs16260、ERCC1 rs11615、及びFCGR3A rs396991からなる群から選択される1種又は複数の一塩基多型の遺伝子型を判定する工程を含む、方法に関する。
【0017】
一実施形態では、ヘテロ接合FCGR2A rs1801274[CT]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0018】
一実施形態では、ホモ接合FCGR2A rs1801274[TT]遺伝子型及び/又はホモ接合FCGR2A rs1801274[CC]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの増大及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの増大を示す。
【0019】
一実施形態では、ホモ接合MUC1 rs4072037[AA]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0020】
一実施形態では、ホモ接合MUC1 rs4072037[GG]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの増大及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの増大を示す。
【0021】
一実施形態では、ホモ接合IL-10 rs1800896[GG]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0022】
一実施形態では、ヘテロ接合DNMT3A rs1550117[GA]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0023】
一実施形態では、ヘテロ接合SMAD4 rs12456284[GA]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0024】
一実施形態では、ホモ接合EGF rs4444903[AA]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0025】
一実施形態では、ホモ接合CDH1 rs16260[AA]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0026】
一実施形態では、ホモ接合ERCC1 rs11615[TT]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0027】
一実施形態では、ヘテロ接合FCGR3A rs396991[TG]遺伝子型及び/又はホモ接合FCGR3A rs396991[TT]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0028】
一実施形態では、ホモ接合FCGR3A rs396991[GG]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの増大及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの増大を示す。
【0029】
一実施形態では、腫瘍抗原は、CLDN18.2タンパク質である。
【0030】
一態様では、本発明は、
(i)CLDN18.2陽性腫瘍を有するがん患者がCLDN18.2タンパク質に対する抗体を用いた処置に対する応答者であるか否か、及び/又は
(ii)がん患者、好ましくはCLDN18.2陽性腫瘍を有するがん患者が、無増悪生存期間を経験することになるか否か
を評価する方法であって、患者から得られる試料中のFCGR2A rs1801274、MUC1 rs4072037、IL-10 rs1800896、DNMT3A rs1550117、SMAD4 rs12456284、EGF rs4444903、CDH1 rs16260、ERCC1 rs11615、及びFCGR3A rs396991からなる群から選択される1種又は複数の一塩基多型の遺伝子型を判定する工程を含む、方法に関する。
【0031】
一実施形態では、ヘテロ接合FCGR2A rs1801274[CT]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0032】
一実施形態では、ホモ接合FCGR2A rs1801274[TT]遺伝子型及び/又はホモ接合FCGR2A rs1801274[CC]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの増大及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの増大を示す。
【0033】
一実施形態では、ホモ接合MUC1 rs4072037[AA]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0034】
一実施形態では、ホモ接合MUC1 rs4072037[GG]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの増大及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの増大を示す。
【0035】
一実施形態では、ホモ接合IL-10 rs1800896[GG]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0036】
一実施形態では、ヘテロ接合DNMT3A rs1550117[GA]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0037】
一実施形態では、ヘテロ接合SMAD4 rs12456284[GA]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0038】
一実施形態では、ホモ接合EGF rs4444903[AA]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0039】
一実施形態では、ホモ接合CDH1 rs16260[AA]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0040】
一実施形態では、ホモ接合ERCC1 rs11615[TT]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0041】
一実施形態では、ヘテロ接合FCGR3A rs396991[TG]遺伝子型及び/又はホモ接合FCGR3A rs396991[TT]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す。
【0042】
一実施形態では、ホモ接合FCGR3A rs396991[GG]遺伝子型の存在は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの増大及び/又はがん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの増大を示す。
【0043】
本発明のすべての態様の一実施形態では、抗体は、患者の免疫系を動員して腫瘍細胞を破壊することによって作用する。一実施形態では、抗体は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)によって作用する。一実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体である。本発明のすべての態様の一実施形態では、抗体は、配列番号17若しくは51によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む重鎖、及び配列番号24によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む軽鎖を含む。
【0044】
本発明のすべての態様の一実施形態では、抗体を用いた処置に対する非応答性は、生存期間、無増悪生存期間、無再発生存期間、無遠隔再発生存期間、及び安定疾患のうちの1つ又は複数の相対的低減を含む。
【0045】
一態様では、本発明は、がん患者を処置する方法であって、
a.がん患者が、本発明の方法によって抗体を用いた処置に対する応答者であるか否かを評価する工程と
b.(i)がん患者が、抗体を用いた処置に対する応答者でないリスクが低減している場合、抗体を用いてがん患者を処置し、又は(ii)がん患者が、抗体を用いた処置に対する応答者でないリスクが増大している場合、抗体を用いてがん患者を処置しない、及び/若しくは抗体を用いた処置と異なる処置を含む治療レジメンでがん患者を処置する工程とを含む、方法に関する。
【0046】
一実施形態では、治療レジメンは、患者の免疫系に依存しない処置を含む。一実施形態では、治療レジメンは、患者の免疫系を動員して腫瘍細胞を破壊することによって作用する抗体を用いた処置を含まない。一実施形態では、治療レジメンは、手術、化学療法、及び/又は放射線を含む。一実施形態では、治療レジメンは、腫瘍抗原の低分子阻害剤及び/又は抗体が腫瘍抗原に向けられている抗体-薬物コンジュゲートを用いた処置を含む。一実施形態では、抗体-薬物コンジュゲートは、放射性、化学療法剤、又は毒素部分にカップリングした抗体である。一実施形態では、抗体-薬物コンジュゲートは、細胞増殖抑制性又は細胞傷害性化合物にカップリングした抗体である。
【0047】
一態様では、本発明は、がん患者の臨床転帰を評価する方法であって、患者から得られる試料中のFCGR2A rs1801274、MUC1 rs4072037、IL-10 rs1800896、DNMT3A rs1550117、SMAD4 rs12456284、EGF rs4444903、CDH1 rs16260、ERCC1 rs11615、及びFCGR3A rs396991からなる群から選択される1種又は複数の一塩基多型の遺伝子型を判定する工程を含む、方法に関する。
【0048】
一実施形態では、ヘテロ接合FCGR2A rs1801274[CT]遺伝子型の存在は、芳しくない臨床転帰のリスクの低減を示す。
【0049】
一実施形態では、ホモ接合FCGR2A rs1801274[TT]遺伝子型及び/又はホモ接合FCGR2A rs1801274[CC]遺伝子型の存在は、芳しくない臨床転帰のリスクの増大を示す。
【0050】
一実施形態では、ホモ接合MUC1 rs4072037[AA]遺伝子型の存在は、芳しくない臨床転帰のリスクの低減を示す。
【0051】
一実施形態では、ホモ接合MUC1 rs4072037[GG]遺伝子型の存在は、芳しくない臨床転帰のリスクの増大を示す。
【0052】
一実施形態では、ホモ接合IL-10 rs1800896[GG]遺伝子型の存在は、芳しくない臨床転帰のリスクの低減を示す。
【0053】
一実施形態では、ヘテロ接合DNMT3A rs1550117[GA]遺伝子型の存在は、芳しくない臨床転帰のリスクの低減を示す。
【0054】
一実施形態では、ヘテロ接合SMAD4 rs12456284[GA]遺伝子型の存在は、芳しくない臨床転帰のリスクの低減を示す。
【0055】
一実施形態では、ホモ接合EGF rs4444903[AA]遺伝子型の存在は、芳しくない臨床転帰のリスクの低減を示す。
【0056】
一実施形態では、ホモ接合CDH1 rs16260[AA]遺伝子型の存在は、芳しくない臨床転帰のリスクの低減を示す。
【0057】
一実施形態では、ホモ接合ERCC1 rs11615[TT]遺伝子型の存在は、芳しくない臨床転帰のリスクの低減を示す。
【0058】
一実施形態では、ヘテロ接合FCGR3A rs396991[TG]遺伝子型及び/又はホモ接合FCGR3A rs396991[TT]遺伝子型の存在は、芳しくない臨床転帰のリスクの低減を示す。
【0059】
一実施形態では、ホモ接合FCGR3A rs396991[GG]遺伝子型の存在は、芳しくない臨床転帰のリスクの増大を示す。
【0060】
一実施形態では、がん患者の臨床転帰を評価する工程は、生存期間、無増悪生存期間、無再発生存期間、無遠隔再発生存期間、及び安定疾患のうちの1つ又は複数の見込みを予測する工程を含む。一実施形態では、芳しくない臨床転帰は、生存期間、無増悪生存期間、無再発生存期間、無遠隔再発生存期間、及び安定疾患のうちの1つ又は複数の相対的低減を含む。
【0061】
一実施形態では、患者は、腫瘍抗原陽性腫瘍を有し、腫瘍抗原に対する抗体を用いた処置を受ける。
【0062】
本発明のすべての態様の一実施形態では、試料は、DNAを含む試料である。一実施形態では、DNAは、患者の身体試料から抽出されている。一実施形態では、DNAは、血液から抽出されている。
【0063】
本発明のすべての態様の一実施形態では、腫瘍は、固形腫瘍である。一実施形態では、腫瘍は、胃食道腫瘍である。一実施形態では、腫瘍は、胃又は下部食道の進行した腺癌である。一実施形態では、がんは、胃食道がんである。一実施形態では、がんは、胃又は下部食道の進行した腺癌である。
【0064】
更なる態様では、本発明は、患者から得られる試料中のFCGR2A rs1801274、MUC1 rs4072037、IL-10 rs1800896、DNMT3A rs1550117、SMAD4 rs12456284、EGF rs4444903、CDH1 rs16260、ERCC1 rs11615、及びFCGR3A rs396991からなる群から選択される1種又は複数の一塩基多型の遺伝子型を判定するための手段を含むキットに関する。一実施形態では、前記キットは、本発明のすべての態様の方法を行うのに有用である。一実施形態では、前記キットは、データキャリアを更に含む。好適な一実施形態では、前記データキャリアは、電子的又は非電子的データキャリアである。一実施形態では、前記データキャリアは、本発明のすべての態様の方法をどのように実施するかについての指示を含む。
【0065】
本発明の他の目的、利点、及び特徴は、添付の図と併せて考慮される場合、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】患者と対照集団との間の統計的に有意な遺伝子型頻度シフトを伴う一塩基多型を示す図である(χ
2-試験、p<0.05)。 SNP-特異的遺伝子型のバー区域への割り当てが示されている。Pat. 患者集団、Co. 対照集団。
【
図2】患者1人当たりの調査されたSNPリスク因子の数に関する患者1人当たりのホモ接合リスク遺伝子型の相対頻度を示す図である。患者は、蓄積されたホモ接合リスク因子の漸増頻度によって分類されている。
【
図3】rs1801274(FCGR2A)遺伝子型によって区別されたPP患者の無増悪生存期間を示す図である(カプランマイヤー曲線)。
【
図4】rs1801274(FCGR2A)遺伝子型によって区別されたFAS患者の無増悪生存期間を示す図である(カプランマイヤー曲線)。
【
図5】rs1800896(IL-10)遺伝子型によって区別されたPP患者の無増悪生存期間を示す図である(カプランマイヤー曲線)。
【
図6】rs1800896(IL-10)遺伝子型によって区別されたFAS患者の無増悪生存期間を示す図である(カプランマイヤー曲線)。
【
図7】rs1550117(DNMT3A)遺伝子型によって区別されたFAS患者の無増悪生存期間を示す図である(カプランマイヤー曲線)。
【
図8】rs12456284(SMAD4)遺伝子型によって区別されたPP患者の無増悪生存期間を示す図である(カプランマイヤー曲線)。
【
図9】rs4072037(MUC1)遺伝子型によって区別されたPP患者の無増悪生存期間を示す図である(カプランマイヤー曲線)。
【
図10】rs4072037(MUC1)遺伝子型によって区別されたFAS患者の無増悪生存期間を示す図である(カプランマイヤー曲線)。
【
図11】rs4444903(EGF)遺伝子型によって区別されたFAS患者の無増悪生存期間を示す図である(カプランマイヤー曲線)。
【
図12】rs16260(CDH1)遺伝子型によって区別されたFAS患者の無増悪生存期間を示す図である(カプランマイヤー曲線)。
【
図13】rs11615(ERCC1)遺伝子型によって区別されたPP患者の無増悪生存期間を示す図である(カプランマイヤー曲線)。
【
図14】rs396991(FCGR3A)遺伝子型によって区別されたPP患者の無増悪生存期間を示す図である(カプランマイヤー曲線)。
【発明を実施するための形態】
【0067】
本発明を以下で詳細に記載するが、本発明は、本発明に記載の特定の方法論、プロトコール、及び試薬が多様であり得るので、これらに限定されないことが理解されるべきである。本明細書で使用する専門用語は、特定の実施形態を記載する目的のためだけであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになる本発明の範囲を限定するように意図されていないことも理解されるべきである。別段に定義されていない限り、本明細書で使用するすべての技術用語及び科学用語は、当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。
【0068】
以下において、本発明の要素を記載する。これらの要素は、特定の実施形態とともに列挙されているが、これらは、追加の実施形態を作るために任意の様式で、且つ任意の数で組み合わせることができることが理解されるべきである。様々に記載される実施例及び好適な実施形態は、明示的に記載される実施形態のみに本発明を限定するように解釈されるべきでない。本記載は、明示的に記載される実施形態を、開示され、且つ/又は好適な要素の任意の数と組み合わせる実施形態を支持及び包含することが理解されるべきである。更に、本願におけるすべての記載される要素の任意の並び換え及び組合せは、脈絡により別段に示されていない限り、本願の記載によって開示されているとみなされるべきである。
【0069】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)」、H.G.W. Leuenberger、B. Nagel、及びH. Kolbl編、Helvetica Chimica Acta、CH-4010 Basel、Switzerland、(1995)に記載されているように定義される。
【0070】
本発明の実行には、別段に示されてない限り、本分野の文献(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、2版、J. Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor 1989を参照)に説明されている化学、生化学、細胞生物学、免疫学、及び組換えDNA技法の従来法を使用する。
【0071】
本明細書、及び以下に続く特許請求の範囲全体にわたって、脈絡により別段に要求されない限り、単語「含む(comprise)」、並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」等の変形は、述べたメンバー、整数、若しくは工程、又はメンバー、整数、若しくは工程の群を含めることを暗示するが、任意の他のメンバー、整数、若しくは工程、又はメンバー、整数、若しくは工程の群を除外せず、とはいえ、いくつかの実施形態では、このような他のメンバー、整数、若しくは工程、又はメンバー、整数、若しくは工程の群が除外される場合があり、即ち、主題は、述べたメンバー、整数、若しくは工程、又はメンバー、整数、若しくは工程の群を含めることにあることが理解される。本発明を記載することとの関連で(特に、特許請求の範囲との関連で)使用される用語「a」及び「an」及び「the」、並びに同様の言及は、本明細書で別段に示されていない限り、又は脈絡によって明らかに矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方に及ぶと解釈されるべきである。本明細書の値の範囲の記述は、その範囲内に入る各別個の値を個々に指す簡便な方法として機能を果たすように単に意図されている。本明細書で別段に示されていない限り、各個々の値は、それが本明細書で個々に列挙されているように明細書に組み込まれている。本明細書に記載のすべての方法は、本明細書で別段に示されていない限り、又は脈絡により別段に明らかに矛盾しない限り、任意の適当な順序で実施することができる。本明細書に提供される任意且つすべての例、又は例示的な言い回し(例えば、「等」)の使用は、本発明をより良好に例示するように単に意図されており、別段に主張される本発明の範囲を限定しない。本明細書中の言い回しは、本発明の実行に本質的な任意の主張されていない要素を示すものとして解釈されるべきでない。
【0072】
いくつかの文献が、本明細書の本文全体にわたって引用されている。本明細書で引用される文献(すべての特許、特許出願、科学刊行物、製造者の仕様書、指示書等を含む)のそれぞれは、上記のものであれ、以下のものであれ、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。本明細書中のいずれも、先行発明によって本発明がそのような開示に先行する権利がないことを承認するものとして解釈されるべきでない。
【0073】
本発明者らは、ある特定のがん処置、特に、抗体療法についての患者の適格性を測定し、がん患者の予後についての結論を引き出す試験を提供する。これらの試験を使用して得られる結果は、医師ががん患者に適した処置の判断を下す、特に、抗体療法が特定のがん患者に投与されるべきか否かの判断を下すことを可能にする。
【0074】
用語「一塩基多型」又は「SNP」は、ゲノム(又は他の共有配列)内の単一ヌクレオチドが生物種のメンバー又は対になった染色体の間で異なる集団内で一般に起こるDNA配列バリエーションに関する。SNPは、遺伝子のコード配列、遺伝子の非コード領域において、又は遺伝子間領域(遺伝子同士間の領域)において起こり得る。コード配列内のSNPは、遺伝コードの縮重に起因して、産生されるタンパク質のアミノ酸配列を変更し得るが、必ずしも変更するわけではない。したがって、コード領域内のSNPは、2つのタイプ、同義及び非同義SNPのものである。同義SNPは、タンパク質配列に影響しないが、非同義SNPは、タンパク質のアミノ酸配列を変更する。非同義SNPは、2つのタイプ:ミスセンス及びナンセンスのものである。タンパク質コード領域内にないSNPは、遺伝子スプライシング、転写因子結合、メッセンジャーRNA分解、又は非コードRNAの配列に依然として影響し得る。このタイプのSNPによって影響される遺伝子発現は、eSNP(発現SNP)と呼ばれ、遺伝子の上流又は下流に存在し得る。
【0075】
当技術分野で公知の様々な方法を使用してSNPの遺伝子型を判定することができる。新規SNPを発見し、公知のSNPを検出する分析法としては、例えば、DNA配列決定、キャピラリー電気泳動、質量分析、一本鎖高次構造多型(SSCP)、電気化学分析、変性HPLC及びゲル電気泳動、制限断片長多型及びハイブリダイゼーション分析がある。
【0076】
どのヌクレオチドがいずれか又は両方の対立遺伝子について本明細書に記載の特定のSNP位置に存在するかを判定するプロセスは、「SNPの遺伝子型を判定する工程」又は「SNP遺伝子型同定」等の語句によって言及され得る。したがって、これらの語句は、SNP位置で単一の対立遺伝子(ヌクレオチド)を検出することを指すことができ、又はSNP位置で両方の対立遺伝子(ヌクレオチド)を検出すること(SNP位置のホモ接合若しくはヘテロ接合状態を判定する等のために)を包含し得る。更に、これらの語句は、SNPによってコードされるアミノ酸残基(SNP位置で代替のヌクレオチドによって創製される異なるコドンによってコードされる代替アミノ酸残基等)を検出することも指す場合がある。
【0077】
本明細書に開示の具体的な標的SNP位置を特異的に検出し、好ましくは標的SNP位置の特定のヌクレオチド(対立遺伝子)に特異的である試薬(即ち、試薬は、好ましくは標的SNP位置の異なる代替ヌクレオチドを区別することができ、それによって標的SNP位置に存在するヌクレオチドの同一性を判定することを可能にする)をSNP検出に使用することができる。典型的には、このような検出試薬は、配列特異的様式で相補的塩基対合によって標的SNP含有核酸分子にハイブリダイズし、試験試料中の当技術分野で公知の形態等の他の核酸配列から標的バリアント配列を識別する。検出試薬の一例は、本明細書に開示のSNPを含有する標的核酸にハイブリダイズする天然に存在しない核酸プライマー又はプローブである。好適な実施形態では、このようなプライマー又はプローブは、標的SNP位置で特定のヌクレオチド(対立遺伝子)を有する核酸を、同じ標的SNP位置で異なるヌクレオチドを有する他の核酸から区別することができる。更に、検出試薬は、SNP位置の特異的領域5'及び/又は3'にハイブリダイズすることができる。このようなプライマー及びプローブ等のこのような検出試薬は、本明細書に開示のSNPの1種又は複数を遺伝子型同定するための試薬として直接的に有用であり、任意のキットフォーマットに組み込むことができることが当業者に明らかとなるであろう。
【0078】
SNPを分析するために、代替SNP対立遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドを使用することが適切であり得る。標的配列中の単一ヌクレオチドバリエーションを検出するこのようなオリゴヌクレオチドは、「対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド」、「対立遺伝子特異的プローブ」、又は「対立遺伝子特異的プライマー」等の用語によって呼ばれる場合がある。
【0079】
SNP検出試薬は、検出可能なシグナルを放出する蛍光性レポーター色素等のレポーターで標識することができる。好適なレポーター色素は蛍光色素であるが、オリゴヌクレオチドプローブ又はプライマー等の検出試薬に付着させることができる任意のレポーター色素が本発明によれば適当である。更に別の実施形態では、検出試薬は、特に、試薬がTaqManプローブ等の自己消光プローブとして使用される場合、クエンチャー色素で更に標識することができる。本明細書に開示のSNP検出試薬は、それだけに限らないが、ストレプトアビジン結合のためのビオチン、抗体結合のためのハプテン、及び別の相補オリゴヌクレオチドへの結合のためのオリゴヌクレオチドを含めた他の標識も含有し得る。
【0080】
本発明によれば、同定されるSNPヌクレオチドを含有しない(又はそれに相補的でない)が、本明細書に開示の1種又は複数のSNPをアッセイするのに使用される試薬も企図されている。例えば、標的SNP位置にフランクするが、直接的にハイブリダイズしないプライマーは、プライマー伸長反応において有用であり、この反応では、プライマーは、標的SNP位置に隣接する(即ち、標的SNP部位から1個又は複数のヌクレオチド以内の)領域にハイブリダイズする。プライマー伸長反応の間、プライマーは、典型的には、特定のヌクレオチド(対立遺伝子)が標的SNP部位に存在する場合、その標的SNP部位を過ぎて伸長することができず、プライマー伸長産物は、どのSNP対立遺伝子が標的SNP部位に存在するかを判定するために検出され得る。例えば、特定のddNTPがプライマー伸長反応において典型的には使用されて、ddNTPが伸長産物中に組み込まれるとプライマー伸長を終わらせる。したがって、SNP部位に隣接する領域内で核酸分子に結合し、SNP部位をアッセイするのに使用される試薬は、結合した配列が必ずしもSNP部位自体を含む必要はないが、本発明によっても企図されている。
【0081】
用語「FCGR2A」は、ヒトFCGR2A遺伝子に関する。この遺伝子は、低親和性免疫グロブリンガンマFc領域受容体II-a(CD32)をコードし、免疫グロブリンFc受容体遺伝子のファミリーの一メンバーである。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、マクロファージ及び好中球等の食細胞に見つかる細胞表面受容体であり、免疫複合体の食作用及びクリアリングのプロセスに関与する。代替スプライシングは、複数の転写物バリアントをもたらす。
【0082】
好ましくは、用語「FCGR2A」は、配列表の配列番号61の核酸配列又は前記核酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなる核酸、及びこの核酸によってコードされるタンパク質、好ましくは、配列表の配列番号62のアミノ酸配列又は前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質に関する。
【0083】
rs1801274は、FCGR2A遺伝子中のSNPである。rs1801274(C)は、アルギニン(R)対立遺伝子をコードし、(T)対立遺伝子は、バリアントヒスチジン(H)をコードする。このSNPは、以下のコドン変化:CAT,CGTを伴った遺伝子内トランジション置換であり、ミスセンス突然変異をもたらす。SNPは、A519C及びR131Hを含めて多くの名称によって文献において公知である。コンテクスト配列は、以下の通りである:
TGGGATGGAGAAGGTGGGATCCAAA[C/T]GGGAGAATTTCTGGGATTTTCCATT
【0084】
用語「MUC1」は、ヒトMUC1遺伝子に関する。この遺伝子は、ムチンファミリーのメンバーであり、膜結合型グリコシル化リンタンパク質である、ムチン1、細胞表面関連(MUC1)又は多型上皮ムチン(PEM)をコードする。このタンパク質は、膜貫通ドメインによって多くの上皮の頂端表面に固定されている。膜貫通ドメインを越えたところは、大きい細胞外ドメインを放出するための切断部位を含有するSEAドメインである。このタンパク質は、病原体に結合することによって保護機能を果たし、細胞シグナル伝達能力においても機能する。
【0085】
好ましくは、用語「MUC1」は、配列表の配列番号63の核酸配列又は前記核酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなる核酸、及びこの核酸によってコードされるタンパク質、好ましくは、配列表の配列番号64のアミノ酸配列又は前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質に関する。
【0086】
rs4072037は、MUC1遺伝子中のSNPである。このSNPは、以下のコドン変化:ACA、ACGを伴った遺伝子内トランジション置換であり、サイレント突然変異をもたらす。コンテクスト配列は、以下の通りである:
CCCCTAAACCCGCAACAGTTGTTAC[A/G]GGTTCTGGTCATGCAAGCTCTACCC
【0087】
用語「IL-10」は、ヒトIL-10遺伝子に関する。この遺伝子は、抗炎症性サイトカインである、ヒトサイトカイン合成阻害因子(CSIF)としても公知のインターロイキン10(IL-10)をコードする。
【0088】
