(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023040431
(43)【公開日】2023-03-23
(54)【発明の名称】ガラスセラミックス基板
(51)【国際特許分類】
C04B 35/18 20060101AFI20230315BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
C04B35/18
H05K1/03 610D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021147379
(22)【出願日】2021-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】592205159
【氏名又は名称】山村フォトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】山口 亮
(72)【発明者】
【氏名】生沼 貴久
(57)【要約】
【課題】抗折強度が高いガラスセラミックス基板を提供する。
【解決手段】ガラス粉末とセラミックスフィラーとの混合物を焼成することで得られるガラスセラミックス基板であって、ガラスセラミックス基板の断面には、43μm×43μmの範囲における対角線上において、粒径が0.5μm~1.5μmのフィラー粒子の数が平均30個以上存在する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粉末とセラミックスフィラーとの混合物を焼成することで得られるガラスセラミックス基板であって、
前記ガラスセラミックス基板の断面には、43μm×43μmの範囲における対角線上において、粒径が0.5μm~1.5μmのフィラー粒子の数が平均30個以上存在することを特徴とするガラスセラミックス基板。
【請求項2】
前記ガラスセラミックス基板の断面には、43μm×43μmの範囲における対角線上において、存在する前記フィラー粒子の数が平均75個以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラスセラミックス基板。
【請求項3】
前記ガラスセラミックス基板の表面には、43μm×43μmの範囲における対角線上において、前記フィラー粒子の数が平均35~50個存在することを特徴とする請求項1または2に記載のガラスセラミックス基板。
【請求項4】
前記ガラス粉末の含有量は50質量%よりも少ないことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のガラスセラミックス基板。
【請求項5】
前記ガラス粉末の含有量は40質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のガラスセラミックス基板。
【請求項6】
前記セラミックスフィラーの主成分はアルミナであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のガラスセラミックス基板。
【請求項7】
前記ガラスセラミックス基板の厚みは0.2~10mmであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のガラスセラミックス基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、配線基板用の絶縁基板などに用いられるガラスセラミックス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の分野などで用いられる基板には、アルミナ等のセラミックス材料が一般的に用いられている。セラミックス材料を用いた基板は、任意のビアパターンや配線パターンが形成された複数種類のセラミックスシートを積層した状態で焼成し、表面にめっき加工を施し、個片化することで構成されている。セラミックスは焼成工程が高温、例えばアルミナでは約1500℃と高温であるため、ビアに充填する導体材料として融点が高いタングステンやモリブデンを使用する必要があった。しかしながら、タングステンやモリブデンは電気抵抗が大きいという問題があった。
【0003】
