IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

<>
  • 特開-超塑性複合セラミックス 図1
  • 特開-超塑性複合セラミックス 図2
  • 特開-超塑性複合セラミックス 図3
  • 特開-超塑性複合セラミックス 図4
  • 特開-超塑性複合セラミックス 図5
  • 特開-超塑性複合セラミックス 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040327
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】超塑性複合セラミックス
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/053 20060101AFI20230315BHJP
   C04B 35/488 20060101ALI20230315BHJP
   C04B 35/443 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
C04B35/053
C04B35/488
C04B35/443
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147250
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】平賀 啓二郎
(72)【発明者】
【氏名】金 炳男
(72)【発明者】
【氏名】森田 孝治
(72)【発明者】
【氏名】目 義雄
(57)【要約】
【課題】 1400℃以下の温度域で1×10-3/s以上のひずみ速度で超塑性を発現するセラミックスを提供すること。
【解決手段】 本発明の超塑性複合セラミックスは、マグネシア相と、スピネル相と、正方晶ジルコニア相とを含有し、体積率で、マグネシア相が5%以上80%以下の範囲であり、スピネル相が5%以上90%以下の範囲であり、記正方晶ジルコニア相が1%以上50%未満の範囲であり、マグネシア相とスピネル相と正方晶ジルコニア相との合計が、体積率で90%以上を満たし、スピネル相は、アルミニウム(Al)を含有し、MgO-TiO系スピネルを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシア相と、スピネル相と、正方晶ジルコニア相とを含有し、体積率で、
前記マグネシア相が5%以上80%以下の範囲であり、
前記スピネル相が5%以上90%以下の範囲であり、
前記正方晶ジルコニア相が1%以上50%未満の範囲であり、
前記マグネシア相と前記スピネル相と前記正方晶ジルコニア相との合計が、体積率で90%以上を満たし、
前記スピネル相は、アルミニウム(Al)を含有し、MgO-TiO系スピネルを含む、超塑性複合セラミックス。
【請求項2】
前記スピネル相は、MgO-Al系スピネルをさらに含む、請求項1に記載の超塑性複合セラミックス。
【請求項3】
前記スピネル相中の前記MgO-TiO系スピネルに対する前記MgO-Al系スピネルの体積比は、1以上9以下の範囲である、請求項2に記載の超塑性複合セラミックス。
【請求項4】
前記スピネル相中の前記MgO-TiO系スピネルに対する前記MgO-Al系スピネルの体積比は、1.5以上4以下の範囲である、請求項3に記載の超塑性複合セラミックス。
【請求項5】
前記マグネシア相は10%以上70%以下の範囲であり、
前記スピネル相は20%以上80%以下の範囲であり、
前記正方晶ジルコニア相は5%以上40%以下の範囲である、請求項1~4のいずれかに記載の超塑性複合セラミックス。
【請求項6】
前記正方晶ジルコニア相は、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、セリウム(Ce)、および、カルシウム(Ca)からなる群から少なくとも1種選択される元素を含有する、請求項1~5のいずれかに記載の超塑性複合セラミックス。
【請求項7】
前記マグネシア相、前記スピネル相および前記正方晶ジルコニア相からなる群から少なくとも1つの相は、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、および、ニッケル(Ni)からなる群から少なくとも1種選択される元素を含有する、請求項1~6のいずれかに記載の超塑性複合セラミックス。
【請求項8】
前記選択される元素の含有量は、0.1mol%以上10mol%以下の範囲である、請求項7に記載の超塑性複合セラミックス。