好ましくは、用語「IL-10」は、配列表の配列番号65の核酸配列又は前記核酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなる核酸、及びこの核酸によってコードされるタンパク質、好ましくは、配列表の配列番号66のアミノ酸配列又は前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質に関する。
【0089】
rs1800896は、IL-10遺伝子中のSNPである。このSNPは、遺伝子間/未知の遺伝子内トランジション置換である。コンテクスト配列は、以下の通りである:
CAACACTACTAAGGCTTCTTTGGGA[A/G]GGGGAAGTAGGGATAGGTAAGAGGA
【0090】
用語「DNMT3A」は、ヒトDNMT3A遺伝子に関する。この遺伝子は、DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ3Aをコードする。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、メチル基の、DNA中の特異的CpG構造への移動を触媒する酵素である。
【0091】
好ましくは、用語「DNMT3A」は、配列表の配列番号67の核酸配列又は前記核酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなる核酸、及びこの核酸によってコードされるタンパク質、好ましくは、配列表の配列番号68のアミノ酸配列又は前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質に関する。
【0092】
rs1550117は、DNMT3A遺伝子中のSNPである。このSNPは、DNMT3Aプロモーター領域内の遺伝子内トランジション置換である。コンテクスト配列は、以下の通りである:
AATTCCACCAGCACAGCCACTCACT[A/G]TGTGCTCATCTCACTCCTCCAGCAG
【0093】
用語「SMAD4」は、ヒトSMAD4遺伝子に関するす。この遺伝子は、マザーズアゲインストデカペンタプレジック相同体4をコードする。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、細胞シグナル伝達に関与し、TGFβタンパク質スーパーファミリーのメンバーをモジュレートするタンパク質のDarfwinファミリーに属する。これは、SMAD1及びSMAD2等の受容体調節SMADを結合させ、DNAに結合し、転写因子として機能を果たす複合体を形成する。これは、唯一公知の哺乳動物coSMADである。
【0094】
好ましくは、用語「SMAD4」は、配列表の配列番号69の核酸配列又は前記核酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなる核酸、及びこの核酸によってコードされるタンパク質、好ましくは、配列表の配列番号70のアミノ酸配列又は前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質に関する。
【0095】
rs12456284は、SMAD4遺伝子中のSNPである。このSNPは、3'-UTR中の遺伝子内トランジション置換である。コンテクスト配列は、以下の通りである:
AGGTCCAGAGCCAGTGTTCTTGTTC[A/G]ACCTGAAAGTAATGGCTCTGGGTTG
【0096】
用語「EGF」は、ヒトEGF遺伝子に関する。この遺伝子は、上皮増殖因子をコードする。EGFは、その受容体EGFRに結合することによって細胞増殖(cell growth)、増殖(proliferation)、及び分化を刺激する増殖因子である。
【0097】
好ましくは、用語「EGF」は、配列表の配列番号71の核酸配列又は前記核酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなる核酸、及びこの核酸によってコードされるタンパク質、好ましくは、配列表の配列番号72のアミノ酸配列又は前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質に関する。
【0098】
rs4444903は、EGF遺伝子中のSNPである。このSNPは、5'-UTR中の遺伝子内トランジション置換である。コンテクスト配列は、以下の通りである:
CTTTCAGCCCCAATCCAAGGGTTGT[A/G]GCTGGAACTTTCCATCAGTTCTTCC
【0099】
用語「CDH1」は、ヒトCDH1遺伝子に関する。この遺伝子は、CAM120/80又は上皮カドヘリン(E-カドヘリン)又はウボモルリンとしても公知のカドヘリン-1をコードする。このタンパク質は、カドヘリンスーパーファミリーの古典的メンバーである。これは、5細胞外カドヘリンリピート、膜貫通領域、及び高度に保存された細胞質尾部から構成されるカルシウム依存性細胞間接着糖タンパク質である。機能の喪失は、増殖、浸潤、及び/又は転移を増大させることによってがんの進行の一因となると考えられている。
【0100】
好ましくは、用語「CDH1」は、配列表の配列番号73の核酸配列又は前記核酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなる核酸、及びこの核酸によってコードされるタンパク質、好ましくは、配列表の配列番号74のアミノ酸配列又は前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質に関する。
【0101】
rs16260は、CDH1遺伝子中のSNPである。このSNPは、CDH1遺伝子のプロモーター領域に位置した遺伝子内トランスバージョン置換である。コンテクスト配列は、以下の通りである:
CTAGCAACTCCAGGCTAGAGGGTCA[A/C]CGCGTCTATGCGAGGCCGGGTGGGC
【0102】
用語「ERCC1」は、ヒトERCC1遺伝子に関する。この遺伝子は、DNA除去修復タンパク質ERCC-1をコードする。ERCC1タンパク質の機能は主に、損傷DNAのヌクレオチド除去修復におけるものである。
【0103】
好ましくは、用語「ERCC1」は、配列表の配列番号75の核酸配列又は前記核酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなる核酸、及びこの核酸によってコードされるタンパク質、好ましくは、配列表の配列番号76のアミノ酸配列又は前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質に関する。
【0104】
rs11615は、ERCC1遺伝子中のSNPである。このSNPは、サイレント遺伝子内トランジション置換である。コンテクスト配列は、以下の通りである:
ATCCCGTACTGAAGTTCGTGCGCAA[C/T]GTGCCCTGGGAATTTGGCGACGTAA
【0105】
用語「FCGR3A」は、ヒトFCGR3A遺伝子に関する。この遺伝子は、低親和性免疫グロブリンガンマFc領域受容体III-Aをコードする。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、分化細胞表面分子のクラスターの一部である。
【0106】
好ましくは、用語「FCGR3A」は、配列表の配列番号77の核酸配列又は前記核酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなる核酸、及びこの核酸によってコードされるタンパク質、好ましくは、配列表の配列番号78のアミノ酸配列又は前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質に関する。
【0107】
rs396991は、FCGR3A遺伝子中のSNPである。このSNPは、以下のコドン変化:GTT、TTTを有する遺伝子内トランスバージョン置換であり、ミスセンス突然変異をもたらす。rs396991(T)は、フェニルアラニン(F)対立遺伝子をコードし、(G)対立遺伝子は、バリアントバリン(V)をコードする。コンテクスト配列は、以下の通りである:
CGGCTCCTACTTCTGCAGGGGGCTT[G/T]TTGGGAGTAAAAATGTGTCTTCAGA
【0108】
クローディンは、タイトジャンクションの最も重要な成分であるタンパク質のファミリーであり、タイトジャンクションでは、これらは、上皮の細胞同士間の細胞間隙内で分子の流れを制御する傍細胞障壁を確立する。クローディンは、膜の内外に4回またがる膜貫通タンパク質であり、N末端及びC末端はともに細胞質内に位置する。第1の細胞外ループ又はドメインは、平均で53アミノ酸からなり、第2の細胞外ループ又はドメインは、約24アミノ酸からなる。CLDN18.2等のクローディンファミリーの細胞表面タンパク質は、様々な起源の腫瘍内で発現され、これらの選択的発現(毒性関連正常組織内で発現無し)及び形質膜への局在化に起因して、抗体媒介がん免疫療法に関連した標的構造として特に適している。
【0109】
用語「CLDN」は、本明細書において使用する場合、クローディンを意味し、CLDN18.2を含む。好ましくは、クローディンは、ヒトクローディンである。
【0110】
用語「CLDN18」は、クローディン18を指し、クローディン18スプライスバリアント1(クローディン18.1(CLDN18.1))及びクローディン18スプライスバリアント2(クローディン18.2(CLDN18.2))を含めた任意のバリアントを含む。
【0111】
用語「CLDN18.2」は、好ましくは、ヒトCLDN18.2、特に、配列表の配列番号1によるアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質を指す。CLDN18.2の第1の細胞外ループ又はドメインは、好ましくは、配列番号1に示したアミノ酸配列のアミノ酸27~81、より好ましくはアミノ酸29~78を含む。CLDN18.2の第2の細胞外ループ又はドメインは、好ましくは、配列番号1に示したアミノ酸配列のアミノ酸140~180を含む。前記第1及び第2の細胞外ループ又はドメインは、好ましくは、CLDN18.2の細胞外部分を形成する。
【0112】
CLDN18.2は、胃粘膜の分化上皮細胞内の正常組織中で選択的に発現される。CLDN18.2は、様々な起源のがん、例えば、膵癌、食道癌、胃癌、気管支癌、乳癌、及びENT腫瘍等において発現される。CLDN18.2は、原発性腫瘍、例えば、胃がん、食道がん、膵がん、非小細胞肺がん(NSCLC)等の肺がん、卵巣がん、大腸がん、肝がん、頭頸部がん、及び胆嚢のがん、並びにこれらの転移、特にクルーケンベルク腫瘍等の胃がん転移、腹膜転移、及びリンパ節転移の予防及び/又は処置のための貴重な標的である。
【0113】
用語「CLDN18.1」は、好ましくは、ヒトCLDN18.1、特に、配列表の配列番号2によるアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列のバリアントを含み、好ましくはそれからなるタンパク質を指す。
【0114】
「予後」は、本明細書において使用する場合、転帰の予測、特に、無増悪生存期間(PFS)又は無疾患生存期間(DFS)の確率を指す。生存期間は通常、患者の50%が生存する月(若しくは年)の平均数、又は1、5、15、及び20年後に生きている患者のパーセンテージとして計算される。予後は、処置決定に重要であり、その理由は、良好な予後の患者は通常、低侵襲性の処置を提案され、一方、予後不良の患者は通常、より広範な化学療法薬等のより積極的な処置が提案されるためである。
【0115】
「予測」は、本明細書において使用する場合、別個の治療的処置に対する疾患の可能な応答についての情報を提供することを指す。
【0116】
語句「リスクを示す」は、見込み又は確率のある特定の程度の目安を指す。語句「リスクの低減を示す」は、見込み又は確率の低い程度を指す。語句「リスクの増大を示す」は、見込み又は確率のある特定の、より高い、又は高い程度を指す。
【0117】
事象が「がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの低減を示す」場合、前記事象は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者であることを示し、即ち、患者は、抗体を用いた処置に対する応答者である可能性が高く、任意選択で、患者は、抗体を用いた処置に対する応答者でない患者より、抗体を用いた処置に対する応答者である可能性が高い。
【0118】
事象が「がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないというリスクの増大を示す」場合、前記事象は、がん患者が抗体を用いた処置に対する応答者でないことを示し、即ち、患者は、抗体を用いた処置に対する応答者でない可能性が高く、任意選択で、患者は、抗体を用いた処置に対する応答者である患者より、抗体を用いた処置に対する応答者でない可能性が高い。
【0119】
事象が「芳しくない臨床転帰のリスクの低減を示す」場合、前記事象は、良好な臨床転帰を示し、即ち、良好な臨床転帰となる可能性が高く、任意選択で、芳しくない臨床転帰となるより、良好な臨床転帰となる可能性が高い。
【0120】
事象が「芳しくない臨床転帰のリスクの増大を示す」場合、前記事象は、芳しくない臨床転帰を示し、即ち、芳しくない臨床転帰となる可能性が高く、任意選択で、良好な臨床転帰となるより、芳しくない臨床転帰となる可能性が高い。
【0121】
事象が「がん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの低減を示す」は、前記事象は、がん患者が無増悪生存期間を経験することを示し、即ち、患者は、無増悪生存期間を経験する可能性が高く、任意選択で、患者は、無増悪生存期間を経験しない患者より、無増悪生存期間を経験する可能性が高い。
【0122】
事象が「がん患者が無増悪生存期間を経験しないというリスクの増大を示す」は、前記事象は、がん患者が無増悪生存期間を経験しないことを示し、即ち、患者は、無増悪生存期間を経験しない可能性が高く、任意選択で、患者は、無増悪生存期間を経験する患者より、無増悪生存期間を経験しない可能性が高い。
【0123】
用語「試料」は、本明細書において使用する場合、対象から得られ、分析目的、特に、1種又は複数の一塩基多型の遺伝子型の判定に使用され得る任意の材料を指す。ある特定の実施形態では、本明細書に記載の試料は、例えば、試験される哺乳動物又はヒトからの任意の組織、細胞、及び/又は生体液中の細胞であり得、又はそれに由来し得る。試料は、患者から、例えば、人体から単離することができる。試料は、分画及び/又は精製試料であり得る。例えば、本発明によって包含される試料は、組織(例えば、切片又は外植片)試料、単細胞試料、細胞コロニー試料、細胞培養試料、血液(例えば、全血又は血液画分、例えば、血液細胞画分、血清、若しくは血漿)試料、尿試料、又は他の周辺源からの試料であり得、或いはそれに由来し得る。特に好適な一実施形態では、試料は、組織試料(例えば、がん組織を有する、又は有すると疑われる対象からの生検)である。例えば、試料は、腫瘍の生検であり得る。試料は、治療的処置の開始前、治療的処置中、及び/又は治療的処置後、例えば、がん療法を投与する前、間、又は後に患者から得ることができる。
【0124】
試料材料は、任意の体液(血液、血清、血漿、尿、唾液、痰、胃液、精液、涙、汗等)、皮膚、毛髪、細胞(特に有核細胞)、生検、頬側スワブ若しくは組織、又は腫瘍検体から核酸抽出物(DNA及び/又はRNAを含む)、タンパク質、又は膜抽出物を生成するのに使用することができる。
【0125】
本発明は更に、本明細書に記載の1種又は複数の一塩基多型の遺伝子型を判定するための試薬等の手段を含むキットに関する。本発明との関連で、用語「キットオブパーツ(約言すれば:キット)」は、組み合わされ、空間的に共存して機能単位にされ、更なる成分を含有し得る、本明細書に同定した成分の少なくとも一部の任意の組合せであると理解される。例えば、キットは、遺伝子型が判定されることになる1種又は複数の一塩基多型を含む核酸配列に特異的な予め選択されたプライマー又はプローブを含み得る。キットは、核酸を増幅するのに適した酵素(例えば、Taq等のポリメラーゼ)、並びに増幅のための反応混合物に必要とされるデオキシリボヌクレオチド及び緩衝液も含み得る。キットは、1種又は複数の一塩基多型に特異的なプローブも含み得る。ある特定の実施形態では、前記手段は、検出可能に標識されている。
【0126】
本発明のキットは、(i)容器及び/又は(ii)データキャリアを含み得る。前記容器は、上述した手段又は試薬の1つ又は複数で満たすことができる。前記データキャリアは、非電子的データキャリア、例えば、情報リーフレット等のグラフデータキャリア、情報シート、バーコード、若しくはアクセスコード、又は電子的データキャリア、例えば、フロッピーディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタル多用途ディスク(DVD)、マイクロチップ、若しくは別の半導体ベース電子的データキャリアであり得る。アクセスコードは、データベース、例えば、インターネットデータベース、集中型又は分散型データベースにアクセスすることを可能にし得る。前記データキャリアは、前記キットで得られる結果の分析を可能にするための、特に、本発明の方法においてキットを使用するための指示を含み得る。
【0127】
追加的に又は代替として、前記キットは、緩衝液、試薬、及び/又は希釈剤を含めた商業的及びユーザー観点から望ましい材料を含み得る。
【0128】
得られる結果に基づいて(即ち、1種又は複数の一塩基多型の遺伝子型に基づいて)、医師は、患者が応答性であると予測されるがん療法、特に、抗体療法を選択することができる。好ましくは、患者が非応答性であると予測されるがん療法は、患者に投与されない。
【0129】
患者が、抗体療法、特に、患者の免疫系を動員して腫瘍細胞を破壊することによって作用する抗体療法に非応答性であると予測される結果に基づいて、医師は、抗体療法、特に、患者の免疫系を動員して腫瘍細胞を破壊することによって作用する抗体療法と異なるがん療法を投与することを選択することができる。特に、医師は、化学療法を投与することを選択することができる。
【0130】
患者が、抗体療法、特に、患者の免疫系を動員して腫瘍細胞を破壊することによって作用する抗体療法に応答性であると予測される結果に基づいて、医師は、抗体療法、特に、患者の免疫系を動員して腫瘍細胞を破壊することによって作用する抗体療法を、任意選択で化学療法と組み合わせて投与することを選択することができる。
【0131】
特に、がんの処置に関連した用語「(治療的)処置」は、本明細書において使用する場合、健康状態を改善すること及び/又は患者の寿命を延長すること(増大させること)を目的とする任意の処置を指す。前記処置は、がんを排除し、患者における腫瘍のサイズ若しくは数を低減し、患者におけるがんの発生を停止若しくは減速し、患者における新しいがんの発生を阻害若しくは減速し、患者における症状の頻度若しくは重症度を減少させ、且つ/又は現在がんを有する、若しくは以前にがんを有していたことがある患者における再発を減少させることができる。がんの(治療的)処置は、手術、化学療法、放射線療法、及び標的療法からなる群から選択され得る。本発明による1つの特に好適な処置は、標的細胞で発現されるCLDN18.2等の腫瘍抗原に対する治療的モノクローナル抗体を伴うがんの処置である。
【0132】
アジュバント療法は、一次の、主要な、又は最初の処置に加えて与えられる処置である。がん療法で使用される手術及び複合治療レジメンにより、この用語がアジュバントがん処置を記述するのに主に使用されるようなった。アジュバント療法の一例は、すべての検出可能な疾患は除去されているが潜在性の疾患に起因する再発病の統計的リスクが残っている手術の後、通常与えられる追加の処置である。
【0133】
「応答性の」又は「応答者」等の用語は、治療設定において、患者が所与のモードの処置から治療上の利益を有する事実、特に、疾患の継続時間の短縮、疾患の進行若しくは悪化の阻止若しくは減速、新しい疾患及び/若しくは再発の発生の阻害若しくは減速、疾患若しくはその症状の発症の予防若しくは遅延、現在疾患を有する、若しくは以前に疾患を有していたことがある患者における症状の頻度若しくは重症度の減少、並びに/又は患者の寿命の延長を含めた疾患の軽減、予防、又は排除の観察結果を指す。特に、これらは、腫瘍塊の低減、又は無腫瘍時間、無再発時間、若しくは全生存期間の増大という観察結果を指す。
【0134】
「非応答性の」又は「非応答者」等の用語は、治療設定において、患者が所与のモードの処置から治療上の利益を有さない事実、特に、疾患の軽減、予防、又は排除の観察結果無しを指し、即ち、患者は、処置に耐性である。
【0135】
完全奏効は、がん等の任意の残留する疾患の非存在として定義され、通常、取得した組織試料の病理学的分析によって評価される。この脈絡において、用語「病理学的完全奏効」(pCR)が頻繁に使用される。特に、pCRは、元の腫瘍床における任意の残留する浸潤性腫瘍細胞の非存在として定義される。しかし、pCRの定義は、異なる類別システム間で変動し得る。病理学的完全奏効は、全体的により良好な生存期間の、しかしまた無疾患生存期間及び無再発生存期間の予後因子であることが示されている。
【0136】
無再発生存期間は、ランダム化から第1の再発若しくは再発病、第2のがん、又は死までの時間として定義される。
【0137】
無増悪生存期間(PFS)は、処置されている疾患(通常がん)が悪化しない薬物療法又は処置の間及び後の時間の長さを測定する、1つのタイプの生存率である。これは、どのようによく新しい処置が働いているかを判定することを試みるために疾患を有する人の健康を試験する測定基準として時に使用され、且つこれは、がん療法のランダム化され制御されたトライアルにおける臨床的エンドポイントとして使用されることが多い。
【0138】
本発明によれば、用語「無増悪生存期間を経験しているがん患者」は、特に、患者の平均と比較したとき、及び/又は所与のモードの処置に対して非応答者である患者と比較したとき、疾患の進行を伴わない時間が延長されたがん患者に関する。好ましくは、前記延長された時間は、少なくとも4、好ましくは少なくとも5、より好ましくは少なくとも6カ月、例えば、少なくとも7カ月又は少なくとも8カ月であり、前記時間は、例えば、処置の最初の投与の時間からスタートする。
【0139】
用語「臨床転帰」は、特に処置後の、疾患の臨床結果、例えば、症状の低減又は寛解として定義される。
【0140】
がんに関する用語「再発」は、起源疾患の同じ部位及び臓器における腫瘍細胞の出現、がんの最初の診断及び療法の多数年後にさえ現れ得る遠隔転移、又は腫瘍細胞の局所リンパ節への浸潤等の局所的な事象を含む。
【0141】
用語「個体」及び「対象」は、互換的に本明細書で使用される。これらは、疾患又は障害(例えば、がん)を患い得る、又はそれに感受性であるが、疾患又は障害を有していてもよく、又は有さなくてもよいヒト、非ヒト霊長類、又は他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、又は霊長類)を指す。多くの実施形態では、個体は、ヒトである。別段の記載のない限り、用語「個体」及び「対象」は、特定の年齢を表さず、したがって成人、高齢者、小児、及び新生児を包含する。本発明の好適な実施形態では、「個体」又は「対象」は、「患者」である。用語「患者」は、本発明によれば、処置の対象、特に罹病対象を意味する。
【0142】
特に好適な一実施形態では、本発明の方法は、がんを有すると既に診断されている患者に実施される。
【0143】
「標的細胞」は、がん細胞等の任意の望ましくない細胞を意味するものとする。好適な態様では、標的細胞は、CLDN18.2を発現する。
【0144】
本発明との関連で、「保護する」、「予防する(prevent)」、又は「予防的な(prophylactic)」等の用語は、対象における疾患の出現及び/又は伝播の予防、特に、対象が疾患を発生させる公算を最小限にし、又は疾患の発生を遅延させることに関する。例えば、がんのリスクにある対象は、がんを予防する療法の候補である。
【0145】
「リスクにある」とは、一般的な集団と比較して、疾患、特にがんを発生させる通常より高い公算を有すると同定されている対象を意味する。更に、疾患、特に、がんを有していたことがある、又は現在有する対象は、疾患を発生させるリスクが増大している対象であり、その理由は、このような対象は、疾患を発生させ続け得るためである。がんを現在有する、又は有していたことがある対象はまた、がん転移のリスクが増大している。
【0146】
本明細書において使用する場合、療法の投与との関連における用語「組合せ」は、1つを超える療法又は治療剤の使用を指す。用語「組合せで」の使用は、療法又は治療剤が対象に投与される順序を制限しない。療法又は治療剤は、対象に第2の療法又は治療剤を投与する前、投与するのと同時に、又は投与した後で投与することができる。好ましくは、療法又は治療剤は、療法又は治療剤が一緒に作用することができるようなシーケンス、量、且つ/又は時間間隔内で対象に投与される。特定の実施形態では、療法又は治療剤は、これらが別段に、特に互いに独立して投与される場合より、これらが利益の増大をもたらすようなシーケンス、量、且つ/又は時間間隔内で対象に投与される。好ましくは、利益の増大は、相乗効果である。
【0147】
用語「疾患」は、個体の体に影響する異常な状態を指す。疾患は、特異的な症状及び徴候に関連した医学的状態と解釈されることが多い。疾患は、感染疾患等、元来外部源からの要因によって引き起こされる場合があり、又は疾患は、自己免疫疾患等、体内の機能不全によって引き起こされる場合がある。ヒトにおいて、「疾患」は、それ患う個体に疼痛、機能不全、苦痛、社会的問題、若しくは死を引き起こす任意の状態、又は個体と接触している者に対する同様の問題を指すのにより広く使用されることが多い。このより広い意味では、疾患は、傷害、身体障害、障害、症候群、感染症、孤立症状、逸脱した挙動、並びに構造及び機能の非定型の変形を時に含み、一方、他の脈絡では、且つ他の目的に関して、これらは、区別可能なカテゴリーと考えることができる。疾患は通常、身体的にだけでなく情緒的にも個体に影響し、その理由は、多くの疾患に罹り、これらとともに生活することは、人生観及び人格を変化させ得るためである。本発明によれば、用語「疾患」は、がん、特に、本明細書に記載のがんの形態を含む。がん又は特定の形態のがんへの本明細書での任意の言及は、そのがん転移も含む。好適な実施形態では、本願によって処置される疾患は、CLDN18.2等の腫瘍抗原を発現する細胞を伴う。
【0148】
「腫瘍抗原を発現する細胞を伴う疾患」は、本発明によれば、CLDN18.2等の腫瘍抗原が病変組織又は臓器の細胞内で発現されることを意味する。一実施形態では、病変組織又は臓器の細胞内の腫瘍抗原の発現は、健康な組織又は臓器内の状態と比較して増大している。増大は、少なくとも10%、特に、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%、又は更にはそれ超の増大を指す。一実施形態では、発現は、病変組織内でのみ見つかり、一方、対応する健康組織内の発現は、抑圧されている。本発明によれば、腫瘍抗原を発現する細胞を伴う疾患には、がん疾患が含まれる。更に、本発明によれば、がん疾患は、好ましくは、がん細胞が腫瘍抗原を発現するものである。
【0149】
用語「がん疾患」又は「がん」は、典型的には未調節の細胞増殖によって特徴付けられる個体における生理的状態を指し、又は記述する。がんの例としては、それだけに限らないが、癌、リンパ腫、芽腫、肉腫、及び白血病がある。より特定すれば、このようながんの例としては、骨がん、血液がん、肺がん、肝がん、膵がん、皮膚がん、頭部又は頸部のがん、皮膚又は眼内黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門部のがん、胃がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん、子宮がん、性器及び生殖器の癌、ホジキン病、食道のがん、小腸のがん、内分泌系のがん、甲状腺のがん、副甲状腺のがん、副腎のがん、軟組織の肉腫、膀胱のがん、腎臓のがん、腎細胞癌、腎盂の癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉性がん、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、及び下垂体腺腫がある。用語「がん」は、本発明によれば、がん転移も含む。好ましくは、「がん疾患」は、CLDN18.2等の腫瘍抗原を発現する細胞によって特徴付けられ、がん細胞は、このような腫瘍抗原を発現する。CLDN18.2等の腫瘍抗原を発現する細胞は、好ましくは本明細書に記載のがんのがん細胞であることが好ましい。
【0150】
本発明によれば、用語「腫瘍」又は「腫瘍疾患」は、好ましくは腫大又は病変部を形成する細胞(新生物細胞、腫瘍原性細胞(tumorigenous cell)、又は腫瘍細胞と呼ばれる)の異常増殖を指す。「腫瘍細胞」とは、急速な、制御されない細胞増殖(cellular proliferation)によって増殖し、新しい増殖(growth)を開始した刺激が終わった後、増殖し続ける異常細胞を意味する。腫瘍は、構造的機構、及び正常組織との機能的協調の部分的又は完全な欠如を示し、良性、前悪性、又は悪性であり得る、組織の別個の塊を通常形成する。
【0151】
一実施形態では、本発明によるがんは、CLDN18.2等の腫瘍抗原を発現するがん細胞を伴う。一実施形態では、がんは、CLDN18.2陽性等の腫瘍抗原陽性である。一実施形態では、CLDN18.2等の腫瘍抗原の発現は、細胞の表面におけるものである。一実施形態では、がん細胞の少なくとも50%、好ましくは60%、70%、80%、若しくは90%は、CLDN18.2陽性等の腫瘍抗原陽性であり、且つ/又はがん細胞の少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%は、CLDN18.2等の腫瘍抗原の表面発現について陽性である。一実施形態では、がん細胞の少なくとも95%又は少なくとも98%は、CLDN18.2陽性等の腫瘍抗原陽性である。一実施形態では、がん細胞の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%は、CLDN18.2等の腫瘍抗原の表面発現について陽性である。
【0152】