そこで、特許文献1のようなガラスセラミックス基板が知られている。このガラスセラミックス基板は、ガラス粉末とセラミックスフィラーとの混合物から成るグリーンシートにビアパターンや配線パターンを形成し、複数種類のグリーンシートを積層した状態で焼成し、表面にめっき加工を施し、個片化することで構成されている。ガラスセラミックス基板は、1000℃以下の温度で焼成できるため、電気抵抗の小さい銀や金を導体材料として使用できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-71472号公報(第3頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のガラスセラミックス基板にあっては、電気抵抗の小さい導体材料を使用することで信号の伝送損失を低減できるものの、ガラスの凝集などにより、セラミックスフィラー領域よりも大きな範囲でガラス領域が偏って形成されることがあり、該ガラス領域に応力が集中してガラスセラミックス基板が破損しやすくなる虞があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、抗折強度が高いガラスセラミックス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明のガラスセラミックス基板は、
ガラス粉末とセラミックスフィラーとの混合物を焼成することで得られるガラスセラミックス基板であって、
前記ガラスセラミックス基板の断面には、43μm×43μmの範囲における対角線上において、粒径が0.5μm~1.5μmのフィラー粒子の数が平均30個以上存在することを特徴としている。
この特徴によれば、フィラー粒子は大部分がセラミックス粒子であって、粒子はガラスセラミックス基板の断面において密にかつ適度に分散して配置されており、ガラスは粒子を結合するように粒子の周辺に配置され、大きな塊では凝集していない。板厚方向に外力が作用すると、微視的にはせん断力を厚さ方向に略均等に多数箇所で分担支持することから、ガラスセラミックス基板は抗折強度が高い。
【0008】
前記ガラスセラミックス基板の断面には、43μm×43μmの範囲における対角線上において、存在する前記フィラー粒子の数が平均75個以下であることを特徴としている。
この特徴によれば、ガラスセラミックス基板の断面において、フィラー粒子が過剰に配置されることを防止できるので、ガラスセラミックス基板の焼成温度を低く抑えることができる。
【0009】
前記ガラスセラミックス基板の表面には、43μm×43μmの範囲における対角線上において、前記フィラー粒子の数が平均35~50個存在することを特徴としている。
この特徴によれば、ガラスセラミックス基板の表面は内部に比べてガラス領域が大きく形成されており、ガラス領域はセラミックスフィラー領域よりも伸縮性に優れるため、ガラスセラミックス基板の表面は厚み方向への曲げに対して追従しやすく、ガラスセラミックス基板の抗折強度が高くなる。
【0010】
前記ガラス粉末の含有量は50質量%よりも少ないことを特徴としている。
この特徴によれば、セラミックスフィラーが主成分であるため、ガラスセラミックス基板の強度が高い。
【0011】
前記ガラス粉末の含有量は40質量%以下であることを特徴としている。
この特徴によれば、セラミックスフィラーの含有量が多いため、ガラスセラミックス基板の強度を更に高めることができる。
【0012】
前記セラミックスフィラーの主成分はアルミナであることを特徴としている。
この特徴によれば、アルミナによりガラスセラミックス基板の抗折強度と絶縁性能を確保することができる。尚、セラミックスフィラーの主成分とは、セラミックスフィラーに対して50質量%以上の成分組成比であることを意味する。
【0013】
前記ガラスセラミックス基板の厚みは0.2~10mmであることを特徴としている。
この特徴によれば、ガラスセラミックス基板の厚みは0.2~10mmであるため抗折強度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1におけるガラスセラミックス基板の断面を走査電子顕微鏡で見た画像である。
【
図2】ガラスセラミックス基板の断面におけるアルミナとガラスの状態を示す模式図である。
【
図3】比較例1におけるガラスセラミックス基板の断面を走査電子顕微鏡で見た画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ガラスセラミックス基板は、配線基板用の絶縁基板として用いられるLTCC基板(Low Temperature Co-fired Ceramics)である。
【0016】