【請求項9】
マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、カルシウム(Ca)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1種選択される元素の、酸化物、ケイ化物、炭化物、窒化物、および、硫化物からなる群から選択される少なくとも1種のさらなる相を含有する、請求項1~8のいずれかに記載の超塑性複合セラミックス。
【請求項10】
前記さらなる相は、体積率で1%以上5%以下の範囲で含有される、請求項9に記載の超塑性複合セラミックス。
【請求項11】
前記超塑性複合セラミックスは、焼結体であり、
前記焼結体の結晶粒径は、50nm以上2μm以下の範囲である、請求項1~10のいずれかに記載の超塑性複合セラミックス。
【請求項12】
前記結晶粒径は、50nm以上1μm以下の範囲である、請求項11に記載の超塑性複合セラミックス。
【請求項13】
前記マグネシア相は、30%以上80%以下の範囲であり、
熱伝導率は、10W/mK以上50W/mK以下の範囲である、請求項1~4のいずれかに記載の超塑性複合セラミックス。
【請求項14】
前記マグネシア相は、50%以上80%以下の範囲であり、
熱膨張率は、1.1×10-5/K以上1.3×10-5/K以下の範囲である、請求項1~4のいずれかに記載の超塑性複合セラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超塑性複合セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
微細結晶粒の金属に見られる超塑性がイットリア安定化正方晶ジルコニア(Y-TZP)で発見されて以降、ファインセラミックスを金属のようにニアネットで組成成形する技術への応用が期待されてきた。しかし既存のエンジニアリングセラミックスでは一般に、超塑性の発現には1400℃以上の温度で10-4/s以下の低いひずみ速度が必要である(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
非特許文献1によれば、例えば、ひずみ速度が1.0×10-4/sでは初期長さ10mmの材料を20mmまで延伸加工するのに170分もの時間を要する。産業応用には、1桁高速の1.0×10-3/s(同加工時間17分)、さらに金属系材料で高速超塑性(JIS H 7007:2002)として定義される1.0×10-2/s(同加工時間1.7分)以上の速度で塑性加工できること、また同時にこの特性がより低い温度域で発現することが求められる。
【0004】
このような必要性に対して、Y-TZPを主相あるいは主相の1つとして含む酸化物系セラミックスで、負荷可能なひずみ速度10-3/s以上の超塑性、さらには高速超塑性を発現する材料が開発されている(例えば、非特許文献2、特許文献1~4を参照)。
【0005】
しかし、このような特性が実証的に得られた温度の下限界が1350℃であるのはY-TZP系材料の2例であり、非特許文献2によれば、超塑性発現に1400℃を超えるの高温が必要である。また、既存技術の材料には構成相や成分に起因して、次のような課題がある。
【0006】
すなわち、耐熱・耐火性、耐酸化性、耐高温腐食性などの特長をもつ酸化物系セラミックスをエンジン等のエネルギー発生器機、高温駆動器機、耐熱耐食部品等として用いる場合、接続あるいは接合して組み合わされる金属材料に対して、熱的特性が適合することが重要である。例えば、用途に応じて熱遮断性あるいは逆の熱透過性が求められ、また加熱・冷却時の熱応力発生を抑制するためには熱膨張率の整合性が求められる。
【0007】
しかし、既存技術の超塑性セラミックスでは、適用技術上で重要な熱的特性にも配慮した開発は行われていない。すなわち、従来技術の主眼は超塑性の発現やその高速度化であるために、1400℃以下でひずみ速度10-3/s以上域での超塑性発現と熱特性の制御の両者を可能とする技術にはなっていない。
【0008】
なお、本願明細書では、1.0×10-2/s以上1.0×10-1/s未満の範囲のひずみ速度を高ひずみ速度域、1.0×10-3/s以上1.0×10-2/s未満の範囲のひずみ速度を中ひずみ速度域、1.0×10-3/s未満の範囲のひずみ速度を低ひずみ速度域と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-146469号公報