一実施形態では、CLDN18.2を発現するがん細胞を伴うがん又はCLDN18.2陽性がんは、胃がん、食道がん、膵がん、非小細胞肺がん(NSCLC)等の肺がん、卵巣がん、大腸がん、肝がん、頭頸部がん、及び胆嚢のがん、並びに特に、クルーケンベルク腫瘍等の胃がん転移、腹膜転移、及びリンパ節転移等のこれらの転移からなる群から選択される。一実施形態では、がんは、腺癌、特に、進行した腺癌である。特に好適ながん疾患は、胃、食道、膵管、胆管、肺、及び卵巣の腺癌である。一実施形態では、がんは、胃のがん、食道、特に、下部食道のがん、食道胃(eso-gastric)接合部のがん、及び胃食道がんからなる群から選択される。特に好適な実施形態では、がんは、転移性、難治性、又は再発性進行胃食道がん等の胃食道がんである。一実施形態では、CLDN18.2陽性腫瘍は、上記がんタイプの腫瘍である。
【0153】
CLDN18.2陽性腫瘍又はCLDN18.2を発現するがん細胞を伴う実施形態は、好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体を使用に関する。一実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、モノクローナル、キメラ、若しくはヒト化抗体、又は抗体の断片である。
【0154】
本発明によれば、「癌」は、上皮細胞に由来する悪性腫瘍である。この群は、乳房、前立腺、肺、及び大腸がんの一般的な形態を含む最も一般的ながんを表す。
【0155】
「腺癌」は、腺組織に由来するがんである。この組織は、上皮組織として知られるより大きい組織カテゴリーの一部でもある。上皮組織は、皮膚、腺、及び体の腔及び臓器を裏打ちする様々な他の組織を含む。上皮は、外胚葉、内胚葉、及び中胚葉に発生学的に由来する。腺癌として分類されるために、細胞は、分泌性を有する限り、必ずしも腺の一部である必要はない。この形態の癌は、ヒトを含めたいくつかの高等哺乳動物において起こり得る。十分に分化した腺癌は、これらが由来する腺組織に類似する傾向がある一方、不十分に分化した腺癌は、類似しない場合がある。生検からの細胞を染色することによって、病理学者は、腫瘍が腺癌であるか、又はいくつかの他のタイプのがんであるかを判定する。腺癌は、体内の腺のユビキタスな性質に起因して、体の多くの組織内で生じ得る。各腺は、同じ物質を分泌しない場合があるが、細胞への外分泌機能がある限り、それは、腺とみなされ、したがってその悪性形態は、腺癌と呼ばれる。悪性腺癌は、他の組織に浸入し、転移する十分な時間が与えられると転移することが多い。卵巣腺癌は、卵巣癌の最も一般的なタイプである。これには、漿液性腺癌及び粘液腺癌、明細胞腺癌、並びに類内膜腺癌が含まれる。
【0156】
「転移」とは、その元の部位から体の別の部分へのがん細胞の拡散を意味する。転移の形成は、非常に複雑なプロセスであり、原発性腫瘍からの悪性細胞の脱離、細胞外マトリックスの侵襲、体腔及び血管に入るための内皮基底膜の浸透、並びに次いで、血液によって輸送された後、標的臓器の浸潤に依存する。最後に、標的部位での新しい腫瘍の増殖は、血管新生に依存する。腫瘍細胞又は腫瘍成分が残存し、転移能を発生させる場合があるので、腫瘍転移は、原発性腫瘍が除去された後でさえ起こることが多い。一実施形態では、本発明による用語「転移」は、「遠隔転移」に関し、これは、原発性腫瘍及び局所リンパ節系から離れた転移に関する。一実施形態では、本発明による用語「転移」は、リンパ節転移に関する。本発明の療法を使用して処置可能である転移の一特定の形態は、主要な部位として胃がんに由来する転移である。好適な実施形態では、このような胃がん転移は、クルーケンベルク腫瘍、腹膜転移、及び/又はリンパ節転移である。
【0157】
難治性がんは、処置に対して最初に無応答性であり、又は経時的に無応答性になる、特定の処置が効果的でない悪性腫瘍である。用語「難治性」、「無応答性」、又は「抵抗性」は、本明細書で互換的に使用される。
【0158】
クルーケンベルク腫瘍は、すべての卵巣腫瘍の1%~2%を占める卵巣の珍しい転移性腫瘍である。クルーケンベルク腫瘍の予後は、依然として非常に芳しくなく、クルーケンベルク腫瘍の確立された処置はまったくない。クルーケンベルク腫瘍は、卵巣の転移性印環細胞腺癌である。胃は、ほとんどのクルーケンベルク腫瘍症例(70%)における原発部位である。大腸、虫垂、及び乳房(主に侵襲性小葉癌)の癌は、次に最も一般的な原発部位である。胆嚢、胆道、膵臓、小腸、ファーター膨大部、子宮頸、及び膀胱/尿膜管の癌に由来するクルーケンベルク腫瘍の稀有な症例が報告されている。
【0159】
用語「手術」は、本明細書において使用する場合、オペレーションにおける腫瘍の除去を含む。これは、がんの一般的な処置である。外科医は、局所的な切除を使用して腫瘍を除去することができる。
【0160】
用語「化学療法」は、本明細書において使用する場合、好ましくは、がん細胞を殺傷し、又はがん細胞が分裂するのを停止することによってがん細胞の増殖を停止するための化学療法剤又は化学療法剤の組合せの使用を指す。化学療法が口によって服用され、又は静脈若しくは筋肉内に注射される場合、薬物は、血流に入り、体全体にわたってがん細胞に到達することができる(全身化学療法)。化学療法が脳脊髄液、臓器、又は腹部等の体腔内に直接配置される場合、薬物は、これらのエリア内のがん細胞に主に影響する(局所化学療法)。
【0161】
本発明による化学療法剤には、細胞増殖抑制性化合物及び細胞傷害性化合物が含まれる。従来の化学療法剤は、ほとんどのがん細胞の主な性質の1つである急速に分裂する細胞を殺傷することによって作用する。これは、化学療法は、骨髄、消化管、及び毛嚢内の細胞等の正常環境下で急速に分裂する細胞にも危害を与えることを意味する。これは、化学療法の最も一般的な副作用をもたらす。本発明によれば、用語「化学療法」は、好ましくは、がん細胞内で異常に発現されるタンパク質(腫瘍抗原)を標的にし、患者の免疫系を動員して腫瘍細胞を破壊することによって作用する抗体を含まない。しかし、がん細胞内で異常に発現されるタンパク質(腫瘍抗原)を標的にし、抗体にコンジュゲートした治療部分又は作用物質によって作用する抗体は、化学療法の一形態としてとらえることができる。しかし、厳密な意味において、用語「化学療法」は、本発明によれば、標的療法を含まない。
【0162】
本発明によれば、用語「化学療法剤」は、タキサン、白金化合物、ヌクレオシド類似体、カンプトテシン類似体、アントラサイクリン、エトポシド、ブレオマイシン、ビノレルビン、シクロホスファミド、及びこれらの組合せを含む。本発明によれば、化学療法剤への言及は、任意のプロドラッグ、例えば、前記作用物質のエステル、塩、又はコンジュゲート等の誘導体を含むことになる。例は、担体物質との前記作用物質のコンジュゲート、例えば、アルブミン結合パクリタキセル等のタンパク質結合パクリタキセルである。好ましくは、前記作用物質の塩は、薬学的に許容される。
【0163】
タキサンは、Taxus属の植物等の天然源から最初に導出されたジテルペン化合物の一クラスであるが、いくつかは、人工的に合成されている。薬物のタキサンクラスの主な作用機序は、微小管機能の破壊であり、それによって細胞分裂のプロセスを阻害する。タキサンとしては、ドセタキセル(タキソテル)及びパクリタキセル(タキソール)がある。
【0164】
本発明によれば、用語「ドセタキセル」は、以下の式を有する化合物を指す:
【0165】
【0166】
特に、用語「ドセタキセル」は、化合物1,7β,10β-トリヒドロキシ-9-オキソ-5β,20-エポキシタキサ-11-エン-2α,4,13α-トリイル4-アセテート2-ベンゾエート13-{(2R,3S)-3-[(tert-ブトキシカルボニル)-アミノ]-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロパノエート}を指す。
【0167】
本発明によれば、用語「パクリタキセル」は、以下の式を有する化合物を指す:
【0168】
【0169】
特に、用語「パクリタキセル」は、化合物(2α,4α,5β,7β,10β,13α)-4,10-ビス-(アセチルオキシ)-13-{[(2R,3S)-3-(ベンゾイルアミノ)-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロパノイル]オキシ}-1,7-ジヒドロキシ-9-オキソ-5,20-エポキシタキサ-11-エン-2-イルベンゾエートを指す。
【0170】
本発明によれば、用語「白金化合物」は、白金錯体等の、その構造中に白金を含有する化合物を指し、シスプラチン、カルボプラチン、及びオキサリプラチン等の化合物を含む。
【0171】
用語「シスプラチン」又は「シスプラチナム」は、以下の式の化合物cis-ジアンミンジクロロ白金(II)(CDDP)を指す:
【0172】
【0173】
用語「カルボプラチン」は、以下の式の化合物cis-ジアンミン(1,1-シクロブタンジカルボキシラト)白金(II)を指す:
【0174】
【0175】
用語「オキサリプラチン」は、以下の式の、ジアミノシクロヘキサンキャリア配位子に錯体形成した白金化合物である化合物を指す:
【0176】
【0177】
特に、用語「オキサリプラチン」は、化合物[(1R,2R)-シクロヘキサン-1,2-ジアミン](エタンジオアト-O,O')白金(II)を指す。注射用オキサリプラチンはまた、商標名Eloxatineの下で販売されている。
【0178】
用語「ヌクレオシド類似体」は、ヌクレオシドの構造類似体、即ち、プリン類似体及びピリミジン類似体の両方を含むカテゴリーを指す。
【0179】
用語「ゲムシタビン」は、以下の式のヌクレオチド類似体である化合物である:
【0180】
【0181】
特に、この用語は、化合物4-アミノ-1-(2-デオキシ-2,2-ジフルオロ-β-D-エリスロ-ペントフラノシル)ピリミジン-2(1H)-オン又は4-アミノ-1-[(2R,4R,5R)-3,3-ジフルオロ-4-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)オキソラン-2-イル]-1,2-ジヒドロピリミジン-2-オンを指す。
【0182】
用語「ヌクレオシド類似体」は、フルオロウラシル及びそのプロドラッグ等のフルオロピリミジン誘導体を含む。用語「フルオロウラシル」又は「5-フルオロウラシル」(5-FU又はf5U)(ブランド名Adrucil、Carac、Efudix、Efudex、及びFluoroplexの下で販売されている)は、以下の式のピリミジン類似体である化合物である:
【0183】
【0184】
特に、この用語は、化合物5-フルオロ-1H-ピリミジン-2,4-ジオンを指す。
【0185】
用語「カペシタビン」(Xeloda、Roche社)は、組織内で5-FUに変換されるプロドラッグである化学療法剤を指す。経口投与され得るカペシタビンは、以下の式を有する:
【0186】
【0187】
特に、この用語は、化合物ペンチル[1-(3,4-ジヒドロキシ-5-メチルテトラヒドロフラン-2-イル)-5-フルオロ-2-オキソ-1H-ピリミジン-4-イル]カルバメートを指す。
【0188】
用語「フォリン酸」又は「ロイコボリン」は、化学療法剤5-フルオロウラシルとの相乗的組合せで有用な化合物を指す。したがって、5-フルオロウラシル又はそのプロドラッグの投与への言及が本明細書で行われる場合、一実施形態における前記投与は、フォリン酸と併せての投与を含み得る。フォリン酸は、以下の式を有する:
【0189】
【0190】
特に、この用語は、化合物(2S)-2-{[4-[(2-アミノ-5-ホルミル-4-オキソ-5,6,7,8-テトラヒドロ-1H-プテリジン-6-イル)メチルアミノ]ベンゾイル]アミノ}ペンタン二酸を指す。
【0191】
本発明によれば、用語「カンプトテシン類似体」は、化合物カンプトテシン(CPT;(S)-4-エチル-4-ヒドロキシ-1H-ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-3,14-(4H,12H)-ジオン)の誘導体を指す。好ましくは、用語「カンプトテシン類似体」は、以下の構造を含む化合物を指す:
【0192】
【0193】
本発明によれば、好適なカンプトテシン類似体は、DNA酵素トポイソメラーゼI(topo I)の阻害剤である。本発明による好適なカンプトテシン類似体は、イリノテカン及びトポテカンである。
【0194】
イリノテカンはトポイソメラーゼIの阻害によって、巻き戻しからDNAを防止する薬物である。化学的には、以下の式を有する天然アルカロイドカンプトテシンの半合成類似体である:
【0195】
【0196】
特に、用語「イリノテカン」は、化合物(S)-4,11-ジエチル-3,4,12,14-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-3,14-ジオキソ1H-ピラノ[3',4':6,7]-インドリジノ[1,2-b]キノリン-9-イル-[1,4'ビピペリジン]-1'-カルボキシレートを指す。
【0197】
トポテカンは、式:
【0198】
【0199】
のトポイソメラーゼ阻害剤である。
【0200】
特に、用語「トポテカン」は、化合物(S)-10-[(ジメチルアミノ)メチル]-4-エチル-4,9-ジヒドロキシ-1H-ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-3,14(4H,12H)-ジオンモノヒドロクロリドを指す。
【0201】
アントラサイクリンは、抗生物質でもあるがん化学療法で一般に使用される薬物の一クラスである。構造的に、すべてのアントラサイクリンは、一般的な4環状7,8,9,10-テトラヒドロテトラセン-5,12-キノン構造を共有し、通常、特異的部位でのグリコシル化を必要とする。
【0202】
アントラサイクリンは、以下の作用機序の1つ又は複数をもたらす:1.DNA/RNA鎖の塩基対間にインターカレートすることによってDNA合成及びRNA合成を阻害し、したがって急速に増殖中のがん細胞の複製を防止すること。2.トポイソメラーゼII酵素を阻害し、スーパーコイルDNAの弛緩を防止し、したがってDNAの転写及び複製を遮断すること。3.DNA及び細胞膜を損傷させる鉄媒介遊離酸素ラジカルを作ること。
【0203】
本発明によれば、用語「アントラサイクリン」は、好ましくは、トポイソメラーゼII中のDNAの再結合を阻害することによってアポトーシスを誘導するための作用物質、好ましくは抗がん剤を好ましくは指す。
【0204】
アントラサイクリン及びアントラサイクリン類似体の例としては、それだけに限らないが、ダウノルビシン(ダウノマイシン)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、エピルビシン、イダルビシン、ロドマイシン、ピラルビシン(pyrarubicin)、バルルビシン、N-トリフルオロ-アセチルドキソルビシン-14-バレレート、アクラシノマイシン、モルホリノドキソルビシン(モルホリノ-DOX)、シアノモルホリノ-ドキソルビシン(シアノモルホリノ-DOX)、2-ピロリノ-ドキソルビシン(2-PDOX)、5-イミノダウノマイシン、ミトキサントロン、及びアクラシノマイシンA(アクラルビシン)がある。ミトキサントロンは、アントラサイクリンの糖部分を欠くが、DNAへのインターカレーションを許容する平面多環(polycylic)式芳香族環構造を保持するアントラサイクリン類似体である化合物のアントラセンジオンクラスのメンバーである。
【0205】
本発明との関連でアントラサイクリンとして特に企図されているのは、エピルビシンである。エピルビシンは、以下の式を有するアントラサイクリン薬であり:
【0206】
【0207】
米国内で商標名Ellence、及び他でPharmorubicin又はEpirubicin Ebeweの下で販売されている。特に、用語「エピルビシン」は、化合物(8R,10S)-10-[(2S,4S,5R,6S)-4-アミノ-5-ヒドロキシ-6-メチル-オキサン-2-イル]オキシ-6,11-ジヒドロキシ-8-(2-ヒドロキシアセチル)-1-メトキシ-8-メチル-9,10-ジヒドロ-7H-テトラセン-5,12-ジオンを指す。エピルビシンは、より少ない副作用を引き起こすと思われるので、いくつかの化学療法レジメンでは、最も普及しているアントラサイクリンであるドキソルビシンより好都合である。
【0208】
用語「エトポシド」は、抗腫瘍活性を呈するポドフィロトキシンの半合成誘導体を指す。エトポシドは、トポイソメラーゼII及びDNAとの複合体を形成することによってDNA合成を阻害する。この複合体は、二本鎖DNA中にブレイクを誘導し、トポイソメラーゼII結合による修復を防止する。DNA中の蓄積されたブレイクは、細胞分裂の分裂期へのエントリーを防止し、細胞死に導く。エトポシドは、以下の式を有する:
【0209】
【0210】
特に、この用語は、化合物4'-デメチル-エピポドフィロトキシン9-[4,6-O-(R)-エチリデン-ベータ-D-グルコピラノシド],4'-(ジヒドロゲンホスフェート)を指す。
【0211】
用語「ブレオマイシン」は、細菌ストレプトマイセス・ベルティシラス(Streptomyces verticillus)によって産生される糖ペプチド抗生物質を指す。抗がん剤として使用される場合、これは、DNA中でブレイクを引き起こすことによって働く。ブレオマイシンは、好ましくは、以下の式を有する化合物を含む:
【0212】
【0213】
用語「ビノレルビン」は、半合成ビンカアルカロイドであり、乳がん及び非小細胞肺がんを含む一部のタイプのがんの処置として与えられる抗有糸分裂化学療法薬を指す。ビノレルビンは、好ましくは、以下の式を有する化合物を含む:
【0214】
【0215】
シクロホスファミドは、オキサゾホリン群からのナイトロジェンマスタードアルキル化剤である。シクロホスファミドの主な使用は、一部の形態のがんの処置において他の化学療法剤を伴ったものである。シクロホスファミドは、好ましくは、以下の式を有する化合物を含む:
【0216】
【0217】
本発明との関連で、用語「放射線療法」は、がん細胞を殺傷し、又はがん細胞が増殖することを妨げるための高エネルギーX線又は他のタイプの放射線の使用を指す。2つのタイプの放射線療法が存在する。外部放射線療法は、体の外の装置を使用して放射線をがんに向けて送る。内部放射線療法は、がん内又はがん付近に直接配置される針、シード、ワイヤー、又はカテーテル内に密閉された放射性物質を使用する。放射線療法が与えられる方法は、処置されているがんのタイプ及び段階に依存する。
【0218】
本発明によれば、用語「標的療法」は、がん細胞等の疾患細胞を優先的に標的にするのに使用することができる一方、非疾患細胞は標的にされず、又はより少ない程度に標的にされる任意の療法に関する。疾患細胞の標的化は、好ましくは、疾患細胞の殺傷及び/又は疾患細胞の増殖若しくは生存能の障害をもたらす。このような療法は、i)裸であるか、若しくは腫瘍抗原、例えば、CLDN18.2等の疾患細胞上のある特定の細胞表面標的を標的にする治療部分にコンジュゲートされた抗体、抗体断片、及びタンパク質(例えば、本明細書に記載のCLDN18.2に対する抗体若しくは抗体コンジュゲート)、又はii)疾患細胞の増殖又は生存能を損なう低分子を含む。具体的な実施形態では、作用物質は、正常な幹細胞より疾患細胞上で大きいレベルで発現される抗原に結合する。具体的な実施形態では、作用物質は、腫瘍抗原に特異的に結合する。従来の化学療法又は放射線療法は、それが腫瘍に向けられていることが多いにもかかわらず、「標的療法」とみなされない。更に、用語「抗体療法」は、本発明によれば、治療部分にコンジュゲートされている抗体、これらの断片又は誘導体を用いた療法を含まないが、単に患者の免疫系を動員して腫瘍細胞を破壊することによって作用する抗体、これらの断片又は誘導体を用いた療法に関する。
【0219】
用語「抗原」は、免疫応答が生じることになり、且つ/又は向けられるエピトープを含む作用物質に関する。用語「抗原」は、特に、タンパク質、ペプチド、多糖、核酸、特にRNA及びDNA、並びにヌクレオチドを含む。用語「抗原」は、変換のみによって抗原性となり、感作する(例えば、分子内に中間に存在して、又は体タンパク質で完了することによって)作用物質も含む。抗原又はそのプロセシング産物は、好ましくは、T若しくはB細胞受容体によって、又は抗体等の免疫グロブリン分子によって認識できる。好適な実施形態では、抗原は、疾患関連抗原、例えば、CLDN18.2等の腫瘍抗原等である。
【0220】
本発明との関連で、用語「腫瘍抗原」又は「腫瘍関連抗原」は、腫瘍細胞内に存在する抗原に関する。好ましくは、抗原は、腫瘍細胞の表面上等の腫瘍細胞上に存在する。好ましくは「腫瘍抗原」は、腫瘍細胞によって発現される。一実施形態では、用語「腫瘍抗原」は、正常な、即ち、非腫瘍性の細胞と比較したとき、腫瘍細胞内で異常に発現されるタンパク質に関する。例えば、発現は、腫瘍細胞内でのみ見つけることができるが、正常な、即ち、非腫瘍性の細胞において見つけることができず、又は発現のレベルは、正常な、即ち、非腫瘍性の細胞と比較して腫瘍細胞内でより高くなり得る。一実施形態では、用語「腫瘍抗原」は、通常の条件下で、限られた数の組織及び/若しくは臓器内で、又は特定の発達段階において特異的に発現され、1つ又は複数の腫瘍又はがん組織内で発現され、又は異常に発現されるタンパク質を指す。本発明との関連で、腫瘍抗原は、好ましくはがん細胞の細胞表面に関連し、好ましくは正常組織及び細胞内で発現されず、まれにこれらのみで発現され、又は低レベルで発現される。好ましくは、本発明によれば、腫瘍抗原は、発現のレベルが検出限界未満である場合及び/又は発現のレベルが低すぎて添加される腫瘍抗原特異的抗体による細胞への結合を可能にすることができない場合、細胞内で発現されない。本発明による特に好適な腫瘍抗原は、CLDN18.2である。
【0221】
本発明によれば、用語「腫瘍抗原陽性がん」若しくは「腫瘍抗原陽性腫瘍」又は同様の用語は、がん又は腫瘍細胞であって、好ましくは前記がん細胞又は腫瘍細胞の表面上で腫瘍抗原を発現する、がん又は腫瘍細胞を伴うがん又は腫瘍を意味する。腫瘍抗原は、それが前記細胞の表面に位置しており、添加される腫瘍抗原特異的抗体による細胞への結合にアクセス可能である場合、細胞の表面上で発現される。
【0222】
本発明の好適な一実施形態では、「腫瘍抗原陽性がん」又は「腫瘍抗原陽性腫瘍」は、「CLDN18.2陽性がん」又は「CLDN18.2陽性腫瘍」である。本発明によれば、用語「CLDN18.2陽性がん」又は「CLDN18.2陽性腫瘍」は、がん又は腫瘍細胞であって、好ましくは前記がん細胞又は腫瘍細胞の表面上でCLDN18.2を発現する、がん又は腫瘍細胞を伴うがん又は腫瘍を意味する。
【0223】
「細胞表面」は、当技術分野でその通常の意味に従って使用され、したがって、タンパク質及び他の分子による結合にアクセス可能である細胞の外側を含む。
【0224】
用語「細胞外部分」は、本発明との関連で、細胞の細胞外空間に面しており、好ましくは、例えば、細胞の外側に位置した抗体等の抗原結合分子によって前記細胞の外側からアクセス可能であるタンパク質等の分子の一部を指す。好ましくは、この用語は、1つ又は複数の細胞外ループ若しくはドメイン又はこれらの断片を指す。
【0225】
本発明によれば、CLDN18.2は、発現のレベルが胃細胞又は胃組織内の発現と比較してより低い場合、細胞内で実質的に発現されない。好ましくは、発現のレベルは、胃細胞又は胃組織内の発現の10%未満、好ましくは、5%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、若しくは0.05%未満、又は更により低い。好ましくは、CLDN18.2は、発現のレベルが、2倍以下、好ましくは1.5倍以下で胃以外の非がん性組織内の発現のレベルを超え、好ましくは、前記非がん性組織内の発現のレベルを超えない場合、細胞内で実質的に発現されない。好ましくは、CLDN18.2は、発現のレベルが検出限界未満であり、且つ/又は発現のレベルが低すぎて細胞に添加されるCLDN18.2特異的抗体による結合を可能にすることができない場合、細胞内で実質的に発現されない。
【0226】
本発明によれば、CLDN18.2は、発現のレベルが、2倍超、好ましくは、10倍超、100倍超、1000超倍、又は10000倍超、胃以外の非がん性組織内の発現のレベルを超える場合、細胞内で発現される。好ましくは、CLDN18.2は、発現のレベルが検出限界を超える場合、且つ/又は発現のレベルが細胞に添加されるCLDN18.2特異的抗体による結合を可能にするのに十分高い場合、細胞内で発現される。好ましくは、細胞内で発現されるCLDN18.2は、前記細胞の表面上で発現され、又は曝露される。
【0227】
用語「エピトープ」は、分子内の抗原決定基、即ち、免疫系によって認識される、例えば、抗体によって認識される分子の一部を指す。例えば、エピトープは、免疫系によって認識される、抗原上の別個の3次元の部位である。エピトープは通常、アミノ酸又は糖側鎖等の分子の化学的に活性な表面基からなり、通常、特定の3次元の構造的特徴、及び特定の帯電特性を有する。立体構造エピトープ及び非立体構造エピトープは、後者へではなく前者への結合が、変性溶媒の存在下で失われる点で区別される。タンパク質のエピトープは、好ましくは、前記タンパク質の連続部分又は不連続部分を含み、好ましくは5から100の間、好ましくは5から50の間、より好ましくは8から30の間、最も好ましくは、10から25の間のアミノ酸長であり、例えば、エピトープは、好ましくは、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25アミノ酸長であり得る。
【0228】
用語「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2本の重(H)鎖及び2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質、並びにこのような糖タンパク質の抗原結合性部分を含む任意の分子を含む。用語「抗体」は、限定することなく、単鎖抗体、例えば、scFv、並びに抗原結合抗体断片、例えば、Fab及びFab'断片を含めたモノクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、抗体の断片又は誘導体を含み、抗体のすべての組換え形態、例えば、原核生物において発現される抗体、非グリコシル化抗体、並びに本明細書に記載の任意の抗原結合抗体断片及び誘導体も含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VHと本明細書で省略する)及び重鎖定常領域で構成されている。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VLと本明細書で省略する)及び軽鎖定常領域で構成されている。VH領域及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域とともに散在した相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に更に細分することができる。各VH及びVLは、以下の順序、即ち、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された3つのCDR及び4つのFRから構成されている。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合性ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、効果細胞)、及び古典的補体系の第1の成分(Clq)を含めた、宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0229】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書において使用する場合、単一分子組成の抗体分子の製剤を指す。モノクローナル抗体は、単一の結合特異性及び親和性を示す。一実施形態では、モノクローナル抗体は、不死化細胞に融合された非ヒト動物、例えば、マウスから得られるB細胞を含むハイブリドーマによって生成される。
【0230】
用語「組換え抗体」は、本明細書において使用する場合、組換え手段によって調製、発現、創製、又は単離されるすべての抗体、例えば、(a)自己から調製される免疫グロブリン遺伝子又はハイブリドーマに関してトランスジェニック又はトランスクロモソーマル(transchromosomal)である動物(例えば、マウス)から単離される抗体、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から、例えば、トランスフェクトーマから単離される抗体、(c)組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離される抗体、及び(d)他のDNA配列に免疫グロブリン遺伝子配列をスプライシングする任意の他の手段によって調製、発現、創製、又は単離される抗体等を含む。
【0231】
用語「ヒト抗体」は、本明細書において使用する場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する抗体を含むように意図されている。ヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダム若しくは部位特異的な突然変異誘発によって、又はin vivoでの体細胞突然変異によって導入された突然変異)を含み得る。
【0232】
用語「ヒト化抗体」は、非ヒト種からの免疫グロブリンに実質的に由来する抗原結合性部位を有する分子であって、分子の残りの免疫グロブリン構造は、ヒト免疫グロブリンの構造及び/又は配列に基づく、分子を指す。抗原結合性部位は、定常ドメイン上に融合した完全な可変ドメインを含み、又は可変ドメイン中の適切なフレームワーク領域上にグラフトされた相補性決定領域(CDR)のみを含むことができる。抗原結合性部位は、野生型であっても、1つ又は複数のアミノ酸置換によって修飾されていても、例えば、ヒト免疫グロブリンにより密接に類似するように修飾されていてもよい。ヒト化抗体のいくつかの形態は、すべてのCDR配列を保存する(例えば、マウス抗体由来の6つすべてのCDRを含有するヒト化マウス抗体)。他の形態は、元の抗体に対して変更された1つ又は複数のCDRを有する。
【0233】
用語「キメラ抗体」は、重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列のそれぞれの1つの部分が、特定の種に由来する、又は特定のクラスに属する抗体中の対応する配列と相同であり、一方、鎖の残りのセグメントは、別のものにおける対応する配列と相同である抗体を指す。一般に、軽鎖及び重鎖の両方の可変領域は、哺乳動物の1つの種に由来する抗体の可変領域を模倣し、一方、定常部分は、別の種に由来する抗体の配列と相同である。このようなキメラ形態の1つの明らかな利点は、可変領域を、好都合なことには、例えば、ヒト細胞標本に由来する定常領域と組み合わせて、非ヒト宿主生物体からの容易に入手可能なB細胞又はハイブリドーマを使用して現在分かっている源から導出することができることである。可変領域は、調製の容易さという利点を有し、特異性は、源によって影響されないが、ヒトである定常領域は、非ヒト源由来の定常領域が誘発するより、抗体が注射される場合、ヒト対象から免疫応答を誘発しにくい。しかし、定義は、この特定の例に限定されない。