ガラスセラミックス基板は、複数種類のグリーンシートにより構成されている。グリーンシートは、ガラス粉末とセラミックスフィラーと溶剤とバインダーとを混合したスラリーをドクターブレード法や押し出し成形等により形成される。グリーンシートは、20~500μm程度の厚みのシートである。
【0017】
グリーンシートは適当な大きさに切断し、各グリーンシートには所望の位置にビアパターンを形成し、該ビアには導電ペーストを充填し、各グリーンシートの表面には導電ペーストによる配線パターンを形成する。
【0018】
次いで、各グリーンシートを複数積層して大気雰囲気中で1000℃以下、例えば800℃~1000℃程度で焼成することにより10mmのガラスセラミックス基板が得られる。尚、ガラスセラミックス基板の厚さは0.2~10mmであればよい。
[配合比]
【0019】
実施例1~4、比較例1,2のガラスセラミックス基板、詳細にはグリーンシートを表1に示す配合比でそれぞれ作成した。
【0020】
【0021】
例えば、実施例1の配合比は、ガラス粉末が34質量%、アルミナ粉末が66質量%となっている。比較例1の配合比は、ガラス粉末が50質量%、アルミナ粉末が50質量%となっている。
[ガラス粉末の成分組成比]
【0022】
ガラス粉末の成分組成比の例A~Eは以下の表2の通りである。尚、実施例1~4、比較例1,2のガラスセラミックス基板で用いられるガラス粉末の成分組成比は例Aのものを使用した形態について説明している。
【0023】
【0024】
ガラス粉末の成分組成比は、SiO2は、60~80質量%(好ましくは62~75質量%)、B2O3は10~30質量%(好ましくは11~22質量%)、MgOは0~8質量%(好ましくは0.5~1質量%)、CaOは5~20質量%(好ましくは7~17質量%)、BaOは0~10質量%(好ましくは0.5~7質量%)、Na2Oは0~5質量%(好ましくは1~3質量%)、K2Oは0~5質量%(好ましくは1~2.5質量%)、TiO2は0~5質量%(好ましくは0~1質量%)、ZrO2は0~5質量%(好ましくは0~1質量%)であればよい。また、ガラス粉末の成分組成としてAl2O3、SrO、ZnOが含有されていてもよい。
[セラミックスフィラー粒径分布]
【0025】
実施例1~4、比較例1,2のセラミックスフィラーとして用いられるアルミナ粉末の粒径の分布は以下の表3の通りである。実施例2~4に用いられるコージェライトの粒径の分布は以下の表4の通りであり、比較例2に用いられるジルコニアの粒径の分布は以下の表5の通りである。尚、粒径の分布は、粒子径分布測定装置(日機装株式会社製「マイクロトラックHRA」)を用いてJIS規格等により分析した。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
次いで、各ガラスセラミックス基板について説明する。
[密度]
【0030】
実施例1、比較例1の各ガラスセラミックス基板の密度をアルキメデス法を用いて測定した。
【0031】
実施例1のガラスセラミックス基板の密度は、3.1g/cm3であった。対して、比較例1のガラスセラミックス基板の密度は、2.9g/cm3であった。言い換えれば、実施例1のガラスセラミックス基板は比較例1のガラスセラミックス基板よりも空隙が少ないことがわかった。
[断面観察]
【0032】
実施例1のガラスセラミックス基板の断面と、比較例1のガラスセラミックス基板の断面と、を走査電子顕微鏡を用いて観察した。
【0033】
図1は、実施例1のガラスセラミックス基板の断面を走査電子顕微鏡で見た画像であり、
図2は、
図1の要部を拡大した模式図であり、
図3は、比較例1のガラスセラミックス基板の断面を走査電子顕微鏡で見た画像である。
【0034】
図1の画像と
図3の画像とを比較すると、実施例1のガラスセラミックス基板の断面(
図1参照)の方が比較例1のガラスセラミックス基板の断面(
図3)よりもアルミナ(すなわちセラミックス粒子)を主とする粒子が密にかつ適度に分散して配置されていることがわかる。
【0035】
また、ガラス粒子は溶け形状が変形しており、ガラスは粒子を結合するように粒子の周辺に配置され、大きな塊では凝集していない(特に
図1,2を参照)。
【0036】
次いで、各断面画像を目視によって所定の線分長におけるアルミナの粒子数を測定した。具体的には、実施例1のガラスセラミックス基板の断面の任意の5箇所(測定箇所a~e)、比較例1のガラスセラミックス基板の断面の任意の5箇所(測定箇所a’~e’において、43μm×43μmの範囲における対角線Iおよび対角線II上のアルミナの粒子数を測定した。