【特許文献2】特開2004-107156号公報
【特許文献3】特開2001-146465号公報
【特許文献4】特開2004-143039号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Keijiro Hiragaら,Sci.Technol.Adv.Mater.,2007,8,578-587
【非特許文献2】Yoshio Sakkaら,Advanced Engineering Materials,2005,3,130-133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上より、本発明の課題は、1400℃以下の温度域で1×10-3/s以上のひずみ速度で超塑性を発現し、熱的特性を制御可能な超塑性複合セラミックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による超塑性複合セラミックスは、マグネシア相と、スピネル相と、正方晶ジルコニア相とを含有し、体積率で、前記マグネシア相が5%以上80%以下の範囲であり、前記スピネル相が5%以上90%以下の範囲であり、前記正方晶ジルコニア相が1%以上50%未満の範囲であり、前記マグネシア相と前記スピネル相と前記正方晶ジルコニア相との合計が、体積率で90%以上を満たし、前記スピネル相は、アルミニウム(Al)を含有し、MgO-TiO系スピネルを含み、これにより上記課題を解決する。
前記スピネル相は、MgO-Al系スピネルをさらに含んでもよい。
前記スピネル相中の前記MgO-TiO系スピネルに対する前記MgO-Al系スピネルの体積比は、1以上9以下の範囲であってもよい。
前記スピネル相中の前記MgO-TiO系スピネルに対する前記MgO-Al系スピネルの体積比は、1.5以上4以下の範囲であってもよい。
前記マグネシア相は10%以上70%以下の範囲であり、前記スピネル相は20%以上80%以下の範囲であり、前記正方晶ジルコニア相は5%以上40%以下の範囲であってもよい。
前記正方晶ジルコニア相は、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、セリウム(Ce)、および、カルシウム(Ca)からなる群から少なくとも1種選択される元素を含有してもよい。
前記マグネシア相、前記スピネル相および前記正方晶ジルコニア相からなる群から少なくとも1つの相は、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、および、ニッケル(Ni)からなる群から少なくとも1種選択される元素を含有してもよい。
前記選択される元素の含有量は、0.1mol%以上10mol%以下の範囲であってもよい。
マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、カルシウム(Ca)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1種選択される元素の、酸化物、ケイ化物、炭化物、窒化物、および、硫化物からなる群から選択される少なくとも1種のさらなる相を含有してもよい。
前記さらなる相は、体積率で1%以上5%以下の範囲で含有されてもよい。
前記超塑性複合セラミックスは、焼結体であり、前記焼結体の結晶粒径は、50nm以上2μm以下の範囲であってもよい。
前記結晶粒径は、50nm以上1μm以下の範囲であってもよい。
前記マグネシア相は、30%以上80%以下の範囲であり、熱伝導率は、10W/mK以上50W/mK以下の範囲であってもよい。
前記マグネシア相は、50%以上80%以下の範囲であり、熱膨張率は、1.1×10-5/K以上1.3×10-5/K以下の範囲であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の超塑性複合セラミックスは、マグネシア相と、スピネル相と、正方晶ジルコニア相とを上記範囲を満たすように含有し、スピネル相がアルミニウムを含有し、少なくともMgO-TiO系スピネルを含有することにより、1400℃以下の温度域で1×10-3/s以上の中ひずみ速度域で超塑性を発現できる。組成を調整することにより、熱伝導率および熱膨張率を制御できる。本発明の超塑性複合セラミックスは、組み合わされる金属材料の熱伝導率や熱膨張率との整合性をとることも可能であり、エネルギー発生器機や高温駆動器機等のエンジン部材、産業および民生用の各種加熱器機類の耐熱精密部品に適用され得る。また、絶縁性ならびに特定範囲の放熱性あるいは断熱性、それに熱応力発生抑止が求められる電気・電子機器の基盤や精密部材に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の焼結体である超塑性複合セラミックスを示す模式図