【0234】
抗体は、それだけに限らないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、及びヒトを含めた様々な種に由来し得る。
【0235】
本明細書に記載の抗体としては、IgA、例えば、IgA1又はIgA2、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE、IgM、及びIgDの抗体がある。様々な実施形態では、抗体は、IgG1抗体、より具体的には、IgG1、カッパ、若しくはIgG1、ラムダアイソタイプ(即ち、IgG1、κ、λ)、IgG2a抗体(例えば、IgG2a、κ、λ)、IgG2b抗体(例えば、IgG2b、κ、λ)、IgG3抗体(例えば、IgG3、κ、λ)、又はIgG4抗体(例えば、IgG4、κ、λ)である。
【0236】
本明細書において使用する場合、「異種抗体」は、このような抗体を産生するトランスジェニック生物に関して定義される。この用語は、トランスジェニック生物からならない生物において見つかるものに対応するアミノ酸配列又はコード核酸配列を有し、一般にトランスジェニック生物以外の種に由来する抗体を指す。
【0237】
本明細書において使用する場合、「ヘテロハイブリッド抗体」は、異なる生物起源の軽鎖及び重鎖を有する抗体を指す。例えば、マウス軽鎖に付随したヒト重鎖を有する抗体は、ヘテロハイブリッド抗体である。
【0238】
本明細書に記載の抗体は、好ましくは単離されている。「単離抗体」は、本明細書において使用する場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体(例えば、腫瘍抗原に特異的に結合する単離抗体は、腫瘍抗原以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)を指すことが意図されている。しかし、ヒト腫瘍抗原のエピトープ、アイソフォーム、又はバリアントに特異的に結合する単離抗体は、例えば、他の種からの他の関連抗原(例えば、腫瘍抗原種同族体)と交差反応性を有する場合がある。更に、単離抗体は、他の細胞物質及び/又は化学物質を実質的に含まない場合がある。本発明の一実施形態では、「単離」モノクローナル抗体の組合せは、異なる特異性を有し、特定の組成物又は混合物中に組み合わされた抗体に関する。
【0239】
用語の抗体の「抗原結合性部分」(若しくは単に「結合性部分」)、又は抗体の「抗原結合性断片」(若しくは単に「結合性断片」)、又は同様の用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1種又は複数の断片を指す。抗体の抗原結合性機能は、全長抗体の断片によって遂行され得ることが示されている。用語の抗体の「抗原結合性部分」の中に包含される結合性断片の例としては、(i)Fab断片、VL、VH、CL、及びCHのドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab')2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片;(iii)VHドメイン及びCHドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLドメイン及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Wardら、(1989) Nature、341: 544~546);(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、及び(vii)合成リンカーによって任意選択で接合され得る2つ以上の単離されたCDRの組合せがある。更に、Fv断片の2つのドメイン、VL及びVHは、別個の遺伝子によってコートされるが、これらは、VL領域及びVH領域が対になって一価の分子を形成する単一タンパク質鎖としてこれらが作製されることを可能にする合成リンカーによって、組換え法を使用して接合することができる(単鎖Fv(scFv)として公知;例えば、Birdら、(1988) Science、242: 423~426;及びHustonら、(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85: 5879~5883を参照)。このような単鎖抗体も、用語の抗体の「抗原結合性断片」の中に包含されることが意図されている。さらなる例は、(i)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに融合されている結合性ドメインポリペプチド、(ii)ヒンジ領域に融合した免疫グロブリン重鎖CH2定常領域、及び(iii)CH2定常領域に融合した免疫グロブリン重鎖CH3定常領域を含む結合性ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質である。結合性ドメインポリペプチドは、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域であり得る。結合性ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質は、US2003/0118592及びUS2003/0133939に更に開示されている。これらの抗体断片は、当業者に公知の慣例的な技法を使用して得られ、断片は、インタクト抗体と同じ様式で有用性についてスクリーニングされる。
【0240】
用語「結合ドメイン」は、所与の標的構造/抗原/エピトープに結合し/それと相互作用する例えば抗体の構造を本発明に関連して特徴付ける。したがって、本発明による結合ドメインは、「抗原相互作用部位」を指定する。
【0241】
本発明の目的に関して本明細書に記載されるすべての抗体及び抗体断片等の抗体の誘導体は、用語「抗体」によって包含される。用語「抗体誘導体」は、抗体の任意の修飾体、例えば、抗体と別の作用物質若しくは抗体のコンジュゲート、又は抗体断片を指す。
【0242】
天然に存在する抗体は、一般に単一特異性であり、即ち、これらは、単一抗原に結合する。本発明は、標的細胞(腫瘍抗原と係合することによって)及び細胞傷害性細胞等の第2のエンティティ(例えば、CD3受容体と係合することによって)に結合している抗体を含む。本発明の抗体は、二重特異性又は多重特異性、例えば、三重特異性、四重特異性等であり得る。
【0243】
用語「二重特異性分子」は、2つの異なる結合特異性を有する作用物質を含むように意図されている。例えば、分子は、(a)細胞表面抗原、及び(b)エフェクター細胞の表面上のFc受容体等の受容体に結合し、又はこれらと相互作用することができる。用語「多重特異性分子」は、2つを超える異なる結合特異性を有する作用物質を含むように意図されている。例えば、分子は、(a)細胞表面抗原、(b)エフェクター細胞の表面上のFc受容体等の受容体、及び(c)少なくとも1種の他の成分に結合し、又はこれらと相互作用することができる。したがって、用語「腫瘍抗原に対する抗体」は、それだけに限らないが、腫瘍抗原、及びエフェクター細胞上のFc受容体等の他の標的に向けられている二重特異性、三重特異性、四重特異性、及び他の多重特異性分子を含む。用語「二重特異性抗体」は、ダイアボディも含む。ダイアボディは、VHドメイン及びVLドメインが単一ポリペプチド鎖上であるが、リンカーを使用して発現され、リンカーは、短すぎて同じ鎖上の2つのドメインの間で対形成を可能にすることができず、それによってこれらのドメインを別の鎖の相補的なドメインと強制的に対を形成させ、2つの抗原結合性部位を作る二価の二重特異性抗体である(例えば、Holliger, P.ら、(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90: 6444~6448; Poljak, R. J.ら、(1994) Structure、2: 1121~1123を参照)。
【0244】
本発明によれば、抗体は、患者の免疫系を動員して腫瘍細胞を破壊することによって、且つ/又は抗体にカップリングした治療部分若しくは作用物質によってその治療効果を発揮することができる。本発明の目的に関して、このような抗体コンジュゲートは、用語「化学療法剤」によって包含されるとみなすことができ、一方、患者の免疫系を動員して腫瘍細胞を破壊することによってその治療効果を発揮する抗体は、用語「化学療法剤」によって包含されるとみなすことができない。
【0245】
本発明との関連で、抗体は、好ましくは、患者の免疫系を動員して腫瘍細胞を破壊することによって作用することができ、即ち、抗体は、特に、疾患細胞上の腫瘍抗原等のその標的に結合しているとき、本明細書に記載の免疫エフェクター機能を誘発する。好ましくは、前記免疫エフェクター機能は、その表面にCLDN18.2等の腫瘍抗原を担持しているがん細胞等の細胞に向けられる。
【0246】
用語「免疫エフェクター機能」は、本発明との関連で、例えば、腫瘍蔓延及び転移の阻害を含めた腫瘍増殖の阻害及び/又は腫瘍発生の阻害をもたらす免疫系の成分によって媒介される任意の機能を含む。好ましくは、免疫エフェクター機能は、がん細胞の殺傷をもたらす。このような機能は、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞媒介食作用(ADCP)、腫瘍抗原を担持する細胞内のアポトーシスの誘導、腫瘍抗原を担持する細胞の細胞溶解、及び/又は腫瘍抗原を担持する細胞の増殖の阻害を含む。結合剤は、がん細胞の表面上の腫瘍抗原に単に結合することによって効果を発揮することもできる。例えば、抗体は、がん細胞の表面上の腫瘍抗原に単に結合することによって、腫瘍抗原の機能を遮断し、又はアポトーシスを誘導することができる。
【0247】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害
ADCCは、抗体によってマークされている標的細胞を好ましくは必要とする効果細胞、特にリンパ球の細胞殺傷能力を記述するものである。
【0248】
ADCCは、好ましくは、抗体が腫瘍細胞上の抗原に結合し、抗体Fcドメインが免疫効果細胞の表面上のFc受容体(FcR)と係合するとき起こる。Fc受容体のいくつかのファミリーが同定されており、特定の細胞集団は、規定されたFc受容体を特徴的に発現する。ADCCは、抗原提示をし、腫瘍指向性T-細胞応答を誘導する多様な程度の即時の腫瘍破壊を直接誘導する機構として見ることができる。好ましくは、ADCCをin vivoで誘導すると、腫瘍指向性T-細胞応答及び宿主由来抗体応答に至ることになる。
【0249】
補体依存性細胞傷害
CDCは、抗体によって向けることができる別の細胞殺傷方法である。IgMは、補体活性化の最も有効なアイソタイプである。IgG1及びIgG3もともに、古典的な補体活性化経路を介してCDCを向けることに非常に有効である。好ましくは、このカスケードにおいて、抗原抗体複合体の形成が、IgG分子等の参加抗体分子のCH2ドメイン上で近接近している複数のClq結合性部位のクローク解除(uncloaking)をもたらす(C1qは、補体C1の3つの小成分の1つである)。好ましくは、これらのクローク解除されたC1q結合性部位は、以前は低親和性であったC1q-IgG相互作用を、高い結合活性の1つに変換し、それは、一連の他の補体タンパク質を伴うイベントのカスケードを誘因し、効果細胞走化性物質/活性化剤C3a及びC5aのタンパク質分解放出をもたらす。好ましくは、補体カスケードは、細胞膜傷害複合体の形成で終わり、それにより細胞膜内に孔が作られ、孔は、細胞内外への水及び溶質の自由通過を促進する。
【0250】
本発明によって腫瘍増殖及び/又は腫瘍発生を阻害するために、抗体を、治療部分又は作用物質、例えば、細胞毒、薬物(例えば、免疫抑制剤)、又は放射性同位体にコンジュゲートすることができる。細胞毒又は細胞傷害性剤には、細胞に有害であり、特に細胞を殺す任意の作用物質が含まれる。例としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン(colchicin)、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、アマニチン、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、及びピューロマイシン、並びにこれらの類似体又は同族体がある。抗体コンジュゲートを形成するのに適した治療剤としては、それだけに限らないが、代謝拮抗剤(例えば、メトトレキセート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、フルダラビン(fludarabin)、5-フルオロウラシル、ダカルバジン(decarbazine))、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオテパ(thioepa)、クロランブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、及びロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、及びcis-ジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前はダウノマイシン)及びドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、及びアントラマイシン(AMC))、並びに有糸分裂阻害剤(例えば、ビンクリスチン及びビンブラスチン)がある。好適な実施形態では、治療剤は、細胞傷害性剤又は放射性毒性薬剤(radiotoxic agent)である。別の実施形態では、治療剤は、免疫抑制剤である。更に別の実施形態では、治療剤は、GM-CSFである。好適な実施形態では、治療剤は、ドキソルビシン、シスプラチン、ブレオマイシン硫酸塩、カルムスチン、クロランブシル、シクロホスファミド、又はリシンAである。
【0251】
抗体はまた、細胞傷害性放射性医薬品を生成するために、放射性同位体、例えば、ヨウ素-131、イットリウム-90、又はインジウム-111にコンジュゲートすることができる。
【0252】
本発明の抗体コンジュゲートは、所与の生物学的応答を改変するのに使用することができ、薬物部分は、古典的な化学治療剤に限定されると解釈されるべきでない。例えば、薬物部分は、所望の生物活性を有するタンパク質又はポリペプチドであってもよい。このようなタンパク質として、例えば、酵素的に活性な毒素、若しくはその活性断片、例えば、アブリン、リシンA、シュードモナス外毒素、若しくはジフテリア毒素等;腫瘍壊死因子若しくはインターフェロン-γ等のタンパク質;又は生物学的応答調節剤、例えば、リンホカイン、インターロイキン-1(「IL-1」)、インターロイキン-2(「IL-2」)、インターロイキン-6(「IL-6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」)、若しくは他の増殖因子等を挙げることができる。
【0253】
このような治療部分を抗体にコンジュゲートするための技法は周知であり、例えば、Arnonら、「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy、Reisfeldら(編)、243~56頁(Alan R. Liss, Inc. 1985); Hellstromら、「Antibodies For Drug Delivery」、Controlled Drug Delivery (2版)、Robinsonら(編)、623~53頁(Marcel Dekker, Inc. 1987); Thorpe、「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review」、Monoclonal Antibodies '84: Biological And Clinical Applications、Pincheraetら(編)、475~506頁(1985);「Analysis, Results, And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy、Baldwinら(編)、303~16頁(Academic Press 1985)、及びThorpeら、「The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates」、Immunol. Rev.、62: 119~58 (1982)を参照。
【0254】
用語「腫瘍抗原に対する抗体」又は同様の用語は、腫瘍抗原に向けられた、又はそれに結合する能力を有する抗体に関する。本発明による用語「結合性」は、好ましくは、特異的結合性に関する。
【0255】
本発明によれば、抗体は、これが所定の標的に対して有意な親和性を有し、標準的なアッセイで前記所定の標的に結合する場合、前記所定の標的に結合することができる。「親和性」又は「結合親和性」は、平衡解離定数(KD)によって測定されることが多い。好ましくは、用語「有意な親和性」は、10-5M以下、10-6M以下、10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、10-10M以下、10-11M以下、又は10-12M以下の解離定数(KD)で所定の標的に結合することを指す。
【0256】
抗体は、これが、標的に対して有意な親和性を有さず、標準的なアッセイで前記標的に有意に結合しない、特に検出可能な程度に結合しない場合、前記標的に(実質的に)結合することができない。好ましくは、抗体は、最大2、好ましくは10、より好ましくは20、特に、50、若しくは100μg/ml、又はそれ以上の濃度で存在する場合、前記標的に検出可能な程度に結合しない。好ましくは、抗体は、これが、抗体が結合することができる所定の標的への結合性についてのKDより、少なくとも10倍、100倍、103倍、104倍、105倍、又は106倍高いKDで一標的に結合する場合、前記標的に対して有意な親和性をまったく有さない。例えば、抗体の、該抗体が結合することができる標的への結合性についてのKDが10-7Mである場合、抗体が有意な親和性をまったく有さない一標的への結合性についてのKDは、少なくとも10-6M、10-5M、10-4M、10-3M、10-2M、又は10-1Mである。
【0257】
抗体は、これが、所定の標的に結合することができる一方、他の標的に結合することができず、即ち、他の標的に対して有意な親和性を有さず、標準的なアッセイで他の標的に有意に結合しない場合、前記所定の標的に特異的である。本発明によれば、抗体は、これが、腫瘍抗原に結合することができるが、他の標的に(実質的に)結合することができない場合、腫瘍抗原に特異的である。好ましくは、このような他の標的に対する親和性及びこれらへの結合性が、腫瘍抗原無関係のタンパク質、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ヒト血清アルブミン(HSA)、又はMHC分子若しくはトランスフェリン受容体等の非腫瘍抗原膜貫通タンパク質、又は任意の他の指定されたポリペプチド等に対する親和性又はこれらへの結合性を有意に超えない場合、抗体は、腫瘍抗原に特異的である。好ましくは、抗体は、これが、特異的でない標的への結合性についてのKDより、少なくとも10分の1、100分の1、103分の1、104分の1、105分の1、又は106分の1低いKDで所定の前記標的に結合する場合、所定の標的に特異的である。例えば、抗体の、これが特異的である標的への結合性についてのKDが10-7Mである場合、これが特異的でない標的への結合性についてのKDは、少なくとも10-6M、10-5M、10-4M、10-3M、10-2M、又は10-1Mであるはずである。
【0258】
抗体の標的への結合性は、任意の適当な方法を使用して実験的に判定することができ、例えば、Berzofskyら「Antibody-Antigen Interactions」、Fundamental Immunology、Paul, W. E.編、Raven Press New York、N Y (1984)、Kuby、Janis Immunology、W. H. Freeman and Company New York、N Y (1992)、及び本明細書に記載の方法を参照。親和性は、平衡透析によって;製造者が概説した一般的な手順を使用してBIAcore 2000計測器を使用することによって;放射標識された標的抗原を使用するラジオイムノアッセイによって;又は当業者に公知の別の方法によって等、慣例的な技法を使用して容易に判定することができる。親和性データは、例えば、Scatchardら、Ann N.Y. Acad. ScL、51:660 (1949)の方法によって分析することができる。特定の抗体-抗原相互作用の測定される親和性は、異なる条件、例えば、塩濃度、pH下で測定される場合、変動し得る。したがって、親和性並びに他の抗原結合性パラメータ、例えば、KD、IC50の測定は、抗体及び抗原の標準化された溶液、並びに標準化された緩衝液を用いて行われることが好ましい。
【0259】
本明細書において使用する場合、「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgM又はIgG1)を指す。
【0260】
本明細書において使用する場合、「アイソタイプスイッチング」は、抗体のクラス又はアイソタイプが、1つのIgクラスから他のIgクラスの1つに変化する現象を指す。
【0261】
用語「天然に存在する」は、本明細書において使用する場合、物体に適用する場合、物体が自然において見つかり得る事実を指す。例えば、天然源から単離することができ、実験室で人によって意図的に改変されていない、生物(ウイルスを含む)中に存在するポリペプチド配列又はポリヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0262】
用語「再配列された」は、本明細書において使用する場合、Vセグメントが、それぞれ完全なVHドメイン又はVLドメインを本質的にコードするコンホメーション内でD-Jセグメント又はJセグメントに直接隣接して位置している重鎖又は軽鎖の免疫グロブリン座位の構成を指す。再配列された免疫グロブリン(抗体)遺伝子座は、生殖系列DNAと比較することによって同定することができ、再配列された遺伝子座は、少なくとも1つの組換えられた七量体/九量体相同性エレメントを有することになる。
【0263】
用語「再配列されていない」又は「生殖系列構成」は、Vセグメントを参照して本明細書で使用する場合、VセグメントがDセグメント又はJセグメントに直接隣接しているように組換えられていない構成を指す。
【0264】
好ましくは、腫瘍抗原に対する抗体が腫瘍抗原を発現する細胞に結合すると、腫瘍抗原を発現する細胞の殺傷が誘導され、又は媒介される。腫瘍抗原を発現する細胞は、好ましくはがん細胞であり、特に、本明細書に記載のがん疾患の細胞である。好ましくは、抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)媒介溶解、抗体依存性細胞傷害(ADCC)媒介溶解、アポトーシス、及び腫瘍抗原を発現する細胞の増殖の阻害のうちの1つ又は複数を誘導することによって細胞の殺傷を誘導又は媒介する。好ましくは、細胞のADCC媒介溶解は、エフェクター細胞の存在下で起こり、エフェクター細胞は、特定の実施形態では、単球、単核細胞、NK細胞、及びPMNからなる群から選択される。細胞の増殖の阻害は、ブロモデオキシウリジン(5-ブロモ-2'-デオキシウリジン、BrdU)を使用するアッセイにおいて細胞の増殖を判定することによってin vitroで測定することができる。BrdUは、チミジンの類似体であり、複製中の細胞の(細胞周期のS期の間の)新しく合成されるDNA中に組み込まれ、DNA複製中にチミジンを置換することができる合成ヌクレオシドである。例えば、BrdUに特異的な抗体を使用して組み込まれた化学物質を検出することは、自己のDNAを活発に複製していた細胞を示す。
【0265】
好適な実施形態では、本明細書に記載の抗体は、以下の性質の1つ又は複数によって特徴付けることができる:
a)腫瘍抗原に対する特異性;
b)約100nM以下、好ましくは約5~10nM以下、より好ましくは約1~3nM以下の腫瘍抗原への結合親和性;
c)腫瘍抗原陽性細胞上のCDCを誘導又は媒介する能力;
d)腫瘍抗原陽性細胞上のADCCを誘導又は媒介する能力;
e)腫瘍抗原陽性細胞の増殖を阻害する能力;
f)腫瘍抗原陽性細胞のアポトーシスを誘導する能力。
【0266】
一実施形態では、腫瘍抗原に対する抗体は、腫瘍抗原中に存在するエピトープ、好ましくは腫瘍抗原の細胞外ドメイン内に位置したエピトープに結合する能力を有する。好ましくは、腫瘍抗原に対する抗体は、腫瘍抗原に特異的である。好ましくは、腫瘍抗原に対する抗体は、細胞表面上で発現される腫瘍抗原に結合する。特定の好適な実施形態では、腫瘍抗原に対する抗体は、生細胞の表面上に存在する腫瘍抗原の天然エピトープに結合する。
【0267】
本発明によれば、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体又はCLDN18.2に対する抗体は、CLDN18.2中に存在するエピトープ、好ましくは、CLDN18.2の細胞外ドメイン、特に、第1の細胞外ドメイン、好ましくは、CLDN18.2のアミノ酸29位~78位内に位置したエピトープに結合することができる抗体である。特定の実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、(i)CLDN18.1上に存在しないCLDN18.2上のエピトープ、好ましくは配列番号3、4、及び5、(ii)CLDN18.2-ループ1上に局在化したエピトープ、好ましくは配列番号8、(iii)CLDN18.2-ループ2上に局在化したエピトープ、好ましくは配列番号10、(iv)CLDN18.2-ループD3上に局在化したエピトープ、好ましくは配列番号11、(v)CLDN18.2-ループ1及びCLDN18.2-ループD3を包含するエピトープ、又は(vi)CLDN18.2-ループD3上に局在化した非グリコシル化エピトープ、好ましくは、配列番号9に結合することができる抗体である。
【0268】
本発明によれば、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、好ましくはCLDN18.2に結合する能力を有するが、CLDN18.1に結合する能力を有さない抗体である。好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、CLDN18.2に特異的である。好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、細胞表面上で発現されるCLDN18.2に結合する能力を有する抗体である。特定の好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、生細胞の表面上に存在するCLDN18.2の天然エピトープに結合する。好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、配列番号1、3~11、44、46、及び48~50からなる群から選択される1種又は複数のペプチドに結合する。好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、上述のタンパク質、ペプチド、又はこれらの免疫原性断片若しくは誘導体に特異的である。CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、配列番号1、3~11、44、46、及び48~50からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むタンパク質若しくはペプチド、又は前記タンパク質若しくはペプチドを発現する核酸若しくは宿主細胞で動物を免疫する工程を含む方法によって得ることができる。好ましくは、抗体は、がん細胞、特に、上述したがんタイプの細胞に結合し、好ましくは、非がん性細胞に結合しない。
【0269】
好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体がCLDN18.2を発現する細胞に結合すると、CLDN18.2を発現する細胞の殺傷が誘導又は媒介される。CLDN18.2を発現する細胞は、好ましくはがん細胞であり、特に、腫瘍形成性の胃、食道、膵臓、肺、卵巣、大腸、肝臓、頭頸部、及び胆嚢のがん細胞からなる群から選択される。好ましくは、抗体は、CLDN18.2を発現する細胞の補体依存性細胞傷害(CDC)媒介溶解、抗体依存性細胞傷害(ADCC)媒介溶解、アポトーシス、及び増殖の阻害の1つ又は複数を誘導することによって細胞の殺傷を誘導又は媒介する。好ましくは、細胞のADCC媒介溶解は、効果細胞の存在下で起こり、効果細胞は、特定の実施形態では、単球、単核細胞、NK細胞、及びPMNからなる群から選択される。
【0270】
好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の性質の1つ又は複数によって特徴付けることができる:
a)CLDN18.2に対する特異性;
b)約100nM以下、好ましくは約5~10nM以下、より好ましくは約1~3nM以下のCLDN18.2への結合親和性、
c)CLDN18.2陽性細胞上でCDCを誘導又は媒介する能力;
d)CLDN18.2陽性細胞上でADCCを誘導又は媒介する能力;
e)CLDN18.2陽性細胞の増殖を阻害する能力;
f)CLDN18.2陽性細胞のアポトーシスを誘導する能力。
【0271】
特に好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、DSMZ(Mascheroder Weg 1b、31824 Braunschweig、ドイツ;新規住所: Inhoffenstr. 7B、31824 Braunschweig、ドイツ)で寄託され、以下の名称及び受託番号を有するハイブリドーマによって生成される:
a.182-D1106-055、受託番号DSM ACC2737、2005年10月19日に寄託
b.182-D1106-056、受託番号DSM ACC2738、2005年10月19日に寄託
c.182-D1106-057、受託番号DSM ACC2739、2005年10月19日に寄託
d.182-D1106-058、受託番号DSM ACC2740、2005年10月19日に寄託
e.182-D1106-059、受託番号DSM ACC2741、2005年10月19日に寄託
f.182-D1106-062、受託番号DSM ACC2742、2005年10月19日に寄託、
g.182-D1106-067、受託番号DSM ACC2743、2005年10月19日に寄託
h.182-D758-035、受託番号DSM ACC2745、2005年11月17日に寄託