【0037】
【0038】
このように実施例1のガラスセラミックス基板の断面には、1つの対角線に対し38~49個のアルミナ粒子が配置されており、比較例1のガラスセラミックス基板の断面には、1つの対角線に対し17~30個のアルミナ粒子が配置されていることが確認された。すなわち、実施例1のガラスセラミックス基板の断面には、比較例1のガラスセラミックス基板の断面よりもアルミナ粒子が密に配置されていることが確認された。
[表面観察]
【0039】
上記とほぼ同様に目視によって、ガラスセラミックス基板の表面におけるアルミナの粒子数を測定した。尚、実施例1のガラスセラミックス基板の表面の任意の3箇所(測定箇所f~h)、比較例1のガラスセラミックス基板の断面の任意の3箇所(測定箇所f’~h’において、43μm×43μmの範囲における対角線Iおよび対角線II上のアルミナの粒子数を測定した。
【0040】
【0041】
このように実施例1のガラスセラミックス基板の表面には、1つの対角線に対し34~43個のアルミナ粒子が配置されており、比較例1のガラスセラミックス基板の表面には、1つの対角線に対し25~43個のアルミナ粒子が配置されていることが確認された。
【0042】
実施例1のガラスセラミックス基板の表面のアルミナの粒子数と、比較例1のガラスセラミックス基板の表面のアルミナの粒子数とはほとんど同数となっている。すなわち、比較例1のガラスセラミックス基板は、内部よりも表面側の粒子数が多いが、実施例1のガラスセラミックス基板は、表面側よりも内部の粒子数が多くなっていることが確認された。
[抗折強度、ヤング率、比誘電率]
【0043】
実施例1~4、比較例1,2のガラスセラミックス基板の抗折強度、ヤング率、比誘電率を分析して比較した。
【0044】
【0045】
尚、抗折強度は、試験機(株式会社レオテック製「レオメータ」)を用いた3点曲げ試験により測定した。ヤング率は、超音波パルス法により測定した。比誘電率は、試験機(日置電機製「LCRメータ」)を用いて測定した。
【0046】
実施例1~4のガラスセラミックス基板は、比較例1,2のガラスセラミックス基板よりも抗折強度及びヤング率が高いことが確認された。これは、実施例1~4のガラスセラミックス基板は、ガラス粉末の含有量が50質量%よりも少ない、より詳しくは40質量%以下であるため、セラミックス粒子がガラスセラミックス基板の断面において密にかつ適度に分散して配置され、板厚方向に外力が作用すると、微視的にはせん断力を厚さ方向に略均等に多数箇所で分担支持することが一因であることが推察される。また、ガラスは粒子を結合するように粒子の周辺に配置され、大きな塊では凝集していないため、ガラス領域に曲げ方向への応力が集中しにくいことも一因であることが推察される。
【0047】
また、高抗折強度及び高ヤング率の観点からは、実施例1のガラスセラミックス基板が最も優れている。しかしながら、実施例1のガラスセラミックス基板の比誘電率は、実施例2~実施例4のガラスセラミックス基板の比誘電率よりも高くなっている。
【0048】
また、低比誘電率の観点からは、実施例3のガラスセラミックス基板が最も優れている。しかしながら、実施例3のガラスセラミックス基板の抗折強度及びヤング率は、実施例1、2、4のガラスセラミックス基板の抗折強度及びヤング率よりも低くなっている。
【0049】
実施例2,4のガラスセラミックス基板は、抗折強度およびヤング率が高く、かつ比誘電率が低く抑えられている。これによれば、コージェライトの含有量は5重量%~20質量%以下が好ましく、5重量%~15重量%以下がさらに好ましい。
【0050】
また、比較例2のグリーンシートは、ジルコニアを含有している。ジルコニアを含有する比較例2のガラスセラミックス基板は、ジルコニアを含有しない比較例1のガラスセラミックス基板よりも抗折強度及びヤング率が低く、比誘電率は高くなることが確認された。したがって、ガラスセラミックス基板はジルコニアを含有しない方が好ましい。
【0051】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0052】
例えば、ガラスセラミックス基板は、複数のグリーンシートを積層して焼結することで形成されることに限られず、1枚の厚手のグリーンシートを焼結することで形成されていてもよい。