図2】例6の試料のSEMによる反射電子像を示す図
図3】例16の試料のSEMによる反射電子像を示す図
図4】例19の試料のSEMによる反射電子像を示す図
図5】例1~例23の焼結体の温度-ひずみ速度-破断伸びの3軸グラフ
図6】例1~例23の試料の熱膨張率のマグネシア相量依存性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0016】
本発明の超塑性複合セラミックスは、後述する組成を満たすものであれば、形態は問わないが、焼結体、半焼結体、圧粉成形体あるいは粉体を意図する。ここでは、簡単のため、本発明の超塑性複合セラミックスが焼結体である場合を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の焼結体である超塑性複合セラミックスを示す模式図である。
【0018】
本発明の超塑性複合セラミックス100は、マグネシア(MgO)相110と、スピネル相120と、正方晶ジルコニア(ZrO)相130とを含有する。また、スピネル相120は、Alを含有し、少なくともMgO-TiO系スピネルを含有する。このように、本発明の超塑性複合セラミックス100は、特定の結晶相を含有するので、1400℃以下の温度域で1×10-3/s以上の中ひずみ速度域で超塑性を発現できる。
【0019】
ここで、MgO-TiO系スピネルは、少なくとも、Mg、Tiおよび酸素(O)を含有し、スピネル型結晶構造を有するものであればよいが、好ましくは、一般式(Mg,X)TiOで表される。Xは、Mg元素に置換する元素であるが、含有されていてもよいし、含有されなくてもよい。Xは、例えば、アルミニウム(Al)であってよい。Alは超塑性の発現を促進できる。
【0020】
さらに、本発明の超塑性複合セラミックス100は、体積率で、マグネシア相110は、5%以上80%以下の範囲を満たし、スピネル相120は、5%以上90%以下の範囲を満たし、正方晶ジルコニア相130は、1%以上50%未満の範囲を満たし、マグネシア相110とスピネル相120と正方晶ジルコニア相130との合計は、90%以上を満たす。
【0021】
本明細書における体積率は、X線回折測定装置を用いたX線回折パターンの各ピークの積分強度の概算値をピーク強度と半値幅の積に基づき、全ピークの積分強度の和に対する各結晶相のピークの積分強度の比から算出できる。
【0022】
本発明の超塑性複合セラミックス100は、上記組成範囲内で調整されるので、熱伝導率を、3W/mKより大きく50W/mK以下の範囲に制御できる。これは、本発明の超塑性複合セラミックス100の熱伝導率が、ジルコニアセラミックス相当の値から鋼やステンレス鋼相当の値まで制御できることを意味する。特に、マグネシア相110が、体積率で30%以上80%以下の範囲では、熱伝導率を10W/mK以上50W/mK以下の範囲に制御できる。
【0023】
さらに、室温(20℃)から800℃における熱膨張率を、9.5×10-6/K以上1.3×10-5/K以下の範囲に制御できる。これは、フェライト系鉄鋼やステンレス合金の範囲に相当する。特に、マグネシア相110が、体積率で50%以上80%以下の範囲では、上記熱伝導率の制御に加えて、熱膨張率を1.1×10-5/K以上1.3×10-5/K以下の範囲に制御できる。
【0024】
スピネル相120は、好ましくは、MgO-Al系スピネルを含有する。これにより、超塑性の発現を促進し得る。MgO-Al系スピネルは、少なくとも、Mg、Alおよび酸素(O)を含有し、スピネル型結晶構造を有するものであればよいが、好ましくは、MgO・nAl(0.6≦n≦3.5)で表される。
【0025】
スピネル相120中のMgO-TiO系スピネルに対するMgO-Al系スピネルの体積比は、好ましくは、1以上9以下の範囲を満たす。この範囲であれば、1400℃以下の温度域、中ひずみ速度域で超塑性の発現を促進できる。
【0026】
スピネル相120中のMgO-TiO系スピネルに対するMgO-Al系スピネルの体積比は、好ましくは、1.5以上4以下の範囲を満たす。この範囲であれば、1400℃以下の温度域、中ひずみ速度域、さらには高ひずみ速度域で、超塑性の発現を促進できる。
【0027】