i.182-D758-036、受託番号DSM ACC2746、2005年11月17日に寄託
j.182-D758-040、受託番号DSM ACC2747、2005年11月17日に寄託
k.182-D1106-061、受託番号DSM ACC2748、2005年11月17日に寄託
l.182-D1106-279、受託番号DSM ACC2808、2006年10月26日に寄託
m.182-D1106-294、受託番号DSM ACC2809、2006年10月26日に寄託、
n.182-D1106-362、受託番号DSM ACC2810、2006年10月26日に寄託。
【0272】
本発明による好適な抗体は、上述したハイブリドーマ、即ち、182-D1106-055の場合では37G11、182-D1106-056の場合では37H8、182-D1106-057の場合では38G5、182-D1106-058の場合では38H3、182-D1106-059の場合では39F11、182-D1106-062の場合では43A11、182-D1106-067の場合では61C2、182-D758-035の場合では26B5、182-D758-036の場合では26D12、182-D758-040の場合では28D10、182-D1106-061の場合では42E12、182-D1106-279の場合では125E1、182-D1106-294の場合では163E12、及び182-D1106-362の場合では175D10;によって生成されるもの、及びこれらから得られるもの、並びにそれらのキメラ化形態及びヒト化形態である。
【0273】
一実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、受託番号DSM ACC2737、DSM ACC2738、DSM ACC2739、DSM ACC2740、DSM ACC2741、DSM ACC2742、DSM ACC2743、DSM ACC2745、DSM ACC2746、DSM ACC2747、DSM ACC2748、DSM ACC2808、DSM ACC2809、又はDSM ACC2810の下で寄託されたクローンによって産生され、且つ/又はそのクローンから得られる抗体、(ii)(i)に属する抗体のキメラ化形態又はヒト化形態である抗体、(iii)(i)に属する抗体の特異性を有する抗体、及び(iv)(i)に属し、且つ好ましくは(i)に属する抗体の特異性を有する抗体の抗原結合性部分又は抗原結合性部位、特に可変領域を含む抗体からなる群から選択される抗体である。
【0274】
好適なキメラ化抗体及びこれらの配列を、以下の表に示す。
【0275】
【0276】
好適な実施形態では、抗体、特に、本発明による抗体のキメラ化形態は、配列番号13によって表されるアミノ酸配列又はその断片等のヒト重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列を含む重鎖定常領域(CH)を含む抗体を含む。さらなる好適な実施形態では、抗体、特に、本発明による抗体のキメラ化形態は、配列番号12によって表されるアミノ酸配列又はその断片等のヒト軽鎖定常領域に由来するアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域(CL)を含む抗体を含む。特定の好適な実施形態では、抗体、特に、本発明による抗体のキメラ化形態は、配列番号13によって表されるアミノ酸配列又はその断片等のヒトCHに由来するアミノ酸配列を含むCHを含み、配列番号12によって表されるアミノ酸配列又はその断片等のヒトCLに由来するアミノ酸配列を含むCLを含む抗体を含む。
【0277】
一実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、カッパマウス可変軽鎖、ヒトカッパ軽鎖定常領域アロタイプKm(3)、マウス重鎖可変領域、ヒトIgG1定常領域アロタイプG1m(3)を含む、キメラマウス/ヒトIgG1モノクローナル抗体である。
【0278】
ある特定の好適な実施形態では、抗体のキメラ化形態は、配列番号14、15、16、17、18、19、51からなる群から選択されるアミノ酸配列、及びその断片を含む重鎖を含み、且つ/又は配列番号20、21、22、23、24、25、26、27、28からなる群から選択されるアミノ酸配列、及びその断片を含む軽鎖を含む抗体を含む。
【0279】
ある特定の好適な実施形態では、抗体のキメラ化形態は、以下の可能性(i)~(ix)から選択される重鎖と軽鎖の組合せを含む抗体を含む:
(i)配列番号14によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む重鎖、及び配列番号21によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む軽鎖、
(ii)配列番号15によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む重鎖、及び配列番号20によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む軽鎖、
(iii)配列番号16によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む重鎖、及び配列番号22によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む軽鎖、
(iv)配列番号18によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む重鎖、及び配列番号25によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む軽鎖、
(v)配列番号17によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む重鎖、及び配列番号24によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む軽鎖、
(vi)配列番号19によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む重鎖、及び配列番号23によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む軽鎖、
(vii)配列番号19によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む重鎖、及び配列番号26によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む軽鎖、
(viii)配列番号19によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む重鎖、及び配列番号27によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む軽鎖、
(ix)配列番号19によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む重鎖、及び配列番号28によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む軽鎖、及び
(x)配列番号51によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む重鎖、及び配列番号24によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含む軽鎖。
【0280】
(v)又は(x)による抗体が特に好適である。
【0281】
上記で使用した「断片」又は「アミノ酸配列の断片」は、抗体配列の一部、即ち、N末端及び/又はC末端で短縮された抗体配列を表し、それが抗体中で前記抗体配列と入れ替わるとき、前記抗体のCLDN18.2への結合性、及び好ましくは、本明細書に記載の前記抗体の機能、例えば、CDC媒介溶解又はADCC媒介溶解を保持する配列に関する。好ましくは、アミノ酸配列の断片は、前記アミノ酸配列に由来するアミノ酸残基の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、又は99%を含む。配列番号14、15、16、17、18、19、51、20、21、22、23、24、25、26、27、及び28からなる群から選択されるアミノ酸配列の断片は、好ましくはN末端の17、18、19、20、21、22、又は23アミノ酸が除去されている前記配列に関する。
【0282】
好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、配列番号29、30、31、32、33、34からなる群から選択されるアミノ酸配列、及びその断片を含む重鎖可変領域(VH)を含む。
【0283】
好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、配列番号35、36、37、38、39、40、41、42、43からなる群から選択されるアミノ酸配列、及びその断片を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0284】
ある特定の好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の可能性(i)~(ix)から選択される重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の組合せを含む:
(i)配列番号29によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVH、及び配列番号36によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVL、
(ii)配列番号30によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVH、及び配列番号35によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVL、
(iii)配列番号31によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVH、及び配列番号37によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVL、
(iv)配列番号33によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVH、及び配列番号40によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVL、
(v)配列番号32によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVH、及び配列番号39によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVL、
(vi)配列番号34によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVH、及び配列番号38によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVL、
(vii)配列番号34によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVH、及び配列番号41によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVL、
(viii)配列番号34によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVH、及び配列番号42によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVL、
(ix)配列番号34によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVH、及び配列番号43によって表されるアミノ酸配列又はその断片を含むVL。
【0285】
(v)による抗体が特に好適である。
【0286】
本発明によれば、用語「断片」は、特に、重鎖可変領域(VH)及び/又は軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域(CDR)の1つ又は複数、好ましくは少なくともCDR3可変領域を指す。一実施形態では、前記相補性決定領域(CDR)の1つ又は複数は、一連の相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3から選択される。特に好適な実施形態では、用語「断片」は、重鎖可変領域(VH)及び/又は軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3を指す。
【0287】
好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の実施形態(i)~(vi)から選択される相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3のセットを含むVHを含む:
(i)CDR1:配列番号14の45位~52位、CDR2:配列番号14の70位~77位、CDR3:配列番号14の116位~125位、
(ii)CDR1:配列番号15の45位~52位、CDR2:配列番号15の70位~77位、CDR3:配列番号15の116位~126位、
(iii)CDR1:配列番号16の45位~52位、CDR2:配列番号16の70位~77位、CDR3:配列番号16の116位~124位、
(iv)CDR1:配列番号17の45位~52位、CDR2:配列番号17の70位~77位、CDR3:配列番号17の116位~126位、
(v)CDR1:配列番号18の44位~51位、CDR2:配列番号18の69位~76位、CDR3:配列番号18の115位~125位、及び
(vi)CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位。
【0288】
好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の実施形態(i)~(ix)から選択される相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3のセットを含むVLを含む:
(i)CDR1:配列番号20の47位~58位、CDR2:配列番号20の76位~78位、CDR3:配列番号20の115位~123位、
(ii)CDR1:配列番号21の49位~53位、CDR2:配列番号21の71位~73位、CDR3:配列番号21の110位~118位、
(iii)CDR1:配列番号22の47位~52位、CDR2:配列番号22の70位~72位、CDR3:配列番号22の109位~117位、
(iv)CDR1:配列番号23の47位~58位、CDR2:配列番号23の76位~78位、CDR3:配列番号23の115位~123位、
(v)CDR1:配列番号24の47位~58位、CDR2:配列番号24の76位~78位、CDR3:配列番号24の115位~123位、
(vi)CDR1:配列番号25の47位~58位、CDR2:配列番号25の76位~78位、CDR3:配列番号25の115位~122位、
(vii)CDR1:配列番号26の47位~58位、CDR2:配列番号26の76位~78位、CDR3:配列番号26の115位~123位、
(viii)CDR1:配列番号27の47位~58位、CDR2:配列番号27の76位~78位、CDR3:配列番号27の115位~123位、及び
(ix)CDR1:配列番号28の47位~52位、CDR2:配列番号28の70位~72位、CDR3:配列番号28の109位~117位。
【0289】
好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の実施形態(i)~(ix)から選択される相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3のセットをそれぞれ含むVHとVLの組合せを含む:
(i)VH:CDR1:配列番号14の45位~52位、CDR2:配列番号14の70位~77位、CDR3:配列番号14の116位~125位、VL: CDR1:配列番号21の49位~53位、CDR2:配列番号21の71位~73位、CDR3: 配列番号21の110位~118位、
(ii)VH:CDR1:配列番号15の45位~52位、CDR2:配列番号15の70位~77位、CDR3:配列番号15の116位~126位、VL:CDR1:配列番号20の47位~58位、CDR2:配列番号20の76位~78位、CDR3:配列番号20の115位~123位、
(iii)VH:CDR1:配列番号16の45位~52位、CDR2:配列番号16の70位~77位、CDR3:配列番号16の116位~124位、VL:CDR1:配列番号22の47位~52位、CDR2:配列番号22の70位~72位、CDR3:配列番号22の109位~117位、
(iv)VH:CDR1:配列番号18の44位~51位、CDR2:配列番号18の69位~76位、CDR3:配列番号18の115位~125位、VL:CDR1:配列番号25の47位~58位、CDR2:配列番号25の76位~78位、CDR3:配列番号25の115位~122位、
(v)VH:CDR1:配列番号17の45位~52位、CDR2:配列番号17の70位~77位、CDR3:配列番号17の116位~126位、VL:CDR1:配列番号24の47位~58位、CDR2:配列番号24の76位~78位、CDR3:配列番号24の115位~123位、
(vi)VH:CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位、VL:CDR1:配列番号23の47位~58位、CDR2:配列番号23の76位~78位、CDR3:配列番号23の115位~123位、
(vii)VH:CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位、VL:CDR1:配列番号26の47位~58位、CDR2:配列番号26の76位~78位、CDR3:配列番号26の115位~123位、
(viii)VH:CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位、VL:CDR1:配列番号27の47位~58位、CDR2:配列番号27の76位~78位、CDR3: 配列番号27の115位~123位、及び
(ix)VH:CDR1:配列番号19の45位~53位、CDR2:配列番号19の71位~78位、CDR3:配列番号19の117位~128位、VL:CDR1:配列番号28の47位~52位、CDR2:配列番号28の70位~72位、CDR3:配列番号28の109位~117位。
【0290】
さらなる好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、好ましくは、CLDN18.2に対するモノクローナル抗体の、好ましくは本明細書に記載のCLDN18.2に対するモノクローナル抗体の重鎖可変領域(VH)及び/又は軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域(CDR)の1つ又は複数、好ましくは少なくともCDR3可変領域を含み、好ましくは本明細書に記載の重鎖可変領域(VH)及び/又は軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域(CDR)の1つ又は複数、好ましくは少なくともCDR3可変領域を含む。一実施形態では、相補性決定領域(CDR)の前記1つ又は複数は、本明細書に記載の相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3のセットから選択される。特に好適な実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、好ましくは、CLDN18.2に対するモノクローナル抗体の、好ましくは本明細書に記載のCLDN18.2に対するモノクローナル抗体の重鎖可変領域(VH)及び/又は軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3を含み、好ましくは本明細書に記載の重鎖可変領域(VH)及び/又は軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域CDR1、CDR2、及びCDR3を含む。
【0291】
一実施形態では、本明細書に記載の1つ又は複数のCDR、CDRのセット、又はCDRのセットの組合せを含む抗体は、これらの介在性のフレームワーク領域と一緒に前記CDRを含む。好ましくは、この部分は、第1及び第4のフレームワーク領域のいずれか又は両方の少なくとも約50%も含み、この50%は、第1のフレームワーク領域のC末端の50%、及び第4のフレームワーク領域のN末端の50%である。組換えDNA技法によって作製される抗体を構築すると、免疫グロブリン重鎖、他の可変ドメイン(例えば、ダイアボディの生成における)、又はタンパク質標識を含めたさらなるタンパク質配列に本発明の可変領域を接合するリンカーの導入を含めた、クローニング又は他の操作工程を促進するために導入されるリンカーによってコードされる可変領域に残基N末端又はC末端を導入することができる。
【0292】
一実施形態では、本明細書に記載の1つ又は複数のCDR、CDRのセット、又はCDRのセットの組合せを含む抗体は、ヒト抗体フレームワーク内に前記CDRを含む。
【0293】
自己の重鎖に関して、特定の鎖、又は特定の領域若しくは配列を含む抗体への本明細書での言及は、好ましくは、前記抗体のすべての重鎖が前記特定の鎖、領域、又は配列を含む状況に関する。このことは、抗体の軽鎖に対応して当てはまる。
【0294】
本明細書に記載の抗体は、抗体をコードするRNA等の核酸を投与することによって、且つ/又は抗体をコードするRNA等の核酸を含む宿主細胞を投与することによって患者に送達され得ることが理解されるべきである。したがって、抗体をコードする核酸は、患者に投与されるとき、裸の形態で、又はリポソーム若しくはウイルス粒子の形態で等、適当な送達ビヒクル中に、又は宿主細胞内に存在し得る。提供される核酸は、治療抗体について少なくとも部分的に観察される不安定性を緩和する持続的様式で長時間にわたって抗体を産生することができる。患者に送達される核酸は、組換え手段によって生成することができる。核酸が宿主細胞内に存在することなく患者に投与される場合、これは、好ましくは、核酸によってコードされる抗体を発現させるために患者の細胞によって取り込まれる。核酸が宿主細胞内に存在しながら患者に投与される場合、これは、好ましくは、核酸によってコードされる抗体を産生するように患者内の宿主細胞によって発現される。
【0295】
用語「核酸」は、本明細書において使用する場合、DNA及びRNA、例えば、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換えで生成される及び化学合成される分子を含むように意図されている。核酸は、一本鎖又は二本鎖であり得る。RNAには、in vitroで転写されたRNA(IVT RNA)又は合成RNAが含まれる。
【0296】
核酸は、ベクター内に含まれる場合がある。用語「ベクター」は、本明細書において使用する場合、プラスミドベクター、コスミドベクター、ラムダファージ等のファージベクター、アデノウイルスベクター若しくはバキュロウイルスベクター等のウイルスベクター、又は人工染色体ベクター、例えば、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、若しくはP1人工染色体(PAC)を含めた当業者に公知の任意のベクターを含む。前記ベクターは、発現ベクター及びクローニングベクターを含む。発現ベクターは、プラスミド及びウイルスベクターを含み、一般に、特定の宿主生物(例えば、細菌、酵母、植物、昆虫、若しくは哺乳動物)又はin vitro発現系内で作動可能に連結したコード配列の発現に必要な所望のコード配列及び適切なDNA配列を含有する。クローニングベクターは、一般に、ある特定の所望のDNA断片を操作及び増幅するのに使用され、所望のDNA断片の発現に必要な機能的配列を欠く場合がある。
【0297】
本発明との関連で、用語「RNA」は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくはリボヌクレオチド残基から完全又は実質的に構成されている分子を指す。「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2'位でヒドロキシル基を含むヌクレオチドに関する。この用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、単離RNA、例えば、部分的に精製されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換えで生成されたRNA、並びに1つ又は複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換、及び/又は変更によって天然に存在するRNAと異なる修飾RNAを含む。このような変更は、RNAの末端への、又は内部での、例えば、RNAの1つ若しくは複数のヌクレオチドにおいて等での非ヌクレオチド材料の付加を含み得る。RNA分子内のヌクレオチドは、非標準的なヌクレオチド、例えば、天然に存在しないヌクレオチド、又は化学合成されたヌクレオチド若しくはデオキシヌクレオチドも含み得る。これらの変更されたRNAは、類似体又は天然に存在するRNAの類似体と呼ぶことができる。
【0298】
本発明によれば、用語「RNA」は、「メッセンジャーRNA」を意味し、鋳型としてDNAを使用して生成され得る「転写物」に関し、ペプチド又はタンパク質をコードする「mRNA」を含み、好ましくは「mRNA」に関する。mRNAは、典型的には、5'非翻訳領域(5'-UTR)、タンパク質又はペプチドコード領域、及び3'非翻訳領域(3'-UTR)を含む。mRNAは、細胞内及びin vitroで限られた半減時間を有する。好ましくは、mRNAは、DNA鋳型を使用してin vitro転写によって生成される。本発明の一実施形態では、RNAは、in vitro転写又は化学合成によって得られる。in vitro転写方法は、当業者に公知である。例えば、様々なin vitro転写キットが市販されている。
【0299】
本発明によって使用されるRNAの発現及び/又は安定性を増大させるために、RNAを、好ましくは発現されるペプチド又はタンパク質の配列を変更することなく修飾することができる。
【0300】
用語「修飾」は、本発明によって使用されるRNAとの関連で、前記RNAにおいて天然に存在しないRNAの任意の修飾を含む。このような修飾RNAは、用語「RNA」によって本明細書に包含される。
【0301】
例えば、本発明によるRNAは、その安定性を増大させ、且つ/又は細胞傷害性を減少させるために修飾された天然に存在する又は合成のリボヌクレオチドを有し得る。例えば、一実施形態では、本発明によって使用されるRNAにおいて、5-メチルシチジンが、シチジンを部分的又は完全に、好ましくは完全に置換する。代替として又は追加的に、一実施形態では、本発明によって使用されるRNAにおいて、プソイドウリジンが、ウリジンンを部分的又は完全に、好ましくは完全に置換する。
【0302】
一実施形態では、用語「修飾」は、5'-キャップ又は5'-キャップ類似体を有するRNAを提供することに関する。用語「5'-キャップ」は、mRNA分子の5'末端に見つかるキャップ構造を指し、一般に、珍しい5'-5'三リン酸連結を介してmRNAに接続されたグアノシンヌクレオチドからなる。一実施形態では、このグアノシンは、7位でメチル化されている。用語「慣例的な5'-キャップ」は、天然に存在するRNA 5'-キャップ、好ましくは7-メチルグアノシンキャップ(m7G)を指す。本発明との関連で、用語「5'-キャップ」は、5'-キャップ類似体を含み、それは、RNAキャップ構造に類似し、好ましくはin vivo及び/又は細胞内で、RNAに付着された場合にRNAを安定化する能力を有するように修飾されている。
【0303】
好ましくは、RNAは、細胞、特に、in vivoで存在する細胞に送達された場合、即ち、細胞内にトランスフェクトされた場合、それがコードするタンパク質又はペプチドを発現する。
【0304】
用語「トランスフェクション」は、細胞内への核酸、特にRNAの導入を指す。本発明の目的に関して、用語「トランスフェクション」は、細胞内への核酸の導入、又はこのような細胞による核酸の取込みも含み、細胞は、対象、例えば、患者の中に存在し得る。したがって、本発明によれば、本明細書に記載の核酸をトランスフェクトするための細胞は、in vitro又はin vivoで存在することができ、例えば、細胞は、患者の臓器、組織、及び/又は有機体の一部を形成することができる。本発明によれば、トランスフェクションは、一過性又は安定であり得る。トランスフェクションの一部の用途については、トランスフェクトされた遺伝物質が一過性にのみ発現される場合、それは十分である。トランスフェクションプロセスで導入される核酸は、通常核ゲノム内に一体化されないので、異質核酸は、有糸分裂によって希釈され、又は分解されることになる。核酸のエピソーム増幅を可能にする細胞は、希釈率を大いに低減する。トランスフェクトされた核酸が細胞及びその娘細胞のゲノム内に実際に残ることが望まれる場合、安定なトランスフェクションが行われなければならない。RNAは、そのコードされるタンパク質を一過性に発現するように細胞内にトランスフェクトすることができる。
【0305】
用語RNAの「安定性」は、RNAの「半減期」に関する。「半減期」は、分子の活性、量、又は数の半分を排除するのに必要とされる時間に関する。本発明との関連で、RNAの半減期は、前記RNAの安定性を示す。RNAの半減期は、RNAの「発現の継続時間」に影響を与え得る。長い半減期を有するRNAは、長時間にわたって発現されることが予期され得る。
【0306】
本発明との関連で、用語「転写」は、DNA配列内の遺伝子コードがRNAへと転写されるプロセスに関する。引き続いて、RNAは、タンパク質へと翻訳され得る。本発明によれば、用語「転写」は、「in vitro転写」を含み、用語「in vitro転写」は、RNA、特に、mRNAが、好ましくは適切な細胞抽出物を使用して無細胞系内でin vitro合成されるプロセスを指す。好ましくは、クローニングベクターが、転写物を生成するために適用される。これらのクローニングベクターは、一般に転写ベクターと呼ばれ、本発明によれば、用語「ベクター」によって包含される。
【0307】