本発明の超塑性複合セラミックス100は、好ましくは、体積率で、マグネシア相110は、10%以上70%以下の範囲を満たし、スピネル相120は、20%以上80%以下の範囲を満たし、正方晶ジルコニア相130は、5%以上40%以下の範囲を満たす。この範囲であれば、1400℃以下、さらには1300℃以下の温度域、中ひずみ速度域、さらには高ひずみ速度域で、超塑性の発現を促進できる。
【0028】
本発明の超塑性複合セラミックス100において、正方晶ジルコニア相130は、好ましくは、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、セリウム(Ce)、および、カルシウム(Ca)からなる群から少なくとも1種選択される元素を含有してもよい。これにより、正方晶が安定化し得る。
【0029】
これらの元素の含有量は、好ましくは、0.1mol%以上10mol%以下の範囲である。この範囲であれば、正方晶を維持できる。これらの元素の含有量は、より好ましくは、0.1mol%以上3mol%以下の範囲である。なお、2以上の元素を含有する場合には、2以上の元素の含有量の合計が上記範囲内であればよい。
【0030】
本発明の超塑性複合セラミックス100は、必要に応じて、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、カルシウム(Ca)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1種選択される元素の、酸化物、ケイ化物、炭化物、窒化物、および、硫化物からなる群から選択される少なくとも1種のさらなる相を含有してもよい。硬質な非酸化物相の粒子や繊維の分散により、強靱化および対摩耗性が向上し得る。また、必須とするマグネシア相、スピネル相あるいは正方晶ジルコニア相の熱伝導率と異なる酸化物ないし非酸化物相の粒子の分散により、熱伝特性制御が可能になる。
【0031】
これらのさらなる相は、好ましくは、体積率で1%以上5%以下の範囲である。この範囲であれば、目的とする超塑性特性を損なうことなく、強靱性や対摩耗性の向上あるいは熱伝特性の制御が可能である。
【0032】
上述してきたように、本発明の超塑性複合セラミックス100は、特定の組成を満たすことにより、1400℃以下の温度域で中ひずみ速度において200%以上の引張伸びを達成でき、組成によっては1200℃以上1350℃以下の温度で高ひずみ速度域において200%以上の引張伸びを達成できる。さらに、本発明の超塑性複合セラミックス100は、超塑性を発現しつつ、熱伝導率および熱膨張率を上記範囲に調整できるので、異種のセラミックスや金属材料に対して熱的特性を適合させることができる。
【0033】
このような超塑性複合セラミックスを、例えば、緻密焼結体とした後に超塑性精密加工、緻密化を中断した半焼結体を用いた精密焼結鍛造、また焼結前の粉体や成形体の焼結型鍛造等が可能である。
【0034】
なお、本発明の超塑性複合セラミックスが焼結体または半焼結体である場合、平均結晶粒径は、好ましくは、50nm以上2μm以下の範囲を満たす。これにより、1350℃以下の温度で中ひずみ速度域において200%以上の超塑性の発現を促進できる。平均結晶粒径は、好ましくは、50nm以上1μm以下の範囲を満たす。これにより、1200℃以上1350℃以下の温度で高ひずみ速度域においても超塑性の発現を促進できる。本明細書において、平均結晶粒径(d)は、研磨した焼結体または半焼結体を走査電子顕微鏡などの電子顕微鏡像において平均切片長さLに対して次式で定義した値である。
d=1.56L
【0035】
またこれらの手法を組み合わせて、異種のセラミックスや金属材料との接合、複合材化、積層材化などが可能である。このように本発明の超塑性複合セラミックスは、複雑形状への超塑性成形加工が可能であるだけでなく、組み合わせ使用される金属材料と用途を考慮した熱伝導率の選択制御や熱膨張率の整合性をとることが可能な酸化物系セラミックスとして使用できる。したがって、エンジン等のエネルギー発生器機や高温駆動器機の部材や産業および民生用の各種加熱器機類の耐熱精密部品としての用途が期待できる。また、絶縁性ならびに特定範囲の放熱性あるいは断熱性、それに熱応力発生抑止が求められる電気・電子機器の基盤や精密部材への応用が期待される。
【0036】
次に、本発明の超塑性複合セラミックスの例示的な製造方法を説明する。
【0037】