用語「翻訳」は、本発明によれば、メッセンジャーRNAの鎖が、アミノ酸の配列のアセンブリーにペプチド又はタンパク質を作製するように指示する細胞のリボソーム内のプロセスに関する。
【0308】
用語「発現」は、その最も一般的な意味で本発明によって使用され、例えば、転写及び/又は翻訳によるRNA及び/又はペプチド若しくはタンパク質の産生を含む。RNAに関して、用語「発現」又は「翻訳」は、特に、ペプチド又はタンパク質の産生に関する。これは、核酸の部分的な発現も含む。更に、発現は、一過性又は安定であり得る。本発明によれば、用語の発現は、「異所性発現」又は「異常発現」も含む。
【0309】
「異所性発現」又は「異常発現」は、本発明によれば、発現が、参照、例えば、ある特定のタンパク質、例えば、腫瘍抗原の異所性発現又は異常発現と関連した疾患を有していない対象における状態と比較して、変更され、好ましくは増大していることを意味する。発現の増大は、少なくとも10%、特に、少なくとも20%、少なくとも50%、若しくは少なくとも100%、又はそれ以上の増大を指す。一実施形態では、発現は、病変組織内でのみ見つかり、一方、健康組織内の発現は、抑圧される。
【0310】
用語「特異的に発現される」は、タンパク質が本質的に特定の組織又は臓器内でのみ発現されることを意味する。例えば、胃粘膜内で特異的に発現される腫瘍抗原は、前記タンパク質が胃粘膜内で主に発現され、他の組織内で発現されない、又は他の組織若しくは臓器型内で有意な程度に発現されないことを意味する。したがって、胃粘膜の細胞内でもっぱら発現され、精巣等の任意の他の組織内で有意により少ない程度に発現されるタンパク質は、胃粘膜の細胞内で特異的に発現される。一部の実施形態では、腫瘍抗原はまた、1つを超える組織型又は臓器内、例えば、2又は3つの組織型又は臓器内等、しかし好ましくは、3つ以下の異なる組織又は臓器型内で、通常の条件下で特異的に発現され得る。この場合、腫瘍抗原は、そのとき、これらの臓器内で特異的に発現される。例えば、腫瘍抗原が、肺及び胃内で好ましくはおよそ等しい程度に、通常の条件下で発現される場合、前記腫瘍抗原は、肺及び胃内で特異的に発現される。
【0311】
本発明によれば、用語「コードするRNA」は、RNAが、適切な環境内、好ましくは細胞内に存在する場合、それがコードするタンパク質又はペプチドを産生するように発現され得ることを意味する。
【0312】
本発明の一部の態様は、本明細書に記載の抗体をコードするRNA等の核酸をin vitroでトランスフェクトされ、好ましくは、低前駆体頻度から臨床的に妥当な細胞数にex vivoで拡大した後に、患者等のレシピエントに移される宿主細胞の養子移入を利用する。本発明による処置に使用される宿主細胞は、処置されるレシピエントに対して、自己、同種間、又は同系であり得る。
【0313】
用語「自己の」は、同じ対象に由来するものを記述するのに使用される。例えば、「自己移植」は、同じ対象に由来する組織又は臓器の移植を指す。このような手順は、これらがさもなければ拒絶反応をもたらす免疫学的障壁を克服するので有利である。
【0314】
用語「同種間の」は、同じ種の異なる個体に由来するものを記述するのに使用される。2以上の個体は、1つ又は複数の遺伝子座における遺伝子が同一でない場合、互いに同種間であると言われる。
【0315】
用語「同系の」は、同一の遺伝子型を有する個体又は組織、即ち、一卵性双生児若しくは同じ近交系の動物、又はこれらの組織に由来するものを記述するのに使用される。
【0316】
用語「異種の」は、複数の異なるエレメントからなるものを記述するのに使用される。一例として、1つの個体の骨髄の異なる個体への移動は、異種移植を構成する。異種遺伝子は、対象以外の源に由来する遺伝子である。
【0317】
用語「ペプチド」は、本発明によれば、オリゴ及びポリペプチドを含み、2以上、好ましくは3以上、好ましくは4以上、好ましくは6以上、好ましくは8以上、好ましくは9以上、好ましくは10以上、好ましくは13以上、好ましくは16以上、好ましくは21以上、最大で好ましくは8、10、20、30、40、又は50、特に、100のペプチド結合によって共有結合的に接合されたアミノ酸を含む物質を指す。用語「タンパク質」は、大きいペプチド、好ましくは100超のアミノ酸残基を有するペプチドを指すが、一般に、用語「ペプチド」及び「タンパク質」は、同義語であり、本明細書で互換的に使用される。
【0318】
特異的なアミノ酸配列、例えば、配列表に示したものに関して本明細書で与える教示は、前記特異的配列と機能的に等価である配列、例えば、特異的なアミノ酸配列の性質と同一又は同様の性質を呈するアミノ酸配列をもたらす前記特異的配列のバリアントにも関するように解釈されるべきである。
【0319】
1つの重要な性質は、抗体のその標的への結合性を保持すること、又は抗体のエフェクター機能を維持することである。好ましくは、特異的配列に関してバリアントである配列は、それが抗体中で特異的配列と入れ替わるとき、前記抗体のその標的への結合性、及び好ましくは、本明細書に記載の前記抗体の機能、例えば、CDC媒介溶解又はADCC媒介溶解を保持する。
【0320】
特にCDR、超可変領域及び可変領域の配列は、抗体のその標的に結合する能力を失うことなく修飾することができることが、当業者によって理解される。例えば、CDR領域は、本明細書で指定される抗体の領域と同一又は高度に相同になる。「高度に相同の」によって、1~5、好ましくは1~4、例えば、1~3又は1若しくは2等の置換が、CDR中で行われ得ることが企図されている。更に、超可変領域及び可変領域は、これらが本明細書に具体的に開示されている抗体の領域と実質的な相同性を示すように修飾することができる。
【0321】
本発明による用語「バリアント」は、特に、突然変異体、スプライスバリアント、コンホメーション、アイソフォーム、対立遺伝子バリアント、種バリアント、及び種同族体、特に、天然に存在するものを指す。対立遺伝子バリアントは、遺伝子の正常な配列の変化に関し、その重要性は、不明確であることが多い。完全な遺伝子配列決定は、多くの場合、所与の遺伝子に対して多数の対立遺伝子バリアントを同定する。種同族体は、所与の核酸又はアミノ酸配列のものと異なる起源の種に対する核酸又はアミノ酸配列である。用語「バリアント」は、任意の翻訳後修飾されたバリアント及びコンホメーションバリアントを包含するものとする。
【0322】
本発明の目的に関して、アミノ酸配列の「バリアント」は、アミノ酸挿入バリアント、アミノ酸付加バリアント、アミノ酸欠失バリアント、及び/又はアミノ酸置換バリアントを含む。タンパク質のN末端及び/又はC末端で欠失を含むアミノ酸欠失バリアントは、N末端及び/又はC末端トランケーションバリアントとも呼ばれる。
【0323】
アミノ酸挿入バリアントは、特定のアミノ酸配列中に単一又は2つ以上のアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列バリアントの場合では、1つ又は複数のアミノ酸残基がアミノ酸配列中の特定の部位内に挿入されるが、得られる産物の適切なスクリーニングを用いてランダムに挿入することも可能である。
【0324】
アミノ酸付加バリアントは、1つ又は複数のアミノ酸、例えば、1、2、3、5、10、20、30、50、又はそれ以上のアミノ酸等のアミノ及び/又はカルボキシ末端融合を含む。
【0325】
アミノ酸欠失バリアントは、配列からの1つ又は複数のアミノ酸の除去によって、例えば、1、2、3、5、10、20、30、50、又はそれ以上アミノ酸の除去等によって特徴付けられる。欠失は、タンパク質の任意の位置内とすることができる。
【0326】
アミノ酸置換バリアントは、配列中の少なくとも1種の残基が除去され、別の残基がその場所に挿入されることによって特徴付けられる。相同タンパク質又はペプチド同士間で保存されていないアミノ酸配列中の位置内にある修飾、及び/又はアミノ酸を同様の性質を有する他のアミノ酸と置き換えることが好ましい。好ましくは、タンパク質バリアント中のアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、即ち、同様に帯電したアミノ酸又は無荷電のアミノ酸の置換である。保存的アミノ酸変化は、自己の側鎖に関係しているアミノ酸のファミリーの1つの置換を伴う。天然に存在するアミノ酸は一般に、4つのファミリー、即ち、酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性(リシン、アルギニン、ヒスチジン)、非極性(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、及び無荷電極性(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン)のアミノ酸に分類される。フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンは時折、芳香族アミノ酸として合同で分類される。
【0327】
所与のアミノ酸配列と前記所与のアミノ酸配列のバリアントであるアミノ酸配列との間の類似性、好ましくは同一性の程度は、少なくとも約60%、65%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%になる。類似性又は同一性の程度は、参照アミノ酸配列の全長の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は約100%であるアミノ酸領域について好ましくは与えられる。例えば、参照アミノ酸配列が200アミノ酸からなる場合、類似性又は同一性の程度は、少なくとも約20、少なくとも約40、少なくとも約60、少なくとも約80、少なくとも約100、少なくとも約120、少なくとも約140、少なくとも約160、少なくとも約180、又は約200のアミノ酸、好ましくは連続アミノ酸について好ましくは与えられる。好適な実施形態では、類似性又は同一性の程度は、参照アミノ酸配列の全長について与えられる。配列類似性、好ましくは配列同一性を決定するための整列は、当技術分野で公知のツールを用いて、好ましくは最良配列整列を使用して、例えば、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::needle、Matrix: Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使用するAlignを使用して行うことができる。
【0328】
「配列類似性」は、同一であるか、又は保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸のパーセンテージを示す。2つのアミノ酸配列間の「配列同一性」は、配列同士間で同一であるアミノ酸のパーセンテージを示す。
【0329】
用語「パーセンテージ同一性」は、最良整列をした後に得られる、比較される2つの配列間で同一であるアミノ酸残基のパーセンテージを表すように意図されており、このパーセンテージは、純粋に統計的であり、2つの配列間の差異は、ランダムに、且つこれらの全長にわたって分布している。2つのアミノ酸配列間の配列比較は、これらの配列を最適に整列した後にこれらを比較することによって慣例的に実施され、前記比較は、配列類似性の局所領域を同定及び比較するために、セグメントによって、又は「比較のウインドウ」によって実施される。比較のための配列の最適な整列は、手作業に加えて、Smith及びWaterman、1981、Ads App. Math.、2、482の局所相同性アルゴリズムによって、Neddleman及びWunsch、1970、J. Mol. Biol.、48、443の局所相同性アルゴリズムによって、Pearson及びLipman、1988、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85、2444の類似性検索法によって、又はコンピュータープログラムであって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group社、575 Science Drive、Madison、Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST N、及びTFASTA)を使用する、プログラムによって、生成することができる。
【0330】
パーセンテージ同一性は、比較されている2つの配列間の同一の位置の数を判定し、この数を比較された位置の数で除し、得られた結果に100を乗じ、その結果、これらの2つの配列間のパーセンテージ同一性を得ることによって計算される。
【0331】
用語「細胞」又は「宿主細胞」は、好ましくはインタクト細胞、即ち、その通常の細胞内成分、例えば、酵素、小器官、又は遺伝物質を放出していないインタクトな膜を有する細胞に関する。インタクト細胞は、好ましくは生存細胞、即ち、その通常の代謝機能を実施することができる生細胞である。好ましくは、前記用語は、本発明によれば、外因性核酸をトランスフェクトすることができる任意の細胞に関する。好ましくは、外因性核酸をトランスフェクトされ、レシピエントに移されたときの細胞は、レシピエント内で核酸を発現することができる。用語「細胞」は、細菌細胞を含み、他の有用な細胞は、酵母細胞、真菌細胞、又は哺乳動物細胞である。適当な細菌細胞としては、グラム陰性菌株、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、プロテウス(Proteus)、及びシュードモナス(Pseudomonas)の株、並びにグラム陽性菌株、例えば、バチルス(Bacillus)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、及びラクトコッカス(Lactococcus)の株に由来する細胞がある。適当な真菌細胞としては、トリコデルマ(Trichoderma)、ニューロスポラ(Neurospora)、及びアスペルギルス(Aspergillus)の種に由来する細胞がある。適当な酵母細胞としては、サッカロミセス(Saccharomyces)(例えば、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae))、シゾサッカロミセス(例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizo saccharomyces pombe))、ピキア(Pichia)(例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)及びピキア・メタノリカ(Pichia methanolicd))、並びにハンゼヌラ(Hansenula)の種に由来する細胞がある。適当な哺乳動物細胞としては、例えば、CHO細胞、BHK細胞、HeLa細胞、COS細胞、293 HEK等がある。しかし、両生類細胞、昆虫細胞、植物細胞、及び異種タンパク質の発現のために当技術分野で使用される任意の他の細胞も、同様に使用することができる。哺乳動物細胞、例えば、ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、及び霊長類に由来する細胞が養子移入に特に好適である。細胞は、多数の組織型に由来することができ、免疫系の細胞等の初代細胞及び細胞株、特に、抗原提示細胞、例えば、樹状細胞及びT細胞、幹細胞、例えば、造血幹細胞及び間葉幹細胞、並びに他の細胞型を含む。抗原提示細胞は、その表面上に主要組織適合複合体との関連で抗原を表示する細胞である。T細胞は、そのT細胞受容体(TCR)を使用してこの複合体を認識することができる。
【0332】
用語「トランスジェニック動物」は、1つ又は複数の導入遺伝子、好ましくは重鎖導入遺伝子及び/若しくは軽鎖導入遺伝子、又はトランス染色体(動物の天然ゲノムDNA中に組み込まれた、若しくは組み込まれていない)を含むゲノムを有し、好ましくは導入遺伝子を発現することができる動物を指す。例えば、トランスジェニックマウスは、ヒト軽鎖導入遺伝子、及びヒト重鎖導入遺伝子又はヒト重鎖トランス染色体を有することができ、その結果このマウスは、腫瘍抗原及び/又は腫瘍抗原を発現する細胞で免疫されたとき、ヒト抗腫瘍抗原抗体を産生する。ヒト重鎖導入遺伝子を、トランスジェニックマウス、例えば、HuMAbマウス、例えば、HCo7マウス若しくはHCol2マウス等の場合と同様に、マウスの染色体DNA中に組み込むことができ、又はヒト重鎖導入遺伝子を、WO02/43478に記載のトランスクロモソーマル(例えば、KM)マウスの場合と同様に染色体外で維持することができる。このようなトランスジェニックマウス及びトランスクロモソーマルマウスは、V-D-J組換え及びアイソタイプスイッチングを経ることによって、腫瘍抗原に対するヒトモノクローナル抗体の複数のアイソタイプ(例えば、IgG、IgA、及び/又はIgE)を産生することができる。
【0333】
「低減する」、「減少する」、又は「阻害する」は、本明細書において使用する場合、レベルの、例えば、発現のレベルの、又は細胞の増殖のレベルの、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上の全体的な減少、又は全体的な減少を引き起こす能力を意味する。
【0334】
「増大させる」又は「増強する」等の用語は、好ましくは、約少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、更により好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%、又は、更にそれ以上の増大又は増強に関する。
【0335】
本明細書に記載の抗体は、慣例的なモノクローナル抗体の方法、例えば、Kohler及びMilstein、Nature、256: 495 (1975)の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技法を含めた、様々な技法によって生成することができる。体細胞ハイブリダイゼーション手順が好適であるが、原理上は、モノクローナル抗体を生成するための他の技法、例えば、B-リンパ球のウイルス形質転換若しくは癌化、又は抗体遺伝子のライブラリーを使用するファージディスプレイ技法も使用することができる。
【0336】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製するための好適な動物系は、マウス系である。マウスにおけるハイブリドーマ生成は、非常によく確立された手順である。融合のために免疫された脾細胞を単離するための免疫化プロトコール及び技法は、当技術分野で公知である。融合パートナー(例えば、マウス骨髄腫細胞)、及び融合手順も公知である。
【0337】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製するための他の好適な動物系は、ラット系及びウサギ系である(例えば、Spieker-Poletら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、92:9348 (1995)に記載されており、Rossiら、Am. J. Clin. Pathol.、124: 295 (2005)も参照)。
【0338】
更に別の好適な実施形態では、ヒトモノクローナル抗体を、マウス系ではなくヒト免疫系の一部を担持するトランスジェニックマウス又はトランスクロモソーマルマウスを使用して生成することができる。これらのトランスジェニックマウス及びトランス染色体マウスは、それぞれ、HuMAbマウス及びKMマウスとして公知のマウスを含み、「トランスジェニックマウス」と本明細書で総称される。このようなトランスジェニックマウスにおけるヒト抗体の生成は、WO2004 035607でCD20について詳細に記載されているように実施することができる。
【0339】
モノクローナル抗体を生成するための更に別のストラテジーは、明確な特異性の抗体を産生するリンパ球から抗体をコードする遺伝子を直接単離することであり、例えば、Babcockら、1996; A novel strategy for generating monoclonal antibodies from single, isolated lymphocytes producing antibodies of defined specificitiesを参照。組換え抗体操作の詳細については、Welschof及びKraus、Recombinant antibodes for cancer therapy、ISBN-0-89603-918-8、並びにBenny K.C. Lo、Antibody Engineering、ISBN 1-58829-092-1も参照。
【0340】
抗体を生成するために、記載したように、マウスを、抗原配列、即ち、抗体が向けられる配列に由来する担体コンジュゲートペプチド、組換えで発現された抗原若しくはその断片の濃縮製剤、及び/又は抗原を発現する細胞で免疫することができる。代わりに、マウスを、抗原又はその断片をコードするDNAで免疫することができる。抗原の精製又は濃縮された製剤を使用して免疫化しても、抗体がもたらされない場合には、マウスを、抗原を発現する細胞、例えば、細胞株で免疫して、免疫応答を促進することもできる。
【0341】
免疫応答は、尾静脈採血又は眼窩後方採血によって得られる血漿試料及び血清試料を用いて免疫化プロトコールの過程にわたって監視することができる。十分な力価の免疫グロブリンを有するマウスを、融合に使用することができる。特異的抗体分泌ハイブリドーマの割合を増大させるために、マウスを、屠殺及び脾臓の取り出しの3日前に、抗原発現細胞で腹腔内又は静脈内に追加免疫することができる。
【0342】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを生成するために、免疫化マウスからの脾細胞及びリンパ節細胞を単離し、マウス骨髄腫細胞株等の適切な不死化細胞株に融合することができる。次いで得られたハイブリドーマを、抗原特異的抗体を生成するためにスクリーニングすることができる。次いで個々のウェルを、抗体分泌ハイブリドーマについてELISAによってスクリーニングすることができる。抗原発現細胞を使用する免疫蛍光及びFACS分析によって、抗原に対して特異性を有する抗体が同定され得る。抗体分泌ハイブリドーマを再び蒔き、再びスクリーニングすることができ、モノクローナル抗体について依然として陽性である場合、希釈を制限することによってサブクローニングすることができる。次いで安定なサブクローンをin vitroで培養して組織培養基中で抗体を生成し、特徴付けることができる。
【0343】
抗体は、当技術分野で周知であるように、例えば、組換えDNA技法と遺伝子トランスフェクション法の組合せを使用して、宿主細胞トランスフェクトーマ内で生成することもできる(Morrison, S. (1985) Science、229: 1202)。
【0344】
例えば、一実施形態では、対象の遺伝子(複数可)、例えば、抗体遺伝子を、WO87/04462、WO89/01036、及びEP338841に開示されたGS遺伝子発現系、又は当技術分野で周知の他の発現系によって使用されているもの等の真核生物発現プラスミド等の発現ベクター内にライゲーションすることができる。クローン化抗体遺伝子を含む精製プラスミドを、真核生物宿主細胞、例えば、CHO細胞、NS/0細胞、HEK293T細胞、又はHEK293細胞等、又は代わりに他の真核細胞様植物由来細胞、真菌細胞又は酵母細胞内に導入することができる。これらの遺伝子を導入するのに使用される方法は、当技術分野で記載されている方法、例えば、電気穿孔、リポフェクチン(lipofectine)、リポフェクタミン等であり得る。宿主細胞内にこれらの抗体遺伝子を導入した後、抗体を発現する細胞を同定及び選択することができる。これらの細胞は、トランスフェクトーマを代表し、次いでこれらを、その発現レベルのために増幅し、抗体を生成するためにアップスケールすることができる。組換え抗体は、これらの培養上清及び/又は細胞から単離及び精製することができる。
【0345】
代わりに、クローン化抗体遺伝子を、微生物、例えば、大腸菌(E. coli)等の原核細胞を含めた他の発現系内で発現させることができる。更に、抗体を、トランスジェニック非ヒト動物内、例えば、ヒツジ及びウサギ由来の乳内、雌鶏由来の卵子内、又はトランスジェニック植物内等で生成することができる。例えば、Verma, R.ら、(1998) J. Immunol. Meth.、216: 165~181; Pollockら、(1999) J. Immunol. Meth.、231: 147~157;及びFischer, R.ら、(1999) Biol. Chem.、380: 825~839を参照。
【0346】
キメラ化
マウス抗体は、繰り返し適用される場合、人において高度に免疫原性であり、治療効果を低減する。主な免疫原性は、重鎖定常領域によって媒介される。人におけるマウス抗体の免疫原性は、それぞれの抗体がキメラ化又はヒト化されている場合、低減又は完全に回避され得る。キメラ抗体は、異なる部分が異なる動物種に由来する抗体、例えば、マウス抗体に由来する可変領域及びヒト免疫グロブリン定常領域を有するもの等である。抗体のキメラ化は、マウス抗体重鎖及び軽鎖の可変領域を、ヒト重鎖及び軽鎖の定常領域と接合することによって実現される(例えば、Krausら、Methods in Molecular Biology series, Recombinant antibodies for cancer therapy、ISBN-0-89603-918-8によって記載されているように)。好適な実施形態では、キメラ抗体は、ヒトカッパ-軽鎖定常領域をマウス軽鎖可変領域に接合することによって生成される。やはり好適な実施形態では、キメラ抗体は、ヒトラムダ-軽鎖定常領域をマウス軽鎖可変領域に接合することによって生成され得る。キメラ抗体を生成するのに好適な重鎖定常領域は、IgG1、IgG3、及びIgG4である。キメラ抗体を生成するための他の好適な重鎖定常領域は、IgG2、IgA、IgD、及びIgMである。
【0347】
ヒト化
抗体は、主に6つの重鎖及び軽鎖相補性決定領域(CDR)内に位置したアミノ酸残基によって標的抗原と相互作用する。この理由で、CDR内のアミノ酸配列は、CDRの外側の配列より、個々の抗体同士間で多様である。CDR配列は、ほとんどの抗体-抗原相互作用に関与するので、異なる性質を有する異なる抗体由来のフレームワーク配列上にグラフトされた特定の天然に存在する抗体由来のCDR配列を含む発現ベクターを構築することによって、特定の天然に存在する抗体の性質を模倣する組換え抗体を発現させることが可能である(例えば、Riechmann, L.ら、(1998) Nature、332: 323~327; Jones, P.ら、(1986) Nature、321: 522~525;及びQueen, C.ら、(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.、86: 10029~10033を参照)。このようなフレームワーク配列は、生殖系列抗体遺伝子配列を含む公共のDNAデータベースから得ることができる。これらの生殖系列配列は、B細胞成熟の間のV(D)J接合によって形成される完全にアセンブルされた可変遺伝子を含まないので、成熟抗体遺伝子配列と異なることになる。生殖系列遺伝子配列は、可変領域に均等にわたる個々の場所で高親和性二次レパートリー抗体の配列とも異なることになる。
【0348】
抗原に結合する抗体の能力は、標準的な結合アッセイ(例えば、ELISA、ウェスタンブロット、免疫蛍光、及びフローサイトメトリー分析)を使用して判定することができる。
【0349】
抗体を精製するために、選択されたハイブリドーマを、モノクローナル抗体精製用2リットルスピナーフラスコ内で増殖させることができる。代わりに、抗体を透析ベースバイオリアクター内で生成することができる。プロテインG-セファロース又はプロテインA-セファロースを用いた親和性クロマトグラフィーの前に、上清を濾過し、必要であれば濃縮することができる。溶出したIgGをゲル電気泳動及び高速液体クロマトグラフィーによって確認して純度を保証することができる。緩衝液をPBSに交換することができ、濃度は、1.43の吸光係数を使用してOD280によって決定され得る。モノクローナル抗体は、アリコートし、-80℃で貯蔵することができる。
【0350】
選択されたモノクローナル抗体が独特のエピトープに結合するか否かを判定するために、部位特異的又は多部位特異的突然変異誘発を使用することができる。
【0351】
抗体のアイソタイプを判定するために、様々な市販のキット(例えば、Zymed社、Roche Diagnostics社)を用いたアイソタイプELISAを実施することができる。マイクロタイタープレートのウェルを、抗マウスIgでコーティングすることができる。遮断した後、プレートをモノクローナル抗体又は精製されたアイソタイプ対照と、周囲温度で2時間反応させる。次いでウェルを、マウスIgG1、IgG2a、IgG2b、若しくはIgG3、IgA、又はマウスIgM特異的ペルオキシダーゼコンジュゲートプローブと反応させることができる。洗浄後、プレートをABTS基質(1mg/ml)で展開し、405~650のODで分析することができる。代わりに、IsoStrip Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Kit(Roche社、カタログ番号1493027)を、製造者によって説明されているように使用してもよい。
【0352】
免疫化マウスの血清中の抗体の存在、又は抗原を発現する生細胞へのモノクローナル抗体の結合を実証するために、フローサイトメトリーを使用することができる。天然に、又はトランスフェクション後に抗原を発現する細胞株、及び抗原発現を欠く陰性対照(標準的な増殖条件下で増殖させた)を、ハイブリドーマ上清中、又は1%のFBSを含有するPBS中で様々な濃度のモノクローナル抗体と混合することができ、4℃で30分間インキュベートすることができる。洗浄後、APC又はアレクサ647標識抗IgG抗体を、一次抗体染色と同じ条件下で、抗原結合モノクローナル抗体に結合させることができる。単一の生細胞をゲートするために光特性及び側方散乱特性を使用して、FACS計測器を用いてフローサイトメトリーによって試料を分析することができる。単回測定で抗原特異的モノクローナル抗体を非特異的バインダーと区別するために、同時トランスフェクションの方法を使用することができる。抗原をコードするプラスミドを一過性にトランスフェクトした細胞、及び蛍光マーカーを、上述したように染色することができる。トランスフェクション細胞は、抗体染色された細胞と異なる蛍光チャネルで検出することができる。トランスフェクション細胞の大部分は、両方の導入遺伝子を発現するので、抗原特異的モノクローナル抗体は、蛍光マーカー発現細胞に優先的に結合し、一方、非特異的な抗体は、非トランスフェクション細胞に同等の比で結合する。フローサイトメトリーアッセイに加えて、又はその代わりに、蛍光顕微鏡観察を使用する代替のアッセイを使用してもよい。細胞を上述したように正確に染色し、蛍光顕微鏡観察によって検査することができる。
【0353】
免疫化マウスの血清中の抗体の存在、又は抗原を発現する生細胞へのモノクローナル抗体の結合を実証するために、免疫蛍光顕微鏡観察分析を使用することができる。例えば、自発的に、又はトランスフェクション後に抗原を発現する細胞株、及び抗原発現を欠く陰性対照を、10%のウシ胎児血清(FCS)、2mMのL-グルタミン、100IU/mlのペニシリン、及びl00μg/mlのストレプトマイシンを補充したDMEM/F12培地中で、標準的な増殖条件下で、チャンバースライド内で増殖させる。次いで細胞を、メタノール又はパラホルムアルデヒドで固定し、又は未処理で放置することができる。次いで細胞を、25℃で30分間、抗原に対するモノクローナル抗体と反応させることができる。洗浄後、細胞を、同じ条件下でアレクサ555標識抗マウスIgG二次抗体(Molecular Probes社)と反応させることができる。次いで細胞を、蛍光顕微鏡観察によって検査することができる。
【0354】
抗原を発現する細胞及び適切な陰性対照から細胞抽出物を調製し、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけることできる。電気泳動後、分離した抗原をニトロセルロース膜に移し、遮断し、試験されるモノクローナル抗体でプローブする。IgG結合は、抗マウスIgGペルオキシダーゼを使用して検出し、ECL基質で展開することができる。
【0355】
抗体は、当業者に周知の様式で、例えば、慣例的な外科手術の間に患者から、又は自発的に、又はトランスフェクション後に抗原を発現する細胞株を接種した異種移植腫瘍を担持するマウスから得られる非がん組織又はがん組織試料に由来するパラホルムアルデヒド若しくはアセトン固定凍結切片、又はパラホルムアルデヒドで固定したパラフィン包埋組織切片を使用して、免疫組織化学検査によって抗原との反応性について更に試験することができる。免疫染色するために、抗原に対して反応性の抗体を、供給業者の指示に従って、インキュベートし、その後、西洋わさびペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗マウス又はヤギ抗ウサギ抗体(DAKO)をインキュベートすることができる。
【0356】
抗体を、腫瘍抗原を発現する細胞の食作用及び殺傷を媒介するこれらの能力について試験することができる。in vitroでモノクローナル抗体活性を試験すると、in vivoモデルにおいて試験する前の初期スクリーニングがもたらされる。
【0357】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC):
簡単に言えば、健康なドナーからの多形核細胞(PMN)、NK細胞、単球、単核細胞、又は他の効果細胞を、フィコールハイパック密度遠心分離によって精製し、その後、夾雑赤血球を溶解することができる。洗浄した効果細胞を、10%の熱不活化ウシ胎児血清、又は代わりに5%の熱不活化ヒト血清を補充したRPMI中に懸濁させ、効果細胞と標的細胞の様々な比で、腫瘍抗原を発現する51Cr標識標的細胞と混合することができる。代わりに、標的細胞を、蛍光強化リガンド(BATDA)で標識してもよい。死細胞から放出される強化リガンドを含むユウロピウムの高度に蛍光性のキレートを、蛍光光度計によって測定することができる。別の代替の技法では、ルシフェラーゼによる標的細胞のトランスフェクションを利用してもよい。次いで添加したルシファーイエローを、生存細胞のみによって酸化させることができる。次いで精製抗腫瘍抗原IgGを、様々な濃度で添加することができる。無関係のヒトIgGは、陰性対照として使用され得る。アッセイは、使用される効果細胞タイプに応じて、37℃で4~20時間にわたって実施することができる。培養上清中の51Cr放出又はEuTDAキレートの存在を測定することによって、細胞溶解について試料をアッセイすることができる。代わりに、ルシファーイエローの酸化から生じる蛍光が、生存細胞の尺度であり得る。
【0358】
細胞溶解が複数のモノクローナル抗体で増強されるか否かを判定するために、抗腫瘍抗原モノクローナル抗体を様々な組合せで試験することもできる。
【0359】
補体依存性細胞傷害(CDC):
モノクローナル抗腫瘍抗原抗体を、様々な公知の技法を使用して、CDCを媒介するこれらの能力について試験することができる。例えば、補体用血清を、当業者に公知の様式で血液から得ることができる。mAbのCDC活性を判定するために、様々な方法を使用することができる。51Cr放出を、例えば測定することができ、膜透過性の上昇を、ヨウ化プロピジウム(PI)排除アッセイを使用して評価することができる。簡単に言えば、標的細胞を洗浄し、5×105個/mlを、室温又は37℃で10~30分間、様々な濃度のmAbとともにインキュベートすることができる。次いで血清又は血漿を20%(v/v)の最終濃度まで添加し、細胞を37℃で20~30分間インキュベートすることができる。各試料からのすべての細胞を、FACSチューブ内のPI溶液に添加することができる。次いで混合物を、FACSArrayを使用してフローサイトメトリー分析によって直ちに分析することができる。
【0360】
代替のアッセイでは、CDCの誘導を、接着細胞で判定することができる。このアッセイの一実施形態では、組織培養平底マイクロタイタープレート内で、3×104個/ウェルの密度で、アッセイの24時間前に細胞を播種する。翌日、増殖培地を取り出し、細胞を抗体とともに三連でインキュベートする。対照細胞を増殖培地又は0.2%のサポニンを含有する増殖培地とともにインキュベートし、それぞれバックグラウンド溶解及び最大溶解を判定する。室温で20分間インキュベートした後、上清を取り出し、DMEM(37℃に予熱した)中の20%(v/v)のヒト血漿又は血清を細胞に添加し、37℃で更に20分間インキュベートする。各試料からのすべての細胞をヨウ化プロピジウム溶液(10μg/ml)に添加する。次いで上清を2.5μg/mlの臭化エチジウムを含有するPBSで置き換え、520nmで励起した際の蛍光発光を、Tecan Safireを使用して600nmで測定する。パーセンテージ特異的溶解を以下の通り計算する:%特異的溶解=(試料の蛍光-バックグラウンドの蛍光)/(最大溶解の蛍光-バックグラウンドの蛍光)×100。
【0361】
モノクローナル抗体によるアポトーシスの誘導及び細胞増殖の阻害
アポトーシスを開始する能力を試験するために、モノクローナル抗腫瘍抗原抗体を、例えば、腫瘍抗原陽性腫瘍細胞、又は腫瘍抗原をトランスフェクトされた腫瘍細胞とともに、37℃で約20時間インキュベートすることができる。細胞を回収し、アネキシン-V結合緩衝液(BD biosciences社)中で洗浄し、FITC又はAPCとコンジュゲートされたアネキシンV(BD biosciences社)とともに暗所で15分間インキュベートすることができる。各試料からのすべての細胞を、FACSチューブ内のPI溶液(PBS中10μg/ml)に添加し、フローサイトメトリーによって直ちに評価することができる(上記の通り)。代わりに、モノクローナル抗体による細胞増殖の一般的な阻害は、市販のキットで検出され得る。DELFIA Cell Proliferation Kit(Perkin-Elmer、カタログ番号AD0200)は、マイクロプレート内の増殖中の細胞のDNA合成の間の5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)取込みの測定に基づく非同位体イムノアッセイである。取り込まれたBrdUは、ユウロピウム標識モノクローナル抗体を使用して検出する。抗体検出を可能にするために、細胞を固定し、Fix溶液を使用してDNAを変性させる。非結合抗体を洗い流し、DELFIA誘導因子を添加して、標識抗体から溶液中にユウロピウムイオンを解離させ、この場合、これらは、DELFIA誘導因子の成分と高度に蛍光性のキレートを形成する。検出において時間分解蛍光測定を利用して測定される蛍光は、各ウェルの細胞内のDNA合成に比例する。
【0362】
前臨床試験
本明細書に記載の抗体はまた、in vivoモデルにおいて(例えば、腫瘍抗原を発現する細胞株を接種された異種移植腫瘍を担持する免疫欠損マウスにおいて)試験して、腫瘍抗原発現腫瘍細胞の増殖の制御におけるこれらの効力を判定することができる。
【0363】
腫瘍抗原発現腫瘍細胞を免疫不全マウス又は他の動物内に異種移植した後のin vivo試験は、本明細書に記載の抗体を使用して実施することができる。抗体を無腫瘍マウスに投与し、その後腫瘍細胞を注射して、腫瘍の形成又は腫瘍関連症状を予防する抗体の効果を測定することができる。抗体を担腫瘍マウスに投与して、腫瘍増殖、転移、又は腫瘍関連症状を低減する、それぞれの抗体の治療有効性を判定することができる。抗体適用を、他の物質、例えば、細胞増殖抑制薬(cystostatic drug)、増殖因子阻害剤、細胞周期遮断薬、血管新生阻害剤、又は他の抗体の適用と組み合わせて、組合せの相乗的効力及び潜在的毒性を判定することができる。抗体によって媒介される有毒な副作用を分析するために、動物に抗体又は対照試薬を接種し、腫瘍抗原抗体療法におそらく関連した症状を完全に調査することができる。腫瘍抗原抗体のin vivo適用の可能性がある副作用として、特に、腫瘍抗原発現組織における毒性が挙げられる。ヒトにおいて、及び他の種、例えば、マウスにおいて腫瘍抗原を認識する抗体は、ヒトにおけるモノクローナル腫瘍抗原抗体の適用によって媒介される潜在的な副作用を予測するのに特に有用である。
【0364】
抗体が認識するエピトープのマッピングは、「Epitope Mapping Protocols」(Methods in Molecular Biology)、Glenn E. Morris、ISBN-089603-375-9、及び「Epitope Mapping: A Practical Approach」Practical Approach Series、248、Olwyn M. R. Westwood、Frank C. Hayに詳細に記載されているように実施することができる。
【0365】
本明細書に記載の化合物及び作用物質は、任意の適当な医薬組成物の形態で投与され得る。
【0366】
医薬組成物は、好ましくは滅菌したものであり、所望の反応又は所望の効果を生じさせるために有効量の本明細書に記載の抗体及び任意選択で本明細書に論じた更なる作用物質を含有する。
【0367】
医薬組成物は通常、均一な剤形で提供され、それ自体は公知の様式で調製することができる。医薬組成物は、例えば、溶液又は懸濁液の形態であり得る。
【0368】
医薬組成物は、塩、緩衝物質、防腐剤、担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含むことができ、これらのすべては、好ましくは薬学的に許容される。用語「薬学的に許容される」は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない材料の無毒性を指す。
【0369】
薬学的に許容されない塩は、薬学的に許容される塩を調製するのに使用してもよく、本発明の中に含まれる。この種類の薬学的に許容される塩は、非制限的な様式で、以下の酸から調製されるものを含む:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸等。薬学的に許容される塩は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、又はカルシウム塩等としても調製することができる。
【0370】
医薬組成物中に使用するのに適した緩衝物質としては、塩での酢酸、塩でのクエン酸、塩でのホウ酸、及び塩でのリン酸がある。
【0371】
医薬組成物中に使用するのに適した防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベン、及びチメロサールがある。
【0372】
注射製剤は、リンガー乳酸塩等の薬学的に許容される賦形剤を含み得る。
【0373】
用語「担体」は、適用を促進し、増強し、又は可能にするために活性成分が組み合わされる、天然又は合成の性質の有機又は無機成分を指す。本発明によれば、用語「担体」は、患者への投与に適している1種又は複数の適合性の固体フィラー若しくは液体フィラー、希釈剤、又は封入物質も含む。
【0374】
非経口投与に可能な担体物質は、例えば、滅菌水、リンガー、リンガー乳酸塩、滅菌塩化ナトリウム溶液、ポリアルキレングリコール、水素化ナフタレン、特に、生体適合性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、又はポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマーである。
【0375】
用語「賦形剤」は、本明細書で使用する場合、医薬組成物中に存在することができ、活性成分でないすべての物質、例えば、担体、バインダー、滑剤、増粘剤、表面活性剤、防腐剤、乳化剤、緩衝液、香味剤、又は着色剤等を示すことが意図されている。
【0376】
本明細書に記載の作用物質及び組成物は、任意の慣例的な経路を介して、例えば、注射又は注入によるものを含めた非経口投与等によって投与され得る。投与は、好ましくは非経口的、例えば、静脈内、動脈内、皮下、皮内、又は筋肉内である。
【0377】
非経口投与に適した組成物は通常、好ましくはレシピエントの血液に対して等張性である、活性化合物の滅菌した水性又は非水性製剤を含む。適合性の担体及び溶媒の例は、リンガー液及び等張性塩化ナトリウム溶液である。更に、通常、滅菌固定油が溶液又は懸濁培地として使用される。
【0378】
本明細書に記載の作用物質及び組成物は、有効量で投与される。「有効量」は、単独で、又はさらなる用量と一緒に所望の反応又は所望の効果を実現する量を指す。特定の疾患又は特定の状態の処置の場合では、所望の反応は、好ましくは疾患の過程の阻害に関する。これは、疾患の進行の減速、及び特に、疾患の進行の中断又は逆転を含む。疾患又は状態の処置における所望の反応は、前記疾患又は前記状態の発病の遅延又は発病の予防でもあり得る。特に、用語「有効量」は、がん及びその1つ若しくは複数の症状の発生、再発、若しくは発症の予防をもたらし、がんの重症度、継続時間を低減し、がんの1つ若しくは複数の症状を寛解させ、がんの増進を予防し、がんの退縮を引き起こし、且つ/又はがん転移を予防するのに十分である療法の量を指す。本発明の一実施形態では、療法の量は、がん幹細胞集団の安定化、低減、若しくは排除並びに/又は原発がん、転移性がん、及び/若しくは再発性がんの根絶、除去、若しくは制御を実現するのに有効である。
【0379】
本明細書に記載の作用物質又は組成物の有効量は、処置される状態、疾患の重症度、年齢、生理的条件、サイズ、及び体重を含めた患者の個々のパラメータ、処置の継続時間、付随療法のタイプ(存在する場合)、特定の投与経路、並びに同様の要因に依存することになる。したがって、本明細書に記載の作用物質の投与される用量は、いくつかのこのようなパラメータに依存し得る。患者の反応が初期用量で不十分である場合には、より高い用量(又は異なるより局在的な投与経路によって実現される有効により高い用量)を使用することができる。
【0380】
本明細書に提供される作用物質及び組成物は、単独で、或いは慣例的な治療レジメン、例えば、手術、照射、化学療法、及び/又は骨髄移植(自己、同系、同種間、又は無関係)と組み合わせて使用することができる。
【0381】
がんの処置は、組合せストラテジーが特に望ましい分野を代表し、その理由は、しばしば2、3、4、又は更にはそれ以上のがん薬/療法の組合せ作用が単剤療法手法の影響より相当に強い相乗効果を生じるためである。したがって、本発明の別の実施形態では、がん処置は、様々な他の薬物と有効に組み合わせることができる。これらの中では、例えば、慣例的な腫瘍療法、マルチエピトープストラテジー、追加の免疫療法、及び血管新生又はアポトーシスを標的にする処置手法との組合せである(総説については、例えば、Andersenら、2008: Cancer treatment: the combination of vaccination with other therapies、Cancer Immunology Immunotherapy、57(11):1735~1743を参照)。異なる作用物質の逐次投与は、異なるチェックポイントでがん細胞増殖を阻害することができ、一方、他の作用物質は、例えば、潜在的にがんを慢性疾患に変換する新血管新生、悪性細胞の生存、又は転移を阻害することができる。
【0382】
本発明を、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない以下の実施例によって更に例示する。
【実施例0383】
(実施例1)
遺伝的免疫多型の説明的分析
患者ゲノム中の一塩基多型(SNP)の個々のパターンは、治療抗体IMAB362の奏効率について予測的であり得る。このようなSNPパターンを調査するために、すべての患者を、免疫応答及び胃がん感受性における公知の又は推定される役割を用いていくつかのSNPについて遺伝子型同定した。
【0384】
詳細には、以下の疑問に対処した:
a.試験される多型に関するあらゆる患者のSNP遺伝子型。
b.患者集団におけるSNP遺伝子型の頻度。
c.IMAB362作用機序(Fc受容体及び補体系多型)を直接的に妨害し得る多型を有する患者の同定。
d.胃がん感受性、がん進行、又はがん処置のリスク因子として記述される患者1人当たりのSNP遺伝子型の蓄積。
e.SNP遺伝子型の臨床転帰との相関。
f.SNP遺伝子型の無増悪生存期間(PFS)との相関。
【0385】
コホート1、2、及び3のすべての患者を遺伝的多型について分析した。患者血液試料を1日目に収集した(V2a、注入前)。
【0386】
全血試料(9ml、EDTA-Monovette)をすべての患者から収集した。EDTA血液を、-20℃にて試験センターで試料収集直後にアリコート1mlで貯蔵した。EDTA血液試料は、ドライアイス(-70℃)に乗せて発送し、-20℃で貯蔵した。到着した際、血液試料を、DNA単離まで-20℃で直ちに貯蔵した。
【0387】
対象のSNPは、免疫系の機能に影響することが公知であるSNP、特に、Fc受容体及び補体系多型としての治療抗体の作用機序に影響すると記載されたSNPに着目して文献調査によって選択した。胃がん患者の生存期間、(胃の)がんに対する感受性、又は胃がんの進行に影響すると記載されているSNPも同様に選択及び試験した。
【0388】
遺伝的多型は、Fluidigm Biomark(商標)リアルタイムPCR分析プラットフォームで、SNP遺伝子型同定TaqMan(商標)アッセイ(46の標準的、5つの特別仕立て;Life Technologies社)によって分析した。DNA単離は、全血からゲノムDNAを単離するための標準プロトコールに従って行った。Fluidigm Biomark(商標)リアルタイムPCR分析プラットフォームは、1回の測定で96のSNPで、最大で96個の患者試料を遺伝子型同定することを可能にし、その理由は、患者試料及び特異的SNPプライマーが、SNPアッセイのために患者DNA試料用の96チャネル及び96直交チャネルを有するラボチップに施されるためである。患者ゲノムDNAを、特異的標的増幅(STA)によって予め増幅した。予め増幅したDNAを、Fluidigm Biomark(商標)リアルタイムPCR分析プラットフォームにおける標準条件下でTaqMan(商標)リアルタイムPCR分析に付した。SNPの対立遺伝子判定を、独自のFluidigmソフトウェア及び統計分析ソフトウェア「R」を使用して各患者及び各アッセイについて行った。Fluidigmの結果が不明瞭であった場合、SNPのサブセットを古典的なサンガー配列決定によって確認した。
【0389】
51個の一塩基多型(SNP)の遺伝的多型を53人の患者について判定した。1人の患者からの血液試料は、SNPを分析するのに十分な量でのDNA抽出を可能にしなかった。6つのSNP遺伝子型を20人の患者のみのサブセットについて判定した。MDM2 SNP rs2279744の遺伝子型は、技術的課題に起因して9人の患者において判定しなかった。1人の患者のPTGS2 rs20417遺伝子型同定結果は、不明瞭であり、更に調査しなかった。
【0390】
試験した患者のSNP遺伝子型のマトリックスの決定は、白人対照集団における遺伝子型頻度と比較した遺伝子型の頻度シフトについて患者集団の統計的検定を可能にする。白人対照集団におけるSNP遺伝子型頻度は、公共データベースdbSNP(国立バイオテクノロジー情報センター、Bethesda(MD、USA)に寄託された国際SNP遺伝子型同定プロジェクト(HapMap-CEU、PGA-EUROPEAN-PANEL、CAUC1、pilot_1_CEU_low_coverage_panel、CEU_GENO_PANEL、PDR-90)によって収集されたデータに基づく。所与のSNPの遺伝子型1つ当たりの患者の数を、白人対照集団における遺伝子型1つ当たりの患者の数と比較した。対照集団の遺伝子型1つ当たりの患者の数は、集団における提供された相対的なSNP遺伝子型頻度に試験した試料の報告数を乗じることによって計算した。これは、患者集団と対応する対照集団との間の統計的に有意な差異を同定するための直接カイ二乗検定を可能にした。
【0391】
カイ二乗検定は、51個の試験したSNPのうち48個について実施した。SNP C1QA(rs1044378)、FCGR2C(Q57X(C->T))、及びMDM2(rs2279744)についてのSNP遺伝子型頻度のデータは、未だ公共データベースに寄託されていない。患者と対照集団との間に遺伝子型頻度の統計的に有意なシフトを有するSNP(48個のSNPのうち5つ、p<0.05)を
図1に示す。
【0392】
これらの5つのSNPのうち4つは、がん/胃がん感受性において役割を果たすことが示されている。4つすべてのがん/胃がん感受性SNPは実際に、胃がん患者について予期された通り、患者集団におけるそれぞれのがん関連遺伝子型の過剰提示を示す(Table 1(表2))。
【0393】
これらの5つのSNPのうちの1つ、rs12146727(C1S)は、これまでのところがん又は胃がんにおけるリスク/感受性因子であると示されていない。このSNPは、これまでのところ、かつて心血管疾患の推定上のリスク因子として記載されたことがあるだけである。
【0394】
【0395】
患者集団における51個の試験したSNPのうち49個は、試験した患者集団においてバリアント対立遺伝子パターンを示す。これは、患者亜集団同士間のSNP対立遺伝子の頻度シフトの検定を可能にし、それは理想的には、推定上の応答者集団の同定に役立ち得る。2つのSNP、C1QA(rs1044378)及びFCGR2C(AHN1ME8)のみが、すべての患者において不変のSNP遺伝子型を示し、このため、いかなる種類の差分分析も可能でない。5つのSNPについては、統計的に有意な対立遺伝子頻度シフトを対照集団と比較して本試験において判定することができ、SNP対立遺伝子頻度が所与の集団の組成に依存するという原理の証明をもたらした。したがって、試験したSNP選択物は、SNPバイオマーカー候補の将来の同定に非常に適している。
【0396】
Fc受容体及び補体系多型は、IMAB362作用機序を直接妨害し得る。患者を、FCGR3A(F176V[T→G]、rs396991)、FCGR2A(H131R[T→C]、rs1801274)、及びC1QA([276A→G]、rs172378)として、抗体ベース療法の効力に影響し得る遺伝子中のSNP対立遺伝子について遺伝子型同定した(Table 2(表3))。
【0397】
患者を、FCGR2C遺伝子(Q57X[C→T]、rs番号無し)の、並びに補体系因子C1S(R119H[G→A]、rs12146727)及びC1QA(rs292001、rs1044378)の公開されたSNP対立遺伝子について更に遺伝子型同定した。これらのSNPは、未だ抗体療法に影響すると実証されていないが、興味ある候補SNPとして含めた。
【0398】
【0399】
合計23人の患者が、詳細に記録が残されたFc受容体及び補体系多型のうちの少なくとも1つを示す。4人の患者(100411、101120、200336、及び400109)は、FCGR3A対立遺伝子(F176V[T→G])についてホモ接合であった。この対立遺伝子は、抗体療法において奏効率及び無増悪生存期間を増大させると報告されている。12人の患者は、FCGR2A対立遺伝子(H131R[T→C])についてホモ接合であり、更に10人の患者は、C1QA対立遺伝子([276A→G])についてホモ接合である。これらのSNPの両方は、抗体療法に負に影響することが実証されている。合計で、21人の患者がFCGR2A対立遺伝子(H131R[T→C])又はC1QA対立遺伝子([276A→G]についてホモ接合である(患者100511は、両SNP対立遺伝子についてホモ接合である)。
【0400】
上記知見の患者の疾患進行との相関は、IMAB362処置に関するFc受容体及び補体系多型の役割の洞察をもたらすことができる。
【0401】
患者における疾患の進行及び抗体処置の効力は、胃がん感受性、がん進行、又はがん処置のリスク因子として記述されるSNPの蓄積によって影響され得る。調査した51個のSNPの中で、最大で43個のSNPが、「リスク」対「非リスク」遺伝子型としてそれぞれのSNP遺伝子型の分類を可能にする。患者1人当たりのホモ接合SNPリスク因子遺伝子型の数をカウントした。その理由は、これらが最も関連したリスク対立遺伝子として一般に記述されているためである。患者1人当たりの調査したSNPリスク因子の数に関する、患者1人当たりのホモ接合リスク遺伝子型の数の相対頻度を
図2に表す。
【0402】
患者1人当たりの調査したリスク遺伝子型の14~46%の蓄積が観察される。この広い分布は、患者1人当たりのSNPリスク遺伝子型の蓄積が患者の臨床転帰と相関するか否かを調査することを可能にする。
【0403】
要約すると、54人の患者のうち53人が、51個のSNPについて順調に遺伝子型同定された。51個のSNPのうち49個が、バリアントSNP対立遺伝子パターンを示し、SNP遺伝子型頻度の有意なシフトについて患者亜集団の分析を可能にする。抗体療法の調節因子として記述されるホモ接合Fc受容体及び補体系多型が、53人の患者のうち23人において発見される。患者1人当たりの調査したリスク遺伝子型の14~46%の蓄積が観察される。
【0404】
(実施例2)
SNP遺伝子型同定の臨床結果との相関
臨床転帰の遺伝的多型の遺伝子型との相関の目的は、患者の臨床転帰を予測する推定上のSNPバイオマーカー候補の同定である。この分析において同定される推定上のバイオマーカー候補は、後続の第IIb相試験及び第III相試験において検証されることになる。第IIb相における推定上のバイオマーカー候補の検証は、推定上の予後及び予測SNP候補同士間の区別を可能にする。
【0405】
臨床転帰との各SNPについての相関分析を、2つの規定された第IIa相臨床トライアル患者集団:40人の患者を有する「完全分析セット」集団(FAS)及び21人の患者を有する「パープロトコールセット」集団について独立に行った。
【0406】
患者集団の各臨床転帰群(「応答者」、「非応答者」)についてのそれぞれのSNPの遺伝子型の絶対頻度をSAS Enterprise Guide 6.1によって定量化した。絶対遺伝子型頻度を、臨床転帰及びSNP遺伝子型によって構造化された分割表(3×2又は2×2)において組織化した。使用した標準的な統計的検定は、ピアソンのカイ二乗検定であった。データセットの数値構造によりピアソンのカイ二乗検定を使用できなかった場合、フィッシャーの直接確率検定を、一部の場合では、2×2分割表について適用した。適用した統計的有意性のレベルは、p<0.05であった。相関分析は、統計分析ソフトウェアSAS Enterprise Guide 6.1で実現した。
【0407】
無増悪生存期間に対するSNP遺伝子型の効果を調査するために、カプランマイヤー曲線を各群について計算し、次いで統計的ログランク検定を使用して公式に比較した。適用した統計的有意性のレベルは、p<0.05であった。ログランク統計は、統計分析ソフトウェアSAS Enterprise Guide 6.1で実現した。
【0408】
臨床転帰のSNP遺伝子型同定との相関を実施して推定上の予測又は予後SNPバイオマーカー候補を同定する。相関は、2つの患者集団、FAS集団及びPP集団において試験した。
【0409】
FAS集団は、40人の患者、「応答者」(臨床転帰「部分的緩解」又は「安定疾患」)として確定した12人の患者及び「非応答者」(臨床転帰「疾患の進行」)としての28人の患者を含む。FAS集団の1つの患者試料(100801、非応答者)は、上述したSNP分析に利用不可であり、したがって、相関について分析したFAS患者の最大数は、39人に低減された。PP集団は、10人の応答者患者及び11人の非応答者患者の21人の患者を含む。
【0410】
SNP1つ当たりに調査した患者の数は、20人から39人の間(FAS集団において)及び20人~21人(PP集団において)で異なる。
【0411】
相関分析を上述の通りに行った。合計で、試験した51個のSNPのうち、2つがFAS及びPP集団において臨床転帰との統計的に有意な相関を示す。
【0412】
両集団において臨床転帰とそれぞれのSNP遺伝子型との間で統計的相関を示す2つのSNPは、FCGR2A rs1801274(p=0.0004[PP];p=0.008[FAS])及びIL-10 rs1800896(p=0.042[PP]、p=0.022 [FAS])である(Table 3(表4))。SNP1つ当たりの統計的に検定した患者の数は、これらの2つのSNPのそれぞれについて21人(PP)及び39人(FAS)であった。
【0413】
【0414】
DNMT3A rs1550117[PP、p=0.035]、SMAD4 rs12456284[FAS、p=0.02]、MUC1 rs4072037(FAS、p=0.03)、EGF rs4444903[FAS、p=0.049]、及びCDH1 rs16260[FAS、p=0.049])について示され得るように、5つのSNPは、1つの患者集団(FAS又はPP)において臨床転帰との相関を示す(Table 4(表5))。
【0415】
【0416】
応答者/非応答者患者におけるSNP遺伝子型の過剰又は過少提示を検査すると、統計的に有意な頻度差異についての科学的説明をもたらすことが可能になり得る。
【0417】
2つのSNP、rs11615(ERCC1)及びrs396991(FCGR3A)の遺伝子型は、PP集団における長期の無増悪生存期間(PFS)と相関する(Table 5(表6))。
【0418】
【0419】
SNP1つ当たりの統計的に検定した患者の数は、列挙した9つのSNPのそれぞれについて21人(PP)及び39人(FAS)であった。
【0420】