例えば、本発明の超塑性ジルコニアセラミックスとして、焼結体または半焼結体を製造する場合、金属化合物の原料混合物であって、焼成することにより、上述の組成を構成しうる原料混合物を、1000℃以上1500℃以下の温度範囲で焼成することによって得られる。
【0038】
出発原料として、以下(1)~(3)がある。
(1)ジルコニア(イットリウム添加型ZrO、無添加純ZrO)粉末、マグネシア(MgO)粉末、アルミナ粉末(Al)、スピネル粉末、必要に応じてMg、Y、Hf、Ce、Ca、Cr、Mn、Fe、Co、Al、Ti、および、Niからなる群から少なくとも1種選択される元素を含有する粉末を用いることができる。スピネル粉末がMgO-Al系スピネルとMgO-TiO系スピネルとを含有しない場合は、不足する元素を含有する粉末を加えればよい。例えばもしMgO-TiO系スピネルを用いた場合にはAlを含有する粉末を用い、またMgO-Al系スピネルを用いた場合はTiを含有する粉末を用いればよい。また、Yを含有する粉末に変えて、あらかじめ、Yが添加された正方晶ZrO粉末を用いることができる。
【0039】
(2)Mgを含有する粉末、Zrを含有する粉末、Alを含有する粉末、Tiを含有する粉末、必要に応じて、Y、Hf、Ce、Ca、Cr、Mn、Fe、Co、および、Niからなる群から少なくとも1種選択される元素を含有する粉末を用いることができる。
【0040】
(3)上記(1)および(2)の組み合わせを用いることができる。例えば、スピネル粉末とジルコニア粉末と、Mgを含有する粉末、必要に応じて、Al、Y、Hf、Ce、Ca、Cr、Mn、Fe、Co、および、Niからなる群から少なくとも1種選択される元素を含有する粉末を用いることができる。
【0041】
上記(1)~(3)のいずれの場合も、出発原料中の金属元素の含有量が、上述した組成を満たすように混合すればよい。
【0042】
Mg、Y、Hf、Ce、Ca、Cr、Mn、Fe、Co、Al、Ti、および、Niからなる群から少なくとも1種選択される元素を含有する粉末は、これら選択された元素の金属、酸化物、炭酸塩、窒化物、酸窒化物、塩化物、フッ化物、または酸フッ化物から選ばれる単体または2種以上の混合物であってもよい。
【0043】
このような出発原料を上述の組成を満たすように混合した原料混合物を、成形し、焼成すれば、例えば、焼結体または半焼結体である超塑性複合セラミックスが得られる。成形には金型プレス、冷間静水圧(等方圧)加工法等を採用できる。焼結は、高周波加熱、放電プラズマ焼結(SPS)、常圧焼結、ホットプレス(HP)焼結、および、熱間静水圧加圧(HIP)焼結からなる群から選択される手法によって焼成してよい。常圧焼結を採用した場合、大気中、2段階で焼結してもよい。高周波加熱、放電プラズマ焼結(SPS)等を採用した場合、微細粒化が可能となるため、高ひずみ速度域における限界温度をさらに低下(例えば、1275℃まで)させることが可能である。なお、焼成時間や温度は、焼結手法によって異なってよいが、相対密度が97%以上、好ましくは98%以上となるまで焼成すればよい。
【0044】
例えば、本発明の超塑性複合セラミックスとして粉体を製造する場合、上述の組成を満たすように混合した原料混合物であってよく、圧粉成形体を製造する場合、原料混合物を圧粉成形すればよい。
【0045】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0046】
[例1~例23]
例1~例23では、純ジルコニア粉末(東ソー製)、2~3%モルY添加立方晶ジルコニア粉末(Y-TZP、東ソー製)、Y粉末(日本イットリウム製)、MgO粉末(宇部マテリアルズ製)、TiO粉末(昭和電工製)、Al粉末(大明化学製)、Fe粉末(シグマアルドリッチ製)を適宜用いて、焼結体を製造した。
【0047】
詳細には、表1に示す組成(体積率)となるように、原料粉末を適宜秤量し、ボールミル混合し、乾燥および篩い分けした粉体を圧縮成形し、静水圧プレス(圧力:400Pa)を施した。例1~例23の圧粉成形体を大気中で、表1に示す温度にて2段階焼結した(常圧焼結)。詳細には、高温側温度(初期加熱)に到達後、低温側温度(本焼結)まで炉冷して、8時間~24時間焼結させた。
【0048】
【表1】
【0049】
このようにして得られた焼結体は、いずれも、幅15mm、長さ40mmおよび厚さ5mmの大きさを有し、98%以上の相対密度(アルキメデス法)を有する緻密焼結体であった。例1~例23の焼結体についてX線回折装置(リガク製、型番RINT-2200)を用いて、マグネシア相、スピネル相、正方晶ジルコニアを含有することを同定し、その含有量を調べたところ、表1の設計組成を満たすことを確認した。