FCGR2A rs1801274[C/T]:PPでは、ヘテロ接合rs1801274[CT]遺伝子型を保有するすべての患者は、実際に応答者(8)であり、それは、統計的検定の高度に有意なp値(0.0004)において反映されている。すべてのPR患者(4人のうち4人)は、この遺伝子型を表示する。ほとんどの非応答者(73%、11人のうち8人)は、ホモ接合[TT]遺伝子型を示す(Table 6(表7))。この遺伝子型分布パターンは、FAS集団においても同様に見つけることができるが、PP集団においてほど明確でない(Table 7(表8))。FAS集団における何人かの非応答者患者も[CT]遺伝子型を保有し(30%)、それは、あまり顕著ではないが依然として統計的に高度に有意なp値に至る。
【0421】
【0422】
【0423】
生存期間分析FCGR2A rs1801274[C/T]:応答者集団におけるrs1801274遺伝子型[CT]の高度に有意な過剰提示も、長期の無増悪生存期間(PFS)時間との相関に反映されると予期される。実際に、両集団PP(
図3)及びFAS(
図4)において、[CT]遺伝子型は、同様に高度に有意に長期のPFS(PP p=0.0007、FAS p=0.03)と相関する。しかし、最初の60処置日の間、[TT]遺伝子型を有するFAS患者が、[CC]又は[CT]遺伝子型を有する患者よりPFS率が高くなる傾向を示すことは興味深い。したがって生存期間分析により、rs1801274(FCGR2A)が予測又は予後の特質の高度に興味深い推定上のバイオマーカー候補であると確認される。
【0424】
IL-10 rs1800896[A/G]:PPでは、非応答者患者の誰もホモ接合rs1800896[GG]遺伝子型を保有しない(Table 8(表9))。この遺伝子型は、応答者患者において上昇した頻度(40%)で見つかる(10人のうち4人)。10人の応答者のうち1人のみ (10%)が、[AA]遺伝子型を示し、残りの応答者は、ヘテロ接合[GA]遺伝子型を示す。FASでは、同等の遺伝子型頻度分布を観察することができるが(Table 9(表10))、[GG]遺伝子型は、低頻度で(11%、27人のうち3人)この集団における非応答者患者において観察することができる。
【0425】
【0426】
【0427】
生存期間分析rs1800896(IL-10)[A/G]:rs1800896[GG]遺伝子型は、応答者患者において有意に過剰提示される。[GG]遺伝子型のPFSとの統計的相関は、PP及びFAS集団において、[GG]遺伝子型は、PFSと有意に相関しないことを示す(PP p=0.27(
図5);FAS p=0.08(
図6))。しかし、FAS生存期間相関のp値は、有意性と境を接しており、それは、統計的なノイズが低減されたより大きい集団では、有意性に十分到達され得る徴候であり得る。全体的に、rs1800896(IL-10)は、興味深い推定上のバイオマーカー候補である。
【0428】
DNMT3A rs1550117[G/A]:PPでは、4人の応答者(40%)は、[GA]遺伝子型を示し、一方、非応答者のすべては、[GG]遺伝子型を示す(p=0.03、Table 10(表11))。
【0429】
【0430】
生存期間分析rs1550117(DNMT3A)[G/A]:rs1550117[GA]遺伝子型は、PP集団の応答者患者において有意に過剰提示される。FAS集団では、[GA]キャリアと[GG]キャリアとの間のPFSの差異は、ボーダーライン上の有意性のものであった(FAS p=0.058)(
図7)。
【0431】
FAS集団では、1人の患者のみが[AA]遺伝子型のキャリアである。
【0432】
SMAD4 rs12456284[G/A]:FASでは、[AA]及び[GG]遺伝子型に対する[GA]遺伝子型の統計的に有意な過剰提示(12人の患者のうち7人、58%)を応答者集団において見つけることができる(p=0.023、Table 11(表12))。FAS非応答者集団では、[GA]遺伝子型の頻度は、19%の頻度で見つけることができる(27人の非応答者うち5人)。PP集団では、この関連性は、傾向の有意性によって示される(p=0.081、データを示さず)。
【0433】
【0434】
生存期間分析rs12456284(SMAD4)[G/A]:rs12456284[GA]遺伝子型は、FAS応答者患者において有意に過剰提示され、PP応答者において同じ傾向を示す。rs12456284遺伝子型のPFSとの統計的相関は、PP集団において、[GA]遺伝子型は、Gehan-Breslow-Wilcoxon検定を使用するとPFSと有意に相関し(PP p=0.048)(
図8)、一方、ログランク検定を使用する有意性はp=0.35であることを示す。Gehan-Breslow-Wilcoxon検定は、ログランク検定より早期の時点でPFS事象により多くのウェートを与え、実際に、[GA]キャリアと[AA]キャリアとの間の差異は、この第IIa相臨床トライアルのそれぞれの最初の100日の間で最も顕著である。FAS集団では、[GA]遺伝子型は、PFSと有意に相関しないが(p=0.20(ログランク)、p=0.23(Gehan-Breslow-Wilcoxon))、目視検査は、[GA]キャリアでPFSが長期になる傾向を示唆する。
【0435】
MUC1 rs4072037[A/G]:FASでは、応答者集団において67%という最高頻度で見つかるrs4072037遺伝子型は、[AA]であり(12人のうち8人)、一方、非応答者は、患者の26%(27人のうち7人)のみでこの遺伝子型を表示する。応答者患者の誰もホモ接合[GG]遺伝子型を示さず(Table 12(表13))、一方、非応答者は、22%の割合で(27人のうち6人)[GG]遺伝子型を示す。応答者及び非応答者FAS患者におけるこの差次的な遺伝子分布は、統計的に有意である(p=0.03)。同等の遺伝子型分布パターンがPP集団において見つかり(データを示さず)、この場合応答者は、FAS集団と同様に、70%というほぼ同じ相対[AA]遺伝子型頻度を示す(傾向の有意性p=0.11)。
【0436】
【0437】
生存期間分析rs4072037(MUC1)[A/G]:応答者患者におけるrs4072037遺伝子型[AA]の有意な過剰提示は、この遺伝子型のPFSとの相関を示し得る。統計的検定は、PP及びFAS集団において、[AA]遺伝子型がPFSと有意に相関することを明らかにする(PP p=0.001(
図9);FAS p=0.02(
図10))。この生存期間分析により、rs4072037(MUC1)が非常に興味深い推定上の予測又は予後バイオマーカー候補として確認される。
【0438】
EGF rs4444903[G/A]:FASでは、rs4444903遺伝子型[AA]は、非応答者集団(27人のうち3人;11%)と比較して応答者集団(12人のうち5人;42%)において有意に過剰提示される(p=0.049)(Table 13(表14))。PP集団では、この非対称分布は、統計的に有意でない(p=0.32、データを示さず)。
【0439】
【0440】
生存期間分析rs4444903(EGF)[G/A]: PP又はFAS集団におけるrs4444903[AA]遺伝子型のPFSとの相関は、統計的に有意でない(FAS p=0.1; PP p=0.16)。しかし、PFSが長期になる傾向をPP及びFAS集団の両方において観察することができる(
図11)。
【0441】
CDH1 rs16260[C/A]:FASでは、rs16260遺伝子型[AA]は、非応答者集団(27人のうち3人; 11%)より応答者において(12人のうち5人; 42%)有意により高い頻度で見つかる(p=0.049、Table 14(表15))。PPでは、両患者群間のこの非対称分布は有意でない(p=0.72、データを示さず)。
【0442】
【0443】
生存期間分析rs16260(CDH1)[C/A]:PFSとのrs16260(CDH1)遺伝子型[AA]相関は、FAS集団において統計的有意性と境を接する(ログランク検定p=0.065、Gehan-Breslow-Wilcoxon検定p=0.032)(
図12)。
【0444】
ERCC1 rs11615[C/T]:PPでは、応答者集団におけるrs11615遺伝子型[TT]のより高い頻度の傾向(10人のうち3人;30%)が見つかる(p=0.068;非応答者集団(0%))。逆に、ホモ接合[CC]遺伝子型は、非応答者集団においてのみ見つかる(2人の患者)(Table 15(表16))。
【0445】
【0446】
生存期間分析rs11615(ERCC1)[C/T]:rs11615[TT]遺伝子型は、PP集団中の応答者集団においてもっぱら見つかる。rs11615遺伝子型のPFSとの統計的相関は、PPにおけるrs11615遺伝子型がPFSと高度に有意に相関することを示し、[CT]及び[TT]キャリアは、[CC]キャリアと比較して長期の生存期間を示す(PP p=0.0001)(
図13)。この顕著な有意値にもかかわらず、PPにおいて[CC]遺伝子型を有する患者はわずか2人であり、及び[TT]遺伝子型を有する患者は3人であることに留意されるべきである。しかし、FAS集団において、同じ効果を傾向として観察することができ(FAS p=0.13、データを示さず)、効果は、より大きい患者集団にも有効であることを示唆する。
【0447】
生存期間分析FCGR3A rs396991[T/G]:PP又はFASのいずれにおいても、SNP rs396991の遺伝子型は、臨床転帰と相関しない(FAS p=0.49;PP p=0.29、データを示さず)。しかし、PP集団における生存期間分析は、遺伝子型[TG]及び[TT]を有する患者は[GG]と比較してPFSの改善を示すことを高い統計的有意性を伴って示す(p=0.0007、
図14)。この効果は、FAS集団においても観察することができる(p=0.25;データを示さず)。PP集団について受けた有意値にもかかわらず、3人のPP患者のみが[GG]キャリアであることに留意されるべきである。
【0448】
(実施例3)
付随する免疫多型分析の考察
この臨床第IIa相トライアルの主目的は、胃食道腺癌を有する患者における治療的抗CLDN18.2単核抗体(mononuclear antibody)IMAB362の安全性及び効力の評価であった。更に、遺伝的免疫応答多型に対する付随する分析を実施して、IMAB362療法との相関において潜在的な予測又は予後バイオマーカーとして機能を果たし得るパラメータを評価した。
【0449】
説明的免疫多型分析の考察
患者のゲノムにおける遺伝的多型は、治療抗体の奏効率を変更することが示されている。奏効率に対する個々の遺伝子の変動の影響を調査するために、免疫応答及び胃がん感受性又は進行における公知の又は推定される役割を有する51個の一塩基多型(SNP)の遺伝子型を患者において判定した。
【0450】
本試験では、51個のSNPを、試験した54人の患者うち53人について順調に遺伝子多型同定した。対照集団と比較した患者集団における遺伝子型頻度の統計的に有意なシフトを5つのSNPについて検出することができた。これらのSNPのうち4つは、がん/胃がん感受性と関連していることが以前に示されている。これらの4つのSNPのそれぞれのがん/胃がん関連遺伝子型は、進行したGCを有する患者集団において予期されるように、試験集団において過剰提示される。それぞれのホモ接合遺伝子型の過剰提示は、遺伝子活性の増強とは対照的に損なわれた遺伝子機能に影響を与える劣勢の作用機序を示し得る。これは、公開データによって強調され、例えば、CDH1中のSNP rs16260の胃がん関連AA遺伝子型は、-160におけるCDH1のプロモーター中のその位置に起因してCDH1発現の下方調節を引き起こすことが報告されている。
【0451】
免疫シグナル伝達に関与している遺伝子中の多型を、これらの多型が胃がんリスク因子として以前に記述されていなかった場合でも調査した。免疫シグナル伝達因子をコードする遺伝子中の遺伝的多型は、有意に胃がんを発生させるリスクをモジュレートすることが示されている。したがって、抗体ベースがん療法の奏効率は、これらのSNPによって同様に影響され得る。
【0452】
患者集団における過剰提示されたIL-2遺伝子型GG(SNP rs2069762)は、ピロリ菌(H. pylori)感染によって誘導される胃萎縮のリスクの増大と関連しており、胃がんの素因となり得る。CTLA4 SNP rs231775及びrs2274223(PLCE1)遺伝子型は、GC感受性リスク因子として記述されている。しかし、rs231775に関する公開された試験は、遺伝子型の配列について矛盾するので、いかなる結論もここで引き出されない。
【0453】
Fcγ受容体及び補体系多型を本試験で調査した。Val/Val[GG]をコードするおそらく有益なFCGR3A遺伝子型が4人のAPT患者において検出され、潜在的に負の影響を有するFCGR2A遺伝子型(Arg/Arg)[CC]を12人のAPT患者において検出することができる。
【0454】
第2のエフェクター機構としてのCDCは、同様にSNP多型によって影響されることが実証されている:補体成分C1qA中の多型の対立遺伝子キャリア([276A->G]、rs172378)は、濾胞性リンパ腫のリツキシマブ療法後の長期の応答を示す。遺伝子型「GG」を有するC1QA中の補体系多型が10人の患者において検出され、おそらく負に応答に影響している。しかし、補体成分C1S中のSNP多型rs12146727は、これまでのところ、抗体療法又はがんに関連していないスクリーニングにおいてのみ記述されている。
【0455】
患者と対照集団との間の有意な遺伝子型頻度シフトの同定は、SNP遺伝子型頻度シフトが臨床試験における予測及び予後マーカーとして機能を果たし得ることを実証する。
【0456】
SNPリスク対立遺伝子の蓄積は、同様に患者の臨床転帰に対する影響を有し得る。このような分析を可能にするために、ホモ接合SNPリスク遺伝子型の数を患者1人当たりでカウントした。これらの数の療法応答との相関は、SNPリスク因子蓄積の役割の洞察を与え得る。
【0457】
SNP遺伝子型同定の臨床転帰との相関の考察
FCGR2A rs1801274:
過剰又は過少提示されるFCGR2A遺伝子型の検査は、PP集団において、ヘテロ接合rs1801274遺伝子型[CT]を有するすべての患者は、応答者患者であり、部分奏効(PR)を有する患者は、この遺伝子型をもっぱら保有することを明らかにする。非応答者集団において過剰提示されるホモ接合遺伝子型は、[TT]である。これらの頻度分布の単なる観察結果は、[CT]遺伝子型が有益であるか否か又は[TT]が不利であるか否かの結論を可能にしない。SNP遺伝子型の影響を調査するほとんどの試験では、それぞれのホモ接合遺伝子型は、最強の生物学的効果を示し、遺伝子活性の増強とは対照的に両方の対立遺伝子の損なわれた遺伝子機能を反映する劣性作用機序を多くの場合示す。SNP対立遺伝子が遺伝的活性を増大させる場合では、生物学的効果の段階的効果を多くの場合観察することができる:1つの対立遺伝子(即ち、ヘテロ接合)は、遺伝子活性を増大させ、2つの対立遺伝子(即ち、ホモ接合)は、遺伝子活性を更により増大させる。両方の場合において、機能の獲得又は機能の喪失、最強の生物学的/臨床効果が、ホモ接合遺伝子型を有する患者において通常観察される。この仮定の下で、PP及びFAS集団中の非応答者集団におけるホモ接合[TT]遺伝子型の過剰提示は、不利な効果を引き起こす。
【0458】
しかし、これは、予想外であり、その理由は、rs1801274 FCGR2A[TT]遺伝子型は、PFSに対して延長効果を有する因子としていくつかの臨床試験で記述されているためである。本発明者らの第IIa相臨床トライアルにおいて、FAS非応答者患者における遺伝子型とPFSとの間の連関をより綿密に検査すると、[TT]遺伝子型を有するFAS PD患者は、療法の最初の60日の間に、[CT]遺伝子型を有するFAS PD患者とは対照的に、PFS時間がより長くなる傾向を実際に示すことが示される(Table 7(表8)及び
図4を比較されたい)。この観察結果を、長期のPFSを有する応答者における[TT]の過少提示と一致させる解釈は、2つの異なる分子機構が重なったものであり得る:第1に、rs1801274[CT]遺伝子型は、応答者患者のマーカーであり得る。これは、これまでのところ文献に記載されていない新しい観察結果であり、この遺伝子型がIMAB362での処置の予測マーカーであることを示唆し得る。この新しい観察結果の基礎をなす分子機構は、未だ解明されていない。
【0459】
第2の観察結果は、他の治療抗がん抗体について文献に既に記載されており、FCGR2A[TT]遺伝子型を保有する患者の長期のPFSである。本発明者らの第IIa相試験では、この効果は、非応答者患者における傾向としてのみ観察可能な仮定された第1の機構が重なることに起因する。機構的に、第2の観察結果は、IgG1抗体のホモ接合FCGR2A 131 Arg/Arg受容体対立遺伝子([CC]遺伝子型によってコードされる)へのより弱い結合親和性とは対照的に、FCGR2A 131 His/His受容体対立遺伝子([TT]遺伝子型によってコードされる)への増大した結合親和性によって説明することができる:系統的にFcγ受容体多型の影響を調査する試験において、IgG1アイソタイプの抗体は、R131より高い親和性を有するFcγ受容体IIA、H131の2つの対立遺伝子形態に異なる親和性で実際に結合することが最近示された。IgG抗体のFCGR2A受容体対立遺伝子への差次的な親和性は、エフェクター機構の誘因率、したがって高親和性受容体対立遺伝子を保有する患者にける長期のPFSに影響すると一般に仮定される。この仮説を支持するデータは、Fcγ受容体多型FCGR2A H131R及びFCGR3A F176V(Phe>Val、rs396991)が転移乳がん患者におけるトラスツズマブベースIgG1抗体療法の臨床的効力に影響を有し得ることを示す報告によって提供されている。遺伝子型FCGR3A 176 Val/Val及びFCGR2A 131 His/Hisを有する患者は、有意により良好な奏効率及び無増悪生存期間を示した。同じ多型は、B細胞リンパ腫を有するリツキシマブ(IgG1)処置患者の奏効率にも関連している。別の試験では、セツキシマブ(IgG1)療法後の長期のPFSを、FCGR3A 176 Val/Val遺伝子型に関連付けることができた。
【0460】
よく議論されるように、論じた抗体についてFcγ受容体多型と生存期間、奏効率、又は無増悪生存期間との間に関連性がないことを報告する最近の十分強化された試験が存在する。乳がん国際研究グループ(BCIRG)のBCIRG-006トライアルにおいて、1218人の患者が、2つのトラスツズマブ含有アーム及び非トラスツズマブ対照アームを用いてランダム化試験において処置された。Fcγ受容体多型とトラスツズマブ効力との間の上記に報告された関連性は、確認することができなかった。濾胞性リンパ腫における化学療法と組み合わせたリツキシマブを使用した460人の患者での長期試験は、Fcγ受容体多型の無増悪生存期間との関連性がないことを報告した。患者がフルダラビン及びシクロホスファミド(FC)、又はリツキシマブ+FCを受けた419人の患者でのREACHトライアルでは、FCGR2A及びFCGR3A多型は、転帰に有意に影響を及ぼさなかった。最近のセツキシマブトライアルも一貫性のない知見を生じ、有用なバイオマーカーとしてFcγ受容体多型を推奨しなかった。これは、本質的な集団要因又は同時の化学療法レジメンにおける差異を反映し得る。
【0461】
MUC1 rs4072037:
MUC1は、ムチンファミリーの膜貫通糖タンパク質である。ムチンは、オリゴ糖及びn-グリカン鎖で広範にN末端細胞外ドメイン内でO-グリコシル化されている高分子量タンパク質である。ムチンは、気道及び胃腸管並びに肝臓、膵臓、及び腎臓の導管を裏打ちしている上皮の頂端表面上で発現される。膜貫通型ムチンは、1つのαヘリックスで膜の内外にまたがり、これらの糖鎖に細胞外空間に対する保護裏層を提供する。細胞外空間内に分泌されるムチンは、粘液ゲル層を構成し、上皮の追加の物理的保護として機能を果たす。
【0462】
膜貫通型MUC1並びに分泌されるムチンMUC5C及びMUC6は、胃内で発現される主なムチンである。MUC1は、自己切断を受けやすい単一ポリペプチド鎖として翻訳される。N末端細胞外ドメイン(MUC1-N)は、膜貫通型/細胞質内ドメインに最初に非共有結合的に接続されたままである(MUC1-C)。この細胞質内ドメインは、シグナル伝達ドメインとして機能を果たし、それは、核に入り、いくつかの転写因子と会合して直接的に遺伝子発現を活性化することできる。細胞ストレスは、第2のタンパク質分解部位を介してMUC1-N及びMUC1-Cドメインをタンパク質分解的に切断させ得る。これは、がん細胞内にも観察することができ、そこでMUC1は、細胞の頂端膜で秩序的な様式でもはや発現されないが、細胞全体にわたって過剰発現及び局在化されて見つかる場合がある。細胞外ドメイン(CA15-3としても公知)の細胞外空間内への脱落及びMUC1-Cの細胞内局在化が結果である。細胞質内シグナル伝達ドメインは、例えば、Wnt/β-カテニンシグナル伝達の活性化及びアポトーシス経路の遮断によって発癌遺伝子として作用する。
【0463】
しかし、MUC1の細胞外ドメインは、静的な構造成分であるだけでなく、細胞膜においてシグナル伝達事象中に重要な役割を果たす。MUC1細胞外ドメインのグリコシル化及び発現状態は、膜シグナル伝達分子と細胞外マトリックスとの相互作用を調節することが実証された。腫瘍細胞内のグリコシル化不十分のMUC1-Nは、ICAM-1又はE-セレクチンとしての膜分子とMUC1コアタンパク質との間のシグナル伝達を増大させることが報告された。更に、ムチン発現及びグリコシル化状態は、膜関連分子を遮蔽するように思われる。がん細胞では、ムチン発現によるHER2タンパク質の遮蔽は、トラスツズマブ療法に対する可能性がある耐性機構として記述されている。
【0464】
MUC1多型rs4072037「A」対立遺伝子は、胃がん感受性のリスク因子として記述されている。この多型は、エクソン2におけるG->A交換であり、正確にMUC1の予測されたシグナルペプチド切断部位においてMUC1の代替スプライシングをもたらす。シグナルペプチドの不十分な切断は、異常MUC1タンパク質局在化又はグリコシル化パターン、したがって欠損したタンパク質機能に至り得る。
【0465】
この第IIa相臨床トライアルにおいて、rs4072037[AA]遺伝子型は、応答者集団と統計的に関連していることが判明した。MUC1のグリコシル化不十分又は低発現の[AA]対立遺伝子形態は、がん細胞上で発現される膜標的分子CLDN18.2へのIMAB362のより良好なアクセスを可能にし、したがって治効を促進すると推測することができる。これにより、rs4072037は予測バイオマーカーになるはずである。
【0466】
IL-10 rs1800896:
IL-10は、多面発現機能を有する免疫系の重要な調節因子である。IL-10は、マクロファージ依存性抗原特異的T細胞増殖及びT細胞によるサイトカインのマクロファージ依存性産生を阻害することによって抗炎症性、免疫抑制性サイトカインとして作用することが公知である。しかし、IL-10は、B細胞、顆粒球、及び肥満細胞分化及び増殖、並びにNK細胞及びCD8+ T細胞活性化を増強する免疫賦活性サイトカインとしても記述されている。IL-10の多面発現能は、Th2細胞、Treg細胞、Th3細胞、NK T細胞、B細胞、マクロファージ、及び樹状細胞を含めた多くの免疫細胞型におけるIL-10の広範な発現によっても反映される。IL-10のこの二重の役割は、腫瘍促進及び腫瘍阻害能において反映される:マクロファージとしての腫瘍細胞又は腫瘍浸潤免疫細胞によって分泌されるIL-10は、腫瘍細胞が部分的にのみ明らかにされている機構によって免疫学的監視から逃れることを可能にする。記載された1つの機構は、IL-10のような免疫調節性サイトカインの発現を介して末梢性寛容の誘導に寄与するTreg細胞を伴う。報告された別の機構は、樹状細胞による腫瘍関連抗原の交差提示の阻害、したがってT細胞が腫瘍細胞に対する有効な免疫応答を開始することの防止である。一方、悪性腫瘍細胞をIL-10に曝露すると、HLAクラスIタンパク質が下方調節され、NK細胞細胞傷害性に対する感受性が増大する。
【0467】
位置(-1082)におけるIL-10プロモーター多型rs1800896は興味深く、その理由は、「G」対立遺伝子が胃がんリスク因子及び腎がんリスク因子として報告されているためである。この多型の「G」対立遺伝子は、「A」対立遺伝子と比較してIL-10発現の減少とin vitroで関連付けられることが報告されている。この第IIa相臨床トライアルの応答者患者では、rs1800896の[GG]遺伝子型は、過剰提示され、IL-10のより低い相対的発現レベルをおそらく示す。[GG]遺伝子型を保有する患者は、より低いIL-10発現を有し、それはひいては、腫瘍細胞が上述した機構の1つによって免疫学的監視から逃れるのをより困難にし得ると推測することができる。実際に、12人のFAS応答者患者のうちの誰も、FAS非応答者患者の22%(測定した27人のうち6人)とは対照的にIL-10血清レベルの上昇を示さない。しかし、他の著者は、「A」対立遺伝子は、IL-10発現の減少と関連していると述べている。
【0468】
IL-10は、細胞内メディエーターStat3によってシグナル伝達し、Stat3活性化は、MUC1-Cに依存することにも留意されるべきである。したがって、MUC1とIL-10との機能的相互作用は、これらの分子がともにこの第IIa相臨床トライアルにおける統計的に有意なバイオマーカー候補であると証明された理由であり得る。最後に、FCGR2Aは、腫瘍微小環境におけるIL-10の主要源であることが多いマクロファージ上で発現される。これらの推定上のバイオマーカー候補が進行中及び将来の試験において普及する場合、これらの因子の機能的相互作用の調査は、非常に興味深いものとなり得る。
【0469】
rs1550117 (DNMT3A):
rs1550117は、メチル基のエピジェネティック修飾を誘導するDNA中の特異的CpG構造への移動を触媒する酵素DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ3AをコードするDNMT3A遺伝子中のSNPである。遺伝子型[AA]は、[GG]又は[GA]と比較して胃がんのリスクを増大させることが示されている。本試験では、[AA]は、FAS集団中のわずか1人の患者において見つけることができ、PP集団の患者において見つけることができなかった。これは、[AA]がまた、生存のリスクも付与し、この第IIa相臨床トライアルにおける[AA]キャリアのサード及びフォースライン処置を妨げることを示し得る。[GA]がPPにおける臨床転帰と有意に相関するという知見は、このマーカーがIMAB362処置の予測バイオマーカーとしての潜在性を保持することを示唆する。
【0470】
rs12456284 (SMAD4):
rs12456284は、細胞内TGFβ/BMPシグナル伝達コトランスデューサー(co-transducer)「マザーズアゲインストデカペンタプレジック相同体4」をコードするSMAD4遺伝子中のSNPである。[GG]遺伝子型が胃がんのリスクを有意に減少させたことが公開されている。FAS応答者集団における[AA]遺伝子型に対するヘテロ接合[GA]遺伝子型の統計的に有意な過剰提示は、この遺伝子型が予測バイオマーカーとして機能を果たし得ることを示唆する。[GA]を担持するPP集団の患者の長期のPFSは、サポート事実である。
【0471】
rs4444903 (EGF):
EGF遺伝子のプロモーター領域内の機能的多型rs4444903は、EGFタンパク質レベルをモジュレートすることが観察され、より高い量のEGF因子が[GG]キャリアの血清中で検出された。この多型のG対立遺伝子及び[GG]遺伝子型は、メタ分析において消化器がんのリスクの増大との有意な相関を示した。
【0472】
この第IIa相臨床トライアルでは、遺伝子型[AA]は、FAS応答者において有意に過剰提示され、この遺伝子型を有する患者は、FAS及びPP集団においてPFSが長期になる傾向を示す。これは、rs4444903[AA]遺伝子型が予測又は予後バイオマーカーであることを示し得る。
【0473】
rs16260 (CDH1):
細胞接着タンパク質カドヘリン1(E-カドヘリン)は、カルシウム依存性カドヘリンスーパーファミリーのメンバーである。機能の喪失は、がんの進行に関与している。CDH1プロモーター内のrs16260[A]対立遺伝子は、カドヘリン1の転写効率を低減することが実証されている。更に、CDH1の-160A対立遺伝子は、胃がんの発生の感受性因子として記載されている。
【0474】
本試験では、rs16260[AA]遺伝子型キャリアは、FAS応答者において統計的に過剰提示される。これは、[AA]遺伝子型が推定上の予測バイオマーカーであることを示唆し得る。
【0475】
rs11615(ERCC1)及びrs396991(FCGR3A):
2つのSNP rs11615(ERCC1、DNA修復タンパク質「除去修復交差相補群1」)及びrs396991(FCGR3A、低親和性免疫グロブリンガンマFc領域受容体III-A)はともに、遺伝子型(ERCC1[TT]、FCGR3A[TG]、及び[TT])の長期のPFSとの相関を示す。これは、これらのSNPが予測又は予後バイオマーカーであることを示唆し得る。
【0476】
【0477】
新規国際特許出願
Ganymed Pharmaceuticals AGら
「がん処置の治療有効性及びがん予後を予測するための方法及び組成物」
当社のリファレンス: 342-85 PCT
生体物質についての追加のシート
さらなる寄託の識別:
1)寄託物(DSM ACC2738、DSM ACC2739、DSM ACC2740、DSM ACC2741、DSM ACC2742、DSM ACC2743、DSM ACC-2745、DSM ACC2746、DSM ACC2747、DSM ACC2748)の寄託機関の名称及び住所:
DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH
Mascheroder Weg 1b
38124 Braunschweig
DE
2)寄託物(DSM ACC2808、DSM ACC2809、DSM ACC2810)の受託機関の名称及び住所:
DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH
Inhoffenstr. 7 B
38124 Braunschweig
DE
【0478】
【0479】
すべての上述した寄託物についての追加の表示:
- マウス(Mus musculus)脾細胞に融合したマウス(Mus musculus)骨髄腫P3X63Ag8U.1
- ヒトクローディン-18A2に対するハイブリドーマ分泌抗体
3)寄託者:
すべての上述した寄託は下記によって行われた。
Ganymed Pharmaceuticals AG
Freiligrathstrasse 12
55131 Mainz
DE