【0050】
得られた例1~例23の焼結体について走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテク製、型番SEM-SU8000)を用いて観察した。結果を図2図4に示す。
【0051】
図2は、例6の試料のSEMによる反射電子像を示す図である。
図3は、例16の試料のSEMによる反射電子像を示す図である。
図4は、例19の試料のSEMによる反射電子像を示す図である。
【0052】
図2図4によれば、いずれの試料も、ボイドなどがなく、緻密焼結体であることが分かった。また、平均結晶粒径を算出したところ、いずれも、50nm以上1μm以下の範囲内であった。
【0053】
さらに、図2図4では、電子の吸収量に応じてコントラストの異なる3種類の結晶粒が示されており、黒く示される結晶粒はマグネシア相であり、灰色に示される結晶粒はスピネル相であり、白く示される結晶粒は正方晶ジルコニア相であった。これらの相は均一に分散しており、複合化していた。図示しないが、他の焼結体も同様の様態を示した。
【0054】
例1~例23の焼結体から平行部が幅3.5mm、厚さ3mm、長さ20mmの平板型引張試験片を切り出し、大気中、種々の温度において種々のひずみ速度で高温引張試験を行った。結果を図5および表2に示す。
【0055】
例1~例23の焼結体から同様に平板型試験片を切り出し、熱伝導率を定常法によって、熱膨張率を、純アルミナを基準材とした押し棒法によって測定した。熱膨張率は、室温~800℃の範囲で測定した。これらの結果を表3および図6に示す。
以上の結果をまとめて説明する。
【0056】
図5は、例1~例23の焼結体の温度-ひずみ速度-破断伸びの3軸グラフである。
【0057】
【表2】
【0058】
図5によれば、本発明の複合セラミックスは、1200℃~1400℃の温度域で中ひずみ速度~高ひずみ速度において超塑性を示すことが分かった。図5には、特許文献1~4および非特許文献1~2に示すデータを参考のためプロットした。
【0059】
特に、表2によれば、マグネシア相と、スピネル相と、正方晶ジルコニア相とを含有し、体積率で、マグネシア相が5%以上80%以下の範囲であり、スピネル相が5%以上90%以下の範囲であり、正方晶ジルコニア相が1%以上50%未満の範囲であり、マグネシア相と前記スピネル相と正方晶ジルコニア相との合計が、体積率で90%以上を満たし、スピネル相は、アルミニウム(Al)を含有し、MgO-TiO系スピネルを含む、超塑性複合セラミックスは、1400℃以下の温度域で中ひずみ速度において超塑性を発現することが分かった。
【0060】
組成によっては、1300℃~1350℃で高ひずみ速度において超塑性を発現し、1300℃で2×10-3/sのひずみ速度に着目すると、1000%を超える超塑性破断伸びを示し、1200℃~1250℃においても超塑性の発現が確認された。
【0061】
【表3】
【0062】
表3には、各種材料の熱伝導率の値も併せて示す。表3によれば、本発明の超塑性複合セラミックスは、ジルコニアセラミックスと同等の熱遮蔽性からチタン、ニクロム合金、ステンレス合金ならびに耐熱合金と同等の熱伝導率まで幅広い範囲に制御できることが分かった。
【0063】
図6は、例1~例23の試料の熱膨張率のマグネシア相量依存性を示す図である。
【0064】
図6によれば、熱膨張率は、マグネシア相の量に大きく依存しており、本発明の組成を満たす範囲において、室温~800℃の範囲の熱膨張率を9.5×10-6/K以上12×10-6/K以下の範囲で制御できることが分かった。この範囲は、鋳鉄、炭素鋼、耐熱鋼、SUS400系ステンレスと同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の超塑性複合セラミックスは、上述の組成を有することにより1400℃以下の温度域において1×10-3-1以上のひずみ速度に対して超塑性を発現できるので、産業応用を可能にする。さらに、組成を制御することにより、超塑性を発現しつつ、熱伝導率および熱膨張率の制御を可能とするため、エネルギー発生器機や高温駆動器機等のエンジン部材、産業および民生用の各種加熱器機類の耐熱精密部品、電気・電子機器の基盤や精密部材に適用され得る。
【符号の説明】
【0066】
100 超塑性複合セラミックス
110 マグネシア相
120 スピネル相
130 正方晶ジルコニア相
図1
図2
図3
図4
図5
図6